説明

サムレストクッション

【課題】奏者による木管楽器保持の安定化を図ることができ、演奏時の運指を補助することができるようにすること。
【解決手段】クラリネットCの指掛け部Sに装着される本体部11と、この本体部11に形成されて奏者の親指SUが接触する接触面部12と、この接触面部12に連設された膨出部13とを備えてサムレストクッション10が構成されている。膨出部13の最大膨出位置13Pは、演奏姿勢の奏者が見たときに、クラリネットCの管体C1の軸中心位置O1と指掛け部S先端とを結ぶ仮想線L1より親指SUの指先側に変位した位置に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サムレストクッションに係り、更に詳しくは、木管楽器の指掛けに装着して奏者による木管楽器の保持をサポートするためのサムレストクッションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クラリネット等の木管楽器が広く利用されるに至っている。このような楽器は、管体に連結されて外側に突出する指掛け部を備えており、この指掛け部を奏者の右手親指の上に乗せることにより楽器が支えられ、キイの押圧操作等を行えるようになっている。かかる指掛け部を利用した演奏にあっては、右手親指における指掛け部と接触する部分に局所的に負担が及ぶこととなり、木管楽器の安定した保持を行うことが困難になる傾向がある。そこで、右手親指への負担軽減を図るべく、指掛け部に装着可能なサムレストクッションが利用されており、公知のサムレストクッションとしては、図4及び図5に示されるものが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
図4のサムレストクッション50は、開口51を通じて内部に前記指掛け部を受容可能に設けられている。サムレストクッション50の同図中下面は、奏者の右手親指が接する接触面50Aとされ、この接触面50Aは平面に形成されている。
【0004】
図5のサムレストクッション60は、前記サムレストクッション50と同様に開口61を有する。図5(B)に示されるように、右手親指が接する接触面60Aは側面視円弧状に設けられ、これにより、接触面60Aの同図中右側に突出部62が形成される。この突出部62は、図5(A)及び(C)中左右対称形状とされ、木管楽器Cの管体C1の軸中心位置O1と指掛け部S先端とを結ぶ仮想線L1上で最大高さとなるように形成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】NICE INTERNATIONAL Co.,Ltd.、クラリネットワールド製品(CLARINET WORLD)、クラリネットワールド サムレストクッション、[online]、平成21年8月7日、インターネット〈URL:http://www.nice-international.jp/ClarinetWorld.htm〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4のサムレストクッション50では、接触面50Aが平面とされるので、演奏時の運指により親指とサムレストクッション50とが位置ずれし易くなる。このため、特に初心者にあっては、演奏中に木管楽器を十分に安定して保持することが困難になる、という不都合がある。
また、図5のサムレストクッション60にあっては、人間工学的な見地から、接触面60Aの形状や、突出部62の位置及び形状に起因して奏者に不自然で使い難さを感じさせる、という不都合を招来する。更に、奏者が木管楽器Cを構えたときに、突出部62が親指にフィットせずに親指の手前側が先に突出部62に当たるため、不自然な感触を伴って安定を欠く、という不都合がある。
【0007】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に基づいて案出されたものであり、その目的は、奏者による楽器の保持の安定化を図ることができ、演奏時の運指を補助することができるサムレストクッションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、木管楽器の指掛け部に装着される本体部と、この本体部に形成されて奏者の親指が接触する接触面部と、この接触面部に連設された膨出部とを備えたサムレストクッションであって、
前記膨出部の最大膨出位置は、演奏姿勢の奏者が見たときに、木管楽器の管体の軸中心位置と指掛け部先端とを結ぶ仮想線より前記親指の指先側に変位した位置に設定される、という構成を採っている。
【0009】
本発明において、前記接触面部は、演奏姿勢の奏者が見たときに、前記仮想線上に中心がある円弧状或いは楕円弧状の外縁を備え、この中心と前記膨出部の最大膨出位置とを結ぶ線と、前記仮想線とのなす角度が5°以上50°以下に設定される、という構成を採ることができる。
【0010】
また、前記膨出部は、球面に沿う外周面形状に設けられる、という構成を採ってもよい。
【0011】
更に、前記膨出部は、演奏姿勢の奏者が見たときに、接触面部との境界位置が円弧状或いは楕円弧状に形成されるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記仮想線より親指の指先側に変位した位置が膨出部の最大膨出位置とされるので、演奏時に、付け根側が楽器側から離れる方向になる親指に添うように膨出部を位置させることができる。これにより、演奏中に楽器を自然に安定して保持することができ、ひいては、親指以外の運指のスムース化に寄与することが可能となる。
【0013】
また、前記仮想線と、接触面部外縁の中心と膨出部の最大膨出位置とを結ぶ線とのなす角度を前述のように設定したので、楽器を構えたときに、奏者の親指裏側(手の甲側)の反りや曲がりに添って膨出部を設けることができる。この状態で、膨出部は親指に触れたり触れなかったりするが、演奏時には膨出部を感じさせ易くすることができ、楽器保持の安定化を図りつつ奏者に安心感を付与することが可能となる。そして、演奏中の指の動きや位置によっては、膨出部が親指に接触して当該膨出部を介して楽器が支えられ、運指を補助することが可能となる。
【0014】
更に、膨出部の外周面を球面に沿う形状にしたり、膨出部と接触面部との境界位置を円弧状等に形成することで、楽器保持の安定化をより良好に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るサムレストクッションの概略斜視図。
【図2】前記サムレストクッションを指掛けに装着した状態の平面図。
【図3】(A)は、図2のA矢視図、(B)は、同図のB矢視図、(C)は、同図のC矢視図、(D)は、同図のD矢視図。
【図4】従来例に係るサムレストクッションの概略斜視図。
【図5】(A)は、他の従来例に係るサムレストクッションの平面図、(B)は、図5(A)のE矢視図、(C)は、図5(A)のF矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1〜図3において、サムレストクッション10は、クラリネットCの指掛け部Sに着脱自在に取り付け可能に設けられている。指掛け部C1は、クラリネットCの管体C1に沿って設けられて当該管体C1連結される連結部S1と、この連結部S1に連なって管体C1から離れる方向に突出する突出部S2とを備えたアングル状に形成されている。
【0018】
サムレストクッション10は、指掛け部Sの突出部S2をカバーするように装着される本体部11と、この本体部11の図1中下面に形成される接触面部12と、この接触面部12に連設されて同図中下方に膨出する膨出部13とを備えて構成されている。サムレストクッション10は、弾力性を有する樹脂材等を用いて一体的に形成されている。
【0019】
前記本体部11は、突出部S2を受容する空間15を内部に備えて当該突出部S2をカバーするように設けられている。具体的には、突出部S2の上方(図2中手前側)に位置する頂壁16及び下方(同図中奥行き側)に位置する底壁17と、これら頂壁16及び底壁17の間に設けられて突出部S2の外縁に沿う周壁18と、頂壁16、底壁17及び周壁18の図2中上端側に形成されて前記空間15に通じる開口20とを備えている。底壁17の図1中下面は平面とされて前記接触面部12を形成し、奏者の右手親指SUの上に接触するようになっている。頂壁16及び底壁17は、図2中下方から上方に向かって半円より長い円弧状の外縁を備えている。この外縁を形成する円弧の中心P1は、クラリネットCの管体C1の軸中心位置O1と突出部S2先端とを結ぶ仮想線L1上に設定されている。開口20は、意図的な外力を付与することで、その開口面積を拡大可能に設けられ、外力を解除することで、図に示される開口形状に復帰可能となっている。これにより、開口20を通じて空間15に突出部S2の出し入れを許容し、空間15内に突出部S2を受容させたときに不用意に脱落することを防止できるようになっている。
【0020】
前記膨出部13は、接触面部12より図3(A)〜(D)中下方に膨出するように設けられている。膨出部13は、演奏姿勢の奏者が見たとき、すなわち、図2において、接触面部12との境界位置13Aが円弧状に設けられている。膨出部13の下面は、球面に沿う外周面形状に設けられている。膨出部13の下方への最大膨出位置13Pは、当該膨出部13の形成領域における前記底壁17外縁を形成する円弧の延出方向中央位置付近とされ、図2中前記仮想線L1より奏者の右手親指SUの指先側すなわち同図中左側に変位した位置に設定されている。具体的には、前記円弧の中心P1と最大膨出位置13Pとを結ぶ線L2と、前記仮想線L1とのなす角度θが30°に設定されている。なお、前記角度θが5°以上50°以下の範囲内において、膨出部13の形成位置を変更してもよい。
【0021】
従って、このような実施形態によれば、膨出部13を前述した形成位置、形状に設定したので、奏者が右手親指SUの上に接触面部12を載せることで、クラリネットCを安定して保持することができ、奏者の親指SU以外の運指を妨げたり、人間工学的見地から不自然で使い難くなることを防止することができる。具体的には、奏者がクラリネットCを構えたときに、膨出部13が右手親指SU裏側(手の甲側)の反りに添いつつ、通常は親指SUと膨出部13とが触れるか触れないくらいの位置関係にすることができる。演奏時には、奏者によって膨出部13の存在が感じられるようになり、クラリネットCの保持にあたり安定感及び安心感をもたらすことができ、また、右手親指SUのアングルが前記仮想線L1に対し直角にならず、クラリネットCに対し、親指SUの付け根側がクラリネットCから離れる方向に保たれるようになる。更に、演奏中の運指の態様によっては、親指SUに掛かるように膨出部13が接触し、この接触によってクラリネットCが支えられてスムースな運指を補助することが可能となる。
【0022】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上説明した実施形態に対し、形状、位置若しくは配置等に関し、必要に応じて当業者が様々な変更を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0023】
例えば、本発明は、クラリネットCの他、オーボエ等の木管楽器に適用することができる。
【0024】
また、接触面部12を形成する底壁17の外縁形状は、演奏姿勢の奏者が見たときに楕円弧状にする等、種々の変更が可能である。更に、前記境界位置13Aの形状も、楕円弧状等に変更してもよい。
【符号の説明】
【0025】
10・・・サムレストクッション、11・・・本体部、12・・・接触面部、13・・・膨出部、13P・・・最大膨出位置、C・・・クラリネット(木管楽器)、S・・・指掛け部、SU・・・親指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木管楽器の指掛け部に装着される本体部と、この本体部に形成されて奏者の親指が接触する接触面部と、この接触面部に連設された膨出部とを備えたサムレストクッションであって、
前記膨出部の最大膨出位置は、演奏姿勢の奏者が見たときに、木管楽器の管体の軸中心位置と指掛け部先端とを結ぶ仮想線より前記親指の指先側に変位した位置に設定されていることを特徴とするサムレストクッション。
【請求項2】
前記接触面部は、演奏姿勢の奏者が見たときに、前記仮想線上に中心がある円弧状或いは楕円弧状の外縁を備え、この中心と前記膨出部の最大膨出位置とを結ぶ線と、前記仮想線とのなす角度が5°以上50°以下に設定されていることを特徴とする請求項1記載のサムレストクッション。
【請求項3】
前記膨出部は、球面に沿う外周面形状に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のサムレストクッション。
【請求項4】
前記膨出部は、演奏姿勢の奏者が見たときに、接触面部との境界位置が円弧状或いは楕円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のサムレストクッション。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate