説明

サルメテロールの簡便製造法

【課題】
本発明は、長時間作動型吸入気管支拡張薬の主成分であるサルメテロールの安価且つ簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】
目的とするサルメテロールをできる限り簡便に製造するために、(1)フェニルエタノールアミン部分と6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン部分を分子間縮合する手段をとることとし、(2)その際に、四種の高極性な官能基のうち、フェノール基と二級アミノ基は同じ官能基もしくは同種の官能基で保護し、一工程で一挙に脱保護できる反応条件を選べるようにする一方、(3)フェニルエタノールアミン部分の一級アルコール基の前駆体はエステル基、二級アルコール基の前駆体はケトン基として、この前駆体を一工程で一挙に官能基変換できるようにすることとし、入手が容易な2−無置換もしくは置換ベンジルオキシ−5−(2−ハロゲノアセチル)安息香酸のエステル誘導体とN−無置換もしくは置換ベンジル−6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン−1−アミンを分子間縮合のための出発原料とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記の式(V)で示される長時間作動型吸入気管支拡張薬の主成分であるサルメテロールの製造方法に関するものである。
【化1】

【背景技術】
【0002】
サルメテロールは、その融点(75.5−76.5℃)がかなり低いためにキシナホ酸塩の形で微細粉末化・製剤化され、サルブタモールやツロブテロールなど従来のβ−アドレナリン受容体刺激性吸入剤よりも受容体選択性が高く、長時間作動性を有する吸入気管支拡張剤として臨床現場で使用されている(K.F. Chung等, European Journal of Clinical Pharmacology,
65, 853-871, 2009)。特に、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患患者に対しては、吸入ステロイド薬との併用により、肺機能や喘息症状を改善するための定期使用薬として推奨されている。
【0003】
サルメテロールは、化学構造上、大きく分けて二つの部分(薬理活性本体であるフェニルエタノールアミン部分とβ−アドレナリン受容体に対して高い親和性を有する6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン部分)から構成され、特に、フェニルエタノールアミン部分には全く異なる高極性官能基(フェノール基、一級アルコール基、二級アルコール基と二級アミノ基)を有するため、その合成過程では位置選択的に変換可能な官能基や保護基の選択が強く要求される。
【0004】
サルメテロールにおける化学構造上の特徴を十分考慮して様々な合成法が企画検討されてきたが、これまでに確立された合成法はいずれの場合も保護基の選択に苦慮しており、結果的に最終生成物であるサルメテロールを得るまでに多段階を要し、その簡便な製造法は未だ開発されていない。これはサルメテロールが超極微量(マイクログラムレベル)で優位な薬理活性を示す一方、その製剤が高い薬価を保持しているため、更に安価且つ簡便な工業的製法を見出すべく努力の必要性はあまりなく、また、学術面では光学活性体合成に焦点が合わされてきたことに起因していると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−199659号公報
【特許文献2】特公表2002−525349号公報
【特許文献3】特公表2009−513578号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Rong et al., Synthetic Communications,29, 2155-2162, 1999年
【非特許文献2】D.J. Buchanan et al., Synlett, 1948-1950,2005年とその引用文献
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、これまでに報告されたサルメテロールの合成法よりも簡便であり、且つ、安価な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
サルメテロールは、化学構造上、大きく分けて二つの部分(フェニルエタノールアミン部分と6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン部分)から構成されており、その分子内に全く異なる高極性官能基(フェノール基、一級アルコール基、二級アルコール基と二級アミノ基)と低極性官能基(6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン)を有するため、(1)二つの部分(フェニルエタノールアミン部分と6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン部分)を分子間縮合する手段をとることとし、(2)その際に、四種の高極性な官能基のうち、フェノール基と二級アミノ基は、同じ官能基もしくは同種の官能基で保護することにより、一工程で一挙に脱保護できる反応条件を選べるようにすると共に、(3)フェニルエタノールアミン部分の一級アルコール基の前駆体はエステル基、二級アルコール基の前駆体はケトン基として、これらの前駆体を一工程で一挙に対応するアルコール基へと変換できるようにする。そのためには、2−無置換もしくは置換ベンジルオキシ−5−(2−ハロゲノアセチル)安息香酸のエステル誘導体とN−無置換もしくは置換ベンジル−6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン−1−アミンが容易に入手できるので、これらの化合物を分子間縮合工程(上記した(1)の工程)の出発原料とする。
本発明は、(1)入手が容易な2−無置換もしくは置換ベンジルオキシ−5−(2−ハロゲノアセチル)安息香酸のエステル誘導体とN−無置換もしくは置換ベンジル−6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン−1−アミンとの塩基存在下での縮合、(2)前工程で得られた分子間縮合物・5−(2−{無置換もしくは置換ベンジル〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシル〕アミノ}アセチル)−2−(無置換もしくは置換ベンジルオキシ)安息香酸エステル分子中の二種カルボニル基(アセチル基とエステル基)の対応するアルコール基への還元的変換、(3)前工程で得られたアルコール体の二種ベンジル基(無置換もしくは置換ベンジルアミノ基と無置換もしくは置換ベンジルオキシ基)の還元的脱離による最終生成物・サルメテロールの合成を特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明によれば、式(I)で示される化合物
【化2】

[式中、Rは低級アルキル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子又は沃素原子を示し、Bnはそのベンゼン核がハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基などで置換されていてもよいベンジル基を示す。]と、式(II)で示される化合物
【化3】

[式中、Bnは前記と同じ。]を反応させて、式(III)で示される化合物
【化4】

[式中、Bnは前記と同じ。]を得、これをヒドリド還元剤と処理することにより、式(IV)で示される
【化5】

[式中、Bnは前記と同じ。]とし、さらに接触還元をして、式(V)で示される化合物
【化6】

を製造する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本製造法は、出発原料である2−無置換もしくは置換ベンジルオキシ−5−(2−ハロゲノアセチル)安息香酸のエステル誘導体とN−無置換もしくは置換ベンジル−6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン−1−アミンの入手が容易である点と、これらの原料から三工程(分子間縮合工程と反応条件が異なる二種の還元工程)で、目的とする最終化合物が容易に且つ高収率で得られるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
5−(2−{ベンジル〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシル〕アミノ}アセチル)−2−ベンジルオキシ安息香酸 メチルエステル(前記式III中、Rがメチル基、Bnが無置換ベンジル基を示す化合物)の製造
2−ベンジルオキシ−5−(2−ブロモアセチル)安息香酸 メチルエステル
(De Meglio et al., Fermeco Edizione Scientifica
1980, 35, 203-30.に記載の方法で製造)181.01mgとN−ベンジル−6−(4−フェニルブトキシ)ヘキサン−1−アミン(Rong,Y. et al., Synthetic Communications, 1999, 29, 2155-2162.に記載の方法で製造)169.63mg、無水炭酸カリウム169.63mgのアセトニトリル20mL懸濁液を室温にて一夜撹拌。反応液を酢酸エチルエステル50mL−水30mLにあけ、激しく撹拌後に有機層を分離。水層を酢酸エチルエステル30mLにて抽出し、先の有機層と合わせ、飽和食塩水(20mLずつで2回)にて洗浄、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧濃縮。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン−酢酸エチルエステル、10:1で溶出)にて分離精製したところ、目的物である5−(2−{ベンジル〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシル〕アミノ}アセチル)−2−ベンジルオキシ安息香酸 メチルエステル248.39mg(収率80%)が高粘性油状物として単離できた。
1H-NMR (CDCl3):
d 1.25-1.27
(4H, m), 1.48-1.59 (4H, m), 1.60-1.69 (4H, m), 2.55 (2H, br t, J= 7Hz), 2.62
(2H, br t, J= 8Hz), 3.33 (2H, t, J= 7Hz), 3.39 (2H, t, J= 7Hz), 3.69 (2H, br
s), 3.76 (2H, br s), 3.92 (3H, s), 5.26 (2H, s), 7.00 (1H, d, J= 8Hz),
7.15-7.50 (15H, m), 8.05 (1H, dd, J= 2 and 8Hz), and 8.53 (1H, d, J= 2Hz) ppm.
13C-NMR (CDCl3):
d 26, 27(2),
28, 30(2), 36, 52, 55, 59, 61, 71(3), 113, 120, 126(2), 127(2), 128(2), 129(7),
133, 134, 136, 139, 143, 162, 166, and 197 ppm.
【実施例2】
【0013】
2−{ベンジル〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシル〕アミノ}−1−(4−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシメチルフェニル)エタノール(前記式IV中、Bnが無置換ベンジル基を示す化合物)の製造
5−(2−{ベンジル〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシル〕アミノ}アセチル)−2−ベンジルオキシ安息香酸 メチルエステル248.39mgを無水テトラヒドロフラン10mLに溶解し、水冷下でリチウムアルミニウムヒドリド 30.34mgを加え、約0.5時間撹拌。反応液を酢酸エチルエステル50mL−水30mLにあけ、激しく撹拌後に有機層を分離。水層を酢酸エチルエステル30mLにて抽出し、先の有機層と合わせ、飽和食塩水(20mLずつで2回)にて洗浄、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧濃縮。得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール、100:1で溶出)にて分離精製したところ、目的物である2−{ベンジル〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシル〕アミノ}−1−(4−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシメチルフェニル)エタノール199.11mg(収率84%)が高粘性油状物として単離できた。
1H-NMR (CDCl3):
d 1.24-1.33
(4H, m), 1.51-1.72 (8H, m), 2.38 (1H, br), 2.40-2.47 (2H, m), 2.51-2.62 (2H,
m), 2.63 (2H, br t. J= 7Hz), 3.37 (2H, t, J= 7Hz), 3.41 (2H, t, J= 7Hz), 3.47
and 3.89 (each 1H, each br d, J= 14Hz), 4.59 and 4.62 (each 0.5H, each br d, J=
4Hz), 4.71 (2H, dd, J= 3 and 6Hz), 5.09 (2H, s), 6.90 (1H, d, J= 8Hz), and
7.14-7.42 (17H, m) ppm.
1H-NMR (CD3OD):
d 1.23-1.28
(4H. m), 1.41-1.68 (8H, m), 2.42-2.52 (2H, m), 2.59 (2H, br t, J= 7Hz),
2.60-2.70 (4H, m), 3.35 (2H, t, J= 7Hz), 3.39 (2H, t, J= 6Hz), 3.59 and 3.69
(each 1H, each br d, J= 13Hz), 4.64 and 4.66 (each ca. 0.5H, each br d, J=
6Hz), 4.68 (2H, br s), 5.09 (2H, br s), 6.92 (1H, d, J= 8Hz), and 7.10-7.44
(17H, m) ppm.
13C-NMR (CDCl3):
d 26, 27(2),
28, 30(2), 36, 54, 59, 62, 63, 65, 69, 70(2), 71(2), 112, 126(2), 127(3), 128(4),
129(4), 130(3), 134, 135, 137, 138, 143, and 156 ppm.
【実施例3】
【0014】
4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(ヒドロキシメチル)フェノール (前記式Vで示されるサルメテロール)の製造
2−{ベンジル〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシル〕アミノ}−1−(4−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシメチルフェニル)エタノール272.68mgを無水テトラヒドロフラン30mLに溶解し、10%パラジウム炭素
50mgを添加して、水素ガス雰囲気下で室温にて2日間撹拌。不溶物を濾去し、減圧乾固後、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール、5:1→3:1で溶出)にて精製したところ、目的物である4−{1−ヒドロキシ−2−〔6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ〕エチル}−2−(ヒドロキシメチル)フェノール138.54mg(収率73%)が融点76−8℃の平板結晶として単離できた。
1H-NMR (CDCl3):
d 1.2-1.35
(4H, m), 1.45-1.75 (8H, m), 2.59 (2H, br t, J= 7Hz), 2.8-3.0 (4H, br), 3.06
(1H, br s), 3.34 (2H, br t, J= 7Hz), 3.38 (2HH,
H, br t, J=
7Hz), 4.41 (2H, br s), 4.91 (1H, br), 6.71 (1H, d, J= 8Hz), 6.90 (1H, br d, J=
8Hz), 7.01 (1H, br s), and 7.10-7.30 (5H, m) ppm.
1H-NMR (CD3OD):
d 1.39-1.42
(4H, m), 1.54-1.61 (4H, m), 1.63-1.72 (4H, m), 2.62 (2H, br t, J= 7Hz), 2.96
(2H, br t, J= 8Hz), 3.04 (1H, dd, J= 13 and 15Hz), 3.06 (1H, br s), 3.42 (2H,
br t, J= 7Hz), 3.43 (2HH,
H, br t, J=
7Hz), 4.65 (2H, br s), 4.82 and 4.84 (each 0.5H, each br d, J= each 5Hz), 6.78
(1H, d, J= 8Hz), 7.11-7.26 (5H, m), 7.22 (1H, dd, J= 2 and 8Hz), and 7.34 (1H,
d, J= 2Hz) ppm.
13C-NMR (CD3OD):
d 26, 27(2),
28, 29(2), 35, 55, 59, 70, 71, 115, 126(3), 128(3), 132, 143, and 155 ppm.
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明で得られるサルメテロールは、吸入製剤以外の様々な形態の製剤を創製するための原薬もしくは製品中間体としても非常に有用であるので、産業上大いに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される化合物
【化1】

[式中、Rは低級アルキル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子又は沃素原子を示し、Bnはそのベンゼン核がハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基などで置換されていてもよいベンジル基を示す。]と、式(II)で示される化合物
【化2】

[式中、Bnは前記と同じ。]とを反応させて、式(III)で示される化合物
【化3】

[式中、Bnは前記と同じ。]を得、これをヒドリド還元剤と処理することにより、式(IV)で示される
【化4】

[式中、Bnは前記と同じ。]とし、さらに接触還元をして、式(V)で示される化合物
【化5】

を製造する方法。


【公開番号】特開2012−1454(P2012−1454A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135825(P2010−135825)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】