説明

サポート用被服

【課題】関節等を圧迫もしくは緊締する機能を備えた被服において、着用位置のずれ等の発生を防止し、かつ、長時間着用した場合でも着用感が悪化せず、着用位置のずれや姿勢の変化等が発生した場合には着用者においてこれを速やかに認知することが可能な被服の提供。
【解決手段】伸縮性を有する素材によって形成され、着用者の皮膚表面に密着されて着用される被服であって、着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される1以上の部位に対応する領域に、該部位の皮膚表面に接触して触覚刺激を付与し得る作用領域10を備え、作用領域10の皮膚接触表面に、線幅10〜50,000nmの繊維状体からなるパターンが形成され、作用領域10以外の他領域と異なる摩擦特性が付与された被服1Aを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性を有する素材によって形成され、着用者の皮膚表面に密着されて着用されるサポート用被服に関する。より詳しくは、着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節等を圧迫又は緊締し、触覚刺激を付与して、その機能を保護、制限、補強、強化等するために用いられる被服に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾患や疲労による筋肉、靭帯、腱又は関節等(以下、単に「筋肉等」という)の痛みを治療又は予防するため、また姿勢の維持や運動をサポートするため、筋肉等を圧迫もしくは緊締する機能を備えたインナーウェアが開発されてきている。
【0003】
これらのインナーウェアは、着用時に筋肉等に対応する部位に他の部位よりも高い着圧(緊締力)がかかるように設計されている。そして、この着圧により筋肉等を圧迫もしくは緊締することで、筋肉等への荷重を分散し、負荷を軽減して筋肉等の痛みや疲労、傷害を防止する。
【0004】
例えば、特許文献1には、全体として伸縮性を有する素材によって成形され、締め付け力の強い強圧領域と締め付け力の弱い弱圧領域とを有し、強圧領域は、少なくとも着用者の背中に相当する第1領域を含むことを特徴とする着用者の上半身の動作を支援するシャツが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、伸縮性を有する素材を用い縫い目のない一体成型形状に上半身ウェアを製作し、上半身ウェアを着用することにより体の必要部位に着圧をかけテーピング効果にて姿勢をコントロールし、また体形を補正するためのウェアが開示されている。
【0006】
これらの圧迫や緊締の機能を持たせたインナーウェアは、そのまま着るだけで使用できるので、従来のベルトやステーで圧迫や支持を行う帯状のサポーターやテーピングテープ等に比べて簡便に装着することができ、装着後の外観も良好となる。
【0007】
しかし、これらのインナーウェアでは、従来のサポーターやテーピングテープ等と異なり、ベルトやステー、テープ等によって着用位置を強く固定することができないため、着用中にずれやよれ、シワ等(以下、単に「ずれ等」という)が生じ易いという問題がある。着用中にずれ等が生じると、設定した着圧を所望の筋肉等にかけることができず、十分な効果を得られなくなってしまうことがある。これは、インナーウェアを、スポーツ用として多くの動きを伴う中で使用する場合や、生活用として長時間にわたって使用する場合に、特に問題となる。
【0008】
着用位置のずれ等の発生を防止するためには、筋肉等に対応する部位の着圧やウェア全体の着圧を高めることが考える。しかし、この場合、過度の圧迫によって着用感が悪化したり、着用にかなりの力が必要となって着用が不便となってしまう。
【0009】
このような問題を解決するものとして、例えば、特許文献3には、踵部を押圧する弾性カフの表面にシリコーンのような滑り止めを被覆したストッキングが提案されている。
【0010】
他方、本発明に関連して、特許文献4には、島数が極めて多い海島複合繊維未延伸糸条を流動延伸させるか、あるいは、流動延伸後の延伸糸条にさらに延伸もしくは熱処理を施すことで製造される繊維直径が10〜1,000nmのナノファイバーが開示されている。このナノファイバーは、機械的強度に優れ、軽量、保温、吸湿が求められる用途に有効なポリエステル微細繊維である。
【0011】
また、特許文献5には、布帛に捺染用インクジェットインクを吐出させて画像を印捺するインクジェット捺染方法が記載されている。また、特許文献6には、インクジェット捺染を用いて、繊維抜蝕加工領域とその周囲の繊維抜蝕未加工領域とが鮮明に分けられた微細な立体模様の形成された布帛を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-263362号公報
【特許文献2】特開2007-138335号公報
【特許文献3】特表2000−510743号公報
【特許文献4】特開2005−325494号公報
【特許文献5】特開2007−247109号公報
【特許文献6】特開2006−219809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
圧迫や緊締の機能を持たせたインナーウェアの機能を効果的に発揮させるためには、運動や長時間の着用に伴う着用位置のずれ等の発生を防止して、設定した着圧を所望の筋肉等に適切に与える必要がある。
【0014】
上記特許文献3に開示されるストッキングは、シリコーンのような滑り止めによって着用位置のずれ等を防止するものである。しかしながら、この種の滑り止めは、長時間使用していると蒸れや痒みなどを発生する場合があり、着用感の悪さから途中で着用をやめてしまう問題があった。継続的に着用されなければ、インナーウェアの諸機能が有効に発揮されない。
【0015】
そこで、本発明は、関節等を圧迫もしくは緊締する機能を備えたインナーウェアのような被服において、着用位置のずれ等の発生を防止し、かつ、長時間着用した場合でも着用感が悪化せず、着用位置のずれや姿勢の変化等が発生した場合には着用者においてこれを速やかに認知することが可能な被服を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような問題に対し、本発明者らは、まず、被服を快適に長時間装着するための指標として着用者の体性感覚、特に触覚及び圧覚に着目した。そして、所定の摩擦又は圧力等を加えたときに着用者が受ける感覚、例えば、支持感、圧迫感、心地良さ、フィット感、違和感、安定感等の主観データを分析した。この分析の結果、本発明者らは、着用者が受ける感覚の認知パターンが触覚刺激に大きく依存することを見出した。
【0017】
さらに、本発明者らは、皮膚構造や皮膚における触覚受容器等についても着目した。皮膚表面には繊維状の皮溝が無数に存在している。皮溝は、深さが数十μmから数百μm、幅が数百μmであり、皮膚表面の面積を増大させて触覚刺激を積極的に受容するために機能している。また、皮膚の触覚受容器は数μmから数十μmの凹凸を認知できることが知られ、機械的刺激を受容するとされるTRPV3、TRPV4等の受容体分子は大きさ数十μmの表皮細胞1つ1つに存在することが明らかにされている。
【0018】
これらのことから、本発明者らは、着用者が受ける感覚の認知パターンを所望のパターンに設定するためには、皮膚構造や触覚受容器等の機能を考慮して触覚刺激を適切にコントロールすることが必要であると考えた。そして、様々な被服の生地特性について、その触覚刺激と感覚認知パターンとの関係を検討した。その結果、被服の皮膚接触表面を所定の形態として皮膚の触覚受容機能に触覚刺激を付与することで、着用者に支持感などの感覚を効果的に認知させ得ること見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、伸縮性を有する素材によって形成され、着用者の皮膚表面に密着されて着用される被服であって、着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される1以上の部位に対応する領域に、該部位の皮膚表面に接触して触覚刺激を付与し得る作用領域を備え、該作用領域の皮膚接触表面に、線幅10〜50,000nmの繊維状体からなるパターンが形成され、作用領域以外の他領域と異なる摩擦特性が付与された被服を提供するものである。この被服の作用領域は、その皮膚接触表面に形成された繊維状体からなるパターンによって他領域と異なる摩擦特性を発揮し、他領域とは異質の触覚刺激を着用者に与える。これにより、この被服では、作用領域の皮膚接触表面からの触覚刺激を着用者が容易に認知することが可能となる。
前記繊維状体の線幅は10〜50,000nmであり、好適には10〜1,000nmである。作用領域の皮膚接触表面に、線幅10〜50,000nmを有する繊維状体によりパターンを形成することで、パターンを皮膚表面に密着させ、広い皮膚表面積に対して触覚刺激を付与することができる。さらに、ナノオーダーの線幅10〜1,000nmを有する繊維状体によりパターンを形成することで、皮膚表面への密着性をさらに高め、効果的に触覚刺激を付与することが可能となる。
本発明に係る被服において、前記パターンは、繊維状体としてのファイバーの製織又は編成によって形成することができる。また、このパターンは、前記作用領域の皮膚接触表面に塗料及び/又は粉体の噴出による塗布を利用して形成された繊維状体からなるものとすることもできる。
これらのパターンは、複数のパターン形状を含んでなるものであってよい。さらに着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される2以上の部位に対応する領域にそれぞれ別個の前記作用領域が設けられている場合には、各作用領域の皮膚接触表面に形成される前記パターンは、互いに異なるパターン形状を有していてもよい。
本発明に係る被服において、前記作用領域は、前記繊維状体に比して大きな線幅の繊維からなる布帛と、繊維状体によって布帛の皮膚接触表面に形成された前記パターンと、からなるものとすることが好ましい。
この作用領域は、他領域よりも高い緊締力を有し、着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される1以上の部位をサポートすることが好ましい。この作用領域における着圧は40hPa以下に設定され得る。
本発明に係る被服は、足首、膝、ふくらはぎ、大腿、前腕又は上腕から選択される1以上の部位を被覆するものである。
【0020】
本発明において、「繊維状体」とは、細長い線状のもの、すなわち幅(太さ)に比して十分な長さを有するものであって、その線幅が10〜50,000nmであるものを指す。具体的には、繊維状体は、ファイバー(繊維)であってよく、又は塗料及び/又は粉体の噴出による塗布によって形成される繊維状構造であってもよい。
繊維状体としてのファイバーは、天然繊維及び化学繊維を含む。このうち、特に化学繊維には、合成繊維(ポリエステル系合成繊維・ポリアミド系合成繊維・ポリウレタン系合成繊維・ポリアクリルニトリル系合成繊維・ポリオレフィン系合成繊維)や半合成繊維(セルロース系半合成繊維・タンパク質系半合成繊維)、再生繊維(セルロース系再生繊維)、無機繊維(ガラス繊維・炭素繊維)等が包含される。
塗料及び/又は粉体の噴出による塗布によって形成される繊維状構造には、捺染される塗料(インク)そのものによって布帛の表面に形成される凹凸構造や、捺染された抜蝕剤によって布帛の表面に形成される凹凸構造が含まれるものとする。
【0021】
また、繊維状体の「線幅」とは、繊維状体の長さ方向に直行する方向の幅を指す。繊維状体がファイバーである場合、線幅は、ファイバー断面の内接円直径である繊維径を意味する。また、繊維状体が塗料及び/又は粉体の噴出による塗布を利用して形成される繊維状構造である場合、線幅は、この繊維状構造を形成する線状の凹部又は凸部の幅を意味するものとする。
【0022】
さらに、「パターン」とは、上記繊維状体の太さ、材質、密度、形態、布帛構造(編布、織布、不織布など)等を一定の条件とすることによって形成される模様と定義される。このパターンは、繊維状体を規則的に配置して所定の形態が繰り返し表れるように形成したものであってよく、又は繊維状体の配置に規則性はないが、図案化・装飾化されて所定の形態を呈するように形成したものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、関節等を圧迫もしくは緊締する機能を備えた被服において、着用位置のずれ等の発生を防止し、かつ、長時間着用した場合でも快適な着用感を発揮し、着用位置のずれや姿勢の変化等が発生した場合には着用者においてこれを速やかに認知することが可能な被服が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一実施形態に係る被服であって、ふくらはぎのサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【図2】ファイバーを用いた製織によって形成されるパターンの例を示す図である。
【図3】編成によって形成される開孔を含む作用領域のパターンの例を示す図である。
【図4】塗料及び/又は粉体の噴出による塗布によって形成されるパターンの例を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る被服であって、大腿のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【図6】本発明の第三実施形態に係る被服であって、腰・大腿・膝・ふくらはぎ・足首・足底のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【図7】本発明の第四実施形態に係る被服であって、腰・大腿・膝のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【図8】本発明の第五実施形態に係る被服であって、ふくらはぎ・足首・足底のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【図9】本発明の第六実施形態に係る被服であって、肩・上腕・腰のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【図10】本発明の第七実施形態に係る被服であって、肘・腕のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【図11】本発明の第八実施形態に係る被服を示す模式図で、(a)は正面図、(b)は背面図を示す。
【図12】本発明の第八実施形態に係る被服を示す模式図で、(a)は正面図、(b)は背面図を示す。
【図13】模式的に筋肉の位置を示した図で、a)、b)は身体の正面側からみた筋肉模式図、c)、d)は身体の背面側からみた筋肉模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0026】
1.ふくらはぎ用被服
(1)被服の全体形状
図1は、本発明の第一実施形態に係る被服であって、ふくらはぎのサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【0027】
図中、符号1Aで示す被服は、伸縮性を有する素材によって形成され、着用者のふくらはぎを被覆し得る筒状形状に成形されている。被服1Aは、その素材が有する伸縮性によって、着用者の下腿(前脛及びふくらはぎ)の皮膚表面に密着された状態で着用される。
【0028】
被服1Aの素材は、例えば、ポリアミド系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリオレフィン系合成繊維、セルロース系繊維等からなるフィラメント糸、紡績糸、混紡糸、撚糸、加工糸などを用いることができる。これらの素材を、従来公知の方法によって被服1Aの全体形状に形成する。
【0029】
(2)作用領域
被服1Aは、着用者の筋肉等の部位に対応する領域に、該部位の皮膚表面に接触する作用領域10を備えている。作用領域10は、着用者の筋肉等をサポートし、かつ、筋肉等の皮膚表面に触覚刺激を付与するために機能する。
【0030】
具体的には、本実施形態に係る被服1Aの作用領域10は、着用者の腓腹筋をサポートし、ふくらはぎの皮膚表面に接触して触覚刺激を与える機能を有している。
【0031】
このため、被服1Aの作用領域10は、略Y字状に形成され、アキレス腱の皮膚表面を被覆する基部と、この基部から腓腹筋の外縁に沿って2方向に分岐して延設された分岐部と、からなる形状を備えている。
【0032】
作用領域10は、例えば、作用領域10の生地と他の領域の生地とをそれぞれ別々に作成し、それらを縫製、溶着等により結合することにより設けることができる。また、例えば、被服1Aの全体形状を形成しておいてから、作用領域10を所定糸の挿入・抜去や所定生地の縫い付け等により形成してもよい。
【0033】
作用領域10の好ましい態様は、織布、編布又は不織布等の布帛をベース生地として、このベース生地の皮膚接触表面に、線幅10〜50,000nmの繊維状体からなるパターンを形成した態様である(パターン形成については、詳しくは後述する)。この態様において、ベース生地となる布帛は、皮膚接触表面のパターンを形成する繊維状体に比して大きな線幅をもつ繊維から構成することが好ましい。具体的には、ベース生地となる布帛は、繊維径が1,000nmより大きい繊維又は直径50,000nmより大きい糸より構成した布帛とすることが好ましい。これらの繊維又は糸には、ポリアミド系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリオレフィン系合成繊維、セルロース系繊維等若しくはこれらの繊維からなるフィラメント糸、紡績糸、混紡糸、撚糸、加工糸を採用できる。
【0034】
このように、作用領域10を、線幅の大きい繊維から構成された布帛をベース生地として、その皮膚接触表面に線幅の小さい繊維状体によってパターンを形成することで、作用領域10のサポート機能及び触覚刺激機能を安定させるとともに、圧迫や刺激の程度をコントロールし易くすることができる。
【0035】
(3)サポート機能
作用領域10は、被服1Aの他の領域に比べ、高い伸縮性、弾力性等を持たせることによって、他の領域に比べて高い緊締力(圧迫力)を発揮させることができる。作用領域10は、この緊締力に基づき、着用者の筋肉等を圧迫もしくは緊締して、それらの機能を保護、制限、補強、強化等する。なお、被服の着用部位や使用目的によっては、作用領域10以外の他領域の緊締力(圧迫力)を作用領域10に比べて高く設定してもよい。
【0036】
具体的には、本実施形態に係る被服1Aの作用領域10は、着用者の腓腹筋及びアキレス腱を圧迫もしくは緊締して、腓腹筋のぶれをおさえ、アキレス腱をサポートする。
【0037】
作用領域10における着圧は、快適な装着感を得るために、40hPa以下とすることが好ましく、27hPa以下とすることがさらに好ましく、20hPa以下とすることが特に好ましい。
【0038】
本発明に係る被服では、作用領域10の皮膚接触表面に繊維状体からなるパターンを形成し、作用領域以外の他領域と異なる摩擦特性を付与したことにより、着用位置のずれ等が発生し難く、かつ、ずれ等が発生した場合にも着用者においてこれを速やか認知することができる(詳しくは後述する)。従って、被服1Aでは、作用領域10において過度の圧迫や締め付けを行う必要がないため、作用領域10の着圧を上記数値範囲に設定することができる。これにより、被服1Aは、着用時に大きな力を要することなくスムーズに装着でき、長時間着用した場合でも圧迫や締め付けによる不快感を与えることなく、快適な着用感を得ることができる。
【0039】
また、本発明に係る被服は、摩擦特性が付与される皮膚接触表面となる部分が、非常に細い線幅をもつ繊維状体からなるパターンで形成されているため、作用領域10は、皮膚への密着性や順応性が極めて良好になるとともに、薄く、軽量な生地で形成することが可能となる。これにより、被服1Aは、長時間着用した場合でも生地の嵩や重さからくる圧迫や締め付けによる不快感を軽減することができるとともに、筋肉等に安定感、支持感、快適な着用感等を認知させやすくすることが可能となる。さらに、作用領域10の皮膚への密着性、順応性の高さにより、薄く、軽量な生地でも筋肉等の機能を保護、制限、補強、強化等する効果を高めることが可能となる。
【0040】
このような筋肉等の補強効果や快適な装着感を得るために、作用領域10を構成する生地は、厚さ0.6mm未満、単位面積あたりの重さが250g/m未満の生地が好ましく、厚さ0.3mm未満、150g/m未満の生地が更に好ましい。
【0041】
なお、着圧の測定は、被服装着時の作用領域における圧迫圧を、例えば、エアー式圧力計測器(AMI社製)を用いて測定することにより行い得る。具体的には、被服を装着した状態で、被服の作用領域とそれに対応する皮膚表面との間に計測器の圧力センサーを設置し、そのときに測定される圧迫圧を着圧として算出する。
【0042】
(4)触覚刺激機能
作用領域10の皮膚接触表面には、線幅10〜50,000nmの繊維状体からなるパターンが形成されており、他の領域と異なる摩擦特性が付与されている。すなわち、作用領域10の皮膚接触表面は、繊維状体の太さ、材質、密度、形態、布帛構造(編布、織布、不織布など)等を一定の条件とすることで所定のパターンが形成されており、このパターンによって他の領域と異なる摩擦特性を発揮する。これによって、作用領域10の皮膚接触表面は、他領域とは異質の触覚刺激を着用者に与え得る。
【0043】
さらに、作用領域10の皮膚接触表面のパターンは、皮溝の深さや幅と同等以下の線幅を有する繊維状体によって形成され、皮溝に対して密着し易いようにされている。すなわち、繊維状体の線幅を、皮溝の深さ数十μmから数百μm及び幅数百μmに対して、10〜50,000nmに設定することで、繊維状体により形成されたパターンが皮溝に密着し、皮膚の伸展に馴染むようにされている。これによって、作用領域10の皮膚接触表面は、広い皮膚表面積に対して効果的に触覚刺激を付与し得る。また、非常に細い繊維状体でパターンを形成したことで、作用領域10の皮膚接触面は、柔らかな触感と優れた通気・吸汗発散機能を備え、蒸れや痒み等を生じさせることなく、快適な着用感を発揮する。
【0044】
作用領域10による筋肉等のサポート機能を効果的に発揮させるためには、運動や長時間の着用に伴って生じる被服の着用位置のずれ等を防止して、作用領域10による着圧が適切に筋肉等に加えられるようにする必要がある。
【0045】
被服1Aでは、作用領域10の皮膚接触表面によって他領域とは異質の触覚刺激が効果的に付与されるように構成したことで、着用者が作用領域10の皮膚接触表面からの触覚刺激を容易に認知できるようにされている。従って、作用領域10の着用位置にずれが生じた場合には、着用者が容易にずれを認識して、これを修正することができる。
【0046】
また、被服1Aでは、作用領域10の皮膚接触表面の摩擦特性を、その表面摩擦が他の領域に比べて大きくなるように設計することで、作用領域10の位置ずれを効果的に防止することができる。
【0047】
さらに、被服1Aでは、作用領域10の皮膚接触表面によって効果的に触覚刺激が付与されるため、過度な締め付けや圧迫をすることなく、触覚刺激による生理反射によって着用者に支持感などの感覚を効果的に認知させ、適切な姿勢への移行や適切な姿勢の保持などをサポートすることができる。
【0048】
(5)パターン
作用領域10の皮膚接触表面に形成されるパターンは、線幅10〜50,000nmの繊維状体によって形成される模様であれば特に限定されず、1又は2以上の繊維状体の外形によって構成することができる。パターンは、繊維状体を規則的に配置して所定の形態が繰り返し表れるように形成したものが好適であるが、繊維状体の配置に規則性はないが、図案化・装飾化されて所定の形態を呈するように形成したものであってもよい。
【0049】
1つの作用領域10には、1種類のパターンだけを形成してもよいし、複数の異なるパターンを形成してもよい。また、後述する被服1Cのように、着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される2以上の部位に対応する領域にそれぞれ別個の作用領域10を設けた場合には、各作用領域10の皮膚接触表面に互いに異なるパターンを形成することができる。このように、作用領域10に複数の異なるパターンを形成することで、部位や目的に応じて最適な触覚刺激を付与することが可能となる。
【0050】
(5-1)ファイバーによるパターン形成
作用領域10の皮膚接触表面のパターンは、線幅10〜50,000nmの繊維状体からなるものである。この線幅を満たす繊維状体としては、従来公知のファイバーである天然繊維又は化学繊維を採用できる。特に、ポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリオレフィン系合成繊維等の合成繊維、セルロース系半合成繊維やタンパク質系半合成繊維等の半合成繊維、セルロース系再生繊維等の再生繊維、ガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維などの化学繊維を好適に採用できる。使用するファイバーの形態としては、1本の連続した長い繊維であるフィラメントであることが好ましく、1又は2以上のフィラメントから構成されるフィラメント糸の形態がさらに好ましい。フィラメント糸としては、1本のフィラメントからなるモノフィラメント糸、複数のフィラメントからなるマルチフィラメント糸、複数のフィラメントを引きそろえた引そろえ糸、よりをかけたより糸、伸縮加工又は嵩高加工したフィラメント加工糸、しん糸にフィラメント糸をコイル状に巻きつけたカバードヤーン等の形態が利用でき、これらの糸を単独又は複数用いてファイバーによる繊維状のパターンを形成することができる。
【0051】
このうち、繊維状体としては、線幅(繊維径)10〜1000nmのいわゆるナノファイバーを採用することが特に好適である。例えば、上記特許文献4記載のポリエステル微細繊維等を採用できる。
【0052】
作用領域10の皮膚接触表面にナノオーダーの極細繊維からなるパターンを形成することで、着用者の皮膚表面に極細繊維を密着させ、効果的に触覚刺激を付与し認知させることができる。また、ヌメリ性のある風合い、肌触り等の快適な着用感を実現することもできる。
【0053】
また、汎用されている繊維に比べて何倍もの表面積を有するナノファイバーによってパターンを形成することで、作用領域10の皮膚接触表面の表面摩擦を大きくすることができ、被服着用中のずれを抑え、目的の部位に連続的、不連続的又は断続的に触覚刺激、圧迫、緊締等を付与することができる。
【0054】
ファイバーによるパターンの形成は、ファイバー(ファイバーからなる糸を含む)の製織、編成、絡み合わせ、引きそろえ、結合等によって行うことができるが、製織又は編成によって形成することが好ましい。ファイバーからなる糸としては、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、引そろえ糸、より糸、伸縮加工糸、嵩高加工糸、カバードヤーン等が利用できる。ファイバーによるパターン形成は、これらのファイバー又はファイバーからなる糸を1種類だけ使用して形成しても良いし、複数種類使用して形成しても良い。
【0055】
図2は、繊維状体20としてファイバー21又はファイバー21からなる糸22を用いた製織によって形成されたパターンの例を示す図である。
【0056】
製織によるパターン形成の一例としては、繊維状体20としてのファイバー21を平織、綾織、朱子織等したものを利用することができる。図2(A-1)はファイバー21の平織によるパターンを、(A-2)は綾織によるパターンを、(A-3)は朱子織によるパターンを示す。また、製織によるパターン形成の他の例としては、複数のファイバー21からなる糸22を平織、綾織、朱子織等したものを利用することができる。図2(B-1)は糸22の平織によるパターンを、(B-2)は綾織によるパターンを、(B-3)朱子織によるパターンを示す。糸22は、複数のファイバー21からなるマルチフィラメント糸で、例えば、引そろえ糸、より糸、伸縮加工糸、嵩高加工糸等の形態で利用できる。
【0057】
また、図2に示したファイバー21や糸22と同様の材料を用いて、編成による編組織によってパターンを形成してもよい。編成によるパターン形成としては、ファイバー21又は糸22を用いて、経編組織又は緯編組織によるパターン形成を利用することができる。経編組織によるパターンとしては、トリコット編、コード編、アトラス編、鎖編等による生地パターンが利用でき、緯編組織によるパターンとしては、平編、ゴム編、パール編等による生地パターンが利用できる。また、これらの編組織に、2枚おさを使用する2重組織、タック編、移し編、浮き編、パイル編、添え糸編等を適宜組み合わせて、皮膚接触表面のパターンを変化させてもよい。
【0058】
作用領域10の皮膚接触表面を編組織で形成する場合、ファイバー21又は糸22の素材、太さ、挿入本数(密度)等を調整することで、編組織を変化させ、摩擦特性を容易に調整できる。また、一連の編成工程で糸の素材、太さ、挿入本数(密度)を適宜変化させることで、連続した一枚の生地上に編分け編成による複数の異なる摩擦特性をもった作用領域10を形成することができ、摩擦特性のグラデーションを容易に形成することができる。
【0059】
さらに、作用領域10の皮膚接触表面には、編組織による開孔を形成することも好ましい。この開孔は、ダブルラッシェル編、ダブルトリコット編等の二重編組織によって皮膚接触表面に形成された陥凹(図3(A)〜(C)の開孔30a参照)や、メッシュ生地やレース生地のような編組織によって皮膚接触表面を構成する布帛に形成された貫通孔(図3(D)〜(F)開孔30b参照)等の構造とすることができる。作用領域10の皮膚接触表面に形成する開孔の形状・大きさ・開孔率等を所定の範囲に調節することで、作用領域10と皮膚との接触面積、接触部位、接触圧等を容易に変化させることができ、これにより付与すべき触覚刺激を調整することができる。形成する開孔の形状は、特に限定されず、例えば、略円形、略楕円形、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形、略八角形等が挙げられ、これらの形状を規則的に配置することが好ましい。また、開孔の大きさは、開孔1つの平均面積が0.01〜240mmであることが好ましく、0.25〜120mmであることが更に好ましく、開孔の開孔率(作用領域10の皮膚接触表面に占める開孔面積の割合)は、5〜70%であることが好ましく、15〜50%であることがさらに好ましい。なお、作用領域10の皮膚接触表面に開孔を形成する組織としては、上記のような編組織によるものが好ましいが、織組織によって形成してもよい。
【0060】
(5-2)塗料及び/又は粉体の噴出による塗布を利用したパターン形成
作用領域10の皮膚接触表面のパターンは、塗料及び/又は粉体の噴出による塗布を利用して皮膚接触表面に形成した繊維状体によって構成することもできる。
【0061】
この場合、繊維状体は、塗料及び/又は粉体の噴出による塗布によって形成される繊維状構造とでき、作用領域10を作用領域以外の他領域よりも触覚を認知しやすい摩擦特性を有するようにすることもできる。これらの繊維状構造は、いずれも幅(太さ)に対して長さがきわめて大きい形状とされ、その線幅は10〜50,000nmであり、線幅10〜1000nmであることが好適である。噴出による塗布を用いれば、所定の形状、位置を有する作用領域10(繊維状パターン)を、簡便かつ精度よく形成することができる。具体的には、(1)塗布する塗料や粉体そのものの樹脂特性又は粉体特性、(2)作用領域の布帛表面に形成される塗布された塗料又は粉体の凹凸構造、(3)塗布された抜蝕剤によって布帛の表面に形成される凹凸構造、等により作用領域の摩擦特性を容易に調節することができる。
【0062】
噴出による塗布を利用して作用領域10の皮膚接触表面に繊維状体からなるパターンを形成する方法としては、例えば、(1)作用領域10の布帛の皮膚接触表面に、ノズルからの噴出により塗料や粉体を直接塗布し、その塗布面の形状や位置により繊維状体パターンを形成する方法、(2)別の転写シート等に所定形状の繊維状体からなるパターンをノズル噴出で印刷しておき、その転写シートを作用領域10の所定位置に転写させる方法、等を採用できる。塗布する塗料や粉体としては、ノズルからの噴出が容易で、かつ作用領域10を作用領域以外の他領域よりも触覚を認知しやすい摩擦特性にすることができるものであれば特に限定されず、例えば、染料、樹脂、粉体、又はこれらの混合物等が利用できる。また、塗料塗布と粉体塗布を重ね塗りする態様を用いてもよい。噴出塗布の方法としては、特に、インクジェット捺染方式を用いることが好ましい。
【0063】
インクジェット捺染は、形成するパターンの原図をコンピュータで画像処理し、その結果をインクジェット方式で印捺するため、様々なパターンを簡便かつ低コストに作成することができる。
【0064】
そのため、インクジェット捺染により、作用領域10の皮膚接触表面に繊維状体(繊維状構造)及びこの繊維状体からなるパターンを形成すれば、作用領域10が接触する皮膚表面の部位に応じて所望のパターンを形成することができる。
【0065】
インクジェット捺染によるパターン形成は、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、インクジェット方式により吐出された捺染用インクジェットインクそのものによって繊維状体を形成する場合には、(a)滲み防止剤、糊剤等により作用領域10の皮膚接触表面を前処理する工程と、(b)インクをインクジェット方式によって直接又は間接的に付着させる工程、(c)加熱発色、洗浄、乾燥等により後処理する工程等によって行うことができる。これらの各工程では、上記特許文献5に開示される公知の前処理剤やインク、インクジェット吐出方式、インク固着処理、洗浄操作等を用いることができる。
【0066】
また、例えば、インクジェット方式により吐出された抜蝕剤により形成される凹凸を繊維状体とする場合には、作用領域10の皮膚接触表面を一部溶解、収縮、又は分解する薬剤(いわゆる、抜蝕剤)を含有したインクを、インクジェット方式で付着させ、凹凸を有する立体的な繊維状構造を形成する方法を用いることができる(上記特許文献6参照)。
【0067】
インクジェット捺染で形成されるパターンの形態は、特に限定されず、例えば、縞模様、格子模様、網目模様又はこれらを組み合わせた模様等を挙げることができる。
【0068】
図4は、塗料及び/又は粉体の噴出による塗布によって形成されたパターンの例を示す図である。ここでは、捺染用インクジェットインクそのものにより繊維状体20を形成する場合を示す。
【0069】
図4(A)〜(D)は縞模様を呈するパターンで、(A)は繊維状体20を平行に一定間隔で並べたパターン、(B)は線幅の異なる複数の繊維状体20を平行に一定間隔で並べたパターン、(C)は太幅の繊維状体20から次第に細幅の繊維状体20へとなっている平行縞の繰り返しパターン、(D)は波線からなる繊維状体20を平行に一定間隔で並べたパターンと、ジグザグ線からなる繊維状体20を平行に一定間隔で並べたパターンと、を1つの作用領域内に別々に配置したパターンである。
【0070】
図4(E)〜(H)は格子模様を呈する繊維状パターンで、(E)は複数の四角形が繊維状体20によって区画されるパターン、(F)は複数の平行四辺形が繊維状体20によって区画されるパターン、(G)は複数の三角形が繊維状体20によって区画されるパターン、(H)は複数の六角形と三角形が繊維状体20によって区画されるパターンである。
【0071】
図4(I)、(J)は繊維状体20が網目模様を呈する繊維状パターンである。また、(K)、(L)は繊維状体20が縞模様、格子模様及び網目模様を組み合わせた模様を呈する繊維状パターンである。
【0072】
このように、作用領域10の皮膚接触表面にナノオーダーの繊維状体(繊維状構造)からなるパターンを形成することで、着用者の皮膚表面への密着性を高め、効果的に触覚刺激を付与し認知させることができる。また、ヌメリ性のある風合い、肌触り等の快適な着用感を実現することもできる。また、作用領域10の皮膚接触表面の表面積を大きくして、表面摩擦を大きくすることができ、被服着用中のずれを抑え、目的の部位に連続的、不連続的又は断続的に触覚刺激、圧迫、緊締等を付与することができる。
【0073】
2.大腿用被服
(1)被服の全体形状
図5は、本発明の第二実施形態に係る被服であって、大腿のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【0074】
図中、符号1Bで示す被服は、伸縮性を有する素材によって形成され、着用者の太股を被覆し得る筒状形状に成形されている。被服1Bは、その素材が有する伸縮性によって、着用者の上腿の皮膚表面に密着された状態で着用される。
【0075】
被服1Bの素材や、作用領域の構成と機能については、既に説明した被服1Aと同様である。以下、被服1Bに関し、被服1Aと異なる点のみを説明する。
【0076】
(2)作用領域
【0077】
本実施形態に係る被服1Bの作用領域10は、着用者の大腿四頭筋、縫工筋及び内転筋に対応する領域に、これらの筋肉をサポートし、太股の皮膚表面に接触して触覚刺激を与える機能を有している。このため、被服1Bの作用領域10は、大腿に沿って配列された3つの略X字状の部分によって大腿四頭筋等を被覆する形状を備えている。
【0078】
被服1Bにおいても、作用領域10の皮膚接触表面には、ファイバー又はインクジェット捺染によって線幅10〜50,000nmの繊維状体からなるパターンが形成されている。これにより、被服1Bにおいても、作用領域10の位置ずれを効果的に防止して、広い皮膚表面積に対して効果的に触覚刺激を付与し、作用領域10の皮膚接触表面からの触覚刺激を認知しやすいように構成されている。
【0079】
3.腰・大腿・膝・ふくらはぎ・足首・足底用被服
(1)被服の全体形状
図6は、本発明の第三実施形態に係る被服であって、腰・大腿・膝・ふくらはぎ・足首・足底のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【0080】
(2)作用領域
図中、符号1Cで示す被服は、伸縮性を有する素材によって形成され、着用者の腰部から足底部までを覆うタイツ形状に成形されている。被服1Cは、その素材が有する伸縮性によって、着用者の腰部から足底部までの皮膚表面に密着された状態で着用される。
【0081】
本実施形態に係る被服1Cの作用領域10は、腰部、大腿部、膝部、ふくらはぎ部、足首部及び足底部(土踏まず部)に対応する領域に設けられている。これら各作用領域10の皮膚接触表面には、部位や目的に応じて最適な触覚刺激を付与することを目的として、互いに異なるパターンを形成することができる。なお、被服1Cの素材や、作用領域の構成と機能については、既に説明した被服1Aと同様である。
【0082】
4.腰・大腿・膝用被服
(1)被服の全体形状
図7は、本発明の第四実施形態に係る被服であって、腰・大腿・膝のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【0083】
図中、符号1Dで示す被服は、伸縮性を有する素材によって形成され、腰部から膝下までを覆う七分丈のパンツ形状に成形されている。被服1Dは、その素材が有する伸縮性によって、着用者の腰部から膝下までの皮膚表面に密着された状態で着用される。
【0084】
(2)作用領域
本実施形態に係る被服1Dの作用領域10は、腰部、大腿部及び膝部に対応する領域に設けられている。被服1Dの素材や、作用領域の構成と機能については、既に説明した被服1Aと同様である。また、被服1Cと同様に、各作用領域10の皮膚接触表面には、互いに異なるパターンを形成することができる。
【0085】
5.ふくらはぎ・足首・足底用被服
(1)被服の全体形状
図8は、本発明の第五実施形態に係る被服であって、ふくらはぎ・足首・足底のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【0086】
図中、符号1Eで示す被服は、伸縮性を有する素材によって形成され、膝下から足底までを覆うハイソックス形状に成形されている。被服1Eは、その素材が有する伸縮性によって、着用者の膝下から足底までの皮膚表面に密着された状態で着用される。
【0087】
(2)作用領域
本実施形態に係る被服1Eの作用領域10は、ふくらはぎ部、足首部及び足底部(土踏まず部)に対応する領域に設けられている。被服1Eの素材や、作用領域の構成と機能については、既に説明した被服1Aと同様である。また、被服1Cと同様に、各作用領域10の皮膚接触表面には、互いに異なるパターンを形成することができる。なお、被服1Eは、踵、足先、足部を部分的に覆わないハイソックス形状でもよい。
【0088】
6.肩・腰用被服
(1)被服の全体形状
図9は、本発明の第六実施形態に係る被服であって、肩・上腕・腰のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【0089】
図中、符号1Fで示す被服は、伸縮性を有する素材によって形成され、上半身を覆うシャツ形状に成形されている。被服1Fは、その素材が有する伸縮性によって、着用者の上半身の皮膚表面に密着された状態で着用される。
【0090】
(2)作用領域
本実施形態に係る被服1Fの作用領域10は、肩部、上腕及び腰部に対応する領域に設けられている。被服1Fの素材や、作用領域の構成と機能については、既に説明した被服1Aと同様である。また、被服1Cと同様に、各作用領域10の皮膚接触表面には、互いに異なるパターンを形成することができる。
【0091】
7.肘・腕用被服
(1)被服の全体形状
図10は、本発明の第七実施形態に係る被服であって、肘・腕のサポートに用いられる被服を示す模式図である。(A)は正面図、(B)は背面図を示す。
【0092】
図中、符号1Gで示す被服は、伸縮性を有する素材によって形成され、上半身を覆うシャツ形状に成形されている。被服1Gは、その素材が有する伸縮性によって、着用者の上半身の皮膚表面に密着された状態で着用される。
【0093】
(2)作用領域
本実施形態に係る被服1Gの作用領域10は、肘及びその近傍に対応する領域に設けられている。被服1Gの素材や、作用領域の構成と機能については、既に説明した被服1Aと同様である。
【0094】
以上、本発明に係る被服の好適な実施形態について、ふくらはぎ、大腿等の具体的な筋肉、靭帯、腱又は関節を挙げて例示を行った。ここで、本発明に係る被服に設けられる作用領域の形状又は位置は、筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される1以上の部位に対応する領域に設けられるものであり、本発明の作用を損なわなければ、ここで説明した形状又は位置と完全に同一とされる必要はなく、多少の形状・位置変更したものも本発明の範囲に包含されるものとする。
【0095】
8.腰痛・姿勢改善用の被服
図11、図12は、本発明の第八実施形態に係る被服1を示す模式図である。この第八実施形態の被服1は、背部を含む上半身を覆うシャツ形状の上半身用被服で、腰痛・姿勢改善用に用いられるものである。本発明者らは、腰部、背部、腹部、胸部等の多数の部分において、所定の圧力、摩擦等を加えたときに被験者が受ける感覚、例えば、支持感、心地良さ、圧迫感、フィット感、安定感等の主観データを分析し、腰痛・姿勢改善用に有効と考えられる所定の認知パターンがあることを見出した。そして、それらの部位・パターンに基づき、上半身用被服に所定筋肉の形状、または所定筋肉の輪郭形状に対応するよう区画された作用領域10を設けることで、腰痛・姿勢改善用に有効な被服を見出した。第八実施形態においては(A)〜(T)まで20のバリエーションがあり、各バリエーションの(a)は正面図、(b)は背面図を示す。
【0096】
図13は模式的に筋肉の位置を示した図で、a)、b)は身体の正面側からみた筋肉模式図、c)、d)は身体の背面側からみた筋肉模式図である。筋肉の位置を分かりやすくするために、正面側と背面側からみた筋肉の位置をそれぞれ2つの図面に分けて示す。m1は広背筋、m2は脊柱起立筋(腸肋筋、最長筋、棘筋)、m3は腹斜筋(外腹斜筋、内腹斜筋)、m4は中殿筋、m5は大殿筋、m6は腰腸肋筋、m7は僧帽筋、m8は腹直筋、m9は腰方形筋、m10は腸腰筋(腸骨筋、大腰筋)、m11は大胸筋、m12は三角筋、m13は上腕二頭筋、m14は上腕三頭筋である。
【0097】
腰痛・姿勢改善用に用いられる被服としては、広背筋、脊柱起立筋(腸肋筋、最長筋、棘筋)、腹斜筋(外腹斜筋、内腹斜筋)、中殿筋、大殿筋、腰腸肋筋、僧帽筋、腹直筋、腰方形筋、腸腰筋(腸骨筋、大腰筋)、大胸筋、三角筋からなる群から選ばれる少なくとも1つの筋肉の形状又は筋肉の輪郭形状に対応する作用領域形状を備えることが好ましく、広背筋、脊柱起立筋(腸肋筋、最長筋、棘筋)、及び僧帽筋からなる群から選ばれる少なくとも1つの筋肉の形状又は輪郭形状に対応する作用領域形状を備えることがより好ましく、広背筋及び脊柱起立筋(腸肋筋、最長筋、棘筋)の形状又は輪郭形状に対応する作用領域形状を備えることが特に好ましい。これらの筋肉に支持感、安定感、背筋の伸び等の腰痛や姿勢改善に好ましい感覚を認知しやすい部位が存在するからである。第八実施形態に係る(A)〜(T)に示した被服1は、前述のいずれかの筋肉形状又は筋肉の輪郭形状に対応する形状、位置を備えた作用領域10を有する。つまり、作用領域10は、前記各筋肉の外形又は輪郭形状とほぼ同様の形状・位置に区画されている。なお、図面中、異なる模様で塗り潰した作用領域10は、それぞれ異なる摩擦特性が奏されるようになっている。特に、一枚の被服(生地)上に複数の異なる摩擦特性が付与された作用領域10は、例えば、塗料及び/又は粉体の噴出による塗布により複数の異なる繊維状体からなるパターンを形成する方法、編分け編成により複数の異なる編組織を形成する方法等、一連の製造工程で連続的に摩擦特製のグラデーションを1枚の布帛に付与できる方法で形成することが好ましい。
【0098】
作用領域10が、これら所定筋肉に対応する領域を被覆することで、上述の作用領域10の摩擦特性と相俟って、作用領域10以外の他領域よりも優位に生地からの触覚を認知させやすくすることができる。そして、支持感、安定感、背筋の伸び等の腰痛や姿勢改善に好ましい感覚を認知しやすい所定の部位を作用領域10により積極的に刺激することで、強い圧迫や締め付けを行うことなく、これらの姿勢改善に好ましい感覚を増強することができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る被服は、運動や長時間の着用に伴う着用位置のずれ等の発生を防止して、設定した着圧を所望の筋肉等に適切に与えることができる。さらに、この被服では、過度な締め付けや圧迫をしなくとも、所定の触覚刺激による生理反射によって着用者が支持感等を感じ、適切な姿勢への移行や適切な姿勢の保持を行うことができる。従って、本発明に係る被服は、医療用、スポーツ用又は日常生活用として、疾患や疲労による筋肉等の痛みを治療又は予防するため、また姿勢の維持や運動をサポートするため好適に用いられる。
【符号の説明】
【0100】
1, 1A, 1B, 1C, 1D, 1E, 1F, 1G 被服
10 作用領域
20 繊維状体
21 ファイバー
22 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する素材によって形成され、着用者の皮膚表面に密着されて着用される被服であって、
着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される1以上の部位に対応する領域に、該部位の皮膚表面に接触して触覚刺激を付与し得る作用領域を備え、
該作用領域の皮膚接触表面に、線幅10〜50,000nmの繊維状体からなるパターンが形成され、作用領域以外の他領域と異なる摩擦特性が付与された被服。
【請求項2】
前記繊維状体は、線幅10〜1,000nmのファイバーである請求項1記載の被服。
【請求項3】
前記パターンは、繊維状体としてのファイバーの製織又は編成によって形成される請求項1又は2記載の被服。
【請求項4】
前記パターンは、前記作用領域の皮膚接触表面に塗料及び/又は粉体の噴出による塗布を利用して形成された前記繊維状体からなる請求項1記載の被服。
【請求項5】
前記作用領域は、前記繊維状体に比して大きな線幅を有するファイバーからなる布帛と、該布帛の皮膚接触表面側に繊維状体によって形成された前記パターンと、からなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の被服。
【請求項6】
前記作用領域の皮膚接触表面に形成される前記パターンが、複数のパターン形状を含んでなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の被服。
【請求項7】
着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される2以上の部位に対応する領域にそれぞれ別個の前記作用領域を備え、
各作用領域の皮膚接触表面に形成される前記パターンが、互いに異なるパターン形状を有している請求項1〜5のいずれか一項に記載の被服。
【請求項8】
前記作用領域は、他領域よりも高い緊締力を有し、着用者の筋肉、靭帯、腱又は関節から選択される1以上の部位をサポートする請求項1〜7のいずれか一項に記載の被服。
【請求項9】
前記作用領域における着圧が、40hPa以下である請求項1〜8のいずれか一項に記載の被服。
【請求項10】
足首、膝、ふくらはぎ、大腿、前腕又は上腕から選択される1以上の部位を被覆する請求項1〜9のいずれか一項に記載の被服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−95841(P2010−95841A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214884(P2009−214884)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【Fターム(参考)】