説明

サンプル採取デバイス及びそのデバイスの質量分析

【課題】流体サンプル中の微量元素を更に効率的且つ経済的にスクリーニングできる改良された方法。
【解決手段】固体支持体と、該固体支持体の領域に貼り付けられており流体サンプルを吸着又は吸収できる不活性採取マトリックスとを含む、レーザーアブレーション質量分析に用いるのに適するサンプル採取デバイスであって、該不活性採取マトリックスは該不活性採取マトリックス上又はその内部に1種類以上の予め較正された被分析物を更に内部標準として含み、該固体支持体は該流体サンプルに関する情報を組み込んでいるバーコード又はタグを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野
本発明は、サンプル採取のため、並びに液体サンプル中の多数の微量元素の同時検出及び/又は定量のための方法及びデバイスに関する。
【0002】
背景技術
広範な微量元素及び他の元素は、ヒト及び他の動物の良好な健康状態及び肉体的快適さにとって必要であり;必須元素が不足すると、全身倦怠が起こり、通常は死に至る特異的疾患が誘発されることが分かっている。多くの必須微量元素に関して、健康に大きな影響を与えるのは、単純に絶対濃度ではなく、元素間のバランスである。例えば、セレンの不足は、ヒトのヨウ素欠乏障害の病因と関係があり、一方、高レベルのマンガンと関連して銅が不足すると、ウシのウシ海綿状脳症(BSE)、及びそれと関連してヒトの新規変異体クロイツフェルト・ヤコブ病(nvCJD)を誘発する素因又は原因となるファクターと関係があるかもしれない。
【0003】
利用可能な微量元素をその組織内に金属コロイドとして固定している食事性飼料(Dietetary forages)、野菜、穀物及び果物は、必須微量元素源として長く認識されてきた。
そのような植物ベースの金属コロイドは、約98%吸収され、また、食餌の必須構成成分としてバランスのとれた範囲の植物製品を摂取している共同体及び動物は、品質飼料(quality forage)又は通常の野菜、果物及び穀物などの摂取が不足している他の群に比べたとき、特定の微量元素欠乏と関連のある疾患の発症が著しく減少することが合理的に予期され得る。
【0004】
植物性材料の微量元素含量は、植生を支える土壌における必須栄養素の生物学的利用率と直接関係がある。土壌の微量元素含量は、地域の地質学、土壌劣化及び栄養素の欠乏にしたがって、また全世界で広がっている不適当な作付けの影響により、富裕状態から欠乏状態まで変化する。更に、世界中の土壌では、多くの植物及び動物の存在を脅かす人為改変による化学的損傷が増大し続けている。結果として、ヒトの健康が食物連鎖を介して脅かされている。
【0005】
土壌の生産性は、N−P−K肥料を施用することで維持できるが、これらの土壌で成長する食用作物は、生物学的に利用可能な「バランスのとれた」微量元素を定期的に施用しないと、必須微量元素及びミネラルが徐々に欠乏する。これを是正しないと、ミネラル欠乏と関連のある疾患の発症が急激に増加する可能性がある。
【0006】
元素は、ヒト及び動物の健康に必須なもの又は毒性のものに分類できる。動物の場合では、微量元素の欠乏及び/又は毒性は、環境的要因によって調節される濃度レベルに大きく起因し、一方、ヒトの場合は、環境的及び職業的要因の両方が重要であるかもしれない;毒性応答は、自然の影響及び/又は人為改変の影響の関数であるかもしれない。
【0007】
炭素、水素及び酸素以外では、生物学的に必須な主要元素は、カルシウム、塩素、マグネシウム、亜リン酸、カリウム、ナトリウム、窒素及び硫黄である。必須微量元素としては、臭素、クロム、コバルト、銅、フッ素、ヨウ素、マンガン、モリブデン、セレン、珪素及び亜鉛が挙げられる。生物が利用可能である場合、これらの必須微量元素の多くは、高濃度で毒性応答を誘発し、又は相乗元素及び/又は拮抗元素とのバランスがとれていない場合も同様である。いくつかの他の元素(リチウム、スカンジウム、ルビジウム、ランタン)は重要性では劣る必須元素である。
【0008】
食事性微量元素の欠乏によって疾患が誘発されることに加えて、個体の他のコホートは、通常は合併症及び死亡に至る全身倦怠及び/又は特異的な臨床症状を誘発する広範な有毒元素汚染物質に職業的に又は環境的に曝露される。それらの物質の中で特に注目すべきなのは、ヒ素、鉛及び水銀であり、米国環境保護庁の有害物質・疾病登録局の優先順位リスト(US Environmental Protection Agency's Toxic Substances and Disease Registry priority list)によると、上位3つの最も危険な物質を構成している。
【0009】
水界環境への重金属の浸出、及び食物連鎖における野生生物による重金属の取り込みは、ヒトの健康に重大な影響を及ぼす可能性がある。特に、カドミウム及び水銀は、魚及び甲殻類で強力に生体内に蓄積される。
【0010】
すべての微量元素に関してその危険性及び有害効果を定量化することはできないが、いくつかの元素は、他の元素に比べて、より深刻な問題を明確に示す。基本的な汚染物質として、NPLに基づいてそれぞれ1,2,3及び7にランクされるヒ素、鉛、水銀及びカドミウムは、極めて毒性が高いと考えられており、これらの元素の健康に対する影響は、研究者から非常に注目されてきた。前記リストにある他の元素を、アルファベット順に挙げると、アルミニウム、アンチモン、バリウム、ベリリウム、クロム、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、プルトニウム、ラジウム、セレン、銀、タリウム、トリウム、スズ、ウラン、バナジウム及び亜鉛である。
【0011】
多くの必須微量元素とは違って、治療係数の概念は、鉛、カドミウム、水銀及びヒ素のような有毒元素には適用できない。補助因子として有毒元素の任意のものを特異的に必要とする酵素は確認されていないので、前記の有毒元素は、物質代謝において知られている役割は無い。有毒元素は生命に極めて危険であり、またそれらは経口摂取されるので、ヒト及び動物双方の集団の病歴として中毒エピソードに関与していた。有毒元素は、人為的な投入に起因して水界及び陸上の環境の両方で濃度が増しているので、毒物学者及び臨床家は関心を持ち続けている。
【0012】
したがって、一般集団内で、微量の金属及び元素の異常を確認する先を見越した介入により、微量金属によって誘発される疾患による莫大な社会的影響を結果として最小限にとどめる対象を定めた治療戦略を早期に実施できることは重要である。しかしながら、年齢、性、社会経済的状態及び自然地理学を基準とした微量金属欠乏及び/又は有毒金属の過剰に関する一般集団の集団検診は、予防医学の観点からは非常に望ましいが、現在は実施不可能である。また、食物連鎖に入る前に、食肉用動物(slaughter animal)のようなヒトの食物連鎖成分(food chain component)を大量検査するのも実施不可能である。
【0013】
現在の試験方法は、比較的大量の液体サンプル(例えば、血液5〜3ml)が必要であり、また一般的な微量元素に特異的あって、潜在的に存在している他の微量元素を同時に測定できない。このために、他の関連性のある微量金属は、見過ごされるか、それらを測定するために更なる流体サンプルが必要となる。血液の場合、皮下注射器を用いるような、特に若年の子供、幼児及び高齢者にとっては侵襲性でしばしば外傷性の抽出法が必要である。誘導体液生成物(derivative body fluid products)は安定化及び保存が必要であり、HIVのような伝染性疾患では、適当な生物学的危険物質に関する処理及び廃棄が必要である。更に、必要とされるサンプルが大量であることから処理及び貯蔵の問題が生じる。
【0014】
多数の血液サンプル及び他の体液サンプルの採取及び前記サンプルの微量元素含量に関する広域スペクトル分析のために都合良く用いることができる利用可能な技術は現在存在していない。現在利用できる試験法は、扱い難く且つ高価であり、一般集団を試験するには適しておらず、特に低開発地域ではその問題は大きい。更に、水又は潤滑剤のような流体中汚染物質又は混入物を検出するのに便利で且つ敏感な質量分析法も存在していない。
【0015】
したがって、流体サンプル中の微量元素を更に効率的且つ経済的にスクリーニングできる改良された方法に関するニーズが存在する。
【0016】
本発明の目的は、従来法の短所の少なくともいくつかを軽減するか、又は有用な代替法を提供することにある。
【0017】
発明の要旨
第一の側面によれば、流体サンプルを吸着又は吸収できる不活性採取マトリックスと、固体支持体とを含むサンプル採取デバイスを提供する。その場合、前記不活性マトリックスは固体支持体領域に貼り付けられている。
【0018】
特に有用なマトリックスは、アラゴナイト、水酸化アルミニウム、チタニア、グルコース、澱粉「A」、澱粉「B」、グルコジン、セルロース粉末/顆粒、繊維性セルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、植物粉(vegetable flour)など、又はそれらの混合物から選択できる。特に好ましくは、繊維性セルロースである。繊維性セルロースマトリックスは、酸化及び/又は酸加水分解によって改質して、その特性を向上させ、したがって、向上した再現性及び感受性を提供できる。
【0019】
植物粉は、米粉、トウモロコシ粉、小麦粉、大豆粉、ライ麦粉及びコーンフラワー、又はそれらの混合物から選択できる。特に好ましくは、米粉である。
【0020】
不活性マトリックスは、その上に又は内に、内部標準として予め較正され選択された1種類以上の被分析物を含有させて、採取デバイスに施用されたサンプル中にある微量元素の定量に役立てることができる。
【0021】
本発明デバイスは、例えば皮膚又は組織を穿孔できる一体型ランス部材を含んでいて、血液又は体液のサンプルの採取及び前記サンプルの不活性マトリックスへの施用に役立てることができる。ランス部材は、不活性マトリックスの領域に隣接させて、領域内に又は領域下に取り付けることができる。不活性マトリックス中にガイドチャンネルを含ませて、不活性マトリックス領域下に配置されるべきであるランスをガイドできる。
【0022】
また、本発明デバイスは、患者情報、又はサンプルに関する他の情報、すなわちサンプルの性質及び採取源を含むことができるレーザー走査可能なバーコードを備えていることもできる。また、本発明デバイスは、サンプル及び分析装置と個人が汚染されないように抗菌バリヤーを含むこともできる。
【0023】
好ましくは、不活性マトリックスは、支持体の片側のみに施用される。また、好ましくは、前記マトリックスが施用される領域は、固体支持体の領域に比べて小さく、また、小さなタブレットサイズのディスク形状である。
【0024】
不活性マトリックスは、サンプル及び行われる分析にしたがって、疎水性及び/又は親水性の成分を含むことができる。
【0025】
好ましくは、固体支持体は、輸送及び処理に耐える充分な耐久性を有する柔軟材料から作製される。もちろん、前記支持体は、用途の性質にしたがって、硬質材料から作製できることも理解できる。また、好ましくは、本発明デバイスは、郵便によるデバイスの輸送及び貯蔵のし易さを可能にする充分に小さいサイズである。本発明デバイスは、一体型又は分離型のカバーシースを有していて、不活性マトリックスを保護し、また採取後の起こり得る汚染を防止できる。また、カバーシースは、輸送中及び処理中にデバイスを保護する。
【0026】
第二の側面によれば、多層構造を有するサンプル採取デバイスを提供する。前記採取デバイスでは、採取マトリックス層は、2つの支持層の間にサンドイッチされていて、且つ該支持層の1つは、採取マトリックスの領域を曝露する開口部を有する。
【0027】
別法として、サンプル採取デバイスは、支持体の本体内に採取マトリックスタブレットを封入することができ、該マトリックスは、支持体の1つの表面と同一平面で曝露される。
【0028】
本発明の採取デバイス及び方法は、体液、オイル及び他の潤滑剤、飲料水ならびに廃水などを含む任意の流体サンプルを分析するために用いることができる。全血のような体液は特に好ましいが、分離血液(例えば、血漿又は血清)及び他の体液、例えば尿又は汗も、同じデバイスと一緒に用いることもできる。
【0029】
体液のサンプル、特に血液は、従来の手段によって、又は、例えば、その中に埋封されている若しくは貼り付けられているバーコード支持体を含む再密封可能な滅菌サンプル採取デバイスと、サンプル吸収/吸着マトリックスから成るタブレット、ウェーハ、ワッド(wad)、又はストリップなどと、密封可能なアルコール飽和ワイプと、及び皮膚を貫通し且つ血液を抜き取るための分離格納式使い捨てスプリング充填ランスとを含むサンプル採取キットを用いることによって、分析用に採取できると理解される。もちろん、採取されるサンプルが例えば尿又は汗である場合は、ランスは、前記キットから除くことができる。
【0030】
上記したように、分析用サンプルは体液である必要は無い。したがって、本発明のデバイス及び方法は、採取デバイス又は分析手順と装置とを有意に適合させずとも、水又はオイルサンプルの採取及び分析に等しく適用できる。
【0031】
サンプル採取デバイスのマトリックスは、サンプル採取マトリックス上/マトリックス中に吸着/吸収された、又は別法として、不透過性支持体上に支持された1つ以上のマトリックス整合標準(matrix-matched standard)を含むことができる。その場合、マトリックスは、元素、例えばBe,In及びHfでスパイクすることができ、これらの元素は、アブレーション中にサンプルと同時に放出される内部標準として役立ち;それにより、マトリックスとの整合が容易になる。
【0032】
第三の側面によれば、
(1)流体サンプルの少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に流体サンプルを曝露し、そして、
(2)質量分析法により該サンプルのイオン化部分にある複数の元素を検出すること
を含む、不活性採取マトリックス上又はマトリックス中に吸着された、流体サンプル中に存在する複数の元素を同時に検出する方法を提供する。
【0033】
第四の側面によれば、
(1)流体サンプルの少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に流体サンプルを曝露し;
(2)質量分析法により該サンプルのイオン化部分に存在する複数の元素の量を測定し;
(3)サンプルのイオン化部分の量を測定し、そして、
(4)該サンプル中に存在する複数の元素の量を決定すること
を含む、不活性採取マトリックス上又はマトリックス中に吸着された、流体サンプル中に存在する複数の元素を同時に定量化する方法を提供する。
【0034】
第五の側面によれば、
(1)流体サンプル及び内部標準の少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に流体サンプルを曝露し;
(2)質量分析法により該サンプルのイオン化部分に存在する複数の元素の量を測定し;
(3)質量分析法により該サンプルのイオン化部分に存在するイオン化内部標準の量を測定し;そして、
(4)イオン化内部標準の量を基準として、該サンプル中に存在する複数の元素の量を決定すること
を含む、それに対して施用された内部標準を有する不活性採取マトリックス上又はマトリックス中に吸着された、流体サンプル中に存在する複数の元素を同時に定量化する方法を提供する。
【0035】
第六の側面によれば、
(1)測定可能な内部標準の公知の量を流体サンプル中に導入し
(2)流体サンプル及び内部標準の少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に流体サンプルを曝露し;
(3)質量分析法により該サンプルのイオン化部分に存在する複数の元素の量を測定し;
(4)質量分析法により該サンプルのイオン化部分に存在するイオン化内部標準の量を測定し;そして、
(5)イオン化内部標準の量を基準として、該サンプル中に存在する複数の元素の量を決定すること
を含む、不活性採取マトリックス上又はマトリックス中に吸着された、流体サンプル中に存在する複数の元素を同時に定量化する方法を提供する。
【0036】
第七の側面によれば、
(1)流体サンプルの少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に対して該サンプルを曝露し;
(2)質量分析法により、該サンプルのイオン化部分に存在する複数の元素の量を測定し;
(3)マトリックスに整合された認証標準物質(CRM)を、該CRMの少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に対して曝露し;
(4)質量分析法により、該サンプルのイオン化部分中に存在するイオン化CRMの量を測定し、そして、
(5)該CRMを基準として、該サンプル中に存在する複数の元素の量を決定することを含む、不活性採取マトリックス上又はマトリックス中に吸着/吸収された、流体サンプル中に存在する複数の元素を同時に定量化する方法を提供する。
【0037】
第八の側面によれば、
(1)流体サンプルの少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に対して該サンプルを曝露し;
(2)質量分析法により、該サンプルのイオン化部分に存在する複数の元素の量を測定し;
(3)マトリックスに整合された認証標準物質(CRM)を、該CRMの少なくとも一部をイオン化できる高エネルギー放射線に対して曝露し;
(4)質量分析法により、該サンプルのイオン化部分中に存在するイオン化CRMの量を測定し、そして、
(5)該CRMを基準として、該サンプル中に存在する複数の元素の量を決定すること
を含む、不透過性支持体上に支持された流体サンプル中に存在する複数の元素を同時に定量化する方法を提供する。
【0038】
いくつかの有用なCRM、例えばSARM1,3及び46(South African Bureau of Standards)、及びSY−2(Canadian Certified Reference Material Project(CCRMP
))に関する詳細を表1に掲げてある。他の標準元素カクテルは、質量較正範囲をカバーするために例えばBe,In,Hf,Bi,Thのような元素を含むことができるが、分析されないので、標準として任意の元素を含むことができる。
【0039】
好ましくは、サンプルは全血であり、サンプルサイズは約50μl〜100μlであり、より更に好ましくはサンプルのサイズは50μl以下である。もちろん、分離血液、例えば血漿又は血清も用いることができる。
【0040】
また、高エネルギー放射線がUVレーザー放射線であり、及びサンプルが、約30秒間(10〜120秒であってもよい)、前記放射線に曝露されることも好ましい。本発明のデバイス及び方法は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)システムと一緒に用いることができる。特に好ましくは、四重極質量分析計及び飛行時間型質量分析計(TOF)ICP−MSシステムである。
【0041】
検出され及び/又は定量化される好ましい元素は、食事性微量元素、有毒元素、及び汚染又は衰耗のマーカーである。血液及び他の体液に関しては、前記元素として、Li,Na,Mg,Al,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Rb,Sr,Mo,Cd,Sn,Sb,Te,Ba,La,Ce,Eu,Dy,Yb,Hg,TI,Pb,Th及びPbが挙げられる。オイルのような潤滑剤中に存在する磨耗金属(wear metal)に関しては、前記元素として、Ll,B,Mg,Al,Sl,P,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Sr,Y,Zr,Mo,Ag,Cd,Sn,Sb,Ba,La,Ce,Hf,Hg,Pb及びUが挙げられる。
【0042】
好ましい態様では、マトリックス又は支持体は、1つ以上のウェル又は窪みを含み、流体サンプルを収容する。
【0043】
第九の側面によれば、低バックグランド元素含量を有する不活性マトリックスにサンプルを施用することを含む、複数の元素含量を質量分析法で分析するために流体サンプルを採取する方法を提供する。前記方法では、マトリックスは、アラゴナイト、水酸化アルミニウム、チタニア、グルコース、澱粉「A」、澱粉「B」、グルコジン、セルロース粉末/顆粒、繊維性セルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、植物粉、又はそれらの混合物から成る群より選択される。
【0044】
好ましい態様の説明
本発明は、部分的には、レーザーアブレーション・誘導結合プラズマ質量分析計技術に基づいており、一般集団、純血種(bloodstock)、動物園動物、ペット及び食肉用動物を迅速且つ自動的経済的に質量スクリーニングして、体液中の微量元素の異常を見分けることができる。この技術により、微量元素の不均衡及び/又は有毒重金属の過剰を対象にし且つ補正することが容易になり、また、ヒトが消費するために設計された家畜の中から重金属で汚染された食肉用動物を見極め排除できる。また、本発明の方法及びデバイスは、例えば水の汚染又は機械的衰耗の指標として、例えば水及び潤滑剤のような流体中に存在する微量元素及び金属などを検出し定量化するのにも有用である。
【0045】
様々な態様での本発明により、最初の分析中に、最大50までの微量元素の広域スペクトルを同時に分析及び/又は定量化できる。スクリーンドトーチ(screened torch)を用いる二回目の分析では、Ca,Mg,Na,K及びFeを含むことができる。サンプルの分析コストは、不活性採取マトリックス上に吸着された体積50〜100マイクロリットル(一滴)の化学的に改質されていない体液サンプル又は他の流体サンプルに関して現在行われている多数回単一元素分析の分析コストに比べて安価である。血液の場合、サンプル採取デバイス及び採取プロトコルは、皮下注射器を使用しないように構成を設定できるので、針刺し傷(stick injuries)の可能性は非観血的であり、したがって非外傷性であるので、大量の血液及び尿の保存、移動及び貯蔵が必要ではなく、又は大きな生物学的危険物質の廃棄設備の必要性が無い。実際、ヒトの場合では、サンプルは、一般的に、本願明細書で説明しているように、軽量採取デバイス中/デバイス上に、ピン刺し傷から得られる血液のような生物学的流体の一滴を、吸収/吸着させることによって、どのような場所でも自分で採取でき、またその採取したサンプルを、郵便又は急便で最も近い分析施設へと急送できる。サンプルのイオン化には約8000℃のアルゴンプラズマが必要とされるので、体液サンプルは、分析中に充分に滅菌されることが予期される。
【0046】
本発明のある種の態様は、紫外レーザー及び四重極誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)を用いて、サンプルを手作業で取扱うことによって開発された。しかしながら、本発明方法は、飛行時間型(TOF)質量分析法及び高分解能質量分析法に等しく適用可能である。更に、本発明方法は、四重極質量分析法、飛行時間型質量分析法又は高分解能質量分析法のどれを用いても、自動化させて、サンプルの迅速な大容量スループットスクリーニングを可能にする。
【0047】
本発明の方法及びデバイスは、不活性採取マトリックス上に吸収された試験流体のマイクロリットル体積中に存在しているかもしれない広範な必須微量元素及び有毒微量元素に関する、血液及び他の体液の経済的な同時自動化マス・スクリーニングを可能にする。ある種の好ましい態様では、分析システムのコアは四重極レーザーアブレーション・誘導結合プラズマ質量分析計を含む。前記質量分析計は共同サンプル挿入システムと一緒に用いることができる。
【0048】
本発明の好ましい態様では、採取デバイス、又は部品のキットは、以下の成分;すなわち
・実際の採取マトリックスの周囲(surround)を形成し、また、このマトリックスの支持体として作用し、システム全体の輸送を可能にし、そしてデバイス全体の堅牢性も増大させるハウジングを取り付け;
・吸収ペレットから成る採取マトリックス本体;
・皮膚を穿刺し、一滴の血液の採取を容易にするための機構;及び
・サンプルと、サンプルと依頼者との関係とを容易に認識できるようにするバーコード又はその等価物
から成ると考えられる。
【0049】
しかしながら、採取デバイス、又は部品のキットは、ある種の機能を排除することができ、又は追加の機能を組み込むことができる。
【0050】
非限定的な実施例を参照しながら本発明を更に詳細に説明する。
【0051】
(実施例)
実施例1:サンプルの採取及び施用
サンプルを採取し、当業において公知の従来法で、本発明の選択された採取マトリックスに施用することができる。
【0052】
例えば、サンプルキットの一部分としてシールドされた格納式スプリング充填「刺棒」を含むキットを用いて被験者から血液を採取できる。前記サンプルキットは、刺される皮膚領域を予め清浄にして不要なサンプルの汚染を防止するための密封されたアルコール飽和ワイプ、又は綿棒も含む。
【0053】
しかしながら、他の体液、例えば尿及び汗のサンプル、又は他の流体、例えば水若しくはオイル及び他の潤滑剤のサンプルの採取は、血液の採取に関して上記した成分の殆どを必要としないが、にも関わらず、汚染物質を排除するのに重要であることが理解される。このための従来技術は当業者には公知である。
【0054】
任意の公知の手段によって分析するために採取マトリックスに対して対象となっている流体サンプルを施用できる。例えば、ピペット、毛管、計量棒又は同様なデバイスによって特定の量を採取マトリックスに対して施用できる。施用される正確な量は重要では無いが、所望ならば調節できる。
【0055】
別法として、特に血液サンプル採取のためには、以下の実施例2で説明されるような採取デバイスを用いることができる。
【0056】
実施例2:サンプル採取デバイス
血液サンプルの採取に特に適する本発明のサンプル採取デバイスの1つのタイプは、例えば、典型的には小さいタブレットサイズのディスクの形態に造形されている不活性流体吸収マトリックス、最も好ましくは繊維性セルロースマトリックス(イングランドのメードストンにあるWhatman International LtdのWhatman540であるが、541,542及び他のセルロース濾紙でもよい)が組み込まれている。そのマトリックスは、小さくて軽量の使い捨ての又はリサイクル可能なホルダーに貼り付けられるか又は前記ホルダー(ディスクホルダー又は固体支持体材料)内に入れられる。理想的には、ホルダーは、比較的硬質な材料(例えば、プラスチック、厚紙又は同様な材料)から作製される。デバイスは、一滴の血液又は体液を吸収マトリックス上に配置でき、デバイスを採取部位において密封できるように設計されている。したがって、固定されたサンプルは、郵便又は急便によって、サンプル分析センターへと容易に輸送でき、及び/又は容易に貯蔵できる。
【0057】
もちろん、本発明デバイスは、例えば水又は潤滑剤のような体液では無い他のサンプルのために用いることができる。
【0058】
以下に説明してあるような多くの機能が組み入れられている本発明のこの態様の採取デバイスは、図1に記載してある。平面図(A)では、デバイスは、典型的には、形状は長方形であり、表面に配置された吸収性採取マトリックスの領域(1)を有し、また、サンプル及び/又は被験者に関する重要な情報を含むバーコード(2)も有することができる。採取マトリックスは、好ましくは繊維性セルロースであるが、以下で説明される他のマトリックスを用いることもできる。図示されている採取領域は、形状は円形であるが、任意の他の適当な形状であることもできる。サンプルを採取した後、カバーシース(B)を提供して、採取マトリックス領域を覆うことができる。図2及び3は、それぞれ閉じた位置及び開けた位置での採取デバイスの横断面を示している。デバイスのキャリアー又はバッキング(支持)部分(A)は、適当には、プラスチックから、又はカード(薄板紙、厚紙など)材料のいくつかの形態から作製できる。カバーシース(B)は同様な材料から作製できる。バッキング部分及びカバーシースの両方は、バッキング部分とカバーシースとの間の正係合(positive engagement)のために係止突起(locking ridge)(3)を含むことができ、また、使用する場合に、カバーシースが完全に外れてしまうのを防止することもできる。
【0059】
また、図2及び3は、採取マトリックス領域(1)と、採取マトリックスの下に且つキャリアー又はバッキング材料内に配置された針又はランスとを示している。ランスは、採取マトリックス中のチャンネル(4)によってガイドすることができ、その結果として、デバイスが親指と指の間でプレスされるときに、ランスはチャンネル中に且つ指の中に押し入れられ、したがって、ランスは指を穿孔し、血液サンプルは採取マトリックス上へと採取される。サンプルが採取されると、カバー又はシースを採取マトリックスの上にスライドさせることができ、したがって、サンプルを保護し、ならびに使用済みのデバイスを個々に取り扱うことができる。
【0060】
図4は、図2及び3の部分の拡大図であり、ランス、採取マトリックス及びガイドチャンネルの好ましい態様を更に詳細に示している。
【0061】
典型的には、特有な好ましい構成で本願明細書で企図される採取デバイスは、約40x20mmの大きさで、約2mmの厚さを有する。しかしながらそれよりも大きい又は小さい採取デバイスも、異なる用途で有用であることができ、また、等しいパラメーターにしたがって設計できる。
【0062】
採取デバイスは、主として、微量元素含量を分析する前に、血液及び他の体液を採取するために設計される。しかしながら、他の流体のサンプル採取のために、一体型ランスを除いては同様な設計原理を用いることができる。もちろん、血液サンプル採取のために、上記デバイスに、所望ならば、分離部品から成るキットに一緒にパッケージされている分離型ランスを取り付けることもできる。
【0063】
サンプル採取デバイスの設計は、低製造コスト、頑丈な構成、輸送のし易さ、貯蔵のし易さを提供し、また、経験の無い採取者が遠い場所から一滴の試験サンプルを採取するために用いることができる。
【0064】
デバイスの一体型部分を形成するマトリックスは、典型的には、分析前に、流体相互作用に関して不活性な材料であり、その後のサンプル分析を妨げない。マトリックス上に又は中に吸着されたサンプルは、サンプルに汚染物質を加えるかもしれない防腐剤を添加しなくても、いつまでも貯蔵できる。
【0065】
マトリックスに適する好ましい材料は、顆粒又は繊維性のセルロースであって、成形又は予備成形することができる。典型的には、血液採取デバイスに移動される血液のサンプルは、特定の体積を有しない。したがって、マトリックスは、分析時に分析データを標準化するために、内部標準でコードすることができる。
【0066】
また、マトリックスは、セラミックタイプのマトリックスに適する無機材料、例えばリチウム、硼素、炭素、マグネシウム、アルミニウム及び珪素の化合物から構成することもできる。前記リストは網羅的ではないが、適当な頑丈なサーモセラミック用の主な配合成分を含む。
【0067】
典型的には、血液サンプルは、マトリックス中に、又はバッキング/支持材料中に組み込まれている小さなランス又は穿孔針を有する採取デバイスへと移される。患者は、デバイスを握り、軽く針を刺す。マトリックスは、分析時に分析データを標準化する内部標準でコードできるので、採取された血液が、特定の体積を有する必要は無い。
【0068】
デバイスは、患者を識別するために、又は、サンプル及びその供給源に関する任意の他の追加の情報を含ませるために、レーザー走査可能なバーコードを有することができる。必要とされる血液の量は通常は50μL未満である。また、デバイスは、デバイスとサンプルを輸送でき且つ汚染されないように、密封機構を有することもできる。
【0069】
マトリックスは、任意の公知の手段(接着剤を用いてもよい)によって支持材料又はホルダーに対して貼り付けることができ、又は支持材料又はホルダー内に封入することができる。更に、抗菌バリヤーを施用して、サンプル又は分析装置及び個人が汚染するのを防止できる。
【0070】
また、本発明は、それらに貼り付けられる採取マトリックスを有していない採取デバイスを利用することもできる。採取マトリックスは単純に省略することができ、サンプルを、支持材料(バッキング)に直接施用できる。このことは、ある種の体液採取デバイスにおいて特に有用であり得る。そのようなデバイスでは、窪み(ウェル)を支持材料中に導入して、サンプルを固定することができ、又は、支持材料中の複数の窪み(ウェル)に施用することによって、複数のサンプル及び/又は標準を同じ支持材料(デバイス)に施用できるという利点がある。
【0071】
本願明細書で説明される採取デバイスのいずれかに対して施用される流体のサンプルは分析前に乾燥させることができる。
【0072】
実施例3:サンプル分析システム
伝統的に、LA-ICP-MSでの定量は、サンプルに対してレーザーを結合させる出力を調節して、均一なアブレーション特性と、分析用プラズマへの均一量の固体の移動とを保証することによって、アプローチされてきた。前記のアプローチは、マトリックスの性質が保証され得るとき(例えば、ガラス又はそれと同様なものの場合)極めて推奨されなければならないが、マトリックスが均一でないときは、結合及び移動の効率の標準化と関連のある重大な問題が存在する。更に、サンプルの表面特性が変化するときも、均一なアブレーションを保証することは極めて難しい。
【0073】
本発明までは、レーザーアブレーションICP-MS技術は、せいぜい半定量的技術であり、更に通常は、任意の固体材料における微量元素レベルを決定する比較技術であった。本発明のこの態様では、LA-ICP-MSにおける定量は、レーザーセルから分析用プラズマへと実際に輸送されるデブリ(融除された又はイオン化された材料)の量を定量することによって、アプローチされた。
【0074】
融除される材料の粒径が比較的大きい場合、赤外レーザーを用いると、紫外スペクトル干渉を用いて、プラズマに入る粒子の量(アブレーション効率)を定量化できる。しかしながら、大部分の場合、現在の技術では、UV又はエキシマーレーザーを用いている。これらのレーザーは、小さ過ぎて感知可能なUV散乱を起こすことができない粒子を生成するので、比較的安価な粒子定量ができない。しかしながら、レーザー干渉法を、適当な代替技術として用いて、融除された材料の量を、したがってUVレーザーの効率を定量することができる。輸送効率が定量化されれば、分析用プラズマに入る粒子の量を定量化でき、したがって、得られる信号(任意の1つの元素の量)を定量化できる。
【0075】
定量化法は、上記した採取/輸送デバイスの支持マトリックスにおいて内部標準を用いることによって、又は、分析しようとするサンプルに1種類以上の標準を加えることによって、更に向上させることができる。適当な内部標準は、特定のサンプル中において、通常存在していないか又は検出可能なレベルに満たない元素から選択できる。したがって、血液サンプルに関しては、Hf,Ir,Ru,Rh,Ta及び重希土類元素のような元素を、内部標準として用いることができ、また、マトリックスを製造するために用いられる粒子の表面に結合させることによって不活性マトリックス中に組み込むことができるか、又はサンプルそれ自体の天然構成成分として存在できる。
【0076】
内部標準がマトリックス中に組み込まれる場合、サンプルが融除されるとき、マトリックスの粒子は、サンプルと一緒に、分析用プラズマ中に運ばれる。すべてのデブリの輸送効率の定量化は、レーザー干渉法又は適当な代替技術を用いて達成され、また、内部標準からの信号に標準化させることによってサポートされる。内部標準の結合特性及びマトリックスの吸収効率は、輸送効率と同様に公知であるので、マトリックス上に吸着されたサンプル(この場合は血液)中の元素濃度を計算できる。
【0077】
本発明の別の態様では、LA-ICP-MSによる定量は、マトリックス整合標準に対する定量によってアプローチした。
【0078】
定量は、採取マトリックス中で内部標準を用いることによって、又は、分析しようとするサンプルに1種類以上の標準を加えることによって、達成される。適当な内部標準は、特定のサンプル中において、通常存在していないか又は検出可能なレベルに満たない元素から選択できる。したがって、血液サンプルでは、内部標準は、溶液浸漬によって不活性マトリックス中に組み込まれるか、又は、内部標準は、マトリックスそれ自体の天然構成成分として存在できる。採取マトリックスは、質量較正標準として機能させるための適当な標準でドープされる。前記標準は、Be,In及びBiであることができるか、又は必要とされる分析にしたがって他の適当な組み合せであることができる。更に、任意の他の被分析物を、マトリックスパッドの中にスパイクすることができ、そしてそのパッドを分析した。マトリックスパッド上への較正標準のスパイキングは「プランク」と考える。標準がスパイクされたマトリックスパッドに、続いて、血液、汗、尿又は任意の他の流体サンプルを加えることができる。そのサンプルを105℃で2時間乾燥させるが、任意の他の適当な温度及び時間であってもよい。次に、それを融除する。サンプルと「下の」マトリックスを、同時に融除し且つプラズマ中に運ぶ。イオン化は、両方の成分に関して達成され、このようにしてサンプルは較正される。したがって、このために、サンプルの性質は、サンプルとして重要ではなく、内部標準を含むマトリックスは、プラズマに同時に導入される。このプロトコルにより、サンプルが採取されるマトリックスパッド中に既にスパイクが存在しているので、スパイクの必要性が排除される。したがって、サンプルは標準と一緒にプラズマ中に導入され、それによりいかなるマトリックス干渉も克服されるので、サンプルがどのようなものであろうと問題では無い。この態様では、Be,In及びBiは、較正物質として機能し、サンプルが分析される前に、質量応答に関して、全ての他の元素に対して較正されるので、マトリックスに対してある範囲の被分析物を加える必要が無い。もちろん、標準(較正曲線を確立でき、それにより血液又は他の流体中に含まれる微量元素の定量化を容易にする)でスパイクされる一連のマトリックスが存在する(既に文中で詳述してある)。
【0079】
繊維性セルロースマトリックスパッドを調製し、質量較正元素のセットでドープし、乾燥させる。血液又は他の体液を加え、乾燥させ、10×10マトリックスラスターを用いて融除する。データを採取し、同じ方法で調製され測定された複数元素標準の濃度範囲(100,200,500ppbなど)から得られた結果を参照しながら解読する。したがって、潜在的なマトリックスの問題を打ち消す同じ方法で標準及びサンプルが導入されるので、任意のマトリックスに関する定量が達成できる。データは、標準中のBe,In及びBi、及びサンプルを有するマトリックス中のBe,In及びBiと相互参照され、それらの各相対値は標準化される。
【0080】
この態様のサンプル分析システムのコア成分は、サンプルのエアゾールを生成させるためのレーザー(レーザーアブレーション)、アルゴンプラズマ、すなわちエアゾールがイオン化される7000℃を超える温度で動作する「電気的火炎(electrical flame)」(誘導結合プラズマ)、それらの質量対電荷比にしたがって「パケット」へとイオンを分離するための質量フィルター(質量分析計)、及び各「パケット」のイオンを検出するためのイオン検出器(マルチチャンネルアナライザー又はイオン増倍器)を含む。前記システムは、パーツパービリオン(ppb)の検出限界を達成できる通常の感度で動作する。全てのデータは将来必要なときのために電気的に貯蔵できる。
【0081】
適当なICP-MSシステムは、四重極でRF及びDC磁場を変化させることによって制御される四重極質量フィルターを用いて、任意の特定の時間において、1つの選択された質量対電荷比のイオンを透過させることができる。四重極のサイクルによって、サイクルプログラム中に、特定の時間で、<250amuの質量対電荷比を有する任意の選択されたイオンを通過させることができる。それぞれの天然元素は、その安定な同位体に対応する殆ど整数の質量対電荷比のユニークで単純なパターンを有し、それにより、分析されるサンプル元素組成の確認が容易である。特定のサンプル由来の記録された元素イオンの数は、サンプル中の元素同位体の濃度に比例する。
【0082】
複数元素分析では、四重極は、一般的に、1Hz(1秒あたり1回)で走査するように設定される。この条件下では、例えば、100の同位体質量が分析され、各同位体質量は、全走査時間のほんの1/100の時間で採取される。
【0083】
本願明細書で提示されるプロトコルを必要以上に改良しなくても、本発明のデバイス及び方法では、計測の他の構成及びタイプを用い得ることが理解される。
【0084】
一つの例示的運転では、サンプルを、レーザーアブレーションセル中に導入し、典型的には30秒を超えない時間、エキシマーレーザー又は周波数四重極Nd−YAGレーザーを用いて融除する。融除されたサンプルからのデブリは、適当なプラスチック材料のNalgene(他の材料を用いることもできると考えられる)から作製され且つ誘導結合プラズマ(ICP)のトーチに取り付けられたインターフェース管に下行する。サンプルデブリは、インターフェース管のトーチに隣接していて且つ各レーザー放射が照射されるゾーンを通過する。ダイノード検出器の同心配列(concentric series)は、サンプルデブリ粒子から反射された光子束を測定し、粒子散乱の定量を容易にする。散乱の量を知ることによって、散乱している粒子の量へ線型相関させることができる。レーザー散乱デバイス及び方法は従来のスモークセル(smoke cell)を用いて較正される。
【0085】
散乱レベルはインターフェース管に下行しているデブリの量に関する定量指標である。このデブリは、(内部標準によって)プレコードされたキャリアーマトリックスの粒子に加えてサンプルを含む。次に、粒子は、誘導結合プラズマ(ICP)中に通り、そこで、粒子は、イオン化され、飛行時間型(TOF)分離を用いて分離される。サンプルに関する元素組成は、被分析物同位体のそれぞれから得られる信号に基づいて確立され定量化される。サンプル中、したがって血液中に存在する元素の濃度の定量は、レーザー干渉計からの散乱信号に基づいて計算される。分析されるサンプルの量は、プレコードされたマトリックス中の成分のイオン化によって、信号生成に標準化される。このようにして、融除された材料の量を用いて、輸送された材料の質量成分を得る。また、プレコードされたマトリックスの元素符号(elemental signature)は、イオン化効率の相互比較に関する応答の標準化を容易にする。
【0086】
また、サンプル中に存在する元素の定量は、サンプル中に、又は採取マトリックス/支持体中に/上に、又は両方に、標準を組み込むことによっても達成できる。プレコードされた採取マトリックスは、例えば血液又は他の体液のようなサンプル中に先天的に存在していない元素のカクテルを、技術の検出限界を超えるレベルで含んでいる可能性がある。これらの元素としては、典型的には、ベリリウム、スカンジウム、ジルコニウム、ニオブ、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ハフニウム、タンタル、レニウム、オスミウム及びイリジウムの1種類以上(すなわち、前記元素の混合物)が挙げられる。このことは、マトリックス又は支持体に対して1〜10,000ng/mLのレベルで、適当な被分析物をドーピングする必要があることを示している。そのための元素は、分析的に重要な被分析物中に存在する質量範囲及びイオン化ポテンシャル範囲の両方をカバーするような元素が選択される。
【0087】
別の例示的運転では、サンプルを、レーザーアブレーションセル中に導入し、要求される被分析物の数によって典型的には決定される所定の時間、266nmで動作する周波数
四重極Nd−YAGレーザーを用いて融除する。融除されたサンプルから生じたデブリは、Nalgene又は適当な他のプラスチックから作製され且つ誘導結合プラズマ(ICP)のトーチに取り付けられたインターフェース管に下行する。プレコードされた採取マトリックスは、血液中に先天的に存在していない元素のカクテルを、技術の検出限界を超えるレベルで含んでいる可能性がある。これらの元素としては、典型的には、ベリリウム、スカンジウム、ジルコニウム、ニオブ、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ハフニウム、タンタル、レニウム、オスミウム及びイリジウムの1種類以上(すなわち、前記元素の混合物)が挙げられる。このことは、マトリックスに対して1〜10,000ng/mLのレベルで、適当な被分析物をドーピングする必要があることを示している。そのための元素は、分析的に重要な被分析物中に存在する質量範囲及びイオン化ポテンシャル範囲の両方をカバーするような元素が選択される。
【0088】
記録のための分光計からの読出しは、臨床的に許容されるプロトコルに適する濃度単位で表される。更に、読出しは、正常な健康個体の被分析物の許容可能範囲に関する情報を含み、また、調査中のサンプルが、許容可能範囲を下回っているか、超えているか、その範囲内にあるかどうかを示す。
【0089】
本発明の方法及びデバイスによって、様々な血液サンプル又は他の体液サンプルを、広範な必須微量元素及び有毒微量元素に関して質量スクリーニングすること、又は例えば水若しくは潤滑剤のような他の流体のサンプルを、汚染又は磨耗を示唆している汚染物質に関して質量スクリーニングすることが可能になる。複数元素分析のために必要なサンプル量は、ほんの少量である(一滴又は二滴)。体液のサンプル採取では、皮下注射針の使用は必要ではなく、その結果、実質的に非観血的であって、現在の方法に比べて、かなり安全である。サンプルは、防腐剤を添加する必要もなく、不活性マトリックス中に採取且つ貯蔵される。サンプルは、安全に且つ容易に取り扱われ且つ輸送される。好ましい分析法である四重極レーザーアブレーション・誘導結合プラズマ・質量分析計は、極めて高感度であり、微量/超微量の元素を検出且つ測定できる。本願明細書で説明される方法は、サンプルの全自動大量処理スクリーニング及び全自動大量処理分析に適している。更に、本発明の方法及びデバイスは、多くの現在の単一元素試験に比べて、非常に低コストで複数の元素を試験できるので、標的集団の経済的な大量スクリーニングが可能になる。
【0090】
本発明のデバイス及び方法と一緒に、元素を定量するために用いることができる安定な内部標準の例は、以下の表1に詳細に示してある。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
用いる場合は、採取マトリックスは、目的に合うように調製された水溶液標準を用いて、公知の濃度の微量金属カクテルで含浸することができる。ある種の好ましい態様では、採取マトリックスは、内部標準としてBe,In,Hfを2ppm含有し、血液分析のシステムのために質量応答を較正することができる。オイルの磨耗金属分析を説明する他の態様では、Be,In及びThを2ppm用いることができる。更に他の態様では、元素の別の組を用いることができる。
【0095】
分離型標準マトリックスパッドを用いて感度を較正でき、また、前記パッドは、血液及び体液用に次のようにして用いることができる:すなわち、Li,Na,Mg,Al,P,K,Ca,Tl,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Rb,Sr,Mo,Cd,Sn,Sb,Te,Ba,La,Ce,Eu,Dy,Yb,Hg,Tl,Pb,Bi,Th及びU(これらに限定されない)を1ppbで含む第一パッド、前記元素の全てを2ppbで有する第二パッド、前記元素を5ppbで有する第三パッド、前記元素を10ppbで有する第四パッド、前記元素を20ppbで有する第五パッド、前記元素を50ppbで有する第六パッド、前記元素を100ppbで有する第七パッド、前記元素を200ppbで有する第八パッド、前記元素を500ppbで有する第九パッド、及び前記元素を1000ppbで有する第十パッドがあるので、特定の流体サンプルにおいて測定される元素のセットのために適当な濃度を用いることができる。別の態様では、融除されるときに、質量スペクトル全域にわたる元素範囲を内部標準として用いてシステムを標準化できるように、オイル中磨耗金属分析に適する元素セット、例えば Li,B,Mg,Al,Si,P,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Sr,Y,Zr,Mo,Ag,Cd,Sn,Sb,Ba,La,Ce,Hf,Hg,Pb及びUを、上記した1ppb〜1000ppbのマトリックスパッド中にドープすることができる。したがって、採取マトリックスは、用いるとき、予め較正された濃度を有する選択された被分析物を含むことができる。広域スペクトルの一般的な採取マトリックス/デバイスと試験仕様マトリックス/デバイスの両方を、特定の元素又は元素セットのために用いることができる。更に、内部標準被分析物の任意の1つ、又は組み合せ若しくは範囲を、採取デバイス中にスパイクして、その広域スペクトル又は特定の使用を保証することができる。例えば、広域スペクトルのための好ましい組み合せは、Li,Na,Mg,Al,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Rb,Sr,Mo,Cd,Sn,Sb,Te,Ba,La,Ce,Eu,Dy,Yb,Hg,Tl,Pb,Bi,Th及びUであり、また、特定の用途、例えばオイルを分析するときに好ましいの元素は、Li,B,Mg,Al,Si,P,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Sr,Y,Zr,Mo,Ag,Cd,Sn,Sb,Ba,La,Ce,Hf,Hg,Pb及びU、また、血液用に好ましい組み合せは、Is,Li,Na,Mg,Al,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,NI,Cu,Zn,Ga,As,Se,Rb,Sr,Mo,Cd,Sn,Sb,Te,Ba,La,Ce,Eu,Dy,Yb,Hg,TI,Pb,BI,Th及びUである。
【0096】
図5に、サンプルを採取し且つ分析する典型的な手順が要約してある。もちろん、提案される例示的スキームのバリエーションにしたがって、手作業による手順も採用することができる。
【0097】
実施例4:採取マトリックスの分析
以下に記載してある実験の目的は、レーザーアブレーション・誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)によるマイクロリットル流体サンプルの採取及び定量分析を容易にするための化学的及び機械的に頑丈な流体吸着/吸収マトリックス(単数/複数)を定義し且つ/又は詳細に説明することである。この実施例のために、考察中する流体は、血液、尿及びオイルである。しかしながら、同様なマトリックス及び技術を用いて、生物学的又はそうではない任意の他の流体を分析できることが理解される。
【0098】
好ましくは、サンプル採取マトリックスは、頑丈で輸送可能なサンプル採取デバイス中に組み込むのに適しているべきである。そのデバイスは、限定するものではないが、以下のような特有の属性を有しているべきである:すなわち
・安価で、精密な大量生産が可能である;
・小型であり、分析前のアブレーションのためのレーザーセル中への収納が容易である;
・サンプルの自動化された分析前の読取り及び照会、データへの戻し、及び顧客へのデータの戻しをするためにコード可能である;
・血液採取のために、起こり得る「針刺し傷」を最小にする患者それぞれの皮膚を穿孔するための機構を含む。血液の最初の採取に続いて、別の人の皮膚を穿孔できないように、穿刺機構を「シールド」するシールドデバイス又は機構のいくつかの形態が存在すると考えられる;
・分析後及び廃棄前の材料による生物災害が少ない。このことは、採取デバイスが小さく、血液サンプルも少量(100μL未満)であり、また最後には焼却しなければならないと考えられるサンプリングデバイスそれ自体を含む材料の量も極めて少ないことを意味している;
・従来の郵便手段による採取場所への且つ採取場所からの輸送が容易である。デバイスは、従来の郵便システムを、潜在的に生物学的に危険な材料による汚染及び放出を心配せずに用いることができる;及び
・非医療従事者による使用が可能である。
【0099】
マトリックス材料
プロセス試験のために用いられる好ましいマトリックス原材料は繊維性セルロースであった。この材料を用いると、セルロース吸収媒体を含む裏付厚紙押し開け部分を容易に形成できた。この材料に加えられる血液のマイクロリットルサンプルは、LA-ICP-MSによって定量的に分析した。定量スペクトル及び生のカウントデータが得られた。その大部分は、吸収された血液中に存在する微量金属を反映している。しかしながら、天然有機物であるセルロースは、記録されるある範囲の元素の被分析物信号の一因となるかもしれないと推論された。したがって、他の可能なマトリックス材料の配列と一緒に、セルロースを、その化学的及び物理的な特性両方に関して更に調査することが決定された。
【0100】
適当なサンプル採取マトリックスのいくつかの属性としては、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない;すなわち、
・化学的に「清浄」でなければならない、すなわち、調査しようとしている被分析物の濃度が低くなければならない;
・頑丈、すなわち、分解せずにしばしば長距離を運搬できる;
・完全性を保持しながら水性及び非水性(血液及びオイル)サンプルによる有意な湿潤性を有する;
・サンプルのレーザーアブレーションによる除去に耐えることができる;及び
・分析中に、被分析物の分離に寄与しない。
【0101】
マトリックスの選択
上記したパラメーターは、マトリックスの選択と関係があり、それによりある種の材料は除外される。調査されるマトリックスのリストを、それらの潜在的な適合性に関する表示と共に以下に示す。続いて、その後には、試験される潜在的に有用な材料の最終的な短いリストを示す。
調査される潜在的な有機及び無機のマトリックス材料は:
・ピグトエマッセルシェル(Pig-toe mussel shell)(アラゴナイト)−供給元WA pea rl Industry
・水酸化アルミニウム−Alcoa(WA)
・チタニア−New Mlllenium(WA)
・バクテリアグレードのグルコース−供給元Professor Watling
・澱粉「A」−BDH Analar分析用試薬
・澱粉「B」−Ajax Chemicals Univar分析用試薬
・グルコジン−Boots Healthcare Australia
・セルロース−高純度粉末−Sigma Chemicals Microgranular
・セルロース−高純度繊維性セルロース−Sigma Chemicals Medium Fibrous
・ヒドロキシルブチルメチルセルロース−Sigma Chemicals
・穀粉−食品雑貨店で市販されている米粉、トウモロコシ粉、小麦粉、大豆粉、ライ麦粉及びコーンフラワー
金属のレベルがはるかに高い潤滑剤のために上記マトリックスの全てを用いることができる。しかしながら、以下のものは、血液及び他の体液の分析用マトリックスの特に有用な選択である。また、以下のものは、潤滑剤又は水のサンプルの分析のために用いることもできる。
【0102】
水酸化アルミニウム[AL(OH)2]:極めて高品質の水酸化アルミニウムは、West ern Australiaで製造されている。前記水酸化アルミニウムは、分析的に相対的に清浄で、且つ安価であり、マトリックスとして考えられる。
【0103】
セルロース:セルロースは、重金属濃度が典型的に低い点で、優れた理論的マトリックス選択である。様々な超高純度セルロースを、コンパクト性、湿潤性及び金属含量について試験した。そのようなセルロース(セルロースはオリジナルなマトリックスであった)の物理的性質により、潜在的なマトリックス材料としてセルロースは重要である。特に有用なセルロースは、セルロース濾紙の形態の繊維性セルロースである(英国MaldstoneにあるWhatman International Ltdから市販されているWhatman540,又は541,542、及び他のセルロース濾紙)。
【0104】
穀粉:新たに入手した米粉は、湿潤状態及び乾燥状態下で、例外的に頑丈であることが分かった。また、米粉はマトリックスとして有利に用いることもできる。
【0105】
供給されたままのマトリックス材料を単純に用いることに加えて、該当するマトリックスは浸出され、その浸出した残留物を、有意な金属が浸出できたどうかについて検討するために試験した。有意な金属が浸出することにより、マトリックスの金属含量は低下し、そして恐らくは、汚染金属のレベルを低下させることによって、又は、不適当な材料が適するものとなるレベルまでサンプル中に存在する金属レベルを実際に低下させることによって、更に有用なマトリックスとなる。
【0106】
実験
(1)化学的な特性の評価
溶液ICP-MS:各潜在的なマトリックスの「純度」を評価するために、水溶性材料の適当なサブサンプルを、ミリQ(mQ)水中に溶かし、次に体積を増加させた。水不溶性サンプル(主に無機材料)を、冷及び/又は熱(又は両方)塩酸、硝酸、王水と、硝酸・弗化水素酸との両方に曝露した。その浸出物を回収し、体積を増加させ、適当に希釈し、そして溶液導入ICP-MSによって分析した。浸出残留物を回収し、サブサンプルの選択したものを、完全に溶かし、次に、VG Elemental,[on Path Road 3,Winsford,Cheshire CW7 3BX,United Kingdomによって作製されたVG PlasmaQuad 3 ICP-MSを用いて溶液ICP-MS分析を行った。更に選択された残留物サブサンプルを、未浸出の等価物と一緒に、完全酸溶解させ、体積を増加させ、希釈し、溶液導入ICP-MSによって再び分析した。
【0107】
溶液実験により、原材料中に対象となっている被分析物の許容不可能な濃度と、酸浸出によって殆ど又は充分には低減されていない被分析物とを有する潜在的なマトリックス候補のいくつかを排除することが容易になった。「溶液」評価により、セルロース及び水酸化アルミニウムが最良の候補であるが、それらの両方が、対象となっているある種の被分析物を含んでいるかもしれないことが分かった。ICP-MS分析のためには溶液を希釈する必要があるので、質量及び希釈について補正されるとき、溶液における非常に低い見掛け濃度は、しばしば、サンプルにおける有意な濃度へと変換される;多くの場合、これらの被分析物は存在していないかもしれない、又は、存在していてもはるかに低い濃度で存在している。この命題を試験するために、「生の」サブサンプル、及び、適用可能である場合、対応する浸出された残留物は、プレスして「ブリケット」(以下参照)にし、且つ比較定量UV LA-ICP-MS分析にかけた。
【0108】
レーザーアブレーションICP-MS:サンプルマトリックスは、等量の材料を、血液又は他の体液のような分析用サンプルに提供する必要は無い。マトリックス及びそのイオン化の組み込みは、マトリックス中に含まれる血液のためのそれに等しく無い。このために、マトリックスの分析信号に対する寄与は、相対的なマトリックス/血液比に必ずしも比例しない。したがって、実際の分析中に、分析信号に対して、マトリックスがどんな関連のある寄与をしているかを決める必要がある。したがって、マトリックスのレーザーアブレーション分析も試みられた。キャリアーガスとしてのアルゴンの使用は、アブレーションデブリをプラズマに送る従来法であるので、アルゴンの使用は、全ての実験目的のために用いられる初期ガスであった。しかしながら、ヘリウムは、しばしば、改良された感度及び低減された等圧干渉を与えるので、輸送ガスとして特定のコミュニティではヘリウムの使用が増している。故に、ヘリウムガスも調査した。
(2)物理的特性の評価
潜在的なマトリックス材料の物理的特性の評価では、500及び1000kg/sq in両方での圧縮完全性、血及び水溶液に対する湿潤性、サンプル添加後の完全性、一成分マトリックス及び複数成分マトリックスの対比挙動、及び内部標準導入に関する評価を含んでいた。これらの調査のいくつかからの結果について以下で詳述する。
【0109】
内部標準の使用は、サンプル間のアブレーション効率の変動性の故に、必要である。サンプルからサンプルへの「流束量」変動(結合効率の変動及びしたがってサンプルへのレーザーエネルギーのパワー移動の変動)を制御する方法は存在しない。このために、被分析物の量を変化させると、サンプル間の相対的な流束量にしたがって、プラズマに達する。結果として、各サンプルに関して、プラズマに輸送される材料の量を推定する機構が存在することを保証する必要がある。赤外レーザー用に用いられる方法は、輸送された粒子による光の散乱を測定する方法であった。しかしながら、この機構は、UVレーザーを用いるときは不可能である(これらの実験に用いられるレーザーは、パルスQスイッチモードで266nmにおいて運転する周波数四重極Nd−YAG UVマイクロプローブレーザーシステムレーザーであった)。レーザーシステムは英国チェシアにあるVG Elementalによって製造された。
【0110】
しかしながら、サンプリング前又はサンプリングと同時に、単純な元素カクテルをマトリックス中にスパイクすると、定量化実験のための有用で安価な内部標準が提供される。
【0111】
結果及び考察
2002年10月から11月の期間に完了した18の実験に関する詳細を次に示す。18の実験のうちの16の実験は、特に、マトリックスの物理的及び化学的な特性の評価と、吸収された水性標準、ミネラルCRM及び血液サンプルの分析とに関するものである。残り2つの実験、すなわち実験13及び15は、オイルサンプルの分析に関するものであり、その実験についてはこのセクションの最後にまとめて報告する。
【0112】
得られた分析結果は、実験番号、例えば「付録実験12」によって識別される一連の付録で提出される。これらの付録は、本願明細書に含まれている各実験に関する関連コメントと一緒に見るべきである。しばしば、データの平均及び%標準偏差(変動係数)を計算した。
【0113】
殆どの付録では、同位体データは、天然同位体存在率関係を用いて、100%元素濃度まで計算された。小さい数の場合では、データは、測定された同位体質量における同位体濃度としてのみ提出される。このことは、各付録において明確に示されている。
【0114】
信号応答を最適化する試みでは、通常の走査捕捉(normal scanning acquisition)の代わりにピークホッピングを用いた。この分析形態の下で、各同位体質量におけるデータ取得を3つのチャンネルのみで行った。しばしば、過渡電気スパイク(transient electronic spike)が、3つのチャンネルの1つで記録される場合がある。オンボードコンピュータは、全ての3つのチャンネルからのデータを処理し、その結果を、生のカウント「濃度」として記録する。測定が過渡スパイクを含む場合、被分析物に関して得られる生カウントは、同じサンプル中に存在する等価な被分析物の重複又は反復分析に比べて、かなり高めである場合がある。これらのサンプル中の特定の被分析物に関して、しばしば著しい濃度コントラストが得られる。その問題は、個々の同位体質量データが採取されるチャンネルの数を7つまで増やすことによって克服できる。これらの環境下で、通常の「平滑化」アルゴリズムを、7つのチャンネルに自動的に適用して、重複又は反復分析のために精度のあるデータを生成できる。被分析物変動性の主な原因が確立されたので、分析プロトコルを適当に改良して、増加させたチャンネル数にわたってデータ採取できるようにした。
【0115】
被分析物変動性の別の原因は、採取マトリックス表面の起こり得る「汚染」によるものである可能性がある。汚染を最少化するために、分析しようとする表面上に空気汚染が存在しないように、マトリックスワッド上の一番上のパッドを取り除いた。このプロセスの態様では、マトリックスパッドは、滅菌された無塵のクリーンルームで調製され、サンプル採取直前に破るだけの容器に密閉する。このプロトコルの実施後の分析精度の向上は、前記のサンプル調製に起因している。
【0116】
過渡スパイクを確認するためのデータ採取は、被分析物の再現性を著しく向上させ、したがって「精度のある」データが得られた。
【0117】
実施例5:マトリックス及び血液関連の実験
実験1
この実験の目的は、サンプルマトリックスの物理的特性決定の前に、直径3mmの試験タブレットを製造する手順を開発し試験することにあった。そのために、XRFプレス粉末真空プレス(XRF pressed powder vacuum press)を改良し、新しいダイを製造して、ペレット製造を容易にした。はじめての製造試験のために選択されたマトリックス材料は、グルコース、セルロースであり、その2つの材料の1:1混合物であり;初期圧縮圧力は500kg/sq inであった。初期の物理的及び化学的調査は、好ましいマトリックスが確認されるまで、同時に行われた。
【0118】
グルコースをペレット化する場合には、プレスダイ上の金属とサンプルとの間に秤量紙を用いる必要があった。液体の吸収は良好であるように見える。
【0119】
セルロースは申し分なくペレット化され、極めて良好な強度を有していた。しかしながら、流体吸収は遅かった。グルコース粉末とセルロース粉末の1:1混合物は、ペレットとダイとの間に秤量紙を用いる必要も無く、充分にペレット化された。ペレット強度は、グルコース単独の場合よりも向上し、流体吸収は、等しい圧力で圧縮されたグルコース粉末ペレットとセルロース粉末ペレットとの中間であった。
【0120】
実験2
この実施例の主な目的は、一連の潜在的なマトリックス材料の化学純度を評価することにあった。分析のためのサンプル調製は、ペレット化プレス改良と同時に行われた。ピグ・トエマッセルシェル、グルコジン、グルコース、セルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース(HBMセルロース)、TiO2及びAl(OH)2を含む様々なマトリックスを、溶液ICP-MS純度評価のために、調製時に、浸出、溶解又は蒸解した。
【0121】
方法
ピグ・トエマッセル(サンプルA,B,C及びD)−真珠の種(pearl seed)約1.5gを、HCl:mQ1:1水20mL中に溶かし、次に乾燥させ、そこにHNO3:mQ1:1を4mL加え、加熱し、そしてmQ水で100mLにした。それをICP−MSのためにmQ(2ppb Ir,Rh)で20倍に希釈した。
【0122】
グルコジン(サンプルE及びF)+HBMセルロース(サンプルI)−mQ水100mL中に約1.5を溶かし、ICP-MSのために5倍に希釈した。
【0123】
セルロース(サンプルH)+HBMセルロース(サンプルI)−濃HNO320mL中に約0.5gを36時間蒸解し、10mLにし、mQ水で100mLにした。ICP-MSのために5倍に希釈した。
【0124】
TiO2(サンプル001)+Al(OH)3(サンプル003)−HCl:mQ1:1水で36時間浸出し、デカントし、mQ水(約20mL)で3度洗浄した。デカント溶液(浸出物)をmQ水で100mLにした。それをICP-MSのために10倍に希釈した。
【0125】
TiO2(サンプル002)+Al(OH)3(サンプル004)−HNO3:mQ1:1水で36時間浸出し、デカントし、mQ水(約20mL)で3度洗浄した。デカント溶液(浸出物)をmQ水で100mLにした。それをICP-MSのために10倍に希釈した。
【0126】
残留物を乾燥させ、LA-ICP-MSのために保存した。
【0127】
この実験は、二酸化チタン及び水酸化アルミニウムの浸出物の結果のいくつかを一緒に考慮しながら、血液(及び他の流体)採取のための有望なマトリックスにおける微量元素濃度を決定することに関するものである。
【0128】
浸出物に関する結果は詳述してある(付録実験2)。アルミニウムは水酸化アルミニウムマトリックスから明らかに浸出しているが、二酸化チタンマトリックスからも、逆にチタンが、二酸化チタンマトリックスから浸出しており、また、水酸化アルミニウムマトリックスからチタンが浸出しているいくらかの検出結果も存在することを指摘できる。二酸化チタンの場合、HClは、HNO3に比べてより攻撃的であると考えられるが、水酸化アルミニウムの場合は、その逆である。マンガン、銅、ストロンチウム、ジルコニウムの濃度が、両方の浸出物から見出され、亜鉛、ルビジウム、バリウム及び鉛が、二酸化チタンマトリックスからの浸出物中に非常に濃縮されているようである。水酸化アルミニウムマトリックスでは、スズ、ガリウム、ジルコニウム、ハフニウム及びウランが、このマトリックスからの浸出物中に存在していると考えられる。
【0129】
ピグ・トエマッセル、グルコジン、セルロース及びHBMセルロースに関する全ての蒸解及び/又は可溶化データも付録実験2に提示してある。ピグ・トエマッセルは、有意濃度のリチウム、アルミニウム、チタン、マンガン、銅、亜鉛、ルビジウム、ストロンチウム及びバリウムを含む。その事は、ピグ・トエマッセルのマトリックスが、前記それらの元素の濃度の故に、血液採取マトリックスとして不適当であることを意味していると考えられるが、それらの元素もレーザーアブレーションによって運び去られ、完全蒸解物中に全く存在していないことを保証するために、溶液条件ではなくレーザーアブレーション条件下で結合されたサンプルと一緒にピグ・トエマッセル材料を分析することも必要である。グルコジン、グルコース、セルロース及びHBMセルロースの場合、その全てが、アルミニウム、チタン、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ルビジウム、ストロンチウム及びバリウムを含み、一方、セルロースマトリックスだけが、前記元素に加えて、有意濃度の鉛及びビスマスも含み;セルロース及びHBMセルロースの両方は、グルコジン及びグルコース中には見出されないジルコニウム、スズ、タリウム及びトリウムの濃度も含む。
【0130】
これらマトリックスの全てが、ppb範囲で有意量の微量元素を含むが、これにより、前記マトリックスが、サンプル採取マトリックスとしての使用から必ずしも排除されるわけではない。なぜならば、従来のブランク補正を用いて、ブランク含量と関連がある問題を克服できるからである。そのことは、最終的な分析プロトコルにより金属とそれらの微量元素との関係を考慮することによって、ブランク補正を測定し且つ強化するために、内部元素比を用いることができるという事実はによって更に強調することができる。
【0131】
実験3
この実験の目的は、セルロース粉末、グルコース、及び澱粉、及びそれらの混合物のペレット化特性及び吸着特性を更に試験することであり、また、SY−2(ミネラルCRM、Canadian Certified Reference Material Project(CCRMP)、表1ソリューション)によって、溶解特性/吸収特性を調べることであった。実験3の結果は、付録実験3に示してある。
【0132】
セルロース粉末単独は充分に機能する。グルコースでは、表面が溶解し、孔が残った。澱粉は、水を吸収し、膨張し、表面が盛り上った。ペレット化圧500kg/sq inの下では、セルロース粉末は緊密に圧縮され、流体吸収には10〜15秒ほどかかる。このことは、「開放」構造を有するより繊維性のセルロースが好ましいかもしれないことを示唆している。このために、繊維性セルロースを用いる更なる実験を示す。更に、異なる充填圧での粉末セルロースを用いる更なる実験も行う。
【0133】
実験4
この実験の目的は、異なる圧力下で圧縮されたセルロース粉末ペレットの吸収性及び機械的安定度を評価することであった。第一の場合、粉末セルロースを、mQ水中に懸濁させ、真空濾過した。採取された濾過ケークを機械的に破砕した。それによりフレークとなり、そして粉々になった。しかしながら、溶液の吸着は迅速であった。
【0134】
セルロース粉末を100kg/sq inの圧力下で圧縮した場合、機械的には頑丈であるが、吸収はゆっくりであった。抵抗が生じるまでプレスの締め付けスクリューを回転させることによって達成された約50kg/sq inと推定される低い圧縮圧力では、得られたペレットは迅速な吸収を示した。更に、ペレットは良好に団結したままである。実験により、多孔質の圧縮破壊は、圧力が増すにつれて上昇し、それにより、マトリックスの吸収性は次第に低下していく。
【0135】
実験5
この実験の目的は、内部標準を用いて、血液サンプル中に存在する微量元素を定量することであった。また、実験では、セルロースペレット上へのSY−2(ミネラルCRM)及び血液の吸収性、LA−ICP−MS分析に曝露したときのドープされたペレットの堅牢性、潜在的な汚染物質の評価レベル、ドープされたマトリックスから生じる結果の評価、及び「湿潤」マトリックスと「乾燥」マトリックスとの間の比較可能性の評価も行った。
【0136】
次の機器設定を用いた:すなわち、レンズ電圧−レンズ1,2,3,及び4 それぞれ−10.8,22.6,0.7及び13.3ボルト、コレクタ−4.6ボルト及び抽出−332ボルト;ガス流量−冷却ガス13.6L/分、補助ガス0.81L/分、Nebガス0.74L/分及び酸素ガス0.00L/分;トーチボックスの位置一X,Y及びZ軸それぞれ932,165及び250ステップ;増倍管電圧−H.T.パルスカウント−2634ボルト及びH.T.アナログ)ボルト;その他の設定−ポールバイアス−2.2ボルト,R.F.電力1500ワット、ペリ速度(Peri speed)0%;プラズマスクリーン無し、S−オプションポンプは切っておく。
【0137】
前以って清浄にしておいた(無水エタノールで拭いた)指先の領域に施用されたソフトタッチランセットデバイス(Soft Touch lancet device)(家庭での血液グルコース検査用に用いられ且つ独国マンハイムにあるBoehrlngerによって製造されている)によって血液のサンプルを被験者から得た。圧力を施用して血液の連続滴下を促進した。500kg/sq inの荷重下で、粒状セルロース(Sigma Chemicalsの微粒子粉末)を圧縮することによって形成される直径3mm×深さ2mmのサンプル採取マトリックスタブレットに直接に「接触」滴下した。そのマトリックスタブレットを、3M ScotchのPermanent Double Stick Tapeを用いて、Perspexのロッドから二次加工された直径37.5mm×深さ6mmのPerspexディスクに貼り付けた。滴の体積は30〜70マイクロリットルであると推定された。防腐剤又は抗凝血剤は使用しなかった。採取マトリックスに施用する前又は分析前に、血液を貯蔵する必要は無かった。しかしながら、サンプルが充填された採取マトリックスタブレットを60℃で1時間オーブン乾燥させた後、冷蔵し貯蔵する場合がある。
【0138】
4つの血液サンプルを調製した;2つはオーブン乾燥させ、もう2つは「湿潤」したままであった。標準溶液50μLを、各マトリックスタブレット上にピペットで移し、乾燥させて、マトリックス整合標準を作製することによって、等価なSY-2 CRMドープト(Syenite,Canadian Certified Reference Material Project)マトリックスペレットの二対セットを調製した。SY-2 CRMは、カルシウム、鉄、マグネシウム、及びカリウムなどを含み、血液の予期されるイオン束におそらくは等しい高度のイオン束を提供する。したがって、起こっていたどのイオン効果も、生の標準水溶液に比べて、血液及びSY-2において同等であった。
【0139】
血液及びCRMでドープされたマトリックスが貼り付けてあるサンプルホルダーを、両方共に英国のVG Elementalによって製造されたVG PlasmaQuad 3 ICP-MSに取り付けられたUV Microprobe Laser Systmのレーザーアブレーションセル中に配置する。前記レーザーは、266nmで動作する周波数四重極Nd−YAGであり;サンプルの10×10マトリックスラスターアブレーションが、60秒間、6.2ミリジュールの流束量において、パルスQスイッチモードで行われた。
【0140】
出力データはオンボードソフトウェアから生カウントとして得られ、エクセルへと送られ、処理される。計算にはアルゴリズムは用いなかった。血液サンプル及びCRMサンプルに関する生カウントデータは、血液の値及びSY-2の値それぞれから、平均されたマトリックスブランク値を引くことによって、マトリックスブランク補正した。これらの補正データから、精度の一つの指標として、標準偏差%を計算した。最後に、実験試行で調査された11の被分析物に関する微量元素組成を、マトリックス整合SY-2 CRM値を参照しながら計算した。
【0141】
得られたデータは、付録実験5A及び5Bに示してある。
【0142】
上記したように、実験的設計の役割は、分析前にサンプルを完全に「乾燥」させる必要があるか否かを決めることであった。上記したような乾燥工程を行わずに、マトリックス中に血液を採取すると、サンプルはわずかに湿っている可能性がある。したがって、マトリックスの含水量の変動がマトリックス中に存在する元素濃度の読出しに影響を与えるか否かを見極める必要があった。その結果として、セルロースサンプルの2つのセットを準備し、「湿潤」及び「乾燥」した血液に加えて、SY-2認証標準物質でドープされたサンプルも調製し、血液中の金属濃度を定量化することを試みた。血液サンプル及びSY-2を、セルロース上へとスパイクして、2つで一組とし、血液サンプルの1つのセットを「湿潤」状態で分析した。第二のサブセットを取り、(上記のように)乾燥させ、そのサンプルを「乾燥」状態で分析した。これらの実験からのデータも付録実験5Aに示してある。
【0143】
分析後、湿潤サンプルに関するデータをブランク補正し、データを生成させた。「湿潤」血液サンプルに関するデータの簡便な検査は、特に±100%の変動が記録される鉛及び亜鉛の場合、被分析物濃度の比較的高度の変動性を示している。SY-2認証標準物質の分析は、はるかに均一である。
【0144】
乾燥サンプルでの結果は良好であった。再現性は向上し、結果は更に均一であった。望ましい血液サンプルへとブランク補正された値から、バリウムを除いて、結果は有意義であった。バリウムの結果は、ネガティブなものであり、それは、おそらく、バリウム信号がブランクに比べて小さい(ブランクは非常に高い)という事実に起因している。しかしながら、鉛及び亜鉛では、非常に向上し、それらを用いて血液中に存在するそれらの元素の濃度を、SY-2濃度(付録実験5Bで計算した)に基づいて計算する場合、血液の値及び文献からの予期される血液の値は、考察中の被分析物のそれに非常に近い。認証標準物質であるSY-2は、多くの理由から用いられてきた。第一に、採取マトリックス上で単純な水溶液を用いると、アブレーション時に、有意なイオン束が提供されなかったと考えられる。SY-2は、カルシウム、鉄、マグネシウム、カリウムなどを含み(表1を参照されたい)、且つ血液のイオン束と恐らくは等しい高度のイオン束を提供する。したがって、発生していたいずれのイオン効果も、生の水溶液と比較して、血液及びSY-2におけるそれに匹敵すると考えられる。したがって、比較的高い濃度を有する通常のCRMで充分である。
【0145】
上記した機器設定及び内部標準化を含む上記実験は、全血の成分(例えば、血清及び血漿)、尿、汗、涙、及び脳脊髄液などのようなより単純な生物学的流体に等しく適用可能である。前記流体のサンプル採取、処理及び分析はより単純であるので、更なる正確さが達成できる。
【0146】
実験5
この実験は、二酸化チタン及び水酸化アルミニウムのマトリックスを、浸出前及び浸出後(実験2から得られた浸出された残留物)に、分析するために行った。この実験で得られたデータは、実験2からの浸出物データと一致している。完全溶解時に、二酸化チタンから誘導された溶液は、非常に高濃度のチタンを有しており、また水酸化アルミニウムの蒸解から誘導される溶液もアルミニウムに同様に富んでいる。したがって、これらの2つの元素は測定しなかった。
【0147】
実験の目的は、白色酸化物マトリックスの酸洗浄の有効性を評価することであった、したがって、「生の」二酸化チタン及び水酸化アルミニウムの適当なサブサンプルを、それらの塩酸浸出等価物及び硝酸浸出等価物と一緒に、硫酸/フッ化水素酸中で蒸解し、体積を調整し、希釈し、そして溶液導入ICP-MSによって分析した。バルク二酸化チタン及び水酸化アルミニウムをHCl及びHNO3で浸出して誘導した浸出物は、実験2で分析した。その結果は、付録実験2に示してある。
【0148】
「生の」原材料と、HCl及びHNO3で浸出された残留物とを比較すると、二酸化チタン、そのHCl浸出残留物及び関連浸出物では、マンガン、銅、亜鉛、ガリウム、ルビジウム、ストロンチウム、(ジルコニウム)、バリウム、鉛、(トリウム)及びウランに関して弱い浸出から強い浸出まで達成されたことが分かる。この場合、もとの材料における濃度と、浸出物及び浸出された残留物における濃度の合計との良好な質量バランスが一般的に認められる。対照的に、原材料におけるバナジウム、クロム、ニッケル、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオビウム、錫、アンチモン、ハフニウム、タンタル及びタングステンの濃度は、HCl浸出によって影響されない。
【0149】
二酸化チタン、そのHNO3浸出残留物及び関連浸出物では、リチウム、(クロム)、マンガン、銅、亜鉛、ガリウム、ルビジウム、ストロンチウム、(ジルコニウム)、バリウム、鉛及び(トリウム)に関して弱い浸出から強い浸出まで明らかである。対照的に、バナジウム、(クロム)、ニッケル、ゲルマニウム、イットリウム、ニオブ、錫、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、(トリウム)及びウランの濃度は、HNO3浸出によって、殆ど影響されないか又は影響されない。
【0150】
水酸化アルミニウムマトリックスに関しては、HCl及びHNO3は、双方共、水酸化アルミニウムマトリックスにおいて有意濃度で存在している全ての元素を弱い浸出から強い浸出まで同様な浸出応答を有する。含まれる元素は、リチウム、ベリリウム、クロム、マンガン、銅、ガリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、スズ、ハフニウム、トリウム及びウランである。したがって、マトリックスを前洗浄するためにこれらの酸を使用することは推奨される。双方共に、HCl及びHNO3は両方の中で非常に容易に浸出させることができる。
【0151】
特に重要なのは、水酸化アルミニウムマトリックス中のガリウムの存在である。少量が酸浸出されるが、その量では内部標準として用いられず;同じことがジルコニウムにも当てはまる。二酸化チタンマトリックス中のジルコニウムと同じ高さではないが、水酸化アルミニウム中のジルコニウムは、ガリウム及びジルコニウムに基づく二重の内部標準のために依然として用いることができると考えられる。水酸化アルミニウムマトリックス中には銅が存在するが、銅は比較的均一である傾向があり、また、前の分析での銅の結果を考慮すれば、銅に関する妥当な結果は、ブランク補正を行うことによって得られるという点で、水酸化アルミニウムマトリックスには潜在的な問題がある。これらの金属はマトリックス中に存在するが、血液中の金属の定量に等しい量を提供できない。なぜならば、血液と同じぐらい、血漿に対して金属が輸送されないからである。血液は、間隙を満たす傾向があり、マトリックスの頂部に位置し;したがって、これらの元素は、分析される、いわゆる血液中に存在する濃度に対して有意量を提供することができない。
【0152】
この実験は、二酸化チタンマトリックス及び/又は水酸化アルミニウムマトリックスから、ある範囲の微量元素を、変化するように減少及び/又は排除できることを証明している。前の実験と組み合せると、恐らくは2つのマトリックス、すなわち水酸化アルミニウムマトリックス及びセルロースマトリックスは、特に適するマトリックス材料を構成できると考えられる。
【0153】
実験12
この実験の目的は、サンプル採取マトリックスとしての繊維性セルロースマット(Whatman 540濾紙、Whatman International Ltd)の有効性を調べるためであった。この材料は、流体の効率的な吸収体であるが、その「粗い」繊維性組織は、可変アブレーション特性をもたらすことができる。セルロースマットの6つの重複サブサンプルが取られ、次のようにして前以て調製した:すなわち、2つの重複セットを50%王水で10分間洗浄し、乾燥させた;更なる2つの重複セットを王水中で一晩洗浄し、乾燥させ、残りの重複セットは洗浄しなかった。1つのセットそれぞれを、2ppm複数元素標準でドープし、乾燥させ、第二のセットそれぞれはブランクとして保った。王水で10分間洗浄された繊維性セルロースマットは、乾燥時に、他の2つの(未洗浄及び一晩洗浄した)マットに比べて、「より硬く」なったことが認められた。
【0154】
ブランク及びドープされた等価物を、LA-ICP-MSで分析した。その分析結果は、付録実験12に記録してある。アブレーション時に、「硬くなった」洗浄されたマトリックスでは、レーザーはその全てのマットを貫通したが、他の2つでは、レーザーは、貫通しなかったことが観察された。このことは、繊維性セルロースマットの対照的な物理的性質が、レーザーの貫通に、したがってレイジング特性に影響を及ぼすことを明確に意味している。当該付録のページ実験12/3及び12/4を参照すると、セリウムで標準化されたデータなので、完全なレーザー貫通を示した「硬化」洗浄繊維性セルロースマットに関するデータは、最良の総合的に精度のあるデータであることが分かる。実際、殆どの被分析物は、10%未満、しばしば5%未満の精度を有する。この結果は、マトリックス材料としての繊維性セルロースの潜在的な価値を更に強調している。
【0155】
実験16
この実験の目的は、王水及び弗化アンモニウム(NH4FでドープされたAl(OH)3:セルロース3:1マトリックスに関する潜在的な感度の向上を評価することであった。
【0156】
Al(OH)3:セルロースが3:1の混合物から、圧縮されたペレットの6つの三重セットを調製した。これらの未洗浄の三重ペレットをPerspexディスクに貼り付けた。1つのセットは「ブランク」であり、更なるセットは、1ppmの複数元素標準化でドープし;両方ともオーブンで焼いた。残り4つの三重セットの2つを、50%王水5μLでドープし、105℃で2時間オーブンに入れた;残り2つの三重セットを1Mフッ化アンモニウム(NH4F)5μLでドープし、オーブンで焼いた。王水及びフッ化アンモニウムで処理されたペレットを更に1ppmの複数元素標準でドープし乾燥させた。
【0157】
Al(OH)3:セルロースが3:1の更なるサンプルを王水で洗浄し、すすぎ、乾燥させた。この材料を洗浄マトリックスと呼ぶ。この洗浄マトリックスから、ペレットの等価な三重セットを、上記した未洗浄マトリックスの場合のようにして調製した。50%王水でドープされたマトリックスは、この実験で調製された他のマトリックスほど機械的に頑丈ではなかった。全ての三重セットをLA-ICP-MSで分析した。未洗浄マトリックスに関する結果は付録実験16Aに示してあるが、洗浄マトリックスに関する結果は付録実験16Bである。
【0158】
未洗浄材料、すなわち王水による洗浄無しでの結果を考察すると、その結果が、洗浄された材料に比べて有意に良好であることは明らかである。セリウムに標準化されたブランク補正マトリックスでは、未洗浄材料に関する精度は洗浄マトリックスのそれに比べて良好である。この結果は、Al(OH)3:セルロース3:1マトリックスを洗浄する必要が基本的に無いことを示唆している。
【0159】
ブランク補正されセリウム標準化されたデータをしばらく考慮せずに、「生」1ppmドープトマトリックスデータのみを考慮すると、未洗浄マトリックス及び洗浄マトリックス両方の測定値は、NH4Fドープトマトリックスの一般的な向上を示している。この明らかな感度の向上は、おそらくは、NH4Fの存在下で、更に揮発性の雰囲気を生じさせることによって、マトリックスのアブレーションを改良したことからもたらされる。
【0160】
実験
いくつかの上記実験は、好ましい圧縮、吸収、アブレーション及び前処理の特性と一緒に、適当な清浄マトリックス材料を確認しようとしたものである。殆どのサンプル、特に血液サンプル及び他の体液サンプルにとって有用である特に好ましいマトリックス及び分析条件は、900〜1000mL/分のアルゴン流と共に、4〜9ミリジュールの流束量において、10Hzで融除されたWhatman 840濾紙であることが認められた。
【0161】
この作業の過程で、マトリックスに吸収されるのではなく、マトリックスに支持される方法で、血液サンプルを調製できるかどうかという疑問が生じた。前記方法が達成できるならば、マトリックスの無い血液サンプルを融除できる可能性がある。このようにすると、分析で存在する被分析物は血液のみから誘導されると考えられる。マトリックスに吸収された血液ではなく支持された血液を直接分析するという考えは、実験手順中に血液の血清及び血漿の分離が起こっているようであるという観察から生じた。観察される起こり得る分離は重要な問題であるとは考えられなかった;レーザーアブレーションプロトコルは、マトリックスの前にある任意の分散を貫通し、それによって、分離された血液をサンプリングし、結果として、被分析物カクテルを再び集め又は再結合させるように、設計された。にもかかわらず、この観察は、乾燥血液のみを融除することによって、なんらかの起こり得るマトリックス干渉を克服できることを示唆している。
【0162】
浅い直径3mm×深さ125mmの窪みをマトリックスペレットの表面にキャストした場合、その窪みに送達される一滴の血液は、流れてその窪みを満たし、その後のレイジングの間、窪みIIpから離れて平らな表面(メニスカス)を与えた。必要条件は、血清及び血漿のクロマトグラフィーによる分離が起こらないことと考えられる。そのために、Al(OH)3:セルロース3:1粉末を、高圧(少なくともえ1トン/sqin)下で圧縮した場合、マトリックスは凝固し乾燥すると、マトリックスが効果的に不透過性に変わり、血液を支持できることが理論的に更に考えられた。
【0163】
結果として、真空プレス用の新しいダイを二次加工して、直径6mmのペレットを製造し、その中に、直径3mm×深さ125mmの平底円形窪みを刻印した。適当な数の新しいしペレットを1トン/sq inの圧力で圧縮した。
【0164】
10のマトリックスペレットの表面へとマイクロリットルの血液サンプルを送達し、そしてその中に含ませた;それらのペレットの5つを周囲温度で風乾させ、また残りの5つのペレットは60℃でオーブンで乾燥させた。Perspex取り付けディスクに更に血液を2滴施用し、乾燥させた。この場合、乾燥させた血液の点滴の表面は、平らではなく、むしろ強く波打っていた。
【0165】
施用時、いくらかの血漿の分離及び吸収が起こり、緊密に圧縮されたセルロース粉末の体積が増加し膨張した。しかしながら、ペレットは充分な機械的な完全性を保持しており、LA-ICP-MS分析が可能であった。融除されたとき、「血清」は、大きな塊の断片になり、それにより、結果がいくぶん変動する傾向がある。にもかかわらず、得られるカウントは殆どの元素で妥当であった。
【0166】
Perspex支持体上へと乾燥させた、マトリックスを含まない血液の点滴では、融除された血液は、良好なアブレーションにより、はるかに凝集性であった。しかしながら、上記したように、表面が強く波打っていると、レーザーの焦点条件が変化し、したがって、最適な結果が得られなかった。
【0167】
水酸化アルミニウム:セルロースマトリックスは透過性であり、上記したマトリックス無しのアプローチを採用でき、すなわち、直径3mm×深さ125mmの円形窪みがプレスされ、成形され又は機械加工されたPerspexのような不透過性支持体を用いることができる。各サンプル採取デバイスは、2つの前記窪みを含むことができ、1つはマトリックス整合微量金属ドープト参照標準血液用であり、もう1つは未知の血液サンプルを含み閉じ込めるためのものである。別法として、マトリックス整合微量金属ドープト参照血液は、各未知試料がそれに直接隣接している標準を有するように、分析試行中に挿入できると考えられる。標準及び未知試料が同じ採取デバイスに施用された場合、標準が50%であるのに対して、分析試行中の参照サンプルは33%であると考えられる。
【0168】
この実験の結果は付録実験18に示してある。この実験では、水酸化アルミニウム:セルロース粉末マトリックス中に部分的に吸収された加熱乾燥及び風乾された血液と、不透過性Perspex支持体上へと乾燥されたマトリックス無し血液とを調べた。
【0169】
補正され標準化された「マトリックス無し」血液を調べる場合、その数は際限可能である。実際、値は、乾燥材料に通常匹敵する。「マトリックス無し」血液では、水銀及び鉛の両方が記録され、鉛の再現性は精度14%である。乾燥材料上でのウランに関しても良好な数が記録されるが、血液マトリックス単独では、その数は、「検出限界未満」であり、マトリックスウランバックグラウンドと一致しており、血液が存在していないことを見込んでいると考えられる。
【0170】
実施例6:オイル中磨耗金属分析
実験13
この実験の目的は、エンジンオイルにおける磨耗金属のパイロット分析を行うことであった。調査される技術は、オイルにおける磨耗金属の分析に等しく適用可能であり、また、磨耗金属分析は、壊滅的なプラント破損の早期検出及び防止を目指している主要な世界的工業であると考えられる。前記の早期検出は、部品の破損(自動車、 重機器、及び兵器など)が生命の悲劇的な損失及び高価なプラントの破壊へとつながる軍隊、航空会社、運送業及び鉱業では特に重要である。
【0171】
デイップスティックによって、動いている「新」Frod Fairlaneのエンジンからオイルを熱いまま採取した。デイップスティックのシングルディップ(single dip)からのオイルを、500kg/sq inで圧縮された未洗浄及び洗浄されたAl(OH)3:セルロース粉末マトリックス3:1ペレットの両方へ移した。重複ペレット(オイル無し)をブランクとして調製し、全ての4つのペレットをUV LA-ICP-MSで分析した。実験5のための機器設定を用いたが、日ごとの変動に対して微調整した。分析結果は付録実験13に示してある。
【0172】
ブランク補正すると、未洗浄マトリックスと洗浄マトリックスに関して得られた結果には殆ど差異は無い。2つのマトリックスを単一マトリックスとして扱う場合、そのときの精度は、鉄を除いて、優れており、通常は、オイル中に予期される被分析物の限定された範囲に関して<1である。したがって、データの再現性は優れており、「濃度」対元素のX−Yログプロットでチャート実験13/1にグラフで示してある。その場合、精度/再現性データ(鉄を除く)が一致しており、2つのプロフィールは互いに実質的に重なっている。この実験は、分析の一般的な再現性を明確に示しており、また、かなり将来期待できることも示している。
【0173】
実験15
この実験の主たる目的は、5つの異なる車のエンジンから、同じ条件下で採取された、すなわち上記したように、3日連続で動作中のエンジンから熱いオイルを採取し分析して、対比的な製造年、エンジン容量、及び恐らくは用いられているオイルを有する車から採取したオイル中の磨耗金属含量の対比が確立できるかどうかを評価することであった。オイルを実験13のようにして採取したが、圧力100kg/sq inで圧縮された未洗浄水Al(OH)3:セルロース粉末3:1ペレット上に2つ一組として採取し;ガラス棒に新しい参照オイルをちょっとつけ、等価なペレットに施用した。UV LA-ICP-MSで、すべてのサンプルを分析し;被分析物の拡張された範囲に関する結果は付録実験15として示してある。
【0174】
分析中に、11のガラス標準を測定した。生のガラスデータに関する精度は一般的に10%〜20%である。しかしながら、生データが平均セリウムへと標準化されるとき、精度は一般的に優れており、セレンを除いて、カドミウム及び水銀は<10であり;セレン及びカドミウムはかろうじてより高く、水銀は24%である。セリウム標準化ガラス標準データは、チャート実験l15/1であるlogX−Y折れ線グラフプロットでプロットされた。その場合、いくつかのプロフィールは実質的に重なっており、極めて良好な精度及び再現性で一致する。ガラス標準に加えて、10のエアブランクが、分析的試行によって測定された。これらの値は、ドリフト補正され、その平均ドリフト補正エアブランクを用いて報告されたデータを補正した。
【0175】
異なる乗物から得たエンジンオイルの間には、特定の被分析物において、データの評価は、有意に、しばしば著しく異なることを明確に示している。2台の車から得たオイル、すなわち「John」及び「Scott」を選択して、それらのコントラストを示した。「John」エンジンオイルは、チャート実験15/2のlogX−Y折れ線グラフとしてプロットされ、「Scott」エンジンオイルはチャート実験15/3である。各チャートを調べると、各反復オイル分析に関する一般的なプロフィールの重なり合いがあり、各プロフィールの形状のいくつかの明確な違いならびに等価な被分析物間のピーク高さのコントラストが存在することを示している。チャート実験15/4は、「John」オイル及び「Scott」オイルの平均組成(n=6)をグラフ化している。その「Scott」オイルに関するグラフは、2つのオイル間の著しい組成的なコントラストを明確に強調している。したがって、本技術は、調べられるエンジンオイルにおける被分析物コントラストを容易に確認且つ測定できると合理的に結論づけることができる。LA-ICP-MS法によって運転中のプラントのオイルの磨耗金属分析が実行可能であり且つ有用であることは、パイロット実験から明らかである。オイル中磨耗金属の分析に関する実験では、例えば、運転中のプラントにおいて「デイップスティック」サンプリングを介して(すなわち、プラントを停止する必要が無い)潜在的な部品磨耗を定期的にモニターできることの潜在的な経済的利益は大きいことが分かる。この方法では、プラント停止のスケジュールは、運転への影響が最も小さくなるように注意深く組むことができる。
【0176】
サンプルマトリックスを融除するためのデフォーカスされたレーザーの使用は、サンプルへのレーザー結合を向上させるために用いることができる上記プロトコルのバリエーションである。レーザーをサンプル表面に収束させる場合、それによって生成される第一クレータは、サンプル表面上にあるレーザーの焦点に対する応答である。表面材料が融除されると直ぐに、次のアブレーションイベント(レーザー発射)が第一発射から生じたクレーター領域中に入る。そこでは焦点が存在しないので、レーザー結合は低下する。しかしながら、レーザーが表面よりも下で収束される場合、すなわち、表面でデフォーカスされる場合、焦点が表面よりも下にあるので、大量の材料がサンプルの真中から噴出することができることから、潜在的には、より活性なアブレーションを発生させることができる。したがって、少なくとも第一及び第二のレーザー発射により、多くのアブレーションデブリが生成するので、感度が増大する可能性があることが予期される。その理由は、この段階では、アブレーション噴出物は粉末/エアゾールであるので、プラズマトーチにより効率的に運ばれる可能性があるからである。現在の装置では、レーザーデフォーカシングは手作業で容易に行うことができる。現在のレーザーは、デフォーカスの深さを簡便にプログラムできる自動デフォーカス性能を有する。本発明プロトコルの更なる改良として、10ポイントラスターグリッドによる10ポイントにおける各ポイントにおいて、二回発射に比べて、3回発射によるアブレーションを用いることができる。
【0177】
実施例7:溶液でドープされたマトリックスを用いる定量(更なる実験)
この実験では、3つの繊維性セルロースマトリックス、すなわちWhatman 541、高純度Whatman 541及び古い型のWhatman 540濾紙 (英国メードストンにあるWhatman International Ltdから市販されている)を、バッキングテープを用いて支持体に貼り付けることによって、ブランク材料として調製した;バッキングテープ(3M ScotchのPermanent Double Stick Tape)のサンプルも分析した。最初に生カウントデータは、指定元素に関する同位体濃度として分析され、第二に、天然の同位体存在比関係を用いて同位体データから導かれた元素同位体存在比として分析された。全ての元素データはエアブランクで補正された。エアブランク補正によって、単離された被分析物に関してマイナスの値となるということは、平均エアブランクにおける被分析物濃度が、それらの被分析物のためのマトリックスに比べて、有意により高いことを意味している。
【0178】
全ての元素をスパイク補正した(すなわち、スパイクの平均値に標準化した)。「古い」とは、予め開放され、「開放」長期貯蔵によって研究室環境に曝露された繊維性セルロース支持体を指している。「新しい」とは、この実験のために開放された密封繊維性セルロース支持体を指している。単層対多層支持体データに関して、単層支持体の分析は、バッキングテープ中へのレーザー透過を伴っていたかもしれないと考えられる。したがって、単層支持体に関するデータは、複合材料データを反映している可能性があり、それに対して多層支持体に関するデータは、分析直前に最上層を剥がすので、データは、セルロースマトリックス支持体のみを反映している。
【0179】
データは、単層マトリックスに比べて、多層マトリックス中の有意数の被分析物に関してより低い濃度を示した;他の被分析物は、いくつかはより高いが、実質的には等しい。多くの被分析物に関して、例えば、バッキングテープ中のCu,Zn,Sn濃度は、単層マトリックス及び多層マトリックスの両方におけるよりもはるかに高濃度であるが、単層マトリックスは、等価な多層材料に比べて、それらの元素がはるかに高濃度である。このことは、バッキングテープへのレーザーの透過が起こったこと、また、単層と多層との間の差は、汚染を処理することと殆ど関係が無いことを強く示唆している。
【0180】
更に、「新しい」対「古い」に関する対応データは、単層及び多層の両方の新しいマトリックスでは、全濃度が有意により低いことを明確に証明している。後者の観察結果は、マトリックスの研究室環境への長期曝露によって、曝露されたマトリックスは有意な周囲研究室汚染へと導かれたことを強く示唆している。
【0181】
更なる実験では、1ppm複数元素標準(詳細は表に示してある)と血液でドープされた白色と黒色のWhatman 540濾紙セルロースマトリックス(英国メードストンにあるWhatman International Ltdから市販されている)を調べた。
【0182】
そのデータはマトリックスブランク補正した。多くの被分析物において、エアブランクは、白色と黒色のセルロースブランク(施用されたサンプルが無いマトリックス)で測定された濃度以上である。
【0183】
得られた同位体データは、元素濃度に転換され、複数元素標準及び血液ドープトサンプルは二重に補正された。各白色及び黒色のセルロースマトリックスブランクは、まず最初に、2つのエアブランクの平均を用いてエアブランク補正された。その後に、複数元素標準及び血液でドープされた白色及び黒色のセルロースに関する平均データを、それぞれ補正されたエアブランクと、補正された白色及び黒色のセルロースマトリックスブランクを用いて補正した。白色及び黒色の複数元素標準でドープされたマトリックスサンプルと、白色及び黒色の血液でドープされたサンプルとの間に良好な相関関係が存在する。複数元素標準と、白色及び黒色のマトリックス上の血液との間には殆ど差が存在しない。この実験で得られたデータも、複数元素及び血液ドープトマトリックスの両方における質量スペクトルの全域で、殆ど大部分の分析者に対して優れた再現性を示す。
【0184】
血液中の計算濃度の比較を、文献からの予想濃度範囲と比較できる。Fe,Cu Zn,Sn,Ba及びPbに関するデータは、極めて申し分なく一致している。
【0185】
ハードウェアの最適化
この実験は、軽質量、中質量及び重質量において、それぞれマンガン、ランタン及び鉛を用いて、ハードウェア最適化を評価するためであった。得られた同位体データ(同位体濃度)を、実施例7のそれと同様な方法で再整理し、処理した。現在データのために、エアブランク、540マトリックスブランク、1ppm複数元素標準及び血液ドープトマトリックスを、最適化中に、前記質量で調べた。また、各540マトリックスブランクを、平均マトリックスブランク値から平均値を引くことよって、エアブランク補正した。補正されたマトリックスブランクを用いて、540複数元素及び血液ドープトマトリックスの両方をマトリックス補正した。また補正データを用いて、血液をppb濃度で計算した。
【0186】
現在データは、軽質量最適化が好ましいことを示していると考えられる。二重に補正する場合、複数元素及び血液ドープトマトリックスの双方にとって、より軽い質量(すなわち、マンガン)での最適化が、中質量及び重質量に比して好ましいと考えられる。また、血液中の微量元素の定量化に関して、マトリックス整合標準は特に有用である。
【0187】
検出限界及び精度
実験は、溶液でドープされたセルロースマトリックスについて 検出限界、精度及び定量が確立されるように設計した。これらの実験のために一連の標準を用いた。更に、試薬ブランクも用いた。
【0188】
脱イオン水サンプルを、「ストック(stock)」複数元素標準溶液でドープして、100,200;500;1000;2000;6000及び10000 ppbの元素濃度を有する一連の複数元素標準水溶液を製造した。これらの標準水溶液のそれぞれ100μLを、ピペットを用いて、Whatman 540濾紙 (英国メードストンにあるWhatman International Ltdから市販されている)から調製された繊維性セルロースマトリックスパッドに移し;そのパッドを、3M ScotchのPermanent Double Stick Tapeで、Perspex支持体に貼り付けた。脱イオン水マトリックスブランクも、マトリックスパッド上に脱イオン水100μLをピペットで移すことによって、調製した。更に、3つの認証標準物質の溶液、すなわちSARMの1、3及び46(南アフリカ国家標準局)の溶液を250倍に希釈し、それぞれの100μLのアリコートでWhatman 540マトリックスパッドをドープした。全ての場合において、水性標準濃度及びCRMそれぞれの10のマトリックスパッドを、脱イオン水マトリックスブランクと共に調製した。2ppmサマリウム内部標準溶液スパイクを、各マトリックスパッドに加えて、内部標準化を容易にした;前記スパイクは、ピペットを用いて加えた。全てのドープされたマトリックスパッドを、アブレーション前に105℃で2時間乾燥させた。
【0189】
10の調製されたマトリックスの各セットのうちの5つを、連続して数日分析した。貼り付けられたマトリックスパッドを有するサンプルホルダーを、Xi Cone Systemを有するX Series ICP-MSSに接続されたUP 266 UV Laser System(オーストラリアのライダルメア(Rydalmere)にあるThermo Optek(Australia)Pty Ltdから市販されている)のレーザーアブレーションセルに配置し、6ミリジュールの流束量及び1分間あたり900〜1000mLのアルゴン流で、266nm、10Hzで動作するUVレーザーを用いて10x10マトリックスラスターに関して融除した。
【0190】
サンプルは、手作業で分析し、結果は、エアブランクで補正し、CRMと標準マトリックス整合サンプルとの比較を容易にした。出力データは、オンボードソフトウェアから生カウントとして得られ、エクセルへ送られ、処理された。計算ではアルゴリズムは用いなかった。これらの補正データから、標準偏差及び変動係数を、再現性及び精度の尺度として計算された。最後に、例示的試行で調べられた44の被分析物に関する定量的微量元素組成を、CRMについて計算し;殆どの被分析物について20ppb未満の検出限界が達成された。
【0191】
得られたデータは付録実験M1に示してある。標準に関するデータをプロットすると、達成され得る優れた較正を示すことも明らかである。CRMに関するデータの定量は、本技術の最適分析範囲での値を有する全ての元素に関する(例えば、一度希釈されたサンプルに関する)元素濃度について極めて良好な一致を示した。
【0192】
このデータから以下に示した多くの点が証明される。
【0193】
1)ICP-MSと共に開発された分析プロトコルを用いて、広範な元素に関して5%未満の精度を達成できる。
【0194】
2)広範な元素に関して20ppb未満の検出限界を同時に達成できる。
【0195】
3)マトリックス整合認証標準物質、又は他の等価なCRMを用いて正確な定量データを得ることができる。
【0196】
本発明の方法及びデバイスの有用な適用領域としては、例えば:
・ある範囲の有毒金属の異常レベルに職業的に曝露されている作業員をスクリーニングする;
・有毒金属に対する一般集団の環境的な曝露をモニタリングする;
・予防医学のために、微量/超微量元素欠乏について集団をスクリーニングする;
・獣医学のために、純血種、一般的な家畜、動物園動物(絶滅寸前種の繁殖プログラムを適用されている動物)、及びペットでの微量/超微量元素欠乏、及び有毒重金属過剰をスクリーニングし;ヒトの食物連鎖における肉製品の品質管理のために、食肉用動物における重金属汚染物質をモニターする;
・潤滑油を分析することによって、プラント及び機械類などの機械部品の磨耗をモニター/検出する
ことが挙げられる。
【0197】
本発明を、一定の好ましい態様に関して説明してきたが、本発明の広範な原理及び精神を遵守する変更も、本発明の範囲内にあるとして企図される。
【0198】
【表4】

【0199】
【表5】

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【表66】

【0261】
【表67】

【図面の簡単な説明】
【0262】
【図1】本発明のサンプル採取デバイスの一つの態様を示している図である。
【図2】閉じた位置での本発明のサンプル採取デバイスの横断面図である。
【図3】開けた位置での本発明のサンプル採取デバイスの横断面図である。
【図4】本発明のサンプル採取デバイスの部分的な拡大図である。
【図5】サンプルを採取し且つ分析する典型的な手順が要約してある流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体支持体と、該固体支持体の領域に貼り付けられており流体サンプルを吸着又は吸収できる不活性採取マトリックスとを含む、レーザーアブレーション質量分析に用いるのに適するサンプル採取デバイスであって、該不活性採取マトリックスは該不活性採取マトリックス上又はその内部に1種類以上の予め較正された被分析物を更に内部標準として含み、該固体支持体は該流体サンプルに関する情報を組み込んでいるバーコード又はタグを含む、採取デバイス。
【請求項2】
該不活性採取マトリックスが、アラゴナイト、水酸化アルミニウム、チタニア、グルコース、澱粉「A」、澱粉「B」、グルコジン、セルロース粉末/顆粒、繊維性セルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、植物粉、又はそれらの混合物から成る群より選択される請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
該植物粉が、米粉、トウモロコシ粉、小麦粉、大豆粉、ライ麦粉及びコーンフラワー、又はそれらの混合物から成る群より選択される、請求項2記載のデバイス。
【請求項4】
該不活性採取マトリックスが繊維性セルロースである、請求項1〜3のいずれかに記載のデバイス。
【請求項5】
該繊維性セルロースマトリックスが、酸化及び/又は酸加水分解により改質される、請求項4記載のデバイス。
【請求項6】
予め較正された該被分析物が:
Li,Na,Mg,Al,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Rb,Sr,Mo,Cd,Sn,Sb,Te,Ba,La,Ce,Eu,Dy,Yb,Hg,Tl,Pb,Bi,Th及びU;
Li,B,Mg,Al,Si,P,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Sr,Y,Zr,Mo,Ag,Cd,Sn,Sb,Ba,La,Ce,Hf,Hg,Pb及びU;又は、
Li,Na,Mg,Al,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,As,Se,Rb,Sr,Mo,Cd,Sn,Sb,Te,Be,La,Ce,Eu,Dy,Yb,Hg,Tl,Pb,Bi,Th及びU
のセットにより表されるか又は上記セットから選択される、請求項1〜5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
流体サンプルを更に含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載のデバイス。
【請求項8】
該不活性採取マトリックスにサンプルを採取且つ施用するのを補助するために皮膚又は組織を穿孔できる該デバイス内に配置されたランス部材を更に含む、請求項1〜7のいずれかに記載のデバイス。
【請求項9】
該ランスが該不活性採取マトリックス領域より下に配置されるとき、該ランスをガイドするためのガイドチャンネルを該不活性採取マトリックス内に更に含む、請求項8記載のデバイス。
【請求項10】
該不活性採取マトリックスを覆う一体型又は分離型のカバーシースを更に含む、請求項1〜9のいずれかに記載のデバイス。
【請求項11】
該不活性採取マトリックスが、2つの支持層の間にはさまれていて、該支持層の1つが該不活性採取マトリックスの領域を曝露する開口を有している、多層構造を有するサンプル採取デバイス。
【請求項12】
該流体サンプルが、体液、オイル及び水から選択される流体サンプルである、請求項1〜11のいずれかに記載のデバイス。
【請求項13】
該体液が、全血、尿及び汗から選択される、請求項12記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−268221(P2008−268221A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122400(P2008−122400)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【分割の表示】特願2003−586592(P2003−586592)の分割
【原出願日】平成15年4月16日(2003.4.16)
【出願人】(504387528)ダイアキーン・プロプライエタリー・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】