説明

サブフレーム構造及び車体

【課題】極端な重量増加を招くことなく安価にサブフレームの強度を向上させることを可能したサブフレーム構造を提供する。
【解決手段】車体の下部に配置されたサブフレーム1にサスペンションアームが取り付けられるサブフレーム構造であって、サブフレーム1には、サスペンションアームの取付部4a,4bに車体の幅方向の荷重が加わったときに、当該サブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントに抗する方向の張力を発生させる張力手段として、ワイヤー5a,5bが設けられている。ワイヤー5a,5bは、曲げモーメントが発生したときにサブフレーム1の引張張力が加わる側の側面に沿って配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の下部に配置されたサブフレームにサスペンションアームが取り付けられるサブフレーム構造、並びにそのようなサブフレーム構造を有する車体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造には、車体へのサスペンションの取付剛性を高めるため、車体の下部に配置されたサブフレームにサスペンションアームを取り付けるサブフレーム構造が広く用いられている。
【0003】
このサブフレーム構造の中は、例えば図10(a),(b)に示すサブフレーム100のように、車体の全長方向に延びる左右一対のサイドメンバー101a,101bと、車体の幅方向に延びる前後一対のクロスメンバー102a,102bとを枠状に連結すると共に、サイドメンバー101a,101bの両側にそれぞれサスペンションアームの取付部103a,103bが設けられたものがある。
【0004】
このような構造を有するサブフレーム100では、例えばコーナーリング時にタイヤからサスペンションアームの取付部103a,103bに車体の幅方向の荷重(以下、横荷重という。)P1’,P2’が加わると、このサブフレーム100の面内に横荷重P1’,P2’に応じた曲げモーメントM’が発生し、サイドメンバー101a,101bやクロスメンバー102a,102bに、図10(a),(b)中の破線に示すような弾性変形(撓み)が発生する。さらに、サブフレーム100に加わる横荷重P1’,P2’が増加した場合には、このサブフレーム100の塑性変形も開始される。
【0005】
このようなサブフレーム100の変形は、サスペンションのジオメトリーの変化を招き、自動車の走行性能に悪影響を与えることになる。サブフレーム100には、一般に鋼板や鋼管等の鋼材を所定の形状に成形したものを溶接等で接合したものが用いられる。したがって、サブフレーム100の強度を高めるためには、板厚の厚い鋼材を用いたり、高強度鋼材を用いたりすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、鋼材の板厚を厚くすることは、サブフレームの重量増加につながるため、車重の増加によって自動車の走行性能や燃費の悪化を招くことになる。一方、高強度鋼材は、その強度に反比例して伸び率が低下するのが一般的であり、成形性の悪化を招き易い。また、比較的高価な高強度鋼材を用いることは、車体のコストアップにつながる。
【0007】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、例えば下記特許文献1〜6を挙げることができる。具体的に、これら特許文献1〜6には、自動車の衝突時に車体やフレーム等に加わる衝撃を緩和、吸収又は分散するために、ワイヤーの張力を利用した技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は、何れも本発明の目的とするサブフレームの強度を向上させる技術とは全く異なったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−199749号公報
【特許文献2】特開2005−262951号公報
【特許文献3】特開2005−306324号公報
【特許文献4】特開2005−329766号公報
【特許文献5】特開2009−161106号公報
【特許文献6】特開2010−006221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、その目的は、極端な重量増加を招くことなく安価にサブフレームの強度を向上させることを可能したサブフレーム構造、並びにそのような軽量且つ強度に優れたサブフレーム構造を有する車体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することを目的とした本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1) 車体の下部に配置されたサブフレームにサスペンションアームが取り付けられるサブフレーム構造であって、
前記サブフレームには、前記サスペンションアームの取付部に前記車体の幅方向の荷重が加わったときに、当該サブフレームの面内に発生する曲げモーメントに抗する方向の張力を発生させる張力手段が設けられていることを特徴とするサブフレーム構造。
(2) 前記張力手段は、前記サブフレームに張設されたワイヤーからなることを特徴とする(1)に記載のサブフレーム構造。
(3) 前記ワイヤーは、前記曲げモーメントが発生したときに前記サブフレームの引張張力が加わる側の側面に沿って配置されていることを特徴とする(2)に記載のサブフレーム構造。
(4) 前記サブフレームは、前記車体の全長方向に延びる左右一対のサイドメンバーと、前記車体の幅方向に延びる前後一対のクロスメンバーとを枠状に連結すると共に、前記サイドメンバーの両側にそれぞれ前記サスペンションアームの取付部が設けられた構造を有することを特徴とする(1)〜(3)の何れか一項に記載のサブフレーム構造。
(5) 前記張力手段は、前記サイドメンバー及びクロスメンバーの前記サブフレームの面内に発生する曲げモーメントの向きが切り替わる位置に設けられた孔部を通して、前記ワイヤーが前記サブフレームの内側と外側との間で引き回された構造を有することを特徴とする(4)に記載のサブフレーム構造。
(6) 前記張力手段は、前記サイドメンバー及びクロスメンバーの前記サブフレームの面内に発生する曲げモーメントの向きが切り替わる位置に設けられた掛止部の間で、前記ワイヤーが掛け渡された構造を有することを特徴とする(4)に記載のサブフレーム構造。
(7) 前記ワイヤーは、前記サブフレームに左右対称に配置されていることを特徴とする(5)又は(6)に記載のサブフレーム構造。
(8) (1)〜(7)の何れか一項に記載のサブフレーム構造を有する車体。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明に係るサブフレーム構造では、サスペンションアームの取付部に車体の幅方向の荷重が加わったときに、当該サブフレームの面内に発生する曲げモーメントに抗する方向の張力を発生させる張力手段をサブフレームに設けることで、極端な重量増加を招くことなく安価にサブフレームの強度を向上させることが可能である。したがって、本発明によれば、そのような軽量且つ強度に優れたサブフレーム構造を有する車体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用したサブフレーム構造の一例を示す平面模式図である。
【図2】図1に示すサブフレーム構造の要部を拡大して示す斜視図である。
【図3】図1に示すサブフレーム構造の一方のワイヤーの配置を示す平面模式図である。
【図4】図1に示すサブフレーム構造の他方のワイヤーの配置を示す平面模式図である。
【図5】図3に示す一方のワイヤーが配置されたサブフレームに右方向の横荷重が加わったときのサブフレームの変形を説明するための平面模式図である。
【図6】図4に示す他方のワイヤーが配置されたサブフレームに左方向の横荷重が加わったときのサブフレームの変形を説明するための平面模式図である。
【図7】本発明のサブフレーム構造と従来のサブフレーム構造との荷重−荷重点変位の関係を示すグラフである。
【図8】本発明を適用したサブフレーム構造の他例を示す平面模式図である。
【図9】本発明を適用したサブフレーム構造の他例を示す平面模式図である。
【図10】(a)は、サブフレームの右方向の横荷重が加わったときの変形前と変形後の状態を平面模式図である。(b)は、サブフレームの左方向の横荷重が加わったときの変形前と変形後の状態を平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用したフレーム構造及び車体について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明を適用したフレーム構造は、サスペンションアームが取り付けられるサブフレームを車体の下部に配置したものであり、自動車の前輪側においてフロントサスペンションを支持するフロントサブフレームや、自動車の後輪側においてリアサスペンションを支持するリアサブフレームに、本発明を適用したものである。
【0014】
また、本発明のサブフレーム構造は、車体の下部にサブフレームを直接取り付けた構造であっても、防振マウント(インシュレータ)を介して取り付けた構造であってもよい。
【0015】
なお、サブフレームには、一般に鋼板や鋼管等の鋼材を所定の形状に成形したものを溶接等で接合したものが用いられるが、本発明においても、従来より公知の材料や製造方法を用いて作製されたサブフレームを使用することが可能である。
【0016】
図1は、本発明を適用したフレーム構造の一例を示す平面模式図である。
本発明を適用したフレーム構造は、図1に示すようなサブフレーム1を備え、このサブフレーム1は、車体の全長方向に延びる左右一対のサイドメンバー2a,2bと、車体の幅方向に延びる前後一対のクロスメンバー3a,3bとを枠状に連結すると共に、サイドメンバー2a,2bの両側にそれぞれサスペンションアームの取付部4a,4bが設けられた構造を有している。
【0017】
なお、図1に示すサブフレーム1は、左側サイドメンバー2aと右側サイドメンバー2aの長さが等しく、前側クロスメンバー3aよりも後側クロスメンバー3bの方が短く、全体として矩形枠状を為している。また、サスペンションアームの取付部4a,4bは、一対のサイドメンバー2a,2bの左右対称となる位置に配置されて、それぞれ外側に向かって突出して設けられている。
【0018】
このサブフレーム1には、サスペンションアームの取付部4a,4bに車体の幅方向の荷重(以下、横荷重という。)が加わったときに、当該サブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントに抗する方向の張力を発生させる張力手段が設けられている。
【0019】
具体的に、本発明では、このような張力手段として、サブフレーム1に張設された一対のワイヤー5a,5bを用いている。これらのワイヤー5a,5bには、サブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントに抗するのに十分な張力を発生させるものであればよく、例えば鋼線や鋼撚線などを用いることができる。
【0020】
一対のワイヤー5a,5bは、サブフレーム1に左右対称に配置されている。このうち、一方のワイヤー5aは、例えばコーナーリング時にタイヤからサスペンションアームの取付部4a,4bに右方向(一の方向)に向かって横荷重が加わったときに、サブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントに抗する方向の張力を発生させるものである。
【0021】
これに対して、他方のワイヤー5bは、例えばコーナーリング時にタイヤからサスペンションアームの取付部4a,4bに左方向(他の方向)に向かって横荷重が加わったときに、サブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントに抗する方向の張力を発生させるものである。
【0022】
これら一対のワイヤー5a,5bは、図1及び図2に示すように、サイドメンバー2a,2b及びクロスメンバー3a,3bのサブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントの向きが切り替わる位置に設けられた孔部6a〜6lを通して、サブフレーム1の内側と外側との間で引き回されている。
【0023】
具体的に、一方のワイヤー5aは、図3に示すように、右側サイドメンバー2bの前後に設けられた孔部6a,6bを通して、これら孔部6a,6bの間で右側サイドメンバー2bの外側面に沿って引き回されている。また、一方のワイヤー5aは、右側サイドメンバー2bの前後に設けられた孔部6a,6bと、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの中央に設けられた孔部6c,6fとを通して、これら孔部6a,6b,6c,6fの間でそれぞれ前側及び後側クロスメンバー3a,3bの内側面に沿って引き回されている。また、一方のワイヤー5aは、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの中央に設けられた孔部6c,6fと、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの左側に設けられた孔部6d,6eとを通して、これら孔部6c,6f,6d,6eの間でそれぞれ前側及び後側クロスメンバー3a,3bの外側面に沿って引き回されている。また、一方のワイヤー5aは、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの左側に設けられた孔部6d,6eを通して、これら孔部6d,6eの間で左側サイドメンバー2aの内側面に沿って引き回されている。
【0024】
これに対して、他方のワイヤー5bは、図4に示すように、左側サイドメンバー2aの前後に設けられた孔部6g,6hを通して、これら孔部6g,6hの間で左側サイドメンバー2aの外側面に沿って引き回されている。また、他方のワイヤー5bは、左側サイドメンバー2aの前後に設けられた孔部6g,6hと、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの中央に設けられた孔部6i,6lとを通して、これら孔部6g,6h,6i,6lの間でそれぞれ前側及び後側クロスメンバー3a,3bの内側面に沿って引き回されている。また、他方のワイヤー5bは、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの中央に設けられた孔部6i,6lと、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの右側に設けられた孔部6j,6kとを通して、これら孔部6i,6l,6j,6kの間でそれぞれ前側及び後側クロスメンバー3a,3bの外側面に沿って引き回されている。また、他方のワイヤー5bは、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの右側に設けられた孔部6j,6kを通して、これら孔部6j,6kの間で右側サイドメンバー2bの内側面に沿って引き回されている。
【0025】
なお、前側及び後側クロスメンバー3a,3bの中央に設けられた孔部6c,6fと孔部6i,6lについては、それぞれの配置が一致するため、一対のワイヤー5a,5bを通す共通の孔部として形成してもよい。また、サブフレーム1の厚み方向において、孔部6c,6fと孔部6i,6lの位置をずらして配置し、一対のワイヤー5a,5bを別々に通すようにしてもよい。
【0026】
以上のような構造を有するサブフレーム構造では、例えば図5及び図6に示すように、コーナーリング時にタイヤからサスペンションアームの取付部4a,4bに横荷重P1,P2が加わったときに、サブフレーム1の面内に横荷重P1,P2に応じた曲げモーメントM1〜M12が発生する。
【0027】
このとき、サブフレーム1には、図5及び図6に示すような弾性変形(撓み)が発生するものの、本発明では、サイドメンバー2a,2bやクロスメンバー3a,3bの引張張力が加わる側の側面に沿って一対のワイヤー5a,5bが配置されているため、これらワイヤー5a,5bによってサブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントM1〜M12に抗する方向の張力を発生させることができる。
【0028】
具体的に、図5に示すように、サスペンションアームの取付部4a,4bに右方向の横荷重P1が加わったとき、サブフレーム1を構成する左側サイドメンバー2aには、その内側が引張りとなる曲げモーメントM1が発生する。このとき、左側サイドメンバー2aの引張張力が加わる側の側面(すなわち内側面)に沿って配置された一方のワイヤー5aが、この曲げモーメントM1に抗する方向の張力を発生させる。
【0029】
また、サブフレーム1を構成する右側サイドメンバー2bには、その外側が引張りとなる曲げモーメントM2が発生する。このとき、右側サイドメンバー2bの引張張力が加わる側の側面(すなわち外側面)に沿って配置された一方のワイヤー5aが、この曲げモーメントM2に抗する方向の張力を発生させる。
【0030】
また、サブフレーム1を構成する前側クロスメンバー3aには、その中央を挟んだ左側に外側が引張りとなる曲げモーメントM3と、その中央を挟んだ右側に内側が引張りとなる曲げモーメントM4とが発生する。このとき、前側クロスメンバー3aの引張張力が加わる側の側面(すなわち左側の外側面と右側の内側面)に沿って配置された一方のワイヤー5aが、この曲げモーメントM3,M4に抗する方向の張力を発生させる。
【0031】
また、サブフレーム1を構成する後側クロスメンバー3bには、その中央を挟んだ左側に外側が引張りとなる曲げモーメントM5と、その中央を挟んだ右側に内側が引張りとなる曲げモーメントM6とが発生する。このとき、後側クロスメンバー3bの引張張力が加わる側の側面(すなわち左側の外側面と右側の内側面)に沿って配置された一方のワイヤー5aが、この曲げモーメントM5,M6に抗する方向の張力を発生させる。
【0032】
これにより、サブフレーム1に右方向の横荷重P1が加わったときの当該サブフレーム1の変形を抑制することが可能である。
【0033】
一方、図6に示すように、サスペンションアームの取付部4a,4bに左方向の横荷重P2が加わったとき、サブフレーム1を構成する左側サイドメンバー2aには、その外側が引張りとなる曲げモーメントM7が発生する。このとき、左側サイドメンバー2aの引張張力が加わる側の側面(すなわち外側面)に沿って配置された他方のワイヤー5bが、この曲げモーメントM7に抗する方向の張力を発生させる。
【0034】
また、サブフレーム1を構成する右側サイドメンバー2bには、その内側が引張りとなる曲げモーメントM8が発生する。このとき、右側サイドメンバー2bの引張張力が加わる側の側面(すなわち内側面)に沿って配置された他方のワイヤー5bが、この曲げモーメントM8に抗する方向の張力を発生させる。
【0035】
また、サブフレーム1を構成する前側クロスメンバー3aには、その中央を挟んだ左側に内側が引張りとなる曲げモーメントM9と、その中央を挟んだ右側に外側が引張りとなる曲げモーメントM10とが発生する。このとき、前側クロスメンバー3aの引張張力が加わる側の側面(すなわち左側の内側面と右側の外側面)に沿って配置された他方のワイヤー5bが、この曲げモーメントM9,M10に抗する方向の張力を発生させる。
【0036】
また、サブフレーム1を構成する後側クロスメンバー3bには、その中央を挟んだ左側に内側が引張りとなる曲げモーメントM11と、その中央を挟んだ右側に外側が引張りとなる曲げモーメントM12とが発生する。このとき、後側クロスメンバー3bの引張張力が加わる側の側面(すなわち左側の内側面と右側の外側面)に沿って配置された他方のワイヤー5bが、この曲げモーメントM11,M12に抗する方向の張力を発生させる。
【0037】
これにより、サブフレーム1に左方向の横荷重P2が加わったときの当該サブフレーム1の変形を抑制することが可能である。
【0038】
以上のように、本発明を適用したサブフレーム構造では、上述した図5及び図6に示すサブフレーム1の変形を抑制することが可能であり、極端な重量増加を招くことなく安価にサブフレーム1の強度を向上させることが可能である。
【0039】
また、本発明を適用したサブフレーム構造では、図7のグラフに示すように、上述した図10(a),(b)に示す張力手段(ワイヤー5a,5b)が設けられていない従来のサブフレーム構造100に比べて、サブフレーム1に加わる荷重の増加に対する塑性変形の開始を遅らせることが可能である。換言すると、本発明を適用したサブフレーム構造では、サブフレーム1の塑性変形が開始される荷重を従来よりも高めることが可能である。
【0040】
したがって、本発明では、そのような軽量且つ強度に優れたサブフレーム構造を有する車体を得ることによって、サスペンションのジオメトリーの変化を抑制しながら、自動車の走行性能を大幅に向上させることが可能である。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
なお、以下の説明では、上記図1に示すサブフレーム構造と同等の部位については、説明を省略すると共に、図面において同じ符号を付すものとする。また、本発明では、サブフレームに左右対称にワイヤー(張力手段)を配置しているものの、以下の図面については便宜上、左右の何れか一方に配置されたワイヤーのみを図示するものとし、その説明についても省略するものとする。
【0042】
本発明では、例えば図8に示すサブフレーム構造とすることも可能である。具体的に、このサブフレーム構造は、サイドメンバー2a,2bの引張張力が加わる側の側面に沿ってワイヤー5cが配置された構造を有している。
【0043】
すなわち、本発明では、上記図1に示すサブフレーム構造のように、サブフレーム1の全周に亘って一対のワイヤー5a,5bを引き回した構造に限らず、サブフレーム1の引張張力が加わる側の側面に部分的にワイヤー5cを配置した構造とすることも可能である。
【0044】
また、本発明では、例えば図9に示すサブフレーム構造とすることも可能である。具体的に、このサブフレーム構造は、サイドメンバー2a,2b及びクロスメンバー3a,3bのサブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントの向きが切り替わる位置に設けられた掛止部7の間で、ワイヤー5dが掛け渡された構造を有している。
【0045】
すなわち、本発明では、上記図1に示すサブフレーム構造のように、サブフレーム1に設けられた孔部6i〜6jにワイヤー5a,5bを通す代わりに、掛止部7の間でループ状のワイヤー5dを掛け渡すことによって、サブフレーム1の引張張力が加わる側の側面に沿ってワイヤー5dを配置した構造とすることも可能である。
【0046】
また、本発明では、サブフレームの形状等に合わせて、上述した孔部と掛止部とを組み合わせてワイヤーを張設した構造とすることも可能である。
【0047】
また、本発明の張力手段としては、上記サブフレーム1の面内に発生する曲げモーメントM1〜M12に抗する方向の張力を発生させるものであればよく、上述したサブフレーム1に張設されたワイヤー5a,5bに必ずしも限定されるものではない。例えば、上記ワイヤー5a,5bの代わりにロッド(バー)を用いて、このロッド(バー)を曲げモーメントの向きが切り替わる位置で折り曲げながら、サブフレーム1の引張張力が加わる側の側面に沿って配置した構成とすることも可能である。また、このようなロッド(バー)をサブフレーム1の引張張力が加わる側の側面に部分的に配置した構成とすることも可能である。
【0048】
また、本発明を適用したサブフレーム構造は、上述した左右一対のサイドメンバー2a,2bと、前後一対のクロスメンバー3a,3bとを枠状に連結したサブフレーム1を車体の下部に取り付ける構造に必ずしも限定されるものではない。例えば、これらサブフレーム1を構成するメンバー2a,2b,3a,3bのうち、一部のメンバーが車体を構成するメインフレームの一部を構成するものであってよい。
【符号の説明】
【0049】
1…サブフレーム 2a…左側サイドメンバー 2b…右側サイドメンバー 3a…前側クロスメンバー 3b…後側クロスメンバー 4a,4b…サスペンションアームの取付部 5a…一方のワイヤー(張力手段) 5b…他方のワイヤー(張力手段) 6a〜6l…孔部 7…掛止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の下部に配置されたサブフレームにサスペンションアームが取り付けられるサブフレーム構造であって、
前記サブフレームには、前記サスペンションアームの取付部に前記車体の幅方向の荷重が加わったときに、当該サブフレームの面内に発生する曲げモーメントに抗する方向の張力を発生させる張力手段が設けられていることを特徴とするサブフレーム構造。
【請求項2】
前記張力手段は、前記サブフレームに張設されたワイヤーからなることを特徴とする請求項1に記載のサブフレーム構造。
【請求項3】
前記ワイヤーは、前記曲げモーメントが発生したときに前記サブフレームの引張張力が加わる側の側面に沿って配置されていることを特徴とする請求項2に記載のサブフレーム構造。
【請求項4】
前記サブフレームは、前記車体の全長方向に延びる左右一対のサイドメンバーと、前記車体の幅方向に延びる前後一対のクロスメンバーとを枠状に連結すると共に、前記サイドメンバーの両側にそれぞれ前記サスペンションアームの取付部が設けられた構造を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のサブフレーム構造。
【請求項5】
前記張力手段は、前記サイドメンバー及びクロスメンバーの前記サブフレームの面内に発生する曲げモーメントの向きが切り替わる位置に設けられた孔部を通して、前記ワイヤーが前記サブフレームの内側と外側との間で引き回された構造を有することを特徴とする請求項4に記載のサブフレーム構造。
【請求項6】
前記張力手段は、前記サイドメンバー及びクロスメンバーの前記サブフレームの面内に発生する曲げモーメントの向きが切り替わる位置に設けられた掛止部の間で、前記ワイヤーが掛け渡された構造を有することを特徴とする請求項4に記載のサブフレーム構造。
【請求項7】
前記ワイヤーは、前記サブフレームに左右対称に配置されていることを特徴とする請求項5又は6に記載のサブフレーム構造。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のサブフレーム構造を有する車体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−82333(P2013−82333A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223833(P2011−223833)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】