説明

サンプル調製用装置

【課題】
本発明は、後の分析装置、例えばガスクロマトグラフの中への導入を目的とした、液体、固体又はガス状サンプルからの揮発性成分の抽出及び濃縮のために特に好適な方法に関する。
【解決手段】
サンプルは、対象分析物の抽出のため、抽出剤のパッキンを通してフラッシングされる。好適な装置は、中空ニードルを有するシリンジを備える。チャンバーがニードルとシリンジとの間に設けられ、その中に抽出剤が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル調製方法、特に、その後の分析装置、例えばガスクロマトグラフの中への導入を目的とした液体、固体又はガス状サンプルからの揮発性成分の抽出及び濃縮のためのサンプル調製方法に関する。この方法を行うための装置は、シリンジ、及びシリンジ本体に接続された中空ニードルを備える。
【背景技術】
【0002】
サンプル中の対象成分、例えば環境サンプル中の揮発性の不純物をガスクロマトグラフ内で分析できるようにするために、サンプルは、対象成分がこのサンプルから抽出され、濃縮されるように調製しなければならない。ドイツ特許出願公開第19525771号は、対象成分をクロマトグラフの中へと移行させるためのシリンジを使用する固相抽出を開示する。このシリンジのニードルには固定相のコーティングが設けられている。適切な場合は数回、サンプルをこのニードルの中へと吸引することによって対象成分の抽出が起こる。固定相からの脱着によって分離された成分は、その後ガスクロマトグラフの注入口の中へと導入される。シリンジは、手動で又は自動的に作動させ得る。
【0003】
ニードルが固定相で被覆されているシリンジを有する類似の装置が、国際公開第99/31480号から公知である。この装置にはさらに、分析物に対して不活性のキャリヤーガスの送達系が備わっており、これを用いて対象成分が脱着され、ガスクロマトグラフへと送達される。ドイツ特許出願公開第10024443号には同様に、ニードルが固定相のコーティングを有するシリンジを備え、対象分析物が固定相に吸着され、その後脱着によってガスクロマトグラフの中へと導入される装置について記載されている。この目的のため、脱着段階の間このニードルをキャリヤー流体でフラッシングする。
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第19525771号
【特許文献2】国際公開第99/31480号
【特許文献3】ドイツ特許出願公開第10024443号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの公知の系には、抽出剤の表面積が限られている(数mm2)ため、抽出、すなわち対象成分の取り込みが遅く不完全であるという不利点がある。この理由のため、これら公知の系の効率は最適ではない。従って、本発明の目的はこの不利点を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この目的は、対象分析物の抽出のためにサンプルを抽出剤に通してフラッシングすることを特徴とする、冒頭で言及した形式の方法によって達成される。この方法を行うための装置は、ニードルとシリンジ本体との間に、ニードルの断面より(幅が)広く、その中に抽出剤が位置するチャンバーが設けられていることを特徴とする。
【0006】
本発明の好適な実施形態によれば、この抽出剤は固定相で被覆された粒子又はビーズからなる(例えばCarbowax 20Mで被覆されたChromosorb)。別の好適な実施形態によれば、この抽出剤は、クロマトグラフィーにおいて用いられるような吸着剤(例えば、Carbosieve S3、Carbopack、Tenax、活性炭等)からなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好適な具体的実施形態について説明する。
【0008】
図1に示すように、気密シリンジ1は、シリンジ本体2、及びシリンジ本体2中で軸方向に可動なプランジャ3を含む。その下端においてシリンジ本体は、従来どおり、例えばLuerコネクタとして形成されるコネクタ7を備えた出口孔6を有する。抽出管9は、接続部材8を用いてコネクタ7に接続される。この抽出管の下端には、標準的なシリンジではLuerコネクタ7上に取り付けられる中空ニードル10が配置されている。
【0009】
或いは、抽出管及び中空ニードルを1つの部材として製造することが可能である。
【0010】
抽出管9は、直径0.5 mm〜4 mm、長さ2 mm〜60 mmを有する。その内部の2つのフープ11の間に、充填剤12が位置する。このフープは、焼結した金属ビーズで出来ている。或いは、このフープに他の材料、例えばグラスウールの房、金属スクリーン等を用いることもまた可能である。
【0011】
この明細書の目的のため、用語「抽出剤」は、フープ11の間の抽出管9の内部の少なくとも一部がパッキンのように抽出剤で充填されることを意味すると理解されたい。抽出剤として、ガスクロマトグラフィーにおいて吸着剤として又は充填剤として用いられるような種類の粒子、例えばTenax、Chromosorb、Carbopack、活性炭等が用いられる。有機であろうと無機であろうと、使用される抽出剤は全て、これらの表面に分子が吸着され、蓄積することができるという共通の性質を有する。
【0012】
抽出管9には、加熱ジャケット13が設けられている。加熱により、熱脱着が可能になる。加熱ジャケットの代わりに、放射加熱又は、低電圧及び比較的高い電流強度を用いた管の直接加熱が可能である。
【0013】
本明細書に記載された装置を用いる典型的な方法は以下のとおりである。通常、分析対象のサンプル16を気密サンプルバイアル14内に入れる。サンプル上の空間(ヘッドスペース)15中にあるガスの一部をシリンジにより抽出剤を通して吸引することによって、分析対象の分子(分析物)が表面に吸収され、ある量のガスが何回か引き込まれた後にそこに蓄積する。次のステップにおいて、抽出管を加熱してガスをその中に通すこと(熱脱着)、又は分析物を溶媒によって粒子から洗い流してこの溶媒と共に分析装置へと送達すること(液体脱着)のいずれかによって、これらの分子を分析装置(例えば、ガスクロマトグラフ)へと送り込む。
【0014】
この方法は、特に図2から図4に示すように、液体サンプルを用いて以下のように行われる。
【0015】
最初に、液体から分離される分析対象の分子、すなわち分析物を用いてサンプルを調製又は再処理する。これを行う3つの好適な手段が可能である。
【0016】
まず、図2に示すように、シリンジニードルをサンプルバイアルのガス空間に導入する。シリンジを用いた、ガスの反復吸入及び排出によって、分析対象の物質は、少なくとも部分的に、抽出剤へと移行する。
【0017】
或いは、図3a及び図3bに示すように、シリンジニードルの先端を最初にサンプルバイアル14のガス空間15に導入し、シリンジを用いてガスの一部をシリンジの中へと引き込む。その後ニードルの先端を液体16に浸けてガスを排出すると、揮発性分子が液体からガス空間中へと吹き出す。その後、ニードルの先端をガス空間の中へと再び引き戻し、抽出剤を通してガスの一部をシリンジの中へと引き込む。抽出効率を増大させるためにこの手順を繰り返すことができる。
【0018】
第3の選択肢として、抽出剤を通して液体を直接シリンジの中へと引き込むことができる。この手順もまた、効率を高めるために反復することができる。
【0019】
記載された3つの手順のうち第1のものは、固体のサンプルを再処理するために用いられる。
【0020】
外気による系の汚染を避けるため、サンプルバイアルの中へと導入する前に、シリンジを部分的にクリーンガスで満たすことができる。
【0021】
物質を分析装置の中へと移行させるためには、熱脱着又は液体脱着を用いる。熱脱着は、粒子上に付着した物質が、高温で再びその粒子から脱離し、気相へと変化するという事実に基づく。抽出剤を加熱し、この抽出剤を通してガスを送る場合には、このガス流により分析対象の物質を分析装置の中へと移行させることができる。液体脱着においては、物質は溶媒を用いて粒子から脱離され、分析装置へと移行される。
【0022】
熱脱着について、前と同様に幾つかの可能性があり、いずれの場合も充填剤の同時加熱を伴う。図4に示すように、いずれの場合も、シリンジと充填剤との間に配置されたガス入口17を通じてクリーンガスを送達することによって行うことができる。この方法は最も洗練されているが、フィルタから出た物質をガスクロマトグラフの中へと持ち込むためには最も複雑な方法でもある。注入の間、シリンジプランジャは完全に押し下げられ、側部のガス吸入ラインは極めてわずかな容積しかないため、ガスが誤った方向へと流れる危険は無視できる。脱着ガスの圧力は、インジェクタ内のガスの圧力よりわずかに高くなければならない。この方法において、酸素を含まないガスのみ用いることが可能であるため、この物質はさらに、分析装置の中へと緩やかに移行される。しかしこの方法は、付加的なバルブ及び圧力制御手段、すなわち機器に関するある程度の出費を必要とする。
【0023】
或いは、図5に示すように、サンプルバイアルから得られるガスを用いて行うことができる。この方法は付加的なガスバルブや器具を必要としないため、技術的に最も簡単である。しかしこの方法には、脱着の間、分析対象の物質が高温及び酸素に曝され、物質の酸化をもたらし得るという不利点がある。しかしこの方法は、炭化水素又は塩素系溶剤などの化学的に安定な化合物を分析するためには好適である。
【0024】
最後に、ガス貯蔵器からの高純度ガスを用いて行うことができる。ガス貯蔵器は通常、セプタムで閉じられた容器であり、ガスラインによりガスバイアルへと接続されている。この方法においては、物質は再び緩やかに機器の中へと移行されるが、付加的なガス貯蔵器を必要とする。
【0025】
3つの方法全てにおいて、ニードルをクロマトグラフの加圧インジェクタの中に挿入するときには、ガスがフィルタを通じてシリンジの中又はガス送達系の中へと還流することを確保するように注意しなければならない。そうでなければこの物質が誤った方向に脱着される危険があるためである。
【0026】
この危険は、不正確な結果及びいわゆる持ち越し効果、すなわち1つの測定から得られた物質の、次の測定への持ち越し(キャリー・オーバー)をもたらすだろう。この効果は通常、注入の間ガスクロマトグラフ内の圧力を遮断することによって回避し得る。このようにして最小の可能な量のガス中で物質をフィルタからクロマトグラフの中へと運ぶことが可能であり、物質をクロマトグラフへと運ぶガスは、クロマトグラフ内で通常のガス流によって希釈されないため、この方法もまた得策である。脱着ガスの量が小さいほど、信号はより鋭く、従って機器の感度はより高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による一実施形態の装置の断面を示す。
【図2】別の方法手順の模式図である。
【図3】別の方法手順の模式図である。
【図4】別の方法手順の模式図である。
【図5】別の方法手順の模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1 シリンジ
2 シリンジ本体
9 抽出管
10 中空ニードル
12 充填剤
13 加熱ジャケット
14 気密サンプルバイアル
15 ヘッドスペース
16 サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル調製方法、特に、その後の分析装置、例えばガスクロマトグラフの中への導入を目的とした、液体、固体又はガス状サンプルからの、揮発性成分の抽出及び濃縮のためのサンプル調製方法であって、対象分析物の抽出のために、サンプルを固定相の充填剤に通して流すことを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
シリンジ、及びシリンジ本体に接続された中空ニードルを備え、ニードルとシリンジ本体との間に、ニードルの断面より広く、その中に抽出剤が位置するチャンバーが設けられていることを特徴とする、請求項1記載の方法を行うための装置。
【請求項3】
前記チャンバーに加熱手段が設けられていることを特徴とする、請求項3記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−514149(P2007−514149A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543341(P2006−543341)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【国際出願番号】PCT/CH2004/000689
【国際公開番号】WO2005/057206
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(506192814)ベーゲーベー アナリティク アーゲー (1)
【Fターム(参考)】