説明

サブマージアーク溶接装置

【課題】立向きサブマージアーク溶接において、フラックスの漏れを確実に防止し、溶接作業効率を向上させることのできるサブマージアーク溶接装置を提供すること。
【解決手段】立向きのサブマージアーク溶接において、溶接箇所周辺を布部材(30)により覆い、当該布部材の側部(66)を押圧プレート(52)により押圧するとともに、下部(68)を、軸部材36に複数配列され各押圧プレート52により押圧して、フラックス受け領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立向き姿勢でのサブマージアーク溶接を実現するサブマージアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接法は、粉状のフラックスを予め被溶接物(母材)の上に散布しておき、その中に溶接ワイヤを送給し、溶接ワイヤと被溶接物との間でアークを発生させ、このアーク熱によって被溶接物及び溶接ワイヤを溶融接合する溶接法である。
このようなサブマージアーク溶接は、(1)大電流が使用できるので溶着速度が大きく高能率であり、(2)溶け込みが深く、(3)アークがフラックスで覆われているため遮光が不要であり、また、溶接ヒュームがほとんど発生しないので、作業環境が良好であり、(4)ビード外観が美しい、といった利点を有する。
【0003】
ただし、従来のサブマージアーク溶接法は、被溶接物の継手部(突合せ継手、開先継手、重ね合わせ継手、隅肉継手など)にフラックスを滞留させる必要上、溶接姿勢が、下向き姿勢および横向き姿勢に限定されており、立向き姿勢には適用できなかった。なお、溶接における「立向き姿勢」とは、溶接線が高さ方向に延びるような被溶接物を溶接する場合の姿勢をいう。
【0004】
そこで、サブマージアーク溶接を立向き姿勢で施工することができるサブマージアーク溶接装置の開発が進められている(特許文献1参照)。
これは、周縁部を被溶接物と当接させ内部にフラックスを滞留させるフラックス受けを設け、当該フラックス受けにフラックスを供給しつつ溶接線に沿って上方に移動してサブマージアーク溶接を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−307570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された技術では、フラックス受けにはフラックス漏れ止め手段が設けられており、当該フラックス漏れ止め手段は被溶接物の面に対し左右外側及び下側に広がるスカート部をコイルバネ等の弾性部材により支持している。
しかしながら、弾性部材によりスカート部を支持する構成では、各弾性部材の間に隙間があり、この隙間を通って内部に保持したフラックスが漏れるという問題がある。このため、溶接作業場の周囲にフラックスが散在し作業環境を悪化させるおそれがある。またフラックス受け内部に滞留されるフラックスの消費が多く、その分大量のフラックスを供給しなければならなくなる。このように、フラックス受けからのフラックスの漏れは、作業効率を悪化させることとなる。
【0007】
ただし、被溶接物の表面には凹凸がある場合もあり、そのような凹凸にも対応しつつフラックス受け周縁を被溶接物に当接させなければ、確実にフラックスの漏れを防ぐことはできない。
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、立向きサブマージアーク溶接において、フラックスの漏れを確実に防止し、溶接作業効率を向上させることのできるサブマージアーク溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1のサブマージアーク溶接装置では、立向き姿勢に設置され溶接線が高さ方向に延びる被溶接物に対しサブマージアーク溶接を行なうサブマージアーク溶接装置であって、前記被溶接物に対し溶接ワイヤを供給する溶接トーチと、前記被溶接物の溶接箇所周辺を覆い、少なくとも側部周縁及び下部周縁が前記被溶接物と当接し、前記被溶接物とともにフラックスを収納するフラックス受け領域を形成する収納体と、前記フラックス受け領域内にフラックスを供給するフラックス供給手段と、前記収納体を支持する支持部材と、前記支持部材に設けられ、前記収納体の側部周縁を被溶接物側に押圧する側部押圧手段及び前記収納体の下部周縁を被溶接物側に押圧する下部押圧手段を有するフラックス漏れ止め手段と、を備え、前記フラックス漏れ止め手段の前記下部押圧手段は、前記収納体を押圧する作用部、該作用部より重い錘部、前記支持部材に設けられた軸部材により軸支された軸支部からなり、該軸支部を支点とし前記錘部の重量を前記作用部の押圧力に変換する押圧部材を、幅方向に連続して複数配列した構成をなすことを特徴としている。
【0009】
請求項2のサブマージアーク溶接装置では、請求項1において、前記収納体は耐熱性を有した布部材であることを特徴としている。
請求項3のサブマージアーク溶接装置では、請求項1または2において、前記被溶接物は溶接線に沿った開先が形成されており、前記押圧部材の作用部の幅は少なくとも前記被溶接物の開先幅より小であることを特徴としている。
【0010】
請求項4のサブマージアーク溶接装置では、請求項1から3のいずれかにおいて、前記フラックス漏れ止め手段の前記下部押圧手段は、前記押圧部材を他の押圧部材に交換可能であることを特徴としている。
請求項5のサブマージアーク溶接装置では、請求項1から4のいずれかにおいて、前記フラックス漏れ止め手段の前記下部押圧手段は、前記押圧部材の錘部を重さの異なる他の錘部に交換可能であることを特徴としている。
【0011】
請求項6のサブマージアーク溶接装置では、請求項1から5のいずれかにおいて、前記押圧部材は、一端側に前記作用部、他端側に前記錘部、該作用部及び錘部の間に前記軸支部が形成されたプレート部材であることを特徴としている。
請求項7のサブマージアーク溶接装置では、請求項1から6のいずれかにおいて、前記フラックス漏れ止め手段の前記側部押圧手段は、少なくとも前記下部押圧手段の押圧部分の横位置から、前記溶接箇所高さまで延びた板部材であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記手段を用いる本発明の請求項1のサブマージアーク溶接装置では、立向きのサブマージアーク溶接において、溶接箇所周辺にて収納体によりフラックス受け領域を形成し、当該収納体の下部を、幅方向に複数配列された各押圧部材により押圧する。当該押圧部材は収納体を押圧する作用部、該作用部より重い錘部、支持部材に設けられた軸部材により軸支された軸支部からなり、軸支部を支点とし前記錘部の重量を前記作用部の押圧力に変換するものである。
【0013】
このように、収納体下部を押圧する押圧部材を幅方向に連続して複数配列することで、当該収納体下部を隙間なく押圧することができる。また、各押圧部材が独立して被溶接物を押圧することで、被溶接物表面の凹凸等に適合し被溶接物の表面形状に応じて収納体を被溶接物側に押圧することができる。
これにより、フラックス受け領域下部を閉塞しフラックスの漏れを防止することができる。そして、フラックス供給量を低減することができ、溶接作業効率を向上させることができる。
【0014】
請求項2のサブマージアーク溶接装置によれば、収納体を耐熱性の有した布部材とする。
このように収納体として耐熱性を有し柔軟な布部材を用いることで、容易にフラックス受け領域を形成することができる。
請求項3のサブマージアーク溶接装置によれば、押圧部材の作用部の幅を少なくとも被溶接物の開先幅より小とする。これにより、溶接後のビード形状に適合して収納体を押圧することができ、より確実にフラックスの漏れを防止することができる。
【0015】
請求項4のサブマージアーク溶接装置によれば、下部押圧手段の押圧部材を他の押圧部材に交換可能なものとする。
これにより、被溶接物に応じた最適な押圧部材を選択することができ、多様な被溶接物に対しフラックスの漏れを防止することができる。
請求項5のサブマージアーク溶接装置によれば、下部押圧手段の押圧部材の錘部を重さの異なる他の錘部に交換可能なものとする。
【0016】
これにより、簡単な交換作業で、被溶接物に応じた最適な押圧部材を選択することができ、多様な被溶接物に対しフラックスの漏れを防止することができる。
請求項6のサブマージアーク溶接装置によれば、押圧部材を、一端側に作用部、他端側に錘部、作用部及び錘部の間に軸支部が形成されたプレート部材とする。
これにより、単純な構成で収納体の下部周縁を押圧することができる。
【0017】
請求項7のサブマージアーク溶接装置によれば、側部押圧手段は、少なくとも下部押圧手段の押圧部分横位置から溶接箇所高さまで延びた板部材とする。このように、単純な構成で収納体の側部周縁を押圧する。
これにより下部押圧手段とともに、収納体の側部から下部を隙間なく閉塞し、側部からのフラックス漏れを防止することができ、確実に溶接箇所までフラックスを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態の側面図である。
【図2】本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態の斜視図である。
【図3】本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態の布部材を除いた斜視図である。
【図4】本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態の要部斜視図である。
【図5】本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態の溶接時の縦断面図である。
【図6】本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態における押圧プレート接触部分の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1から図3を参照すると、図1には本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態の側面図、図2、3にはその斜視図がそれぞれ示されている。
図1に示す溶接機1は立向き姿勢に設置された立向きサブマージ溶接機であり、立設された一対の板状の被溶接物2、2が突き合わされ高さ方向に延びて形成される開先の中央を溶接線とする被溶接物に対しサブマージアーク溶接を行なうものである。
【0020】
この溶接機1は、主に移動機構10、溶接トーチ12、フラックス受け14、フラックス供給機16(フラックス供給手段)から構成されている。
詳しくは、移動機構10は、被溶接物2、2と平行に立設されたレール部材20に上下摺動可能なレール連結部材22が連結されており、当該レール連結部材22に本体部24が支持されている。当該移動機構10はモータ駆動によりレール部材20に沿って上下方向に移動可能である。
【0021】
また、当該移動機構10には、溶接トーチ12、フラックス受け14、フラックス供給機16の位置調整装置、及び各装置の作動制御を行う制御装置等が設けられている(図示せず)。例えば、位置調整装置は、溶接トーチ12、フラックス受け14、フラックス供給機16を水平方向に移動させるものである。また、制御装置は溶接トーチ12への電力供給、フラックス供給機16によるフラックス供給量等を制御するものである。
【0022】
溶接トーチ12は、移動機構10の本体部24に支持されている。溶接トーチ12にはケーブル26を介して、図示しないワイヤ送給装置から溶接ワイヤ12aが送り込まれるよう構成されている。溶接ワイヤ12aは溶接トーチ12先端部から突出し、被溶接物2に対して略垂直をなして開先の溶接箇所に指向している。
フラックス受け14は、移動機構10の本体部24と連結されたフレーム部材28(支持部材)と、当該フレーム部材28に支持された例えばグラスウールやアラミド繊維で編まれた断熱性を有する布部材30(収納体)からなる。
【0023】
フレーム部材28は、幅方向両側に位置して上下方向に延びる側部フレーム32、32を有し、当該各側部フレーム32、32の下部が連結管34及び軸部材36により連結されている。軸部材36の両端部は側部フレーム32、32を貫通して外側に延びており、この軸部材36端部にはバネ部材38、38の一端部が係止されている。また、各側部フレーム32、32の高さ方向略中央部は、上面視略半円形状をなす中央フレーム40により連結され、各側部フレーム32、32の上部は上面視略コ字形状をなす上部フレーム42により連結されている。
【0024】
また、側部フレーム32、32のそれぞれの上部には、中間回動フレーム44、44が縦方向に回動可能に支持されている。当該中間回動フレーム44は一方向に長い板部材であって、長さ方向に等間隔に孔44aが穿設されている。そして、当該中間回動フレーム44は、中央よりもやや一端側の孔44aに締結部材を介して側部フレーム32に支持され、一端側の孔44aには締結部材を介して上記バネ部材38の他端が係止されており、他端側の孔44aには締結部材を介し押圧フレーム46(側部押圧手段)が回動可能に支持されている。
【0025】
押圧フレーム46も一方向に長い板部材であって、長さ方向に等間隔に孔46aが穿設されている。そして、中央よりもやや一端側の孔46aが締結部材を介して支持されているとともに、当該締結部材にチェーン部材48の一端が係止されている。チェーン部材48、48の他端側には、左右のチェーン部材48、48を連結するように円筒部材50が設けられている。
【0026】
そして、押圧フレーム46が被溶接物2に接触したときには、中間回動フレーム44の被溶接物2側を下方に移動することで一端側に設けられているバネ部材38が伸び、このバネ部材38の弾性力が中間回動フレーム44を介して、押圧フレーム46が被溶接物2を押圧する押圧力に変換される。
また、上記軸部材36には、軸方向に沿って複数の押圧プレート52が配列されたフラックス漏れ止め機構54(下部押圧手段)が設けられている。
【0027】
詳しくは、図4には要部斜視図が示されており、当該図4を参照しつつフラックス漏れ止め機構54について詳しく説明する。なお、当該図4では、説明の便宜上、図面手前側の側部フレームは図示されていない。
図4に示すように、当該実施形態におけるフラックス漏れ止め機構54は、9枚の押圧プレート52が配列されて構成されている。
【0028】
各押圧プレート52は、軸部材36に回動可能に軸支され下方に延びる軸支部56、当該軸支部56の下端部分から被溶接物2側に斜め下方に傾斜して延びる押圧部58、及び軸支部56の下端部分から被溶接物2から離れる側に水平方向に延びる錘連結部60からなる略逆Y字形状をなしており、当該錘連結部60の先端には円盤状の錘部62が形成されている。
【0029】
これら各押圧プレート52間は、ほぼ隙間なく配列されながら、互いに独立して回動可能である。また、各押圧プレート52の幅方向の厚みは、被溶接物2、2の開先幅よりも小に形成されている。さらに、当該押圧プレート52は軸部材36から外して、他の押圧プレートに交換が可能である。したがって、被溶接物2に応じて、錘部62の重量が異なる押圧プレートに変更したり、厚みの異なる押圧プレートに変更したり、厚みを変えて押圧プレートの枚数を変更したりすることが可能である。
【0030】
このフラックス漏れ止め機構54は、溶接を行わない未使用時には、図4に示すように、押圧プレート52の軸支部56の下端の分岐部分に上記円筒部材50が係合して各押圧プレート52が整列されている。一方、溶接時には、円筒部材50が押圧プレート52の分岐部分から外され、各押圧プレート52が独立に回動可能となる。なお、押圧プレート52の錘部62は押圧部58よりも重く、円筒部材50が外れているときには、軸部材36を支点に錘部62が下がり、押圧部58が上がるように回動するよう構成されている。つまり、当該押圧プレート52は、押圧部58が被溶接物2に接触したときには、軸支部56の軸支部分を支点とし錘部62の重量を、押圧部58により被溶接物2を押圧する押圧力に変換するよう構成されている。
【0031】
ここでまた図1〜3を参照すると、布部材30は、フレーム部材28の側部フレーム32、32、中央フレーム40、及び上部フレーム42に囲まれて支持されている。また、布部材30は、上記各フレーム32、32、40、42に囲まれた矩形状の支持部64の中央に溶接トーチ12が貫通されている。そして、当該布部材30は支持部64から側部66、66及び下部68がそれぞれ被溶接物2側に向かって延びている。
【0032】
溶接時においては、当該布部材30は、側部66、66の周縁が上記押圧フレーム46、46により、下部68の周縁が上記各押圧プレート52の押圧部58端部により、それぞれ被溶接物2側に押圧される。これにより、布部材30は被溶接物2側の側面及び上面を開放しつつ、側部66、66周縁及び下部68周縁は被溶接物2、2と隙間なく当接して、溶接箇所の周りを覆い、当該布部材30及び被溶接物2によりフラックス受け領域を形成する。
【0033】
フラックス供給装置16は、図示しないフラックス供給源が設けられており、当該フラックス供給源から延びるフラックス供給ノズル70がフラックス受け14の布部材30により形成されるフラックス受け領域内に上方から臨むように構成されている。
以下、このように構成された本発明に係るサブマージアーク溶接装置の動作について説明する。
【0034】
ここで図5及び図6を参照すると、図5には本発明のサブマージアーク溶接装置に係る実施形態の溶接時の縦断面図、図6には押圧プレート接触部分の横断面図がそれぞれ示されており、以下、図1〜6に基づき説明する。
溶接時には、まず移動機構10を溶接箇所に合わせた高さに移動させた後、位置調整手段により溶接トーチ12、フラックス受け14、フラックス供給機16をそれぞれ所定の溶接位置に移動させる。このとき、フラックス受け14を被溶接物2側に移動させることで、布部材30の側部66及び下部68の周縁は、被溶接物2に接触し、さらに押圧フレーム46、46及び押圧プレート52の押圧部58により被溶接物2側に押圧される。
【0035】
詳しくは、押圧フレーム46、46及び押圧プレート52が布部材30を介して被溶接物2に接触した後、フラックス受け14を被溶接物2にさらに近づけることで、押圧フレーム46、46は中間回動プレート44を介したバネ部材38の弾性力が押圧力となり、押圧プレート52は錘部62の重量が押圧力となって、それぞれ布部材30を押圧する。
また、フラックス漏れ止め機構54の各押圧プレート52はそれぞれ独立に回動可能であることから、それぞれの押圧プレート52の押圧部58が被溶接物2、2表面の凹凸に合わせて回動する。
【0036】
例えば、図6に示すように、溶接後に形成されるビードBが被溶接物2、2表面よりも盛り上がっている場合でも、開先幅よりも幅が小である押圧プレート52は、当該ビードB形状に合わせて段階的に布部材30を押圧する。
そして、このように側部66及び下部68の周縁が押圧された布部材30は、被溶接物2とともに、内部にフラックス受け領域を形成する。このフラックス受け領域に、フラックス供給機16のフラックス供給ノズル70からフラックスFが供給される。布部材30の側部66及び下部68はほぼ隙間なく被溶接物2に当接し、フラックス受け領域の側部66及び下部68は閉塞されていることから、当該フラックス受け領域内にフラックスFが滞留する。
【0037】
当該フラックスFにより溶接箇所まで覆われたら溶接トーチ12に電力を供給し、アーク溶接を開始させる。そして、移動機構10は溶接条件に合わせてレール部材20に沿って下から上へと移動することで立ち向きのサブマージアーク溶接を実行する。
以上のように、立向きのサブマージアーク溶接において、溶接箇所周辺にて布部材30によりフラックス受け領域を形成し、当該布部材30の下部68を、幅方向に複数配列された各押圧プレート52により押圧する。
【0038】
布部材30の下部68を押圧する押圧プレート52を幅方向に連続して複数配列することで、この布部材30の下部68を隙間なく押圧することができる。また、各押圧プレート52が独立して被溶接物2を押圧することで、被溶接物2表面の凹凸等に適合し被溶接物2の表面形状に応じて布部材30を被溶接物2側に押圧することができる。特に、押圧プレート52の幅は開先幅よりも小であることから、溶接後のビードB形状にも適合して布部材30を押圧することができ、より確実にフラックス受け領域の下部を閉塞することができる。
【0039】
そして、布部材30の側部66においては、押圧プレート52先端の横位置から溶接箇所に相当する溶接ワイヤ12aより上方まで延びる押圧フレーム46により被溶接物2側に押圧されていることから、布部材30は下部68から側部66にかけて隙間なく被溶接物2と当接する。これにより、下部68及び側部66が閉塞されたフラックス受け領域が形成され、当該フラックス受け領域内において確実に溶接箇所までフラックスを供給することができる。
【0040】
また、柔軟で耐熱性を有する布部材30によりフラックス受け領域を形成することで、容易にフラックス受け領域を形成することができる。
このようにして、本発明に係るサブマージアーク溶接装置は、フラックス受け領域下部及び側部を確実に閉塞しフラックスFの漏れを防止することができ、フラックス供給量を低減し、溶接作業効率を向上させることができる。
【0041】
また、押圧プレート52は他の押圧プレートにも交換可能であることから、被溶接物に応じた最適な押圧プレートを選択することができ、多様な被溶接物に対しフラックスの漏れを防止することができる。
以上で本発明に係るサブマージアーク溶接装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
【0042】
上記実施形態では、布部材30によりフラックス受け領域を形成しているが、フラックス受け領域を形成する収納体はこれに限られるものではない。例えば、金属製網であっても構わない。または、フレーム部材に支持される部分を箱部材とし、被溶接物と接触する周縁部のみ柔軟な部材とした収納体等でも構わない。
また、上記実施形態では、押圧プレート52の一つ一つが交換可能な構成であるが、例えば、錘部が錘連結部から取り外し可能であり、錘部のみ交換可能な構成であっても構わない。または、錘部の位置を変更可能としたり、錘連結部の長さを調節可能とすることで、押圧部に作用する押圧力を変更可能なものとしても構わない。これらのことから、押圧プレートによる押圧力の変更をより容易に行うことができる。
【0043】
また、上記実施形態では、押圧プレート52は逆Y字形状をなしているが、押圧プレートの形状はこれに限られるものではなく、錘部の重量を押圧部による押圧力に変換できる構成であればよい。
また、上記実施形態では、押圧フレーム46、46は中間回動プレート44を介したバネ部材38の弾性力を押圧力としているが、当該押圧フレームによる押圧力はこれに限られるものではなく、例えば、バネ以外の弾性体を用いても構わない。
【符号の説明】
【0044】
1 溶接機
2 被溶接物
10 移動機構
12 溶接トーチ
14 フラックス受け
16 フラックス供給機(フラックス供給手段)
28 フレーム部材(支持部材)
30 布部材(収納体)
36 軸部材
46 押圧フレーム(フラックス漏れ止め手段、側部押圧手段)
52 押圧プレート(押圧部材)
54 フラックス漏れ止め機構(フラックス漏れ止め手段、下部押圧手段)
56 軸支部
58 押圧部(作用部)
60 錘連結部
62 錘部
64 支持部
66 側部
68 下部
70 フラックス供給ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立向き姿勢に設置され溶接線が高さ方向に延びる被溶接物に対しサブマージアーク溶接を行なうサブマージアーク溶接装置であって、
前記被溶接物に対し溶接ワイヤを供給する溶接トーチと、
前記被溶接物の溶接箇所周辺を覆い、少なくとも側部周縁及び下部周縁が前記被溶接物と当接し、前記被溶接物とともにフラックスを収納するフラックス受け領域を形成する収納体と、
前記フラックス受け領域内にフラックスを供給するフラックス供給手段と、
前記収納体を支持する支持部材と、
前記支持部材に設けられ、前記収納体の側部周縁を被溶接物側に押圧する側部押圧手段及び前記収納体の下部周縁を被溶接物側に押圧する下部押圧手段を有するフラックス漏れ止め手段と、を備え、
前記フラックス漏れ止め手段の前記下部押圧手段は、前記収納体を押圧する作用部、該作用部より重い錘部、前記支持部材に設けられた軸部材により軸支された軸支部からなり、該軸支部を支点とし前記錘部の重量を前記作用部の押圧力に変換する押圧部材を、幅方向に連続して複数配列した構成をなすことを特徴とするサブマージアーク溶接装置。
【請求項2】
前記収納体は耐熱性を有した布部材であることを特徴とする請求項1記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項3】
前記被溶接物は溶接線に沿った開先が形成されており、
前記押圧部材の作用部の幅は少なくとも前記被溶接物の開先幅より小であることを特徴とする請求項1または2に記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項4】
前記フラックス漏れ止め手段の前記下部押圧手段は、前記押圧部材を他の押圧部材に交換可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項5】
前記フラックス漏れ止め手段の前記下部押圧手段は、前記押圧部材の錘部を重さの異なる他の錘部に交換可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項6】
前記押圧部材は、一端側に前記作用部、他端側に前記錘部、該作用部及び錘部の間に前記軸支部が形成されたプレート部材であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のサブマージアーク溶接装置。
【請求項7】
前記フラックス漏れ止め手段の前記側部押圧手段は、少なくとも前記下部押圧手段の押圧部分の横位置から前記溶接箇所高さまで延びた板部材であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のサブマージアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−88162(P2011−88162A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241308(P2009−241308)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】