説明

サンプル中の分析物を定量測定する際に使用するための内部標準および方法

本発明は、サンプル中の複数の分析物を定量分析するための方法を提供する。また、こうした分析に有用な一般的および特定内部標準も記載する。特定の実施形態において、これらの標準は、本明細書に記載もされる液体クロマトグラフィ/質量分析システムに有用であると記載される。さらに、特定の実施形態において、本発明の定量方法は、未知分析物に対して同時に検出され、比較される既知の分析物誘導体を用いて単一のサンプル混合物中に含有される分析物に関する複数の分析物定量についての精密度および/または正確度を増大させるのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年11月26日に出願されたU.S.Provisional application Ser.No.61/004,288号の優先権を主張し、この開示全体を本明細書に参照として組み込む。
【背景技術】
【0002】
化学的および生物学的サンプルは、多くの場合、複数の化合物の混合物を含有する。こうした化合物は、種々の分析技術により独立してまたは同時に特徴付けることができ、これらの技術は分析を向上させるため、これらの混合物を分離するためも使用できるクロマトグラフィ技術と組み合わせられることが多い。
【0003】
最もよく知られたクロマトグラフィ技術は、ガスクロマトグラフィ(GC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)および超臨界流体クロマトグラフィ(SFC)であり、最も好都合な技術はHPLCである。実際、HPLC方法は、種々広範な極性および非極性化合物を分離するために使用されることが多い;これは、HPLCに使用できる溶媒(または移動相)および固定相が、HPLCで有用な技術およびカラムのフレキシビリティに基づいて幅広い可能性から選択できるためである。実際、移動相および固定相の注意深い選択により、大抵のサンプル混合物は、良く分解されたピークまたはフラクションに分離でき、これを続いてさらなる分析に供することができる。
【0004】
質量分析(MS)のような方法、例えばLC/MSによるこれらのフラクションの特徴付けは、サンプル中に存在する分析物について定性的な情報を与える。このようにして、この分子量を識別することによってMSシグナルを生じる特定の分子種を同定できることが多い(異なる化学物質は、通常異なる分子量を有することに留意する。)。このようなものとして、MSは、単一サンプル中の1以上の化合物を同時に定性的に特徴付ける際に非常によく利用されるツールであると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
けれども、MSは未知の有機化合物の定性分析において強力なツールであるが、単一サンプル混合物中に含有される複数の分析物を同時に定量できる正確で精密な技術が依然必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、サンプル中の複数の分析物を定量分析するための方法、こうした分析に使用するための内部標準、およびこれらの内部標準を含むクロマトグラフィシステムを対象とする。さらに、特定の実施形態において、本発明の定量方法は、単一サンプル混合物中に含有される分析物について、複数の分析物の定量に関しての精密度および/または正確度を増大させるのに有用である。
【0007】
従って、本発明の1つの態様は、サンプル中の複数の分析物を定量分析する方法を提供する。この方法は、サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤、例えばAccQTag(商標)で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびにサンプル中の各分析物誘導体の量を決定することを含む。各分析物誘導体の量は、サンプル中の複数の分析物を定量分析するために、応答係数計算により決定される。特定の実施形態において、サンプル中の分析物の数は、5を超える、例えば10を超える、例えば15を超える、例えば20を超える、例えば25を超える、例えば30を超える、例えば35を超える、例えば45を超える。
【0008】
別の態様において、本発明は、サンプル中の複数のアミノ酸を定量分析する方法を提供する。この方法は、サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化してサンプル中にアミノ酸誘導体を形成すること、既知の濃度の複数のアミノ酸誘導体標準をサンプルに添加してサンプル混合物を形成すること、このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、個々のアミノ酸誘導体およびアミノ酸誘導体標準のそれぞれを検出すること、ならびにサンプル中の各アミノ酸誘導体の量を決定することを含む。各アミノ酸誘導体の量は、サンプル中の複数のアミノ酸を定量分析するために、応答係数計算により決定される。
【0009】
さらなる態様において、本発明は、サンプル中の複数の分析物の量を定量分析するための液体クロマトグラフィ/質量分析システムを提供する。システムは、クロマトグラフィカラムおよびクロマトグラフィカラムを通る少なくとも1つの移動相をポンプ輸送するためのポンプを含むクロマトグラフィ分析システムを含有する。システムはまた、分析物誘導体を検出できる質量分析計を含む質量分析による分析システム、AccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む、サンプル中の分析物を誘導体化してサンプル中に分析物誘導体を形成するのに有用な第1の誘導体化剤、および放射性または安定な同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む複数の分析物誘導体標準を含有する。特定の実施形態では、分析物誘導体標準の数は、10を超える、例えば15を超える、例えば20を超える。
【0010】
本発明の別の態様は、サンプル中の複数の分析物の量を定量分析するための液体クロマトグラフィ/質量分析システムを提供する。このシステムは、クロマトグラフィカラム、およびクロマトグラフィカラムを通る少なくとも1つの移動相をポンプ輸送するためのポンプを含むクロマトグラフィ分析システムを含有する。このシステムはまた、分析物誘導体を検出できる質量分析計、AccQTag(商標)およびこれらの機能性誘導体を含む、サンプル中の分析物を誘導体化してサンプル中に分析物誘導体を形成するのに有用な第1の誘導体化剤、ならびに放射性または安定な同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む複数の分析物誘導体標準を生成可能な試薬を含有する。特定の実施形態では、分析物誘導体標準の数は、10を超える、例えば15を超える、例えば20を超える。
【0011】
さらに別の態様において、本発明は、複数の分析物の分析物定量の精密度を増大させる方法を提供する。この方法は、サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびにサンプル中の各分析物誘導体の量を決定することを含む。各分析物誘導体の量は、応答係数計算により決定される。このようなものとして、この方法は、既知の方法に対して、サンプル中の複数の分析物の分析物定量の精密度を増大させのに有用である。
【0012】
本発明の別の態様は、複数の分析物の分析物定量の正確度を増大させる方法を提供する。この方法は、サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびにサンプル中の各分析物誘導体の量を決定することを含む。各分析物誘導体の量は、応答係数計算により決定される。このようなものとして、この方法は、既知の方法に対して、サンプル中の複数の分析物の分析物定量の正確度を増大させるのに有用である。
【0013】
本発明のさらなる態様は、AccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む、分析物を定量分析するのに有用な内部標準試薬を提供し、これら試薬は放射性または安定な同位体で標識されている。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、既知濃度の1以上の分析物をAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体と反応させることによって調製される、分析物を定量分析するのに有用な内部標準を提供し、これらは放射性または安定な同位体で標識されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、サンプル中の複数の分析物を定量分析するための方法を対象とする。また、こうした分析に有用な一般的および特定の内部標準を記載する。特定の実施形態において、これらの標準は、本明細書でさらに記載される液体クロマトグラフィ/質量分析システムに有用である。さらに、特定の実施形態において、本発明の定量方法は、同時に分析される既知の分析物誘導体を用い、未知の分析物から調製された誘導体と比較して、単一サンプル混合物中に含有される複数の分析物の定量に関する精密度および/または正確度を増大させるのに有用である。
【0016】
しかし、本発明をさらに説明する前に、本発明をより容易に理解できるように、ここではまず特定の用語について便宜上、規定してまとめておく。
【0017】
I.定義
「正確度」という言葉は、当分野において承認されるものであり、標準または真の値に対する測定、即ち量の適合性の程度を記載している。例えば、分析物の定量の正確度の増大とは、実際または真の値により近い測定値を得る際の改善を指す。この改善は、複数の分析物の質量分析を利用する既存の測定方法を用いて得ることができる正確度に関して、正確度の増大%と同定できる/増大%を参照して記載できる。特定の実施形態において、正確度は、既存の技術と比較して10%を超える(または10%に等しい)、例えば12%を超える(または12%に等しい)、例えば14%を超える(または14%に等しい)、例えば16%を超える(または16%に等しい)、例えば18%を超える(または18%に等しい)、例えば20%を超える(または20%に等しい)、例えば30%を超える(または30%に等しい)、例えば40%を超える(または40%に等しい)を超える。
【0018】
本明細書で用いられる「アミノ酸」という用語は、天然および非天然両方のアミノ酸、ならびにアミノ酸類縁体および模倣体を記載する。天然アミノ酸は、当分野において承認されるものであり、天然のタンパク質生合成中に利用される20個の天然(L)−アミノ酸、ならびにその他のアミノ酸、例えば4−ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、デスモシン、イソデスモシン、ホモシステイン、シトルリンおよびオルニチンが挙げられる。非天然アミノ酸としては、例えば(D)−アミノ酸、ノルロイシン、ノルバリン、p−フルオロフェニルアラニン、エチオニンなどが挙げられる。アミノ酸類縁体としては、修飾された形態の天然および非天然アミノ酸が挙げられる。こうした修飾としては、例えばアミノ酸の化学性基および部分の置換もしくは交換、またはアミノ酸の誘導体化によるものを挙げることができる。アミノ酸模倣体は、例えば参照アミノ酸の電荷および電荷間隔特徴のような機能的に同様の特性を示す有機構造体を含む。例えば、リシン(LysまたはK)を模倣する有機構造体は、同様の分子空間に位置し、天然Lysアミノ酸の側鎖のεアミノ基と同じ移動度を有する正電荷部分を有する。模倣体はまた、アミノ酸またはアミノ酸官能基の最適な間隔および電荷相互作用を維持するために制約された構造を含む。
【0019】
本明細書で用いられる「分析物」という用語は、本発明の方法に従って誘導体化できる本発明の分析に供されるいずれかの化学的もしくは生物学的化合物または物質を指す。本発明の分析物としては、小さい有機化合物、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、バイオマーカー、合成または天然ポリマー、またはこれらのいずれかの組み合わせもしくは混合物が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、分析物は、一級または二級アミノ酸である。さらに、特定の実施形態においては、明細書全体を通して使用されるとき、「分析物」という用語の使用は、この単数形または複数形で解釈できることを理解すべきである。特定の実施形態において、サンプル中の複数の分析物は、5を超える、例えば10を超える、例えば15を超える、例えば20を超える、例えば25を超える、例えば30を超える、例えば35を超える、例えば45を超える。
【0020】
本明細書で用いられる「分析物誘導体」という言葉は、分析物をこの誘導体に転換するために、別の部分で官能化された分析物を記載する。これは、応答係数計算を用いて、サンプル中の未知の量の分析物を測定する際に使用するための、本発明の方法によって検出される分析物誘導体である。特定の実施形態において、分析物はアミノ酸であり、この誘導体は、アミノ酸誘導体である。特定の実施形態において、測定され得る分析物誘導体の数は、5以上、例えば10以上、例えば11以上、例えば12以上、例えば13以上、例えば10以上、例えば14以上、例えば15以上、例えば20以上、例えば25以上、例えば30以上である。
【0021】
本明細書で用いられる「分析物誘導体標準」という言葉は、既知の量で存在する分析物誘導体を記載し、これは本明細書にて以下で記載される応答係数計算を用いて、未知の分析物誘導体の量を計算するための参照点として使用できる。特定の実施形態において、分析物誘導体標準は、アミノ酸誘導体標準である。特定の実施形態において、分析物誘導体標準の数は、5以上、例えば10以上、例えば11以上、例えば12以上、例えば13以上、例えば10以上、例えば14以上、例えば15以上、例えば20以上、例えば25以上、例えば30以上である。特定の実施形態において、分析物誘導体標準の数は、分析物誘導体の数に等しい。
【0022】
「分析する」または「分析」という用語は、本明細書にて記載される個々の分析物のそれぞれの量を検出する方法を記載するために、本明細書で使用される。こうした分析は、分析物(または分析物誘導体)と分析物標準(または分析物誘導体標準)とを区別するいずれかの技術を用いて行なうことができる。本発明の1つの実施形態において、分析または分析操作は、質量分析(MS)を含む。
【0023】
「クロマトグラフィ分離」という言葉は、当分野において承認されるものであり、液体またはガスによって運ばれる化学的混合物を、これらが固定液体または固相の周りまたはこの上を流れるときに、溶質の差別的な分配の結果として構成成分に分離する方法を記載する。例えば、本発明に使用するのに好適なクロマトグラフィ分離としては、液体クロマトグラフィ(HPLCを含む)方法、例えば順相HPLC、RP−HPLC、HILIC、およびゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を含むサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)が挙げられるが、これらに限定されない。他の好適な方法としては、例えば超高圧液体クロマトグラフィ(UPLC)、中高圧液体クロマトグラフィ(FPLC)などを含む、さらなるHPLC方法および関連する液体クロマトグラフィ技術が挙げられる。
【0024】
「誘導体化」という用語は、本明細書において、化学的または生物学的化合物または物質、例えば分析物を、これらの誘導体に転換するために、こうした化合物または物質を別の部分により官能化または反応させる作用を記載するために使用される。本発明の特定の実施形態において、こうした誘導体化は、分析物および/または標準を官能化する作用のある誘導体化剤、即ちAccQTag(商標)、PicoTag(登録商標)、またはこれらの機能性誘導体を用いて行なわれる。誘導体化剤AccQTag(商標)およびPicoTag(登録商標)の機能性誘導体としては、AccQTag(商標)およびPicoTag(登録商標)試薬の化学的構造の修飾を含み、これは、本発明の方法に従う検出において目的とする機能、即ち誘導体化を果たすこれらの試薬の能力および有用性に実質的に影響を及ぼさない。
【0025】
本明細書で用いられるとき、例えば「これらの機能性誘導体」という表現で使用されるような「機能性誘導体」という言葉は、この目的とする機能を果たすこの能力を保持する分子のいずれかの誘導体、即ち機能的な誘導体を記載する。例えば、AccQTag(商標)またはPicoTag(登録商標)の機能性誘導体は、これらの部分がいずれかの官能基で誘導体化されることによって調製されたAccQTag(商標)またはPicoTag(登録商標)のいずれかの誘導体であり、この誘導体化では、これらの化合物は、本発明の方法において目的とする機能を果たす能力を保持できる。
【0026】
本明細書で用いられる「官能基」は、所望の機能的特性を有するいずれかの化学性基である。所望の官能性特性は、所望の化学的特徴を分子に付与するいずれかの特性である。官能基には、分子の物理化学特性を変更する基、例えば質量、電荷、疎水性などを変更する基が含まれ得る。特に有用な官能基は、標識またはタグ、例えば発蛍光団、発色団、スピン標識、同位体分布タグなどである。
【0027】
本明細書で用いられる「内部標準」という言葉は、1以上の官能化された化学的または生物学的化合物または物質、例えばこうした化合物または物質をこれらの誘導体に転換するために別の部分で官能化された1以上の分析物の集合を記載する。本発明の内部標準は、既知の濃度で存在し、サンプルに添加されてサンプル混合物を形成する。内部標準の添加により、元々のサンプル中にある未知の濃度の分析物と共に、既知の濃度の1以上の既知分析物を検出して、これらを比較できる。このようなものとして、本発明の内部標準は、応答係数計算を用いてサンプル中の複数の分析物の絶対量を測定する新規な方法を提供する。
【0028】
特定の実施形態において、内部標準は予め調製され、サンプル混合物を形成するためにサンプルに直接添加できる。代替実施形態において、内部標準は、例えば自動化を用いて、既知の濃度の1以上の分析物と、1以上の(例えば複数の)分析物誘導体標準を生成可能な試薬とを反応させることによって、サンプルに添加する直前に調製され、既知濃度の誘導体化剤および1以上の調査中の分析物を含む。さらに別の代替実施形態において、内部標準は、例えば、複数の分析物誘導体標準を生成可能な試薬を直接添加することによってサンプル混合物を形成するようにサンプルを用いてこの場で調製され、既知の濃度の誘導体化剤および活性化された分析物(サンプル中の分析物よりも、誘導体化剤に対して反応性が高い。)を含む。内部標準を調製するために使用される試薬は、「内部標準試薬」という言葉により本明細書にて記載される。
【0029】
「同位体」という用語は、当分野において承認されるものであり、それぞれが異なる原子質量を有する幾つかの異なる形態の元素のいずれかを記載する。元素の同位体は、同じ数の陽子(同じ原子数)を有する核を有するが、異なる中性子数を有する。「安定な同位体」は、放射性でない化学的同位体である。同じ元素の安定な同位体は、同じ化学的特徴を有し、ひいてはほぼ同じ挙動を示す。中性子数の差による質量差により、本発明の方法での検出に差を生じさせることができる。
【0030】
本明細書で用いられる「同位体標識」または「同位体タグ」という用語は、2つの区別可能な同位体形態、例えば、化学性基を構成する構成元素の重いおよび軽い同位体型にて得ることができる化学性基を指す。こうした構成元素としては、例えば、炭素、酸素、水素、窒素および硫黄が挙げられる。さらに、化学的または機能的に同様の他の元素は、上記の天然元素と置換できる。特に有用な同位体標識またはタグは、MSにより好都合に分析できるものである。例えば、アミノ酸の重いおよび軽い同位体型は、ポリペプチドを差動的に同位体標識するために使用できる。
【0031】
本明細書で用いられる「標識」という用語は、標識されていない分子と比較した場合に検出可能な変化をもたらすことになる、分子に結合できるいずれかの部分を意味することを意図する。標識は、共有結合または非共有結合のいずれかにより分子と結合できるが、一般に標識は共有結合する。非共有結合性相互作用が標識と分子との間に生じる場合、非共有結合性相互作用は、本発明の方法に使用される化学的および/または物理的な取り扱い中に標識を分子に結合させたままにできる程度に十分高い親和性を有することを理解する。本発明の標識は、本発明の方法に従って検出可能であり、MS、クロマトグラフィ、フルオログラフィ、分光光度法、免疫技術などを含む種々の分析方法のいずれかによって検出できるように、分子を特徴付ける。標識は、例えば、同位体、蛍光体、色原体(chromagen)、強磁性物質、発光標識または抗体もしくは抗体フラグメントによって認識されるエピトープ標識であることができる。
【0032】
特に有用な標識は、MSによるサンプルの分析に有用な質量標識、即ち同位体標識である。質量標識の組み込みによる分子の質量変化は、質量決定のために選択された機器の感度範囲内にあるべきである。さらに、当業者は、異なるサイズおよび異なる組成の分子について標識の適切な質量を知るまたは決定できる。さらに、例えば、分子の差動標識のために重いおよび軽い質量標識を用いる場合、約1から3質量単位程度に小さい質量差を使用でき、または約10質量単位より大きい質量差も使用できる。2つのサンプルの差動標識に好適な質量標識は、化学的には同一であるが、質量は異なる。代表的な質量標識としては、例えば、安定な同位体タグ、同位体分布タグ、荷電アミノ酸、差動的に同位体標識されるタグなどが挙げられる。標識はまた、ピリジルまたは疎水性基のような気相塩基性基であることができる。標識はまた、特徴的な同位体分布を有する元素、例えば塩素、臭素、または識別できる同位体分布を有するいずれかの元素であることができる。さらに、標識は、適切な条件下で質量分析計の衝突セルまたはイオン源にて破壊され、リポータイオンを生成する結合を有することができる。
【0033】
「液体クロマトグラフィ」という言葉は、当分野において承認されるものであり、化合物が液体移動相と固体の固定相との間で区分化されるクロマトグラフィ方法を含む。液体クロマトグラフィ方法は、化合物の分析または精製に使用される。液体移動相は、手順全体を通じて一定の組成を有することができ(無勾配方法)、または移動相の組成が溶出の間に変化し得る(例えば、勾配溶出方法のように、移動相の組成が段階的に変化する。)。
【0034】
「質量分析(mass spectrometry)」および「質量分析(mass spectroscopy)」という言葉は、当分野において承認されるものであり、本明細書においては交換可能に、異なる質量および電荷に従ってガス状イオンの分離により物質の化学的構成を同定するための計測方法を記載するために使用される。種々の質量分析システムは、本発明の方法に供されるサンプルの分析物分子を分析するために使用できる。例えば、高い質量正確度、高い感度および高い分解能を有する質量分析計を使用することができ、これらとしては、大気圧化学イオン化(APCI)、化学イオン化(CI)、電子衝撃(EI)、高速原子衝撃(FAB)、電界脱離/電界イオン化(FD/FI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、サーモスプレーイオン化(TSP)、マトリックス支援レーザー脱離(MALDI)、マトリックス支援レーザー脱離飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析計、ESI−TOF質量分析計、およびフーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析(FT−ICR−MS)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、MS方法のいずれかの組み合わせは、サンプル中の分析物を分析するために本明細書に記載される方法に使用できることを理解すべきである。特定の実施形態において、本明細書に記載される分析物の分析のために使用されるMS技術は、アミノ酸を含む大抵の極性化合物に適用可能なもの、例えばESIである。
【0035】
「移動相」という用語は、当分野において承認されるものであり、固相(例えば、固相抽出(SPE)カートリッジまたはHPLCカラム中の固相)と接触する目的化合物を運び、固相から目的化合物を溶出するために使用される液体溶媒システムを記載する。
【0036】
本明細書にて用いられる「不揮発性塩」という言葉は、液体クロマトグラフィシステムを質量分析計と結び付ける場合に移動相の溶媒を除去するために使用される条件下で実質的に不揮発性である移動相に存在する塩を記載する。従って、塩化ナトリウムまたはリン酸カリウムのような塩は不揮発性塩であると考えられるが、ギ酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、または酢酸アンモニウムのような塩は、真空下で大部分除去される揮発性の塩である。当業者に明らかなように、他の揮発性塩も使用できる。例えば、揮発性酸(例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ペルフルオロオクタン酸)のアンモニウム(NH)塩は、一般にMS検出を用いて使用するのに好適な揮発性塩である。
【0037】
本明細書で用いられる「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)のような互いに共有結合する2以上のヌクレオチドを含有する分子を記載し、例えば一本鎖および二本鎖核酸を含む。この用語は、同様に例えば、ゲノムDNA、cDNA、mRNAおよびセンス鎖、アンチセンス鎖または両方を表すことができるこれらに対応する合成オリゴヌクレオチドを含むことを意図する。
【0038】
材料、成分または物質を得る際に「得る」という用語は、この材料を購入する、合成する、そうでなければ獲得することを含むことを意図する。本発明の特定の実施形態において、方法は、本発明の方法に使用するためのサンプルまたは試薬、例えばAccQTag(商標)試薬またはPicoTag(登録商標)試薬を得るさらなる工程を含む。
【0039】
本明細書で用いられる「オリゴヌクレオチド」という用語は、長さが約10から100個のヌクレオチドから200個までのヌクレオチド、またはこれ以上、例えば約500個以上のヌクレオチドの一本鎖ヌクレオチド多量体を示す。オリゴヌクレオチドは、通常合成であり、特定の実施形態では長さが100個未満、例えば50個未満のヌクレオチドである。
【0040】
本明細書で用いられる「ポリペプチド」という用語は、2個以上のアミノ酸のペプチドを記載する。ポリペプチドは、天然の修飾、例えば翻訳後修飾またはリン酸化、脂質化、プレニル化、パルミチル化、ミリスチル化、硫酸化、ヒドロキシル化、アセチル化、グリコシル化、ユビキチン化、補欠分子族または補因子の添加、ジスルフィド結合の形成、タンパク質分解、高分子複合体へのアセンブリなどを含む合成修飾によって修飾してもよい。
【0041】
ポリペプチドは、2、3個または数個のアミノ酸を有する小さいポリペプチドならびに数百個以上のアミノ酸を有する大きいポリペプチドを含む。普通、2個以上のアミノ酸残基との間の共有結合はアミド結合である。しかし、アミノ酸は、ペプチドおよび化学分野における当業者に既知の種々の他の手段によって共に接合できる。従って、ポリペプチドという用語は、全体または部分的に、アミノ酸、アミノ酸類縁体、および模倣体との間の非アミド連結を含有する分子を含むことを意図する。同様に、この用語はまた、環状ポリペプチドおよび他の配座的に制限された構造を含む。
【0042】
修飾されたポリペプチドはまた、非天然誘導体、化学的合成によって得られるこれらの類縁体および機能性模倣体を含むことができるが、ただしこうしたポリペプチド修飾は、親ポリペプチドと比較して同様の機能的活性を示す。例えば、誘導体は、ポリペプチドの化学修飾、例えばアルキル化、アシル化、カルバミル化、ヨウ素化、またはポリペプチドを誘導体化するいずれかの修飾を含むことができる。こうした誘導体化された分子は、例えば、遊離のアミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルミル基を形成する分子を含む。さらに、遊離のカルボキシル基は、誘導体化されて塩、メチルおよびエチルエステルまたはその他の種のエステルまたはヒドラジドを形成でき;遊離のヒドロキシル基は誘導体化されて、O−アシルまたはO−アルキル誘導体を形成でき;ならびに/またはヒスチジンのイミダゾール窒素は誘導体化されて、N−im−ベンジルヒスチジンを形成できる。また、誘導体または類縁体として、20個の標準アミノ酸の1以上の天然アミノ酸誘導体、例えば4−ヒドロキシプロリン、5−ヒドロキシリシン、3−メチルヒスチジン、ホモセリン、オルニチンまたはカルボキシグルタメートを含有するポリペプチドであり、ペプチド結合によって連結しないアミノ酸を含むこともできる。
【0043】
「精密度」という用語は、当分野において承認されるものであり、結果の再現性を記載する。これは、先行する値と測定で得られた次の値との比較によって測定され、より精密な測定(またはより精密度の高い測定)は、先行する測定に対して次の測定がより一貫して近い値であることにより示される。特定の実施形態において、精密度は、既存の技術に比べて10%高い(または10%に等しい)、例えば12%高い(または12%に等しい)、例えば14%高い(または14%に等しい)、例えば16%高い(または16%に等しい)、例えば18%高い(または18%に等しい)、例えば20%高い(または20%に等しい)、例えば30%高い(または30%に等しい)、例えば40%高い(または40%に等しい)。
【0044】
本明細書で用いられる「ポンプ」という用語は、クロマトグラフィ分析に関して、当分野において承認されるものである。
【0045】
「定量の」および「定量的に」という用語は、当分野において承認されるものであり、本明細書において、量(quantity)または量(amount)の測定を記載するために使用される。例えば、「定量」という用語は、特定の対象物、例えば分析物の量(quantity)または量(amount)を測定する作用を記載する。しかし、本発明の実施形態において、定量分析は、相対量とは対照的に、絶対量の測定であり、即ち分析物の総量が、分析物の実際量を決定するために絶対的に定量されてもよい。
【0046】
本明細書で用いられる「応答係数計算」という言葉は、分析物誘導体(AD)および分析物誘導体標準(ADS)の検出から得られる応答値を利用するサンプル中の分析物の量を決定するために行なわれる計算を記載する。各分析物誘導体の量は、分析物誘導体ピークと分析物誘導体標準のピークとの応答比による検出比に、分析物誘導体標準の濃度を乗じることによって決定される。この計算により、分析物の濃度が決定される。さらに、この濃度を得ることは、試験されるサンプルの既知の体積および/または試験サンプルを取り出した総体積サンプルに基づいて、サンプル中の分析物の量を提供するために使用できる。特定の実施形態において、応答係数計算は、この目的のために適合したソフトウェアを使用して決定できる。
【0047】
検出比は、分析物誘導体と分析物誘導体標準とを調製するために使用される誘導体化剤の検出における差に基づいた比であり、即ち分析物誘導体標準と比べて分析物誘導体を創製するために使用される誘導体化剤における差により、ADSはADとは異なる程度に検出されることが予想され得る(ここで検出比はこの差によるものである。)ことに留意すべきである。特定の実施形態において、検出比は、1であり、またはADとADSとの検出比は1:1比であると記述される。
【0048】
「サンプル」という用語は、本明細書において、本発明の方法によって分離され、検出できる構成成分の大きな全体または群の代表的な部分を記載するために使用される。例示的なサンプルは、化学的または生物学的に誘導される物質、例えば本発明の分析物を含む。特定の実施形態において、サンプルの構成成分としては、小さい有機化合物、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、バイオマーカー、合成もしくは天然ポリマー、またはこれらのいずれかの組み合わせもしくは混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
本明細書で用いられる「サンプル混合物」という言葉は、サンプルが1以上の分析物誘導体標準、例えば既知の濃度のものと混合または合わせられる場合に得られる生成物を記載する。
【0050】
II.本発明の方法
本発明は、化合物/分析物または化合物/分析物の混合物を分析するための新規な方法およびシステムを記載する。本発明の方法およびシステムは、分析物の複合混合物を分離し、これによってこの混合物を分解でき、こうした混合物の複数の構成成分の同時同定および定量分析が可能になる。
【0051】
1つの実施形態において、本発明は、サンプル中の複数の分析物を定量分析するための方法を対象とする。方法は、サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、およびサンプル中の各分析物誘導体の量を決定することを含む。
【0052】
各分析物誘導体の量は、サンプル中の複数の分析物を定量分析するために、応答係数計算(RFC)によって決定される。特定の実施形態において、1以上の分析物誘導体標準は、第2の誘導体化剤で分析物標準を誘導体化することによって形成されている。特定のさらなる実施形態において、方法はさらに、既知の濃度の分析物標準を第2の誘導体化剤で誘導体化させて既知の濃度の複数の分析物誘導体標準を形成する工程を含む。特定の実施形態において、分析物誘導体および対応する分析物誘導体標準の検出は、1:1応答比として測定される、即ちRFCを単純化する。または応答比は、例えば分析物誘導体と分析物誘導体標準を生成する非関連誘導体化剤の使用により1:1の比でない場合がある。
【0053】
特定の実施形態において、分析または精製されるべきサンプルは、約1から約5000個の分析物を含有する。特定の実施形態において、サンプルは、少なくとも5個の分析物を含有する。特定の実施形態において、サンプルは、少なくとも10個の分析物を含有する。特定の実施形態において、サンプルは少なくとも15個の分析物を含有する。特定の実施形態において、サンプルは少なくとも20個の分析物を含有する。特定の実施形態において、サンプルは少なくとも25個の分析物を含有する。特定の実施形態において、サンプルは少なくとも30個の分析物を含有する。特定の実施形態において、分析物(または分析物誘導体)の数は、分析物誘導体標準の数に等しい。
【0054】
こうした分析物は、例えば生物学的試料から誘導できる生物学的サンプルにおける複合混合物中に見出すことができる(ここで、「試料」という用語は、特に有機体または個人から得られるサンプルを指す。)。これらの試料は、流体または組織試料として個人から得ることができる。例えば、組織試料は、皮膚生検、組織生検または腫瘍生検のような生検から得ることができる。流体試料は、血液、血清、尿、唾液、脳脊髄液またはその他の体液であってもよい。特定の実施形態において、流体試料は、本発明の方法に特に有用である(流体試料は個人から容易に得ることができるという点で)。試料の収集方法は、当業者に周知である(例えば、YoungおよびBermes、Tietz Textbook of Clinical Chemistry,第3版,BurtisおよびAshwood編,W.B.Saunders,Philadelphia,第2章,pp.42 72(1999)を参照のこと)。特定の実施形態において、試料はまた、微生物試料であってもよく、個人の試料から培養されたものを含む微生物の培養液から誘導されてもよい。
【0055】
さらに、混合物中に存在する分析物または化合物は、例えば、小さい有機分子(例えば医薬品または医薬品候補、通常1000未満の分子量を有するもの)、アミノ酸、タンパク質、ペプチドもしくはポリペプチド(例えば、ペプチド合成由来またはタンパク質またはタンパク質の混合物の消化物を含む生物学的サンプル由来)、核酸もしくはポリヌクレオチド(例えば、生物学的サンプルまたは合成されたポリヌクレオチド由来)、バイオマーカー、合成もしくは天然ポリマー、またはこれらの物質の混合物を含むことができる。この種の化合物は、本明細書に記載されるように化合物の分離のために選択されるクロマトグラフィ方法によってのみ制限される。特定の好ましい実施形態において、分析物は、一級または二級アミンを含有する、または本発明の方法に供する前に一級または二級アミンで誘導体化される。
【0056】
特定の実施形態において、少なくとも1つの分析物は、約2から約12の範囲のpHにて少なくとも部分的に荷電される。より好ましくは、少なくとも1つの化合物または不純物は、約2から約12の範囲の第1pHにて第1の電荷状態、および約2から約12の範囲の第2のpHにて第2の電荷状態を有する。例えば、化合物は、低pHにおいて+1の電荷を有することができ、高pHにおいて0の電荷を有する(中性);または低pHにおいて+2の電荷、高pHにおいて+1の電荷、ならびにさらに高い第3のpHにおいて0の電荷である。特定の好ましい実施形態において、検出され、分析され、または精製されるべき分析物は、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である。
【0057】
特定の実施形態において、分析物は、アミノ酸、ポリペプチド、およびこれらの混合物から成る群から選択される。別の特定の実施形態において、分析物は、アミノ酸およびこれらの混合物から成る群から選択され、例えば一級または二級アミノ酸から選択される。このアミノ酸は、例えば、既知の天然および非天然アミノ酸から成る群から選択されてもよい。
【0058】
本発明の方法に従って、本発明の分析物は誘導体化され、分析物誘導体、例えば、小さい有機分子の誘導体、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、バイオマーカー、またはポリマー誘導体を形成する。これらの誘導体は、例えば、本明細書に開示される方法を用いて、所望の機能的特徴を組み込むために分析物の修飾により生成される。こうした修飾は、標識またはタグ、例えばMS分析に有用な同位体置換を含む標識またはタグの組み込みを含むことができる。
【0059】
本発明の例示的な実施形態は、アミノ酸分析物およびそれぞれのアミノ酸分析物誘導体を与える。ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質のアミノ酸側鎖を修飾するための方法および化学物質は、当業者に周知である(例えば、Glazerら,Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Chemical Modification of Proteins,第3章,pp.68 120,Elsevier Biomedical Press,New York(1975)(本明細書に参照として組み込まれる。);およびPierce Catalog(1994),Pierce,Rockford IIIを参照のこと)。種々の反応性基のいずれかは、反応性基が分子、例えばポリペプチドに共有結合カップリングできる限り、サンプル分子との反応のために化学性基に組み込むことができる。従って、反応性基は、AspもしくはGluに見出されるカルボキシル基;他のアミノ酸、例えばHis、Tyr、Arg、およびMet;Lysのようなアミン、例えばイミドエステルおよびN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル;当分野において周知の化学物質を用いる酸素もしくは硫黄;リン酸化ペプチドの選択的標識のためのリン酸基;またはグリコペプチド、リポペプチド、もしくは本明細書に開示された共有結合ポリペプチド修飾のいずれかを含む他の共有結合修飾されたペプチドと反応できる。さらに、当業者は、既知の試薬を用いてポリペプチドを修飾するための条件、本発明の方法に使用するためのポリペプチドまたはその他の分子の修飾に最適な条件を得るための温置条件、および温置時間を知る、または容易に決定でき、そういうものは、本発明の範囲内であると考えられる。
【0060】
ポリペプチドのアミノ末端を修飾するためのいずれかの方法も使用できる。N−末端を含むアミノ基を修飾するための本明細書に例示される方法に加えて、N−末端を修飾するための他の方法は当業者に周知である(例えば、Branciaら,Electrophoresis 22:552 559(2001);Hovingら,Anal.Chem.72:1006 1014(2000);Munchbachら,Anal.Chem.72:4047 4057(2000)(これらのそれぞれは本明細書に参照として組み込まれる。)を参照のこと)。
【0061】
さらに、本発明は、誘導体化剤または標識の選択に関して構造上のフレキシビリティを大きくできる。誘導体化剤の構造は、特定の目的を達成するために意図的に選択できる。例えば、非常に極性の高いペプチドは、より疎水性にすることができ、従って疎水性タグの移動により逆相カラムにて良好に保持され、ピリジルのような強い気相塩基性基は質量分析計の衝突セルにおける直接フラグメンテーションに移すことができ、または塩素もしくは臭素のような特徴的な同位体分布を有する元素は、標識された分析物、例えばタグ化されたペプチドに関する区別可能な同位体サインを与えるために添加できる。
【0062】
本発明の方法は、リン酸化、グリコシル化、ユビキチン化、アセチル化、パルミチル化、ミリスチル化などの翻訳後修飾の多くの異なる形態を有するポリペプチドに容易に適用できる。そのため、本発明の方法は、種々の官能基のペプチドへの同時移入を伴って、ポリペプチドを含む他の翻訳後修飾された分子を選択的に単離するために使用できる。特定種の翻訳後修飾の選択的単離はまた、本発明の方法を用いて達成できる。
【0063】
本発明の方法は、一般に、アミノ酸、タンパク質、ペプチドおよびポリペプチドに関して本明細書で例示されているが、サンプル中の種々の分子のいずれかが本明細書に開示される方法によって容易に誘導体化/標識できることを理解する。一般に、多くの部類のバイオ分子、例えばオリゴヌクレオチド、メタボライトなどが、改善された定性または定量分析のために所望の官能基を組み込むために、本明細書に開示される方法によって官能化できるおよび/またはこの方法において有用であることができる。本発明の特定の実施形態は、クロマトグラフィ分離、例えば紫外線検出、および/または質量分析検出のインラインモニタリングに利用される検出方法に有用である誘導体化剤を提供する。さらなる実施形態において、こうした誘導体化剤は、アミン官能基、例えば一級および二級アミンの誘導体化に有用である。
【0064】
従って、特定の実施形態において、AccQTag(商標)試薬(Waters Corporation,マサチューセッツ州Milford)は、分析物誘導体を生成するために、本明細書に記載される分析物、例えばアミノ酸を含むサンプルに添加される。こうした試薬としては、AccQFluor(商標)(Waters Corporation,マサチューセッツ州Milford)(6−アミノキノリル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバマート、またはAQC:N−ヒドロキシスクシンイミド活性化された複素環式カルバマートが挙げられる。AccQFluor(商標)の構造を以下に示す。
【0065】
【化1】

【0066】
他の実施形態において、PicoTag(登録商標)試薬(Waters Corporation,マサチューセッツ州Milford)は、アミノ酸を含むサンプルに添加される。プレカラム誘導体化は、エドマン分解のカップリング反応、以下に示されるフェニルイソチオシアナート(PITC)と
【0067】
【化2】

一級および二級アミノ酸の両方との反応によりフェニルチオカルバミル(PTC)誘導体を形成する反応に依存する。
【0068】
本発明の分析物誘導体標準を生成するのに有用な第2の誘導体化剤は同位体を含んでいてもよい。特定の実施形態において、同位体は放射性同位体である。他の実施形態において、同位体は、例えば13C、15NおよびHから成る群から選択される安定な同位体である。このようなものとして、特定の実施形態において、本発明の分析物の誘導体化に有用な官能基は、例えば同位体希釈理論に基づく質量分析によって正確なペプチド定量が可能である安定な同位体タグ、この同位体分布によってタグ化されたペプチドまたはフラグメントを同定する同位体分布タグ、荷電アミノ酸、または質量分析計における効率的なイオン化を媒介し、タンデム型質量分析計の衝突セルにてフラグメンテーションパターンに向かわせるその他の化合物を含む。特定の実施形態において、第2の誘導体化剤は、同位体で標識されているAccQTag(商標)、PicoTag(登録商標)、またはこれらの機能性誘導体である。特定の実施形態において、同位体は放射性同位体である。他の実施形態において、同位体は、例えば13C、15NおよびHから成る群から選択される安定な同位体である。
【0069】
特定の実施形態において、第1の誘導体化剤および第2の誘導体化剤は、同じ分子の異なる同位体、例えばAccQTag(商標)、PicoTag(登録商標)、またはこれらの機能性誘導体の異なる同位体である。さらに、当業者は、同じ分子の異なる同位体が、通常(しかし常にではない。)、1:1であるRFCに有用な応答比を生じることを理解する。
【0070】
さらに、AccQTag(商標)の新規な同位体標識された試薬およびこれにより生じた誘導体が、本発明によって熟慮される。同様に、PicoTag(登録商標)の新規な同位体標識された試薬およびこれらにより生じた誘導体は、本発明によって熟慮される。1つの実施形態において、本発明は、サンプルの定量分析のための標準として使用されるべき同位体標識されたアミノ酸誘導体、例えば、AccQTag(商標)、PicoTag(登録商標)、またはこれらの機能性誘導体を用いて調製された誘導体を提供する。
【0071】
本発明のさらなる態様は、同位体、例えば放射性もしくは安定同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む分析物を定量分析するために有用な内部標準試薬である。
【0072】
さらなる別の態様において、本発明は、既知の濃度の1以上の分析物を、同位体、例えば放射性もしくは安定同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体と反応させることによって調製される、分析物を定量分析するために有用な内部標準を提供する。
【0073】
別の実施形態において、本発明は、複数の分析物の分析物定量の精密度を増大させる方法である。この方法は、サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびにサンプル中の各分析物誘導体の量を決定することを含む。各分析物誘導体の量は、応答係数計算によって決定される。このようなものとして、この方法は、既知の方法に対してサンプル中の複数の分析物の分析物定量の精密度を増大させるのに有用である。精密度の増大は、既存の技術と比較して、少なくとも5%、例えば少なくとも6%、例えば少なくとも7%、例えば少なくとも8%、例えば少なくとも9%、例えば少なくとも10%、例えば少なくとも11%、例えば少なくとも12%、例えば少なくとも13%、例えば少なくとも14%、例えば少なくとも15%であってもよい。
【0074】
本発明のさらなる実施形態は、複数の分析物の分析物定量の正確度を増大させる方法である。方法は、サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびにサンプル中の各分析物誘導体の量を決定することを含む。各分析物誘導体の量は、応答係数計算によって決定される。このようなものとして、この方法は、既知の方法に関してサンプル中の複数の分析物の分析物定量の正確度を増大させるのに有用である。正確度の増大は、既存の技術に比較して、少なくとも5%、例えば少なくとも6%、例えば少なくとも7%、例えば少なくとも8%、例えば少なくとも9%、例えば少なくとも10%、例えば少なくとも11%、例えば少なくとも12%、例えば少なくとも13%、例えば少なくとも14%、例えば少なくとも15%であってもよい。
【0075】
さらに、本発明の方法は複合的な生物学的サンプルを直接分析できる点で有利であるが、サンプルはまた、所望により処理することもできる。例えば、血液サンプルは、特定の細胞種、例えば赤血球細胞、白血球細胞などを単離するために分画することができる。血清サンプルは、グリコシル化、リン酸化、もしくはその他の翻訳後修飾によって修飾された血清タンパク質、または核酸に対する親和性のような特定の親和性を有するタンパク質のような構造的または機能的特性に基づいて、特定種類のタンパク質を単離するために分画することができる。血清サンプルはまた、物理的−化学的特性、例えば、サイズ、pIなどに基づいて分画できる。血清サンプルは、多量に存在するバルクタンパク質、例えばアルブミンを除去するために、多量には存在しない血清ポリペプチドの分析を促進するために、さらに分画できる。さらに、細胞サンプルは、細胞内の細胞小器官を単離するために分画できる。さらに、細胞または組織サンプルは、イオン交換、疎水性および逆相、サイズ排除、親和性、疎水性電荷誘導クロマトグラフィなどのようなクロマトグラフィ技術を含む周知の分画方法のいずれかによって溶解され、分画できる(Ausubelら,上記参照,1999;Scopes,Protein Purification:Principles and Practice,第3版,Springer−Verlag,New York(1993);Burton and Harding,J.Chromatogr.A814:71 81(1998))。
【0076】
本発明の方法は、生物学的サンプルに含有される分子の同定および定量分析に、特にアミノ酸の分析に特に有用である。こうした分析は、サンプルを誘導体化すること、既知の量の内部標準を添加すること、ならびにサンプル中の各分析物の量を検出および決定することを含む。本発明は、またLC/MS分析のための内部標準に有用な試薬を提供する。
【0077】
II.これらを用いるクロマトグラフィおよびシステム
本発明は、例えば既知または本明細書において導入/改良される好適なクロマトグラフィ方法およびシステムのいずれかを利用できる。例えば、特定の実施形態において、クロマトグラフィ分離は、液体クロマトグラフィ、例えば高速液体クロマトグラフィ(HPLC)である。
【0078】
本発明の典型的なシステムは、クロマトグラフィカラム、分析システム、および同時に複数の分析物の分析に有用な試剤/試薬を含む。例えば、1つの実施形態において、本発明は、サンプル中の複数の分析物の量を定量分析するための液体クロマトグラフィ/質量分析システムを対象とする。システムは、クロマトグラフィカラムおよびクロマトグラフィカラムを通過する少なくとも1つの移動相をポンプ輸送するためのポンプを含むクロマトグラフィ分析システムを含有する。
【0079】
システムはまた、分析物誘導体を検出できる質量分析計を含む質量分析による分析システム、AccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む、サンプル中の分析物を誘導体化して分析物誘導体を形成するのに有用な第1の誘導体化剤、および同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む複数の分析物誘導体標準を含有する。特定の実施形態において、同位体は、放射性同位体である。他の実施形態において、同位体は、例えば13C、15NおよびHから成る群から選択される安定な同位体である。特定の実施形態において、分析物誘導体標準の数は、5を超える、例えば10を超える、例えば15を超える、例えば20を超える。特定の実施形態において、分析物誘導体標準は、5から40、例えば5から30、例えば10から30、例えば10から25、例えば10から20である。
【0080】
本発明の別の態様は、サンプル中の複数の分析物の量を定量分析するための液体クロマトグラフィ/質量分析システムを対象とする。システムは、クロマトグラフィカラムおよびクロマトグラフィカラムを通過する少なくとも1つの移動相をポンプ輸送するためのポンプを含むクロマトグラフィ分析システムを含有する。システムはまた、分析物誘導体を検出できる質量分析計を含む質量分析による分析システム、AccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む、サンプル中の分析物を誘導体化してサンプル中に分析物誘導体を形成するのに有用な第1の誘導体化剤、および同位体、例えば放射性または安定同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む、複数の分析物誘導体標準を生成可能な試薬を含有する。特定の実施形態において、分析物誘導体標準の数は、5を超える、例えば10を超える、例えば15を超える、例えば20を超える。特定の実施形態において、分析物誘導体標準は、5から40、例えば5から30、例えば10から30、例えば10から25、例えば10から20である。
【0081】
本発明の方法およびシステムに従う分離を行なうのに好適なカラムは、当分野において既知であり、過度の実験を行なうことなく選択できる。例えば、RP−HPLCカラムは、C、C18、およびフェニル置換された固体支持体を含む。順相カラムは、固定相としてシリカを使用できる。HILIC分離は、一般にシリカ系カラム材料、場合により例えばアミノプロピルまたはジオール修飾剤で修飾される材料を用いて行なう。予め充填されたまたはコーティングされたカラムまたはキャピラリーは、市販の供給源から利用可能である;分離に使用するための特定の固定相または固体支持体の選択は、分離されるべき混合物の量および複合性、決定されるべき分析物の種類などのような因子に従って行なうことができる。
【0082】
同様に、カラムのサイズは、分析または精製されるべきサンプルの量のような因子に従って選択できる。より大きいサンプル量の分析のために、約3mmから約20mmの直径を有するHPLCカラムを使用してもよい。非常に少量のサンプルのためには、微生物カラム、キャピラリーカラム、またはナノカラムを使用してもよい。このようなものとして、特定の実施形態において、クロマトグラフィ分離は、微生物カラム、キャピラリーカラム、分取カラム、またはナノカラムから成る群から選択されるカラムを用いて行なう。
【0083】
逆相クロマトグラフィは、極性のより高い、主として水性の移動相と組み合わせて非極性固定相を利用する。この場合のサンプル保持は、疎水性相互作用によって駆動されるので、強力な移動相、即ち固定相からサンプルを容易に溶出できるものは、有機溶媒のパーセンテージが高いものである。反対に、弱い移動相は、逆相クロマトグラフィにて有機溶媒のパーセンテージが低い。
【0084】
順相クロマトグラフィは、移動相よりも極性の高い固定相を利用する。順相クロマトグラフィの一般的な適用は、シリカまたはアルミナのような極性固定相を、有機溶媒のパーセンテージが高い移動相と共に使用する際に見られる。順相では、弱い移動相は有機溶媒のパーセンテージが高いが、強力な移動相は、有機溶媒のパーセンテージが低い。
【0085】
イオン交換クロマトグラフィにおいて、固定相へのサンプルの保持は、荷電された分析物と、固定相表面における反対に荷電された官能基との相互作用を通して制御される。サンプル構成成分および固定相の両方が、カチオンまたはアニオン交換基のいずれか(両方の場合もある。)を含有し得るので、これらの分離は、移動相のpHおよび/またはイオン強度の変化に強く影響を受ける。イオン交換分離の場合、移動相のpHおよび/またはイオン強度を上昇または低下させると、結果として、サンプルのpKaおよび固定相がカチオンまたはアニオン交換剤であるかに依存して、移動相の溶出強度を増大または低下させる。pHおよび/またはイオン強度は、分離の必要に応じて上昇または低下させることができ、これによって移動相の溶出強度を調節する。主な適用領域は、バイオポリマー、特にタンパク質およびペプチドの分離である。
【0086】
使用される保持機構に依存して、多くの異なる移動相特性が、移動相強度を調節するために使用できる。特に溶媒は、移動相の強度を調節するために選択できる。使用される溶媒の種類は、当業者に周知である。例えば、「逆相」および「順相」クロマトグラフィの両方において、移動相中の有機溶媒と水との比は、通常、移動相の強度を調節するために変更される。しかし、イオン交換系の分離の場合、移動相のpHおよび/またはイオン強度は、一般に移動相の強度を調節するために取り扱われる。
【0087】
特定の実施形態において、1以上の移動相を利用する。さらなる実施形態において、2つの移動相がクロマトグラフィ方法によって利用される。または、移動相は、2つの溶媒の混合物を含み、例えばここで第1の溶媒の比は約5%から約95%である。特定の場合、移動相のpHと第2の移動相のpHとの差は、少なくとも3pH単位である;例えば、第1モードの移動相のpHが2.5である場合、第2モードの移動相のpHは少なくとも5.5であることができる。特定の実施形態において、pHの差は、少なくとも約4pH単位、5pH単位または6pH単位である。特定の実施形態において、移動相は、次の溶媒から選択される:水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、エチルアセタート、メチレンクロライド、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、およびこれらの混合物。
【0088】
特定の実施形態において、分離モードは、移動相が、質量分析のような分析技術と適合性であるものであり、例えば移動相は、サンプルの洗浄も脱塩もほとんどまたは全く使用せずに質量分析計に注入するのに好適である。そのため、特定の実施形態において、移動相は、不揮発性塩を実質的に含まない;例えば、特定の実施形態において、移動相は、約20mM未満(または10mMまたは5mM未満)の不揮発性塩を含む。従って、塩化ナトリウムまたはリン酸カリウムのような塩は、不揮発性塩と考えられる一方で、ギ酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムまたは酢酸アンモニウムのような塩は、真空下で大部分が除去される揮発性塩である。当業者に明らかなように、他の揮発性塩も使用できる。例えば、揮発性酸(例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ペルフルオロオクタン酸)のアンモニウム(NH)塩は、一般に、MS分析で使用するのに好適な揮発性塩である。
【0089】
さらに、各分析物誘導体および分析物誘導体標準の検出は、質量分析を用いて行なわれてもよい。このようなものとして、本発明のクロマトグラフィ分析システムは、質量分析による分析システムを含んでいてもよい。これに関して、質量分析は、大気圧化学イオン化(APCI)、化学イオン化(CI)、電子衝撃(EI)、高速原子衝撃(FAB)、電界脱離/電界イオン化(FD/FI)、サーモスプレーイオン化(TSP)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF)およびエレクトロスプレーイオン化(ESI)から成る群から選択されてもよい。特定の実施形態において、質量分析はエレクトロスプレーイオン化(ESI)である。
【0090】
1つの実施形態では、本発明のLCMSシステムは、例えばクロマトグラフィのハードウェア(サンプリングシステム、注入バルブ、移動相ポンプ、検出システム)を操作するのに、ならびにハードウェアからのデータを追跡および獲得するのに有効なソフトウェアで設定された、コンピュータ化されたコントロールおよびデータ分析システムにより操作されるのが好ましい。好適なソフトウェアは、例えば液体クロマトグラフィシステムの製造元、例えばWaters(マサチューセッツ州Milford)、および/またはソフトウェア製造元、例えばLab View brand softwareから市販されている。ソフトウェアは、さらにロボット流体ハンドラーおよびLCMSシステムに統合されてもよい他のデバイスを操作するためのコントロールエレメントを含むことができる。
【0091】
さらに、本発明の方法は、自動化に容易に適合させることができる。例えば、自動化サンプリング、ロボットまたはいずれかの好適な自動化方法は、所望により本発明の方法に適用できる。全ての反応は、自動化様式で容易に行なうことができるので、本発明の方法は、高処理量でサンプル調製が可能である。
【0092】
加えて、移送工程のようなサンプルの取り扱いが事実上ないので、捕捉された分子の損失が最小限であるため、分子回収率が改善する。捕捉された分子はまた、捕捉されたサンプル分子が洗浄工程中に固体の支持体に結合したままであるので、広範囲にわたって洗浄でき、捕捉されていないサンプル分子またはいずれかの試薬を除去できる。本発明の方法は、サンプルからの分子の分類もしくは複数の分類の本質的に全て、または所望によりサンプルからの分子の一部を捕捉するために使用できる。
【0093】
III.内部標準
本発明はまた、分析物を定量分析するのに有用な内部標準および内部標準試薬の両方を含む。例えば、1つの実施形態において、本発明は、同位体、例えば放射性もしくは安定同位体で標識されている、AccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む分析物を定量分析するのに有用な内部標準試薬である。
【0094】
さらに別の実施形態において、本発明は、既知の濃度の1以上の分析物と、同位体、例えば放射性または安定同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体とを反応させることによって調製される分析物を定量分析するのに有用な内部標準を提供する。
【0095】
別の実施形態は、分析物を定量分析するのに有用であるような、本明細書に記載される内部標準および/または内部標準試薬を含むパッケージ型キットを提供する。キットはまた、複数の分析物の同時定量分析を行なう際に使用するための指示を含んでいてもよい。
【0096】
例示
次の実施例では、絶対定量LC/MS分析に使用するための本発明の内部標準の有用性を例示する。これらの実施例は、例示を目的とするためだけのものであり、いかなる様式によっても本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0097】
複数の分析物の絶対定量分析
複数の分析物の量を決定することになっている場合(例えば、45個程度のアミノ酸を対象とするような臨床診断のためのアミノ酸)、分析物の全てについて同位体標識された標準を得るのは高価であり、面倒になる。この問題を避けるために、既存の技術は、同位体標識された標準のサブセットだけを使用することを必要とし、1つの標準に対して複数の分析物を定量する。このような妥協案は、異なる分析物の同位体標識された標準に対して定量された分析物に関する正確度および精密度が劣ることになり得る。
【0098】
しかし、本明細書の技術に基づけば、標識されていない分析物の標準を誘導体化する同位体標識された型の誘導体化試薬を使用できる。ここで標準分析物は、同位体標識された形態として存在する。標識された形態の誘導体化剤で誘導体化された既知の量の標準分析物を、標識されていない型の誘導体化試薬で誘導体化された未知のサンプルに添加できる。次いで定量は、応答係数計算を用いて上述したように達成される。
【0099】
分析されるべき臨床サンプル(複数の分析物を含有する。)の分析は、標識されていない型のAccQFlour試薬を用いてサンプル中の分析物を誘導体化することから開始する。既知濃度の標識されていないアミノ酸の標準も、同位体標識されている型のAccQFlour試薬を用いて誘導体化する。さらに、既知の量の同位体標識された誘導体標準は、続いて誘導体化されたサンプルに添加され、定量は、サンプルの応答と標準の応答との比に、標準濃度を乗じることによって達成される。
【0100】
参照としての組み込み
本出願を通して引用された全ての参照文献(参考文献、登録特許、公開特許出願、および同時係属中の特許出願)の内容は、この全体を本明細書に参照として明確に組み込む。
【0101】
均等物
当業者であれば、単に通常の実験を使用して、本明細書に記載の本発明の特定の実施態様に対する多くの均等物を認識または確認することができる。このような均等物は、このあとの特許請求の範囲に包含されることを意図する。
【0102】
さらに、本明細書に提供される数値に対する新規な均等物は、本明細書に提供される数から1または2の整数を引いた数値を含むことを意図する、例えばサンプル中の分析物の数が20より大きい場合とは、18、19、21、および22を含むことを意図する。
【0103】
さらに、本発明の多数の実施形態を本明細書において記載したが、基本的な構成は、本発明の方法および組成物を利用する他の実施形態を提供するように変更できることは明らかである。従って、本発明の範囲は、上記で実施例として提示した特定の実施形態ではなく添付の特許請求の範囲および明細書全体によって規定されることを理解する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の複数の分析物を定量分析する方法であって、サンプル中の複数の分析物を定量分析するように、
a)サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、
b)既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、
c)このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、
d)個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびに
e)サンプル中の各分析物誘導体の量を決定することであって、各分析物誘導体の量が応答係数計算によって決定されること、
を含む、方法。
【請求項2】
分析物誘導体標準が、分析物標準を第2の誘導体化剤で誘導体化することによって形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
既知の濃度の分析物標準を第2の誘導体化剤で誘導体化し、既知の濃度の複数の分析物誘導体標準を形成する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
分析物誘導体および対応する分析物誘導体標準の検出は、1:1応答比として測定される、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
第1の誘導体化剤が、AccQTag(商標)、PicoTag(登録商標)、またはこれらの機能性誘導体である、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
第2の誘導体化剤が同位体を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項7】
同位体が放射性同位体または安定な同位体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
同位体が、13C、15N、およびHから成る群から選択される安定な同位体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第2の誘導体化剤が、同位体で標識されているAccQTag(商標)、PicoTag(登録商標)、またはこれらの機能性誘導体である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項10】
同位体が放射性同位体または安定な同位体である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
同位体が、13C、15N、およびHから成る群から選択される安定な同位体である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
第1の誘導体化剤および第2の誘導体化剤が同じ分子の異なる同位体である、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
各分析物誘導体の量が、分析物誘導体ピークと分析物誘導体標準ピークとの応答比に、分析物誘導体標準の濃度を乗じることによって決定される、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
分析物誘導体の数が分析物誘導体標準の数に等しい、請求項1または3に記載の方法。
【請求項15】
サンプル中の分析物の数が5を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項16】
サンプル中の分析物の数が10を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項17】
サンプル中の分析物の数が15を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項18】
サンプル中の分析物の数が20を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項19】
サンプル中の分析物の数が25を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項20】
サンプル中の分析物の数が30を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項21】
サンプル中の分析物の数が35を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項22】
サンプル中の分析物の数が45を超える、請求項1または14に記載の方法。
【請求項23】
各サンプル分析物が一級または二級アミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
サンプル中の複数の分析物が、小さい有機化合物、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、ポリヌクレオチド、バイオマーカー、合成または天然ポリマー、およびこれらの混合物から成る群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
分析物が、アミノ酸およびこれらの混合物から成る群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項26】
アミノ酸が、既知の天然および非天然アミノ酸から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項27】
各分析物誘導体および分析物誘導体標準の検出が、質量分析を用いて行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
質量分析が、大気圧化学イオン化(APCI)、化学イオン化(CI)、電子衝撃(EI)、高速原子衝撃(FAB)、電界脱離/電界イオン化(FD/FI)、サーモスプレーイオン化(TSP)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(MALDI)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF)質量分析計、およびエレクトロスプレーイオン化(ESI)から成る群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
質量分析がエレクトロスプレーイオン化(ESI)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
クロマトグラフィ分離が液体クロマトグラフィである、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
液体クロマトグラフィが高速液体クロマトグラフィ(HPLC)である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
HPLCが順相HPLCである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
HPLCが逆相HPLCである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
クロマトグラフィ分離が、微生物カラム、キャピラリーカラム、分取カラム、またはナノカラムを用いて行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
クロマトグラフィ分離が少なくとも1つの移動相を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
移動相が、次の溶媒、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、エチルアセタート、メチレンクロライド、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、およびこれらの混合物から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
移動相が2つの溶媒の混合物を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
第1の溶媒の比が約5%から約95%である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
少なくとも1つの移動層が不揮発性塩を実質的に含まない、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
移動層が約20mM未満の不揮発性塩を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
サンプル中の複数のアミノ酸を定量分析するための方法であって、サンプル中の複数のアミノ酸を定量分析するように、
a)サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化してサンプル中にアミノ酸誘導体を形成すること、
b)既知の濃度の複数のアミノ酸誘導体標準をサンプルに添加してサンプル混合物を形成すること、
c)このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、
d)個々のアミノ酸誘導体およびアミノ酸誘導体標準のそれぞれを検出すること、ならびに
e)サンプル中の各アミノ酸誘導体の量を決定することであって、各アミノ酸誘導体の量が応答係数計算により決定されること
を含む、方法。
【請求項42】
サンプル中の複数の分析物の量を定量分析するための液体クロマトグラフィ/質量分析システムであって、
a)クロマトグラフィカラムおよびクロマトグラフィカラムを通る少なくとも1つの移動相をポンプ輸送するためのポンプを含むクロマトグラフィ分析システム、
b)分析物誘導体を検出可能な質量分析計を含む質量分析による分析システム、
d)AccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む、サンプル中の分析物を誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成するために有用な第1の誘導体化剤、ならびに
e)同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む複数の分析物誘導体標準
を含む、システム。
【請求項43】
分析物誘導体標準の数が10を超える、請求項42に記載のシステム。
【請求項44】
同位体が放射性同位体または安定な同位体である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
同位体が、13C、15N、およびHから成る群から選択される安定な同位体である、請求44に記載の方法。
【請求項46】
サンプル中の複数の分析物の量を定量分析するための液体クロマトグラフィ/質量分析システムであって、
a)クロマトグラフィカラムおよびクロマトグラフィカラムを通る少なくとも1つの移動相をポンプ輸送するためのポンプを含むクロマトグラフィ分析システム、
b)分析物誘導体を検出可能な質量分析計を含む質量分析による分析システム、
d)AccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む、サンプル中の分析物を誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成するために有用な第1の誘導体化剤、ならびに
e)同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む複数の分析物誘導体標準を生成できる試薬
を含む、システム。
【請求項47】
同位体が放射性同位体または安定な同位体である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
同位体が、13C、15N、およびHから成る群から選択される安定な同位体である、請求47に記載の方法。
【請求項49】
複数の分析物の分析物定量の精密度を増大させる方法であって、サンプル中の複数の分析物を分析物定量する精密度を増大させるように、
a)サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、
b)既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、
c)このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、
d)個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびに
e)サンプル中の各分析物誘導体の量を決定することであって、各分析物誘導体の量が応答係数計算により決定されること
を含む、方法。
【請求項50】
精密度が、既存の技術に比較して10%増大する、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
複数の分析物の分析物定量の正確度を増大させる方法であって、サンプル中の複数の分析物を分析物定量する正確度を増大させるように、
a)サンプル中の分析物を第1の誘導体化剤で誘導体化し、サンプル中に分析物誘導体を形成すること、
b)既知の濃度の複数の分析物誘導体標準をサンプルに添加し、サンプル混合物を形成すること、
c)このサンプル混合物をクロマトグラフィ分離に供すること、
d)個々の分析物誘導体および分析物誘導体標準をそれぞれ検出すること、ならびに
e)サンプル中の各分析物誘導体の量を決定することであって、各分析物誘導体の量が応答係数計算により決定されること
を含む、方法。
【請求項52】
同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を含む分析物を定量分析するのに有用な内部標準試薬。
【請求項53】
同位体が放射性同位体または安定な同位体である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
同位体が、13C、15N、およびHから成る群から選択される安定な同位体である、請求53に記載の方法。
【請求項55】
既知の濃度の1以上の分析物と、同位体で標識されているAccQTag(商標)またはこれらの機能性誘導体を反応させることによって調製される、分析物を定量分析するのに有用な内部標準。
【請求項56】
同位体が放射性同位体または安定な同位体である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
同位体が、13C、15N、およびHから成る群から選択される安定な同位体である、請求56に記載の方法。

【公表番号】特表2011−504596(P2011−504596A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534957(P2010−534957)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/012938
【国際公開番号】WO2009/070233
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(509131764)ウオーターズ・テクノロジーズ・コーポレイシヨン (46)
【Fターム(参考)】