サンプルの分析を改善するための分散特性、サンプル解離及び/又は圧力制御を用いた移動度ベースの装置及び方法
本発明は、一般に、サンプル分析のためのイオン移動度ベースのシステム、方法及び装置に関する。本発明は、例えば、分散特性;サンプル解離;及び/又は、限定はされないがフロー・チャンネル/フィルター電界状態中の変動のようなサンプル処理における変動を使って、サンプル収集、フィルタ、検知、測定、識別及び/又は分析(「分析」と総称)の改善を提供する。このような条件に、以下に限定はされないが、圧力;温度;湿度;電界の強さ、デューティサイクル及び/又は周波数;電界電圧振幅、周波数及び/又はデューティサイクル;検知器バイアス電圧大きさ及び/又は極性;及び/又はフィルタ電界補償電圧の大きさ及び/又は極性を含めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、以下の出願の利益およびそれらへの優先権を主張する:「System for Identification of Ion Species in an Electric Field」と題する米国仮特許出願番号第60/524,830号(2003年11月25日出願);「Chemical Agent Detector」と題する同第60/549,004号(2004年3月1日出願);および「Tunable Chemical Agent Detector」と題する同第60/549,952号(2004年3月4日出願);「Tunable DMS Recirculation System」と題する同第60/556,349号(2004年3月25日出願);および「Reduced Pressure DMS」と題する同第60/556,198号(2004年4月28日出願)。上記の引用出願の全体の教示が、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本出願はまた、以下の同時係属中の米国特許出願の内容全体を本明細書中に参考として援用する:米国特許出願番号第10/187,464号(2002年6月28日出願);同第10/215,251号(2002年8月7日出願);同第10/462,206号(2003年6月13日出願); 同第10/684,332号(2003年10月10日出願);同第10/734,499号(2003年12月12日出願);同第10/738,967号(2003年12月17日出願);同第10/797,466号(2004年3月10日出願);同第10/821,812号(2004年4月8日出願);同第10/824,674号(2004年4月14日出願);同第10/836,432号(2004年4月30日出願);同第10/840,829号(2004年5月7日出願);同第10/866645号(2004年6月10日出願);同第10/887,016号(2004年6月8日出願);同第10/894,861号(2004年6月19日出願);同第10/903,497号(2004年6月30日出願);同第10/916,249号(2004年8月10日出願);同第10/932,986号(2004年9月2日出願);同第10/943,523号(2004年9月17日出願);および同第10/981,001号(2004年11月4日出願)。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、一般に、サンプルを分析するための移動度ベースのシステム、方法及び装置に関する。さらに具体的には、本発明は、さまざまな実施形態において、例えば、分散特性(2−、3−、及びn次元);サンプル解離(fragmentation);及び/又はフロー・チャンネル/フィルター電界条件の変化を使って、サンプル収集、フィルタ、検知、測定、識別及び/又は分析(「分析」と総称する)を改善することに関する。このような条件には、以下に限らないが、圧力;温度;湿度;電界強度、デューティサイクル及び/又は周波数;及び/又は補償電圧を含めることができる。
【背景技術】
【0004】
(背景)
サンプル中の化合物を分析して識別する必要のあるいろいろな状況が数多くある。このようなサンプルは、環境から直接採取するか、又は分析の前に、最新の専用装置によって化合物を分離又は調製して準備することができる。サンプル中の化合物を検知する能力を持つ、低コスト、コンパクト、低電力、高精度で使い易く、信頼性のある装置が求められている。
【0005】
よく知られた分析装置の一つの種類に質量分析計(MS)がある。質量分析計は、一般に、化合物を識別するための最も精度のよいタイプの分析装置とし知られている。しかしながら、質量分析計はかなり高価で、ゆうに100,000ドル以上のコストを超え、物としても大きくて、公衆を危険な化学材料に曝す可能性があればどのような場所であっても配備するのは困難である。また、質量分析計には、比較的低圧で作動する必要があるなど他の弱点があり、複雑な補助システムが必要である。また、これらは、分析結果を処理したり解釈するため高度に訓練された操作者を必要とする。こういったことで、質量分析計を試験室の外部で使用することは困難である。
【0006】
現場での稼動にもっと適した化学分析機器の種類として、「非対称電界イオン移動度分光計(FAIMS)」又は「微分型電気移動度分光計(DMS)」が知られており、いろいろな名称があるが「無線周波数イオン移動度分光計(RFIMS)」としても知られている。以降、FAIMS、DMS、及びRFIMSを総称してDMSという。この種の分光計は、高圧−低圧に変化する非対称電界に、イオン化した流体サンプル(例、ガス、液体又は蒸気)を曝し、イオンの電界移動度に基づいてそれらをフィルタする。
【0007】
サンプルは、フィルタ電界を流れ通り、フィルタ電界は、フィルタ電極に印加された補償電圧(Vcomp)に従って、選定されたイオン種、特にフィルタ電界に特定の移動度反応を示すイオンを通過させる。そこで、イオン検知器は、検知したイオンの強度/存在度データを収集する。強度データは、特定の補償電圧における「ピーク」のような特性を示す。
【0008】
典型的なDMS装置は、ドリフトチューブ中の電極対を含む。非対称なRFによる電界がイオン流経路と交差する電極に印加される。非対称RF電界は、図1に示すように、高圧側すなわち「ピーク」電界強度と低圧側電界強度との間を交番する。電界は、所定の周期(T)、周波数(f)及びデューティサイクル(d)によって変化する。電界強度Eは、印加電界電圧(Vrf)及び電極の間のギャップの大きさによって変化する。イオンは、イオンの非対称電界における時間あたりの正味の横方向変位量がゼロであれば電極間のギャップを通り抜ける。これに対し、正味変位を受けるイオンは、ついにはどちらかの電極にぶつかって中性化される。任意のRF電極においてRFに低強度の直流(dc)電界を重畳させる(例、フィルタ電極の間にVcompを印加する)ことによって、変位したイオンをギャップの中央部に戻す(そのイオンに対する変位が無いよう補償する)ことができる。異なった変位量のイオン(特定の電界における移動度依存性特性に起因する)は、異なる特性補償電圧によってギャップを通過する。ほぼ一定のVcompを印加することによって、システムを継続的なイオン・フィルタとして機能させることができる。これに換えて、Vcompをスキャンすることによりサンプルに対するスペクトル測定が得られる。サンプルのスペクトル・スキャン画像記録を、「移動度スキャン」又は「イオノグラム」と呼ぶことがある。
【0009】
DMS装置からのアウトプットに基づく移動度スキャンの例を図2A及び2Bに示す。スキャン図で示されている化合物は、アセトン及びキシレンの異性体(o−キシレン)である。図2Aのスキャンは、単一の化合物アセトンを個別にDMS分析装置にかけて得られたものである。図示されたプロットは、DMD装置に見られる、検知されたイオン強度がVcompに依存する典型的な反応である。例えば、アセトン・サンプルは、約−2VdcのVcompにおいてピーク強度反応を示している。
【0010】
図2Bは、アセトンとo−キシレンとを混合したものを分析した結果である。混合物の反応は、個別分析のケースとほぼ同じ領域に2つのピークを示している。混合物中の化合物は、その反応を、例えば単独で分析した化合物の既知の反応を保存したライブラリ、又は混合物のライブラリと対比して検知することができる。このように、図2Aのアセトンのスキャンのように、個別に分析したスキャンをコンピュータシステムに保存し、図2Bのような化合物の反応が観測されたときに相対的ピーク位置を保存されたライブラリ中の反応と対比して、化合物の組成を判断することができる。
【0011】
特定のRF電界電圧及び電界補償電圧Vcompは、特定のイオン移動度特性を持つイオン種だけをフィルタから検知器に通過させる。RFレベル及び補償電圧と、対応する検知信号とに着目することによって、さまざまなイオン種、及びそれらに関する濃度を(ピーク特性として観測して)識別することができる。
【0012】
図3に示すように、イオン移動度のVrfへの依存性をプロットしてみる。この図は、イオン強度/存在度とRF電界強度との対比を3つのイオン例について示しており、電界依存性移動度(電界移動度の高さ係数αとして表す)がゼロより大きい、等しい、ゼロより小さい種について示したものである。電界(E)中のイオンの速度を十分低い値まで測定することができるので、速度(v)は電界に比例し、移動度係数と呼ばれる係数(K)を用いて、v=KEとなる。Kは、イオン種及びガスの相互作用特性に関連する係数として示すことができる。この移動度係数は、異なるイオン種の識別を可能にする固有のパラメータと考えられており、電荷、大きさ、及び質量のようなイオンの属性をはじめ、衝突頻度及び衝突と衝突との間にイオンが得るエネルギーにより決まる。
【0013】
E/N比、ここでNはガス密度である、が小さい場合、Kは一定値であるが、E/N値が増大するにつれ、移動度係数は変化し始める。電界の影響を、おおよそ、K(E)=K(0)[1+α(E)]と表すことができ、ここでK(0)は、低電圧での移動度係数であり、αは特定のイオンに対する移動度の電界依存性を示す固有のパラメータである。
【0014】
かくして、図3に示すように、比較的低い電界強度、例えば、約8,000V/cmより低い電界強度においては、多数のイオンが同じ移動度を有することができる。しかしながら、電界強度が増大するに従って、種ごとにその反応が分かれ、これらの移動度は印加される電界の関数として変化する。このことは、比較的低いRF電界強度においては、イオン移動度は印加されるRF電界強度に左右されないが、より高いRF電界強度では電界依存性があることを示している。
【0015】
図2A及び2Bは、イオン種は移動度特性に従って高電界では固有のふるまいを取れることを実証している。フィルタを通過したイオンは下流で検知される。所定のRF電界電圧及び電界補償電圧Vcompに対する特性検知ピークとして、検知信号強度をプロットすることができる。通常、ピーク強度、位置、及び形状を使って種を識別する。
【0016】
しかしながら、典型的DMSスペクトルに見られるように、一般にピークの幅が広いことから問題が生じる。従って、同じような補償電圧において強度ピークを示す化合物を相互に見分けるのは困難である。このため、特定のVcomp及び特定のRF電界電圧において、又はフィルタ電界/フロー・チャンネルのパラメータの異なる組み合わせにおいて、2つの異なる化合物が見分けの付かないスキャンを生成するような状態があり得る。この様な場合には、2つの異なる化合物を判別できないことがある。2つ以上の化学種が、電界/フロー・チャンネルのパラメータの特定のセットに対して、同一又はほとんど同一のイオン移動度特性を持つ場合、別の問題が生じることがある。このことは、低電界レジーム(本明細書では「イオン移動度分光分析」又はIMSという)で最も発生する可能性が高く、既存の多くのイオン移動度分光計システムはこれで動作している。従って、2つ以上の化学種が同一又はほとんど同一の移動度特性を有する場合、それらの分光ピークはオーバーラップすることになり、個別種の識別及び計量は困難又は不可能となる。
【0017】
図4は、本発明の例示的実施形態によるVcompとVrfとの対比グラフであるが、前記した従来技術の欠点を明らかにもしている。さらに具体的には、図4は、4つの化合物、ルチジン、シクロヘキサン、ベンゼン、及びジメチルメチルホスホン酸塩(DMMP)のVcompとVrfとの対比グラフを図示している。各々のカーブは、100で示した円で囲まれたように、さまざまな(Vrf,Vcompの)位置において検知されたイオン強度ピークの位置を示し、全体として各個別化合物に対するピーク特性を提示している。図示するように、DMMPとシクロヘキサンとの強度ピーク及び移動度カーブが相互にオーバーラップしている領域100がある。図で分かるように、Vrf範囲で約2,500Vピークから約2,650Vピーク、Vcompで約−6Vdcから約−8Vdcで作動した場合、単一のVrfにおける単一のCcompスキャンに基づいて2つの化合物を判別することは事実上不可能なことが分かるであろう。特に、単一のVrfに対して、Vcompのある範囲における強度/存在度とVcompの対比をプロットするという従来式のスペクトル・スキャン・アプローチでは、オーバーラップしたピークを一つのピークとしてプロットしてしまうことになろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、ピークのオーバーラップ問題を処理し、より向上した化合物分析性能を提供する改良されたイオン移動度ベースの化合物識別アプローチが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(発明の要旨)
本発明は、さまざまな実施形態において、サンプル中の構成物質を分析するための、改良された移動度ベースのシステム、装置及び方法を提供することによって、従来式技術の欠陥に取り組む。さらに具体的には、さまざまな実施形態において、本発明は、例えば、分散特性;サンプル解離;及び/又は、限定はされないがフロー・チャンネル/フィルター電界状態中の変動のようなサンプル処理における変動を使って、サンプル収集、フィルタ、検知、測定、識別及び/又は分析(「分析」と総称)の改善を提供する。このような条件に、以下に限定はされないが、圧力;温度;湿度;電界の強さ、デューティサイクル及び/又は周波数;電界電圧振幅、周波数及び/又はデューティサイクル;検知器バイアス電圧大きさ及び/又は極性;及び/又はフィルタ電界補償電圧の大きさ及び/又は極性を含めることができる。
【0020】
一つの実践において、本発明は前記条件の一つ以上を採用して、複数の既知の種についてのスペクトル・シグネチャのライブラリを提供し、未知の種のスペクトル・シグネチャの少なくとも一部を、ライブラリ中に保存された一つ以上のスペクトル・シグネチャの少なくとも一部と対比することによって、未知の種を識別する。スペクトル・シグネチャとは、特定の種についてのスペクトル情報を編纂したものである。スペクトル情報には、以下に限定されないが、スペクトル・ピーク振幅;スペクトル・ピーク幅;スペクトル・ピーク勾配、スペクトル・ピーク間隔;スペクトル・ピークの数;例えば、処理条件の変化によるスペクトル・ピークの相対的位置シフト;スペクトル不連続点;Vrf対Vcomp特性、又は前記条件の他の任意の特性を他の任意の一つ以上の前記条件に対してプロットしたものを含めることができる。
【0021】
一つの様態において、本発明は、第一複数値の間で第一サンプル処理条件を変化させ、一つ以上の第二複数値の間で第二サンプル処理条件を変化させて、サンプルのスペクトル情報を判断することによりサンプルを分析するための改良されたイオン・ベースのシステム、方法及び装置を提供する。一つの特定実施形態において、本発明は、一つ以上のVrf値に対してある範囲の値の電界補償電圧Vcompをスキャンし、一つ以上のVrf値の各々におけるスペクトル表現を生成する。
【0022】
一つの形態によれば、本発明は、第三サンプル処理条件を調整して、求めたイオンスペクトル情報から得られたスペクトル・ピークの幅を狭める。このような幅の削減は、似たような移動度特性を持つサンプル間におけるスペクトル・ピークのオーバーラップを減少させてイオン移動度ベース分析装置の分解能を向上させ、これにより、サンプル種のより精度ある判別を提供する。一つの構成において、第三サンプル処理条件は、サンプル・フロー・チャンネル中の圧力を含み、本発明はサンプル・フロー・チャンネル中の圧力を低減してスペクトル・ピークの幅を減少させる。
【0023】
別の形態によって、本発明は、第三サンプル処理条件を調整して、求めたイオンスペクトル情報から得られたスペクトル・ピークの位置を、これらが生じたVcompから変化させる。異なった種のピークを異なる位置にシフトできるので、このようなシフトにより、似たような移動度特性を持つ種のピーク間の改善された判別を提供することができる。一つの構成において、第三サンプル処理条件は、Vrfを含み、本発明は2つ以上の電界電圧Vrfを印加して、種の識別のためのピーク・シフト情報を提供する。
【0024】
別の形態によって、本発明は、第三サンプル処理条件を調整して、サンプルの正イオン及び負イオン双方に関するスペクトル情報を提供する。さらに具体的には、一つの構成において、本発明は、負及び正双方のバイアス電圧を複数の検知器電極に同時に、又は単一の検知器電極に交互に供給して、負及び正モード双方のスキャンを実施する。一方のモードに対して類似のイオン移動度特性を持つ化合物が他方のモードにおいては異なったイオン移動度特性を有することがあるので、検知器電極に対するバイアス電圧の極性を変更することによって、さらにサンプル分析を改善することができる。
【0025】
さらなる実施形態において、本発明は、各種のイオン・スペクトル情報のn次元表現を採用し、スペクトル・シグネチャの質を向上し、類似のイオン移動度特性を持つ種の判別を向上させ、これにより、具体的には識別精度を改善し、全体的にサンプル分析を向上させる。例として、一つの構成において、>2の電界電圧Vrfに対してVcompをスキャンし、例えば、スペクトル・ピーク・シフトの情報を追加して取得する。そこで、本発明は、各VrfにおいてVcompをスキャンして得られたスペクトル情報を集約したスペクトル情報のn次元表現を生成する。一例において、n次元表現は、複数のVrf電界電圧の各々Vcompをスキャンして得られたスペクトル情報を集約した、VrfとVcompとの2次元プロットである。さらなる例において、集約された表現は、>2のVrf電界電圧の各々Vcompをスキャンして得られたスペクトル情報を集約した3次元表現である。
【0026】
一つのアプローチによれば、3次元表現は、Vrf及びVcompの関数としてのイオン強度のプロットである。一つの実行例によれば、x及びy座標と、(Vcomp,Vrf)座標点におけるイオン強度の変動を、以下に限らないがグレースケール、色彩度、及びカラーなどの、任意のカラー関連特性の当該座標点における変化とで表すといったように、Vcomp及びVrfを、特殊な座標で表現する。このようなカラー関連表現は、本発明のn次元集約なくしては判別が困難又は不可能であった種の判別の容易な見分け方を提供する。
【0027】
関連する実行例において、カラーで関連付けていた違いを囲む曲線を引いて、カラーで違いを付けること自体をやめることもできる。このように、本発明は、例えば、Vcomp対Vrfのグリッド上にスペクトル・ピークの2次元表現を提示しながら、複数のVrf値に対してVcompをスキャンして得られたスペクトル情報組み込むことができる。違った別の実行例において、Vcomp、Vrf及びイオン強度は、3次元(x,y,z)空間表現中にマップされる。
【0028】
関連する実施形態によれば、スペクトル情報のいずれか又はすべてを、処理変化項目のいずれか又はすべての関数としてn次元空間に表し、既知及び未知の種双方に対する>3次元スペクトル・シグネチャを生成することができる。そこで、技法に適合した従来式のn次元クラスターを用いて未知の種を識別することができる。
【0029】
前記のn次元表現のいずれにおいても、表現されたスペクトル情報のどれか又はすべてを既知の種のスペクトル・シグネチャの中に組み込んで、こういったシグネチャのライブラリに保存することができる。従来式のパターン認識技法を用いて、未知の種のスペクトル・シグネチャの少なくとも一部と、ライブラリに保存された既知のサンプルのシグネチャの少なくとも一部とを対応させて、未知の種を識別することができる。他の実行例において、シグネチャのライブラリと未知の種から採取されたシグネチャとの双方を数式として表現し、任意の適切なアプローチを用いてこのような数式の間の比較を行って未知の種を識別することができる。
【0030】
別の実施形態によれば、本発明は、解離を用いてDMS分析を改善する。解離は、サンプル中の大きな分子をより小さな分子、分子クラスター、成分、及び/又は基底単体に分解することを含む。そこでフラグメントを、連続して又は並行して、個別に分析し、解離をしない場合に利用可能なよりも多くの、サンプルに対するスペクトル情報を生成することができる。解離を、例えば、限定はされないが、化学反応、高エネルギー電界強度、高いVrf、加熱、レーザ光、サンプル分子と他の分子との衝突、ソフトx線、電磁波、又は類似方法の一つ又はこれらの組み合わせを使って達成することができる。一つの様態によって、本発明は、フラグメントのスペクトル・ピークについての前記スペクトル情報のいずれか又はすべてをスペクトル・シグネチャに組み込む。さらなる形態によって、本発明は、ポイント(例、温度、圧力、電界強度、Vrf、衝突分子質量、衝突分子速度、レーザ強度、レーザ周波数、x線強度等)をスペクトル・シグネチャに組み込む。
【0031】
他の様態によって、本発明は、前記に要約したものを含む特徴を採用したイオン・ベースの分析装置のさまざまな直列的及び並列的組み合わせを提供する。さらなる様態において、本発明は、例えば、化学兵器(CWA)、有毒産業化合物(TIC)及び/又は有毒産業化学材料(TIM)を検知するための、各種のコンパクトで、携帯可能、軽量で低電力ベースの分析装置を提供する。
【0032】
以降、本発明をさまざまな例示的実施形態を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(例示的実施形態の説明)
前に要約を記載したように、本発明は、一般に、化合物の改善された検知、測定、判別及び分析([分析]と総称する)を提供するためのシステム、方法及び装置を対象としている。解析する化合物には、単体、化学物質及び生体物質の限定なく、有機及び無機双方の任意の化合物を含めることができる。具体的な例示的実施形態において、本発明は、イオン移動度ベースの化合物分析の改善を対象とする。本発明の特定の形態には、散布プロット、サンプル解離及び/又は圧力制御を使用して、似たような又はオーバーラップ下イオン移動度特性を持つ化合物の間の判別を向上させることが含まれる。
【0034】
本発明の例示的実施形態を、「微分型電気移動度分光計(DMS)」、または「無線周波数イオン移動度分光計(RFIMS)」としても知られる非対称電界イオン移動度分光計(FAIMS)(以下「DMS」)に関連させて説明しているが、本発明の特質を、同様に、イオン移動度分光分析(IMS)飛行時間型(TOF)IMS、ガス・クロマトグラフ(GC)、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法、質量分析(MS)及び液体クロマトグラフ質量分析(LCMS)に組み合わせて用いることができる。
【0035】
図5は、本発明を用いることのできる型のDMSシステム10のブロック図である。システム10は、フロー・セクション15及びプロセッサ・セクション40を含む。フロー・セクション15は、フロー取入れ口12からフロー出口13まで延びるフロー・チャンネル11を含む。対向するフィルタ電極20及び21はフロー・チャンネル11内に配置されている。また、検知器電極26及び30もフロー・チャンネル11内に配置されている。プロセッサ・セクション40は、フィルタ電極20と21とにRF電界電圧を供給するためのRF電圧発生器42、及びフィルタ電極20と21とにdc補償電圧Vcompを供給するための直流(dc)電圧発生器44を含む。また、プロセッサ・セクション40は、電圧発生器42と44とを制御し、イオン検知器28と30とから、増幅器36と38、A/Dコンバータ48を経由してくるインプットを処理するためのプロセッサ46を含む。また、プロセッサ・セクション40は、ユーザに分析情報を提示するためのディスプレイ49を具えている。システム10の一つの特質は、約1ポンドの重さより軽い携帯型装置に収納できることである。
【0036】
作動において、サンプルSは、フロー・チャンネル取入れ口12からフロー・チャンネル11に入る。サンプルSを、例えば、環境から引き込むこともでき、あるいは、別のDMS、又はIMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、LCMSから受取ることもできる。サンプルSを、ガス、液体又は蒸気のような流体に混ぜることができる。この例では、サンプルSをフロー・チャンネル11を通し流すために、キャリヤ・ガスCGが用いられている。サンプルSは、フロー・チャンネル11に流入するとイオン化域14に流れる。サンプルは、イオン化域14を流れ通ってイオン化源16によってイオン化され、サンプルS中のさまざまな化学種のイオン化分子のセット17+,17−を、いくつかの中性分子17nとともに生成する。これには、例えばモノマー・イオン及びクラスター・イオンが含まれることがある。このようなクラスターは、モノマー・イオンが水分子又は他のバックグラウンド分子と結合し、その結合がイオン化されるときに生成させることができる。
【0037】
そこで、キャリヤ・ガスCGは、イオン化されたサンプルSを、イオン・フィルタ24の対向するフィルタ電極20と21との間に所在するイオンフィルタ電界18中に搬送する。サンプルS中に含まれるさまざまなイオンのフィルタ電界18における移動度の違いに基づいてフィルタリングが進められる。イオン移動度は、例えば、イオンのサイズ、形状、質量及び電荷に影響される。電界発生器42は、非対称電界電圧Vrfをフィルタ電極20と21との間に印加し、フィルタ電界18内の電界強度を、高低の電界強度の間で交番させる。イオン17+,17−及び17nは、それらの移動度特性に基づき、電界に反応して移動する。典型的には、高い電界強度状態におけるイオンの移動度は、低い電界強度状態におけるそのイオンの移動度とは異なる。この移動度の違いにより、イオンがフィルタ24を通って縦方向に進むにつれ横方向の変位が生じる。横方向変位は、サンプルSイオンの各々に対するイオン軌道を規定する。
【0038】
前記のように、電圧発生器44は、プロセッサ46の制御の下に、電極20と21との間にdc補償電圧Vcompを印加する。補償電圧Vcompは、特定のイオン種をフロー経路14の中央の方に戻し、これにより、それらイオンが、フィルタ電極20又は21のいずれかにぶつかって中性化されることなく、フィルタ電界18を抜け出られるようにする。他方、印加されたVcompが不十分な種は、ついにはフィルタ電極20及び21にぶつかって中性化される。中性化されたイオンは、例えば、キャリヤ・ガスCGにより、又はフロー経路11を加熱することによって排除される。
【0039】
また、図5の例示的システム10は、17−,17+の場合のように、極性の差異に基づいてイオンを判別することができる。一つの形態によれば、図5のシステム10は、サンプルS中の正及び負イオンを、並行して、又は一部の例においては、ほぼ同時に検知するよう作動することができる。この特質により、2つの化合物の識別を、並行して、又は一部の例においては、ほぼ同時に行うことができる。また、この特質により、一つの化合物の2つのモードの検知を並行して、又はほぼ同時に行うことができる。
【0040】
作動において、イオン17+及び17−の2つの種は、検知域25に入り、さらなる分離が行われた後、その強度が判定される。例示的実施形態において、検知器26の電極28を正にバイアスして、イオン17−を引き付けイオン17+をはじくことができる。これに換えて、検知器26の電極30を負にバイアスしてイオン17+を引き付けてイオン17−をはじくことができる。検知器電極28及び30に集合したイオンが発生させた信号は、それぞれ増幅器36及び38で増幅され、A/Dコンバータ48を経由してプロセッサ46に供給される。一つの形態によれば、プロセッサ46は、A/Dコンバータ48からのディジタル化された信号を、メモリ47中に格納された既知の化合物に対するイオン強度のライブラリと対比し、サンプルS中の化合物を識別する。対比作業の結果を、ディスプレイ49のような適当なアウトプット装置に送信するか、あるいは、インタフェース56を経由して外部の送信先に送ることができる。
【0041】
さらなる例示的実施形態によれば、システム10は、サンプル分析に使用される前に校正される。さらに具体的には、特定のVcomp及びVrfにおける既知のイオン種に対するイオン強度のライブラリを作成し、メモリ47に保存する。一つの形態によれば、いったんシステムを校正すれば、さらなる校正の必要なく連続してこれを使用することができる。しかしながら、例えば、反応物イオンピーク(RIP)又はドーパントのピークを使ってシステム10を校正することも、本発明の範囲内である。
【0042】
さまざまな例示的実施形態によれば、印加された電界電圧Vrfから得られるフィルタ電界18内の電界強度を、約1,000V/cmから約30,000V/cmまでの範囲、又はそれより高い値とすることができる。Vrfの周波数を、約1から約20メガヘルツ(MHz)までの範囲の値で、約30%のデューティサイクルを持つより高い周波数を伴うものとすることができる。
【0043】
システム10を、例えば、任意の適切なVrf、Vcomp、電界強度、Vrfデューティサイクル、Vrf波長及びVrf周波数動作値を用いて調整できることに注目すべきである。さらに、以下でさらなる詳細を説明するように、分析を改善するために、システム10を、以下に限らないが、温度、圧力、湿度、流速、ドーピング、及びキャリヤ・ガス組成のような他のフロー・チャンネル条件の値を変えて調整することができる。また、さらなる詳細を後記で説明するように、例えば、一つ以上の、追加DMS、IMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、又はLCMSを並列又は直列に使って、異なったフロー・チャンネル/フィルタ電界条件でサンプルSを再循環させ及び/又は進行処理することにより、サンプルSの複数のスキャン採取を用いてサンプルSの分析を改善することができる。
【0044】
一つの例示的実施形態によれば、プロセッサ46は、電圧発生器44に、印加Vrfにより規定された特定のRF電界強度において、ある範囲の電界補償電圧Vcompをスキャン又は掃引させ、サンプルSに対する第一のスペクトルを得る。次に、Vrfは次のレベルにセットされ、再度VcompがスキャンされてサンプルSに対する第二のスペクトルを得る。これらの情報を、前記のサンプル中の化合物を識別するのと同様なやり方で、スペクトル・スキャンのライブラリと対比することができる。
【0045】
スペクトル・スキャンにおいて、特定のピーク組み合わせが特定の化合物の存在を示すことが判明した場合、その複数のピークを表すデータを保存し、将来の検知データをその保存されたデータと対比することができる。例えば、上昇された電界強度のような、制御されたフィルタ電界条件の下で、クラスター集合していた化合物をクラスター分離することができる。単一回のスキャンであっても、検知によって源泉の化合物を識別するために使えるピークのシグネチャを得ることができる。
【0046】
一つの例示的応用例によれば、本発明を使って炭化水素バックグラウンド中の硫黄含有化合物を検知する。一つの例において、負イオンと正イオンとは別々に検知される。炭化水素バックグラウンドに左右されずに、検知データからこれら硫黄含有化合物の濃度を計量的に測定することができる。
【0047】
別の例示的応用において、本発明を使って、変化する、又は高濃度の炭化水素バックグラウンド中のメルカプタンの微少量(百万分の1単位(ppm)、十億分の1単位(PPb)、又は一兆部の1単位(ppt))を検知する。また、図5のシステム10は、炭化水素ガス・バックグラウンドの特性判定をすることができる。例えば、本発明は、メタン・バックグラウンドにおいて、エチルメタルカプタンのようなメタルカプタンを検知することができ、また、メタルカプタン・バックグラウンド中の、メタンのようなガスを検知することもできる。
【0048】
本発明のこの実践において、炭化水素バックグラウンド中のメタルカプタンが検知され、フィルタ電極に印加された非対称電圧は、約900Vから約1.5kVの範囲(高電界条件)であり、低電圧側は、約−400から約−500Vの範囲(低電界条件)であった。周波数は、約1から2MHzの範囲であり、高周波のデューティサイクルは約30%であった、但し、他の動作範囲も用いられた。一つの実施形態において、検知器電極には+5v及び−5vのバイアスが印加された。この設定によって、メタルカプタンを負モード(−5v)で検知することができ、炭化水素ガスを正モード(+5v)で検知することができる。
【0049】
システム10は、各種の従来式構成要素を用いている。例として、増幅器36及び38を、Analog Devicesのモデル459増幅器とすることができる。さらに、A/Dコンバータに、スキャンをデジタル化し保存するため、National Instrumentsの回路部品(モデル6024A)を含めることができ、結果をスペクトル、トポグラフ・プロット、散布プロット又はイオン強度−時間の対比グラフとして表示するためのソフトウエアを含めてることができる。これに換えて、こういったソフトウエアをメモリ47に保存し、プロセッサ46を制御することができる。イオン化源を、例えば、プラズマ、レーザ、放射線、UVランプ、又は他の任意の適切なイオン化源とすることができる。
【0050】
一つの例示的実施形態によれば、フィルタ電極20と21との間にVrfが印加される。但し、一部の構成において、一方のフィルタ電極、例えば電極20にVrfが印加され、他方の電極、例えば電極22は接地される。そこで、Vcompは、通過させるイオンの種に従って、フィルタ電極20及び21の一つに、あるいは、フィルタ電極20及び21の間に交互に印加される。別の形態によって、検知器電極28及び30は、電極28が−5Vdcにバイアスされ電極30が+5Vdcにバイアスされるといった、浮動バイアスを印加され、炭化水素又は空気バックグラウンド中のメタルカプタン検知に対する良好なパフォーマンスにつながっている。
【0051】
図6は、図5に10として図示した型のDMSシステムによって測定した、エチルメルカプタンの異なる量を含有するサンプルに対する「正モード」スペクトルにおける、イオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。正モード検知においては、検知器電極28は負にバイアスされ、正メタン・イオン17m+を引き付け検知する。図7は、エチルメルカプタンの異なる量を含有するサンプルに対する「負モード」スペクトルでのイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。負モード検知においては、検知器電極30は正にバイアスされ、負メタカプタン・イオン17m−を引き付け検知する。図6及び7から分かるように、さまざまな添加量レベルにおいて、エア−炭化水素キャリヤガスCGバックグラウンドに左右されずメタルカプタンのシグネチャが把握され、検知されたサンプル・ピークは、バックグラウンドから完全に分離されている。図6から分かるように、反応物イオンピーク(RIP)は分離されており、図7に示すように、バックグラウンド(サンプル番号9)は平坦である。
【0052】
前記のように、検知器電極28及び30を反対にバイアスして、正及び負双方のイオンを、並行して、一部の構成においては、ほぼ同時に検知可能にすることができる。イオン化されると顕著な負イオンを持つ性向のあるメタルカプタンのようなサンプルであってさえも、正及び負双方のイオン検知によって、単一回検知アプローチにおける分析精度の改善が得られる。さらにこれによって、識別精度及び信頼度が向上し、誤った存在肯定及び誤った存在否定の尤度が低減される。
【0053】
例えば、六フッ化硫黄(SF6)は、負モードでうまく検知できる。しかしながら、正モードにおける反応は、これだけでははっきりしないが、あるプロフィールを持ち、これを負モードと組み合わせることによって確認をすることができ、誤った検知の尤度を低下させる。一つの形態によれば、本発明は、SF6を、単一モード(例、負モードだけの検知)又は二重モード(正及び負モード双方の検知)で逐次に、並行して、又は同時に検知することができる。
【0054】
SF6ガスは、パイプのリークを検知しリーク源を突き止めるトレーサとして空気流を監視するための大気トレーサ用途に、発電所においては、他にも用途はるが、スイッチを絶縁し、スイッチの破損を低減し又は防止するために使われる。SF6の単離及び検知は、多くの場合において困難な課題であることが分かっている。
【0055】
一つの例示的応用例によれば、本発明のシステムは、空気中のSF6を検知するために用いられる。さらなる例示的応用例によれば、本発明は、約1×10−9atm cc/秒のSF6(0.01PM)の感度を持つ携帯型で電池式のSF6検知用装置を提供する。この例示的実施形態において、本発明を、例えば、電力産業においては「高圧開閉装置」の気密性を確保するために、試験所においてはASHREA110規格に対して換気フードを試験するために用いることができる。他の用途には、トーピード・ヘッド、配管システム、及びエアバッグの完全性試験が含まれる。本発明の高い感度、丈夫なデザイン、及び使用とセットアップとの容易さは、SF6の検知を必要とする多くの用途において利点となる。
【0056】
図8は、本発明の例示的実施形態による、SF6の負モード検知に対するイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比グラフである。図に示されるように、本発明の応用により、反応物イオンピークから分離された、SF6の明確なピークが得られている。図9は、正モード検知における同様なSF6のプロットを提示している。見ると分かるように、正モード検知においては、SF6が存在しない信号51とSF6が存在する信号53と間に目に付くような違いはない。図10は、負モード検知における3つの異なる電界電圧Vrf(57、58及び61に示す)におけるSF6に対するイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比を、SF6の不在において検知されたRIP55とともにプロットしたものである。図11は、正モード検知における、図10と同様なプロットを示す。予期されたように、正モード検知カーブ69、71及び73は、それぞれに対応するRIPカーブ63、65及び67をほぼ追尾している。前記で図16に関連して記載したように、これだけでは明確でないがこれは予期された検知であり、従って、明確なSF6の負モード検知と組み合わせて確認に用いることができる。
【0057】
別の形態によって、既知の装置のt区製における既知のイオン種強度シグネチャについての前記のライブラリ・データに、単一モード、又は正及び負モード同時検知のいずれかによってアクセスすることができる。装置による過去の検知データと比較することによって、これらのピークをメルカプタンの実証スペクトルとしてさらに明確に識別することができる。双方のスペクトルは、定性的及び定量的にメルカプタンの徴候を示す。正及び負モード同時検知の利点をメルカプタンに関連させて前記で説明しているが、これらは、任意のサンプルの解析に用いることができ、特に、類似したイオン移動度特性を持ち従ってそれら間を識別することが困難な、メルカプタンと炭化水素ガスとを含有するサンプルのような、複雑なサンプルをリアルタイムで分析する場合に有用である。
【0058】
前記は、サンプル中に検知されたイオン種の識別のため、単一回の移動度スキャンから複数の検知データを有利に取得することを実証するものである。この革新は、多くの用途において有用である。有益な革新ではあるがさらに、(1)複数のイオン移動度スキャンから複数の検知データを取得すること、及び(2)そのようなデータをさらに処理して、移動度係数αのような、装置に左右されない特性を抽出することによって、もっと高い信頼度水準絵尾達成し、誤った存在肯定をさらに削減することができる。
【0059】
一つの例示的「複合スキャン」の実施形態によれば、イオンは、単一セットの電界条件でなく、少なくとも2つの、できればさらに多くの数の電界条件(例、少なくとも2つの電界測定点)において採取された複数のイオン強度スキャンに基づいて識別される。検知データは、少なくとも2つの異なった電界条件におけるVrf及びVcompと相関付けられ、所定の検知化合物の特性設定をする。所定の対象イオン種が複数の検知データと関連付けられているので、さらに精度の高い検知を行うことができる。保存されたデータとの対比によって、検知化合物の信頼できる識別が得られる。
【0060】
スペクトルピーク又は移動度カーブ中のデータに基づいて、検知イオンを識別するための方法には、カーブ合わせ、ピーク当てはめ、デコンボリューション(オーバーラップ下ピークに対して)、例えば、(x,y,z,その他)空間座標系、及び/又は、z又は他の値をカラーの変化で表した(x,y,その他)座標系を含む3次元表現を用いた多次元マッピングなどがある。これらの技法は、正及び負モードの同時検知を含む単一スキャン中の、また複数スキャン中のピークに基づいて、検知されたイオン種を識別することを可能にする。これらの目的は同じであって、検知されたイオンの種を、明確に識別し検知し測定し、又は他の方法で分析するため使える複数の検知データの解析である。
【0061】
前記のように、化学物質の異なるイオン種は、補償された印加Vrfの関数として異なる移動度を示す。このように、さまざまな化合物に対し、異なるVrf電圧のセットを印加し、例えば、図1の検知器26の検知のように、イオン存在度ピークの位置におけるVcompを測定することによって、化合物の測定ポイントの特性のファミリーを作成することができる。そこで、この点ポイントのファミリーをプロットし、例えば図4に示すように、特定の種に対するイオン移動度カーブ・シグネチャを設定することができる。また、前記のように、このようなデータを保存し、未知の化合物のスキャン・データと対比して未知の化合物を識別することができる。一部の対比アプローチでは、カーブ合わせを実施するが、他のアプローチでは、2つの隣接する電界強度及びVcomp条件における、特定のイオン種に対するイオン強度を判定する。2つのデータ点の間の勾配が計算され、特定のイオン種のシグネチャとして用いられる。測定ポイント及び測定ポイントの数は、特定の用途に必要な特異度に合わせて選定される。最少の測定ポイントの数は2であり、分かっている電界値に対し、化合物の特性カーブの少なくとも一つの(勾配のような)特徴を識別する。
【0062】
単一のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件を変化させ、単一又は複数のスキャンについて勾配及び/又はカーブ合わせを実施することにより、一部の用途に対しては十分に精度のある結果を提供することはできるが、本発明の一つの例示的実施形態において、複数のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件を変化させながら採取された複数スキャンからは、より改善した結果を得られることが認められる。例として、一つの例示的実施形態によって、本発明は、複数の値を通してVrfをステップさせ、複数Vrfの各々においてVcompをスキャンし、固有のデータ・セットを生成して化合物をよりうまく判別し、これによって、検知化合物のさらに精度の高い識別を提供する。このアプローチを用いて、対象となる化合物についてより精度の高いイオン移動度シグネチャの保存データを生成することができる。
【0063】
一つの例示的実施形態によれば、本発明は、複数のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件における、特定のイオン種のイオン存在度ピークのシフトに関する情報を、化合物に対するスペクトル・シグネチャに組み込む。さらに具体的にいえば、ある特定のVrf(Vrf1)におけるイオン存在度ピークを、ある特定のVcomp(Vcomp1)位置で検知することができる。しかしながら、第二Vrf(Vrf2)においては、存在度ピークは、シフトして第二Vcomp(Vcomp2)位置で検知することになる。本発明の一つの例示的実施形態は、多くの例おいて、VrfがVrf1からVrf2に変わるのに反応して生じるVcomp1からVcomp2へのイオンピーク・シフトは、特定のイオン種を表すことを認知する。未知の化合物の同様な測定結果を、スペクトル・シグネチャのこの部分と対比して未知化合物識別の助力とすることができる。
【0064】
図12は、Vrfが1400Vピークから1450Vピークに変化したことによる、Vcompスキャンでの前記イオン存在度スペクトルのシフトを示す例を図示したものである。図12において、1400VピークのVrfに対し、ピーク110−1、110−2、110−3及び110−4は、特定の補償電圧Vcompに生じているが、Vrfが1450Vピーク(29,000V/cmに相当する)に変化したのに反応してシフトし異なった補償電圧に位置している。図12から分かるように、Vrfの変化のような、電界条件の小さな変化でさえも、測定可能なイオンピークのシフトを引き起こすことができ、これにより、イオン・スペクトル・シグネチャに重要な追加情報を提供することができる。図12の具体例においては、未知の化合物を識別するため既知の化合物に対するイオン・スペクトル・シグネチャと対比するに際して、Vrf変化によるイオン・ピークのシフトが用いられている。
【0065】
図13A及び13Bは、どのように、イオン・スペクトルのシフトを用いて未知の種を識別するかを例示する実験例を示している。図13A及び13Bでは、約24000V/cmの電界強度において、p−、o−、及びm−サンプル中の3つの異なるキシレン異性体に対するピークが検知された。図13Aにおいて、p−とo−とに対するピークは区別できないが、m−に対するピークは十分明確になっている。サンプルをさらに評価するために、より低い18000V/cmの電界強度において第二検知(図13B)が実施された。図13Bで分かるように、電界強度の変化によるピークのシフトによって、キシレンの3つの異性体p−、o−、及びm−は、より明瞭に判別でき、より正確に識別できるようになっている。図13A及び13Bから分かるように、種の間のよりよい識別能は、必ずしもより高い電界強度を印加することでもたらされるものでない。さらに具体的には、この例において、p−及びo−キシレン異性体は、低い電界強度でより判別し易くなっている。
【0066】
別の例示的実施形態及び前記によって、本発明はある範囲の印加フィルタ電界/フロー・チャンネル条件に渡る検知データを生成する。例えば、図14A及び14Bは、ヘキサノン及びオクタノンに対し、図1中に10として描いた型のDMSを使って検知された、異なったVcompレベルにおける電界強度の変化の検知ピークの位置への影響を示す。カーブは、垂直軸上を変位し、電界強度が増大するにつれ変位幅も大きくなっている。さまざまな動作電圧の範囲が可能であるが、例示として、図14A及び14Bは低い方は約620Vピーク(各々の下限)から高い方は1450Vピーク(各々の上限)のピークVrfを提示していると理解することができる。この一連の反応においていくつかの特質に気付く。例えば、特に図14Aのヘキサノンのプロットを参照すると、個別対象の601−1のモノマー・ピークは、最低の電界強度条件では見えにくくなっている。しかしながら、最高の印加電界強度においては、ヘキサノンに対応するピーク601−mは、他のピークから明瞭に判別される。
【0067】
印加電界強度が増大するにつれ、いくつかの現象が生じている。第一に、低い電界強度検知域において反応物イオンピーク(RIP)605−1が比較的顕著になっている。但し、電界強度が増大するにつれ、RIP605−mは、対象のモノマー・イオンピーク601−mよりも速い割合で左にシフトする。これは、反応物イオン種に対するイオン移動度のαパラメータが、対象モノマー・イオンに対するイオン移動度のαパラメータと違っているためである。
【0068】
さらに、RIP605の相対的振幅は、電界強度の増大につれて、顕著に減少している。しかして、特定の電界強度条件では、RIP605−mは、対象のモノマー・ピーク601−mよりかなり低い振幅で、モノマー・ピークと十分に離れている。モノマー・ピーク601もシフトしているが、同じような量ほどにはシフトしない。このように、ある範囲の印加電界条件身渡って化合物を分析することによって、RIP605が他の観測ピーク電圧の位置尺度から離れるか又は外れ去る条件を見つけ出すことができる。いくつかののケースにおいて、このことにより、対称のモノマー・ピークイオン601をより容易に検知することができる。
【0069】
類似のふるまいが、オクタノンについて観測したモノマー・ピーク610−1、610−…、610−n、及び現れた反応物イオンピーク615−1から615−mにおいても観察される。このように、これらの方法を使い、反応カーブのファミリーを保存された既知の反応カーブのファミリーと対比することによって、種を識別することができる。
【0070】
図14A及び14B双方の中に観察される別の作用は、クラスター・イオン608及び610が見られることである。クラスター・イオン608は、サンプル中の化学材料のクラスターを表している。典型的クラスター・イオンは、より重い化学重量を有し、対象のモノマー・ピークイオンとは異なるシフトをするピークを持つ。この例では、クラスター・ピークは、電界強度の増大とともに、モノマー・ピークのシフト方向から離れる方向にシフトしている。また、このサンプルで観測されたクラスター・イオンのこの特性を保存し、ヘキサノン及び/又はオクタノンを見分ける際に活用することができる。図14A及び14Bに示したカーブは、ある範囲の電界/フロー・チャンネル条件を加えて所定のサンプルを検知するやり方を、どのようにうまく活用するかの単なる一例である。
【0071】
前記で簡潔に説明したように、一つの例示的実施形態によれば、本発明は、多次元の化合物シグネチャを用いて、未知の化合物の多次元表現と対比し、未知の化合物を識別し、さらに広く分析する。このような多次元表現は、例えば変化させた複数のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件の関数としてイオン存在度をプロットすることにより作成することができる。このような条件には、以下に限らないが、Vrf、Vcomp、フィルタ電界強度、Vrfデューティサイクル、Vrf波長及びVrf周波数;温度、圧力、湿度、流速、ドーピング及びキャリヤ・ガス組成が含まれる。また、多次元表現を、例えば、サンプルS及び/又はサンプルSを、一つ以上の追加DMS、IMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、又はLCMSを並列又は直列に使い、同一の又は異なるフロー・チャンネル/フィルタ電界条件において、サンプルSを再循環及び/又はサンプルSを進行処理することによっても得られる。一つの例示的実施形態によれば、多次元表現は、カラーの変化でz−座標を表した、x−及びy−空間座標を用いた、3次元散布プロットである。
【0072】
図15Aに、本発明の例示的実施形態による、異なるイオン強度(存在度)を異なるカラーで表した、ある範囲の電界電圧Vrf(y軸)及び電界補償電圧Vcomp(x軸)に対するメチルサリチル塩の検知を図示した3次元カラー散布プロット620を示す。カラー座標はさまざまであるが、図15Aの散布プロットでは、最高のイオン強度を青色、最低を黄色で表している。3次元カラー散布プロット620は、複数の、図15Bに示すような2次元グラフの集約データを表している。さらに具体的には、図15Bは、メチルサリチル塩に対する特定のVrfにおけるイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比プロット622を示す。複数の、例として2つ以上の、電界電圧Vrfにおいて採取した、複数の、例として2つ以上の、こういったグラフを集約して図11Aのカラー・プロット620を作成する。複数のフィルタ電界電圧Vrf(すなわち、電界強度)において採取された複数のスキャンを集約することによって、単一のVrfにおいて採取された単一のスキャンより判別度の高いスキャンが得られる。この一つの理由に、集約されたスキャンは、前記で説明した、Vrfの変化によって生じるピークのシフトが組み込まれていることがある。見られるように、図15Bの2つのピーク627及び629に対し、図15Aの3次元表現は3つのシグネチャ・ピーク621,621、及び635を提示している。
【0073】
散布プロットを用いることにより得られる分解能向上の効果は、似たようなイオン移動度特性を持つ化合物の間を判別する場合さらに明らかになる。例として、図16A及び16Bは、DMMPに対する正モード・プロット624及び626を示し、図17及び図18はDIMPに対する正モード・プロット628及び630を示す。さらに具体的には、図16B及び18は、それぞれ、DMMP及びDIMPに対する、特定のVrfにおけるイオン強度(y軸)とVcomp(y軸)との対比をプロットしている。示されるように、図16B及び18の双方とも、おおむね同一な電界補償電圧に位置し、類似の間隔で離れた、同じ程度の大きさの3つのピークを含んでいる。図16A及び17の個別プロット626及び630だけに基づいてDMMPとDIMPとを判別するのは、うまくいっても信頼性がなく、悪くすれば不可能である。しかしながら、図16A及び17を参照すると、3次元プロット624及び636は、視覚的に容易に判別可能である。
【0074】
さらに具体的には、図16AのDMMPカラー・プロット624は、3つのカラー・ピーク638,639及び640を示し、DIMPカラー・プロット628は、4つのカラー・ピーク631,632、634及び636を示している。ピーク638、639及び640は、ピーク631、634及び636とほとんど重なっているが、DIMPに対する4番目の青色ピークはDMMPに無いもので、DMMPスキャンをDIMPスキャンから容易に識別してくれる。また、カラー・プロット628のブランチ638と640とは、カラー・プロット624のブランチ638と640とより近接している。さらに、3次元カラー・プロット624のブランチ全体にわたるカラー分布(例、彩度)は、プロット628のブランチ全体にわたるカラー分布と同じではない。前記に説明したシグネチャ・スキャンの場合のように、図15A−18に図示したような種類の3次元シグネチャ・スキャンを、既知の化合物に対するライブラリに保存することができる。保存された一つ以上のスキャンの少なくとも一部を、未知の種の同様なスキャンの少なくとも一部と対比して、未知の種を識別し、広く分析することができる。こういった対比のために、従来式のパターン整合アプローチを含め、任意の適切なパターン整合を用いることができる。
【0075】
前記で説明した図15A、16A及び17の散布プロットは、強度の表示にカラー変化を用いているが、これに換えて、又はこれと組み合わせて、色彩度、グレイ・スケール又は黒白のような任意のカラー関連特性の変化を用いることができることに注目すべきである。加えて、さらなる例示的実施形態において、本発明は、カラー関連情報を使わないで、強度ピークの周りに曲線を生成する。例として、この例示的実施形態において、例えば、カラー関連情報なしに、強度ピーク632、634及び636の輪郭を残すことができよう。カラー関連情報を除去することにより、例えば、複数のVrf値における複数のVcompスキャンの集約から得られたスペクトル情報を取り入れた、VrfとVcompとを対比した2次元散布の表現が得られる。この2次元情報のどれか又はすべてを、前記説明のシグネチャ情報に組み込むことができる。
【0076】
前記のように、さまざまな例示的対比アプローチにおいて、例えば前記の2次元及び/又は3次元散布プロットを使ったパターン整合を用いることができる。しかしながら、他の例示的実施形態において、散布プロットによって得られた情報を、数学的関係としてライブラリに保存し、このような数学的関係を対比するため、適切な在来のアプローチを用いて未知の種を識別する。
【0077】
別の例示的実施形態によれば、Vcompをx軸に、Vrfをy軸に、イオン強度をz軸にプロットすることができる。これにより、3次元カラー・プロット620、624及び628のように、イオン強度を色彩度、グレイ・スケール又は黒白の変化で示す代わりに、イオン強度を、トポグラフ的方法で、描写/概念化することができる。また、この種の多次元シグネチャ表現を、既知種のライブラリに保存し、前記のイオン移動度シグネチャと同じやり方で使うことができる。本発明の他の実施形態において、3より多くの次元を採用し、例えば、n次元空間におけるクラスターとしてスペクトル・データをプロットし、知られたクラスター整合アルゴリズムを用いることができる。
【0078】
図5のプロセッサ46のようなプロセッサを、従来の方式でプログラムし、システム10のような分析装置の電界電圧Vrf及びスキャンVcompの範囲を自動的にステップさせ、そのデータを、ディスプレイ、又は3次元散布プロット生成処理ために他のシステムに提供させることができる。
【0079】
比較的に高い電界強度を印加することによって別の解析改善効果が見られる。具体的には、例えば、サンプルに高い電界強度を印加することによって複雑なイオン集合体を解離することができる。サンプル解離は、種の分離、検知、及び識別を向上させるための有用な技法である。解離には、サンプルの検知に先立って、サンプルの大きな分子を、小さな分子、成分、又はフラグメントに分断するプロセスが含まれる。これにより集合体の成分を個別に検知し、さらに広く分析することができる。
【0080】
図19は、メルカプタンのサンプルに対するそういった効果の例である。具体的には、ある範囲のバックグラウンド電圧(620から1450Vピークまで)が、エチルメルカプタンに印加され、電界強度条件が強まるにつれイオンピーク反応の全体的シフトが見られた。しかしながら、解離状態も観察された。具体的には、弱い印加電界条件では、701−1におけるような強い単一のピークが観察される。しかしながら、しかし電界強度が増大するにつれ、スペクトル中に、複数のピーク701−n、702、…710が見られるようになる。低い電圧の電界強度においてだけでなく、ある範囲の電界条件を観測し記録することによって、さらにこの解離反応を活用して、よりうまく化合物を識別することができる。一つの形態によれば、解離が発生するピークRF電圧を示すデータを、保存された既知のサンプルに対するスペクトル・シグネチャに組み込む。別の形態によれば、前記とともにあるいはその代わりに、フラグメントのピークの位置を、今後、検知データと既知のデータとの照合に使用するため、保存されたスペクトル・シグネチャに組み込む。
【0081】
図20Aは、本発明の例示的実施形態による、軽い分子と重い分子との間での、検知ピークの異なる補償電圧への分離を例示した、イオン強度(y軸)と電界補償電圧Vcomp(x軸)との対比グラフ712である。グラフ712は、RIPバックグラウンド・ピーク714に関連する軽い分子は、無特定な−30Vdc補償電圧において識別することができ、重い分子は、0Vdc補償電圧あたりに集まりピークを形成する傾向があることを示している。重い分子のサンプルを解離し、例えば、DMS又はIMSシステムを使ってフラグメントを検知することにより、各ピークが一つのフラグメントに関連する複数のイオン強度ピークを使ってサンプル固有のシグネチャを作成し、そのサンプルの後の識別を可能にすることができる。サンプルの解離は、例えば、以下に限らないが、化学反応、高い強度における高エネルギー電界、高い電界電圧、加熱、レーザ光、サンプル分子と他の分子との衝突、ソフトx線、又は類似技法の任意の一つ又はこれらの組み合わせを使って達成することができる。
【0082】
図20Bは、本発明の例示的実施形態による、サンプル解離後の検知ピークの数の増加を示したイオン強度(y軸)と電界補償電圧(x軸)との対比グラフ718である。グラフ718は、フラグメントはより軽く、従ってより低い質量とより高い対応補償電圧を有し、フラグメントの間の分解能及び区別の改善をもたらすことを示している。また、グラフ718は、フラグメント・サンプルに関連するピーク720の数の増加を示し、これにより、化合物を同定するために使うことのできる全体的なデータが増える。追加された検知データにより、例えば検知されたシグネチャをルックアップ表中のシグネチャのセットと対比したり、本明細書で開示した他の技法によるなどして、検知された種のより正確な識別が可能になる。
【0083】
図21は、本発明の例示的実施形態による、二十チャンネル検知システム748の概念的ブロック図であって、これは、解離を用い第一チャンネルを形成する第一DMSシステム722と、並列に作動している、解離を用いない第二チャンネルを形成する第二DMSシステム724とを包含する。図示するように、DMSシステム724は、サンプル取入れ口726、イオン化域728、イオン源730、イオン分析部(analyzer)域732、及び出口734を含む。同様に、DMSシステム722は、サンプル取入れ口736、イオン化域738、イオン源740、イオン分析部域742、及び出口744を含む。但し、DMSシステム722は、イオン化域738内に解離エネルギー源746も含んでいる。それぞれのイオン分析部域732と742とは、DMSフィルタ及び検知器を含み、サンプルの検知と識別とができるようにしている。作動において、二重チャンネル検知システム748は、DMSシステム722と724とを、並行して、同時に、又は交互に作動させる。DMS724については、サンプルSは、サンプル取入れ口726を経由してイオン化域728に取り入れられる。そこでイオン化源730はサンプルSを正及び/又は負イオンにイオン化することができ、イオンは次にイオン分析部域732に送られる。イオン分析部域732ではサンプルのフィルタと検知とが実施され、そこで、サンプルは出口734を経由してDMSシステム724を抜け出す。DMSシステムもDMS724と同様な方法で作動するが、追加されている解離源746作動を伴う。これにより、サンプルSがDMS724のイオン化域738に入ると、解離源746は、サンプルS分子を、より軽くて低質量の分子に開裂/解離する。これらより軽量の分子は、そこでイオン分析部域742に送られフィルタされ検知される。
【0084】
このように、DMSシステム722及び724を用いる二重チャンネル検知システム748は、サンプルSとそのフラグメントをほぼ同時に分析し、より複雑なサンプルのシグネチャを生成することによって、サンプル分析を改善することができる。これに換えて、二重チャンネル検知システム748は、検知されるサンプルの種、及び他の干渉物質又は化合物とのより正確な分別の必要性によっては、解離スペクトルを選択的に対比することができる。
【0085】
図22は、本発明の例示的実施形態による、サンプル分析を改善するため、解離を用いないDMSシステム750と、これと直列に作動する、解離を用いるDMSシステム752との概念図である。DMSシステム750と752との結合により、直列検知システム754が形成される。図示するように、直列検知システム754は、サンプル取入れ口756、DMSシステム750、DMSシステム752及び出口758を含む。DMSシステム750は、イオン化域760、イオン源762、イオン・フィルタ764、及び検知器766を含む。DMSシステム752は、イオン化域768、イオン源770、解離源772、イオン・フィルタ774、及び検知器776を含む。
【0086】
作動において、サンプルSは、サンプル取入れ口756を経由して直列検知システム754に取り入れられる。DMS750は、イオン化域内のイオン化源を使ってサンプルSをイオン化する。そこで、イオン化されたサンプルSはイオン・フィルタ764に送られる。イオン・フィルタ764は、サンプルSに電界及び電界補償電圧のある組み合わせを印加して、選択したイオンが検知器766に到達し検知されるようにする。
【0087】
図23Aは、DMSシステム750におけるピーク検知を示したイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比グラフ778である。前に示したように、解離が生じない場合には、比較的重いサンプル分子が集合して、Vcomp=約0Vdcあたりにピーク780を形成する。
【0088】
DMSシステム750による分析の後、サンプルSはDMSシステム752に送られ、サンプルSはイオン化源770によってイオン化され、また、解離源772によって解離される。解離源772を、比較的大きなサンプル分子を複数のフラグメント分子、フラグメント、成分、又は原子に分割するのに十分なエネルギーを持つ、放射能源、高エネルギー電圧源又は類似の装置とすることができる。次に、フラグメントはイオン・フィルタ774に送られ、複数のフィルタ電界条件によるフィルタ電界電圧Vrfと電界補償電圧Vcompとの組み合わせがフラグメントに印加され、それらを、検知器776による検知の前にフィルタする。
【0089】
図23Bは、図22の解離を用いるDMSシステム752におけるピーク検知を示したイオン強度と補償電圧との対比グラフ782である。前に示したように、解離が生じる場合には、比較的軽量のフラグメントはさまざまの別個の電界補償電圧Vcompにおいて複数のイオン強度ピーク784を形成する。
【0090】
このように、DMSシステム750及び752を用いた直列検知システム754は、サンプルSとそのフラグメントとを直列的に検知して、サンプルのさらに完全なシグネチャ又は固有形跡を生成することによってサンプル分析を向上することができる。これに換えて、直列検知システム754に、検知されるサンプルの種、及び他の干渉物質又は化合物とのより明確な分別の必要性によって選択的に解離スペクトルを対比させることもできる。
【0091】
図24は、本発明の例示的実施形態による、解離域792を含むDMSシステム786の概念的ブロック図である。図示するように、DMSシステム786は、サンプル導入域788、イオン化域790、解離域792、解離源806、解離用ガス取入れ口794、搬送ガス取入れ口796、イオン・フィルタ798、検知器800、及びコントローラ812を含む。イオン化源802を、解離域792内にオプションとして配置することができる。イオン化源804をイオン・フィルタ域798内にオプションとして配置することができる。
【0092】
作動において、サンプルSはサンプル導入域788に取り入れられる。サンプル導入域788は、サンプルSの前分離を実施し、干渉物質又は望ましくない化合物の量を削減することができる。そこでイオン化源808はイオン化域790中のサンプルSをイオン化する。サンプルSが解離域792に送られると、解離源806は、サンプルSの比較的重い分子を複数の軽いフラグメントに解離する。これに換えて、解離用ガスライン794を経由して、フラグメント分子を含む解離用ガスを解離域792に取り入れることができる。解離用ガス分子は、サンプルS分子とぶつかり、サンプルS分子の一部をサンプルSフラグメントに分割する。
【0093】
解離の後、キャリヤ・ガスCGのような搬送ガスを搬送ガス取入れ口796を経由して取り入れてサンプルSフラグメントをイオン・フィルタ798に供給する。フィルタの後、次にフラグメントは検知器800によって検知される。イオン化源802を、オプションとして解離域792内に配置することができる。さらに、前に記載した例示的実施形態のすべての場合におけるように、解離源806は、イオン化源として追加機能することができる。イオン化源804を、オプションとしてイオン・フィルタ798内に配置することができる。さらにまた、イオン・フィルタ798は、解離源810もしくはイオン化源804のいずれかとして機能することもできる。
【0094】
前記の実施形態は、別々のイオン化及び解離源を参照しているが、他の例示的実施形態において、単一の源泉が、イオン化及び解離双方の役割をかねることができることに注目すべきである。さらに、前記の解離アプローチのどれをも、図21、22及び24の解離源に追加して、あるいはこれらに換えて用いることができる。コントローラ821は、必要に応じ、解離源806を作動又は停止することによって、あるいは、解離用ガスを解離用ガス取入れ口794経由して取入れ又は取り入れないことによって、解離作業のオン・オフを切り替えることができる。
【0095】
前記の解離技法及びこれらの解離技法を実行するシステムを使って、以下に限らないが、下記としても知られるサリン・ガスのような、サンプルSの検知度を向上させることができる。
【0096】
・GB
・ザリン
・ホスホノフルオリディック酸、メチル−、イソプロピルエステル
・ホスホノフルオリディック酸、メチル−、1−メチルエーテルエステル
・イソプロピルメチルホスホノフルオリダート
・メチルホスホノフルオリディック酸のイソプロピルエステル
・メチルイソプロポスフルオロホスフィン酸
・イソプロピル・メチルフルオロホスホネート
・0−イソプロピル・メチルイソpロポクスフルオロホスフェインオキサイド
・0−イソプロピル・メチルホスホノフルオリデート
・メチルフルオロホスホニック酸、イソプロピルエステル
・イソプロポシメチルホスホニルフッ化物
サリンは、無色、無臭のガスであって、成人に対し、0.5ミリグラムの致死量を持つ。これは青酸ガスの26倍を超える致死性であり、青酸カリの20倍を超える致死性である。針先ほどの小滴中の、キログラム体重あたりわずか0.01ミリグラムで人を殺すことができる。
【0097】
図25は、本発明の例示的実施形態による、図15A−18に関連して前記に説明したタイプの3次元カラー散布プロット814であり、ある範囲の電界電圧Vrf及び電界補償電圧Vcompに対する物質GAの検知を、異なるイオン強度を異なるカラーで表現しながら図示している。カラー散布プロット814は、例えば、GAサンプルを0.14ng/l濃度において解離するためのNi63イオン化源を持つDMSシステム786を使って検知した、物質GAのフラグメントを表すブランチ816、818、820、及び822を含む。ブランチ840は解離前の元のピークを現している。
【0098】
図26A−26Hは、それぞれ特定のVrfにおけるイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比2次元グラフ824、826、828、830、832、834、836、及び838を図示したものである。図15A−18に関連して前記したように、2次元グラフ824、826、828、830、832、834、836、及び838は、図25の3次元カラー散布プロット814に集約されている。前に説明したように、カラー散布プロット814は、例えば、Vrfの変化に起因するピークのシフトを取り入れいるという要因、及び3次元カラー散布プロット814のカラーの特質によって、特定イオン種のシグネチャのふるまいを、他のイオン種に対して、特に解離後においてより明瞭にするという要因によって、物質GA又はGBのような特定の種の分析プロセスを向上させる。
【0099】
図15A、16A、及び17に関連して前記したように、図25の散布プロットに、図示したカラーの変化に替えて、色彩度、グレースケール変化、黒白変化及び/又はピーク輪郭を用いることができる。
【0100】
本明細書に記載する解離技法は、DMSシステムに限定されるものでなく、イオン移動度分光分析(IMS)、飛行時間型(TOF)IMS、ガスクロマトグラフ(GC)、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法、質量分析(MS)、液体クロマトグラフ質量分析(LCMS)、表面音波(SAW)センサ、及び類似の技法のような他の移動度ベースの検知システムを用いることができる。
【0101】
イオン種の検知、識別及び広く分析を改善する別の技法においては、本明細書に記載したいずれかのような移動度ベースの検知システムを、大気より低い気圧で作動させる。大気より低い気圧での作動によって、イオン強度検知ピーク間の分離は大きくなり、ピークの幅は狭くなる。このことにより分解能の向上が得られ、システムの判別能及び感度の向上がもたらされる。例えば、DMSシステムをさまざまな圧力条件で作動させることによって、圧力に対するイオン種の反応の変化を測定し、イオン種を識別するために別の特性として使うことができる。さまざまな例示的実施形態によって、本発明は、約.2と約.9気圧との間、約.3気圧より低い、約.4気圧より低い、約5.気圧より低い、約.6気圧より低い、約.7気圧より低い、又は約.8気圧より低い圧力でイオン・スキャンを実施する。
【0102】
図27Aは、本発明の例示的実施形態による、DMSシステムの正イオン・モードで検知した複数の圧力に対するバックグラウンド(RIP)イオン強度と電界補償電圧との対比グラフ840である。グラフ840は、DMSシステム内の圧力を調整する際、電界電圧を調整して、イオン強度ピークを同じ補償電圧位置の維持することができることを示している。さらに具体的には、グラフ840によれば、圧力が低下するに応じ、電界電圧が低下して種に対するイオン強度ピークを同じ補償電圧に維持する。さらに、より低い圧力における圧力変化に対して一定の補償電圧を維持するためには、電界電圧のより大きな変化が必要となっている。例えば、圧力を760mmHGから655mmHgに約100mHg低下させた時は、電界電圧の低減は、約1050Vピーク値から約1010Vピーク値へのおおよそ40Vピーク値である。大体同じ幅の665mmHgから556mmHgへの圧力低下に対して、Vrfの低減は約1100Vピークから約920Vピークへのおおよそ90Vピークである。このように、600mmHg値域における圧力の変化に対する電界電圧の低減はおおよそ2倍であり、このことは、低い圧力において分解能が向上することを示している。
【0103】
図27Bは、本発明の例示的実施形態による、DMSシステムの負イオン・モードで検知した複数の圧力に対するバックグラウンド(RIP)イオン強度と電界補償電圧との対比グラフ842である。正モード・グラフ840と同様に、グラフ842は、負検知モードにおいて、DMSシステム内の圧力を調整する際、電界電圧を調整して、イオン強度ピークを同じ補償電圧位置に維持することができることを示している。
【0104】
グラフ840とグラフ842とを比べて分かるように、同じ圧力及び電界電圧において、グラフ840の正モードイオン強度ピークとグラフ842の負モードイオン強度ピークとの間で、イオン強度ピークにオフセットがある。このオフセットにより、イオン種に対する、正モードと負モード検知との間におけるアルファ・パラメータの差異を表すことができる。アルファ・パラメータについては後記でさらに詳細を説明する。グラフ840及び842におけるDMSの流速は、おおよそ300cc/分である。
【0105】
図28A及び28Bは、本発明の例示的実施形態により、それぞれ、圧力の低下により生じた、正及び負バックグラウンド・スペクトルそれぞれに対する計量的影響を示すイオン強度(y軸)と圧力(x軸)との対比グラフ844及び846を図示したものである。さらに具体的には、グラフ844は、圧力が約0.3気圧(atm)低下すると電界電圧は約50%低減されることを示している。また、グラフ846も、約0.3気圧(atm)の圧力低下に対し、同様に約50%の電界電圧低減を示している。
【0106】
図29A及び29Bは、それぞれ、複数の圧力に対するイオン強度(y軸)と電界補償電圧(x軸)との対比グラフ848及び850図示したものであって、いろいろな圧力の、負及び正のター−ブチルカプタン又はター−ブチルリチオル(TBM)のスペクトルへの影響をそれぞれ示している。グラフ848及び850が、特定の電界補償電圧に対し、圧力が低下するにつれ電界電圧は低減していることを示しており、一方、グラフ848及び850は、TBMスペクトルに対するイオン強度位置が、グラフ840及び842のバックグラウンド(RIP)スペクトルに対するイオン強度ピークのシフトとは反対の方向にシフトしていることをも示している。さらに、グラフ848及び850中のTBMスペクトルに対するイオン強度ピークの繁華のレベルは、グラフ840及び842中のバックグラウンド・スペクトルに対するイオン強度ピーク変化のレベルより小さい。
【0107】
図30A及び30Bは、イオン強度(y軸)と圧力(x軸)との対比を示すグラフ852及び854を図示したものであり、それぞれ、圧力変化が負及び正のTBMイオンピーク・パラメータに及ぼす影響を示す。さらに具体的には、グラフ852は、負イオン・スペクトルに対して、圧力が変化しても、イオン強度ピークは比較的一定にとどまることを示している。グラフ854は、正イオンスペクトルに対して、イオン強度ピークは比較的一定にとどまるが、低圧力域でわずかな低下があることを示している。圧力の変化は、バックグラウンド(RIP)と検体のスペクトルに違った影響を及ぼすので、DMSシステムの能力を向上させるようなやり方で、圧力を操作し、調整し、又は他の方法で制御して、バックグラウンド・スペクトルの干渉の悪影響を最小にしながら、より高い分解能でイオン種を検知し、識別することができる。
【0108】
一部の実施形態において、電界強度とガス密度N又は圧力Pとの比率、ここでこの比率をE/N又はE/Pと表すものとし、これを一定に維持することによって、均一な検知結果を維持することが望ましいことがある。これにより、DMSシステム内のガス動作圧力が低下した場合、これに応じて電界電圧を低下させ一定のE/N又はE/Pを維持する。この電界電圧の低減は、電力消費の減少につながり、これが、小型、軽量、及び低コストの検知システムをもたらす。
【0109】
図31は、低減された圧力が、DMMP、DIMP、及びMSのような化学兵器の検体ピークに及ぼす影響を示したグラフ856である。最上部のグラフ857は、大気圧でのイオン強度測定結果を示し、その下部の2つのグラフ859及び861は、それぞれ、0.65及び0.5atmにおける結果を示している。最上部のスペクトルは、電界電圧Vrf=約1000Vピーク、1atmの下で、約10Vdcの電界補償電圧の値域において、DIMPのモノマー及び二量体のクラスターのオーバーラップ858を示している。しかし、0.65atm、Vrf=約800Vピークの下では、モノマー・ピーク860はVcomp=約−3V、クラスター・ピーク862はVcomp=約+1ボルトと、モノマー・ピーク860とクラスター・ピーク862とは分離されている。0.5atm、Vrf=約800Vピークの下では、DIMPモノマー・ピーク864及びDIMクラスター・ピーク866はそれぞれ細幅となり、ピーク864と866とは、それぞれ、Vcomp=約−2.5Vdcと+1Vdcとにある。0.5atmにおいて細くなったピーク864及び866は、DMSシステムにより高い分解能をもたらす。
【0110】
図32A−32Dは、それぞれ、イオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比を示すグラフ868、870、872,及び874を表す。グラフ868、870、872,及び874は、本発明の例示的実施形態による、低減された圧力での物質GFに対する改善された検知分解能を示している。グラフ868及び870は、それぞれ、1atmの下で1500及び1000VピークのVrfにおける物質GFのイオン強度スペクトルを示す。グラフ872及び874は、それぞれ、0.5atmの下で1000及び750VピークのVrfにおける物質GFのイオン強度スペクトルを示す。グラフ870では、Vrf=約1000Vピークにおいて、ピーク876の箇所でモノマーと二量体のピークがオーバーラップしている。しかしながら、グラフ868では、Vrf=約1500Vピークにおいて、モノマー・ピーク878と二量体ピーク880とは分離している。このように、電界電圧(Vrf)を上昇させることによって、DMSシステムの分解能を向上することができる。
【0111】
グラフ872において、Vrfを約100Vピークとして、DMSシステムの圧力は約0.5atmに低減されている。グラフ872には、一切の二量体から明瞭に分離されたモノマー・ピーク882が示されている、というのも、クラスター又は二量体RIPピークはグラフ872の枠外となるからである。グラフ874において、システム圧力約0.5atmの下で、電界電圧は約750Vピークに低減されている。グラフ874は、二量体ピーク886及びRIPピーク888から明瞭に分離されたGFモノマー・ピーク884を示している。このように、低減された圧力、低減された電界電圧、従って低減された電力を用いたDMSシステムを使い、グラフ874に例示したシグネチャ・ピークによってGFを検知し、識別することができる。
【0112】
前記のように、3次元カラー散布プロットを使い、ユーザ又はパターン認識プログラムが、カラー・パターンを既知の化合物についての類似のカラー・パターンのライブラリと照合できるようにして、DMSシステムが対象のイオン種を検知し、識別する能力を大幅に高めることができる。
【0113】
図33は、約0.65atmの下で、ある範囲の電界電圧、ガス密度(E/N)及び電界補償電圧に対して、0.005mg/m3の正イオンの強度を描いた3次元カラー散布プロット890である。図に示されるように、ガス密度x軸にプロットされ、Vcompはy軸にプロットされ、密度の変化は色の変化で表されている。プロット890は、顕著なブランチ392、894、及び896を含む。
【0114】
図34は、約0.5atmの低減された圧力の下で採取されたことを除き、図33と同様な情報をプロットしている。プロット898に示されるように、プロット890に比して低減された圧力により、さらに大幅に顕著になったブランチ900、902、及び904がもたらされ、しかして、より向上した分解能が得られる。
【0115】
図35は、フラグメント・サンプルに対して約0.5atmで作動するDMSシステムによる、相対湿度(RH)=約87%における、約0.85mg/m3の物質GBのRIPに対する正(906)及び負(908)モード3次元カラー散布プロットを表すグラフである。負モード・プロット908は、単一の強いRIPのブランチ909だけを示しているが、正モード・プロット906は、太いバックグラウンドRIPブランチ905の右側に2本の強いトレースの検体ピーク901及び903を示している。このように、サンプルの正及び負イオン種の双方に対する3次元グラフをプロットすることにより、正又は負モード測定どちらかだけの3次元プロットよりもさらに充実したイオン種の識別が得られる。
【0116】
前記で説明したように、3次元カラー散布プロット906及び908は、ブランチ、すなわちピークプロット又はトレース中の不連続点をも示すことができ、これも種の識別に有用である。例えば、プロット906はトレース、すなわちブランチ901中に切れ目を含んでおり、これを、今後の対比のため保存するシグネチャの一部に含めることができる。
【0117】
図15A、16A、17及び25に関連して前に記載したように、図33及び35に、表示されているカラーの変化に換えて、色彩度、グレースケール変化、黒白変化、及び/又はピーク輪郭を用いることができる。
【0118】
別の形態によれば、前記分析識別アプローチを、装置の種類にかかわりなく実施することができる。図36A及び36Bは、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノンを含むケトン類の同属群に対する実験検知データを示す。図37及び38は、それぞれ、前記したケトン種に対するモノマーとクラスターとを示す表である。図36A及び36Bに示すように、各々の種は、所定の電界条件セットに対して、固有の移動度カーブを持ち、しかして固有の移動度シグネチャを持っている。前記のように、複数のやり方のどれによっても、移動度シグネチャを取得し、精度向上することができる。しかしながら、識別プロセスを、装置に左右されないようにすることによって、さらに向上することができる。装置に左右されないようにすることで、任意の装置で使えるシグネチャ・データを生成することができる。一つの例示的実施形態によれば、本発明は、各々の種に関連する基本的移動度係数から導かれた関数のパラメータを算定することによって、これを達成する。
【0119】
従って、例えば、図36A、36B、37及び48に表されている複数データの各々を使い、これらの種を識別している固有の内在的移動度特性によって、検知された種の確実な識別を得ることができる。一つの形態によれば、対象となる装置に特有の参照ライブラリと対比することができるが、しかしまた、装置に依存しない共通的なデータセットと対比することもできる。このように、通常、存在度と補償電圧との対比カーブの個別のプロットだけを対比するのは望まれず、それよりも、検知されたイオン各々に対してのカーブ、勾配、符号、及びさまざまな内容を、参照データのライブラリと対比しできるように、各特定の補償電圧に対して観測されたピークのプロットが生成される。
【0120】
さらに具体的には、移動度シグネチャ計算の中で、私たちは電界の関数として表されるイオン移動度の電界依存性の表現式、いわゆるα係数を使って、対象種に内在する固有のα関数を生成し、これが装置に左右されないことを発見した。このように、α関数を、種に固有のシグネチャとして使うことができ、この関数を、イオン種に対する特徴的シグネチャ、及び装置に依存しない関数の双方として表すことができる。簡潔にいえば、一つの形態により、スペクトル・ピークは、相異なるアルファ・シグネチャを持ち、シグネチャの様態によってその位置を変化させることを、本発明は認知する。
【0121】
一つの例示的実施形態において、本発明は、検知された種に対して、α関数を移動度シグネチャとして用いる。使用されている電界条件に基づいて、検知された未知の化合物に対するシグネチャが算定され、次にこれを用いて、既知の化合物に関して保存された既知のシグネチャ・データのルックアップ表に従って識別する。さらに具体的には、本発明の好適な実践において、さまざまな電界条件の下での種の移動度依存性に基づいてイオン種を識別する。試験されるサンプルに対して少なくとも2つの電界条件におけるデータを採取し、データを処理し、試験サンプルに対するα関数として計算された検知データを、保存データと対比し擦ることによりサンプル中の化合物を識別することができる。
【0122】
α関数の論議を再度参照すると、図3は、αが0より大、0に等しい及び0より小の種に対して示された電界依存性の移動度(高電界側での移動性係数αとして表されている)を持つ3つのイオン例に対する、移動度と電界強度との対比プロットである。電界条件の任意の所定セットに対して、電界強度及び補償をα値と関連付けることができる。このことは、Buryakovほかの論文、A New Method Of Separation Of Multi−Atomic Ions By Mobility At Atomospheric Pressure Using A High−Frequency Amplitude Asymmetric Stron Electric Field、Intl J.MassSpec and Ion Proc.(1993)、145頁に示されている。
【0123】
私たちは、特定の電界強度におけるαパラメータを知るだけでは、誤った「存在肯定」が防止されないことを観測した。このことは、図4中の2つのプロットの交差部分、参照数字100で示された箇所で生じることがある。この位置におけるそれぞれのイオン種に対するαパラメータについての知見だけでは、それ以上の情報がなければ、双方の化合物に対する固有の移動度シグネチャは得られない。しかして、それ以上何もしなければ、この交差部分での、どんな数の読み取り値も、検知エラーにつながる可能性が高い。
【0124】
しかしながら、また、私たちは、イオンのα移動度特性を電界の関数すなわちα(E)としても表すことができ、イオン種に対する、装置依存性のない固有の移動度シグネチャを定義できることを発見した。このα(E)すなわち「α関数」は、イオンの大きさ、実効断面、形状、及び質量を電界条件と関連付ける。印加電界が増大するにつれ、増大した電界は、イオンの化学結合を変位させ、引き伸ばし及び/又は分断する性向があり、電界が強いほど、誘発されたイオンの双極子、四極子、又はそれより高次のモーメントが増加する。これらが今度は特定のイオンの相対的移動度に影響を与える。これらの様相に関連する結果から対象イオン種に対する固有の移動度シグネチャが規定される。また、これに装置依存性がないことも判明している。
【0125】
α(E)関数の電界条件に対する関係は次式で示される。
【0126】
【数1】
ここで、Vcomp(ピークの位置);Es−電界強度;f(t)−波形パラメータ(波形など)。
【0127】
このように、各々のスペクトル検知に対して、電界条件の関数としてα、すなわちα(E)を計算することができる。具体的には、平面電界非対称波形移動度分光計における非対称波形、Emax(t)=Emaxf(t)は、次の条件を満たすように設定される。
【0128】
【数2】
【0129】
【数3】
ここで、f(t)は、波形を表現する正規化関数であり、Emaxは波形の最大振幅である。波形は、その平均がゼロ(式3a)となり、1周期の間に電界の極性が正及び負の双方を取るように設定される。補償電界Cを波形Es(t)に加えることにより4式を得る。
【0130】
【数4】
非対称波形の周期における平均イオン速度は次式のように書ける。
【0131】
【数5】
平均速度ゼロ、v=0のイオンだけが、中性化されずにギャップを通過することになる。イオンがギャップを通過できるために必要な補償電界に対する式は、式6に示すように、式2、3、及び4を式5に代入して得ることができる。
【0132】
【数6】
この補償電界の値は、イオン種に対するアルファ・パラメータ、波形f(t)、及び非対称波形Emaxの振幅が分かれば正確に予測することができる。
【0133】
このように、移動度スキャンの電界依存性の実験測定からα(E)導き出す手順が分かる。この節において、アルファ・パラメータに関するいくつかのさらなる考察及びこのパラメータを算定する方法を説明する。まず、アルファ・パラメータは関数であって(数値でなく)、イオンについての物理的及び化学的情報はα(E)カーブの形状に包含されていることを強調しておかなければならない。このカーブを表す方法は主題に付随する。これらの方法において重要な唯一の基準は、移動度について計算された値(すなわち、K(E)=K{1+α(E)})が実験値とできるだけ近似しているべきことである。α(E)に対する関数を、べき級数としてさえ、又は複雑な形で表すことができる。いずれの場合においても、実験結果のカーブと計算のカーブとがよく一致しているべきである。しかして、本近似法の質は実験結果の精度に制限され、これは例示している。2つのパラメータ、3つのパラメータ、又は5つのパラメータによる非線形関数に基づくモデルの質を見分けるのは困難であった。すべての近似法は、ΔC1の誤差(±9%)以内に位置していた。
【0134】
本明細書において、α(E)の関数を表現するための簡明で一定した方法を説明するが、これは異なった条件の下で得られた結果の比較に適していよう。これらの方法は、異なった非対称波形又は異なる設計のIMSドリフトチューブ:線形、円筒型又は平面型DMSにも用いることができよう。一般に、アルファの近似のレベルを選択する基準は、まず、アルファ・パラメータを抽出した方法に、最少数の実験装置の個別パラメータしか用いていないのを確実にすることである。第二に、結果には最少数の調整可能パラメータしか包含されるべきでなく、近似カーブは、実験誤差の制限以内にあるべきである。次の節において、アルファ・パラメータを抽出するための一般的方法を説明し、その後の節で応用する。
【0135】
α(E)の関数は、式7で示されるように、電界強度E次数の級数の多項式展開として与えられる。
【0136】
【数7】
式7を式6に代入して、式8に示されるように、奇多項関数を偶多項関数で除して補償電圧の値が得られる。しかして、偶次数の多項式は、識別符号の後に置かれ実験結果を近似する。
【0137】
【数8】
これにより、式9に示すように、予測係数(近似計算された)をアルファ・パラメータの値と対比することが可能になる。
【0138】
【数9】
これに換えて、式10に従って、実験結果の近似を用い、式を反転することによってアルファ・パラメータを計算することができる。
【0139】
【数10】
実験結果における多項式の項の数として実際上の限界は存在するが、原則として、式10の多項式に任意の数の項(例えば2n)を設定することができ、近似項c2n+1の次数はアルファ係数α2nの予測数よりも高くすべきである。nの大きさは実験誤差いかんによるので、実験カーブC(Es)の近似式の次数を、際限なく増加させることはできない。通常、同一のイオン種に対しCi(Esi)でのNの実験ポイントが存在し、実験データを、従来の最小二乗法を使った多項式によって近似することができる。最後になるが、級数の項の数は、実験ポイントの数を上回ることはできず、級数の項の数を、当てはめカーブが実験誤差の制限以内に位置するポイントの数を超えて増やすことは不合理である。実際面では、前記の検知データに示したような良好な近似を得るために、2つ又は3つの項で十分である。アルファに対する多項式の次数を見積もるために、測定値の中の誤差を判断しなければならない。これらの実験における誤差(判明している又は推定される誤差)の源泉は以下のようであった。
【0140】
1.測定及びRF電界振幅のモデリングに関連する誤差(〜5%)、
2.式4の一次近似によるC(Es)中の誤差(〜3%)、及び
3.補償電圧の測定の中の誤差(〜5−8%)
おおよその誤差は〜10%程度であり、多項式の2つより上の項による利得はなく、そこでアルファは、測定値が許す限りの良好さの精度レベルで、α(E/N)=1+α1(E/N)2+α2(E/N)4と表すことができる。
【0141】
標準の最小二乗法(回帰分析)を使って、実験での調査結果を近似し又はモデル化した。Ci(Esi)でのNの実験ポイント及びC=c3S3+c5S5に対し、関数y=c3+c5xが定義され、ここで、y=C/S3;x=S2、c5及びc3は、それぞれ式11及び12により与えられる。
【0142】
【数11】
式13及び14に従い、実験値c3、c5を代入することによって、α2及びα4の値を求めることができる。
【0143】
【数12】
α2nを計算するために、C(Es)及び関数f(t)(これは非対称波形を表現している正規化関数である)に対する実験カーブの近似式についての知識が必要となる。
【0144】
例えば、図37及び38の表に収集されたデータに基づいた図36A、36B、37、及び38の8つのケトン類の各々に対し9つのデータ・ポイントが識別された。これらを使って、αカーブへの区分的な線形近似を使うなどして、その種に対するαカーブを計算することができる。例えば、ブタノンに対する2つのデータポイントとして、a(Vcomp−a)及びb(Vcomp−b)がある。これらの2点の間で、ブタノン・カーブの勾配及び符号を計算することができる。また、多項式カーブ当てはめのような、さらに完備したカーブの特性判断も可能である。
【0145】
こうして、このデータセットは、2つのデータポイントが収集され対応するカーブが計算された未知の検知イオン種に対する、種の識別に使用するための保存データの一部となる。簡潔にいえば、本発明の例示的実践において、所与のイオン・サンプルについて密接に関連する少なくとも2つのポイント(ピーク)に対するデータを収集し、それによりカーブ・データを生成する。検知され計算されたデータを得たならば、それがアルファ・カーブを近似していると予測し、保存されたデータと照合する。適合するものを見つけたならば、そこで確実にサンプルを識別することができる。
【0146】
図39A及び39Bにおいて(それぞれモノマー及びクラスター)、私たちは、図37及び38の表に収集したデータに基づいて、主調イオン(アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン)に対する固有のαカーブを計算し、これら多様な収集データについて、αのパーセント変化を電界強度簿変化と対比してプロットした。これらの電界強度と対比したαのパーセント変化プロットは、これらイオンの各々に対する独特のシグネチャを表している。これは、後での対比のため私たちのデータ保管庫にロードされる。シグネチャ・データは、RF電界強度及びピークが検知された補償電圧を含む。また、私たちは、これを、各々の種が検知されたピーク位置及び電界条件に関連のある既知のα関数に対する識別用データに関連付けする。
【0147】
このように、図39A及び39Bは、電界0から80Td(〜23kV/cm)の範囲にわたり、電界の関数としてアルファのパーセント変化を示した、個別のケトンに対するα関数を表している。これらのプロットは、ドリフトチューブに左右されない、これらのイオン種の基本的シグネチャ特質であって、他の携帯型分光計でも用いることができる。このように、本発明の実践においてα関数をうまく使って、装置に左右されない携帯用の識別データセットを提供することができる。
【0148】
これらの結果は、驚くべきものであり、同一の官能基を持つ化学材料について、単一タイプのプロトン化モノマーが、移動度係数の電界への依存性に関して広範囲のふるまいを示すことを実証するものである。共通な「部分」についてのこのふるまいの違いは、電界の影響が分子構造の他の側面に関連しているに違いないことを示唆している。一つの考えられる解釈は、イオンが高電界において熱せられ、プロトン化モノマーへの影響が著しいに違いないことである。(H3O)+M(H2O)n又はおそらく(H3O)+M(H2O)n(N2)2の構造を持つこれらイオンは、高電界に起因するわずかなイオン温度上昇によって解離する傾向があるはずである。しかして、高電界においては、イオン断面及び移動度はクラスタ分離した小さなイオンを伴うことになろう。
【0149】
再度、図39Aを参照すると、高電界におけるアセトンのプロトン化モノマーに対するα(E)は、ほぼ20%増加していることに注目すべきである。分子重量が増加するほど、加熱のα(E)関数への影響及び反映は小さくなる。プロトン結合二量体(クラスター)に対するα(E)関数は、高電界条件下の移動度低下と一致している。結果として、それらのα(E)関数は、プロトン化モノマーのものとは違っている。実際に、デカノンのプロトン結合二量体は、高電界において約5%の移動度低下を示している。高電界における移動度の減少の原因に関する既存のモデルはないが、イオンと支持ガスとの間の衝突サイズの増大又は反応の強さの増大に起因していると考えられる。
【0150】
さらに、図4のシクロヘキサン及びDMMPについて同様なことを行ったとすれば、それに従って計算されたアルファ・カーブは異なったものとなろう。かくのごとく、本発明は、対象となる各検知種に関連する少なくとも第二の検知データセットを有する限りにおいて、たとえイオン種の移動度カーブがオーバーラップしていても、それらを判別することができる。従って、本発明は、識別の精度に対して高水準の保証を実現する。
【0151】
しかして、私たちは、非対称電界イオン移動度分光分析から、高電界におけるイオン移動度の基本依存性を得られることを示した。依存性の関数は、不完全な波形を処理する既存の方法を使って実験から導き出すことができる。これらの発見は、ケトンの同属列の内部整合性を示し、また、今までに報告されていない質量依存性を示している。
【0152】
次に、図40A−40Fに注意を向けると、本発明の実施形態のいくつかにおいて、種の識別を行うために実行できる具体的なステップのシーケンスが記載されている。これらのステップは、例示目的のものであり限定はされない。この例示において、ステップのシーケンスを、図5のイオン移動度分光分析計装置10のマイクロプロセッサ46に実行させることができる。マイクロプロセッサ46は、RF分散電圧(Vrf)発生器42及び補償電圧(Vcomp)発生器44にデジタル制御信号を送信して、フィルタ24に対する動作電圧を制御する。また、電圧発生器42及び44に、例えば、図5には具体的に示していないが、デジタル−アナログ・コンバータを含めることができる。
【0153】
マイクロプロセッサ46は、検知器26からの、アナログデジタル・コンバータを通して読み取った反応を観測する機能をも取り入れながら、特定のRV分散電圧Vrf及び補償電圧Vcompの印加を調整する。マイクロプロセッサ46は、こうして、ある範囲のVrf電圧を通して観測された特定のイオン種の存在度特性(ピークのような)を検知することによって、特定の化合物を識別するステップを実施することができる。これらステップには、例えば、特定の「反応カーブ」データを、メモリ47に保存された反応カーブ・データと対比又は関連付けるステップを含めることができる。また、これらに、αカーブ・パラメータの計算を含めることができる。対比作業の結果を、ディスプレイ又はパソコン又は同様装置のような適切なアウトプット装置のフォームで提供することができ、あるいは、インタフェースを通して電気信号により他のデータ処理装置に送信することができる。
【0154】
図40Aにさらに具体的に示すように、化合物を分析することになる「ステート」1000をマイクロプロセッサ46に入力する。ここでは、ユーザが、コンピュータに識別のためのテキスト文字列を入力するなどして、化合物は判明し、識別されている。そこで、既知の化学材料化合物に関するデータを取得するためのステップのシーケンスが実行される。このステート1000から、プロセッサ46が分散電圧Vrf及び補償電圧Vcompの範囲を決定する、次のステート1002が入力される。これらの範囲には、各々の範囲において印加する開始電圧(b)及び終了電圧(s)及び段差電圧(s)が含まれており、そこで、Vrfは、初期値Vrf(b)から最終値Vrf(e)まで、段差量Vrf(s)で変化する。同様に、Vcompは、Vcomp(b)から、最終値Vcomp(e)まで段差量Vcomp(s)で変化することになる。
【0155】
そこで、電圧範囲は次のステップで印加される。具体的には、Vrfをある範囲の値を通して段階的に印加するステート1004が入力される。次に、補償電圧Vcompを同様に一連の値又は範囲を通して掃引又は段階的に印加するステート1008が入力される。ステート1010において、各印加電圧に対する反応を値(a)として保存する。
【0156】
最後の補償電圧がまだ試験されていない場合には、処理は、ステート1008に戻り次の補償電圧が印加される。しかしながら、ステート1012において、補償電圧がすべて印加されていた場合には、そこで処理はステート1014に進み、分散電圧の印加がすべて完了しているどうかを見るための検定が行われる。
【0157】
このループはすべての補償及び分散電圧が印加されるまで継続する。そこで得られたデータ・セットは、対象の特質を識別するためステップ1018において分析される。説明した具体例では、対象となるのはピーク位置である。所定の印加分散電圧Vrfに対して観測された反応中のこのようなピーク各々について、個別のVcompに対する反応値が測定され、それに相当する振幅(a)が検知され、保存される。
【0158】
そこで、反応カーブ・データ、又は、ピーク位置のようなそのデータの特定の属性が、図40Bに示すようなデータ・オブジェクトP(又は表)として保存される。このようなオブジェクトは、例として、テキスト文字列のような被試験化合物の識別を包含する。また、印加分散電圧Vrfのセットも格納される。このような各々の分散電圧Vrfに対応する補償電圧が格納される。具体的には、少なくとも、ピークが観測された補償電圧Vcomp、及び望ましくは、そのピークで観測された対応反応振幅(存在度)が保存される。
【0159】
前に詳細を説明したように、与えられたVrfに対し、いくつかの「ピーク」が観測される一連の補償電圧が存在することがある。例えば、図14Aに関連して説明したように、分析されたサンプルが、モノマー、クラスター・イオン、及び反応物イオンピークを含む特定イオンの化合物で構成されていることがある。しかして、例示として、オブジェクトPの構造においては、どれか特定の移動度スキャン中には複数のピークがあるだろうこと、及び、反応カーブごとのピークの数はいつも同じ数ではないだろうことを予想した準備がされている。
【0160】
図40Bの例示的オブジェクトPの例は、データ・エレメントを含み、単一のRF分散電圧Vrf−1に対し補償電圧Vc11,…,Vcmnにおいてピークを観測することができ、それらは対応する振幅a11,…,amnを持つ。これを、図14Aの最低の印加分散電圧のケースに対応させることができ、ここでは、数多くのピーク601−、605−1、608−1が検知されている。しかしながら、別の分散電圧Vrf−mでは、Vcomp−mにおいて単一のピークだけが検知された。これは、図6Aの最上段のカーブの単一ピーク601−mが検知されたようなケースに該当するとも考えられる。
【0161】
例示的な応用において、対象となる複数の既知化合物に対し図40Aのステップを実行することによって、オブジェクトP(参照ベクトル)のライブラリを作成する。これによって、図40Cに示すように、ようやく測定機器は化学物質認知のためのステート1200を入力することができるようになる。次に、ステート1202−1214において一連の測定値が採取される。この一連の測定値は図40Aで採取されたものと同様である。具体的には、定められた補償及びRF電圧に対して一連の測定値が採取される。このモードでは、化学物質データ取得モードにおいて採取したような、同一測定すべての完全一式を採取する必要はないことを理解すべきである。具体的には、比較的密度の高いカーブ上のすべてのポイントを採取する必要はなく、各化合物を識別するのに十分な程度でよい。
【0162】
測定値が採取されたならば、反応ピークのような特質が識別されるステート1220が入力され、各ピークについて対応補償電圧及び振幅を識別することができ、これらは候補測定値ベクトルP’に保存される。しかして、候補ベクトルP’は、いくつかの候補化合物に対比検定する必要のある一連おデータを表す。そこで、候補ベクトルP’は、ステート1230及び/又は1240において、参照ベクトルPのライブラリ中の対応する類似データを探し、PとP’との整合性を採点することによって分析される。これらのステップを、ステート1250において整合又は最善の整合が判定されるまで繰り返すことができる。
【0163】
PとP’との整合性の程度を判定するための技法をいくつでも使うことができることを理解すべきである。例えば、P及びP’のエレメント(Vcomp、a)がユークリッド幾何空間中のデータ・ポイントであると見なせる場合には、距離を計算することができる。そこで、最小のユークリッド距離との対比を、最善の整合として選定することができる。しかしながら、他の認知技法を用いて未知化合物の同一性を判定することができ、例えば、相関のようなさらに高度な信号処理技法を用いて、ピークを解明したり、他の知られたパターン認識アルゴリズム、ニューラル・ネットワーク、又は人工知能技法を用いてP’に対する最善の整合を見出すことができる。そこで、ステート1260において、ユーザに対し、化合物識別フィールドを参照し、表示することによって、最善の整合を識別する。
【0164】
図40Dは、データ取得フェーズ及び化学物質認知フェーズに追加して、二次のデータ処理の特徴をうまく利用することができる一連のステップを示す。例えば、データ取得のステートの中に、一連のステート1020、1022、1024及び1026を追加して、測定された反応の特定の属性に「カーブ当てはめ」をすることができる。具体的には、オブジェクトPベクトルの各エレメントにおいてzはピークの補償電圧vc11、vc12、…vc1mで構成される、ステート1020を入力することができる。
【0165】
このベクトルは、ある範囲の補償電圧に対して観測されたピークのポイント位置のベクトルである。図14Aに注意を戻して、簡潔にいえば、これを、例えば、対象モノマー・イオンのピークの高さ及び位置に応じた601−1、…601−m、…601−nの配置と対応させることができる。そこで、ステート1024において、カーブ当てはめアルゴリズムを使うなどして、これらのピークを通るカーブを当てはめることができる。図の例において、二次方程式、y2=βx2+γ形状のピークが当てはまることを想定している。そこで、ステート1026において、β及びγ係数をベクトルに関連させて保存することができる。こうして、化学物質を、そのピーク位置へカーブ当てはめ、移動度(α係数)反応を近似することによって識別する。
【0166】
これがなされた場合、対応するステップ1270、1272及び1274のセットを認知プロセスに追加して、ステート1270及び1272において生データを対比するのでなく、観測されたデータにカーブ当てはめを実施し、そこでγ及びβ係数を算定することによりピークを識別することができる。ステート1274において、β及びγ係数が検定され、Pオブジェクト・ライブラリ中の最も近い適合対象が判定される。
【0167】
図40Fは、取得フェーズにおいてピークを識別又は判別するため使うことのできる一連のステップを示す。ここでは、ピークをクラスター・ピーク又はモノマー・ピークとして識別することにより、初期データをオブジェクトPに追加することができる。具体的には、ある範囲の電界条件電圧(例、図14A)にわたって、ピーク・シフトが上昇している(すなわち、右側へのシフト)場合、これを、クラスター・ピークとして識別することができる。ピークが特定のシフト基準に当てはまらない場合、それをモノマー・ピークとして識別することができる。このように、ステート1310、1331、及び1332を識別プロセスに追加することができる。これらのステップの結果、オブジェクP中の各データ・ポイントに関連する追加パラメータLが加わり、図40Eに示すように、各ピークは、モノマー・クラスター又は他のピーク・タイプとしてさらに識別される。
【0168】
これに対して他のアプローチを使ってピークを標識することができる。例えば、サンプルSを負荷しない装置での反応の分析を行うことによっても、反応物イオンピーク(RIP)を識別することができる。このモードでは、RIPだけが生じ、ある範囲の補償電圧にわたってそれらのふるまいを保存することができる。特定の型のピークに関する情報を、そのようなピークが検知されたステート1320において、ポインタ・データの中に保存することができる。そこで、この情報を、図40Eに具体的に示すように、オブジェクトPに加えることができる。
【0169】
図40Gは、さらなる処理ステップを示しており、これらを化合物認知ステートにおいて実行し、モノマー及びクラスター・イオンの反応が観測される図36A−38の状況でうまく利用することができる。具体的には、図40Gのステップを、さらなるステップ1280として認知フェーズに追加することができる。ここで、あらゆる候補ピークP’に対して、参照群P中の対応モノマー・ピークが対比される。次にステート1284において、スコアscは、最も近い整合対象に関連付けられる。同様に、ステート1286において、クラスター・ピークをピーク・ライブラリP中の対応ピークと対比することができる。そこで、ステップ1288において、最も近いこの整合度に従って、スコアscが決定される。ステート1290において、評点ファクターwm、wcを評点することによって、最終スコアsfをモノマー・ピークスコア及びクラスター・ピーク・スコアの評点に関連付けることができる。例えば、クラスター・ピークがモノマー・ピークよりも多くの情報を提供することが予期される場合において、クラスター・ピークを高く評点し、モノマーピークを相対的に低く、あるいはゼロとして評点することができる。この評点方法を使って、モノマー及びクラスター双方のピーク識別を組み合わせてさらに化合物分析を洗練することができる。
【0170】
さまざまなな応用において、前記のイオン・ベースのサンプル分析アプローチを、携帯型のような比較的コンパクトな分析装置システムに用いることができる。図41は、そういったコンパクトDMS分析装置システム1400の概念図である。本DMSシステムを使って、本発明の例示的実施形態によって、例えば、化学兵器(CWA)、及び有毒産業化合物(TIC)、有毒産業材料(TIM)のような化合物を分析することができる。コンパクトDMS分析装置システム1400を大気より低い気圧、例えば0.5atmで作動することによって、前記のようにシステム、1400は、その消費電力とサイズとを低減させながら、既存の最新技術のシステムのおおよそ2倍の分解能を持つ。サンプル解離を行うことによって、前記のようにサンプル分析をさらに向上させることができる。これも前記したように、3次元カラー散布プロットを活用することによってCWA、TIC、及びTIMの分析をさらに向上させることができる。
【0171】
DMS分析装置システム1400に、電気機械ポンプ、圧縮ガス又は空気、又はソリッドステート・フロー発生器1402を用いることができ、システム1400は、イオン源1404、イオン誘引素子1406、及びシステム1400内のサンプル・フロー及び/又は圧力を制御するための強制フロー・チャンネル1408を含む。イオン源1404は、イオンの源泉を提供し、イオン誘引素子1406は、印加されたバイアス電圧に従って正もしくは負イオンを誘引する。イオン源1404とイオン誘引素子1406との相互作用によって発生したイオン・フローの結果、強制チャンネル1408中に生成されたイオン・フローは、流体(例、サンプル流体)フローを生成する。一部の例示的実施形態において、DMS分析装置システム1400を小型化し、イオン分析部ユニット1410を、サブストレート1412に内蔵されたアプリケーション特有集積回路(ASIC)の中に含めることができる。本発明が採用する型のソリッドステート・フロー発生器の更なる詳細は、同時係属及び共同所有の、2004年9月17日出願の米国特許出願第10/943,523号に記載されており、この出願の全体内容を参考として本明細書に組み込む。
【0172】
強制フローチャンネル1408は、取入れ口1414及び終端出口1416を含む。また強制チャンネル1408は、サンプル導入口1418を含み、イオン分析部1410がサンプルを収集して分析できるようにする。前(まえ)濃縮素子1420をサンプル導入口1418に用いて、サンプルを濃縮し分析精度を向上させることができる。イオン化装置1422は、例えば、放射性Ni63ホイル、又は非放射性プラズマイオン化装置、又はイオン化域1424内の他の適切なイオン化源を使ってサンプルのイオン化を提供する。プラズマイオン化装置は、イオン化のためサンプルに与えられるエネルギーを正確に制御できるようにする利点を持つ。理想的には、イオン化装置1422は、酸化窒素類(NOx類)及びオゾンを生成することなく、サンプルをイオン化するのに十分なだけのエネルギーを与える。また、システム1400に解離域を含めることができる。NOx類及びオゾンは、CWA物質のイオン化と干渉するイオン種を形成することがあるので望ましくない。拡散及び移動度定数は一般に圧力及び温度に依存するので、DMS分析装置システム1400に温度センサ1426及び/又は圧力センサ428を含めて、さらに精度のよい分析を行うため、イオン分析部ユニット1410内のサンプルガスの温度及び/又は圧力を調整することができる。また、イオン分析部1410に湿度センサを含めることができる。また、イオン分析部1410は、フィルタ・プレート1442及び検知器プレート1444を具える分析域1440を含む。分子ふるい1446を用いて使用済み検体を捕捉することができる。
【0173】
コントローラ1446は、フィルタ及び検知に対する制御を提供し、また、検知結果のアウトプットをも提供する。電源1448は、フィルタ・プレート1442、ソリッドステート・フロー発生器1402、及び他の電力を必要とする一切の部品に電力を提供する。Vcomp、Vrf、イオン・ヒーター排気、DMSイオン運動、及び前濃縮素子1420ヒーターに対するコントローラ電子回路1446をイオン分析部1410とともに配置することができる。また、検知器1444電子回路、圧力1426及び温度1428センサ、及びデジタル・プロセッサのための処理アルゴリズムをイオン分析部1410内に配置することができる。
【0174】
大気圧の下では、移動度の非線形性の利点を実現するために、DMS分析装置システム1400は、例として、約200×10−6μmのギャップにおいて、約106V/mのRF電界、及び約200VピークのVrfを用いる。但し、任意の適切なRF電界パラメータを用いることができる。電源1448を、イオン分析部ユニット1410から離して配置し、フィルタ・プレート1442に対するRF電圧を発生させることができる。大気よりも低い気圧においては前記のようにRF電界を低減して、電力消費及びDMS分析装置システム1400のサイズを低減することができる。
【0175】
また、DMS分析装置システム1400を、パソコン(PC)又はコントローラ1446とインタフェース連結し、信号処理アルゴリズムを活用して、イオン分析部1410の出力を検体の検知、識別、及び/又は測定及び濃度レベルに変換することができる。また、コントローラ1446又は連結されたPCにより、DMS分析装置システム1400に対する制御及びパワー管理を促進することができる。DMS分析装置システム1400に対する支持電子装置を、例えばASIC、デスクリート印刷回路基板(PCB)、又はシステムオンチップ(SOC)に実装することができる。
【0176】
作動において、ソリッドステート・フロー発生器又は電気化学移送ポンプ1402は、導入口1414からサンプルをDMS分析装置システム1400内に引き入れ、内蔵ヒーターを具えたCWA選択性化学膜濃縮素子1420を通過させる。また、CWA選択性化学膜前濃縮素子1420を、分析装置システム1400の分析域1440とサンプル取入れ域1450との間の疎水性バリアとして機能させることもできる。前濃縮素子1420の隔膜は、例として、CWA物質を通過させるが、他の干渉物質の伝送を低減させ、湿気に対するバリアとして機能する。
【0177】
前濃縮素子1420に、選択性隔膜ポリマーを用いて、よくある干渉物質(例、燃えた厚紙)を抑制又は阻止する一方でCWA物質又はCWA擬似物質は、隔膜を通過させることができる。多種の選択性隔膜材料が利用可能であるが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、水蒸気を排除しCWA検体を収集するための好適な隔膜/濃縮素子/フィルタとなり得る。高濃縮レベルにおいては、水蒸気分子が、検体に集まり、検体の移動度を変化させることがある。疎水性のPDMSのような隔膜材料は、水蒸気を許容可能レベルまで低減する一方、検体原子を吸収し放出する性質がある。また、濃縮された検体をイオン化域1424及び分析域1440に送るため、前濃縮素子1420の薄膜を定期的に加熱することができる。
【0178】
隔膜/フィルタ/濃縮素子1420を通る検体の拡散を除き、通常、分析域1440は外気に対し密閉されている。そこで、内部の分析域1440の圧力と分析装置システム1400外部の大気圧とを等しくするか、又は分析域1440の圧力を大気圧より低く維持するためのエレメントを、分析装置システム1400に用いて、イオン・ピーク分解能を向上させることができる。サンプルガスがイオン化されたならば、イオンは、キャリヤガスによって移送されるのではなく、静的又は進行静電界によって、縦方向矢印1452で示された方向に駆動される。フィルタ・プレート1442は、横断する無線周波数(RF)電界電圧及びdc励振補償電界を、分析域1440を通って移動するイオンに印加し、サンプル中の種を分離する。
【0179】
水蒸気が除去されると、干渉物質(例、炭化水素、その他)は、通常、重量比でおおよそ流入エア量の0.10%を構成する。前濃縮素子1420の収集効率にもよるが、分子ふるい1446を、飽和するまでに、約6、9、12又はそれ以上の月数のほぼ連続又は連続作動に対応するサイズとすることができる。また、分子ふるい1446を、エアがイオン・フィルタ電極1442とイオン化域1424とを行き来し、循環するようなやり方で移動するように構成することができる。
【0180】
DMS分析装置システム1400を使って、以下に限らないが、神経ガス又は糜爛性ガスのようなCWAの低濃度(例、1兆分の1(ppt))を検知することができる。一つの例示的実施形態において、DMS分析装置システム1400は、MEMS技術の上に構築された高感度、低電力のサンプルガス分析装置1404を含むが、DMS分析装置システム1400をさらに小型化し、1兆分の1感度、約0.25の合計電力消費(すなわち、4秒ごとに1ジュールの測定)及び約2cm3以下のサイズを実現する。
【0181】
小容量の分析域1440、及びこれによる低流速要求条件のため、イオン変位を用いた低電力の(例、mW)ソリッドステート・ガス移送ポンプ1402を用いて、エアサンプルをDMS分析装置システム1400中に、CWA選択性化学膜前濃縮素子1420上へと引き入れることができる。本発明によるコンパクト型DMS分析装置システムは、CWA擬似物質に対して非常に高い感度を示している。例として、本発明によるコンパクト型DMS分析装置システムは、1兆分の1(ppt)レベルでのメチルサリチル酸塩の検知を示した。DMS分析装置システム1400は、現行の現場配置の検知技術では分離できない干渉物質をCWA擬似物質から分離する能力を有する。
【0182】
図42は、DMS分析装置システム1400によって測定した、水性消化剤の泡(AFFF)からのジメチルメチルホスホン酸塩(DMMP)の分離を示すDMSスペクトルを図示したグラフである。AFFFは、従来型のIMSシステムにとって、CWA又は他の擬似物質から分離するのが非常に困難なことが判明している干渉物質の一つである。DMS又はIMSシステムでのサンプル検知において、AFFFのイオン強度ピークは、前記物質とオーバーラップする性向がある。
【0183】
図42は、一連のCWA擬似物質を選択的にAFFFの1%ヘッドスペースに混ぜたものに対する実験結果を示した複数プロットのグラフである。図42の最上段のプロット1460は、センサが大気圧における、バックグラウンド・エアはあるがサンプルが負荷されていないDMS分析装置システム1400に対するRIPを示す。次の1462では、AFFFが加えられている。これによってRIPイオン強度ピークの左側(さらに負の補償電圧)へのわずかなシフトが生じただけである。次に、プロット1464においては、CWA、DMMPの擬似物質がスペクトルに取り入れられ、対応するRIPピークイオン強度が低下するとともに、典型的モノマー及び二量体のピークが現れている。プロット1468における1%AFFFの場合、DMMPピークは影響を受けず、RIPのわずかな左側へのシフトだけが観測される。プロット1468及び1470において、DMMPに対し同じ実験が繰り返され、AFFFの影響はごくわずかなものであった。プロット1472において、MSが導入されており、負イオンピークのモニターによって、AEEEによる干渉の欠如を示す同様なデータが得られている。結論として1%AFFFはまったく影響していない。このように、図42は、DMS分析装置システム1400の、CWA擬似物質を干渉物質から分離する能力を例証している。
【0184】
一つの例示的実施形態において、以下の設計特質を組み合わせることによって、コンパクトな携帯型DMS分析装置システム1400を実現する:(a)より向上した感度でサイズの低減されたイオン分析部/フィルタ/検知器1410を使用する;(b)ガス移送ポンプ1402として、ソリッドステート・フロー発生器又は電気機械ポンプを使用して検体をサンプル抽出し移動させる;(c)内蔵ヒーターを持つ(一部の構成においては、ソリッドステート・フロー発生器又は電気機械ポンプを使って、他のシステム構成要素から前濃縮素子1420に熱を搬送することにより供給される)CWA選択性化学膜全濃縮素子1420を使って、水蒸気を除去し濃縮する;及び/又は(d)電界の推進力を使ってイオン1454をイオン分析部1410の分析域1440を通す。
【0185】
さまざまな例示的実施形態によって、本発明は書の識別の分解能を、従来型のシステムを超えて向上しながら、サイズ及び電力を低減し、1兆分の1の感度、約0.25mWを下回る合計ワット損、及び、電源又はディスプレイを除きRF電界発生器を含め約2cm3以下のサイズを実現する。一部の実施形態によれば、本発明の分析装置システムは、約15W、約10W、約5W、約2.5W、約1W、約500mW、約100mW、約50mW、約10mW、約5mW、約2.5mW、約1mW、及び/又は約.5mWより小さい合計ワット損を有する。さらなる実施形態によれば、RF電界発生器とともに、オプションとして、ディスプレイ(例、表示ランプ及び/又は英数字ディスプレイ)及び電源(例、充電式バッテリ)収納部を含めた、本発明による分析装置システムの全体パッケージの外部寸法を、パッケージを、例えば耐衝撃性プラスチック、炭素繊維、又は金属として、約.016m3、約.0125m3、約.01m3、約.0056m3、約.005m3、約.002m3、約.00175m3、約.0015m3、約.0125m3、約.001m3、約750cm3、約625cm3、約500cm3、約250cm3、約100cm3、約50cm3、約25cm3、約10cm3、約5cm3、約2.5cm3より小さくすることができる。さらなる実施形態によれば、例えば、RF発生器を含み、オプションとしてディスプレイ、キーパッド、及び電源収納部を含んだ、本発明による分析装置システムの合計パッケージ重量を約5ポンド、3ポンド、1.75ポンド、1ポンド、又は.5ポンドとすることができる。
【0186】
表1に、分析ユニットに対して利用可能な、DMS分析装置システム1400の流速(Q)ごとのいろいろな例示的実施形態における、ドリフトチューブ(例、強制チャンネル)の寸法、キャリヤガス基本流速、及びイオン流速の対比を示す。設計1−4は、約0.03l/mから約3.0l/mの範囲の異なった桁の流速を提示している。表1は、DMS分析装置システム1400を通る流速が減少するにつれ、フィルタ・プレート寸法及び電力必要量が低減していることを明らかにしている。表1は、サンプルガス、又は縦方向電界誘導のイオン運動のいずれかを使用しているDMS分析装置システム1400に適用できる。不要な検体を除去する時間は、望ましくは、ほぼキャリヤがフィルタ域を流れ通る時間より小さい(t比)。また、所定の標的物質について、イオンがイオン分析部1410を流れ通る際の側方拡散は、望ましくは、プレート間隔のほぼ半分よりは小さい(dif比)。この基準に基づいて、プレート寸法を約3×1mm2以下にすることができ、理想的フロー電力を、約0.1mWより小さくすることができる。このように、設計4においてさえも、検知器にぶつかる検体イオンの数は、十分に百万分の1検知の要求条件を満たす。
【0187】
【表1】
(表1.例示的DMS分析装置システムの設計仕様及び特性)
サンプル/キャリヤ・ガスに対し、望ましいフロー特性において約0.5%より高い効率で作動する電気機械ポンプ見当たらない。0.5%の効率において、約0.05mWの理想フロー損失により、実際の電力消費約10mWの結果となり、前記で説明した本発明の例示的実施形態によるよりも100倍も大きい。
【0188】
DMSシステム1400は、正及び負双方のイオン強度ピークを同時に検知することができ、さらに検知選択度を向上させる。正及び負のイオンチャンネル情報と、印加電界強度又は電圧の関数としてのスペクトル・ピークのシフトと、これら情報の3次元手法による表示との組み合わせは、化学物質識別に対する新奇なメカニズムを提供する。
【0189】
図43は、前に説明した本発明の例示的実施形態によって、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対する物質GAの正イオンの検知を、異なる強度を異なるカラーで表した3次元散布プロット1750である。プロット1750は、例えばDMSシステム1400によった、3次元散布プロットを用いた化合物のより向上した識別(選択度)を図示している。これに対し、図25は、例えばDMSシステム1400による、GAの負イオンのある範囲にわたるRF電圧と補償電圧との対比を、異なる強度を異なるカラーで表した3次元散布プロットであり、3次元散布プロットを用いて化合物のより向上した識別(分離度)を図示している。双方の測定とも、0.14ng/lのGA濃度、Ni63源、50%RH,3回スキャンの平均、及び350cc/分のキャリヤガス流量の条件を用いて実施された。図25の3次元プロット814と図50の1750との差異は、正及び負双方のイオンモード検知を実施することにより、イオン種のより向上したシグネチャ識別が得られることを例証している。
【0190】
特定の例示的実施形態において、図41及び他のいろいろな図のコンパクト型DMSシステム1400は、さらなる詳細が米国特許6,495,823及び6,512,224に記載されている機能を採用し、又はシステムに組み込むことができ、これら特許を参考として本明細書に組み込む。
【0191】
図44−53は、本発明の例示的実施形態によって、本明細書に図示し記載した構成要素、再循環システム及び他の構成要素といった、移動度検知分析装置システムのさまざまな構成を使った化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。さらに具体的には、図44は、本発明の例示的実施形態によった、CWA及び/又は生物剤検知システム1476の概念的ブロック図である。システム1476は、移動度検知システム1478、分子ふるい1480、オプションとして排気口1484を具えたポンプ1482、オプションの第二分子ふるい1486、循環チャンネル1488、サンプル取入れ口1490、排出口1492、隔膜1494、及びオリフィス1496を用いている。また、システム1476に、フィルタされたエア又はガス1498を用いて、システム1476を通してサンプルを循環又は移送することができる。イオン分析部システム1478を、図48のコンパクト型DMS分析装置システム1400、図5のDMSシステム10、IMS、TOF−IMS、GC−IMS、MS又は類似システムとすることができる。システム1476は、前に説明した例示的システムと同様に、一つ以上のドーパントを用いて分析を向上することができる。
【0192】
作動において、システム1476は、取入れ口1490からサンプルSを受け入れ、隔膜1494を通して循環チャンネル1498に送る。必要な場合、隔膜1494に、図48の前濃縮素子1420と同じ又は類似の方法で、望ましくない干渉物質をフィルタすることができる。オリフィス1496は、固定された、制御された、又は調整可能なやり方で、分析システム1478中へのガス及び/又はサンプル流入を調節し、イオン分析部システム1478内の圧力を調節又は制御する。こうして、イオン分析部システム1478を、大気圧、大気より低い圧力、又は大気より高い圧力の下で作動させることができる。ポンプ1482は、独立的に、又はオリフィス1496と協調して、イオン分析部1478中のフロー及び圧力制御を維持する。このように、一例において、ポンプ1482は、サンプル・フローをオリフィス1496を通してイオン分析部システム1478中に吸引し、選定イオン主の検知及び識別ができるようにする。Vrf及びVcomp、パラメータといった、電界/フロー・チャンネル条件を調整し、一部の構成においては、ポンプ1484及び/又はオリフィス1496を制御してシステム1400内の圧力を制御することによって整調的に特定のイオン種を検知するDMSシステム1400を、イオン分析部システム1478とすることができる。
【0193】
検知及び識別が実施されたならば、分子ふるい1480は、使用済み検体をイオン分析部システム1478から捕捉することができる。この場合も同様に、ポンプ1484は、電気機械型であれソリッドステート型であれ、オプションとして第二分子ふるい1486を通し、循環チャンネル1488を通してガスを推進する。そこで、サンプルガスは、隔膜1494及び排出口1492を通って放出されるか、あるいは、さらなるサンプルSと混合され、オリフィス1496の中に戻され再循環される。
【0194】
図45は、本発明の例示的実施形態によった、低圧分析用に構成されたCWA及び/又は生物剤検知システム1500の概念的ブロック図である。システム1500は、隔膜の代わりに追加のサンプル・フロー・チャンネル1502が用いられていることを除けば、システム1476と同様である。システム1500には、サンプルS取入れ口1504、オリフィス1506、イオン化域1508、デフレクタ・プレート1510、誘引プレート1512、チャンネル1502のポンプ1514、第二チャンネル1516、イオン分析部システム1518、分子ふるい1520、ポンプ1522、及びオプションとして第二分子ふるい1524が含まれる。
【0195】
作動において、システム1500は、サンプル取入れ口1504を通し、オリフィス1506を通してサンプルSを引き込む。オリフィス1506を制御し、固定し、又は調整可能にして、チャンネル1502中のサンプルガス・フロー及び/又は圧力を調節することができる。ポンプ1514を、オリフィス1506と協調させて使い、チャンネル1502中のガス・フロー及び/又は圧力を調節することができる。デフレクタ・プレート1510は、開口部1526を通してイオンを、チャンネル1516中に推し進め、押入れ、又は選択的に分離することができ、一方誘引プレート1512は、チャンネル1502からチャンネル1516中にイオンを誘引することができる。開口部1526越しの圧力低下を調整して、サンプルイオンだけがチャンネル1516に入り、サンプルの中性種の入り込みを阻止するようにすることができる。サンプルイオンをイオン分析部システム1518に直接導入することもでき、サンプルイオンをイオン分析部システム1518中で、イオンを中性化し次に再イオン化することもできる。イオン分析部システム1518を、DMSシステム、IMSシステム、又は類似のシステムとすることができる。イオン分析部システム1518に、複数のDMS、IMS、又は類似のシステム、又はこのようなシステムの組み合わせを使って、サンプルの検知及び識別を実施することができる。例えば、図21のシステム748又は図22のシステム754を用いて、従来式のDMS検知と解離とを組み合わせてサンプル分析を向上させることができる。
【0196】
そこで、チャンネル1516のポンプ1524は、イオン分析部システム1518から、分子ふるい1520を通してサンプルSを吸引し、次にサンプルSを、オプションとして第二分子ふるい1524を通して押し出すことができる。分子ふるい1520及び1524は、使用済みサンプルSの検体のほとんどを捕捉することになる。残った一切のサンプルSは、新しいサンプルSと混合され、チャンネル1516を経由してイオン分析部システム1518に戻される。排出口1528は、チャンネル1502からサンプルSガスを放出する。
【0197】
図46は、本発明の例示的実施形態によった、円筒型又は同軸型のCWA及び/又は生物剤検知システム1530の概念的ブロック図である。システム1530には、サンプルS取入れ口1532、制限器(constrictor)1534、内部チャンネル1536、開口部1538、クリーン移送ガス取入れ口1540、外部チャンネル1542、イオン分析部システム1544、チャンネル1542の排出口1546、及びチャンネル1536の排出口1548が含まれる。
【0198】
作動において、システム1530は制限器又はオリフィス1534を通してサンプルSをチャンネル1536中に引き込む。制限器1534を調整可能、制御可能に又は固定して、チャンネル1536内の圧力を、1atmより低く、例えば0.5、0.65、又は0.85atmに低減することができる。クリーン移送ガス取入れ口1540は、クリーンな移送ガスをチャンネル1542内に受入れる。チャンネル1542は、1atmより低い圧力で作動することができる。チャンネル1536との圧力差によって、又はチャンネル1542内のイオン誘引素子によって、又はチャンネル1542中へのガスフローによって、又は類似の技法によって、サンプルSを、開口部1538を通してチャンネル1542中に吸引又は誘引することができる。そこで、イオン分析部システム1544はサンプルSのイオン種を検知し識別してから、排出口1546を通してサンプルSを放出する。チャンネル1536中のサンプル中性種を、排出口1548を通して放出することができる。
【0199】
図47は、ポンプ1554と協調してシステム1550内の圧力を制御するオリフィス1552を、システム1550の取入れ口に包含するDMSシステム1550である。また、本システムは、分子ふるい1556、イオン源1558、フィルタ1560、及び検知器1562を含む。作動において、ポンプ1554は、オリフィス1552を通してサンプルを引き込み、そこで、低減された圧力におけるサンプル検知を可能にするのに十分なパワーを有する。
【0200】
図48は、オリフィス1566、イオン源1568、フィルタ1570、検知器1572、分子ふるい1574、ポンプ1576、第二分子ふるい1578、隔膜1580、取入れ口1582、及び、排出口1584と1586とを含むDMSシステム1564である。隔膜1580はオリフィス1566の上流に配置されており、サンプル・フローは1588方向となるので、隔膜1580は大気圧において動作し、一方、イオン源1568、フィルタ1570、及び検知器1572は、オリフィス1566越しの圧力低下により、大気より低圧で動作する。隔膜1580を大気圧で動作させることにより、その耐用寿命を延ばす利点を得ることができる。
【0201】
図49は、オリフィス1592、イオン源1594、フィルタ1596、検知器1598、分子ふるい1600、ポンプ1602、第二分子ふるい1604、隔膜1606、取入れ口1608、及び、排出口1610と1612とを含むDMSシステム1590である。隔膜1606はオリフィス1592の下流に配置されており、サンプル・フローは1614方向となるので、隔膜1606は、オリフィス1592越しの圧力低下により、イオン源1594、フィルタ1596、及び検知器1598とともに大気より低圧で動作する。隔膜1606を大気より低い圧力中で動作させることによる利点を得ることができる。
【0202】
図50は、オリフィス1618、イオン源1620、フィルタ1622、検知器1624、分子ふるい1626、ポンプ1628、第二分子ふるい1630、隔膜1632、取入れ口1634、及び、排出口1636と1638とを含むDMSシステム1616である。隔膜1632及びイオン源1620は、オリフィス1618の上流に配置されており、サンプル・フローは1640方向となるので、隔膜1632及びイオン源1620は大気圧において動作し、一方、オリフィス1592越しの圧力低下により、フィルタ1622及び検知器1624は大気より低圧で動作する。隔膜1632及びイオン源1620を大気圧力で動作させることによる利点を得ることができる。
【0203】
図51は、大気圧で作動する第一チャンネル1644及び第二チャンネル1646を含むDMSシステム1642である。第一チャンネル1644は、イオン源1648、デフレクタ電極1650、ポンプ1652、取入れ口1666、及び排出口1668を含む。第二チャンネル1646は、フィルタ1645、検知器1656、分子ふるい1658、ポンプ1660、及び分子ふるい1662を含む。開口部1664は、チャンネル1644と1646との間の流体の流通を提供する。
【0204】
作動において、システム1642は、取入れ口1666からサンプルSをチャンネル1644中に受け入れる。イオン化源1648はサンプルSをイオン化する。サンプルSのイオン化された部分、例えば正イオンは、正電荷を持つデフレクタ1650によって、開口部1664を通ってチャンネル1646の中へと屈折される。デフレクタ1650が負に帯電している場合は、デフレクタ1650は、サンプルSの負イオンを、開口部1664を通してチャンネル1646の中へと屈折させることができる。サンプルSの中性種及び屈折されなかったイオンは、そこでポンプ1652によって排出口1668に吸引されて、システム1642の外に放出され、一方、チャンネル1646中のイオンは、フィルタ1654によってフィルタされ、検知器1656によって検知される。ポンプ1660は、チャンネル1646内に1670方向の循環フローを生成し、使用済み検体を回収する分子ふるい1658を通してサンプルSを引き寄せ、次に第二分子ふるい1662を通す。
【0205】
図52は、隔膜なしで、大気より低い気圧で作動する第一チャンネル1674及び第二チャンネル1676を含むDMSシステム1672である。第一チャンネル1674は、イオン源1678、デフレクタ電極1680、ポンプ1682、取入れ口1684、排出口1686、及びオリフィス1700を含む。第二チャンネル1676は、フィルタ1688、検知器1690、分子ふるい1692、ポンプ1694、及び分子ふるい1696、及びオリフィス1702を含む。開口部1698は、チャンネル1674と1676との間の流体の流通を提供する。
【0206】
作動において、システム1672は、取入れ口1684からサンプルSをオリフィス1700を通してチャンネル1674中に受け入れる。オリフィス1700はポンプ1682によって生成されたガス及び/又はエア・フローによって生じるチャンネル1674内の圧力降下を提供する。イオン源1678はサンプルSをイオン化する。サンプルSのイオン化された部分、例えば正イオンは、正電荷を持つデフレクタ1680によって、開口部1698を通ってチャンネル1676の中へと屈折される。デフレクタ1680が負に帯電している場合は、デフレクタ1680は、サンプルSの負イオンを、開口部1698を通してチャンネル1676の中へと屈折させることができる。サンプルSの中性種及び屈折されなかったイオンは、そこでポンプ1682によって排出口1686に吸引されて、システム1672の外に放出され、一方、チャンネル1676中のイオンは、フィルタ1688によってフィルタされ、検知器1690によって検知される。ポンプ1694は、チャンネル1676内に1704方向の循環フローを生成し、使用済み検体を回収する分子ふるい1692を通してサンプルSを引き寄せ、次に第二分子ふるい1696を通す。
【0207】
図53は、第一チャンネル1708、第二チャンネル1710、及び第二チャンネル1710内の第三チャンネル1712を含み、第三チャンネル1712は隔膜1714を用いて大気圧又はそれ以下で動作することのできるDMSシステム1706である。第一チャンネル1708は、取入れ口1716及び排出口1718を含む。第二チャンネル1710は、イオン化源1718、オプションのイオン化源1720、デフレクタ電極1722、フィルタ1724、及び検知器1726を含む。第三チャンネル1712は、誘引電極1728、フィルタ1730、及び検知器1732を含む。結合循環チャンネル1734は、化学フィルタ1736、ポンプ1738、及びオプションの化学フィルタ1740を含む。開口部1742は、チャンネル1710と1712との間の流体の流通を提供する。
【0208】
作動において、システム1706は、取入れ口1716からサンプルSをチャンネル1708中に受け入れる。サンプルSをGSカラムから取り入れることができる。隔膜1714は、サンプルSの一部をフィルタし、圧力バリアを提供して、チャンネル1710及び1712中において大気圧より低い気圧を可能にする。チャンネル1710及び1712は、結合循環チャンネル1734とともに、フィルタされたクリーンなキャリヤガスを循環させる。イオン化源1718は、このクリーン・キャリヤガス内のサンプルSをイオン化する。オプションとして、チャンネル1710内に第二イオン化源を用いて、デフレクタ1722及び誘引素子1728の、選定イオンをチャンネル1710からチャンネル1712に転送する能力を向上することができる。例えば、デフレクタ1722は正に帯電されている場合、サンプルSのイオン化された部分、例えば正イオンは、デフレクタ1722によって、開口部1728を通ってチャンネル1712の中に屈折させられる。デフレクタ1722が負に帯電されている場合には、デフレクタ1722は、サンプルSの負イオンを、開口部1728を通してチャンネル1712の中に屈折させることができる。
【0209】
サンプルSの中性種及び屈折されなかったイオンは、そこでチャンネル1710、フィルタ1724及び検知器1726を通って、ポンプ1738によって吸引される。ポンプ1738は、チャンネル1710、1712、及び1734内に1744方向の循環フローを生成し、キャリヤガスをチャンネル1710及び1712から1734中に引き入れ、化学フィルタ1736を通し、オプションとして、第二化学フィルタを通す。化学フィルタ1736及び1740は、キャリヤガスから望ましくない汚染物質を除去する。また、オプションとして、補給ガスを外部システムからチャンネル1734に取り入れることができる。
【0210】
デフレクタ1722及び誘引素子1728を制御されたやり方で作動し、イオンをチャンネル1710からチャンネル1712に転送することができる。チャンネル1710において、屈折されなかったイオンは、フィルタ1724によってフィルタされ検知器1726によって検知され、一方、チャンネル1712おいては、屈折及び誘引されたイオンは、フィルタ1730及び検知器1732によってフィルタされる。そこで、チャンネル1710と1712とから得られた検知測定値を、相互に対比し、加算し、又は減算して、イオン種の識別を向上することができる。クリーンなキャリヤガス中で実施したサンプルSの制御されたイオン化と、チャンネル1712におけるモノマー又はクラスター分離されたイオンの検知と、チャンネル1710におけるクラスター・イオンの検知とは、より充実した化合物及びイオン種の識別を提供する。
【0211】
本発明を、特定の例示的実施形態に関連させて説明してきたが、本発明の範囲はさらに広く、本発明を、変化する制御励振電界を通って移動する未知のイオン種を、変化する電界条件の下における種の既知の移動ふるまい特性に基いて識別するどのようなシステムにも適用できることをよく理解すべきである。識別するイオンを、単独で移動するイオンとすることも、同一の又は異なる特性の移動ふるまいのイオンの群とすることもできる。対象の種がフローの中央部に戻りフィルタを通り抜けることができ、他のすべての種が阻止又は中性化される限りにおいて、フィルタ電界を任意のさまざまなやり方で補償することができる。既知の電界条件によった電界中を移動する少なくとも一つのイオン種の、既知の移動度電界依存性の差に基づいて識別を行う。
【0212】
また、さまざまなな実践において、本発明は、イオン種の識別のための改善されたシステム、方法及び装置を提供することをよく理解すべきである。いくつかの形態によって、本発明は、一つ以上のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件を変えて種の判別を向上する。例えば、いくつかの例示的実施形態によって、本発明は、例えば、Vrf;Vcomp;電界強度;Vrfデューティサイクル;Vrf波長;Vrf周波数;及び/又はフロー・チャンネル温度、圧力、湿度、流速、ドーピング及び/又はキャリヤガスCG組成の変化に基づいて、イオン移動度の変化を判定する。別の形態によって、本発明は、例えば、一つ以上の追加のDMS、IMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、又はLCMSを使い、異なるフロー・チャンネル/フィルタ電界条件において、並列的又は直列的にサンプルSを循環及び/又はサンプルSを処理することによって、サンプルSの多重スキャンを実施する。
【0213】
さらなる形態によって、本発明は、解離、圧力低減、及び3次元散布プロットのようなアプローチを用いて、検知分解能をより向上する。他の形態によって、本発明は、既知の化合物のシグネチャのライブラリを保存し、未知の化合物のパターンを保存されているライブラリと整合させて未知の化合物を識別する。本発明は、平面DMSシステムに適用できるばかりでなく、さまざまな幾何構造、イオン化処理法、検知器処理法などを含め、各種の型の移動度分光分析装置に広く適用することができ、新規の用途、ならびに、既存技術のシステムに対してもより向上した結果をもたらすことを理解すべきである。
【0214】
このように、本発明は例示的実施形態に限定されるものでなく、ラジアル型及び円筒型のDMS装置を含む、他の任意の適切な構成を実施することができる。さらに、本明細書の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に対するさまざまな変更案及び変形案を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0215】
特許及び出願ファイルは、少なくとも一枚の着色された図面を包含する。カラー図面の付いた、本特許又は特許出願刊行物のコピーは、申請して必要料金を支払えば特許局から提供される。
【0216】
本発明の前記及び他の目的、特色、利点、及び例示的実施形態を、以降、以下の図面を参照して説明することとし、これらの中の同一の参照符号は、各種図面を通して同一部分を参照する。これらの図面は必ずしも一定の縮尺比でなく、それよりも本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【図1】図1は、ピークRF、周期及びデューティサイクルを持つ非対称電界を描いたグラフである。
【図2A】図2Aは、それぞれ、非対称電界・イオン移動度分光計で検知した、アセトンだけ、及びオルトキシレンとアセトンとの組み合わせに対する、イオン存在度(強度)と印加電界補償電圧との対比を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、それぞれ、非対称電界・イオン移動度分光計で検知した、アセトンだけ、及びオルトキシレンとアセトンとの組み合わせに対する、イオン存在度(強度)と印加電界補償電圧との対比を示すグラフである。
【図3】図3は、微分型電気移動度分光計(DMS)による、3つの異なる化合物に対するイオン移動度と印加電界補償電圧との対比のグラフである。
【図4】図4は、本発明の例示的実施形態によれば強度ピークを示し、従来式の技術アプローチの欠点を概念化したVrfとVcompとの対比グラフである。
【図5】図5は、本発明の例示的実施形態によるDMSの概念図である。
【図6】図6は、DMSで測定した、さまざまな量のエチルメルカプタンを含有するサンプルに対する正モード・スペクトルにおけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図7】図7は、さまざまな量のエチルメルカプタンを含有するサンプルに対する負モードスペクトルにおけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図8】図8は、六フッ化硫黄(SF6)を負モードで検知したときのモノマー及び反応物のイオンピークの分離を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図9】図9は、六フッ化硫黄(SF6)を正モードで検知したときのモノマー及び反応物のイオンピークの分離を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図10】図10は、負イオンモードにおけるさまざまなRF電圧レベルでのDMS反応を例示し、併せSF6が存在しない場合に検知されたRIPを示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図11】図11は、SF6のピークがRIPから分離されていない場合の、正イオンモードにおけるFMS反応を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図12】図12は、電界強度の変化に対応したスペクトル・ピークのシフトを観測することにより、検知されたイオン種間の判別を改善する能力を例示したイオン強度(存在度)と電界補償電圧との対比グラフである。
【図13】図13A及び13Bは、電解強さの低減によるスペクトル・ピークのシフトを観測することにより、検知されたイオン種間の判別を改善する能力を例示したイオン強度(存在度)と電界補償電圧との対比グラフである。
【図14】図14A及び14Bは、補償電圧の変化の特定のスペクトルへの影響を示すイオン強度(存在度)と電界補償電圧との対比グラフであって、電界強度及び補償電圧の変化に伴う、モノマー、クラスター、及び反応物イオンピーク(RIP)検知の多岐にわたるふるまいを示している。
【図15】図15Aは、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対するメチルサリチル酸塩の検知を、異なるイオン強度のカラーを変えて表し、例示した3次元のカラー散布プロットである。図15Bは、単一の電界電圧での、メチルサリチル酸塩に対するイオン強度と電界補償電圧との2次元対比グラフである。
【図16】図16Aは、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対するDMMPの検知を、異なるイオン強度のカラーを変えて表し、例示した3次元のカラー散布プロットである。図16Bは、単一の電界電圧での、DMMPに対するイオン強度と電界補償電圧との2次元対比グラフである。
【図17】図17は、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対するDIMPの検知を、異なるイオン強度のカラーを変えて表し、例示した3次元のカラー散布プロットである。
【図18】図18は、単一の電界電圧での、DIMPに対するイオン強度と電界補償電圧との2次元対比グラフである。
【図19】図19は、電界条件の個別検知ピークの位置及び検知を分離する能力を例示した、複数の電界におけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図20A】図20Aは、本発明の例示的実施形態による、異なった補償電圧における、軽い分子と重い分子との検知ピークの分離を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図20B】図20Bは、本発明の例示的実施形態による、サンプルの解離後検知された数の増えたピークを示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図21】図21は、本発明の例示的実施形態による、サンプル分析改良のため、解離を用いるDMSシステムを解離を用いたDMSシステムと並列に作動させる概念図である。
【図22】図22は、本発明の例示的実施形態による、サンプル分析改良のため、解離を用いないDMSシステムを解離を用いたDMSシステムと直列に作動させる概念図である。
【図23】図23Aは、図22の解離を用いないDMSシステムに対するピーク検知を示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。図23Bは、図22の解離を用いたDMSシステムに対するピーク検知を示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図24】図24は、本発明の例示的実施形態による、解離領域を含むDMSシステムの概念的ブロック図である。
【図25】図25は、本発明の例示的実施形態による、物質GAの検知を例示した3次元カラー散布プロットである。
【図26−1】図26A−26Bは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図26−2】図26C−26Dは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図26−3】図26E−26Fは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図26−4】図26G−26Hは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図27】図27A及び27Bは、本発明の例示的実施形態による、複数の圧力におけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図28】図28A及び28Bは、本発明の例示的実施形態による、圧力の減少による計量的影響を正及び負のバックグラウンド・スペクトルでそれぞれ示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図29】図29A及び29Bは、本発明の例示的実施形態による、圧力の変化による負及び正のター−ブチルカプタン又はター−ブチルリチオル(TBM)のスペクトルへの影響をそれぞれ示した、複数の圧力下におけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図30】図30A及び30Bは、本発明の例示的実施形態による、圧力の変化による正及び負のTBMイオンのピーク・パラメータへの影響をそれぞれ示した、イオン強度と圧力との対比グラフである。
【図31】図31は、減圧による、DMMP、DIMP、及びMSのような化学兵器の検体ピークへの影響を示すグラフである。
【図32−1】図32A−32Bは、本発明の例示的実施形態による、物質GAに対する、減圧下での検知分解能の向上を示したイオン強度と圧力との対比グラフである。
【図32−2】図32C−32Dは、本発明の例示的実施形態による、物質GAに対する、減圧下での検知分解能の向上を示したイオン強度と圧力との対比グラフである。
【図33】図33は、約0.65atmで、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧における0.005mg/m3のDIMPの正イオン検知を、異なる強度を異なるカラーで描いて例示した3次元カラー散布プロットである。
【図34】図34は、約0.5atmで、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧における0.005mg/m3のDIMPの正イオン検知を、異なる強度を異なるカラーで描いて例示した3次元カラー散布プロットである。
【図35】図35は、約0.5atmで作動するDMSシステムによって、相対湿度(RH)=87において0.85mg/m3の物質GBのフラグメント・サンプルの正(左側)及び負(右側)の3次元カラー散布プロットを示したグラフである。
【図36】図36A及び36Bは、本発明の例示的実施形態による、ケトン族に対して検知されたモノマー及びクラスターのイオン・ピークの、補償電圧と電界強度との対比プロットを示すグラフである。
【図37】図37は、各々が8つのケトンのモノマーと二量体(クラスター)の群に対する検知データの収集をそれぞれ含む表であって、図36A及び36Bのグラフ中のカーブを生成するために使われたものである。
【図38】図38は、各々が8つのケトンのモノマーと二量体(クラスター)の群に対する検知データの収集をそれぞれ含む表であって、図36A及び36Bのグラフ中のカーブを生成するために使われたものである。
【図39】図39A及び39Bは、正規化アルファ・パラメータの計算結果を図示したガス密度に対する電界強度の比率(E/N)と電界補償電圧との対比グラフである。
【図40A】図40Aは、特定の化学イオン種に関するデータを得るために用いるコンピュータ・プロセスのステップの典型的シーケンスの流れ図である。
【図40B】図40Bは、化合物測定データ情報を格納するライブラリーのデータ構造の図を示す。
【図40C】図40Cは、化学物質の見分けを行うために応用できる一連のステップの流れ図である。
【図40D】図40Dは、アルファ・カーブ当てはめを用いる、データ取得及び化学物質の見分けに追加できる一連のステップの流れ図である。
【図40E】図40Eは、より複雑なデータ構造の図を示す。
【図40F】図40Fは、モノマーのピーク反応とクラスターのピーク反応とを判別するために使うことのできるプロセスのシーケンスの流れ図である。
【図40G】図40Gは、モノマーとクラスターの評点の組み合わせを示すプロセス流れ図である。
【図41】図41は、本発明の例示的実施形態による、戦争又はテロリスト状況において、放出される可能性のある化学兵器(CWA)、有毒産業化合物(TCI)及び有毒産業化学材料(TIM)を検知し識別するために使用するコンパクトなDMS分析装置システムの概念図である。
【図42】図42は、AFFFの1%ヘッドスペースに選択的に混合された一連の化学兵器模擬物質に対する実験結果を示す複数のプロットのグラフである。
【図43】図43は、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧について、物質GAの正イオンの検知を、異なる強度を異なるカラーで表した3次元カラー散布プロットである。
【図44】図44は、本発明の例示的実施形態による、イオン移動度分析装置システムと、隔膜と、再循環システムとを用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図45】図45は、本発明の例示的実施形態による、低圧分析用に構成された化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図46】図46は、本発明の例示的実施形態による、シリンダー型DMS分析装置システムと、再循環システムと、複数のフロー・チャンネルとを用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図47】図47は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図48】図48は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図49】図49は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図50】図50は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図51】図51は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図52】図52は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図53】図53は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、以下の出願の利益およびそれらへの優先権を主張する:「System for Identification of Ion Species in an Electric Field」と題する米国仮特許出願番号第60/524,830号(2003年11月25日出願);「Chemical Agent Detector」と題する同第60/549,004号(2004年3月1日出願);および「Tunable Chemical Agent Detector」と題する同第60/549,952号(2004年3月4日出願);「Tunable DMS Recirculation System」と題する同第60/556,349号(2004年3月25日出願);および「Reduced Pressure DMS」と題する同第60/556,198号(2004年4月28日出願)。上記の引用出願の全体の教示が、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本出願はまた、以下の同時係属中の米国特許出願の内容全体を本明細書中に参考として援用する:米国特許出願番号第10/187,464号(2002年6月28日出願);同第10/215,251号(2002年8月7日出願);同第10/462,206号(2003年6月13日出願); 同第10/684,332号(2003年10月10日出願);同第10/734,499号(2003年12月12日出願);同第10/738,967号(2003年12月17日出願);同第10/797,466号(2004年3月10日出願);同第10/821,812号(2004年4月8日出願);同第10/824,674号(2004年4月14日出願);同第10/836,432号(2004年4月30日出願);同第10/840,829号(2004年5月7日出願);同第10/866645号(2004年6月10日出願);同第10/887,016号(2004年6月8日出願);同第10/894,861号(2004年6月19日出願);同第10/903,497号(2004年6月30日出願);同第10/916,249号(2004年8月10日出願);同第10/932,986号(2004年9月2日出願);同第10/943,523号(2004年9月17日出願);および同第10/981,001号(2004年11月4日出願)。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、一般に、サンプルを分析するための移動度ベースのシステム、方法及び装置に関する。さらに具体的には、本発明は、さまざまな実施形態において、例えば、分散特性(2−、3−、及びn次元);サンプル解離(fragmentation);及び/又はフロー・チャンネル/フィルター電界条件の変化を使って、サンプル収集、フィルタ、検知、測定、識別及び/又は分析(「分析」と総称する)を改善することに関する。このような条件には、以下に限らないが、圧力;温度;湿度;電界強度、デューティサイクル及び/又は周波数;及び/又は補償電圧を含めることができる。
【背景技術】
【0004】
(背景)
サンプル中の化合物を分析して識別する必要のあるいろいろな状況が数多くある。このようなサンプルは、環境から直接採取するか、又は分析の前に、最新の専用装置によって化合物を分離又は調製して準備することができる。サンプル中の化合物を検知する能力を持つ、低コスト、コンパクト、低電力、高精度で使い易く、信頼性のある装置が求められている。
【0005】
よく知られた分析装置の一つの種類に質量分析計(MS)がある。質量分析計は、一般に、化合物を識別するための最も精度のよいタイプの分析装置とし知られている。しかしながら、質量分析計はかなり高価で、ゆうに100,000ドル以上のコストを超え、物としても大きくて、公衆を危険な化学材料に曝す可能性があればどのような場所であっても配備するのは困難である。また、質量分析計には、比較的低圧で作動する必要があるなど他の弱点があり、複雑な補助システムが必要である。また、これらは、分析結果を処理したり解釈するため高度に訓練された操作者を必要とする。こういったことで、質量分析計を試験室の外部で使用することは困難である。
【0006】
現場での稼動にもっと適した化学分析機器の種類として、「非対称電界イオン移動度分光計(FAIMS)」又は「微分型電気移動度分光計(DMS)」が知られており、いろいろな名称があるが「無線周波数イオン移動度分光計(RFIMS)」としても知られている。以降、FAIMS、DMS、及びRFIMSを総称してDMSという。この種の分光計は、高圧−低圧に変化する非対称電界に、イオン化した流体サンプル(例、ガス、液体又は蒸気)を曝し、イオンの電界移動度に基づいてそれらをフィルタする。
【0007】
サンプルは、フィルタ電界を流れ通り、フィルタ電界は、フィルタ電極に印加された補償電圧(Vcomp)に従って、選定されたイオン種、特にフィルタ電界に特定の移動度反応を示すイオンを通過させる。そこで、イオン検知器は、検知したイオンの強度/存在度データを収集する。強度データは、特定の補償電圧における「ピーク」のような特性を示す。
【0008】
典型的なDMS装置は、ドリフトチューブ中の電極対を含む。非対称なRFによる電界がイオン流経路と交差する電極に印加される。非対称RF電界は、図1に示すように、高圧側すなわち「ピーク」電界強度と低圧側電界強度との間を交番する。電界は、所定の周期(T)、周波数(f)及びデューティサイクル(d)によって変化する。電界強度Eは、印加電界電圧(Vrf)及び電極の間のギャップの大きさによって変化する。イオンは、イオンの非対称電界における時間あたりの正味の横方向変位量がゼロであれば電極間のギャップを通り抜ける。これに対し、正味変位を受けるイオンは、ついにはどちらかの電極にぶつかって中性化される。任意のRF電極においてRFに低強度の直流(dc)電界を重畳させる(例、フィルタ電極の間にVcompを印加する)ことによって、変位したイオンをギャップの中央部に戻す(そのイオンに対する変位が無いよう補償する)ことができる。異なった変位量のイオン(特定の電界における移動度依存性特性に起因する)は、異なる特性補償電圧によってギャップを通過する。ほぼ一定のVcompを印加することによって、システムを継続的なイオン・フィルタとして機能させることができる。これに換えて、Vcompをスキャンすることによりサンプルに対するスペクトル測定が得られる。サンプルのスペクトル・スキャン画像記録を、「移動度スキャン」又は「イオノグラム」と呼ぶことがある。
【0009】
DMS装置からのアウトプットに基づく移動度スキャンの例を図2A及び2Bに示す。スキャン図で示されている化合物は、アセトン及びキシレンの異性体(o−キシレン)である。図2Aのスキャンは、単一の化合物アセトンを個別にDMS分析装置にかけて得られたものである。図示されたプロットは、DMD装置に見られる、検知されたイオン強度がVcompに依存する典型的な反応である。例えば、アセトン・サンプルは、約−2VdcのVcompにおいてピーク強度反応を示している。
【0010】
図2Bは、アセトンとo−キシレンとを混合したものを分析した結果である。混合物の反応は、個別分析のケースとほぼ同じ領域に2つのピークを示している。混合物中の化合物は、その反応を、例えば単独で分析した化合物の既知の反応を保存したライブラリ、又は混合物のライブラリと対比して検知することができる。このように、図2Aのアセトンのスキャンのように、個別に分析したスキャンをコンピュータシステムに保存し、図2Bのような化合物の反応が観測されたときに相対的ピーク位置を保存されたライブラリ中の反応と対比して、化合物の組成を判断することができる。
【0011】
特定のRF電界電圧及び電界補償電圧Vcompは、特定のイオン移動度特性を持つイオン種だけをフィルタから検知器に通過させる。RFレベル及び補償電圧と、対応する検知信号とに着目することによって、さまざまなイオン種、及びそれらに関する濃度を(ピーク特性として観測して)識別することができる。
【0012】
図3に示すように、イオン移動度のVrfへの依存性をプロットしてみる。この図は、イオン強度/存在度とRF電界強度との対比を3つのイオン例について示しており、電界依存性移動度(電界移動度の高さ係数αとして表す)がゼロより大きい、等しい、ゼロより小さい種について示したものである。電界(E)中のイオンの速度を十分低い値まで測定することができるので、速度(v)は電界に比例し、移動度係数と呼ばれる係数(K)を用いて、v=KEとなる。Kは、イオン種及びガスの相互作用特性に関連する係数として示すことができる。この移動度係数は、異なるイオン種の識別を可能にする固有のパラメータと考えられており、電荷、大きさ、及び質量のようなイオンの属性をはじめ、衝突頻度及び衝突と衝突との間にイオンが得るエネルギーにより決まる。
【0013】
E/N比、ここでNはガス密度である、が小さい場合、Kは一定値であるが、E/N値が増大するにつれ、移動度係数は変化し始める。電界の影響を、おおよそ、K(E)=K(0)[1+α(E)]と表すことができ、ここでK(0)は、低電圧での移動度係数であり、αは特定のイオンに対する移動度の電界依存性を示す固有のパラメータである。
【0014】
かくして、図3に示すように、比較的低い電界強度、例えば、約8,000V/cmより低い電界強度においては、多数のイオンが同じ移動度を有することができる。しかしながら、電界強度が増大するに従って、種ごとにその反応が分かれ、これらの移動度は印加される電界の関数として変化する。このことは、比較的低いRF電界強度においては、イオン移動度は印加されるRF電界強度に左右されないが、より高いRF電界強度では電界依存性があることを示している。
【0015】
図2A及び2Bは、イオン種は移動度特性に従って高電界では固有のふるまいを取れることを実証している。フィルタを通過したイオンは下流で検知される。所定のRF電界電圧及び電界補償電圧Vcompに対する特性検知ピークとして、検知信号強度をプロットすることができる。通常、ピーク強度、位置、及び形状を使って種を識別する。
【0016】
しかしながら、典型的DMSスペクトルに見られるように、一般にピークの幅が広いことから問題が生じる。従って、同じような補償電圧において強度ピークを示す化合物を相互に見分けるのは困難である。このため、特定のVcomp及び特定のRF電界電圧において、又はフィルタ電界/フロー・チャンネルのパラメータの異なる組み合わせにおいて、2つの異なる化合物が見分けの付かないスキャンを生成するような状態があり得る。この様な場合には、2つの異なる化合物を判別できないことがある。2つ以上の化学種が、電界/フロー・チャンネルのパラメータの特定のセットに対して、同一又はほとんど同一のイオン移動度特性を持つ場合、別の問題が生じることがある。このことは、低電界レジーム(本明細書では「イオン移動度分光分析」又はIMSという)で最も発生する可能性が高く、既存の多くのイオン移動度分光計システムはこれで動作している。従って、2つ以上の化学種が同一又はほとんど同一の移動度特性を有する場合、それらの分光ピークはオーバーラップすることになり、個別種の識別及び計量は困難又は不可能となる。
【0017】
図4は、本発明の例示的実施形態によるVcompとVrfとの対比グラフであるが、前記した従来技術の欠点を明らかにもしている。さらに具体的には、図4は、4つの化合物、ルチジン、シクロヘキサン、ベンゼン、及びジメチルメチルホスホン酸塩(DMMP)のVcompとVrfとの対比グラフを図示している。各々のカーブは、100で示した円で囲まれたように、さまざまな(Vrf,Vcompの)位置において検知されたイオン強度ピークの位置を示し、全体として各個別化合物に対するピーク特性を提示している。図示するように、DMMPとシクロヘキサンとの強度ピーク及び移動度カーブが相互にオーバーラップしている領域100がある。図で分かるように、Vrf範囲で約2,500Vピークから約2,650Vピーク、Vcompで約−6Vdcから約−8Vdcで作動した場合、単一のVrfにおける単一のCcompスキャンに基づいて2つの化合物を判別することは事実上不可能なことが分かるであろう。特に、単一のVrfに対して、Vcompのある範囲における強度/存在度とVcompの対比をプロットするという従来式のスペクトル・スキャン・アプローチでは、オーバーラップしたピークを一つのピークとしてプロットしてしまうことになろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、ピークのオーバーラップ問題を処理し、より向上した化合物分析性能を提供する改良されたイオン移動度ベースの化合物識別アプローチが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(発明の要旨)
本発明は、さまざまな実施形態において、サンプル中の構成物質を分析するための、改良された移動度ベースのシステム、装置及び方法を提供することによって、従来式技術の欠陥に取り組む。さらに具体的には、さまざまな実施形態において、本発明は、例えば、分散特性;サンプル解離;及び/又は、限定はされないがフロー・チャンネル/フィルター電界状態中の変動のようなサンプル処理における変動を使って、サンプル収集、フィルタ、検知、測定、識別及び/又は分析(「分析」と総称)の改善を提供する。このような条件に、以下に限定はされないが、圧力;温度;湿度;電界の強さ、デューティサイクル及び/又は周波数;電界電圧振幅、周波数及び/又はデューティサイクル;検知器バイアス電圧大きさ及び/又は極性;及び/又はフィルタ電界補償電圧の大きさ及び/又は極性を含めることができる。
【0020】
一つの実践において、本発明は前記条件の一つ以上を採用して、複数の既知の種についてのスペクトル・シグネチャのライブラリを提供し、未知の種のスペクトル・シグネチャの少なくとも一部を、ライブラリ中に保存された一つ以上のスペクトル・シグネチャの少なくとも一部と対比することによって、未知の種を識別する。スペクトル・シグネチャとは、特定の種についてのスペクトル情報を編纂したものである。スペクトル情報には、以下に限定されないが、スペクトル・ピーク振幅;スペクトル・ピーク幅;スペクトル・ピーク勾配、スペクトル・ピーク間隔;スペクトル・ピークの数;例えば、処理条件の変化によるスペクトル・ピークの相対的位置シフト;スペクトル不連続点;Vrf対Vcomp特性、又は前記条件の他の任意の特性を他の任意の一つ以上の前記条件に対してプロットしたものを含めることができる。
【0021】
一つの様態において、本発明は、第一複数値の間で第一サンプル処理条件を変化させ、一つ以上の第二複数値の間で第二サンプル処理条件を変化させて、サンプルのスペクトル情報を判断することによりサンプルを分析するための改良されたイオン・ベースのシステム、方法及び装置を提供する。一つの特定実施形態において、本発明は、一つ以上のVrf値に対してある範囲の値の電界補償電圧Vcompをスキャンし、一つ以上のVrf値の各々におけるスペクトル表現を生成する。
【0022】
一つの形態によれば、本発明は、第三サンプル処理条件を調整して、求めたイオンスペクトル情報から得られたスペクトル・ピークの幅を狭める。このような幅の削減は、似たような移動度特性を持つサンプル間におけるスペクトル・ピークのオーバーラップを減少させてイオン移動度ベース分析装置の分解能を向上させ、これにより、サンプル種のより精度ある判別を提供する。一つの構成において、第三サンプル処理条件は、サンプル・フロー・チャンネル中の圧力を含み、本発明はサンプル・フロー・チャンネル中の圧力を低減してスペクトル・ピークの幅を減少させる。
【0023】
別の形態によって、本発明は、第三サンプル処理条件を調整して、求めたイオンスペクトル情報から得られたスペクトル・ピークの位置を、これらが生じたVcompから変化させる。異なった種のピークを異なる位置にシフトできるので、このようなシフトにより、似たような移動度特性を持つ種のピーク間の改善された判別を提供することができる。一つの構成において、第三サンプル処理条件は、Vrfを含み、本発明は2つ以上の電界電圧Vrfを印加して、種の識別のためのピーク・シフト情報を提供する。
【0024】
別の形態によって、本発明は、第三サンプル処理条件を調整して、サンプルの正イオン及び負イオン双方に関するスペクトル情報を提供する。さらに具体的には、一つの構成において、本発明は、負及び正双方のバイアス電圧を複数の検知器電極に同時に、又は単一の検知器電極に交互に供給して、負及び正モード双方のスキャンを実施する。一方のモードに対して類似のイオン移動度特性を持つ化合物が他方のモードにおいては異なったイオン移動度特性を有することがあるので、検知器電極に対するバイアス電圧の極性を変更することによって、さらにサンプル分析を改善することができる。
【0025】
さらなる実施形態において、本発明は、各種のイオン・スペクトル情報のn次元表現を採用し、スペクトル・シグネチャの質を向上し、類似のイオン移動度特性を持つ種の判別を向上させ、これにより、具体的には識別精度を改善し、全体的にサンプル分析を向上させる。例として、一つの構成において、>2の電界電圧Vrfに対してVcompをスキャンし、例えば、スペクトル・ピーク・シフトの情報を追加して取得する。そこで、本発明は、各VrfにおいてVcompをスキャンして得られたスペクトル情報を集約したスペクトル情報のn次元表現を生成する。一例において、n次元表現は、複数のVrf電界電圧の各々Vcompをスキャンして得られたスペクトル情報を集約した、VrfとVcompとの2次元プロットである。さらなる例において、集約された表現は、>2のVrf電界電圧の各々Vcompをスキャンして得られたスペクトル情報を集約した3次元表現である。
【0026】
一つのアプローチによれば、3次元表現は、Vrf及びVcompの関数としてのイオン強度のプロットである。一つの実行例によれば、x及びy座標と、(Vcomp,Vrf)座標点におけるイオン強度の変動を、以下に限らないがグレースケール、色彩度、及びカラーなどの、任意のカラー関連特性の当該座標点における変化とで表すといったように、Vcomp及びVrfを、特殊な座標で表現する。このようなカラー関連表現は、本発明のn次元集約なくしては判別が困難又は不可能であった種の判別の容易な見分け方を提供する。
【0027】
関連する実行例において、カラーで関連付けていた違いを囲む曲線を引いて、カラーで違いを付けること自体をやめることもできる。このように、本発明は、例えば、Vcomp対Vrfのグリッド上にスペクトル・ピークの2次元表現を提示しながら、複数のVrf値に対してVcompをスキャンして得られたスペクトル情報組み込むことができる。違った別の実行例において、Vcomp、Vrf及びイオン強度は、3次元(x,y,z)空間表現中にマップされる。
【0028】
関連する実施形態によれば、スペクトル情報のいずれか又はすべてを、処理変化項目のいずれか又はすべての関数としてn次元空間に表し、既知及び未知の種双方に対する>3次元スペクトル・シグネチャを生成することができる。そこで、技法に適合した従来式のn次元クラスターを用いて未知の種を識別することができる。
【0029】
前記のn次元表現のいずれにおいても、表現されたスペクトル情報のどれか又はすべてを既知の種のスペクトル・シグネチャの中に組み込んで、こういったシグネチャのライブラリに保存することができる。従来式のパターン認識技法を用いて、未知の種のスペクトル・シグネチャの少なくとも一部と、ライブラリに保存された既知のサンプルのシグネチャの少なくとも一部とを対応させて、未知の種を識別することができる。他の実行例において、シグネチャのライブラリと未知の種から採取されたシグネチャとの双方を数式として表現し、任意の適切なアプローチを用いてこのような数式の間の比較を行って未知の種を識別することができる。
【0030】
別の実施形態によれば、本発明は、解離を用いてDMS分析を改善する。解離は、サンプル中の大きな分子をより小さな分子、分子クラスター、成分、及び/又は基底単体に分解することを含む。そこでフラグメントを、連続して又は並行して、個別に分析し、解離をしない場合に利用可能なよりも多くの、サンプルに対するスペクトル情報を生成することができる。解離を、例えば、限定はされないが、化学反応、高エネルギー電界強度、高いVrf、加熱、レーザ光、サンプル分子と他の分子との衝突、ソフトx線、電磁波、又は類似方法の一つ又はこれらの組み合わせを使って達成することができる。一つの様態によって、本発明は、フラグメントのスペクトル・ピークについての前記スペクトル情報のいずれか又はすべてをスペクトル・シグネチャに組み込む。さらなる形態によって、本発明は、ポイント(例、温度、圧力、電界強度、Vrf、衝突分子質量、衝突分子速度、レーザ強度、レーザ周波数、x線強度等)をスペクトル・シグネチャに組み込む。
【0031】
他の様態によって、本発明は、前記に要約したものを含む特徴を採用したイオン・ベースの分析装置のさまざまな直列的及び並列的組み合わせを提供する。さらなる様態において、本発明は、例えば、化学兵器(CWA)、有毒産業化合物(TIC)及び/又は有毒産業化学材料(TIM)を検知するための、各種のコンパクトで、携帯可能、軽量で低電力ベースの分析装置を提供する。
【0032】
以降、本発明をさまざまな例示的実施形態を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(例示的実施形態の説明)
前に要約を記載したように、本発明は、一般に、化合物の改善された検知、測定、判別及び分析([分析]と総称する)を提供するためのシステム、方法及び装置を対象としている。解析する化合物には、単体、化学物質及び生体物質の限定なく、有機及び無機双方の任意の化合物を含めることができる。具体的な例示的実施形態において、本発明は、イオン移動度ベースの化合物分析の改善を対象とする。本発明の特定の形態には、散布プロット、サンプル解離及び/又は圧力制御を使用して、似たような又はオーバーラップ下イオン移動度特性を持つ化合物の間の判別を向上させることが含まれる。
【0034】
本発明の例示的実施形態を、「微分型電気移動度分光計(DMS)」、または「無線周波数イオン移動度分光計(RFIMS)」としても知られる非対称電界イオン移動度分光計(FAIMS)(以下「DMS」)に関連させて説明しているが、本発明の特質を、同様に、イオン移動度分光分析(IMS)飛行時間型(TOF)IMS、ガス・クロマトグラフ(GC)、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法、質量分析(MS)及び液体クロマトグラフ質量分析(LCMS)に組み合わせて用いることができる。
【0035】
図5は、本発明を用いることのできる型のDMSシステム10のブロック図である。システム10は、フロー・セクション15及びプロセッサ・セクション40を含む。フロー・セクション15は、フロー取入れ口12からフロー出口13まで延びるフロー・チャンネル11を含む。対向するフィルタ電極20及び21はフロー・チャンネル11内に配置されている。また、検知器電極26及び30もフロー・チャンネル11内に配置されている。プロセッサ・セクション40は、フィルタ電極20と21とにRF電界電圧を供給するためのRF電圧発生器42、及びフィルタ電極20と21とにdc補償電圧Vcompを供給するための直流(dc)電圧発生器44を含む。また、プロセッサ・セクション40は、電圧発生器42と44とを制御し、イオン検知器28と30とから、増幅器36と38、A/Dコンバータ48を経由してくるインプットを処理するためのプロセッサ46を含む。また、プロセッサ・セクション40は、ユーザに分析情報を提示するためのディスプレイ49を具えている。システム10の一つの特質は、約1ポンドの重さより軽い携帯型装置に収納できることである。
【0036】
作動において、サンプルSは、フロー・チャンネル取入れ口12からフロー・チャンネル11に入る。サンプルSを、例えば、環境から引き込むこともでき、あるいは、別のDMS、又はIMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、LCMSから受取ることもできる。サンプルSを、ガス、液体又は蒸気のような流体に混ぜることができる。この例では、サンプルSをフロー・チャンネル11を通し流すために、キャリヤ・ガスCGが用いられている。サンプルSは、フロー・チャンネル11に流入するとイオン化域14に流れる。サンプルは、イオン化域14を流れ通ってイオン化源16によってイオン化され、サンプルS中のさまざまな化学種のイオン化分子のセット17+,17−を、いくつかの中性分子17nとともに生成する。これには、例えばモノマー・イオン及びクラスター・イオンが含まれることがある。このようなクラスターは、モノマー・イオンが水分子又は他のバックグラウンド分子と結合し、その結合がイオン化されるときに生成させることができる。
【0037】
そこで、キャリヤ・ガスCGは、イオン化されたサンプルSを、イオン・フィルタ24の対向するフィルタ電極20と21との間に所在するイオンフィルタ電界18中に搬送する。サンプルS中に含まれるさまざまなイオンのフィルタ電界18における移動度の違いに基づいてフィルタリングが進められる。イオン移動度は、例えば、イオンのサイズ、形状、質量及び電荷に影響される。電界発生器42は、非対称電界電圧Vrfをフィルタ電極20と21との間に印加し、フィルタ電界18内の電界強度を、高低の電界強度の間で交番させる。イオン17+,17−及び17nは、それらの移動度特性に基づき、電界に反応して移動する。典型的には、高い電界強度状態におけるイオンの移動度は、低い電界強度状態におけるそのイオンの移動度とは異なる。この移動度の違いにより、イオンがフィルタ24を通って縦方向に進むにつれ横方向の変位が生じる。横方向変位は、サンプルSイオンの各々に対するイオン軌道を規定する。
【0038】
前記のように、電圧発生器44は、プロセッサ46の制御の下に、電極20と21との間にdc補償電圧Vcompを印加する。補償電圧Vcompは、特定のイオン種をフロー経路14の中央の方に戻し、これにより、それらイオンが、フィルタ電極20又は21のいずれかにぶつかって中性化されることなく、フィルタ電界18を抜け出られるようにする。他方、印加されたVcompが不十分な種は、ついにはフィルタ電極20及び21にぶつかって中性化される。中性化されたイオンは、例えば、キャリヤ・ガスCGにより、又はフロー経路11を加熱することによって排除される。
【0039】
また、図5の例示的システム10は、17−,17+の場合のように、極性の差異に基づいてイオンを判別することができる。一つの形態によれば、図5のシステム10は、サンプルS中の正及び負イオンを、並行して、又は一部の例においては、ほぼ同時に検知するよう作動することができる。この特質により、2つの化合物の識別を、並行して、又は一部の例においては、ほぼ同時に行うことができる。また、この特質により、一つの化合物の2つのモードの検知を並行して、又はほぼ同時に行うことができる。
【0040】
作動において、イオン17+及び17−の2つの種は、検知域25に入り、さらなる分離が行われた後、その強度が判定される。例示的実施形態において、検知器26の電極28を正にバイアスして、イオン17−を引き付けイオン17+をはじくことができる。これに換えて、検知器26の電極30を負にバイアスしてイオン17+を引き付けてイオン17−をはじくことができる。検知器電極28及び30に集合したイオンが発生させた信号は、それぞれ増幅器36及び38で増幅され、A/Dコンバータ48を経由してプロセッサ46に供給される。一つの形態によれば、プロセッサ46は、A/Dコンバータ48からのディジタル化された信号を、メモリ47中に格納された既知の化合物に対するイオン強度のライブラリと対比し、サンプルS中の化合物を識別する。対比作業の結果を、ディスプレイ49のような適当なアウトプット装置に送信するか、あるいは、インタフェース56を経由して外部の送信先に送ることができる。
【0041】
さらなる例示的実施形態によれば、システム10は、サンプル分析に使用される前に校正される。さらに具体的には、特定のVcomp及びVrfにおける既知のイオン種に対するイオン強度のライブラリを作成し、メモリ47に保存する。一つの形態によれば、いったんシステムを校正すれば、さらなる校正の必要なく連続してこれを使用することができる。しかしながら、例えば、反応物イオンピーク(RIP)又はドーパントのピークを使ってシステム10を校正することも、本発明の範囲内である。
【0042】
さまざまな例示的実施形態によれば、印加された電界電圧Vrfから得られるフィルタ電界18内の電界強度を、約1,000V/cmから約30,000V/cmまでの範囲、又はそれより高い値とすることができる。Vrfの周波数を、約1から約20メガヘルツ(MHz)までの範囲の値で、約30%のデューティサイクルを持つより高い周波数を伴うものとすることができる。
【0043】
システム10を、例えば、任意の適切なVrf、Vcomp、電界強度、Vrfデューティサイクル、Vrf波長及びVrf周波数動作値を用いて調整できることに注目すべきである。さらに、以下でさらなる詳細を説明するように、分析を改善するために、システム10を、以下に限らないが、温度、圧力、湿度、流速、ドーピング、及びキャリヤ・ガス組成のような他のフロー・チャンネル条件の値を変えて調整することができる。また、さらなる詳細を後記で説明するように、例えば、一つ以上の、追加DMS、IMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、又はLCMSを並列又は直列に使って、異なったフロー・チャンネル/フィルタ電界条件でサンプルSを再循環させ及び/又は進行処理することにより、サンプルSの複数のスキャン採取を用いてサンプルSの分析を改善することができる。
【0044】
一つの例示的実施形態によれば、プロセッサ46は、電圧発生器44に、印加Vrfにより規定された特定のRF電界強度において、ある範囲の電界補償電圧Vcompをスキャン又は掃引させ、サンプルSに対する第一のスペクトルを得る。次に、Vrfは次のレベルにセットされ、再度VcompがスキャンされてサンプルSに対する第二のスペクトルを得る。これらの情報を、前記のサンプル中の化合物を識別するのと同様なやり方で、スペクトル・スキャンのライブラリと対比することができる。
【0045】
スペクトル・スキャンにおいて、特定のピーク組み合わせが特定の化合物の存在を示すことが判明した場合、その複数のピークを表すデータを保存し、将来の検知データをその保存されたデータと対比することができる。例えば、上昇された電界強度のような、制御されたフィルタ電界条件の下で、クラスター集合していた化合物をクラスター分離することができる。単一回のスキャンであっても、検知によって源泉の化合物を識別するために使えるピークのシグネチャを得ることができる。
【0046】
一つの例示的応用例によれば、本発明を使って炭化水素バックグラウンド中の硫黄含有化合物を検知する。一つの例において、負イオンと正イオンとは別々に検知される。炭化水素バックグラウンドに左右されずに、検知データからこれら硫黄含有化合物の濃度を計量的に測定することができる。
【0047】
別の例示的応用において、本発明を使って、変化する、又は高濃度の炭化水素バックグラウンド中のメルカプタンの微少量(百万分の1単位(ppm)、十億分の1単位(PPb)、又は一兆部の1単位(ppt))を検知する。また、図5のシステム10は、炭化水素ガス・バックグラウンドの特性判定をすることができる。例えば、本発明は、メタン・バックグラウンドにおいて、エチルメタルカプタンのようなメタルカプタンを検知することができ、また、メタルカプタン・バックグラウンド中の、メタンのようなガスを検知することもできる。
【0048】
本発明のこの実践において、炭化水素バックグラウンド中のメタルカプタンが検知され、フィルタ電極に印加された非対称電圧は、約900Vから約1.5kVの範囲(高電界条件)であり、低電圧側は、約−400から約−500Vの範囲(低電界条件)であった。周波数は、約1から2MHzの範囲であり、高周波のデューティサイクルは約30%であった、但し、他の動作範囲も用いられた。一つの実施形態において、検知器電極には+5v及び−5vのバイアスが印加された。この設定によって、メタルカプタンを負モード(−5v)で検知することができ、炭化水素ガスを正モード(+5v)で検知することができる。
【0049】
システム10は、各種の従来式構成要素を用いている。例として、増幅器36及び38を、Analog Devicesのモデル459増幅器とすることができる。さらに、A/Dコンバータに、スキャンをデジタル化し保存するため、National Instrumentsの回路部品(モデル6024A)を含めることができ、結果をスペクトル、トポグラフ・プロット、散布プロット又はイオン強度−時間の対比グラフとして表示するためのソフトウエアを含めてることができる。これに換えて、こういったソフトウエアをメモリ47に保存し、プロセッサ46を制御することができる。イオン化源を、例えば、プラズマ、レーザ、放射線、UVランプ、又は他の任意の適切なイオン化源とすることができる。
【0050】
一つの例示的実施形態によれば、フィルタ電極20と21との間にVrfが印加される。但し、一部の構成において、一方のフィルタ電極、例えば電極20にVrfが印加され、他方の電極、例えば電極22は接地される。そこで、Vcompは、通過させるイオンの種に従って、フィルタ電極20及び21の一つに、あるいは、フィルタ電極20及び21の間に交互に印加される。別の形態によって、検知器電極28及び30は、電極28が−5Vdcにバイアスされ電極30が+5Vdcにバイアスされるといった、浮動バイアスを印加され、炭化水素又は空気バックグラウンド中のメタルカプタン検知に対する良好なパフォーマンスにつながっている。
【0051】
図6は、図5に10として図示した型のDMSシステムによって測定した、エチルメルカプタンの異なる量を含有するサンプルに対する「正モード」スペクトルにおける、イオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。正モード検知においては、検知器電極28は負にバイアスされ、正メタン・イオン17m+を引き付け検知する。図7は、エチルメルカプタンの異なる量を含有するサンプルに対する「負モード」スペクトルでのイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。負モード検知においては、検知器電極30は正にバイアスされ、負メタカプタン・イオン17m−を引き付け検知する。図6及び7から分かるように、さまざまな添加量レベルにおいて、エア−炭化水素キャリヤガスCGバックグラウンドに左右されずメタルカプタンのシグネチャが把握され、検知されたサンプル・ピークは、バックグラウンドから完全に分離されている。図6から分かるように、反応物イオンピーク(RIP)は分離されており、図7に示すように、バックグラウンド(サンプル番号9)は平坦である。
【0052】
前記のように、検知器電極28及び30を反対にバイアスして、正及び負双方のイオンを、並行して、一部の構成においては、ほぼ同時に検知可能にすることができる。イオン化されると顕著な負イオンを持つ性向のあるメタルカプタンのようなサンプルであってさえも、正及び負双方のイオン検知によって、単一回検知アプローチにおける分析精度の改善が得られる。さらにこれによって、識別精度及び信頼度が向上し、誤った存在肯定及び誤った存在否定の尤度が低減される。
【0053】
例えば、六フッ化硫黄(SF6)は、負モードでうまく検知できる。しかしながら、正モードにおける反応は、これだけでははっきりしないが、あるプロフィールを持ち、これを負モードと組み合わせることによって確認をすることができ、誤った検知の尤度を低下させる。一つの形態によれば、本発明は、SF6を、単一モード(例、負モードだけの検知)又は二重モード(正及び負モード双方の検知)で逐次に、並行して、又は同時に検知することができる。
【0054】
SF6ガスは、パイプのリークを検知しリーク源を突き止めるトレーサとして空気流を監視するための大気トレーサ用途に、発電所においては、他にも用途はるが、スイッチを絶縁し、スイッチの破損を低減し又は防止するために使われる。SF6の単離及び検知は、多くの場合において困難な課題であることが分かっている。
【0055】
一つの例示的応用例によれば、本発明のシステムは、空気中のSF6を検知するために用いられる。さらなる例示的応用例によれば、本発明は、約1×10−9atm cc/秒のSF6(0.01PM)の感度を持つ携帯型で電池式のSF6検知用装置を提供する。この例示的実施形態において、本発明を、例えば、電力産業においては「高圧開閉装置」の気密性を確保するために、試験所においてはASHREA110規格に対して換気フードを試験するために用いることができる。他の用途には、トーピード・ヘッド、配管システム、及びエアバッグの完全性試験が含まれる。本発明の高い感度、丈夫なデザイン、及び使用とセットアップとの容易さは、SF6の検知を必要とする多くの用途において利点となる。
【0056】
図8は、本発明の例示的実施形態による、SF6の負モード検知に対するイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比グラフである。図に示されるように、本発明の応用により、反応物イオンピークから分離された、SF6の明確なピークが得られている。図9は、正モード検知における同様なSF6のプロットを提示している。見ると分かるように、正モード検知においては、SF6が存在しない信号51とSF6が存在する信号53と間に目に付くような違いはない。図10は、負モード検知における3つの異なる電界電圧Vrf(57、58及び61に示す)におけるSF6に対するイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比を、SF6の不在において検知されたRIP55とともにプロットしたものである。図11は、正モード検知における、図10と同様なプロットを示す。予期されたように、正モード検知カーブ69、71及び73は、それぞれに対応するRIPカーブ63、65及び67をほぼ追尾している。前記で図16に関連して記載したように、これだけでは明確でないがこれは予期された検知であり、従って、明確なSF6の負モード検知と組み合わせて確認に用いることができる。
【0057】
別の形態によって、既知の装置のt区製における既知のイオン種強度シグネチャについての前記のライブラリ・データに、単一モード、又は正及び負モード同時検知のいずれかによってアクセスすることができる。装置による過去の検知データと比較することによって、これらのピークをメルカプタンの実証スペクトルとしてさらに明確に識別することができる。双方のスペクトルは、定性的及び定量的にメルカプタンの徴候を示す。正及び負モード同時検知の利点をメルカプタンに関連させて前記で説明しているが、これらは、任意のサンプルの解析に用いることができ、特に、類似したイオン移動度特性を持ち従ってそれら間を識別することが困難な、メルカプタンと炭化水素ガスとを含有するサンプルのような、複雑なサンプルをリアルタイムで分析する場合に有用である。
【0058】
前記は、サンプル中に検知されたイオン種の識別のため、単一回の移動度スキャンから複数の検知データを有利に取得することを実証するものである。この革新は、多くの用途において有用である。有益な革新ではあるがさらに、(1)複数のイオン移動度スキャンから複数の検知データを取得すること、及び(2)そのようなデータをさらに処理して、移動度係数αのような、装置に左右されない特性を抽出することによって、もっと高い信頼度水準絵尾達成し、誤った存在肯定をさらに削減することができる。
【0059】
一つの例示的「複合スキャン」の実施形態によれば、イオンは、単一セットの電界条件でなく、少なくとも2つの、できればさらに多くの数の電界条件(例、少なくとも2つの電界測定点)において採取された複数のイオン強度スキャンに基づいて識別される。検知データは、少なくとも2つの異なった電界条件におけるVrf及びVcompと相関付けられ、所定の検知化合物の特性設定をする。所定の対象イオン種が複数の検知データと関連付けられているので、さらに精度の高い検知を行うことができる。保存されたデータとの対比によって、検知化合物の信頼できる識別が得られる。
【0060】
スペクトルピーク又は移動度カーブ中のデータに基づいて、検知イオンを識別するための方法には、カーブ合わせ、ピーク当てはめ、デコンボリューション(オーバーラップ下ピークに対して)、例えば、(x,y,z,その他)空間座標系、及び/又は、z又は他の値をカラーの変化で表した(x,y,その他)座標系を含む3次元表現を用いた多次元マッピングなどがある。これらの技法は、正及び負モードの同時検知を含む単一スキャン中の、また複数スキャン中のピークに基づいて、検知されたイオン種を識別することを可能にする。これらの目的は同じであって、検知されたイオンの種を、明確に識別し検知し測定し、又は他の方法で分析するため使える複数の検知データの解析である。
【0061】
前記のように、化学物質の異なるイオン種は、補償された印加Vrfの関数として異なる移動度を示す。このように、さまざまな化合物に対し、異なるVrf電圧のセットを印加し、例えば、図1の検知器26の検知のように、イオン存在度ピークの位置におけるVcompを測定することによって、化合物の測定ポイントの特性のファミリーを作成することができる。そこで、この点ポイントのファミリーをプロットし、例えば図4に示すように、特定の種に対するイオン移動度カーブ・シグネチャを設定することができる。また、前記のように、このようなデータを保存し、未知の化合物のスキャン・データと対比して未知の化合物を識別することができる。一部の対比アプローチでは、カーブ合わせを実施するが、他のアプローチでは、2つの隣接する電界強度及びVcomp条件における、特定のイオン種に対するイオン強度を判定する。2つのデータ点の間の勾配が計算され、特定のイオン種のシグネチャとして用いられる。測定ポイント及び測定ポイントの数は、特定の用途に必要な特異度に合わせて選定される。最少の測定ポイントの数は2であり、分かっている電界値に対し、化合物の特性カーブの少なくとも一つの(勾配のような)特徴を識別する。
【0062】
単一のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件を変化させ、単一又は複数のスキャンについて勾配及び/又はカーブ合わせを実施することにより、一部の用途に対しては十分に精度のある結果を提供することはできるが、本発明の一つの例示的実施形態において、複数のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件を変化させながら採取された複数スキャンからは、より改善した結果を得られることが認められる。例として、一つの例示的実施形態によって、本発明は、複数の値を通してVrfをステップさせ、複数Vrfの各々においてVcompをスキャンし、固有のデータ・セットを生成して化合物をよりうまく判別し、これによって、検知化合物のさらに精度の高い識別を提供する。このアプローチを用いて、対象となる化合物についてより精度の高いイオン移動度シグネチャの保存データを生成することができる。
【0063】
一つの例示的実施形態によれば、本発明は、複数のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件における、特定のイオン種のイオン存在度ピークのシフトに関する情報を、化合物に対するスペクトル・シグネチャに組み込む。さらに具体的にいえば、ある特定のVrf(Vrf1)におけるイオン存在度ピークを、ある特定のVcomp(Vcomp1)位置で検知することができる。しかしながら、第二Vrf(Vrf2)においては、存在度ピークは、シフトして第二Vcomp(Vcomp2)位置で検知することになる。本発明の一つの例示的実施形態は、多くの例おいて、VrfがVrf1からVrf2に変わるのに反応して生じるVcomp1からVcomp2へのイオンピーク・シフトは、特定のイオン種を表すことを認知する。未知の化合物の同様な測定結果を、スペクトル・シグネチャのこの部分と対比して未知化合物識別の助力とすることができる。
【0064】
図12は、Vrfが1400Vピークから1450Vピークに変化したことによる、Vcompスキャンでの前記イオン存在度スペクトルのシフトを示す例を図示したものである。図12において、1400VピークのVrfに対し、ピーク110−1、110−2、110−3及び110−4は、特定の補償電圧Vcompに生じているが、Vrfが1450Vピーク(29,000V/cmに相当する)に変化したのに反応してシフトし異なった補償電圧に位置している。図12から分かるように、Vrfの変化のような、電界条件の小さな変化でさえも、測定可能なイオンピークのシフトを引き起こすことができ、これにより、イオン・スペクトル・シグネチャに重要な追加情報を提供することができる。図12の具体例においては、未知の化合物を識別するため既知の化合物に対するイオン・スペクトル・シグネチャと対比するに際して、Vrf変化によるイオン・ピークのシフトが用いられている。
【0065】
図13A及び13Bは、どのように、イオン・スペクトルのシフトを用いて未知の種を識別するかを例示する実験例を示している。図13A及び13Bでは、約24000V/cmの電界強度において、p−、o−、及びm−サンプル中の3つの異なるキシレン異性体に対するピークが検知された。図13Aにおいて、p−とo−とに対するピークは区別できないが、m−に対するピークは十分明確になっている。サンプルをさらに評価するために、より低い18000V/cmの電界強度において第二検知(図13B)が実施された。図13Bで分かるように、電界強度の変化によるピークのシフトによって、キシレンの3つの異性体p−、o−、及びm−は、より明瞭に判別でき、より正確に識別できるようになっている。図13A及び13Bから分かるように、種の間のよりよい識別能は、必ずしもより高い電界強度を印加することでもたらされるものでない。さらに具体的には、この例において、p−及びo−キシレン異性体は、低い電界強度でより判別し易くなっている。
【0066】
別の例示的実施形態及び前記によって、本発明はある範囲の印加フィルタ電界/フロー・チャンネル条件に渡る検知データを生成する。例えば、図14A及び14Bは、ヘキサノン及びオクタノンに対し、図1中に10として描いた型のDMSを使って検知された、異なったVcompレベルにおける電界強度の変化の検知ピークの位置への影響を示す。カーブは、垂直軸上を変位し、電界強度が増大するにつれ変位幅も大きくなっている。さまざまな動作電圧の範囲が可能であるが、例示として、図14A及び14Bは低い方は約620Vピーク(各々の下限)から高い方は1450Vピーク(各々の上限)のピークVrfを提示していると理解することができる。この一連の反応においていくつかの特質に気付く。例えば、特に図14Aのヘキサノンのプロットを参照すると、個別対象の601−1のモノマー・ピークは、最低の電界強度条件では見えにくくなっている。しかしながら、最高の印加電界強度においては、ヘキサノンに対応するピーク601−mは、他のピークから明瞭に判別される。
【0067】
印加電界強度が増大するにつれ、いくつかの現象が生じている。第一に、低い電界強度検知域において反応物イオンピーク(RIP)605−1が比較的顕著になっている。但し、電界強度が増大するにつれ、RIP605−mは、対象のモノマー・イオンピーク601−mよりも速い割合で左にシフトする。これは、反応物イオン種に対するイオン移動度のαパラメータが、対象モノマー・イオンに対するイオン移動度のαパラメータと違っているためである。
【0068】
さらに、RIP605の相対的振幅は、電界強度の増大につれて、顕著に減少している。しかして、特定の電界強度条件では、RIP605−mは、対象のモノマー・ピーク601−mよりかなり低い振幅で、モノマー・ピークと十分に離れている。モノマー・ピーク601もシフトしているが、同じような量ほどにはシフトしない。このように、ある範囲の印加電界条件身渡って化合物を分析することによって、RIP605が他の観測ピーク電圧の位置尺度から離れるか又は外れ去る条件を見つけ出すことができる。いくつかののケースにおいて、このことにより、対称のモノマー・ピークイオン601をより容易に検知することができる。
【0069】
類似のふるまいが、オクタノンについて観測したモノマー・ピーク610−1、610−…、610−n、及び現れた反応物イオンピーク615−1から615−mにおいても観察される。このように、これらの方法を使い、反応カーブのファミリーを保存された既知の反応カーブのファミリーと対比することによって、種を識別することができる。
【0070】
図14A及び14B双方の中に観察される別の作用は、クラスター・イオン608及び610が見られることである。クラスター・イオン608は、サンプル中の化学材料のクラスターを表している。典型的クラスター・イオンは、より重い化学重量を有し、対象のモノマー・ピークイオンとは異なるシフトをするピークを持つ。この例では、クラスター・ピークは、電界強度の増大とともに、モノマー・ピークのシフト方向から離れる方向にシフトしている。また、このサンプルで観測されたクラスター・イオンのこの特性を保存し、ヘキサノン及び/又はオクタノンを見分ける際に活用することができる。図14A及び14Bに示したカーブは、ある範囲の電界/フロー・チャンネル条件を加えて所定のサンプルを検知するやり方を、どのようにうまく活用するかの単なる一例である。
【0071】
前記で簡潔に説明したように、一つの例示的実施形態によれば、本発明は、多次元の化合物シグネチャを用いて、未知の化合物の多次元表現と対比し、未知の化合物を識別し、さらに広く分析する。このような多次元表現は、例えば変化させた複数のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件の関数としてイオン存在度をプロットすることにより作成することができる。このような条件には、以下に限らないが、Vrf、Vcomp、フィルタ電界強度、Vrfデューティサイクル、Vrf波長及びVrf周波数;温度、圧力、湿度、流速、ドーピング及びキャリヤ・ガス組成が含まれる。また、多次元表現を、例えば、サンプルS及び/又はサンプルSを、一つ以上の追加DMS、IMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、又はLCMSを並列又は直列に使い、同一の又は異なるフロー・チャンネル/フィルタ電界条件において、サンプルSを再循環及び/又はサンプルSを進行処理することによっても得られる。一つの例示的実施形態によれば、多次元表現は、カラーの変化でz−座標を表した、x−及びy−空間座標を用いた、3次元散布プロットである。
【0072】
図15Aに、本発明の例示的実施形態による、異なるイオン強度(存在度)を異なるカラーで表した、ある範囲の電界電圧Vrf(y軸)及び電界補償電圧Vcomp(x軸)に対するメチルサリチル塩の検知を図示した3次元カラー散布プロット620を示す。カラー座標はさまざまであるが、図15Aの散布プロットでは、最高のイオン強度を青色、最低を黄色で表している。3次元カラー散布プロット620は、複数の、図15Bに示すような2次元グラフの集約データを表している。さらに具体的には、図15Bは、メチルサリチル塩に対する特定のVrfにおけるイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比プロット622を示す。複数の、例として2つ以上の、電界電圧Vrfにおいて採取した、複数の、例として2つ以上の、こういったグラフを集約して図11Aのカラー・プロット620を作成する。複数のフィルタ電界電圧Vrf(すなわち、電界強度)において採取された複数のスキャンを集約することによって、単一のVrfにおいて採取された単一のスキャンより判別度の高いスキャンが得られる。この一つの理由に、集約されたスキャンは、前記で説明した、Vrfの変化によって生じるピークのシフトが組み込まれていることがある。見られるように、図15Bの2つのピーク627及び629に対し、図15Aの3次元表現は3つのシグネチャ・ピーク621,621、及び635を提示している。
【0073】
散布プロットを用いることにより得られる分解能向上の効果は、似たようなイオン移動度特性を持つ化合物の間を判別する場合さらに明らかになる。例として、図16A及び16Bは、DMMPに対する正モード・プロット624及び626を示し、図17及び図18はDIMPに対する正モード・プロット628及び630を示す。さらに具体的には、図16B及び18は、それぞれ、DMMP及びDIMPに対する、特定のVrfにおけるイオン強度(y軸)とVcomp(y軸)との対比をプロットしている。示されるように、図16B及び18の双方とも、おおむね同一な電界補償電圧に位置し、類似の間隔で離れた、同じ程度の大きさの3つのピークを含んでいる。図16A及び17の個別プロット626及び630だけに基づいてDMMPとDIMPとを判別するのは、うまくいっても信頼性がなく、悪くすれば不可能である。しかしながら、図16A及び17を参照すると、3次元プロット624及び636は、視覚的に容易に判別可能である。
【0074】
さらに具体的には、図16AのDMMPカラー・プロット624は、3つのカラー・ピーク638,639及び640を示し、DIMPカラー・プロット628は、4つのカラー・ピーク631,632、634及び636を示している。ピーク638、639及び640は、ピーク631、634及び636とほとんど重なっているが、DIMPに対する4番目の青色ピークはDMMPに無いもので、DMMPスキャンをDIMPスキャンから容易に識別してくれる。また、カラー・プロット628のブランチ638と640とは、カラー・プロット624のブランチ638と640とより近接している。さらに、3次元カラー・プロット624のブランチ全体にわたるカラー分布(例、彩度)は、プロット628のブランチ全体にわたるカラー分布と同じではない。前記に説明したシグネチャ・スキャンの場合のように、図15A−18に図示したような種類の3次元シグネチャ・スキャンを、既知の化合物に対するライブラリに保存することができる。保存された一つ以上のスキャンの少なくとも一部を、未知の種の同様なスキャンの少なくとも一部と対比して、未知の種を識別し、広く分析することができる。こういった対比のために、従来式のパターン整合アプローチを含め、任意の適切なパターン整合を用いることができる。
【0075】
前記で説明した図15A、16A及び17の散布プロットは、強度の表示にカラー変化を用いているが、これに換えて、又はこれと組み合わせて、色彩度、グレイ・スケール又は黒白のような任意のカラー関連特性の変化を用いることができることに注目すべきである。加えて、さらなる例示的実施形態において、本発明は、カラー関連情報を使わないで、強度ピークの周りに曲線を生成する。例として、この例示的実施形態において、例えば、カラー関連情報なしに、強度ピーク632、634及び636の輪郭を残すことができよう。カラー関連情報を除去することにより、例えば、複数のVrf値における複数のVcompスキャンの集約から得られたスペクトル情報を取り入れた、VrfとVcompとを対比した2次元散布の表現が得られる。この2次元情報のどれか又はすべてを、前記説明のシグネチャ情報に組み込むことができる。
【0076】
前記のように、さまざまな例示的対比アプローチにおいて、例えば前記の2次元及び/又は3次元散布プロットを使ったパターン整合を用いることができる。しかしながら、他の例示的実施形態において、散布プロットによって得られた情報を、数学的関係としてライブラリに保存し、このような数学的関係を対比するため、適切な在来のアプローチを用いて未知の種を識別する。
【0077】
別の例示的実施形態によれば、Vcompをx軸に、Vrfをy軸に、イオン強度をz軸にプロットすることができる。これにより、3次元カラー・プロット620、624及び628のように、イオン強度を色彩度、グレイ・スケール又は黒白の変化で示す代わりに、イオン強度を、トポグラフ的方法で、描写/概念化することができる。また、この種の多次元シグネチャ表現を、既知種のライブラリに保存し、前記のイオン移動度シグネチャと同じやり方で使うことができる。本発明の他の実施形態において、3より多くの次元を採用し、例えば、n次元空間におけるクラスターとしてスペクトル・データをプロットし、知られたクラスター整合アルゴリズムを用いることができる。
【0078】
図5のプロセッサ46のようなプロセッサを、従来の方式でプログラムし、システム10のような分析装置の電界電圧Vrf及びスキャンVcompの範囲を自動的にステップさせ、そのデータを、ディスプレイ、又は3次元散布プロット生成処理ために他のシステムに提供させることができる。
【0079】
比較的に高い電界強度を印加することによって別の解析改善効果が見られる。具体的には、例えば、サンプルに高い電界強度を印加することによって複雑なイオン集合体を解離することができる。サンプル解離は、種の分離、検知、及び識別を向上させるための有用な技法である。解離には、サンプルの検知に先立って、サンプルの大きな分子を、小さな分子、成分、又はフラグメントに分断するプロセスが含まれる。これにより集合体の成分を個別に検知し、さらに広く分析することができる。
【0080】
図19は、メルカプタンのサンプルに対するそういった効果の例である。具体的には、ある範囲のバックグラウンド電圧(620から1450Vピークまで)が、エチルメルカプタンに印加され、電界強度条件が強まるにつれイオンピーク反応の全体的シフトが見られた。しかしながら、解離状態も観察された。具体的には、弱い印加電界条件では、701−1におけるような強い単一のピークが観察される。しかしながら、しかし電界強度が増大するにつれ、スペクトル中に、複数のピーク701−n、702、…710が見られるようになる。低い電圧の電界強度においてだけでなく、ある範囲の電界条件を観測し記録することによって、さらにこの解離反応を活用して、よりうまく化合物を識別することができる。一つの形態によれば、解離が発生するピークRF電圧を示すデータを、保存された既知のサンプルに対するスペクトル・シグネチャに組み込む。別の形態によれば、前記とともにあるいはその代わりに、フラグメントのピークの位置を、今後、検知データと既知のデータとの照合に使用するため、保存されたスペクトル・シグネチャに組み込む。
【0081】
図20Aは、本発明の例示的実施形態による、軽い分子と重い分子との間での、検知ピークの異なる補償電圧への分離を例示した、イオン強度(y軸)と電界補償電圧Vcomp(x軸)との対比グラフ712である。グラフ712は、RIPバックグラウンド・ピーク714に関連する軽い分子は、無特定な−30Vdc補償電圧において識別することができ、重い分子は、0Vdc補償電圧あたりに集まりピークを形成する傾向があることを示している。重い分子のサンプルを解離し、例えば、DMS又はIMSシステムを使ってフラグメントを検知することにより、各ピークが一つのフラグメントに関連する複数のイオン強度ピークを使ってサンプル固有のシグネチャを作成し、そのサンプルの後の識別を可能にすることができる。サンプルの解離は、例えば、以下に限らないが、化学反応、高い強度における高エネルギー電界、高い電界電圧、加熱、レーザ光、サンプル分子と他の分子との衝突、ソフトx線、又は類似技法の任意の一つ又はこれらの組み合わせを使って達成することができる。
【0082】
図20Bは、本発明の例示的実施形態による、サンプル解離後の検知ピークの数の増加を示したイオン強度(y軸)と電界補償電圧(x軸)との対比グラフ718である。グラフ718は、フラグメントはより軽く、従ってより低い質量とより高い対応補償電圧を有し、フラグメントの間の分解能及び区別の改善をもたらすことを示している。また、グラフ718は、フラグメント・サンプルに関連するピーク720の数の増加を示し、これにより、化合物を同定するために使うことのできる全体的なデータが増える。追加された検知データにより、例えば検知されたシグネチャをルックアップ表中のシグネチャのセットと対比したり、本明細書で開示した他の技法によるなどして、検知された種のより正確な識別が可能になる。
【0083】
図21は、本発明の例示的実施形態による、二十チャンネル検知システム748の概念的ブロック図であって、これは、解離を用い第一チャンネルを形成する第一DMSシステム722と、並列に作動している、解離を用いない第二チャンネルを形成する第二DMSシステム724とを包含する。図示するように、DMSシステム724は、サンプル取入れ口726、イオン化域728、イオン源730、イオン分析部(analyzer)域732、及び出口734を含む。同様に、DMSシステム722は、サンプル取入れ口736、イオン化域738、イオン源740、イオン分析部域742、及び出口744を含む。但し、DMSシステム722は、イオン化域738内に解離エネルギー源746も含んでいる。それぞれのイオン分析部域732と742とは、DMSフィルタ及び検知器を含み、サンプルの検知と識別とができるようにしている。作動において、二重チャンネル検知システム748は、DMSシステム722と724とを、並行して、同時に、又は交互に作動させる。DMS724については、サンプルSは、サンプル取入れ口726を経由してイオン化域728に取り入れられる。そこでイオン化源730はサンプルSを正及び/又は負イオンにイオン化することができ、イオンは次にイオン分析部域732に送られる。イオン分析部域732ではサンプルのフィルタと検知とが実施され、そこで、サンプルは出口734を経由してDMSシステム724を抜け出す。DMSシステムもDMS724と同様な方法で作動するが、追加されている解離源746作動を伴う。これにより、サンプルSがDMS724のイオン化域738に入ると、解離源746は、サンプルS分子を、より軽くて低質量の分子に開裂/解離する。これらより軽量の分子は、そこでイオン分析部域742に送られフィルタされ検知される。
【0084】
このように、DMSシステム722及び724を用いる二重チャンネル検知システム748は、サンプルSとそのフラグメントをほぼ同時に分析し、より複雑なサンプルのシグネチャを生成することによって、サンプル分析を改善することができる。これに換えて、二重チャンネル検知システム748は、検知されるサンプルの種、及び他の干渉物質又は化合物とのより正確な分別の必要性によっては、解離スペクトルを選択的に対比することができる。
【0085】
図22は、本発明の例示的実施形態による、サンプル分析を改善するため、解離を用いないDMSシステム750と、これと直列に作動する、解離を用いるDMSシステム752との概念図である。DMSシステム750と752との結合により、直列検知システム754が形成される。図示するように、直列検知システム754は、サンプル取入れ口756、DMSシステム750、DMSシステム752及び出口758を含む。DMSシステム750は、イオン化域760、イオン源762、イオン・フィルタ764、及び検知器766を含む。DMSシステム752は、イオン化域768、イオン源770、解離源772、イオン・フィルタ774、及び検知器776を含む。
【0086】
作動において、サンプルSは、サンプル取入れ口756を経由して直列検知システム754に取り入れられる。DMS750は、イオン化域内のイオン化源を使ってサンプルSをイオン化する。そこで、イオン化されたサンプルSはイオン・フィルタ764に送られる。イオン・フィルタ764は、サンプルSに電界及び電界補償電圧のある組み合わせを印加して、選択したイオンが検知器766に到達し検知されるようにする。
【0087】
図23Aは、DMSシステム750におけるピーク検知を示したイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比グラフ778である。前に示したように、解離が生じない場合には、比較的重いサンプル分子が集合して、Vcomp=約0Vdcあたりにピーク780を形成する。
【0088】
DMSシステム750による分析の後、サンプルSはDMSシステム752に送られ、サンプルSはイオン化源770によってイオン化され、また、解離源772によって解離される。解離源772を、比較的大きなサンプル分子を複数のフラグメント分子、フラグメント、成分、又は原子に分割するのに十分なエネルギーを持つ、放射能源、高エネルギー電圧源又は類似の装置とすることができる。次に、フラグメントはイオン・フィルタ774に送られ、複数のフィルタ電界条件によるフィルタ電界電圧Vrfと電界補償電圧Vcompとの組み合わせがフラグメントに印加され、それらを、検知器776による検知の前にフィルタする。
【0089】
図23Bは、図22の解離を用いるDMSシステム752におけるピーク検知を示したイオン強度と補償電圧との対比グラフ782である。前に示したように、解離が生じる場合には、比較的軽量のフラグメントはさまざまの別個の電界補償電圧Vcompにおいて複数のイオン強度ピーク784を形成する。
【0090】
このように、DMSシステム750及び752を用いた直列検知システム754は、サンプルSとそのフラグメントとを直列的に検知して、サンプルのさらに完全なシグネチャ又は固有形跡を生成することによってサンプル分析を向上することができる。これに換えて、直列検知システム754に、検知されるサンプルの種、及び他の干渉物質又は化合物とのより明確な分別の必要性によって選択的に解離スペクトルを対比させることもできる。
【0091】
図24は、本発明の例示的実施形態による、解離域792を含むDMSシステム786の概念的ブロック図である。図示するように、DMSシステム786は、サンプル導入域788、イオン化域790、解離域792、解離源806、解離用ガス取入れ口794、搬送ガス取入れ口796、イオン・フィルタ798、検知器800、及びコントローラ812を含む。イオン化源802を、解離域792内にオプションとして配置することができる。イオン化源804をイオン・フィルタ域798内にオプションとして配置することができる。
【0092】
作動において、サンプルSはサンプル導入域788に取り入れられる。サンプル導入域788は、サンプルSの前分離を実施し、干渉物質又は望ましくない化合物の量を削減することができる。そこでイオン化源808はイオン化域790中のサンプルSをイオン化する。サンプルSが解離域792に送られると、解離源806は、サンプルSの比較的重い分子を複数の軽いフラグメントに解離する。これに換えて、解離用ガスライン794を経由して、フラグメント分子を含む解離用ガスを解離域792に取り入れることができる。解離用ガス分子は、サンプルS分子とぶつかり、サンプルS分子の一部をサンプルSフラグメントに分割する。
【0093】
解離の後、キャリヤ・ガスCGのような搬送ガスを搬送ガス取入れ口796を経由して取り入れてサンプルSフラグメントをイオン・フィルタ798に供給する。フィルタの後、次にフラグメントは検知器800によって検知される。イオン化源802を、オプションとして解離域792内に配置することができる。さらに、前に記載した例示的実施形態のすべての場合におけるように、解離源806は、イオン化源として追加機能することができる。イオン化源804を、オプションとしてイオン・フィルタ798内に配置することができる。さらにまた、イオン・フィルタ798は、解離源810もしくはイオン化源804のいずれかとして機能することもできる。
【0094】
前記の実施形態は、別々のイオン化及び解離源を参照しているが、他の例示的実施形態において、単一の源泉が、イオン化及び解離双方の役割をかねることができることに注目すべきである。さらに、前記の解離アプローチのどれをも、図21、22及び24の解離源に追加して、あるいはこれらに換えて用いることができる。コントローラ821は、必要に応じ、解離源806を作動又は停止することによって、あるいは、解離用ガスを解離用ガス取入れ口794経由して取入れ又は取り入れないことによって、解離作業のオン・オフを切り替えることができる。
【0095】
前記の解離技法及びこれらの解離技法を実行するシステムを使って、以下に限らないが、下記としても知られるサリン・ガスのような、サンプルSの検知度を向上させることができる。
【0096】
・GB
・ザリン
・ホスホノフルオリディック酸、メチル−、イソプロピルエステル
・ホスホノフルオリディック酸、メチル−、1−メチルエーテルエステル
・イソプロピルメチルホスホノフルオリダート
・メチルホスホノフルオリディック酸のイソプロピルエステル
・メチルイソプロポスフルオロホスフィン酸
・イソプロピル・メチルフルオロホスホネート
・0−イソプロピル・メチルイソpロポクスフルオロホスフェインオキサイド
・0−イソプロピル・メチルホスホノフルオリデート
・メチルフルオロホスホニック酸、イソプロピルエステル
・イソプロポシメチルホスホニルフッ化物
サリンは、無色、無臭のガスであって、成人に対し、0.5ミリグラムの致死量を持つ。これは青酸ガスの26倍を超える致死性であり、青酸カリの20倍を超える致死性である。針先ほどの小滴中の、キログラム体重あたりわずか0.01ミリグラムで人を殺すことができる。
【0097】
図25は、本発明の例示的実施形態による、図15A−18に関連して前記に説明したタイプの3次元カラー散布プロット814であり、ある範囲の電界電圧Vrf及び電界補償電圧Vcompに対する物質GAの検知を、異なるイオン強度を異なるカラーで表現しながら図示している。カラー散布プロット814は、例えば、GAサンプルを0.14ng/l濃度において解離するためのNi63イオン化源を持つDMSシステム786を使って検知した、物質GAのフラグメントを表すブランチ816、818、820、及び822を含む。ブランチ840は解離前の元のピークを現している。
【0098】
図26A−26Hは、それぞれ特定のVrfにおけるイオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比2次元グラフ824、826、828、830、832、834、836、及び838を図示したものである。図15A−18に関連して前記したように、2次元グラフ824、826、828、830、832、834、836、及び838は、図25の3次元カラー散布プロット814に集約されている。前に説明したように、カラー散布プロット814は、例えば、Vrfの変化に起因するピークのシフトを取り入れいるという要因、及び3次元カラー散布プロット814のカラーの特質によって、特定イオン種のシグネチャのふるまいを、他のイオン種に対して、特に解離後においてより明瞭にするという要因によって、物質GA又はGBのような特定の種の分析プロセスを向上させる。
【0099】
図15A、16A、及び17に関連して前記したように、図25の散布プロットに、図示したカラーの変化に替えて、色彩度、グレースケール変化、黒白変化及び/又はピーク輪郭を用いることができる。
【0100】
本明細書に記載する解離技法は、DMSシステムに限定されるものでなく、イオン移動度分光分析(IMS)、飛行時間型(TOF)IMS、ガスクロマトグラフ(GC)、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法、質量分析(MS)、液体クロマトグラフ質量分析(LCMS)、表面音波(SAW)センサ、及び類似の技法のような他の移動度ベースの検知システムを用いることができる。
【0101】
イオン種の検知、識別及び広く分析を改善する別の技法においては、本明細書に記載したいずれかのような移動度ベースの検知システムを、大気より低い気圧で作動させる。大気より低い気圧での作動によって、イオン強度検知ピーク間の分離は大きくなり、ピークの幅は狭くなる。このことにより分解能の向上が得られ、システムの判別能及び感度の向上がもたらされる。例えば、DMSシステムをさまざまな圧力条件で作動させることによって、圧力に対するイオン種の反応の変化を測定し、イオン種を識別するために別の特性として使うことができる。さまざまな例示的実施形態によって、本発明は、約.2と約.9気圧との間、約.3気圧より低い、約.4気圧より低い、約5.気圧より低い、約.6気圧より低い、約.7気圧より低い、又は約.8気圧より低い圧力でイオン・スキャンを実施する。
【0102】
図27Aは、本発明の例示的実施形態による、DMSシステムの正イオン・モードで検知した複数の圧力に対するバックグラウンド(RIP)イオン強度と電界補償電圧との対比グラフ840である。グラフ840は、DMSシステム内の圧力を調整する際、電界電圧を調整して、イオン強度ピークを同じ補償電圧位置の維持することができることを示している。さらに具体的には、グラフ840によれば、圧力が低下するに応じ、電界電圧が低下して種に対するイオン強度ピークを同じ補償電圧に維持する。さらに、より低い圧力における圧力変化に対して一定の補償電圧を維持するためには、電界電圧のより大きな変化が必要となっている。例えば、圧力を760mmHGから655mmHgに約100mHg低下させた時は、電界電圧の低減は、約1050Vピーク値から約1010Vピーク値へのおおよそ40Vピーク値である。大体同じ幅の665mmHgから556mmHgへの圧力低下に対して、Vrfの低減は約1100Vピークから約920Vピークへのおおよそ90Vピークである。このように、600mmHg値域における圧力の変化に対する電界電圧の低減はおおよそ2倍であり、このことは、低い圧力において分解能が向上することを示している。
【0103】
図27Bは、本発明の例示的実施形態による、DMSシステムの負イオン・モードで検知した複数の圧力に対するバックグラウンド(RIP)イオン強度と電界補償電圧との対比グラフ842である。正モード・グラフ840と同様に、グラフ842は、負検知モードにおいて、DMSシステム内の圧力を調整する際、電界電圧を調整して、イオン強度ピークを同じ補償電圧位置に維持することができることを示している。
【0104】
グラフ840とグラフ842とを比べて分かるように、同じ圧力及び電界電圧において、グラフ840の正モードイオン強度ピークとグラフ842の負モードイオン強度ピークとの間で、イオン強度ピークにオフセットがある。このオフセットにより、イオン種に対する、正モードと負モード検知との間におけるアルファ・パラメータの差異を表すことができる。アルファ・パラメータについては後記でさらに詳細を説明する。グラフ840及び842におけるDMSの流速は、おおよそ300cc/分である。
【0105】
図28A及び28Bは、本発明の例示的実施形態により、それぞれ、圧力の低下により生じた、正及び負バックグラウンド・スペクトルそれぞれに対する計量的影響を示すイオン強度(y軸)と圧力(x軸)との対比グラフ844及び846を図示したものである。さらに具体的には、グラフ844は、圧力が約0.3気圧(atm)低下すると電界電圧は約50%低減されることを示している。また、グラフ846も、約0.3気圧(atm)の圧力低下に対し、同様に約50%の電界電圧低減を示している。
【0106】
図29A及び29Bは、それぞれ、複数の圧力に対するイオン強度(y軸)と電界補償電圧(x軸)との対比グラフ848及び850図示したものであって、いろいろな圧力の、負及び正のター−ブチルカプタン又はター−ブチルリチオル(TBM)のスペクトルへの影響をそれぞれ示している。グラフ848及び850が、特定の電界補償電圧に対し、圧力が低下するにつれ電界電圧は低減していることを示しており、一方、グラフ848及び850は、TBMスペクトルに対するイオン強度位置が、グラフ840及び842のバックグラウンド(RIP)スペクトルに対するイオン強度ピークのシフトとは反対の方向にシフトしていることをも示している。さらに、グラフ848及び850中のTBMスペクトルに対するイオン強度ピークの繁華のレベルは、グラフ840及び842中のバックグラウンド・スペクトルに対するイオン強度ピーク変化のレベルより小さい。
【0107】
図30A及び30Bは、イオン強度(y軸)と圧力(x軸)との対比を示すグラフ852及び854を図示したものであり、それぞれ、圧力変化が負及び正のTBMイオンピーク・パラメータに及ぼす影響を示す。さらに具体的には、グラフ852は、負イオン・スペクトルに対して、圧力が変化しても、イオン強度ピークは比較的一定にとどまることを示している。グラフ854は、正イオンスペクトルに対して、イオン強度ピークは比較的一定にとどまるが、低圧力域でわずかな低下があることを示している。圧力の変化は、バックグラウンド(RIP)と検体のスペクトルに違った影響を及ぼすので、DMSシステムの能力を向上させるようなやり方で、圧力を操作し、調整し、又は他の方法で制御して、バックグラウンド・スペクトルの干渉の悪影響を最小にしながら、より高い分解能でイオン種を検知し、識別することができる。
【0108】
一部の実施形態において、電界強度とガス密度N又は圧力Pとの比率、ここでこの比率をE/N又はE/Pと表すものとし、これを一定に維持することによって、均一な検知結果を維持することが望ましいことがある。これにより、DMSシステム内のガス動作圧力が低下した場合、これに応じて電界電圧を低下させ一定のE/N又はE/Pを維持する。この電界電圧の低減は、電力消費の減少につながり、これが、小型、軽量、及び低コストの検知システムをもたらす。
【0109】
図31は、低減された圧力が、DMMP、DIMP、及びMSのような化学兵器の検体ピークに及ぼす影響を示したグラフ856である。最上部のグラフ857は、大気圧でのイオン強度測定結果を示し、その下部の2つのグラフ859及び861は、それぞれ、0.65及び0.5atmにおける結果を示している。最上部のスペクトルは、電界電圧Vrf=約1000Vピーク、1atmの下で、約10Vdcの電界補償電圧の値域において、DIMPのモノマー及び二量体のクラスターのオーバーラップ858を示している。しかし、0.65atm、Vrf=約800Vピークの下では、モノマー・ピーク860はVcomp=約−3V、クラスター・ピーク862はVcomp=約+1ボルトと、モノマー・ピーク860とクラスター・ピーク862とは分離されている。0.5atm、Vrf=約800Vピークの下では、DIMPモノマー・ピーク864及びDIMクラスター・ピーク866はそれぞれ細幅となり、ピーク864と866とは、それぞれ、Vcomp=約−2.5Vdcと+1Vdcとにある。0.5atmにおいて細くなったピーク864及び866は、DMSシステムにより高い分解能をもたらす。
【0110】
図32A−32Dは、それぞれ、イオン強度(y軸)とVcomp(x軸)との対比を示すグラフ868、870、872,及び874を表す。グラフ868、870、872,及び874は、本発明の例示的実施形態による、低減された圧力での物質GFに対する改善された検知分解能を示している。グラフ868及び870は、それぞれ、1atmの下で1500及び1000VピークのVrfにおける物質GFのイオン強度スペクトルを示す。グラフ872及び874は、それぞれ、0.5atmの下で1000及び750VピークのVrfにおける物質GFのイオン強度スペクトルを示す。グラフ870では、Vrf=約1000Vピークにおいて、ピーク876の箇所でモノマーと二量体のピークがオーバーラップしている。しかしながら、グラフ868では、Vrf=約1500Vピークにおいて、モノマー・ピーク878と二量体ピーク880とは分離している。このように、電界電圧(Vrf)を上昇させることによって、DMSシステムの分解能を向上することができる。
【0111】
グラフ872において、Vrfを約100Vピークとして、DMSシステムの圧力は約0.5atmに低減されている。グラフ872には、一切の二量体から明瞭に分離されたモノマー・ピーク882が示されている、というのも、クラスター又は二量体RIPピークはグラフ872の枠外となるからである。グラフ874において、システム圧力約0.5atmの下で、電界電圧は約750Vピークに低減されている。グラフ874は、二量体ピーク886及びRIPピーク888から明瞭に分離されたGFモノマー・ピーク884を示している。このように、低減された圧力、低減された電界電圧、従って低減された電力を用いたDMSシステムを使い、グラフ874に例示したシグネチャ・ピークによってGFを検知し、識別することができる。
【0112】
前記のように、3次元カラー散布プロットを使い、ユーザ又はパターン認識プログラムが、カラー・パターンを既知の化合物についての類似のカラー・パターンのライブラリと照合できるようにして、DMSシステムが対象のイオン種を検知し、識別する能力を大幅に高めることができる。
【0113】
図33は、約0.65atmの下で、ある範囲の電界電圧、ガス密度(E/N)及び電界補償電圧に対して、0.005mg/m3の正イオンの強度を描いた3次元カラー散布プロット890である。図に示されるように、ガス密度x軸にプロットされ、Vcompはy軸にプロットされ、密度の変化は色の変化で表されている。プロット890は、顕著なブランチ392、894、及び896を含む。
【0114】
図34は、約0.5atmの低減された圧力の下で採取されたことを除き、図33と同様な情報をプロットしている。プロット898に示されるように、プロット890に比して低減された圧力により、さらに大幅に顕著になったブランチ900、902、及び904がもたらされ、しかして、より向上した分解能が得られる。
【0115】
図35は、フラグメント・サンプルに対して約0.5atmで作動するDMSシステムによる、相対湿度(RH)=約87%における、約0.85mg/m3の物質GBのRIPに対する正(906)及び負(908)モード3次元カラー散布プロットを表すグラフである。負モード・プロット908は、単一の強いRIPのブランチ909だけを示しているが、正モード・プロット906は、太いバックグラウンドRIPブランチ905の右側に2本の強いトレースの検体ピーク901及び903を示している。このように、サンプルの正及び負イオン種の双方に対する3次元グラフをプロットすることにより、正又は負モード測定どちらかだけの3次元プロットよりもさらに充実したイオン種の識別が得られる。
【0116】
前記で説明したように、3次元カラー散布プロット906及び908は、ブランチ、すなわちピークプロット又はトレース中の不連続点をも示すことができ、これも種の識別に有用である。例えば、プロット906はトレース、すなわちブランチ901中に切れ目を含んでおり、これを、今後の対比のため保存するシグネチャの一部に含めることができる。
【0117】
図15A、16A、17及び25に関連して前に記載したように、図33及び35に、表示されているカラーの変化に換えて、色彩度、グレースケール変化、黒白変化、及び/又はピーク輪郭を用いることができる。
【0118】
別の形態によれば、前記分析識別アプローチを、装置の種類にかかわりなく実施することができる。図36A及び36Bは、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノンを含むケトン類の同属群に対する実験検知データを示す。図37及び38は、それぞれ、前記したケトン種に対するモノマーとクラスターとを示す表である。図36A及び36Bに示すように、各々の種は、所定の電界条件セットに対して、固有の移動度カーブを持ち、しかして固有の移動度シグネチャを持っている。前記のように、複数のやり方のどれによっても、移動度シグネチャを取得し、精度向上することができる。しかしながら、識別プロセスを、装置に左右されないようにすることによって、さらに向上することができる。装置に左右されないようにすることで、任意の装置で使えるシグネチャ・データを生成することができる。一つの例示的実施形態によれば、本発明は、各々の種に関連する基本的移動度係数から導かれた関数のパラメータを算定することによって、これを達成する。
【0119】
従って、例えば、図36A、36B、37及び48に表されている複数データの各々を使い、これらの種を識別している固有の内在的移動度特性によって、検知された種の確実な識別を得ることができる。一つの形態によれば、対象となる装置に特有の参照ライブラリと対比することができるが、しかしまた、装置に依存しない共通的なデータセットと対比することもできる。このように、通常、存在度と補償電圧との対比カーブの個別のプロットだけを対比するのは望まれず、それよりも、検知されたイオン各々に対してのカーブ、勾配、符号、及びさまざまな内容を、参照データのライブラリと対比しできるように、各特定の補償電圧に対して観測されたピークのプロットが生成される。
【0120】
さらに具体的には、移動度シグネチャ計算の中で、私たちは電界の関数として表されるイオン移動度の電界依存性の表現式、いわゆるα係数を使って、対象種に内在する固有のα関数を生成し、これが装置に左右されないことを発見した。このように、α関数を、種に固有のシグネチャとして使うことができ、この関数を、イオン種に対する特徴的シグネチャ、及び装置に依存しない関数の双方として表すことができる。簡潔にいえば、一つの形態により、スペクトル・ピークは、相異なるアルファ・シグネチャを持ち、シグネチャの様態によってその位置を変化させることを、本発明は認知する。
【0121】
一つの例示的実施形態において、本発明は、検知された種に対して、α関数を移動度シグネチャとして用いる。使用されている電界条件に基づいて、検知された未知の化合物に対するシグネチャが算定され、次にこれを用いて、既知の化合物に関して保存された既知のシグネチャ・データのルックアップ表に従って識別する。さらに具体的には、本発明の好適な実践において、さまざまな電界条件の下での種の移動度依存性に基づいてイオン種を識別する。試験されるサンプルに対して少なくとも2つの電界条件におけるデータを採取し、データを処理し、試験サンプルに対するα関数として計算された検知データを、保存データと対比し擦ることによりサンプル中の化合物を識別することができる。
【0122】
α関数の論議を再度参照すると、図3は、αが0より大、0に等しい及び0より小の種に対して示された電界依存性の移動度(高電界側での移動性係数αとして表されている)を持つ3つのイオン例に対する、移動度と電界強度との対比プロットである。電界条件の任意の所定セットに対して、電界強度及び補償をα値と関連付けることができる。このことは、Buryakovほかの論文、A New Method Of Separation Of Multi−Atomic Ions By Mobility At Atomospheric Pressure Using A High−Frequency Amplitude Asymmetric Stron Electric Field、Intl J.MassSpec and Ion Proc.(1993)、145頁に示されている。
【0123】
私たちは、特定の電界強度におけるαパラメータを知るだけでは、誤った「存在肯定」が防止されないことを観測した。このことは、図4中の2つのプロットの交差部分、参照数字100で示された箇所で生じることがある。この位置におけるそれぞれのイオン種に対するαパラメータについての知見だけでは、それ以上の情報がなければ、双方の化合物に対する固有の移動度シグネチャは得られない。しかして、それ以上何もしなければ、この交差部分での、どんな数の読み取り値も、検知エラーにつながる可能性が高い。
【0124】
しかしながら、また、私たちは、イオンのα移動度特性を電界の関数すなわちα(E)としても表すことができ、イオン種に対する、装置依存性のない固有の移動度シグネチャを定義できることを発見した。このα(E)すなわち「α関数」は、イオンの大きさ、実効断面、形状、及び質量を電界条件と関連付ける。印加電界が増大するにつれ、増大した電界は、イオンの化学結合を変位させ、引き伸ばし及び/又は分断する性向があり、電界が強いほど、誘発されたイオンの双極子、四極子、又はそれより高次のモーメントが増加する。これらが今度は特定のイオンの相対的移動度に影響を与える。これらの様相に関連する結果から対象イオン種に対する固有の移動度シグネチャが規定される。また、これに装置依存性がないことも判明している。
【0125】
α(E)関数の電界条件に対する関係は次式で示される。
【0126】
【数1】
ここで、Vcomp(ピークの位置);Es−電界強度;f(t)−波形パラメータ(波形など)。
【0127】
このように、各々のスペクトル検知に対して、電界条件の関数としてα、すなわちα(E)を計算することができる。具体的には、平面電界非対称波形移動度分光計における非対称波形、Emax(t)=Emaxf(t)は、次の条件を満たすように設定される。
【0128】
【数2】
【0129】
【数3】
ここで、f(t)は、波形を表現する正規化関数であり、Emaxは波形の最大振幅である。波形は、その平均がゼロ(式3a)となり、1周期の間に電界の極性が正及び負の双方を取るように設定される。補償電界Cを波形Es(t)に加えることにより4式を得る。
【0130】
【数4】
非対称波形の周期における平均イオン速度は次式のように書ける。
【0131】
【数5】
平均速度ゼロ、v=0のイオンだけが、中性化されずにギャップを通過することになる。イオンがギャップを通過できるために必要な補償電界に対する式は、式6に示すように、式2、3、及び4を式5に代入して得ることができる。
【0132】
【数6】
この補償電界の値は、イオン種に対するアルファ・パラメータ、波形f(t)、及び非対称波形Emaxの振幅が分かれば正確に予測することができる。
【0133】
このように、移動度スキャンの電界依存性の実験測定からα(E)導き出す手順が分かる。この節において、アルファ・パラメータに関するいくつかのさらなる考察及びこのパラメータを算定する方法を説明する。まず、アルファ・パラメータは関数であって(数値でなく)、イオンについての物理的及び化学的情報はα(E)カーブの形状に包含されていることを強調しておかなければならない。このカーブを表す方法は主題に付随する。これらの方法において重要な唯一の基準は、移動度について計算された値(すなわち、K(E)=K{1+α(E)})が実験値とできるだけ近似しているべきことである。α(E)に対する関数を、べき級数としてさえ、又は複雑な形で表すことができる。いずれの場合においても、実験結果のカーブと計算のカーブとがよく一致しているべきである。しかして、本近似法の質は実験結果の精度に制限され、これは例示している。2つのパラメータ、3つのパラメータ、又は5つのパラメータによる非線形関数に基づくモデルの質を見分けるのは困難であった。すべての近似法は、ΔC1の誤差(±9%)以内に位置していた。
【0134】
本明細書において、α(E)の関数を表現するための簡明で一定した方法を説明するが、これは異なった条件の下で得られた結果の比較に適していよう。これらの方法は、異なった非対称波形又は異なる設計のIMSドリフトチューブ:線形、円筒型又は平面型DMSにも用いることができよう。一般に、アルファの近似のレベルを選択する基準は、まず、アルファ・パラメータを抽出した方法に、最少数の実験装置の個別パラメータしか用いていないのを確実にすることである。第二に、結果には最少数の調整可能パラメータしか包含されるべきでなく、近似カーブは、実験誤差の制限以内にあるべきである。次の節において、アルファ・パラメータを抽出するための一般的方法を説明し、その後の節で応用する。
【0135】
α(E)の関数は、式7で示されるように、電界強度E次数の級数の多項式展開として与えられる。
【0136】
【数7】
式7を式6に代入して、式8に示されるように、奇多項関数を偶多項関数で除して補償電圧の値が得られる。しかして、偶次数の多項式は、識別符号の後に置かれ実験結果を近似する。
【0137】
【数8】
これにより、式9に示すように、予測係数(近似計算された)をアルファ・パラメータの値と対比することが可能になる。
【0138】
【数9】
これに換えて、式10に従って、実験結果の近似を用い、式を反転することによってアルファ・パラメータを計算することができる。
【0139】
【数10】
実験結果における多項式の項の数として実際上の限界は存在するが、原則として、式10の多項式に任意の数の項(例えば2n)を設定することができ、近似項c2n+1の次数はアルファ係数α2nの予測数よりも高くすべきである。nの大きさは実験誤差いかんによるので、実験カーブC(Es)の近似式の次数を、際限なく増加させることはできない。通常、同一のイオン種に対しCi(Esi)でのNの実験ポイントが存在し、実験データを、従来の最小二乗法を使った多項式によって近似することができる。最後になるが、級数の項の数は、実験ポイントの数を上回ることはできず、級数の項の数を、当てはめカーブが実験誤差の制限以内に位置するポイントの数を超えて増やすことは不合理である。実際面では、前記の検知データに示したような良好な近似を得るために、2つ又は3つの項で十分である。アルファに対する多項式の次数を見積もるために、測定値の中の誤差を判断しなければならない。これらの実験における誤差(判明している又は推定される誤差)の源泉は以下のようであった。
【0140】
1.測定及びRF電界振幅のモデリングに関連する誤差(〜5%)、
2.式4の一次近似によるC(Es)中の誤差(〜3%)、及び
3.補償電圧の測定の中の誤差(〜5−8%)
おおよその誤差は〜10%程度であり、多項式の2つより上の項による利得はなく、そこでアルファは、測定値が許す限りの良好さの精度レベルで、α(E/N)=1+α1(E/N)2+α2(E/N)4と表すことができる。
【0141】
標準の最小二乗法(回帰分析)を使って、実験での調査結果を近似し又はモデル化した。Ci(Esi)でのNの実験ポイント及びC=c3S3+c5S5に対し、関数y=c3+c5xが定義され、ここで、y=C/S3;x=S2、c5及びc3は、それぞれ式11及び12により与えられる。
【0142】
【数11】
式13及び14に従い、実験値c3、c5を代入することによって、α2及びα4の値を求めることができる。
【0143】
【数12】
α2nを計算するために、C(Es)及び関数f(t)(これは非対称波形を表現している正規化関数である)に対する実験カーブの近似式についての知識が必要となる。
【0144】
例えば、図37及び38の表に収集されたデータに基づいた図36A、36B、37、及び38の8つのケトン類の各々に対し9つのデータ・ポイントが識別された。これらを使って、αカーブへの区分的な線形近似を使うなどして、その種に対するαカーブを計算することができる。例えば、ブタノンに対する2つのデータポイントとして、a(Vcomp−a)及びb(Vcomp−b)がある。これらの2点の間で、ブタノン・カーブの勾配及び符号を計算することができる。また、多項式カーブ当てはめのような、さらに完備したカーブの特性判断も可能である。
【0145】
こうして、このデータセットは、2つのデータポイントが収集され対応するカーブが計算された未知の検知イオン種に対する、種の識別に使用するための保存データの一部となる。簡潔にいえば、本発明の例示的実践において、所与のイオン・サンプルについて密接に関連する少なくとも2つのポイント(ピーク)に対するデータを収集し、それによりカーブ・データを生成する。検知され計算されたデータを得たならば、それがアルファ・カーブを近似していると予測し、保存されたデータと照合する。適合するものを見つけたならば、そこで確実にサンプルを識別することができる。
【0146】
図39A及び39Bにおいて(それぞれモノマー及びクラスター)、私たちは、図37及び38の表に収集したデータに基づいて、主調イオン(アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン)に対する固有のαカーブを計算し、これら多様な収集データについて、αのパーセント変化を電界強度簿変化と対比してプロットした。これらの電界強度と対比したαのパーセント変化プロットは、これらイオンの各々に対する独特のシグネチャを表している。これは、後での対比のため私たちのデータ保管庫にロードされる。シグネチャ・データは、RF電界強度及びピークが検知された補償電圧を含む。また、私たちは、これを、各々の種が検知されたピーク位置及び電界条件に関連のある既知のα関数に対する識別用データに関連付けする。
【0147】
このように、図39A及び39Bは、電界0から80Td(〜23kV/cm)の範囲にわたり、電界の関数としてアルファのパーセント変化を示した、個別のケトンに対するα関数を表している。これらのプロットは、ドリフトチューブに左右されない、これらのイオン種の基本的シグネチャ特質であって、他の携帯型分光計でも用いることができる。このように、本発明の実践においてα関数をうまく使って、装置に左右されない携帯用の識別データセットを提供することができる。
【0148】
これらの結果は、驚くべきものであり、同一の官能基を持つ化学材料について、単一タイプのプロトン化モノマーが、移動度係数の電界への依存性に関して広範囲のふるまいを示すことを実証するものである。共通な「部分」についてのこのふるまいの違いは、電界の影響が分子構造の他の側面に関連しているに違いないことを示唆している。一つの考えられる解釈は、イオンが高電界において熱せられ、プロトン化モノマーへの影響が著しいに違いないことである。(H3O)+M(H2O)n又はおそらく(H3O)+M(H2O)n(N2)2の構造を持つこれらイオンは、高電界に起因するわずかなイオン温度上昇によって解離する傾向があるはずである。しかして、高電界においては、イオン断面及び移動度はクラスタ分離した小さなイオンを伴うことになろう。
【0149】
再度、図39Aを参照すると、高電界におけるアセトンのプロトン化モノマーに対するα(E)は、ほぼ20%増加していることに注目すべきである。分子重量が増加するほど、加熱のα(E)関数への影響及び反映は小さくなる。プロトン結合二量体(クラスター)に対するα(E)関数は、高電界条件下の移動度低下と一致している。結果として、それらのα(E)関数は、プロトン化モノマーのものとは違っている。実際に、デカノンのプロトン結合二量体は、高電界において約5%の移動度低下を示している。高電界における移動度の減少の原因に関する既存のモデルはないが、イオンと支持ガスとの間の衝突サイズの増大又は反応の強さの増大に起因していると考えられる。
【0150】
さらに、図4のシクロヘキサン及びDMMPについて同様なことを行ったとすれば、それに従って計算されたアルファ・カーブは異なったものとなろう。かくのごとく、本発明は、対象となる各検知種に関連する少なくとも第二の検知データセットを有する限りにおいて、たとえイオン種の移動度カーブがオーバーラップしていても、それらを判別することができる。従って、本発明は、識別の精度に対して高水準の保証を実現する。
【0151】
しかして、私たちは、非対称電界イオン移動度分光分析から、高電界におけるイオン移動度の基本依存性を得られることを示した。依存性の関数は、不完全な波形を処理する既存の方法を使って実験から導き出すことができる。これらの発見は、ケトンの同属列の内部整合性を示し、また、今までに報告されていない質量依存性を示している。
【0152】
次に、図40A−40Fに注意を向けると、本発明の実施形態のいくつかにおいて、種の識別を行うために実行できる具体的なステップのシーケンスが記載されている。これらのステップは、例示目的のものであり限定はされない。この例示において、ステップのシーケンスを、図5のイオン移動度分光分析計装置10のマイクロプロセッサ46に実行させることができる。マイクロプロセッサ46は、RF分散電圧(Vrf)発生器42及び補償電圧(Vcomp)発生器44にデジタル制御信号を送信して、フィルタ24に対する動作電圧を制御する。また、電圧発生器42及び44に、例えば、図5には具体的に示していないが、デジタル−アナログ・コンバータを含めることができる。
【0153】
マイクロプロセッサ46は、検知器26からの、アナログデジタル・コンバータを通して読み取った反応を観測する機能をも取り入れながら、特定のRV分散電圧Vrf及び補償電圧Vcompの印加を調整する。マイクロプロセッサ46は、こうして、ある範囲のVrf電圧を通して観測された特定のイオン種の存在度特性(ピークのような)を検知することによって、特定の化合物を識別するステップを実施することができる。これらステップには、例えば、特定の「反応カーブ」データを、メモリ47に保存された反応カーブ・データと対比又は関連付けるステップを含めることができる。また、これらに、αカーブ・パラメータの計算を含めることができる。対比作業の結果を、ディスプレイ又はパソコン又は同様装置のような適切なアウトプット装置のフォームで提供することができ、あるいは、インタフェースを通して電気信号により他のデータ処理装置に送信することができる。
【0154】
図40Aにさらに具体的に示すように、化合物を分析することになる「ステート」1000をマイクロプロセッサ46に入力する。ここでは、ユーザが、コンピュータに識別のためのテキスト文字列を入力するなどして、化合物は判明し、識別されている。そこで、既知の化学材料化合物に関するデータを取得するためのステップのシーケンスが実行される。このステート1000から、プロセッサ46が分散電圧Vrf及び補償電圧Vcompの範囲を決定する、次のステート1002が入力される。これらの範囲には、各々の範囲において印加する開始電圧(b)及び終了電圧(s)及び段差電圧(s)が含まれており、そこで、Vrfは、初期値Vrf(b)から最終値Vrf(e)まで、段差量Vrf(s)で変化する。同様に、Vcompは、Vcomp(b)から、最終値Vcomp(e)まで段差量Vcomp(s)で変化することになる。
【0155】
そこで、電圧範囲は次のステップで印加される。具体的には、Vrfをある範囲の値を通して段階的に印加するステート1004が入力される。次に、補償電圧Vcompを同様に一連の値又は範囲を通して掃引又は段階的に印加するステート1008が入力される。ステート1010において、各印加電圧に対する反応を値(a)として保存する。
【0156】
最後の補償電圧がまだ試験されていない場合には、処理は、ステート1008に戻り次の補償電圧が印加される。しかしながら、ステート1012において、補償電圧がすべて印加されていた場合には、そこで処理はステート1014に進み、分散電圧の印加がすべて完了しているどうかを見るための検定が行われる。
【0157】
このループはすべての補償及び分散電圧が印加されるまで継続する。そこで得られたデータ・セットは、対象の特質を識別するためステップ1018において分析される。説明した具体例では、対象となるのはピーク位置である。所定の印加分散電圧Vrfに対して観測された反応中のこのようなピーク各々について、個別のVcompに対する反応値が測定され、それに相当する振幅(a)が検知され、保存される。
【0158】
そこで、反応カーブ・データ、又は、ピーク位置のようなそのデータの特定の属性が、図40Bに示すようなデータ・オブジェクトP(又は表)として保存される。このようなオブジェクトは、例として、テキスト文字列のような被試験化合物の識別を包含する。また、印加分散電圧Vrfのセットも格納される。このような各々の分散電圧Vrfに対応する補償電圧が格納される。具体的には、少なくとも、ピークが観測された補償電圧Vcomp、及び望ましくは、そのピークで観測された対応反応振幅(存在度)が保存される。
【0159】
前に詳細を説明したように、与えられたVrfに対し、いくつかの「ピーク」が観測される一連の補償電圧が存在することがある。例えば、図14Aに関連して説明したように、分析されたサンプルが、モノマー、クラスター・イオン、及び反応物イオンピークを含む特定イオンの化合物で構成されていることがある。しかして、例示として、オブジェクトPの構造においては、どれか特定の移動度スキャン中には複数のピークがあるだろうこと、及び、反応カーブごとのピークの数はいつも同じ数ではないだろうことを予想した準備がされている。
【0160】
図40Bの例示的オブジェクトPの例は、データ・エレメントを含み、単一のRF分散電圧Vrf−1に対し補償電圧Vc11,…,Vcmnにおいてピークを観測することができ、それらは対応する振幅a11,…,amnを持つ。これを、図14Aの最低の印加分散電圧のケースに対応させることができ、ここでは、数多くのピーク601−、605−1、608−1が検知されている。しかしながら、別の分散電圧Vrf−mでは、Vcomp−mにおいて単一のピークだけが検知された。これは、図6Aの最上段のカーブの単一ピーク601−mが検知されたようなケースに該当するとも考えられる。
【0161】
例示的な応用において、対象となる複数の既知化合物に対し図40Aのステップを実行することによって、オブジェクトP(参照ベクトル)のライブラリを作成する。これによって、図40Cに示すように、ようやく測定機器は化学物質認知のためのステート1200を入力することができるようになる。次に、ステート1202−1214において一連の測定値が採取される。この一連の測定値は図40Aで採取されたものと同様である。具体的には、定められた補償及びRF電圧に対して一連の測定値が採取される。このモードでは、化学物質データ取得モードにおいて採取したような、同一測定すべての完全一式を採取する必要はないことを理解すべきである。具体的には、比較的密度の高いカーブ上のすべてのポイントを採取する必要はなく、各化合物を識別するのに十分な程度でよい。
【0162】
測定値が採取されたならば、反応ピークのような特質が識別されるステート1220が入力され、各ピークについて対応補償電圧及び振幅を識別することができ、これらは候補測定値ベクトルP’に保存される。しかして、候補ベクトルP’は、いくつかの候補化合物に対比検定する必要のある一連おデータを表す。そこで、候補ベクトルP’は、ステート1230及び/又は1240において、参照ベクトルPのライブラリ中の対応する類似データを探し、PとP’との整合性を採点することによって分析される。これらのステップを、ステート1250において整合又は最善の整合が判定されるまで繰り返すことができる。
【0163】
PとP’との整合性の程度を判定するための技法をいくつでも使うことができることを理解すべきである。例えば、P及びP’のエレメント(Vcomp、a)がユークリッド幾何空間中のデータ・ポイントであると見なせる場合には、距離を計算することができる。そこで、最小のユークリッド距離との対比を、最善の整合として選定することができる。しかしながら、他の認知技法を用いて未知化合物の同一性を判定することができ、例えば、相関のようなさらに高度な信号処理技法を用いて、ピークを解明したり、他の知られたパターン認識アルゴリズム、ニューラル・ネットワーク、又は人工知能技法を用いてP’に対する最善の整合を見出すことができる。そこで、ステート1260において、ユーザに対し、化合物識別フィールドを参照し、表示することによって、最善の整合を識別する。
【0164】
図40Dは、データ取得フェーズ及び化学物質認知フェーズに追加して、二次のデータ処理の特徴をうまく利用することができる一連のステップを示す。例えば、データ取得のステートの中に、一連のステート1020、1022、1024及び1026を追加して、測定された反応の特定の属性に「カーブ当てはめ」をすることができる。具体的には、オブジェクトPベクトルの各エレメントにおいてzはピークの補償電圧vc11、vc12、…vc1mで構成される、ステート1020を入力することができる。
【0165】
このベクトルは、ある範囲の補償電圧に対して観測されたピークのポイント位置のベクトルである。図14Aに注意を戻して、簡潔にいえば、これを、例えば、対象モノマー・イオンのピークの高さ及び位置に応じた601−1、…601−m、…601−nの配置と対応させることができる。そこで、ステート1024において、カーブ当てはめアルゴリズムを使うなどして、これらのピークを通るカーブを当てはめることができる。図の例において、二次方程式、y2=βx2+γ形状のピークが当てはまることを想定している。そこで、ステート1026において、β及びγ係数をベクトルに関連させて保存することができる。こうして、化学物質を、そのピーク位置へカーブ当てはめ、移動度(α係数)反応を近似することによって識別する。
【0166】
これがなされた場合、対応するステップ1270、1272及び1274のセットを認知プロセスに追加して、ステート1270及び1272において生データを対比するのでなく、観測されたデータにカーブ当てはめを実施し、そこでγ及びβ係数を算定することによりピークを識別することができる。ステート1274において、β及びγ係数が検定され、Pオブジェクト・ライブラリ中の最も近い適合対象が判定される。
【0167】
図40Fは、取得フェーズにおいてピークを識別又は判別するため使うことのできる一連のステップを示す。ここでは、ピークをクラスター・ピーク又はモノマー・ピークとして識別することにより、初期データをオブジェクトPに追加することができる。具体的には、ある範囲の電界条件電圧(例、図14A)にわたって、ピーク・シフトが上昇している(すなわち、右側へのシフト)場合、これを、クラスター・ピークとして識別することができる。ピークが特定のシフト基準に当てはまらない場合、それをモノマー・ピークとして識別することができる。このように、ステート1310、1331、及び1332を識別プロセスに追加することができる。これらのステップの結果、オブジェクP中の各データ・ポイントに関連する追加パラメータLが加わり、図40Eに示すように、各ピークは、モノマー・クラスター又は他のピーク・タイプとしてさらに識別される。
【0168】
これに対して他のアプローチを使ってピークを標識することができる。例えば、サンプルSを負荷しない装置での反応の分析を行うことによっても、反応物イオンピーク(RIP)を識別することができる。このモードでは、RIPだけが生じ、ある範囲の補償電圧にわたってそれらのふるまいを保存することができる。特定の型のピークに関する情報を、そのようなピークが検知されたステート1320において、ポインタ・データの中に保存することができる。そこで、この情報を、図40Eに具体的に示すように、オブジェクトPに加えることができる。
【0169】
図40Gは、さらなる処理ステップを示しており、これらを化合物認知ステートにおいて実行し、モノマー及びクラスター・イオンの反応が観測される図36A−38の状況でうまく利用することができる。具体的には、図40Gのステップを、さらなるステップ1280として認知フェーズに追加することができる。ここで、あらゆる候補ピークP’に対して、参照群P中の対応モノマー・ピークが対比される。次にステート1284において、スコアscは、最も近い整合対象に関連付けられる。同様に、ステート1286において、クラスター・ピークをピーク・ライブラリP中の対応ピークと対比することができる。そこで、ステップ1288において、最も近いこの整合度に従って、スコアscが決定される。ステート1290において、評点ファクターwm、wcを評点することによって、最終スコアsfをモノマー・ピークスコア及びクラスター・ピーク・スコアの評点に関連付けることができる。例えば、クラスター・ピークがモノマー・ピークよりも多くの情報を提供することが予期される場合において、クラスター・ピークを高く評点し、モノマーピークを相対的に低く、あるいはゼロとして評点することができる。この評点方法を使って、モノマー及びクラスター双方のピーク識別を組み合わせてさらに化合物分析を洗練することができる。
【0170】
さまざまなな応用において、前記のイオン・ベースのサンプル分析アプローチを、携帯型のような比較的コンパクトな分析装置システムに用いることができる。図41は、そういったコンパクトDMS分析装置システム1400の概念図である。本DMSシステムを使って、本発明の例示的実施形態によって、例えば、化学兵器(CWA)、及び有毒産業化合物(TIC)、有毒産業材料(TIM)のような化合物を分析することができる。コンパクトDMS分析装置システム1400を大気より低い気圧、例えば0.5atmで作動することによって、前記のようにシステム、1400は、その消費電力とサイズとを低減させながら、既存の最新技術のシステムのおおよそ2倍の分解能を持つ。サンプル解離を行うことによって、前記のようにサンプル分析をさらに向上させることができる。これも前記したように、3次元カラー散布プロットを活用することによってCWA、TIC、及びTIMの分析をさらに向上させることができる。
【0171】
DMS分析装置システム1400に、電気機械ポンプ、圧縮ガス又は空気、又はソリッドステート・フロー発生器1402を用いることができ、システム1400は、イオン源1404、イオン誘引素子1406、及びシステム1400内のサンプル・フロー及び/又は圧力を制御するための強制フロー・チャンネル1408を含む。イオン源1404は、イオンの源泉を提供し、イオン誘引素子1406は、印加されたバイアス電圧に従って正もしくは負イオンを誘引する。イオン源1404とイオン誘引素子1406との相互作用によって発生したイオン・フローの結果、強制チャンネル1408中に生成されたイオン・フローは、流体(例、サンプル流体)フローを生成する。一部の例示的実施形態において、DMS分析装置システム1400を小型化し、イオン分析部ユニット1410を、サブストレート1412に内蔵されたアプリケーション特有集積回路(ASIC)の中に含めることができる。本発明が採用する型のソリッドステート・フロー発生器の更なる詳細は、同時係属及び共同所有の、2004年9月17日出願の米国特許出願第10/943,523号に記載されており、この出願の全体内容を参考として本明細書に組み込む。
【0172】
強制フローチャンネル1408は、取入れ口1414及び終端出口1416を含む。また強制チャンネル1408は、サンプル導入口1418を含み、イオン分析部1410がサンプルを収集して分析できるようにする。前(まえ)濃縮素子1420をサンプル導入口1418に用いて、サンプルを濃縮し分析精度を向上させることができる。イオン化装置1422は、例えば、放射性Ni63ホイル、又は非放射性プラズマイオン化装置、又はイオン化域1424内の他の適切なイオン化源を使ってサンプルのイオン化を提供する。プラズマイオン化装置は、イオン化のためサンプルに与えられるエネルギーを正確に制御できるようにする利点を持つ。理想的には、イオン化装置1422は、酸化窒素類(NOx類)及びオゾンを生成することなく、サンプルをイオン化するのに十分なだけのエネルギーを与える。また、システム1400に解離域を含めることができる。NOx類及びオゾンは、CWA物質のイオン化と干渉するイオン種を形成することがあるので望ましくない。拡散及び移動度定数は一般に圧力及び温度に依存するので、DMS分析装置システム1400に温度センサ1426及び/又は圧力センサ428を含めて、さらに精度のよい分析を行うため、イオン分析部ユニット1410内のサンプルガスの温度及び/又は圧力を調整することができる。また、イオン分析部1410に湿度センサを含めることができる。また、イオン分析部1410は、フィルタ・プレート1442及び検知器プレート1444を具える分析域1440を含む。分子ふるい1446を用いて使用済み検体を捕捉することができる。
【0173】
コントローラ1446は、フィルタ及び検知に対する制御を提供し、また、検知結果のアウトプットをも提供する。電源1448は、フィルタ・プレート1442、ソリッドステート・フロー発生器1402、及び他の電力を必要とする一切の部品に電力を提供する。Vcomp、Vrf、イオン・ヒーター排気、DMSイオン運動、及び前濃縮素子1420ヒーターに対するコントローラ電子回路1446をイオン分析部1410とともに配置することができる。また、検知器1444電子回路、圧力1426及び温度1428センサ、及びデジタル・プロセッサのための処理アルゴリズムをイオン分析部1410内に配置することができる。
【0174】
大気圧の下では、移動度の非線形性の利点を実現するために、DMS分析装置システム1400は、例として、約200×10−6μmのギャップにおいて、約106V/mのRF電界、及び約200VピークのVrfを用いる。但し、任意の適切なRF電界パラメータを用いることができる。電源1448を、イオン分析部ユニット1410から離して配置し、フィルタ・プレート1442に対するRF電圧を発生させることができる。大気よりも低い気圧においては前記のようにRF電界を低減して、電力消費及びDMS分析装置システム1400のサイズを低減することができる。
【0175】
また、DMS分析装置システム1400を、パソコン(PC)又はコントローラ1446とインタフェース連結し、信号処理アルゴリズムを活用して、イオン分析部1410の出力を検体の検知、識別、及び/又は測定及び濃度レベルに変換することができる。また、コントローラ1446又は連結されたPCにより、DMS分析装置システム1400に対する制御及びパワー管理を促進することができる。DMS分析装置システム1400に対する支持電子装置を、例えばASIC、デスクリート印刷回路基板(PCB)、又はシステムオンチップ(SOC)に実装することができる。
【0176】
作動において、ソリッドステート・フロー発生器又は電気化学移送ポンプ1402は、導入口1414からサンプルをDMS分析装置システム1400内に引き入れ、内蔵ヒーターを具えたCWA選択性化学膜濃縮素子1420を通過させる。また、CWA選択性化学膜前濃縮素子1420を、分析装置システム1400の分析域1440とサンプル取入れ域1450との間の疎水性バリアとして機能させることもできる。前濃縮素子1420の隔膜は、例として、CWA物質を通過させるが、他の干渉物質の伝送を低減させ、湿気に対するバリアとして機能する。
【0177】
前濃縮素子1420に、選択性隔膜ポリマーを用いて、よくある干渉物質(例、燃えた厚紙)を抑制又は阻止する一方でCWA物質又はCWA擬似物質は、隔膜を通過させることができる。多種の選択性隔膜材料が利用可能であるが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、水蒸気を排除しCWA検体を収集するための好適な隔膜/濃縮素子/フィルタとなり得る。高濃縮レベルにおいては、水蒸気分子が、検体に集まり、検体の移動度を変化させることがある。疎水性のPDMSのような隔膜材料は、水蒸気を許容可能レベルまで低減する一方、検体原子を吸収し放出する性質がある。また、濃縮された検体をイオン化域1424及び分析域1440に送るため、前濃縮素子1420の薄膜を定期的に加熱することができる。
【0178】
隔膜/フィルタ/濃縮素子1420を通る検体の拡散を除き、通常、分析域1440は外気に対し密閉されている。そこで、内部の分析域1440の圧力と分析装置システム1400外部の大気圧とを等しくするか、又は分析域1440の圧力を大気圧より低く維持するためのエレメントを、分析装置システム1400に用いて、イオン・ピーク分解能を向上させることができる。サンプルガスがイオン化されたならば、イオンは、キャリヤガスによって移送されるのではなく、静的又は進行静電界によって、縦方向矢印1452で示された方向に駆動される。フィルタ・プレート1442は、横断する無線周波数(RF)電界電圧及びdc励振補償電界を、分析域1440を通って移動するイオンに印加し、サンプル中の種を分離する。
【0179】
水蒸気が除去されると、干渉物質(例、炭化水素、その他)は、通常、重量比でおおよそ流入エア量の0.10%を構成する。前濃縮素子1420の収集効率にもよるが、分子ふるい1446を、飽和するまでに、約6、9、12又はそれ以上の月数のほぼ連続又は連続作動に対応するサイズとすることができる。また、分子ふるい1446を、エアがイオン・フィルタ電極1442とイオン化域1424とを行き来し、循環するようなやり方で移動するように構成することができる。
【0180】
DMS分析装置システム1400を使って、以下に限らないが、神経ガス又は糜爛性ガスのようなCWAの低濃度(例、1兆分の1(ppt))を検知することができる。一つの例示的実施形態において、DMS分析装置システム1400は、MEMS技術の上に構築された高感度、低電力のサンプルガス分析装置1404を含むが、DMS分析装置システム1400をさらに小型化し、1兆分の1感度、約0.25の合計電力消費(すなわち、4秒ごとに1ジュールの測定)及び約2cm3以下のサイズを実現する。
【0181】
小容量の分析域1440、及びこれによる低流速要求条件のため、イオン変位を用いた低電力の(例、mW)ソリッドステート・ガス移送ポンプ1402を用いて、エアサンプルをDMS分析装置システム1400中に、CWA選択性化学膜前濃縮素子1420上へと引き入れることができる。本発明によるコンパクト型DMS分析装置システムは、CWA擬似物質に対して非常に高い感度を示している。例として、本発明によるコンパクト型DMS分析装置システムは、1兆分の1(ppt)レベルでのメチルサリチル酸塩の検知を示した。DMS分析装置システム1400は、現行の現場配置の検知技術では分離できない干渉物質をCWA擬似物質から分離する能力を有する。
【0182】
図42は、DMS分析装置システム1400によって測定した、水性消化剤の泡(AFFF)からのジメチルメチルホスホン酸塩(DMMP)の分離を示すDMSスペクトルを図示したグラフである。AFFFは、従来型のIMSシステムにとって、CWA又は他の擬似物質から分離するのが非常に困難なことが判明している干渉物質の一つである。DMS又はIMSシステムでのサンプル検知において、AFFFのイオン強度ピークは、前記物質とオーバーラップする性向がある。
【0183】
図42は、一連のCWA擬似物質を選択的にAFFFの1%ヘッドスペースに混ぜたものに対する実験結果を示した複数プロットのグラフである。図42の最上段のプロット1460は、センサが大気圧における、バックグラウンド・エアはあるがサンプルが負荷されていないDMS分析装置システム1400に対するRIPを示す。次の1462では、AFFFが加えられている。これによってRIPイオン強度ピークの左側(さらに負の補償電圧)へのわずかなシフトが生じただけである。次に、プロット1464においては、CWA、DMMPの擬似物質がスペクトルに取り入れられ、対応するRIPピークイオン強度が低下するとともに、典型的モノマー及び二量体のピークが現れている。プロット1468における1%AFFFの場合、DMMPピークは影響を受けず、RIPのわずかな左側へのシフトだけが観測される。プロット1468及び1470において、DMMPに対し同じ実験が繰り返され、AFFFの影響はごくわずかなものであった。プロット1472において、MSが導入されており、負イオンピークのモニターによって、AEEEによる干渉の欠如を示す同様なデータが得られている。結論として1%AFFFはまったく影響していない。このように、図42は、DMS分析装置システム1400の、CWA擬似物質を干渉物質から分離する能力を例証している。
【0184】
一つの例示的実施形態において、以下の設計特質を組み合わせることによって、コンパクトな携帯型DMS分析装置システム1400を実現する:(a)より向上した感度でサイズの低減されたイオン分析部/フィルタ/検知器1410を使用する;(b)ガス移送ポンプ1402として、ソリッドステート・フロー発生器又は電気機械ポンプを使用して検体をサンプル抽出し移動させる;(c)内蔵ヒーターを持つ(一部の構成においては、ソリッドステート・フロー発生器又は電気機械ポンプを使って、他のシステム構成要素から前濃縮素子1420に熱を搬送することにより供給される)CWA選択性化学膜全濃縮素子1420を使って、水蒸気を除去し濃縮する;及び/又は(d)電界の推進力を使ってイオン1454をイオン分析部1410の分析域1440を通す。
【0185】
さまざまな例示的実施形態によって、本発明は書の識別の分解能を、従来型のシステムを超えて向上しながら、サイズ及び電力を低減し、1兆分の1の感度、約0.25mWを下回る合計ワット損、及び、電源又はディスプレイを除きRF電界発生器を含め約2cm3以下のサイズを実現する。一部の実施形態によれば、本発明の分析装置システムは、約15W、約10W、約5W、約2.5W、約1W、約500mW、約100mW、約50mW、約10mW、約5mW、約2.5mW、約1mW、及び/又は約.5mWより小さい合計ワット損を有する。さらなる実施形態によれば、RF電界発生器とともに、オプションとして、ディスプレイ(例、表示ランプ及び/又は英数字ディスプレイ)及び電源(例、充電式バッテリ)収納部を含めた、本発明による分析装置システムの全体パッケージの外部寸法を、パッケージを、例えば耐衝撃性プラスチック、炭素繊維、又は金属として、約.016m3、約.0125m3、約.01m3、約.0056m3、約.005m3、約.002m3、約.00175m3、約.0015m3、約.0125m3、約.001m3、約750cm3、約625cm3、約500cm3、約250cm3、約100cm3、約50cm3、約25cm3、約10cm3、約5cm3、約2.5cm3より小さくすることができる。さらなる実施形態によれば、例えば、RF発生器を含み、オプションとしてディスプレイ、キーパッド、及び電源収納部を含んだ、本発明による分析装置システムの合計パッケージ重量を約5ポンド、3ポンド、1.75ポンド、1ポンド、又は.5ポンドとすることができる。
【0186】
表1に、分析ユニットに対して利用可能な、DMS分析装置システム1400の流速(Q)ごとのいろいろな例示的実施形態における、ドリフトチューブ(例、強制チャンネル)の寸法、キャリヤガス基本流速、及びイオン流速の対比を示す。設計1−4は、約0.03l/mから約3.0l/mの範囲の異なった桁の流速を提示している。表1は、DMS分析装置システム1400を通る流速が減少するにつれ、フィルタ・プレート寸法及び電力必要量が低減していることを明らかにしている。表1は、サンプルガス、又は縦方向電界誘導のイオン運動のいずれかを使用しているDMS分析装置システム1400に適用できる。不要な検体を除去する時間は、望ましくは、ほぼキャリヤがフィルタ域を流れ通る時間より小さい(t比)。また、所定の標的物質について、イオンがイオン分析部1410を流れ通る際の側方拡散は、望ましくは、プレート間隔のほぼ半分よりは小さい(dif比)。この基準に基づいて、プレート寸法を約3×1mm2以下にすることができ、理想的フロー電力を、約0.1mWより小さくすることができる。このように、設計4においてさえも、検知器にぶつかる検体イオンの数は、十分に百万分の1検知の要求条件を満たす。
【0187】
【表1】
(表1.例示的DMS分析装置システムの設計仕様及び特性)
サンプル/キャリヤ・ガスに対し、望ましいフロー特性において約0.5%より高い効率で作動する電気機械ポンプ見当たらない。0.5%の効率において、約0.05mWの理想フロー損失により、実際の電力消費約10mWの結果となり、前記で説明した本発明の例示的実施形態によるよりも100倍も大きい。
【0188】
DMSシステム1400は、正及び負双方のイオン強度ピークを同時に検知することができ、さらに検知選択度を向上させる。正及び負のイオンチャンネル情報と、印加電界強度又は電圧の関数としてのスペクトル・ピークのシフトと、これら情報の3次元手法による表示との組み合わせは、化学物質識別に対する新奇なメカニズムを提供する。
【0189】
図43は、前に説明した本発明の例示的実施形態によって、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対する物質GAの正イオンの検知を、異なる強度を異なるカラーで表した3次元散布プロット1750である。プロット1750は、例えばDMSシステム1400によった、3次元散布プロットを用いた化合物のより向上した識別(選択度)を図示している。これに対し、図25は、例えばDMSシステム1400による、GAの負イオンのある範囲にわたるRF電圧と補償電圧との対比を、異なる強度を異なるカラーで表した3次元散布プロットであり、3次元散布プロットを用いて化合物のより向上した識別(分離度)を図示している。双方の測定とも、0.14ng/lのGA濃度、Ni63源、50%RH,3回スキャンの平均、及び350cc/分のキャリヤガス流量の条件を用いて実施された。図25の3次元プロット814と図50の1750との差異は、正及び負双方のイオンモード検知を実施することにより、イオン種のより向上したシグネチャ識別が得られることを例証している。
【0190】
特定の例示的実施形態において、図41及び他のいろいろな図のコンパクト型DMSシステム1400は、さらなる詳細が米国特許6,495,823及び6,512,224に記載されている機能を採用し、又はシステムに組み込むことができ、これら特許を参考として本明細書に組み込む。
【0191】
図44−53は、本発明の例示的実施形態によって、本明細書に図示し記載した構成要素、再循環システム及び他の構成要素といった、移動度検知分析装置システムのさまざまな構成を使った化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。さらに具体的には、図44は、本発明の例示的実施形態によった、CWA及び/又は生物剤検知システム1476の概念的ブロック図である。システム1476は、移動度検知システム1478、分子ふるい1480、オプションとして排気口1484を具えたポンプ1482、オプションの第二分子ふるい1486、循環チャンネル1488、サンプル取入れ口1490、排出口1492、隔膜1494、及びオリフィス1496を用いている。また、システム1476に、フィルタされたエア又はガス1498を用いて、システム1476を通してサンプルを循環又は移送することができる。イオン分析部システム1478を、図48のコンパクト型DMS分析装置システム1400、図5のDMSシステム10、IMS、TOF−IMS、GC−IMS、MS又は類似システムとすることができる。システム1476は、前に説明した例示的システムと同様に、一つ以上のドーパントを用いて分析を向上することができる。
【0192】
作動において、システム1476は、取入れ口1490からサンプルSを受け入れ、隔膜1494を通して循環チャンネル1498に送る。必要な場合、隔膜1494に、図48の前濃縮素子1420と同じ又は類似の方法で、望ましくない干渉物質をフィルタすることができる。オリフィス1496は、固定された、制御された、又は調整可能なやり方で、分析システム1478中へのガス及び/又はサンプル流入を調節し、イオン分析部システム1478内の圧力を調節又は制御する。こうして、イオン分析部システム1478を、大気圧、大気より低い圧力、又は大気より高い圧力の下で作動させることができる。ポンプ1482は、独立的に、又はオリフィス1496と協調して、イオン分析部1478中のフロー及び圧力制御を維持する。このように、一例において、ポンプ1482は、サンプル・フローをオリフィス1496を通してイオン分析部システム1478中に吸引し、選定イオン主の検知及び識別ができるようにする。Vrf及びVcomp、パラメータといった、電界/フロー・チャンネル条件を調整し、一部の構成においては、ポンプ1484及び/又はオリフィス1496を制御してシステム1400内の圧力を制御することによって整調的に特定のイオン種を検知するDMSシステム1400を、イオン分析部システム1478とすることができる。
【0193】
検知及び識別が実施されたならば、分子ふるい1480は、使用済み検体をイオン分析部システム1478から捕捉することができる。この場合も同様に、ポンプ1484は、電気機械型であれソリッドステート型であれ、オプションとして第二分子ふるい1486を通し、循環チャンネル1488を通してガスを推進する。そこで、サンプルガスは、隔膜1494及び排出口1492を通って放出されるか、あるいは、さらなるサンプルSと混合され、オリフィス1496の中に戻され再循環される。
【0194】
図45は、本発明の例示的実施形態によった、低圧分析用に構成されたCWA及び/又は生物剤検知システム1500の概念的ブロック図である。システム1500は、隔膜の代わりに追加のサンプル・フロー・チャンネル1502が用いられていることを除けば、システム1476と同様である。システム1500には、サンプルS取入れ口1504、オリフィス1506、イオン化域1508、デフレクタ・プレート1510、誘引プレート1512、チャンネル1502のポンプ1514、第二チャンネル1516、イオン分析部システム1518、分子ふるい1520、ポンプ1522、及びオプションとして第二分子ふるい1524が含まれる。
【0195】
作動において、システム1500は、サンプル取入れ口1504を通し、オリフィス1506を通してサンプルSを引き込む。オリフィス1506を制御し、固定し、又は調整可能にして、チャンネル1502中のサンプルガス・フロー及び/又は圧力を調節することができる。ポンプ1514を、オリフィス1506と協調させて使い、チャンネル1502中のガス・フロー及び/又は圧力を調節することができる。デフレクタ・プレート1510は、開口部1526を通してイオンを、チャンネル1516中に推し進め、押入れ、又は選択的に分離することができ、一方誘引プレート1512は、チャンネル1502からチャンネル1516中にイオンを誘引することができる。開口部1526越しの圧力低下を調整して、サンプルイオンだけがチャンネル1516に入り、サンプルの中性種の入り込みを阻止するようにすることができる。サンプルイオンをイオン分析部システム1518に直接導入することもでき、サンプルイオンをイオン分析部システム1518中で、イオンを中性化し次に再イオン化することもできる。イオン分析部システム1518を、DMSシステム、IMSシステム、又は類似のシステムとすることができる。イオン分析部システム1518に、複数のDMS、IMS、又は類似のシステム、又はこのようなシステムの組み合わせを使って、サンプルの検知及び識別を実施することができる。例えば、図21のシステム748又は図22のシステム754を用いて、従来式のDMS検知と解離とを組み合わせてサンプル分析を向上させることができる。
【0196】
そこで、チャンネル1516のポンプ1524は、イオン分析部システム1518から、分子ふるい1520を通してサンプルSを吸引し、次にサンプルSを、オプションとして第二分子ふるい1524を通して押し出すことができる。分子ふるい1520及び1524は、使用済みサンプルSの検体のほとんどを捕捉することになる。残った一切のサンプルSは、新しいサンプルSと混合され、チャンネル1516を経由してイオン分析部システム1518に戻される。排出口1528は、チャンネル1502からサンプルSガスを放出する。
【0197】
図46は、本発明の例示的実施形態によった、円筒型又は同軸型のCWA及び/又は生物剤検知システム1530の概念的ブロック図である。システム1530には、サンプルS取入れ口1532、制限器(constrictor)1534、内部チャンネル1536、開口部1538、クリーン移送ガス取入れ口1540、外部チャンネル1542、イオン分析部システム1544、チャンネル1542の排出口1546、及びチャンネル1536の排出口1548が含まれる。
【0198】
作動において、システム1530は制限器又はオリフィス1534を通してサンプルSをチャンネル1536中に引き込む。制限器1534を調整可能、制御可能に又は固定して、チャンネル1536内の圧力を、1atmより低く、例えば0.5、0.65、又は0.85atmに低減することができる。クリーン移送ガス取入れ口1540は、クリーンな移送ガスをチャンネル1542内に受入れる。チャンネル1542は、1atmより低い圧力で作動することができる。チャンネル1536との圧力差によって、又はチャンネル1542内のイオン誘引素子によって、又はチャンネル1542中へのガスフローによって、又は類似の技法によって、サンプルSを、開口部1538を通してチャンネル1542中に吸引又は誘引することができる。そこで、イオン分析部システム1544はサンプルSのイオン種を検知し識別してから、排出口1546を通してサンプルSを放出する。チャンネル1536中のサンプル中性種を、排出口1548を通して放出することができる。
【0199】
図47は、ポンプ1554と協調してシステム1550内の圧力を制御するオリフィス1552を、システム1550の取入れ口に包含するDMSシステム1550である。また、本システムは、分子ふるい1556、イオン源1558、フィルタ1560、及び検知器1562を含む。作動において、ポンプ1554は、オリフィス1552を通してサンプルを引き込み、そこで、低減された圧力におけるサンプル検知を可能にするのに十分なパワーを有する。
【0200】
図48は、オリフィス1566、イオン源1568、フィルタ1570、検知器1572、分子ふるい1574、ポンプ1576、第二分子ふるい1578、隔膜1580、取入れ口1582、及び、排出口1584と1586とを含むDMSシステム1564である。隔膜1580はオリフィス1566の上流に配置されており、サンプル・フローは1588方向となるので、隔膜1580は大気圧において動作し、一方、イオン源1568、フィルタ1570、及び検知器1572は、オリフィス1566越しの圧力低下により、大気より低圧で動作する。隔膜1580を大気圧で動作させることにより、その耐用寿命を延ばす利点を得ることができる。
【0201】
図49は、オリフィス1592、イオン源1594、フィルタ1596、検知器1598、分子ふるい1600、ポンプ1602、第二分子ふるい1604、隔膜1606、取入れ口1608、及び、排出口1610と1612とを含むDMSシステム1590である。隔膜1606はオリフィス1592の下流に配置されており、サンプル・フローは1614方向となるので、隔膜1606は、オリフィス1592越しの圧力低下により、イオン源1594、フィルタ1596、及び検知器1598とともに大気より低圧で動作する。隔膜1606を大気より低い圧力中で動作させることによる利点を得ることができる。
【0202】
図50は、オリフィス1618、イオン源1620、フィルタ1622、検知器1624、分子ふるい1626、ポンプ1628、第二分子ふるい1630、隔膜1632、取入れ口1634、及び、排出口1636と1638とを含むDMSシステム1616である。隔膜1632及びイオン源1620は、オリフィス1618の上流に配置されており、サンプル・フローは1640方向となるので、隔膜1632及びイオン源1620は大気圧において動作し、一方、オリフィス1592越しの圧力低下により、フィルタ1622及び検知器1624は大気より低圧で動作する。隔膜1632及びイオン源1620を大気圧力で動作させることによる利点を得ることができる。
【0203】
図51は、大気圧で作動する第一チャンネル1644及び第二チャンネル1646を含むDMSシステム1642である。第一チャンネル1644は、イオン源1648、デフレクタ電極1650、ポンプ1652、取入れ口1666、及び排出口1668を含む。第二チャンネル1646は、フィルタ1645、検知器1656、分子ふるい1658、ポンプ1660、及び分子ふるい1662を含む。開口部1664は、チャンネル1644と1646との間の流体の流通を提供する。
【0204】
作動において、システム1642は、取入れ口1666からサンプルSをチャンネル1644中に受け入れる。イオン化源1648はサンプルSをイオン化する。サンプルSのイオン化された部分、例えば正イオンは、正電荷を持つデフレクタ1650によって、開口部1664を通ってチャンネル1646の中へと屈折される。デフレクタ1650が負に帯電している場合は、デフレクタ1650は、サンプルSの負イオンを、開口部1664を通してチャンネル1646の中へと屈折させることができる。サンプルSの中性種及び屈折されなかったイオンは、そこでポンプ1652によって排出口1668に吸引されて、システム1642の外に放出され、一方、チャンネル1646中のイオンは、フィルタ1654によってフィルタされ、検知器1656によって検知される。ポンプ1660は、チャンネル1646内に1670方向の循環フローを生成し、使用済み検体を回収する分子ふるい1658を通してサンプルSを引き寄せ、次に第二分子ふるい1662を通す。
【0205】
図52は、隔膜なしで、大気より低い気圧で作動する第一チャンネル1674及び第二チャンネル1676を含むDMSシステム1672である。第一チャンネル1674は、イオン源1678、デフレクタ電極1680、ポンプ1682、取入れ口1684、排出口1686、及びオリフィス1700を含む。第二チャンネル1676は、フィルタ1688、検知器1690、分子ふるい1692、ポンプ1694、及び分子ふるい1696、及びオリフィス1702を含む。開口部1698は、チャンネル1674と1676との間の流体の流通を提供する。
【0206】
作動において、システム1672は、取入れ口1684からサンプルSをオリフィス1700を通してチャンネル1674中に受け入れる。オリフィス1700はポンプ1682によって生成されたガス及び/又はエア・フローによって生じるチャンネル1674内の圧力降下を提供する。イオン源1678はサンプルSをイオン化する。サンプルSのイオン化された部分、例えば正イオンは、正電荷を持つデフレクタ1680によって、開口部1698を通ってチャンネル1676の中へと屈折される。デフレクタ1680が負に帯電している場合は、デフレクタ1680は、サンプルSの負イオンを、開口部1698を通してチャンネル1676の中へと屈折させることができる。サンプルSの中性種及び屈折されなかったイオンは、そこでポンプ1682によって排出口1686に吸引されて、システム1672の外に放出され、一方、チャンネル1676中のイオンは、フィルタ1688によってフィルタされ、検知器1690によって検知される。ポンプ1694は、チャンネル1676内に1704方向の循環フローを生成し、使用済み検体を回収する分子ふるい1692を通してサンプルSを引き寄せ、次に第二分子ふるい1696を通す。
【0207】
図53は、第一チャンネル1708、第二チャンネル1710、及び第二チャンネル1710内の第三チャンネル1712を含み、第三チャンネル1712は隔膜1714を用いて大気圧又はそれ以下で動作することのできるDMSシステム1706である。第一チャンネル1708は、取入れ口1716及び排出口1718を含む。第二チャンネル1710は、イオン化源1718、オプションのイオン化源1720、デフレクタ電極1722、フィルタ1724、及び検知器1726を含む。第三チャンネル1712は、誘引電極1728、フィルタ1730、及び検知器1732を含む。結合循環チャンネル1734は、化学フィルタ1736、ポンプ1738、及びオプションの化学フィルタ1740を含む。開口部1742は、チャンネル1710と1712との間の流体の流通を提供する。
【0208】
作動において、システム1706は、取入れ口1716からサンプルSをチャンネル1708中に受け入れる。サンプルSをGSカラムから取り入れることができる。隔膜1714は、サンプルSの一部をフィルタし、圧力バリアを提供して、チャンネル1710及び1712中において大気圧より低い気圧を可能にする。チャンネル1710及び1712は、結合循環チャンネル1734とともに、フィルタされたクリーンなキャリヤガスを循環させる。イオン化源1718は、このクリーン・キャリヤガス内のサンプルSをイオン化する。オプションとして、チャンネル1710内に第二イオン化源を用いて、デフレクタ1722及び誘引素子1728の、選定イオンをチャンネル1710からチャンネル1712に転送する能力を向上することができる。例えば、デフレクタ1722は正に帯電されている場合、サンプルSのイオン化された部分、例えば正イオンは、デフレクタ1722によって、開口部1728を通ってチャンネル1712の中に屈折させられる。デフレクタ1722が負に帯電されている場合には、デフレクタ1722は、サンプルSの負イオンを、開口部1728を通してチャンネル1712の中に屈折させることができる。
【0209】
サンプルSの中性種及び屈折されなかったイオンは、そこでチャンネル1710、フィルタ1724及び検知器1726を通って、ポンプ1738によって吸引される。ポンプ1738は、チャンネル1710、1712、及び1734内に1744方向の循環フローを生成し、キャリヤガスをチャンネル1710及び1712から1734中に引き入れ、化学フィルタ1736を通し、オプションとして、第二化学フィルタを通す。化学フィルタ1736及び1740は、キャリヤガスから望ましくない汚染物質を除去する。また、オプションとして、補給ガスを外部システムからチャンネル1734に取り入れることができる。
【0210】
デフレクタ1722及び誘引素子1728を制御されたやり方で作動し、イオンをチャンネル1710からチャンネル1712に転送することができる。チャンネル1710において、屈折されなかったイオンは、フィルタ1724によってフィルタされ検知器1726によって検知され、一方、チャンネル1712おいては、屈折及び誘引されたイオンは、フィルタ1730及び検知器1732によってフィルタされる。そこで、チャンネル1710と1712とから得られた検知測定値を、相互に対比し、加算し、又は減算して、イオン種の識別を向上することができる。クリーンなキャリヤガス中で実施したサンプルSの制御されたイオン化と、チャンネル1712におけるモノマー又はクラスター分離されたイオンの検知と、チャンネル1710におけるクラスター・イオンの検知とは、より充実した化合物及びイオン種の識別を提供する。
【0211】
本発明を、特定の例示的実施形態に関連させて説明してきたが、本発明の範囲はさらに広く、本発明を、変化する制御励振電界を通って移動する未知のイオン種を、変化する電界条件の下における種の既知の移動ふるまい特性に基いて識別するどのようなシステムにも適用できることをよく理解すべきである。識別するイオンを、単独で移動するイオンとすることも、同一の又は異なる特性の移動ふるまいのイオンの群とすることもできる。対象の種がフローの中央部に戻りフィルタを通り抜けることができ、他のすべての種が阻止又は中性化される限りにおいて、フィルタ電界を任意のさまざまなやり方で補償することができる。既知の電界条件によった電界中を移動する少なくとも一つのイオン種の、既知の移動度電界依存性の差に基づいて識別を行う。
【0212】
また、さまざまなな実践において、本発明は、イオン種の識別のための改善されたシステム、方法及び装置を提供することをよく理解すべきである。いくつかの形態によって、本発明は、一つ以上のフィルタ電界/フロー・チャンネル条件を変えて種の判別を向上する。例えば、いくつかの例示的実施形態によって、本発明は、例えば、Vrf;Vcomp;電界強度;Vrfデューティサイクル;Vrf波長;Vrf周波数;及び/又はフロー・チャンネル温度、圧力、湿度、流速、ドーピング及び/又はキャリヤガスCG組成の変化に基づいて、イオン移動度の変化を判定する。別の形態によって、本発明は、例えば、一つ以上の追加のDMS、IMS、TOFIMS、GC、FTIR、MS、又はLCMSを使い、異なるフロー・チャンネル/フィルタ電界条件において、並列的又は直列的にサンプルSを循環及び/又はサンプルSを処理することによって、サンプルSの多重スキャンを実施する。
【0213】
さらなる形態によって、本発明は、解離、圧力低減、及び3次元散布プロットのようなアプローチを用いて、検知分解能をより向上する。他の形態によって、本発明は、既知の化合物のシグネチャのライブラリを保存し、未知の化合物のパターンを保存されているライブラリと整合させて未知の化合物を識別する。本発明は、平面DMSシステムに適用できるばかりでなく、さまざまな幾何構造、イオン化処理法、検知器処理法などを含め、各種の型の移動度分光分析装置に広く適用することができ、新規の用途、ならびに、既存技術のシステムに対してもより向上した結果をもたらすことを理解すべきである。
【0214】
このように、本発明は例示的実施形態に限定されるものでなく、ラジアル型及び円筒型のDMS装置を含む、他の任意の適切な構成を実施することができる。さらに、本明細書の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に対するさまざまな変更案及び変形案を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0215】
特許及び出願ファイルは、少なくとも一枚の着色された図面を包含する。カラー図面の付いた、本特許又は特許出願刊行物のコピーは、申請して必要料金を支払えば特許局から提供される。
【0216】
本発明の前記及び他の目的、特色、利点、及び例示的実施形態を、以降、以下の図面を参照して説明することとし、これらの中の同一の参照符号は、各種図面を通して同一部分を参照する。これらの図面は必ずしも一定の縮尺比でなく、それよりも本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【図1】図1は、ピークRF、周期及びデューティサイクルを持つ非対称電界を描いたグラフである。
【図2A】図2Aは、それぞれ、非対称電界・イオン移動度分光計で検知した、アセトンだけ、及びオルトキシレンとアセトンとの組み合わせに対する、イオン存在度(強度)と印加電界補償電圧との対比を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、それぞれ、非対称電界・イオン移動度分光計で検知した、アセトンだけ、及びオルトキシレンとアセトンとの組み合わせに対する、イオン存在度(強度)と印加電界補償電圧との対比を示すグラフである。
【図3】図3は、微分型電気移動度分光計(DMS)による、3つの異なる化合物に対するイオン移動度と印加電界補償電圧との対比のグラフである。
【図4】図4は、本発明の例示的実施形態によれば強度ピークを示し、従来式の技術アプローチの欠点を概念化したVrfとVcompとの対比グラフである。
【図5】図5は、本発明の例示的実施形態によるDMSの概念図である。
【図6】図6は、DMSで測定した、さまざまな量のエチルメルカプタンを含有するサンプルに対する正モード・スペクトルにおけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図7】図7は、さまざまな量のエチルメルカプタンを含有するサンプルに対する負モードスペクトルにおけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図8】図8は、六フッ化硫黄(SF6)を負モードで検知したときのモノマー及び反応物のイオンピークの分離を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図9】図9は、六フッ化硫黄(SF6)を正モードで検知したときのモノマー及び反応物のイオンピークの分離を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図10】図10は、負イオンモードにおけるさまざまなRF電圧レベルでのDMS反応を例示し、併せSF6が存在しない場合に検知されたRIPを示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図11】図11は、SF6のピークがRIPから分離されていない場合の、正イオンモードにおけるFMS反応を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図12】図12は、電界強度の変化に対応したスペクトル・ピークのシフトを観測することにより、検知されたイオン種間の判別を改善する能力を例示したイオン強度(存在度)と電界補償電圧との対比グラフである。
【図13】図13A及び13Bは、電解強さの低減によるスペクトル・ピークのシフトを観測することにより、検知されたイオン種間の判別を改善する能力を例示したイオン強度(存在度)と電界補償電圧との対比グラフである。
【図14】図14A及び14Bは、補償電圧の変化の特定のスペクトルへの影響を示すイオン強度(存在度)と電界補償電圧との対比グラフであって、電界強度及び補償電圧の変化に伴う、モノマー、クラスター、及び反応物イオンピーク(RIP)検知の多岐にわたるふるまいを示している。
【図15】図15Aは、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対するメチルサリチル酸塩の検知を、異なるイオン強度のカラーを変えて表し、例示した3次元のカラー散布プロットである。図15Bは、単一の電界電圧での、メチルサリチル酸塩に対するイオン強度と電界補償電圧との2次元対比グラフである。
【図16】図16Aは、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対するDMMPの検知を、異なるイオン強度のカラーを変えて表し、例示した3次元のカラー散布プロットである。図16Bは、単一の電界電圧での、DMMPに対するイオン強度と電界補償電圧との2次元対比グラフである。
【図17】図17は、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧に対するDIMPの検知を、異なるイオン強度のカラーを変えて表し、例示した3次元のカラー散布プロットである。
【図18】図18は、単一の電界電圧での、DIMPに対するイオン強度と電界補償電圧との2次元対比グラフである。
【図19】図19は、電界条件の個別検知ピークの位置及び検知を分離する能力を例示した、複数の電界におけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図20A】図20Aは、本発明の例示的実施形態による、異なった補償電圧における、軽い分子と重い分子との検知ピークの分離を例示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図20B】図20Bは、本発明の例示的実施形態による、サンプルの解離後検知された数の増えたピークを示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図21】図21は、本発明の例示的実施形態による、サンプル分析改良のため、解離を用いるDMSシステムを解離を用いたDMSシステムと並列に作動させる概念図である。
【図22】図22は、本発明の例示的実施形態による、サンプル分析改良のため、解離を用いないDMSシステムを解離を用いたDMSシステムと直列に作動させる概念図である。
【図23】図23Aは、図22の解離を用いないDMSシステムに対するピーク検知を示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。図23Bは、図22の解離を用いたDMSシステムに対するピーク検知を示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図24】図24は、本発明の例示的実施形態による、解離領域を含むDMSシステムの概念的ブロック図である。
【図25】図25は、本発明の例示的実施形態による、物質GAの検知を例示した3次元カラー散布プロットである。
【図26−1】図26A−26Bは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図26−2】図26C−26Dは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図26−3】図26E−26Fは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図26−4】図26G−26Hは、本発明の例示的実施形態による、特定の電界電圧におけるイオン強度と電界補償電圧との対比の2次元グラフであって、図25の3次元カラー散布プロットと組み合わ可能なタイプにした2次元グラフである。
【図27】図27A及び27Bは、本発明の例示的実施形態による、複数の圧力におけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図28】図28A及び28Bは、本発明の例示的実施形態による、圧力の減少による計量的影響を正及び負のバックグラウンド・スペクトルでそれぞれ示したイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図29】図29A及び29Bは、本発明の例示的実施形態による、圧力の変化による負及び正のター−ブチルカプタン又はター−ブチルリチオル(TBM)のスペクトルへの影響をそれぞれ示した、複数の圧力下におけるイオン強度と電界補償電圧との対比グラフである。
【図30】図30A及び30Bは、本発明の例示的実施形態による、圧力の変化による正及び負のTBMイオンのピーク・パラメータへの影響をそれぞれ示した、イオン強度と圧力との対比グラフである。
【図31】図31は、減圧による、DMMP、DIMP、及びMSのような化学兵器の検体ピークへの影響を示すグラフである。
【図32−1】図32A−32Bは、本発明の例示的実施形態による、物質GAに対する、減圧下での検知分解能の向上を示したイオン強度と圧力との対比グラフである。
【図32−2】図32C−32Dは、本発明の例示的実施形態による、物質GAに対する、減圧下での検知分解能の向上を示したイオン強度と圧力との対比グラフである。
【図33】図33は、約0.65atmで、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧における0.005mg/m3のDIMPの正イオン検知を、異なる強度を異なるカラーで描いて例示した3次元カラー散布プロットである。
【図34】図34は、約0.5atmで、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧における0.005mg/m3のDIMPの正イオン検知を、異なる強度を異なるカラーで描いて例示した3次元カラー散布プロットである。
【図35】図35は、約0.5atmで作動するDMSシステムによって、相対湿度(RH)=87において0.85mg/m3の物質GBのフラグメント・サンプルの正(左側)及び負(右側)の3次元カラー散布プロットを示したグラフである。
【図36】図36A及び36Bは、本発明の例示的実施形態による、ケトン族に対して検知されたモノマー及びクラスターのイオン・ピークの、補償電圧と電界強度との対比プロットを示すグラフである。
【図37】図37は、各々が8つのケトンのモノマーと二量体(クラスター)の群に対する検知データの収集をそれぞれ含む表であって、図36A及び36Bのグラフ中のカーブを生成するために使われたものである。
【図38】図38は、各々が8つのケトンのモノマーと二量体(クラスター)の群に対する検知データの収集をそれぞれ含む表であって、図36A及び36Bのグラフ中のカーブを生成するために使われたものである。
【図39】図39A及び39Bは、正規化アルファ・パラメータの計算結果を図示したガス密度に対する電界強度の比率(E/N)と電界補償電圧との対比グラフである。
【図40A】図40Aは、特定の化学イオン種に関するデータを得るために用いるコンピュータ・プロセスのステップの典型的シーケンスの流れ図である。
【図40B】図40Bは、化合物測定データ情報を格納するライブラリーのデータ構造の図を示す。
【図40C】図40Cは、化学物質の見分けを行うために応用できる一連のステップの流れ図である。
【図40D】図40Dは、アルファ・カーブ当てはめを用いる、データ取得及び化学物質の見分けに追加できる一連のステップの流れ図である。
【図40E】図40Eは、より複雑なデータ構造の図を示す。
【図40F】図40Fは、モノマーのピーク反応とクラスターのピーク反応とを判別するために使うことのできるプロセスのシーケンスの流れ図である。
【図40G】図40Gは、モノマーとクラスターの評点の組み合わせを示すプロセス流れ図である。
【図41】図41は、本発明の例示的実施形態による、戦争又はテロリスト状況において、放出される可能性のある化学兵器(CWA)、有毒産業化合物(TCI)及び有毒産業化学材料(TIM)を検知し識別するために使用するコンパクトなDMS分析装置システムの概念図である。
【図42】図42は、AFFFの1%ヘッドスペースに選択的に混合された一連の化学兵器模擬物質に対する実験結果を示す複数のプロットのグラフである。
【図43】図43は、本発明の例示的実施形態による、ある範囲の電界電圧及び電界補償電圧について、物質GAの正イオンの検知を、異なる強度を異なるカラーで表した3次元カラー散布プロットである。
【図44】図44は、本発明の例示的実施形態による、イオン移動度分析装置システムと、隔膜と、再循環システムとを用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図45】図45は、本発明の例示的実施形態による、低圧分析用に構成された化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図46】図46は、本発明の例示的実施形態による、シリンダー型DMS分析装置システムと、再循環システムと、複数のフロー・チャンネルとを用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図47】図47は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図48】図48は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図49】図49は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図50】図50は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図51】図51は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図52】図52は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【図53】図53は、本発明の例示的実施形態による、DMS分析装置システムと、再循環システムと、他の構成要素とのさまざまな構成を用いた化学及び/又は生物剤検知システムの概念的ブロック図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル分析の方法であって、
A.少なくとも第一及び第二サンプル処理条件を、それぞれ、第一及び第二の複数の値にわたって変化をさせる工程と、
B.該第一及び第二の複数の値にわたる電界を流れ通るサンプルのイオン強度を検知する工程と、
C.該第一及び第二サンプル処理条件に対応する少なくとも2つの次元を3次元表現のうちに有する第一3次元表現の中に、該サンプル処理条件の各々に対し検知されたイオン強度を編成する工程と、
D.該第一3次元表現の少なくとも一部に、少なくとも部分的に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件はVrfを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件はVcompを含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は電界強度を含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、フロー・チャンネル中の前記サンプルに加える圧力を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、第一フロー・チャンネル圧力の下でステップA−Dを実施し、前記第一フロー・チャンネル圧力はほぼ一定なものとする、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
ほぼ一定で前記第一フロー・チャンネルとは異なる圧力の第二フロー・チャンネル圧力の下で工程A−Dを実施する工程と、
該第二フロー・チャンネル圧力における第二3次元表現を生成する工程と、
該工程Dの分析を、少なくとも部分的に、該第二3次元表現の一部に基づいて行う工程とを
含む方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記第一及び第二フロー・チャンネル圧力の少なくとも一つは大気圧より低い、方法
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、フロー・チャンネルの中の温度を含む、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、Vrfの周波数を含む、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、電界電圧のデューティサイクルを含む、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記3次元表現の前記第一、第二、及び第三次元の少なくとも一つの値変化を、グレイスケール、黒白パターン、カラー又は色彩度のうちの一つの変化として表す工程を含む方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、前記3次元表現中の、前記第一次元を長さ、前記第二次元を幅、第三次元を高さとして表す工程を含む方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、前記第一3次元表現は散布プロットである、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、前記第一3次元表現は、電界電圧に対するx軸、Vcompに対するy軸、及びイオン強度に対するカラー関連特性の変化状況を含む、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、前記第一3次元表現は、電界電圧に対応するx軸、電界補償電圧に対応するy軸、及びイオン強度に対応するz軸を含む、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、前記分析をする工程は、前記第一3次元表現の少なくとも一部を、既知の種に対応し保存された3次元表現のライブラリの少なくとも一部と対比する工程を含む、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法であって、フロー・チャンネル中の圧力を変えて前記解離を生じさせる工程を含む方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、
解離された状態及び解離されない状態の双方における前記サンプルに対する前記第一3次元表現を決定する工程と、
該解離されたサンプル状態及び解離されないサンプル状態双方の第一3次元表現に、少なくとも部分的に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法であって、前記サンプルの正イオンに対して工程A−Dを実施する工程を含む方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、
前記サンプルの負イオンに対して工程A−Dを実施する工程と、
該サンプルの該負イオンに対する第二3次元表現を生成する工程と、
工程Dの分析を、前記第一3次元表現及び該第二3次元表現の双方に少なくとも部分的に基づいて行う工程とを
含む方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法であって、前記工程Dの分析は、前記第一3次元表現に対してパターン認識を実施して前記サンプル中の種を分析する工程を含む、方法。
【請求項24】
請求項1に記載の方法であって、前記サンプルのイオンの第一サブセットから該サンプルのイオンの第二サブセットを分離する工程と、
該イオンの第一サブセットに対し工程A−Dを実施して前記第一3次元表現を生成する工程と、
該イオンの第二サブセットに対し工程A−Dを実施して第二3次元表現を生成する工程と、
工程Dの分析を、該第一及び第二3次元表現の双方に、少なくとも部分的に基づいて行う工程とを
含む方法。
【請求項25】
サンプル分析の方法であって、
サンプルを解離する工程と、
該サンプルをイオン化する工程と、
該イオン化されたサンプルをフィルタ電界を通してフィルタする工程と、
複数のフィルタ電界条件において該フィルタ電界を通り流れる該イオン化されたサンプルの一部の強度を検知する工程と、
該強度の少なくとも一部に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、フロー・チャンネル内の圧力を低減することによって前記サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを放射能源に曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを他の分子と衝突させることによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項29】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルをレーザ光に曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを加熱することによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項31】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを化学プロセスに曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項32】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルをx線放射に曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項33】
請求項25に記載の方法であって、前記フィルタ電界強度を前記サンプルを解離するのに十分な強さに増大することによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項34】
サンプルを分析する方法であって、
サンプルをイオン化する工程と、
該サンプルをフロー・チャンネル中のフィルタ電界を通し流す工程と、
複数のフィルタ電界条件において、該フィルタ電界を通り流れる該イオン化されたサンプルの一部の強度を検知する工程と、
検知された強度ピークの幅にわたって、該フロー・チャンネル中の圧力を大気圧より低減する工程と、
該検知された強度ピークの、少なくとも一部に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【請求項1】
サンプル分析の方法であって、
A.少なくとも第一及び第二サンプル処理条件を、それぞれ、第一及び第二の複数の値にわたって変化をさせる工程と、
B.該第一及び第二の複数の値にわたる電界を流れ通るサンプルのイオン強度を検知する工程と、
C.該第一及び第二サンプル処理条件に対応する少なくとも2つの次元を3次元表現のうちに有する第一3次元表現の中に、該サンプル処理条件の各々に対し検知されたイオン強度を編成する工程と、
D.該第一3次元表現の少なくとも一部に、少なくとも部分的に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件はVrfを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件はVcompを含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は電界強度を含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、フロー・チャンネル中の前記サンプルに加える圧力を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、第一フロー・チャンネル圧力の下でステップA−Dを実施し、前記第一フロー・チャンネル圧力はほぼ一定なものとする、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
ほぼ一定で前記第一フロー・チャンネルとは異なる圧力の第二フロー・チャンネル圧力の下で工程A−Dを実施する工程と、
該第二フロー・チャンネル圧力における第二3次元表現を生成する工程と、
該工程Dの分析を、少なくとも部分的に、該第二3次元表現の一部に基づいて行う工程とを
含む方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記第一及び第二フロー・チャンネル圧力の少なくとも一つは大気圧より低い、方法
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、フロー・チャンネルの中の温度を含む、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、Vrfの周波数を含む、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、前記第一処理条件は、電界電圧のデューティサイクルを含む、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記3次元表現の前記第一、第二、及び第三次元の少なくとも一つの値変化を、グレイスケール、黒白パターン、カラー又は色彩度のうちの一つの変化として表す工程を含む方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、前記3次元表現中の、前記第一次元を長さ、前記第二次元を幅、第三次元を高さとして表す工程を含む方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、前記第一3次元表現は散布プロットである、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、前記第一3次元表現は、電界電圧に対するx軸、Vcompに対するy軸、及びイオン強度に対するカラー関連特性の変化状況を含む、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、前記第一3次元表現は、電界電圧に対応するx軸、電界補償電圧に対応するy軸、及びイオン強度に対応するz軸を含む、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、前記分析をする工程は、前記第一3次元表現の少なくとも一部を、既知の種に対応し保存された3次元表現のライブラリの少なくとも一部と対比する工程を含む、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法であって、フロー・チャンネル中の圧力を変えて前記解離を生じさせる工程を含む方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、
解離された状態及び解離されない状態の双方における前記サンプルに対する前記第一3次元表現を決定する工程と、
該解離されたサンプル状態及び解離されないサンプル状態双方の第一3次元表現に、少なくとも部分的に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法であって、前記サンプルの正イオンに対して工程A−Dを実施する工程を含む方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、
前記サンプルの負イオンに対して工程A−Dを実施する工程と、
該サンプルの該負イオンに対する第二3次元表現を生成する工程と、
工程Dの分析を、前記第一3次元表現及び該第二3次元表現の双方に少なくとも部分的に基づいて行う工程とを
含む方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法であって、前記工程Dの分析は、前記第一3次元表現に対してパターン認識を実施して前記サンプル中の種を分析する工程を含む、方法。
【請求項24】
請求項1に記載の方法であって、前記サンプルのイオンの第一サブセットから該サンプルのイオンの第二サブセットを分離する工程と、
該イオンの第一サブセットに対し工程A−Dを実施して前記第一3次元表現を生成する工程と、
該イオンの第二サブセットに対し工程A−Dを実施して第二3次元表現を生成する工程と、
工程Dの分析を、該第一及び第二3次元表現の双方に、少なくとも部分的に基づいて行う工程とを
含む方法。
【請求項25】
サンプル分析の方法であって、
サンプルを解離する工程と、
該サンプルをイオン化する工程と、
該イオン化されたサンプルをフィルタ電界を通してフィルタする工程と、
複数のフィルタ電界条件において該フィルタ電界を通り流れる該イオン化されたサンプルの一部の強度を検知する工程と、
該強度の少なくとも一部に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、フロー・チャンネル内の圧力を低減することによって前記サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを放射能源に曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを他の分子と衝突させることによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項29】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルをレーザ光に曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項30】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを加熱することによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項31】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルを化学プロセスに曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項32】
請求項25に記載の方法であって、前記サンプルをx線放射に曝すことによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項33】
請求項25に記載の方法であって、前記フィルタ電界強度を前記サンプルを解離するのに十分な強さに増大することによって該サンプルを解離する工程を含む方法。
【請求項34】
サンプルを分析する方法であって、
サンプルをイオン化する工程と、
該サンプルをフロー・チャンネル中のフィルタ電界を通し流す工程と、
複数のフィルタ電界条件において、該フィルタ電界を通り流れる該イオン化されたサンプルの一部の強度を検知する工程と、
検知された強度ピークの幅にわたって、該フロー・チャンネル中の圧力を大気圧より低減する工程と、
該検知された強度ピークの、少なくとも一部に基づいて該サンプルを分析する工程とを
含む方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26−1】
【図26C】
【図26D】
【図26−3】
【図26−4】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32−1】
【図32−2】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40A】
【図40B】
【図40C】
【図40D】
【図40E】
【図40F】
【図40G】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26−1】
【図26C】
【図26D】
【図26−3】
【図26−4】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32−1】
【図32−2】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40A】
【図40B】
【図40C】
【図40D】
【図40E】
【図40F】
【図40G】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【公表番号】特表2007−513340(P2007−513340A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541718(P2006−541718)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/039590
【国際公開番号】WO2005/052546
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506176526)サイオネックス コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/039590
【国際公開番号】WO2005/052546
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506176526)サイオネックス コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】
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