説明

サーボ加速度計

【課題】温度が変化しても加速度感度の変化が極めて小さいサーボ加速度計を提供する。
【解決手段】振子11の両面にトルカコイル15が取り付けられ、それらトルカコイル15は磁気回路の磁気空隙26にそれぞれ位置し、加速度入力による振子11の変位に応じてトルカコイル15に流すトルカ電流を発生するサーボ回路13を具備するサーボ加速度計において、磁気回路の温度を検出する温度センサ31と、磁気回路に巻かれた補償用コイル(SFCコイル)32と、温度センサ31の出力に基づき、補償用コイル32に電流を流す電気回路とを有し、補償用コイル32に電流が流れることによって発生する磁束が磁気回路の磁束に加算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は振子の両面に取り付けられたトルカコイルが磁気回路の磁気空隙にそれぞれ位置され、それらトルカコイルに加速度入力による振子の変位に応じてトルカ電流が流されて、振子が原点位置で平衡する構成とされたサーボ加速度計に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のサーボ加速度計の従来構造の一例を図7に示す。
【0003】
図7において、11は加速度を検知する振子で、ヒンジ11aを介して枠体11bに支持されている。振子11は加速度入力により上下に変位する。12は振子11の変位を静電容量の変化によって検出するための振子変位検出部である。13は振子変位検出部12の出力に応じてトルカ電流を発生するサーボ回路であり、配線基板14に実装されている。15はトルカ電流が流れるトルカコイルで、円筒状のボビン16に巻かれている。ボビン16は振子11の両面にそれぞれ取り付けられている。
【0004】
17はサーボ加速度計のハウジングであり、上蓋17a,底板17b及び胴体部17cの3つの部分によって構成されている。ハウジング17は上端及び下端が閉塞された円筒状とされている。18,19は上,下のマグネットハウジング21の周りに装着されたCリングであり、22は配線基板14より外部に導出された端子である。
【0005】
マグネットハウジング21は円筒状をなし、その一端側は開放され、他端側には底板部21aが設けられている。各マグネットハウジング21内の底板部21a上には、それぞれ円板状をなすポールピースボトム23、マグネット24及びポールピーストップ25が順次接合されて配置されている。サーボ加速度計の磁気回路はこれらマグネットハウジング21、ポールピースボトム23、マグネット24及びポールピーストップ25によって構成されている。図7中、矢印aは磁束の流れを示す。トルカコイル15はマグネットハウジング21の開放端側とポールピーストップ25との間に構成されている磁気空隙26に位置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
図8は上記のような構成を有するサーボ加速度計の機能構成をブロック図で示したものである。加速度が振子11に作用することにより振子11が変位し、振子変位検出部12は振子11の変位を電気的に検出する。サーボ回路は振子変位検出部12の出力を増幅してトルカコイル15にトルカ電流を流す増幅器13’を用いて構成されている。トルカ電流によって磁気空隙に位置するトルカコイル15にはローレンツ力が発生し、これにより振子11を元の位置(原点位置)に戻すようにトルクが発生する。トルカ電流は振子11に加わった加速度に比例し、トルカ電流を読取抵抗器27で電圧に変換することにより加速度出力が得られるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−281670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような構成を有するサーボ加速度計においては、振子11の構成材料には例えばクオーツが用いられ、またマグネットハウジング21の構成材料にはインバーのような軟磁性材料が用いられ、これらクオーツやインバーといった熱膨張係数の小さい材料を用いることで、良好な温度特性を得るものとなっていた。なお、ポールピースボトム23及びポールピーストップ25には純鉄のような軟磁性材料が用いられる。
【0009】
しかしながら、例えば油田掘削に使用されるようなサーボ加速度計においては、200℃程度の高温にさらされることがあり、このように200℃程度まで高温になると、マグネットハウジング21を構成しているインバーの比透磁率は常温に比べてかなり低下し、磁気回路の磁気抵抗が大きくなるため、トルカコイル15を鎖交する磁束が減少してしまう。この結果、振子11を原点復帰させるためのトルクが減少し、負帰還の制御誤差が大きくなり、つまり温度変化によって加速度感度が変化することになる。
【0010】
この発明の目的はこの問題に鑑み、温度が変化しても加速度感度の変化が極めて小さく、優れた温度特性を有するサーボ加速度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明によれば、振子の両面にトルカコイルが取り付けられ、それらトルカコイルは磁気回路の磁気空隙にそれぞれ位置し、加速度入力による振子の変位に応じてトルカコイルに流すトルカ電流を発生するサーボ回路を具備するサーボ加速度計は、磁気回路の温度を検出する温度センサと、磁気回路に巻かれた補償用コイルと、温度センサの出力に基づき、補償用コイルに電流を流す電気回路とを有し、補償用コイルに電流が流れることによって発生する磁束が磁気回路の磁束に加算される。
【0012】
請求項2の発明では請求項1の発明において、磁気回路は筒状のマグネットハウジングと、そのマグネットハウジング内に順次配置されたポールピースボトム、マグネット、ポールピーストップとよりなり、ポールピースボトムの周りに補償用コイルが巻かれている。
【0013】
請求項3の発明では請求項1の発明において、磁気回路は筒状のマグネットハウジングと、そのマグネットハウジング内に順次配置されたポールピースボトム、マグネット、ポールピーストップとよりなり、マグネットの周りに補償用コイルが巻かれている。
【0014】
請求項4の発明では請求項1の発明において、磁気回路は筒状のマグネットハウジングと、そのマグネットハウジング内に順次配置されたポールピースボトム、マグネット、ポールピーストップとよりなり、マグネットハウジングに環状凹部が形成され、その環状凹部で囲まれた軸部に補償用コイルが巻かれている。
【0015】
請求項5の発明では請求項1乃至4のいずれかの発明において、温度センサに温度センサICを用いる。
【0016】
請求項6の発明では請求項1乃至4のいずれかの発明において、温度センサにサーミスタを用いる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、温度変化に伴う磁束の減少を補償することができ、よって温度が変化しても加速度感度の変化が極めて小さく、優れた温度特性を有するサーボ加速度計を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明によるサーボ加速度計の第1の実施例の構造を示す断面図。
【図2】この発明によるサーボ加速度計の第1の実施例の機能構成を示すブロック図。
【図3】この発明によるサーボ加速度計の第1の実施例における磁束を補償するための回路図。
【図4】この発明によるサーボ加速度計の第2の実施例における磁束を補償するための回路図。
【図5】この発明によるサーボ加速度計の第1の変形例の構造を示す断面図。
【図6】Aはこの発明によるサーボ加速度計の第2の変形例の構造を示す断面図、BはAのCC線断面図。
【図7】従来のサーボ加速度計の構造を示す断面図。
【図8】従来のサーボ加速度計の機能構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施形態を図面を参照して実施例により説明する。
【0020】
図1はこの発明によるサーボ加速度計の一実施例の構造を示したものであり、図7と対応する部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
この例では磁気回路の温度を検出する温度センサ31と、補償用コイル32と、温度センサ31の出力に基づき、補償用コイル32に電流を流す電気回路とが設けられる。補償用コイル(以下、SFC(Scale Factor Compensation)コイルと言う)32はこの例では磁気回路の構成要素であるポールピースボトム23の周りに巻かれており、温度センサ31は上側のマグネットハウジング21の底板部21aの外面に接着されて取り付けられている。なお、電気回路の図示は図1では省略している。
【0022】
図2は図1に示したサーボ加速度計の機能構成をブロック図で示したものであり、図8に示した従来のサーボ加速度計の機能構成に加え、温度センサ31とSFCコイル32と温度センサ31の出力に基づき、SFCコイル32に電流を流す電気回路として増幅器33とを具備するものとなっている。
【0023】
温度センサ31の出力は増幅器33に入力されて増幅され、増幅器33からSFCコイル32に電流が流される。つまり、温度が上昇すると、SFCコイル32に電流を流すように機能する。
【0024】
SFCコイル32に電流が流れると、SFCコイル32が巻かれているポールピースボトム23にはSFCコイル32に流れる電流による磁束が発生し、この磁束はマグネット24によって発生する磁束と同様、磁気回路を流れ、つまりマグネット24によって発生する磁束に加算される。従って、磁束密度が増大し、トルカコイル15を鎖交する磁束が増加する。このように作用するため、この例では温度上昇により減少した磁束を補償することができる。なお、図1中、矢印bはSFCコイル32により発生する磁束の流れを示す。
【0025】
図3は温度センサとして温度センサICを用いた場合の磁束を補償する回路構成を具体的に示したものである。この例では温度センサIC31’から出力される出力電圧Vtが基準電圧発生回路34から出力される基準電圧Vrefより大きくなったときにオペアンプ33’の出力が発生し、SFCコイル32に電流が流れる構成となっている。なお、図3中、35〜38は抵抗器を示す。
【0026】
以下、一例として、Vrefが150℃における温度センサICの出力電圧Vtと等しい場合を説明する。
【0027】
オペアンプ33’は単電源で動作する。150℃より低い温度では、VtはVrefより小さいからオペアンプ33’の出力は0Vである。温度センサIC31’が150℃以上になると、VtはVrefより大きくなり、オペアンプ33’の出力が正の電圧となり、SFCコイル32に電流が流れる。Vtは温度に比例するので、温度が高くなるほどSFCコイル32に流れる電流は増加する。
【0028】
このようにSFCコイル32に電流を流すことで、ポールピースボトム23に発生する磁束数を大きくし、トルカコイル15を鎖交する磁束数を大きくすることにより、温度上昇に伴う磁束数低下の影響を補償する。これにより、温度が変化してもサーボ加速度計の負帰還トルクが一定に保たれるので加速度感度が一定に保たれる。なお、温度センサIC31’の代わりに熱電対などの温度センサを用いることもできる。
【0029】
一方、図4は温度センサとして、温度上昇により抵抗値が小さくなるサーミスタを利用した場合の回路構成を示したものであり、サーミスタ31''の抵抗値が小さくなると増幅率が大きくなる回路となっている。サーミスタ31''の抵抗値は温度変化に対して非線形な変化をするので、補償する温度範囲で大きく変化するようなサーミスタ31''を選定して用いる。図4中、39は抵抗器を示す。
【0030】
オペアンプ33’は基準電圧発生回路34から出力される基準電圧Vrefを増幅してSFCコイル32に電流を流すように動作する。温度が低い範囲ではサーミスタ31''の抵抗値が大きくなり、増幅率が小さいので、SFCコイル32に流れる電流はわずかとなる。温度が上昇し、高温になると、サーミスタ31''の抵抗値が小さくなり、増幅率が大きくなるため、SFCコイル32に流れる電流が増加する。従って、図3に示した回路と同様の動作をし、温度上昇に伴う磁束数低下の影響を補償することができる。なお、サーミスタ31''の代わりに正特性サーミスタを用いることもできる。
【0031】
上述した例では、SFCコイル32をポールピースボトム23の周りに巻く構成としているが、これに限らず、SFCコイル32は磁気回路の他の構成要素に巻くこともできる。
【0032】
図5はマグネット24の周りにSFCコイル32を巻いた例を示したものであり、図6はマグネットハウジング21にSFCコイル32を設けた例を示したものである。
【0033】
マグネットハウジング21にSFCコイル32を設ける場合は図6に示したようにマグネットハウジング21に環状凹部41を形成し、その環状凹部41で囲まれた軸部42にSFCコイル32を巻くようにする。図6ではマグネットハウジング21の底板部21aの外周部分に90°間隔で4箇所、環状凹部41を形成し、SFCコイル32を4個巻いた構成となっている。なお、SFCコイル32の数はこの例のように4個に限るものではなく、4個より多くてもよく、あるいは4個より少なくてもよく、例えば1個でもよい。
【0034】
以上、この発明によるサーボ加速度計の各種構成例について説明したが、この発明によるサーボ加速度計によれば、温度が変化しても加速度感度の変化が非常に小さく、高精度な加速度出力を得ることができる。
【0035】
なお、温度上昇に伴うインバーの比透磁率の低下、それに伴う磁気回路の磁気抵抗の増大の影響を低減すべく、磁気回路の断面積を十分大きくすることも考えられるが、この場合はサーボ加速度計の大型化を免れえない。これに対し、この発明によれば、小型軽量のサーボ加速度計を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
11 振子 11a ヒンジ
11b 枠体 12 振子変位検出部
13 サーボ回路 13’ 増幅器
14 配線基板 15 トルカコイル
16 ボビン 17 ハウジング
17a 上蓋 17b 底板
17c 胴体部 18,19 Cリング
21 マグネットハウジング 21a 底板部
22 端子 23 ポールピースボトム
24 マグネット 25 ポールピーストップ
26 磁気空隙 27 読取抵抗器
31 温度センサ 31’ 温度センサIC
31'' サーミスタ 32 SFCコイル
33 増幅器 33’ オペアンプ
34 基準電圧発生回路 35,36,37,38,39 抵抗器
41 環状凹部 42 軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振子の両面にトルカコイルが取り付けられ、それらトルカコイルは磁気回路の磁気空隙にそれぞれ位置し、加速度入力による振子の変位に応じてトルカコイルに流すトルカ電流を発生するサーボ回路を具備するサーボ加速度計であって、
前記磁気回路の温度を検出する温度センサと、
前記磁気回路に巻かれた補償用コイルと、
前記温度センサの出力に基づき、前記補償用コイルに電流を流す電気回路とを有し、
前記補償用コイルに電流が流れることによって発生する磁束が前記磁気回路の磁束に加算されることを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項2】
請求項1記載のサーボ加速度計において、
前記磁気回路は筒状のマグネットハウジングと、そのマグネットハウジング内に順次配置されたポールピースボトム、マグネット、ポールピーストップとよりなり、
前記ポールピースボトムの周りに前記補償用コイルが巻かれていることを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項3】
請求項1記載のサーボ加速度計において、
前記磁気回路は筒状のマグネットハウジングと、そのマグネットハウジング内に順次配置されたポールピースボトム、マグネット、ポールピーストップとよりなり、
前記マグネットの周りに前記補償用コイルが巻かれていることを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項4】
請求項1記載のサーボ加速度計において、
前記磁気回路は筒状のマグネットハウジングと、そのマグネットハウジング内に順次配置されたポールピースボトム、マグネット、ポールピーストップとよりなり、
前記マグネットハウジングに環状凹部が形成され、その環状凹部で囲まれた軸部に前記補償用コイルが巻かれていることを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項5】
請求項1乃至4記載のいずれかのサーボ加速度計において、
前記温度センサに温度センサICを用いることを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項6】
請求項1乃至4記載のいずれかのサーボ加速度計において、
前記温度センサにサーミスタを用いることを特徴とするサーボ加速度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104764(P2013−104764A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248237(P2011−248237)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)