説明

サーデンペプチドによるカルシウムチャンネル阻害剤

【課題】 天然物由来のカルシウムチャンネル阻害ないし抑制作用を有する剤及び同飲食品を開発する。
【解決手段】 サーデンペプチドを有効成分とすることにより課題を解決する。サーデンペプチドとしては、例えば具体的には、魚肉を熱変性した後、プロテアーゼ処理して加水分解し、酵素を失活せしめた後、分離処理してペプチドを得、このペプチドの水溶液をペプチド吸着樹脂に供してペプチドを吸着せしめた後、エタノール水溶液で溶出した画分(Y−2)が使用される。なお、市販品(サーデンペプチドY−2)も使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムチャンネル阻害剤に関するものであり、更に詳細には、特定の天然ペプチド及び/又はその含有物を有効成分とする新規にして有用なカルシウムチャンネル阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先に、本発明者らは、魚肉を熱変性処理し、自己消化酵素を失活させ、蛋白分解酵素で加水分解し、酵素を失活せしめた後、分離処理することによってACE(Angiotensin I−converting enzyme:アンジオテンシンI変換酵素)阻害活性を有する新規ペプチドα−1000を開発するのに成功し、既に特許権を得ている(特許文献1参照)。
【0003】
そして本発明者らは、更に研究を進め、ペプチドα−1000を更に処理して強力なACE阻害活性を有するペプチドY−2を新たに分離するのにも成功し(特許文献2)、現在、サーデンペプチドY−2の名称にて市販されている(製造元:仙味エキス株式会社)。一方、本発明はペプチドY−2がカルシウムチャンネル阻害作用を有することをはじめて見出し、この有用新知見に基づいてなされたものであるが、本ペプチドがこのようなすぐれた生理作用を有することは従来全く知られていない。
【特許文献1】特許第3117779号公報
【特許文献2】特開平11−228599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特に安全性の観点から、天然物由来の薬剤、機能性食品の開発を目的としてなされたものであって、先に本発明者らが開発するのに成功した魚肉由来ペプチドα−1000のすぐれた生理作用に再度着目し、すぐれた生理作用を有する新規ペプチドを新たに開発する目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために各方面から検討を行い、魚肉由来ペプチドに着目してその生理活性機能について研究した結果、魚肉由来ペプチドがすぐれた血圧上昇抑制作用を有することを見出した。そしてこの作用は、主として、血管収縮作用を示すアンジオテンシンII(Ang II)のアンジオテンシンI(Ang I)からの産生を触媒するアンジオテンシンI変換酵素(ACE)に対する阻害によるものであることを確認したが、その研究の過程においてACE阻害作用のみでは説明できない現象がin vivo試験で認められた。
【0006】
そこで本発明者らは、ACE阻害作用とは別の降圧機構が魚肉由来ペプチドには存在するのではないかという新規着想を得、各方面から検討の結果、魚肉由来ペプチドによるACE阻害作用とは別の降圧機構として、カルシウムチャンネルの阻害ないし抑制作用にはじめて着目した。カルシウムは細胞の生育に必要ではあるが、カルシウムチャンネルを介してカルシウムが過度に血管細胞に取り込まれると血管の柔軟性が低下し、血圧が上昇するため、カルシウムチャンネルを適宜閉じてカルシウムの吸収を防止(阻害)する必要がある。
【0007】
本発明者らは、魚肉由来ペプチドを分画し、得られた各種分画画分について、その生理活性の解明を目的として、SDラットの胸部大動脈を用いて検討した結果、ペプチドY−2がカルシウムチャンネルを阻害ないし抑制する作用を有することをはじめて見出した。サーデンペプチドは具体的にはサーデンペプチドY−2を指し、このペプチドY−2がACE阻害作用することは既に本発明者らによって解明されているが(特許文献2:現在サーデンペプチドY−2として市販されている)、ペプチドY−2(以下、サーデンペプチド、サーデンペプチドY−2、又はY−2ということもある)がカルシウムチャンネル阻害作用を有することは従来未知の新規知見である。
【0008】
そして更に本発明者らは研究をすすめて、単離したペプチドY−2だけでなく、ペプチドY−2を含有する物質のスクリーニング、ペプチドY−2高含有成分の分離、取得法についても検討を行い、これらの含有物もすぐれたカルシウムチャンネル阻害(ないし抑制)作用を有することもはじめて確認し、これらの有用新知見に基づいて各種研究の結果、遂に本発明の完成に至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、ペプチドY−2についてカルシウムチャンネル阻害(ないし抑制)作用という新しい生理作用(ACE阻害作用とは別の新しい血圧降下作用)をはじめて発見したことに基づくものであって、Y−2及び/又はY−2含有物を有効成分とするカルシウムチャンネル阻害(ないし抑制)用のあるいは予防用の薬剤または同飲食品に関するものであり、これらの薬剤及び/又は飲食品は、例えば血圧を降下させたり、予防的に血圧の上昇を抑制したりするのに有用である。
【0010】
本発明においては、有効成分としてペプチドY−2を使用するものであるが、Y−2としては、精製、単離したものが使用できるほか、Y−2を含有する組成物、特に天然物由来物質も各種使用することができる。該物質として、本発明者らの研究の結果、例えば魚肉処理物が好適であることが見出された。
【0011】
ここに処理物とは、アミノ酸、ペプチド、蛋白質等天然物の分離、精製に常用される各種処理の1種又は2種以上によって得られたものをいい、処理としては下記の処理が例示される:透析、酵素加水分解、脱脂、イオン交換樹脂、クロマトグラフィーその他。
【0012】
本発明においては、有効成分として天然物由来のペプチドY−2含有物質も使用することができ、例えば該物質としては、イワシその他各種魚肉ペプチド、例えば魚肉由来のペプチドα−1000等が有利に使用される。そして所望する場合には、クロマトグラフィー処理等の分離精製手段をくり返したり、適宜組み合わせたりして、Y−2含量を高めたり、Y−2画分を分画したりすることも可能である。
【0013】
ペプチドY−2は、先に本発明者らが開発した魚肉由来ペプチドα−1000を疎水性吸着樹脂ODSカラムに供した後、カルシウムチャンネル阻害活性が高い画分が10%エタノール水溶液で溶出した画分に存在することを見出し、該画分及び所望するのであれば該画分を含む近隣の画分を回収することによって製造することができるが、更に活性の高い画分を分離精製してもよいし、所望するのであれば市販品(例えばサーデンペプチドY−2)を適宜使用することも可能である。
【0014】
例えば、ペプチドY−2は次のようにして製造することができる。ペプチド原液つまりペプチドY−2の原料としては、魚肉由来ペプチドを用い、これを疎水性吸着樹脂に供した後、5〜20、好ましくは8〜17、更に好ましくは約15V/V%エタノール水溶液で溶出することにより、ペプチドY−2が得られる。また、エタノール水溶液で溶出する前に水で溶出し次にエタノール水溶液で溶出してもよい。このようにして得られた溶出画分には活性の高い画分が含まれており、この画分(ペプチドY−2)は、本発明における有効成分として有利に使用することができる。
【0015】
ペプチドY−2の起源、つまりペプチド原液としては、例えばペプチドα−1000の水溶液が使用できる。
ペプチドα−1000は、魚肉を熱変性した後、中性ないしアルカリプロテアーゼ処理して加水分解し、次いで加熱等常法にしたがって酵素を失活せしめた後、分離処理して製造することができる。その詳細を以下に述べる。
【0016】
ペプチドα−1000は、魚介類を原料として製造するものであって、例えば特許第3117779号にしたがって製造することができ、先ず、魚介類を採肉機、デボーナー等によって処理して魚肉質を分離する。原料は出来る限り新鮮なものが好ましい。分離した魚肉は、10kg程度のすり身に分割し、このまま次の処理に使用してもよいが、−20〜−50℃、例えば−30℃程度の冷気を吹き付けて急速凍結し、−20〜−25℃に保存しておき、必要に応じてこれを適宜使用することにしてもよい。
【0017】
魚介類としては、イワシ、アジ、マグロ、カツオ、サンマ、サバ等赤身魚;ヒラメ、タイ、キス、コノシロ、タラ、ニシン、ブリ等白身魚;サメ、エイ等軟骨魚肉;ワカサギ、コイ、イワナ、ヤマメ等淡水魚肉;アイザメ、アンコウ等深海魚肉のほか、エビ、カニ、タコ、アミ類等も適宜使用できる。
【0018】
採肉した後、粉砕機等によって魚介類を粉砕し、原料重量に対して1/2量〜20倍量、好ましくは等量〜10倍量の加水を行った後、加熱処理し、もって、自己消化酵素を失活させ、且つ細菌を死滅させるとともに、タンパク質を熱変性させて後に行う酵素反応効率を上昇せしめる。加熱条件としては、このような作用が奏される条件であればすべての条件が利用できるが、例えば65℃以上、2〜60分、好ましくは80℃以上、5〜30分とするのがよい。
【0019】
次いで、アンモニア水か、水酸化ナトリウム(カリウム)水溶液等アルカリ剤を加えて、使用する蛋白分解酵素の適値にpHを調整し、(例えばアルカリプロテアーゼの場合は、pH7.5以上、好ましくは8以上)、温度も酵素適温(使用酵素によって異なるが、20〜65℃、アルカリプロテアーゼの場合は35〜60℃、好ましくは40〜55℃)に加温し、蛋白分解酵素を加えて30分〜30時間(アルカリプロテアーゼの場合は30分〜25時間、好ましくは1〜17時間)処理する。
【0020】
蛋白分解酵素としては、中性又はアルカリ性条件下で蛋白質を分解し得る酵素であればすべての酵素が単独で又は混合して使用し得る。その起源は、動植物のほかに微生物にも求めることができ、ペプシン、レニン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメラインのほか、細菌プロテアーゼ、糸状菌プロテアーゼ、放線菌プロテアーゼ等も広く利用できる。これらの酵素は、通常、市販されているものが使用されるが、未精製の酵素、酵素を含有した培養液、麹といった固体又は液体の酵素含有物も、目的により必要に応じて使用することができる。酵素の添加量としては0.1%〜5.0%程度でもよい。
【0021】
次いで必要あれば中和処理を行った後、70℃(好適には80℃)以上の温度に2〜60分間(好適には5〜30分間)保持し、酵素を失活させるとともに後に行う分離を良好ならしめる。加熱失活処理後、バイブスクリーン等によって粗分離し、必要によりジエクター処理した後、超遠心分離処理して、浮遊物、沈殿物を除去する。
【0022】
次に、ケイソウ土等濾過助剤(例えばセライト)を用いて濾過し、濾液を活性炭処理(0.05〜20W/V%、好ましくは0.1〜10W/V%使用、20〜65℃、好ましくは25〜60℃、15分〜4時間、好ましくは30分〜2時間)して、脱臭、脱色、精製する。
【0023】
これを減圧濃縮(0〜50℃)その他常法にしたがって濃縮(Bx30程度にまで)した後、必要あれば再度(超)遠心分離又は濾過してペプチド原液を得る。このようにして得たペプチド原液は、殺菌(UHTSTその他常法による)した後、容器に充填した製品(α−1000(液体))とする。また、希望するのであれば、更に濃縮したりあるいは逆に希釈したり、また、噴霧乾燥、凍結乾燥等の常法によって60メツシュ程度に粉末化し、これを袋等の容器に充填して製品(α−1000(粉末))とすることもできる。これらの製品は、液体は冷蔵ないし冷凍保管、粉末は乾燥冷暗所保管する。
【0024】
このようにして得た、液状、ペースト状ないし粉末状のペプチドがα−1000である。
【0025】
ペプチドα−1000(スプレードライ粉末)の物理化学的性質は、下記に示すとおりである。
【0026】
ペプチドα−1000(粉末)の物理化学的性質
(A)分子量;
200〜10,000(セファデックスG−25カラムクロマトグラフィーによる)
(B)融点;119℃で着色(分解点)
(C)比旋光度
〔α〕D20=−22°
(D)溶剤に対する溶解性;
水に易溶;エタノール、アセトン、ヘキサンにはほとんど溶解しない。
(E)酸性、中性、塩基性の区別;
中性 pH6.0〜8.0(10%溶液)
(F)外観、成分;
白色粉末;水分5.14%(減圧加熱乾燥法);蛋白質87.5%(ケルダール法、窒素・蛋白質換算係数6.25);脂質0%(ソックスレー抽出法);灰分5.0%(直接灰化法)。
(G)特 性;
魚肉由来であり、加熱によって自己消化酵素を失活させ、蛋白分解酵素で加水分解して得たペプチドである。
カルシウムチャンネル阻害(ないし抑制)作用を有する。
(H)赤外線吸収スペクトル:図1
(I)紫外線吸収スペクトル:図2
(J)アミノ酸組成;
下記に示すとおり。
【0027】
(表1)
ペプチドα−1000(粉末)のアミノ酸組成
―――――――――――――――――
分析試験項目 結果(%)
―――――――――――――――――
全アミノ酸
アルギニン 3.34
リジン 6.86
ヒスチジン 3.34
フェニルアラニン 2.33
チロシン 2.01
ロイシン 6.35
イソロイシン 3.27
メチオニン 2.26
バリン 4.16
アラニン 5.17
グリシン 3.59
プロリン 2.15
グルタミン酸 12.35
セリン 3.30
スレオニン 3.70
アスパラギン酸 8.36
トリプトファン 0.32
シスチン 0.47
全量 73.33
―――――――――――――――――
分析方法:アミノ酸自動分析法による(但し、シスチンは、過ギ酸酸化処理後、塩酸加水分解し測定した。トリプトファンは、高速液体クロマトグラフ法を用いた。)
【0028】
このようにして調製したペプチドα−1000は、本発明において有効成分として利用できるが、更に処理してもよく、例えば液状の場合はそのまま、粉末の場合は加水した後、これをODS樹脂その他疎水性吸着性樹脂に通し、水で溶出した後、ひき続き、5〜20%、好ましくは11〜19%、更に好ましくは13〜18%エタノール水溶液を加えてエタノール水溶液での溶出を行い、ペプチドY−2を得る。なお、樹脂としては、疎水性吸着性樹脂であればすべての樹脂が使用可能であり、既述した市販の樹脂も適宜使用可能である。
【0029】
このようにして得た魚肉精製ペプチドのY−2画分(つまり、ペプチドY−2)には、カルシウムチャンネル阻害活性成分が多く含有されており、事実、イワシ魚肉を0.7%アルカラーゼで17.5時間処理して得た水解物をODSカラムに供し、水溶出画分の後半部分と15%エタノール溶出画分を合わせたY−2画分(すなわち、イワシ魚肉由来酵素分解精製物であるサーデンペプチドY−2)は、後記実施例から明らかなように、カルシウムチャンネル阻害活性が高いことが確認された。
【0030】
本発明において有効成分として使用するペプチドY−2の理化学的性質は、次に示される。
(ペプチドY−2の理化学的性質)
(A)分子量:200〜10,000(ASAHIPAK GS−320高速液体クロマトグラフィーによる)(図3)
(B)融点:138℃で着色、分解する。
(C)比旋光度〔α〕D20=−40°
(D)溶剤に対する溶解性:水に易溶であるが、エタノール、アセトン、ヘキサンにほとんど溶解しない。
(E)酸性、中性、塩基性の区別:中性 pH5.0〜8.0(10%溶液)
(F)物質の外観:白色〜淡黄色粉末。
(G)成分:水分2.72%(常圧加熱乾燥法);蛋白質87.25%(ケルダール法、窒素・蛋白質換算係数6.25);脂質0%(ソックスレー抽出法);灰分0.20%(直接灰化法)
(H)生理的性質:カルシウムチャンネル阻害ないし抑制作用を有する。
(I)赤外線吸収スペクトル:図4
(J)紫外線吸収スペクトル:図5
(K)アミノ酸組成:下記の表2に示すとおり。分析方法はアミノ酸自動分析法(島津LC−6Aシステム)による。
【0031】
(表2)
ペプチドY−2のアミノ酸組成
―――――――――――――――――
アミノ酸 分析値(%)
―――――――――――――――――
アスパラギン酸 10.97
スレオニン 4.10
セリン 2.90
グルタミン酸 12.52
グリシン 4.91
アラニン 5.06
バリン 6.20
メチオニン 2.55
イソロイシン 5.55
ロイシン 9.47
チロシン 2.96
フェニルアラニン 4.75
ヒスチジン 2.83
リジン 10.07
アルギニン 7.50
―――――――――――――――――
【0032】
本発明において有効成分として使用するサーデンペプチド(具体的にはサーデンペプチドY−2)、その含有物(例えばペプチドα−1000)は、いずれも天然由来物質であって、すぐれたカルシウムチャンネル阻害ないし抑制作用を示し、しかも安全性についても問題はないので、カルシウムチャンネル阻害ないし抑制剤ないし該抑制を目的として特定保健用食品向けペプチドとしても使用することができる。したがって本ペプチドは、調味料、栄養強化用食品といった食品ないしは動物飼料添加剤として使用されるほか、上記した独特の生理活性の故に、血管性疾病の予防、ある場合には治療のために、医薬として、または輸液、健康食品、臨床栄養食品等としても巾広く使用することができる。
【0033】
なお本発明において、カルシウムチャンネル阻害とは、カルシウムチャンネルを完全に阻害する場合だけでなく、一部阻害、すなわち抑制する場合も広く包含するものであるが、これらを含めて、以降、カルシウムチャンネル阻害ということにする。
【0034】
食品として使用する場合には、ペプチドをそのまま添加したり、他の食品ないしは食品成分と併用したりして適宜常法にしたがって使用できる。また、医薬として使用する場合には、経口又は非経口投与することができる。経口投与の場合には、例えば常法にしたがい、錠剤、顆粒剤、粉末剤、カプセル剤、散剤、ドリンク剤とすることができ、又、非経口投与の揚合には、例えば注射薬製剤、点滴剤、坐剤等として使用することができる。もちろん、精製したペプチド画分についても上記と同様に、医薬、食品(本発明においては飲料も包含する)とすることができることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0035】
本発明によってはじめてサーデンペプチドがカルシウムチャンネルを阻害することが確認され、サーデンペプチドを有効成分とするカルシウムチャンネル阻害剤が開発された。更にまた、カルシウムチャンネル阻害成分を含有する物質(例えば、魚肉由来のペプチド、ペプチドα−1000等)のほか、サーデンペプチドY−2、ペプチドY−2、Y−2等はサーデンペプチドの別称であることから、これらも有効であることも確認され、これらのペプチドを有効成分とするカルシウムチャンネル阻害剤もはじめて開発された。
【0036】
本発明は、Y−2にACE阻害作用とは全く別のカルシウムチャンネル阻害作用という全く新規な作用を見出したものであって、いわゆる第2薬効の新規開発に成功したものである。また、本発明は、Y−2による血圧降下機構において、ACE阻害のほかにカルシウムチャンネル阻害の2つの作用があることをはじめて確認したものであって、まさに画期的な新発見であり、カルシウムチャンネル阻害ルートによる降圧剤の開発等、新しい展開も期待できるものである。
【0037】
上記のように、本発明はサーデンペプチドにACE阻害活性とは全く別のカルシウムチャンネル阻害作用という新規にして有用な作用を見出し、新しい降圧剤や降圧機能食品の開発にも大いに貢献するものであるので、「サーデンペプチドからなり、あるいはサーデンペプチドを含有し、カルシウムチャンネル阻害ないし抑制作用を有することを特徴とし、カルシウムチャンネル阻害ないし抑制のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品」として市販することにより、何らの表示もない従来のサーデンペプチドあるいはそれを含有した飲食品と差別化することも可能である。
【0038】
Y−2、及びそれを含有する物質(例えば上記した各種ペプチド)は、いずれも安全性には問題がなく(現に、ラットに対して500mg/日を強制的に経口投与したけれども、10日間経過後において急性毒性は認められなかった。)、薬効はもとより呈味性にもすぐれているので、同阻害剤のほか、同阻害を目的とした特定保健用食品向けペプチド等食品としても使用することができる。
【0039】
また、Y−2、それを含有する物質は、すぐれたカルシウムチャンネル阻害作用を有するので、脳梗塞性疾患、偏頭痛疾患、てんかん性疾患、精神病疾患、疼痛性疾患、高血圧症、狭心症、不整脈、心筋症、脳虚血、心不全、虚血性冠動脈心疾患等の予防及び/又は治療用の薬剤や飲食品としての利用が可能であり、また、腹痛抑制、シワ・コジワの低減、動脈硬化予防等にも有効性が充分に期待される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1:ペプチドα−1000の製造)
新鮮イワシをデボーナーで処理して採肉した。採肉した魚肉質を10kgのすり身に分割し、これを−30℃以下で急速凍結した後、粉砕機で粉砕した後等量の水を加え、これをタンクに送り、100℃で10分間加熱して自己消化酵素を失活させ、熱変性させた。次いでアンモニア水を加えてpHを9.5に調整した。
これに市販のアルカリプロテアーゼ製品の0.1%液を加え、50℃に17.5時間保持して酵素分解を行った。次いで15分間煮沸して酵素を失活せしめた。
これをバイブスクリーン(150メッシュ)に通し5000rpmでジェクター処理した後、シャープレス遠心分離機で処理し(15000rpm)、ケイソウ土を濾過助剤として用い、濾過処理したものをペプチド原液とした。
【0042】
上記で得たペプチド原液に活性炭を1W/V%加え、30℃で60分間攪拌した後濾過して濾液を得た。これを常法にしたがって減圧濃縮(20℃)した後、常法にしたがってUHTST殺菌を行って、α−1000(液体)製品を得、これを更に常法にしたがって噴霧乾燥して粒径60メッシュのα−1000(粉末)製品を得、それぞれこれらの製品は冷凍保管した。
【0043】
(実施例2:ペプチドY−2の製造1)
イワシ肉を0.7%アルカラーゼで17.5時間分解処理し、得られた水解物をODSカラムに供し、水溶出画分の後半部分と次に行った15%エタノール溶出画分とを合し、この画分をペプチドY−2とした。ペプチドY−2は高いカルシウムチャンネル阻害活性を有していた。
【0044】
(実施例3:ペプチドY−2の製造2)
実施例1で製造したイワシペプチドα−1000(液体)800ml(Brix45、たんぱく質含量29.6%)に26.2Lの脱イオン水を加え、これをODS樹脂(YMC ODS−AQ120−S50)カラム(1.5×50cm)に流してペプチドを吸着させ、脱イオン水で洗滌し、次に、0%、10%、25%、50%、99.5%のエタノール水溶液27Lを用いて順次溶出してそれぞれY−1、Y−2、Y−3、Y−4、Y−5の画分を得た。このうちY−2画分を、40℃で濃縮してエタノールを除去し、凍結乾燥してイワシ精製ペプチド(Y−2)を得た。このY−2画分にはカルシウムチャンネル阻害成分がα−1000より多量に含有されていた。
【0045】
(実施例4:ペプチドY−2の製造3)
実施例1で製造したイワシペプチドα−1000(粉末)5gを500mlの脱イオン水で溶解して原液とし、疎水性吸着樹脂SEPABEADS SP207(三菱化学(株)製)カラム(3.5×13cm)に流してカラムをα−1000溶液で満たし(原液負荷)、次に、図3の溶出パターンにしたがい、水、15%エタノール水溶液、次いで水、各500mlを加えて、図3におけるサーデンペプチドY−2の全画分、即ち、15%エタノール溶出画分、水溶出(2)画分を分取混合し、凍結乾燥し、ペプチドY−2(粉末)を得た。
【0046】
(実施例4:ドリンクの製造)
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100mlドリンク配合表
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果糖ブドウ糖液糖 4.5g
糖アルコール 1g
酸味料 0.2g
香料 0.13g
甘味料(ステビア) 0.03g
カラメル色素 0.02g
ペプチドY−2(粉末) 0.5g
(実施例3で得た)
精製水 全量を100mlに定容
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50mlドリンク配合表
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果糖ブドウ糖液糖 10g
香料 0.3g
酸味料 0.16g
甘味料(ステビア) 0.015g
ペプチドY−2(粉末) 0.5g
(実施例3で得た)
精製水 全量を50mlに定容
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30mlドリンク配合表
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果糖ブドウ糖液糖 5g
香料 0.25g
酸味料 0.1g
甘味料(ステビア) 0.015g
ペプチドY−2(粉末) 0.5g
(実施例3で得た)
精製水 全量を30mlに定容
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【0047】
上記配合を60℃で混合溶解した後、128℃、10秒のプレート殺菌をした。次いでこれを充分に洗浄した100ml、50ml、30mlの各容量褐色ビンに90℃で充填し、室温で放冷後、流水水槽中で急冷し、ドリンクを製造した。
【0048】
(実施例5:錠剤の製造)
次の配合により錠剤を製造した。
実施例3で得たペプチドY−2(粉末)500g、還元麦芽糖水飴356g、結晶セルロース100g、ショ糖脂肪酸エステル40g、甘味料(ステビア)4gを混合し、この混合物を圧縮錠剤機により圧縮して素錠(250mg×4000個)を作製した。この素錠に、1錠当たり7.5mgのセラック溶液をコーティングし、4錠当たりペプチドY−2(粉末)を500mg含有する錠剤4000個を製造した。
【0049】
上記と同様にして、実施例1で得たペプチドα−1000、実施例2で得たペプチドY−2を用いて、ドリンク及び錠剤を製造した。
【0050】
(実施例6:カルシウムチャンネル阻害試験)
実験動物としては、7〜8週齢のSprague−Dawleyラット(オス)を用い、その胸部大動脈を摘出して試験に供した。栄養バッファーとしては、Krebs−Henseleit(KH)溶液を用い、張力は1.0gとした。
【0051】
使用した薬剤及び最終濃度は以下に示すとおりとした。
(1)サーデンペプチド:サーデンペプチドY−2(仙味エキス株式会社)
(2)フェニレフリン(PE):10-7
(3)N−ニトロ−L−アルギニン(L−NNA):10-4
(4)KCl:50mM
【0052】
SDラット(オス)から胸部大動脈を摘出し、KH溶液中に維持した。平衡後、平滑筋収縮は等尺で記録した。フェニレフリン(PE)は平滑筋収縮を誘導する作用を有し、量に依存して収縮を誘導する特性を有するので、ラット大動脈を維持したKH溶液にPEを10-7M添加すれば、平滑筋が収縮するが、それに対するサーデンペプチドの作用を試験した。すなわち、サーデンペプチドを0.01〜100mg/mlの濃度となるように添加調整し、これらの各濃度における平滑筋の弛緩%を測定した。
【0053】
その結果を図6に示すが(IC50値(mg/ml):0.68mg/ml)、その結果から明らかなように、サーデンペプチドは量に依存して弛緩%が高まること、つまりPE(10-7M)誘導平滑筋収縮を阻害することが示された。
【0054】
次に、サーデンペプチドの筋弛緩機構に対する窒素酸化物の影響について試験した。すなわち、サーデンペプチドを0.01〜100mg/mlの濃度となるように添加調整し、これらの各濃度におけるニトロアルギニン(10-4M)で前処理した平滑筋の弛緩%を測定した。同時に、対照として、前処理しない平滑筋の弛緩%も測定した。結果を図7に示す。図中、前者(前処理)をL−NNA、後者(対照)をControlとして示した。なお、IC50値(mg/ml)は、L−NNAが0.51、Controlが0.68であった。
【0055】
その結果、ニトロアルギニン(10-4M)での前処理はPE(10-7M)誘導平滑筋収縮へのサーデンペプチドの弛緩効果に作用しないことが明らかとなった。このことは、サーデンペプチドの筋弛緩機構に窒素酸化物が関与しないことを示すものである。
【0056】
KClは持続性平滑筋収縮作用を有するが、それに対するサーデンペプチドの作用を試験した。すなわち、サーデンペプチドを0.1〜10mg/mlの濃度となるように添加調整し、これら各濃度におけるKCl(50mM)溶液で処理して持続性収縮が誘導された平滑筋の弛緩%を測定した
【0057】
測定結果を図8に示した(IC50値(mg/ml):3.35)。その結果から明らかなように、KCl(50mM)誘導持続性平滑筋収縮もまたサーデンペプチドで阻害されること、しかも量に依存して阻害されることが示された。
【0058】
以上より、サーデンペプチドはカルシウムチャンネルを阻害する作用を有することが実証された。そして、この作用が血圧低下機構のひとつとなるものと認められる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ペプチドα−1000の赤外線吸収スペクトルを示す。
【図2】ペプチドα−1000の紫外線吸収スペクトルを示す。
【図3】ペプチドY−2の溶出パターンのグラフである。
【図4】ペプチドY−2の赤外線吸収スペクトルを示す。
【図5】ペプチドY−2の紫外線吸収スペクトルを示す。
【図6】ラット大動脈におけるPE誘導収縮に及ぼすサーデンペプチドの作用を示す。
【図7】サーデンペプチド誘導弛緩に及ぼすL−NNA処理の影響を示す。
【図8】ラット大動脈におけるKCl誘導平滑筋収縮に及ぼすサーデンペプチドの影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーデンペプチドを有効成分としてなり、且つサーデンペプチドが、魚肉を熱変性した後、中性ないしアルカリ性プロテアーゼ処理して加水分解し、酵素を失活せしめた後、分離処理してペプチドを得、このペプチドの水溶液をペプチド吸着樹脂に供してペプチドを該樹脂に吸着せしめた後、エタノール水溶液で溶出した画分であって、カルシウムチャンネル阻害作用を有するペプチドY−2であること、を特徴とするカルシウムチャンネル阻害剤。
【請求項2】
サーデンペプチドを有効成分としてなり、且つサーデンペプチドが、下記の理化学的性質を有するペプチドY−2であること、を特徴とするカルシウムチャンネル阻害剤。
(ペプチドY−2の理化学的性質)
(A)分子量:200〜10,000(ASAHIPAK GS−320高速液体クロマトグラフィーによる)
(B)融点:138℃で着色、分解する。
(C)比旋光度〔α〕D20=−40°
(D)溶剤に対する溶解性:水に易溶であるが、エタノール、アセトン、ヘキサンにほとんど溶解しない。
(E)酸性、中性、塩基性の区別:中性 pH5.0〜8.0(10%溶液)
(F)物質の外観:白色〜淡黄色粉末。
(G)成分:水分2.72%(常圧加熱乾燥法);蛋白質87.25%(ケルダール法、窒素、蛋白質換算係数6.25);脂質0%(ソックスレー抽出法);灰分0.20%(直接灰化法)
(H)生理的性質:カルシウムチャンネル阻害ないし抑制作用を有する。
(I)赤外線吸収スペクトル:図4
(J)紫外線吸収スペクトル:図5
【請求項3】
サーデンペプチドがイワシ魚肉由来であること、を特徴とする請求項1又は2に記載のカルシウムチャンネル阻害剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のペプチドY−2自体からなること、あるいはペプチドY−2を含有してなること、を特徴とするカルシウムチャンネル阻害ないし抑制用飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−56803(P2006−56803A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238429(P2004−238429)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月8日 社団法人日本薬理学会主催の「第77回 社団法人日本薬理学会年会」において文書をもって発表
【出願人】(591141050)仙味エキス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】