説明

サーマルプリンタ装置及びその製造方法

【課題】サーマルヘッドの傾斜角度を簡単な操作で段階的に調節可能にする。
【解決手段】第2のアーム40が固定された第1のアーム30が回動中心Pamを中心に回動することで、サーマルヘッド10の円弧状突部13とプラテンローラ14との間に導かれた印画紙16に対して円弧状突部13が接離する。各3つの位置決め穴34、44の組み合わせの選択により、第2のアーム40は、第1のアーム30に対して、予め定められた複数の相対的位置のうち選択される1つの相対的位置にて位置決めが可能である。そして、複数の相対的位置のいずれが選択されるかによって、サーマルヘッド10の円弧状突部13が印画紙16に当接した状態における傾斜角度θが異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリンタ装置においてサーマルヘッドの角度を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルプリンタ装置においては、記録用紙に対してサーマルヘッドを傾けて取り付ける構成のものが存在する。例えば、図6(a)に示すように、サーマルヘッド10のセラミック基板11やフレキ基板上に実装された電子素子12を記録用紙である印画紙16から退避させるために、印画紙16に対してサーマルヘッド10を傾斜角度θ(°)だけ傾斜させる。電子素子12を印画紙16から退避させると、発熱体15近傍の印画紙16の経路を曲げることなくストレートにできるので、印画紙16に対する発熱体15のヘッドタッチが安定し、良好な印画を行うことができるからである。
【0003】
サーマルヘッド10のセラミック基板11には、蓄熱グレーズ層の凸形状の円弧状突部13が設けられ、円弧状突部13に発熱体15が設けられる。プラテンローラ14の軸方向視において、円弧状突部13はその円弧中心R0を中心とする円弧形状である。サーマルヘッド10の下面でもあるセラミック基板11の下面11aが、円弧状突部13よりも電子素子12の側で、搬送される印画紙16に対して成す鋭角が傾斜角度θである。円弧状突部13のうち、傾斜角度θが0°の場合にプラテンローラ14の側に最も突出する位置を円弧状突部13の頂点P0とする。
【0004】
印画品質の観点からは、プラテンローラ14と円弧状突部13との間に搬送された印画紙16に対して発熱体15が適切に当接するようにするのが好ましい。従って、サーマルヘッド10を用紙経路に対して傾斜角度θだけ傾斜させて取り付けるとすると、円弧中心R0を中心として円弧状突部13の頂点P0からθ°だけ図6(a)の時計方向に回転した位置に発熱体15を形成する必要がある。
【0005】
ところが、グレーズ層の凸形状の成形プロセスにおいては、形状を同一にして量産するのが非常に困難である。そのため、実際には、グレーズ層の凸形状の角度は個々のサーマルヘッド間でばらつき、発熱体15の位置にばらつきが生じる。従って、発熱体15を適切な位置に位置させるための最適な傾斜角度θは、個々のサーマルヘッドによって少し異なる。各々の最適な傾斜角度を「最適傾斜角度θB」と記す。最適傾斜角度θBは、上記のばらつきに応じた分だけ設計上の傾斜角度θからずれた値となる。
【0006】
このような事情から、印画紙に対してサーマルヘッドを傾ける構成のプリンタの中には、個々のサーマルヘッドの最適傾斜角度θBに対応するため、サーマルヘッドの実際の傾斜角度を調節する機能を備えるプリンタも存在する。
【0007】
例えば、下記特許文献1では、調整ねじを用いてサーマルヘッドの角度を調整する機構を備えるプリンタが開示されている。すなわち、発熱体と用紙との接触点を中心としてサーマルヘッドの支持部材を円弧運動させ、発熱体の角度ズレを調整可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−187301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示された従来技術では、サーマルヘッドの支持部材毎に、調整ねじで個々のサーマルヘッドに応じた最適な角度に調節するため、組立や調整の工程が複雑になってしまうといった問題がある。特に、調整ねじの回転による無段階での角度調整は、熟練を要し時間もかかるため、簡単な作業とはいえない。
【0010】
また、調整ねじによる調整では、サーマルヘッドの支持部材の支持軸に対して直線的な方向に支持部材を変位させるものである。そのため、角度調整を行うと、記録用紙とグレーズ層の凸形状との接触状態に変化が起き、ヘッドタッチが一定になりにくくなるという不利もある。
【0011】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、サーマルヘッドの傾斜角度を簡単な操作で段階的に調節可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、プラテンローラと、発熱体が設けられた円弧状突部を有するサーマルヘッドと、回動中心を中心に回動する第1のアームと、前記サーマルヘッドを支持する第2のアームと、前記第1のアームに対する前記第2のアームの相対的位置を位置決めする位置決め手段と、前記位置決め手段により相対的位置が位置決めされた状態で前記第1のアームと前記第2のアームとを締結固定する締結手段とを有し、前記第2のアームが固定された前記第1のアームが前記回動中心を中心に回動することで、前記サーマルヘッドの前記円弧状突部と前記プラテンローラとの間に記録用紙を導いた状態で前記プラテンローラに対して前記円弧状突部が圧接または離間するように構成され、前記位置決め手段は、予め定められた複数の相対的位置のうち選択される1つの相対的位置にて位置決めし、前記複数の相対的位置のいずれが選択されるかによって、前記円弧状突部が前記プラテンローラを圧接した状態における前記記録用紙に対する前記サーマルヘッドの傾斜角度が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サーマルヘッドの傾斜角度を簡単な操作で段階的に調節可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るサーマルプリンタ装置の画像形成部の斜視図である。
【図2】同画像形成部の縦断面図である。
【図3】アーム体の分解斜視図である。
【図4】第1のアームに対して第2のアームが位置決め固定された状態を示す側面図である。
【図5】最適傾斜角度の分類を示す概念図である。
【図6】サーマルヘッドの拡大図、セラミック基板の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係るサーマルプリンタ装置の画像形成部の斜視図である。図2は、同画像形成部の縦断面図である。
【0017】
このプリンタ装置は、伝熱性・放熱性の高いアルミ製のヒートシンク20を備え、サーマルヘッド10が、ヒートシンク20にねじで締結されている。サーマルヘッド10に対向してプラテンローラ14がその軸心を中心に回動可能に支持されている。プラテンローラ14は円筒状であり、その長手方向(軸方向)における図2の紙面奥側、手前側をそれぞれ、以降、単に奥側、手前側と呼称することもある。
【0018】
ヒートシンク20は、その長手方向の両端部が、一対のアーム体に連結されている。一対のアーム体は、一対の第1のアーム30(30A、30B)及び一対の第2のアーム40(40A、40B)を有する。一対のアーム体のうち、奥側のものは第1のアーム30Aに第2のアーム40Aが支持されてなり、手前側のものは第1のアーム30Bに第2のアーム40Bが支持されてなる。以降、第1のアーム30及び第2のアーム40に関する記載において、奥側、手前側のものを特に区別しないときは、A、Bの付記を省略する。
【0019】
ヒートシンク20の両端部は、第2のアーム40にねじで締結されている。第1のアーム30には回動中心穴31が空けられており、不図示のメインフレームに設けられた支持軸を回動中心穴31に差し込むことで、第1のアーム30が回動中心穴31(回動中心Pam)を中心に図2の時計及び反時計方向に回動可能に支持される。従って、一対のアーム体は一体に回動する。サーマルヘッド10は、一対のアーム体の回動に伴い、プラテンローラ14に対して実質的に圧接または離間し、すなわち圧接位置及び離間位置に移動することができる。図2はサーマルヘッド10が圧接位置にある状態を示している。
【0020】
ヒートシンク20には、加圧ユニット21がねじで締結されており、サーマルヘッド10が圧接位置にあるときには、図示しないプレスレバーが加圧板22を介して加圧ばね23を圧縮し、サーマルヘッド10をプラテンローラ14に圧接させる。
【0021】
図6(a)は、サーマルヘッド10の拡大図である。図6(b)は、サーマルヘッド10のセラミック基板の拡大図である。
【0022】
図6(a)に示すように、サーマルヘッド10の下部はセラミック基板11となっている。セラミック基板11には、プラテンローラ14の長手方向に沿って複数の発熱体部である発熱体15が配設されている。サーマルヘッド10のセラミック基板11には、プラテンローラ14の軸方向視において凸形状の、蓄熱グレーズ層の円弧状突部13が設けられる。発熱体15は円弧状突部13に設けられる。
【0023】
画像の形成を行う際には、記録用紙である印画紙16及びインクリボン17(図2)をサーマルヘッド10とプラテンローラ14とで圧接狭持しながら搬送する。そして、サーマルヘッド10の複数の発熱体15を選択的に発熱させることにより、インクリボン17のインクを印画紙16に転写させる。
【0024】
ここで、発熱体15のヘッドタッチを安定させるため、サーマルヘッド10は、プラテンローラ14の圧接状態において、円弧状突部13とプラテンローラ14との間に導かれた印画紙16に対して傾くように取り付けられる。すなわち、セラミック基板11に実装されたサーミスタ、コンデンサ等の電子素子12を印画紙16から退避させるために、印画紙16に対してサーマルヘッド10を傾斜角度θ(°)だけ傾斜させている。これにより、サーマルヘッド10に配設された電子素子12は印画紙16と接触せず、印画紙16は画像形成部の近傍において曲げの力を受けることがなく、安定した画像形成を行うことができる。
【0025】
プラテンローラ14の軸方向視において、円弧状突部13はその円弧中心R0を中心とする円弧形状である。サーマルヘッド10の下面でもあるセラミック基板11の下面11aが、搬送される印画紙16に対して、円弧状突部13よりも電子素子12の側で成す鋭角が、傾斜角度θである。円弧状突部13のうち、傾斜角度θが0°の場合にプラテンローラ14の側に最も突出する位置を円弧状突部13の頂点P0とする。
【0026】
サーマルヘッド10を用紙経路に対して傾斜角度θだけ傾斜させて取り付けたとき、円弧状突部13が印画紙16に当接する点を当接点P1とする。そして理想的には、発熱体15の位置が当接点P1と一致し、印画紙16に適切に接触するようになっている。すなわち、設計上は、円弧中心R0を中心として円弧状突部13の頂点P0からθ°だけ図6(a)の時計方向に回転した位置に発熱体15が形成されている。
【0027】
ところが、グレーズ層の凸形状がばらつくため、複数のサーマルヘッド10間で発熱体15の位置がばらつく。従って、発熱体15を適切な位置(プラテンローラ14の中心の上方の位置)に位置させるための最適な傾斜角度θ(最適傾斜角度θB)は、個々のサーマルヘッド10によって少し異なる。ここで、発熱体15の「適切な位置」とは、円弧状突部13が印画紙16に当接する状態において、プラテンローラ14の中心位置と円弧中心R0とを結ぶ線上の位置である。本実施の形態では、個々のサーマルヘッドの最適傾斜角度θBに対応するべく、以下に説明するように、第1のアーム30と第2のアーム40との相対的位置の位置決めに工夫を設けている。
【0028】
図3は、アーム体の分解斜視図である。図3(a)は第1のアーム30A及び第2のアーム40A、図3(b)は第1のアーム30B及び第2のアーム40Bを示している。第1のアーム30Aと第1のアーム30B、第2のアーム40Aと第2のアーム40Bは、それぞれ形状が若干異なるが、基本的な構成は同様である。
【0029】
第1のアーム30には、上記した回動中心穴31から遠い側に板状部分32を有し、第2のアーム40は、ヒートシンク20に取り付けられる部分から遠い側に板状部分42を有する。板状部分32と板状部分42とが平行に重なり合わさって締結されることで、第1のアーム30と第2のアーム40とが固定される。板状部分32、42はプラテンローラ14の軸方向(長手方向)に垂直である。
【0030】
第1のアーム30Aの板状部分32には、エンボス加工で形成された2つのフォロワピン(フォロワ部)33A、3つの位置決め穴34A(34A1、34A2、34A3)、第2のアーム40Aと締結するための2つのねじ穴35Aが同一面内に設けられている。フォロワピン33Aは、第2のアーム40Aと重なる側の方向に突設されている。同様に、第1のアーム30Bの板状部分32には、2つのフォロワピン(フォロワ部)33B、3つの位置決め穴34B(34B1、34B2、34B3)、第2のアーム40Bと締結するための2つのねじ穴35Bが同一面内に設けられている。
【0031】
一方、第2のアーム40Aの板状部分42には、3つの位置決め穴44A(44A1、44A2、44A3)、円弧状ガイド部である2つのガイド穴43A、円弧形状の2つのねじ除け穴45Aが同一面内に設けられている。同様に、第2のアーム40Bの板状部分42には、3つの位置決め穴44B(44B1、44B2、44B3)、円弧状ガイド部である1つのガイド穴43B、円弧形状の2つのねじ除け穴45Bが同一面内に設けられている。
【0032】
このように、位置決め手段(位置決め穴34、44)、締結手段(ねじ穴35、ねじ除け穴45)、ガイド機能且つ係合手段(フォロワピン33、ガイド穴43)が、同一の面内に集約配置されている。従って、従来の角度調整機構に比べ、簡素で、精度がよく、且つ省スペースな構成になっている。
【0033】
次に、図4を参照して、サーマルプリンタ装置の製造方法における、第1のアーム30と第2のアーム40との位置決め及び締結固定の手順を、第1のアーム30A及び第2のアーム40Aを例にとって説明する。
【0034】
図4(a)〜(c)は、第1のアーム30Aに対して第2のアーム40Aが位置決め固定された状態を示す側面図である。図4(a)、(b)、(c)は、第1のアーム30Aに対する第2のアーム40Aの相対的位置が異なっている。この相対的位置としては予め複数(3つ)が定められており、これらの相対的位置のうち1つを選択して位置決めがなされる。
【0035】
第1のアーム30Aと第2のアーム40Aとの締結はフォロワピン33Aをガイド穴43Aに差し込んだ状態で、ねじ除け穴45Aを貫通させてねじをねじ穴35Aに螺合することで行われる。ガイド穴43Aとフォロワピン33Aとが係合可能な範囲において位置決めが可能である。
【0036】
ただし、そのままでは締結前には、フォロワピン33Aがガイド穴43A内を自由に動くことができてしまう。すなわち、フォロワピン33Aとガイド穴43Aとの係合により、第1のアーム30Aと第2のアーム40Aとは、ガイド穴43Aの形状に沿ってスライド(摺動)、つまり円弧状に摺動可能な状態となっている。そのため、位置決め穴34Aの1つと位置決め穴44Aの1つとを組み合わせて、両者の位置を合わせた状態で、不図示の組立治具のピンを差し込み貫通させることで相対的位置を位置決めする。
【0037】
ここで、位置決め穴34A、位置決め穴44A、及び組立治具のピンの外径はすべて同一であり、位置決め穴34A、44Aと組立治具のピンとは嵌め合いの関係にある。フォロワピン33Aがガイド穴43Aに係合し、且つ円弧状突部13が印画紙16に当接した状態においては、2つのガイド穴43Aの円弧中心R1が、円弧状突部13の円弧中心R0(図6)と一致するように設計されている。ねじ除け穴45Aの円弧中心も円弧中心R0と一致する。
【0038】
また、位置決め穴34A1〜34A3と位置決め穴44A1〜44A3との位置は僅かにずれていて、フォロワピン33Aをガイド穴43Aに沿って変位させていく過程で、位置決め穴34A、44Aが1つずつ一致する位置が3箇所ある。
【0039】
具体的には、図4(a)では位置決め穴34A3、44A3が一致し、図4(b)では位置決め穴34A2、44A2が一致し、図4(c)では位置決め穴34A1、44A1が一致している。位置が一致した位置決め穴34A、44Aに組立治具のピンを貫通させることで、3種類の相対的位置における位置決めを容易に選択することができる。
【0040】
位置が一致した位置決め穴34A、44Aに組立治具のピンを貫通させた状態で、ねじ除け穴45Aを介してねじ穴35Aにねじを締め付ける。これにより、3つの相対的位置のうち選択した1つに位置決めされた状態で、第1のアーム30Aに第2のアーム40Aが締結固定される。その後、組立治具のピンを抜き取る。
【0041】
このような作業は、奥側のアーム体と手前側のアーム体について、並行してなされる。作業手順は同様である。ところで、第1のアーム30Bの位置決め穴34Bは、第2のアーム40Bの位置決め穴44Bと対応している。これらの並び方(配置)は、位置決め穴34A、44Aとは異なっているが、フォロワピン33Bをガイド穴43Bに沿って変位させていく過程で、位置決め穴34B、44Bが1つずつ一致する位置が3箇所ある点では同様である。しかも、位置決め穴34A、44Aの1組の位置が一致するとき、位置決め穴34B、44Bの1組の位置が一致するように、位置関係も対応している。ところで、第1のアーム30B、第2のアーム40Bにおいては、2つのフォロワピン33Bが単一のガイド穴43B(図3(b))に係合する構成であるが、第1のアーム30A、第2のアーム40Aの関係と同様に、ガイド穴43Bを2つとしてもよい。
【0042】
ここで、円弧状突部13が印画紙16に当接した状態においては、ガイド穴43Aの円弧中心R1を中心とする第2のアーム40Aの回動角度は、図4(a)の状態と図4(b)の状態とで0.7°相違するように設定されている。同様に、図4(b)の状態と図4(c)の状態とで0.7°相違するように設定されている。第2のアーム40Bについても同様である。この角度の設定について図5を参照して説明する。
【0043】
図5は、最適傾斜角度θB(°)の分類を示す概念図である。最適傾斜角度θBのグループとして、グループA、B、Cの3つが設定されている。製造されたサーマルヘッド10の各々を実測し、各々の円弧状突部13における発熱体15の配設位置によって、いずれかのグループに分類しておく。実測は、第2のアーム40及びヒートシンク20が組み付けられた状態でなされ、例えば、0.1°刻みで測定されて分類される。最適傾斜角度θBが5.0°〜5.6°の範囲にあるものをグループA、5.7°〜6.3°の範囲にあるものをグループB、6.4°〜7.0°の範囲にあるものをグループCに分類する。
【0044】
位置決め穴34A2、44A2、位置決め穴34B2、44B2で位置決めした場合(図4(b))、第2のアーム40にヒートシンク20を介して保持されるサーマルヘッド10は、印画紙16に対して傾斜角度θ=6°だけ傾くように設計されている。サーマルヘッド10に製造ばらつきがないならば、常に図4(b)に示す位置決め位置を採用すればよいが、実施には誤差がある。
【0045】
本実施の形態のサーマルプリンタ装置に用いるサーマルヘッド10の最適傾斜角度θBは、実測の結果、6°を中心値として5〜7°までの範囲内でばらついていることがわかった。一方、実験の結果、0.5°程度の範囲内であれば、最適傾斜角度θBからずれて取り付けても、かすれや印画しわに対するマージン量に変化がないことが確認された。そこで、図5に示すように、0.6°の範囲で1つのグループとし、5〜7°の範囲内で3つのグループに分けることとした。
【0046】
位置決め穴34、44の組み合わせを1個ずらせば、傾斜角度θを0.7°変更できる。従って、組み立ての作業者は、各サーマルヘッド10が属するグループに応じて、位置決め穴34、44の組み合わせを選択する。具体的には、サーマルヘッド10が、グループA、B、Cに属するとき、それぞれ、図4(a)、(b)、(c)に示す組み合わせを選択する。
【0047】
このようにすることにより、サーマルヘッド10の最適傾斜角度θBと、組み付けられた実際の傾斜角度θとの差を最大でも0.3°以内に収めることができるので、かすれや印画しわ等へのマージンを確保することができる。
【0048】
また、上記したように、第1のアーム30に対して第2のアーム40が位置決めされ且つ円弧状突部13が印画紙16に当接した状態においては、ガイド穴43Aの円弧中心R1が円弧状突部13の円弧中心R0(図6)と略一致する。従って、フォロワピン33をガイド穴43に係合させて変位するとき、発熱体15の位置は円弧中心R0(図6)を中心に回転することになる。そのため、発熱体15の位置は、円弧状突部13の当接点P1に対して、円弧中心R0を中心とした0.3°以内の角度ずれという態様の範囲に収まる。
【0049】
従来の角度調整機構においては、サーマルヘッドが必ずしもグレーズ凸の円弧中心を中心に回転変位する構成ではなかった。そのため、角度調整を行うと、印画紙16とグレーズ凸の接触状態に変化が起き、一定のヘッドタッチを安定して得ることができなかった。
【0050】
しかし、本実施の形態では、角度調整を行う際、サーマルヘッド10は円弧中心R0を中心として回転するので、円弧状突部13と印画紙16との接触状態が常に一定となる。従って、常に一定のヘッドタッチを得ることができるため、調整のずれによるかすれや印画しわに対するマージンを確保することができる。
【0051】
ところで、サーマルヘッド10による印刷時には、第1のアーム30の回動中心Pamを中心にアーム体が回転し、サーマルヘッド10がプラテンローラ14側に加圧される。その際のサーマルヘッド10の回転方向は、ガイド穴43やねじ除け穴45の円周方向(つまり、ガイド機能で第1のアーム30Aと第2のアーム40Aとがスライド可能な方向)と略直交している。従って、第2のアーム40に加圧による反力が掛かっても、ねじ除け穴45とねじとの位置がずれるようなことが起こりにくい。これにより、第2のアーム40が第1のアーム30に対して位置決めされた位置からずれて角度が変わってしまうようなことが防止される。
【0052】
このことを厳密に定義すると、次のようになる。まず、図4(b)に示したように、ガイド穴43Aの接線を考える。ガイド穴43Aの幅方向中間位置の円弧で考えるとする。ガイド穴43Aの円周方向の位置によって接線Lsの角度が変化する。最も時計方向に回転した接線をLs1、最も反時計方向に回転した接線をLs2とする。このとき、接線Ls1〜Ls2までの間に描くことができる接線Lsのうち、第1のアーム30の回動中心Pamを通る仮想直線Lが存在する。これにより、印刷動作時に回動中心Pamを中心に変位するガイド穴43Aやねじ除け穴45Aの変位方向が、それらの円弧の円周方向と略直交することになる。第1のアーム30B及び第2のアーム40Bにおいても同様である。
【0053】
本実施の形態によれば、第2のアーム40は、第1のアーム30に対して、予め定められた複数の相対的位置のうち選択される1つの相対的位置にて位置決めが可能である。そして、複数の相対的位置のいずれが選択されるかによって、サーマルヘッド10の円弧状突部13が印画紙16に当接した状態における傾斜角度θが異なる。これにより、無段階調整を行うことなく、位置決め穴34、44の組み合わせの選択という作業で位置決めが行えるので、サーマルヘッド10の傾斜角度を簡単な操作で段階的に調節可能にすることができる。
【0054】
また、ガイド穴43とフォロワピン33との係合により、角度調整の方向に第2のアーム40が案内されるので、締結前の位置決め作業が容易となる。特に、印刷時に、ガイド穴43Aの円弧中心R1が円弧状突部13の円弧中心R0(図6)と略一致するので、一定のヘッドタッチを得ることが容易となる。
【0055】
また、ガイド穴43及びねじ除け穴45の円弧形状により、複数の相対的位置のいずれにおいても、第1のアーム30に対する円弧状突部13の円弧中心R0の相対的な位置が略一致するので、角度調整が正確で適切となる。
【0056】
また、印刷動作時おけるガイド穴43やねじ除け穴45の回転方向は、それらの円周方向と略直交しているので、印刷が繰り返されても、決めた相対的位置がずれたり、締結が緩んだりするようなことがない。
【0057】
また、第2のアーム40の板状部分42に、位置決め穴44、ガイド穴43、ねじ除け穴45が同一面内に集約して設けられている。また、第1のアーム30の板状部分32には、フォロワピン33、位置決め穴34、ねじ穴35が同一面内に集約して設けられている。このように、各板状部分32、42に、位置決めに用いられる穴や締結に用いられる穴等が集中的に設けられるので、それらの間の位置精度が確保しやすく、省スペースにもなる。
【0058】
なお、ねじ除け穴45を介してねじをねじ穴35に螺合し締結する作業は、フォロワピン33をガイド穴43に挿入した状態で行ったが、先にねじを仮螺合させておいてもよい。すなわち、フォロワピン33をガイド穴43に挿入すると共に、ねじ除け穴45を介してねじをねじ穴35に軽く螺合しておき、ねじ除け穴45に対してねじが変位できるようにしておく。その状態で位置決めをしてから、ねじを本螺合する。
【0059】
なお、この観点から、ねじ除け穴45を介してねじをねじ穴35に軽く螺合しておくことで、ガイド穴43によるフォロワピン33のガイド機能と同様に、ねじ除け穴45がねじのガイド機能を果たすことになる。この意味では、ねじの仮螺合状態を安定させられるような構成とすれば、ガイド穴43及びフォロワピン33を廃止することも可能である。
【0060】
第2のアーム40にガイド穴43、第1のアーム30にフォロワピン33を設けたが、これら凹凸の関係は逆であってもよい。また、ねじ除け穴45とねじ穴35との関係も逆にしてもよい。
【0061】
ところで、位置決め穴34、44の組み合わせは3つとしたが、複数であればよく、4以上でもよい。また、位置決め穴34、44は双方とも3つで同数としたが、これに限らない。例えば、隣接する位置決め穴間に十分な間隔を確保できるなら、位置決め穴34、44のうち一方は1つとしてもよい。
【0062】
また、位置決め手段として、いずれも穴である位置決め穴34、44を採用したが、これに限らない。例えば一方は他方の穴に嵌まるピン(凸)としてもよい。あるいは、一方は凹部、他方は凹部に嵌まる凸部としてもよい。
【0063】
なお、第1のアーム30と第2のアーム40とを締結固定する締結手段として、ねじと、ねじ除け穴45及びねじ穴35を例示したが、ねじによるものに限るものではない。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 サーマルヘッド
13 円弧状突部
14 プラテンローラ
15 発熱体
30 第1のアーム
34、44 位置決め穴
35 ねじ穴
40 第2のアーム
45 ねじ除け穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラテンローラと、
発熱体が設けられた円弧状突部を有するサーマルヘッドと、
回動中心を中心に回動する第1のアームと、
前記サーマルヘッドを支持する第2のアームと、
前記第1のアームに対する前記第2のアームの相対的位置を位置決めする位置決め手段と、
前記位置決め手段により相対的位置が位置決めされた状態で前記第1のアームと前記第2のアームとを締結固定する締結手段とを有し、
前記第2のアームが固定された前記第1のアームが前記回動中心を中心に回動することで、前記サーマルヘッドの前記円弧状突部と前記プラテンローラとの間に記録用紙を導いた状態で前記プラテンローラに対して前記円弧状突部が圧接または離間するように構成され、
前記位置決め手段は、予め定められた複数の相対的位置のうち選択される1つの相対的位置にて位置決めし、
前記複数の相対的位置のいずれが選択されるかによって、前記円弧状突部が前記プラテンローラを圧接した状態における前記記録用紙に対する前記サーマルヘッドの傾斜角度が異なることを特徴とするサーマルプリンタ装置。
【請求項2】
前記複数の相対的位置のいずれにおいても、前記第1のアームに対する前記円弧状突部の円弧中心の相対的な位置が略一致することを特徴とする請求項1記載のサーマルプリンタ装置。
【請求項3】
前記第1のアーム及び前記第2のアームのうち一方のアームには円弧状ガイド部が設けられると共に他方のアームには前記円弧状ガイド部に係合するフォロワ部が設けられ、前記位置決め手段は、前記円弧状ガイド部と前記フォロワ部とが係合可能な範囲において位置決めが可能であり、前記第1のアームに対して前記第2のアームが位置決めされ且つ前記円弧状突部が前記プラテンローラを圧接した状態においては、前記円弧状ガイド部の円弧中心が前記円弧状突部の円弧中心と略一致することを特徴とする請求項2記載のサーマルプリンタ装置。
【請求項4】
前記回動中心を通り且つ前記円弧状ガイド部の円弧の接線と一致する仮想直線が存在することを特徴とする請求項3記載のサーマルプリンタ装置。
【請求項5】
前記第1のアーム及び前記第2のアームは、互いの板状部分が重ね合わされて固定され、これら板状部分に、前記位置決め手段による位置決めに用いられる穴と前記締結手段による締結に用いられる穴とが形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のサーマルプリンタ装置。
【請求項6】
プラテンローラと、発熱体が設けられた円弧状突部を有するサーマルヘッドと、回動中心を中心に回動する第1のアームと、前記サーマルヘッドを支持する第2のアームと、前記第1のアームに対する前記第2のアームの相対的位置を位置決めする位置決め手段とを有し、前記第2のアームが固定された前記第1のアームが前記回動中心を中心に回動することで、前記サーマルヘッドの前記円弧状突部と前記プラテンローラとの間に記録用紙を導いた状態で前記プラテンローラに対して前記円弧状突部が圧接または離間するように構成されたサーマルプリンタ装置の製造方法であって、
前記位置決め手段を用いて、予め定められた複数の相対的位置のうち1つの相対的位置を選択して位置決めする位置決めステップと、
前記位置決めステップにより相対的位置が位置決めされた状態で前記第1のアームと前記第2のアームとを締結固定する締結ステップとを有し、
前記複数の相対的位置のいずれが選択されるかによって、前記円弧状突部が前記プラテンローラを圧接した状態における前記記録用紙に対する前記サーマルヘッドの傾斜角度が異なることを特徴とするサーマルプリンタ装置の製造方法。
【請求項7】
複数の前記サーマルヘッドの各々の前記円弧状突部における前記発熱体の配設位置によって、各サーマルヘッドを複数のグループに分類する分類ステップをさらに有し、前記位置決めステップでは、前記サーマルヘッドを支持した前記第2のアームを前記第1のアームに対して位置決めする際、前記支持されたサーマルヘッドが属するグループに応じて、前記予め定められた複数の相対的位置のうち1つを選択することを特徴とする請求項6記載のサーマルプリンタ装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1のアーム及び前記第2のアームのうち一方のアームには円弧状ガイド部が設けられると共に他方のアームには前記円弧状ガイド部に係合するフォロワ部が設けられ、前記位置決めステップでは、前記円弧状ガイド部と前記フォロワ部とを係合させた状態で位置決めを行い、前記第1のアームに対して前記第2のアームが位置決めされ且つ前記円弧状突部が前記記録用紙に当接した状態においては、前記円弧状ガイド部の円弧中心が前記円弧状突部の円弧中心と略一致することを特徴とする請求項6または7記載のサーマルプリンタ装置の製造方法。
【請求項9】
プラテンローラと、
発熱体部が設けられたサーマルヘッドと、
回動中心を中心に回動する第1のアームと、
前記サーマルヘッドを支持する第2のアームと、
前記第1のアームと前記第2のアームとを円弧状に摺動可能に係合させるための係合手段と、
前記係合手段により摺動可能に係合される前記第1のアームと前記第2のアームとの相対的位置を決めるための位置決め手段と、
前記位置決め手段により相対的位置が位置決めされた状態で前記第1のアームと前記第2のアームとを締結固定する締結手段とを有し、
前記位置決め手段は、前記第1のアームと前記第2のアームとを異なる相対的位置で位置決めする複数の位置決め手段からなり、
前記締結手段は、前記複数の位置決め手段のうち選択される1つの位置決め手段により位置決めされた状態で前記第1のアームと前記第2のアームとを締結固定し、
前記複数の位置決め手段のうちのいずれが選択されるかによって、前記発熱体部が前記プラテンローラを圧接した状態における前記記録用紙に対する前記サーマルヘッドの傾斜角度が異なることを特徴とするサーマルプリンタ装置。
【請求項10】
前記係合手段の係合により前記第1のアームと前記第2のアームとが摺動可能な方向は、前記第1のアームが回動する方向と略直交していることを特徴とする請求項9記載のサーマルプリンタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−236320(P2012−236320A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106214(P2011−106214)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】