サンプル液注入治具セット
【課題】マイクロチップの領域内に試料を簡便かつ正確に導入可能なサンプル液注入治具セットの提供。
【解決手段】外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容するマイクロチップケース1と、前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備えた液体注入治具2と、を含んで構成される治具セットを提供する。この治具セットでは、液体注入治具2のチャネルがマイクロチップの所定部位に位置決めされるようにされていることで、液体試料をマイクロチップの領域内に簡便かつ正確に導入できる。また、この治具セットでは、液体注入治具2をマイクロチップケース1に嵌合させた状態でのみ、液体注入治具2のチャネルが治具外部に露出するようにされているため、注入操作の際に操作者が誤ってチャネルに触れるおそれがなく、安全に操作を行うことができる。
【解決手段】外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容するマイクロチップケース1と、前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備えた液体注入治具2と、を含んで構成される治具セットを提供する。この治具セットでは、液体注入治具2のチャネルがマイクロチップの所定部位に位置決めされるようにされていることで、液体試料をマイクロチップの領域内に簡便かつ正確に導入できる。また、この治具セットでは、液体注入治具2をマイクロチップケース1に嵌合させた状態でのみ、液体注入治具2のチャネルが治具外部に露出するようにされているため、注入操作の際に操作者が誤ってチャネルに触れるおそれがなく、安全に操作を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、サンプル液注入治具セットに関する。より詳しくは、マイクロチップケースと液体注入治具とを含んで構成され、マイクロチップへのサンプル液注入のために用いられるサンプル液注入治具セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用して、シリコン製基板またはガラス製基板などの基板に、化学的分析あるいは生物学的分析を行うためのウェルまたは流路などの領域を設けたマイクロチップが開発されている(例えば、特許文献1参照)。このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップなどと称され、分析の高速化、高効率化あるいは集積化、および分析装置の小型化などを可能にする技術として注目されている。
【0003】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能であり、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能であることから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0004】
μ−TASの応用例として、マイクロチップに配設された複数の領域内に物質を導入し、該物質を光学的に検出する光学検出装置がある。このような光学検出装置としては、マイクロチップの流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップのウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイム核酸増幅反応装置)などがある。
【0005】
μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しく、領域内に存在する空気によって試料の導入が阻害されたり、導入に時間がかかったりする場合があった。また、試料の導入の際に、領域内に気泡が生じる場合があった。その結果、各流路または各ウェルなどに導入される試料の量にばらつきが生じて分析精度が低下したり、分析効率が低下したりするという問題があった。また、核酸増幅反応のように試料の加熱を行う場合には、領域内に残存した気泡が膨脹し、反応を阻害したり、分析精度を低下させたりするという問題があった。
【0006】
μ−TASにおける試料の導入を容易にするため、例えば、特許文献2には、「試料を導入する試料導入部と、前記試料を収容する複数の収容部と、夫々の前記収容部に接続された複数の排気部と、を少なくとも備え、少なくとも二以上の前記排気部は、一端が開放された一の開放路に連通された基板」が開示されている。この基板では、各収容部に排気部を接続することにより、試料導入部から収容部に試料が導入される際に、収容部中に存在する空気が排気部から排出されるため、収容部にスムーズに試料を充填することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−219199号公報
【特許文献2】特開2009−284769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しい場合があった。そこで、本技術は、マイクロチップの領域内に試料を簡便かつ正確に導入可能なサンプル液注入治具セットを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、マイクロチップへの液体注入に用いられる治具セットであって、外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容するマイクロチップケースと、前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備え、該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされた液体注入治具と、を含んで構成される治具セットを提供する。この治具セットにおいて、マイクロチップケースには、液体注入治具を嵌合させる開口部が設けられる。また、マイクロチップケース及び液体注入治具には、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決め可能とする、制動機構が設けられる。
この治具セットにおいて、前記液体注入治具は、前記チャネルとガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とするものとできる。
この治具セットでは、液体注入治具のチャネルがマイクロチップの所定部位に位置決めされるようにされていることで、液体試料をマイクロチップの領域内に簡便かつ正確に導入できる。また、この治具セットでは、液体注入治具をマイクロチップケースに嵌合させた状態でのみ、液体注入治具のチャネルが治具外部に露出するようにされているため、注入操作の際に操作者が誤ってチャネルに触れるおそれがなく、安全に操作を行うことができる。
【0010】
この治具セットにおいて、前記液体注入治具の前記部材は、前記収容位置から前記露出位置への前記チャネルの移動方向に沿う方向に直線状に形成された第一案内溝を有する第一部材と、該移動方向に沿う方向及び直交する方向に鉤状に形成された第二案内溝を有する第二部材と、からなるものとできる。この場合、前記ガイドピンは、第一案内溝及び第二案内溝に軸受けされて案内される。そして、ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持され、ガイドピンが第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる。
具体的には、前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記液体注入治具の前記第一部材あるいは前記第二部材の一方と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する係合部を形成する。そして、液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対して、他方の部材の位置を変更することにより、第二部材の前記第二案内溝の前記移動方向に沿う部分と、第一部材の前記第一案内溝とが重なり合い、前記ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態から、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態に変更されるように構成する。
前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対する他方の部材の位置変更は、前記液体注入治具を前記開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転あるいはスライドさせることにより行うことができる。
【0011】
また、この治具セットにおいて、前記液体注入治具の前記部材は、円の中心から径方向に直線状に案内溝が形成され、中心に挿過される前記ガイドピンを軸として回転可能とされた円板部材としてもよい。この場合、円板部材の案内溝の方向と前記収容位置から前記露出位置への前記チャネルの移動方向とが一致しない回転位置に円板部材がある状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持される。そして、案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に円板部材がある状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる。
具体的には、前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記円板部材の側周面と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する複数の歯を形成する。そして、液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転させるとともに、前記歯の咬合によって円板部材を前記ガイドピンを軸として回転させることにより、円板部材が、案内溝の方向と前記移動方向とが一致しない回転位置から、案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に変更されるように構成する。
【0012】
さらに、本技術は、マイクロチップに形成された領域内へ液体を導入するチャネルと、ガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなる液体注入治具を提供する。この液体注入治具は、チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされるとともに、前記案内溝によるガイドピンの案内方向が変更可能とされる。そして、前記案内方向を、前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させることにより、チャネルを収容位置から露出位置に移動させて、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めするように構成される。
この液体注入治具は、前記マイクロチップを収容するマイクロチップケースに設けられた開口部への嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めする、制動機構を有するものである。
具体的には、前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とする。
【0013】
併せて、本技術は、外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容し、前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備えた液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記領域を形成する基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられているマイクロチップケースをも提供する。
このマイクロチップケースは、前記開口部を形成したケース上部と、ケース上部にヒンジによって結合されたケース下部と、開口部を覆う位置と開口部を露出させる位置との間で位置変更可能とされた開口部カバーと、を含んで構成される。そして、このマイクロチップケースは、前記ヒンジが閉じられた状態においてケース上部とケース下部との間に前記マイクロチップを収容する。
このマイクロチップケースにおいて、前記開口部カバーは、開口部の露出位置において、前記ケース下部に設けられた係合部に係合して、ヒンジを閉じられた状態に保持する爪を有するものとされる。この場合、前記開口部カバーは、前記開口部の被覆位置と露出位置との間をスライドするものとし、前記係合部は、開口部カバーのスライド方向に沿って形成されるとともに、被覆位置にある開口部カバーの前記爪に対応する箇所が切り欠かれているものとされることが好ましい。
このマイクロチップケースは、上述の液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記領域を形成する基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられており、開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記所定部位に位置決めする、制動機構を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本技術により、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度が得られるマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1の構成を説明する図である。
【図2】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1の構成を説明する図である。
【図3】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1の構成を説明する図である。
【図4】マイクロチップ3の構成を説明する図である。
【図5】マイクロチップ3へのサンプル液の導入方法を説明する図である。
【図6】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2の構成を示す図である。
【図7】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2の構成を示す図である。
【図8】マイクロチップケース1及び液体注入治具2を用いたマイクロチップ3への液体注入方法を説明する図である。
【図9】マイクロチップケース1及び液体注入治具2を用いたマイクロチップ3への液体注入方法を説明する図である。
【図10】本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1bの開口部15の構成を説明する図である。
【図11】本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2bの構成を示す図である。
【図12】マイクロチップケース1b及び液体注入治具2bを用いたマイクロチップへの液体注入方法を説明する図である。
【図13】本技術の第三実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1c及び液体注入治具2cの構成を説明する図である。
【図14】本技術の第三実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2cの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序により行う。
1.第一実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
(2)マイクロチップ
(2−1)マイクロチップの構成
(2−2)マイクロチップへのサンプル液の導入
(3)液体注入治具
(4)治具セットを用いたサンプル液注入
2.第二実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
(2)液体注入治具
(3)治具セットを用いたサンプル液注入
3.第三実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース及び液体注入治具
(2)治具セットを用いたサンプル液注入
【0017】
1.第一実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
図1〜図3は、本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケースの構成を示す模式図である。図1はマイクロチップケースが閉じた状態、図2はマイクロチップケースの開口部カバーが開いた状態、図3はマイクロチップケースが開いた状態を示す。
【0018】
マイクロチップケース1は、ケース上部11、ケース下部12及び開口部カバー14とから構成されている。ケース上部11とケース下部12はヒンジ13によって結合されている。マイクロチップケース1は、ケース上部11とケース下部12との間にマイクロチップ3を収容する(図3参照)。図3中符号4は、マイクロチップ3をケース下部12に取り付けるためのマイクロチップホルダーを示す。ケース下部12及びマイクロチップホルダー4には、マイクロチップ3の取り付け位置を位置決めするための位置決めピンと位置決め孔がそれぞれ設けられている(符号省略)。
【0019】
ケース上部11には、後述する液体注入治具2が嵌合される開口部15が形成されており、開口部カバー14は、開口部15を覆う位置(図1参照)と開口部15を露出させる位置(図2参照)との間で位置変更可能とされている。開口部カバー14は、被覆位置と露出位置との間をスライドできるようにされている。
【0020】
開口部15は、液体注入治具2に配設されたチャネル25(後述の図6参照)をケース内に収容されたマイクロチップ3の所定部位に対して位置決めするために機能する。また、開口部15には、液体注入治具2のフランジ221(同図参照)に係止する回転ガイド151と、液体注入治具2を構成する部材の一つに係合するロックピン152が配設されている。図2中符号153は液体注入治具2のフランジ221を回転ガイド151に係止させる際、フランジ221を挿過させるための回転ガイド切欠を示す。開口部15の位置決め機能、回転ガイド151及びロックピン152の機能については詳しく後述する。
【0021】
開口部カバー14は、ケース下部12に設けられたカバーガイド121に係合するカバー爪141を有している。カバーガイド121は、開口部カバー14のスライド方向に沿って形成されている。カバー爪141は、開口部カバー14が開口部15の露出位置にあるときには、カバーガイド121に係合して、ヒンジ13を閉じられた状態に保持する(図2参照)。このため、開口部カバー14が開口部15の露出位置にある場合には、マイクロチップケース1は開くことができない。
【0022】
カバーガイド121には、開口部15の被覆位置にある開口部カバー14のカバー爪141に対応する箇所を一部切り欠くことにより、カバーガイド切欠122が構成されている。このため、開口部カバー14が開口部15の被覆位置にあるときには、カバー爪141はカバーガイド121に係合することがなく、ヒンジ13を開いてマイクロチップケース1を開くことが可能である(図1及び図3参照)。
【0023】
マイクロチップケース1にマイクロチップ3を収容する際には、開口部カバー14が開口部15の被覆位置にある状態でヒンジ13を開いて、マイクロチップケース1を開く(図3参照)。このとき、開口部カバー14の位置を固定するため、ケース上部11にはカバーロックばね111が設けられている。カバーロックばね111は、マイクロチップケース1が開いた状態では、開口部カバー14のカバー爪141に係合するように突出して、開口部カバー14の位置を固定する。一方、マイクロチップケース1が閉じされた状態では、カバーロックばね111は、接触するケース下部12によって押し込められ、開口部カバー14の位置固定を解除する。
【0024】
マイクロチップケース1はプラスチック製とすることができる。マイクロチップケース1は、内部に収容したマイクロチップ3を視認可能とするため、窓を設けるか、一部あるいは全部を透明な材料により形成することが好ましい。これにより、マイクロチップ3へのサンプル液の注入時に、流路及びウェル内へ導入されていくサンプル液を目視で確認できる。さらに、流路及びウェルを拡大して視認性を高めるため、マイクロチップケース1の窓にレンズを配してもよい。
【0025】
(2)マイクロチップ
(2−1)マイクロチップの構成
図4は、マイクロチップケース1に収容されるマイクロチップ3の構成の一例を示す模式図である。(A)は上面図、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。なお、マイクロチップ3は、本技術に係る治具セットの必須の構成となるものではない。
【0026】
マイクロチップ3には、化学的分析あるいは生物学的分析の対象となる物質を含む液体(サンプル液)が導入される領域として、導入部31、流路32及びウェル33が配設されている。
【0027】
導入部31は、外部からサンプル液が穿刺注入される領域である。ウェル33は、サンプル液に含まれる物質あるいは該物質の反応生成物の分析場となる領域である。流路32は、導入部31に注入されたサンプル液を各ウェル33に送液するための領域である。導入部31に注入され、流路32を送液されるサンプル液は、ウェル33内に順に導入される。
【0028】
マイクロチップ3は、導入部31、流路32及びウェル33を形成した基板層3aに基板層3bを貼り合わせて構成されている。マイクロチップ3では、基板層3aと基板層3bの貼り合わせを大気圧に対して負圧下で行うことにより、導入部31、流路32及びウェル33の各領域の内部が、大気圧に対して負圧(例えば1/100気圧)となるように気密に封止されている。さらに、基板層3aと基板層3bの貼り合わせは真空下で行い、各領域の内部が真空となるように気密に封止することがより好ましい。
【0029】
基板層3a,3bの材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とすることができる。基板層3a,3bの少なくとも一方は、弾性を有する材質とすることが好ましい。弾性を有する材料としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン系エラストマーの他、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、スチレン系エラストマー、エポキシ系エラストマー、天然ゴムなどが挙げられる。基板層3a,3bの少なくとも一方をこれらの弾性を有する材料により形成することで、マイクロチップ3に、次に説明する自己封止性を付与することができる。
【0030】
ウェル33内に導入された物質の分析を光学的に行う場合には、基板層3a,3bの材質は、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材料を選択することが好ましい。
【0031】
基板層3aへの導入部31、流路32及びウェル33の成形は、例えば、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、あるいはプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。各領域は、基板層3bに成形されてもよく、あるいは基板層3aに一部を基板層3bに残りの部分を成形されてもよい。基板層3aと基板層3bの貼り合わせは、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等の公知の手法により行うことができる。
【0032】
基板層3a,3bには、ガス不透過性を備える基板層をさらに積層してもよい。これにより、ウェル33内に導入したサンプル液を加熱した際に、気化したサンプル液が基板層を透過し、消失(液抜け)してしまうのを防止できる。
【0033】
ガス不透過性を備える基板層の材質は、ガラス、プラスチック類、金属類およびセラミック類などが採用できる。プラスチック類としては、PMMA(ポリメチルメタアクリレート:アクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、SAN樹脂(スチレン−アクリロニトリル共重合体)、MS樹脂(MMA−スチレン共重合体)、TPX(ポリ(4−メチルペンテン−1))、ポリオレフィン、SiMA(シロキサニルメタクリレートモノマー)−MMA共重合体、SiMA−フッ素含有モノマー共重合体、シリコーンマクロマー(A)−HFBuMA(ヘプタフルオロブチルメタクリレート)−MMA3元共重合体、ジ置換ポリアセチレン系ポリマー等が挙げられる。金属類としては、アルミニウム、銅、ステンレス(SUS)、ケイ素、チタン、タングステン等が挙げられる。セラミック類としては、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミ(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニア(ZrO2)、石英等があげられる。
【0034】
(2−2)マイクロチップへのサンプル液の導入
次に、図5を参照して、マイクロチップ3へのサンプル液の導入方法を説明する。図5は、マイクロチップ3の断面模式図であり、図4中P−P断面に対応する。
【0035】
マイクロチップ3へのサンプル液の導入は、後述する液体注入治具2に配設されたチャネル25を基板層3aに穿通させ、導入部31にサンプル液を注入することによって行う(図5(A)参照)。図中、矢印F1は、チャネル25の穿刺方向を示す。チャネル25は、基板層3aの表面から、先端部が基板層3aを貫通して導入部31内空に到達するように穿刺される。基板層3aへのチャネル25の穿刺部位を符号34によって示す。なお、上述のガス不透過性の基板層を基板層3aに積層する場合には、穿刺部位34及びその周囲を除いて積層を行う。
【0036】
外部から導入部31に注入されたサンプル液は、流路32を送液され(図中、矢印f参照)、ウェル33内に導入される。マイクロチップ3では、導入部31、流路32及びウェル33の各領域の内部が、大気圧に対して負圧とされている。このため、チャネル25の先端部が導入部31内空に到達すると、サンプル液が陰圧によって吸引され各領域内にスムーズに短時間で導入される。さらに、各領域の内部を真空とした場合には、各領域の内部に空気が存在しないため、空気によってサンプル液の導入が阻害されたり、気泡が発生したりすることがない。
【0037】
サンプル液の導入後は、図5(B)に示すように、チャネル25を引き抜き、基板層3aの穿刺部位34を封止する。図中、矢印F2は、チャネル25の抜去方向を示す。このとき、基板層3aをPDMS等の弾性を有する材料により形成しておくことにより、チャネル25の引き抜き後に、基板層3aの弾性変形による復元力で穿刺部位34が自然に封止されるようにできる。本技術においては、この基板層の弾性変形による穿刺箇所の自然封止を、基板層の「自己封止性」と定義するものとする。
【0038】
基板層3aの自己封止性を確保するため、穿刺部位34における基板層表面から導入部31内空までの基板層の厚さ(図中、符号d参照)は、基板層3aの材質やチャネル25の径に応じて適切な範囲に設定される必要がある。また、分析時にマイクロチップ3を加熱する場合には、加温に伴う内圧の上昇によって自己封止性が失われないように、厚さdを設定する。
【0039】
基板層3aの弾性変形による自己封止を確実とするため、チャネル25には、可能な限り径の細いものを使用することが望ましい。具体的には、インスリン用注射針として用いられる、先端外径が0.2mm程度の無痛針が好適に使用される。
【0040】
チャネル25として、先端外径0.2mmの無痛針を用いる場合、PDMSにより形成された基板層3aの厚みdは0.5mm以上、加熱が行われる場合には0.7mm以上が好適となる。
【0041】
ここでは、マイクロチップ3を、1本の流路で連通された5つのウェルが計5組(合計25個のウェル)配設されたもとして説明した。しかし、マイクロチップ3において、配設されるウェルの数や位置は任意とでき、ウェルの形状も図に示した円柱形状に限定されない。また、導入部31に注入されたサンプル液を各ウェルに送液するための流路の構成も図に示した態様に限定されないものとする。さらに、ここでは、基板層3aを弾性材料により形成し、チャネル25を基板層3aの表面から穿刺する場合を説明した。しかし、チャネル25は基板層3bの表面から穿刺してもよく、この場合には、基板層3bを弾性材料により形成し、自己封止性を付与すればよい。
【0042】
(3)液体注入治具
図6及び図7は、本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具の構成を示す模式図である。図6は液体注入治具を構成する部品を示す。図7はチャネルが収容位置にある状態(A)と、チャネルが露出位置にある状態(B)の液体注入治具を示す。また、図8は、液体注入治具のマイクロチップケースへの取り付け方法と、マイクロチップへの液体注入方法を示す模式図である。
【0043】
液体注入治具2は、本体21、嵌合部22及びチャネル露出防止カム23とから構成されている(図6参照)。チャネル露出防止カム23は、嵌合部22に形成されたカム収容溝24内に収容される。嵌合部22とチャネル露出防止カム23は、チャネル露出防止カム23がカム収容溝24内に収容された状態において摺動が可能とされている。
【0044】
本体21には、サンプル液を充填したサンプルチューブ5をねじ込んで取り付けることが可能である。また、本体21には、サンプルチューブ5内のサンプル液をマイクロチップ3に穿刺注入するためのチャネル25が配設されている。液体注入治具2において、チャネル25は治具内部への収容位置(図7(A)参照)と、治具外部への露出位置(図7(B)参照)とを位置変更可能とされている。図6中符号222は、露出位置にあるチャネル25が挿通するチャネル孔を示す。
【0045】
液体注入治具2は、嵌合部22を上述のマイクロチップケース1の開口部15に嵌合させることによってマイクロチップケース1に取り付けが可能である。具体的には、嵌合部22に設けられたフランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させ(図8(A)参照)、液体注入治具2を回転させてフランジ221を回転ガイド151に係合させることによって、液体注入治具2をマイクロチップケース1に取り付けることができる(図8(B)参照)。この際、開口部15は、液体注入治具2に配設されたチャネル25をマイクロチップ3の穿刺部位34に対して位置決めするために機能する(後述の図9も参照)。
【0046】
本体21にはガイドピン26が配設されており、嵌合部22及びチャネル露出防止カム23にはガイドピン26を案内する案内溝がそれぞれ形成されている。嵌合部22には、チャネル25の収容位置(図7(A)参照)から露出位置(図7(B)参照)への移動方向に沿う方向(以下、「チャネル飛び出し方向」とも称する)に直線状に案内溝27(以下、「I字溝27」と称する)が形成されている。一方、チャネル露出防止カム23には、チャネル飛び出し方向に沿う方向及び直交する方向に鉤状に案内溝28(以下、「L字溝28」と称する)が形成されている。I字溝27とL字溝28は、チャネル露出防止カム23が嵌合部22のカム収容溝24内に収容された状態において、一部が重なり合うようにされている。そして、ガイドピン26は、I字溝27とL字溝28の重なり部分に挿過されて、両案内溝に軸受されて案内される。
【0047】
ガイドピン26、I字溝27及びL字溝28は、チャネル25の収容位置から露出位置への移動(あるいは露出位置から収容位置への移動)を制御するための制動機構として機能する。マイクロチップケース1の開口部15に設けられたロックピン152と、チャネル露出防止カム23に設けられたロックピン係合溝(図6符号29参照)も、制動機構を構成する要素となる。図7を参照して、この制動機構について説明する。
【0048】
まず、図7(A)に示す状態では、ガイドピン26が、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受されている。この状態(以下、「ロック状態」とも称する)では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できないため、チャネル25は収容位置に保持される。
【0049】
一方、図7(B)に示す状態では、ガイドピン26が、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とに軸受されている。この状態(以下、「解除状態」とも称する)では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できるようになる。従って、図のように、本体21を嵌合部22に押し込むことで、チャネル25を収容位置から露出位置に移動できる。
【0050】
I字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向は、ロック状態では、チャネル飛び出し方向に直交する方向であり、液体注入治具2の回転方向(図8(B)矢印参照)となっている。一方、解除状態におけるI字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向は、チャネル飛び出し方向に一致する方向に変更されている。
【0051】
(4)治具セットを用いたサンプル液注入
ロック状態と解除状態の切り換えは、液体注入治具2をマイクロチップケース1の開口部15に取り付けて回転させることによって行うことができる。すなわち、まず、ロック状態にある液体注入治具2の嵌合部22に設けられたフランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させる(図8(A)参照)。このとき、チャネル露出防止カム23に設けられたロックピン係合溝29と、開口部15に設けられたロックピン152とが係合する(図6も参照)。
【0052】
この操作後には、液体注入治具2は依然としてロック状態にあり、ガイドピン26は嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受された図7(A)の状態にある。
【0053】
次に、L字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って、フランジ221を回転ガイド151に沿わせながら液体注入治具2を回転させ、フランジ221を回転ガイド151に係合させる(図8(B)参照)。このとき、チャネル露出防止カム23は、ロックピン係合溝29とロックピン152との係合によって回転できないように位置固定されている。このため、液体注入治具2を回転させると、本体21と嵌合部22のみが回転し、嵌合部22のカム収容溝24内に収容されたチャネル露出防止カム23は回転せず、嵌合部22とチャネル露出防止カム23の相対位置が変更される。
【0054】
ガイドピン26が、チャネル露出防止カム23のL字溝28の折れ曲がり箇所に至るまで液体注入治具2を回転させると、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とが重なる。これにより、ガイドピン26はI字溝27と、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とに軸受された状態となり、I字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に変更され、液体注入治具2が解除状態となる。
【0055】
最後に、解除状態となった液体注入治具2の本体21を嵌合部22に押し込み、チャネル25を収容位置から露出位置に移動させる(図8(C)参照)。チャネル25は、マイクロチップケース1の開口部15によって、マイクロチップ3の穿刺部位34に対して位置決めされている。このため、収容位置から露出位置に移動されたチャネル25は、マイクロチップ3の基板層3aの穿刺部位34に正確に穿刺される。図8(C)に対応する断面模式図を図9に示す。穿刺部位34に穿刺されたチャネル25の先端部が導入部31内空に到達すると、サンプルチューブ5内のサンプル液が陰圧によって吸引され、導入部31内に導入される。
【0056】
液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外す際は、上述の手順を逆から行う。液体注入治具2の本体21を嵌合部22に押し込んだ状態では、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分によって、液体注入治具2bは回転不能とされている。そこで、まず、解除状態となっている液体注入治具2の本体21を嵌合部22から引き戻し、チャネル25を露出位置から収容位置に移動させる。
【0057】
これにより、ガイドピン26は、チャネル露出防止カム23のL字溝28の折れ曲がり箇所に位置することとなり、液体注入治具2をL字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って回転させることが可能となる。液体注入治具2を回転させると、ガイドピン26は、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受され、液体注入治具2はロック状態となる。回転後、フランジ221の回転ガイド151への係合は解除されているので、最後に、フランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させることにより、液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外す。
【0058】
このように、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップ3の微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル25をマイクロチップ3の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。
【0059】
さらに、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップケース1の開口部15への嵌合時においてのみ、液体注入治具2のチャネル25を収容位置から露出位置に移動させ、マイクロチップ3の穿刺部位34に穿刺可能とできる。従って、液体注入治具2が開口部15に嵌合していない状態においては、チャネル25が治具外部に露出することがないため、誤った操作によってチャネル25を人体表面に刺してしまう事故を防止して、操作の安全性を高めることもできる。なお、液体注入治具2が開口部15に嵌合し、開口部カバー14が開口部15の露出位置にある場合には、マイクロチップケース1は開くことができないため、液体注入治具2を開口部15に嵌合した後の万が一の針刺し事故も防止できる。
【0060】
2.第二実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
図10は、本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケースの開口部15の構成を示す拡大模式図である。図はマイクロチップケースの開口部カバーが開いた状態を示す。
【0061】
マイクロチップケース1bは、ケース上部11、ケース下部12及び開口部カバー14とから構成され、ヒンジ13によって結合されたケース上部11とケース下部12との間にマイクロチップを収容する。マイクロチップケース1bに収容されるマイクロチップは、上述のマイクロチップ3とできる。
【0062】
ケース上部11には、後述する液体注入治具2bが嵌合される開口部15が形成されている。開口部カバー14は、開口部15を覆う位置と開口部15を露出させる位置との間でスライドし、位置変更可能とされている。開口部カバー14の構成及び機能は、第一実施形態に係るマイクロチップケース1と同様である。
【0063】
開口部15は、液体注入治具2bに配設されたチャネル25(後述の図11参照)をケース内に収容されたマイクロチップの穿刺部位に対して位置決めするために機能する。また、開口部15には、液体注入治具2bのフランジ221(同図参照)に係止する回転ガイド151と、液体注入治具2bを構成するチャネル露出防止円板カム23bに係合する複数の開口部歯154が配設されている。図10中符号153は液体注入治具2bのフランジ221を回転ガイド151に係止させる際、フランジを挿過させるための回転ガイド切欠を示す。開口部15の位置決め機能、回転ガイド151及び開口部歯154の機能については詳しく後述する。
【0064】
(2)液体注入治具
図11は、本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具の構成を示す模式図である。図はチャネルが収容位置にある状態(A)と、チャネルが露出位置にある状態(B)の液体注入治具を示す。また、図12は、液体注入治具によるマイクロチップへの液体注入方法の一手順を示す模式図である。
【0065】
液体注入治具2bは、本体21、嵌合部22及びチャネル露出防止円板カム23bとから構成されている(図11参照)。本体21には、サンプルチューブ5をねじ込んで取り付けることが可能であり、サンプルチューブ5内のサンプル液をマイクロチップ3に穿刺注入するためのチャネル25が配設されている。本体21の構成は、第一実施形態に係る液体注入治具2と同様である。液体注入治具2bにおいても、チャネル25は治具内部への収容位置(図11(A)参照)と、治具外部への露出位置(図11(B)参照)とを位置変更可能とされている。
【0066】
液体注入治具2bは、嵌合部22を上述のマイクロチップケース1bの開口部15に嵌合させることによってマイクロチップケース1bに取り付けが可能である。この取り付けは、第一実施形態に係る液体注入治具2のマイクロチップケース1への取り付けと同様にして行うことができる。この際、開口部15が、液体注入治具2bに配設されたチャネル25をマイクロチップの穿刺部位34に対して位置決めするために機能する点も第一実施形態で説明した通りである。
【0067】
本体21にはガイドピン26が配設されており、嵌合部22及びチャネル露出防止円板カム23bにはガイドピン26を案内する案内溝がそれぞれ形成されている。嵌合部22には、第一実施形態に係る液体注入治具2と同様に、チャネル飛び出し方向に直線状にI字溝27が形成されている。
【0068】
チャネル露出防止円板カム23bは、円の中心から径方向に直線状のカムI字溝28bが形成され、中心には本体21に配設されたガイドピン26が挿過されている。チャネル露出防止円板カム23bは、ガイドピン26を軸として回転可能な状態で本体21の側面に取り付けられている。ガイドピン26は、本体21のI字溝27とチャネル露出防止円板カム23bのカムI字溝28bとに挿過されて、両案内溝に軸受されて案内される。チャネル露出防止円板カム23bの側周面には、開口部15への液体注入治具2bの嵌合時において、開口部15に設けられた開口部歯154に係合する複数のカム歯29bが形成されている。
【0069】
ガイドピン26及びカムI字溝28bは、チャネル25の収容位置から露出位置への移動(あるいは露出位置から収容位置への移動)を制御するための制動機構として機能する。マイクロチップケース1bの開口部15に設けられた開口部歯154と、チャネル露出防止円板カム23bに設けられたカム歯29bも、制動機構を構成する要素となる。図11を参照して、この制動機構について説明する。
【0070】
まず、図11(A)に示す状態では、本体21のI字溝27とチャネル露出防止円板カム23bのカムI字溝28bとが略90度の位置関係となっており、ガイドピン26の位置はチャネル露出防止円板カム23bの中心に固定されている。このロック状態では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できず、チャネル25は収容位置に保持される。
【0071】
一方、図11(B)に示す状態では、I字溝27とカムI字溝28bとが重なり合い、両案内溝によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に一致する。この解除状態では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できるようになる。従って、本体21を嵌合部22に押し込むようにすることで、チャネル25を収容位置から露出位置に移動できる。
【0072】
I字溝27及びカムI字溝28bは、ロック状態ではガイドピン26位置を固定し、解除状態では、チャネル飛び出し方向に一致する方向にガイドピン26を案内するよう変更されている。
【0073】
(3)治具セットを用いたサンプル液注入
ロック状態と解除状態の切り換えは、液体注入治具2bをマイクロチップケース1bの開口部15に取り付けて回転させることによって行うことができる。すなわち、まず、ロック状態にある液体注入治具2bの嵌合部22に設けられたフランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させる。このとき、チャネル露出防止円板カム23bに設けられたカム歯29bと、開口部15に設けられた開口部歯154とが係合する(図12も参照)。
【0074】
この操作後には、液体注入治具2bは依然としてロック状態にあり、ガイドピン26はチャネル露出防止円板カム23bの中心に位置固定された図11(A)の状態にある。
【0075】
次に、開口部15の回転ガイド151の案内方向に従って液体注入治具2bを回転させ、フランジ221を回転ガイド151に係合させる(図12参照)。このとき、チャネル露出防止円板カム23bのカム歯29bと開口部15の開口部歯154との咬合によって、チャネル露出防止円板カム23bがガイドピン26を軸として回転し(図11(A)矢印参照)、チャネル露出防止円板カム23bの回転位置が変更される。
【0076】
すなわち、チャネル露出防止円板カム23bは、I字溝27とカムI字溝28bとが略90度となっている回転位置から、I字溝27とカムI字溝28bとが重なり合う回転位置にまで変更される。そして、これにより、両案内溝によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に一致し、液体注入治具2bが解除状態となる。
【0077】
最後に、解除状態となった液体注入治具2bの本体21を嵌合部22に押し込み、チャネル25を収容位置から露出位置に移動させる(図11(B)参照)。収容位置から露出位置に移動されたチャネル25はマイクロチップの穿刺部位に穿刺され、サンプル液がマイクロチップに注入される。
【0078】
液体注入治具2bをマイクロチップケース1bから取り外す際は、上述の手順を逆から行う。液体注入治具2bの本体21を嵌合部22に押し込んだ状態では、ガイドピン26がチャネル露出防止円板カム23bの回転を阻止するため、液体注入治具2bは回転不能となっている。そこで、まず、解除状態となっている液体注入治具2bの本体21を嵌合部22から引き戻し、チャネル25を露出位置から収容位置に移動させる。
【0079】
これにより、ガイドピン26は、チャネル露出防止円板カム23bの中心に位置し、液体注入治具2bを、開口部15の回転ガイド151の案内方向に従って回転させることが可能となる。液体注入治具2bを回転させると、チャネル露出防止円板カム23bのカム歯29bと開口部15の開口部歯154との咬合によって、チャネル露出防止円板カム23bがガイドピン26を軸として回転し、液体注入治具2がロック状態となる。回転後、フランジ221の回転ガイド151への係合は解除されているので、最後に、フランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させて、液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外す。
【0080】
このように、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップケース1bの開口部15への嵌合時においてのみ、液体注入治具2bのチャネル25を収容位置から露出位置に移動させ、マイクロチップの穿刺部位に穿刺可能とできる。従って、液体注入治具2bが開口部15に嵌合していない状態においては、チャネル25が治具外部に露出することがないため、誤った操作によってチャネル25を人体表面に刺してしまう事故を防止して、操作の安全性を高めることができる。
【0081】
なお、本実施形態に係る治具セットにおいて、マイクロチップケース1b及び液体注入治具2bに設けられる開口部歯154及びカム歯29bは、互いに係合可能である限りにおいて、ここで説明した凹状又は凸状の歯に限定されず、鋸形状あるいはピン形状などであってもよい。
【0082】
3.第三実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース及び液体注入治具
図13及び図14は、本技術の第三実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース及び液体注入治具の構成を示す模式図である。
【0083】
マイクロチップケース1c及び液体注入治具2cは、液体注入治具2cの嵌合部22cが円柱体形状ではなく直方体形状とされている点で、上述の第一実施形態に係るマイクロチップケース1及び液体注入治具2と異なっている。また、マイクロチップケース1c及び液体注入治具2cは、嵌合部22cのマイクロチップケース1cの開口部15への嵌合を治具の回転ではなくスライドによって行う点でも、第一実施形態と異なっている。
【0084】
マイクロチップケース1cは、ケース上部11、ケース下部12及び開口部カバー14とから構成され、ヒンジ13によって結合されたケース上部11とケース下部12との間にマイクロチップを収容する。開口部カバー14の構成及び機能は、第一実施形態に係るマイクロチップケース1と同様である。また、マイクロチップケース1cに収容されるマイクロチップは、上述のマイクロチップ3とできる。
【0085】
開口部15は、液体注入治具2cに配設されたチャネル25(後述の図14参照)をケース内に収容されたマイクロチップの穿刺部位に対して位置決めするために機能する。また、開口部15には、液体注入治具2cのフランジ221に係止するスライドガイド151cが配設されている。図中符号153cは液体注入治具2cのフランジ221をスライドガイド151cに係止させる際、フランジ221を挿過させるためのスライドガイド切欠を示す。フランジ221は、直方体形状とされた嵌合部22cの四隅に設けられており、スライドガイド151c及びスライドガイド切欠153cは、フランジ221に対応する位置に4つずつ設けられている。
【0086】
液体注入治具2cは、本体21、嵌合部22c及びチャネル露出防止カム23cとから構成されている。チャネル露出防止カム23cは、板状部材とされており、直方体形状とされた嵌合部22cに形成されたカム収容溝に収容されている。嵌合部22cとチャネル露出防止カム23cは、チャネル露出防止カム23cがカム収容溝内に収容された状態において摺動が可能とされている。
【0087】
本体21にはガイドピン26が配設されており、嵌合部22c及びチャネル露出防止カム23cにはガイドピン26を案内する案内溝としてそれぞれI字溝27とL字溝28とが形成されている。
【0088】
ガイドピン26、I字溝27及びL字溝28の機能は、第一実施形態で説明した通りであり、チャネル25の収容位置(図14(A)参照)から露出位置(図14(B)参照)への移動(あるいは露出位置から収容位置への移動)を制御するための制動機構として機能する。
【0089】
(2)治具セットを用いたサンプル液注入
マイクロチップへのサンプル液の注入は、液体注入治具2cをマイクロチップケース1cの開口部15に取り付けてスライドさせることによって行う。まず、液体注入治具2cの嵌合部22cに設けられたフランジ221をスライドガイド切欠153cに挿過させる(図13参照)。このとき、チャネル露出防止カム23cに設けられたロックピン係合溝29と、開口部15に設けられたロックピン152とが係合する。
【0090】
このとき、液体注入治具2cは図14(A)に示すロック状態にあり、ガイドピン26は嵌合部22cのI字溝27と、チャネル露出防止カム23cのL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受されている。従って、本体21及びチャネル25のチャネル飛び出し方向への移動が阻止され、チャネル25は収容位置に保持されている。
【0091】
次に、L字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って、フランジ21をスライドガイド151cに沿わせながら液体注入治具2cをスライドさせ、フランジ221をスライドガイド151cに係合させる。このとき、チャネル露出防止カム23cは、ロックピン係合溝29とロックピン152との係合によってスライドできないように位置固定されている。このため、液体注入治具2cをスライドさせると、本体21と嵌合部22cのみが移動し、チャネル露出防止カム23cは移動せず、嵌合部22cとチャネル露出防止カム23cの相対位置が変更される。
【0092】
嵌合部22cとチャネル露出防止カム23cの相対位置が変更されると、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23cのL字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とが重なる。これにより、ガイドピン26はI字溝27と、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とに軸受された状態となり、I字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に変更され、液体注入治具2cは図14(B)に示す解除状態となる。
【0093】
解除状態では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できるようになる。従って、図のように、本体21を嵌合部22cに押し込むことで、チャネル25を収容位置から露出位置に移動して、マイクロチップケース1c内に収容されたマイクロチップの穿刺部位に穿刺できる。
【0094】
液体注入治具2cをマイクロチップケース1から取り外す際は、上述の手順を逆から行う。まず、解除状態となっている液体注入治具2cの本体21を嵌合部22cから引き戻し、チャネル25を露出位置から収容位置に移動させる。このとき、ガイドピン26は、チャネル露出防止カム23cのL字溝28の折れ曲がり箇所に位置している。
【0095】
次に、L字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って液体注入治具2cをスライドさせる。これにより、ガイドピン26は、嵌合部22cのI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受されるようになり、液体注入治具2cはロック状態とされる。スライド後、フランジ221をスライドガイド切欠153cに挿過させて、液体注入治具2cをマイクロチップケース1cから取り外す。
【0096】
なお、液体注入治具2cの本体21を嵌合部22cに押し込んだ状態では、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分によって、液体注入治具2cはスライド不能とされているため、液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外すことはできない。
【0097】
このように、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップケース1の開口部15への嵌合時においてのみ、液体注入治具2cのチャネル25を収容位置から露出位置に移動させ、マイクロチップの穿刺部位に穿刺可能とできる。従って、液体注入治具2cが開口部15に嵌合していない状態においては、チャネル25が治具外部に露出することがないため、誤った操作によってチャネル25を人体表面に刺してしまう事故を防止して、操作の安全性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本技術に係るサンプル液注入治具セット等によれば、試料を簡便かつ正確にマイクロチップの領域内に導入でき、高い分析精度を得ることができる。そのため、本技術に係る治具セット等は、マイクロチップ上の流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップ上のウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイムPCR装置)などともに好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0099】
1,1b,1c:マイクロチップケース、11:ケース上部、111:カバーロックばね、12:ケース下部、121:カバーガイド、122:カバーガイド切欠、13:ヒンジ、14:開口部カバー、141:カバー爪、15:開口部、151:回転ガイド、151c:スライドガイド、152:ロックピン、153:回転ガイド切欠、153c:スライドガイド切欠、154:開口部歯、2,2b,2c:液体注入治具、21:本体、22,22c:嵌合部、221:フランジ、222:チャネル孔、23,23c:チャネル露出防止カム、23b:チャネル露出防止円板カム、24:カム収容溝、25:チャネル、26:ガイドピン、27:I字溝、28:L字溝、28b:カムI字溝、29:ロックピン係合溝、29b:カム歯、3:マイクロチップ、3a,3b:基板層、31:導入部、32:流路、33:ウェル、34:穿刺部位、4:マイクロチップホルダー、5:サンプルチューブ
【技術分野】
【0001】
本技術は、サンプル液注入治具セットに関する。より詳しくは、マイクロチップケースと液体注入治具とを含んで構成され、マイクロチップへのサンプル液注入のために用いられるサンプル液注入治具セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用して、シリコン製基板またはガラス製基板などの基板に、化学的分析あるいは生物学的分析を行うためのウェルまたは流路などの領域を設けたマイクロチップが開発されている(例えば、特許文献1参照)。このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-Total-Analysis System)やラボ・オン・チップ、バイオチップなどと称され、分析の高速化、高効率化あるいは集積化、および分析装置の小型化などを可能にする技術として注目されている。
【0003】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能であり、マイクロチップのディスポーザブルユーズ(使い捨て)が可能であることから、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0004】
μ−TASの応用例として、マイクロチップに配設された複数の領域内に物質を導入し、該物質を光学的に検出する光学検出装置がある。このような光学検出装置としては、マイクロチップの流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップのウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイム核酸増幅反応装置)などがある。
【0005】
μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しく、領域内に存在する空気によって試料の導入が阻害されたり、導入に時間がかかったりする場合があった。また、試料の導入の際に、領域内に気泡が生じる場合があった。その結果、各流路または各ウェルなどに導入される試料の量にばらつきが生じて分析精度が低下したり、分析効率が低下したりするという問題があった。また、核酸増幅反応のように試料の加熱を行う場合には、領域内に残存した気泡が膨脹し、反応を阻害したり、分析精度を低下させたりするという問題があった。
【0006】
μ−TASにおける試料の導入を容易にするため、例えば、特許文献2には、「試料を導入する試料導入部と、前記試料を収容する複数の収容部と、夫々の前記収容部に接続された複数の排気部と、を少なくとも備え、少なくとも二以上の前記排気部は、一端が開放された一の開放路に連通された基板」が開示されている。この基板では、各収容部に排気部を接続することにより、試料導入部から収容部に試料が導入される際に、収容部中に存在する空気が排気部から排出されるため、収容部にスムーズに試料を充填することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−219199号公報
【特許文献2】特開2009−284769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、μ−TASでは、試料が微量で、ウェルや流路などの領域も微小であるために、試料を正確に領域内に導入することが難しい場合があった。そこで、本技術は、マイクロチップの領域内に試料を簡便かつ正確に導入可能なサンプル液注入治具セットを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、マイクロチップへの液体注入に用いられる治具セットであって、外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容するマイクロチップケースと、前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備え、該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされた液体注入治具と、を含んで構成される治具セットを提供する。この治具セットにおいて、マイクロチップケースには、液体注入治具を嵌合させる開口部が設けられる。また、マイクロチップケース及び液体注入治具には、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決め可能とする、制動機構が設けられる。
この治具セットにおいて、前記液体注入治具は、前記チャネルとガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とするものとできる。
この治具セットでは、液体注入治具のチャネルがマイクロチップの所定部位に位置決めされるようにされていることで、液体試料をマイクロチップの領域内に簡便かつ正確に導入できる。また、この治具セットでは、液体注入治具をマイクロチップケースに嵌合させた状態でのみ、液体注入治具のチャネルが治具外部に露出するようにされているため、注入操作の際に操作者が誤ってチャネルに触れるおそれがなく、安全に操作を行うことができる。
【0010】
この治具セットにおいて、前記液体注入治具の前記部材は、前記収容位置から前記露出位置への前記チャネルの移動方向に沿う方向に直線状に形成された第一案内溝を有する第一部材と、該移動方向に沿う方向及び直交する方向に鉤状に形成された第二案内溝を有する第二部材と、からなるものとできる。この場合、前記ガイドピンは、第一案内溝及び第二案内溝に軸受けされて案内される。そして、ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持され、ガイドピンが第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる。
具体的には、前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記液体注入治具の前記第一部材あるいは前記第二部材の一方と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する係合部を形成する。そして、液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対して、他方の部材の位置を変更することにより、第二部材の前記第二案内溝の前記移動方向に沿う部分と、第一部材の前記第一案内溝とが重なり合い、前記ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態から、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態に変更されるように構成する。
前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対する他方の部材の位置変更は、前記液体注入治具を前記開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転あるいはスライドさせることにより行うことができる。
【0011】
また、この治具セットにおいて、前記液体注入治具の前記部材は、円の中心から径方向に直線状に案内溝が形成され、中心に挿過される前記ガイドピンを軸として回転可能とされた円板部材としてもよい。この場合、円板部材の案内溝の方向と前記収容位置から前記露出位置への前記チャネルの移動方向とが一致しない回転位置に円板部材がある状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持される。そして、案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に円板部材がある状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる。
具体的には、前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記円板部材の側周面と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する複数の歯を形成する。そして、液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転させるとともに、前記歯の咬合によって円板部材を前記ガイドピンを軸として回転させることにより、円板部材が、案内溝の方向と前記移動方向とが一致しない回転位置から、案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に変更されるように構成する。
【0012】
さらに、本技術は、マイクロチップに形成された領域内へ液体を導入するチャネルと、ガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなる液体注入治具を提供する。この液体注入治具は、チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされるとともに、前記案内溝によるガイドピンの案内方向が変更可能とされる。そして、前記案内方向を、前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させることにより、チャネルを収容位置から露出位置に移動させて、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めするように構成される。
この液体注入治具は、前記マイクロチップを収容するマイクロチップケースに設けられた開口部への嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めする、制動機構を有するものである。
具体的には、前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とする。
【0013】
併せて、本技術は、外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容し、前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備えた液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記領域を形成する基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられているマイクロチップケースをも提供する。
このマイクロチップケースは、前記開口部を形成したケース上部と、ケース上部にヒンジによって結合されたケース下部と、開口部を覆う位置と開口部を露出させる位置との間で位置変更可能とされた開口部カバーと、を含んで構成される。そして、このマイクロチップケースは、前記ヒンジが閉じられた状態においてケース上部とケース下部との間に前記マイクロチップを収容する。
このマイクロチップケースにおいて、前記開口部カバーは、開口部の露出位置において、前記ケース下部に設けられた係合部に係合して、ヒンジを閉じられた状態に保持する爪を有するものとされる。この場合、前記開口部カバーは、前記開口部の被覆位置と露出位置との間をスライドするものとし、前記係合部は、開口部カバーのスライド方向に沿って形成されるとともに、被覆位置にある開口部カバーの前記爪に対応する箇所が切り欠かれているものとされることが好ましい。
このマイクロチップケースは、上述の液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記領域を形成する基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられており、開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記所定部位に位置決めする、制動機構を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本技術により、試料を簡便かつ正確に領域内に導入でき、高い分析精度が得られるマイクロチップが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1の構成を説明する図である。
【図2】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1の構成を説明する図である。
【図3】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1の構成を説明する図である。
【図4】マイクロチップ3の構成を説明する図である。
【図5】マイクロチップ3へのサンプル液の導入方法を説明する図である。
【図6】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2の構成を示す図である。
【図7】本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2の構成を示す図である。
【図8】マイクロチップケース1及び液体注入治具2を用いたマイクロチップ3への液体注入方法を説明する図である。
【図9】マイクロチップケース1及び液体注入治具2を用いたマイクロチップ3への液体注入方法を説明する図である。
【図10】本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1bの開口部15の構成を説明する図である。
【図11】本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2bの構成を示す図である。
【図12】マイクロチップケース1b及び液体注入治具2bを用いたマイクロチップへの液体注入方法を説明する図である。
【図13】本技術の第三実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース1c及び液体注入治具2cの構成を説明する図である。
【図14】本技術の第三実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具2cの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序により行う。
1.第一実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
(2)マイクロチップ
(2−1)マイクロチップの構成
(2−2)マイクロチップへのサンプル液の導入
(3)液体注入治具
(4)治具セットを用いたサンプル液注入
2.第二実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
(2)液体注入治具
(3)治具セットを用いたサンプル液注入
3.第三実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース及び液体注入治具
(2)治具セットを用いたサンプル液注入
【0017】
1.第一実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
図1〜図3は、本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケースの構成を示す模式図である。図1はマイクロチップケースが閉じた状態、図2はマイクロチップケースの開口部カバーが開いた状態、図3はマイクロチップケースが開いた状態を示す。
【0018】
マイクロチップケース1は、ケース上部11、ケース下部12及び開口部カバー14とから構成されている。ケース上部11とケース下部12はヒンジ13によって結合されている。マイクロチップケース1は、ケース上部11とケース下部12との間にマイクロチップ3を収容する(図3参照)。図3中符号4は、マイクロチップ3をケース下部12に取り付けるためのマイクロチップホルダーを示す。ケース下部12及びマイクロチップホルダー4には、マイクロチップ3の取り付け位置を位置決めするための位置決めピンと位置決め孔がそれぞれ設けられている(符号省略)。
【0019】
ケース上部11には、後述する液体注入治具2が嵌合される開口部15が形成されており、開口部カバー14は、開口部15を覆う位置(図1参照)と開口部15を露出させる位置(図2参照)との間で位置変更可能とされている。開口部カバー14は、被覆位置と露出位置との間をスライドできるようにされている。
【0020】
開口部15は、液体注入治具2に配設されたチャネル25(後述の図6参照)をケース内に収容されたマイクロチップ3の所定部位に対して位置決めするために機能する。また、開口部15には、液体注入治具2のフランジ221(同図参照)に係止する回転ガイド151と、液体注入治具2を構成する部材の一つに係合するロックピン152が配設されている。図2中符号153は液体注入治具2のフランジ221を回転ガイド151に係止させる際、フランジ221を挿過させるための回転ガイド切欠を示す。開口部15の位置決め機能、回転ガイド151及びロックピン152の機能については詳しく後述する。
【0021】
開口部カバー14は、ケース下部12に設けられたカバーガイド121に係合するカバー爪141を有している。カバーガイド121は、開口部カバー14のスライド方向に沿って形成されている。カバー爪141は、開口部カバー14が開口部15の露出位置にあるときには、カバーガイド121に係合して、ヒンジ13を閉じられた状態に保持する(図2参照)。このため、開口部カバー14が開口部15の露出位置にある場合には、マイクロチップケース1は開くことができない。
【0022】
カバーガイド121には、開口部15の被覆位置にある開口部カバー14のカバー爪141に対応する箇所を一部切り欠くことにより、カバーガイド切欠122が構成されている。このため、開口部カバー14が開口部15の被覆位置にあるときには、カバー爪141はカバーガイド121に係合することがなく、ヒンジ13を開いてマイクロチップケース1を開くことが可能である(図1及び図3参照)。
【0023】
マイクロチップケース1にマイクロチップ3を収容する際には、開口部カバー14が開口部15の被覆位置にある状態でヒンジ13を開いて、マイクロチップケース1を開く(図3参照)。このとき、開口部カバー14の位置を固定するため、ケース上部11にはカバーロックばね111が設けられている。カバーロックばね111は、マイクロチップケース1が開いた状態では、開口部カバー14のカバー爪141に係合するように突出して、開口部カバー14の位置を固定する。一方、マイクロチップケース1が閉じされた状態では、カバーロックばね111は、接触するケース下部12によって押し込められ、開口部カバー14の位置固定を解除する。
【0024】
マイクロチップケース1はプラスチック製とすることができる。マイクロチップケース1は、内部に収容したマイクロチップ3を視認可能とするため、窓を設けるか、一部あるいは全部を透明な材料により形成することが好ましい。これにより、マイクロチップ3へのサンプル液の注入時に、流路及びウェル内へ導入されていくサンプル液を目視で確認できる。さらに、流路及びウェルを拡大して視認性を高めるため、マイクロチップケース1の窓にレンズを配してもよい。
【0025】
(2)マイクロチップ
(2−1)マイクロチップの構成
図4は、マイクロチップケース1に収容されるマイクロチップ3の構成の一例を示す模式図である。(A)は上面図、(B)は(A)中P−P断面に対応する断面図を示す。なお、マイクロチップ3は、本技術に係る治具セットの必須の構成となるものではない。
【0026】
マイクロチップ3には、化学的分析あるいは生物学的分析の対象となる物質を含む液体(サンプル液)が導入される領域として、導入部31、流路32及びウェル33が配設されている。
【0027】
導入部31は、外部からサンプル液が穿刺注入される領域である。ウェル33は、サンプル液に含まれる物質あるいは該物質の反応生成物の分析場となる領域である。流路32は、導入部31に注入されたサンプル液を各ウェル33に送液するための領域である。導入部31に注入され、流路32を送液されるサンプル液は、ウェル33内に順に導入される。
【0028】
マイクロチップ3は、導入部31、流路32及びウェル33を形成した基板層3aに基板層3bを貼り合わせて構成されている。マイクロチップ3では、基板層3aと基板層3bの貼り合わせを大気圧に対して負圧下で行うことにより、導入部31、流路32及びウェル33の各領域の内部が、大気圧に対して負圧(例えば1/100気圧)となるように気密に封止されている。さらに、基板層3aと基板層3bの貼り合わせは真空下で行い、各領域の内部が真空となるように気密に封止することがより好ましい。
【0029】
基板層3a,3bの材質は、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン)とすることができる。基板層3a,3bの少なくとも一方は、弾性を有する材質とすることが好ましい。弾性を有する材料としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン系エラストマーの他、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、スチレン系エラストマー、エポキシ系エラストマー、天然ゴムなどが挙げられる。基板層3a,3bの少なくとも一方をこれらの弾性を有する材料により形成することで、マイクロチップ3に、次に説明する自己封止性を付与することができる。
【0030】
ウェル33内に導入された物質の分析を光学的に行う場合には、基板層3a,3bの材質は、光透過性を有し、自家蛍光が少なく、波長分散が小さいために光学誤差の少ない材料を選択することが好ましい。
【0031】
基板層3aへの導入部31、流路32及びウェル33の成形は、例えば、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、あるいはプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、切削加工によって行うことができる。各領域は、基板層3bに成形されてもよく、あるいは基板層3aに一部を基板層3bに残りの部分を成形されてもよい。基板層3aと基板層3bの貼り合わせは、例えば、熱融着、接着剤、陽極接合、粘着シートを用いた接合、プラズマ活性化結合、超音波接合等の公知の手法により行うことができる。
【0032】
基板層3a,3bには、ガス不透過性を備える基板層をさらに積層してもよい。これにより、ウェル33内に導入したサンプル液を加熱した際に、気化したサンプル液が基板層を透過し、消失(液抜け)してしまうのを防止できる。
【0033】
ガス不透過性を備える基板層の材質は、ガラス、プラスチック類、金属類およびセラミック類などが採用できる。プラスチック類としては、PMMA(ポリメチルメタアクリレート:アクリル樹脂)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、SAN樹脂(スチレン−アクリロニトリル共重合体)、MS樹脂(MMA−スチレン共重合体)、TPX(ポリ(4−メチルペンテン−1))、ポリオレフィン、SiMA(シロキサニルメタクリレートモノマー)−MMA共重合体、SiMA−フッ素含有モノマー共重合体、シリコーンマクロマー(A)−HFBuMA(ヘプタフルオロブチルメタクリレート)−MMA3元共重合体、ジ置換ポリアセチレン系ポリマー等が挙げられる。金属類としては、アルミニウム、銅、ステンレス(SUS)、ケイ素、チタン、タングステン等が挙げられる。セラミック類としては、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミ(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニア(ZrO2)、石英等があげられる。
【0034】
(2−2)マイクロチップへのサンプル液の導入
次に、図5を参照して、マイクロチップ3へのサンプル液の導入方法を説明する。図5は、マイクロチップ3の断面模式図であり、図4中P−P断面に対応する。
【0035】
マイクロチップ3へのサンプル液の導入は、後述する液体注入治具2に配設されたチャネル25を基板層3aに穿通させ、導入部31にサンプル液を注入することによって行う(図5(A)参照)。図中、矢印F1は、チャネル25の穿刺方向を示す。チャネル25は、基板層3aの表面から、先端部が基板層3aを貫通して導入部31内空に到達するように穿刺される。基板層3aへのチャネル25の穿刺部位を符号34によって示す。なお、上述のガス不透過性の基板層を基板層3aに積層する場合には、穿刺部位34及びその周囲を除いて積層を行う。
【0036】
外部から導入部31に注入されたサンプル液は、流路32を送液され(図中、矢印f参照)、ウェル33内に導入される。マイクロチップ3では、導入部31、流路32及びウェル33の各領域の内部が、大気圧に対して負圧とされている。このため、チャネル25の先端部が導入部31内空に到達すると、サンプル液が陰圧によって吸引され各領域内にスムーズに短時間で導入される。さらに、各領域の内部を真空とした場合には、各領域の内部に空気が存在しないため、空気によってサンプル液の導入が阻害されたり、気泡が発生したりすることがない。
【0037】
サンプル液の導入後は、図5(B)に示すように、チャネル25を引き抜き、基板層3aの穿刺部位34を封止する。図中、矢印F2は、チャネル25の抜去方向を示す。このとき、基板層3aをPDMS等の弾性を有する材料により形成しておくことにより、チャネル25の引き抜き後に、基板層3aの弾性変形による復元力で穿刺部位34が自然に封止されるようにできる。本技術においては、この基板層の弾性変形による穿刺箇所の自然封止を、基板層の「自己封止性」と定義するものとする。
【0038】
基板層3aの自己封止性を確保するため、穿刺部位34における基板層表面から導入部31内空までの基板層の厚さ(図中、符号d参照)は、基板層3aの材質やチャネル25の径に応じて適切な範囲に設定される必要がある。また、分析時にマイクロチップ3を加熱する場合には、加温に伴う内圧の上昇によって自己封止性が失われないように、厚さdを設定する。
【0039】
基板層3aの弾性変形による自己封止を確実とするため、チャネル25には、可能な限り径の細いものを使用することが望ましい。具体的には、インスリン用注射針として用いられる、先端外径が0.2mm程度の無痛針が好適に使用される。
【0040】
チャネル25として、先端外径0.2mmの無痛針を用いる場合、PDMSにより形成された基板層3aの厚みdは0.5mm以上、加熱が行われる場合には0.7mm以上が好適となる。
【0041】
ここでは、マイクロチップ3を、1本の流路で連通された5つのウェルが計5組(合計25個のウェル)配設されたもとして説明した。しかし、マイクロチップ3において、配設されるウェルの数や位置は任意とでき、ウェルの形状も図に示した円柱形状に限定されない。また、導入部31に注入されたサンプル液を各ウェルに送液するための流路の構成も図に示した態様に限定されないものとする。さらに、ここでは、基板層3aを弾性材料により形成し、チャネル25を基板層3aの表面から穿刺する場合を説明した。しかし、チャネル25は基板層3bの表面から穿刺してもよく、この場合には、基板層3bを弾性材料により形成し、自己封止性を付与すればよい。
【0042】
(3)液体注入治具
図6及び図7は、本技術の第一実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具の構成を示す模式図である。図6は液体注入治具を構成する部品を示す。図7はチャネルが収容位置にある状態(A)と、チャネルが露出位置にある状態(B)の液体注入治具を示す。また、図8は、液体注入治具のマイクロチップケースへの取り付け方法と、マイクロチップへの液体注入方法を示す模式図である。
【0043】
液体注入治具2は、本体21、嵌合部22及びチャネル露出防止カム23とから構成されている(図6参照)。チャネル露出防止カム23は、嵌合部22に形成されたカム収容溝24内に収容される。嵌合部22とチャネル露出防止カム23は、チャネル露出防止カム23がカム収容溝24内に収容された状態において摺動が可能とされている。
【0044】
本体21には、サンプル液を充填したサンプルチューブ5をねじ込んで取り付けることが可能である。また、本体21には、サンプルチューブ5内のサンプル液をマイクロチップ3に穿刺注入するためのチャネル25が配設されている。液体注入治具2において、チャネル25は治具内部への収容位置(図7(A)参照)と、治具外部への露出位置(図7(B)参照)とを位置変更可能とされている。図6中符号222は、露出位置にあるチャネル25が挿通するチャネル孔を示す。
【0045】
液体注入治具2は、嵌合部22を上述のマイクロチップケース1の開口部15に嵌合させることによってマイクロチップケース1に取り付けが可能である。具体的には、嵌合部22に設けられたフランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させ(図8(A)参照)、液体注入治具2を回転させてフランジ221を回転ガイド151に係合させることによって、液体注入治具2をマイクロチップケース1に取り付けることができる(図8(B)参照)。この際、開口部15は、液体注入治具2に配設されたチャネル25をマイクロチップ3の穿刺部位34に対して位置決めするために機能する(後述の図9も参照)。
【0046】
本体21にはガイドピン26が配設されており、嵌合部22及びチャネル露出防止カム23にはガイドピン26を案内する案内溝がそれぞれ形成されている。嵌合部22には、チャネル25の収容位置(図7(A)参照)から露出位置(図7(B)参照)への移動方向に沿う方向(以下、「チャネル飛び出し方向」とも称する)に直線状に案内溝27(以下、「I字溝27」と称する)が形成されている。一方、チャネル露出防止カム23には、チャネル飛び出し方向に沿う方向及び直交する方向に鉤状に案内溝28(以下、「L字溝28」と称する)が形成されている。I字溝27とL字溝28は、チャネル露出防止カム23が嵌合部22のカム収容溝24内に収容された状態において、一部が重なり合うようにされている。そして、ガイドピン26は、I字溝27とL字溝28の重なり部分に挿過されて、両案内溝に軸受されて案内される。
【0047】
ガイドピン26、I字溝27及びL字溝28は、チャネル25の収容位置から露出位置への移動(あるいは露出位置から収容位置への移動)を制御するための制動機構として機能する。マイクロチップケース1の開口部15に設けられたロックピン152と、チャネル露出防止カム23に設けられたロックピン係合溝(図6符号29参照)も、制動機構を構成する要素となる。図7を参照して、この制動機構について説明する。
【0048】
まず、図7(A)に示す状態では、ガイドピン26が、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受されている。この状態(以下、「ロック状態」とも称する)では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できないため、チャネル25は収容位置に保持される。
【0049】
一方、図7(B)に示す状態では、ガイドピン26が、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とに軸受されている。この状態(以下、「解除状態」とも称する)では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できるようになる。従って、図のように、本体21を嵌合部22に押し込むことで、チャネル25を収容位置から露出位置に移動できる。
【0050】
I字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向は、ロック状態では、チャネル飛び出し方向に直交する方向であり、液体注入治具2の回転方向(図8(B)矢印参照)となっている。一方、解除状態におけるI字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向は、チャネル飛び出し方向に一致する方向に変更されている。
【0051】
(4)治具セットを用いたサンプル液注入
ロック状態と解除状態の切り換えは、液体注入治具2をマイクロチップケース1の開口部15に取り付けて回転させることによって行うことができる。すなわち、まず、ロック状態にある液体注入治具2の嵌合部22に設けられたフランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させる(図8(A)参照)。このとき、チャネル露出防止カム23に設けられたロックピン係合溝29と、開口部15に設けられたロックピン152とが係合する(図6も参照)。
【0052】
この操作後には、液体注入治具2は依然としてロック状態にあり、ガイドピン26は嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受された図7(A)の状態にある。
【0053】
次に、L字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って、フランジ221を回転ガイド151に沿わせながら液体注入治具2を回転させ、フランジ221を回転ガイド151に係合させる(図8(B)参照)。このとき、チャネル露出防止カム23は、ロックピン係合溝29とロックピン152との係合によって回転できないように位置固定されている。このため、液体注入治具2を回転させると、本体21と嵌合部22のみが回転し、嵌合部22のカム収容溝24内に収容されたチャネル露出防止カム23は回転せず、嵌合部22とチャネル露出防止カム23の相対位置が変更される。
【0054】
ガイドピン26が、チャネル露出防止カム23のL字溝28の折れ曲がり箇所に至るまで液体注入治具2を回転させると、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とが重なる。これにより、ガイドピン26はI字溝27と、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とに軸受された状態となり、I字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に変更され、液体注入治具2が解除状態となる。
【0055】
最後に、解除状態となった液体注入治具2の本体21を嵌合部22に押し込み、チャネル25を収容位置から露出位置に移動させる(図8(C)参照)。チャネル25は、マイクロチップケース1の開口部15によって、マイクロチップ3の穿刺部位34に対して位置決めされている。このため、収容位置から露出位置に移動されたチャネル25は、マイクロチップ3の基板層3aの穿刺部位34に正確に穿刺される。図8(C)に対応する断面模式図を図9に示す。穿刺部位34に穿刺されたチャネル25の先端部が導入部31内空に到達すると、サンプルチューブ5内のサンプル液が陰圧によって吸引され、導入部31内に導入される。
【0056】
液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外す際は、上述の手順を逆から行う。液体注入治具2の本体21を嵌合部22に押し込んだ状態では、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分によって、液体注入治具2bは回転不能とされている。そこで、まず、解除状態となっている液体注入治具2の本体21を嵌合部22から引き戻し、チャネル25を露出位置から収容位置に移動させる。
【0057】
これにより、ガイドピン26は、チャネル露出防止カム23のL字溝28の折れ曲がり箇所に位置することとなり、液体注入治具2をL字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って回転させることが可能となる。液体注入治具2を回転させると、ガイドピン26は、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受され、液体注入治具2はロック状態となる。回転後、フランジ221の回転ガイド151への係合は解除されているので、最後に、フランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させることにより、液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外す。
【0058】
このように、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップ3の微小な領域内にも正確かつ簡便にサンプル液を導入できる。また、チャネル25をマイクロチップ3の不適切な部位に穿刺してしまうことにより、領域内に外気が漏れ込んで、負圧によるサンプル液の吸引が不能あるいは不良となるのを防止できる。
【0059】
さらに、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップケース1の開口部15への嵌合時においてのみ、液体注入治具2のチャネル25を収容位置から露出位置に移動させ、マイクロチップ3の穿刺部位34に穿刺可能とできる。従って、液体注入治具2が開口部15に嵌合していない状態においては、チャネル25が治具外部に露出することがないため、誤った操作によってチャネル25を人体表面に刺してしまう事故を防止して、操作の安全性を高めることもできる。なお、液体注入治具2が開口部15に嵌合し、開口部カバー14が開口部15の露出位置にある場合には、マイクロチップケース1は開くことができないため、液体注入治具2を開口部15に嵌合した後の万が一の針刺し事故も防止できる。
【0060】
2.第二実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース
図10は、本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケースの開口部15の構成を示す拡大模式図である。図はマイクロチップケースの開口部カバーが開いた状態を示す。
【0061】
マイクロチップケース1bは、ケース上部11、ケース下部12及び開口部カバー14とから構成され、ヒンジ13によって結合されたケース上部11とケース下部12との間にマイクロチップを収容する。マイクロチップケース1bに収容されるマイクロチップは、上述のマイクロチップ3とできる。
【0062】
ケース上部11には、後述する液体注入治具2bが嵌合される開口部15が形成されている。開口部カバー14は、開口部15を覆う位置と開口部15を露出させる位置との間でスライドし、位置変更可能とされている。開口部カバー14の構成及び機能は、第一実施形態に係るマイクロチップケース1と同様である。
【0063】
開口部15は、液体注入治具2bに配設されたチャネル25(後述の図11参照)をケース内に収容されたマイクロチップの穿刺部位に対して位置決めするために機能する。また、開口部15には、液体注入治具2bのフランジ221(同図参照)に係止する回転ガイド151と、液体注入治具2bを構成するチャネル露出防止円板カム23bに係合する複数の開口部歯154が配設されている。図10中符号153は液体注入治具2bのフランジ221を回転ガイド151に係止させる際、フランジを挿過させるための回転ガイド切欠を示す。開口部15の位置決め機能、回転ガイド151及び開口部歯154の機能については詳しく後述する。
【0064】
(2)液体注入治具
図11は、本技術の第二実施形態に係る治具セットに含まれる液体注入治具の構成を示す模式図である。図はチャネルが収容位置にある状態(A)と、チャネルが露出位置にある状態(B)の液体注入治具を示す。また、図12は、液体注入治具によるマイクロチップへの液体注入方法の一手順を示す模式図である。
【0065】
液体注入治具2bは、本体21、嵌合部22及びチャネル露出防止円板カム23bとから構成されている(図11参照)。本体21には、サンプルチューブ5をねじ込んで取り付けることが可能であり、サンプルチューブ5内のサンプル液をマイクロチップ3に穿刺注入するためのチャネル25が配設されている。本体21の構成は、第一実施形態に係る液体注入治具2と同様である。液体注入治具2bにおいても、チャネル25は治具内部への収容位置(図11(A)参照)と、治具外部への露出位置(図11(B)参照)とを位置変更可能とされている。
【0066】
液体注入治具2bは、嵌合部22を上述のマイクロチップケース1bの開口部15に嵌合させることによってマイクロチップケース1bに取り付けが可能である。この取り付けは、第一実施形態に係る液体注入治具2のマイクロチップケース1への取り付けと同様にして行うことができる。この際、開口部15が、液体注入治具2bに配設されたチャネル25をマイクロチップの穿刺部位34に対して位置決めするために機能する点も第一実施形態で説明した通りである。
【0067】
本体21にはガイドピン26が配設されており、嵌合部22及びチャネル露出防止円板カム23bにはガイドピン26を案内する案内溝がそれぞれ形成されている。嵌合部22には、第一実施形態に係る液体注入治具2と同様に、チャネル飛び出し方向に直線状にI字溝27が形成されている。
【0068】
チャネル露出防止円板カム23bは、円の中心から径方向に直線状のカムI字溝28bが形成され、中心には本体21に配設されたガイドピン26が挿過されている。チャネル露出防止円板カム23bは、ガイドピン26を軸として回転可能な状態で本体21の側面に取り付けられている。ガイドピン26は、本体21のI字溝27とチャネル露出防止円板カム23bのカムI字溝28bとに挿過されて、両案内溝に軸受されて案内される。チャネル露出防止円板カム23bの側周面には、開口部15への液体注入治具2bの嵌合時において、開口部15に設けられた開口部歯154に係合する複数のカム歯29bが形成されている。
【0069】
ガイドピン26及びカムI字溝28bは、チャネル25の収容位置から露出位置への移動(あるいは露出位置から収容位置への移動)を制御するための制動機構として機能する。マイクロチップケース1bの開口部15に設けられた開口部歯154と、チャネル露出防止円板カム23bに設けられたカム歯29bも、制動機構を構成する要素となる。図11を参照して、この制動機構について説明する。
【0070】
まず、図11(A)に示す状態では、本体21のI字溝27とチャネル露出防止円板カム23bのカムI字溝28bとが略90度の位置関係となっており、ガイドピン26の位置はチャネル露出防止円板カム23bの中心に固定されている。このロック状態では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できず、チャネル25は収容位置に保持される。
【0071】
一方、図11(B)に示す状態では、I字溝27とカムI字溝28bとが重なり合い、両案内溝によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に一致する。この解除状態では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できるようになる。従って、本体21を嵌合部22に押し込むようにすることで、チャネル25を収容位置から露出位置に移動できる。
【0072】
I字溝27及びカムI字溝28bは、ロック状態ではガイドピン26位置を固定し、解除状態では、チャネル飛び出し方向に一致する方向にガイドピン26を案内するよう変更されている。
【0073】
(3)治具セットを用いたサンプル液注入
ロック状態と解除状態の切り換えは、液体注入治具2bをマイクロチップケース1bの開口部15に取り付けて回転させることによって行うことができる。すなわち、まず、ロック状態にある液体注入治具2bの嵌合部22に設けられたフランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させる。このとき、チャネル露出防止円板カム23bに設けられたカム歯29bと、開口部15に設けられた開口部歯154とが係合する(図12も参照)。
【0074】
この操作後には、液体注入治具2bは依然としてロック状態にあり、ガイドピン26はチャネル露出防止円板カム23bの中心に位置固定された図11(A)の状態にある。
【0075】
次に、開口部15の回転ガイド151の案内方向に従って液体注入治具2bを回転させ、フランジ221を回転ガイド151に係合させる(図12参照)。このとき、チャネル露出防止円板カム23bのカム歯29bと開口部15の開口部歯154との咬合によって、チャネル露出防止円板カム23bがガイドピン26を軸として回転し(図11(A)矢印参照)、チャネル露出防止円板カム23bの回転位置が変更される。
【0076】
すなわち、チャネル露出防止円板カム23bは、I字溝27とカムI字溝28bとが略90度となっている回転位置から、I字溝27とカムI字溝28bとが重なり合う回転位置にまで変更される。そして、これにより、両案内溝によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に一致し、液体注入治具2bが解除状態となる。
【0077】
最後に、解除状態となった液体注入治具2bの本体21を嵌合部22に押し込み、チャネル25を収容位置から露出位置に移動させる(図11(B)参照)。収容位置から露出位置に移動されたチャネル25はマイクロチップの穿刺部位に穿刺され、サンプル液がマイクロチップに注入される。
【0078】
液体注入治具2bをマイクロチップケース1bから取り外す際は、上述の手順を逆から行う。液体注入治具2bの本体21を嵌合部22に押し込んだ状態では、ガイドピン26がチャネル露出防止円板カム23bの回転を阻止するため、液体注入治具2bは回転不能となっている。そこで、まず、解除状態となっている液体注入治具2bの本体21を嵌合部22から引き戻し、チャネル25を露出位置から収容位置に移動させる。
【0079】
これにより、ガイドピン26は、チャネル露出防止円板カム23bの中心に位置し、液体注入治具2bを、開口部15の回転ガイド151の案内方向に従って回転させることが可能となる。液体注入治具2bを回転させると、チャネル露出防止円板カム23bのカム歯29bと開口部15の開口部歯154との咬合によって、チャネル露出防止円板カム23bがガイドピン26を軸として回転し、液体注入治具2がロック状態となる。回転後、フランジ221の回転ガイド151への係合は解除されているので、最後に、フランジ221を回転ガイド切欠153に挿過させて、液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外す。
【0080】
このように、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップケース1bの開口部15への嵌合時においてのみ、液体注入治具2bのチャネル25を収容位置から露出位置に移動させ、マイクロチップの穿刺部位に穿刺可能とできる。従って、液体注入治具2bが開口部15に嵌合していない状態においては、チャネル25が治具外部に露出することがないため、誤った操作によってチャネル25を人体表面に刺してしまう事故を防止して、操作の安全性を高めることができる。
【0081】
なお、本実施形態に係る治具セットにおいて、マイクロチップケース1b及び液体注入治具2bに設けられる開口部歯154及びカム歯29bは、互いに係合可能である限りにおいて、ここで説明した凹状又は凸状の歯に限定されず、鋸形状あるいはピン形状などであってもよい。
【0082】
3.第三実施形態に係る治具セット
(1)マイクロチップケース及び液体注入治具
図13及び図14は、本技術の第三実施形態に係る治具セットに含まれるマイクロチップケース及び液体注入治具の構成を示す模式図である。
【0083】
マイクロチップケース1c及び液体注入治具2cは、液体注入治具2cの嵌合部22cが円柱体形状ではなく直方体形状とされている点で、上述の第一実施形態に係るマイクロチップケース1及び液体注入治具2と異なっている。また、マイクロチップケース1c及び液体注入治具2cは、嵌合部22cのマイクロチップケース1cの開口部15への嵌合を治具の回転ではなくスライドによって行う点でも、第一実施形態と異なっている。
【0084】
マイクロチップケース1cは、ケース上部11、ケース下部12及び開口部カバー14とから構成され、ヒンジ13によって結合されたケース上部11とケース下部12との間にマイクロチップを収容する。開口部カバー14の構成及び機能は、第一実施形態に係るマイクロチップケース1と同様である。また、マイクロチップケース1cに収容されるマイクロチップは、上述のマイクロチップ3とできる。
【0085】
開口部15は、液体注入治具2cに配設されたチャネル25(後述の図14参照)をケース内に収容されたマイクロチップの穿刺部位に対して位置決めするために機能する。また、開口部15には、液体注入治具2cのフランジ221に係止するスライドガイド151cが配設されている。図中符号153cは液体注入治具2cのフランジ221をスライドガイド151cに係止させる際、フランジ221を挿過させるためのスライドガイド切欠を示す。フランジ221は、直方体形状とされた嵌合部22cの四隅に設けられており、スライドガイド151c及びスライドガイド切欠153cは、フランジ221に対応する位置に4つずつ設けられている。
【0086】
液体注入治具2cは、本体21、嵌合部22c及びチャネル露出防止カム23cとから構成されている。チャネル露出防止カム23cは、板状部材とされており、直方体形状とされた嵌合部22cに形成されたカム収容溝に収容されている。嵌合部22cとチャネル露出防止カム23cは、チャネル露出防止カム23cがカム収容溝内に収容された状態において摺動が可能とされている。
【0087】
本体21にはガイドピン26が配設されており、嵌合部22c及びチャネル露出防止カム23cにはガイドピン26を案内する案内溝としてそれぞれI字溝27とL字溝28とが形成されている。
【0088】
ガイドピン26、I字溝27及びL字溝28の機能は、第一実施形態で説明した通りであり、チャネル25の収容位置(図14(A)参照)から露出位置(図14(B)参照)への移動(あるいは露出位置から収容位置への移動)を制御するための制動機構として機能する。
【0089】
(2)治具セットを用いたサンプル液注入
マイクロチップへのサンプル液の注入は、液体注入治具2cをマイクロチップケース1cの開口部15に取り付けてスライドさせることによって行う。まず、液体注入治具2cの嵌合部22cに設けられたフランジ221をスライドガイド切欠153cに挿過させる(図13参照)。このとき、チャネル露出防止カム23cに設けられたロックピン係合溝29と、開口部15に設けられたロックピン152とが係合する。
【0090】
このとき、液体注入治具2cは図14(A)に示すロック状態にあり、ガイドピン26は嵌合部22cのI字溝27と、チャネル露出防止カム23cのL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受されている。従って、本体21及びチャネル25のチャネル飛び出し方向への移動が阻止され、チャネル25は収容位置に保持されている。
【0091】
次に、L字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って、フランジ21をスライドガイド151cに沿わせながら液体注入治具2cをスライドさせ、フランジ221をスライドガイド151cに係合させる。このとき、チャネル露出防止カム23cは、ロックピン係合溝29とロックピン152との係合によってスライドできないように位置固定されている。このため、液体注入治具2cをスライドさせると、本体21と嵌合部22cのみが移動し、チャネル露出防止カム23cは移動せず、嵌合部22cとチャネル露出防止カム23cの相対位置が変更される。
【0092】
嵌合部22cとチャネル露出防止カム23cの相対位置が変更されると、嵌合部22のI字溝27と、チャネル露出防止カム23cのL字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とが重なる。これにより、ガイドピン26はI字溝27と、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分とに軸受された状態となり、I字溝27及びL字溝28によるガイドピン26の案内方向がチャネル飛び出し方向に変更され、液体注入治具2cは図14(B)に示す解除状態となる。
【0093】
解除状態では、本体21及びチャネル25はチャネル飛び出し方向に移動できるようになる。従って、図のように、本体21を嵌合部22cに押し込むことで、チャネル25を収容位置から露出位置に移動して、マイクロチップケース1c内に収容されたマイクロチップの穿刺部位に穿刺できる。
【0094】
液体注入治具2cをマイクロチップケース1から取り外す際は、上述の手順を逆から行う。まず、解除状態となっている液体注入治具2cの本体21を嵌合部22cから引き戻し、チャネル25を露出位置から収容位置に移動させる。このとき、ガイドピン26は、チャネル露出防止カム23cのL字溝28の折れ曲がり箇所に位置している。
【0095】
次に、L字溝28によるガイドピン26の案内方向に従って液体注入治具2cをスライドさせる。これにより、ガイドピン26は、嵌合部22cのI字溝27と、チャネル露出防止カム23のL字溝28のチャネル飛び出し方向に直交する部分とに軸受されるようになり、液体注入治具2cはロック状態とされる。スライド後、フランジ221をスライドガイド切欠153cに挿過させて、液体注入治具2cをマイクロチップケース1cから取り外す。
【0096】
なお、液体注入治具2cの本体21を嵌合部22cに押し込んだ状態では、L字溝28のチャネル飛び出し方向に沿う部分によって、液体注入治具2cはスライド不能とされているため、液体注入治具2をマイクロチップケース1から取り外すことはできない。
【0097】
このように、本実施形態に係る治具セットでは、マイクロチップケース1の開口部15への嵌合時においてのみ、液体注入治具2cのチャネル25を収容位置から露出位置に移動させ、マイクロチップの穿刺部位に穿刺可能とできる。従って、液体注入治具2cが開口部15に嵌合していない状態においては、チャネル25が治具外部に露出することがないため、誤った操作によってチャネル25を人体表面に刺してしまう事故を防止して、操作の安全性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本技術に係るサンプル液注入治具セット等によれば、試料を簡便かつ正確にマイクロチップの領域内に導入でき、高い分析精度を得ることができる。そのため、本技術に係る治具セット等は、マイクロチップ上の流路内で複数の物質を電気泳動により分離し、分離された各物質を光学的に検出する電気泳動装置や、マイクロチップ上のウェル内で複数の物質間の反応を進行させ、生成する物質を光学的に検出する反応装置(例えば、リアルタイムPCR装置)などともに好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0099】
1,1b,1c:マイクロチップケース、11:ケース上部、111:カバーロックばね、12:ケース下部、121:カバーガイド、122:カバーガイド切欠、13:ヒンジ、14:開口部カバー、141:カバー爪、15:開口部、151:回転ガイド、151c:スライドガイド、152:ロックピン、153:回転ガイド切欠、153c:スライドガイド切欠、154:開口部歯、2,2b,2c:液体注入治具、21:本体、22,22c:嵌合部、221:フランジ、222:チャネル孔、23,23c:チャネル露出防止カム、23b:チャネル露出防止円板カム、24:カム収容溝、25:チャネル、26:ガイドピン、27:I字溝、28:L字溝、28b:カムI字溝、29:ロックピン係合溝、29b:カム歯、3:マイクロチップ、3a,3b:基板層、31:導入部、32:流路、33:ウェル、34:穿刺部位、4:マイクロチップホルダー、5:サンプルチューブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容するマイクロチップケースと、
前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備え、該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされた液体注入治具と、を含んで構成され、
前記マイクロチップケースには、前記液体注入治具を嵌合させる開口部が設けられ、
前記マイクロチップケース及び前記液体注入治具には、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決め可能とする、制動機構が設けられている、
マイクロチップへの液体注入に用いられる治具セット。
【請求項2】
前記液体注入治具は、前記チャネルとガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、
前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とする請求項1記載の治具セット。
【請求項3】
前記部材は、前記収容位置から前記露出位置への前記チャネルの移動方向に沿う方向に直線状に形成された第一案内溝を有する第一部材と、該移動方向に沿う方向及び直交する方向に鉤状に形成された第二案内溝を有する第二部材と、からなり、
前記ガイドピンは、第一案内溝及び第二案内溝に軸受けされて案内され、
ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持され、
ガイドピンが第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる請求項2記載の治具セット。
【請求項4】
前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記液体注入治具の前記第一部材あるいは前記第二部材の一方と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する係合部が形成され、
液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対して、他方の部材の位置を変更することにより、
第二部材の前記第二案内溝の前記移動方向に沿う部分と、第一部材の前記第一案内溝とが重なり合い、
前記ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態から、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態に変更される請求項3記載の治具セット。
【請求項5】
前記液体注入治具を前記開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転あるいはスライドさせることにより、前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対する他方の部材の位置が変更される請求項4記載の治具セット。
【請求項6】
前記部材は、円の中心から径方向に直線状に案内溝が形成され、中心に挿過される前記ガイドピンを軸として回転可能とされた円板部材であり、
案内溝の方向と前記移動方向とが一致しない回転位置に円板部材がある状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持され、
案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に円板部材がある状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる請求項2記載の治具セット。
【請求項7】
前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記円板部材の側周面と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する複数の歯が形成され、
液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転させるとともに、前記歯の咬合によって円板部材を前記ガイドピンを軸として回転させることにより、
円板部材が、案内溝の方向と前記移動方向とが一致しない回転位置から、案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に変更される請求項6記載の治具セット。
【請求項8】
マイクロチップに形成された領域内へ液体を導入するチャネルと、ガイドピンとが配設された本体と、
該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、
チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされるとともに、前記案内溝によるガイドピンの案内方向が変更可能とされ、
前記案内方向を、前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させることにより、チャネルを収容位置から露出位置に移動させて、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めする液体注入治具。
【請求項9】
マイクロチップに形成された領域内へ液体を導入するチャネルを備え、
該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされ、
前記マイクロチップを収容するマイクロチップケースに設けられた開口部への嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めする、制動機構が設けられている液体注入治具。
【請求項10】
前記チャネルとガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、
前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とする請求項9記載の液体注入治具。
【請求項11】
外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容し、
前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備えた液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられているマイクロチップケース。
【請求項12】
前記開口部を形成したケース上部と、ケース上部にヒンジによって結合されたケース下部と、開口部を覆う位置と開口部を露出させる位置との間で位置変更可能とされた開口部カバーと、を含んで構成され、
前記ヒンジが閉じられた状態においてケース上部とケース下部との間に前記マイクロチップを収容し、
前記開口部カバーは、開口部の露出位置において、前記ケース下部に設けられた係合部に係合して、ヒンジを閉じられた状態に保持する爪を有する請求項11記載のマイクロチップケース。
【請求項13】
前記開口部カバーは、前記開口部の被覆位置と露出位置との間をスライドし、
前記係合部は、開口部カバーのスライド方向に沿って形成されるとともに、被覆位置にある開口部カバーの前記爪に対応する箇所が切り欠かれている請求項12記載のマイクロチップケース。
【請求項14】
外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容し、
前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備え、該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされた液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられており、
開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記所定部位に位置決めする、制動機構が設けられている、
マイクロチップケース。
【請求項1】
外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容するマイクロチップケースと、
前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備え、該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされた液体注入治具と、を含んで構成され、
前記マイクロチップケースには、前記液体注入治具を嵌合させる開口部が設けられ、
前記マイクロチップケース及び前記液体注入治具には、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決め可能とする、制動機構が設けられている、
マイクロチップへの液体注入に用いられる治具セット。
【請求項2】
前記液体注入治具は、前記チャネルとガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、
前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とする請求項1記載の治具セット。
【請求項3】
前記部材は、前記収容位置から前記露出位置への前記チャネルの移動方向に沿う方向に直線状に形成された第一案内溝を有する第一部材と、該移動方向に沿う方向及び直交する方向に鉤状に形成された第二案内溝を有する第二部材と、からなり、
前記ガイドピンは、第一案内溝及び第二案内溝に軸受けされて案内され、
ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持され、
ガイドピンが第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる請求項2記載の治具セット。
【請求項4】
前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記液体注入治具の前記第一部材あるいは前記第二部材の一方と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する係合部が形成され、
液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対して、他方の部材の位置を変更することにより、
第二部材の前記第二案内溝の前記移動方向に沿う部分と、第一部材の前記第一案内溝とが重なり合い、
前記ガイドピンが、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に直交する部分とに軸受された状態から、第一案内溝と第二案内溝の前記移動方向に沿う部分とに軸受された状態に変更される請求項3記載の治具セット。
【請求項5】
前記液体注入治具を前記開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転あるいはスライドさせることにより、前記第一部材あるいは前記第二部材のうち前記係合部により位置固定された一方の部材に対する他方の部材の位置が変更される請求項4記載の治具セット。
【請求項6】
前記部材は、円の中心から径方向に直線状に案内溝が形成され、中心に挿過される前記ガイドピンを軸として回転可能とされた円板部材であり、
案内溝の方向と前記移動方向とが一致しない回転位置に円板部材がある状態では、収容位置から露出位置へのチャネルの移動が阻止されて、チャネルが収容位置に保持され、
案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に円板部材がある状態では、チャネルが収容位置から露出位置に移動可能とされる請求項2記載の治具セット。
【請求項7】
前記マイクロチップケースの前記開口部と、前記円板部材の側周面と、に、開口部への液体注入治具の嵌合時において互いに係合する複数の歯が形成され、
液体注入治具を開口部に嵌合した状態で、液体注入治具を回転させるとともに、前記歯の咬合によって円板部材を前記ガイドピンを軸として回転させることにより、
円板部材が、案内溝の方向と前記移動方向とが一致しない回転位置から、案内溝の方向と前記移動方向とが一致する回転位置に変更される請求項6記載の治具セット。
【請求項8】
マイクロチップに形成された領域内へ液体を導入するチャネルと、ガイドピンとが配設された本体と、
該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、
チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされるとともに、前記案内溝によるガイドピンの案内方向が変更可能とされ、
前記案内方向を、前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させることにより、チャネルを収容位置から露出位置に移動させて、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めする液体注入治具。
【請求項9】
マイクロチップに形成された領域内へ液体を導入するチャネルを備え、
該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされ、
前記マイクロチップを収容するマイクロチップケースに設けられた開口部への嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記領域を形成する基板層の所定部位に位置決めする、制動機構が設けられている液体注入治具。
【請求項10】
前記チャネルとガイドピンとが配設された本体と、該ガイドピンを案内してチャネルの移動を制御する案内溝が形成された部材と、を含んでなり、
前記制動機構は、前記開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記案内溝によるガイドピンの案内方向を前記収容位置から前記露出位置へのチャネルの移動方向に一致させて、チャネルを収容位置から露出位置に移動可能とする請求項9記載の液体注入治具。
【請求項11】
外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容し、
前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備えた液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられているマイクロチップケース。
【請求項12】
前記開口部を形成したケース上部と、ケース上部にヒンジによって結合されたケース下部と、開口部を覆う位置と開口部を露出させる位置との間で位置変更可能とされた開口部カバーと、を含んで構成され、
前記ヒンジが閉じられた状態においてケース上部とケース下部との間に前記マイクロチップを収容し、
前記開口部カバーは、開口部の露出位置において、前記ケース下部に設けられた係合部に係合して、ヒンジを閉じられた状態に保持する爪を有する請求項11記載のマイクロチップケース。
【請求項13】
前記開口部カバーは、前記開口部の被覆位置と露出位置との間をスライドし、
前記係合部は、開口部カバーのスライド方向に沿って形成されるとともに、被覆位置にある開口部カバーの前記爪に対応する箇所が切り欠かれている請求項12記載のマイクロチップケース。
【請求項14】
外部から液体が導入される領域が形成されたマイクロチップを収容し、
前記領域内へ前記液体を導入するチャネルを備え、該チャネルが治具内部への収容位置と治具外部への露出位置との間で位置変更可能とされた液体注入治具を嵌合させる開口部が、該開口部への液体注入治具の嵌合時において前記チャネルが前記基板層の所定部位に対して位置決めされるように設けられており、
開口部への液体注入治具の嵌合時においてのみ、前記チャネルを前記収容位置から前記露出位置に移動させ、前記所定部位に位置決めする、制動機構が設けられている、
マイクロチップケース。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−83517(P2013−83517A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222906(P2011−222906)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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