サンプルラック
【課題】取り外し時の作業性が良く、試料冷却能力の高いサンプルラックを提供すること。
【解決手段】試料液を内包した試料保持容器6が装填され、冷却装置8を介して冷却されるサンプルラック1において、試料保持容器6が収納される収納部40と、収納部40の底面に傾斜をつけて設けられた溝部11とを備え、収納部40の底面と溝部11とを連通させ、溝部11に導入された結露水をサンプルラック1の側面に設けられた開口部12を介してサンプルラック1の外部に排出する。
【解決手段】試料液を内包した試料保持容器6が装填され、冷却装置8を介して冷却されるサンプルラック1において、試料保持容器6が収納される収納部40と、収納部40の底面に傾斜をつけて設けられた溝部11とを備え、収納部40の底面と溝部11とを連通させ、溝部11に導入された結露水をサンプルラック1の側面に設けられた開口部12を介してサンプルラック1の外部に排出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料保持容器を支持するサンプルラックに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ装置には、ラックホルダに装着されたサンプルラックに並べられた試料保持容器(サンプル瓶)中の試料液を、ニードルによって吸引して液体クロマトグラフの移動相流路中に自動的に注入する自動試料導入装置(オートサンプラ)を備えたものがある。また、液体クロマトグラフ装置におけるサンプルラックは、ラックホルダに対して着脱可能な構造とされることがある。このような構造とすると、サンプルラックをラックホルダから取り外して別の場所で試料保持容器の取り付け・取り外し作業を行うことができるので、使用者の操作性を向上させることができる。また、サンプルラックを複数個用意し、前もって試料保持容器の設置作業行っておけば、試料液の迅速な交換も可能となる。
【0003】
一方、液体クロマトグラフで再現性の高い分析結果を得るためには、分析対象となる試料液の濃度が分析中に安定していることが要求される。即ち、分析中、試料液の温度を一定に保つことが重要となってくる。一般に、液体クロマトグラフにて分析する試料液を調整する際、分析対象となる試料を溶かす液体として有機溶剤(または有機溶剤を一部含んだ液体)を使用する場合が多いが、沸点の低い有機溶剤ほど、ある温度における飽和蒸気圧が高く、蒸発速度も大きくなるため、試料液の濃度が変動しやすい。そのため、液体クロマトグラフでは、試料液を4〜15℃程度に冷却して温度を一定に保った状態で分析を行う場合が多く、試料保持容器中の試料液を冷却するための試料冷却装置が利用されることがある。
【0004】
試料冷却装置では、試料液の冷却に際して、周囲温度及び周囲湿度等の環境条件、目標温度の設定条件又は試料保持容器、サンプルラック及びラックホルダ等の構成条件によって、試料保持容器やサンプルラックに結露が発生することがある。そして、試料保持容器の上部(例えば、セプタム)に結露が発生するような場合には、ニードルと共に結露水が試料保持容器内に浸入して試料濃度を変動させ、誤った分析結果をもたらす原因となることがある。
【0005】
この点を鑑みたサンプルラック(サンプルホルダ)としては、底部が金属で形成されたサンプルラック本体の下方に試料冷却装置を設置し、その試料冷却装置で試料保持容器の底部を主に冷却することで、試料保持容器の上部に結露が発生することを抑制しようとしたものがある(特許文献1等参照)。また、金属と比較して熱伝導率の低い合成樹脂で形成したサンプルラック本体における試料保持容器の収納部の底部にドレン用の排水孔を設け、当該排水孔と試料保持容器の底面との間に保持される結露水を利用して試料保持容器の底部を主に冷却することで、試料保持容器の上部に結露が発生することを抑制しようとしたものがある(特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−17542号公報
【特許文献2】実開平4−88843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1,2記載のサンプルラックでは、収納部の底部に設けた排水孔から結露水を排出する具体的な構造が示されておらず、発生した結露水がサンプルラックやラックホルダ内部に貯留するおそれがある(特許文献2では、排水孔と試料保持容器の収納部の底面との間に保持される結露水を利用して試料液の冷却促進を試みている点を鑑みると、積極的に結露水を外部に排出していないことが推察される)。結露水が貯留すると、サンプルラックをラックホルダから取り外す際にその周辺や使用者に結露水が飛散するおそれがあり、取り外し時の作業性が低下する可能性がある。また、上記のように結露水が貯留した場合には、その結露水を介して試料保持容器内の試料液を冷却することとなるが、金属等の熱伝導率の高いものを介して冷却する場合と比較して冷却能力ΔT(周囲温度に対する到達可能な温度差)が低下するので、目標温度に達成しないおそれもある。
【0008】
本発明の目的は、取り外し時の作業性が良く、試料冷却能力の高いサンプルラックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、試料液を内包した試料保持容器が装填されるサンプルラックであって、前記試料保持容器が収納される収納部と、前記収納部の下方に傾斜をつけて設けられた溝部とを備え、前記収納部の底面と前記溝部は連通しているものとする。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記収納部は、前記試料保持容器が収納されたときに、当該試料保持容器の底面及び側面と接触可能に形成されているものとする。
【0011】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記溝部は、前記収納部の底面に傾斜をもって設けられ、当該傾斜の最下端において外部に開口しており、さらに、前記収納部の側面とつながっているものとする。
【0012】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記収納部は、前記収納部の一部であって、前記試料保持容器の底面及び側面を収納する収納部下部と、前記収納部の一部であって、前記収納部下部の上方に位置して前記試料保持容器の側面を収納する収納部上部とを有し、前記収納部下部は、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されているものとする。
【0013】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記収納部下部の高さは、前記試料保持容器が前記収納部に収納されたときの当該試料保持容器の胴部の高さ以下であるものとする。
【0014】
(6)上記(1)におけるサンプルラックと、前記サンプルラックを着脱可能に支持するラックホルダと、前記ラックホルダを冷却する冷却装置と、前記溝部から排出される水が貯えられる貯水手段とを備えるものとする。
【0015】
(7)上記(6)において、好ましくは、前記ラックホルダは、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されているものとする。
【0016】
(8)上記(6)において、好ましくは、前記ラックホルダは、前記溝部の下方に傾斜をつけて設けられた他の溝部であって前記溝部から排出された水が導入されるものを有し、前記貯水手段には、前記溝部から前記他の溝部を経由した水が貯えられているものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、結露水が積極的に排出されるので、サンプルラックの取り外し時の作業性と試料冷却能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る液体クロマトグラフ装置における自動試料導入装置の概観図。
【図2】本発明の実施の形態に係るサンプルラックに装填される試料保持容器の構成図。
【図3】本発明の実施の形態に係るサンプルラックの構成図。
【図4】本発明の実施の形態に係るサンプルラックにおける下部材の上面図。
【図5】図4中のV-V面における下部材の断面図。
【図6】図4中のVI-VI面における下部材の断面図。
【図7】本発明の実施の形態に係るサンプルラックにおける下部材の斜視図。
【図8】本発明の実施の形態に係るラックホルダ及びその周辺の構成図。
【図9】本発明の他の実施の形態に係る自動試料導入装置の冷却装置の構成を示す概観図。
【図10】本発明の他の実施の形態に係るサンプルラックにおける下部材の上面図。
【図11】図10中のXI-XI面における下部材の断面図。
【図12】本発明の他の実施の形態に係るラックホルダにおける第1部材の上面図。
【図13】図12中のXIII-XIII面における第1部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0020】
図1は本発明の実施の形態に係る液体クロマトグラフ装置における自動試料導入装置100の概観図である。この図に示す試料導入装置100は、試料液を内包した試料保持容器6(図2参照)が装填されるサンプルラック1と、サンプルラック1を支持するラックホルダ5を備えており、試料保持容器6内の試料を冷却する機能を有している。
【0021】
図2はサンプルラック1に装填される試料保持容器6の構成図である。この図に示す試料保持容器6は、略円筒状に形成されており、キャップ61と、セプタム62と、試料びん63を備えている。試料びん63は、略円筒状に形成された胴部63aと、胴部63aよりも径が小さく開口部を有する首部63bとによって形成されている。試料びん63には測定対象となる試料液が取り分けられており、試料びん63の開口部はセプタム62を介してキャップ63にて封止されている。
【0022】
図3は本発明の実施の形態に係るサンプルラック1の構成図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
【0023】
この図において、サンプルラック1は、試料導入装置100内においてラックホルダ5と接触する下部材10と、下部材10の上部に取り付けられた上部材20と、上部材20の上部に取り付けられたカバー部材30を備えている。これら下部材10、上部材20及びカバー部材30によって組み立てられたサンプルラック1には、試料保持容器6が収納される複数の収納部40が格子状に配置されている。詳細は後述するが、各収納部40は、それぞれ、下部材10における収納部下部41と、上部材20における収納部上部42と、カバー部材30における孔43によって形成されている。
【0024】
図4はサンプルラック1における下部材10の上面図であり、図5は図4中のV-V面における下部材の断面図であり、図6は図4中のVI-VI面における下部材の断面図であり、図7は下部材10の斜視図である。なお、以下において、図4における横方向をサンプルラック1の横方向と称することがあり、図4における縦方向をサンプルラック1の縦方向と称することがある。
【0025】
図3から図7に示すように、下部材10には、試料保持容器6の底面及び側面(試料保持容器6の下側部分)が収納される凹部であって、収納部40の一部となる収納部下部41が設けられている。本実施の形態における収納部下部41は、試料保持容器6の形状に合わせて略円筒状に形成されている。このように試料保持容器6の形状に合わせて収納部下部41を形成すると、収納部下部41が試料保持容器6の底面及び側面に接触可能になるので、収納部下部41から試料保持容器6への熱伝導効率が向上する。収納部下部41を介した試料液の冷却効率をさらに向上させるためには、下部材10の材料として、熱伝導率の高い金属(アルミニウム、銅、真鍮等)を用いることが好ましい。
【0026】
また、収納部下部41の高さ(凹部の深さ)は、試料保持容器6内の試料液の液面の高さと対応させることが好ましい。これは、結露水の発生をできるだけ抑制する観点からは、不必要な部分の冷却を避けて試料液のみを冷却することが有効であるからである。すなわち、収納部下部41の高さは、試料保持容器6における胴部63aの高さ以下とすることが好ましく、最大でも胴部63aの高さと同程度にすることが好ましい。このように収納部下部41を形成すれば、セプタム62付近の冷却が抑制されるので、セプタム62に結露水が発生することが抑制され、ニードルと共に結露水が試料保持容器内に侵入することを防止できる。
【0027】
収納部下部41の下方には、サンプルラック1内で発生した結露水が流通する流路であって、水平面に対して傾斜をつけて設けられた溝部11が位置している。本実施の形態における溝部11は、サンプルラック1の横方向に延在しており、サンプルラック1の縦方向に複数配列されている。また、その配列数はサンプルラック1の縦方向における収納部40の数と対応している。各溝部11は、サンプルラック1の横方向における中央部分から左右両端に向かってそれぞれ下り勾配に形成されており、その傾斜の最下端は下部材10の左右両側面において開口部12として表出している。収納部40内で発生した結露水は、溝部11を通過した後に、開口部12を介してサンプルラック1外へ排出される。
【0028】
本実施の形態における収納部下部41は、その側面に設けられた連通部13を介して、サンプルラック1の横方向において隣接する他の収納部下部41と連通している。この連通部13は、収納部下部41の底面に設けられた溝部11とつながっており、連通部13の底面は溝部11の底面と一致している。すなわち、本実施の形態における溝部11は、収納部下部41の側面とつながっており、収納部下部41の側面からも結露水を溝部11に排出することが可能となっている。このように収納部下部41の側面からも排水可能な構成とすると、試料保持容器6の側面のうち連通部13に臨む部分を介して結露水を溝部11に流下させることができるので、収納部下部41の底面からのみ排水可能とした場合よりも積極的に結露水を排水させることができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、サンプルラック1の横方向に勾配を付けて作成した溝部11を、サンプルラック1の縦方向に複数配置したが、サンプルラック1の縦方向に勾配を付けて作成した溝部11を、サンプルラック1の横方向に複数配置する等しても良い。
【0030】
図3に示すように、上部材20には、試料保持容器6の側面(試料保持容器6の上側部分)が収納される孔であって、収納部40の一部となる収納部上部42が設けられている。本実施の形態における収納部下部42は、収納部下部41と同様に、試料保持容器6の形状に合わせて略円筒状に形成されている。
【0031】
なお、試料保持容器6におけるセプタム62近傍等に結露水が発生することを抑制する観点からは、上部材20(収納部上部42)は、下部材10(収納部下部41)と比較して相対的に熱伝導率の低い材料で形成することが好ましい(換言すれば、下部材10(収納部下部41)は、上部材20(収納部上部42)と比較して相対的に熱伝導の高い材料で形成することが好ましい)。具体的には、上部材20には、発泡材(ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等)、ゴムスポンジ(エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(Si)等)、樹脂(PP、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)等)を用いることが好ましい。
【0032】
カバー部材30には、試料保持容器6が挿入される孔であって、収納部40の一部となる孔43が設けられている。本実施の形態における孔43は、収納部下部41と同様に、試料保持容器6の形状に合わせて略円筒状に形成されている。カバー部材30の材料としては、サンプルラック1の強度確保の観点から、金属材(ステンレス、アルミニウム等)や、樹脂(PP、PPS、PPE、m−PPE)を用いることが好ましい。
【0033】
ラックホルダ5は、試料導入装置100内においてサンプルラック1が載置される部分である。ラックホルダ5は、サンプルラック1を着脱可能に支持しており、これにより任意の場所でサンプルラック1への試料保持容器6の装填及び取り外しが可能となっている。ラックホルダ5をこのような構造とすると、サンプルラック1をラックホルダ5から取り外して別の場所で試料保持容器の取り付け・取り外し作業を行うことができるので、使用者の操作性を向上させることができる。また、サンプルラック1を複数個用意し、前もって試料保持容器6の設置作業行っておけば、試料液の迅速な交換も可能となる。
【0034】
図8は本発明の実施の形態に係るラックホルダ5及びその周辺の構成図である。この図に示すように、ラックホルダ5は、傾斜をつけて設けられた2つの溝部53(他の溝部)を有している。溝部53は、ラックホルダ5上にサンプルラック1を載置させたときにおいて、開口部12の下方に位置するように設けられている。本実施の形態における溝部53は、サンプルラック1の左右両側面に配置された複数の開口部12に合わせてサンプルラック1の縦方向に延在しており、図8における手前側に向かって下り勾配に形成されている。溝部53の最下端(図8における手前側)の下方には、溝部53から排出される水(結露水)が貯えられる貯水トレイ7(貯水手段)が設置されている。
【0035】
なお、本実施の形態では、ラックホルダ5に溝部53を設けることで、サンプルラック1の溝部11からラックホルダ5の溝部53を経由した水が貯水トレイ7に貯えられる構成としているが、別途流路を設ける等して、サンプルラック1の開口部12から排出される水を貯水トレイ7に直接導入する構成を採用しても良い。
【0036】
本実施の形態におけるラックホルダ5は、板状の第1部材51と、第1部材51を左右及び後ろ側から取り囲み、溝部53が設けられた第2部材52によって形成されている。第1部材51の下方には、ペルチェ素子等を利用して構成された冷却装置8が設置されている。冷却装置8は、ラックホルダ5及びサンプルラック1を介して試料保持容器6を冷却し、試料保持容器6内の試料液を所定の温度に保持している。そのため、試料液を効率良く冷却する観点からは、第1部材51とサンプルラック1の下部材10との接触面積を可能な限り広く確保することが好ましい。また、同様の観点から、第1部材51は、サンプルラック1の下部材10と同様に、熱伝導率の高い金属(アルミニウム、銅、真鍮等)で形成することが好ましい。一方、第2部材52は、第1部材51周囲に結露水が発生して冷却効果が低下することを抑制する観点から、第1部材51よりも熱伝導率の低い材料で形成することが好ましい。
【0037】
以上のように構成される試料導入装置100において、試料保持容器6内の試料液の温度を一定(目標温度)に保持するために冷却装置8を作動させると、冷却装置8によってラックホルダ5が冷却される。このように冷却されたラックホルダ5は、サンプルラック1の下部材10を介して試料保持容器6内の試料液を冷却する。このとき、サンプルラック1の下部材10は、収納部下部41において、試料保持容器6の底面及び側面と接触しているので、その熱伝導面積は、試料保持容器6の底面のみを冷却する場合と比較して大きく、試料保持容器6内の試料液は効率良く冷却される。特に、試料保持容器6の底面のみを冷却する場合には上方の試料液が冷えにくく、試料液の高さ方向に温度差が生じるおそれがあるが、本実施の形態では、試料保持容器6の底面だけでなくその側面から伝達される熱によっても試料液は冷却されるので、試料液の高さ方向に温度差が生じることを抑制することができる。
【0038】
このように行われる試料液の冷却に際しては、周囲温度及び周囲湿度等の環境条件又は目標温度の設定条件等によって、試料保持容器6やサンプルラック1に結露が発生することがある。しかし、本実施の形態に係るサンプルラック1は、収納部40の下方に傾斜をつけて設けられ、収納部40の底面と連通する溝部11を備えている。そのため、発生した結露水は、収納部40に貯留することなく、溝部11を介して積極的にサンプルラック1外へ排水される。すなわち、上記のようにサンプルラック1を形成すれば、結露水が貯留することによる冷却能力低下の問題が解消されるだけでなく、サンプルラック1を取り外す際に使用者や装置周辺に結露水が飛散する問題も解決することができる。したがって、本実施の形態によれば、結露水が積極的に排出されるので、サンプルラック1の取り外し時の作業性と試料冷却能力を向上させることができる。
【0039】
ところで、本実施の形態に係るラックホルダ5には、開口部12の下方に位置するように傾斜を付けて設けられた溝部53が設けられているため、試料保持容器6の周辺で発生した結露水は、サンプルラック1の溝部11を通過して開口部12から積極的に排出され、その排出された結露水は溝部53を通過して試料導入装置100の前面に設置された貯水トレイで回収される。これにより結露水の処理も容易になるのでサンプルラック1の取り外し時の作業性はさらに向上する。
【0040】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。本実施の形態は、先の実施の形態と比較して、サンプルラック1Aの下部材10Aの形状と、ラックホルダ5Aの第1部材51Aの形状が主に異なっている。
【0041】
図9は本発明の他の実施の形態に係る自動試料導入装置の冷却装置の構成を示す概観図である。この図に示す試料導入装置は、サンプルラック1Aと、ラックホルダ5Aと、貯水トレイ7Aを主に備えている。サンプルラック1Aは、下部材10Aを有しており、ラックホルダ5Aは、第1部材51Aと、第2部材52Aを有している。
【0042】
図10は本実施の形態に係るサンプルラック5Aにおける下部材10Aの上面図であり、図11は図10中のXI-XI面における下部材10Aの断面図である。
【0043】
これらの図に示す下部材10Aにおける収納部下部41のうち、サンプルラック1Aの左右両端に位置する収納部下部41には、それぞれ、下部材10Aの底面に開口した開口部12Aが設けられている。開口部12Aは溝部11と連通しており、収納部40内で発生した結露水は、溝部11を通過した後に、開口部12Aを介してサンプルラック1A外へ排出される。
【0044】
図12は本実施の形態に係るラックホルダ5Aにおける第1部材51Aの上面図であり、図13は図12中のXIII-XIII面における断面図である。
【0045】
これらの図に示す第1部材51Aは、傾斜をつけて設けられた2つの溝部53Aを有している。溝部53Aは、ラックホルダ5A上にサンプルラック1Aを載置させたときにおいて、下部材10Aにおける開口部12Aの下方に位置するように設けられており、開口部12Aの位置に合わせて縦方向に延在している。本実施の形態における溝部53Aは、図9における手前から奥(図12における下側から上側)に向かって下り勾配に形成されており、その勾配の最下端において、第1部材51Aの側面に設けられた開口部54と連通している。開口部54の下方には貯水トレイ7Aが設置されている。なお、先の実施の形態と同様の観点から、第1部材51Aは熱伝導率の高い金属で形成することが好ましく、第2部材52Aは熱伝導率の低い材料で形成することが好ましい。
【0046】
このように自動試料導入装置を構成しても、試料液の冷却中に発生した結露水を、サンプルラック1Aの溝部11及び開口部12Aを介して外部に排出することができ、さらには、その排水をラックホルダ5Aの溝部53A及び開口部54を介して貯水トレイ7Aで回収することができる。したがって、本実施の形態においても先の実施の形態と同様の効果を発揮することができる。
【0047】
なお、以上の説明では、冷却装置8を備える試料導入装置を例に挙げて説明したが、当該試料導入装置から試料導入機能を省略した試料冷却装置にも本発明が適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 サンプルラック
5 ラックホルダ
6 試料保持容器
7 貯水トレイ
8 冷却装置
10 下部材
11 溝部
12 開口部
13 連通部
20 上部材
30 カバー部材
40 収納部
41 収納部下部
42 収納部上部
43 孔
53 溝部
54 開口部
61 キャップ
62 セプタム
63a 胴部
63b 首部
100 試料導入装置
【技術分野】
【0001】
本発明は試料保持容器を支持するサンプルラックに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ装置には、ラックホルダに装着されたサンプルラックに並べられた試料保持容器(サンプル瓶)中の試料液を、ニードルによって吸引して液体クロマトグラフの移動相流路中に自動的に注入する自動試料導入装置(オートサンプラ)を備えたものがある。また、液体クロマトグラフ装置におけるサンプルラックは、ラックホルダに対して着脱可能な構造とされることがある。このような構造とすると、サンプルラックをラックホルダから取り外して別の場所で試料保持容器の取り付け・取り外し作業を行うことができるので、使用者の操作性を向上させることができる。また、サンプルラックを複数個用意し、前もって試料保持容器の設置作業行っておけば、試料液の迅速な交換も可能となる。
【0003】
一方、液体クロマトグラフで再現性の高い分析結果を得るためには、分析対象となる試料液の濃度が分析中に安定していることが要求される。即ち、分析中、試料液の温度を一定に保つことが重要となってくる。一般に、液体クロマトグラフにて分析する試料液を調整する際、分析対象となる試料を溶かす液体として有機溶剤(または有機溶剤を一部含んだ液体)を使用する場合が多いが、沸点の低い有機溶剤ほど、ある温度における飽和蒸気圧が高く、蒸発速度も大きくなるため、試料液の濃度が変動しやすい。そのため、液体クロマトグラフでは、試料液を4〜15℃程度に冷却して温度を一定に保った状態で分析を行う場合が多く、試料保持容器中の試料液を冷却するための試料冷却装置が利用されることがある。
【0004】
試料冷却装置では、試料液の冷却に際して、周囲温度及び周囲湿度等の環境条件、目標温度の設定条件又は試料保持容器、サンプルラック及びラックホルダ等の構成条件によって、試料保持容器やサンプルラックに結露が発生することがある。そして、試料保持容器の上部(例えば、セプタム)に結露が発生するような場合には、ニードルと共に結露水が試料保持容器内に浸入して試料濃度を変動させ、誤った分析結果をもたらす原因となることがある。
【0005】
この点を鑑みたサンプルラック(サンプルホルダ)としては、底部が金属で形成されたサンプルラック本体の下方に試料冷却装置を設置し、その試料冷却装置で試料保持容器の底部を主に冷却することで、試料保持容器の上部に結露が発生することを抑制しようとしたものがある(特許文献1等参照)。また、金属と比較して熱伝導率の低い合成樹脂で形成したサンプルラック本体における試料保持容器の収納部の底部にドレン用の排水孔を設け、当該排水孔と試料保持容器の底面との間に保持される結露水を利用して試料保持容器の底部を主に冷却することで、試料保持容器の上部に結露が発生することを抑制しようとしたものがある(特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平3−17542号公報
【特許文献2】実開平4−88843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1,2記載のサンプルラックでは、収納部の底部に設けた排水孔から結露水を排出する具体的な構造が示されておらず、発生した結露水がサンプルラックやラックホルダ内部に貯留するおそれがある(特許文献2では、排水孔と試料保持容器の収納部の底面との間に保持される結露水を利用して試料液の冷却促進を試みている点を鑑みると、積極的に結露水を外部に排出していないことが推察される)。結露水が貯留すると、サンプルラックをラックホルダから取り外す際にその周辺や使用者に結露水が飛散するおそれがあり、取り外し時の作業性が低下する可能性がある。また、上記のように結露水が貯留した場合には、その結露水を介して試料保持容器内の試料液を冷却することとなるが、金属等の熱伝導率の高いものを介して冷却する場合と比較して冷却能力ΔT(周囲温度に対する到達可能な温度差)が低下するので、目標温度に達成しないおそれもある。
【0008】
本発明の目的は、取り外し時の作業性が良く、試料冷却能力の高いサンプルラックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、試料液を内包した試料保持容器が装填されるサンプルラックであって、前記試料保持容器が収納される収納部と、前記収納部の下方に傾斜をつけて設けられた溝部とを備え、前記収納部の底面と前記溝部は連通しているものとする。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記収納部は、前記試料保持容器が収納されたときに、当該試料保持容器の底面及び側面と接触可能に形成されているものとする。
【0011】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記溝部は、前記収納部の底面に傾斜をもって設けられ、当該傾斜の最下端において外部に開口しており、さらに、前記収納部の側面とつながっているものとする。
【0012】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記収納部は、前記収納部の一部であって、前記試料保持容器の底面及び側面を収納する収納部下部と、前記収納部の一部であって、前記収納部下部の上方に位置して前記試料保持容器の側面を収納する収納部上部とを有し、前記収納部下部は、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されているものとする。
【0013】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記収納部下部の高さは、前記試料保持容器が前記収納部に収納されたときの当該試料保持容器の胴部の高さ以下であるものとする。
【0014】
(6)上記(1)におけるサンプルラックと、前記サンプルラックを着脱可能に支持するラックホルダと、前記ラックホルダを冷却する冷却装置と、前記溝部から排出される水が貯えられる貯水手段とを備えるものとする。
【0015】
(7)上記(6)において、好ましくは、前記ラックホルダは、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されているものとする。
【0016】
(8)上記(6)において、好ましくは、前記ラックホルダは、前記溝部の下方に傾斜をつけて設けられた他の溝部であって前記溝部から排出された水が導入されるものを有し、前記貯水手段には、前記溝部から前記他の溝部を経由した水が貯えられているものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、結露水が積極的に排出されるので、サンプルラックの取り外し時の作業性と試料冷却能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る液体クロマトグラフ装置における自動試料導入装置の概観図。
【図2】本発明の実施の形態に係るサンプルラックに装填される試料保持容器の構成図。
【図3】本発明の実施の形態に係るサンプルラックの構成図。
【図4】本発明の実施の形態に係るサンプルラックにおける下部材の上面図。
【図5】図4中のV-V面における下部材の断面図。
【図6】図4中のVI-VI面における下部材の断面図。
【図7】本発明の実施の形態に係るサンプルラックにおける下部材の斜視図。
【図8】本発明の実施の形態に係るラックホルダ及びその周辺の構成図。
【図9】本発明の他の実施の形態に係る自動試料導入装置の冷却装置の構成を示す概観図。
【図10】本発明の他の実施の形態に係るサンプルラックにおける下部材の上面図。
【図11】図10中のXI-XI面における下部材の断面図。
【図12】本発明の他の実施の形態に係るラックホルダにおける第1部材の上面図。
【図13】図12中のXIII-XIII面における第1部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0020】
図1は本発明の実施の形態に係る液体クロマトグラフ装置における自動試料導入装置100の概観図である。この図に示す試料導入装置100は、試料液を内包した試料保持容器6(図2参照)が装填されるサンプルラック1と、サンプルラック1を支持するラックホルダ5を備えており、試料保持容器6内の試料を冷却する機能を有している。
【0021】
図2はサンプルラック1に装填される試料保持容器6の構成図である。この図に示す試料保持容器6は、略円筒状に形成されており、キャップ61と、セプタム62と、試料びん63を備えている。試料びん63は、略円筒状に形成された胴部63aと、胴部63aよりも径が小さく開口部を有する首部63bとによって形成されている。試料びん63には測定対象となる試料液が取り分けられており、試料びん63の開口部はセプタム62を介してキャップ63にて封止されている。
【0022】
図3は本発明の実施の形態に係るサンプルラック1の構成図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
【0023】
この図において、サンプルラック1は、試料導入装置100内においてラックホルダ5と接触する下部材10と、下部材10の上部に取り付けられた上部材20と、上部材20の上部に取り付けられたカバー部材30を備えている。これら下部材10、上部材20及びカバー部材30によって組み立てられたサンプルラック1には、試料保持容器6が収納される複数の収納部40が格子状に配置されている。詳細は後述するが、各収納部40は、それぞれ、下部材10における収納部下部41と、上部材20における収納部上部42と、カバー部材30における孔43によって形成されている。
【0024】
図4はサンプルラック1における下部材10の上面図であり、図5は図4中のV-V面における下部材の断面図であり、図6は図4中のVI-VI面における下部材の断面図であり、図7は下部材10の斜視図である。なお、以下において、図4における横方向をサンプルラック1の横方向と称することがあり、図4における縦方向をサンプルラック1の縦方向と称することがある。
【0025】
図3から図7に示すように、下部材10には、試料保持容器6の底面及び側面(試料保持容器6の下側部分)が収納される凹部であって、収納部40の一部となる収納部下部41が設けられている。本実施の形態における収納部下部41は、試料保持容器6の形状に合わせて略円筒状に形成されている。このように試料保持容器6の形状に合わせて収納部下部41を形成すると、収納部下部41が試料保持容器6の底面及び側面に接触可能になるので、収納部下部41から試料保持容器6への熱伝導効率が向上する。収納部下部41を介した試料液の冷却効率をさらに向上させるためには、下部材10の材料として、熱伝導率の高い金属(アルミニウム、銅、真鍮等)を用いることが好ましい。
【0026】
また、収納部下部41の高さ(凹部の深さ)は、試料保持容器6内の試料液の液面の高さと対応させることが好ましい。これは、結露水の発生をできるだけ抑制する観点からは、不必要な部分の冷却を避けて試料液のみを冷却することが有効であるからである。すなわち、収納部下部41の高さは、試料保持容器6における胴部63aの高さ以下とすることが好ましく、最大でも胴部63aの高さと同程度にすることが好ましい。このように収納部下部41を形成すれば、セプタム62付近の冷却が抑制されるので、セプタム62に結露水が発生することが抑制され、ニードルと共に結露水が試料保持容器内に侵入することを防止できる。
【0027】
収納部下部41の下方には、サンプルラック1内で発生した結露水が流通する流路であって、水平面に対して傾斜をつけて設けられた溝部11が位置している。本実施の形態における溝部11は、サンプルラック1の横方向に延在しており、サンプルラック1の縦方向に複数配列されている。また、その配列数はサンプルラック1の縦方向における収納部40の数と対応している。各溝部11は、サンプルラック1の横方向における中央部分から左右両端に向かってそれぞれ下り勾配に形成されており、その傾斜の最下端は下部材10の左右両側面において開口部12として表出している。収納部40内で発生した結露水は、溝部11を通過した後に、開口部12を介してサンプルラック1外へ排出される。
【0028】
本実施の形態における収納部下部41は、その側面に設けられた連通部13を介して、サンプルラック1の横方向において隣接する他の収納部下部41と連通している。この連通部13は、収納部下部41の底面に設けられた溝部11とつながっており、連通部13の底面は溝部11の底面と一致している。すなわち、本実施の形態における溝部11は、収納部下部41の側面とつながっており、収納部下部41の側面からも結露水を溝部11に排出することが可能となっている。このように収納部下部41の側面からも排水可能な構成とすると、試料保持容器6の側面のうち連通部13に臨む部分を介して結露水を溝部11に流下させることができるので、収納部下部41の底面からのみ排水可能とした場合よりも積極的に結露水を排水させることができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、サンプルラック1の横方向に勾配を付けて作成した溝部11を、サンプルラック1の縦方向に複数配置したが、サンプルラック1の縦方向に勾配を付けて作成した溝部11を、サンプルラック1の横方向に複数配置する等しても良い。
【0030】
図3に示すように、上部材20には、試料保持容器6の側面(試料保持容器6の上側部分)が収納される孔であって、収納部40の一部となる収納部上部42が設けられている。本実施の形態における収納部下部42は、収納部下部41と同様に、試料保持容器6の形状に合わせて略円筒状に形成されている。
【0031】
なお、試料保持容器6におけるセプタム62近傍等に結露水が発生することを抑制する観点からは、上部材20(収納部上部42)は、下部材10(収納部下部41)と比較して相対的に熱伝導率の低い材料で形成することが好ましい(換言すれば、下部材10(収納部下部41)は、上部材20(収納部上部42)と比較して相対的に熱伝導の高い材料で形成することが好ましい)。具体的には、上部材20には、発泡材(ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等)、ゴムスポンジ(エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(Si)等)、樹脂(PP、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)等)を用いることが好ましい。
【0032】
カバー部材30には、試料保持容器6が挿入される孔であって、収納部40の一部となる孔43が設けられている。本実施の形態における孔43は、収納部下部41と同様に、試料保持容器6の形状に合わせて略円筒状に形成されている。カバー部材30の材料としては、サンプルラック1の強度確保の観点から、金属材(ステンレス、アルミニウム等)や、樹脂(PP、PPS、PPE、m−PPE)を用いることが好ましい。
【0033】
ラックホルダ5は、試料導入装置100内においてサンプルラック1が載置される部分である。ラックホルダ5は、サンプルラック1を着脱可能に支持しており、これにより任意の場所でサンプルラック1への試料保持容器6の装填及び取り外しが可能となっている。ラックホルダ5をこのような構造とすると、サンプルラック1をラックホルダ5から取り外して別の場所で試料保持容器の取り付け・取り外し作業を行うことができるので、使用者の操作性を向上させることができる。また、サンプルラック1を複数個用意し、前もって試料保持容器6の設置作業行っておけば、試料液の迅速な交換も可能となる。
【0034】
図8は本発明の実施の形態に係るラックホルダ5及びその周辺の構成図である。この図に示すように、ラックホルダ5は、傾斜をつけて設けられた2つの溝部53(他の溝部)を有している。溝部53は、ラックホルダ5上にサンプルラック1を載置させたときにおいて、開口部12の下方に位置するように設けられている。本実施の形態における溝部53は、サンプルラック1の左右両側面に配置された複数の開口部12に合わせてサンプルラック1の縦方向に延在しており、図8における手前側に向かって下り勾配に形成されている。溝部53の最下端(図8における手前側)の下方には、溝部53から排出される水(結露水)が貯えられる貯水トレイ7(貯水手段)が設置されている。
【0035】
なお、本実施の形態では、ラックホルダ5に溝部53を設けることで、サンプルラック1の溝部11からラックホルダ5の溝部53を経由した水が貯水トレイ7に貯えられる構成としているが、別途流路を設ける等して、サンプルラック1の開口部12から排出される水を貯水トレイ7に直接導入する構成を採用しても良い。
【0036】
本実施の形態におけるラックホルダ5は、板状の第1部材51と、第1部材51を左右及び後ろ側から取り囲み、溝部53が設けられた第2部材52によって形成されている。第1部材51の下方には、ペルチェ素子等を利用して構成された冷却装置8が設置されている。冷却装置8は、ラックホルダ5及びサンプルラック1を介して試料保持容器6を冷却し、試料保持容器6内の試料液を所定の温度に保持している。そのため、試料液を効率良く冷却する観点からは、第1部材51とサンプルラック1の下部材10との接触面積を可能な限り広く確保することが好ましい。また、同様の観点から、第1部材51は、サンプルラック1の下部材10と同様に、熱伝導率の高い金属(アルミニウム、銅、真鍮等)で形成することが好ましい。一方、第2部材52は、第1部材51周囲に結露水が発生して冷却効果が低下することを抑制する観点から、第1部材51よりも熱伝導率の低い材料で形成することが好ましい。
【0037】
以上のように構成される試料導入装置100において、試料保持容器6内の試料液の温度を一定(目標温度)に保持するために冷却装置8を作動させると、冷却装置8によってラックホルダ5が冷却される。このように冷却されたラックホルダ5は、サンプルラック1の下部材10を介して試料保持容器6内の試料液を冷却する。このとき、サンプルラック1の下部材10は、収納部下部41において、試料保持容器6の底面及び側面と接触しているので、その熱伝導面積は、試料保持容器6の底面のみを冷却する場合と比較して大きく、試料保持容器6内の試料液は効率良く冷却される。特に、試料保持容器6の底面のみを冷却する場合には上方の試料液が冷えにくく、試料液の高さ方向に温度差が生じるおそれがあるが、本実施の形態では、試料保持容器6の底面だけでなくその側面から伝達される熱によっても試料液は冷却されるので、試料液の高さ方向に温度差が生じることを抑制することができる。
【0038】
このように行われる試料液の冷却に際しては、周囲温度及び周囲湿度等の環境条件又は目標温度の設定条件等によって、試料保持容器6やサンプルラック1に結露が発生することがある。しかし、本実施の形態に係るサンプルラック1は、収納部40の下方に傾斜をつけて設けられ、収納部40の底面と連通する溝部11を備えている。そのため、発生した結露水は、収納部40に貯留することなく、溝部11を介して積極的にサンプルラック1外へ排水される。すなわち、上記のようにサンプルラック1を形成すれば、結露水が貯留することによる冷却能力低下の問題が解消されるだけでなく、サンプルラック1を取り外す際に使用者や装置周辺に結露水が飛散する問題も解決することができる。したがって、本実施の形態によれば、結露水が積極的に排出されるので、サンプルラック1の取り外し時の作業性と試料冷却能力を向上させることができる。
【0039】
ところで、本実施の形態に係るラックホルダ5には、開口部12の下方に位置するように傾斜を付けて設けられた溝部53が設けられているため、試料保持容器6の周辺で発生した結露水は、サンプルラック1の溝部11を通過して開口部12から積極的に排出され、その排出された結露水は溝部53を通過して試料導入装置100の前面に設置された貯水トレイで回収される。これにより結露水の処理も容易になるのでサンプルラック1の取り外し時の作業性はさらに向上する。
【0040】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。本実施の形態は、先の実施の形態と比較して、サンプルラック1Aの下部材10Aの形状と、ラックホルダ5Aの第1部材51Aの形状が主に異なっている。
【0041】
図9は本発明の他の実施の形態に係る自動試料導入装置の冷却装置の構成を示す概観図である。この図に示す試料導入装置は、サンプルラック1Aと、ラックホルダ5Aと、貯水トレイ7Aを主に備えている。サンプルラック1Aは、下部材10Aを有しており、ラックホルダ5Aは、第1部材51Aと、第2部材52Aを有している。
【0042】
図10は本実施の形態に係るサンプルラック5Aにおける下部材10Aの上面図であり、図11は図10中のXI-XI面における下部材10Aの断面図である。
【0043】
これらの図に示す下部材10Aにおける収納部下部41のうち、サンプルラック1Aの左右両端に位置する収納部下部41には、それぞれ、下部材10Aの底面に開口した開口部12Aが設けられている。開口部12Aは溝部11と連通しており、収納部40内で発生した結露水は、溝部11を通過した後に、開口部12Aを介してサンプルラック1A外へ排出される。
【0044】
図12は本実施の形態に係るラックホルダ5Aにおける第1部材51Aの上面図であり、図13は図12中のXIII-XIII面における断面図である。
【0045】
これらの図に示す第1部材51Aは、傾斜をつけて設けられた2つの溝部53Aを有している。溝部53Aは、ラックホルダ5A上にサンプルラック1Aを載置させたときにおいて、下部材10Aにおける開口部12Aの下方に位置するように設けられており、開口部12Aの位置に合わせて縦方向に延在している。本実施の形態における溝部53Aは、図9における手前から奥(図12における下側から上側)に向かって下り勾配に形成されており、その勾配の最下端において、第1部材51Aの側面に設けられた開口部54と連通している。開口部54の下方には貯水トレイ7Aが設置されている。なお、先の実施の形態と同様の観点から、第1部材51Aは熱伝導率の高い金属で形成することが好ましく、第2部材52Aは熱伝導率の低い材料で形成することが好ましい。
【0046】
このように自動試料導入装置を構成しても、試料液の冷却中に発生した結露水を、サンプルラック1Aの溝部11及び開口部12Aを介して外部に排出することができ、さらには、その排水をラックホルダ5Aの溝部53A及び開口部54を介して貯水トレイ7Aで回収することができる。したがって、本実施の形態においても先の実施の形態と同様の効果を発揮することができる。
【0047】
なお、以上の説明では、冷却装置8を備える試料導入装置を例に挙げて説明したが、当該試料導入装置から試料導入機能を省略した試料冷却装置にも本発明が適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 サンプルラック
5 ラックホルダ
6 試料保持容器
7 貯水トレイ
8 冷却装置
10 下部材
11 溝部
12 開口部
13 連通部
20 上部材
30 カバー部材
40 収納部
41 収納部下部
42 収納部上部
43 孔
53 溝部
54 開口部
61 キャップ
62 セプタム
63a 胴部
63b 首部
100 試料導入装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を内包した試料保持容器が装填されるサンプルラックであって、
前記試料保持容器が収納される収納部と、
前記収納部の下方に傾斜をつけて設けられた溝部とを備え、
前記収納部の底面と前記溝部は連通していることを特徴とするサンプルラック。
【請求項2】
請求項1に記載のサンプルラックにおいて、
前記収納部は、前記試料保持容器が収納されたときに、当該試料保持容器の底面及び側面と接触可能に形成されていることを特徴とするサンプルラック。
【請求項3】
請求項1に記載のサンプルラックにおいて、
前記溝部は、前記収納部の底面に傾斜をもって設けられ、当該傾斜の最下端において外部に開口しており、さらに、前記収納部の側面とつながっていることを特徴とするサンプルラック。
【請求項4】
請求項1に記載のサンプルラックにおいて、
前記収納部は、前記収納部の一部であって、前記試料保持容器の底面及び側面を収納する収納部下部と、前記収納部の一部であって、前記収納部下部の上方に位置して前記試料保持容器の側面を収納する収納部上部とを有し、
前記収納部下部は、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されていることを特徴とするサンプルラック。
【請求項5】
請求項4に記載のサンプルラックにおいて、
前記収納部下部の高さは、前記試料保持容器が前記収納部に収納されたときの当該試料保持容器の胴部の高さ以下であることを特徴とするサンプルラック。
【請求項6】
請求項1記載のサンプルラックと、
前記サンプルラックを着脱可能に支持するラックホルダと、
前記ラックホルダを冷却する冷却装置と、
前記溝部から排出される水が貯えられる貯水手段とを備えることを特徴とする試料冷却装置。
【請求項7】
請求項6に記載の試料冷却装置において、
前記ラックホルダは、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されていることを特徴とする試料冷却装置。
【請求項8】
請求項6に記載の試料冷却装置において、
前記ラックホルダは、前記溝部の下方に傾斜をつけて設けられた他の溝部であって前記溝部から排出された水が導入されるものを有し、
前記貯水手段には、前記溝部から前記他の溝部を経由した水が貯えられていることを特徴とする試料冷却装置。
【請求項9】
請求項6に記載の試料冷却装置を備えることを特徴とする試料導入装置。
【請求項10】
請求項9記載の試料導入装置を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項1】
試料液を内包した試料保持容器が装填されるサンプルラックであって、
前記試料保持容器が収納される収納部と、
前記収納部の下方に傾斜をつけて設けられた溝部とを備え、
前記収納部の底面と前記溝部は連通していることを特徴とするサンプルラック。
【請求項2】
請求項1に記載のサンプルラックにおいて、
前記収納部は、前記試料保持容器が収納されたときに、当該試料保持容器の底面及び側面と接触可能に形成されていることを特徴とするサンプルラック。
【請求項3】
請求項1に記載のサンプルラックにおいて、
前記溝部は、前記収納部の底面に傾斜をもって設けられ、当該傾斜の最下端において外部に開口しており、さらに、前記収納部の側面とつながっていることを特徴とするサンプルラック。
【請求項4】
請求項1に記載のサンプルラックにおいて、
前記収納部は、前記収納部の一部であって、前記試料保持容器の底面及び側面を収納する収納部下部と、前記収納部の一部であって、前記収納部下部の上方に位置して前記試料保持容器の側面を収納する収納部上部とを有し、
前記収納部下部は、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されていることを特徴とするサンプルラック。
【請求項5】
請求項4に記載のサンプルラックにおいて、
前記収納部下部の高さは、前記試料保持容器が前記収納部に収納されたときの当該試料保持容器の胴部の高さ以下であることを特徴とするサンプルラック。
【請求項6】
請求項1記載のサンプルラックと、
前記サンプルラックを着脱可能に支持するラックホルダと、
前記ラックホルダを冷却する冷却装置と、
前記溝部から排出される水が貯えられる貯水手段とを備えることを特徴とする試料冷却装置。
【請求項7】
請求項6に記載の試料冷却装置において、
前記ラックホルダは、前記収納部上部と比較して相対的に熱伝導率の高い材料で形成されていることを特徴とする試料冷却装置。
【請求項8】
請求項6に記載の試料冷却装置において、
前記ラックホルダは、前記溝部の下方に傾斜をつけて設けられた他の溝部であって前記溝部から排出された水が導入されるものを有し、
前記貯水手段には、前記溝部から前記他の溝部を経由した水が貯えられていることを特徴とする試料冷却装置。
【請求項9】
請求項6に記載の試料冷却装置を備えることを特徴とする試料導入装置。
【請求項10】
請求項9記載の試料導入装置を備えることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−99705(P2011−99705A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253199(P2009−253199)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]