説明

サラセミアを処置する方法

本明細書は、Jak2阻害剤の治療的有効量を投与することを含む、それを必要とする患者において、遺伝的血液障害の少なくとも1つの症状、例えば、鎌状赤血球障害又はサラセミアを処置、改善、又は遅延させる方法を提供する。また部分的には、Jak2阻害剤の治療的有効量を投与することを含む、サラセミアを患う患者の脾臓腫大を減少させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年8月5日に出願された米国特許出願第61/086,233号の優先権を主張するものであり、その全文が参照することにより本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
サラセミア及び鎌状赤血球貧血は、異常ヘモグロビン分子の形成を引き起こす遺伝的血液障害であり、低い赤血球数をもたらす。ヘモグロビンは2つの異なるタンパク質、α及びβから成る。体がこれら2つのタンパク質のいずれかを十分産生しない場合、赤血球は正常に生成せず、十分な酸素を運搬することができない。
【0003】
最も一般的な先天性貧血の1つであるβサラセミアは、βグロビン合成の部分的又は完全欠損から生じる。本疾患の中等症及び時にクーリー病と呼ばれる重症型の両方において、患者は生命を維持するために定期的な輸血を必要とする可能性がある。サラセミア患者において体から鉄を除去する自然の方法はないことから、輸血された血液中の鉄は鉄過剰として知られている状況に増加し、そして組織及び臓器、特に肝臓及び心臓に毒性を示す。結果として、患者はしばしば鉄キレート療法を受ける必要がある。
【0004】
サラセミアの一般的症状は、体内の奇形赤血球の増加に起因する脾臓腫大又は脾腫を含む。脾臓は、体を損傷から保護するためにこれらの障害細胞を取り除くように機能するが、しかしサラセミア患者では脾臓は最終的に肥大化し、そして潜在的な致死的破裂を防止するために一般的には外科摘出される。不幸にも、脾臓除去後、患者は卒中と感染のより多くのリスクに曝される。更に、脾臓除去は命にかかわる血餅の増加を引き起こす可能性がある。脾臓除去後、患者は免疫不全状態であり、一般的に終生予防的経口抗生物質管理下におかれる。
【0005】
無効造血(ineffective erythropoiesis)、又は血球産生不良を推進する生物学的メカニズムは、完全には解明されていない。従って、これらのメカニズムを解明し、サラセミアなどの遺伝的血液障害の処置及び/又は管理の1つ又はそれ以上のこれらの方法の調節剤として有用な化合物を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
概要
本明細書では、Jak2阻害剤によるサラセミア及び鎌状赤血球貧血などの遺伝的血液障害を処置し及び/又は管理する方法が提供される。当該Jak2阻害剤は本明細書に開示された化合物を含む。代表的な方法は、Jak2阻害剤を用いるサラセミアマイナー、中間型サラセミア、及びサラセミアメジャーの処置を含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの実施態様では、Jak2阻害剤及び/又は本明細書で提供される化合物、例えば、下記に定義される式Iで表わされる化合物の治療的有効量を投与することを含む、それを必要としている患者において遺伝的血液障害の少なくとも1つの症状を処置し、改善し、又は遅延させる方法が提供される。例えば、遺伝的血液障害は、サラセミア、例えば、βサラセミアであってよい。特定の実施態様では、遺伝的血液障害の少なくとも1つの症状を遅延させる方法は、症状が脾臓腫大である、それを必要としている患者に提供される。
【0008】
例えば、Jak2阻害剤の治療的有効量を投与することを含む、サラセミアを患う患者において脾臓腫大を減少させる方法が提供される。Jak2阻害剤の治療的有効量を投与することを含む、サラセミアを患う患者において鉄過剰を抑制し又は減少させる方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】BMT後2か月マウスにおける溶血マーカー(A)ビリルビン及び(B)LDH(N≧6/遺伝子型)、(C)Epoレベル、及び(D)1年齢までのマウスにおけるEpo及びHbレベルを示す。(C)では、ノンパラメトリックt‐検定を統計解析に使用した;N≧3/遺伝子型;野生型動物と比べて、th3/+及びth3/th3マウスについてそれぞれp=0.0370()及びp=0.0008(***)である。th3/+及びth3/th3マウスは、それぞれ+/−及び−/−マウスと表示される。Epoレベルは、1年齢まで又はBMT後1年の野生型(スクエア、n=17)無作為マウス及びth3/+(トライアングル、n=18)マウスで測定された。ピアソンr検定を用いて、Hb及びEpoレベル(野生型、非有意、p=0.0867;th3/+、p=0.0296)。
【図2】以下のFACS解析を示す。(A)CD71及びTer119に対する抗体で共染色したCFSE処理細胞のFACS解析を示す。コルセミド又はAG490の存在下に培養したwtマウスからの赤血球系細胞(点線)は、未処理細胞とほとんど差を示さなかった。7−AAD、PI及びアネキシン−Vによる染色では、死細胞及びアポトーシス細胞を排除した(n=4/遺伝子型)。48時間後、それ以上の細胞の増殖は認められず、代わりに細胞数の減少が見られることから、これらの細胞はこれらの組織培養条件下で増殖するための固有自己維持能力を有さないことを示した;(B)Jak2のリン酸化型を認識する抗体を用いる新たに精製した赤血球系細胞のFACS解析(矢印が示す線)を示す。抗体の特異性の対照として、競合ペプチドとインキュベーション後に同じ細胞を抗体によって染色した(n=3/遺伝子型)。
【図3】結果として生じたHb、及び動物にJak2阻害剤又はプラセボを投与した後の脾臓解析を示す。Hbレベル、脾臓重量、動物齢及び処置日数が示されている。
【図4】Jak2阻害剤又はプラセボの投与後の代表的動物の脾臓サイズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本開示は、サラセミアにおける無効造血(IE)が限定的な赤血球系細胞分化によって特徴付けられ、そしてサラセミア細胞が細胞周期促進遺伝子Jak2の発現と関連しているという発見に一部由来する。
【0011】
本発明の更なる説明の前に、本明細書、実施例及び添付の特許請求の範囲において用いられる特定の用語がここに収集されている。これらの定義は、当然のことながら当業者により本開示の残部を考慮して読み取り、そして理解されるべきものである。特に明記しない限り、本明細書で使用される全ての専門及び科学用語は、当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0012】
用語「治療効果」は当技術分野で認められており、薬理活性物質によって引き起こされる、動物、特に哺乳動物、更に具体的にはヒトにおける局所的又は全身的作用を指す。従ってこの用語は、診断、治療、緩和、処置又は予防に、又は動物若しくはヒトにおける望ましい身体的若しくは精神的発達の強化及び/又は病態に使用するためのいずれの物質をも意味する。語句「治療的有効量」は、いずれの処置にも適応可能な合理的便益/リスク比で幾つかの望ましい局所的又は全身的作用をもたらすような物質の量を意味する。当該物質の治療的有効量は、処置すべき対象者及び病状、対象者の体重及び年齢、病状の重症度、投与方法などによって変動するものであり、当業者によって容易に決定することができる。例えば、本発明の特定の組成物は、当該処置に適用できる合理的便益/リスク比で生じるのに十分な量で投与することができる。
【0013】
対象方法によって処置される「患者」、「対象者」又は「宿主」はヒトか又は非ヒトを意味する。
【0014】
用語「処置すること」は当技術分野で認められており、少なくとも1つのいずれかの病態又は疾患を治療する並びに改善することを指す。
【0015】
用語「アルキル」は当技術分野で認められており、そして直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基を含む飽和脂肪族基を含む。特定の実施態様では、直鎖又は分枝鎖アルキルは、その骨格に約30個以下の炭素原子(例えば、直鎖ではC〜C30、分枝鎖ではC〜C30)、あるいは、約20個以下、例えば1〜6個の炭素を有する。同様に、シクロアルキルはそれらの環状構造中に約3〜約10個の炭素原子を有し、あるいは環状構造中に約5、6又は7個の炭素を有する。用語「アルキル」は、また、ハロ置換アルキルを含むと定義される。
【0016】
更に、用語「アルキル」(又は「低級アルキル」)は「置換アルキル」を含み、水素を炭化水素骨格の1個又はそれ以上の炭素で置換する置換基を有するアルキル部分を指す。当該置換基は、例えば、ヒドロキシル、カルボニル(カルボキシル、アルコキシカルボニル、ホルミル、又はアシルなど)、チオカルボニル(チオエステル、チオアセテート、又はチオホルマートなど)、アルコキシル、ホスホリル、ホスホネート、ホスフィナート、アミノ、アミド、アミジン、イミン、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキルチオ、サルフェ−ト、スルホネート、スルファモイル、スルホンアミド、スルホニル、複素環、アラルキル、又は芳香族若しくは芳香族複素環部分を含んでもよい。当業者には当然のことながら、炭化水素鎖で置換される部分は、適切な場合それ自体置換されてもよい。例えば、置換アルキルの置換基は、アミノ、アジド、イミノ、アミド、ホスホリル(ホスホネート及びホスフィナートを含む)、スルホニル(サルフェ−ト、スルホンアミド、スルファモイル及びスルホネートを含む)、及びシリル基の置換及び非置換型、並びにエーテル、アルキルチオ、カルボニル(ケトン、アルデヒド、カルボキシレート、及びエステルを含む)、−CNなどを含んでもよい。代表的な置換アルキルは下記に記載される。シクロアルキルは、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルキルチオ、アミノアルキル、カルボニル置換アルキル、−CNなどで更に置換されてもよい。
【0017】
用語「アラルキル」は当技術分野で認められており、アリール基(例えば、芳香族又は芳香族複素環基)で置換されたアルキル基を指す。
【0018】
用語「アルケニル」及び「アルキニル基」は当技術分野で認められており、長さの類似した不飽和脂肪族基及び上記のアルキルへの可能な置換を指すが、それはそれぞれ少なくとも1つの二重結合及び三重結合を含む。用語「アルキレン」は不飽和脂肪族炭化水素から形成される有機ラジカルを指し;「アルケニレン」は炭素−炭素二重結合を含む非環式炭素鎖を表わす。
【0019】
炭素数は他に特定されなければ、「低級アルキル」は上記のようにアルキル基を指すが、その骨格構造中に1〜約10個までの炭素、あるいは1〜約6個までの炭素原子を有する。同様に、「低級アルケニル」及び「低級アルキニル」は類似の鎖長を有する。
【0020】
用語「ヘテロ原子」は当技術分野で認められており、炭素又は水素以外のいずれの元素の原子をも指す。具体的なヘテロ原子はホウ素、窒素、酸素、リン、硫黄及びセレンを含む。
【0021】
用語「アリール」は当技術分野で認められており、0〜4個のヘテロ原子を含んでもよい5、6及び7員単環芳香族基、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン及びピリミジンなどを指す。環状構造中にヘテロ原子を有するそれらのアリール基も、また、「ヘテロアリール」又は「芳香族複素環」と見なされる。芳香族環は1つ又はそれ以上の環位置で、上記の当該置換基、例えば、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又は芳香族複素環部分、−CF、−CNなどで置換されてもよい。用語「アリール」も、また、2個又はそれ以上の炭素が2つの隣接環(環は「縮合環」である)に共通である、2つ又はそれ以上の環式環を有する多環式環系を含み、ここで、少なくとも1つの環は芳香族であり、例えば、他の環式環はシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール及び/又は複素環である。
【0022】
用語オルト、メタ及びパラは当技術分野で認められており、それぞれ1,2−、1,3−及び1,4−ジ置換ベンゼンを指す。例えば、名称として1,2−ジメチルベンゼン及びオルト−ジメチルベンゼンは同義語である。
【0023】
用語「複素環」又は「複素環基」は当技術分野で認められており、3から約10員環状構造、あるいはその環状構造が1〜4個のヘテロ原子を含む、3から約7員環を指す。複素環は多環であってよい。複素環基は、例えば、チオフェン、チアントレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサンテン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ピリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェナルサジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、オキソラン、チオラン、オキサゾール、ピペリジン、モルホリン、ラクトン、アゼチジノンなどのラクタム及びピロリジノン、スルタム、スルトンなどを含む。複素環は、上記のような置換基、例えば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィナート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、複素環、芳香族又は芳香族複素環部分、−CF、−CN、又は同種のものなどと1つ又はそれ以上の位置で置換されてもよい。
【0024】
用語「炭素環」は当技術分野で認められており、環の各原子が炭素である芳香族又は非芳香族環を指す。
【0025】
用語「ニトロ」は当技術分野で認められており、−NOを指す;用語「ハロゲン」は当技術分野で認められており、−F、−Cl、−Br又は−Iを指す;用語「スルフヒドリル」は当技術分野で認められており、−SHを指す;用語「ヒドロキシル」は−OHを意味する;そして用語「スルホニル」は当技術分野で認められており、−SOを指す。
【0026】
用語「アミン」及び「アミノ」は当技術分野で認められており、非置換及び置換アミンの両方、例えば、以下の一般式によって表わすことができる部分を指す:
【化1】

式中、R50、R51及びR52は、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、−(CH−R61を表し、又はR50及びR51は、それらが結合しているN原子と一緒になって、環状構造中に4〜8個の原子を有する複素環を形成する;R61は、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、複素環又は多環を表わす;そしてmは0又は1〜8の範囲の整数である。特定の実施態様では、R50又はR51のうちのただ1つはカルボニルであってよく、例えば、R50、R51及び窒素は一緒になってイミドを形成しない。他の実施態様では、R50及びR51(場合によりR52)は、それぞれ独立に、水素、アルキル、アルケニル、又は−(CH−R61を表わす。このように、用語「アルキルアミン」は、それに結合した置換又は非置換アルキルを有する上記のように定義されるアミノ基を含み、すなわち、R50及びR51の少なくとも1つはアルキル基である。
【0027】
用語「アミド」はアミノ置換カルボニルとして当技術分野で認められており、以下の一般式で表わすことができる部分を含む:
【化2】

式中、R50及びR51は上記のように定義される。本発明におけるアミドの特定の実施態様は、不安定と考えられるイミドを含むことができない。
【0028】
用語「アシルアミノ」は当技術分野で認められており、以下の一般式によって表わすことができる部分を指す:
【化3】

式中、R50は上記のように定義され、そしてR54は、水素、アルキル、アルケニル、又は−(CH−R61を表わし、ここで、m及びR61は上記のように定義される。
【0029】
用語「アルキルチオ」は、それに結合した硫黄ラジカルを有する上記に定義したアルキル基を指す。特定の実施態様では、「アルキルチオ」部分は、1つの−S−アルキル、−S−アルケニル、−S−アルキニル、及び−S−(CH−R61によって表わされ、ここで、m及びR61は上記に定義される。代表的なアルキルチオ基は、メチルチオ、エチルチオなどを含む。
【0030】
用語「カルボニル」は当技術分野で認められており、以下の一般式で表わすことができるような部分を含む:
【化4】

式中、X50は化学結合であるか又は酸素若しくは硫黄を表わし、そしてR55及びR56は水素、アルキル、アルケニル、−(CH−R61又は薬学的に許容される塩を表わし、R56は水素、アルキル、アルケニル又は−(CH−R61を表わし、ここで、m及びR61は上記に定義される。X50が酸素であり、そしてR55又はR56が水素ではない場合、この式は「エステル」を表わす。X50が酸素であり、そしてR55が上記のように定義される場合、この部分は本明細書ではカルボキシル基と呼ばれ、そして特にR55が水素の場合、この式は「カルボン酸」を表わす。X50が酸素であり、そしてR56が水素の場合、この式は「ホルマート」を表わす。一般的に、上記式の酸素原子が硫黄によって置換される場合、この式は「チオールカルボニル」基を表わす。X50が硫黄であり、そしてR55又はR56が水素ではない場合、この式は「チオールエステル」を表わす。X50が硫黄であり、そしてR55が水素の場合、この式は「チオールカルボン酸」を表わす。X50が硫黄であり、そしてR56が水素の場合、この式は「チオールホルマート」を表わす。他方、X50が化学結合であり、そしてR55が水素ではない場合、上記式は「ケトン」基を表わす。X50が化学結合であり、そしてR55が水素の場合、上記式は「アルデヒド」基を表わす。
【0031】
各表示、例えば、アルキル、m、nなどの定義は、それがいずれの構造においても1つ以上存在する場合、同じ構造の他の部分ではその定義と無関係であることを意図している。
【0032】
本発明の組成物に含まれる特定の化合物は、特定の幾何又は立体異性体で存在してもよい。加えて、本発明の重合体も、また、光学活性であってよい。本発明は、シス及びトランス異性体、R及びSエナンチオマー、ジアステレオマー、(D)異性体、(L)異性体、そのラセミ混合物、及びその他の混合物を含む全ての当該化合物が、本発明の範囲に入ることを意図している。更なる不斉炭素原子がアルキル基などの置換基中に存在してもよい。全ての当該異性体、並びにその混合物は、本発明に含まれることが意図されている。
【0033】
例えば、本発明の化合物の特定のエナンチオマーが求められる場合、それは不斉合成によって、又はキラル補助基を用いる誘導体化によって製造してもよく、その場合、得られたジアステレオマー混合物は分離され、そして補助基は切断されて、純粋な所望のエナンチオマーを与える。あるいは、分子がアミノなどの塩基性官能基、又はカルボキシルなどの酸性官能基を含む場合、ジアステレオマー塩が適切な光学活性の酸又は塩基により形成され、続いてこのようにして形成されたジアステレオマーは、当技術分野で周知の分別晶出又はクロマトグラフィー手段により分割され、引き続いて純エナンチオマーが回収される。
【0034】
当然のことながら、「置換」又は「で置換された」は、当該置換が置換される原子及び置換基の許容原子価と一致すること、及び置換が、例えば、転位、環化、脱離、又は他の反応によるなどの変換を自発的に受けない安定な化合物をもたらすという暗黙の条件を含む。
【0035】
用語「置換された」も、また、有機化合物の全ての許容置換基を含むことを意図している。広い解釈では、許容置換基は、有機化合物の非環状及び環状、分枝鎖及び非分枝鎖、炭素環及び複素環、芳香族及び非芳香族置換基を含む。具体的な置換基は、例えば、上記の本明細書に記載の置換基を含む。許容置換基は、適切な有機化合物に対して1つ又はそれ以上であっても、そして同じでも又は異なってもよい。本発明の目的のため、窒素などのヘテロ原子は、水素置換基及び/又はヘテロ原子の原子価を満たす本明細書に記載の有機化合物のいずれの許容置換基を有してもよい。本発明は、有機化合物の許容置換基によっていかなる限定をも受けるものではない。
【0036】
本発明の目的のため、化学元素は、元素周期律表、CAS版、「化学及び物理学便覧」(Handbook of Chemistry and Physics), 67th Ed., 1986−87, インサイドカバーによって確認される。また、本発明の目的のため、用語「炭化水素」は、少なくとも1個の水素及び1個の炭素原子を有する全ての許容化合物を含むことを意図している。広い解釈では、許容炭化水素は、置換又は非置換であってよい非環状及び環状、分枝鎖及び非分枝鎖、炭素環及び複素環、芳香族及び非芳香族有機化合物を含む。
【0037】
用語「薬学的に許容される塩」は当技術分野で認められており、例えば、本発明の組成物に含まれるものを含む、化合物の相対的に非毒性の、無機及び有機酸付加塩を指す。
【0038】
用語「薬学的に許容される担体」は当技術分野で認められており、1つの臓器、又は体の部分から、別の臓器、体の部分までいずれの対象組成物又はその成分をも運搬し又は輸送することにかかわる、薬学的に許容される物質、組成物、又は液体若しくは固体増量剤、賦形剤、医薬品添加剤、溶媒若しくはカプセル化剤などのビヒクルを指す。各担体は、対象組成物及びその成分と適合するという意味で「許容性」であり、そして患者に非有害性でなければならない。薬学的に許容される担体としての機能を果たし得る物質の幾つかの例としては:(1)ラクトース、グルコース及びショ糖などの糖;(2)トウモロコシ澱粉及びジャガイモ澱粉などの澱粉;(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びセルロースアセテートなどのセルロース、及びその誘導体;(4)トラガント末;(5)モルト;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバター及び坐剤蝋などの医薬品添加剤;(9)ピーナツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張食塩水;(18)リンガー液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;及び(21)医薬製剤において用いられる他の非毒性適合物質を含む。
【0039】
方法
小分子量Jak2阻害剤(例えば、約100g/mol〜約700g/mol、又は約400g/mol〜約600g/molの分子量(例えば、遊離塩基分子量)を有するJak2阻害剤)などの、Jak2阻害剤の治療的有効量を、それを必要としている患者に投与することを含む、サラセミア又は鎌状赤血球貧血などの遺伝的血液障害を処置し及び/又は改善し、又はその少なくとも1つの症状を遅延させ若しくは改善する方法が、本明細書において意図される。幾つかの実施態様では、Jak2阻害剤は本明細書で提供される式Iの化合物によって表わされる。サラセミアの典型的な症状は脾臓腫大及び/又は貧血を含む。症状は、過剰鉄吸収を含んでもよく、それらは骨粗鬆症、例えば続発性骨粗鬆症を含む、過剰鉄吸収に因る無効造血から生じる。
【0040】
1つの実施態様では、Jak2阻害剤、例えば、式Iの化合物の治療的有効量を投与することを含む、サラセミアを患う患者における脾臓腫大を改善し又は遅延させる方法が提供される。例えば、輸血非依存性中間型βサラセミア患者は、脾腫を患う場合、輸血療法の必要性が生じ、そして最終的に脾臓摘出を受ける可能性がある。例えば、中間型サラセミア及び脾腫を患う患者は、脾臓サイズを減少させるためにJak2阻害剤で一時的に処置し、その間更なる貧血を防止するために輸血も使用することになる。
【0041】
幾つかの実施態様では、サラセミアを患い、そしてJak2阻害剤投与を受けている患者の脾臓サイズは、サラセミアを患って、そしてJak2阻害剤投与を受けていない類似の脾臓サイズの患者と比べて、10%、20%、30%、40%、又は5%以上も減少する可能性がある。
【0042】
本明細書で提供される遺伝的血液障害の少なくとも1つの症状を処置し、改善し又は遅延させる方法は、例えば、鎌状赤血球病、αサラセミア、δサラセミア、及びβサラセミアの処置を対象とする方法を含む。本明細書で意図される処置は、サラセミアマイナー、中間型サラセミア、サラセミアメジャー(クーリー病)、e−βサラセミア、及び鎌状βサラセミアを患う患者の処置を含む。開示化合物を投与することを含む、例えば、サラセミアを患う患者においてキレート療法の頻度を低下させる典型的な方法が、本明細書で提供される。
【0043】
化合物
提供される方法において使用するために、Jak2阻害剤が本明細書で意図される。別の実施態様では、式Iの化合物が提供される方法において使用するために意図される。当該化合物は、例えば、Jak2阻害剤であってよい。式Iの化合物は、以下の式によって表される化合物を含む:
【化5】

式中、Aはアルキレン(例えば、C〜Cアルキレン)又はNRから成る群から選択され、Qは、環状炭素を通してAに結合した単環若しくは二環アリール、又は単環若しくは二環ヘテロアリールであってよく、ここで、Qは、ハロ、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルコキシ、NR’、アミド、カルボキシル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、ウレイド、N−アルキルスルファモイル、N−アルキルカルバモイル、カルボキサミド、スルファモイル、カルバモイル、ヘテロアリール、複素環、−NR−C(O)−NR’−フェニル、SONH−シクロアルキル;SONH−複素環、SOH、SO−(C〜C)アルキル、SO−複素環、又はC(O)−複素環、ここで、複素環、フェニル又はシクロアルキルは、もしあればいずれも、C〜Cアルキルによって置換されてもよい、から成る群からそれぞれ独立に選択される、1、2又は3個の置換基によって置換されてもよい。例えば、Qは、フェニル、ナフチル、キノリン、ベンゾチオフェン、インドール、又はピリジンによって置換されてもよい。特定の実施態様では、Qは、1つのN−tert−ブチルスルホンアミドによって置換されてもよいフェニルである。
【0044】
及びR’は、存在する場合はいずれも独立に、H又はC〜Cアルキルから選択することができ、例えば、メチル、又はエチルであってよい。
【0045】
は、H、シアノ、又はC〜Cアルキル、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピルなどである。特定の実施態様では、Rはメチルである。
【0046】
BはN又はCRであり、ここで、RはH、ハロ、又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ;又はアルコキシカルボニルから成る群から選択される。
【0047】
Yは、化学結合、−O−アルキレン;−SO−、−SO−NR−アルキレン−、−O−、アルキレン及び−C(O)−から成る群から選択することができ、ここで、Rは上記で定義される。特定の実施態様では、Yは置換されていてもよいメチレンである。別の実施態様では、Yは−O−CH−CH−である。
【0048】
は、H、ハロ、ヒドロキシル及びRから成る群から選択され、ここで、Rは、環状炭素又はヘテロ原子を通してYに結合した単環複素環又はヘテロアリールであり、ここで、Rは、ハロ、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、C〜Cアルキル、カルボキシル、アルカノイル又はアルコキシカルボニルから成る群からそれぞれ独立に選択される、1、2又は3個の置換基により置換されていてもよい。特定の実施態様では、Rは、ピロリジル、ピペラジニル、モルホリニル、又はピペリジニル、テトラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、又はピリジニルから成る群から選択される。
【0049】
もしあればいずれも、式Iにおいて、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルコキシ又はアルキレン(例えば、C〜Cアルキレン)は、ハロ、アミノ、ヒドロキシル又はシアノにより1、2、3回又はそれ以上置換されてもよい。式Iの化合物の薬学的に許容されるその塩又はN−オキシドも、また、本明細書で意図されるものである。
【0050】
特定の実施態様では、Qは以下の式によって表わすことができる:
【化6】

式中、R、R及びRは、存在する場合はいずれも独立に、H、ハロ、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、アミド、カルボキシル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、N−アルキルスルファモイル、N−アルキルカルバモイル、カルボキサミド、スルファモイル、カルバモイル、SOH及びSO−(C〜C)アルキルから成る群から選択される。
【0051】
本明細書で提供される方法において使用するために意図される典型的な化合物は、下記化合物、又はそれらの薬学的に許容される塩及び/又はN−オキシドを含む:
【化7】


















【0052】
特許請求される方法で使用するために本明細書で提供される化合物は、第2の部分に化学的に結合した第1の部分によって表わされる化合物、又は薬学的に許容されるそれらの塩若しくはN−オキシドを含み、ここで、第1の部分は以下の式から成る群から選択される:
【化8】





かつここで、第2の部分は以下の式から成る群から選択される:
【化9】




【0053】
本発明の化合物はJak2阻害剤であってよい。典型的なJak2阻害剤は、以下の化学構造を有する化合物A又は薬学的に許容されるその塩である:
【化10】


【0054】
別の実施態様では、本明細書で意図される方法を用いて使用するための典型的な化合物は、以下の式又は薬学的に許容されるその塩によって表わすことができる:
【化11】


【0055】
例えば、化合物のIC50値は、例えば、組換えJAK2によるルミネッセンスに基づくキナーゼ分析を用いて決定することができる。当該Jak2阻害特性は、例えば、2006年10月25日に出願された米国特許出願第11/588,638号、及び2007年4月26日に出願された米国特許出願第11/796,717号において提供されているが、その両者とも参照することによりそれらの全文が本明細書に組み入れられている。
【0056】
本明細書に開示された化合物は、2006年10月25日に出願された米国特許出願第11/588,638号及び2007年4月26日に出願された米国特許出願第11/796,717号に開示されたような方法及び手順を用いて作製することができるが、その両者とも参照することによりそれらの全文が本明細書に組み入れられている。
【0057】
投薬量
本発明のいずれの組成物の投薬量も、患者の症状、年齢及び体重、処置し又は予防する障害の性質及び重症度、投与経路、及び対象組成物の形態によって変動してもよい。対象組成物のいずれも単回用量で又は分割用量で投与することができる。本発明の組成物の投薬量は、当業者に周知の又は本明細書に示される技術により容易に決定することができる。
【0058】
特定の実施態様では、対象組成物の投薬量は、一般的に約0.01ng〜約10g/kg体重の範囲、具体的には約1ng〜約0.1g/kgの範囲、そしてより具体的には約100ng〜約10mg/kgの範囲であってよい。
【0059】
有効用量又は有効量、及び製剤の投与のタイミングに及ぼすいずれの可能な影響も、本発明のいずれの特定の組成物に対して特定する必要があると考えられる。これは、1つ又はそれ以上の動物群(好ましくは少なくとも5つの動物/群)を用いて、本明細書に記載のルーチン実験によって、又は適切な場合ヒトの治験で得ることができる。いずれかの対象組成物及び処置又は予防の方法の有効性は、組成物を投与し、そして1つ又はそれ以上の適用可能な指標を測定することによって投与効果を評価し、そして処置後のこれらの指標値を処置前の同じ指標値と比較することによって評価することができる。
【0060】
所定の患者に最も有効な処置を与えることができるいずれの特定の対象組成物も、その正確な投与時間及び量は、活性、薬物動態、及び対象組成物のバイオアベイラビリティ、患者の生理的状態(年齢、性別、疾患型及び病期、全身的身体状態、所定の投薬量及び薬物治療のタイプに対する反応)、投与経路などに依存する可能性がある。本明細書に提示されるガイドラインは、処置を最適化する、例えば、投与の最適時間及び/又は投与量を決定するために使用することができ、それにより対象をモニタリングし、そして投薬量及び/又はタイミングを調整することから成るルーチン実験だけが必要となる。
【0061】
対象が処置されている間に、患者の健康は、処置期間中所定時間に1つ又はそれ以上の関連指標を測定することによってモニタリングすることができる。組成物、量、投与時間及び製剤を含む処置は、このようなモニタリングの結果に従って最適化することができる。患者は、同じパラメータを測定することによる改善の程度を明らかにするために、定期的に再評価され得る。投与された対象組成物の量及び投与時間の可能な調整は、これらの再評価に基づいて行うことができる。
【0062】
処置は、化合物の最適用量より小さい投薬量で開始することができる。その後、投薬量は、最適治療効果が達成されるまで微増によって増加してもよい。
【0063】
対象組成物の使用は、異なる薬剤の効果の発現及び持続が補完的であることから、組成物に含まれるいずれかの個々の薬剤に対して要求される投薬量を減少させる可能性がある。
【0064】
対象組成物の毒性及び治療効果は、例えば、LD50及びED50を決定するための、細胞培養又は実験動物における標準薬学的手順によって決定することができる。
【0065】
細胞培養分析及び動物研究から得られるデータは、ヒトで使用するための投薬量の範囲を定めるのに使用してもよい。いずれの対象組成物の投薬量も、好ましくは少毒性又は無毒性のED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は用いた剤形及び使用した投与経路によりこの範囲内で変動してもよい。本発明の組成物では、治療的有効用量を始めに細胞培養分析から推定することができる。
【0066】
製剤
本発明の組成物は、当業者に周知のように、それらの使用目的により種々の手段で投与してもよい。例えば、本発明の組成物を経口で投与する場合、それらは錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤又はシロップ剤として製剤化してもよい。あるいは、本発明の製剤は、注射剤(静脈内、筋肉内又は皮下)、点滴静注製剤、坐剤又は鼻内投与(例えば、鼻を経て脳へ投薬量をデリバーするため、又は直接鼻へ投薬量をデリバーするため)として、又は吸入(例えば、気道の病態を処置するため、又は気道を経て前処置し若しくはワクチン接種するため)により、非経口で投与してもよい。
【0067】
以下に続く実施例は、決して本発明の範囲を限定することことを意図するものではなく、本発明の化合物を製造しそして使用する方法を説明するために提供される。本発明の多くの他の実施態様は、当業者には明白なものと見なすことができる。
【実施例】
【0068】
全般
マウスモデル
中間型βサラセミア (th3/+) 及び βサラセミアメジャー(th3/th3)を模倣するマウスモデルを用いた。(Rivella, S. et al, 「クーリー貧血の新しいマウスモデル及びレンチウイルス媒介ヒトβグロビン遺伝子導入によるそのレスキュー」(A novel murine model of Cooley anemia and its rescue by lentiviral mediated human beta globin gene transfer). Blood (2003) 101: 2932−2939、この文献は、参照することにより本明細書に組み入れられている)。th3/+ マウスでは、βマイナー及びβメジャー遺伝子の両方が1つの染色体から欠失している。成体βグロビン(th3/th3) を完全に欠如しているマウスは妊娠後期に死亡する。この問題を回避するために、骨髄移植が行なわれ、この場合、造血胎児肝細胞(HFLC)が胎生14.5日(E14.5)にth3/th3胚から得られ、そして致死的照射した同系野生型(wt)成体レシピエントに注射された。
【0069】
脾臓からの赤血球系細胞の精製
wt、th3/+ 及び th3/th3マウスからの脾臓を取得し、機械的に解離して単細胞懸濁液にした。次いでマウス単核細胞を、メーカー説明書に従ってLympholyte−M 密度勾配 (Cedarlane Laboratories Ltd, Westbury, NY) を用いて、遠心分離により分離した。非赤血球系FITC結合抗体(GR−1、MAC1、CD4、CD8、CD11b、及びCD49)(BD PharMingen)のそれぞれ10μgを含む混合物と、細胞を氷上で15分間インキュベートした。洗浄後、細胞を抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi Biotech, Auburn, CA)により4℃で15分間インキュベートした。細胞懸濁液を磁性カラムに入れ、溶出赤血球系細胞をRNA抽出、タンパク質解析、カルボキシフルオレッセインジアセタートスクシンイミジルエステル(CFSE; MolecularProbes, Eugene, OR)染色でのインビトロ培養又はフローサイトメトリー解析のために保存した。
【0070】
初代脾臓赤血球系細胞培養及びCFSE染色
CFSEを細胞に加えて1.25μMの最終濃度とした。37℃で10分後に、5容量の冷媒体の添加により更なる色素取り込みを防止し、そして氷中で5分間インキュベートした。次いで細胞を3回洗浄して、1×10細胞/mlにて、30%FBS(Hyclone, South Logan, UT 84321)、1%脱イオンBSA、100IU/mlのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン(Mediatech, Manassas, VA)、70.1mMのβチオグリセロール(mTG; Sigma−Aldrich)、及び0.1mMのrHuEpo(10U/ml; Amgen Mfg. Ltd. Thousand Oaks, CA)を含むIMDM中に播種した。次に細胞の等分割量を、100μMコルセミドの存在及び非存在下に、2種のJak2阻害剤として、AG490(100μM, Calbiochem−EMD Biosciences, San Diego, CA)又は化合物Aの有り及び無しの条件で培養した。
【0071】
ホスホ−Jak2分析
100万個細胞/遺伝子型を、メーカー説明書のように固定して透過処理した(Fix and Perm Kit; Invitrogen, Grand Island, NY)。細胞を、0.05μgのホスホ−Jak2ポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)又は0.05μgのアイソトープ対照(Santa Cruz Biotechnology)と30分間インキュベートした。細胞を1%BSA−PBSで2回洗浄し、次いで0.05μgの二次抗体 (Jackson ImmunoResearch, West Baltimore Pike, West Grove, PA)と暗所中室温で30分間インキュベートした。2回洗浄後、細胞を直ちにフローサイトメトリーを用いて解析した。
【0072】
ペプチド競合解析では、0.05μgのホスホ−Jak2ポリクローナル抗体を、Fix and Perm KitのMedium Bにて5倍濃度の遮断ペプチドと室温で2時間インキュベートした。次いでペプチド−抗体溶液を固定細胞に加えて、それらを上記のようにインキュベートした。
【0073】
実施例1 サラセミアマウス中のビリルビン及び乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベル
赤血球が溶血する場合に上昇するビリルビン及び乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベルは、正常マウスと比べてサラセミアでは不変か又はやや増加した(図1A及び1B)。th3/+マウスでは、これらの結果は、赤血球形成にもかかわらず限定溶血が存在することを示した。th3/th3赤血球系細胞では、αグロビン転写物の平均値が、wt動物よりも平均して3倍小さかった。th3/th3マウスにおける低いビリルビン及びLDHレベルは、それらの赤血球系細胞の限定成熟を強調するものであり、完全ヘモグロビン化細胞の形成前に造血遮断が起こることを示す。サラセミアの赤血球系細胞で示される当該未熟形態形成は、細胞周期の変化及び限定細胞分化が、鉄動態測定値に由来する早期予測と比べて本疾患に見られる低レベルのアポトーシス及び溶血に関与する可能性を示唆する。
【0074】
実施例2 Jak2阻害
正常及びサラセミアマウスの脾臓から分離した精製胚細胞を、抗有糸分裂剤、コルセミドの有り及び無しの条件でEpoの存在下に培養した。細胞分裂を視覚化するために、培養赤血球系細胞をCFSEで染色した。
【0075】
色素がいったん細胞内部に入ると、それは細胞骨格タンパク質に結合し、娘細胞間で等分に分割される。従って、CFSE蛍光の減少をモニタリングすることにより細胞が分裂しているかどうかを測定することが可能である(図2A)。48時間の培養後に、wt細胞は、それらがコルセミドの有り又は無しの条件で培養されたかどうかによっていくらかの差を示し、無細胞増殖又は限定細胞増殖を示唆した(コルセミドの有り及び無しの条件でそれぞれ初期細胞数の46±9%及び61±12%;n=4)。対照的に、大部分のth3/+及びth3/th3細胞は同じ期間にわたって増殖することができ(図2A)、総細胞数の増加をもたらした(それぞれth3/+、コルセミド有りで88±18%及び無しで132±19%; th3/th3、有りで72±25%及び無しで170±22%; n=4/各遺伝子型)。
【0076】
次いで、正常及びサラセミアの赤血球系細胞におけるJak2のリン酸化を検討した。この解析の結果、多くの割合の赤血球系細胞が、正常マウスと比べてサラセミアではホスホ−Jak2(pJak2)に陽性であった(図2B、n=3)。
【0077】
これらの結果に基づき、赤血球系培養に対するJak2阻害剤の効果を検討した。Jak2阻害剤のAG490及び化合物Aはコルセミドと同じ効果を有して、細胞増殖を阻止した(図2A、AG490での結果だけを示す)。FACSプロファイル及び総細胞数も、コルセミド及びJak2阻害剤と類似していた。総合すれば、これらのデータは、βサラセミアでの増殖細胞数の増加がJak2媒介シグナル伝達と関連していることを示唆する。
【0078】
実施例3 Jak2のインビボ投与
Jak2阻害剤の化合物Aを異なる週齢の正常及びサラセミアマウスの同齢集団に投与した。処置の10及び18日時点で、脾臓サイズが6及び12週齢で劇的に減少した(図3及び4)。これらの変化はHbレベルの減少と関連していた(図3)。これらの結果は、pJak2の主な役割が造血活力を推進させることであると示唆する。Jak2阻害剤の投与は、赤血球系が更に拡大している時点で、若齢正常動物において造血及び脾臓のサイズの両方にも影響を与えた。
【0079】
参考文献
本明細書に記載の全ての刊行物及び特許は、以下に記載されている項目を含めて、個々の刊行物又は特許が具体的にそして個別に参照することにより組み入れられるように、それらの全文が参照することによ本明細書に組み入れられている。矛盾する場合は、本明細書中のいずれの定義をも含めて、本願が支配する。
【0080】
同等物
対象発明の具体的な実施態様が議論されているが、上記詳述は説明のためであって制限するものではない。本発明の多くの変更は、本明細書を概観することにより当業者に明確になるであろう。本発明の包括的範囲は、当該変更とともに同等物、及び明細書の包括的範囲と合わせて、特許請求の範囲を参照することにより決定されるべきものである。
【0081】
特に指示がない限り、成分の量、反応条件、その他明細書及び請求の範囲で使用されるものを表わす全ての数は、当然のことながら全ての例において用語「約」によって修飾することができる。従って、逆に指示されない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載の数値パラメータは、本発明によって得ることを追及する所望の特性により変動し得る近似値である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式Iによって表される化合物、又は薬学的に許容されるその塩若しくはN−オキシドの治療的有効量を投与することを含む、それを必要としている患者においてサラセミアの少なくとも1つの症状を処置、改善、又は遅延させる方法:
【化1】

式中、
Aは、アルキレン又はNRから成る群から選択され;
Qは、環状炭素を通してAに結合した、単環若しくは二環アリール、又は単環若しくは二環へテロアリールであり、
ここで、Qは、ハロ、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルコキシ、NR’、アミド、カルボキシル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、ウレイド、N−アルキルスルファモイル、N−アルキルカルバモイル、カルボキサミド、スルファモイル、カルバモイル、ヘテロアリール、複素環、−NR−C(O)−NR’−フェニル、SONH−シクロアルキル;SONH−複素環、SOH、SO−(C〜C)アルキル、SO−複素環、又はC(O)−複素環から成る群から、それぞれ独立に選択される1、2又は3個の置換基によって置換されてもよく、ここで、複素環、フェニル又はシクロアルキルは、もし存在すればいずれも、C〜Cアルキルによって置換されてもよく;
及びR’は、存在すればいずれも独立に、H又はC〜Cアルキルから選択され;
は、H、ハロ、シアノ、又はC〜Cアルキルであり;
Bは、N又はCRであり;
は、H、ハロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ;又はアルコキシカルボニルから成る群から選択され;
Yは、化学結合、−O−アルキレン;−SO−、−SO−NR−アルキレン−、−O−、アルキレン、及び−C(O)−から成る群から選択され;
は、H、ハロ、ヒドロキシル、及びRから成る群から選択され、ここで、Rは、環状炭素又はヘテロ原子を通してYに結合した単環複素環又はヘテロアリールであり、且つ、Rは、ハロ、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、C〜Cアルキル、カルボキシル、アルカノイル、又はアルコキシカルボニルから成る群からそれぞれ独立に選択される、1、2又は3個の置換基によって置換されてもよく;
ここで、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cアルコキシ又はアルキレンは、もし存在すればいずれも、ハロ、アミノ、ヒドロキシル、又はシアノによって置換されてもよい。
【請求項2】
Qがフェニル、ナフチル、キノリン、ベンゾチオフェン、インドール又はピリジンから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
がC〜Cアルキルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
がメチルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
Yがメチレンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
Yが−O−CH−CH−である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
がピロリジル、ピペラジニル、モルホリニル又はピペリジニルから成る群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
がテトラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール又はピリジニルから成る群から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
がメチルで置換される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
Qがフェニルである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
QがN−tert−ブチルスルホンアミドである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
Qが以下の式によって表わされる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法:
【化2】

式中、R、R及びRは、存在する場合はいずれも独立に、H、ハロ、ヒドロキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、アミド、カルボキシル、アルカノイル、アルコキシカルボニル、N−アルキルスルファモイル、N−アルキルカルバモイル、カルボキサミド、スルファモイル、カルバモイル、SOH、及びSO−(C〜C)アルキルから成る群から選択される。
【請求項13】
化合物が以下から成る群から選択される、請求項1に記載の方法:
【化3】

















【請求項14】
第2の部分に化学的に結合した第1の部分によって表わされる化合物、又は薬学的に許容されるその塩若しくはN−オキシドの治療的有効量を投与することを含む、それを必要とする患者においてサラセミアを処置するか、又はサラセミアの少なくとも1つの症状を改善若しくは遅延させる方法であって、第1の部分が以下の式:
【化4】





から成る群から選択され、かつ第2の部分が以下の式:
【化5】



から成る群から選択される、方法。
【請求項15】
症状が脾臓腫大である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
症状が鉄過剰である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
以下の式から選択される化合物又は薬学的に許容されるその塩の治療的有効量を、それを必要としている患者に投与することを含む、サラセミアを処置する方法:
【化6】


【請求項18】
サラセミアがαサラセミアである、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
サラセミアがβサラセミアである、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−530517(P2011−530517A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522136(P2011−522136)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/052544
【国際公開番号】WO2010/017122
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(507062439)ターゲジェン インコーポレーティッド (8)
【Fターム(参考)】