説明

サンゴの光合成活性評価装置

【課題】電場が形成された環境において、サンゴの光合成活性を評価すること。
【解決手段】サンゴの光合成活性評価装置1は、海水W及びサンゴCを内部に閉じ込める試験容器2の内部に、陽極5と陰極6とが突出する。陽極5と陰極6とは、電源3に接続される。陽極5は、海水Wが満たされた電極格納容器20内に格納される。また、電極格納容器20の陽極5が配置される側の海水Wと、試験容器2の内部においてサンゴCが配置される部分の海水Wとは、導電性を有する電極隔離体21で仕切られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴの光合成の活性を評価することに関する。
【0002】
近年、埋め立てや地球の温暖化に起因する海水温度の上昇等によって、サンゴ群集の白化やサンゴの死滅といったサンゴ礁の衰退が問題となっている。このため、近年においては、サンゴを人工的に養殖して、サンゴ礁を回復させる試みが提案されている。特許文献1には、海中の任意の深さに位置できる複数の浮体間に、サンゴの付着するサンゴ養生棚を備えるサンゴ養殖装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−32620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年においては、サンゴを活着させるためのサンゴ活着部と、このサンゴ活着部に対応する陽極とを海中に配置し、陽極と陰極であるサンゴ活着部との間に電流を流すことにより電場を形成して、陰極へのサンゴの活着を促進させる技術が提案されている。このような技術においては、サンゴの活着や生育に好適な環境を作り出すための条件はまだ十分に明らかではない。ここで、褐虫藻を共生させるサンゴは、褐虫藻が光合成活動を行うので、このようなサンゴにおいては、光合成活性をサンゴの活動の尺度とすることができる。このため、サンゴの生育や活着に好適な環境であるか否かを評価する尺度としてサンゴの光合成活性を評価する。本発明は、電場が形成された環境において、サンゴの光合成活性を評価できるサンゴの光合成活性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサンゴの光合成活性評価装置は、海水及びサンゴを内部に閉じ込める試験容器と、前記試験容器内に突出する陰極と、前記試験容器内に突出して、前記陰極との間で電流を流す陽極と、導電性を有し、かつ前記試験容器の内部に配置され、前記試験容器の内部に前記サンゴが配置される部分の前記海水から、前記陽極と前記陰極とのうち少なくとも一方を隔離する電極隔離体と、前記試験容器の内部に前記サンゴが配置される部分の前記海水に溶存する酸素の濃度を計測する酸素濃度計測手段と、を含むことを特徴とする。
【0006】
このような構成により、電極は、サンゴが配置される部分の海水から隔離されるので、サンゴが配置される部分の海水へ電極から発生する気体が漏れ出すことを抑制できる。また、電極での反応で海水中の酸素が消費されることにより、サンゴが配置される部分の海水の酸素濃度が低下することを抑制できる。その結果、サンゴの光合成活性を評価でき、その際の評価精度を向上させることができる。
【0007】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴの光合成活性評価装置において、前記陽極と前記陰極とのうち少なくとも一方は、前記試験容器の内部に配置される電極格納容器の内部に配置され、かつ、前記電極隔離体は、前記電極格納容器に取り付けられて、前記電極格納の内部と前記試験容器の内部とを区画することが好ましい。これによって、サンゴが配置される部分の海水からより確実に電極を隔離できるので、電極から発生する気体等の影響をより低減できる。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサンゴの光合成活性評価装置は、海水及びサンゴを内部に閉じ込める試験容器と、前記試験容器内に突出する陰極と、前記試験容器内に突出して、前記陰極との間で電流を流す陽極と、前記陽極を格納する電極格納容器と、導電性を有し、かつ前記試験容器の内部の前記海水と前記陽極との間に配置されて前記陽極を前記海水から隔離する電極隔離体と、前記試験容器の内部の前記海水に溶存する酸素の濃度を測定する酸素濃度計測手段と、を含むことを特徴とする。
【0009】
このような構成により、陽極は、サンゴが配置される部分の海水から隔離されるので、サンゴが配置される部分の海水へ陽極から発生する塩素や酸素が漏れ出すことを抑制できる。その結果、サンゴの光合成活性を評価でき、その際の評価精度を向上させることができる。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴの光合成活性評価装置において、前記試験容器の内部の前記海水を循環させる海水循環手段を備えることが好ましい。これによって、サンゴが配置される部分の海水のよどみを抑制して、適切な評価環境を維持できる。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴの光合成活性評価装置において、前記海水循環手段は、前記試験容器に接続されて、前記試験容器の内部の前記海水を、前記試験容器の外部へ取り出す取水通路と、前記試験容器に接続されて、前記取水通路から取り出した前記海水を、前記試験容器の内部へ流入させる海水戻し通路と、前記取水通路と前記海水戻し通路とが接続されて、前記取水通路から前記試験容器内の前記海水を吸引し、吸引した前記海水を前記海水戻し通路へ吐出するポンプと、を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴの光合成活性評価装置において、前記電極隔離体は、ゲル化剤と海水との混合物であることが好ましい。これによって、導電性を有する電極隔離体を簡易に製造できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るサンゴの光合成活性評価装置は、電場が形成された環境において、サンゴの光合成活性を評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲に属するものが含まれる。以下においては、本発明をサンゴの光合成活性を評価する場合を説明するが、本発明は、褐虫藻と共生する貝類、例えばシャコ貝や、水中で光合成を行う草類の光合成活性を評価する場合にも適用できる。
【0015】
本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置は、電場が形成された環境においてサンゴの光合成量を評価するものであり、次の点に特徴がある。導電性を有する電極隔離体を試験容器の内部に配置して、試験容器の内部において前記サンゴが配置される部分の前記海水から、陽極と陰極とのうち少なくとも一方を隔離する。まず、電場が形成された環境でサンゴを育成させる手法を説明する。
【0016】
図1は、サンゴを育成する環境に、電源を用いて電場を形成する手法を示す概念図である。サンゴ育成装置30は、直流電源の電源装置31によって陽極5と、サンゴ活着部である陰極6との間に電流を流し、サンゴCの生育する環境に電場を形成する。このような構成により、電場を形成した環境で、陰極に活着させたサンゴCを育成する。この手法を、便宜上外部電源方式という。
【0017】
図2は、サンゴを育成する環境に、流電陽極法を用いて電場を形成する手法を示す概念図である。サンゴ育成装置30aは、いわゆる流電陽極法を利用した電着により、陽極5と陰極6との間に電場を形成する。そして、陰極6にサンゴCを活着させて、サンゴCを育成する。この手法を、便宜上流電陽極方式という。
【0018】
サンゴ育成装置30aは、サンゴが活着する陰極6よりも自然電位が卑な金属を陽極(流電陽極)5として配置する。そして、陽極5と陰極6とを導体Lで接続し、陽極5と陰極6との間に介在する電解質(海水)の電池作用を利用して、陽極5と陰極6との間に電流を流す。これによって、陽極5と陰極6との間に電場を形成して、サンゴの生育する環境に電場が形成される。
【0019】
図1に示すサンゴ育成装置30及び図2に示すサンゴ育成装置30aの陰極6は、サンゴCを活着させ、育成させるサンゴ育成床として機能する。陰極6には、CaCO、Mg(OH)、MgCO等の石灰質(電着鉱物)が析出する。そして、陰極6に析出した石灰質は、サンゴCが活着する基盤となる。また、陽極5と陰極6との間に電流が流れることにより、陰極6の周辺環境のアルカリ化が促進される。これによって、陰極の周辺における海水のpHが上昇して、サンゴの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるので、サンゴCの成長速度及び耐性が向上する。これらの作用によって、サンゴ育成装置30及びサンゴ育成装置30aでは、サンゴCの活着及び成長を促進させることができる。
【0020】
図3は、本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置の構成を示す装置構成図である。図4は、本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置が備える電極格納容器の構成を示す斜視図である。図5は、本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置が備える電極格納容器の構成を示す断面図である。サンゴの光合成活性評価装置(以下光合成活性評価装置という)1は、試験容器2と、電極である陰極6と、電極である陽極5と、電極隔離体21と、酸素濃度計測手段である酸素濃度計40と、を含んでいる。
【0021】
試験容器2は、両端が開口する筒状の容器本体2Bと、容器本体2Bの両端部の開口部に取り付けられて、容器本体2Bを密封する蓋(容器密封部材)2Sとで構成される。容器本体2Bは、例えば、アクリル樹脂やガラス等の透明の材料で構成される。これは、サンゴCの光合成量を評価する際に、サンゴCに光を照射する必要があるからである。蓋2Sは、容器本体2Bの密封性を向上させるため、例えば、ゴムのような柔軟性のある材料で構成される。
【0022】
試験容器2の内部、すなわち、容器本体2Bの内面と、容器本体2Bの両端部を密封する蓋2Sとで囲まれる空間(以下試験容器内部)2Iには、海水Wが閉じ込められる。また、試験容器内部2Iには、光合成量の評価対象であるサンゴCが配置される。
【0023】
光合成活性評価装置1は、電場が形成された環境におけるサンゴCの光合成量を評価する。このため、光合成活性評価装置1は、試験容器内部2Iに陽極5と陰極6とを突出させて、試験容器内部2Iに満たされている海水Wと陽極5及び陰極6とを接触させる。陽極5及び陰極6には、例えば白金、炭素棒、二酸化マンガン等の材料を用いる。白金や炭素棒を陽極5に用いると、陽極5からは塩素が発生する。白金や炭素棒を陰極6に用いると、陰極6からは水素が発生する。また、二酸化マンガンを陽極5に用いると、陽極5からは酸素が発生する。本実施形態では、陽極5に白金を用いる。
【0024】
陽極5は電源3の+に接続され、陰極6は電源3の−端子に接続される。光合成活性評価装置1は、電流調整装置7を備えており、陽極5と陰極6との間を流れる電流の大きさを変更できる。これによって、サンゴの光合成量を評価する際の条件を迅速かつ簡易に変更できる。
【0025】
試験容器内部2Iには、試験容器内部2IにサンゴCが配置される部分の海水Wに溶存する酸素の濃度を計測するため、酸素濃度計測手段として酸素濃度計40が配置される。酸素濃度計40によって検出された前記海水Wの溶存酸素濃度は、溶存酸素計表示装置42に表示される。試験容器内部2Iの海水Wの溶存酸素濃度は、サンゴCの光合成活性と相関が高いので、本実施形態では、試験容器内部2Iの海水Wの溶存酸素濃度に基づいて、サンゴCの光合成活性を評価する。
【0026】
また、試験容器内部2Iには、試験容器内部2Iに密封される海水Wの水質を計測するため、水質計41が配置される。水質計41では、例えば、試験容器内部2Iに密封される海水WのpH等が計測される。水質計41によって検出された前記海水Wの水質は、水質計表示装置43に表示される。
【0027】
光合成活性評価装置1は、サンゴCへ光を照射する照明10を備える。そして、サンゴCの光合成活性を評価する際には、試験容器2の外部に設けられた照明10によって、試験容器内部2Iの海水中に配置されたサンゴCに光が照射される。試験容器内部2Iには照度計44が配置されており、照度計44がサンゴCに照射される光の量を計測する。照度計44の出力は、表示器45に表示される。
【0028】
光合成活性評価装置1でサンゴCの光合成活性を評価する際には、電源3を用いて試験容器内部2I中の海水Wに電場を形成し、海水循環手段によって試験容器内部2Iの海水Wを循環させ、また、照明10によってサンゴCへ光を照射する。このような環境下で、酸素濃度計40によって、試験容器内部2Iの海水Wに溶存する酸素の濃度を計測し、サンゴCの光合成活性を評価する。
【0029】
光合成活性評価装置1は、試験容器内部2Iの海水Wを試験容器内部2Iの外に取り出し、再び試験容器内部2Iへ戻す海水循環手段を備える。本実施形態において、海水循環手段は、試験容器2に接続される取水通路8iと、試験容器2に接続される海水戻し通路8eと、ポンプ9とを含んで構成される。取水通路8iは、試験容器内部2Iの海水Wを試験容器2の外部へ取り出す。また、海水戻し通路8eは、取水通路8iから取り出した海水Wを試験容器内部2Iへ流入させる。そして、ポンプ9は、取水通路8iと海水戻し通路8eとが接続されて、取水通路8iから試験容器内部2Iの海水Wを吸引し、吸引した海水Wを海水戻し通路8eへ吐出して、海水Wを試験容器内部2Iへ戻す。
【0030】
上記構成により、サンゴの光合成活性を評価する際には、海水循環手段が、試験容器内部2Iと海水循環手段との間で海水Wを循環させる。これによって、試験容器内部2Iの海水Wがよどむことを抑制して、適切な評価環境を維持する。本実施形態において、ポンプ9は、ローラーポンプ、あるいはチューブポンプ(チュービングポンプ)と呼ばれる形式のものを用いる。ローラーポンプは、チューブの復元力を利用したポンプであり、発熱を抑制できるので、サンゴの光合成活性を評価する際における海水Wの昇温を抑制できる。ここで、酸素濃度計40は、取水通路8iや海水戻し通路8eに設けてもよい。これによって、酸素濃度計40のメンテナンスが容易になり、また、試験容器内部2Iに酸素濃度計40を配置する必要はないので、試験容器2をコンパクトにできる。
【0031】
光合成活性評価装置1は、海水Wの温度を制御するための評価環境温度制御手段として、水温調整装置46を備える。水温調整装置46は、例えば、冷却装置と加熱装置とを組み合わせて構成されており、温度コントローラによって海水Wの温度を設定した温度に調整する。水温調整装置46は、海水Wを冷却、又は加熱して、光合成活性を評価する際には、試験装置内部2Iの海水の温度をサンゴCに適した温度に維持する。本実施形態では、水温調整装置46を海水戻し通路8eの途中に取り付けてあり、ポンプ9から吐出され、試験容器内部2Iへ送られる海水Wの温度を調整する。また、試験装置内部2Iの海水の温度を計測する温度計測手段を設け、この温度計測手段が計測した温度に基づいて、試験装置内部2Iの海水の温度を制御してもよい。このように、水温調整装置46を設けることによって、サンゴCの光合成活性を評価する際には、サンゴCの周囲を適切な環境に維持できる。
【0032】
上述したように、光合成活性評価装置1の陽極5には白金を用いる。このため、通電中、すなわちサンゴCの光合成活性を評価しているときには、陽極5から塩素が発生する。また、陽極5に二酸化マンガンを用いた場合には、通電中に陽極5から酸素が発生する。陽極5から塩素が発生した場合、試験容器内部2IのサンゴCは影響を受ける。また、陽極5から酸素が発生した場合、試験容器内部2IのサンゴCが光合成によって発生した酸素の量を正確に見積もることができず、サンゴの光合成活性の評価精度が低下する。
【0033】
そこで、本実施形態では、導電性を有する電極隔離体21を用いて、塩素や酸素を発生する電極を、試験容器内部2IにサンゴCが配置される部分の海水Wから、電極を隔離する。これによって、電極から発生した塩素や酸素等といった、サンゴの光合成活性を評価する際には不要な気体が、試験容器内部2IにサンゴCが配置される部分の海水Wへ流出することを回避しつつ、試験容器内部2IにサンゴCが配置される部分に電場を形成できる。その結果、サンゴの光合成によって発生した酸素を正確に見積もることができるので、サンゴの光合成活性の評価精度が向上する。
【0034】
本実施形態では、試験容器内部2Iに配置される電極格納容器20の内部に陽極5を配置するとともに、電極格納容器20が試験容器内部2に開口する開口部に電極隔離体21を取り付ける。これによって、電極隔離体21は、電極格納容器20と電極隔離体21とで囲まれる空間、すなわち、電極格納容器20の内部と試験容器内部2Iとを区画する。そして、電極隔離体21は、電極格納容器20と電極隔離体21とで囲まれる空間に陽極5を閉じこめて、試験容器内部2IにサンゴCが配置される部分の海水Wから陽極5を隔離する。このように、陽極5を電極格納容器20の内部に閉じこめるので、サンゴCが配置される部分の海水Wからより確実に陽極5を隔離して、陽極5から発生するサンゴの光合成活性を評価する際には不要な気体の影響を、より低減できる。
【0035】
図3に示すように、電極格納容器20は、本体部22と支持部23とで構成されている。本体部22は、開口部を有する有底の形状であり、開口部には電極隔離体21が取り付けられ、また、底部22Bに支持部23が接続される。支持部23は、略L字形状のパイプであり、本体部22の底部22Bに開口している。支持部23は、蓋2Sに貫通しており、本体部22は支持部23を介して蓋2Sに支持される。支持部23及び本体部22には海水Wが満たされており、本体部22内に配置される陽極5は、海水W及び導電性を有する電極隔離体21を介して、試験容器内部2IのサンゴCが配置される部分の海水Wと電気的に導通する。これによって、陽極5と陰極6との間に電流が流れ、かつ、陽極5で発生する塩素や酸素は、電極格納容器20の本体部22と電極隔離体21とで囲まれる電極格納容器20内の空間に閉じこめられる。その結果、陽極5で発生する塩素や酸素が、試験容器内部2IのサンゴCが配置される部分の海水Wへ流出することを回避できる。
【0036】
電極隔離体21は、上述したように導電性を有する。電極隔離体21は、電極隔離体21で仕切られる電極格納容器20内の海水Wと、試験容器内部2Iの海水Wとの間で電気的な導通を確保するとともに、電極格納容器20内に配置される電極(上記例では陽極5)から発生する気体は試験容器内部2Iへ通さない機能を有する。電極隔離体21は、例えば、液体をゼリー状に固める(液体をゲル化させる)作用を持つ物質であるゲル化剤に海水を吸収させたものや、半透膜、中空糸膜、セロハン等を用いることができる。
【0037】
本実施形態では、海水で溶かした寒天を固めたものを電極隔離体21として用いる。ゲル化剤としては、例えば、ゼラチン、寒天、ペクチン、カラギーナン、高分子ゲル等がある。高分子ゲルは、高分子が架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒物質である海水を吸収したものである。ここで、電極隔離体21として、ゲル化剤に海水を吸収させたものを用いる場合には、電極である陽極5を電極隔離体21に埋め込んでもよい。
【0038】
図4は、本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置が備える電極格納容器及び電極隔離体の詳細な構成例を示す斜視図である。図5は、本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置が備える電極格納容器及び電極隔離体の詳細な構成例を示す断面図である。電極格納容器20の本体部22に設けられる開口部22oには、キャップ24が取り付けられる。キャップ24は有底のコップ状の容器であり、キャップ24の底部(キャップ底部)24Bには、複数の貫通孔25が設けられる。電極隔離体21は、キャップ24の内部かつキャップ底部24Bに設けられ、貫通孔25から図3に示す海水Wと接する。
【0039】
キャップ24は、その開口部24oを電極格納容器20の本体部22に被せて、電極格納容器20の本体部22に設けられる開口部22oを覆うように本体部22に取り付けられる。例えば、キャップ24の内周部に雌ねじを形成し、本体部22の外周部に形成した雄ねじへキャップ24をねじ込むことにより、キャップ24を本体部に固定する。これによって、キャップ24を本体部22から簡単に着脱できるので、陽極5や電極隔離体21の保守、点検が容易になる。なお、電極隔離体21は、貫通孔25にキャップ24のキャップ底部24Bの外側から塞いでキャップ24のキャップ底部24Bを重力の作用方向に向けて配置し、キャップ24の内部に高温の海水に溶かした寒天を注入してから前記寒天を固化させることにより形成できる。これによって、簡単に電極隔離体21を形成できるので、電極隔離体21が劣化した場合には、簡単に電極隔離体21を再形成できる。
【0040】
キャップ24のキャップ底部24Bに設けられる貫通孔25は、電極格納容器20内に満たされる海水及び電極隔離体21を介して、陽極5と図1に示す陰極6との間に電流を流し、図1に示す試験容器内部2Iの海水W中に電場を形成する。このような構成により、電極格納容器20及び電極隔離体21を簡単に構成できる。
【0041】
試験容器内部2Iの海水W中に形成される電場を均一にするためには、キャップ24のキャップ底部24Bの開口面積をできる限り大きくすることが好ましい。これを考慮して、キャップ24のキャップ底部24Bに形成する貫通孔25の大きさや個数を決定する。また、試験容器内部2Iの海水W中に形成される電場を均一にするためには、陽極5とサンゴCまでの距離をできる限り大きくする。この場合、陽極5と同様に、図3に示す陰極6とサンゴCとの距離もできる限り大きくする。
【0042】
上記説明では、陽極5を電極隔離体21でサンゴが存在する部分の海水から隔離したが、陰極6からサンゴの光合成活性を評価する際には不要な気体が発生したり、陰極6での電解反応で酸素が消費されたりする場合には、陰極6も電極隔離体21でサンゴが存在する部分の海水から隔離してもよい。
【0043】
本実施形態では、外部電源方式を用いた場合に、光合成活性評価装置1でサンゴの光合成活性を評価する例を説明したが、流電陽極方式のように、溶解性の金属を電極に用いる方式を用いた場合でも、光合成活性評価装置1を用いてサンゴの光合成活性を評価できる。流電陽極方式のように、電極に溶解性金属を用いると、海水W中に溶解物が発生するが、本実施形態によれば、電極隔離体21によってサンゴが存在する部分の海水から電極を隔離するので、電極からの溶解物はサンゴが存在する部分の海水へ流入することを回避できる。これによって、サンゴの光合成活性を適切に評価できる。
【0044】
以上、本実施形態では、電場が形成された環境でサンゴの光合成活性を評価するにあたって、導電性を有する電極隔離体を用いて電場を形成するための電極である陽極と陰極とのうち少なくとも一方を、サンゴが配置される部分の海水から隔離する。これによって、電極から発生してサンゴの光合成活性を評価する際には不要となる気体の影響や、電極での反応で酸素が消費されることの影響を最小限に抑えることができるので、サンゴの光合成活性の評価精度が向上する。
【0045】
以上、本実施形態では、サンゴを活着させるサンゴ活着部を陰極とし、サンゴ活着部よりも自然電位が卑の陽極をサンゴ活着部と電気的に接続するとともに、サンゴ育成装置を海中に設置してから経過した時間に基づいて、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流の大きさを変更する。これによって、サンゴの活着に適した環境を作り出し、サンゴが活着した後は、サンゴの生育に適した環境を作り出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係るサンゴの光合成活性評価装置は、サンゴの光合成活性を評価することに有用であり、特に、電場が形成された環境でサンゴの光合成活性を評価することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】サンゴを育成する環境に、電源を用いて電場を形成する手法を示す概念図である。
【図2】サンゴを育成する環境に、流電陽極法を用いて電場を形成する手法を示す概念図である。
【図3】本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置の構成を示す装置構成図である。
【図4】本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置が備える電極格納容器の構成を示す斜視図である。
【図5】本実施形態に係るサンゴの光合成活性評価装置が備える電極格納容器の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 光合成活性評価装置
2 試験容器
2B 容器本体
2I 試験容器内部
2S 蓋
3 電源
5 陽極
6 陰極
7 電流調整装置
8i 取水通路
8e 海水戻し通路
9 ポンプ
10 照明
20 電極格納容器
21 電極隔離体
22 本体部
22o 開口部
22B 底部
23 支持部
24 キャップ
24B キャップ底部
25 貫通孔
30、30a サンゴ育成装置
40 酸素濃度計
41 水質計
C サンゴ
W 海水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水及びサンゴを内部に閉じ込める試験容器と、
前記試験容器内に突出する陰極と、
前記試験容器内に突出して、前記陰極との間で電流を流す陽極と、
導電性を有し、かつ前記試験容器の内部に配置され、前記試験容器の内部に前記サンゴが配置される部分の前記海水から、前記陽極と前記陰極とのうち少なくとも一方を隔離する電極隔離体と、
前記試験容器の内部に前記サンゴが配置される部分の前記海水に溶存する酸素の濃度を計測する酸素濃度計測手段と、
を含むことを特徴とするサンゴの光合成活性評価装置。
【請求項2】
前記陽極と前記陰極とのうち少なくとも一方は、前記試験容器の内部に配置される電極格納容器の内部に配置され、かつ、前記電極隔離体は、前記電極格納容器に取り付けられて、前記電極格納容器の内部と前記試験容器の内部とを区画することを特徴とする請求項1に記載のサンゴの光合成活性評価装置。
【請求項3】
海水及びサンゴを内部に閉じ込める試験容器と、
前記試験容器内に突出する陰極と、
前記試験容器内に突出して、前記陰極との間で電流を流す陽極と、
前記陽極を格納する電極格納容器と、
導電性を有し、かつ前記試験容器の内部の前記海水と前記陽極との間に配置されて前記陽極を前記海水から隔離する電極隔離体と、
前記試験容器の内部の前記海水に溶存する酸素の濃度を測定する酸素濃度計測手段と、
を含むことを特徴とするサンゴの光合成活性評価装置。
【請求項4】
前記試験容器の内部の前記海水を循環させる海水循環手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のサンゴの光合成活性評価装置。
【請求項5】
前記海水循環手段は、
前記試験容器に接続されて、前記試験容器の内部の前記海水を、前記試験容器の外部へ取り出す取水通路と、
前記試験容器に接続されて、前記取水通路から取り出した前記海水を、前記試験容器の内部へ流入させる海水戻し通路と、
前記取水通路と前記海水戻し通路とが接続されて、前記取水通路から前記試験容器内の前記海水を吸引し、吸引した前記海水を前記海水戻し通路へ吐出するポンプと、
を含むことを特徴とする請求項4に記載のサンゴの光合成活性評価装置。
【請求項6】
前記電極隔離体は、ゲル化剤と海水との混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のサンゴの光合成活性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−85932(P2009−85932A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259939(P2007−259939)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【出願人】(504089758)株式会社シーピーファーム (10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】