説明

サルメテロールのモノエステル誘導体

【課題】気管支・肺部位もしくは他の投与部位からの高い生体内吸収率が期待でき、且つ、生体内でスムーズに薬理活性本体(サルメテロール)を遊離することができるサルメテロールのプロドラッグの提供。
【解決手段】サルメテロールをエステル化剤(ビニルエステル誘導体)とリパーゼの存在下で処理することにより、フェニルエタノールアミン部の一級アルコール部位を位置選択的にエステル化したサルメテロールのモノエステル誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下図の化学構造式で示される長時間作動型気管支拡張剤成分・サルメテロールのモノエステル誘導体に関するものである。
【化1】

【背景技術】
【0002】
サルメテロールは、β−アドレナリン受容体刺激性気管支拡張作用を有しており、キシナホ酸塩の形状で吸入用製剤化した製品(商品名:セレベント)が臨床現場で汎用されており、また最近、ステロイド剤であるフルチカゾンプロピオン酸エステルとの配合剤(商品名:アドエア)が開発され、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患など炎症性疾患に対して極めて有効な長時間作動型予防薬として汎用されている。しかし、吸入された際に口腔内や咽頭部に付着したサルメテロール・キシナホ酸塩のうちのかなりの部分は、これらの部位で吸収されることなく嚥下されてしまう。嚥下された薬剤の腸管循環効率はかなり低いと推測されていることから、特に吸入服薬に不慣れな小児喘息患者の場合は、気管支・肺部位からの吸収率に個人差が生ずるため、投与部位における吸収効率がキシナホ酸塩よりも高い薬剤もしくは製剤が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平3−858号公報
【特許文献2】特許2858948号公報
【特許文献3】特許3026840号公報
【特許文献4】特許3056784号公報
【特許文献5】特許3210012号公報
【特許文献6】特許3280974号公報
【特許文献7】特許3468767号公報
【特許文献8】特許3588050号公報
【特許文献9】特許3776124号公報
【特許文献10】特許3839042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、気管支・肺部位もしくは他の投与部位からの高い生体内吸収率が期待でき、且つ、生体内でスムーズに薬理活性本体(サルメテロール)を遊離することができるサルメテロールのプロドラッグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
サルメテロールは、分子内に四種類の高極性官能基(フェノール性水酸基、一級アルコール基、二級アルコール基と二級アミノ基)を有しており、通常のアシル化反応(例えば、酸無水物もしくは酸ハライドと弱塩基性物質の存在下)では四種類の高極性官能基すべてがアシル化され、それらのアシル基のうち二級アミノ基部分のアシル基は特に加水分解的脱離しにくく薬理活性本体であるサルメテロールの生体内遊離がほとんど困難である。本発明者は、サルメテロールの位置選択的エステル化につき鋭意検討した結果、所期の目的を達成する本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち、本発明によれば、下記(1)〜(5)のサルメテロール・モノエステル誘導体を提供することができる。
(1)低級脂肪酸または高級脂肪酸とサルメテロールとのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
(2)直鎖構造もしくは枝分かれ構造を有する飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸とサルメテロールとのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
(3)酵素を用いた位置選択的なエステル化により製造された請求項1又は請求項2に記載のサルメテロールのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
(4)酵素が、脂肪酸前駆体を基質とする酵素である請求項3に記載のサルメテロールのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
(5)脂肪酸前駆体を基質とする酵素が、リパーゼ又はエステラーゼである請求項4に記載のサルメテロールのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
【発明の効果】
【0007】
本発明において得られるサルメテロール・モノエステル誘導体はいずれも、酸性条件下ではかなり安定である一方、エステラーゼ存在下または中性もしくは弱アルカリ性条件下でスムーズに加水分解されてサルメテロールへ変換される。それ故、これらのモノエステル誘導体を含み様々な形態を有する製剤が生体に投与された場合、製剤中のモノエステル誘導体は、付着部位(気管支・肺部位もしくは他の部位)において効率良く生体内に移行し、血液中で酵素的もしくは非酵素的に薬理活性本体であるサルメテロールに変換されるので、β−アドレナリン受容体刺激性気管支拡張薬であるサルメテロールのプロドラッグとして利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0009】
2−アセトキシメチル−4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}フェノール(下図の化学構造式を参照)の合成
【化2】

4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(ヒドロキシメチル)フェノール (サルメテロール)20.77mg、リパーゼAK「アマノ」150mg、モレキュラーシーブス4A 500mg、酢酸 ビニルエステル23μLを含む無水アセトニトリル25mL懸濁液を37℃にて一夜激しく撹拌。反応液中の不溶物を濾去し、濾液を減圧乾固して得られる残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール、10:1→5:1で溶出)にかけて精製したところ、目的とする2−アセトキシメチル−4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}フェノール11.83mg(収率:51.7%)が油状固形物として単離できた。
1H-NMR
(CD3OD): d 1.39-1.42
(4H, m), 1.54-1.61 (4H, m), 1.63-1.72 (4H, m),
2.06 (3H, s), 2.62 (2H, br t, J= 7Hz),
2.92 (2H, br t, J= 8Hz), 3.00 (2H,
m),
3.42 (2H, br t, J= 7Hz), 3.43 (2HH,
H,
br t, J= 7Hz), 4.80 and 4.82 (each 0.5H,
each
br d, J= each 5Hz), 5.11 (2H, br s), 6.82 (1H, d, J= 8Hz), 7.11-7.26 (6H,
m),
and 7.30 (1H, d, J= 2Hz) ppm.
Mass:458.4〔MH
UV(MeOH)λmax:281(ε=2.1x10)、225(sh、ε=1.3x10)、209(ε=7.3x10)nm
IR(Film):3024、2936、2858、1733cm−1
【実施例2】
【0010】
2−デカノイルオキシメチル−4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}フェノール(下図の化学構造式を参照)の合成
【化3】

4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(ヒドロキシメチル)フェノール (サルメテロール)20.77mg、リパーゼAK「アマノ」150mg、モレキュラーシーブス4A 500mg、デカン酸 ビニルエステル56μLを含む無水アセトニトリル25mL懸濁液を37℃にて一夜激しく撹拌。反応液中の不溶物を濾去し、濾液を減圧乾固して得られる残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール、20:1→10:1で溶出)にかけて精製したところ、目的とする2−デカノイルオキシメチル−4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}フェノール20.17mg(収率:70.8%)が油状固形物として単離できた。
1H-NMR
(CD3OD): d 0.89
(3H, br t, J= 7Hz), 1.20-1.39 (16H, m), 1.39-1.42 (4H,
m),
1.54-1.61 (4H, m), 1.63-1.72 (4H, m), 2.34 (2H, br t, J= 7Hz), 2.62 (2H,
br
t, J= 7Hz), 2.94 (2H, br t, J= 8Hz), 3.00 (2H, m), 3.42 (2H, br t, J= 7Hz),
3.43 (2HH,
H,
br t, J= 7Hz), 4.81 and 4.84 (each 0.5H, each br d, J= each 5Hz),
5.12
(2H, br s), 6.82 (1H, d, J= 8Hz), 7.11-7.24 (6H, m), and 7.30 (1H, d,
J=
2Hz) ppm.
Mass:570.5〔MH
UV(MeOH)λmax:280(ε=2.4x10)、225(sh、ε=1.6x10)、209(ε=1.1x10)nm
IR(Film):3024、2926、2855、1735cm−1
【実施例3】
【0011】
4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(オクタデカノイルオキシメチル)フェノール(下図の化学構造式を参照)の合成
【化4】

4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(ヒドロキシメチル)フェノール (サルメテロール)21.44mg、リパーゼAK「アマノ」150mg、モレキュラーシーブス4A 500mg、オクタデカン酸 ビニルエステル39μLを含む無水アセトニトリル25mL懸濁液を37℃にて一夜激しく撹拌。反応液中の不溶物を濾去し、濾液を減圧乾固して得られる残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール、40:1→20:1で溶出)にかけて精製したところ、目的とする4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(オクタデカノイルオキシメチル)フェノール26.07mg(収率:75.1%)が融点70−2℃(メタノールから再結晶)の白色粉末として単離できた。
1H-NMR
(CD3OD): d 0.89
(3H, br t, J= 7Hz), 1.20-1.40 (36H, m), 1.39-1.42 (4H,
m),
1.54-1.72 (8H, m), 2.34 (2H, br t, J= 7Hz), 2.62 (2H, br t, J= 7Hz), 2.84
(2H,
br t, J= 8Hz), 2.93 (2H, d, J= 6Hz), 3.42 (2H, br t, J= 7Hz), 3.43 (2HH,
H,
br
t, J= 7Hz), 4.77 and 4.79 (each 0.5H, each br d, J= each 5Hz), 5.12 (2H,
br
s), 6.82 (1H, d, J= 8Hz), 7.11-7.24 (6H, m), and 7.30 (1H, d, J= 2Hz) ppm.
Mass:682.6〔MH
UV(MeOH)λmax:280(ε=2.4x10)、225(sh、ε=1.6x10)、209(ε=1.0x10)nm
IR(Film):3026、2923、2854、1734cm−1
なお、類似の方法を用い、オクタデカン酸 ビニルエステルの代わりにヘキサン酸またはテトラデカン酸 ビニルエステルを用いることにより、それぞれ対応する4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(アシルオキシメチル)フェノールを容易に得ることができ、それらの構造はそれぞれのNMRスペクトルから確認できた。
【実施例4】
【0012】
2−アシルオキシメチル−4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}フェノール(下図の化学構造式を参照)の加水分解
【化5】

2−(アセチル−、デカノイル−もしくはオクタデカノイル−オキシメチル)−4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}フェノール各1.0mgをアセトニトリル0.5mLに溶解し、その溶液にpH4.7〜8.5の燐酸緩衝液0.5mLを添加し、37℃で3時間撹拌。各反応液をHPLC(溶出系:0.02%トリフルオロ酢酸含有水−0.02%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリル溶液)にて分析したところ、用いた原料はいずれの場合も酸性側で非常に安定であるが、中性から弱アルカリ側ではスムーズに消失し、その加水分解生成物であるサルメテロールに変換されることが示された。また、本反応系に少量のリパーゼを添加しても、類似した結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発見で得られるサルメテロールのモノエステル誘導体は、酸性条件下ではかなりの安定性を示すが、エステラーゼ存在下または中性もしくは弱アルカリ性条件下でスムーズに脱エステル化されて薬理活性本体であるサルメテロールに効率良く変換される。この化学特性を利用した様々な形態の製剤化が期待できるので、産業上大いに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級脂肪酸または高級脂肪酸とサルメテロールとのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
【請求項2】
直鎖構造もしくは枝分かれ構造を有する飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸とサルメテロールとのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
【請求項3】
酵素を用いた位置選択的なエステル化により製造された請求項1又は請求項2に記載のサルメテロールのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
【請求項4】
酵素が、脂肪酸前駆体を基質とする酵素である請求項3に記載のサルメテロールのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。
【請求項5】
脂肪酸前駆体を基質とする酵素が、リパーゼ又はエステラーゼである請求項4に記載のサルメテロールのモノエステル誘導体またはその医薬上許容される塩。

【公開番号】特開2012−1456(P2012−1456A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136018(P2010−136018)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】