説明

サンプリング方法、測定方法及び測定装置

【課題】試料を測定室から溢れさせることなく、簡便かつ定量的に測定室内に試料をサンプリングすることが可能なサンプリング方法、測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】試料中の被検物質の含有量を測定する測定デバイス1が、試料を供給するための試料供給部11と、測定を行う測定室12と、試料供給部11と測定室12を繋ぐ第1の流路14と、測定室12からデバイス外へと通ずる第2の流路15と、測定室12と第2の流路15の間に配置された気液分離膜9を有し、測定室12が試料供給部11よりも下部に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被測定物質の含有量を測定する際に用いられるサンプリング方法、測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、臨床検査分野で血液や尿のような生体試料を測定する機器として、大規模自動化機器やPOCT(Point of Care Testing)機器などが主に使用されている。
【0003】
大規模自動化機器は、病院の中央臨床検査部門もしくは臨床検査受託業務を中心とする会社に設置されており、多数の患者の検体を多項目にわたり検査することができるものである。例えば、日立製作所製の大型自動化機器(型番7170)は最大36項目について毎時800テストの検査を完了することができる。従ってこれら大規模自動化機器は、多くの被験者を抱える病院などにおいて検査の効率化に大きく貢献している。
【0004】
一方、POCT機器とは、病院の検査室や検査センターを除く医療現場で行われる臨床検査において用いられる機器であり、在宅医療においても用いられる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
POCT機器の例としては、血糖センサ、妊娠診断薬、排卵検査薬、HbA1c−微量アルブミン測定機器(例えば、バイエル製DCA2000)などが挙げられる。これらのPOCT機器は、大規模自動化機器に比較して汎用性には乏しいが、ある病態に特異的なマーカー物質にフォーカスして、当該マーカー物質を簡易、迅速に測定することができるため、被験者のスクリーニングおよびモニタリングに効果的である。
【0006】
また、POCT機器は、小型であるため携帯性にすぐれて低コストで採取でき、さらに操作性においても特に専門性を必要とせず誰にでも使用することができる。これらの特徴からPOCT機器は病院の検査部門などを除く医療現場において広く用いられるようになってきた。
【0007】
POCT機器の測定室内に生体試料を導入する方式として、例えば、特許文献3には、昇降機を用いて一時収容容器の位置をサンプルセルの位置よりも高くすることにより、一時収容容器に貯留した尿を、配管を通じてサンプルセル内に導入する方式が開示されている。
【特許文献1】特開平07−248310号公報
【特許文献2】特開平03−046566号公報
【特許文献3】特開平11−94715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の構成では、一時収容容器の位置をサンプルセルの位置よりも高くすることにより、一時収容容器からサンプルセルに試料を移送するときに、サンプルセルの通気口から試料が溢れ出すおそれがあった。
【0009】
そこで本発明は、試料を測定室から溢れさせることなく、簡便かつ定量的に測定室内に試料をサンプリングすることが可能であるサンプリング方法、測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のサンプリング方法は、試料が供給される試料供給部、前記試料中における被検物質の含有量の測定が行われる測定室、前記試料供給部と前記測定室とを繋ぐ流路、前記測定室に設けられた排気口、及び前記排気口を覆う位置に設けられた気液分離膜を備える測定デバイスを用い、
(A)前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスを保持する工程、及び
(B)前記試料供給部に前記試料を供給する工程を含む。
【0011】
また、本発明の測定方法は、
(C)上記サンプリング方法により前記測定室内に前記試料を供給する工程、
(D)前記測定室内に光を入射させる工程、
(E)前記工程Dに起因して前記測定室内から出射した光を受光する工程、及び
(F)前記工程Eにおいて受光された前記光の強度に基づき、前記試料中に含まれる前記被検物質を検出または定量する工程を含む。
【0012】
また、本発明の測定装置は、上記測定方法に用いられる測定装置であって、前記試料が供給される試料供給部、前記試料中における被検物質の含有量の測定が行われる測定室、前記試料供給部と前記測定室とを繋ぐ流路、前記測定室に設けられた排気口、及び前記排気口を覆う位置に設けられた気液分離膜を備える測定デバイスが、前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように取り付けられる測定デバイス取り付け部、前記測定室に入射する光を放射する発光素子、前記測定室内から出射した光を受光する受光素子、及び前記受光素子において受光された前記光の強度に基づき、前記試料中に含まれる前記被検物質を検出または定量するための演算部を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料を測定室から溢れさせることなく、簡便かつ定量的に測定室内に試料をサンプリングすることが可能であるサンプリング方法、測定方法及び測定装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のサンプリング方法は、試料が供給される試料供給部、前記試料中における被検物質の含有量の測定が行われる測定室、前記試料供給部と前記測定室とを繋ぐ流路、前記測定室に設けられた排気口、及び前記排気口を覆う位置に設けられた気液分離膜を備える測定デバイスを用い、
(A)前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスを保持する工程、及び
(B)前記試料供給部に前記試料を供給する工程を含む。
【0015】
測定室が試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように測定デバイスが保持されているため、試料供給部に供給された試料は、試料供給部と測定室との高低差により、測定室に自動的に供給される。このとき、測定室内における試料の液面が上昇するのに伴って、測定室内の空気は気液分離膜を通って排気口から押し出される。気液分離膜は液体を透過させないため、測定室への試料の供給は、測定室内における試料の液面が気液分離膜に接した時点で停止される。以上により、試料を測定室から溢れさせることなく、簡便かつ定量的に測定室内に試料をサンプリングすることが可能である。
【0016】
本発明において気液分離膜としては、気体、例えば空気(気泡を含む)を通過させ易く液体を通し難いものであれば公知のものを用いることができる。気液分離膜の材質としては、耐熱性・化学安定性に優れた材質が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が挙げられる。また、気液分離膜が有する孔の孔径は0.45μm程度であることが好ましい。このような気液分離膜は市販品として容易に入手することが可能であり、例えば住友電工ファインポリマー(株)製のポアフロン(登録商標)メンブレンなどがある。
【0017】
前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスが保持された状態において、前記流路が前記測定室の下面側に連結されていることが好ましい。このようにすると、流路を通して試料供給部から測定室内に試料が供給される際に気泡が発生するのを抑制することができる。
【0018】
また、前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスが保持された状態において、前記排気口が前記測定室の上面側に設けられていることが好ましい。測定室への試料の供給は、測定室内における試料の液面が気液分離膜に接した時点で停止されるため、排気口が測定室の上面側に設けられていることにより、測定室全体を試料で満たすことができる。よって、測定室において余分なスペースがなくなるので、測定デバイスを小型化することができる。
【0019】
また、前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスが保持された状態において、前記流路が前記試料供給部の下面側に連結されていることが好ましい。このような構成にすると、試料供給部に貯留された試料は、試料供給部の下面側から順番に流路を介して排出される。そのため、試料供給部の下部において試料が排出されないスペースがなくなるので、測定デバイスを小型化することができる。
【0020】
また、本発明のサンプリング方法に用いられる測定デバイスにおいて、前記測定室に測定のための試薬を備えていてもよい。
【0021】
ここで、試薬が酵素または抗体を含んでいてもよい。酵素や抗体は、特定の化合物と高選択的に反応または反応を触媒するため、試料中の特定の化合物に対して選択性の高い測定を実現することができる。
【0022】
試薬は、測定室内に乾燥状態で備えられ、測定室内に試料が供給されたときに、試料に溶解するように配置されていることが好ましい。
【0023】
試薬の配置方法としては、例えば、ガラス繊維や濾紙等からなる多孔性の担体に試薬の溶液を含浸させた後、乾燥させることにより試薬を上記担体に担持させ、当該担体を測定室内に設ければよい。また、測定室を構成する壁面に、試薬の溶液を直接塗布した後乾燥することにより試薬を配置してもよい。
【0024】
酵素の例としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ等を挙げることができる。これら酵素は市販品を入手することができる。
【0025】
試薬としての抗体は、公知の方法により産生させることができるので、試薬を作製しやすいという点で有利である。例えば、アルブミン等の蛋白や、hCG、LH等のホルモンを抗原として、マウス・ウサギ等に免疫することにより、前記抗原に対する抗体を得ることができる。
【0026】
抗体としては、アルブミン等の尿中に含まれる蛋白に対する抗体や、hCG、LH等の尿中に含まれるホルモンに対する抗体等が挙げられる。必要に応じて抗原と抗体による凝集反応を促進させるポリエチレングリコールなどの化合物を測定室内の抗体近傍に共存させてもよい。
【0027】
本発明の測定方法は、
(C)上記サンプリング方法により前記測定室内に前記試料を供給する工程、
(D)前記測定室内に光を入射させる工程、
(E)前記工程Dに起因して前記測定室内から出射した光を受光する工程、及び
(F)前記工程Eにおいて受光された前記光の強度に基づき、前記試料中に含まれる前記被検物質を検出または定量する工程を含む。
【0028】
このような方法により、上記サンプリング方法と同様に、試料を測定室から溢れさせることなく、簡便かつ定量的に測定室内に試料をサンプリングすることが可能であるので、試料の光学測定を正確に行うことができる。
【0029】
ここで、本発明の測定方法に用いられる測定デバイスにおいて、測定室の外壁の少なくとも一部が光学測定を行うための光学測定部をして機能することが好ましい。
【0030】
また、測定デバイスにおいて、光学測定部が、光学測定部の外部から内部に光を入射させるための光入射部と、光学測定部の内部から光学測定部の外部に光を出射させるための光出射部とを備えることが好ましい。
【0031】
光入射部及び光出射部は、光学的に透明な材料または可視光の吸収を実質的に有していない材料で形成されていることが好ましい。例えば、石英、ガラス、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。セルを使い捨てにする場合には、コストの観点からポリスチレンが好ましい。測定室全体が光学的に透明な材料または可視光の吸収を実質的に有していない材料で形成されていてもよい。また、測定デバイス全体が光学的に透明な材料または可視光の吸収を実質的に有していない材料で形成されていてもよい。
【0032】
本発明の測定装置は、上記測定方法に用いられる測定装置であって、前記試料が供給される試料供給部、前記試料中における被検物質の含有量の測定が行われる測定室、前記試料供給部と前記測定室とを繋ぐ流路、前記測定室に設けられた排気口、及び前記排気口を覆う位置に設けられた気液分離膜を備える測定デバイスが、前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように取り付けられる測定デバイス取り付け部、前記測定室に入射する光を放射する発光素子、前記測定室内から出射した光を受光する受光素子、及び前記受光素子において受光された前記光の強度に基づき、前記試料中に含まれる前記被検物質を検出または定量するための演算部を備える。
【0033】
ここで、上記測定デバイスは着脱可能な状態で上記測定装置に取付けられることが好ましい。
【0034】
流路と測定室との接合面における流路の断面積は、測定室から流路への試薬の拡散を抑制するという観点から、測定室の断面積に対して小さい方が好ましい。例えば、流路の断面積が測定室の断面積の1/100〜4/25程度であることが好ましい。
【0035】
サンプリングの定量性を向上させるという観点から、排気口を覆う位置に設けられる気液分離膜の露出面積は小さいほうが好ましい。この露出面積は、排気口の断面積により規定される。排気口の断面積が測定室の断面積の1/100〜4/25程度であることが好ましい。
【0036】
本発明における試料としては、血清、血漿、血液、尿、間質液、リンパ液などの体液、培地の上清液等の液体の試料が挙げられる。または、上記体液中の特定の成分と反応する試薬、例えば酵素、抗体、もしくは色素などを、体液と混合したものを、試料として測定デバイスに供給してもよい。
【0037】
これらのなかで、試料として尿が好ましい。試料が尿であると、非侵襲的に在宅での日常の健康管理を行うことができる。
【0038】
被検物質としては、アルブミン、hCG、LH、CRP、IgG等が挙げられる。
【0039】
健康管理の最初の段階で行われる尿の定性検査では、pH、比重、蛋白、糖、潜血、ケトン体、ビリルビン、ウロビリノーゲン、亜硝酸塩、白血球、アスコルビン酸、アミラーゼ、食塩の12項目について検査が行われる。また、腎機能を分析するという目的では微量アルブミンが、妊娠検査・排卵検査等のマーカーとしてはhCG、LH等のホルモンがある。
【0040】
これらの検査項目を大別すると、蛋白や、微量アルブミン、hCG、LH等のホルモンは、抗原抗体反応に基づいた光学測定が適している。抗原抗体反応に基づいた光学測定としては、免疫比ろう法、免疫比濁法、ラテックス免疫凝集法等の、抗原抗体反応に基づいて試料中に生じた濁りを測定するものが挙げられる。
【0041】
試料供給部への試料の導入方法としては、例えば、カップ等の容器に採取した試料を試料供給部に流し込むという方法や、先端に水分吸収体を備えた試料採取器を用い、水分吸収体に浸漬させた試料を試料供給部内において搾り出すという方法が挙げられる。
【0042】
ここで、水分吸収体としては、液体を迅速に取り込むのに適した、吸水性の多孔質または繊維質材料から形成されていることが好ましい。例えば、無定形のスポンジ状の構造物や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリルニトリル系の合成物などが挙げられる。
【0043】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0044】
(実施の形態)
図1は本発明の一実施の形態に係るサンプリング方法及び測定方法において用いる測定デバイスの部分断面側面図であり、試料保持器のみを断面にして示している。図2は同実施の形態に係る測定装置を示す図であり、図2(a)は測定装置の外観を模式的に示す斜視図、図2(b)は測定装置の内部を模式的に示す断面図である。図3は同測定デバイスにおける試料採取器を試料保持器に挿入した状態を示す図であり、図3(a)は測定デバイスの部分断面側面図、図3(b)は測定デバイスの部分断面上面図である。図4は同測定装置に測定デバイスを装着した状態を示す図であり、図4(a)は測定装置及び測定デバイスの上面図、図4(b)は図4(a)におけるX−X断面図である。図5は同測定装置の構成を示すブロック図である。
【0045】
まず、図1を用いて、本実施の形態に係るサンプリング方法及び測定方法において用いる測定デバイスの構成について説明する。
【0046】
図1に示すように、測定デバイス1は試料採取器2と試料保持器3とを備えている。試料採取器2は、押圧軸部4の一方の端部に把手部5が設けられ、他方の端部には水分吸収体部6が固着されている。さらに、試料採取器2は、把手部5と水分吸収体部6との間の把手部5に近い部分において押圧軸部4に係止部7が固着されている。
【0047】
水分吸収体部6は、吸水性の多孔質または繊維質材料等の材料であって、液体を迅速に取り込むのに適した材料を用いて作製されている。例えば、無定形のスポンジ状の部材や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリルニトリル系の合成物などを用いることができる。また、係止部7は、ゴムあるいは軟質樹脂等の弾性を有する材料にて作製されている。係止部7の外形寸法は試料保持器3における後述の試料採取器格納部10の外形寸法よりも僅かに大きくなるように形成されている。
【0048】
試料採取器2が試料採取器格納部10に挿入されて押し込まれた時、係止部7の外形部の複数個所が試料採取器格納部10と嵌合する。これにより、係止部7は、水分吸収体部6の変形による反力に抗して試料採取器2が試料採取器格納部10から抜けることがないように、試料採取器格納部10に対する試料採取器2の位置を保持する。
【0049】
試料保持器3は、透明のポリスチレンを用いて作製された容器8と気液分離膜9とを備える。容器8には、中空円柱形状の試料採取器格納部10と、それぞれ中空四角柱形状の試料供給部11及び測定室12が備えられている。図1のような向きで測定デバイス1が保持されたときに、試料供給部11の下端面が測定室12の上端面よりも鉛直方向において上方に位置するように、試料供給部11及び測定室12が配置されている。
【0050】
試料採取器格納部10と試料供給部11との間には1個以上の穴部13aを有するストッパ部13が形成されている。また、試料供給部11と測定室12との間には第1の流路14が設けられ、第1の流路14は試料供給部11の下端面及び測定室12の下端面とそれぞれ接続されている。さらに、測定室12の上端面には、測定室12内の気体を排出するための排気口19が設けられ、排気口19は第2の流路15を介して容器8外と通じている。第2の流路15と測定室12との間には、排気口19を覆う位置に気液分離膜9が配置されている。ここで、第1の流路14が本発明における流路に相当する。
【0051】
中空四角柱形状の測定室12を囲む4つの側面のうち、第1の面12aの内側壁面には、試薬である抗体や酵素を担持した試薬保持部16が設けられている。例えば、被検試料に尿を用い、被検物質がヒトアルブミンである場合には、試薬保持部16にヒトアルブミン抗体を含む試薬を担持すればよい。例えば、第1の面12aの内側壁面に、ヒトアルブミン抗体を含む試薬の溶液を直接塗布した後乾燥することにより、試薬保持部16を形成することができる。
【0052】
気液分離膜9としては、気体、例えば空気(気泡を含む)を通過させ易く液体を通し難いものであれば公知のものを用いることができる。気液分離膜9の材質としては、耐熱性・化学安定性に優れた材質が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が挙げられる。また、気液分離膜9が有する孔の孔径は0.45μm程度であることが好ましい。このような気液分離膜9は市販品として容易に入手することが可能であり、例えば住友電工ファインポリマー(株)製のポアフロン(登録商標)メンブレンなどがある。また、気液分離膜9は、測定室12と第2の流路15との間に配置されるが、被検試料のサンプリングの定量性の面から、気液分離膜9の露出面積は小さいほうが好ましい。気液分離膜9の露出面積は、排気口19の断面積により規定される。排気口19の断面積を測定室12の断面積の1/100〜4/25程度に設定することが好ましい。
【0053】
第1の流路14と測定室12との接合面における第1の流路14の断面積は、測定室12から第1の流路14への試薬の拡散を抑制するという観点から、測定室12の断面積に対して小さい方が好ましい。例えば、第1の流路14の断面積が測定室12の断面積の1/100〜4/25程度であることが好ましい。
【0054】
また、測定室12の外面を構成する4つの側面のうち、第1の面12aと隣接する第2の面12b(図1には図示せず。図3(b)参照)が光入射部(以下、「光入射部12b」とも表記する。)として機能し、第1の面12aと隣接し、かつ第2の面12bと対向する第3の面12c(図1には図示せず。図3(b)参照)が光出射部(以下、「光出射部12c」とも表記する。)として機能する。これら光入射部12bと光出射部12cとが光学測定部17を構成する。
【0055】
尚、光入射部12b及び光出射部12cは、光学的に透明な材料または可視光の吸収を実質的に有しない材料で形成されていることが好ましい。例えば、石英、ガラス、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。測定デバイス1を使い捨てにする場合には、コストの観点からポリスチレンが好ましい。また、前述のように、測定デバイス1全体を透明な材料で形成するのではなく、光入射部12b及び光出射部12cのみを透明な材料を用いて形成してもよい。
【0056】
次に、測定装置20の主要な構成要素について、主に図2を用いて説明する。
【0057】
図2に示すように、測定装置20は、凹部を有する直方体形状の筐体28を備えている。筐体28の凹部が、測定デバイス1(図2には図示せず。)を取り付けるための測定デバイス取り付け部21として機能する。また、筐体28には、測定結果が表示されるディスプレイである表示部22、測定開始ボタン23及び測定終了ボタン24が設けられている。
【0058】
測定デバイス取り付け部21は測定デバイス1を挿入するためのデバイス装着口21aを有する。測定デバイス取り付け部21の断面形状は、測定デバイス1の断面形状と同じ形状を有しており、測定デバイス1を摺動可能に挿入及び離脱させることができる。
【0059】
また、測定装置20内部には、図2(b)に示すように、被検試料に含まれる被検物質の量を測定するために、測定デバイス1の光学測定部17(図2には図示せず。)に光を入射するための発光素子25及び光学測定部17からの出射光を受光するための受光素子26が設けられている。発光素子25及び受光素子26は、測定デバイス取り付け部21に挿入された測定デバイス1の光入射部12b(図2には図示せず。)及び光出射部12c(図2には図示せず。)にそれぞれ対応する位置に、測定デバイス1を挟んで配設されている(図4(a)及び図4(b)参照)。
【0060】
また、測定デバイス取り付け部21に挿入された測定デバイス1が誤って落下することを防止するためのデバイス係止部材27が設けられている。このデバイス係止部材27は、バネ材等の弾性材料で形成されている。デバイス係止部材27の一方の端部においてビス等の締結部材27aにより、例えば、測定デバイス取付部21の壁面に固定され、他方の端部において段付きビス等の軸部材27bにより摺動可能に保持されている。
【0061】
発光素子25としては、例えば、650nmの波長の光を出射する半導体レーザーを用いることができる。これに代えてライトエミッティングダイオード(LED)などを用いてもよい。
【0062】
受光素子26としては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。これに代えて電荷結合型素子(CCD)、フォトマルチメーターなどを用いてもよい。
【0063】
なお、本実施の形態においては、免疫比濁法による測定を適用することを想定して650nmの光照射及び受光波長を選択するが、この波長は測定法や測定対象に応じて適宜選択することができる。
【0064】
また、前述の説明においては、測定デバイス1の測定室12の光入射部12bと光出射部12cとが対向し、それらに対応させて発光素子25と受光素子26とが測定デバイス1を挟んで対向する場合について説明したが、本発明は何らこれに限るものではない。光入射部12bに隣接する第4の面12d(図3(b)参照)を光出射部とし、それらに対応させて発光素子25と受光素子26とを配設してもよい。また、測定に応じて透過光測定、散乱光測定を適宜使い分けることが可能である。
【0065】
さらに、測定装置20の内部には、測定装置20の動作を制御し、受光素子26により受光された光の強度に基づき、試料中に含まれる被検物質を検出または定量するための演算部であるCPU(Dentral Processing Unit)51(図2には図示せず。図5参照)を有する制御部50が設けられている。
【0066】
また、制御部50には、被検試料に含まれる被検物質の濃度と受光素子26により受光される出射光強度との関係を表す検量線に関するデータが格納されている記憶部であるメモリ52(図2には図示せず。図5参照)が設けられている。
【0067】
次に、本実施の形態に係るサンプリング方法及び測定方法について、図3及び図4を用いて説明する。
【0068】
先ず、図1に示した試料採取器2の水分吸収体部6に被検試料を含ませる。例えば、把手部5を持って、コップなどに採取された尿または血液などの液体の被検試料中に水分吸収体部6を浸漬することにより、水分吸収体部6に被検試料を含ませることができる。また、被検試料が尿の場合には、把手部5を持った状態で、水分吸収体部6に直接放尿したりすることによっても、水分吸収体部6に被検試料を含ませることができる。
【0069】
次に、図3に示すような向きに試料保持器3を保持した状態で、被検試料を含浸させた水分吸収体部6を有する試料採取器2を試料保持器3の試料採取器格納部10に挿入し、続けて試料採取器2における把手部5を介して押圧軸部4を下方向に押し付ける。この動作によって、水分吸収体部6がストッパ部13に押圧され、水分吸収体部6に含まれた被検試料が搾り出される。搾り出された被検試料はストッパ部13の穴部13aを通して試料供給部11に供給される。
【0070】
図3に示すような向きに試料保持器3を保持した状態では、測定室12が試料供給部11よりも鉛直方向において下方に位置している。そのため、試料供給部11に供給された被検試料は、試料供給部11と測定室12との高低差により、測定室12に自動的に供給される。このとき、測定室12内における被検試料の液面が上昇するのに伴って、測定室12内の空気は気液分離膜9を通って排気口19から押し出される。気液分離膜9は液体を透過させないため、測定室12への被検試料の供給は、測定室12内における試料の液面が気液分離膜9に達した時点で自動的に停止される。
【0071】
したがって、測定室12の容量よりも多い液量の被検試料を試料供給部11内に供給しておけば、試料供給部11内に供給される試料の液量に関わらず、測定室12から試料が溢れることがなく、測定室12に供給される被検試料の量は一定となる。そのため、正確な試料中における被検物質の含有量の測定を実現することができる。
【0072】
被検試料に測定室12が満たされた時点で、試料採取器格納部10から試料採取器2を抜き取る。尚、試料採取器格納部10から試料採取器2を抜き取らずに、試料採取器2を押し込んだまま測定を継続しても良い。
【0073】
例えば、被検試料に尿を用い、被検物質がヒトアルブミンである場合、測定デバイス1の測定室12に保持された尿は、測定室12内に設けられた試薬保持部16に担持された乾燥状態の試薬であるヒトアルブミン抗体を溶解し始める。これにより、尿中の抗原であるヒトアルブミンとヒトアルブミン抗体との免疫反応が進行し始める。
【0074】
次に、図4に示すように、測定室12に被検試料が供給された試料保持器3を測定装置20のデバイス装着口21aから測定デバイス取り付け部21に挿入することにより、試料保持器3を測定装置20に装着する。このとき、図4に示すように、デバイス装着口21aが鉛直方向において上方に向けて開口している状態で測定装置20を保持することにより、測定室12が試料供給部11よりも鉛直方向において下方に位置するように試料保持器3が保持される。
【0075】
また、試料保持器3の容器8(図4には図示せず。)にはガイド突起部8aが設けられているため、測定装置20に対して試料保持器3が逆向きの姿勢になることはなく、試料保持器3の誤挿入が防止されている。
【0076】
また、測定装置20に挿入された試料保持器3はデバイス係止部材27により測定デバイス取り付け部21の内壁に押圧され、試料保持器3が測定装置20から滑り落ちることが防止されている。
【0077】
尚、測定デバイス取り付け部21には、試料保持器3のガイド突起部8aに対応する位置にガイド突起部8aに嵌合する凹部が設けられている。その凹部の大きさは、ガイド突起部8aの大きさよりも少し大きくなるように形成されている。
【0078】
測定装置20に試料保持器3を装着した後、測定開始ボタン23をONの状態にすることにより測定が開始される。尚、測定装置20の所定の位置に試料保持器3が装着完了した時に感応するスイッチを測定装置20に内蔵させ、自動的に測定を開始させてもよい。
【0079】
測定装置20の内部には、図5に示すように、計時部53が備えられている。測定開始ボタン23をONにすると計時部53により計時が開始される。計時部53の計時開始から所定時間(例えば、2分)経過すると、制御部50内のCPU51からの指令により発光素子25及び受光素子26が起動する。
【0080】
発光素子25から出射された光は測定デバイス1の透明な容器8を透過し、試料保持器3の測定室12に採取された試薬を溶解している被検試料に照射される。試薬を溶解した被検試料を透過した光または被検試料中において散乱した光の強度は、被検試料中に含有される特定物質の量に依存する。測定室12から出射した光を受光素子26によって受光し、受光した光に応じた電気信号を得る。
【0081】
このようにして得られた受光素子26の受光信号はCPU51に出力される。メモリ52には、被検試料中に存在する被検物質の量と受光素子から出力される受光信号との関係を表す検量線に関する検量線データが予め記憶されている。
【0082】
CPU51はメモリ52に格納されている検量線データを読み出し、この検量線データを参照することにより、CPU51は受光素子26からの受光信号を被検試料中の被検物質の量に換算する。CPU51により換算された、被検試料に含まれる被検物質の量を示す測定データは、表示部22に表示される。また、測定データは必要に応じて半導体メモリなどの記録部54に保存される。記録部54に取り込まれた測定データは、病院内の分析関連部門または分析関連業者等によって、さらに詳しく分析することができる。
【0083】
このように、測定データが表示部22に表示されることによって、光学測定が完了する。光学測定が終了した時点で、測定終了ボタン24を押すと、測定終了ボタン24からの出力信号がCPU51に入力され、CPU51は測定装置20の測定の完了指令を出力し、測定を終了する。
【0084】
また、測定装置20内に送信部55を設け、測定データをCPU51から送信部55へ出力できるようにしてもよい。得られた測定結果を送信部55により病院内の分析関連部門或いは分析関連業者等に送信することによって、測定から分析までの所要時間を短縮することができ、迅速に対処することができる。
【0085】
更に、測定装置20内に受信部56を設けてもよい。分析関連部門或いは分析関連業者等から発信された分析結果を受信部56により受信することにより、分析結果を迅速に担当医或いは患者にフィードバックすることができ、迅速な対処が可能となる。
【0086】
なお、本発明の測定方法において、被検試料中に含まれる被検物質の量を測定する方法は光学測定だけに限るものではない。例えば、測定デバイスの測定室内に一対の電極を配置することにより、被検試料中に含まれる被検物質の量を電気化学的に測定することが可能である。
【0087】
また、測定デバイス1の形状は、本発明の構成要件を満たし、かつ本発明の効果を得られるものであれば、本実施の形態において述べたものに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るサンプリング方法、測定方法及び測定装置は、試料、特に生体試料中の被測定物質の含有量を測定する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施の形態に係るサンプリング方法及び測定方法において用いる測定デバイスの部分断面側面図
【図2】同実施の形態に係る測定装置を示す図
【図3】同測定デバイスにおける試料採取器を試料保持器に挿入した状態を示す図
【図4】同測定装置測定デバイスを装着した状態を示す図
【図5】同測定装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0090】
1 測定デバイス
2 試料採取器
3 試料保持器
4 押圧軸部
5 把手部
6 水分吸収体部
7 係止部
8 容器
8a ガイド突起部
9 気液分離膜
10 試料採取器格納部
11 試料供給部
12 測定室
12a 第1の面
12b 光入射部(第2の面)
12c 光出射部(第3の面)
12d 第4の面
13 ストッパ部
13a 穴部
14 第1の流路
15 第2の流路
16 試薬保持部
19 排気口
20 測定装置
21 測定デバイス取り付け部
21a デバイス装着口
22 表示部
23 測定開始ボタン
24 測定終了ボタン
25 発光素子
26 受光素子
27 デバイス係止部材
27a 締結部材
27b 軸部材
28 筐体
50 制御部
51 CPU
52 メモリ
53 計時部
54 記録部
55 送信部
56 受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が供給される試料供給部、
前記試料中における被検物質の含有量の測定が行われる測定室、
前記試料供給部と前記測定室とを繋ぐ流路、
前記測定室に設けられた排気口、及び
前記排気口を覆う位置に設けられた気液分離膜を備える測定デバイスを用い、
(A)前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスを保持する工程、及び
(B)前記試料供給部に前記試料を供給する工程を含む試料のサンプリング方法。
【請求項2】
前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスが保持された状態において、前記流路が前記測定室の下面側に連結されている、請求項1記載のサンプリング方法。
【請求項3】
前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスが保持された状態において、前記排気口が前記測定室の上面側に設けられている、請求項1または2に記載のサンプリング方法。
【請求項4】
前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように、前記測定デバイスが保持された状態において、前記流路が前記試料供給部の下面側に連結されている、請求項1〜3のいずれかに記載のサンプリング方法。
【請求項5】
前記測定室に前記測定のための試薬をさらに備えている、請求項1〜4のいずれかに記載のサンプリング方法。
【請求項6】
(C)請求項1記載のサンプリング方法により前記測定室内に前記試料を供給する工程、
(D)前記測定室内に光を入射させる工程、
(E)前記工程Dに起因して前記測定室内から出射した光を受光する工程、及び
(F)前記工程Eにおいて受光された前記光の強度に基づき、前記試料中に含まれる前記被検物質を検出または定量する工程を含む測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の測定方法に用いられる測定装置であって、
前記試料が供給される試料供給部、前記試料中における被検物質の含有量の測定が行われる測定室、前記試料供給部と前記測定室とを繋ぐ流路、前記測定室に設けられた排気口、及び前記排気口を覆う位置に設けられた気液分離膜を備える測定デバイスが、前記測定室が前記試料供給部よりも鉛直方向において下方に位置するように取り付けられる測定デバイス取り付け部、
前記測定室に入射する光を放射する発光素子、
前記測定室内から出射した光を受光する受光素子、及び
前記受光素子において受光された前記光の強度に基づき、前記試料中に含まれる前記被検物質を検出または定量するための演算部を備える測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−271040(P2010−271040A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240556(P2007−240556)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】