説明

サンプル中の検体を測定するシステムおよび方法

【課題】一部のエラーソースを考慮して補正された検体濃度を決定する方法を本明細書において提供する。
【解決手段】本方法は、様々な検体および/または様々なエラーソースの決定をするために用いることができる。一例において、本方法は、サンプル内に見出される極端なレベルのヘマトクリットを考慮して補正されたグルコース濃度を決定するように構成できる。他の実施形態においては、様々なシステムエラーおよび/または欠陥を識別するための方法を提供する。例えば、そのようなエラーは部分的な充填または二重の充填の状況、高抵抗のトラック、およびまたはサンプルの漏えいを含むことができる。補正された検体濃度を決定するための、および/または一部のシステムエラーを検出するためのシステムもまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はサンプルの検体濃度を決定するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
生理学的流体(例えば血液または血液由来の生成物)中の検体検出は今日の社会においてその重要性を益々高めつつある。検体検出アッセイは、臨床検査試験、家庭検査等を含む様々な用途における使用を見出されており、そのような試験の結果は、様々な病状の診断および管理において傑出した役割を果している。対象とする検体は、糖尿病管理のためのグルコース、コレステロール等を含む。検体検出が益々重要となることに応じて、様々な検体検出手順、ならびに臨床での使用および家庭での使用の両方のための装置が開発されている。
【0003】
検体検出に用いられる方法のうちの1つは電気化学的方法である。この方法において、水性液体サンプルは、少なくとも2つの電極(例えば対極および作用電極)を含む電気化学セルにおけるサンプル受取りチャンバに配置される。検体はレドックス剤と反応して酸化可能な物質(または還元可能な物質)を、検体濃度に対応する量にて形成する。存在する酸化可能な物質(または還元可能な物質)の量は次いで電気化学的に概算され、初期サンプル中に存在する検体の量に関連付けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのようなシステムは様々な非効率性および/またはエラーに影響を受けやすい。例えば、測定されている生理学的サンプルが全血または血液派生物である場合、サンプルのヘマトクリットは最終的な検体濃度測定における解析エラーの原因となる恐れがある。従って、検体濃度が観察された時間−過渡電流から導き出される電気化学的な測定手順において、上昇したヘマトクリット値はサンプルの粘度を上昇させ、次いで酵素、検体、媒介物質の拡散を遅滞させ、それにより、試験電流を減衰させて解析エラーを生じさせる恐れがある。さらに、サンプル受取りチャンバを部分的にしか満たさない場合または2倍の量で満たしてしまう場合、欠陥のある試験片、および/またはサンプルの漏れにより、不正確および/または非効率の試験結果を生じさせる恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
サンプルの補正された検体濃度を計算する様々な態様および方法を提供する。すなわち、方法は、典型的には、初期検体濃度を決定する工程、様々なシステムの測定および/またはパラメータに基づいて補正因子を決定する工程、およびその補正因子に基づいて所期検体濃度を補正し、それによってエラーの一部のソースを克服する工程を含む。例えば、検体はグルコースであってもよく、エラーソースは、対処しない場合、不正確な測定値となる、増加されたヘマトクリットレベルであってもよい。他の方法は、例えば、二重処方、最大電流チェック、最小電流チェック、高抵抗のトラック、および/または漏えいなど、様々なシステムエラーに対処する。以下で提供する方法がグルコースの検出に集中する一方で、他の様々な手順も本開示の趣旨および範囲内である。例えば、乳酸塩、コレステロール、ヘモグロビン、または総抗酸化物質の検出または測定のために本方法を用いることができる。
【0006】
使用において、サイズ合わせされ、サンプル(例えば血液)を受け取るように構成された電気化学セルを用いて本方法を実行する。この電気化学セルは、典型的には、少なくとも2つの電極を含み、それら電極は互いに接近し、少量の液体によって濡らされている。様々な方法は、一部のエラーソースを考慮して、正確な検体濃度を決定するか、あるいは、1つまたは複数の電圧を印加する間、様々な電流の測定値を決定し、様々な測定値から補正因子を決定し、この補正因子を用いて補正された検体濃度を決定することができる。電気化学セルは計器と共に用いられる。この計器内の電源、例えばバッテリーは、電気化学セルの電極に亘って1つの電圧または複数の電圧を印加するために用いられ、それによって電流を生じさせる。電流の流れは、時間の関数として、計器内の電子回路によって測定され、電流の測定は、当該検体の濃度を導き出すために用いることができる。
【0007】
本明細書に提供される方法は、典型的には、所定の時間、様々な試験電圧を印加する工程、それらの時間の間に存在する試験電流を測定する工程、および、これらの測定を用いて、初期検体濃度、補正因子、エラーソース、および補正された検体濃度を決定する。例えば、その方法は、未知のグルコース濃度を有するサンプル(例えば血液)を電気化学セルに提供する工程と、第1の時間間隔Tの間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第2の電極において酸化するのに十分である第1の試験電圧Vを印加する工程とを含むことができる。さらに、その方法は、第2の時間間隔Tの間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第1の電極において、酸化するのに十分である第2の試験電圧Vを印加する工程であって、第1の試験電圧Vは第2の試験電圧Vの前に印加される、工程を含むことができる。この例において、その方法は、第1の時間間隔Tおよび第2の時間間隔Tの間の試験電流の値に基づいて、初期グルコース濃度Gを計算する工程と、エラーソース、この場合は、増加されたヘマトクリットレベルHを計算する工程と、初期グルコース濃度GおよびヘマトクリットレベルHに基づいて補正されたグルコース濃度Gを計算する工程とを含むことができる。
【0008】
一実施形態において、補正されたグルコース濃度を計算する工程は、ヘマトクリットレベルHがより低い所定のヘマトクリットレベルH(例えば約30%)よりも低く、且つ初期グルコース濃度Gがより高い所定のグルコース濃度G(例えば約300mg/dL)よりも低い場合に、第1の関数を用いて補正値Corrを計算する工程を含む。例えば、第1の関数は、式 Corr=K(H−H)Gであってもよく、Corrは補正値、Kは第1の定数(例えば約−0.004)、Hはより低い所定のヘマトクリットレベル(例えば約30%)、Hはヘマトクリットレベル、およびGは初期グルコース濃度である。式における様々な定数は、典型的には、実験によって導き出されたものであり、一連の試験結果は、当該範囲に亘る異なるヘマトクリットおよびグルコース濃度を有する全血を用いた測定システムにて得られる。通常、非線形最小二乗のフィッティング法が使用され、電流のデータから導き出される目的のパラメータの値とパラメータの実測の値との間の、最小の全体の差を与える定数が決定される。目的のパラメータは少なくとも部分的に、決定された定数に依存する。例えば、定数がサンプルのヘマトクリットを推定した式の一部を形成する場合、サンプルのヘマトクリットは目的のパラメータである。上述で与えられたCorrに対する式においてその定数の場合、目的のパラメータは血中のグルコースの濃度である。当業者は他の様々な解析方法が定数に対する値を提供するために利用可能であることを理解する。
【0009】
ヘマトクリットレベルおよび初期グルコース濃度が他の範囲内にて低下する場合、補正因子を決定できる。例えば、第2のグルコース濃度を計算する工程は、ヘマトクリットレベルHがより低い所定のヘマトクリットレベルH(例えば約30%)よりも低く、且つ初期グルコース濃度Gがより高い所定のグルコース濃度G(例えば約300mg/dL)よりも大きい場合、第2の関数を用いて補正値Corrを計算する工程を含む。その実施形態の場合、方法はまた、初期グルコース濃度G、ヘマトクリットレベルH、および補正値Corrに基づいて、補正されたグルコース濃度Gを計算する工程を含む。さらに、第2の関数は、Corr=K(H−H)(Gmax−G)の式であってよく、Corrは補正値、Kは第2の定数(例えば約−0.004)、Hはより低い所定のヘマトクリットレベル(例えば約30%)、Hはヘマトクリットレベル、Gmaxは所定の最大グルコース濃度(例えば約600mg/dL)、およびGは初期グルコース濃度である。
【0010】
所定の状況において、方法はまた、0と等しい補正値Corrを割り当てて利用することができる。例えば、一実施形態において、ヘマトクリットレベルHがより高い所定のヘマトクリットレベルH(例えば、約50%)よりも大きく、且つ初期のグルコース濃度Gがより低い所定のグルコース濃度G(例えば、約100mg/dL)よりも低い場合、または、ヘマトクリットレベルHがより高い所定のヘマトクリットレベルH(例えば約50%)よりも低く、より低い所定のヘマトクリットレベルH(例えば約30%)よりも高い場合、補正されたグルコース濃度Gは、初期グルコース濃度G(すなわちCorr=0)と略同一であってもよい。
【0011】
一実施形態において、第2のグルコース濃度Gを計算する工程は、ヘマトクリットレベルHがより高い所定のヘマトクリットレベルH(例えば約50%)よりも高く、且つ初期グルコース濃度Gがより低い所定のグルコース濃度G(例えば約100mg/dL)よりも高い場合、第4の関数を用いて補正値Corrを計算することを含む。そのような実施形態において、方法はまた、初期グルコース濃度G、ヘマトクリットレベルH、および補正値Corrに基づいて、補正されたグルコース濃度Gを計算することを含むことができる。さらに、第4の関数は、Corr=K(H−H)(G−G)であってもよく、Corrは補正値、Kは第4の定数(例えば0.011)、Hはヘマトクリットレベル、Hはより高い所定のヘマトクリットレベル(例えば約50%)、Gは初期グルコース濃度、Gはより低い所定のグルコース濃度(例えば約100mg/dL)である。
【0012】
様々な補正式が、補正されたグルコース濃度Gに対する値を見出すために利用できる。例えば、一部の実施形態において、補正式は、一部のグルコース閾値に関連する初期グルコース濃度に基づいて選択できる。すなわち、その方法は、初期グルコース濃度Gが、補正式であるG=G+Corrを用いて、グルコース閾値よりも低いこれらの場合において、補正式を用いて補正されたグルコース濃度Gを計算する工程を含むことができる。また、その方法は、初期グルコース濃度Gがグルコース閾値よりも高い場合、補正式を用いて補正されたグルコース濃度Gを計算する工程を含むことができ、この補正式はG=G(1+Corr/100)である。
【0013】
当業者に明らかであるように、試験電圧の任意の数および大きさを、任意の回数またはパターンの時間間隔にて、サンプルに供給できる。例えば、一実施形態において、第2の試験電圧Vは第1の試験電圧Vの直後に印加できる。また、第1の試験電圧Vは第1の極性を有し、第2の試験電圧Vは第2の極性を有し、第1の極性は第2の極性と符号が反対である。示されるように、第1および第2の試験電圧は、所望の効果を提供できる任意の量であってもよい。例えば、一実施形態において、第1の試験電圧Vは第2の電極に対して約−100mV乃至約−600mVの範囲であってもよく、第2の試験電圧Vは、第2の電極に対して、約+100mV乃至約+600mVの範囲であってもよい。さらに、方法は、第3の時間間隔Tの間、第1の電極と第2の電極との間に、第3の試験電圧Vを印加する工程を含むことができ、その結果として生じる試験電流の絶対値の大きさが、第2の試験電圧Vについて生じる試験電流の絶対値の大きさよりも略小さい。第3の試験電圧は、第1の試験電圧Vの前、または所望される任意の他の時間間隔(例えば第2の試験電圧の後)に印加できる。さらに、電極の様々な配置および/または構成が本明細書において含まれる。例えば、一例示的実施形態において、第1の電極および第2の電極は対向する面の配置構成を有することができる。さらに、試薬層は第1の電極上に配置できる。
【0014】
方法はまた、患者のヘマトクリットレベルを測定する様々な方法を提供する。例えば、ヘマトクリットレベルHは、第1の時間間隔Tおよび第2の時間間隔Tの間の試験電流の値に基づくことができる。一例示的実施形態において、ヘマトクリットレベルHはヘマトクリット式を用いて計算できる。例えば、ヘマトクリット式は、H=Kln(|i|)+Kln(G)+Kであってもよく、ここでHはヘマトクリットレベル、Kは第5の定数(例えば−76.001)、iは第2の時間間隔の間の少なくとも1つの電流の値、Kは第6の定数(例えば56.024)、Gは初期グルコース濃度、およびKは第7の定数(約250)である。
【0015】
別の態様において、検体濃度を計算する方法が提供され、その方法は、第1の試験時間間隔Tの間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第2の電極において酸化するのに十分である第1の試験電圧Vを印加する工程と、第2の試験時間間隔Tの間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第1の電極において酸化するのに十分である第2の試験電圧Vを印加する工程とを含む。本方法はまた、第1の時間間隔Tおよび第2の時間間隔Tの間、試験電流の値に基づいて、初期グルコース濃度Gを計算することを含む。本方法はさらに、ヘマトクリットレベルHを計算する工程、および初期グルコース濃度Gがより高い所定のグルコース濃度Gよりも低く、且つヘマトクリットレベルがより低い所定のヘマトクリットレベルHよりも低い場合に、第1の関数を適用して、補正されたグルコース濃度を計算する工程を含む。本方法はまた、初期グルコース濃度Gがより高い所定のグルコース濃度Gよりも高く、且つヘマトクリットレベルがより低い所定のヘマトクリットレベルHよりも低い場合、第2の関数を適用して補正されたグルコース濃度を計算する工程、初期グルコース濃度Gがより低い所定のグルコース濃度Gよりも低く、且つヘマトクリットレベルがより高い所定のヘマトクリットレベルHよりも高い場合、第3の関数を適用して補正されたグルコース濃度を計算する工程、ならびに、初期グルコース濃度Gがより低い所定のグルコース濃度Gよりも高く、且つヘマトクリットレベルがより高い所定のヘマトクリットレベルHよりも高い場合、第4の関数を適用して補正されたグルコース濃度を計算する工程を含む。
【0016】
様々な関数が様々な式を含むことができる。例えば、第1の関数は、Corr=K(H−H)Gなどの式を含むことができ、Corrは補正値、Kは第1の定数(例えば−0.004)、Hはより低い所定のヘマトクリットレベル(例えば約30%)、Hはヘマトクリットレベル、Gは初期グルコース濃度である。第2の関数は、Corr=K(H−H)(Gmax−G)などの式を含むことができ、Corrは補正値、Kは第2の定数(例えば−0.004)、Hはより低い所定のヘマトクリットレベル(例えば約30%)、Hはヘマトクリットレベル、Gmaxは所定の最大グルコース濃度(例えば約600mg/dL)、およびGは初期グルコース濃度である。第3の関数は、Corr=0などの式を含むことができ、ここでCorrは補正値であり、第4の関数は、Corr=K(H−H)(G−G)などの式を含むことができ、Corrは補正値、Kは第4の定数(例えば0.011)、Hはヘマトクリットレベル、Hはより高い所定のヘマトクリットレベル(例えば約50%)、Gは初期グルコース濃度、Gはより低い所定のグルコース濃度(例えば約100mg/dL)である。
【0017】
さらに、様々な補正値を、調整された検体の値を提供するように構成された補正式の様々な実施形態と共に、用いることができる。例えば、その方法は、初期グルコース濃度Gがグルコース閾値よりも低い場合、補正式を用いて補正されたグルコース濃度Gを計算する工程を含むことができ、補正式はG=G+Corrである。本方法はまた、初期グルコース濃度Gがグルコース閾値よりも高い場合、補正式を用いて補正されたグルコース濃度Gを計算する工程を含むことができ、補正式はG=G(1+Corr/100)である。
【0018】
一実施形態において、方法はまた、第3の時間間隔Tの間、第1の電極と第2の電極との間に、第3の試験電圧Vを印加する工程を含むことができ、その結果として生じる試験電流の絶対値の大きさが、第2の試験電圧Vについて生じる試験電流の絶対値の大きさよりも略小さい。そのような実施形態において、第3の試験電圧Vは第1の試験電圧Vの前に印加できる。そのような実施形態において、第3の試験電圧Vは、第2の試験電圧Vについて生じる試験電流の絶対値の大きさよりも略小さい試験電流を生じる大きさであり、VおよびVを印加する間に測定された電流との干渉を最小にする。Vを印加する間に流れるより小さい電流は、より少ない量のレドックス種が電極にて電気化学的に反応することを意味するので、電気化学セルにおけるレドックス種の濃度の統計データの乱れは、Vを印加することによって生じる。
【0019】
試験片における欠陥(例えば高抵抗のトラック)を識別する方法の様々な実施形態もまた提供する。1つの態様において、第1の試験時間間隔の間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第2の電極において酸化するのに十分である第1の試験電圧を印加する工程と、第2の試験時間間隔の間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第1の電極において酸化するのに十分である第2の試験電圧を印加する工程とを含む方法を提供する。あるいは、第1の時間間隔の間に印加される第1の試験電圧のみが本方法を実施するために必要とされる。本方法はまた、第1または第2の試験時間間隔の間に生じる第1の試験電流および第2の試験電流を測定する工程であって、同じ試験時間間隔の間、第2の試験電流は第1の試験電流の後に生じる、工程と、第1の試験電流および第2の試験電流に基づく式を用いて、試験片が欠陥を有するかどうかを決定する工程とを含むことができる。一例示的な実施形態において、第2の試験電圧は第1の試験電圧の直後に印加できる。
【0020】
そのような式の様々な実施形態を本明細書において提供する。例えば、式は、第1の試験電流と第2の試験電流との比を含むことができる。さらに、式は、第1の試験電流と、第1の試験電流と第2の試験電流との差との比を含むことができる。一実施形態において、第1の試験電流は、第1または第2の試験時間間隔の開始時前後に生じることができ、第1の試験電流は、第1または第2の試験時間間隔の間に生じる最大電流値であってもよい。また、第2の試験電流は第1または第2の試験時間間隔の終了時前後に生じることができ、第2の試験電流は、第1または第2の試験時間間隔の間に生じる最小電流値であってもよい。一例において、式は比=i/i−iであってもよい。ここでiは第1の試験電流、iは第2の試験電流である。使用において、本方法は、比が第1の所定の閾値(例えば約1.2)よりも大きい場合、欠陥のある試験片であることを示すエラーメッセージを提供する工程を含むことができる。
【0021】
上述に類似して、電極の様々な配置および/または構成が、本開示の趣旨および範囲内に含まれる。例えば、第1の試験電圧の極性は第2の試験電圧の極性と反対である。また、第1の電極および第2の電極は対向する面の配置を有する。さらに、第1の電極および/または第2の電極は広範囲の電圧のいずれかであってもよい。例えば、第1の試験電圧は、第2の電極に対して、約0乃至約−600mVの範囲であってもよく、第2の試験電圧は、第2の電極に対して、約10mV乃至約600mVの範囲であってもよい。
【0022】
示されるように、本方法の実施形態によって識別される1つの欠陥は高抵抗のトラックであってもよい。例えば、高抵抗のトラックは、電気化学セルにおける電極コネクタと各電極との間でもよい。トラックの機能は、計器上の接続点と電気化学セル内の電極との間の電気的な導通経路を提供することである。電流がこれらのトラックを流れている間、計器によって印加された電圧の一部は、より高い電気抵抗を有し、オームの法則に従ってトラックに沿って消散し、より大きい電圧降下で、電流はトラックを流れる。この実施形態において、本方法は、短時間で電極に近接する還元された媒介物質のより高い初期濃度に起因して、より長い時間流れる電流よりも大きな電圧を印加した後の短時間で電極間を流れる電流に基づく。トラック抵抗が高すぎる場合、電流が流れている間、トラックに沿って生じる電圧降下は、より大きな初期電流を流そうとする場合、所望するよりも大きい。この所望するよりも大きい電圧降下は、電気化学セル内の電極間に印加される不十分な電圧を生じ、それによって、許容範囲のトラック抵抗が存在する場合よりも低電流を流してしまう。この実施形態によれば、上述で開示した方法によって、短時間にて、期待される電流よりも低い電流が、より長い時間で流れる電流(通常、低い電流は高抵抗のトラックによって影響をそれほど受けない)と比較することによって検出される。
【0023】
別の態様において、試験片における欠陥(例えば漏えい)を識別する方法を提供する。その方法は、第1の試験時間間隔の間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第2の電極において酸化するのに十分である第1の試験電圧を印加する工程と、第2の試験時間間隔の間、第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を第1の電極において酸化するのに十分である第2の試験電圧を印加する工程とを含むことができる。本方法はまた、第2の試験時間間隔の間に生じる第1の試験電流、第2の試験電流、第3の試験電流、および第4の試験電流を測定する工程と、第1の試験電流および第2の試験電流に基づいて第1の比の第1の対数を計算する工程と、第3の試験電流および第4の試験電流に基づいて第2の比の第2の対数を計算する工程と、第1の対数および第2の対数に基づく式を用いて、試験片が欠陥を有するかどうかを決定する工程とを含む。一例示的な実施形態において、欠陥は、スペーサと第1の電極との間の液体の漏えいである。一部の実施形態において、試薬層は、試薬層の一部がスペーサと第1の電極との間にあるように、第1の電極上に配置できる。
【0024】
上述と類似して、そのような様々な式を提供する。一例示的な実施形態において、式は、log(i/i)/log(i/i)によって表される第3の比であり、iは第1の試験電流、iは第2の試験電流、iは第3の試験電流、iは第4の試験電流である。使用において、本方法は、第3の比が所定の閾値よりも小さい場合(例えば約1、約0.95など)、欠陥のある試験片であることを示すエラーメッセージを提供する工程をさらに含むことができる。
【0025】
一実施形態において、第1の試験電流および第2の試験電流は、第2の時間間隔の間、2つの最大電流値であってもよい。一実施形態において、第4の試験電流は、第2の時間間隔の間に生じる最小電流値であってもよい。また、一実施形態において、第4の試験電流時間と第3の試験電流時間との差は、第2の試験電流時間と第1の試験電流時間との差よりも大きい。この実施形態において、本方法は、過渡電流の形が許容可能であるかどうかを判断または決定するために、i,i,i,およびiの測定された電流によって具現される、電流対時間の統計データの形と、所定の閾値によって具現される、期待された形とを比較する工程を含む。
【0026】
さらに、試験片を用いて試験を実行することにおいてエラーを識別する方法の様々な態様を本明細書において提供する。1つのそのような態様において、方法は、第1の試験時間間隔の間、第1の電極と第2の電極との間に試験電圧を印加する工程と、第1の試験電流、第2の試験電流、および第3の試験電流を連続して測定する工程と、第2の試験電流、および第1の試験電流の絶対値と第3の試験電流の絶対値の合計に基づく式を用いることによってエラーが実行されたかどうかを決定する工程とを含む。測定間の様々な時間差を用いることができる。例えば、第1の試験電流および第2の試験電流の測定間の時間差は、約1ナノ秒乃至約100ミリ秒の範囲であってもよい。また、第1の試験電流および第3の試験電流の測定間の差は約1ナノ秒乃至約100ミリ秒の範囲であってよい。
【0027】
上述と類似して、式の様々な実施形態を本明細書において提供する。例えば、一例示的実施形態において、式は、Y=2abs(i(t))−abs(i(t−x))−abs(i(t+x))であり、i(t)は第2の試験電流、i(t−x)は第1の試験電流、i(t+x)は第3の試験電流、tは時間、xは時間の増加分、absは絶対値関数を表す。一実施形態において、式は、Z=abs(i(t+x))−abs(i(t))であり、i(t)は第2の試験電流、i(t+x)は第3の試験電流、tは時間、xは時間の増加分、absは絶対値関数を表す。これらの式は、電流における予期しない急激な増加または減少を検出するのに有効であり、試験を用いてエラーが生じたことを示すことができる。
【0028】
また、検体濃度の決定、あるいは処理中のエラーまたはシステムエラーを決定するためのシステムの様々な態様を本明細書において提供する。例えば、一実施形態において、システムは、少なくとも2つの電極を有し、サイズ合わせされ、サンプル(例えば血液)を受け取るように構成される電気化学セルを含む。電気化学セルは、初期検体濃度(例えばグルコース)を決定し、所定の時間の間、第1の電極と第2の電極との間に所定の電圧を生成し、所定の時間の間に、サンプルの少なくとも1つの結果として生じる電流を測定するようにさらに構成できる。また、システムは、電気化学セルから一連のデータを受信するプロセッサであって、データは、初期検体濃度、少なくとも1つ(または多数)の印加された電圧、および少なくとも1つの結果として生じる電流を含む、プロセッサを含むことができる。プロセッサはさらに、このデータを用いて、補正された検体濃度を決定するか、またはシステムエラー(例えば高抵抗のトラック、漏えいなど)を決定するように構成できる。一実施形態において、プロセッサは、極端なヘマトクリットレベルを考慮して、補正されたグルコース濃度を提供するために利用できる。この関数を実行することにおいて、プロセッサは一連の式を用いて、ヘマトクリットレベルおよび初期グルコース濃度に依存する補正時間を決定する。プロセッサは、様々な方法において、電気化学セルから得られた所望の計算および/またはデータに依存する他の式またはパラメータを用いるように構成できる。
【0029】
補正された検体濃度の決定に使用する装置の様々な態様もまた、本明細書において提供する。そのような一態様において、装置は、サンプルが少なくとも第1および第2の電極と連通するように、サンプルを受け取るように構成されたサンプル受取りチャンバを有する試験片を含む。また、本装置は、少なくとも1つの電極上に配置された試薬層であって、試薬層は、サンプルと反応するように構成された少なくともひとつの成分(例えば媒介物質、酵素など)より形成され、少なくとも2つの時間間隔において、サンプルに印加される少なくとも2つの電圧が、初期検体濃度および補正された検体濃度を示すサンプル内において、その電圧に対応する電流を生じる、試薬層とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1A】試験片の斜視図である。
【図1B】図1Aの試験片の分解斜視図である。
【図1C】図1Aの試験片の遠位部の斜視図である。
【図2】図1Aの試験片の底面図である。
【図3】図1Aの試験片の側面図である。
【図4A】図1Aの試験片の上面図である。
【図4B】図4Aの矢印4B−4Bに合致する試験片の遠位部の部分側面図である。
【図5】試験片の接触点と電気的に接触する試験用計器を示す略図である。
【図6】所定の時間間隔に、試験用計器が複数の試験電圧を印加する試験用電圧波形を示す。
【図7】図6の試験用電圧波形を用いて生成された試験用過渡電流を示す。
【図8】極端なヘマトクリットレベルを有するサンプルに対する検体濃度を計算するための方法の一例示的実施形態を示すフロー図である。
【図9】基準方法を用いて測定されたヘマトクリットレベルと、図1の試験片を用いて測定されたヘマトクリットレベルとの相関を示すチャートである。
【図10】広範囲のヘマトクリットレベルを有する血液サンプルを用いて試験された複数の試験片を示すバイアスプロットである。
【図11】システムエラーを識別する方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図12】ユーザが二重処方を実行した場合(実線)としなかった場合(点線)の、第2の時間間隔の試験用過渡電流を示す。
【図13】試験用計器を用いて、開始が遅くなるエラーが生じる場合(実線)と生じない場合(点線)の、第2の時間間隔の試験用過渡電流を示す。
【図14】高抵抗のトラック(四角)および低抵抗のトラック(三角)を有する試験片のための、第3の試験時間間隔の試験用過渡電流を示す。
【図15】高抵抗の試験片のロットが、低抵抗の試験片のロットから区別できることを示す複数の比の値を示すチャートである。
【図16】スペーサと第1の電極との間の漏えいを有する試験片のロット(四角)、および十分に少ない量の漏えいを有する試験片のロット(円および三角)のための、複数の試験用過渡電流を示す。
【図17】異なる製造条件を用いて準備された試験片のロットに対して、液体の漏えいを識別するための、複数の比の値を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示は添付の図面と併せて記載される以下の詳細な説明から完全に理解される。
【0032】
所定の例示的な実施形態を、本明細書に開示される装置、システムおよび方法の構造、機能、製造および使用法の原理の全ての理解を提供するために記載する。これらの1つ以上の実施形態を添付の図面に示す。特に本明細書に記載し添付の図面に示す本装置および方法は、非制限的な例としての実施形態であり本開示の範囲は請求の範囲によってのみ限定されることを当業者は理解する。一例示としての実施形態に関連して示し、または記載する特徴は他の実施形態の特徴と組み合わされてもよい。そのような変更およびバリエーションは本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
【0033】
本明細書に開示するシステムおよび方法は、種々多様なサンプル中の種々多様な検体の決定に使用するのに適しており、特に全血、血漿、血清、間質液、またはそれらの派生物における検体の決定に適している。一例示的実施形態において、グルコース試験システムは、対向する電極を有する薄層セル設計および迅速な解析時間(例えば約5秒)を与えるトリプルパルスの電気化学的検出に基づいて提供され、少量のサンプル(例えば約0.4μL)を必要とし、ならびに血中グルコース測定における改善された信頼性および精度を提供する。反応セルにおいて、サンプル中のグルコースは、グルコースデヒドロゲナーゼを用いてグルコノラクトンに酸化され、電気化学的に活性の媒介物質は、酵素からパラジウム作用電極へと電子を移動するために用いられ得る。ポテンシオスタットはトリプルパルスの電位波形を作用電極および対極電極に適用するために利用でき、その結果、グルコース濃度を計算するために用いられる3つの過渡電流を生じさせる。さらに、その3つの過渡電流から得られるさらなる情報は、サンプルマトリクス間を区別し、ヘマトクリット、温度差、または電気化学的に活性の成分による血液サンプル中の変動性を補正するために用いてもよい。
【0034】
本明細書に開示される方法は、原則的に、相互に離間した第1および第2の電極と試薬層とを有する如何なる種類の電気化学的セルと共に使用可能である。例えば、電気化学的セルは試験片の形態でもよい。一態様において、試験片は、薄いスペーサにより分離された2つの対向する電極を有し、これらの構成要素は試薬層が配置されるサンプル受取りチャンバまたはゾーンを画定する。当業者には、例えば、同一平面上の電極を有する試験片などを含む他の種類の試験片および3つ以上の電極を有する構成も本明細書に記載の方法と共に使用可能であることは明らかである。
【0035】
図1から図4Bは本明細書に記載の方法およびシステムの使用に適した例示的な試験片62の様々な図を示す。一例示的実施形態において、図1Aに示すように、試験片62は、遠位端80から近位端82へ延在し、側縁部56、58を有する伸長体を含んで提供される。図1Bに示すように、試験片62はまた、第1の電極層66、第2の電極層64、およびその2つの電極層64、66との間に挟まれたスペーサ60を含む。第1の電極層66は、第1の電極66、第1の接続トラック76、および第1の接触点67を含むことができ、図1Bおよび図4Bに示すように、第1の接続トラック76は第1の電極66と第1の接触点67とを電気的に接続する。図1Bおよび図4Bに示すように、第1の電極66は試薬層72の直下にある第1の電極層66の一部であることに留意されたい。同様に、第2の電極層64は、第2の電極64、第2の接続トラック78、第2の接触点63を含むことができ、図1B、図2、図4Bに示すように、第2の接続トラック78は、第2の電極64と第2の接触点63とを電気的に接続する。図4Bに示すように、第2の電極64は試薬層72の上方にある第2の電極層64の一部であることに留意されたい。
【0036】
図1Bおよび図4Bに示すように、サンプル受取りチャンバ61は、第1の電極66、第2の電極64、および試験片62の遠位端80付近のスペーサ60によって画定される。第1の電極66および第2の電極64は、図4Bに示すように、個々にサンプル受取りチャンバ61の底部および頂部を画定する。スペーサ60の切り欠き領域68は、図4Bに示すように、サンプル受取りチャンバ61の側壁を画定する。一態様において、サンプル受取りチャンバ61は、図1Aから図1Cに示すように、さらに、サンプル注入口および/または通気口となる複数の出入口70を含むことができる。例えば、出入口の1つを流体サンプル注入口、他の出入口を通気口とすることができる。
【0037】
一例示的な実施形態において、サンプル受取りチャンバ61は少量を有することができる。例えば、チャンバ61の容積は、約0.1μl乃至約5μlの範囲、好ましくは、約0.2μl乃至約3μlの範囲、より好ましくは、約0.3μl乃至約1μlの範囲とすることができる。少量のサンプル容量を提供するために、切り欠き領域68は、約0.01cm乃至約0.2cm、約0.02cm乃至約0.15cm、または、好ましくは、約0.03cm乃至約0.08cmの範囲の面積とすることができる。さらに、第1の電極66および第2の電極64は、約1ミクロン乃至約500ミクロンの範囲、好ましくは約10ミクロン乃至約400ミクロンの範囲、より好ましくは、約40ミクロン乃至約200ミクロンの範囲の離間距離を有することができる。それらの電極が相対的に近接して配置されていることにより、酸化還元サイクルが発生しうるようになっており、ここで、第1の電極66において生成された、酸化された媒介物質は第2の電極64に拡散し、還元され、次いで、第1の電極66に拡散されて戻り、再度、酸化される。電極の様々な容量、面積、および/または電極間の間隔は本開示の趣旨および範囲内であることを当業者は理解する。
【0038】
一実施形態において、第1の電極層66および第2の電極層64は、金、パラジウム、炭素、銀、白金、酸化スズ、イリジウム、インジウム、またはそれらの混合物(例えば、インジウムをドープした酸化スズ)などの材料からなる導電性材料で形成できる。さらに、電極は、例えば、スパッタリング、無電解メッキまたはスクリーン印刷処理などによって、導電性材料を絶縁シート(図示せず)に付着(disposing)させて形成できる。一例示的実施形態において、第1の電極層66を、パラジウムをスパッタリングした電極とし、第2の電極層64を、金をスパッタリングした電極とすることができる。スペーサ60に使用できる好適な材料として、例えば、プラスチック類(例えば、PET、PETG、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン)、シリコン、セラミック、ガラス、接着剤およびそれらの組合せ等、様々な絶縁材料を含む。一実施形態において、スペーサ60は、ポリエステルシートの両側上を覆う両面接着剤の形態であってもよく、その接着剤は加圧のみで接着可能であるか、または加熱によって活性化されるものであってもよい。第1の電極層66、第2の電極層64、および/またはスペーサ60のために多様な他の材料が本開示の趣旨および範囲内であることを当業者は理解する。
【0039】
様々な機構および/または処理が、試薬層72をサンプル受取りチャンバ61内に配置するために利用できる。例えば、試薬層72は、スロットコーティング、チューブ端からの塗布、インクジェット処理およびスクリーン印刷などの処理を用いてサンプル受取りチャンバ61内に配置できる。一実施形態において、試薬層72は少なくとも1つの媒介物質および1つの酵素を含むことができ、第1の電極66上に付着される。好適な媒介物質の例は、フェリシアニド、フェロセン、フェロセン誘導物、オスミウムビピリジル錯体およびキノン誘導体を含む。好適な酵素の例は、グルコースオキシダーゼ、ピロロキノリンキノン(PQQ)補助因子をベースとしたグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)補助因子をベースとしたGDHおよびフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)補助因子をベースとしたGDHを含む[E.C.1.1.99.10]。試薬層72は、33mMポタシウムシトラコナート、pH6.8、0.033%プルロニックP103、0.017%プルロニックF87、0.85mM CaCl、30mMスクロース、286μM PQQ、15mg/mL GDH、および0.6Mフェリシアニドを含む製剤から調製できる。プルロニックは、エチレンオキシドおよび酸化プロピレンに基づくブロック共重合体であり、それは消泡剤および/または湿潤剤として機能できる。
【0040】
その製剤は、約10m/minにて移動するパラジウムウェブ(web)上において、約150μmで用意された13ゲージ針を用い、いくつかの所望の量(例えば、約570μl/min)で適用可能である。酵素製剤を用いてパラジウムウェブをコーティングする前に、MESA(2−メルカプトエタンスルホン酸)を用いて、そのウェブをコーティングしてもよい。所望の厚さ(例えば約95μm)を有し、一部の所望の幅(例えば約1.2mm)を有してスペーサ内にある通路切り込み部を、試薬層およびいくらかの所望の温度(例えば約70℃)にてパラジウムのウェブに重ねることができる。MESAコーティングされた金のウェブはスペーサのもう一方の側に重ねることができる。スペーサは、比較的高分子量を有する線状飽和共重合ポリエステル樹脂であるVitelなどの熱可塑性樹脂系接着剤で両側をコーティングしたポリエステルなどのポリマー物質より形成できる。必要に応じて剥離ライナーをスペーサの各側上の接着剤層の表面上に重ねることができ、積層加工されるまで接着剤を保護する。その結果形成された積層を切断することができ、サンプル受取りチャンバの充填用経路は長さ約3.5mmであり、その結果、約0.4μlの全容量を有する。
【0041】
一実施形態において、試薬層72は第1の電極66の面積よりも大きい面積を有してもよい。スペーサ60の一部は試薬層72と重なるか接触してもよい。スペーサ60は、試薬層72の一部がスペーサ60と第1の電極66との間にあるとしても、第1の電極66に対して不透水性シールを形成するように構成してもよい。スペーサ60は、少なくとも全試験時間の間、電極領域を画定するのに十分な、第1の電極66に対する不透水性の接着部を形成するために、試薬層72の一部と混ざり合うか部分的に溶解してもよい。試薬層72が十分に乾いておらず、または、ちりの粒子などの汚れが存在する特定の状況下では、スペーサ60は不透水性シールを形成することができず、その結果、液体がスペーサ60と第1の電極66との間で漏えいする恐れがある。そのような漏えいにより、不正確なグルコース測定を生じさせてしまうおそれがある。
【0042】
第1の電極66または第2の電極64のいずれかは、印加された試験電圧の大きさおよび/または極性に依存する作用電極としての機能を実行することができる。作用電極は、還元された媒介物質濃度に比例する制限的な試験電流を測定してもよい。例えば、電流を制限する種が還元された媒介物質(例えばフェロシアニド)である場合、第2の電極64に対するレドックス媒介物質電位よりも、試験電圧が十分に正であれば、還元された媒介物質は第1の電極66において酸化できる。このような状況において、第1の電極66は作用電極の機能を実行し、第2の電極64は対向/基準電極としての機能を実行する。当業者は、対向/基準電極を単に基準電極または対向電極と呼んでもよい。制限的な酸化は、全ての還元された媒介物質が作用電極表面において消耗され、測定された酸化電流が、作用電極表面に拡散する還元された媒介物質の流れと比例する場合に生じる。試験片62について特に指定のない限り、試験用計器100によって印加される全ての電位は、第2の電極64の記載を基準とするものとすることに留意されたい。
【0043】
同様に、試験電圧がレドックス媒介物質電位よりも十分に負である場合、還元された媒介物質は、制限電流として、第2の電極64において酸化できる。このような状況において、第2の電極64は作用電極としての機能を実行し、第1の電極66は対向/基準電極としての機能を実行する。
【0044】
まず、解析の実行は、出入口70を介して、サンプル受取りチャンバ61へ所定の量の流体サンプルを導入することを含むことができる。一態様において、出入口70および/またはサンプル受取りチャンバ61は、毛細管現象により流体サンプルをサンプル受取りチャンバ61に満たすように構成可能である。第1の電極66および/または第2の電極64は親水性の試薬を用いてコーティングしてもよく、サンプル受取りチャンバ61の毛細管を促進させる。例えば、2−メルカプトエタンスルホン酸などの親水性部分を有するチオール誘導体化の試薬が、第1の電極および/または第2の電極上にコーティングされてもよい。
【0045】
図5は、第1の接触点67a、67bおよび第2の接触点63と接触する試験用計器100を示す簡略図である。第2の接触点63は、図2に示すように、U字型の切り込み部65を介して試験用計器100と電気接続を確立するために使用可能である。一実施形態において、試験用計器100は、図5に示すように、第2の電極コネクタ101、第1の電極コネクタ102a、102b、試験電圧ユニット106、電流測定ユニット107、プロセッサ212、メモリユニット210、および視覚ディスプレイ202を含んでよい。第1の接触点67は2つのプロング(prong)67aおよび67bを含むことができる。一実施形態において、第1の電極コネクタ102aはプロング67aと、102bはプロング67bとそれぞれ分かれて接続する。第2の電極コネクタ101は第2の接触点63に接続することができる。試験用計器100はプロング67aとプロング67bとの間の抵抗または電気的導通を測定して、試験片62が試験用計器100と電気的に接続されているか否かを決定することができる。当業者は、試験用計器100が様々なセンサや回路に使用可能であり、試験片62が試験用計器100に対して適切に配置されているか否かを決定することができる。
【0046】
一実施形態において、試験用計器100は、第1の接触点67と第2の接触点63との間に試験電圧および/または試験電流を印加することができる。一旦試験用計器100が試験片62が挿入されたことを認識すると、試験用計器100はオンとなり、流体検出モードが始動する。一実施形態において、流体検出モードでは、第1の電極66と第2の電極64との間に約0.5μAの定電流を流すように、試験用計器100が電圧を印加する。試験片62は最初乾燥しているため、試験用計器100は比較的大きい電圧を測定する。その大きい電圧は、試験用計器が供給可能である最大電圧によって制限可能である。流体サンプルが、投与工程の間、第1の電極66と第2の電極64との間の間隙を満たすと、試験用計器100は印加された電圧の低下を測定し、所定の閾値を下回ると、自動的にグルコース試験を開始する。
【0047】
一実施形態において、試験用計器100は、図6に示すように、所定の間隔で複数の試験電圧を印加することによってグルコース試験を実行できる。複数の試験電圧は、第1の時間間隔Tに対する第1の試験電圧V、第2の時間間隔Tに対する第2の試験電圧V、および第3の時間間隔Tに対する第3の試験電圧Vを含んでよい。グルコース試験時間間隔Tは、グルコース試験を実行する時間量を表す(但し、グルコース試験に関連する全算出時間とは限らない)。グルコース試験時間間隔Tは、約1秒乃至約15秒、またはそれ以上、より好ましくは、約1秒乃至約5秒の範囲でもよい。第1、第2、および第3の時間間隔の間に測定された複数の試験電流の値は、1ナノ秒につき約1回の測定乃至100ミリ秒につき約1回の測定の範囲の頻度にて実行してもよい。連続的に3つの試験電圧を用いる実施形態を記載したが、当業者は、グルコース試験は異なる数の開回路および試験電圧を含むことができることを理解する。例えば、代替的な実施形態として、グルコース試験は、第1の時間間隔に対して開回路を、第2の時間間隔に対しては第2の試験電圧、および第3の時間間隔に対しては第3の試験電圧を含むことができる。当業者は、「第1」、「第2」、および「第3」の用語は簡便性のために選択され、試験電圧が印加される順序を必ずしも反映しているわけではないことを理解する。例えば、一実施形態は、第1および第2の試験電圧の印加前に、第3の試験電圧が印加される電位波形を有することができる。
【0048】
一旦グルコースアッセイを開始すると、試験用計器100は、第1の時間間隔T(例えば、図6に示すように、約1秒)の間に第1の試験電圧V(例えば、図6に示すように、約−20mV)印加してもよい。第1の時間間隔Tは、約0.1秒から約3秒の範囲、好ましくは、約0.2秒から約2秒の範囲、最も好ましくは、約0.3秒から約1秒の範囲であってもよい。
【0049】
第1の時間間隔Tは十分に長くてよく、それにより、サンプル受取りチャンバ61はサンプルを十分に満たすことができ、試薬層72は少なくとも部分的に溶解または溶媒和できる。一態様において、第1の試験電圧Vは比較的低い値であってもよく、それにより、比較的少量の還元電流または酸化電流が測定される。図7は、第2の時間間隔Tおよび第3の時間間隔Tと比較して、比較的少量の電流が第1の時間間隔Tの間に観測されることを示す。例えば、媒介物質として、フェリシアニドおよび/またはフェロシアニドを用いる場合、第1の試験電圧Vは、約−100mV乃至約−1mVの範囲、好ましくは、約−50mV乃至約−5mVの範囲、最も好ましくは、約−30mV乃至約−10mVの範囲であってもよい。
【0050】
第1の試験電圧Vを印加した後、試験用計器100は、第2の時間間隔T(例えば、図6に示すように、約3秒)の間に、第1の電極66と第2の電極64との間に、第2の試験電圧V(例えば、図6に示すように、約−0.3ボルト)を印加する。第2の試験電圧Vは十分に負の値の媒介物質レドックス電位であってもよいので、制限酸化電流が第2の電極64において測定される。例えば、媒介物質としてフェリシアニドおよび/またはフェロシアニドを用いる場合、第2の試験電圧Vは、約−600mV乃至約0mV、好ましくは、−600mV乃至約−100mV、より好ましくは、約−300mVの範囲であってもよい。
【0051】
第2の時間間隔Tは、十分に長くあるべきであり、それにより、還元された媒介物質(例えばフェロシアニド)の生成の割合が制限酸化電流の大きさに基づいて監視できる。還元された媒介物質は、試薬層72と酵素反応することによって生成される。第2の時間間隔Tの間、制限された量の還元された媒介物質は第2の電極64にて酸化され、非制限量の酸化された媒介物質は第1の電極66にて還元されて、第1の電極66と第2の電極64との間の濃度勾配を形成する。
【0052】
一例示的実施形態において、第2の時間間隔Tは、十分に長くあるべきであり、それにより、十分な量のフェリシアニドが第2の電極64にて生成できる。十分な量のフェリシアニドが第2の電極64にて必要とされ、その結果、制限電流は、第3の試験電圧Vの間、第1の電極66にて酸化フェロシアニドに対して測定できる。第2の時間間隔Tは、約60秒を下回ってもよく、好ましくは、約1秒乃至約10秒の範囲、より好ましくは、約2秒乃至約5秒の範囲であってよい。
【0053】
図7は、第2の時間間隔Tの開始時における相対的に小さなピークipbを示し、そのピーク後には、第2の時間間隔Tの間、酸化電流の絶対値が徐々に増加する。小さなピークipbは、約1秒にて、還元された媒介物質の初期枯渇のために生じる。小さなピークipb後の酸化電流の徐々の増加は試薬層72によるフェロシアニドの生成によって生じ、フェロシアニドは次いで第2の電極64へ拡散する。
【0054】
第2の試験電圧Vを印加した後、試験用計器100は、第3の時間間隔T(例えば、図6に示すように約1秒)の間、第1の電極66と第2の電極64との間に第3の試験電圧V(例えば、図6に示すように約+0.3ボルト)を印加する。第3の試験電圧Vは十分な正の値の媒介物質のレドックス電位であるので、制限酸化電流は第1の電極66にて測定される。例えば、媒介物質としてフェリシアニドおよび/またはフェロシアニドを用いる場合、第3の試験電圧Vは、約0mV乃至約600mVの範囲、好ましくは、約100mV乃至約600mVの範囲、より好ましくは、約300mVであってよい。
【0055】
第3の時間間隔Tは十分に長くてよく、それにより、酸化電流の大きさに基づいて、第1の電極66に近い還元された媒介物質(例えばフェロシアニド)の拡散を監視できる。第3の時間間隔Tの間、制限された量の還元された媒介物質は第1の電極66にて酸化され、非制限の量の酸化された媒介物質は第2の電極64にて還元される。第3の時間間隔Tは、約0.1秒乃至約5秒の範囲、好ましくは、約0.3秒乃至約3秒の範囲、より好ましくは、約0.5秒乃至約2秒の範囲であってよい。
【0056】
図7は、第3の時間間隔Tの開始時において相対的に大きなピークipcを示し、そのピーク後に、定常電流issの値へと低下する。一実施形態において、第2の試験電圧Vは、第1の極性を有することができ、第3の試験電圧Vは第1の極性と反対の第2の極性を有してもよい。別の実施形態において、第2の試験電圧Vは十分の負の値の媒介物質のレドックス電位であってもよく、第3の試験電圧Vは十分に正の値の媒介物質のレドックス電位であってよい。第3の試験電圧Vは第2の試験電圧Vの直後に印加してよい。しかしながら、当業者は、第2の試験電圧および第3の試験電圧の大きさおよび極性は、検体濃度が決定される方法に従って選択できることを理解する。
【0057】
試験片が相互に反対の面を有するか、または図1Aから図4Bに示すような向かい合うような配置構成を有することを想定する場合、および電位波形が、図6に示すように、試験片に印加されることを想定する場合、初期のグルコース濃度Gは以下の式1に示すグルコースのアルゴリズムを用いて計算できる。
【数1】

【0058】
式1において、iは第1の試験電流の値、iは第2の試験電流の値、iは第3の試験電流の値、p、z、およびaの記号は、実験から導き出された較正定数である。式1における全ての試験電流の値(すなわち、i、i、およびi)は電流の絶対値を使用する。第1の試験電流の値iおよび第2の試験電流の値iは、それぞれ、第3の時間間隔Tの間に生じる1つ以上の所定の試験電流の値の平均または合計によって規定できる。第3の試験電流の値iは、第2の時間間隔Tの間に生じる1つ以上の所定の試験電流の値の平均または合計によって規定できる。当業者は、「第1」、「第2」、および「第3」の用語は簡便性のために選択され、電流の値が計算される順序を必ずしも反映しているわけではないことを理解する。
【0059】
式1は、さらに正確なグルコース濃度を提供するように補正できる。試験電流の値の単なる平均または合計を用いる代わりに、記号iは、式2に示すように、ピーク電流の値ipbおよびipc、ならびに定常電流issを含むように規定できる。
【数2】

【0060】
定常電流issの計算は、数理モデル、補外法(extrapolation)、所定の時間間隔での平均、またはそれらの組合せに基づくことができる。issを計算する方法の一例は、米国特許第6,413,410号明細書および米国特許第5,942,102号明細書(これらの特許文献はその全体において引用することにより本明細書に援用される)に見出すことができる。
【0061】
式2は式1と組み合わせて式3を作ることができ、さらに正確なグルコース濃度を決定し、血液サンプル中の内因性および/または外因性の干渉の存在を補償することができる。
【数3】

【0062】
内因性の干渉に加え、特定の状況における極端なヘマトクリットレベルがグルコース測定の精度に影響を与え得る。したがって、式3をさらに補正することができ、サンプルが極端なヘマトクリットレベル(例えば、約10%または約70%)を有する場合であっても、正確な、補正されたグルコース濃度Gを提供できる。
【0063】
さらに、様々なシステム、ユーザ、および/または装置の非能率性および/またはエラーを説明および/または識別するように構成された方法およびシステムの様々な実施形態が本明細書において提供される。例えば、一実施形態において、システムは、極端なヘマトクリットレベルを有するサンプルのグルコース濃度を正確に決定することができる。さらに、システムは、サンプルチャンバを部分的に満たしたもの、またはそれを2倍に満たしたものなどを利用した試験を識別するように構成できる。また、システムは、サンプルがサンプルチャンバから漏えいしてしまい、試験の完全性を妥協させてしまう恐れのある状況、および/またはシステムの一部(例えば試験片)が損傷した状況を識別するように構成できる。これらの様々な実施形態を以下に記載する。
【0064】
(極端なヘマトクリットレベルでの検体検出)
極端なヘマトクリットのサンプルにおけるグルコース濃度を正確に測定する方法及びシステムを本明細書において提供する。例えば、図8は、極端なヘマトクリットレベルを有する血液サンプルを説明する正確なグルコース濃度を計算するための方法2000を示すフロー図である。ユーザは、ステップ2001に示すように、サンプルに試験片を適用することによって試験を開始することができる。第1の試験電圧Vは、ステップ2002に示すように、第1の時間間隔Tの間、加えられる。その結果、試験電流は、ステップ2004に示すように、第1の時間間隔Tの間、測定される。第1の時間間隔Tの後、第2の試験電圧Vが、ステップ2006に示すように、第2の時間間隔Tの間、加えられる。その結果、試験電流は、ステップ2008に示すように、第2の時間間隔Tの間、測定される。第2の時間間隔Tの後、第3の試験電圧Vは、ステップ2010に示すように、第3の時間間隔Tの間、加えられる。その結果、試験電流は、ステップ2012に示すように、第3の時間間隔Tの間、測定される。
【0065】
ここで、試験電流の値は試験用計器によって収集され、初期のグルコース濃度Gが、ステップ2014に示すように、計算できる。初期グルコース濃度Gは式1または式3を用いて計算できる。次に、ヘマトクリットレベルHが、ステップ2016に示すように、計算できる。
【0066】
ヘマトクリットレベルは、グルコース試験の時間間隔Tの間に獲得される試験電流の値を用いて推定してもよい。あるいは、ヘマトクリットレベルHは、第2の時間間隔Tおよび第3の時間間隔Tの間に獲得される試験電流の値を用いて推定してもよい。一実施形態において、ヘマトクリットレベルHは、初期グルコース濃度Gおよび第2の試験電流の値iに基づいたヘマトクリット式を用いて推定できる。一例示的なヘマトクリット式は式4に示される。
式4 H=Kln(|i|)+Kln(G)+K
【0067】
記号Hはヘマトクリットレベルであり、iは第2の時間間隔の間の少なくとも1つの電流の値であり、Kは第5の定数、Kは第6の定数、そしてKは第7の定数である。一実施形態において、Kは−76、Kは56、Kは250であってもよい。図9は、式4を用いて、推定されたヘマトクリットレベルが、基準方法を用いて測定された実際のヘマトクリットレベルと略線形相関を有することを示す。
【0068】
一旦、ヘマトクリットレベルHがステップ2016において計算されると、ステップ2018に示すように、より低い所定のヘマトクリットレベルHと比較される。より低い所定のヘマトクリットHは約30%であってもよい。ヘマトクリットレベルHが、より低い所定のヘマトクリットレベルHよりも低い場合、初期グルコース濃度Gは、ステップ2020に示すように、より高い所定のグルコース濃度Gと比較される。より高い所定のグルコース濃度Gは約300mg/dLであってもよい。ヘマトクリットレベルHが、より低い所定のヘマトクリットレベルHよりも低くない場合、ヘマトクリットレベルHは、ステップ2022に示すように、より高い所定のヘマトクリットレベルHと比較される。より高い所定のヘマトクリットレベルHは約50%であってもよい。ヘマトクリットレベルHはHよりも高い場合、初期グルコース濃度Gは、ステップ2028に示すように、より低い所定のグルコース濃度Gと比較される。より低い所定のグルコース濃度Gは約100mg/dLであってもよい。ステップ2018および2022は、ステップ2034に示すように、ヘマトクリットレベルHがHよりも低くなく、且つHよりも高くない場合、方法2000が初期グルコース濃度Gを出力することを示す。
【0069】
ステップ2024に示すように、HがHよりも低く、且つ初期グルコース濃度Gがより高い所定のグルコース濃度Gよりも低い場合、第1の関数は、補正値Corrを計算するために用いることができる。第1の関数は式5の形をとってよい。
式5 Corr=K(H−H)G
【0070】
記号Kは、第1の定数であり、Hは、より低い所定のヘマトクリットレベルである。一実施形態において、それぞれ、Kは−0.004%、Hは約30%であってもよい。
【0071】
しかしながら、HがHよりも低く、初期グルコース濃度Gがより高い所定のグルコース濃度Gよりも低くない場合、ステップ2026に示すように、第2の関数を用いて補正値Corrを計算することができる。第2の関数は式6の形をとってよい。
式6 Corr=K(H−H)(Gmax−G
【0072】
記号Kは第2の定数であり、Gmaxは所定の最大グルコース濃度である。一実施形態において、それぞれ、Kは−0.004、Gmaxは約600mg/dLであってもよい。式5および6に対する補正値Corrは、約−5乃至約0の範囲に制限されてもよい。従って、Corrが−5より低い場合、Corrは−5に設定され、Corrが0よりも高い場合、Corrは0に設定される。
【0073】
ステップ2030に示すように、HがHより高く、初期グルコース濃度Gがより低い所定のグルコース濃度Gよりも低い場合、第3の関数は補正値Corrを計算するために用いることができる。第3の関数は式7の形をとってよい。
式7 Corr=0
【0074】
しかしながら、HがHより高く、初期グルコース濃度Gがより低い所定のグルコース濃度Gよりも低くない場合、第4の関数は、ステップ2032に示すように補正値Corrを計算するために用いることができる。第4の関数は式8の形をとってよい。
式8 Corr=K(H−H)(G−G
【0075】
記号Kは第4の定数であり、それは約0.011であってもよい。式8に対する補正値Corrは約0乃至約6の範囲に制限されてもよい。従って、Corrが0よりも低い場合、Corrは0に設定され、Corrが6よりも高い場合、Corrは6に設定される。
【0076】
ステップ2024において、第1の関数を用いてCorrを計算した後、第1のグルコース濃度は、ステップ2036において、100mg/dLと比較される。第1のグルコース濃度が100mg/dLよりも低い場合、第2のグルコース濃度Gは、ステップ2038に示すように、第1の補正値を用いて計算される。ここで、100mg/dLはグルコース閾値を表し、それは限定の数として解釈されるべきではない。一実施形態において、グルコース閾値は約70mg/dL乃至約100mg/dLの範囲であってよい。第1の補正式は式9の形をとってよい。
式9 G=G+Corr
【0077】
初期グルコース濃度Gは、ステップ2036に基づいて、100mg/dLより低くなく、補正されたグルコース濃度Gは、ステップ2040に示すように、第2の補正式を用いて計算される。第2の補正式は、式10の形をとってもよい。
式10 G=G(1+Corr/100)
【0078】
補正されたグルコース濃度Gがステップ2038またはステップ2040のいずれかにおいて計算された後、ステップ2042においてグルコース測定値として出力される。
【0079】
ステップ2026またはステップ2030、あるいはステップ2032においてCorrを計算した後、補正されたグルコース濃度Gは、ステップ2040に示すように、式10を用いて計算することができる。Corrが0(第3の関数に関連して)の場合、補正されたグルコース濃度Gは初期グルコース濃度Gと等しくなり、次いで、ステップ2042において、グルコース測定値として出力できる。
【0080】
極端なヘマトクリットレベルを有する血液サンプル中の正確なグルコース濃度を計算するための方法2000は、数人のドナーからの血液を用いて確かめられた。図10は、広範囲のヘマトクリットレベルおよびグルコース濃度を有する血液サンプルを用いて試験された複数の試験片のバイアスプロットを示す。より詳細には、図10は、新しい試験システムの精度と正確性に基づく広範囲のヘマトクリットを有する血液サンプル全体の効果を示す。図に示すように、YSI2700装置(Yellow Springs Instruments、Yellow Springs、オハイオ州)に関連するセンサ反応のバイアスが、血漿グルコース濃度に対してプロットされる。データは3つのセンサおよび4人の血液ドナーから得られた。ヘマトクリットは、グルコースを用いてサンプルをスパイク(spike)させる前に、20%(四角)、37%乃至45%(円)、または60%(三角)に調整された。これらのデータは、電気化学的測定のための薄層セルおよびトリプルパルス・アプローチが、血中グルコース試験システムを用いて改善された解析性能の機会を提供していることを示している。従って、ヘマトクリットレベルHおよび初期グルコース濃度Gに依存する補正値Corrを用いることで、血液サンプルが極端なヘマトクリットレベルであったとしても、より正確に補正されたグルコース濃度Gを決定することができる。
【0081】
(システムエラーの識別)
試験を実行した場合のユーザのエラーを含むシステムエラー、試験用計器エラー、および欠陥のある試験片を識別する方法の様々な実施形態もまた、提供される。例えば、図11は、検体測定の実行におけるシステムエラーを識別する方法1000の例示的実施形態を示すフロー図である。ステップ1002に示すように、ユーザはサンプルに試験片を適用することによって試験を開始することができる。サンプルが加えられた後、ステップ1004aに示すように、試験用計器は第1の試験電圧Vを、第1の時間間隔Tの間、加える。その結果、試験電流は、ステップ1005aに示すように、第1の時間間隔Tの間、測定される。第1の時間間隔Tの間、試験用計器は、二重処方(double dose)チェック1006aおよび最大電流チェック1012aを行う。二重処方チェック1006aおよび最大電流チェック1012aのいずれかが失敗した場合、試試験用計器は、ステップ1028に示すように、エラーメッセージを表示する。二重処方チェック1006aおよび最大電流チェック1012aの両方が成功すると、試験用計器は、ステップ1004bに示すように、第2の試験用電圧Vを、第2の時間間隔Tの間、印加することができる。
【0082】
その結果、試験電流は、ステップ1005bに示すように、第2の時間間隔Tの間、測定される。第2の試験電圧Vを印加している間、試験用計器は二重処方チェック1006b、最大電流チェック1012b、および最小電流チェック1014bを実行する。二重処方チェック1006b、最大電流チェック1012b、および最小電流チェック1014bのうちの1つが失敗した場合、試験用計器は、ステップ1028に示すように、エラーメッセージを表示する。二重処方チェック1006b、最大電流チェック1012b、および最小電流チェック1014bの全てが成功した場合、試験用計器は、ステップ1004cに示すように、第3の試験電圧Vを印加する。
【0083】
その結果、試験電流は、ステップ1005cに示すように、第3の時間間隔Tの間、測定される。第3の試験電圧Vを印加している間、試験用計器は、二重処方チェック1006c、最大電流チェック1012c、最小電流チェック1014c、高抵抗チェック1022c、およびサンプル漏えいチェック1024cを実行する。二重処方チェック1006c、最大電流チェック1012c、最小電流チェック1014c、高抵抗チェック1022c、およびサンプル漏えいチェック1024cのうち、全てが成功した場合、試験用計器は、ステップ1026に示すように、グルコース濃度を表示する。二重処方チェック1006c、最大電流チェック1012c、最小電流チェック1014c、高抵抗チェック1022c、およびサンプル漏えいチェック1024cのうちのいずれか1つが失敗した場合、試験用計器は、ステップ1028に示すように、エラーメッセージを表示する。
【0084】
(二重処方の事像)
二重処方は、ユーザが不十分な量の血液をサンプル受取りチャンバに加え、その後、さらにサンプル受取りチャンバを満たすために、血液を投与する場合に生じる。ユーザの指先すなわち不安定な震えている指に出された不十分な量の血液が二重処方の発生の原因となる恐れがある。本開示のシステムおよび方法は、このような二重処方を識別するように構成できる。例えば、図12は、二重処方が第2の試験間隔Tの間に生じ、それにより、スパイクが観察される(実線を参照)、試験用過渡電流を示す。二重処方がなければ、試験用過渡電流はピークを持たない(図12の点線を参照)。
【0085】
二重処方によって、グルコース試験が不正確な測定値を生じてしまう恐れがある。従って、通常は、二重処方を識別して、潜在的に不正確な測定値を出力してしまう代わりに計器に、エラーメッセージを出力させることが所望される。二重処方の場合、まず、測定された試験電流が低くなる。というのも、一部のみがサンプルで湿っている場合、電極の面積は低減する。一旦ユーザが2回目の処方を行うと、電極領域の突然の増加と、その乱れによって、さらに低減された媒介物質が作用電極近くに移動するので、電流スパイクが生じる。さらに、試薬層の一部が試験時間全体に亘ってサンプルによって湿らされていないため、フェロシアニドが殆ど生成されない。従って、グルコースのアルゴリズムにおいて用いられる試験電流の値が、二重処方の結果として、低下されるかまたは上昇される場合、不正確なグルコース測定値が生じてしまう恐れがある。
【0086】
二重処方(1006a、1006b、または1006c)を識別する方法は、第2の試験電流および第3の試験電流を測定することを含んでもよい。ここで、第2の試験電流は第3の試験電流よりも先に生じる。第3の試験電流の絶対値と第2の試験電流の絶対値との間の差に基づいた二重処方を識別するために、1つの式を用いてもよい。その差が所定の閾値よりも大きい場合、試験用計器は二重処方を示すエラーメッセージを出力することができる。二重処方を識別する方法は、試験電流の値が試験用計器によって集められるたびに、連続した方法で、複数回、実行してよい。式は、二重処方が発生したかどうかを決定するために、差分値Zを計算するために、式11の形をとることができる
式11 Z=abs(i(t+x))−abs(i(t))
【0087】
記号i(t)は第2の試験電流、i(t+x)は第3の電流、tは第2の試験電流の時間、xは電流測定間の時間の増加分である。値Zが約3μアンペアの所定の閾値よりも大きい場合、試験用計器は二重処方によるエラーメッセージを出力してもよい。本明細書において開示される所定の閾値は、試験片100および図6の試験電圧の波形を用いた使用についての例示であり、ここで、作用電極および基準電極の両方は、約0.042cmの面積、その2つの電極間に、約90ミクロン乃至約100ミクロンの距離を有する。そのような所定の閾値は、試験片の設計、試験電圧の波形、および他の要因に基づいて変化してもよいことは当業者にとって明らかであるべきである。
【0088】
二重処方(例えば、1006a、1006b、または1006c)を識別するための他の実施形態において、第1の試験電流、第2の試験電流、および第3の試験電流を測定する工程を含む方法が提供され、ここで第1の試験電流は第2の試験電流の前に生じ、第3の試験電流は第2の試験電流の後に生じる。第2の試験電流の絶対値の2倍マイナス第1の試験電流の絶対値マイナス第3の試験電流の絶対値に基づいて二重処方を識別する式が提供される。その式は、二重処方が生じたかどうかを決定するために、合計値Yを計算するための式12の形をとってもよい。
式12 Y=2abs(i(t))−abs(i(t−x))−abs(i(t+x))
【0089】
記号i(t)は第2の試験電流、i(t−x)は第1の試験電流、i(t+x)は第3の試験電流、tは第2の試験電流の時間、xは測定間の時間増加分、absは絶対値関数を表す。合計値Yが所定の閾値よりも大きい場合、試験用計器は二重処方のためエラーメッセージを出力してもよい。所定の閾値は、第1の時間間隔T、第2の時間間隔T、および第3の時間間隔Tの間、異なる値に設定してもよい。
【0090】
一実施形態において、所定の閾値は、第1の時間間隔Tでは約2μアンペア、第2の時間間隔Tでは約2μアンペア、第3の時間間隔Tでは約3μアンペアであってもよい。所定の閾値は、例えば、試験用計器におけるノイズ、試験電流測定の周波数、電極の面積、電極間の距離、および二重処方の誤検出の可能性および二重処方の検出漏れの可能性などの様々な要因の結果として調整されてもよい。式12を用いて二重処方を識別する方法は、試験用過渡電流の複数の部分に対して実行できる。式12は、第1の試験電流および第3の試験電流がベースライン補正を提供するゆえ、二重処方を識別することにおいて、式11よりもさらに正確であることに留意されたい。図7の試験電圧の波形を用いる場合、二重処方チェックは、第1、第2、および第3の時間間隔の開始直後の時間帯に実行可能である。なぜならば、ピークは典型的に時間間隔の開始時に生じるからである。例えば、0秒乃至約0.3秒、0秒乃至約1.05秒、0秒乃至4.05秒に測定された試験電流は二重処方チェックから排除されるべきである。
【0091】
(最大電流チェック)
図11のステップ1012a、1012b、および1012cを参照すると、最大電流チェックを用い、試験用計器エラーまたは試験片の欠陥を識別することができる。試験用計器エラーの一例は、血液が処方された後、それが検出される場合に生じる。欠陥のある試験片の一例は、第1および第2の電極がともに短絡した場合に生じる。図13は、試験用計器が、試験片への血液の処方をすぐに検出しなかった場合の試験用過渡電流を示す(実線を参照)。そのような場合、第2の試験電圧Vが印加され相対的に大きい試験電流値が観察される前に、遅い開始が相当の量のフェロシアニドを生成する。対照的に、一旦血液が与えられ、試験用計器が試験電圧の波形を正確に開始する場合、第2の時間間隔の試験電流の値は、図13の点線で示されるように、著しく小さい。
【0092】
遅い開始は不正確なグルコース測定値を生じさせる恐れがある。従って、遅い開始を識別して、計器に、不正確な測定値を出力する代わりにエラーメッセージを出力させることが所望される。遅い開始により、測定された試験電流は大きくなる。なぜならば、試薬層がフェロシアニドを生成するためのさらなる時間が存在するからである。従って、増加された試験電流の値は、グルコース濃度の正確さを歪めることがある。
【0093】
試験用計器エラーに加え、第1の電極と第2の電極との間の短絡によって試験電流が増加する恐れがある。この増加による大きさは第1の電極と第2の電極との間のシャント(shunting)抵抗の大きさに依存する。シャント抵抗が相対的に低い場合、相対的に高い正のバイアスが試験電流に加えられて、潜在的に不正確なグルコース反応を生じさせる。
【0094】
最大電流チェック(1012a、1012b、および1012c)は、測定された試験電流の値の全ての絶対値と所定の閾値とを比較し、測定された試験電流の値のうちの1つの絶対値が所定の閾値よりも大きい場合、エラーメッセージを出力することによって実行可能である。所定の閾値は、第1、第2、および第3の時間間隔(T、T、およびT)に対して、異なる値を設定することができる。一実施形態において、所定の閾値は、第1の時間間隔Tには約50μアンペア、第2の時間間隔Tには約300μアンペア、第3の時間間隔Tには約3000μアンペアであってもよい。
【0095】
(最小電流チェック)
図11のステップ1014bおよび1014cを参照すると、最小電流チェックを用い、例えば、グルコース試験の誤った開始、試験用計器による不適切な時間変化、および早まった試験片除去など、様々な潜在的問題を識別することができる。誤った開始は、サンプルが試験片に適用されていないにもかかわらず、試験用計器がグルコース試験を開始する場合に生じる。試験用計器が不注意にも試験を開始させる恐れのある状況の例は、静電気放電(ESD)または第1の電極と第2の電極との間の一時的な短絡である。そのような場合においては、液体サンプルが試験片に適用されていないにもかかわらず、試験を開始して、僅かな短絡時間の間、相対的に大きな電流が観察される。
【0096】
グルコース試験の不注意な開始により、サンプルが試験片に適用されていないにもかかわらず、試験用計器は低いグルコース濃度を出力してしまう恐れがある。従って、試験用計器が誤って低いグルコース測定値を出力しないように、グルコース試験の不注意な開始を識別することが所望される。その代わり、試験用計器は、ユーザに、サンプルの試験片を再挿入するか、または再度試験を実行するために新たな試験片を挿入するように命令するエラーメッセージを提供するべきである。
【0097】
試験用計器による時間変化エラーは、第3の電圧Vが早期にまたは遅れて印加された場合に生じる恐れがある。第3の試験電圧Vを早期に印加すると、第2の時間間隔Tの終わりにおける試験電流の値に、負の極性を有した相対的に小さい電流の代わりに、正の極性を有した相対的に大きな電流を生じさせてしまう。第3の試験電圧Vを遅れて印加すると、第3の時間間隔の始めの試験電流の値に、正の極性を有した相対的に大きな電流の値の代わりに、負の極性を有した相対的に小さな電流の値を生じさせてしまう。第3の試験電圧Vの早期の印加および遅れての印加の両方のために、不正確なグルコース試験結果を生じさせる可能性が存在する。それゆえ、最小電流チェックを用いて試験用計器により、時間変化エラーを識別し、不正確なグルコース測定値が生じないようにすることが所望される。
【0098】
グルコース試験の終了前に試験用計器から試験片を早期に除去することによって、不正確なグルコース測定値を生じさせてしまう。試験片除去により、試験電流は0に近い値へと変化し、潜在的に不正確なグルコース出力を生じさせてしまう。従って、最小電流チェックを用いて早期の試験片除去を識別し、不正確なグルコース測定値を表示する代わりにエラーメッセージを提供することができることが所望される。
【0099】
最小電流チェックは、第2と第3との時間間隔(TおよびT)の間で測定された試験電流の値の全ての絶対値と、所定の閾値とを比較して、測定された試験電流の値のうちの1つの絶対値が所定の閾値よりも小さい場合にエラーメッセージを出力することによって実行してもよい。所定の閾値は、第2および第3の時間間隔に、異なる値に設定してもよい。しかしながら、一実施形態において、所定の閾値は、第1の時間間隔Tおよび第2の時間間隔Tに対して約1μアンペアであってもよい。最小電流チェックは第1の時間間隔に対して実行されなかったことに留意されたい。なぜならば、試験電流の値は、第1の試験電圧が媒介物質のレドックス電位に、その大きさが近似しているゆえに、相対的に小さいからである。
【0100】
(高抵抗のトラック(track))
図11のステップ1022cを参照すると、不正確なグルコース測定値の結果を生じ得る試験片上において高抵抗のトラックが検出される恐れがある。高抵抗のトラックは、絶縁表面への傷または汚れた電極表面を有する試験片上で生じる恐れがある。電極層がスパッタリングされた金のフィルムまたはスパッタリングされたパラジウムのフィルムからなる状況において、かすり傷は試験片の扱いおよび製造の間において、容易に生じ得る。例えば、第1の電極層66上の側縁部56から別の側縁部58に亘るかすり傷によって、第1の接触点67と第1の電極66との間において抵抗を増加させてしまう恐れがある。スパッタリングされた金属のフィルムは非常に薄い傾向にあり(例えば、約10nm乃至約50nm)、試験片の扱いおよび製造の間、それらに傷を付けてしまいがちである。さらに、スパッタリングされた金属のフィルムは、例えば、炭化水素などの揮発性化合物に露出されることによって汚れてしまう恐れがある。このような露出によって、電極の表面上に、抵抗を増加させる絶縁フィルムを形成させてしまう。高抵抗のトラックを生じさせる恐れのある別の状況は、スパッタリングされた金属のフィルムが薄すぎることである(例えば、約10nm未満)。高抵抗のトラックを生じさせる恐れのあるさらに別の状況は、試験用計器のコネクタが、試験片の接触点に対して十分に導通する接触を形成しないことである。例えば、試験用計器のコネクタ上に乾いた血液が存在すると、試験片接触点に対しての十分な導通する接触を妨げてしまう恐れがある。
【0101】
図14は、高抵抗のトラック(四角)および低抵抗のトラック(三角)を有する試験片に対して、第3の時間間隔Tの間の2つの試験用過渡電流を示す。電極と電極接触点との間にある十分に高い抵抗Rは、印加された試験電圧Veffの大きさを実質的に減衰し、次に、その結果生じた試験電流の大きさを減衰することができる。その試験電圧Veffは式13によって記載できる。
式13 Veff=V−i(t)R
【0102】
effは第3の時間間隔Tの開始時に最も減衰され、ここで、試験電流は一般的に、最も高い大きさを有する。第3の時間間隔Tの開始時における、相対的に大きいトラックの抵抗Rと相対的に大きい試験電流の組合せによって、印加された試験電圧が著しく減衰できる。次に、これにより、t=4.05秒にて図14に示されるように、第3の時間間隔Tの開始時に、生じた試験電流を減衰させることができる。約4.05秒にてすぐさまピーク電流において減衰させると、計算されたグルコース濃度が不正確になる恐れがある。印加された試験電圧における著しい減衰を避けるため、トラックの抵抗Rは相対的に小さい値であるべきである(例えば、低抵抗のトラック)。一実施形態において、低抵抗のトラックは、1平方あたり約12Ω未満の抵抗を有する電極層によって表されてもよく、高抵抗のトラックは1平方あたり約40Ωより大きい抵抗を有する電極層によって表されてもよい。
【0103】
試験片が高抵抗のトラックであるかどうかを決定することは、第1の試験電流iおよび第2の試験電流i(双方とも第3の時間間隔Tの間に生じる)に基づいた式を用いることで可能である。第1の試験電流iは第3の時間間隔T(例えば、約4.05秒)の開始時に測定されてもよく、その大きさは最大であるか、最大に近い。第2の試験電流iは第3の時間間隔T(例えば、約5秒)のおよそ終わりにて測定されてもよく、その大きさは最小か、または最小に近い。
【0104】
高抵抗のトラックを識別する式は、式14の形をとってもよい。
式14 R=i/i−i
【0105】
第1の比Rが所定の閾値よりも大きい場合、試験用計器は、高抵抗のトラックを有する試験片のためにエラーメッセージを出力してもよい。所定の閾値は約1.2であってもよい。第1の試験電流iは、およそ最大電流の値であることは重要である。なぜならば、それは式13に従った抵抗の変化に最も感度が良いからである。第1の試験電流iが、最小の電流の値により近似であるときに測定される場合、式14は、高抵抗のトラックが存在するかどうかを決定することについては、それほど感度は良くない。低抵抗の試験片を試験する場合、第1の比Rにおいて相対的に低い変化を有することは利点がある。相対的に低い変化は、高抵抗のトラックの試験片を誤って識別する可能性を低減させる。本明細書において決定され、記載されるように、低抵抗のトラックを有する試験片のための、第1の比Rの値の変化は、第1の試験電流の値iが、第3の時間間隔Tの間の電流の値の合計であるのと対照的に、第3の試験電圧Vの印加の直後の電流の値として規定された場合、約4倍も低い。抵抗試験片のための第1の比Rの値において高い変化がある場合、誤って高抵抗のトラックを識別する可能性は高まる。
【0106】
図15は、2つの試験片のロットについての式14を用いて計算された複数のRの値を示すチャートであり、1つのロットは高抵抗のトラックを有し、もう1つのロットは低抵抗のトラックを有する。試験片の1つのロットは、数週間の間、炭化水素を含む空気に露出されることによって意図的に汚染されたパラジウム電極を用いることによって、高抵抗のトラックを用いて意図的に製造された。第2の試験片のロットは、電極表面を意図的に汚染することなく製造された。汚染を避けるために、1巻きのスパッタリングされてコーティングされたパラジウムが、試薬層にコーティングする前にMESAをコーティングされた。低抵抗の試験片の全ては、汚染されておらず、約1.1未満のRの値を有し、それは、式14が低抵抗のトラックの試験片を識別できたことを示す。同様に、意図的に汚染された高抵抗の試験片の全てが実質的に、約1.1よりも大きいRの値を有し、それは、式14が高抵抗のトラックの試験片を識別することができたことを示す。
【0107】
(漏えい)
前述の、図11におけるステップ1024cを参照すると、スペーサ60が第1の電極層66と共に十分に強い不透水性シールを形成しない場合、試験片上にて漏えいを検出できる。液体がスペーサ60と第1の電極66および/または第2の電極64との間に浸透する場合に漏えいが生じる。図4Bは、スペーサ60の壁に直接隣接している試薬層72を示す。しかしながら、漏えいがより生じやすい別の実施形態(図示せず)において、試薬層72は、試薬層72の一部がスペーサ60と第1の電極層66との間に位置させる、切り欠き領域68よりも大きい面積を有することができる。特定の状況においては、試薬層72の一部をスペーサ60と第1の電極層66との間に割り込ませることによって、不透水性シールの形成を妨げることができる。その結果、第1の電極66上のいずれかにより大きな領域を生成する漏えいが生じる恐れがあり、不正確なグルコース測定値を生じさせる恐れがある。第1の電極66と第2の電極64との間の領域内の対称性は、図16に示すように、第3の時間間隔Tの間、余分なこぶ(hump)が表れる試験用過渡電流を歪める恐れがある。
【0108】
図16は、3つの異なる種類の試験片のロットについての、第3の時間間隔Tの間の試験用過渡電流を示し、ここで試験片のロット1(四角)は、スペーサと第1の電極との間において液体の漏えいを有する。試験片のロット1は、試薬層を十分に乾燥させない乾燥器の設定を用いて構成され、また、電極に対して不透水性シールを十分に形成させない圧力設定を用いて積層された。通常、試薬層は十分に乾かされているので、スペーサ60の接着部分は試薬層と混ざり合うことができ、第1の電極層66に対して不透水性シールを形成する。さらに、スペーサ60の接着部分が第1の電極層66に対する不透水性シールを形成することができるように、十分な圧力が加えられる必要がある。試験片のロット2は、試験片のロット1と類似して準備されるが、違いは、約2週間、約37℃にて保存されていたことである。試験片のロット2の保存によって、接着ボンドはアニールされ、電極に対して不透水性シールを生成する。試験片のロット3は、試薬層を十分に乾燥させる乾燥器の設定を用いて構成され、また、電極に対して不透水性シールを十分に形成させない圧力設定を用いて積層された。試験片のロット2(三角)および3の両方(円)は、図16に示すように、試験片1(四角)と比較して、時間と共に変化する試験電流の大きさが、より速く減衰することを示す。
【0109】
試験電流が漏えいしているかどうかの決定は、第3の試験時間間隔の間に生じる第1の試験電流、第2の試験電流、第3の試験電流、および第4の試験電流に基づいた式を用いて実行できる。第2の比の第1の対数は、第1の試験電流iと第2の試験電流iに基づいて計算できる。第3の比の第2の対数は、第3の試験電流iと第4の試験電流iに基づいて計算できる。第1の対数および第2の対数に基づいて第4の比Rを計算するために式を用いてもよい。第4の比Rが所定の比よりも小さい場合、試験用計器は漏えいのため、エラーメッセージを出力する。所定の閾値は約0.95乃至約1の範囲であってもよい。漏えいを識別するための式は式15の形をとってもよい。
式15 R=log(i/i)/log(i/i
【0110】
一実施形態において、第1の試験電流iおよび第2の試験電流iは、第3の時間間隔Tの間に生じる2つ程度の最大の電流の値であってもよい。第4の試験電流iは、第3の時間間隔Tの間に生じる最小の電流の値であってもよい。第3の試験電流iは、第4の試験時間と第3の試験時間との差が、第2の試験時間と第1の試験時間との差よりも大きいように、第3の試験時間において選択されてもよい。一例示的実施形態において、第1の試験電流は約4.1秒、第2の試験電流は約4.2秒、第3の試験電流は約4.5秒、および第4の試験電流は約5秒にて測定されてもよい。
【0111】
図17は、図16に記載された3つの試験片のロットについての式15を用いて計算された複数のRの値を示すチャートである。図によれば、試験片のロット1は、1未満の第4の比の値を有し、試験片のロット2および3の両方は、1より大きい第4の比Rを有しているので、式15が首尾良く試験片の漏えいを識別できることを示している。
【0112】
代替の実施形態において、試験片が漏えいをしているかどうかを決定することは、式15に示す4つの試験電流の値を用いる代わりに、3つの試験電流の値に基づいた式を用いて実行可能である。3つの試験電流の値は、第1の試験電流i、第3の試験電流i、および、第4の試験電流iを含んでもよく、それら全ては第3の試験時間間隔Tの間に生じる。第5の比の第3の対数は、第1の試験電流iおよび第3の試験電流iに基づいて計算してもよい。第3の比の第2の対数は、第3の試験電流iおよび第4の試験電流iに基づいて計算してもよい。第3の対数と第2の対数とに基づいて、第6の比Rを計算するために式を用いてもよい。Rが所定の比よりも小さい場合、試験用計器は漏えいのためにエラーメッセージを出力する。漏えいを識別するための式は式16の形をとってもよい。
式16 R=log(i/i)/log(i/i
【0113】
上述の実施形態に基づいた本開示のさらなる特性および利点を当業者は理解する。従って、本開示は、添付の特許請求の範囲に示されるものを除き、特に示され、記載されているものによって限定されるものではない。本明細書において引用された全ての刊行物および引用文献は、その全体において、参照することにより本明細書において明確に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの検体濃度を計算する方法であって、
第1の電極および第2の電極を含む電気化学セルにサンプルを導入する工程と、
第1の時間間隔Tの間、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、還元された媒介物質を前記第2の電極において、少なくとも部分的に酸化するのに十分である第1の試験電圧Vを印加する工程と、
第2の時間間隔Tの間、前記第1の電極と前記第2の電極との間に、前記還元された媒介物質を前記第1の電極において、少なくとも部分的に酸化するのに十分である第2の試験電圧Vを印加する工程と、
前記第1の時間間隔Tおよび前記第2の時間間隔Tの間に、少なくとも1つの決定された試験電流の値に基づいて、前記サンプルの初期検体濃度を計算する工程と、
前記サンプルのエラーソースを計算する工程と、
前記初期検体濃度および前記エラーソースに基づいて、補正された検体濃度を計算する工程と
を含み、
前記検体はグルコースを含み、前記エラーソースは前記サンプルのヘマトクリットレベルHを含み、
前記計算する工程は、前記サンプルの初期グルコース濃度Gを、前記第1の時間間隔Tおよび前記第2の時間間隔Tの間に決定された少なくとも1つの試験電流の値に基づいて計算し、前記サンプルのヘマトクリットレベルHを計算し、補正されたグルコース濃度Gを、前記初期グルコース濃度Gおよび前記ヘマトクリットレベルHに基づいて計算し、
補正されたグルコース濃度Gは一連の式に基づいて計算され、前記一連の式は前記サンプルのヘマトクリットレベルHおよび前記サンプルの初期グルコース濃度Gに基づく、方法。
【請求項2】
一連の式のうちから式が、前記ヘマトクリットレベルHと1つ以上の所定のヘマトクリットレベルとの比較、および前記初期グルコース濃度Gと1つ以上の所定のグルコース濃度レベルとの比較、のうちの少なくとも1つに基づき、補正されたグルコース濃度Gを計算するために選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
検体濃度を決定するシステムであって、
少なくとも2つの電極を有し、サイズ合わせされ、サンプルを受け取るように構成される電気化学セルであって、前記電気化学セルは、初期検体濃度を決定し、所定の時間の間、第1の電極と第2の電極との間に所定の電圧を生成し、前記所定の時間の間に、前記サンプルの少なくとも1つの生じる電流を測定するようにさらに構成される、電気化学セルと、
前記電気化学セルから一連のデータを受信するプロセッサであって、前記データは、前記初期検体濃度、少なくとも1つの印加された電圧、および少なくとも1つの生じる電流を含み、前記プロセッサがさらに、このデータを用いて、補正された検体濃度を決定するように構成され、
前記検体はグルコースを含み、前記電気化学セルがさらに、前記サンプルのヘマトクリットレベルを計算し、前記プロセッサは計算されたヘマトクリットレベルを受信し、計算されたヘマトクリットレベルおよび初期グルコース濃度に基づき補正項を決定し、前記補正された検体濃度を決定するために使用されるデータとして補正項を利用するように構成される、プロセッサと、を含み、
前記プロセッサは、前記補正項を決定するために一連の式を利用し、前記一連の式は、前記サンプルの計算されたヘマトクリットレベル、および前記サンプルの初期グルコース濃度に基づく、システム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記一連の式から式を選択し、前記サンプルの計算されたヘマトクリットレベルと1つ以上の所定のヘマトクリットレベルとの比較および前記サンプルの前記初期グルコース濃度と1つ以上の所定のグルコース濃度レベルとの比較のうち少なくとも1つに基づき、前記補正項を計算する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
補正された検体濃度の決定に使用する装置であって、
サンプルが少なくとも第1および第2の電極と連通するように、前記サンプルを受け取るように構成されたサンプル受取りチャンバを有する試験片と、
少なくとも1つの電極上に配置された試薬層であって、前記試薬層は、前記サンプルと反応するように構成された少なくともひとつの成分より形成され、前記サンプルはグルコースを含み、少なくとも2つの時間間隔にわたって、前記サンプルに印加される少なくとも2つの電圧が、初期検体濃度および計算された前記サンプルのヘマトクリットレベルおよび前記サンプルの初期検体濃度に基づく補正された検体濃度を示す、前記サンプル内において前記電圧に対応する電流を生じる、試薬層と
を備え、
前記補正された検体濃度は一連の式に基づいて計算され、前記一連の式は前記サンプルの計算されたヘマトクリットレベルおよび前記サンプルの初期グルコース濃度に基づく、装置。
【請求項6】
前記一連の式のうちの式が選択され、前記補正されたグルコース濃度が、前記サンプルの計算されたヘマトクリットレベルと1つ以上の所定のヘマトクリットレベルとの比較および前記サンプルの初期グルコース濃度と1つ以上の所定のグルコース濃度レベルとの比較のうちの1つに基づき計算される、請求項5に記載の装置。


【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−123021(P2012−123021A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−76986(P2012−76986)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【分割の表示】特願2009−6871(P2009−6871)の分割
【原出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(596159500)ライフスキャン・インコーポレイテッド (100)
【氏名又は名称原語表記】Lifescan,Inc.
【住所又は居所原語表記】1000 Gibraltar Drive,Milpitas,California 95035,United States of America