説明

サンゴ育成方法

【課題】サンゴ礁の回復を図ることのできるサンゴ育成方法を提供すること。
【解決手段】サンゴ育成装置100は、基材1と、陽極2と、両者を電気的に接続する導線3とを有する。基材1は、金属で作られる網状の構造体であり、海中WIにおいてカソードとなる。陽極2は、基材1よりも自然電位が卑な金属であり、海中WIにおいてアノードとなる。基材1を海底BTに設置した後、陽極2と基材1とを導線3で接続することにより、海中WIにおいて、基材1と陽極2との間に電流を流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底の地盤を安定化させることに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋に接した自然地形、地盤や構造物の経時劣化作用を抑制するため、海水中に溶解したカルシウム分やマグネシウム分などを固体表面に沈着させ、ひび割れや欠損部を修復するとともに強化する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−077679号公報(段落番号0006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、航路を確保するために海底を浚渫する場合、サンゴ礁にダメージを与えてしまうことがある。また、海水温度の上昇等によってサンゴ礁がダメージを受ける場合があるが、死滅したサンゴの残骸が海中で移動することにより、サンゴの幼生の生育が妨げられ、サンゴ礁の再生に影響を与えることがある。特許文献1には、これらの点については開示も示唆もなく、改善の余地がある。本発明は、サンゴ礁の回復を図ることのできるサンゴ育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、海中においてカソードとなる、網状かつ導電性を有する基材を海底に設置する手順と、前記基材と、海中に設置したアノードとなる部材との間に電流を流す手順と、を含むことを特徴とするサンゴ育成方法である。
【0006】
このサンゴ育成方法は、網状の基材を用いるので、海底の形状に柔軟に追従して、サンゴを育成したい場所を覆うことができる。また、海底に設置された基材は、時間の経過とともに表面に電着鉱物が析出するので、全体が強固になる。このため、基材が設置された海底の地盤は安定する。また、電着鉱物にはサンゴの幼生が着生しやすく、かつ陽極と基材との間に電流が流れていることから、基材の周囲はサンゴの生育に適した環境となる。このように、このサンゴ育成方法は、安定化した海底の地盤の上に、サンゴの生育に適した環境を形成できるので、サンゴ礁の回復を図ることができる。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、海中においてカソードとなる、網状かつ導電性を有する基材で、海中に存在する瓦礫を覆う手順と、前記基材と、海中に設置したアノードとなる部材との間に電流を流す手順と、を含むことを特徴とするサンゴ育成方法である。
【0008】
このサンゴ育成方法は、網状の基材を用いてサンゴの死骸や石等の瓦礫を覆うので、潮流や台風の影響によりこれらが海中を移動することを抑制できる。また、このサンゴ育成方法は、網状の基材が海底の形状や瓦礫の形状に追従してこれらを覆うので、瓦礫の移動を抑制することができる。さらに、海底に設置された基材は、時間の経過とともに表面に電着鉱物が析出するので、全体が強固になる。このため、基材が設置された海底の地盤は安定する。また、電着鉱物にはサンゴの幼生が着生しやすく、かつ陽極と基材との間に電流が流れていることから、基材の周囲はサンゴの生育に適した環境となる。このように、このサンゴ育成方法は、瓦礫の移動を抑制し、かつ安定化した海底の地盤の上に、サンゴの生育に適した環境を形成できるので、サンゴ礁の回復を図ることができる。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記基材は金属であり、前記部材は、前記基材よりも自然電位が卑な金属であり、前記基材と前記部材とを電気の導体で接続することにより、前記電流を流すことが好ましい。このように、このサンゴ育成方法は、いわゆる流電陽極法を用いることで、電源を必要とせず、簡単な構造でサンゴ礁の回復を図ることができる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、電源を用いて、前記基材と前記部材との間に前記電流を流すことが好ましい。このようにすることで、このサンゴ育成方法は、流電陽極法により電流を流す場合と比較して、定電流を簡易に流すことができる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記基材は、航路を確保するために浚渫した海底に設置されることが好ましい。このような場所に基材が設置されることにより、航路の海底の地盤が安定し、かつサンゴが生育しやすい環境が得られる。したがって、このサンゴ育成穂法は、サンゴ礁において航路を確保するために浚渫した後に、当該浚渫によってダメージを受けたサンゴ礁を回復させる場合に有効である。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記基材は、海底の砂地に設置されることが好ましい。このサンゴ育成方法は、基材に電着鉱物が析出することにより海底の地盤を安定させることができるので、砂の流出を抑制することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、サンゴ礁の回復を図ることのできるサンゴ育成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態1に係るサンゴ育成方法に用いる基材及び当該基材を含むサンゴ育成装置を示す装置構成図である。
【図2】図2は、実施形態1の変形例に係るサンゴ育成装置を示す装置構成図である。
【図3】図3は、実施形態1に係るサンゴ育成方法のフロー図である。
【図4】図4は、実施形態1に係るサンゴ育成装置を海底に設置した状態を示す模式図である。
【図5】図5は、実施形態1に係るサンゴ育成装置を砂地の海底に設置した状態を示す模式図である。
【図6】図6は、実施形態2に係るサンゴ育成装置を海底に設置した状態を示す模式図である。
【図7】図7は、実施形態2に係るサンゴ育成方法のフロー図である。
【図8】図8は、サンゴ育成装置の応用例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るサンゴ育成方法に用いる基材及び当該基材を含むサンゴ育成装置を示す装置構成図である。本実施形態に係るサンゴ育成方法は、海中においてカソード(陰極)となる、網状かつ導電性を有する基材1を海底に設置した後、基材1と、海中に設置したアノードとなる部材との間に電流を流す点に特徴がある。このような手順により海底に設置した基材1の表面には、時間の経過とともに電着鉱物が析出し、基材1全体の強度を向上させる。このような基材が海底に設置されると、海底の地盤が強化されるとともに、基材1の表面にサンゴ幼生が着生して生育しやすくなる。
【0017】
本実施形態に係るサンゴ育成方法は、図1に示すサンゴ育成装置100を用いる。サンゴ育成装置100は、いわゆる流電陽極法を利用して基材1に電着鉱物を析出させる。サンゴ育成装置100は、基材1と、アノードとなる部材としての陽極2と、基材1と陽極2とを電気的に接続する導線3と、を有する。基材1は、導電性を有する複数の繊維(本実施形態では金属の繊維)1Fが格子状に編み込まれた網状の構造体である。複数の繊維1Fに、電着鉱物が析出したり、サンゴが活着したりする。
【0018】
カソードとなる基材1は、海水中で用いることを考慮して、ステンレス鋼又はチタン(Ti)又はチタン化合物等の耐食性が高い金属を用いることができる。さらに、基材1は、その表面を、例えばセラミックの粉末や多孔質コンクリート等で被覆して、多孔質の被覆層を有するものであってもよい。このようにすれば、サンゴ幼生(プラヌラ幼生)が基材1に着生しやすくなる。
【0019】
陽極2は、基材1よりも自然電位が卑な金属である。サンゴ育成装置100では、陽極2は流電陽極として機能する。基材1と陽極2とは、電気の導体である導線3によって電気的に接続される。このような構造のサンゴ育成装置100を海中に設置すると、基材1と陽極2との間に海水が介在する。海水は電解質なので、海中のサンゴ育成装置100は、海水の電池作用により、陽極2と基材1との間に電流が流れる。より具体的には、陽極2から基材1に向かって電流が流れる。その結果、海中のサンゴ育成装置100は、基材1にCaCO、Mg(OH)、MgCO等の石灰質が電着鉱物として析出し、また、基材1の周辺環境のアルカリ化が促進される。
【0020】
基材1は、網状の構造体であるため、柔軟性を有する。基材1に電着鉱物が析出し、その厚みが増してくると、基材1の強度が向上し、基材1は、一枚の板のようになる。また、基材1に析出した電着鉱物は石灰質であるため、電着鉱物が析出した基材1は、サンゴが活着する基盤となる。また、基材1の周辺環境のアルカリ化が促進される、すなわち陰極の周辺における海水のpHが上昇すると、サンゴの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるため、サンゴの成長速度及び耐性を向上させる。これらの作用によって、サンゴ育成装置100が有する基材1は、海底に設置されると、時間の経過とともに強度が向上するので、海底の地盤を安定化させる。同時に、基材1にサンゴが活着した場合には、当該サンゴの成長を促進させるとともに、当該サンゴを基材1により確実に活着させることができる。
【0021】
流電陽極法を用いる場合において、基材1への電着鉱物の析出及び基材1周辺における環境のアルカリ化を促進させるためには、陽極2の種類が重要になる。陰極電位が約−1000mV(飽和かんこう電極基準、以下省略)より貴側(電位が高い)であれば、基材1における反応は、概ね式(1)で表される酸素還元反応で、電流密度の大きさは100mA/m程度である。この反応に対応する陽極2は、アルミニウム系の材料を用いるが、上記電流値では石灰質の析出は遅くなる。一方、陽極2の消耗は比較的小さいため、陽極2の寿命は長くなる。
+HO+4e→4OH・・・(1)
【0022】
陰極電位が−1100mVより卑側(電位が低い)であれば、基材1における反応は、おおむね式(2)で表される水素発生反応で、電流密度の大きさは1000mA/m以上も可能となる。この反応に対応する陽極2は、マグネシウム系の材料を用いる。上記電流値では、石灰質の析出は早くなるが、流電陽極の消耗が大きく、陽極2の寿命は短くなる。
2HO+2e→H+2OH・・・(2)
本実施形態においては、石灰質の析出や陽極2の消耗、あるいは藻や貝類等の付着抑制等を考慮して、陽極2の材料を選択したり、陽極2の形状や配置等を変更したりする。例えば、初期においては陽極から陰極へ流れる電流を大きくして藻類や貝類の付着を抑制し、ある程度の期間が経過したら、前記電流を小さくして、サンゴの成長を促進する。
【0023】
基材1の表面における電流密度を変更するために、サンゴ育成装置100は、電流の大きさを変更して電流密度を変更する電流密度変更手段を有してもよい。前記電流密度変更手段は、基材1と陽極2との間に導線3を介して電気的に接続される。電流密度変更手段は、例えば、可変抵抗装置を用いてもよいし、半導体素子を組み合わせて構成してもよいし、取り替え可能である抵抗としてもよい。このように、電流密度を変更することを可能とすることで、電着鉱物の析出速度を制御することができる。
【0024】
図2は、実施形態1の変形例に係るサンゴ育成装置を示す装置構成図である。このサンゴ育成装置100aは、基材1aと、陽極2aと、電源4と、を有する。電源4は、直流電源である。電源4の負極(−極)と基材1aとは導線3Aによって電気的に接続され、正極(+極)と陽極2aとは導線3Bによって電気的に接続される。サンゴ育成装置100aは、少なくとも基材1aと陽極2aとが海中に設置される。この状態で、電源4は、基材1aと陽極2aとの間に電流を流す。より具体的には、電源4は、陽極2aから基材1aに向かって電流を流す。その結果、基材1aにはCaCO、Mg(OH)、MgCO等の石灰質が電着鉱物として析出し、また、基材1aの周辺環境のアルカリ化が促進される。
【0025】
サンゴ育成装置100aが有する陽極2aは、海水の電気分解に用いても酸化しない、不溶性導電体(チタン、炭素、白金等)を用いることが好ましいが、これに限定されるものではなく、酸化溶解する金属を用いてもよい。酸化溶解する金属、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金を陽極2aに用いると、電着鉱物が基材1aに析出している最中に、陽極2aから塩素が発生することを回避することができる。また、陽極2aにアルミニウム又はアルミニウム合金を用いると、マグネシウム又はマグネシウム合金を陽極2aに用いたときと比較して、陽極2aの酸化溶解を遅くすることができる。
【0026】
サンゴ育成装置100aは、電源4によって基材1aと陽極2aとの間に電流を流すので、流電陽極法により電流を流す場合と比較して、定電流を簡易に流すことができる。また、サンゴ育成装置100aは、基材1aの表面における電流密度を変更するために、例えば、可変抵抗装置による電流調節装置を有していてもよい。この電流調節装置は、基材1aと、導線3Aと、電源4と、導線3Bと、陽極2aとを有する回路に、直列に接続される。このような電流調節装置は、簡易に基材1aの表面における電流密度を変更することができるので、簡易に電着鉱物の析出速度を変化させることができる。
【0027】
電流密度の大きさは適宜設定することができるが、基材1aの表面における電流密度は、基材1aに活着したサンゴを育成するときの値よりも大きくなるように設定することが好ましい。このようにすることで、サンゴが基材1aに活着する前は、電着鉱物の析出速度を大きくすることができるので、海底の地盤を早期に安定化させることができる。そして、サンゴが基材1aに活着した後は、基材1aの表面における電流密度をサンゴの育成に適した値とすることにより、サンゴを適切に育成することができる。サンゴが基材1aに活着する前において、基材1の表面における電流密度は、例えば、1000mA/m以上5000mA/m以下が好ましい。
【0028】
サンゴ育成のために適した基材1aの表面における電流密度は、10mA/m以上500mA/m以下、好ましくは30mA/m以上300mA/m以下、より好ましくは40mA/m以上100mA/m以下、さらに好ましくは40mA/m以上70mA/m以下である。このような電流密度とすると、電着鉱物が適度に析出してサンゴの着生及び生育が促進される。このような値とすることで、サンゴ幼生を着生させている間に、すでに基材1に着生しているサンゴ幼生の生育を促進することができる。また、上述したような値とすることで、基材1aの周辺環境のアルカリ化が促進される、すなわち、基材1aの周辺における海水のpHが上昇する。このように、アルカリ化が促進されると、サンゴの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるため、サンゴの成長速度及び耐性を向上させる。
【0029】
基材1aの表面における電流密度は、図1に示すサンゴ育成装置100の基材1においても同様である。サンゴ育成装置100の基材1の表面における電流密度を調整するには、例えば、基材1と陽極2との間に電気抵抗を接続する。そして、時間の経過に応じて電気抵抗を大きくする。このようにすれば、基材1の表面における電流密度を、電着鉱物の析出に適した値から、サンゴを育成する場合に適した値へと変更することができる。次に、本実施形態に係るサンゴ育成方法の手順を説明する。
【0030】
図3は、実施形態1に係るサンゴ育成方法のフロー図である。図4は、実施形態1に係るサンゴ育成装置を海底に設置した状態を示す模式図である。この例は、サンゴ礁が存在する海域において航路を確保するために、海底を浚渫した後に、浚渫した部分の地盤を安定化させるものである。次の説明においては、図1に示すサンゴ育成装置100を用いるが、図2に示すサンゴ育成装置100aを用いてもよい。
【0031】
まず、サンゴ育成装置100の基材1を、海底BTに設置する(ステップS101)。この例では、潮流等で基材1が動くことを抑制するため、固定部材5を用いて基材1を海底BTに固定する。固定部材5としては、例えば、杭、アンカー(錘)等を用いることができる。基材1が設置される部分は、海底BTのうち、浚渫して窪んだ部分である。基材1は、網状の構造体なので、柔軟性を有している。このため、海底BTの形状が複雑であっても、その形状に追従しやすくなる。基材1は、海底BTに埋め込んでもよいし、海底BTの上に設置するだけでもよい。
【0032】
基材1が海底BTに設置されたら、基材1と、海中WIに設置したアノードとなる部材、すなわち陽極2との間に電流を流す(ステップS102)。サンゴ育成装置100は、流電陽極法を用いるので、陽極2を海中WIに設置するとともに、導線3で陽極2と基材1とを電気的に接続する。このようにすることで、基材1と陽極2との間に電流が流れ、基材1にはCaCO、Mg(OH)、MgCO等の電着鉱物が析出する。
【0033】
基材1に電着鉱物が析出すると、基材1の強度が向上するので、海底BTの地盤は安定する。また、基材1に析出した電着鉱物は、石灰藻が定着しやすい。石灰藻には、例えば、サンゴモのように、サンゴ礁の表面に新たに石灰を追加供給する役割を果たし、サンゴ礁の形成に欠かせない藻類がある。このため、基材に電着鉱物を析出させることで基材1に石灰藻が定着しやすくなり、サンゴが着生・生育しやすくなる。
【0034】
このように、電着鉱物が析出した基材1は、サンゴSが活着しやすい環境となるとともに、基材1の周辺は、活着したサンゴSが生育しやすい環境となる。このため、サンゴ礁が存在する海域において航路を確保するために海底BTを浚渫した結果、サンゴ礁にダメージを与えたような場合にサンゴ育成装置100を用いれば、海底BTの地盤を安定化させ、かつ、サンゴ礁の回復を図ることができる。本実施形態に係るサンゴ育成方法は、上述したように、サンゴSが基材1に活着する前後において、基材1の表面における電流密度を変更してもよい。
【0035】
図5は、実施形態1に係るサンゴ育成装置を砂地の海底に設置した状態を示す模式図である。本実施形態において、サンゴ育成装置100は、海底BTのうち浚渫された部分に設置されたが、サンゴ育成装置100を設置する部分はこれに限定されるものではない。例えば、図5に示すように、砂地の海底BTにサンゴ育成装置100の基材1を設置して、砂地の地盤を安定させつつサンゴ礁を形成したり、ダメージを受けたサンゴ礁の海底に基材1を設置して、地盤を安定させつつサンゴ礁を回復したりしてもよい。また、砂地に基材1を設置すれば、閉鎖性リーフにおいては砂の流出を抑制できる。さらに、砂地に基材1を設置すれば、砂地にサンゴ礁を作ることができる可能性もある。この場合、基材1は、複数の固定部材5で海底BTに固定される。そして、複数の陽極2が、基材1上に設置されて、導線3によって基材1と電気的に接続される。
【0036】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係るサンゴ育成装置を海底に設置した状態を示す模式図である。図7は、実施形態2に係るサンゴ育成方法のフロー図である。実施形態2は、網状かつ導電性を有する基材で、海中に存在するサンゴの残骸や貝殻、あるいは石等の瓦礫を覆った後、前記基材と、海中に設置したアノードとなる部材との間に電流を流す点に特徴がある。実施形態2に係るサンゴ育成方法は、実施形態1に係るサンゴ育成装置100、100aを用いて実現することができる。次の説明においては、図1に示すサンゴ育成装置100を用いるが、図2に示すサンゴ育成装置100aを用いてもよい。
【0037】
この例は、サンゴの残骸や石等の瓦礫を集めて当該残骸の海中WIにおける移動を抑制するものである。まず、海中WIにおいて、サンゴの残骸や石等のSAを集めて、これを図1に示すサンゴ育成装置100の基材1で覆う(ステップS201)。基材1は、網状の構造体なので、柔軟性を有している。このため、瓦礫SAを覆うことに適している。
【0038】
基材1で瓦礫SAを覆った後、潮流等で基材1が動くことを抑制するため、固定部材5を用いて基材1を海底BTに固定する。また、基材1を袋状にした上で、基材1の中に瓦礫SAを投入して、袋の口を閉じてもよい。このようにして、瓦礫SAを基材1で覆うとともに、基材1を海底BTに固定する。
【0039】
基材1が海底BTに設置されたら、基材1と、海中WIに設置したアノードとなる部材、すなわち陽極2との間に電流を流す(ステップS202)。サンゴ育成装置100は、流電陽極法を用いるので、陽極2を海中WIに設置するとともに、導線3で陽極2と基材1とを電気的に接続する。このようにすることで、基材1と陽極2との間に電流が流れ、基材1には電着鉱物が析出する。基材1に電着鉱物が析出すると、基材1の強度が向上するので、基材1が設置された海底BTの地盤は安定する。また、基材1で瓦礫SAを覆うことで、台風や潮流等の影響による瓦礫SAの流出を抑制できるので、海底BTの地盤が安定する。その結果、基材1や、基材1が設置された海底BTにサンゴSが活着しやすくなる。
【0040】
また、電着鉱物が析出した基材1は、サンゴSが活着しやすい環境となるとともに、基材1の周辺は、活着したサンゴSが生育しやすい環境となる。このため、サンゴが死滅し、サンゴの幼生が着生しにくいような場所にサンゴ育成装置100を設置することにより、基材1にサンゴSが活着して、サンゴ礁の回復を図ることができる。このとき、基材1は瓦礫SAを覆うので、瓦礫SAが潮流や台風等の影響で海中WIを移動することが抑制される。このため、瓦礫SAが基材1に活着したサンゴSに当たり、サンゴSの生育を阻害するようなおそれを低減できる。その結果、本実施形態に係るサンゴ育成方法は、サンゴ礁を効率的に回復できる。
【0041】
このように、本実施形態に係るサンゴ育成方法は、ダメージを受けたサンゴ礁を回復させるにあたって、海底BTの地盤を安定化させ、かつ瓦礫SAの海中WIにおける移動を抑制して、サンゴ礁の回復を図ることができる。例えば、サンゴ礁が存在する海域において航路を確保するために、海底を浚渫した際にダメージを受けたサンゴ礁を回復させる場合にも有効である。なお、本実施形態に係るサンゴ育成方法は、上述したように、サンゴSが基材1に活着する前後において、基材1の表面における電流密度を変更してもよい。
【0042】
図8は、サンゴ育成装置の応用例を示す説明図である。サンゴ育成装置100の基材1で岩礁帯の岩Rを覆い、海中WIで、基材1と導線3で電気的に接続された陽極2と基材1との間に電流を流す。そして、基材1に電着鉱物を析出させ、サンゴSが活着しやすくかつ、活着したサンゴSが生育しやすい環境とする。このようにすれば、例えば、いわゆる磯焼けが発生した岩礁帯を再生させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明に係るサンゴ育成方法は、海底の地盤を安定化することに有用である。
【符号の説明】
【0044】
1、1a 基材
1F 繊維
2、2a 陽極
3、3A、3B 導線
4 電源
5 固定部材
100、100a サンゴ育成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中においてカソードとなる、網状かつ導電性を有する基材を海底に設置する手順と、
前記基材と、海中に設置したアノードとなる部材との間に電流を流す手順と、
を含むことを特徴とするサンゴ育成方法。
【請求項2】
海中においてカソードとなる、網状かつ導電性を有する基材で、海中に存在する瓦礫を覆う手順と、
前記基材と、海中に設置したアノードとなる部材との間に電流を流す手順と、
を含むことを特徴とするサンゴ育成方法。
【請求項3】
前記基材は金属であり、前記部材は、前記基材よりも自然電位が卑な金属であり、前記基材と前記部材とを電気の導体で接続することにより、前記電流を流す請求項1又は2に記載のサンゴ育成方法。
【請求項4】
電源を用いて、前記基材と前記部材との間に前記電流を流す請求項1又は2に記載のサンゴ育成方法。
【請求項5】
前記基材は、航路を確保するために浚渫した海底に設置される請求項1から4のいずれか1項に記載のサンゴ育成方法。
【請求項6】
前記基材は、海底の砂地に設置される請求項1から4のいずれか1項に記載のサンゴ育成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−75420(P2012−75420A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226071(P2010−226071)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り STEEL CONSTRUCTION TODAY & TOMORROW(NO.30 July 2010),発行日 平成22年8月3日
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【出願人】(504089758)株式会社シーピーファーム (10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】