説明

サンドブラスト用研磨材およびその製造方法

【課題】 サンドブラスト法による基板等への、高精度で精密な加工パターンの形成が可能な研磨材を提供する。
【解決手段】 無電解還元法により作製された、Niと半金属で構成された球状Ni合金粒子であって、その組織中にはNiと該半金属の金属間化合物が析出しているサンドブラスト用研磨材である。半金属はPであることが好ましい。また、その粒子径は、レーザー回折散乱法による平均粒径(d50)が1〜15μmで、かつその粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0(d90、d10、d50:積算分布曲線において、90体積%、10体積%、50体積%を示す粒子径)であることが好ましい。
本発明のサンドブラスト用研磨材は、無電解還元法により作製された球状Ni合金粒子を加熱処理する製造方法により、作製することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンドブラスト用の研磨材として使用される金属微小粒子と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコンをはじめとするモバイル製品は、高性能、多機能化の一途をたどっており、その構成部材への要求特性は厳しさを増している。中でも、ディスプレイや回路基板等の分野においては、無機材料への精密で微細なパターンニングを行なう技術のニーズが高まっている。ディスプレイ分野のプラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下PDP)は大画面化、高精細化、省スペースが可能であることから、CRT(Cathode
Ray
Tube)、LCD(Liquid Crystal Display)に続く第3のディスプレイとして注目をされており、そのガス放電パネルを構成する表示セルの仕切りである壁隔には、高精度のパターン加工の技術向上が望まれている。
【0003】
PDPの隔壁はガラス等の無機材料であり、低いイニシャルコストで高効率に隔壁を形成できる方法の例として、研磨材を圧縮空気等のキャリアガスに混ぜてノズルから噴射し、対象物に衝突させて加工を行なうサンドブラスト法が用いられている。一般に研磨材としては、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、ガラスビーズなどが用いられているが、その形状は不定形であり、粒径の分布がブロードであるため、高精度の加工が困難であり、また、比重の軽い研磨材に起因した汚染が発生するという問題があった。
【0004】
一方、これらの技術分野に対しては、本発明者は、回路基板の配線接続に用いる異方性導電フィルムについて、それに混合させる導電粒子を提案している(特許文献1)。この導電粒子は、優れた導電特性を有している一方では、高硬度かつ均一な形状および粒子分布をも達成していることから、異方性導電フィルムに最適なものとなっている。
【特許文献1】特開2006−131978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
殊、高精度の微細加工を行なうためのサンドブラスト用研磨材としては、形状が定形かつサイズの揃った、例えば粒径にて約50μm以下の域で、均一で微細な球状粒子が好適である。しかし、このような微細粒子であっても、その硬さ、あるいは比重が低すぎると、高精度の微細加工に支障を来たす。特に、比重の軽い研磨材の場合、それに起因する汚染の発生問題に加えては、十分な衝突エネルギーが得られないため、加工能力に乏しく、高い生産効率を望み難い。サンドブラスト用研磨材としては、例えばビッカース硬さで1000Hv前後の高硬度と、鋼球並みの7.8前後の比重が必要である。
【0006】
本発明の目的は、特にサンドブラスト用研磨材に使用するのに好適で、粒子自体が研磨に必要な硬さと比重を有する粒子径の揃った研磨材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高精度の微細加工が可能なサンドブラスト用研磨材について検討した。その結果、先に提案した特許文献1の異方性導電フィルム用導電粒子が、本研磨材に求められる種々の特性をも満たし得、つまり、サンドブラスト用研磨材に好適である結果を得た。
【0008】
すなわち、本発明は、無電解還元法により作製された、Niと半金属で構成された球状Ni合金粒子であって、その組織中にはNiと該半金属の金属間化合物が析出していることを特徴とするサンドブラスト用研磨材である。また、上記半金属がPであることを特徴とするサンドブラスト用研磨材である。
【0009】
そして、レーザー回折散乱法による平均粒径(d50)が1〜15μmであり、かつその粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0(d90、d10、d50:積算分布曲線において、90体積%、10体積%、50体積%を示す粒子径)であることを特徴とするサンドブラスト用研磨材である。
【0010】
更に、上記本発明のサンドブラスト用研磨材の製造方法であって、無電解還元法により作製された球状Ni合金粒子を少なくとも加熱処理することを特徴とするサンドブラスト用研磨材の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の球状Ni合金粒子でなるサンドブラスト用研磨材は、研磨材としての必要な硬さと比重を有していることから、高い生産性と低いコストのサンドブラストが可能となる。そして、微細な球状となっていることでキャリアガスに混ぜた際に良好な分散性を示し、また粒子サイズが揃っていることから研磨材の一定量供給も可能となることから、高精度で精密なサンドブラスト加工に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のサンドブラスト用研磨材の重要な特徴は、Niと半金属で構成された球状Ni合金粒子において、その組織中にはNiと該半金属(好ましくは、P)の金属間化合物が析出していることにある。望ましくは、レーザー回折散乱法による平均粒径(d50)が1〜15μmであり、かつその粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0という、粒子サイズの揃った球状Ni合金粒子であって、これらは無電解還元法により製造する。
【0013】
また、無電解還元法により製造した時には、非晶質の組織状態にある球状Ni合金粒子に対しては、これに加熱処理を行なうことが、サンドブラスト用研磨材の製造方法として好適である。以下、その好ましい製造方法と共に本発明のサンドブラスト用研磨材について説明する。
【0014】
後述の無電解還元法により作製される本発明のサンドブラスト用研磨材は、Niと半金属で構成された球状Ni合金粒子である。純金属のNiの硬さは、ビッカース硬さ200Hv程度であり、サンドブラストの研磨材として用いる場合、硬さが不足している。そこで、上記の必要硬さを付与する有効な手段として、本発明では、Niに半金属元素を添加し、更に組織を調整することにより、金属間化合物を形成する手法を採用する。上記の金属間化合物の析出により、非常に硬く、且つ、優れた耐摩耗性と耐食性を有するNi合金粒子を得ることが可能となる。半金属元素としては、C、B、P等があるが、中でもPは適切な比率の添加と加熱処理を行なうことで、NiPの金属間化合物が生成され、本発明にとっての好適な半金属元素種である。
【0015】
ところで、一般的な無電解めっきにおけるNi−P皮膜の結晶構造は、Pの含有量が4質量%前後と低い場合には面心立方晶であり、約7.4質量%程度から非晶質構造となる。そして、その非晶質構造は、加熱処理を行なうことで、体心正方晶のNiPを析出して、硬さを増す。本発明における半金属元素にPを採用している理由は、球状Ni合金粒子を無電解還元法により還元析出させる時のpH等を調整することで、Niと金属間化合物を生成するP濃度の制御が容易となり、その粒子の硬さの制御が可能だからである。
【0016】
本発明の球状Ni合金粒子でなるサンドブラスト用研磨材の粒子径は、d50の数値を1〜15μmとすることが望ましい(d50:積算分布曲線において、50体積%を示す粒子径)。この粒子径が1μm未満の場合には、粒子の取り扱いが困難となるだけでなく、サンドブラスト用研磨材として使用した際に、1つの粒子の質量が小さいことから、ブラスト研磨に必要な衝突エネルギーが得られ難く、生産効率が著しく低下する。また、d50の値が15μmを超える場合には、粒子1個の質量が大きくなり、それに伴って衝突エネルギーが増大して研磨能率が向上するが、研磨部分へ割れ、欠け、チッピング等のダメージを与える可能性があり、更に、微細な研磨パターンへ嵌り込んでしまう危険性がある。よって、本発明のサンドブラスト用研磨材は、特に高精度で微細な研磨に最適なものとしては、d50の値を1〜15μmとする。しかしながら、この粒子径はサンドブラストで研磨を行なう対象物の、寸法および形状に合わせて任意に選定することが望ましい。
【0017】
そして、本発明の球状Ni合金粒子でなるサンドブラスト用研磨材は、均一な粒径分布を呈しているところにも特徴がある。高精度で微細なブラスト研磨を行なう場合には、研磨材を一定量、安定して供給する必要がある。粒子のサイズのバラツキを小さくすることで、一定量の研磨材の供給が容易となり、高精度で微細な研磨が実現できる。その際の粒度分布は[(d90−d10)/d50]で与えられる数値が小さい方が好ましいが(d90、d10:積算分布曲線において、90体積%、10体積%を示す粒子径)、それに伴って研磨材のコストが増加する。よって、[(d90−d10)/d50]は1.0以下であることが望ましい。
【0018】
このような、ミクロンサイズの金属微小粒子を得る製造方法としては、溶融金属に水またはガスを噴射するアトマイズ法や機械的に粉砕を行なう物理的方法、有機金属化合物を熱分解する方法や金属塩化物を加熱気化し、水素等のガスと反応させて粒子を生成する気相還元法、あるいは、水溶液または非水溶液系の分散媒で、金属化合物や金属イオンを還元剤により還元析出させる液相還元法などが代表として挙げられる。しかしながら、本発明者の経験によると、ここに列挙した何れの製造方法においても、粒子径が10μmを下回るサイズから、少なからず粒子同士が凝集しており、独立した単分散の粒子が得られ難いという課題がある。そこで、この課題に対し、本発明者が提案した、Ni塩水溶液と、半金属元素を含む還元剤水溶液とを混合して、球状粒子を還元析出させる、すなわち無電解還元法を適用することで、微細でありながらも単分散の球状Ni合金粒子を得ることが可能となる。
【0019】
ここで、無電解還元法により還元析出させたままの球状Ni合金粒子は、Niの素地に半金属元素が固溶した状態であり、その硬さは純金属のNiとほぼ同程度で、サンドブラスト用の研磨材としては硬さが不足している。そこで、無電解還元法により得られた球状Ni合金粒子に加熱処理を行なうことで、Niと半金属元素の金属間化合物を形成することが有効である。この時の加熱処理の条件は、金属間化合物を形成するに必要な温度と処理時間とする。
【0020】
加熱処理は550℃を越える温度とした場合、粒子の極表層部分が溶融し、粒子同士が焼結されて凝集体となり、単分散性が損なわれるだけでなく、半金属元素がPであれば、NiP相の成長に伴って、P量の低いNi結晶の成長が進むため、硬さを減じてしまう。また加熱処理温度を、300℃未満とした場合には、非常に硬い金属間化合物(例えばNiP)の析出が不完全となり、所望の硬さが得られ難い。そこで、好ましくは300℃〜550℃で数十分から数時間の加熱処理を行なう。更に好ましくは、350℃〜450℃の範囲で加熱処理することにより、硬度の高い球状Ni合金粒子が効率良く得られる。そして、その加熱処理を行なう雰囲気は、非酸化性雰囲気が好ましく、Ar等の不活性ガス雰囲気中が更に好ましい。また、水素等の還元ガス雰囲気中又は、真空雰囲気中でも良い。
【実施例1】
【0021】
(本発明例)
硫酸ニッケル六水和物を純水に溶解して0.6(kmol/m)の金属塩水溶液を15(dm)作製した。また、水酸化ナトリウムと酢酸ナトリウムを純水に溶解して15(dm)とし、それぞれ0.7(kmol/m)、1.0(kmol/m)の濃度のpH調製水溶液を作製した。そして、上記の金属塩水溶液とpH調製水溶液を撹拌混合し、30(dm)の混合水溶液を作製して、Nガスをバブリングしながら外部ヒーターにより348(K)に加熱保持し、撹拌を続けた。
【0022】
一方で、純水に1.8(kmol/m)の濃度でホスフィン酸ナトリウムを溶解した還元剤水溶液を15(dm)作製し、こちらも外部ヒーターによって348(K)に加熱した。そして、上記、30(dm)の混合水溶液と15(dm)の還元剤水溶液を、2つの水溶液の温度が348±1(K)となるように調製した後に混合し、無電解還元反応により微小粒子を得た。
【0023】
得られた微小粒子を乾燥させた後、不活性ガス(Ar)雰囲気中において673(K)で加熱処理を行なってから、レーザー回折散乱法による粒度分布計でサイズを測定した。平均粒径d50の値は2.9μmで、d90とd10はそれぞれ、4.5μmと2.0μmあり、[(d90−d10)/d50]の式で与えられる粒度分布は0.86であった。また、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察した結果は図1の通りであり、単分散の球形状であることが確認された。そして、図2に示すCoターゲットによるXRD(X線回折)のチャートから、その結晶構造には、Ni相と、本発明の特徴とするNiP相の金属間化合物が確認された。
【0024】
なお、上記で得られた本発明例の微小粒子は、その中心部分から表層部分へ向かってはPが約2.5(mass%)から約7(mass%)に増加する勾配組成を有していた。そして、その組織構造は、中心部分では柱状晶であり、表層部分においては微結晶であることが確認された。
【0025】
(比較例)
本発明例の微小粒子に対しては、その無電解還元反応により得られた微小粒子の加熱処理前の状態について、調査した。その結果、半径の約1/2を境界にして、中心部分は約2(mass%)のPを含有する柱状晶からなる微結晶領域であり、表層部分においてはP濃度が約7(mass%)の非結晶構造を呈しており、Pの分布状況については本発明例と同様の傾向が確認された。なお、d50、d90、d10の値は、本発明例に同等であった。
【0026】
しかしながら、本発明例と同じ方法によりXRDを行なった結果を図3に示すが、2θ:44.5°付近と51.9°付近にNiのブロードなピークが確認されたものの、本発明の特徴とするNiP相の金属間化合物は認められなかった。
【実施例2】
【0027】
実施例1で作製した、加熱処理を行なった本発明例と、加熱処理を行なわなかった比較例の、それぞれの微小粒子について、その比重およびビッカース硬さを測定した。結果は表1の通りである。表層部分に本発明の特徴とするNiP相の金属間化合物が析出している本発明例は、サンドブラスト用研磨材としての十分な比重に加えては、その十分な硬さをも具備していることがわかる。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
適切な比重および硬さと、均一な球形状および粒径分布を有する本発明のサンドブラスト用研磨材は、磁性を有していることから、本用途に加えては、複雑形状や管内面の研磨が可能な、磁気研磨の砥粒としても用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のサンドブラスト用研磨材の一例を示す、SEM写真である。
【図2】本発明のサンドブラスト用研磨材の構造の一例を示す、XRDチャート図である。
【図3】比較例のサンドブラスト用研磨材の構造の一例を示す、XRDチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解還元法により作製された、Niと半金属で構成された球状Ni合金粒子であって、その組織中にはNiと該半金属の金属間化合物が析出していることを特徴とするサンドブラスト用研磨材。
【請求項2】
半金属がPであることを特徴とする請求項1に記載のサンドブラスト用研磨材。
【請求項3】
レーザー回折散乱法による平均粒径(d50)が1〜15μmであり、かつその粒度分布が[(d90−d10)/d50]≦1.0(d90、d10、d50:積算分布曲線において、90体積%、10体積%、50体積%を示す粒子径)であることを特徴とする請求項1または2に記載のサンドブラスト用研磨材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のサンドブラスト用研磨材の製造方法であって、無電解還元法により作製された球状Ni合金粒子を少なくとも加熱処理することを特徴とするサンドブラスト用研磨材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−264900(P2008−264900A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108378(P2007−108378)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】