説明

サンゴ育成装置及びサンゴ育成方法

【課題】サンゴの生育に適した環境を作り出すこと。
【解決手段】サンゴ育成装置1は、サンゴSを活着させるサンゴ活着部11と、サンゴ活着部11と電気的に接続される陽極10と、陽極10とサンゴ活着部11との間に設けられる電流密度変更装置2とを備える。陽極10は、サンゴ活着部11よりも自然電位が卑である。電流密度変更装置2は、サンゴ育成装置1を海中に設置してから経過した時間に基づいて、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、サンゴ活着部に対応する陽極からサンゴ活着部へ電流を流すことによってサンゴを増殖させる手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、埋め立てや地球の温暖化に起因する海水温度の上昇等によって、サンゴ群集の白化やサンゴの死滅といったサンゴ礁の衰退が問題となっている。このため、近年においては、サンゴを人工的に養殖して、サンゴ礁を回復させる試みが提案されている。特許文献1には、海中の任意の深さに位置できる複数の浮体間に、サンゴの付着するサンゴ養生棚を備えるサンゴ養殖装置が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−32620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年においては、例えば、電気防蝕技術の一つである流電陽極法を応用して、サンゴの活着を促進する手法が提案されている。本発明は、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流すことによってサンゴを育成する手法において、サンゴの生育に適した環境を作り出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサンゴ育成装置は、サンゴを活着させる陰極としてのサンゴ活着部と、前記サンゴ活着部に対して設けられ、前記サンゴ活着部との間で電流を流す陽極と、前記サンゴ活着部と前記陽極との間に設けられ、前記サンゴ育成装置を海中に設置してから経過した時間に基づいて、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流、又は前記サンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を変更する電流密度可変手段と、を含むことを特徴とする。
【0006】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサンゴ育成装置は、サンゴを活着させるサンゴ活着部と、前記サンゴ活着部よりも自然電位が卑であり、かつ前記サンゴ活着部と電気的に接続される陽極と、前記サンゴ活着部と前記陽極との間に設けられ、前記サンゴ育成装置を海中に設置してから経過した時間に基づいて、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流、又は前記サンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を変更する電流密度可変手段と、を含むことを特徴とする。
【0007】
このような構成により、サンゴ育成装置を海中に設置した後は、陰極であるサンゴ活着部と陽極との間を流れる電流、又は陰極であるサンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を大きくして、炭酸カルシウムのような電着鉱物をサンゴ活着部へ析出させる。この電着鉱物へ石灰藻が付着しやすくなるので、結果としてサンゴが活着しやすい環境となる。そして、サンゴがサンゴ活着部へ活着した後は、前記電流密度を小さくして電着鉱物の析出を抑制して、サンゴ活着部の周囲にサンゴが生育しやすい環境を作り出すことができる。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴ育成装置において、前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着した後の前記電流密度は、前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着する前の前記電流密度よりも小さいことが好ましい。これによって、サンゴの活着前にはサンゴが活着しやすい環境を作り出し、かつ、サンゴが生育しやすい環境でサンゴを活着させて、サンゴを生育させることができる。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴ育成装置において、前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着する前に、前記電流密度を低下させることが好ましい。これによって、サンゴが生育しやすい環境でサンゴを活着させて、サンゴを生育させることができる。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴ育成装置において、前記電流密度可変手段は、前記サンゴ活着部と前記陽極との間の電気抵抗を変化させることが好ましい。これによって、簡単な構成でサンゴ活着部と陽極との間を流れる電流の電流密度を変更できる。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記サンゴ育成装置において、前記電流密度可変手段は、イオン化傾向の異なる材料を組み合わせて構成されることが好ましい。これによって、サンゴ育成装置を海中に設置した後は、イオン化しやすい材料が海中に溶け出して抵抗値が変化するので、サンゴ活着部と陽極との間を流れる電流の電流密度を自動的に変更できる。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流すことによってサンゴを育成するにあたり、前記サンゴ活着部と前記陽極とを海中に設置する手順と、前記サンゴを前記サンゴ活着部に活着させる前に、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流、又は前記サンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を、前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着した後に必要な電流密度まで低下させる手順と、を含むことを特徴とする。
【0013】
このような構成により、サンゴ活着部及び陽極を海中に設置した後は、陰極であるサンゴ活着部と陽極との間を流れる電流、又は陰極であるサンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を大きくして、炭酸カルシウムのような電着鉱物をサンゴ活着部へ析出させる。この電着鉱物へ石灰藻が付着しやすくなるので、結果としてサンゴが活着しやすい環境となる。そして、サンゴがサンゴ活着部へ活着する前に、前記電流密度を小さくして電着鉱物の析出を抑制することで、サンゴ活着部の周囲にサンゴが生育しやすい環境を作り出すことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るサンゴ育成装置は、サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流すことによってサンゴを育成する手法において、サンゴの生育に適した環境を作り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲に属するものが含まれる。なお、本発明は、流電陽極法及び陽極と陰極との間に外部電源を用いて電流を流す方法の両方に適用できる。本発明は、特に、サンゴの人工増殖に有効であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。すなわち、本発明は、自然に産卵したサンゴの生育に対しても、サンゴの生育に適した環境を作り出すことができるので、このようなサンゴに対しても有効である。
【0016】
本実施形態は、流電陽極法をサンゴの育成に適用したものであり、サンゴを活着させるサンゴ活着部を陰極とし、サンゴ活着部よりも自然電位が卑の陽極をサンゴ活着部と電気的に接続するとともに、サンゴ育成装置を海中に設置してから経過した時間に基づいて、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流、又は前記サンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を変更する点に特徴がある。なお、サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流の電流密度を変更すれば、サンゴ活着部に流れる電流の電流密度も変更される。
【0017】
図1は、本実施形態に係るサンゴ育成装置で採用する流電陽極法を説明するための概念図である。この実施形態に係るサンゴ育成装置1では、いわゆる流電陽極法を利用した電着により、サンゴを活着させるサンゴ活着部、すなわちサンゴ活着部を陰極として、サンゴ活着部11に電着鉱物を析出させて、サンゴ活着部11に着定したサンゴSの活着及び成長を促進する。次の説明においては、陰極をサンゴ活着部11とするため、サンゴ活着部11と陰極とは同義である。なお、陰極とサンゴ活着部11とを別体で構成してもよい。
【0018】
図1に示すように、サンゴSを着定させるサンゴ活着部11を陰極とするとともに、陰極(サンゴ活着部11)よりも自然電位が卑な金属を陽極(流電陽極)10として配置する。そして、陽極10と陰極(サンゴ活着部11)とを導体Lで接続し、陽極10、陰極(サンゴ活着部11)、及び陽極10と陰極(サンゴ活着部11)との間に介在する電解質(海水)の電池作用を利用して、陰極(サンゴ活着部11)と陽極10との間に電流を流す。これによって、陰極(サンゴ活着部11)にはCaCO、Mg(OH)、MgCO等の石灰質(電着鉱物)を析出させるとともに、陰極(サンゴ活着部11)の周辺環境のアルカリ化を促進する。
【0019】
陰極(サンゴ活着部11)に析出した石灰質は、サンゴSが活着する基盤となる。また、陰極(サンゴ活着部11)の周辺環境のアルカリ化が促進される(すなわち陰極の周辺における海水のpHが上昇する)と、サンゴSの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるため、サンゴSの成長速度及び耐性を向上させる。これらの作用によって、この実施形態に係るサンゴ養殖装置では、サンゴSの成長を促進させるとともに、サンゴ活着部11への活着をより確実にできる。
【0020】
流電陽極法を用いる場合において、陰極(サンゴ活着部11)への石灰質の析出及び陰極(サンゴ活着部11)周辺における環境のアルカリ化を促進させるためには、陽極(流電陽極)10の種類が重要になる。陰極電位が約−1000mV(飽和かんこう電極基準、以下省略)より貴側(電位が高い)であれば、陰極(サンゴ活着部11)における反応は、おおむね式(1)で表される酸素還元反応で、電流密度の大きさは100mA/m程度である。この反応に対応する陽極10は、アルミニウム系の材料で構成するが、上記電流値では石灰質の析出は遅くなる。一方、陽極10の消耗は比較的小さいため、陽極10の寿命は長くなる。
+HO+4e→4OH・・・(1)
【0021】
一方、陰極電位が−1100mVより卑側(電位が低い)であれば、陰極(サンゴ活着部11)における反応は、おおむね式(2)で表される水素発生反応で、電流密度の大きさは1000mA/m以上も可能となる。この反応に対応する陽極10は、マグネシウム系の材料で構成する。上記電流値では、石灰質の析出は早くなるが、流電陽極の消耗が大きく、陽極10の寿命は短くなる。
2HO+2e→H+2OH・・・(2)
この実施形態においては、石灰質の析出や陽極10の消耗、あるいは藻や貝類等の付着抑制等を考慮して、陽極10の材料を選択したり、陽極10の形状や配置等を変更したりする。例えば、初期においては陽極から陰極へ流れる電流を大きくして藻類や貝類の付着を抑制し、ある程度の期間が経過したら、前記電流を小さくして、サンゴの成長を促進する。
【0022】
図2−1は、電流密度の大きさと、有性生殖によって生まれたサンゴが着床している数との関係を示す図である。図2−2は、サンゴの光合成活性を調査するための実験装置を示す図である。図2−3は、サンゴの光合成活性を調査する実験において得られた溶存酸素密度と電流密度との関係を示す図である。図2−1は、サンゴの有性生殖実験において、陰極、すなわちサンゴ活着部11に着床したサンゴの数(着床数)N(個)と、陰極であるサンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度Id(mA/m)との関係を示している。なお、陰極であるサンゴ活着部11にサンゴが活着する場合、サンゴ活着部11を流れる電流の電流密度と、陰極であるサンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度とは、ほぼ同等になる。したがって、陰極であるサンゴ活着部11にサンゴを活着させる場合、電流密度は陽極10と陰極であるサンゴ活着部11との間を流れる電流の電流密度(電場)、サンゴ活着部11を流れる電流の電流密度のいずれを用いてもよい。
【0023】
図2−1は、図1に示すサンゴ育成装置1の陰極、すなわちサンゴ活着部11に流れる電流を変化させて、有性生殖により生まれてサンゴ活着部11に着床しているサンゴの個数を、着床から7週間後にモニタリングした結果であるが、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度が50mA/mのときに、着床したサンゴの残存数が最も多くなる。また、電気防蝕が適用された浮き桟橋において、前記電流密度が50mA/m前後の部分(例えば、浮き桟橋の底部や動揺抑制部材の近傍)でサンゴの活着が多数観測されるとともに、サンゴの生育も良好であることが観測されている。これらの結果から、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度が50mA/m程度である場合、サンゴの活着、生育に有効であると考えられる。
【0024】
図2−2に示す実験装置100により、サンゴの光合成活性における電場の影響を調査した。まず、図2−2に示す実験装置100の構成を説明する。実験装置100は、試験容器106と、電極である陰極102と、陽極103と、検出部104及び表示部105で構成される酸素濃度計と、照明108と、電源101とを含んでいる。
【0025】
試験容器106は、アクリル樹脂やガラス等の透明の材料で構成される。試験容器106の両端部には、陰極102と陽極103とが配置されるとともに、試験容器106の内部には海水が満たされる。サンゴ107は、陰極102と陽極103との間に設けられる。サンゴ107の近傍には、酸素濃度計の計測部104が配置されている。
【0026】
酸素濃度計は、試験容器106の内部にサンゴ107が配置される部分の海水に溶存する酸素の濃度を計測する。酸素濃度計の検出部104が検出した海水中の酸素濃度は、表示部105に表示される。試験容器106の内部における海水の溶存酸素濃度は、サンゴ107の光合成活性と相関が高いので、試験容器106の内部における海水の溶存酸素濃度に基づいて、サンゴ106の光合成活性を評価する。
【0027】
試験装置100でサンゴ107の光合成活性を評価する際には、電源101を用いて試験容器106の内部に存在する海水中に電場を形成するとともに、照明108によってサンゴ107へ光を照射する。このような環境下で、酸素濃度計によって、試験容器106の内部に存在する海水に溶存する酸素の濃度を計測し、サンゴ107の光合成活性を評価する。
【0028】
図2−2に示す試験装置100によりサンゴの光合成活性を評価した結果を図2−3に示す。評価したサンゴ107は、スギノキミドリイシである。図2−3は、溶存酸素濃度DO(mg/l)の時間tに対する変化を示しており、試験装置100の照明108によりサンゴ107に光を照射すると、時間tの経過とともに試験容器106内に存在する海水の溶存酸素濃度DOは単調に増加する。この溶存酸素濃度DOの変化は、一次関数a×t+bで近似できる。ここで、a、bは定数である。定数aは、溶存酸素濃度DOの時間変化の割合を示しており、定数aの値が大きいほど、サンゴ107の光合成活性が活発になることを示す。
【0029】
照明108により光をサンゴ107に照射するとともに、陰極102と陽極103との間を流れる電流の電流密度を0mA/m、50mA/m、100mA/mの3段階に変化させて、試験容器106内に存在する海水の溶存酸素濃度DOを所定時間計測した。光の照射条件は、300mol/(m・sec.)である。前記電流密度が0mA/mであるとき、定数aは8.82mgO/(L・日)、前記電流密度が50mA/mであるとき、定数aは18.87mgO/(L・日)、前記電流密度が100mA/mであるとき、定数aは18.20mgO/(L・日)である。このように、陽極103を流れる電流の電流密度を50mA/mのとき、サンゴ107の光合成活性が最も高くなる。
【0030】
上述したサンゴの着床のモニタリング、サンゴの光合成活性の評価結果から、陰極102と陽極103との間を流れる電流の電流密度が50mA/m程度(好ましくは50mA/m)である場合、サンゴの活着、生育に有効であると考えられる。なお、サンゴの種類や海域の条件により、前記電流密度は、50mA/mを中心としたある程度の範囲を持つ。例えば、サンゴの成長を促進させるためには、前記電流密度は10mA/m以上500mA/m以下、好ましくは30mA/m以上300mA/m以下、より好ましくは40mA/m以上100mA/m以下、さらに好ましくは40mA/m以上70mA/m以下とすることがよいと考えられる。この範囲の電流密度が、サンゴがサンゴ活着部11に活着した後に必要な電流密度であり、後述するように、サンゴがサンゴ活着部11に活着する前に必要な電流密度よりも小さい。
【0031】
なお、上述したように、サンゴを陰極であるサンゴ活着部11に直接活着させる場合、サンゴ活着部11を流れる電流の電流密度を上述した範囲としてもよい。また、陰極と陽極との間にサンゴ活着部が設けられる場合、サンゴは陰極に直接活着しないが、この場合には、陰極と陽極との間を流れる電流の電流密度を上述した範囲とする。陰極と陽極との間を流れる電流の電流密度は、陰極を流れる電流の電流密度、及び陰極と陽極との間の距離、陽極と陰極との面積等に基づいて求める。
【0032】
サンゴの成長を促進させるためには、陰極と陽極との間を流れる電流(あるいは陰極、すなわちサンゴ活着部11)を流れる電流の電流密度を10mA/m以上とすることが好ましいが、2000mA/mを超えるとサンゴの成長速度よりも石灰質等の電着速度の方が速くなり、サンゴの成長を阻害するおそれがある。このため、サンゴがサンゴ活着部11へ活着する前に電流密度を2000mA/m以下にすることが好ましい。
【0033】
サンゴの成長を促進させるにあたっては、前記電流密度を実現できるような陽極10の材料や配置等を選択する。また、サンゴを養殖する海域の流速や塩分濃度等といった海象状況に応じて陽極10や陰極11の材料を選択等して、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流(あるいはサンゴ活着部11を流れる電流)の電流密度を調整し、海象状況に応じて陰極の周辺をサンゴの育成に最適な環境とすることが好ましい。上述した電流密度を実現するためには、電流密度が高い方であれば陰極電位を−1100mV程度よりも低くすればよく、低い方であれば陰極電位を−1050mV前後とすればよい。
【0034】
陰極(サンゴ活着部11)の材料は、自然電位が陽極10よりも貴側(電位が高い)の金属であればよいが、海水中で用いることを考慮して、ステンレス鋼、あるいはチタン(Ti)やチタン化合物等の耐食性が高い金属を用いることが好ましい。また、陽極10は、上述したように、陰極(サンゴ活着部11)よりも卑側(電位が低い)の金属を用いる。このような金属の中から、陽極10を構成する材料としては、適用される電流の大きさや寿命を考慮して、例えば、亜鉛、亜鉛合金(亜鉛系)、アルミニウム、アルミニウム合金(アルミニウム系)、マグネシウム、マグネシウム合金(マグネシウム系)の中から少なくとも一つを用いる。
【0035】
陰極11と陽極10との間(あるいは陰極11)に大きな電流を流すためには陽極10にマグネシウム系を用い、これよりも電流が小さくてよい場合には陽極10に亜鉛系又はアルミニウム系を適用する。ただし、電流の大きいマグネシウム系では寿命が短く、また、電流の小さな亜鉛系及びアルミニウム系では長寿命となるので、適宜使い分ける。初期に大電流、後半の中電流を維持する目的で、マグネシウム系と亜鉛系との組み合わせ、あるいはマグネシウム系とアルミニウム系の組み合わせとしてもよい。
【0036】
サンゴの成長を促進させるにあたっては、サンゴSを育成する海域の流速に応じて、前記電流密度を変更してもよい。より具体的には、サンゴを生育する海域の流速が大きくなるにしたがって前記電流を大きくする。これによって、より確実に陰極(サンゴ活着部11)への石灰質の析出及び陰極(サンゴ活着部11)周辺における環境のアルカリ化を促進させることができる。
【0037】
また、石灰藻がサンゴの活着を促進する可能性がある。このため、サンゴ育成装置1を海中に設置してからの所定の期間(例えばサンゴが活着する前までの期間)は、前記所定の期間が経過した後(例えばサンゴが活着した後)よりも大きい電流密度(例えば3000mA/m程度)として石灰質のような電着鉱物をサンゴ活着部11へ積極的に析出させる。これによって、サンゴ活着部11へ析出した電着鉱物へ石灰藻が定着しやすくなるので、結果としてサンゴが活着しやすく、かつ成長しやすい環境が作り出される。その後、電流密度をサンゴの成長に適した値(例えば100mA/m以下、好ましくは50mA/m程度)として、サンゴの成長を促進する。
【0038】
これを実現するため、陰極であるサンゴ活着部11と陽極10との間に、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度(あるいは、サンゴ活着部11を流れる電流の電流密度)を変更可能な電流密度変更装置2を設ける。これによって、サンゴ育成装置1を海中に設置してからの経過期間に応じて、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度を変更することができる。その結果、石灰藻をサンゴ活着部11へ付着させるために石灰質をサンゴ活着部11へ析出させる段階、サンゴがサンゴ活着部11へ活着して成長する段階等、サンゴの活着や成長段階に応じて、サンゴ活着部11と陽極10との間やサンゴ活着部11を流れる電流の電流密度を変更できる。次に、本実施形態に係る電流密度変更装置2の構成を説明する。
【0039】
図3−1は、本実施形態に係る電流密度可変手段の構成例を示す概念図である。図3−2は、本実施形態に係る電流密度可変手段の使用状況を示す概念図である。本実施形態に係る電流密度変更装置2は、複数の抵抗を組み合わせて構成されており、陽極10と陰極であるサンゴ活着部11との間へ直列に接続される。
【0040】
電流密度変更装置2は、第1の抵抗3Aと、第2の抵抗3Bとを並列に接続して構成される。また、第2の抵抗3Bと直列に、電流密度変更導体3Iを接続する。すなわち、電流密度変更装置2は、第1の抵抗3Aと、第2の抵抗3B及び電流密度変更導体3Iとを並列に接続して構成される。電流密度変更導体3Iは、図1に示すサンゴ育成装置1で実際に使用している陽極10の材料と同等か、さらに電位の低い材料、例えばマグネシウムとする。また、電流密度変更導体3Iの消耗をより制御しやすくするために、電流密度変更導体3Iの近傍に、電流密度変更導体3Iよりも電位の貴な金属、例えば鋼材、ニッケル−クロム合金、チタン等を配置してもよい。
【0041】
第1の抵抗3Aの抵抗値をR1、第2の抵抗3Bの抵抗値をR2とする。例えば、陰極であるサンゴ活着部11と陽極10との間に流れる電流を、第1の抵抗3A及び第2の抵抗3Bを設けない場合の半分以下に減衰させるためには、R1>R2とする。サンゴ育成装置1を海中に設置すると、電流密度変更導体3Iは海水と接する。すると、まず、電流密度変更導体3Iを陽極とし、サンゴ活着部11を陰極として、電流密度変更導体3Iと第2の抵抗3Bとサンゴ活着部11との間で電流が流れ、電流密度変更導体3Iは徐々に消耗していく。
【0042】
サンゴ育成装置1を海中に設置してから所定の期間が経過した後は、図3−2に示すように電流密度変更導体3Iが完全に消耗する。すると、サンゴ育成装置1のサンゴ活着部11と陽極10と第1の抵抗3Aとの間で電流が流れる。R1とR2とを並列に接続した場合の合成抵抗値よりもR1の抵抗値は大きいので、電流密度変更導体3Iが消滅した後における陽極10とサンゴ活着部11との間を流れる電流の電流密度は、電流密度変更導体3Iが消滅する前よりも小さくなる。
【0043】
これによって、サンゴ育成装置1を海中に設置してからの所定の期間は、前記所定の期間が経過した後よりも大きい電流密度となるので、電着鉱物をサンゴ活着部11へ積極的に析出させることができる。これによって、サンゴ活着部11へ析出した電着鉱物へ石灰藻が定着しやすくなるので、結果としてサンゴが活着しやすい環境が作り出される。陽極10とサンゴ活着部11との間を流れる電流の電流密度(あるいは、サンゴ活着部11を流れる電流の電流密度)が小さくなる時期を、サンゴがサンゴ活着部11へ活着する前後に設定することにより、サンゴがサンゴ活着部11へ活着しているときには、サンゴがサンゴ活着部11へ活着していないときよりも電流密度を小さくできるので、サンゴの成長を促進できる。
【0044】
すなわち、サンゴがサンゴ活着部11へ活着した後において、サンゴ活着部11へ多くの電着鉱物が析出すると、電着鉱物によってサンゴが覆われて、サンゴの生育が阻害されるおそれがある。このため、サンゴがサンゴ活着部11へ活着しているときは、サンゴがサンゴ活着部11へ活着していないときよりも電流密度を低下させて、サンゴ活着部11へ析出する電着鉱物の量を低下させる。これによって、サンゴがサンゴ活着部11へ活着した後において、サンゴの生育に適した環境をサンゴ活着部11の周囲へ作り出すことができる。
【0045】
ここで、電着鉱物をサンゴ活着部11へ析出させる場合、例えば、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度(あるいはサンゴ活着部11を流れる電流の電流密度)が1000mA/m以上5000mA/m以下になるように、第2の抵抗3Bや電流密度変更導体3Iの材料を設定する。この範囲の電流密度が、サンゴがサンゴ活着部11に活着する前に必要な電流密度である。
【0046】
なお、上述したように、サンゴを陰極であるサンゴ活着部11に直接活着させる場合、サンゴ活着部11を流れる電流の電流密度を上述した範囲としてもよい。また、陰極と陽極との間にサンゴ活着部が設けられる場合、サンゴは陰極に直接活着しないが、この場合には、陰極と陽極との間を流れる電流の電流密度を上述した範囲とする。陰極と陽極との間を流れる電流の電流密度は、陰極を流れる電流の電流密度、及び陰極と陽極との間の距離、陽極と陰極との面積等に基づいて求める。
【0047】
そして、電着鉱物がサンゴ活着部11へ析出して、サンゴをサンゴ活着部11へ活着させることができるようになった後は、例えば、前記電流密度が10mA/m以上500mA/m以下、好ましくは30mA/m以上300mA/m以下、より好ましくは40mA/m以上100mA/m以下、さらに好ましくは40mA/m以上70mA/m以下になるように、第1の抵抗3Aの抵抗値や陽極10の材料を設定する。
【0048】
このように、本実施形態に係るサンゴ育成装置1が備える電流密度変更装置2は、簡単な構成で、海中への設置後から所定期間が経過する前後で、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流の電流密度(あるいはサンゴ活着部11を流れる電流の電流密度)を変更できる。これによって、本実施形態では、サンゴ活着部11の周辺に、サンゴの育成に最適な環境を作り出すことができる。
【0049】
サンゴの産卵時期は年に1回なので、サンゴ育成装置1を海中へ設置する時期と、電着鉱物の析出量とを考慮して、サンゴがサンゴ活着部11へ活着する時期に合わせて第2の抵抗3Bが消滅するように、第2の抵抗3Bの大きさ等を設定することが好ましい。また、サンゴがサンゴ活着部11へ活着した後は、サンゴ活着部11へ析出させた電着鉱物を維持できる程度の大きさの電流密度(例えば、サンゴ育成装置1の防蝕を達成できる程度)を維持することが好ましい。これによって、電着鉱物によってサンゴが覆われることを回避しつつ、サンゴ育成装置1の腐食を抑制して、サンゴ活着部11へ析出させた電着鉱物の脱落を回避できる。
【0050】
図3−3、図3−4、図3−5は、本実施形態に係る他の電流密度可変手段の構成例を示す概念図である。図3−3に示すサンゴ育成装置1aが備える電流密度変更装置2aは、第1の抵抗3Aと第2の抵抗3Bとを並列に接続するとともに、第1の抵抗3Aと直列に第1の電流密度変更導体3AIを接続し、第2の抵抗3Bと直列に第2の電流密度変更導体3BIを接続する。ここで、第1の電流密度変更導体3AIは、第2の電流密度変更導体3BIよりも貴な電位を持つ。例えば、第2の電流密度変更導体3BIをマグネシウムとし、第1の電流密度変更導体3AIをチタンとする。
【0051】
このサンゴ育成装置1a及び電流密度可変手段2aを海中に設置すると、第2の電流密度変更導体3BIからサンゴ活着部11と第1の電流密度変更導体3AIとへ向かって電流が流れ、第2の電流密度変更導体3BIは徐々に消耗する。これによって、この電流密度可変手段2aでは、幅広い電流密度の調整が可能となる。
【0052】
図3−4に示すサンゴ育成装置1bが備える電流密度変更装置2bは、第1の抵抗3Aと第2の抵抗3Bと第3の抵抗3Cを並列に接続するとともに、第1の抵抗3Aと直列に第1の電流密度変更導体3AIを接続し、第2の抵抗3Bと直列に第2の電流密度変更導体3BIを接続する。ここで、第1の電流密度変更導体3AI及び第2の電流密度変更導体3BIは、マグネシウムあるいはマグネシウム合金とし、第1の電流密度変更導体3AIは、第2の電流密度変更導体3BIよりも形状を小さくする。
【0053】
このようにすると、第1の電流密度変更導体3AI及び第2の電流密度変更導体3BIはどちらも消耗していく。この場合、第1の電流密度変更導体3AIは第2の電流密度変更導体3BIよりも寸法が小さいので、第1の電流密度変更導体3AIは第2の電流密度変更導体3BIよりも先に消耗する。そして、その後に第2の電流密度変更導体3BIが消耗する。これによって、電流密度変更装置2bは、陽極10とサンゴ活着部11との間における電流密度を2段階以上に変更できる。
【0054】
なお、本実施形態において、電流密度可変手段は上記構成に限られるものではない。例えば、抵抗を取り替え可能に構成し、サンゴがサンゴ活着部11へ活着した後に、それ以前よりも高い抵抗に取り替えてもよい。また、可変抵抗器を用いて、サンゴの活着時期に合わせて電流密度可変手段の抵抗値を変更してもよい。
【0055】
さらに、図3−5に示すサンゴ育成装置1cが備える電流密度変更装置2cのように、サンゴ育成装置1cを海中に設置してからの経過時間を計数するタイマー15と、第2の抵抗3Bと直列に接続したスイッチ(SW)16とを用いてもよい。この電流密度変更装置2cは、タイマー15を用いて、サンゴ育成装置1cを海中に設置してからの時間を計数し、所定の時間が経過したら、タイマー15からスイッチ16に対してOFF信号を発信し、スイッチ16をOFFにする。
【0056】
これによって、電流密度変更装置2bは、海中への設置後から所定期間が経過する前後で、陽極10とサンゴ活着部11との間を流れる電流の電流密度を変更できる。また、電流密度変更装置2cは、電流密度をステップ状に変化させることができる。これによって、電流密度の低下がほとんどないため、電着鉱物をサンゴ活着部11に析出させるために大きい電流密度が必要な場合には、ほぼ一定の電流密度を維持して、早期に電着鉱物をサンゴ活着部11へ析出させることができる。
【0057】
図3−6は、外部電源装置によりサンゴ活着部と陽極との間に電流を流すサンゴ育成装置の構成例を示す概念図である。このサンゴ育成装置1dは、直流電源の電源装置2dによってサンゴ活着部11と陽極10との間に電流を流す。電源装置2dは、陽極10とサンゴ活着部11との間の電流密度を変更するため、例えば、可変抵抗装置による電流調整機能を有している。このように、サンゴ育成装置1dの電源装置2dは、電流密度可変手段として機能する。
【0058】
このサンゴ育成装置1dは、海中に設置されてから所定の期間(例えばサンゴ活着部11にサンゴが活着するまで)は、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流(あるいはサンゴ活着部を流れる電流)の電流密度が、例えば、1000mA/m以上5000mA/m以下になるように電源装置2dを調整する。そして、サンゴがサンゴ活着部11へ活着した後は、例えば、サンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流(あるいはサンゴ活着部を流れる電流)の電流密度が、例えば、10mA/m以上500mA/m以下、好ましくは30mA/m以上300mA/m以下、より好ましくは40mA/m以上100mA/m以下、さらに好ましくは40mA/m以上70mA/m以下となるように、電源装置2dを調整する。
【0059】
この実施形態に係るサンゴ育成装置1では、陰極とサンゴ活着部11とを同一としているが、陰極とサンゴ活着部11とを別個に用意してもよい。例えば、鋼やステンレス鋼の陰極と陽極10とを用意するとともに、例えば、金属線や繊維等をセラミック粉で被覆したシートを、サンゴ活着部11として陰極の近傍に配置する。この場合、陽極10と陰極との間にサンゴ活着部11を配置すれば、より効率よく電着鉱物をサンゴ活着部11に堆積させることができる。その結果、サンゴSの成長をより促進させることができ、好ましい。
【0060】
また、この実施形態では、サンゴ活着部11に直接サンゴSを活着させるが、例えば、セラミック板等にサンゴのプラヌラ幼生を捕獲し、着底させたものを、サンゴ活着部11上に配置して、プラヌラ幼生から変態したポリプの活着、成長を促進してもよい。このようにしても、電着による電着鉱物の析出、サンゴ活着部11の周辺環境のアルカリ化が促進されるので、サンゴSの成長が促進される。
【0061】
図3−7は、本実施形態に係るサンゴ育成装置における電流密度の時間経過を示す模式図である。図3−7の時間t=t1は、サンゴがサンゴ活着部11に活着するタイミングを示す。本実施形態に係るサンゴ育成装置1、1a、1b、1c、1dでは、図3−7の実線A、一点鎖線Bで示すように、陰極であるサンゴ活着部11と陽極10との間を流れる電流(あるいは陰極であるサンゴ活着部11を流れる電流)の電流密度が変化する。これによって、前記電流密度は、サンゴがサンゴ活着部11に活着するタイミングよりも前(t=t0)に、サンゴの生育に好適な電流密度(例えば50mA/m)に低下する。ここで、図3−7の実線Aが、サンゴ育成装置1c、1dにおける電流密度の時間変化を示し、図3−7の一点鎖線Bが、サンゴ育成装置1、1a、1bにおける電流密度の時間変化を示す。サンゴ育成装置1、1a、1bは、時間の経過とともに徐々に電流密度が小さくなるが、タイマーや外部電源を用いるサンゴ育成装置1c、1dは、時間の経過に関わらず電流密度を一定にできるとともに、t=t0においてステップ的に電流密度を低下させることができる。
【0062】
図4は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す正面図である。図5は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す平面図である。図6は、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す側部図である。本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物20は、上述したサンゴ育成装置1を備えており、網状のサンゴ活着部11を備えている。そして、サンゴ造礁用構造物20を海底Uに設置して、サンゴ活着部11やサンゴ造礁用構造物20の骨格に活着させた、あるいは自然に活着したサンゴSを育成する。このサンゴ造礁用構造物20では、上述したように流電陽極法を用いてサンゴの活着及び成長を促進させるものであり、サンゴ活着部11が流電陽極(以下陽極という)10に対する陰極となる。
【0063】
このサンゴ造礁用構造物20の骨格は、棒状の第1骨格部材6と、円弧状の第2骨格部材7とを組み合わせて構成される。この骨格に、サンゴ活着部11及び陽極10を取り付けてサンゴ造礁用構造物20が構成される。ここで、本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物20は、サンゴ活着部11を陽極10に対する陰極とするとともに、第1骨格部材6及び第2骨格部材7で構成される骨格も陽極10に対する陰極とする。すなわち、前記骨格も、サンゴが活着するサンゴ活着部となる。このため、第1骨格部材6及び第2骨格部材7は、サンゴ活着部11と同じ材料で製造される。これらは、例えばステンレス鋼や鋼で構成される。
【0064】
円弧状の第2骨格部材7の両端部には、それぞれ底板9が取り付けられている。第2骨格部材7と底板9とは、補強部材である連結板8によって連結されており、第2骨格部材7の取付部における強度を向上させている。網状のサンゴ活着部11は、隣接する第2骨格部材7の間に配置され、第1骨格部材6及び第2骨格部材7に固定される。また、陽極10は、陽極10をサンゴ造礁用構造物20へ支持する陽極支持部材12を介して第2骨格部材7に固定される。第1骨格部材6及び第2骨格部材7及びサンゴ活着部11は流電陽極法における陰極となる。
【0065】
陽極支持部材12は電気の導体で構成されており、陽極10と、これに対する陰極であるサンゴ活着部11及び第1骨格部材6及び第2骨格部材7とを電気的に接続する。また、陽極支持部材12には、本実施形態に係る電流密度変更装置2が取り付けられている。この電流密度変更装置2によって、サンゴ育成装置1を含むサンゴ造礁用構造物20を海中に設置してから所定の時間が経過する前後において、陽極10と、これに対する陰極であるサンゴ活着部11等との間を流れる電流の電流密度を変更できる。
【0066】
このサンゴ造礁用構造物20を海底Uに設置する際には、例えば人工のライブロック4を底板9の上に載置して、サンゴ造礁用構造物20の錘とする。このサンゴ造礁用構造物20は、コンクリートの構造物を含まないため質量が小さいので、ライブロック4を用いてサンゴ造礁用構造物20を安定させることが好ましい。また、ライブロック4にもサンゴを活着させることができる。
【0067】
以上、本実施形態では、サンゴを活着させるサンゴ活着部を陰極とし、サンゴ活着部よりも自然電位が卑の陽極をサンゴ活着部と電気的に接続するとともに、サンゴ育成装置を海中に設置してから経過した時間に基づいて、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流の大きさを変更する。これによって、サンゴの活着に適した環境を作り出し、サンゴが活着した後は、サンゴの生育に適した環境を作り出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係るサンゴ育成装置及びサンゴ育成方法は、サンゴの養殖に有用であり、特に、流電陽極法を利用してサンゴを育成させることに適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態に係るサンゴ育成装置で採用する流電陽極法を説明するための概念図である。
【図2−1】電流密度の大きさと、有性生殖によって生まれたサンゴが着床している数との関係を示す図である。
【図2−2】サンゴの光合成活性を調査するための実験装置を示す図である。
【図2−3】サンゴの光合成活性を調査する実験において得られた溶存酸素密度と電流密度との関係を示す図である。
【図3−1】本実施形態に係る電流密度可変手段の構成例を示す概念図である。
【図3−2】本実施形態に係る電流密度可変手段の使用状況を示す概念図である。
【図3−3】本実施形態に係る他の電流密度可変手段の構成例を示す概念図である。
【図3−4】本実施形態に係る他の電流密度可変手段の構成例を示す概念図である。
【図3−5】本実施形態に係る他の電流密度可変手段の構成例を示す概念図である。
【図3−6】外部電源装置によりサンゴ活着部と陽極との間に電流を流すサンゴ育成装置の構成例を示す概念図である。
【図3−7】本実施形態に係るサンゴ育成装置における電流密度の時間経過を示す模式図である。
【図4】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す正面図である。
【図5】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す平面図である。
【図6】本実施形態に係るサンゴ造礁用構造物の構成例を示す側部図である。
【符号の説明】
【0070】
1、1a、1b、1c、1d サンゴ育成装置
2、2a、2b、2c 電流密度変更装置
2d 電源装置
3A 第1の抵抗
3B 第2の抵抗
3C 第3の抵抗
3I 電流密度変更導体
3AI 第1の電流密度変更導体
3BI 第2の電流密度変更導体
6 第1骨格部材
7 第2骨格部材
8 連結板
9 底板
10 陽極
11 サンゴ活着部(陰極)
12 陽極支持部材
15 タイマー
16 スイッチ
20 サンゴ造礁用構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴを活着させる陰極としてのサンゴ活着部と、
前記サンゴ活着部に対して設けられ、前記サンゴ活着部との間で電流を流す陽極と、
前記サンゴ活着部と前記陽極との間に設けられ、前記サンゴ育成装置を海中に設置してから経過した時間に基づいて、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流、又は前記サンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を変更する電流密度可変手段と、
を含むことを特徴とするサンゴ育成装置。
【請求項2】
サンゴを活着させるサンゴ活着部と、
前記サンゴ活着部よりも自然電位が卑であり、かつ前記サンゴ活着部と電気的に接続される陽極と、
前記サンゴ活着部と前記陽極との間に設けられ、前記サンゴ育成装置を海中に設置してから経過した時間に基づいて、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流、又は前記サンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を変更する電流密度可変手段と、
を含むことを特徴とするサンゴ育成装置。
【請求項3】
前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着した後の前記電流密度は、前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着する前の前記電流密度よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のサンゴ育成装置。
【請求項4】
前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着する前に、前記電流密度を低下させることを特徴とする請求項3に記載のサンゴ育成装置。
【請求項5】
前記電流密度可変手段は、前記サンゴ活着部と前記陽極との間の電気抵抗を変化させることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のサンゴ育成装置。
【請求項6】
前記電流密度可変手段は、イオン化傾向の異なる材料を組み合わせて構成されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のサンゴ育成装置。
【請求項7】
サンゴが活着するサンゴ活着部を陰極にするとともに、前記陰極に対応する陽極から前記陰極へ電流を流すことによってサンゴを育成するにあたり、
前記サンゴ活着部と前記陽極とを海中に設置する手順と、
前記サンゴを前記サンゴ活着部に活着させる前に、前記サンゴ活着部と前記陽極との間を流れる電流、又は前記サンゴ活着部を流れる電流のうち少なくとも一方の電流密度を、前記サンゴ活着部に前記サンゴが活着した後に必要な電流密度まで低下させる手順と、
を含むことを特徴とするサンゴ育成方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図3−7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−65971(P2009−65971A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212226(P2008−212226)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本沿岸域学会研究討論会2008 講演概要集No.21 発行日 平成20年7月17日
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【出願人】(000232759)日本防蝕工業株式会社 (21)
【出願人】(504089758)株式会社シーピーファーム (10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】