説明

サブマージアーク溶接用材料及びサブマージアーク溶接方法

【課題】50kJ/cm以上の大入熱溶接において、−20℃程度の低温においても良好な靭性を有する溶接金属を得ることができる。
【解決手段】C:0.01〜0.18%、Si:0〜0.15%、Mn:1.7〜2.8%、Al:0.02〜0.1%を含有し、Nを0.01%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物である組成のソリッドワイヤと、全フラックスに対し、SiO:4〜22%、Al3:2〜12%、TiO:5〜26%、MgO:8〜42%、CaF:2〜11%、CaO:2〜9%、金属炭酸塩(CO換算値):1〜7%、B:0.2〜0.9%、Mo:0.1〜0.7%、Fe:5〜25%、Al:0〜1.2%を含有するボンドフラックスとを使用してサブマージアーク溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接用材料及びサブマージアーク溶接方法に関し、特に軟鋼又は高張力鋼を入熱量50kJ/cm以上の大入熱で溶接した場合に、−20℃程度の低温においても良好な靭性を示す溶接金属を得ることができる溶接材料及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、構造物の大型化又は複雑化により、板厚又は溶接工数が増加している。このため、継手を大入熱で1パス又は2パス施工する方法が採用されている。1パスの代表的な施工法としては、鉄骨ボックスの角継手一層溶接又は片面一層溶接が挙げられる。この片面一層溶接には、裏ビード形成用ガラステープ、裏ビードの余盛り調整用固形フラックス、耐火材、ダンボールパット、被包フィルム及び両面接着テープから構成されている裏当材を開先裏面に押し当て、表面側から裏ビードを形成しながら溶接を行なう方法(以下 FAB法という。)、また、銅板の上に裏当てフラックスを均一な厚さに敷き、それをエアホース等の簡単な押し上げ機構により開先裏面に押し当て、表面側から、裏ビードを形成しながら溶接を完了させる方法(FCB法)、更に、熱硬化性樹脂を含んだ粉末の裏当てフラックスをベルト式又は桶型の溶接裏当て冶具内フラックス袋の中の下敷フラックスの上層にまき、下方のエアホースを膨張させることにより、フラックスを開先裏面に押し当て、表面側から一度に裏ビードも形成しながら溶接を完成させる方法(RF法)等がある。
【0003】
また、2パスの代表的な施工法としては、両面一層溶接が挙げられる。これらの大入熱溶接においては、溶接金属部の冷却速度が遅くなることから、溶接金属のミクロ組織は粗大な初析フェライトが大部分を占めるようになるため、溶接金属の靭性が低下する問題点がある。また、片面溶接又は両面一層溶接では、−20℃程度の低温領域でも使用されるため低温靭性が要求される場合がある。
【0004】
大入熱においても良好な靭性が得られる溶接方法として、特許文献1に焼入れ性向上成分(Mn又はMo等)の含有量を増加させ、靭性を向上させる方法が提案されている。
【0005】
しかし、実際には、大入熱溶接において、Mnは、酸化されてスラグに移行しやすくなり、溶接金属中に安定して歩留まりにくいため、十分な焼入れ効果がないためにミクロ組織が微細になりにくく、−20℃程度の低温において良好な靭性が得られない場合が認められるという問題点がある。
【0006】
一方、Moは、析出強化又は固溶強化による溶接金属の強度向上には有効な成分であり、強度向上面からは焼入れ性向上成分といえるが、溶接金属のミクロ組織を微細にする効果は少なく、−20℃程度の低温において良好な靭性が得られない場合が認められるという問題点がある。
【0007】
そこで、本願出願人は、50kJ/cm以上の大入熱溶接において、−40℃乃至−60℃程度の低温においても良好な靭性を有する溶接金属を得ることを目的として、MgOを20乃至35質量%、Al3を5乃至15質量%、鉄粉を10乃至30質量%、SiOを5乃至20質量%、CaFを3乃至10質量%、TiOを5乃至15質量%、CaOを3乃至10質量%、COを2乃至8質量%、Alを0.5乃至3質量%、Mnを0.5乃至3質量%、Si及びTiの双方を総量で0.2乃至3質量%、B3を0.1乃至2質量%、NaO、KO、BaO、FeO、ZrO及びMnOを総量で5質量%以下含有し、残部が不可避的不純物からなり、前記CaOとTiOとの重量比CaO/TiOが0.4乃至0.9であるサブマージアーク溶接用ボンドフラックスを提案した(特許文献2)。この特許文献2において、ボンドフラックスにAlを0.5乃至3質量%添加し、この微量のAl添加により、溶接金属の組織を下部ベイナイト主体の微細組織にして靭性を向上させている(特許文献2の段落0010)。
【0008】
また、特許文献3には、Al、Mn、Ti及びSiを含む酸化物による粒内微細フェライトの生成促進によりHAZ(溶接熱影響部)の靭性向上を図った大入熱溶接用高張力鋼及び溶接金属が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3552375号公報
【特許文献2】特許第3617605号公報
【特許文献3】特許第4341395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載の大入熱溶接用高張力鋼は、鋼板の組成を規定することにより、低温靭性の向上を図っているため、汎用性が低く、実用的でないという問題点がある。
【0011】
また、特許文献2に記載のボンドフラックスは、所期の目的は達成したものの、フラックスから溶接金属へのAlの添加であるため、入熱の変化によるフラックス消費量の増減により、溶接金属中に添加されるAl量が変動してしまうので、その制御が難しいという難点がある。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、50kJ/cm以上の大入熱溶接において、−20℃程度の低温においても良好な靭性を有する溶接金属を得ることができるサブマージアーク溶接用材料及びサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るサブマージアーク溶接用材料は、C:0.01乃至0.18質量%、Si:0乃至0.15質量%、Mn:1.7乃至2.8質量%、Al:0.02乃至0.1質量%を含有し、Nを0.01質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物である組成のソリッドワイヤと、
全フラックスに対し、SiO:4乃至22質量%、Al3:2乃至12質量%、TiO:5乃至26質量%、MgO:8乃至42質量%、CaF:2乃至11質量%、CaO:2乃至9質量%、金属炭酸塩(CO換算値):1乃至7質量%、B:0.2乃至0.9質量%、Mo:0.1乃至0.7質量%、Fe:5乃至25質量%、Al:0乃至1.2質量%を含有するボンドフラックスと
からなることを特徴とする。
【0014】
なお、このサブマージアーク溶接用材料は、Al含有量が0.013乃至0.020質量%の溶接金属を得るための溶接用材料として好適である。
【0015】
また、本発明に係るサブマージアーク溶接方法は、C:0.01乃至0.18質量%、Si:0乃至0.15質量%、Mn:1.7乃至2.8質量%、A:0.02乃至0.1質量%を含有し、Nを0.01質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物である組成のソリッドワイヤと、
全フラックスに対し、SiO:4乃至22質量%、Al3:2乃至12質量%、TiO:5乃至26質量%、MgO:8乃至42質量%、CaF:2乃至11質量%、CaO:2乃至9質量%、CO:1乃至7質量%、B:0.2乃至0.9質量%、Mo:0.1乃至0.7質量%、Fe:5乃至25質量%、Al:0乃至1.2質量%を含有するボンドフラックスとを使用して、軟鋼又は高張力鋼をサブマージアーク溶接し、Al含有量が0.013乃至0.020質量%の溶接金属を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ソリッドワイヤ及びボンドフラックスのAl含有量を適切に規定しているので、入熱が50kJ/cmを超える大入熱溶接で溶接しても、−20℃程度の低温においても良好な靭性を有する溶接金属を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例に係るサブマージアーク溶接の開先形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。特許文献2において、本願発明者等は、大入熱で良好な溶接金属靭性が得られないのは、溶接金属中に粗大初析フェライトが析出するためであり、優れた靭性を得るためには、高い焼入れ性を確保し粗大初析フェライトの析出を抑えることが必要であることを開示した。そして、本願発明者等は、溶接金属に含まれる微量のAl添加により溶接金属の靭性に大きく影響を及ぼすことを新たに見出し、微量のAl添加により溶接金属の組織が下部ベイナイト主体の微細組織になるため、靭性が向上することを開示した。
【0019】
本発明においても、Alが溶接金属の靭性に大きな影響を及ぼすという本発明者等の知見のもとに、本発明は、溶接金属中のAl含有量の変動を小さく制御することを目的とするものである。
【0020】
本発明は、上記目的達成のために、所定の組成のソリッドワイヤを使用してサブマージアーク溶接する。そして、このソリッドワイヤからのAlの溶接金属への添加だけでなく、補助的に、ボンドフラックスからもAlを溶接金属に添加する。
【0021】
このように、ソリッドワイヤとボンドフラックスの双方から、Alを溶接金属に添加することにより、溶接金属中のAl含有量を0.013乃至0.020質量%に調整する。
【0022】
ソリッドワイヤに適正量のAlを添加することにより、溶接金属において、スピネル酸化物(MnOAl)が介在物として生成する。この介在物を起点として、結晶粒が微細化し、この微細結晶粒内にフェライト組織(アシキュラーフェライト)が生成する。これにより、溶接金属の靭性が向上する。また、このAl添加による効果は、ボンドフラックスにAlを添加した場合も同様に得られるので、ソリッドワイヤからのAl添加の補助的な添加手段として、つまり、ソリッドワイヤからのAl添加では溶接金属のAl含有量が不足するため、その補助として、ボンドフラックスからもAlを溶接金属に添加する。
【0023】
次に、本発明のソリッドワイヤ及びボンドフラックスの組成に関し、その成分添加理由及び成分範囲の規定理由について説明する。
【0024】
(1)ソリッドワイヤ
「C:0.01乃至0.18質量%」
Cは脱酸元素として極めて重要であり、適切な量のCの添加により、溶接金属中の酸素量を低減し、溶接金属の靭性を向上させることができる。Cが0.01質量%未満であると、その効果が得られず、強度も不足する。また、Cが0.18質量%を超えると、強度が過大となり、靭性が劣化すると共に、溶接金属の凝固時に粒界に偏析しやすく、高温割れが生じる傾向が強くなる。従って、C含有量は、0.01乃至0.18質量%とし、好ましくは、0.05乃至0.18質量%である。
【0025】
「Si:0乃至0.15質量%」
Siは脱酸元素として重要であり、適切な量のCの添加により、溶接金属中の酸素量を低減し、溶接金属の靭性を向上させることができるが、上述のCにより溶接金属を脱酸しているので、Siは積極的に添加する必要はない。このため、本発明は、Siを添加しない場合も含む。一方、Siが0.15質量%を超えると、溶接金属の強度が過大となり、溶接金属の靭性が劣化する。従って、Si含有量は、0乃至0.15質量%、好ましくは、0乃至0.10質量%である。
【0026】
「Mn:1.7乃至2.8質量%」
Mnは溶接金属の靭性を向上させるために、必須の成分である。この靭性向上の効果を得るために、Mnは1.7質量%以上添加することが必要である。一方、Mnが2.8質量%を超えると、強度が過大となり、かえって、靭性が劣化する。よって、Mn含有量は1.7乃至2.8質量%、好ましくは1.7乃至2.5質量%である。
【0027】
「Al:0.02乃至0.1質量%」
Alは溶接金属の酸素量を低減し、良好な靭性を得るために、重要な添加成分であるが、Alが0.02質量%未満では、溶接金属の酸素低減効果が得られず、靭性が低下する。逆に、Alが0.1質量%を超えると、溶接金属の強度が過大となり、靭性が劣化する。従って、Al含有量は0.02乃至0.1質量%である。
【0028】
「N:0.01質量%以下に規制」
Nは溶接金属の靭性を劣化させるので、可及的に少ないことが望ましいが、Nが0.01質量%以下であれば、溶接金属の靭性に実質的な影響を及ぼさない。
【0029】
「残部はFeと不可避的不純物」
残部の不可避的不純物としては、Cuがあるが、このCuはソリッドワイヤの表面にめっき層がある場合はこのめっき層も含めて、0.4質量%以下であれば、許容される。また、Niは0.25質量%以下、Crは0.15質量%以下、Moは0.15質量%以下、Tiは0.05質量%以下、Pは0.03質量%以下、Sは0.03質量%以下であれば、その含有が許容される。
【0030】
(2)ボンドフラックス
「SiO:4乃至22質量%」
SiO2は酸性成分であり、スラグの粘性及び凝固温度を調整するために有効な成分である。ボンドフラックス中のSiOの含有量が4質量%未満であると、スラグの粘性が低くなりすぎるために、ビードが蛇行する。一方、ボンドフラックス中のSiOの含有量が22質量%を超えると、フラックスの塩基度が低下し、溶接金属の酸素量が高くなり、靭性が低下する。従って、SiO含有量は4乃至22質量%、好ましくは9乃至17質量%である。
【0031】
「Al3:2乃至12質量%」
Al3は中性成分であり、スラグの塩基度を下げることなく、スラグの粘性及び凝固温度を調整するのに有効な成分である。ボンドフラックス中のAl3の含有量が2質量%未満であると、アンダカットが発生しやすくなる。一方、ボンドフラックス中のAl3の含有量が12質量%を超えると、粘性が高くなりすぎてスラグ巻き込みが発生しやすくなると共に、ビードが凸になりやすい。従って、Al含有量は、2乃至12質量%、好ましくは、5乃至9質量%である。
【0032】
「TiO:5乃至26質量%」
TiOは、酸性成分であり、スラグの流動性を調整し、更に溶融時に還元されて溶接金属中にTiとして歩留まるため、溶接金属の靭性向上に有効な成分である。フラックス中のTiOの含有量が5質量%未満であると、溶接金属中に供給されるTi量が不足し、靭性が低下する。一方、フラックス中のTiOの含有量が26質量%を超えると、スラグが焼付き、剥離が劣化する。従って、TiO含有量は、5乃至15質量%とする。
【0033】
「MgO:8乃至42質量%」
MgOは、塩基成分であり、溶接金属中の酸素量を低減するのに有効な成分であり、粘性調整剤としての作用も有している。フラックス中のMgOの含有量が8質量%未満であると、溶接金属の酸素量が高くなり、靭性が低下すると共に、ビードの蛇行又はアンダカットが発生しやすくなる。一方、ボンドフラックス中のMgOの含有量が42質量%を超えると、スラグは焼付き、剥離性が劣化すると共に、ポックマークが多発する。従って、MgO量は8乃至42質量%、好ましくは17乃至34質量%である。
【0034】
「CaF:2乃至11質量%」
CaFは、塩基性成分であり、溶接金属中の酸素量を低下させる効果があると共に、スラグの流動性を調整し、溶接中のスラグ−メタル間の反応を促進させるために有効な成分である。フラックス中のCaFの含有量が2質量%未満であると、溶接スラグを形成するスラグ量が不足するために、ビードが蛇行すると共に、溶接金属の酸素量が高くなり、靭性が低下する。一方、フラックス中のCaFの含有量が11質量%を超えると、アークが不安定になり、アーク切れが発生しやすくなる。従って、CaF量は、2乃至11質量%、好ましくは、4乃至8質量%である。
【0035】
「CaO:2乃至9質量%」
CaOは、塩基性成分であり、フラックスの塩基度を高め溶接金属の酸素量低減に極めて効果のある成分である。フラックス中のCaOの含有量が2質量%未満であると、溶接金属の酸素量が高くなり、靭性が低下する。一方、フラックス中のCaOの含有量が9質量%を超えると、スラグが焼付き、剥離性が悪くなる。従って、CaO含有量は、2乃至9質量%、好ましくは4乃至7質量%である。
【0036】
「金属炭酸塩(CO換算値):1乃至7質量%」
COは、溶接金属中の窒素量と拡散性酸水素量の低減に有効な成分である。フラックス中のCOの含有量が1質量%未満であると溶接金属中の拡散性水素量が高くなり、低温割れを発生しやすくする。一方、フラックス中のCOの含有量が7質量%を超えるとガス発生量が増えすぎてポックマークが発生しやすくなる。従って、CO量は、1乃至7質量%、好ましくは3乃至5質量%である。なお、フラックス中のCO成分は、金属炭酸塩として添加される。
【0037】
「B:0.2乃至0.9質量%」
3は、溶接熱で還元され、B(ホウ素)として溶接金属中に歩留まって、溶接金属の靭性を向上させるのに有効な成分である。フラックス中のB3の含有量が0.2質量%未満であると、溶接金属に歩留まるBが不足し、靭性が低下する。一方、フラックス中のB3の含有量が0.9質量%を超えると、溶接金属中のBが過度に存在することにより、高温割れが発生しやすくなる。従って、B3量は、0.2乃至0.9質量%、好ましくは0.4乃至0.7質量%である。
【0038】
「Mo:0.1乃至0.7質量%」
Moは、焼入れ性を向上させて、強度及び靭性を高めるのに有効な成分である、フラックス中のMoの含有量が0.1質量%未満であると、大入熱溶接時の焼入れ性が不足し、靭性が低下する。一方、フラックス中のMoの含有量が0.7質量%を超えると、スラグが焼き付き、スラグ剥離性が劣化する。従って、Mo含有量は0.1乃至0.7質量%、好ましくは0.3乃至0.6質量%である。なお、MoはMo単体の他、Fe−Mo等で添加することができる。
【0039】
「Fe:5乃至25質量%」
Feは、一度に多量の溶着金属を必要とする片面サブマージアーク溶接の場合、溶着金属量を補うのに必要な成分である。フラックス中のFeの含有量が5質量%未満であると溶着着金属を補う効果が得られない。一方、フラックス中のFeの含有量が25質量%を超えると、溶融スラグの流動性が阻害され、ビード幅が不安定になり、アンダカットも発生しやすくなる。従って、Fe含有量は15乃至25質量%、好ましくは10乃至20質量%である。なお、Feは鉄粉等のFe単体の他、Fe−Mo又はFe−Al等で添加することができる。
【0040】
「Al:0乃至1.2質量%」
Alは、溶接金属のミクロ組織を微細にして、靭性を高めるのに有効な成分である。特に、大入熱溶接時に溶接金属に着実に歩留まり、効果を発揮する。Alはソリッドワイヤ中のAl含有量を補うものであるから、積極的に添加しなくても良い。一方,ボンドフラックス中のAlの含有量が1.2質量%を超えると、ワイヤ中のAl含有量を適正範囲の下限である0.02質量%に抑制しても、焼入れが過度になり、強度が上昇し、靭性が低下する。従って、Al含有量は0乃至1.2質量%とする。なお、Alは、Al単体の他、Fe−Al等で添加することができる。
【0041】
「その他の成分」
上記成分の他にフラックス中には、NaO、KO、BaO、FeO、ZrO及びMnO等の成分を含有することができ、その含有量は全ての総量で15質量%以下とする。
【実施例】
【0042】
以下、本発明に係るサブマージアーク溶接用ボンドフラックスの実施例についてその比較例と比較して具体的に説明する。図1は、本発明の実施例に係る開先形状を示す断面図である。
【0043】
図1に示すように、1対の鋼板1をその端面に斜面を形成して、この端面を相互に対向させて突合せ、Y字形開先を形成した。このY字形開先は、開先角が60°で、ルートギャップは3mmである。また、鋼板1の厚さは12mmであり、開先の深さは9mmである。この鋼板1の組成を下記表1に示す。表2は使用したソリッドワイヤの組成を示し、表3は使用したボンドフラックスの組成を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
溶接条件は2電極サブマージアーク溶接であり、その溶接条件を下記表4に示す。溶接電流は交流であり、2電極を逆V結線で使用した。
【0048】
【表4】

【0049】
溶接に際し、開先裏面1a(図1参照)にフラックス裏当材(FCB)を使用した。即ち、銅板の上に裏当フラックスを均一な厚さに敷いたものを裏当材とし、この裏当材をエアホース等の空気圧による押し上げ機構により押し上げて、開先裏面1aに押し当て、開先の表面側から2電極サブマージアーク溶接し、裏ビードを形成しつつ、溶接を完了した。溶接終了後に、溶接金属の酸素量としてデポ酸素量を測定し、溶接金属の−20℃における吸収エネルギ値及びビード外観を調べた。また、溶接金属の引張強度を測定した。
【0050】
次に、上述のごとくして溶接して得た溶接金属の機械的特性を下記表5に、溶接金属の組成を下記表6に示す。この表5及び表6はソリッドワイヤの組成を変化させたものである。
【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
この表5に示すように、比較例T4乃至T7はソリッドワイヤW4及びW5の組成が本発明の範囲から外れているので、表6に示すように、溶接金属の組成において、Al含有量が本発明の範囲(0.013乃至0.020質量%)から外れたため、−20℃における衝撃吸収エネルギが低く、靱性が低いものであった。特に、比較例T4はソリッドワイヤW4の組成において、Al含有量が過剰であったため、引張強度が高過ぎ、靱性が劣化した。また、比較例T5乃至T7はソリッドワイヤのAl含有量が低いため、溶接金属の靱性が不安定であり、靱性が劣化した。これに対し、本発明の実施例T1乃至T3においては、溶接金属のAl含有量が本発明の範囲内であるので、溶接金属は、引張強度が適度であり、−20℃の低温靱性が47J以上と十分に高いものであった。
【0054】
次に、ボンドフラックスの組成を変化させた実施例及び比較例について説明する。この溶接金属の機械的特性を下記表7に、溶接金属の組成を下記表8に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
この表7に示すように、比較例T17乃至T20はソリッドワイヤのAl含有量は本発明の範囲内であるが、ボンドフラックスF7,F8はそのAl含有量が本発明の範囲から外れているため、表8に示すように、溶接金属の組成において、Al含有量が本発明の範囲(0.013乃至0.020質量%)から外れて過剰であったため、溶接金属の引張強度が高いので、−20℃における衝撃吸収エネルギが低く、靱性が低いものであった。また、比較例T21乃至T23は、ソリッドワイヤ及びボンドフラックス中のAl含有量は本発明の範囲内であるが、両者を組み合わせて溶接したときの溶接金属のAl含有量が本発明の範囲から外れるため、低温靱性が低いものであった。
【0058】
これに対し、本発明の実施例T8乃至T16は、ソリッドワイヤ及びボンドフラックスのAl含有量が本発明の範囲内であると共に、溶接金属のAl含有量が本発明の範囲内であるので、−20℃での衝撃吸収エネルギが47J以上と高く、低温靱性が優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、主としてソリッドワイヤからAlを溶接金属に添加し、補助的にボンドフラックスからAlを溶接金属に添加するので、溶接金属のAl含有量を所望の範囲に容易に制御することができ、溶接金属の低温靱性を確実に向上させることができるため、サブマージアーク溶接による構造物の靱性向上に極めて有益である。
【符号の説明】
【0060】
1;鋼板
1a:裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.01乃至0.18質量%、Si:0乃至0.15質量%、Mn:1.7乃至2.8質量%、Al:0.02乃至0.1質量%を含有し、Nを0.01質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物である組成のソリッドワイヤと、
全フラックスに対し、SiO2:4乃至22重量%、Al23:2乃至12重量%、TiO2:5乃至26重量%、MgO:8乃至42重量%、CaF2:2乃至11重量%、CaO:2乃至9重量%、CO2:1乃至7重量%、B:0.2乃至0.9質量%、Mo:0.1乃至0.7質量%、Fe:5乃至25質量%、Al:0乃至1.2質量%を含有するボンドフラックスと、
からなることを特徴とするサブマージアーク溶接用材料。
【請求項2】
Al含有量が0.013乃至0.020質量%の溶接金属を得るための溶接用材料であることを特徴とする請求項1に記載のサブマージアーク溶接用材料。
【請求項3】
C:0.01乃至0.18質量%、Si:0乃至0.15質量%、Mn:1.7乃至2.8質量%、A:0.02乃至0.1質量%を含有し、Nを0.01質量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物である組成のソリッドワイヤと、
全フラックスに対し、SiO2:4乃至22重量%、Al23:2乃至12重量%、TiO2:5乃至26重量%、MgO:8乃至42重量%、CaF2:2乃至11重量%、CaO:2乃至9重量%、金属炭酸塩(CO換算値):1乃至7重量%、B:0.2乃至0.9質量%、Mo:0.1乃至0.7質量%、Fe:5乃至25質量%、Al:0乃至1.2質量%を含有するボンドフラックスと、
を使用して、軟鋼又は高張力鋼をサブマージアーク溶接し、Al含有量が0.013乃至0.020質量%の溶接金属を得ることを特徴とするサブマージアーク溶接方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−232334(P2012−232334A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103454(P2011−103454)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】