説明

サフラン酸エチルを含有する香料素材及び香料組成物

【課題】香気の改善されたサフラン酸エチルを含有する香料素材および香料組成物を提供すること。
【解決手段】エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレートの含有量を8質量%以下とすることにより、異なるタイプの香料処方に使用できる香料素材および香料組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気の改善されたサフラン酸エチルを含有する香料素材及び香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サフラン酸エチルは、一般にはエチルサフラネートとも呼ばれるが、エチルサフラネートは元々は、クエスト社(現在はジボダン)の商品名であった。また、サフラン酸エチルは香料化合物であるダマセノンの合成中間体として有用な物質として知られている(特許文献1)。
【0003】
ダマセノンおよび構造類似のダマスコンは、ジャスミン、ミュゲ(すずらん)とともに三大花香の一つであるローズの重要な香料素材であり、非常に高価で貴重なローズの花精油の代用として用いられるほか、ローズ以外の調合香料を変調、増強する香料として広く使用されている。しかしながら、合成香料の中ではダマセノンおよび構造類似のダマスコンは高価な部類に属する。
【0004】
近年、サフラン酸エチルは、香料としても、より安価な点が評価され、ダマセノン、ダマスコンの代用、あるいは補完目的で、あるいは、ローズ系のフローラルおよびフルーティー、ハーバル、ウッディー調香料に少量用いてモダンでリッチな感じを与える香調(非特許文献1)を生かして使用されるようになった。
【0005】
サフラン酸エチルは通常、3種の異性体混合物であり、β−体であるエチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1,3−ジエン−1−カルボキシレートを主成分とし、他にα−体である、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレート、および、γ−体であるエチル 6,6−ジメチル−2−メチレンシクロヘク−3−エン−1−カルボキシレートが含まれている(特許文献2)。
【0006】
上記の特許文献2は、サフラン酸エステルおよび類似構造を有するエステル類の1種もしくはそれ以上を必要に応じて1種若しくはそれ以上のダマスコン(ダマスセノン)およびその同族体の有効量と組合わせて、含有する香料または香料組成物の提案であり、サフラン酸エチルの3つの異性体の香気の記載がある。
【0007】
具体的な記述は次の通りであり、「本発明の化合物は極めて有用な感覚的性質を有することが判った。それらの香味および芳香特性には僅かの相違があるが、異性体混合物は本発明の目的にそのまま使用しうるので、必ずしも異性体を分離する必要はない、異性体は近縁の香気を有しており、それは、香料および香料専門家によって示された次の香気の表現から知ることができる。サフラニン酸エチル(混合物、α:β:γ=20:60:20)、この混合物の主な印象は風味植物風、スパイス風(ローズマリースパイク、ローレル)および果物風(りんご、すもも)と記述することができ、ばらおよび木材の潜在的調子を有する。α−サフラニン酸エチルは3種の異性体の混合物におけるよりも木材イオノン風の潜在的調子が若干強い。β−サフラニン酸エチルは、3種混合物と極めて類似しているが、風味植物風およびスパイス風特性がより顕著である。γ−サフラニン酸エチルは、より強い果物風特性(りんご、すもも)を識別することができるが、3種異性体の混合物との差は少ない。」である。
【0008】
したがって、特許文献2は3種の異性体の香気について言及しているものの、3種の異性体と混合物との差は少ないと結論づけている。また、その主眼は果物風(りんご、すもも)の香気の利用である。しかしながら、比較を行った3種の異性体の純度については記載がなく、更に詳細な香気の比較を行っていない。
【0009】
また、別の提案として、γ−ダマセノンの製造方法(特許文献3)には、γ−ダマセノンの合成経路の1中間体としてのγ−サフラン酸エステルおよび該化合物が新しい単品として価値あるものであることの記載があるが、香気についての記述はない。
【0010】
また、非特許文献1には、エチルサフラネートの性状および用途に関する記載があり、β−体の構造が示されているが、主成分であるβ−体の構造を記載したものであり、実際の市販品は異性体混合物である。また、3種の異性体の香気の特徴およびこれらを比較した記載もない。
【0011】
すなわち、これまで、サフラン酸エチルの3種異性体を高純度で調製し、その香気および可能性を詳細に検討した提案はなく、サフラン酸エチルの香料素材としての可能性を十分発揮させる提案もなかった。したがって、サフラン酸エチルの持つ香気特性を生かし、さらに応用範囲を拡げるための提案が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭50−49258号公報
【特許文献2】特開昭50−117946号公報
【特許文献3】特開昭56−128727号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「合成香料」化学と商品知識:初版、p838、化学工業日報社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、香気の改善されたサフラン酸エチルを含有する香料素材および香料組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、サフラン酸エチルの合成および分離精製により、サフラン酸エチルのα−体である式(1)、
【0016】
【化1】

【0017】
のエチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレート、
β−体である式(2)、
【0018】
【化2】

【0019】
のエチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1,3−ジエン−1−カルボキシレート、および、
γ−体である式(3)、
【0020】
【化3】

【0021】
のエチル 6,6−ジメチル−2−メチレンシクロヘク−3−エン−1−カルボキシレートを純度98%以上の高純度品として調製するとともに、3種の異性体高純度品の2種または3種混合物を調製し、その香気的特徴を詳細に比較した。
【0022】
その結果、まず、サフラン酸エチルの異性体のうち、α−体が枯れ草的なハーバル感が強過ぎ、甘さがなく、β−体、γ−体とは明らかに異質の香気を有し、ローズ様の香気あるいはダマセノンの香気との調和を妨げることを突き止めた。また、残りの2つの異性体のうちβ−体が異性体中で最もローズ様、ダマセノン様の香気が強く、艶のあるローズ様香気を有すること、および、γ−体は強さには欠けるが丸みがあり、蜜を想起させる甘さがあり、洗練されたローズ様の香気を有することを明らかにした。
【0023】
したがって、α−体の含有率を下げることにより、ローズ様あるいはダマセノン様の香気の質を顕著に改善できることを確認した。
【0024】
検討の結果、α−体のサフラン酸エチルの含有率を8質量%以下とすることにより混合物を、その香気が調和のとれた、異なるタイプの香料処方に使用できる香気特性とすることができ、8質量%を超える含有率の場合に比べ、ローズ様、フローラル様あるいはダマセノン様の香気を増加させる効果が高まることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
かくして、本発明は、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレート、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1,3−ジエン−1−カルボキシレートおよび エチル 6,6−ジメチル−2−メチレンシクロヘク−3−エン−1−カルボキシレートから選ばれる1種または2種以上からなり、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレートの含有量が8質量%以下であることを特徴とする香料素材を提供するものである。
【0026】
また、本発明は、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1,3−ジエン−1−カルボキシレートを75質量%以上含有する前記の香料素材を提供するものである。
【0027】
また、本発明は、エチル 6,6−ジメチル−2−メチレンシクロヘク−3−エン−1−カルボキシレートを75質量%以上含有する前記の香料素材を提供するものである。
【0028】
さらに、本発明は、前記の香料素材を含有することを特徴とする香料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレートの含有率を8質量%以下とすることにより、サフラン酸エチルの香気特性を顕著に改善し、異なるタイプの香料処方に使用できる良好な香気を有する香料素材を提供できる。さらに、本発明の香料素材を香粧品、保健・衛生・医薬品に添加することによりローズ様あるいはダマセノンの香気を顕著に増加させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1はサフラン酸エチル(α−体)のガスクロマトグラフ(比較品1)
【図2】図2はサフラン酸エチル(α−体)のプロトンNMR(比較品1)
【図3】図3はサフラン酸エチル(α−体)のカーボンNMR(比較品1)
【図4】図4はサフラン酸エチル(β−体)のガスクロマトグラフ(本発明品1)
【図5】図5はサフラン酸エチル(β−体)のプロトンNMR(本発明品1)
【図6】図6はサフラン酸エチル(β−体)のカーボンNMR(本発明品1)
【図7】図7はサフラン酸エチル(γ−体)のガスクロマトグラフ(本発明品1)
【図8】図8はサフラン酸エチル(γ−体)のプロトンNMR(本発明品1)
【図9】図9はサフラン酸エチル(γ−体)のカーボンNMR(本発明品1)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の方法において原料で使用しうるサフラン酸エチルは、一般的な方法にしたがって合成されたものまたは市販品を、蒸留、カラムクロマトグラフィーその他通常の分離技術を用いて、α−体である、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレートの含有量を8質量%以下としたもの、好ましくは4質量%以下、より好ましくは2質量%以下のものを使用することができる。例えば、特公昭57−28684記載の合成法に従って調製した、α−体、23質量%、β−体、53質量%、γ−体、24質量%含有するサフラン酸エチルおよびこれを蒸留することにより得られる、α−体が8質量%以下のサフラン酸エチルを用いることができる。
【0032】
このとき同時に得られるβ−体含有率の低いフラクションについては、Helvetica Chimica Acta (1971)、54(7)、p1767〜1776に記されているに、p−トルエンスルホン酸などの存在下に加熱することにより、蒸留前のサフラン酸エチル(α−体、23質量%、β−体、53質量%、γ−体、24質量%)とほぼ同様の異性体比に異性化させることができた。この異性化させたフラクションは蒸留によりリサイクルできる。
【0033】
α−体であるエチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレートの含有量を8%以下とする理由は、該化合物が枯れ草的なハーバル感が強過ぎ、甘さがなく、β−体、γ−体とは明らかに異質の香気を有し、ローズ様の香気あるいはダマセノンの香気との調和を妨げるためである。好ましくはα−体をまったく含まないサフラン酸エチルが軽快で洗練されたローズ様香気を有する。
【0034】
β−体、γ−体にはそれぞれ香気の特徴があり、β−体は異性体中で最もローズ様、ダマセノン様の香気が強く、艶のあるローズ様香気を有し、γ−体は強さには欠けるが丸みがあり、蜜を想起させる甘さがあり、洗練されたローズ様の香気を有する。香気に差はあるがともにローズ様、フローラル様あるいはダマセノン様の香気を増加させる効果を有する。したがって、β−体およびγ−体の含有率は目的とする香料素材、あるいは香料組成物の香気の種類等により選択すればよい。例えば、β−体の含有率を、75質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上とすることにより、ローズ様、ダマセノン様の香気が強く、艶のあるローズ様香気を付与することができる。また、γ−体の含有率を、75質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上とすることにより、丸みがあり、蜜を想起させる甘さを伴った、洗練されたローズ様の香気を付与することができる。
【0035】
本発明のサフラン酸エチルを含有する香料素材は、そのまま香粧品、保健・衛生・医薬品に配合して香気を付与又は増強することができるが他の成分と混合して種々の香調を持つ香料組成物を調製し、該香料組成物を用いて飲食品、香粧品、保健・衛生・医薬品に香気を付与又は増強することもできる。該香料組成物と共に含有しうる他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができる。例えば、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第III部香粧品香料、P26−103、平成13年6月15日発行」に記載されている天然精油、天然香料、合成香料を挙げることができる。
【0036】
種々の香調として、例えば、ローズ様、フローラルブーケ様、蘭様、ミュゲ様、ジャスミン様、シトラス様、フルーティー様、グリーン様、アルデヒド様、スパイシー様、ウッディー様、スイート様、モス様、ムスク様、アンバー様、アニマル様、ハーバル様、マリン様、ミント様などの香調を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ただし、ローズ様、フローラル様の香調に用いる場合にその香気をもっとも効果的に強調することができる。
【0037】
本発明のサフラン酸エチルの配合量は、特に限定はなく、目的とする香料組成物の香気の種類や強さによって異なるが、例えば、香料組成物の全体重量に対して0.1〜20質量%の範囲、好ましくは0.2〜15重量%の範囲を例示することができる。これらの範囲内で添加することにより、香料組成物に対し天然のローズ感、フレッシュでナチュラルなフローラル感などを付与することができる。
【0038】
本発明のサフラン酸エチルを含有する香料組成物には、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている、例えば、水、エタノールなどの溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセリド等の香料保留剤を含有することができる。
【0039】
本発明のサフラン酸エチルを含有する香料素材は、上記したようにそれ自身単独で、または、サフラン酸エチルを含有させた香料組成物を調製して、各種の製品、例えば、香粧品、保健・衛生・医薬品に添加することにより、ローズ感、フローラル感などを付与又は増強することができる。
【0040】
本発明のサフラン酸エチルを含有する香料素材又は香料組成物によって香気を付与することのできる香粧品、保健・衛生・医薬品の具体例としては何ら限定されるものではなく、例えば、フレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体洗剤、浴用剤、洗剤、柔軟仕上げ剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤、口腔用組成物、皮膚外用剤などを挙げることができる。
【0041】
また、本発明のサフラン酸エチルの香粧品などへの配合量は、その目的あるいは香粧品の種類によっても異なるが、前記のサフラン酸エチルを含有する香料素材又は香料組成物を有効量添加することによりローズ感、フローラル感などを付与、増強することができる。その際の香粧品などへのサフラン酸エチルの添加量は、製品の種類や形態に応じて異なり一概に言えないが、例えば、香粧品の全体重量に対して0.0001〜0.02質量%、好ましくは0.0002〜0.015質量%の範囲を例示することができる。
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0042】
[実施例1]エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレート(α−体)の調製
特公昭57−28684記載の合成法に従って調製した、α−体、23質量%、β−体、53質量%、γ−体、24質量%含有するサフラン酸エチルおよびこれを蒸留することにより精製し、α−体98.5%(β−体、1.1質量%、γ−体、0.4質量%)の留分を得た(比較品1)。本品の純度確認はガスクロマトグラフィ等を用いて行うことができる。また構造についてはNMRスペクトルを特開昭48−85557のデータと比較することにより確認した。
図1に比較品1のガスクロマトグラムを示した。またその、プロトンNMR、カーボンNMRを図2及び図3に示した。
【0043】
[実施例2]エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1,3−ジエン−1−カルボキシレート(β−体)の調製
特公昭57−28684記載の合成法に従って調製した、α−体、23質量%、β−体、53質量%、γ−体、24質量%含有するサフラン酸エチルおよびこれを蒸留することにより精製し、β−体99.5%(α−体、0質量%、γ−体、0.5質量%)の留分を得た(本発明品1)。本品の純度確認はガスクロマトグラフィ等を用いて行うことができる。また構造についてはNMRスペクトルを特開昭48−85557のデータと比較することにより確認した。
図4に本発明品1のガスクロマトグラムを示した。またその、プロトンNMR、カーボンNMRを図5及び図6に示した。
【0044】
[実施例3]エチル 6,6−ジメチル−2−メチレンシクロヘク−3−エン−1−カルボキシレート(γ−体)の調製
特公昭57−28684記載の合成法に従って調製した、α−体、23質量%、β−体、53質量%、γ−体、24質量%含有するサフラン酸エチルおよびこれを蒸留することにより精製し、γ−体99.4%(α−体、0質量%、β−体、0.6質量%)の留分を得た(本発明品2)。本品の純度確認はガスクロマトグラフィ等を用いて行うことができる。また構造についてはNMRスペクトルを特開昭48−85557のデータと比較することにより確認した。
図7に本発明品2のガスクロマトグラムを示した。またその、プロトンNMR、カーボンNMRを図8及び図9に示した。
【0045】
官能評価
実施例1、2および3で得られた比較品1、本発明品1および2を表1に示す含有率で混合し、香料素材を調製した(本発明品1〜10および比較品1〜4)。
次に、良く訓練された専門パネラー10名により、官能評価を行った。香料素材のローズ感を0〜10の数値として表した。また、各香料素材を等量のダマセノンと混合し、ダマセノンとの香気のマッチング(相性)の程度を0〜10の数値として表した。この2つの数値を合計し、評点とするとともに、それぞれの香気の特徴を表1にまとめた。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果から明らかなように、本発明品1〜10の香料素材は艶のある、または、洗練されたローズ様香気、あるいはダマセノン様香気を有していた。特に、β−体含有率が99.5%である本発明品1は最もローズ様、ダマセノン様の香気が強く、艶のあるローズ様香気を有しており、良好であるとの評価であった。また、γ−体含有率が99.4%である本発明品2は強さには欠けるが丸みがあり、蜜を想起させる甘さがあり、洗練されたローズ様香気を有するとの評価であった。
【0048】
一方、α−体含有率が98.5%である比較品1は枯れ草的なハーバル感が強すぎ、甘さがなく、ローズ様香気とは明らかに異質の香気であることが確認された。したがって、α−体を25〜10%含有する比較品2〜4もハーバル感が強く、ローズ様香気があるが香気の透明性に欠けるという評価であった。
【0049】
また、ローズ感、ダマセノンとの香気のマッチングおよび評点の結果でも本発明品1〜10は比較品1〜4の数値を大きく上回り、ローズ感が強く、ダマセノンとの香気のマッチングが良いことも確認された。
【0050】
[実施例4]
ローズタイプの調合香料組成物に対する添加効果
表2のローズ様調合香料処方の調合品970gに本発明品1〜7および比較品2を各30g混合して新規なローズ調合香料組成物を調製した。また、同様に表2のローズ様調合香料処方の調合品980gに本発明品1〜7を各20g混合して新規なローズ調合香料組成物も調製した。良く訓練された専門パネラー10名により、官能評価を行った。その結果を表3に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
表3の結果から明らかなように、比較品2を30g添加した香料組成物はハーバル感があり、甘さが弱く、ローズ様香気の賦与が弱かった。これに対し、本発明品1〜7を30g添加した場合には、天然ローズの濃厚、あるいは洗練されたイメージの賦与効果が高かった。また、本発明品1〜7添加量を20gと少なくした場合でも、比較品2に比べると天然ローズ感は強いとの評価であった。
【0054】
[実施例5]
フローラルブーケタイプ調合香料組成物への添加効果
表4のフローラルブーケタイプ調合香料処方AおよびBの調合品970gに本発明品1〜7および比較品2を各30g混合して新規なフローラルブーケタイプ調合香料組成物を調製し、良く訓練された専門パネラー10名により、官能評価を行った。その結果を表5に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
処方Aのフローラルブーケタイプ調合香料組成物についての官能評価は、表5の結果から明らかなように、比較品2を処方Aに添加した香料組成物はフローラル感はあるが、ハーバル感が強く、甘さが弱く、ローズ様香気の賦与が弱かった。これに対し、本発明品1〜7を添加した場合には、フレッシュでナチュラル感に富んだフローラル香があり、良好であった。特に本発明品1、3および4はフローラル香が強く、優れていた。
【0058】
処方Bは処方Aに比べ、ダマセノンの添加により、フローラル感が強調されているが、パネル10名全員がダマセノンと本発明品1〜7の併用は、より一層フローラル感を強調させる効果があると判定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレート、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1,3−ジエン−1−カルボキシレートおよび エチル 6,6−ジメチル−2−メチレンシクロヘク−3−エン−1−カルボキシレートから選ばれる1種または2種以上からなり、エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2,4−ジエン−1−カルボキシレートの含有量が8質量%以下であることを特徴とする香料素材。
【請求項2】
エチル 2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1,3−ジエン−1−カルボキシレートを75質量%以上含有する請求項1記載の香料素材。
【請求項3】
エチル 6,6−ジメチル−2−メチレンシクロヘク−3−エン−1−カルボキシレートを75質量%以上含有する請求項1記載の香料素材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3記載の香料素材を含有することを特徴とする香料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−209185(P2010−209185A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55479(P2009−55479)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】