サージアブソーバ
【目的】 抵抗体層間にギャップが形成されたサージアブソーバにおいて、放電開始までの応答時間を短縮化する。
【構成】 平板状チップの基体11の表面にギャップ13を挟んで抵抗体層12aと12bが形成されている。一方の抵抗体層12aは高抵抗の層(a)にて形成され、他方の抵抗体層12bは高抵抗の層(a)に低抵抗の層(b)が積層された低抵抗に設定されている。抵抗体層12bが低抵抗であるため、この抵抗R2とギャップ13の容量Cとで決まる時定数が短くなり、ギャップ13への充電時間が短くなる。よって、主電極間で放電が開始されるまでの応答時間を短くできる。さらに抵抗体層12a,12bを電子放出材料層21で覆うことにより、さらに応答時間を短縮できる。
【構成】 平板状チップの基体11の表面にギャップ13を挟んで抵抗体層12aと12bが形成されている。一方の抵抗体層12aは高抵抗の層(a)にて形成され、他方の抵抗体層12bは高抵抗の層(a)に低抵抗の層(b)が積層された低抵抗に設定されている。抵抗体層12bが低抵抗であるため、この抵抗R2とギャップ13の容量Cとで決まる時定数が短くなり、ギャップ13への充電時間が短くなる。よって、主電極間で放電が開始されるまでの応答時間を短くできる。さらに抵抗体層12a,12bを電子放出材料層21で覆うことにより、さらに応答時間を短縮できる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子回路や電子部品をサージから保護するためのサージアブソーバに係り、特に放電を開始するまでの応答速度を速め、また抵抗体層の損傷やスパッタ現象によるギャップの短絡などを防止できるようにしたサージアブソーバに関する。
【0002】
【従来の技術】図12は、従来のギャップ方式のサージアブソーバの構造を示す斜視図、図13はサージアブソーバのギャップ部分を拡大して示す拡大断面図である。このサージアブソーバ1は、ガラス封止体2の内部に、アルミナ(酸化アルミニウム;Al2O3)などにより形成された丸棒状の基体3が設けられ、この基体3の表面に、ギャップ7を介して対向する抵抗体層4a,4bが形成されている。この抵抗体層4a,4bは酸化スズ(SnO2)などの高抵抗材料により形成されている。ギャップ7は基体3の円周方向全周に沿って形成されており、図13ではギャップ7の間隔(ギャップ長)をGで示している。
【0003】基体3の両端部には、それぞれの抵抗体層4a,4bに導通する主電極5a,5bが設けられている。この主電極5a,5bは抵抗値の低い金属材料によりキャップ状に形成されて、抵抗体層4a,4bの上から基体3の両端部に嵌着されたものである。両主電極5a,5bにはリード線6a,6bが接続され、このリード線6a,6bがガラス封止体2の外部に延びている。ガラス封止体2の内部はほぼ真空に近い低圧に設定され、この内部にはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)などの不活性ガスが充填されている。
【0004】この従来のサージアブソーバでは、丸棒状の基体3の外周全面に、厚さ20μm程度の抵抗体層を形成し、レーザ加工を用いて基体3の中央部にて円周に沿って抵抗体層を削除することにより、ギャップ7が形成される。レーザ加工の加工精度の限界から、ギャップ長Gは数10μm程度であり、実際のものは最小のギャップ長で30μm程度である。
【0005】上記サージアブソーバの動作を説明するための等価回路は例えば図11のように表わすことができる。図11においてR0,R0は、それぞれの抵抗体層4a,4bの抵抗値、RaはギャップGでの抵抗体層間の絶縁抵抗、Rbは抵抗体層4a,4bの間に放電が開始されたときの放電抵抗であり、例えば10〜100Ω程度である。またCは、ギャップ7での静電容量である。
【0006】主電極5a,5b間にサージが印加されていない状態では、ギャップ7にて放電が行われず、よって等価回路にて表現されているスイッチS2は絶縁抵抗Ra側に接続され、サージアブソーバは非常に高い電気抵抗を有するものとなっている。
【0007】主電極5a,5b間にサージが印加された時点で、等価回路にて表現されるスイッチS1が閉じたことになり、抵抗体層の抵抗R0を通してギャップ7に充電され始める。ギャップ7(容量C)での放電開始電圧は、ギャップ長Gやガラス封止体2内のガス圧などにより決められる。容量Cでの充電電圧が放電開始電圧(パッシェン最低電圧)に至ると、抵抗体層4a,4b間で放電が開始される。図11の等価回路では、ギャップ7の充電電圧が放電開始電圧に至ったときに、情報αによりスイッチS2が放電抵抗Rbに切換えられるものとして表現されている。ギャップ7での放電は正放電または負放電であり、この放電は抵抗体層4a,4bの表面を移動し、最終的には主電極5a,5b間がアークで橋絡される。主電極5aと5b間が放電によるアークで橋絡された最終状態では、等価回路は、主電極5a,5b間が放電抵抗のみ(抵抗体層4a,4bの抵抗値R0よりも低い抵抗)で接続されたものとして表現できる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ここで、サージが印加されてから主電極5a,5b間がアークで橋絡されるまでを応答時間(τ)とする。主電極5a,5b間にアークが印加されてから(図11のS1が閉になってから)ギャップ部分での放電が開始されるまで(S2が閉になるまで)の時間を(τa)とし、ギャップ7にて正または負の放電が開始されてから、主電極5a,5b間がアークで橋絡されるまでの時間を(τb)とすると、前記応答時間(τ)は(τa+τb)である。
【0009】次に、サージが印加されS1が閉となった後にギャップ7に充電されるときの時定数(τ0)は、抵抗体層の抵抗値R0と容量Cとにより決められ、τ0=C・R0である。ここで、主電極5a,5b間に印加されるときのサージ電圧が、図9(A)に示すようにステップ的に上昇するもの、すなわち時刻tが初時刻t0のときに印加電圧が0からViにステップするものと仮定すると、ギャップ7での充電電圧は、以下の数1で表わされる変化曲線を持つ(図9(B)参照)。
【0010】
【数1】
【0011】ギャップ7に充電が開始されてから、ギャップ部分での放電が開始されるまでの時間(τa)は、ほぼ(3×τ0)である。ここで、従来のサージアブソーバでは、ギャップ長Gが最短で30μm程度であり、よって容量Cは1pF(ピコ・ファラッド)程度である。また従来の抵抗体層4aと4bの抵抗値R0はそれぞれ1k〜100kΩ程度の高抵抗である。したがって、放電開始に至るまでの時間(τa)はほぼ3〜300nsec(ナノ・秒)程度である。
【0012】前記応答時間(τ=τa+τb)のうち(τb)は、主電極5a,5b間の距離やガス圧などに関係し、これはサージアブソーバの寸法によりほぼ一律的に決められる。したがって、サージアブソーバの応答時間(τ)はギャップ7での放電開始時間(τa)により決められ、これはギャップ長Gおよび抵抗体層の抵抗値に影響されるものとなる。
【0013】しかし、従来のサージアブソーバでは、応答時間(τ)の要因である(τa)が上記のように比較的長くなっている。サージアブソーバにより電子回路や電子部品をサージから有効に保護するためには前記応答時間(τ)をさらに短くすることが好ましい。しかし、従来のように抵抗体層をレーザ加工により削除してギャップ7を形成する製造方法では、ギャップ長Gをいま以上に短くするのは困難であり、よって応答時間(τ)を短くするのに限界がある。
【0014】次に、図13に示すように、従来のサージアブソーバでは、ギャップ7の部分において、両側の抵抗体層4aと4bが露出した状態で対向したものとなっている。ギャップ7で放電が開始されるのは、対向する抵抗体層4aと4bの最も間隔の短い部分である。また通常は図13にて符号(イ)で示す抵抗体層4a,4bのエッジ部分で放電が開始される。
【0015】したがって抵抗体層4aと4b間で放電が行われると、エッジ部分(イ)に電気力線が集中しこの部分に損傷が生じやすくなる。この損傷が大きくまたサージ印加ごとにこの損傷が複数箇所に生じると、ギャップ7が正規のギャップ長Gを有するものとして機能しなくなる。よって一般のサージアブソーバでは、サージ印加回数に制限が設けられている。
【0016】さらに、主電極5aと5b間にて放電が開始されると、ガラス封止体2内に封入されている例えばアルゴンガスのイオンやラジカルなイオン原子などが抵抗体層4aと4bの表面をたたき、抵抗体層4aと4bの表面がターゲットとなったスパッタ現象が生じる。抵抗体層4aと4bの表面からスパッタされた抵抗物質がギャップ7の部分にて基体3の表面に再付着されると、ギャップ7が埋められてしまう。この再付着物によりギャップ7が短絡されると、サージアブソーバとして機能できなくなる。この点からの従来のサージアブソーバでは、抵抗体層4a,4bの寿命が短く、サージ印加回数に制限が与えられるものとなる。
【0017】本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、サージが印加されてから主電極間での放電が開始されるまでの時間を短縮して応答時間を短くしたサージアブソーバを提供することを目的としている。
【0018】また本発明は、基体表面に設けられた抵抗体層の損傷を生じにくくして、使用寿命を長くすることを目的としている。
【0019】
【課題を解決するための手段】第1の本発明は、基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、前記抵抗体層の上に電子放出材料層が設けられていることを特徴とするものである。
【0020】上記電子放出材料は、抵抗体層の表面のみに設けてもよいが、好ましくは、両抵抗体層のギャップに対向する部分およびギャップ内にも形成される。ギャップ内に電子放出材料層が形成される場合、この電子放出材料により抵抗体層間が橋絡される。よってこの場合には、絶縁性のすなわち抵抗体層よりもインピーダンスが充分に高い電子放出材料を使用することが必要である。また、電子放出材料は、抵抗体層の上に積層して設ける構造に限られず、電子放出材料を抵抗体層の材料内に含ませても同様に効果を得ることができる。
【0021】第2の本発明は、基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、ギャップを介して対向する一方の抵抗体層と他方の抵抗体層とで抵抗値が相違することを特徴とするものである。
【0022】上記において、ギャップを介して対向するそれぞれの抵抗体層を別々の材料により形成することも可能である。ただし、ギャップを介して対向する両抵抗体層が、それぞれ高い抵抗値の第1の層を有し、一方の抵抗体層を、前記第1の層の上にこれよりも抵抗値の小さい第2の層が積層されている構造とすることが好ましい。
【0023】また、上記において、抵抗体層の表面に電子放出材料層を設けることが好ましい。この場合も、電子放出材料がギャップ内にて抵抗体層を橋絡するように形成される場合には、絶縁性の電子放出材料が使用される。
【0024】さらに上記第1の発明と第2の発明において、基体を平板状チップとし、このチップの1つの面または複数の面に抵抗体層を設けることもできる。
【0025】
【作用】上記第1の本発明では、ギャップを介して対向する抵抗体層の上に電子放出材料層が設けられている。よって両側の抵抗体層間に所定の電圧が印加されたときに、電子放出材料から電子が積極的に放出され、まず電子放出材料の間にて放電が開始され、その後に抵抗体層間の放電さらには主電極間の放電が開始されることになる。電子放出材料層を設けることにより放電が開始されるまでの応答時間を短縮することが可能である。
【0026】また、抵抗体層の上に電子放出材料層を設け、好ましくはギャップ部分にこの電子放出材料層を設けると、ギャップ部分にて抵抗体層間に直接的な放電が発生しないため、電極層の放電による損傷を防止できる。また、ギャップ部分を電子放出材料により覆うことにより、スパッタ現象により抵抗体層から出た抵抗物質がギャップ部分に再付着することがなく、よって再付着によるギャップの短絡などの問題が生じなくなる。
【0027】上記のように抵抗体層の損傷が生じにくくまた、抵抗物質のギャップへの再付着が生じにくくなるため、ギャップ長を従来のものよりも短くすることが可能になる。ギャップ長を短くできることにより、ギャップの容量と抵抗体層の抵抗値とで決まる時定数(τ0)を短くできるようになり、応答時間をさらに短絡化することが可能になる。
【0028】第2の本発明では、ギャップを介して対向する一方の抵抗体層の抵抗値が高く他方の抵抗値がこれよりも低く設定されている。一方の抵抗体層の抵抗値が小さいために、この小さい方の抵抗値とギャップ部分での静電容量とで決まる時定数(τ0)が短くなり、放電開始までの応答時間を短縮できる。また他方の抵抗体層の抵抗値が従来のものと同等に高抵抗に設定されているため、放電開始電圧は充分に高いものにできる。
【0029】また、最初に両抵抗体層を抵抗値の高い第1の層とし、次に両抵抗体層において第1の層の上にこれよりも抵抗値の低い第2の層を形成し、一方の抵抗体層にて第2の層を除去することにより、ギャップを介して対向する抵抗体層の抵抗値を相違させることができる。この構造はエッチング工程を用いた薄膜形成技術により形成することが可能である。また薄膜形成技術を使用することにより、ギャップ長を従来のものよりも短くでき、またギャップ長の設定も高精度にできる。
【0030】さらに、それぞれの抵抗体層において抵抗値が相違するものとした場合に、抵抗体層の上に電子放出材料層を設けることにより、放電を容易にして、さらに放電開始までの応答時間を短縮することが可能になる。また電子放出材料層を設けることにより、抵抗体層に損傷が生じるのを防止できるものとなる。
【0031】さらに上記第1の発明と第2の発明において、基体を平板状チップとし、このチップの1つの面または複数の面に抵抗体層を設ける構造にすると、薄膜形成技術により、抵抗体層およびギャップを簡単な工程で高精度に形成でき、量産に適したものとなる。
【0032】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明のサージアブソーバの全体構造を示す斜視図、図2R>2はその断面図である。このサージアブソーバ10は、平板状チップの基体11を有している。この基体11は、比較的融点の高いガラスやAl2O3などのセラミック材料などにより形成されている。基体11の表面には、抵抗体層12a,12bが形成され、抵抗体層12aと12bとの間にギャップ長Gのギャップ13が形成されている。基体11の両端部には、抵抗体層12a,12bのそれぞれに導通する導電層14a,14bが設けられ、この導電層14a,14bが主電極15a,15bに接合されている。
【0033】主電極15a,15bは、例えばジメット(銅の表面に酸化銅膜が形成されているもの)により形成されている。この主電極15a,15bにはリード線16a,16bが接続されている。基体11および主電極15a,15bはガラス封止体17の内部に収納され、リード線16a,16bは、ガラス封止体17の外部に突出している。ガラス封止体17の内部は真空に近い低圧であり、ガラス封止体17の内部にはアルゴン、ネオン、ヘリウムなどの不活性ガスが充填されている。
【0034】また、サージアブソーバの全体構造は、図3R>3に示すものであってもよい。図3の構造では、ガラスなどの筒体18が使用され、ジメット製の主電極15a,15bの外周がこの筒体18の内周面に接着されて、筒体18と主電極15a,15bとで封止体が形成されている。
【0035】図3に示すものでは、筒体18内に基体11を挿入し、筒体18内を真空引きしてアルゴンなどの不活性ガスと置換し、主電極15a,15bの外周面を筒体18の内面に接着することにより組立てを完成する。ガラスなどの筒体18の加熱冷却工程での収縮により、主電極15a,15bは導電層14a,14bに密着して導通される。この実施例では、主電極15a,15bが封止体を兼ねているため、封止体の構造が簡単であり、また組立て作業も容易である。
【0036】図4は、第1の本発明の実施例を示すものであり、同図(A)ないし(D)は、基体11を実施例別に示す側面図である。図4(A)に示す実施例では、平板チップ状の基体11の表面に抵抗体層12aと12bが形成され、両抵抗体層12aと12bの間にギャップ13が形成されている。そして抵抗体層12a,12bの表面からギャップ13の部分にかけて、電子放出材料層21が積層されている。
【0037】抵抗体層12a,12bは高抵抗材料により形成されている。この抵抗材料は、基体11の表面に蒸着またはスパッタなどの工程で成膜できるものが使用される。抵抗体層12a,12bを形成する高抵抗材料としては、金属と酸化物とから成る例えばTaSiO2、CrSiO2、金属と酸化物の混合物であるTa−HfO2、Cr−HfO2、炭化物または窒化物と酸化物との混合物であるSiC−Ta2O5、TiN−SiO2、HfN−SiO2などが例示できる。これらの材料はいずれも融点が高く、また比抵抗は10-2〜102Ω・cmの範囲で変えることができる。
【0038】また、高抵抗材料としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの非晶質カーボン、またはアルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)が5〜40at%含まれた非晶質カーボンを使用することが好ましい。非晶質カーボンは比較的抵抗が高く、またガラス封止体に充填されているアルゴンやネオンなどの不活性ガスに対する耐性が高いため、高抵抗の抵抗体層12a,12bの材料として好適である。
【0039】抵抗体層12a,12bの膜厚は50〜1000nmまたは200〜500nmの範囲とすることが好ましい。ギャップ13は、基体11の表面に上記高抵抗材料の膜を形成した後に、この膜をギャップ長Gとなる間隔で除去することにより形成できる。この工程はウエットエッチングまたはドライエッチングにより行われる。高抵抗材料が非晶質カーボンの場合には、CF4+O2の混合ガスを用いたドライエッチングなどによりギャップ13を加工することが可能である。
【0040】電子放出材料層21は、上記ギャップ13の加工の後に成膜される。図4(A)では、ギャップ13の部分が電子放出材料層21により覆われているため、電子放出材料層21は絶縁性のもの、すなわち抵抗体層12a,12bよりもインピーダンスが高い材料が使用される。この材料はRFマグネトロンスパッタなどの工程で成膜可能なものであり、例えばMgO、BaO、SrO、LaB6などが使用される。この電子放出材料層21の膜厚は5〜300nmまたは30〜100nmの範囲とすることが好適である。なお図2または図3R>3に示す導電層14a,14bは、クロム(Cr)やチタン(Ti)を下地膜として銅(Cu)やニッケル(Ni)が形成されたものである。
【0041】図4(A)に示すものでは、主電極15aと15bにサージが印加されると、抵抗体層を経てギャップ13で構成されるコンデンサC(図11参照)に充電される。そしてギャップを挟む抵抗体層12aと12b間で放電が開始されるが、抵抗体層12a,12bが電子放出材料層21に覆われているため、電子放出材料層21のエッジ(ロ)の部分にて積極的に電子が放出されることになり、放電開始の応答時間(τ)を短くできる。
【0042】このサージアブソーバの等価回路は図11にて表現できる。抵抗体層12aおよび12bの抵抗値をR0とすると、ギャップ13(容量C)への充電は時定数τ0=R0・Cを持つが、電子放出材料層21のエッジ(ロ)間にて積極的に電子が放出されることにより、サージの印加時からギャップ13の部分で放電が開始されるまでの時間τaを短縮でき、その結果応答時間τを短くできる。ただし、抵抗体層12aと12bの抵抗値は従来と同様に1k〜100kΩと高抵抗となっており、また電子放出材料層21は絶縁性材料であるため、放電開始電圧は従来と同等に高いものにできる。
【0043】図7は、横軸にギャップ長Gを対数軸として示し、縦軸に応答時間(τ)を対数軸で示したものである。図7にて(i)は、電子放出材料層21を設けなかったもの、(ii)は電子放出材料層21が設けられたもので図4(A)に示す構造のものを示している。図7R>7に示すように、電子放出材料層21を設けたもの(ii)は、電子放出材料層21を設けていないもの(i)に比較してギャップ長Gを短くしたときに応答時間(τ)を短縮化する比率が高くなることが解る。
【0044】次に、図8はギャップ長Gが20μmのものにおいて、電子放出材料層21を形成したもの(図4(A)のもの)と、電子放出材料層21を設けないものとで、絶縁抵抗の変化を示したものである。すなわち、電子放出材料層21が設けられたものと設けないものとに対し、電流が500アンペアのサージを主電極15a,15b間に30秒間隔で20μsec印加した。図8R>8の横軸はサージ印加回数を示し、縦軸に主電極15a,15b間の絶縁抵抗を示している。電子放出材料層21が設けられたものは、104回サージを印加しても、充分な絶縁抵抗を有していることが解る。
【0045】すなわち、電子放出材料層21が形成されたものでは、放電の際に抵抗体層12a,12bが損傷を受けにくく、したがってサージが繰返し印加され、放電が繰返されても、絶縁抵抗の低下が防止できるものとなっている。電子放出材料層21が設けられていると抵抗体層12a,12bの損傷、特にギャップを挟んで対向している抵抗体層のエッジ(図13での(イ))の部分の損傷が少なく寿命が高くなる。ギャップ長Gを短くしても抵抗体層12a,12bの損傷が少ないため、ギャップ長Gを可能な限り短くできる。したがって、エッチング加工によりギャップ長Gを5μmまたは1μmあるいはさらに短くすることにより、図7に示すように応答時間(τ)を非常に短くできる。
【0046】また、図4(B)に示すように、ギャップ13の部分に電子放出材料層21を設けず、抵抗体層12a,12bの上にのみ電子放出材料層21を形成してもよい。また、図4(C)に示すように、ギャップ13の部分と、ギャップ13の両側部分での抵抗体層12a,12bの上にのみ電子放出材料層21が形成されていてもよい。さらに図4(D)に示すように、図4(C)のものにおいてギャップ部分の電子放出材料層21を除去したものとしてもよい。いずれも(ロ)のエッジ部分にて放電が開始される。
【0047】また、図4(C)(D)に示すように、ギャップ13の部分にのみ電子放出材料層21が形成されている場合には、放電時の不活性ガスのイオンやラジカルな原子により抵抗体層12a,12bの表面がスパッタされたときに、スパッタにて放出された物質がギャップ13にて抵抗体層12aと12bの間に直接付着することがなく、抵抗体層12aと12bが短絡する現象を防止できる。
【0048】図5は第2の本発明の実施例を示している。この実施例では、ギャップ13を介して対向する抵抗体層12aと抵抗体層12bとで抵抗が相違しており、抵抗体層12aが高抵抗値R1で、抵抗体層12bが低抵抗値R2である。高抵抗値R1は例えば1k〜100kΩで、低抵抗値R2が10〜100Ω程度に設定される。
【0049】抵抗体層12aと抵抗体層12bを、別々の材料により形成してそれぞれ抵抗値を異ならせてもよいが、図5(A)では、抵抗体層12bが高抵抗材料の第1の層(a)と低抵抗材料の第2の層(b)とから構成され、抵抗体層12aが高抵抗材料の第1の層(a)でのみ形成されている。高抵抗材料の第1の層(a)は、DLCなどの非晶質カーボン材料などにより形成される。低抵抗の第2の層(b)は、TiN、Ta2N、CrN、h−BN(六方晶の窒化ボロン)などの窒化物、またはSiC、TiC、TaCなどの炭化物が使用される。
【0050】このサージアブソーバの動作に関する等価回路を図11に基づいて説明すると、主電極15aと15b間にサージが印加され、図11のスイッチS1が等価回路の表現において閉になると、電荷が低抵抗R2の抵抗体層12bを通ってギャップ13に充電される。充電では前述のように、τ0=R2・Cの時定数を持ち、充電電圧が図9(B)に示したように、数1に示す曲線により変化する。図9(C)は抵抗体層の抵抗Rと、ギャップへの充電電圧Vの変化との関係を示しているが、この図に示されるように、抵抗体層の抵抗値Rが小さくなるほど充電が完了するまでの時間が短くなる。
【0051】ここで、抵抗体層12bは低抵抗でありその抵抗値R2は10〜100Ω程度である。サージが印加されてから抵抗体層12aと12b間で放電が開始されるまでの時間(τa)はほぼ(3×τ0)であり、τa=10〜100p・sec(ピコ・秒)となり非常に短くなる。したがって(τa+τb)で表わされる応答時間(τ0)が従来のものに比べてきわめて短くなる。ただし、一方の抵抗体層12aは高抵抗R1の値に設定されているものであるため、放電開始電圧は従来のものと同等に高くできる。
【0052】図5(B)に示す実施例では、高抵抗の抵抗体層12aと、低抵抗の抵抗体層12bおよびギャップ13の部分が、絶縁性の電子放出材料層21により覆われている。電子放出材料層21は、例えばMgO、BaO、SrO、LaB6などである。図4の実施例において説明したように、抵抗体層12aと12bの間に電圧が印加され、放電開始電圧に至ったときに、電子放出材料層21から積極的に電子が放出されるため、さらに応答時間τを短縮化できる。
【0053】図5(C)に示す実施例は、抵抗体層12aと12bの表面にのみ電子放出材料層21が積層され、ギャップ13の部分には電子放電材料層が形成されていないものと示している。この実施例においても、電子放出材料層21のエッジ(ロ)間で積極的な放電が行われ、応答時間τを短縮することができる。
【0054】図6(A)から(E)は、基体11に、抵抗値の相違する抵抗体層12a,12bおよび電子放出材料層21さらに導電層14a,14bが形成される工程の一例を示している。基体11は、「#7059」などの比較的融点の高いガラスにより形成された平板状チップの基板である。この基体11は広い面積のものであり、この上に複数個のサージアブソーバ分の抵抗体層やギャップなどが形成された後に個々に切断される。ただし、図6では1個分の基体11のみを図示している。
【0055】また基体11の材料はアルミナ基板であってもよい。またサージアブソーバとしての使用電力容量が高いものである場合には、表面がホーロー仕上げされた鉄基板を用いることも可能である。
【0056】まず上記図6(A)に示すように、基体11の表面に高い抵抗値の第1の層(a)と抵抗値の低い第2の層(b)が連続して成膜される。高抵抗体の第1の層(a)は非晶質カーボンなどで、低抵抗の第2の層(b)は前述の窒化物や炭化物である。それぞれの層(a)と(b)は広い基体表面の全面に成膜される。この成膜は例えばDCマグネトロンスパッタなどにより行われる。それぞれの層(a)(b)の膜厚は、50〜1000nm、好ましくは200〜500nmである。
【0057】次に、第2の層(b)の上に感光性ポリイミドなどのレジスト材料を塗布し、プリベークし、フォトマスクを用いて紫外線光による露光を行う。この露光、さらには現像、リンス、乾燥およびポストベークにより、ギャップ形成部分のレジスト材料を除去する。ギャップ長Gが5μm程度までは、フォトマスクを用いた密着露光により、ギャップ長Gの寸法に合わせて高精度にレジスト材料を除去することが可能である。ただし、ギャップ長Gが5μmよりも短く、1μm程度まで短くする場合には、ステッパーを用いて縮小透光露光を行うことにより、短ギャップ寸法に相当するレジスト材料除去を高精度に行うことができる。
【0058】次に、エッチングによりギャップ長Gの部分にて前記第1の層(a)と第2の層(b)を除去する。ギャップ長Gはエッチングにより1μmまたはそれ以下の寸法とすることが可能であるが、ギャップ長Gは1〜30μmが好ましい。ギャップのエッチングは2つの層(a)(b)について行うが、これはドライエッチングまたはウエットエッチングにより可能である。
【0059】高抵抗材料の第1の層(a)が、DLCなどの非晶質カーボン材料などにより形成され、低抵抗の第2の層(b)が、TiN、Ta2N、CrN、h−BN(六方晶の窒化ボロン)などの窒化物、またはSiC、TiC、TaCなどの炭化物である場合、CF4+O2ガスを用いたドライエッチングにより、両層(a)(b)を除去することが可能である。このエッチング終了後に、ギャップ形成用のレジスト材料を除去する。
【0060】次に、一方の抵抗体層の第2の層(b)を除去するためのレジスト層を形成する。このレジスト形成は、ギャップ形成時と同様にフォトマスクを使用した露光および現像により行われる。そして一方の抵抗体層の上の第2の層(b)をエッチングにより除去する。低抵抗の第2の層(b)が、TiN、Ta2N、CrN、h−BN(六方晶の窒化ボロン)などの窒化物である場合、HF+HNO3の混合液を用いたウエットエッチングが可能であり、層(b)がSiC、TiC、TaCなどの炭化物である場合、HF+KIO3の混合液を用いたウエットエッチングが行われる。上記エッチングにより図6(C)に示すように、第1の層(a)のみによる高抵抗の抵抗体層12aが形成される。
【0061】次に図6(D)に示すように、導電層14a,14bを形成する部分にレジスト層(c)を形成し、レジスト層(c)、抵抗体層12a,12bおよびギャップ13の部分に電子放出材料層21を形成する。電子放出材料層21は、RFマグネトロンスパッタなどを用いて成膜し、膜厚は5〜300nm、好ましくは30〜100nmとする。次に、アセトンなどを用いてレジスト層(c)を除去し、ダイサーを用いて個々のチップごとに切断する。チップ形状の個々の基体11の大きさは、1.2×2.0mm2〜4.5×7mm2である。
【0062】次に図6(E)に示すように、導電層14a,14bを形成する。導電層14a,14bは、Cr,Tiを下地膜とし、Cu,Niを連続して成膜したものであり、膜厚は50〜300nm程度である。次に、図2または図3に示すように基体11を封止する。ジメットによる主電極15a,15bは直径1〜3mmで、厚さ0.3〜0.5mm程度の円板である。主電極15a,15bにはリード線16a,16bを溶接により接続しておく。
【0063】切断した個々の基体11を主電極15a,15bで挟み、ガラス筒に挿入し、カーボンヒータに装填する。約450℃で加熱し、真空ポンプで10-5torr程度の低圧に設定し、Ar、He、Neなどのガスを1〜500torrで充填する、約600℃まで急激に加熱すると、ガラスが溶け、図2に示すように封止される。室温まで冷却してサージサブソーバが完成する。
【0064】なお、ギャップは1つ形成されているのに限られず、複数形成してもよい。図10は、ギャップが複数形成されている場合である。図10では、抵抗体層12bが層(a)と(b)を有する低抵抗体であり、抵抗体層12aと12cが層(a)だけの高抵抗体である。そして、各抵抗体層の間にギャップ13aと13bが形成されている。そして、各抵抗体層とギャップの上に電子放出材料層21が形成されている。また、図4の実施例でもギャップを複数形成することが可能である。ギャップを複数設けることにより、放電開始電圧を高くすることが可能である。
【0065】
【発明の効果】以上のように本発明では、抵抗体層に電子放出材料層を形成し、またはギャップを介して対向する抵抗体層の抵抗値を変えることにより、放電開始までの応答時間を短縮化できる。
【0066】また、基体を平板状のチップ形状にすることにより、抵抗体層やギャップを薄膜形成技術やエッチングにより容易に形成できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のサージアブソーバの全体構造を示す斜視図、
【図2】図1に示すサージアブソーバの断面図、
【図3】他の構造のサージアブソーバを示す断面図、
【図4】(A)(B)(C)(D)は第1の本発明の実施例に相当する基体の側面図、
【図5】(A)(B)(C)は第2の本発明の実施例に相当する基体の側面図、
【図6】(A)(B)(C)(D)(E)は、図5(B)に示すものの製造方法を示す工程説明図、
【図7】第1の発明の応答時間の特性を示す線図、
【図8】第1の本発明のサージ印加回数と絶縁抵抗の関係を示す線図、
【図9】(A)はサージ印加電圧を示す線図、(B)は時定数によるギャップでの充電電圧の変化を示す線図、(C)は抵抗体層の抵抗値の変化と充電電圧の変化との関係を示す線図、
【図10】他の実施例を示す基板の側面図、
【図11】サージアブソーバの動作を示す等価回路、
【図12】従来のサージアブソーバの斜視図、
【図13】図12に示すサージアブソーバのギャップ部分を示す拡大断面図、
【符号の説明】
11 基体
12a,12b 抵抗体層
13 ギャップ
14a,14b 導電層
15a,15b 主電極
16a,16b リード線
17 ガラス封止体
21 電子放出材料層
G ギャップ長
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子回路や電子部品をサージから保護するためのサージアブソーバに係り、特に放電を開始するまでの応答速度を速め、また抵抗体層の損傷やスパッタ現象によるギャップの短絡などを防止できるようにしたサージアブソーバに関する。
【0002】
【従来の技術】図12は、従来のギャップ方式のサージアブソーバの構造を示す斜視図、図13はサージアブソーバのギャップ部分を拡大して示す拡大断面図である。このサージアブソーバ1は、ガラス封止体2の内部に、アルミナ(酸化アルミニウム;Al2O3)などにより形成された丸棒状の基体3が設けられ、この基体3の表面に、ギャップ7を介して対向する抵抗体層4a,4bが形成されている。この抵抗体層4a,4bは酸化スズ(SnO2)などの高抵抗材料により形成されている。ギャップ7は基体3の円周方向全周に沿って形成されており、図13ではギャップ7の間隔(ギャップ長)をGで示している。
【0003】基体3の両端部には、それぞれの抵抗体層4a,4bに導通する主電極5a,5bが設けられている。この主電極5a,5bは抵抗値の低い金属材料によりキャップ状に形成されて、抵抗体層4a,4bの上から基体3の両端部に嵌着されたものである。両主電極5a,5bにはリード線6a,6bが接続され、このリード線6a,6bがガラス封止体2の外部に延びている。ガラス封止体2の内部はほぼ真空に近い低圧に設定され、この内部にはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)などの不活性ガスが充填されている。
【0004】この従来のサージアブソーバでは、丸棒状の基体3の外周全面に、厚さ20μm程度の抵抗体層を形成し、レーザ加工を用いて基体3の中央部にて円周に沿って抵抗体層を削除することにより、ギャップ7が形成される。レーザ加工の加工精度の限界から、ギャップ長Gは数10μm程度であり、実際のものは最小のギャップ長で30μm程度である。
【0005】上記サージアブソーバの動作を説明するための等価回路は例えば図11のように表わすことができる。図11においてR0,R0は、それぞれの抵抗体層4a,4bの抵抗値、RaはギャップGでの抵抗体層間の絶縁抵抗、Rbは抵抗体層4a,4bの間に放電が開始されたときの放電抵抗であり、例えば10〜100Ω程度である。またCは、ギャップ7での静電容量である。
【0006】主電極5a,5b間にサージが印加されていない状態では、ギャップ7にて放電が行われず、よって等価回路にて表現されているスイッチS2は絶縁抵抗Ra側に接続され、サージアブソーバは非常に高い電気抵抗を有するものとなっている。
【0007】主電極5a,5b間にサージが印加された時点で、等価回路にて表現されるスイッチS1が閉じたことになり、抵抗体層の抵抗R0を通してギャップ7に充電され始める。ギャップ7(容量C)での放電開始電圧は、ギャップ長Gやガラス封止体2内のガス圧などにより決められる。容量Cでの充電電圧が放電開始電圧(パッシェン最低電圧)に至ると、抵抗体層4a,4b間で放電が開始される。図11の等価回路では、ギャップ7の充電電圧が放電開始電圧に至ったときに、情報αによりスイッチS2が放電抵抗Rbに切換えられるものとして表現されている。ギャップ7での放電は正放電または負放電であり、この放電は抵抗体層4a,4bの表面を移動し、最終的には主電極5a,5b間がアークで橋絡される。主電極5aと5b間が放電によるアークで橋絡された最終状態では、等価回路は、主電極5a,5b間が放電抵抗のみ(抵抗体層4a,4bの抵抗値R0よりも低い抵抗)で接続されたものとして表現できる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ここで、サージが印加されてから主電極5a,5b間がアークで橋絡されるまでを応答時間(τ)とする。主電極5a,5b間にアークが印加されてから(図11のS1が閉になってから)ギャップ部分での放電が開始されるまで(S2が閉になるまで)の時間を(τa)とし、ギャップ7にて正または負の放電が開始されてから、主電極5a,5b間がアークで橋絡されるまでの時間を(τb)とすると、前記応答時間(τ)は(τa+τb)である。
【0009】次に、サージが印加されS1が閉となった後にギャップ7に充電されるときの時定数(τ0)は、抵抗体層の抵抗値R0と容量Cとにより決められ、τ0=C・R0である。ここで、主電極5a,5b間に印加されるときのサージ電圧が、図9(A)に示すようにステップ的に上昇するもの、すなわち時刻tが初時刻t0のときに印加電圧が0からViにステップするものと仮定すると、ギャップ7での充電電圧は、以下の数1で表わされる変化曲線を持つ(図9(B)参照)。
【0010】
【数1】
【0011】ギャップ7に充電が開始されてから、ギャップ部分での放電が開始されるまでの時間(τa)は、ほぼ(3×τ0)である。ここで、従来のサージアブソーバでは、ギャップ長Gが最短で30μm程度であり、よって容量Cは1pF(ピコ・ファラッド)程度である。また従来の抵抗体層4aと4bの抵抗値R0はそれぞれ1k〜100kΩ程度の高抵抗である。したがって、放電開始に至るまでの時間(τa)はほぼ3〜300nsec(ナノ・秒)程度である。
【0012】前記応答時間(τ=τa+τb)のうち(τb)は、主電極5a,5b間の距離やガス圧などに関係し、これはサージアブソーバの寸法によりほぼ一律的に決められる。したがって、サージアブソーバの応答時間(τ)はギャップ7での放電開始時間(τa)により決められ、これはギャップ長Gおよび抵抗体層の抵抗値に影響されるものとなる。
【0013】しかし、従来のサージアブソーバでは、応答時間(τ)の要因である(τa)が上記のように比較的長くなっている。サージアブソーバにより電子回路や電子部品をサージから有効に保護するためには前記応答時間(τ)をさらに短くすることが好ましい。しかし、従来のように抵抗体層をレーザ加工により削除してギャップ7を形成する製造方法では、ギャップ長Gをいま以上に短くするのは困難であり、よって応答時間(τ)を短くするのに限界がある。
【0014】次に、図13に示すように、従来のサージアブソーバでは、ギャップ7の部分において、両側の抵抗体層4aと4bが露出した状態で対向したものとなっている。ギャップ7で放電が開始されるのは、対向する抵抗体層4aと4bの最も間隔の短い部分である。また通常は図13にて符号(イ)で示す抵抗体層4a,4bのエッジ部分で放電が開始される。
【0015】したがって抵抗体層4aと4b間で放電が行われると、エッジ部分(イ)に電気力線が集中しこの部分に損傷が生じやすくなる。この損傷が大きくまたサージ印加ごとにこの損傷が複数箇所に生じると、ギャップ7が正規のギャップ長Gを有するものとして機能しなくなる。よって一般のサージアブソーバでは、サージ印加回数に制限が設けられている。
【0016】さらに、主電極5aと5b間にて放電が開始されると、ガラス封止体2内に封入されている例えばアルゴンガスのイオンやラジカルなイオン原子などが抵抗体層4aと4bの表面をたたき、抵抗体層4aと4bの表面がターゲットとなったスパッタ現象が生じる。抵抗体層4aと4bの表面からスパッタされた抵抗物質がギャップ7の部分にて基体3の表面に再付着されると、ギャップ7が埋められてしまう。この再付着物によりギャップ7が短絡されると、サージアブソーバとして機能できなくなる。この点からの従来のサージアブソーバでは、抵抗体層4a,4bの寿命が短く、サージ印加回数に制限が与えられるものとなる。
【0017】本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、サージが印加されてから主電極間での放電が開始されるまでの時間を短縮して応答時間を短くしたサージアブソーバを提供することを目的としている。
【0018】また本発明は、基体表面に設けられた抵抗体層の損傷を生じにくくして、使用寿命を長くすることを目的としている。
【0019】
【課題を解決するための手段】第1の本発明は、基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、前記抵抗体層の上に電子放出材料層が設けられていることを特徴とするものである。
【0020】上記電子放出材料は、抵抗体層の表面のみに設けてもよいが、好ましくは、両抵抗体層のギャップに対向する部分およびギャップ内にも形成される。ギャップ内に電子放出材料層が形成される場合、この電子放出材料により抵抗体層間が橋絡される。よってこの場合には、絶縁性のすなわち抵抗体層よりもインピーダンスが充分に高い電子放出材料を使用することが必要である。また、電子放出材料は、抵抗体層の上に積層して設ける構造に限られず、電子放出材料を抵抗体層の材料内に含ませても同様に効果を得ることができる。
【0021】第2の本発明は、基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、ギャップを介して対向する一方の抵抗体層と他方の抵抗体層とで抵抗値が相違することを特徴とするものである。
【0022】上記において、ギャップを介して対向するそれぞれの抵抗体層を別々の材料により形成することも可能である。ただし、ギャップを介して対向する両抵抗体層が、それぞれ高い抵抗値の第1の層を有し、一方の抵抗体層を、前記第1の層の上にこれよりも抵抗値の小さい第2の層が積層されている構造とすることが好ましい。
【0023】また、上記において、抵抗体層の表面に電子放出材料層を設けることが好ましい。この場合も、電子放出材料がギャップ内にて抵抗体層を橋絡するように形成される場合には、絶縁性の電子放出材料が使用される。
【0024】さらに上記第1の発明と第2の発明において、基体を平板状チップとし、このチップの1つの面または複数の面に抵抗体層を設けることもできる。
【0025】
【作用】上記第1の本発明では、ギャップを介して対向する抵抗体層の上に電子放出材料層が設けられている。よって両側の抵抗体層間に所定の電圧が印加されたときに、電子放出材料から電子が積極的に放出され、まず電子放出材料の間にて放電が開始され、その後に抵抗体層間の放電さらには主電極間の放電が開始されることになる。電子放出材料層を設けることにより放電が開始されるまでの応答時間を短縮することが可能である。
【0026】また、抵抗体層の上に電子放出材料層を設け、好ましくはギャップ部分にこの電子放出材料層を設けると、ギャップ部分にて抵抗体層間に直接的な放電が発生しないため、電極層の放電による損傷を防止できる。また、ギャップ部分を電子放出材料により覆うことにより、スパッタ現象により抵抗体層から出た抵抗物質がギャップ部分に再付着することがなく、よって再付着によるギャップの短絡などの問題が生じなくなる。
【0027】上記のように抵抗体層の損傷が生じにくくまた、抵抗物質のギャップへの再付着が生じにくくなるため、ギャップ長を従来のものよりも短くすることが可能になる。ギャップ長を短くできることにより、ギャップの容量と抵抗体層の抵抗値とで決まる時定数(τ0)を短くできるようになり、応答時間をさらに短絡化することが可能になる。
【0028】第2の本発明では、ギャップを介して対向する一方の抵抗体層の抵抗値が高く他方の抵抗値がこれよりも低く設定されている。一方の抵抗体層の抵抗値が小さいために、この小さい方の抵抗値とギャップ部分での静電容量とで決まる時定数(τ0)が短くなり、放電開始までの応答時間を短縮できる。また他方の抵抗体層の抵抗値が従来のものと同等に高抵抗に設定されているため、放電開始電圧は充分に高いものにできる。
【0029】また、最初に両抵抗体層を抵抗値の高い第1の層とし、次に両抵抗体層において第1の層の上にこれよりも抵抗値の低い第2の層を形成し、一方の抵抗体層にて第2の層を除去することにより、ギャップを介して対向する抵抗体層の抵抗値を相違させることができる。この構造はエッチング工程を用いた薄膜形成技術により形成することが可能である。また薄膜形成技術を使用することにより、ギャップ長を従来のものよりも短くでき、またギャップ長の設定も高精度にできる。
【0030】さらに、それぞれの抵抗体層において抵抗値が相違するものとした場合に、抵抗体層の上に電子放出材料層を設けることにより、放電を容易にして、さらに放電開始までの応答時間を短縮することが可能になる。また電子放出材料層を設けることにより、抵抗体層に損傷が生じるのを防止できるものとなる。
【0031】さらに上記第1の発明と第2の発明において、基体を平板状チップとし、このチップの1つの面または複数の面に抵抗体層を設ける構造にすると、薄膜形成技術により、抵抗体層およびギャップを簡単な工程で高精度に形成でき、量産に適したものとなる。
【0032】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明のサージアブソーバの全体構造を示す斜視図、図2R>2はその断面図である。このサージアブソーバ10は、平板状チップの基体11を有している。この基体11は、比較的融点の高いガラスやAl2O3などのセラミック材料などにより形成されている。基体11の表面には、抵抗体層12a,12bが形成され、抵抗体層12aと12bとの間にギャップ長Gのギャップ13が形成されている。基体11の両端部には、抵抗体層12a,12bのそれぞれに導通する導電層14a,14bが設けられ、この導電層14a,14bが主電極15a,15bに接合されている。
【0033】主電極15a,15bは、例えばジメット(銅の表面に酸化銅膜が形成されているもの)により形成されている。この主電極15a,15bにはリード線16a,16bが接続されている。基体11および主電極15a,15bはガラス封止体17の内部に収納され、リード線16a,16bは、ガラス封止体17の外部に突出している。ガラス封止体17の内部は真空に近い低圧であり、ガラス封止体17の内部にはアルゴン、ネオン、ヘリウムなどの不活性ガスが充填されている。
【0034】また、サージアブソーバの全体構造は、図3R>3に示すものであってもよい。図3の構造では、ガラスなどの筒体18が使用され、ジメット製の主電極15a,15bの外周がこの筒体18の内周面に接着されて、筒体18と主電極15a,15bとで封止体が形成されている。
【0035】図3に示すものでは、筒体18内に基体11を挿入し、筒体18内を真空引きしてアルゴンなどの不活性ガスと置換し、主電極15a,15bの外周面を筒体18の内面に接着することにより組立てを完成する。ガラスなどの筒体18の加熱冷却工程での収縮により、主電極15a,15bは導電層14a,14bに密着して導通される。この実施例では、主電極15a,15bが封止体を兼ねているため、封止体の構造が簡単であり、また組立て作業も容易である。
【0036】図4は、第1の本発明の実施例を示すものであり、同図(A)ないし(D)は、基体11を実施例別に示す側面図である。図4(A)に示す実施例では、平板チップ状の基体11の表面に抵抗体層12aと12bが形成され、両抵抗体層12aと12bの間にギャップ13が形成されている。そして抵抗体層12a,12bの表面からギャップ13の部分にかけて、電子放出材料層21が積層されている。
【0037】抵抗体層12a,12bは高抵抗材料により形成されている。この抵抗材料は、基体11の表面に蒸着またはスパッタなどの工程で成膜できるものが使用される。抵抗体層12a,12bを形成する高抵抗材料としては、金属と酸化物とから成る例えばTaSiO2、CrSiO2、金属と酸化物の混合物であるTa−HfO2、Cr−HfO2、炭化物または窒化物と酸化物との混合物であるSiC−Ta2O5、TiN−SiO2、HfN−SiO2などが例示できる。これらの材料はいずれも融点が高く、また比抵抗は10-2〜102Ω・cmの範囲で変えることができる。
【0038】また、高抵抗材料としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの非晶質カーボン、またはアルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)が5〜40at%含まれた非晶質カーボンを使用することが好ましい。非晶質カーボンは比較的抵抗が高く、またガラス封止体に充填されているアルゴンやネオンなどの不活性ガスに対する耐性が高いため、高抵抗の抵抗体層12a,12bの材料として好適である。
【0039】抵抗体層12a,12bの膜厚は50〜1000nmまたは200〜500nmの範囲とすることが好ましい。ギャップ13は、基体11の表面に上記高抵抗材料の膜を形成した後に、この膜をギャップ長Gとなる間隔で除去することにより形成できる。この工程はウエットエッチングまたはドライエッチングにより行われる。高抵抗材料が非晶質カーボンの場合には、CF4+O2の混合ガスを用いたドライエッチングなどによりギャップ13を加工することが可能である。
【0040】電子放出材料層21は、上記ギャップ13の加工の後に成膜される。図4(A)では、ギャップ13の部分が電子放出材料層21により覆われているため、電子放出材料層21は絶縁性のもの、すなわち抵抗体層12a,12bよりもインピーダンスが高い材料が使用される。この材料はRFマグネトロンスパッタなどの工程で成膜可能なものであり、例えばMgO、BaO、SrO、LaB6などが使用される。この電子放出材料層21の膜厚は5〜300nmまたは30〜100nmの範囲とすることが好適である。なお図2または図3R>3に示す導電層14a,14bは、クロム(Cr)やチタン(Ti)を下地膜として銅(Cu)やニッケル(Ni)が形成されたものである。
【0041】図4(A)に示すものでは、主電極15aと15bにサージが印加されると、抵抗体層を経てギャップ13で構成されるコンデンサC(図11参照)に充電される。そしてギャップを挟む抵抗体層12aと12b間で放電が開始されるが、抵抗体層12a,12bが電子放出材料層21に覆われているため、電子放出材料層21のエッジ(ロ)の部分にて積極的に電子が放出されることになり、放電開始の応答時間(τ)を短くできる。
【0042】このサージアブソーバの等価回路は図11にて表現できる。抵抗体層12aおよび12bの抵抗値をR0とすると、ギャップ13(容量C)への充電は時定数τ0=R0・Cを持つが、電子放出材料層21のエッジ(ロ)間にて積極的に電子が放出されることにより、サージの印加時からギャップ13の部分で放電が開始されるまでの時間τaを短縮でき、その結果応答時間τを短くできる。ただし、抵抗体層12aと12bの抵抗値は従来と同様に1k〜100kΩと高抵抗となっており、また電子放出材料層21は絶縁性材料であるため、放電開始電圧は従来と同等に高いものにできる。
【0043】図7は、横軸にギャップ長Gを対数軸として示し、縦軸に応答時間(τ)を対数軸で示したものである。図7にて(i)は、電子放出材料層21を設けなかったもの、(ii)は電子放出材料層21が設けられたもので図4(A)に示す構造のものを示している。図7R>7に示すように、電子放出材料層21を設けたもの(ii)は、電子放出材料層21を設けていないもの(i)に比較してギャップ長Gを短くしたときに応答時間(τ)を短縮化する比率が高くなることが解る。
【0044】次に、図8はギャップ長Gが20μmのものにおいて、電子放出材料層21を形成したもの(図4(A)のもの)と、電子放出材料層21を設けないものとで、絶縁抵抗の変化を示したものである。すなわち、電子放出材料層21が設けられたものと設けないものとに対し、電流が500アンペアのサージを主電極15a,15b間に30秒間隔で20μsec印加した。図8R>8の横軸はサージ印加回数を示し、縦軸に主電極15a,15b間の絶縁抵抗を示している。電子放出材料層21が設けられたものは、104回サージを印加しても、充分な絶縁抵抗を有していることが解る。
【0045】すなわち、電子放出材料層21が形成されたものでは、放電の際に抵抗体層12a,12bが損傷を受けにくく、したがってサージが繰返し印加され、放電が繰返されても、絶縁抵抗の低下が防止できるものとなっている。電子放出材料層21が設けられていると抵抗体層12a,12bの損傷、特にギャップを挟んで対向している抵抗体層のエッジ(図13での(イ))の部分の損傷が少なく寿命が高くなる。ギャップ長Gを短くしても抵抗体層12a,12bの損傷が少ないため、ギャップ長Gを可能な限り短くできる。したがって、エッチング加工によりギャップ長Gを5μmまたは1μmあるいはさらに短くすることにより、図7に示すように応答時間(τ)を非常に短くできる。
【0046】また、図4(B)に示すように、ギャップ13の部分に電子放出材料層21を設けず、抵抗体層12a,12bの上にのみ電子放出材料層21を形成してもよい。また、図4(C)に示すように、ギャップ13の部分と、ギャップ13の両側部分での抵抗体層12a,12bの上にのみ電子放出材料層21が形成されていてもよい。さらに図4(D)に示すように、図4(C)のものにおいてギャップ部分の電子放出材料層21を除去したものとしてもよい。いずれも(ロ)のエッジ部分にて放電が開始される。
【0047】また、図4(C)(D)に示すように、ギャップ13の部分にのみ電子放出材料層21が形成されている場合には、放電時の不活性ガスのイオンやラジカルな原子により抵抗体層12a,12bの表面がスパッタされたときに、スパッタにて放出された物質がギャップ13にて抵抗体層12aと12bの間に直接付着することがなく、抵抗体層12aと12bが短絡する現象を防止できる。
【0048】図5は第2の本発明の実施例を示している。この実施例では、ギャップ13を介して対向する抵抗体層12aと抵抗体層12bとで抵抗が相違しており、抵抗体層12aが高抵抗値R1で、抵抗体層12bが低抵抗値R2である。高抵抗値R1は例えば1k〜100kΩで、低抵抗値R2が10〜100Ω程度に設定される。
【0049】抵抗体層12aと抵抗体層12bを、別々の材料により形成してそれぞれ抵抗値を異ならせてもよいが、図5(A)では、抵抗体層12bが高抵抗材料の第1の層(a)と低抵抗材料の第2の層(b)とから構成され、抵抗体層12aが高抵抗材料の第1の層(a)でのみ形成されている。高抵抗材料の第1の層(a)は、DLCなどの非晶質カーボン材料などにより形成される。低抵抗の第2の層(b)は、TiN、Ta2N、CrN、h−BN(六方晶の窒化ボロン)などの窒化物、またはSiC、TiC、TaCなどの炭化物が使用される。
【0050】このサージアブソーバの動作に関する等価回路を図11に基づいて説明すると、主電極15aと15b間にサージが印加され、図11のスイッチS1が等価回路の表現において閉になると、電荷が低抵抗R2の抵抗体層12bを通ってギャップ13に充電される。充電では前述のように、τ0=R2・Cの時定数を持ち、充電電圧が図9(B)に示したように、数1に示す曲線により変化する。図9(C)は抵抗体層の抵抗Rと、ギャップへの充電電圧Vの変化との関係を示しているが、この図に示されるように、抵抗体層の抵抗値Rが小さくなるほど充電が完了するまでの時間が短くなる。
【0051】ここで、抵抗体層12bは低抵抗でありその抵抗値R2は10〜100Ω程度である。サージが印加されてから抵抗体層12aと12b間で放電が開始されるまでの時間(τa)はほぼ(3×τ0)であり、τa=10〜100p・sec(ピコ・秒)となり非常に短くなる。したがって(τa+τb)で表わされる応答時間(τ0)が従来のものに比べてきわめて短くなる。ただし、一方の抵抗体層12aは高抵抗R1の値に設定されているものであるため、放電開始電圧は従来のものと同等に高くできる。
【0052】図5(B)に示す実施例では、高抵抗の抵抗体層12aと、低抵抗の抵抗体層12bおよびギャップ13の部分が、絶縁性の電子放出材料層21により覆われている。電子放出材料層21は、例えばMgO、BaO、SrO、LaB6などである。図4の実施例において説明したように、抵抗体層12aと12bの間に電圧が印加され、放電開始電圧に至ったときに、電子放出材料層21から積極的に電子が放出されるため、さらに応答時間τを短縮化できる。
【0053】図5(C)に示す実施例は、抵抗体層12aと12bの表面にのみ電子放出材料層21が積層され、ギャップ13の部分には電子放電材料層が形成されていないものと示している。この実施例においても、電子放出材料層21のエッジ(ロ)間で積極的な放電が行われ、応答時間τを短縮することができる。
【0054】図6(A)から(E)は、基体11に、抵抗値の相違する抵抗体層12a,12bおよび電子放出材料層21さらに導電層14a,14bが形成される工程の一例を示している。基体11は、「#7059」などの比較的融点の高いガラスにより形成された平板状チップの基板である。この基体11は広い面積のものであり、この上に複数個のサージアブソーバ分の抵抗体層やギャップなどが形成された後に個々に切断される。ただし、図6では1個分の基体11のみを図示している。
【0055】また基体11の材料はアルミナ基板であってもよい。またサージアブソーバとしての使用電力容量が高いものである場合には、表面がホーロー仕上げされた鉄基板を用いることも可能である。
【0056】まず上記図6(A)に示すように、基体11の表面に高い抵抗値の第1の層(a)と抵抗値の低い第2の層(b)が連続して成膜される。高抵抗体の第1の層(a)は非晶質カーボンなどで、低抵抗の第2の層(b)は前述の窒化物や炭化物である。それぞれの層(a)と(b)は広い基体表面の全面に成膜される。この成膜は例えばDCマグネトロンスパッタなどにより行われる。それぞれの層(a)(b)の膜厚は、50〜1000nm、好ましくは200〜500nmである。
【0057】次に、第2の層(b)の上に感光性ポリイミドなどのレジスト材料を塗布し、プリベークし、フォトマスクを用いて紫外線光による露光を行う。この露光、さらには現像、リンス、乾燥およびポストベークにより、ギャップ形成部分のレジスト材料を除去する。ギャップ長Gが5μm程度までは、フォトマスクを用いた密着露光により、ギャップ長Gの寸法に合わせて高精度にレジスト材料を除去することが可能である。ただし、ギャップ長Gが5μmよりも短く、1μm程度まで短くする場合には、ステッパーを用いて縮小透光露光を行うことにより、短ギャップ寸法に相当するレジスト材料除去を高精度に行うことができる。
【0058】次に、エッチングによりギャップ長Gの部分にて前記第1の層(a)と第2の層(b)を除去する。ギャップ長Gはエッチングにより1μmまたはそれ以下の寸法とすることが可能であるが、ギャップ長Gは1〜30μmが好ましい。ギャップのエッチングは2つの層(a)(b)について行うが、これはドライエッチングまたはウエットエッチングにより可能である。
【0059】高抵抗材料の第1の層(a)が、DLCなどの非晶質カーボン材料などにより形成され、低抵抗の第2の層(b)が、TiN、Ta2N、CrN、h−BN(六方晶の窒化ボロン)などの窒化物、またはSiC、TiC、TaCなどの炭化物である場合、CF4+O2ガスを用いたドライエッチングにより、両層(a)(b)を除去することが可能である。このエッチング終了後に、ギャップ形成用のレジスト材料を除去する。
【0060】次に、一方の抵抗体層の第2の層(b)を除去するためのレジスト層を形成する。このレジスト形成は、ギャップ形成時と同様にフォトマスクを使用した露光および現像により行われる。そして一方の抵抗体層の上の第2の層(b)をエッチングにより除去する。低抵抗の第2の層(b)が、TiN、Ta2N、CrN、h−BN(六方晶の窒化ボロン)などの窒化物である場合、HF+HNO3の混合液を用いたウエットエッチングが可能であり、層(b)がSiC、TiC、TaCなどの炭化物である場合、HF+KIO3の混合液を用いたウエットエッチングが行われる。上記エッチングにより図6(C)に示すように、第1の層(a)のみによる高抵抗の抵抗体層12aが形成される。
【0061】次に図6(D)に示すように、導電層14a,14bを形成する部分にレジスト層(c)を形成し、レジスト層(c)、抵抗体層12a,12bおよびギャップ13の部分に電子放出材料層21を形成する。電子放出材料層21は、RFマグネトロンスパッタなどを用いて成膜し、膜厚は5〜300nm、好ましくは30〜100nmとする。次に、アセトンなどを用いてレジスト層(c)を除去し、ダイサーを用いて個々のチップごとに切断する。チップ形状の個々の基体11の大きさは、1.2×2.0mm2〜4.5×7mm2である。
【0062】次に図6(E)に示すように、導電層14a,14bを形成する。導電層14a,14bは、Cr,Tiを下地膜とし、Cu,Niを連続して成膜したものであり、膜厚は50〜300nm程度である。次に、図2または図3に示すように基体11を封止する。ジメットによる主電極15a,15bは直径1〜3mmで、厚さ0.3〜0.5mm程度の円板である。主電極15a,15bにはリード線16a,16bを溶接により接続しておく。
【0063】切断した個々の基体11を主電極15a,15bで挟み、ガラス筒に挿入し、カーボンヒータに装填する。約450℃で加熱し、真空ポンプで10-5torr程度の低圧に設定し、Ar、He、Neなどのガスを1〜500torrで充填する、約600℃まで急激に加熱すると、ガラスが溶け、図2に示すように封止される。室温まで冷却してサージサブソーバが完成する。
【0064】なお、ギャップは1つ形成されているのに限られず、複数形成してもよい。図10は、ギャップが複数形成されている場合である。図10では、抵抗体層12bが層(a)と(b)を有する低抵抗体であり、抵抗体層12aと12cが層(a)だけの高抵抗体である。そして、各抵抗体層の間にギャップ13aと13bが形成されている。そして、各抵抗体層とギャップの上に電子放出材料層21が形成されている。また、図4の実施例でもギャップを複数形成することが可能である。ギャップを複数設けることにより、放電開始電圧を高くすることが可能である。
【0065】
【発明の効果】以上のように本発明では、抵抗体層に電子放出材料層を形成し、またはギャップを介して対向する抵抗体層の抵抗値を変えることにより、放電開始までの応答時間を短縮化できる。
【0066】また、基体を平板状のチップ形状にすることにより、抵抗体層やギャップを薄膜形成技術やエッチングにより容易に形成できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のサージアブソーバの全体構造を示す斜視図、
【図2】図1に示すサージアブソーバの断面図、
【図3】他の構造のサージアブソーバを示す断面図、
【図4】(A)(B)(C)(D)は第1の本発明の実施例に相当する基体の側面図、
【図5】(A)(B)(C)は第2の本発明の実施例に相当する基体の側面図、
【図6】(A)(B)(C)(D)(E)は、図5(B)に示すものの製造方法を示す工程説明図、
【図7】第1の発明の応答時間の特性を示す線図、
【図8】第1の本発明のサージ印加回数と絶縁抵抗の関係を示す線図、
【図9】(A)はサージ印加電圧を示す線図、(B)は時定数によるギャップでの充電電圧の変化を示す線図、(C)は抵抗体層の抵抗値の変化と充電電圧の変化との関係を示す線図、
【図10】他の実施例を示す基板の側面図、
【図11】サージアブソーバの動作を示す等価回路、
【図12】従来のサージアブソーバの斜視図、
【図13】図12に示すサージアブソーバのギャップ部分を示す拡大断面図、
【符号の説明】
11 基体
12a,12b 抵抗体層
13 ギャップ
14a,14b 導電層
15a,15b 主電極
16a,16b リード線
17 ガラス封止体
21 電子放出材料層
G ギャップ長
【特許請求の範囲】
【請求項1】 基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、前記抵抗体層の上に電子放出材料層が設けられていることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項2】 基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、ギャップを介して対向する一方の抵抗体層と他方の抵抗体層とで抵抗値が相違することを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項3】 ギャップを介して対向する両抵抗体層が、それぞれ高い抵抗値の第1の層を有し、一方の抵抗体層には、前記第1の層の上にこれよりも抵抗値の小さい第2の層が積層されている請求項2記載のサージアブソーバ。
【請求項4】 抵抗体層の表面に電子放出材料層が設けられている請求項2または3記載のサージアブソーバ。
【請求項5】 基体は平板状チップであり、このチップの1つの面または複数の面に抵抗体層が設けられている請求項1ないし4のいずれかに記載のサージアブソーバ。
【請求項1】 基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、前記抵抗体層の上に電子放出材料層が設けられていることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項2】 基体の表面に形成された抵抗体層と、抵抗体層の両側に配置された主電極とを有し、前記抵抗体層に1つ以上のギャップが形成されているサージアブソーバであって、ギャップを介して対向する一方の抵抗体層と他方の抵抗体層とで抵抗値が相違することを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項3】 ギャップを介して対向する両抵抗体層が、それぞれ高い抵抗値の第1の層を有し、一方の抵抗体層には、前記第1の層の上にこれよりも抵抗値の小さい第2の層が積層されている請求項2記載のサージアブソーバ。
【請求項4】 抵抗体層の表面に電子放出材料層が設けられている請求項2または3記載のサージアブソーバ。
【請求項5】 基体は平板状チップであり、このチップの1つの面または複数の面に抵抗体層が設けられている請求項1ないし4のいずれかに記載のサージアブソーバ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図11】
【図13】
【図12】
【公開番号】特開平9−148044
【公開日】平成9年(1997)6月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−301345
【出願日】平成7年(1995)11月20日
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【公開日】平成9年(1997)6月6日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)11月20日
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
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