説明

サポニン含有アジュバントを含む新規ワクチン製剤

本発明は、細菌またはウイルス懸濁液、特に濃縮されたもの、未精製(粗抽出物)のものまたは最小限に精製されたものの存在下で増強された安定性を有する新規水中油型(O/W)乳剤を提供する。本発明の乳剤は、少なくとも1つの免疫原、特に、不活化病原体、弱毒化病原体、サブユニット、組換え発現ベクターおよびプラスミドまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される免疫原を含む医薬組成物の送達のためのビヒクルとして機能することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳剤、アジュバントとしてのその使用およびそれを含む医薬組成物、免疫組成物またはワクチン組成物に関する。
【0002】
参照による組み込み
本願は、米国仮特許出願第61/241,171号(出願日:2009年9月10日)に基づく優先権を主張する。本願はさらに、以下の特許出願:米国特許出願第12/027,776号(出願日:2008年2月7日)、米国特許出願第10/899,181号(出願日:2004年7月26;現在米国特許第7,371,395号として許可されている)および米国仮特許出願第60/490,345号(出願日:2003年7月24日)を参照する。前述の出願およびそれに記載されたまたはその起訴中に記載されたすべての文書(“出願引用文書”)ならびに出願引用文書に引用または参照したすべての文書ならびに本明細書に引用または参照したすべての文書(“本明細書引用文書”)ならびに本明細書引用文書に引用または参照したすべての文書は、参照により本願に組み込まれる、本明細書または任意の文書に記載されている任意の製品に関する製造業者の使用説明書、解説、製品仕様書および製品シートと共に、これによって参照により本願に組み込まれ、本発明の実施に用いることができる。
【背景技術】
【0003】
ワクチンにおけるアジュバントの使用は公知である。アジュバントは、ワクチン抗原と組み合わせた場合、ワクチン抗原単独によって誘導される応答と比較して、ワクチン抗原に対する免疫応答を増強する化合物である。抗原の免疫原性を高める戦略には、ワクチン抗原を微粒子にする戦略、ワクチン抗原を重合させるかまたは乳化する戦略、ワクチン抗原をカプセル化する方法、宿主生来のサイトカイン応答を増強する方法、抗原提示細胞にワクチン抗原を誘導する方法がある(Nossal, 1999, In: Fundamental Immunology. Paul (Ed.), Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, Pa.; Vogel and Powell, 1995, In: Vaccine Design. The Subunit and Adjuvant Approach. Powell and Newman (Eds.), Plenum Press, NY, N.Y. p. 141)。ワクチン抗原の免疫原性の改善においてアジュバントは重要な役割を果たしているので、ワクチン製剤におけるアジュバントの使用は事実上あまねく行われている(前出のNossal(1999);前出のVogelおよびPowell(1995);国際公開番号WO97/18837も参照のこと、これらの教示は参照により本願に組み込まれる)。当該分野で公知の従来のアジュバントの性質は様々である。それらは、例えば、水不溶性無機塩、リポソーム、ミセルまたは乳剤(すなわちフロイントアジュバント)からなることができる。他のアジュバントは、前述したVogelおよびPowell(1995)において見出すことができる。アジュバント作用の機構は単一ではないが、本質的特徴は、ワクチン抗原単独によって誘導される応答と比較してワクチン抗原に対する免疫応答を有意に増強するその能力である(前出のNossal(1999);前出のVogelおよびPowell(1995))。この点において、あるアジュバントは、体液性免疫応答を増大させるのにより有効であり;他のアジュバントは細胞性免疫応答を増強するのにより有効であり(前出のVogel and Powell,1995);さらに他のアジュバントの群は、ワクチン抗原に対して体液性および細胞性免疫応答の両方を増強する(前出のVogelおよびPowell(1995))。
【0004】
一般に、ワクチン製剤に用いられる乳剤は、油、水溶液および界面活性剤の混合物を含む。親油性界面活性剤、例えばスパン(SPAN)80(登録商標)および親水性界面活性剤、例えばツイーン80(登録商標)を配合した乳剤もある。
【0005】
しかしながら、特に貯蔵中または輸送中に、ワクチンアジュバントとして用いられる乳剤に安定性の問題が生じる場合がある。このことは、特に、これらの組成物が濃縮免疫原、特に未精製濃縮免疫原を含む場合に問題となる。一般的には、これは不活化(死菌)ワクチンに用いられるアジュバントでの場合である。この問題は、多価ワクチン組成物に関してはより重要である。なぜなら、同じ容量の希釈剤中に免疫原がより濃縮されているからである。
【0006】
アジュバントの使用に関するもう1つの問題は、例えば毒性または注射部位における局所炎症などの有害事象のリスクと関連している。例えば、注射後に局所炎症反応および/または肉芽腫が生じることがある。このような有害反応を抑えるために、乳剤中の界面活性剤および他の成分を減ずることができる。しかしながら、減ずることによって、次には、ワクチン組成物の安定性が低下する恐れがある。従って、増強された安全性および安定性を有する新規アジュバントおよびこのようなアジュバントを含むワクチン組成物が求められている。
【発明の概要】
【0007】
第1の実施形態において、本発明は、細菌またはウイルス懸濁液、特に濃縮され未精製のものまたは濃縮され少し精製されたものの存在下で増強された安定性を有する新規水中油型(O/W)乳剤を提供する。
【0008】
本発明の他の実施形態は、少なくとも1つの活性成分であって、より具体的には免疫原となり得るものを含む医薬組成物の送達のためのビヒクルとしての機能を果たす、安定、安全で、容易に投与できる、特に注射用のO/W乳剤を提供する。
【0009】
本発明のさらに他の実施形態は、免疫原によって誘導される免疫応答を増強するためのアジュバントとしての機能を果たす、安定、安全で注射用のO/W乳剤を提供する。特に、本発明は、免疫原を含むワクチン組成物に用いられる場合、免疫原に対するワクチン接種者の細胞性免疫応答、体液性免疫応答または好ましくはその両方を増強する新規アジュバントを提供する。
【0010】
本発明のさらに他の実施形態は、O/W乳剤を含む安定、安全で免疫原性の組成物またはワクチンを提供する。
【0011】
本発明のさらなる実施形態は、本発明のアジュバントを用いるワクチン組成物の製造方法、そうして得られたワクチン組成物およびその使用方法を提供する。
【0012】
本発明のさらに他の実施形態は、1以上のバイアルを含むキットを提供する。一実施形態において、キットは、本発明のアジュバントおよび免疫原または本発明のアジュバントおよび他の医薬品を含む1つのバイアルを含む。さらに他の実施形態において、キットは、第1バイアルに免疫原または他の医薬品を含み、第2バイアルに、本発明に従って製造したアジュバントであって、使用前に免疫原または他のワクチン製品と混合されるように設計されたアジュバントを含む。
【0013】
一実施形態において、本発明は、
(1)免疫原を含む水溶液;
(2)親水性イオン性界面活性剤、例えばサポニンを含む水溶液
(3)任意選択の水酸化アルミニウム含有水溶液
(4)鉱油;
(5)親油性非イオン性界面活性剤;
(6)エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステル(一般にHLB値11〜13を有する)を含む、低HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む注射用水中油型(O/W)乳剤を提供する。
【0014】
他の実施形態において、本発明は、
(1)免疫原を含む水溶液;
(2)親水性イオン性界面活性剤、例えばサポニンを含む水溶液
(3)鉱油;
(4)親油性非イオン性界面活性剤;
(5)エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステル(一般にHLB値11〜13を有する)を含む、低HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む注射用水中油型(O/W)乳剤を提供する。
【0015】
他の実施形態において、本発明は、
(1)免疫原を含む水溶液;
(2)親水性イオン性界面活性剤、例えばサポニンを含む水溶液
(3)任意選択の水酸化アルミニウム含有水溶液
(4)13を超え40未満の高い親水性親油性バランス(HLB)値を有し、特にHLB≧13.5であり、好ましくはHLB≧14である親水性非イオン性界面活性剤;
(5)鉱油;
(6)親油性非イオン性界面活性剤;
(7)低HLB値(HLB値約9〜約13)を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む注射用水中油型(O/W)乳剤を提供する。
【0016】
他の実施形態において、本発明は、
(1)免疫原を含む水溶液;
(2)親水性イオン性界面活性剤、例えばサポニンを含む水溶液
(3)13を超え40未満の高い親水性親油性バランス(HLB)値を有し、特にHLB≧13.5であり、好ましくはHLB≧14である親水性非イオン性界面活性剤;
(4)鉱油;
(5)親油性非イオン性界面活性剤;
(6)低HLB値(HLB値約9〜約13)を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む注射用水中油型(O/W)乳剤を提供する。
【0017】
さらに他の実施形態において、本発明は、ワクチン接種者において免疫応答を誘導するのに適した少なくとも1つの免疫原を含む新規乳剤を含むワクチン組成物を提供する。本発明はさらに、免疫原によって誘導される免疫応答を増強するアジュバントとして、特に、細胞応答、液性応答または好ましくはその両方を増強するアジュバントとして乳剤が機能する組成物を提供する。
【0018】
他の実施形態において、本発明は、免疫原、特に例えば凍結乾燥もしくはガラス化によって得ることができる乾燥形の免疫原または水溶液の免疫原であって、特に、前記乾燥形または前記水溶液がさらにイオン性界面活性剤、例えばサポニンを含み、場合によりさらに水酸化アルミニウムを含む前記免疫原が本発明によるアジュバントと混合されるワクチン組成物の製造方法を提供する。免疫原は、不活化病原体、弱毒化病原体、サブユニット抗原、精製抗原、未精製抗原または細菌、酵母、植物、昆虫もしくは動物細胞を用いて組み換えにより製造された抗原、プラスミドを含む発現ベクターなどから選択されることができる。抗原は、限定するものではないが、限外濾過、超遠心分離、サイズ排除ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよびPEG精製を含む当該分野で公知の手段によって精製することができる。病原体は細菌、ウイルス、原虫または真菌起源であることができるし、免疫原は、抗毒素を構成することもできる。
【0019】
他の実施形態において、本発明は、ワクチン接種者に本発明のワクチン組成物を投与することを含む、ワクチン接種者において病原体に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。
【0020】
他の実施形態において、本発明は、精製免疫原および本発明による乳剤を含む単一のバイアルを含むキットを提供する。このような実施形態の1つにおいて、単一のバイアル内に含まれる免疫原は、精製FMDウイルス抗原を含む。
【0021】
他の実施形態において、本発明は、少なくとも2つのバイアルを含むキットであって、第1バイアルにおいて免疫原、特に乾燥形の免疫原もしくは水性媒体中の溶液の免疫原を含み、特に前記乾燥形または前記水溶液はさらにイオン性界面活性剤、好都合にはサポニンを含み、場合によりさらに水酸化アルミニウムを含み、第2バイアルにおいて、アジュバントまたは本発明による乳剤を含む前記キットを提供する。少なくとも2つのバイアルを含むキットの使用は、別々の成分の組み合わせ(すなわち少なくとも2つのバイアルの内容物の単一のバイアルへの混合)がワクチン製剤の安定性の低下をもたらす場合に特に有効である。
【0022】
本開示、特に本請求項において、用語、例えば“含む(comprises)”、“含んだ(comprised)”、“含んでいる(comprising)”などは、米国特許法においてかかる用語に帰属されている意味を有することができ、例えば、それらは、“含む(includes)”、“含んだ(included)”、“含んでいる(including)”などを意味することができ、用語、例えば“から本質的になっている(consisting essentially of)”および“から本質的になる(consists essentially of)”は、米国特許法によってそれらに帰された意味を有し、例えばそれらは、明記されていない要素を可能にするが、先行技術に示されているかまたは本発明の基礎的または新規特性に影響する要素を排除することに留意されたい。
【0023】
これらおよび他の実施形態は、以下の詳細な説明によって開示され、またはそれらから明らかになり、かつそれらに含まれる。
最良の形態を含む、当業者への本発明の十分で実施可能な開示は、添付の図面を含む明細書の残りにおいてより具体的に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】試験1および2のワクチン製剤の、7、22、121、および330日目における転相温度(PIT)測定(伝導率で測定した)のグラフである(1年間の安定性試験)。PIT測定は、ワクチン製剤の安定性の1つの尺度である。
【図2】試験3および4のワクチン製剤の、製造後複数日におけるPIT測定のグラフである(1年間の安定性試験)。
【図3】試験5および6のワクチン製剤の、製造後複数日におけるPIT測定のグラフである(1年間の安定性試験)。
【図4】試験7および8のワクチン製剤の、製造後複数日におけるPIT測定のグラフである(1年間の安定性試験)。
【図5】試験9のワクチン製剤の、製造後複数日におけるPIT測定のグラフである(1年間の安定性試験)。
【図6】本発明に従って製造し、36ヶ月間保存したワクチン製剤(試験1〜9)のPIT測定のグラフである。
【図7】実施例6に開示された材料および方法に従って処理したブタの直腸温の時間に依存した変化を示す図である。
【図8】実施例6に開示された材料および方法に従って処理したブタに関して観察された最大温度変化を示すグラフである。
【図9】実施例7に開示された材料および方法に従って処理したブタのワクチンの有効性(PD50)対ペイロード(μg)を示すグラフである。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明の他の目的、特徴および側面は、以下の詳細な説明において開示され、あるいはそれらから明らかである。本説明は、例示的な実施形態の説明に過ぎず、本発明の広範な側面を限定することを意図したものではなく、その広範な側面は例示的な構成に含まれていることを当業者は理解すべきである。実際、本発明の精神から逸脱することなく本発明に種々の修飾および変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。例えば、一実施形態の一部として例示まあは説明した特徴を他の実施形態で使用して、さらに別の実施形態を生じることができる。本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で生じるこのような修飾および変更を含むものとする。本願を通じて引用されたすべての引用文献、公開特許および特許の内容は、その全体が参照により本願に組み込まれる。
【0026】
便宜上、明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で用いられる若干の用語を以下にまとめる。
【0027】
本明細書において、用語“動物”は、ヒトを含むすべての脊椎動物を含む。また、この用語は、胚期および胎児期を含むすべての発育段階における個々の動物も含む。特に、用語“脊椎動物”は、限定するものではないが、ヒト、イヌ科動物(例えばイヌ)、ネコ科動物(例えばネコ);ウマ科動物(例えばウマ)、ウシ亜科動物(例えばウシ、畜牛)、ブタ系の動物(例えばブタ)ならびに鳥類における動物を含む。本明細書において、用語“ウシ”または“畜牛”は、一般に、任意の年齢のウシ起源の動物を指すために用いられる。交換可能な用語は、“ウシ亜科の動物”、“子牛”、“早期去勢牛”、“雄ウシ”、“未経産雌牛”、“ウシ”などを含む。交換可能な用語は、“子ブタ”、“雌ブタ”などを含む。本明細書において、用語“鳥類”は分類学的クラスavaの種または亜種、例えば、限定するものではないが、ニワトリ(ブリーダー、ブロイラーおよび産卵鶏)、七面鳥、カモ、ガチョウ、ウズラ、キジ、オウム、フィンチ、タカ、カラスならびに、ダチョウ、エミューおよびヒクイドリを含む平胸類の鳥のことを言う。用語“ブタ”または“子ブタ”は、ブタ起源の動物を意味し、“雌ブタ”は、生殖可能年齢であり生殖能力のある雌のことを言う。
【0028】
本明細書において、用語“毒性の”は、動物宿主に感染性であるその能力を保持する分離株を意味する。
【0029】
本明細書において、用語“不活化ワクチン”は、もはや複製も増殖もできない感染性生物体または病原体を含むワクチン組成物を意味する。病原体は、細菌、ウイルス、原虫または真菌起源であることができる。不活化は、生物体の複製または増殖を防ぐのに十分であるが、その免疫原性は維持する、凍結融解、化学的処理(例えばホルマリン処理)、超音波処理、放射線、加熱または任意の他の慣用法を含む種々の方法によって達成することができる。
【0030】
本明細書において、用語“免疫原性”は、宿主動物において抗原(単数または複数)に対して免疫応答を引き起こすことができることを意味する。この免疫応答は、特定の感染性生物体に対してワクチンによって誘導される感染防御免疫の基礎を形成する。
【0031】
本明細書において、用語“免疫応答”は、動物において誘導される応答のことを言う。免疫応答は、細胞性免疫(CMI);体液性免疫を指すことができ、あるいはその両方を指すこともできる。本発明はまた、免疫系の一部に限定された応答を考える。例えば、本発明のワクチン組成物は、増強されたγインターフェロン応答を特異的に誘導することができる。
【0032】
本明細書において、用語“抗原”または“免疫原”は、宿主動物において特定の免疫応答を誘導する物質を意味する。抗原は、全生物体(死滅した生物体、弱毒化した生物体、または生きた生物体);生物体のサブユニットまたは部分;免疫原性を有するインサートを含む組換えベクター;宿主動物への提示によって免疫応答を誘導することができるDNA片またはフラグメント;タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、エピトープ、ハプテン、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。あるいは、免疫原または抗原は毒素または抗毒素を含むことができる。
【0033】
本明細書において、用語“多価”は、同じ種(すなわち、FMDウイルス血清型の異なる分離株)または異なる種(すなわち、パスツレラ・ヘモリチカ(Pasteurella hemolytica)およびパスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)の両方からの分離株)由来の2以上の抗原を含むワクチンあるいは、異なる属由来の抗原の組み合わせを含むワクチン(例えば、パスツレラ・ムルトシダ、サルモネラ(Salmonella)、エッシェリヒア・コリー(Escherichia coli)、ヘモフィルス・ソムナス(Haemophilus somnus)およびクロストリディウム(Clostridium)由来の抗原を含むワクチン)を意味する。
【0034】
本明細書において、用語“アジュバント”は、ワクチンの免疫原性を増強するためにワクチンに加える物質を意味する。アジュバントが機能する機構は、完全には知られていない。抗原をゆっくり放出することによって免疫応答を増強すると考えられているアジュバントもあるし、それ自身が強力な免疫原性を有し、相乗的に機能すると考えられている他のアジュバントもある。公知のワクチンアジュバントは、限定するものではないが、油水乳剤(例えば、完全フロイントアジュバントおよび不完全フロイントアジュバント)、コリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)、カルメット・ゲラン桿菌(Bacillus Calmette Guerin)、水酸化アルミニウム、グルカン、デキストラン硫酸、酸化鉄、アルギン酸ナトリウム、バクトアジュバント(Bacto-Adjubant)、ポリアミノ酸およびアミノ酸コポリマーなどのいくつかの合成ポリマー、サポニン、"REGRESSIN"(Vetrepharm社、ジョージア州アセンズ)、"AVRIDINE"(N,N-ジオクタデシル-N',N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)-プロパンジアミン)、パラフィン油、ムラミルジペプチドなどを含む。
【0035】
本明細書において、用語“乳剤”は、第1物質が第2物質中に分散されており、その中で第1物質が不溶性である、少なくとも2つの物質の組み合わせのことを言う。本発明の乳剤の1例は、水相に分散された油相である。
【0036】
本明細書において、用語“不完全乳剤”は、“完全乳剤”を製造するために少なくとも1つのさらなる成分を加えなければならない組成物のことを言う。本明細書において、用語“完全乳剤”は、本発明の“すぐに使用できる(ready to use)”免疫組成物の等価物と考えることができる。完全乳剤の例は、本発明の方法に従って動物にすぐに投与できる本発明による免疫組成物である。
【0037】
本明細書において、用語“薬学的に許容される担体”および“薬学的に許容されるビヒクル”は交換可能であり、副作用なしに宿主に注射できるワクチン抗原を含むための流体ビヒクルを指す。当該技術分野で公知の適切な薬学的に許容される担体は、限定するものではないが、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースまたは緩衝液を含む。担体は、限定するものではないが、希釈剤、安定剤(すなわち、糖およびアミノ酸)、防腐薬、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝化剤、増粘剤、着色剤などを含む助剤を含むことができる。
【0038】
本明細書において、用語“ワクチン組成物”は、宿主において免疫応答を誘導するのに有用な薬学的に許容されるビヒクル中に少なくとも1つの抗原または免疫原を含む。ワクチン組成物は、レシピエント動物の年齢、性別、体重、種および状態ならびに投与経路などの要素を考慮に入れて、医学または獣医学分野の当業者に公知の用量および技術によって投与することができる。投与経路は、経皮経路、粘膜投与経路(例えば経口、経鼻、経肛門、膣内)または非経口経路(皮内、筋肉内、皮下、静脈内または腹腔内)であることができる。ワクチン組成物は、単独で投与することもできるし、あるいは他の治療薬または療法とともに同時または順次に投与することもできる。投与形態は、懸濁液、シロップもしくはエリキシル剤および非経口、皮下、皮内、筋肉内もしくは静注(例えば注射投与)のための製剤、例えば滅菌懸濁液もしくは乳剤を含むことができる。ワクチン組成物は、スプレーで投与することもできるし、食物および/または水に混合することもできるし、適切な担体、希釈剤または賦形剤、例えば滅菌水、生理食塩水、グルコースなどと混合して送達することもできる。組成物は、投与経路および所望の製剤に応じて、例えば湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝化剤、アジュバント、ゲル化剤もしくは増粘剤、防腐薬、風味剤、着色剤などの補助物質を含むことができる。過度の実験を要することなく、標準的な製薬学のテキスト、例えば“Remington's Pharmaceutical Sciences,”1990 を参照して適切な製剤を製造することができる。
【0039】
用語“精製された”は、本明細書においては、絶対的な純度を要求するものではなく、むしろ相対的な用語を意図したものである。従って、例えば、精製免疫原製剤、例えばタンパク質または不活化ウイルスは、免疫原がその自然環境にある場合よりも免疫原がより富化されているものである。本明細書において、製剤の全免疫原含有量の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%に免疫原が相当する場合に、免疫原製剤はおおまかに“精製された”と呼ばれる。最も低い精製度に相当する“粗製剤”は、免疫原性成分を60%未満、20%未満、未満10%、未満5%または1%未満含むことができる。
【0040】
本明細書において、用語“高度に精製された”は、用語“中程度に精製された”と比較して“より高い純度”を示唆するものとする。この“より高い純度”は、限定するものではないが、“中程度に精製された”免疫学的製剤に対して、“高度に精製された”免疫学的製剤において不純物の百分率が低いことを含むことができる。本明細書で述べたように、“高度に精製された”免疫学的製剤は、所望の免疫応答の低下、望ましくない免疫応答の増強(例えば過敏症反応)または製剤の安定性の低下を引き起こす恐れのある不純物の百分率が検出できないまでに低い。同様に、“中程度に精製された”免疫学的製剤は、“最小限に精製された”免疫学的製剤に対して、比較的低下した不純物の百分率を含み、これは、同様に、“粗製剤”で示される製剤に対して、低下した不純物の百分率を有する。
【0041】
免疫学的製剤における不純物は、限定するものではないが、本発明による免疫組成物に対して悪影響を及ぼす物質を含むことができる。悪影響を及ぼす不純物のいくつかの例の1つは、動物において免疫応答を誘導する本発明の免疫組成物の能力を低下させる不純物である。
【0042】
種々のレベルの純度(例えば“高度に精製された”、“中程度に精製された”など)は、種々の方法を用いて達成することができる。例えば、クロマトグラフィーおよびサイズ排除ゲル濾過の組み合わせによって、“高度に精製された”または"中程度に精製された"免疫学的製剤を得ることができる。免疫原の供給源/型における差異および精製方法におけるわずかな変化は、免疫原の最終純度に有意に影響することができる。一般に、本明細書において、最低から最高までの不純物の百分率を有する免疫学的製剤は、それぞれ、1)“高度に精製された、2)“中程度に精製された”、3)“最小限に精製された”、4)“粗製剤”と記述することができる。“高度に精製された”製剤は、不純物のすべてのタイプにわたって最低レベルを有する。“中程度に精製された”製剤は、大部分のタイプの不純物を比較的低レベルで有するが、類似する“高度に精製された”製剤に関して観察される場合よりもより高い存在量で1つのタイプの不純物を有することができる。同様に、“最小限に精製された製剤”は、いくつかのタイプの不純物を比較的低レベルで有するが、類似する“中程度に精製された”製剤よりも、より高い存在量で2以上のタイプの不純物を有することができる。予想されるように、本明細書に記載されている他の種類の製剤と比較して、“粗製剤”は、すべての不純物タイプにわたって最も高いレベルの不純物を有する。
【0043】
本発明は、
(1)宿主において免疫応答を誘導することができるワクチン抗原または免疫原を含む水溶液;
(2)イオン性界面活性剤を含む水溶液;
(3)親水性非イオン性界面活性剤;
(4)鉱油;
を含む新規水中油型(O/W)乳剤を提供する。
【0044】
一実施形態において、新規水中油型(O/W)乳剤は、
(1)宿主において免疫応答を誘導することができるワクチン抗原または免疫原を含む水溶液;
(2)イオン性界面活性剤、例えばサポニンを含む水溶液;
(3)13を超え40未満の親水性親油性バランス(HLB)値を有する(HLB>13であり、特にHLB≧13.5であり、好ましくはHLB≧14である)親水性非イオン性界面活性剤;
(4)鉱油;
(5)親油性非イオン性界面活性剤;および
(6)低HLB値(HLB値9〜13)を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む。
【0045】
他の実施形態において、本発明は、
(1)宿主における免疫応答を誘導することができるワクチン抗原または免疫原を含む水溶液;
(2)イオン性界面活性剤、例えばサポニンを含む水溶液
(3)任意選択の水酸化アルミニウム含有水溶液
(4)13を超え40未満の親水性親油性バランス(HLB)値を有する(HLB>13であり、特にHLB≧13.5であり、好ましくはHLB≧14である)親水性非イオン性界面活性剤;
(5)鉱油;
(6)親油性非イオン性界面活性剤;および
(7)低HLB値(HLB値9〜13)を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む新規水中油型(O/W)乳剤を提供する。
【0046】
本発明に従って製造される乳剤の一部は、界面活性剤の4つの異なる群のメンバーから選択される少なくとも4つの(4)界面活性剤の組み合わせに基づき、各群に属する1以上の界面活性剤を使用することができる。これらの群の3つ(3)は、非イオン性界面活性剤を含み、これらの群の1つ(1)は、イオン性界面活性剤、例えばサポニンを含む。
【0047】
いくつかの実施形態の1つにおいて、乳剤(本明細書においては、特記しない限り、これはすべての成分を含む最終乳剤を意味する)中のイオン性界面活性剤(2)の濃度は、約0.01%〜約10%である。
【0048】
いくつかの実施形態の1つにおいて、乳剤(本明細書においては、これは、特記しない限りすべての成分を含む最終乳剤を意味する)中の親水性非イオン性界面活性剤(7)の濃度は、乳剤の質量/容量(w/v)百分率で表して、1%〜8%であり、特に1.5%〜6%であり、好ましくは2%〜5%であり、より好ましくは2.5%〜4%である。
【0049】
この群の界面活性剤は、低HLB値(HLB値9〜13)を有する親水性非イオン性界面活性剤を含む。この群は、限定するものではないが、エトキシル化脂肪酸ソルビタンモノエステル(特にエトキシル基5個)(例えばエトキシル化ソルビタンモノオレアート、例えばツイーン81(登録商標)、エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステル、エトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステル(特にエトキシル基20個)(例えばエトキシル化ソルビタントリオレアート、例えばツイーン85(登録商標))、エトキシル化ソルビタントリステアラート、例えばツイーン65(登録商標)、エトキシル化脂肪アルコール(特にエトキシル基5〜10個)(例えばBRIJ 76(登録商標)、BRIJ 56(登録商標)、BRIJ 96(登録商標))、エトキシル化脂肪酸(特に5〜10エトキシル基)(例えばSimulsol 2599(登録商標)、MYRJ 45(登録商標))、エトキシル化ひまし油(特にエトキシル基25〜35個)(例えばARLATONE 650(登録商標)、ARLATONE G(登録商標))、およびそれらの組み合わせを含む。
【0050】
エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステルおよびエトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステルは、両方の種の組み合わせと同様に好ましい。脂肪酸は、好ましくは、オレアート、パルミタート、ステアラート、イソステアラート、ラウラートおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましいエトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステルは、エトキシル化ソルビタントリオレアート、例えばツイーン85(登録商標))またはエトキシル化ソルビタントリステアラート、例えばツイーン65(登録商標)を含む。
【0051】
いくつかの実施形態の1つにおいて、親水性非イオン性界面活性剤(4)の濃度は、一般に、乳剤の質量/容量(w/v)百分率で表して、0.1%〜1.5%であり、特に0.2%〜1.4%であり、好ましくは0.3%〜1.3%であり、より好ましくは0.4%〜1.2%である。
【0052】
界面活性剤のこの第2群は、高い親水性親油性バランス(HLB)値(HLB>13であり、特にHLB≧13.5であり、好ましくはHLB≧14である)を有する親水性非イオン性界面活性剤を含む。この群は、エトキシル化ソルビタン脂肪酸モノエステル(特にエトキシル基20個)(例えばエトキシル化ソルビタンモノラウラート、例えばツイーン20(登録商標)、エトキシル化ソルビタンモノパルミタート、例えばツイーン40(登録商標)、エトキシル化ソルビタンモノステアラート(例えばツイーン60(登録商標)、エトキシル化ソルビタンモノオレアート、例えばツイーン80(登録商標)、エトキシル化脂肪アルコール(特にエトキシル基15〜30個)(例えばBRIJ 78(登録商標)、BRIJ 98(登録商標)、BRIJ 721(登録商標))、エトキシル化脂肪酸(特にエトキシル基15〜30個)(例えばMYRJ 49(登録商標)、MYRJ 51(登録商標)、MYRJ 52(登録商標)、MYRJ 53(登録商標))、非イオン性ブロックコポリマー(例えばポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマー(POE-POP)、例えばLUTROL F127(登録商標)、LUTROL F68(登録商標))およびそれらの組み合わせを含む。
【0053】
非イオン性ブロックコポリマーに関しては、百分率はより低くすることができ、特に0.1%〜0.5%であり、より具体的には0.2%〜0.4%(乳剤の質量/容量(w/v)であることができる。
【0054】
好ましい界面活性剤(4)は、エトキシル化ソルビタン脂肪酸モノエステル、例えば前述のものを含む。
【0055】
いくつかの実施形態の1つにおいて、親油性非イオン性界面活性剤(6)の濃度は、乳剤の質量/容量(w/v)百分率で表して、0.1%〜2.5%であり、特に0.2%〜2%であり、好ましくは0.2%〜1.5%であり、より好ましくは0.2%〜1.2%である。
【0056】
この群の界面活性剤は、ソルビタン脂肪酸エステル(例えばソルビタンモノラウラート、例えばスパン20(登録商標)、ソルビタンモノパルミタート、例えばスパン40(登録商標)、ソルビタンモノステアラート、例えばスパン60(登録商標)、ソルビタントリステアラート、例えばスパン65(登録商標)、ソルビタンモノオレアート、例えばスパン80(登録商標)、ソルビタントリオレアート、例えばスパン85(登録商標)、ソルビタンモノイソステアラート、例えばARLACEL 987(登録商標)、ソルビタンイソステアラート、例えばCRILL 6(登録商標))、マンニド脂肪酸エステル(例えばモンタニド80(登録商標)、マンニドモノオレアート(例えばARLACEL A(登録商標))、マンニドジオレアート、マンニドトリオレアート、マンニドテトラオレアート)、エトキシル化マンニド脂肪酸エステル(2、3または4エトキシル基)(例えばモンタニド888(登録商標)、モンタニド103(登録商標)、エトキシル化マンニドモノオレアート、エトキシル化マンニドジオレアート、エトキシル化マンニドトリオレアート、エトキシル化マンニドテトラオレアート)およびそれらの組み合わせを含む。
【0057】
脂肪酸は、好ましくは、オレアート、パルミタート、ステアラート、イソステアラート、ラウラートおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0058】
好ましい界面活性剤(6)はソルビタン脂肪酸エステルを含み、特に前述のものおよびそれらの組み合わせを含む。
【0059】
本発明の界面活性剤は、動物起源または植物起源由来の脂肪酸を有することができる。1つの起源から他の起源への変更(例えば動物ツイーン80(登録商標)から植物ツイーン80(登録商標)への)は、単に、乳剤の製剤における微調整によって行うことができる。
【0060】
本発明による乳剤は、乳剤の質量/容量で、1.2%〜10%の、特に2%〜8%の、好ましくは3%〜7%の、より好ましくは4%〜6%の界面活性剤の合計濃度を有することができる。
【0061】
一般に、本発明による乳剤は、≧33℃、特に33℃〜65℃、より具体的には36℃〜60℃、好ましくは37℃〜55℃、より好ましくは38℃〜50℃である転相温度(PIT)を有することができる。
【0062】
PITは、油中水型乳剤が水中油型乳剤に変化するか、あるいは脱相する(乳剤が破壊され、2層が分離する)温度である。PIT値は、種々の手段、例えば視覚的外観(例えば実施例2参照)または伝導率によって測定することができる。乳剤のPITより下の温度、例えば約25℃で水浴中に乳剤を入れる。温度を徐々に上げる。対照乳剤と比較して、乳剤の視覚的外観の変化、特に流動性、粘度、2相の分離、表面への油相の移動による表面の外観の変化を観察する。視覚的外観のこの変化が観察された温度が乳剤のPIT値である。あるいは、PITは、乳剤の表面付近にプローブを設置することによって測定するとき、伝導率値が約5〜8ミリジーメンス/センチメートル(mS/cm)(水中油型乳剤)から約0mS/cmの値(油中水型乳剤)に迅速に推移することによって測定される。移行が観察された温度が乳剤のPIT値である。当業者は、過度の実験を要することなく、本発明による乳剤、特に上記で定義された範囲内のPIT値を有する乳剤を製造するために、それぞれの濃度を含めて界面活性剤および油の組み合わせを決定できるであろう。
【0063】
一般に、本発明による乳剤は、乳剤の容量対容量で、3%〜55%の油、特に5%〜50%の油、好ましくは10%〜40%の油、より好ましくは、20%〜40%の油を含むことができる。定義により、本明細書における値の範囲は、特記しない限り、常に範囲の境界を含む。
【0064】
使用する油は、限定するものではないが、パラフィン油、例えばイソパラフィン油および/またはナフテン油、スクアラン、プリスタン、ポリイソブテン油、水添ポリイソブテン油、ポリデセン油、ポリイソプレン油、ポリイソプロペン油などを含む鉱油であることができる。本発明に有用な有利な鉱油の1つは、15を超える炭素原子数、好ましくは15〜32の炭素原子数を有し、芳香族化合物を含まない直鎖または分枝鎖の炭素鎖を含む油を含むことができる。このような油は、例えば、"MARCOL 52(登録商標)"または“MARCOL 82(登録商標)”(Esso社製、フランス)または"DRAKEOL 6VR(登録商標)"または"DRAKEOL 5(登録商標)""DRAKEOL 7(登録商標)"(Penreco社製、USA)、“CLEAROL(登録商標)“(Sonneborn社製、USA)、“パラフィン油Codex AAB2(登録商標)”(Aiglon社製、フランス)、BLANDOL(Sonneborn社製、米国)、ONDINA 915(Shell社製、イギリス)の名称で市販されているものであることができる。
【0065】
また、油は、ここで説明する油の中から選択された少なくとも2つの油を任意の割合で含む油の混合物であることができる。また、油の混合物は、前述の油の中から選択された少なくとも1つの油および少なくとも1つの植物油を含むことができ、この植物油は、油相の約0.1%〜約33%v/v、好ましくは約10%〜約25%v/vに相当する。これらの植物油は、好ましくは、保存温度(約+4℃)で液体であるか、あるいは、少なくともこの温度で液体である乳剤を生じるのを可能にする生体内分解性であるオレイン酸に富む不飽和油である。例えば、この植物油は、ラッカセイ油、ナッツ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ダイズ油、オナガー油などであることができる。
【0066】
いくつかの実施形態の1つにおいて、親水性界面活性剤(4)および(7)は、好ましくは、同じ分子の親水性部分を有する界面活性剤を含む。例えば、親水性界面活性剤(4)および(7)に関して、エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルを使用する。例えば、低HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤としてツイーン85(登録商標)が選択される場合、高HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤は、好都合には、エトキシル化ソルビタン、例えばツイーン80(登録商標)で構成される親水性部分を有する。
【0067】
一般に、本発明は、限定するものではないが、滅菌水、生理食塩水、グルコース、緩衝液などを含む、適切な獣医学的または薬学的に許容されるビヒクル、賦形剤または希釈剤を含む水溶液を使用することを考える。また、ビヒクル、賦形剤または希釈剤は、ポリオール、糖質またはpH緩衝化剤を含むことができる。また、ビヒクル、賦形剤または希釈剤は、例えばアミノ酸、ペプチド、抗酸化剤、殺菌剤、および静菌性化合物を含むことができる。油および界面活性剤に、本発明による乳剤の容量が100%になるような量で水溶液を加える。
【0068】
乳剤の親水性親油性バランス(HLB)によって、界面活性剤の親水力または親油力を推定することが可能である。両親媒性分子のHLBは、一般に、次のように算出される:
HLB=(20×親水性部分の質量)/(両親媒性分子の質量)
【0069】
HLBは、0(大部分の親油性分子に関して)〜20(大部分の親水性分子に関して)の範囲の値をとることができる。界面活性剤の化学組成(特に、例えばエトキシル基またはアルケンオキシドの添加)に従ってこの推定値は変化することができ、HLB値の変域は上昇しうる(例えばLUTROL F68(登録商標)のHLBは29である)。界面活性剤の混合物に関しては、混合物のHLBは、その質量比によって重みづけした各界面活性剤のHLBの加算値である。
HLB=(界面活性剤XのHLB×界面活性剤Xの質量)+(界面活性剤YのHLB×界面活性剤Yの質量)/(界面活性剤Xの質量+界面活性剤Yの質量)
【0070】
本発明に従って製造した乳剤の一実施形態において、乳剤の最終HLBは、約9〜約12であり、好ましくは約9.5〜約11.5であり、より好ましくは約10〜約11.5である。
【0071】
本発明は、パラフィン油(特に、乳剤の容量対容量(v/v)で表して、約10%〜約40%の濃度、好ましくは約20%〜約40%の濃度);ソルビタン脂肪酸モノエステル(親油性非イオン性界面活性剤として)、エトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステル(低HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤として);およびエトキシル化脂肪酸ソルビタンモノエステル(高HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤として)を含む乳剤を考える。特に、ソルビタン脂肪酸モノエステルはソルビタンモノオレアート(特に、乳剤の質量体容量(w/v)で表して0.2%〜1.5%の濃度、好ましくは0.2%〜1.2%の濃度)であり、エトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステルはエトキシル化ソルビタントリオレアート(特に、2%〜5%w/vの濃度、好ましくは2.5%〜4%w/vの濃度)であり、エトキシル化脂肪酸ソルビタンモノエステルはエトキシル化ソルビタンモノオレアート(特に、0.3%〜1.3%w/vの濃度、好ましくは0.4%〜1.2%w/vの濃度)である。例えば、この乳剤は、乳剤の容量対容量で約29.3%のパラフィン油、乳剤の質量対容量で0.6%のソルビタンモノオレアート、乳剤の質量対容量で3.4%のエトキシル化ソルビタントリオレアートおよび、乳剤の質量対容量で0.75%のエトキシル化ソルビタンモノオレアートを含む。
【0072】
本発明による第2の実施形態において、乳剤は、パラフィン油(特に、10%〜40%v/vの濃度、好ましくは20%〜40%v/vの濃度)、ソルビタン脂肪酸モノエステル(親油性非イオン性界面活性剤として)、エトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステル(低HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤として)および非イオン性ブロックコポリマー(高HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤として)を含む。特に、ソルビタン脂肪酸モノエステルはソルビタンモノオレアート(特に、0.2%〜1.5%w/vの濃度、好ましくは0.2%〜1.2%w/vの濃度)であり、エトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステルはエトキシル化ソルビタントリオレアート(特に、2%〜5%w/vの濃度、好ましくは2.5%〜4%w/vの濃度)であり、非イオン性ブロックコポリマーはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンポリマー(POE-POP)(特に、0.1%〜0.5%w/vの濃度、好ましくは0.2%〜0.4%w/vの濃度)である。例えば、この乳剤は、約29.3%v/vのパラフィン油、0.6%w/vのソルビタンモノオレアート、3.4%w/vのエトキシル化ソルビタントリオレアートおよび0.25%w/vのエトキシル化ソルビタンモノオレアートを含む。
【0073】
特定の実施形態において、本発明は、
(1)薬物または免疫原などの活性成分、好ましくは免疫原を含む水溶液;
(2)サポニンを含む水溶液
(3)鉱油;
(4)親油性非イオン性界面活性剤;および
(5)エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステル(HLB値11〜13を有することができる)を含む、低HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む注射用水中油型(O/W)乳剤を考える。
【0074】
他の特定の実施形態において、本発明は、
(1)薬物または免疫原などの活性成分、好ましくは免疫原を含む水溶液;
(2)サポニンを含む水溶液
(3)水酸化アルミニウム含有水溶液
(4)鉱油;
(5)親油性非イオン性界面活性剤;および
(6)エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステル(HLB値11〜13を有することができる)を含む、低HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む注射用水中油型(O/W)乳剤を考える。
【0075】
この実施形態による乳剤は、最大20個のエトキシ基を含むことができるエトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステルを含む。脂肪酸は動物起源または植物起源であることができ、オレアート、パルミタート、ステアラート、イソステアラート、ラウラートおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。一実施形態において、エトキシル化脂肪酸は、好ましくはオレアートである。他の成分および、PITなどの乳剤の一般的特性は、前述のものと同じ特徴を有することができる。
【0076】
好ましくは、界面活性剤(6)は、エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステル、例えばエトキシル化ソルビタンジオレアート、エトキシル化ソルビタンジステアラートまたはエトキシル化ソルビタンジイソステアラート、エトキシル化ソルビタンジパルミタート、エトキシル化ソルビタンジラウラートおよびそれらの組み合わせを含む。
【0077】
場合により、限定するものではないが、アラム;CpGオリゴヌクレオチド(ODN)、特にODN 2006、2007、2059または2135(Pontarollo R.A. et al., Vet. Immunol. Immunopath, 2002, 84: 43-59; Wernette C.M. et al., Vet. Immunol. Immunopath, 2002, 84: 223-236; Mutwiri G. et al., Vet. Immunol. Immunopath, 2003, 91: 89-103); ポリA-ポリU (“Vaccine Design The Subunit and Adjuvant Approach”, edited by Michael F. Powell and Mark J. Newman, Pharmaceutical Biotechnology, 6: 03);ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA) (“Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach”, edited by Michael F. Powell and Mark J. Newman, Pharmaceutical Biotechnology, volume 6: 157)、N,N-ジオクタデシル-N’,N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)プロパンジアミン(例えばAVRIDINE(登録商標))(同書、p.148)、カルボマー、キトサン(例えば米国特許出願第5,980.912号を参照のこと)を含む他の化合物を乳剤にコアジュバントとして加えることができる。
【0078】
また、本発明は、少なくとも1つの抗原または免疫原組成物および本発明に従って製造したアジュバントまたは乳剤を含むワクチン組成物または免疫組成物の製造方法を提供する。抗原または免疫原組成物は、乳剤の調製中に組み込むこともでき、あるいは、別の実施形態において、好ましくはさらにサポニンを含み、場合によりさらに水酸化アルミニウムを含む抗原または免疫原組成物は、後に、例えば使用直前に乳剤に加えることもできる。
【0079】
最初に製造される乳剤中に、使用する水溶液の全量が存在することができる。あるいは、乳剤の製造のためにこの水溶液の一部のみを用い、免疫原の組み込み後に水溶液の残りの量を加えることもできる。免疫原または抗原は、乾燥形またはなんらかの他の適切な固形で存在していることができ、次いで乳剤と混合され、あるいは、抗原は、溶液中、特に水溶液中に存在することができ、この溶液は乳剤と混合される。
【0080】
界面活性剤は、好ましくは、その溶解性に応じて油または水溶液のいずれかに加えられる。例えば、本発明によれば、親油性非イオン性界面活性剤は油に加えられ、高HLB値を有する親水性非イオン性界面活性剤は水溶液に加えられる。
【0081】
乳化は、当業者に公知の慣用法に従って行うことができる。例えば、本発明の一実施形態において、乳剤のPITより低い温度で、特に室温で、例えば約25℃で乳剤を製造することができる。水相と油相は、例えば、高いせん断力を生じることができるローター・ステーターを備えたタービンを用いる機械撹拌によって混合される。好ましくは、撹拌は、低い回転速度で開始され、一般に、油中に水溶液を徐々に加えるとともにゆっくりと速められる。好ましくは、水溶液は油に徐々に加えらえる。油/水溶液の比は、油中水型(W/O)乳剤を得るように適合されることができ、例えば油の約40%〜約55%の濃度(v/v)であることができる。撹拌を停止させると、乳剤は徐々にO/W乳剤に変化する(転相)。転相後、必要に応じて、水溶液を加えて乳剤を希釈して、油を所望の濃度にして最終乳剤にする。この乳剤は約5℃で保存できる。
【0082】
他の実施形態において、乳剤のPITよりも高い温度で乳剤を製造できる。第1段階において、乳剤のPITよりも高い温度で水相と油相を混合する。好ましくは、水溶液は油に徐々に加えられる。油/水溶液の比は、油中水型(W/O)乳剤を得るように適合されることができ、例えば油の約40%〜約55%の濃度(v/v)であることができる。乳化は、低いせん断力で、またはせん断力を加えないで撹拌することによって行うことができ、例えばスタティックミキサーまたはマリンヘリックス(marine helix)を用いて、あるいは大変低い回転速度でタービンを用いて行うことができる。得られる乳剤は油中水型(W/O)乳剤である。第2段階において、乳剤を徐々にPITより低く冷却する。この段階の間に、乳剤はO/W乳剤に変化する(転相)。転相後、必要に応じて、乳剤に水溶液を加えることによって希釈して油を所望の濃度にして最終乳剤にする。この乳剤は約5℃で保存することができる。
【0083】
乳剤における液滴のサイズは約100nm〜約500nmであることができる。この乳剤は、例えば、ワクチン組成物または医薬組成物を調剤するためのアジュバントとして使用できる。また、この乳剤は、乾燥された製品、特に例えば、弱毒微生物または生きた組換えベクターを含む乾燥品を溶解するための溶媒として使用できる。
【0084】
特定の実施形態において、水溶液の一部のみを用いてプレ乳剤が製造される。このプレ乳剤は、活性成分、例えば薬物または免疫原、好ましくは免疫原の懸濁液を加えることによって希釈して最終組成物を得ることができる。あるいは、水溶液を用いてプレ乳剤を希釈して、乾燥された製品、例えば乾燥品を溶解するために使用することができる。
【0085】
本発明に使用するのに適した免疫原または抗原は、不活化病原体、弱毒化病原体、免疫原性サブユニット(例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、エピトープ、ハプテン)または、免疫原性インサートを有するプラスミドを含む組換え発現ベクターからなる群から選択されることができる。本発明の一実施形態において、免疫原は不活化または死滅微生物である。本発明の他の実施形態において、ワクチン組成物は、限定するものではないが、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella Typhimurium)、サルモネラ・エンテリティデス(Salmonella enteritidis)、伝染性気管支炎ウイルス(IBV)(Infectious Bronchochitis virus)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)(Newcastle Disease virus)、産卵低下症候群ウイルス(EDS)(egg drop syndrome virus)または伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)(Infectious Bursal Disease virus)、トリインフルエンザウイルスなどおよびそれらの組み合わせを含むトリ病原体の群から選択される免疫原を含む。
【0086】
あるいは、ワクチン組成物は、例えば、限定するものではないが、ネコヘルペスウイルス(FHV)、ネコカリシウイルス(FCV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、狂犬病ウイルスなどおよびそれらの組み合わせなどのネコ病原体から選択される免疫原を含む。
【0087】
さらに他の実施形態において、本発明のワクチン組成物は、限定するものではないが、狂犬病ウイルス、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌパルボウイルス(CPV)、イヌコロナウイルス、レプトスピラ・カニコーラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ・イクテロヘモラジア(Leptospira icterohaemorragiae)、レプトスピラ・グリポチフォサ(Leptospira grippotyphosa)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)などおよびそれらの組み合わせを含むイヌ病原体から選択された免疫原を含む。
【0088】
本発明のさらに他の実施形態において、組成物は、ウマ病原体、例えばウマヘルペスウイルス(1型または4型)、ウマインフルエンザウイルス、強縮、ウエストナイルウイルスなどまたはそれらの組み合わせから選択される免疫原を含む。
【0089】
本発明のさらに他の実施形態において、組成物は、ウシ病原体、例えば口蹄疫ウイルス(FMDV)、狂犬病ウイルス、ウシロタウイルス、ウシパラインフルエンザ3型ウイルス(bPIV-3)、ウシコロナウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)、ウシRSウイルス(BRSV)、ウシ伝染性鼻気管炎ウイルス(IBR)、エッシェリヒア・コリー、パスツレラ・ムルトシダ、パスツレラ・ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)などおよびそれらの組み合わせから選択される免疫原を含む。
【0090】
本発明のさらに他の実施形態において、組成物は、ブタ病原体、例えば、限定するものではないが、ブタインフルエンザウイルス(SIV)、ブタサーコウイルス2型(PCV-2)、ブタ繁殖呼吸障害症候群ウイルス(PRRS)、仮性狂犬病ウイルス(PRV)、ブタパルボウイルス(PPV)、FMDV、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyoneumoniae)、エリジペロスリックス・ルジオパシエ(Erysipelothrix rhusiopathiae)、パスツレラ・ムルトシダ、ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)、エッシェリヒア・コリーなどおよびそれらの組み合わせから選択される免疫原を含む。
【0091】
本発明の他の実施形態は、薬学的に許容されるビヒクル中に少なくとも1つの免疫原および乳剤を含むワクチン組成物を提供する。ウイルス、細菌、真菌などを含む免疫原は、適切な培地または宿主細胞株および当業者に公知の慣用法を用いるin vitro培養方法によって製造できる。例えば、PRRSは適切な細胞株、例えばMA-104細胞株で培養できる(特に、米国特許シリアル番号第5,587,164号;第5,866,401号;第5,840,563号;第6,251,404号を参照のこと)。同様にして、PCV-2はPK-15細胞株を用いて培養でき(米国特許出願番号第6,391,314号を参照のこと);SIVは卵で培養でき(米国特許出願番号第6.048.537号);マイコプラズマ・ハイオニューモニエは適切な培地中で培養できる(米国特許シリアル番号第5,968,525号;米国特許第5.338.543号; Ross R. F. et al., Am. J. Vet. Res., 1984, 45: 1899-1905)。
【0092】
不活化した免疫組成物またはワクチン組成物を得るために、病原体は、好ましくは採取後に不活化され、場合により、例えば、ホルマリンもしくはホルムアルデヒド、β-プロピオラクトン、エチレンイミン、バイナリーエチレンイミン(BEI)用いる化学的処理および/または物理的処理(例えば熱処理または超音波処理)によって清浄化する。不活化の方法は当業者には公知である。例えば、FMDウイルスは、エチレンイミン(Cunliffe, HR, Applied Microbiology, 1973, p. 747-750)または高圧 (Ishimaru et al., Vaccine 22 (2004) 2334-2339)によって不活化でき、PRRSウイルスは、β-プロピオラクトン処理(Plana-Duran et al., Vet. Microbiol., 1997, 55: 361-370)またはBEI処理(米国特許出願番号第5,587,164号)によって不活化でき;PCV-2ウイルスの不活化は、エチレンイミン処理またはβ-プロピオラクトン処理(米国特許出願番号第6,391,314号)を用いて達成でき、ブタインフルエンザウイルスは、トリトンなどの洗剤またはホルムアルデヒド処理(米国特許出願番号第6,048,537号)を用いて不活化でき;マイコプラズマ・ハイオニューモニエ細菌は、ホルムアルデヒド処理(前出のRoss R.F.)、エチレンイミンまたはBEI処理(WO91/18627参照)によって不活化することができる。
【0093】
不活化病原体は、従来の濃縮技術、特に限外濾過によって濃縮することができ、かつ/または従来の精製手段、特に、限定するものではないが、ゲル濾過を含むクロマトグラフィー技術、ショ糖勾配超遠心分離または、特にポリエチレングリコール(PEG)の存在下での選択的沈殿によって精製することができる。
【0094】
また、本発明によるワクチン組成物に有用な免疫原は、発現ベクターを含む。このようなベクターは、限定するものではないが、in vivo組換え発現ベクター、例えばポリヌクレオチドベクターもしくはプラスミド(EP-A2-1001025;Chaudhuri P, Res. Vet. Sci. 2001, 70: 255-6)、ウイルスベクター、例えば、限定するものではないが、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター例えば鶏痘(米国特許シリアル番号第5,174,993号;第5,505,941号;および第5,766,599号)もしくはキャナリーポックスベクター(米国特許出願番号第5,756,103号)または細菌ベクター(エッシェリヒア・コリーもしくはサルモネラ種)を含む。
【0095】
本発明はまた、多価免疫組成物または混合ワクチン組成物の製剤を含む。例えば、本発明により製造される混合ウシバクテリンに有用な抗原は、限定するものではないが、マイコプラズマ・ボビス(Mycoplasma bovis)、パスツレラ(Pasteurella)種、特にP.ムルトシダ(P. multosida)およびP.ヘモリチカ(P. haemolytica)、ヘモフィルス(Haemophilus)種、特にH.ソムナス(H. somnus)、クロストリディウム種、サルモネラ、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、スタフィロコッカス、モラクセラ(Moraxella)、E.コリー(E. coli)などを含む。
【0096】
本発明は、さらに、本発明による免疫組成物またはワクチン組成物を宿主に投与することを含む、宿主、例えば動物における免疫応答を誘導する方法を提供する。このように誘導される免疫応答は、特に抗体応答および/または細胞性免疫応答であり、特にγ-インターフェロン応答である。
【0097】
特に、本発明は、病原性生物による動物の感染(例えば、ウイルス、細菌、真菌または寄生原虫による感染)に対して免疫性を与え、またはそれによって引き起こされる症状を予防もしくは軽減する方法を提供する。本発明の方法は、限定するものではないが、ヒト、イヌ科の動物(例えば、イヌ)、ネコ科の動物(例えば、ネコ)、ウマ科の動物(例えば、ウマ)、ウシ亜科の動物(例えばウシ)およびブタ系の動物(例えばブタ)ならびに、限定するものではないが、ニワトリ、七面鳥、カモ、ガチョウ、ウズラ、キジ、オウム、フィンチ、タカ、カラスならびに平胸類の鳥(ダチョウ、エミュー、ヒクイドリなど)を含む鳥類を含む脊椎動物に有用である。
【0098】
本発明の特定の側面において、これらの方法は、本発明により製造されるワクチン組成物を投与することによる出産前の妊娠雌のワクチン接種からなる。これらの方法は、さらに、ワクチン接種プロトコルにより誘導される防御抗体の誘導およびワクチン接種された妊娠雌からその子孫へのこれらの防御抗体の移行を含む。このような移行抗体の移行により、その後、疾患から子孫が保護される。
【0099】
本発明により製造されるワクチン組成物の用量は、ワクチン接種される動物の種、品種、年齢、サイズ、ワクチン接種歴および健康状態に左右される。抗原濃度、さらなるワクチン成分および投与経路(すなわち、皮下、皮内、経口、筋肉内または静注)などの他の要素もまた有効量に影響を及ぼす。投与するワクチンの用量は、ワクチンの抗原濃度、投与経路ならびにワクチン接種される動物の年齢および状態に基づいて容易に決定できる。抗原の各バッチは、個別に測定することができる。あるいは、過度の実験を要することなく、種々の用量の系統的な免疫原性試験ならびにLD50試験および他のスクリーニング法を用いて本発明によるワクチン組成物の有効量を決定することができる。ここで説明するワクチン組成物に使用するためにおよそどのような用量およびどのような容量が適切であるかは、以下に示す実施例から容易に明らかになるであろう。重要な要素は、その用量が、自然感染に対して少なくとも部分的には感染防御効果をもたらすということであり、これは、自然感染に付随する死亡率および罹患率の低下によって証明される。同様に、適切な容量は、当業者によって容易に確認される。例えば、鳥類においては、投与容量は約0.1ml〜約0.5mlであることができ、好都合には、約0.3ml〜約0.5mlであることができる。ネコ、イヌおよびウマ種では、投与容量は約0.2ml〜約3.0mlであることができ、好都合には約0.3ml〜約2.0mlであることができ、さらに好都合には約0.5ml〜約1.0mlであることができる。ウシおよびブタ種では、約0.2ml〜約5.0mlであることができ、好都合には約0.3ml〜約3.0mlであることができ、さらに好都合には0.5ml〜約2.0mlであることができる。
【0100】
最初に、または最後の投与から長時間が経過しているときに免疫応答を増強させるためには、定期的な時間間隔でワクチンの反復接種を行うことが好ましい場合がある。本発明の一実施形態において、ワクチン組成物は注射剤で(すなわち、皮下、皮内または筋肉内に)投与される。組成物は、1回の投与で投与することもできるし、あるいは代替実施形態において、約2〜約6週間、好ましくは約2〜約5週間の間隔で約2〜約5回投与する反復投与で投与することもできる。しかしながら、投与回数およびワクチン接種間の時間間隔は、限定するものではないが、ワクチン接種される動物の年齢、動物の状態、免疫経路、1回当たり利用可能な抗原量を含むいくつかの因子に左右されることは、当業者には明らかであろう。初回のワクチン接種に関しては、期間は一般に1週間より長く、好ましくは約2〜約5週間である。以前にワクチン接種をしたことのある動物の場合は、妊娠前または妊娠中に約1年の間隔でブースターワクチン接種を行うことができる。
【0101】
本発明はまた、無針式注射器、例えばPIGJETR、AVIJET(登録商標)、DERMOJET(登録商標)またはBIOJECTOR(登録商標)(Bioject社、オレゴン州、米国)を用いてワクチン組成物を投与することを考える。当業者は、必要に応じて、過度の実験を要することなく、例えばワクチン接種される動物の種、その動物の年齢および体重などの要素に応じて、注射器の仕様を調節することができる。
【0102】
本発明の一実施形態において、この方法は、本発明による乳剤で調剤したワクチン組成物の単回投与を含む。例えば、一実施形態において、ワクチン組成物は不活化FMDウイルス組成物であり、代替実施形態は、不活化PCV2ウイルス組成物を含むワクチンを提供する。限定するものではないが、不活化マイコプラズマ・ハイオニューモニエ、PRRSおよびSIVを含む他の免疫組成物またはワクチンは、単回投与レジメンに使用するのに適している。
【0103】
本発明はさらに、本発明に従って製造した医薬組成物を宿主に投与することを含み、かつ、タンパク質もしくはペプチド、不活化もしくは弱毒ウイルス、抗体、アレルゲン、CpG ODN、増殖因子、サイトカインまたは抗生物質および特にCpG ODNもしくはサイトカインからなる群から選択される少なくとも1つの免疫原を含む、宿主、例えば動物の治療方法に関する。ニワトリ、ブタ、ウシまたは畜牛などの動物において、発育成績を改善するために、これらの医薬組成物を使用することができる。
【0104】
本発明はさらに、本発明に従って製造した乳剤と混合した精製免疫原などの成分を含む単一のバイアルを含むキットに関する。あるいは、キットは、サポニンおよび水酸化アルミニウムと混合した免疫原または医薬組成物などの成分を含む第1バイアルならびに本発明に従って製造した乳剤を含む第2バイアルを含むことができる。免疫原は、本明細書に記載されるように、乾燥形であることもでき、乾燥された形態であることもでき、あるいは水溶液であることもできる。
【0105】
ここで、限定するものではない以下の実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0106】
乳剤の製造方法
転相法によって乳剤を製造した。第1段階において、水相および油相を+40℃で混合した。第2段階において、O/W乳剤を得るために、乳剤を徐々に冷却して、PITより下の+5℃にした。転相後、最終乳剤(すなわちワクチン製剤)を混合し、続いて+5℃で保存した(表1に概略を示す)。
【表1】

【0107】
ソルビタンモノオレアート(スパン80(登録商標))およびソルビタントリオレアート(20 OE)(ツイーン85(登録商標))を油相に導入した。ソルビタンモノオレアート(20 OE)(ツイーン80(登録商標))はパラフィン油に混和性ではなかった。ワクチンと同じ緩衝液、例えばリン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムの0.02M等張緩衝液(pH7.8)でツイーン80(登録商標)の20%(w/v)溶液を調製した。撹拌を停止すると、乳剤は水中油型乳剤に変化した。この乳剤を少なくとも4時間、5℃の低温室に置いた。この段階では、乳剤は、油相を50%含むプレ乳剤であった。
【0108】
第2段階:免疫原(後述するような、不活化FMDV、マイコプラズマ・ハイオニューモニエ免疫原またはPCV-2免疫原)、サポニンおよび水酸化アルミニウムを含むリン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムの0.02M等張緩衝液(pH7.8)120mlで水相#2を調製した。第1段階で調製したプレ乳剤を約5℃に冷却し、同じ温度で水相#2の容量の半量を加えて希釈し、棒磁石を1分間回転させて混合した。TSAP乳剤における界面活性剤の最終濃度は4.75%(w/v)であった。
【0109】
一般に、本明細書に開示されたワクチン製剤の成分は、以下の順番で添加した:1)5℃の媒質102、2)サポニン、3)水酸化アルミニウム(Alumine hydroxide)、4)抗原および5)不完全乳剤(すなわち油相と水相#1の混合物)。本明細書で調製したTSAPワクチンは、5℃で最高36ヶ月までは安定である。
【0110】
同じ製造方法を用いて、以下の予言的実施例の記載に従って、他の乳剤を得ることができる。
【0111】
TSAP-2乳剤
TSAP-2乳剤は油相を33%含むO/W乳剤である。油相(120ml)は、MARCOL 82(登録商標)を88%v/v、スパン80(登録商標)を1.8%w/v、ツイーン85(登録商標)を10.2%w/v含む。水相#1(120ml)は、リン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムの0.02M等張緩衝液(pH7.8)を97.75%v/v、LUTROL F127(登録商標)を0.75%w/v含む。水相#2(120ml)は、リン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムの0.02M等張緩衝液(pH7.8)、サポニン、水酸化アルミニウムで構成され、場合により免疫原を含む。TSAP-2乳剤における界面活性剤の最終濃度は約4.25%w/vである。
【0112】
TSAP-3乳剤
TSAP-3乳剤は、油相を50%含むO/W乳剤である。油相(160ml)は、MARCOL 82(登録商標)を92%v/v、スパン85(登録商標)を1.8%w/v、BRIJ 96(登録商標)を6.2%w/v含む。水相#1(160ml)は、リン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムの0.02M等張緩衝液(pH7.8)を98.5%v/v、LUTROL F127(登録商標)を0.5%w/v、サポニン、水酸化アルミニウムを含み、場合により免疫原を含む。TSAP-3乳剤における界面活性剤の最終濃度は約4.25%w/vである。
【0113】
TSAP-4乳剤
TSAP-4乳剤は油相を10%含むO/W乳剤である。油相(120ml)は、MARCOL 82(登録商標)を60%v/v、スパン40(登録商標)を17.2%w/v、ARLATONE 650(登録商標)を22.8%w/v含む。水相#1(120ml)は、リン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムの0.02M等張緩衝液(pH7.8)を97.5%v/v、ツイーン20(登録商標)を2.5%w/v含む。水相#2は、リン酸二ナトリウム及びリン酸一カリウムの0.02M等張緩衝液(pH7.8)400ml、サポニン、水酸化アルミニウムで調製され、場合により免疫原を含む。プレ乳剤100mlを水相#2 400mlで希釈してTSAP-3乳剤を得た。TSAP-4乳剤における界面活性剤の最終濃度は4.25%w/vである。
【実施例2】
【0114】
乳剤の転相温度(PIT)の測定
温度約25℃の水浴中のガラスチューブにTSAP乳剤10mlを入れた。TSAP乳剤は白色の均一な乳剤であった。水浴の温度を徐々に上げた。乳剤の変化を視覚的に観察した(乳剤は、黄褐色の油相が表面に移動することによって2相に分離した)。この変化は、乳剤の分解の特徴である。この変化が観察される温度が乳剤のPIT値である。TSAP乳剤に関しては、PITは約36℃〜46℃である。図1〜5に、本発明に従って製造したワクチン製剤のPIT測定グラフを示す(1年間の安定性試験)。図6に、本発明に従って製造し、36ヶ月間(3年間の安定性試験)保存したワクチン製剤のPIT測定グラフを示す。
【実施例3】
【0115】
試験#1:実施例1に従って製造したワクチン製剤の安定性
この表は、実施例1に記載した方法に従って製造したワクチン製剤の安定性(すなわち、水中油型乳剤としてとどまる製剤の期間(月数))を示す。製剤は、示された構成成分(製剤1〜13参照)を含み、これらの製剤のそれぞれに使用した抗原は、中程度から高度に精製されたとみなされる不活化FMDウイルス分離株を含んでいた。
【0116】
表2に示すように、水酸化アルミニウムの存在は、特に最も高い抗原濃度が用いられる場合にワクチンの安定性の増加をもたらす(製剤3、5および7の12ヶ月目における、比較的低下した安定性に対する、製剤9、11および13の向上した安定性を比較のこと)。平均して、より多く抗原を含有する製剤(すなわち製剤9、11および13)における水酸化アルミニウムの存在は、油/水安定時間を約3〜6ヶ月間(すなわち、製剤3、5および7に関して観察された油/水安定性)から約十二(12)ヶ月間(すなわち、製剤9、11に関して観察された油/水安定性)に増加させ、あるいは約二十四(24)ヶ月間(すなわち、製剤13に関して観察された油/水安定性)までも増加させた。
【表2】

【実施例4】
【0117】
試験#2:実施例1に従って製造したワクチン製剤の安定性
実施例1の記載に従い、表3に示される成分量に従ってワクチン製剤を製造した。前述のように、成分の添加の順番は、1)媒質102、2)サポニン、3)水酸化アルミニウム(alumine hydroxide)、4)精製抗原および5)不完全乳剤(不完全乳剤が油相に水相#1を加えたものと定義される実施例1を参照のこと)であった。精製抗原は、FMDV抗原であるO1 Campos、A24 CruzeiroおよびC3 Indaialであった。媒質102(M102;配合表を下記に示す)を用いて全量を調整した。
【表3】

【表4】

【0118】
表5に従ってワクチンの安定性を測定した。
【表5】

【0119】
各ワクチン製剤に関して、実施例2の記載に従って転相温度(PIT)を測定した。添加される抗原量は、ワクチン1回量あたりの“ヘマグルチニン単位”(UH)で示される。表6にPITデータの概略を示す。この表は、PITが、一般に、最大36ヶ月間まで安定を保つことを示している。図6は、試験1〜10のワクチン製剤の伝導率によるPIT測定のグラフを示す(表6に概略を示す)。サポニンアジュバントを含む製剤(すなわち試験3、4、6、7、9および10)で観察されるPITの増加は、サポニンアジュバントを含まない製剤(すなわち試験2、5および8)よりも、安定性に関して、それだけで改善に寄与する。
【表6】

【0120】
乳剤の粒径分布(表7)は、36ヶ月の期間にわたって、試験の基準に示した範囲内のままであった。
【表7】

【実施例5】
【0121】
TSAP乳剤をアジュバントとして含む口蹄疫(FMD)ウイルスワクチンの複数回投与後の血清検査結果-ウシによる試験
材料および方法:ワクチン接種を受けたことがなく、FMD抗体を有さない12〜14ヶ月齢の畜牛90匹を選択し、無作為化し、ワクチン接種される動物9匹からなる10群に割り当てた。1日目に、示されたワクチン製剤(9807〜9814)を用いて動物をワクチン接種した。実施例1に従って、表8、9、10および11に示した製剤のそれぞれを製造した。これらは、以下(サポニンの量が0、0.7、1.3または2.7mg/1回量のいずれかであり、Algel水酸化アルミニウムの量が0%または0.37%のいずれかである)に従って量が変化するサポニンおよび水酸化アルミニウムを含む実施例1で列挙したすべての成分を含む。8つの(8)群を筋肉内経路(IM群)によってワクチン接種を行い、2つの(2)群を皮下経路(SC群)でワクチン接種を行った。IM群の各動物に、56日目にそれぞれのワクチンで筋肉内経路でワクチンの再接種を行い、84日目に皮下経路でワクチンの再接種を行った。SC群の各動物に、それぞれのワクチンを用いて、皮下経路で56日目および84日目にワクチンの再接種を行った。表8にワクチン製剤の安定性の概略を示す。
【表8】

【0122】
筋肉内経路による最初のワクチン接種後に、なんら病変は認めらなかった。筋肉内経路による2回目のワクチン接種後に一部病変が認められたが、これらすべての病変は、筋肉内経路による2回目のワクチン接種の28日後に縮小した。表9に、指定期日に動物の体重測定をすることによって示されたワクチン製剤の安全性の概略を示す。
【表9】

【0123】
結果:表10に、実験中に採取した血清検査データの概略を示す。O1 Campos、A24 CruzeiroおよびC3 Indaialは、FMDウイルスの独立した3つの血清型であり、O1、A24およびC3抗体の存在は、ワクチン接種者においてワクチン製剤が免疫応答を誘導したという正の指標である。“G1”はワクチン製剤が筋肉内に投与されたことを示し、“G2”はワクチン製剤が皮下に投与されたことを示す。本発明に関して、特にFMDウイルス抗原に関して、抗体価(すなわちO1 Campos、A24 CruzeiroおよびC3 Indaialの血清レベル)と同等集団保護(Equivalent Population Protection)(EPP)価との間に強い直接相関がある。簡単に言えば、抗体価が高い場合、ワクチン接種動物は、相応じてウイルス感染から強く保護される。
【0124】
驚くべきことに、水酸化アルミニウムの存在は、免疫応答における有意差と関連し、これは投与経路に左右される。製剤9812G1および9812G2などのように、水酸化アルミニウムが存在するとき、ワクチン製剤が皮下に投与された場合、抗体価によって測定されるワクチン接種者の免疫応答に有意な増加が認められる。水酸化アルミニウムを含まない対応するワクチン製剤、すなわち9811G1および9811G2については、投与経路による有効性における同様な有意差は認められない。
【0125】
皮下投与経路の使用と同時に起こる水酸化アルミニウムの存在によるこの増強された免疫応答の理由は現時点ではわからない。しかしながら、本発明の有効な実施形態は、限定するものではないが、現在および将来の有効性(例えば抗体価)データしだいにより、ワクチン投与経路を変えることを含むことができる。
【0126】
サポニンアジュバントを含まない対照ワクチン製剤(すなわち9807および9808)と比較して、サポニンアジュバントを含むワクチン製剤は、21日目におけるサポニンアジュバントを含む製剤に関するより高い平均抗体価によって示されるように、試験動物において、3つすべてのFMDウイルス抗原に対するより迅速な免疫応答を誘導する。総合すれば、本発明は、改善された安定性を提供し、サポニンアジュバントを含まない製剤よりも、より迅速な免疫応答を可能にすることを根拠が示している。
【表10】

【実施例6】
【0127】
TSAP乳剤をアジュバントとして含む口蹄疫(FMD)ウイルスワクチンの2回投与後の血清検査結果-ブタによる試験
材料および方法:ワクチン接種を受けたことがなく、FMD抗体を有さない57匹を選択し、無作為化し、ワクチン接種される動物6匹からなる9群に割り当て、動物3匹からなる1群にはワクチン接種を行わなかった(非ワクチン接種動物)。1日目に、示されたワクチン製剤(A〜I)のいずれかでこれらの動物をワクチン接種した。表11に示した製剤のそれぞれを、実施例1に従って製造した。それぞれは、以下(サポニンの量が0、0.7、1.3または2.7mg/1回量のいずれかであり、Algel水酸化アルミニウムの量が0%または0.37%のいずれかである)に従って量が変化するサポニンおよび水酸化アルミニウムを含む実施例1で列挙したすべての成分を含む。ワクチン製剤の安全性は、直腸温およびワクチン接種に対する動物の反応の視認指標(visual indicia)を含むいくつかのパラメータの測定によって評価した。
【表11】

【0128】
結果:抗原を含んでいたすべてのワクチン製剤(表11に記載した製剤B〜I)は、試験動物において、無抗原対照(表11に記載した製剤I)によって誘導される応答よりも有意に高い抗体応答を誘導した。サポニンを含んだ製剤は、サポニンを含まなかった製剤と比較して比較的高い抗体応答を誘導した。表12に、抗体価データの概略を示すとともに、各製剤の抗原、サポニンおよび水酸化アルミニウムの量を再度記してある。特に、抗体価データは、サポニンを含まないワクチン製剤と比較して、ワクチン製剤における約0.7mg/1回量〜約2.7mg/1回量のサポニンの存在が抗体応答を増強することを示している。
【表12】

【実施例7】
【0129】
ブタにおける3つの実験FMDワクチンの50%防御量(PD50)の測定
外観。この研究の目的は、本発明による3つの実験FMDワクチン製剤の、ブタにおけるFMD毒性チャレンジに対する有効性を試験することであった。それぞれ、無抗原(A)ならびに、本発明によるアジュバントで調剤した種々の用量の不活化精製FMD O1 Manisa抗原(ワクチンB、CおよびD)で4つのワクチン(A、B、CおよびD)を調製した。ワクチンは、25mLまで充填した30mLバイアルで提供され、用量は1回当たり2mLであった。チャレンジ株は、FMD O1 Manisa, 449402 4D:911, 20-07-1994(もともとは、O1 Manisa Turkey 1/78として単離された)であり、二次ブタ腎細胞の力価は7.67 log10 TCID50/mLであった。チャレンジ株の希釈剤は、2%ウシ胎児血清(FBS)および標準的抗生物質を添加したHanks MEMであった。
【0130】
手順。FMDVには感染しておらず、FMDに対して前もってワクチン接種されていないブタを試験に用いた。10週(プラスマイナス1週)齢のブタ47匹のそれぞれを、実験手順の前に少なくとも24時間馴致した。1室あたり動物2〜3匹でブタを収容し、標準ペレット飼料を与え、水を自由摂取させた。1日目(D1)に、ブタ(性別にかかわらず)を動物3匹からなる15群および動物2匹からなる1群に割り当てた。各群を特定の室の1つに収容し、各室において、試験が完了するまで、動物を木材(wooden plank)(1.5M)によってチャレンジから個別に分離した。
【0131】
D0に、表13および14に従って、左耳の後ろの筋肉内に個々のシリンジを用いて動物にワクチン接種した。ワクチン接種の前に、均一な懸濁液を確実にするために、ワクチンバイアルを約10回ゆっくりと転倒させた。
【表13】

【表14】

【0132】
チャレンジ。D28に、O型FMDウイルスを希釈して、1mL当たり100,000 TCID50を得た(ウイルス原液を2.67log10、すなわち468倍希釈した)。同じ日に、IM経路でSTRESSNIL(1mL/20kg)およびケタミン(2mL/20kg)の投与によってすべての動物を麻酔し、10,000 TCID50のウイルスを0.1mLで皮内経路で、左後脚の外爪の踵の蹄球にチャレンジした。D0からD28まで、毎日、動物の一般的健康状態をチェックした。臨床観察および処理はすべて記録した。チャレンジ後、動物を毎日7日間(D29〜D35)観察した。観察は同じ順序で行い、最高用量でワクチン接種された動物のいる部屋から始めて、最低用量でワクチン接種された動物のいる部屋に行き、最後に対照(群A)で終わった。一般的健康状態は毎日チェックし、特に鼻および脚におけるFMDの徴候に注意を払った。ワクチン接種前(D1またはD0)、D14およびチャレンジ前のD28ならびに試験の終わりに各動物から血液を採取した。試料を熱失活(56℃で30分間)させ、すべての血清において、VN試験(MERIAL R&D、レリスタット)によって、O型FMDV Ab力価を測定した。
【0133】
D36(観察期間の最後)に、動物を安楽死させ(4〜6mL/50kg IV T61)、FMDVの徴候を綿密に検査した。ワクチンの全量投与でワクチン接種された群(群B1、C1またはD1)において観察されたすべての病変を試料にし、さらなるウイルスのタイピングを行うために-70℃で凍結した。鼻、口および/または脚(接種した脚の外爪を除く)における病変の存在をFMDの根拠とみなした。両方の対照ブタがFMDの臨床徴候を示さなければならないという基準を満たす場合に試験を有効とみなした。各ワクチンのPD50をSpearman Karber法によって算出した。
【0134】
結果.有効性対ペイロードを図9に示し、関連性のある試験データを以下の表15および16に数値で概略を示す。
【表15】

【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射用水中油型(O/W)乳剤を含むワクチン組成物であって、
(i)少なくとも1つの免疫原を含む水溶液;
(ii)親水性イオン性界面活性剤を含む水溶液;
(iii)任意選択の水酸化アルミニウム含有水溶液;
(iv)鉱油;
(v)親油性非イオン性界面活性剤;
(vi)高い親水性親油性バランス(HLB)値13〜40を有する親水性非イオン性界面活性剤;および
(vii)低い親水性親油性バランス(HLB)値9〜13を有する親水性非イオン性界面活性剤
を含む前記組成物。
【請求項2】
親水性イオン性界面活性剤がサポニンであり、サポニンの濃度が約0.35mg/用量〜約3.0mg/用量であり、水酸化アルミニウムの濃度が約0%〜約1.0%(w/v)である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
高HLBの親水性非イオン性界面活性剤が、乳剤の質量/容量(w/v)で表して0.1〜1.5%の濃度で存在し、界面活性剤の百分率が約4質量/容量%〜約8質量/容量%である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
低HLBの親水性非イオン性界面活性剤が、乳剤の質量/容量(w/v)で表して1%〜8%の濃度で存在する、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
親油性非イオン性界面活性剤が、乳剤の質量/容量(w/v)で表して0.1%〜2.5%の濃度で存在する、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
鉱油が20%〜40%(v/v)の濃度で存在し、乳剤が約33℃〜約66℃の転相温度(PIT)を有する、請求項2記載の組成物。
【請求項7】
低HLBの親水性非イオン性界面活性剤が、エトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステル、エトキシル化ソルビタン脂肪酸ジエステル、エトキシル化ソルビタン脂肪酸モノエステル、エトキシル化脂肪アルコール、エトキシル化脂肪酸エトキシル化ひまし油およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記エトキシル化脂肪酸エステルのエステルが、オレアート、パルミタート、ステアラート、イソステアラート、ラウラートおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項8】
親油性非イオン性界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、マンニド脂肪酸エステル、ジエトキシル化マンニド脂肪酸エステル、トリエトキシル化マンニド脂肪酸エステル、テトラエトキシル化マンニド脂肪酸エステルおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され、脂肪酸エステルのエステルがオレアート、パルミタート、ステアラート、イソステアラート、ラウラートおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項9】
高HLBの親水性非イオン性界面活性剤が、エトキシル化ソルビタン脂肪酸モノエステル、エトキシル化脂肪アルコール、エトキシル化脂肪酸、非イオン性ブロックコポリマーおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され、エトキシル化ソルビタンモノエステルがエトキシル化ソルビタンモノラウラート、エトキシル化ソルビタンモノパルミタート、エトキシル化ソルビタンモノステアラート、エトキシル化ソルビタンモノオレアートおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項10】
鉱油がパラフィン油、スクアラン、プリスタン、ポリイソブテン油、水添ポリイソブテン油、ポリデセン油、ポリイソプレン油、ポリイソプロペン油およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項11】
パラフィン油、親油性非イオン性界面活性剤としてソルビタン脂肪酸モノエステルを含み、低HLBの親水性非イオン性界面活性剤としてエトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステルを含み、高HLBの親水性非イオン性界面活性剤として非イオン性ブロックコポリマーを含む、請求項2記載の組成物。
【請求項12】
ソルビタン脂肪酸モノエステルがソルビタンモノオレアートであり、エトキシル化ソルビタン脂肪酸トリエステルがエトキシル化ソルビタントリオレアートであり、非イオン性ブロックコポリマーがポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンポリマー(POE-POP)である、請求項9記載の組成物。
【請求項13】
パラフィン油が10%〜40%v/vの濃度で存在し、ソルビタンモノオレアートが0.2%〜1.5%w/vの濃度で存在し、エトキシル化ソルビタントリオレアートが2%〜5%w/vの濃度で存在し、POE-POPが0.1%〜0.5%w/vの濃度で存在する、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
パラフィン油が29.3%v/vの濃度で存在し、ソルビタンモノオレアートが0.6%w/vの濃度で存在し、エトキシル化ソルビタントリオレアートが3.4%w/vの濃度で存在し、POE-POPが0.25%w/vの濃度で存在する、請求項12記載の組成物。
【請求項15】
免疫原が、不活化病原体、弱毒化病原体、サブユニット、組換え発現ベクターおよびプラスミドまたはそれらの組み合わせからなる群から選択され、不活化病原体が、ウイルス、細菌、真菌、寄生性原虫またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項16】
免疫原が、不活化口蹄疫(FMD)ウイルス、不活化ブタサーコウイルス2型(PCV-2)ウイルスまたは不活化マイコプラズマ・ハイオニューモニエ細菌である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
動物において病原体に対して免疫学的応答を誘導する方法であって、前記動物に請求項15記載のワクチン組成物を投与することを含む前記方法。
【請求項18】
免疫原が不活化病原体、弱毒化病原体、サブユニット、組換え発現ベクターおよびプラスミドまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
免疫原が不活化マイコプラズマ・ハイオニューモニエ細菌、不活化ブタサーコウイルス2型(PCV-2)ウイルスまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17記載の方法。
【請求項20】
投与が筋肉内(IM)、皮内(ID)または皮下(SC)注射であるか、あるいは投与が無針注射器で行われる、請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−504583(P2013−504583A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528894(P2012−528894)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/048256
【国際公開番号】WO2011/031850
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(304040692)メリアル リミテッド (73)
【Fターム(参考)】