説明

サンプル採取量の補正方法とそれを用いた測定方法

【課題】従来知られているサンプル中の被検物質の測定方法は、高価で大型の分析装置を使用し、手技に熟練を必要とするマイクロピペットを使用するものであり、簡便な測定には不向きであった。また、安価で簡易なスポイトのような簡易検体採取具では、少量のサンプルを正確に採取することは困難である。簡易な採取具で採取した微量のサンプルを用いて測定する際に正確な測定値を得るため、サンプル採取量を正確に知る方法が求められている。
【解決手段】本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、サンプルに混合する試薬に被検物質の測定に関与しない別の物質である内部標準物質を入れ、その内部標準物質を測定し、真のサンプルの採取量との誤差を補正することにより、正確な被検物質の定量値を得る電気化学的測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルと試薬を混合してサンプル中の被検物質を電気化学的に測定する方法において、サンプルの採取量の誤差を補正する方法とそれを用いた測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第3206999号公報(特許文献1)には、サンプル希釈誤差の検出方法とサンプル希釈誤差の検出装置が開示されている。内部標準液法で希釈倍率誤差を検出する方法及び装置であり、2回の希釈工程で求めた測定値と予定した各希釈工程の希釈倍率を比較し、希釈誤差を検出する方法とその装置が開示されている
特開平3−214056号公報(特許文献2)には、内部標準物質を含むサンプル希釈液を収容したサンプル希釈容器と、サンプル及び前記サンプル希釈液から調整したサンプル希釈液の所定量を吸引して反応容器に分注する手段と、サンプル希釈液自体と希釈されたサンプル希釈混合液の内部標準物質の光学的測定結果から誘導されるサンプルの希釈倍率を算出して、原サンプル中の光学的測定分析成分濃度を算出する手段を備えてなる自動分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3206999号公報
【特許文献2】特開平3−214056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの従来方法は、高価な大型の生化学自動分析装置を使用したり、ベッドサイドや家庭に常備されておらず手技に熟練を必要とするマイクロピペットを使用するものであり、ベッドサイドでの緊急検査や家庭での患者自身による測定には不向きであった。一方、安価で簡易なスポイトのような簡易検体採取具では、少量のサンプルを正確に採取することは困難である。簡易な採取具で採取した微量のサンプルを用いてサンプル中の被検物質を測定する際に正確な測定値を得るため、サンプルの採取量を正確に知る方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、サンプルに混合する試薬に被検物質の測定に関与しない別の物質である内部標準物質を入れ、その内部標準物質の量を電気化学的に測定し、それを用いて真のサンプルの採取量を求めることにより、被検物質の正確な定量をする方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の(1)〜(13)に関する。
(1)サンプルと試薬を混合して、サンプル中の被検物質を電気化学的に定量する測定方法において、サンプルの採取量の誤差を、該試薬中に被検物質との電気化学反応に関与しない電子メディエータ1を含有させ、該電子メディエータ1の電気的応答量を用いて補正することを特徴とする電気化学的測定方法。
【0007】
(2)サンプル中の被検物質の電気化学的測定方法が、定電位電流測定法または定電位電荷量測定法であることを特徴とする前記(1)記載の電気化学的測定方法。
(3)試薬中の被検物質との電気化学反応に関与しない電子メディエータ1の電気的応答量の測定方法が、微分パルスボルタンメトリー法(DPV法)、矩形波ボルタンメトリー法またはノーマルパルスボルタンメトリー法であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の電気化学的測定方法。
(4)サンプル中の被検物質を電気化学的に測定後、サンプルの採取量の誤差補正のために電子メディエータ1の電気応答量を測定することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
(5)サンプル中の被検物質を電子メディエータ2と被検物質の酸化還元酵素を用いて測定することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の電気化学測定方法。
(6)予め、サンプルの採取量と電子メディエータ1の電気応答量の関係式を求めておき、測定した電子メディエータ1の電気応答量を該関係式に代入し、サンプルの採取量を算出することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【0008】
(7)電子メディエータ1の式量電位と電子メディエータ2の式量電位が0.2V以上乖離していることを特徴とする前記(5)または(6)に記載の電気化学的測定方法。
(8)電子メディエータ2がフェノチアジン類化合物であることを特徴とする前記(5)〜(7)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
(9)電子メディエータ1がフェナジニウム類化合物であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
(10)サンプルの採取量が30μL以下であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
(11)試薬にサンプル中の被検物質の電気化学的測定を妨害する成分を除去または妨害しない成分に変換する物質を含有することを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【0009】
(12)被検物質が1,5−アンヒドログルシトールであることを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
(13)サンプル中の被検物質を電気化学的に測定後、30秒以内にサンプルの採取量の誤差補正のための電子メディエータ1の電気応答量の測定をすることを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、簡易で安価なサンプル採取具を使用し熟練した手技がなくても、サンプルの採取量を正確に求めることができ、それを用いることによりサンプル中の被検物質の定量測定が簡便且つ正確に実施可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】サンプルの採取量と電子メディエータ1としてのフェノサフラニンの電気応答量との関係式を求めるためのグラフ
【図2】測定用センサチップの概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電気化学的測定方法においてサンプルとしては、臨床検査に使用する全血、血漿、血清、尿、髄液などの体液、環境検査に使用する河川、汚水、雨水、工場からの排水などや、食品、水道水など特に限定されないが、臨床検査に使用する全血、血漿、血清、尿、髄液などの体液が好ましい。サンプル中に被検物質の電気化学的測定に干渉しなければ防腐剤、抗凝固剤等を含んでいてもよい。サンプルの採取量は特に限定されないが、後記の実施例に示すように、本発明の測定方法は採取量が30μL以下であるときにも良好な結果が得られる。
【0013】
本発明の電気化学的測定方法において被検物質とは、電気化学的に測定できる物質であれば特に限定されない。例えば、酸素、過酸化水素;グルコース、グリコヘモグロビンA1C、グリコアルブミン、フルクトサミン、ケトン体、乳酸、ピルビン酸、1,5−アンヒドログルシトール、シアル酸、ヒアルロン酸などの糖質関連物質;コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、過酸化脂質などの脂質関連物質;クレアチニン、クレアチン、ホモシステインなどの窒素化合物;ビリルビン、ヘモグロビン、ポルフィリンなどの血色素関連物質;カリウム、カルシウム、マグネシウム、無機リン、鉛、銅、鉄、セレン、カドミウム、水銀、クロム、亜鉛、金、白金などの無機物;アセトアミノフェン、サリチル酸、ジゴキシン、フェノバルビタール、リドカイン、パラコート、エチルアルコール、シアン、馬尿酸、アンフェタミン、エフェドリン、コデインなどの薬剤や麻薬関連物質;エストラジオール、エストラジオール−3−グルコネイト、エストラジオール−3−サルフェート、エストリオール、エストリオール−3−グルコネイト、エストリオール−3−サルフェートなどの女性ホルモン類;PCBなどのダイオキシン類;ノニルフェノール、アルキルフェノールなどの界面活性剤類;フタル酸エステル類、ビスフェノールA,トリブチルスズ、PCBなどの環境ホルモン類;ドーパミンなどのカテコールアミン類などである。好ましいのは、サンプルが体液で被検物質がグルコース、グリコヘモグロビンA1C、グリコアルブミン、フルクトサミン、ケトン体、乳酸、ピルビン酸、1,5−アンヒドログルシトール、シアル酸、ヒアルロン酸などの糖質関連物質、コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、過酸化脂質などの脂質関連物質、クレアチニン、クレアチン、ホモシステインなどの窒素化合物等である。
中でも特に好ましくは、血液中の1,5−アンヒドログルシトールである。
【0014】
本発明の電気化学的測定方法において試薬とは、サンプル中に存在し被検物質の検出反応を妨害する物質を除去または妨害しない成分に変換する物質や、サンプルの希釈、pHの調整、塩濃度の調整のために使用する物質、例えば、蒸留水や、緩衝剤、無機塩、酵素、有機酸などを含む蒸留水等が挙げられる。試薬は、液体であっても固体であってもよい。
例えば、血液中の1,5−アンヒドログルシトールを、1,5−アンヒドログルシトールを酸化する酵素を用いて測定する場合、血液中のグルコースが干渉する時には、予めグルコースを1,5−アンヒドログルシトールを酸化する酵素と反応しない物質に変換する物質も該試薬として使用することができる。該物質としては、例えば、グルコースオキシダーゼやヘキソキナーゼなどの酵素とその基質類が挙げられる。
【0015】
本発明のサンプル中の被検物質の電気化学的測定方法としては、電気化学的に活性な酸素、過酸化水素、金属錯体、カテコールアミン類などは電気化学特性を利用して定電位電流測定法、定電位電荷量測定法、サイクリックボルタンメトリー法(CV法)、微分パルスボルタンメトリー法(DPV法)、矩形波ボルタンメトリー法、ノーマルパルスボルタンメトリー法などで電流応答を測定する方法が挙げられ、好ましく定電位電流測定法、定電位電荷量測定法が挙げられる。
【0016】
グルコース、グリコヘモグロビンA1C、グリコアルブミン、フルクトサミン、ケトン体、乳酸、ピルビン酸、1,5−アンヒドログルシトール、シアル酸、ヒアルロン酸などは、それぞれの酸化還元酵素を利用して酸素消費量、過酸化水素増加量などを電気化学的に測定することができる。また、グルコース、グリコヘモグロビンA1C、グリコアルブミン、フルクトサミン、ケトン体、乳酸、ピルビン酸、1,5−アンヒドログルシトール、シアル酸、ヒアルロン酸などでは、それぞれの酸化還元酵素と電極の間に電子メディエータを介在させて測定することもでき、該電子メディエータを用いた定電位電流測定法、定電位電荷量測定法、サイクリックボルタンメトリー法(CV法)、微分パルスボルタンメトリー法(DPV法)、矩形波ボルタンメトリー法、ノーマルパルスボルタンメトリー法等で測定することができる。例えば、グルコースを測定する場合には、グルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼと、フェリシアン化カリウムなどの金属錯体(電子メディエータ2)を電極上に塗布乾燥したセンサにより測定できる。また、1,5−アンヒドログルシトールを測定する場合には、酸化還元酵素としてピラノースオキシダーゼ、L−ソルボースオキシダーゼ、1,5−アンヒドログルシトールデヒドロゲナーゼ、L−ソルボースデヒドロゲナーゼなどを用いることができ、電子メディエータ2としては、例えば、フェリシアン化カリウム、オスミウム錯体、チオニンアセテートなどを用いることができる。なお、本発明において便宜上、サンプルの採取量の誤差を補正するための電気化学的測定に用いる電子メディエータを電子メディエータ1、サンプル中の被検物質の電気化学的測定に用いる電子メディエータを電子メディエータ2として区別して記載している。
【0017】
サンプル中の被検物質を電子メディエータ2を用いて定電位電流測定法で測定する場合、その測定時間は30秒から1秒、好ましくは10秒から1秒、より好ましくは5秒から1秒である。
【0018】
本発明のサンプル中の被検物質の電気化学的測定に用いる電子メディエータ2としては、一般に酵素の酸化還元中心と電極との間の電子の授受を介在する機能を有する物質であれば特に限定されないが、酸化型メディエータまたは還元型メディエータが挙げられ、酸化型メディエータが好ましく、例えば、フェリシアン化物、キノン化合物、フェノチアジン化合物、フェロセン化合物、オスミウム(III)錯体やルテニウム化合物若しくはそのポリマー体等が挙げられる。好ましくはフェノチアジン化合物やオスミウム(III)錯体やキノン化合物であり、例えば、オスミウム(III)錯体である[Os(III)(ビピリジル)(イミダゾイル)Cl]Cl等や2,6−ジメチルベンゾキノン等やメチレンブルー等が挙げられる。特に好ましくはフェノチアジン化合物であり、例えば、チオニンアセテート、チオニンクロリド、メチレンブルー、アズールA、アズールC等である。還元型メディエータとしてはフェロセン、フェロシアン化カリウム、オスミウム(II)錯体が挙げられる。
【0019】
本発明の電気化学的測定方法において、被検物質との電気化学反応に関与しない電子メディエータ1とは、以下の特性を持つ物質であればよい。
1.サンプル中の被検物質との電気化学測定に用いる電子メディエータ2や試薬に含有される各成分と相互作用しない物質。
2.電子メディエータ2の共存下では試薬に含有されている酵素の反応生成物と相互作用しない物質。
3.電子メディエータ2を用いた電気化学的測定と相互作用しない物質、または、電気化学的に可逆な変化のみを示す物質。
4.酸化還元電位が、電子メディエータ2を酸化的に測定する場合はより還元側にあり、電子メディエータ2を還元的に測定する場合はより酸化側にある物質。特に電子メディエータ2の酸化還元電位と0.2V以上乖離していることが望ましい。
電子メディエータ1は上記の条件を満たせば特に限定されない。
【0020】
両電子メディエータの組合せとして特に好ましくは、電子メディエータ2としてフェノチアジン類化合物である場合、電子メディエータ1としてはフェナジニウム類化合物、例えば、サフラニンまたはフェノサフラニンが挙げられる。
【0021】
本発明においてサンプルの採取量の誤差とは、ある特定の量を採取することを意図してキャピラリー等の簡易採取具を使用して採取したサンプルの実際の採取量と意図した採取量との乖離量のことである。一般に、意図する採取量が微量であるほど、採取器具が簡便であるほど採取量に対する乖離量の比は大きくなる傾向があり、サンプル中の被検物質の定量値への影響も大きくなる。
【0022】
本発明の測定方法において、サンプルの採取量の誤差を補正するための該電子メディエータ1の電気的応答量を測定する方法としては、定電位電流測定法、定電位電荷量測定法、サイクリックボルタンメトリー法(CV法)、微分パルスボルタンメトリー法(DPV法)、矩形波ボルタンメトリー法、ノーマルパルスボルタンメトリー法などを用いることができ、中でも微分パルスボルタンメトリー法(DPV法)、矩形波ボルタンメトリー法、ノーマルパルスボルタンメトリー法等が好ましい。
サンプル中の被検物質をまず電気化学的に測定し、引き続きサンプル採取量の誤差を補正するための電気化学的測定法を行っても、測定の順序がその逆であってもよい。好ましくは、サンプル中の被検物質を電子メディエータ2を用いて電気化学的に測定し、引き続きサンプルの採取量の誤差を補正するために電子メディエータ1を用いて電気化学的に測定する方法である。特に被検物質を酸化還元酵素を用いて測定する場合は、該酵素との反応時間を正確にする必要があるので、電子メディエータ2の測定をまず最初に行う。
【0023】
両電気化学的測定方法は異なる方法を使用するのが好ましく、例えば、サンプル中の被検物質を定電位電流測定法で測定し、引続き、定電位電流測定法の終了から好ましくは60秒から0秒、さらに好ましくは10秒から0秒でサンプル採取量の誤差を補正するためのDPV測定法を行えばよい。最初の定電位電流測定と引き続くDPV測定の間の時間が短いほど、電子メディエータ1による正確な測定が可能となる。
【0024】
本発明の測定方法におけるサンプルの採取量の誤差を補正する方法とは、例えば、予めサンプル採取量と電子メディエータ1の電気応答量の関係式を求めておき、実際に測定した該電子メディエータ1の電気応答量を、予め求めた該関係式に代入して実際の採取量を計算で求め、それと電子メディエータ2を用いて得られる電気応答量からサンプル中の被検物質濃度を算出するものである。
被検物質の真の濃度は、試薬が固体の場合、
被検物質濃度=電子メディエータ2の電気応答量から求めた被検物質の濃度×(意図したサンプル採取量/電子メディエータ1から求めた実際のサンプル採取量)で求めることができる。
試薬が液体の場合、
被検物質濃度=電子メディエータ2の電気応答量から求めた被検物質の濃度×[{意図したサンプル採取量/(意図したサンプル採取量+試薬液量)}/{電子メディエータ1から求めた実際のサンプル採取量/(電子メディエータ1から求めた実際のサンプル採取量+試薬液量)}]で求めることができる。
【0025】
更に、化学工場の排水処理場や過酸化水素を含む冷却剤の排液中の過酸化水素を測定する場合を例示する。まず、サンプルの採取量と電気応答量の関係式を求めておく。即ち、正確に濃度1mMのサフラニンを含む試薬と、被検液が排水なので、排水液と主たる成分が等しいマトリックス液を用意し、一定量の試薬(例えば、20mL)と、サンプルを採取する器具でおこりうる採取量のバラツキの範囲、例えば、市販の簡易スポイトで20μLを基準値として採取する場合には正確に、例えば、15μL、17.5μL、20μL、22.5μL、25μLのマトリックス液をメスピペットで量り、試薬と混合する。この混合液を、DPV測定をしてサンプルの採取量と電気応答量の関係式を求める。なお、DPV測定の際の使用溶液量は正確に規定する必要はない。
実際のサンプルの測定は、前記試薬が正確に20mL入った容器を用意し、この容器に排水処理場から抜き取った排水を簡易ピペットで約20μL入れ、この混合液をDPV測定し、次いで公知(市販)の過酸化水素電極でこの混合液中の過酸化水素濃度を測定する。DPV測定値から上記関係式を用いて被検液の正確な採取量を求め、以下の式で被検液中の過酸化水素濃度を求めることができる。
被検液中の過酸化水素濃度=過酸化水素電極の定量値×[{20μL/(20mL+20μL)}/{DPVで求めた採取量(μL)/(20mL+DPVで求めた採取量(μL))}]
【0026】
また、全血中の1,5−アンヒドログルシトールの測定については後記の実施例に例示する。
【実施例】
【0027】
実施例1
[1]試薬
1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.7に調整した後の組成が、17.6mMのMgCl、17.6mMのKCl、175.7mMのホスホエノールピルビン酸(PEP)、17.6mMのATP、123U/mLのピルビン酸キナーゼ(PK)、75U/mLのグルコキナーゼ、200U/mLのアスコルビン酸酸化酵素、100mMの塩化ナトリウム、0.1%のNaN、0.1mMのEDTA(エチレンジアミン4酢酸)及び0.06%のBSA(牛血清アルブミン)となるように10.0mMのHEPES緩衝液に各成分を加え、グルコース変換試薬とした。電子メディエータ1として1mMのフェノサフラニンを加えた。
【0028】
[2]センサチップ
ポリエチレンテレフタレートの基盤に作用極とリード部、対極とリード部をカーボンインク((株)アサヒ化学研究所製、製品名カーボンペーストTU15ST)で、参照極とリード部を銀塩化銀インク(アチソン(株)製、製品ElectrodagPE−409)で、厚さ10μmでスクリーン印刷し、150℃で40分焼入れし、次いで電極部と、測定装置との接続部とをのぞく部分にレジストインク((株)アサヒ化学研究所製、製品名CR18G−KF)を厚さ20μmでスクリーン印刷し、130℃で15分焼入れして図2に示す電極を作成した。
次に、120μMのチオニンアセテート(電子メディエータ2;シグマ―アルドリッチ(株)製)、3U/mLの1,5−AG脱水素酵素(国際公開第2008/072702号パンフレット記載)の組成となるように各成分を精製水に溶解して電極用溶液を調製し、この電極の作用極に2μLを塗布して、50℃で5分乾燥してセンサチップを作製した。
【0029】
[3]サンプル
サンプルは、被検物質1,5−アンヒドログルシトール20μg/mLを含むセラサブを使用した。セラサブは、CSTテクノロジーズ社(米国)から販売されている擬似血清である。
【0030】
[4]測定器:ポテンショスタットHZ−3000(北斗電工(株)製)、ポテンショスタットPS−08((株)東方技研製)
【0031】
[5]測定法
(1)サンプル採取量とフェノサフラニンの電気応答量の関係式の作成
センサチップをポテンショスタットPS−08に接続し、センサチップの検出部に試薬10μLと10、15、20、30μLの量の各サンプルを混合した液から10μLを載せ、センサチップの参照極を基準に作用極に0Vを印加し5秒後の電流値を計測した。センサチップをポテンショスタットHZ−3000に接続し、DPV測定を行い、フェノサフラニンのピーク電流値を計測した。DPV測定のパラメーターは、初期電位−1V、最終電位0V、スキャン速度10mV/秒、パルス周期200mV/秒、パルス幅50m秒、パルス高さ50mV、サンプル間隔16.7秒に設定した。電気応答量は、DPV測定のピーク電流値として求めた。求めたピーク電流値(X)とサンプル量(Y)の関係式は、図1に示したようにY=−0.0467X+59.884であった。
(2)採取量未知の検体の測定
センサチップをポテンショスタットPS−08に接続し、センサチップの検出部に前処理試薬10μLと凡そ20μLのサンプルを混合した液から10μLを載せ、センサチップの参照極を基準に作用極に0Vを印加し5秒後の電流値を計測した。引き続いて、速やかに(5秒間の定電位測定終了後30秒以内)センサチップをポテンショスタットHZ−3000に接続し、DPV測定を行い、フェノサフラニンのピーク電流値を計測した。DPV測定のパラメーターは、初期電位−1V、最終電位0V、スキャン速度10mV/秒、パルス周期200mV/秒、パルス幅50m秒、パルス高さ50mV、サンプル間隔16.7秒に設定した。結果を表1に示す。
【0032】
比較例
[1]試薬
前記実施例1に同じ。
[2]センサチップ
前記実施例1に同じ。
[3]サンプル
前記実施例1に同じ。
【0033】
[4]測定器:ポテンショスタットPS−08((株)東方技研製)
【0034】
[5]測定法
センサチップをポテンショスタットPS−08に接続し、センサチップの検出部に10μLの試薬と凡そ20μLのサンプルを混合した液(実施例1と同じ)から10μLを載せ、センサチップの参照極を基準に作用極に0Vを印加し5秒後の電流値を計測した。結果を表1に示す。
【0035】
表1 採取量未知のサンプル測定結果

*Aから求めた濃度Bは、電流値から濃度を求める検量式から算出した
**DPVで補正したサンプル採取量は、前記実施例1の[5]の(1)の式より求めた
***DPVで補正した濃度=(B)×[{20/(20+10)}/{(Y/(Y+10)}]
【0036】
20μg/mLの濃度のサンプルを、サンプルの採取量凡そ20μL(約10〜30μL)で8回測定した。サンプルの採取量の平均値は21.9μg/mLであり、実施例におけるCV(変動係数)は5.2%に対し、サンプル量を補正しない比較例のCVは15.5%であった。本願発明により非常に改善していることは明らかである。
また、実施例における測定値は、最小が20.6μg/mL、最大が23.9μg/mLで特異性103.0%〜119.5%に対し、比較例では最小15.7μg/mL、最大25.9μg/mLで特異性78.5%〜129.5%であり、格段に正確に測定ができたことは明らかである。
【0037】
即ち、サンプルの採取量が未知であっても、定電位測定に引き続いて行うDPV測定によりサンプルの真の採取量を算出し、サンプルの採取量を補正することにより、正確に検体中の1,5−アンヒドログルシトール濃度を求めることができた。
【符号の説明】
【0038】
1:絶縁性基盤
2:作用極
3:対極
4:参照極
5:絶縁層
6:試薬層
7:検体検出部位
8:端子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルと試薬を混合して、サンプル中の被検物質を電気化学的に定量する測定方法において、サンプルの採取量の誤差を、該試薬中に被検物質との電気化学反応に関与しない電子メディエータ1を含有させ、該電子メディエータの電気的応答量を用いて補正することを特徴とする電気化学的測定方法。
【請求項2】
サンプル中の被検物質の電気化学的測定方法が、定電位電流測定法または定電位電荷量測定法であることを特徴とする請求項1記載の電気化学的測定方法。
【請求項3】
試薬中の被検物質の電気化学反応に関与しない電子メディエータ1の電気的応答量の測定方法が、微分パルスボルタンメトリー法、矩形波ボルタンメトリー法またはノーマルパルスボルタンメトリー法であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学的測定方法。
【請求項4】
サンプル中の被検物質を電気化学的に測定後、サンプルの採取量の誤差補正のために電子メディエータ1の電気応答量を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【請求項5】
サンプル中の被検物質を電子メディエータ1と異なる電子メディエータ2と、被検物質の酸化還元酵素を用いて測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学測定方法。
【請求項6】
予め、サンプルの採取量と電子メディエータ1の電気応答量の関係式を求めておき、サンプルを測定して得られた電子メディエータ1の電気応答量を該関係式に代入し、サンプルの採取量を算出してサンプルの採取量を補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【請求項7】
電子メディエータ1の式量電位と電子メディエータ2の式量電位が0.2V以上乖離していることを特徴とする請求項5または6に記載の電気化学的測定方法。
【請求項8】
電子メディエータ2がフェノチアジン類化合物であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【請求項9】
電子メディエータ1がフェナジニウム類化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【請求項10】
サンプルの採取量が30μL以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【請求項11】
試薬にサンプル中の被検物質の電気化学的測定を妨害する成分を除去または妨害しない成分に変換する物質を含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【請求項12】
被検物質が1,5−アンヒドログルシトールであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。
【請求項13】
サンプル中の被検物質を電気化学的に測定後、30秒以内にサンプルの採取量の誤差補正のための電子メディエータ1の電気応答量の測定をすることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の電気化学的測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−163934(P2011−163934A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27060(P2010−27060)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】