説明

サーマルプリンタ

【課題】プラテンとサーマルヘッドとの相互の摩擦係数を考慮することで、円滑な自動給紙の実現を図った、サーマルプリンタを提供する。
【解決手段】プラテン2は、軸Gと、軸Gに取り付けられる弾性円筒体3sとを有する。弾性円筒体3sは二種の異なる摩擦係数のゴム材料を用いて形成される。これら二種の異なる摩擦係数のゴム材料の部分は、異素材部分3A1、3A2が互いに協働してローラ面3rを形成する外面を各々に有すると共に、それら外面がサーマルヘッド2のヘッド面2hに対し互いに異なる動摩擦係数を呈する。二種の異なる摩擦係数のゴム材料としては、例えばシリコーンゴム(硬度:40)……ノーマルグレードの部分(A1)と、いわゆる低摩擦性の高温加硫型のシリコーンゴムであるHTV材(硬度:50)……低摩擦グレードの部分(A2)が適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているサーマルプリンタには、記録用紙をサーマルヘッドと弾性体よりなるプラテンローラ間にもたらして挟持し、プラテンローラを回転制御駆動させると同時に、サーマルヘッドの発熱ドットに制御信号を送りながら、記録用紙に順次、印字を行う構成のものである。
すなわち、ここでは、ロール状の記録用紙が、プラテンローラを回転駆動させることで、サーマルヘッドとプラテンローラ間に自動的に給紙される構成となっており、効率的に印字を行うようになっている。
【0003】
このようにサーマルプリンタは、記録用紙をサーマルヘッドとプラテンローラとの間に挟持して印字を行うものであるから、円滑に記録用紙をサーマルヘッドとプラテンローラとの間に自動給紙して、印字を良好に行うためには、サーマルヘッドとプラテンローラとの間に挟持する圧力や、給紙速度、サーマルヘッドや、プラテンローラの材料、摩擦係数等、様々な要素が関係してくる。
例えば、特許文献1では、円筒状の弾性体部からなるプラテンローラと、このプラテンローラに対接され制御信号により制御される発熱ドットをライン状に有するサーマルヘッドとによって、感熱記録紙に押圧と感熱による印字及び印画を行うようにしたものにおいて、上記プラテンローラの弾性体部の一部に上記弾性体部の外径とほぼ同一外径を有する低摩擦化処理部を設けたものが開示されている。
また、特許文献2では、プラテンローラと記録ヘッドとによる挟持圧を所定の範囲に設定すること、記録用紙のガイド方向を規定したり、さらには、プラテンローラの直径を設定したり、記録ヘッドと熱転写媒体における耐熱活性層との間の動摩擦係数を設定するなどの施策が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−140177号公報
【特許文献2】特開2009−154411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラテンローラとヘッド間との高い摩擦係数により負荷トルクが大きくなると、駆動モータには脱調等不具合が生じるおそれがあり、そのような状態では自動給紙が困難となる。
自動給紙が正常になされるためには、摩擦係数の小さい特殊なゴムによりプラテンローラを作製し、負荷トルクを下げることが行われているが、ゴム材料の特殊性により、摩擦係数の小さいゴムは、より摩擦係数の大きいゴムに比較して寿命が短いという難点がある。すなわち、摩擦係数の小さいゴムを製造する際、多くの添加剤を加えるため、ゴムの分子間の結合力が低下し、摩耗しやすくなるからである。
よって、サーマルプリンタにおいて、プラテンローラとサーマルヘッドとの相互の摩擦係数を考慮することで、負荷トルクを抑制して、駆動モータの脱調が生じないようにして自動給紙の円滑化が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様では、ヘッド面を有するサーマルヘッドと、ヘッド面に接触可能なローラ面を有するプラテンとを具備し、プラテンの回転により記録用紙をサーマルヘッドに供給してローラ面とヘッド面との間に記録用紙を挟持しながら印刷を行うサーマルプリンタにおいて、プラテンは、軸と、軸に取り付けられる弾性円筒体とを具備し、弾性円筒体は、それぞれが軸に取り付けられて互いに積層される複数の異素材部分を含み、複数の異素材部分は、互いに協働してローラ面を形成する外面を各々に有すると共に、それら外面がヘッド面に対し互いに異なる動摩擦係数を呈する互いに異なる素材から作製されること、を特徴とするサーマルプリンタを提供する。
【0007】
上記構成において、複数の異素材部分の各々は、環状の外面と、軸に固定される環状の内面とを有する環状体からなり、弾性円筒体は、互いに異なる素材から作製される環状体が軸の周りで軸線方向へ互いに積層して構成することができる。
【0008】
また、複数の異素材部分の各々は、外面と、軸に固定される内面とを有する帯状体からなり、弾性円筒体は、互いに異なる素材から作製される帯状体が軸の周りで周方向へ互いに積層して構成することができる。
【0009】
また、帯状体は、前記軸の周りで螺旋状に延びるように構成することができる。
【0010】
また、本発明の別の態様では、ヘッド面を有するサーマルヘッドと、ヘッド面に接触可能なローラ面を有するプラテンとを具備し、プラテンの回転により記録用紙をサーマルヘッドに供給してローラ面とヘッド面との間に記録用紙を挟持しながら印刷を行うサーマルプリンタにおいて、サーマルヘッドは、用紙送り方向に沿って移動可能に配置され、ヘッド面は、サーマルヘッドが印刷可能位置に在る時にプラテンのロール面に正対する発熱体を有すると共に、発熱体よりも用紙送り方向に見て上流側の領域が、発熱体よりも用紙送り方向に見て下流側の領域よりも、ローラ面に対して低い動摩擦係数を呈すること、を特徴とするサーマルプリンタを提供する。
【0011】
上記構成において、サーマルヘッドを印刷可能位置に向けて付勢する戻りばねをさらに具備することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サーマルプリンタの自動給紙において、プラテンローラとサーマルヘッドとの相互の摩擦係数を考慮することで、円滑な自動給紙の実現を図った、サーマルプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかるプラテンローラを用いたサーマルプリンタの一態様を示す、模式的な側面図である。
【図2】本発明にかかるプラテンローラの一態様を示す、模式的な斜視図である。
【図3】本発明にかかるプラテンローラの別の態様を示す、模式的な斜視図である。
【図4】本発明にかかるプラテンローラの別の態様を示す、模式的な斜視図である。
【図5】本発明にかかるサーマルプリンタの別の態様を示す、模式的な側面図である。
【図6】図5に示すサーマルプリンタの作用説明に供する模式的な側面図である。
【図7】図5に示すサーマルプリンタの作用説明に供する模式的な側面図である。
【図8】図5に示すサーマルプリンタの作用説明に供する模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるサーマルプリンタの一実施形態について、添付の図面に基づき、詳細に説明する。
図1にサーマルプリンタ1の要部構成の一例を示す。このサーマルプリンタ1はヘッド面2hを有するサーマルヘッド2と、ヘッド面2hに接触可能なローラ面3rを有するプラテン3とを具備し、プラテン3の回転により記録用紙(図示省略)をサーマルヘッド2に供給してローラ面3rとヘッド面2hとの間に記録用紙を挟持しながら印刷を行う構成のものである。
サーマルヘッド2のヘッド面2hには複数の発熱体(図示省略)が付設され、このサーマルヘッド2のヘッド面2hの複数の発熱体とプラテン3のローラ面3rとをヘッド加圧バネ4により圧接させている。この場合、プラテン3には、プラテン3に比較して小径のガイドローラ5が接触しており、さらに、用紙ガイド部6が配設され、プラテン3を駆動する駆動モータ(図示省略)の駆動によって記録用紙が用紙ガイド部6に沿ってガイドされ、プラテン3とガイドローラ5間を介してサーマルヘッド2とプラテン3間に自動給紙が行われるようになっている。そして、サーマルヘッド2のヘッド面2hの発熱体に制御信号が送られると共に、記録用紙に順次印字、印刷を行う構成としている。
【0015】
以上のようなサーマルプリンタ1において、図2に、サーマルヘッド2とプラテン3とが、ヘッド加圧バネ4により圧接状態にあるところを示し、以下説明する。
サーマルヘッド2のヘッド面2hとプラテン3のローラ面3rとは、サーマルヘッド2のヘッド面2hに付設された発熱体に沿って、線接触に近い状態で相互に圧接している。この場合、サーマルヘッド2のヘッド面2hとプラテン3のローラ面3rとは、ヘッド加圧バネ4により所定の接触圧で偏在しないように接触するようになっている。
【0016】
プラテン3は、軸Gと、軸Gに取り付けられる弾性円筒体3sとを具備する。弾性円筒体3sは二種の異なる摩擦係数のゴム材料を用いて形成されている。これら二種のゴム材料は、それぞれが軸Gに取り付けられて互いに積層される複数の異素材部分3A1、3A2からなる。
すなわち、複数の異素材部分3A1、3A2の各々は、環状の外面3soと、軸Gに固定される環状の内面3siとを有する環状体3spからなり、これら環状体3spが軸の周りで軸線方向へ互いに積層して構成されている。
また、複数の異素材部分3A1、3A2は、環状の外面3soが互いに協働してローラ面3rを形成すると共に、それら外面3soがヘッド面2hに対し互いに異なる動摩擦係数を呈する。
【0017】
二種の異なる摩擦係数のゴム材料としては、例えばシリコーンゴム(硬度:40)……ノーマルグレードの部分(A1)と、いわゆる低摩擦性の高温加硫型のシリコーンゴムであるHTV(High Temperature Vulcanization)材(硬度:50)……低摩擦グレードの部分(A2)が適用可能である。
なお、グレードとは、通常は対象物を、特性別、用途別に分ける際に用いられ、ここではシリコーンゴムを、特性の一つとしてのヘッド面2hに対する動摩擦係数の大きさで分けて、プラテンローラのゴム材料として一般的な摩擦係数のシリコーンゴムをノーマルグレード(ノーマル摩擦グレード)のシリコーンゴムと称し、ノーマル摩擦グレードのシリコーンゴムに比較して低い摩擦係数のシリコーンゴムを、低摩擦グレードのシリコーンゴムと称している。
かかるノーマルグレードのシリコーンゴム(硬度:40)と低摩擦グレードのシリコーンゴム、すなわちHTV材(硬度:50)とは、例えばそれぞれの積層面を加熱処理し、次いで該積層面に付加硬化性シリコーン組成物を積層後、硬化させるとした工法でそれぞれ同径の環状体に形成されたものを交互に軸方向に積層し、ローラ状のプラテン3として作製することができる。
【0018】
以上のような構成のサーマルプリンタ1において、プラテン3の駆動モータを駆動することで、記録用紙が用紙ガイド部6に沿ってガイドされ、プラテン3とガイドローラ5間を介してサーマルヘッド2とプラテン3間に自動給紙が行われる。そして、サーマルヘッド2のヘッド面2hにおける発熱体に制御信号が送られると共に、記録用紙に、順次印字、印刷を行うことができる。
【0019】
記録用紙が、プラテン3とガイドローラ5間を介してサーマルヘッド2とプラテン3間に給紙されるまでの間に、サーマルヘッド2がヘッド加圧バネ4によりプラテン3に圧接されることにより、摩擦負荷が発生している。
ここで、プラテン3は、全体のうち、ノーマルグレードの部分(A1)であるシリコーンゴム(硬度:40)と、低摩擦グレードの部分(A2)であるHTV材(硬度:50)とが、それぞれ同径の環状体3spに形成されたものを交互に軸方向に積層して構成されているので、全体がノーマルグレードのゴム材で構成されたプラテンに比較して、摩擦負荷が小さくなり、これにより、モータへの負荷が軽減され、モータの脱調を防止することができる。
また、プラテン3がノーマルグレードの部分(A1)と低摩擦グレードの部分(A2)とを交互に積層して構成されていることで、低摩擦グレードの部分(A2)の摩耗がノーマルグレードの部分(A1)より先に進行したとしても、ノーマルグレードの部分(A1)が見かけのプラテン径として機能するため、全体が低摩擦グレードのゴム材で構成されたプラテンに比較して、用紙送りの精度の低下を抑制することができる。
なお、プラテン3がノーマルグレードの部分(A1)と低摩擦グレードの部分(A2)とを交互に積層して構成されているので、例えばプラテン3が低摩擦グレードの部分(A2)のみで構成される場合よりも材料費を抑制することができるという利点もある。
【0020】
サーマルプリンタ1のプラテン3は、上述の構成に限らず、図3に示すような構成とすることもできる。
この場合、複数の異素材部分3A1、3A2の各々は、外面3soと、軸Gに固定される内面3siとを有する帯状体7からなり、これら帯状体7が軸Gの周りで周方向へ互いに積層して構成されている。
すなわち、図3のプラテン3の異素材部分3A1、3A2の各々は、ノーマルグレードの部分(A1)であるシリコーンゴム(硬度:40)と、低摩擦グレードの部分(A2)であるHTV材(硬度:50)とからなる。
【0021】
このような構成のプラテン3によれば、サーマルヘッド2のヘッド面2hがヘッド加圧バネ4によりプラテン3のローラ面3rに圧接された際、サーマルヘッド2のヘッド面2hとプラテン3のローラ面3rとは、プラテン3のローラ面3rを形成する外面のうち長手軸方向に沿った外面部が線接触に近い状態で接触する。
プラテン3の回転時に、サーマルヘッド2のヘッド面2hとの接触部位に、プラテン3のノーマルグレードの部分(A1)と、低摩擦グレードの部分(A2)とが交互にもたらされる。したがって、低摩擦グレードの部分(A2)がサーマルヘッド2のヘッド面2hとの接触部位にもたらされることで、プラテン3全体がノーマルグレードの部分(A1)のみで構成されたものに比較して、サーマルヘッド2との摩擦力を抑えることができるので、これにより、モータに対する負荷が軽減される。
このような構造においても、プラテン3を低摩擦グレードの部分(A2)のみで構成される場合よりも材料費を抑制することができることは勿論である。
【0022】
さらに、サーマルプリンタ1のプラテン3は、図4に示すような構成とすることもできる。
図4のプラテン3は、ノーマルグレードの部分(A1)であるシリコーンゴム(硬度:40)と、低摩擦グレードの部分(A2)であるHTV材(硬度:50)とを、ローラ面3rを形成する外面3soと軸Gに固定される内面3siとを有する帯状体7から形成し、これら帯状体7を軸Gの周りで螺旋状に延びるように配設してなる弾性円筒体3sを備えている。
【0023】
このような構成のプラテン3によれば、サーマルヘッド2がヘッド加圧バネ4によりプラテン3に圧接された際、サーマルヘッド2のヘッド面2hとプラテン3のローラ面3rとは、プラテン3のローラ面3rを形成する外面3soのうち長手軸方向に沿った外面部が線接触に近い状態で接触する。この接触部位のうちのいずれの部位においても、プラテン3のノーマルグレードの部分(A1)と、低摩擦グレードの部分(A2)とが回転と共に軸方向へずれながら出現するので、サーマルヘッド2との接触が素材の差による摩耗の違いの影響を抑えることができ、安定した接触が図られ、これにより、モータに対する負荷が軽減され、モータの脱調を防止することができる。
【0024】
以上、本発明にかかるサーマルプリンタ1について、モータへの負荷の軽減によりモータの脱調を防止するために、プラテンとサーマルヘッドとの摩擦係数に注目し、プラテンの素材を適宜選択して構成したものを用いることを説明した。
これに限らず、モータへの負荷の軽減によりモータの脱調を防止するために、サーマルヘッドを以下のよう構成することでも達成することができる。
図5に示すサーマルプリンタ1において、周知のサーマルプリンタと同様の構成要素には同符号を付すと共に、それらの説明は省略する。
ここでのサーマルプリンタ1では、前述の実施形態と異なり、プラテン3と対向配置されるサーマルヘッド2は、戻りばね8の付勢下に記録用紙Pの送り方向及びその反対方向、すなわち、プラテン3の回転軸に直交する方向に移動可能に構成されている。これはサーマルヘッド2がヘッド加圧バネ4によりプラテン3に圧接されることにより、摩擦負荷が発生しているところ、プラテン3の駆動開始によって、プラテン3とサーマルヘッド2との接触摩擦によりサーマルヘッド2を、記録用紙Pの送り方向に変動させることで、モータにかかる急激な負荷の増大を緩和するためである。
しかしながら、サーマルヘッド2が用紙送り方向に移動せしめられると、サーマルヘッド2に設けられる発熱体(後述)が、図5に示す初期位置、すなわち印刷可能位置である、プラテン3との接触位置からずれてしまうので、サーマルヘッド2を図5に示す初期位置に復帰させるために戻りばね8が設けられる。
なお、戻りばね8は、詳細は後述するが、サーマルヘッド2のプラテン3との摩擦係数による摩擦力によって生じる移動力と均衡する程度の復元力(バネ定数)のものが用いられている。
【0025】
サーマルヘッド2のプラテン3との対向面側には、PC基板9が付設され、PC基板9の図中、上部側にプラテン3と接触するヘッド面2hとして接触表面部10が配設されている。この接触表面部10には、表面の摩擦係数の異なる第1、第2接触部10a、10bを、第1、第2接触部10a、10b間の境界線上が、プラテン3との接触位置にもたらされて図5に示す初期位置となるように配置され、第1、第2接触部10a、10b間の境界線上に発熱体(図示省略)が配置される。
すなわち第1、第2接触部10a、10bの配置の仕方として、接触表面部10のうち、サーマルヘッドの発熱体を挟んで、用紙送り方向に見て下流側の部位に第1接触部10aが配置され、用紙送り方向に見て上流側の部位に第2接触部10bが配置される。
なお、発熱体は図示はしていないが、第1、第2接触部10a、10b間の境界線上において、突出するように設けられており、サーマルヘッド2の接触表面部10とプラテン3のローラ面3rとが接触する際、プラテン3が弾性変形することにより、発熱体がローラ面3rに喰い込んだ状態で、プラテン3のローラ面3rはサーマルヘッド2の接触表面部10と、発熱体を中心として、第1、第2接触部10a、10b双方に接触するようになっている。
【0026】
第1、第2接触部10a、10bはガラス基材で構成され、第1接触部10aの摩擦係数は、第2接触部10bと比較して大としている。この場合、第1接触部10aの摩擦係数は、プラテン3の回転動作時、サーマルヘッド2が、図中、用紙送り方向に見て下流側に移動するに十分な摩擦力を生じる大きさのものとしている。
これに対し、第2接触部10bの摩擦係数は、プラテン3が回転状態で接しても、プラテン3が摩擦力に打ち勝って空転を続けることが可能な程度の摩擦力を生じる大きさのものとしている。サーマルヘッド2が、第2接触部10b上でプラテン3との接触状態を維持するには、戻りばね8の復元力と第2接触部10bの動摩擦力との均衡がとれていることが必要である。
このように、接触表面部10を摩擦係数の異なる第1、第2接触部10a、10bで構成し、戻りばね8を用いて、サーマルヘッド2を可動式としたのは、前述のように発熱体がプラテン3のローラ面3rに喰い込んだ状態で接触することから、この接触部位が脱調の要因となり得るからである。このことは、ヘッド面2h全体が、例え、プラテン3が回転状態で接しても空転することが可能な程度の摩擦係数の第2接触部10bで形成されていても起こり得る。
したがって、サーマルヘッド2を可動式とすれば、プラテン3のローラ面3rが発熱体の位置からずれて移動して、摩擦係数の低いほうの第2接触部10bに接触させることで、上述の脱調という不具合は避けられる。
【0027】
以上構成されるサーマルプリンタ1において、図5に示す初期位置から、記録用紙Pを、サーマルヘッド2とプラテン3との接触部位である印刷位置まで給紙するべく、プラテン3が回転駆動されると、サーマルヘッド2は、プラテン3と第1接触部10aとの接触部位の摩擦力により、戻りばね8の付勢力に抗して、図中、用紙送り方向に見て下流側に移動することで、プラテン3との接触部位が、第1接触部10aから完全に離れて発熱体を乗り越えて第2接触部10bへと移動する(図6参照)。
このとき、サーマルヘッド2は、戻りばね8の付勢力によって図5に示す初期位置までサーマルヘッド2を戻そうとする力と、第2接触部10bの摩擦係数による摩擦力によって用紙送り方向へサーマルヘッド2を移動させようとする力とが均衡し、プラテン3との接触部位が第2接触部10bの位置に留まる。すなわち、第2接触部10bの摩擦係数が、プラテン3が回転状態で接しても、プラテン3が空転を続けることが可能な程度の摩擦力を生じる大きさのものとしているので、摩擦負荷は小さく抑えることができ、モータは脱調せずに回転し続けることができる。このため、ガイドローラ5を介して記録用紙Pをサーマルヘッド2とプラテン3との間に給紙することができる(図7参照)。
記録用紙Pがサーマルヘッド2とプラテン3との間に給紙されると、サーマルヘッド2と記録用紙Pとの摩擦係数は、サーマルヘッド2とプラテン3との摩擦係数に比較して著しく小さいため、戻りばね8によってサーマルヘッド2は、プラテン3が、発熱体を中心として、第1、第2接触部10a、10b双方に接触する初期位置に戻され、印字を行うことが可能となる(図8参照)。
【0028】
以上、本発明について、モータへの負荷の軽減によりモータの脱調を防止するために、プラテンとサーマルヘッドとの摩擦係数に注目し、プラテンの素材を適宜選択して構成する他、サーマルヘッド側のヘッド面の摩擦係数を変えるなどの手法を施すことで実現する旨説明してきた。
さらに、本発明は、モータへの負荷の軽減によりモータの脱調を防止するための施策は、これらに限定されるものではない。
例えば、プラテンは、異なる二種のグレードのゴム材を積層した構成のものを示したが、勿論、ゴム材は、二種のグレードのゴム材に限らない。
【符号の説明】
【0029】
1 サーマルプリンタ
2 サーマルヘッド
2h ヘッド面
3 プラテン
3A1、3A2 異素材部分
3r ローラ面
3so 外面
3si 内面
3sp 環状体
4 ヘッド加圧バネ
5 ガイドローラ
6 用紙ガイド部
7 帯状体
8 戻りばね
8 PC基板
10 接触表面部
10a 第1接触部
10b 第2接触部
A1 ノーマルグレードの部分
A2 低摩擦グレードの部分
G 軸
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド面を有するサーマルヘッドと、該ヘッド面に接触可能なローラ面を有するプラテンとを具備し、該プラテンの回転により記録用紙を前記サーマルヘッドに供給して前記ローラ面と前記ヘッド面との間に記録用紙を挟持しながら印刷を行うサーマルプリンタにおいて、
前記プラテンは、軸と、該軸に取り付けられる弾性円筒体とを具備し、
該弾性円筒体は、それぞれが前記軸に取り付けられて互いに積層される複数の異素材部分を含み、
該複数の異素材部分は、互いに協働して前記ローラ面を形成する外面を各々に有すると共に、それら外面が前記ヘッド面に対し互いに異なる動摩擦係数を呈する互いに異なる素材から作製されること、
を特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項2】
前記複数の異素材部分の各々は、環状の前記外面と、前記軸に固定される環状の内面とを有する環状体からなり、前記弾性円筒体は、互いに異なる素材から作製される前記環状体が前記軸の周りで軸線方向へ互いに積層されてなる、請求項1に記載のサーマルプリンタ。
【請求項3】
前記複数の異素材部分の各々は、前記外面と、前記軸に固定される内面とを有する帯状体からなり、前記弾性円筒体は、互いに異なる素材から作製される前記帯状体が前記軸の周りで周方向へ互いに積層されてなる、請求項1に記載のサーマルプリンタ。
【請求項4】
前記帯状体は、前記軸の周りで螺旋状に延びる、請求項3に記載のサーマルプリンタ。
【請求項5】
ヘッド面を有するサーマルヘッドと、該ヘッド面に接触可能なローラ面を有するプラテンとを具備し、該プラテンの回転により記録用紙を前記サーマルヘッドに供給して前記ローラ面と前記ヘッド面との間に記録用紙を挟持しながら印刷を行うサーマルプリンタにおいて、
前記サーマルヘッドは、用紙送り方向に沿って移動可能に配置され、
前記ヘッド面は、前記サーマルヘッドが印刷可能位置に在る時に前記プラテンの前記ロール面に正対する発熱体を有すると共に、該発熱体よりも前記用紙送り方向に見て上流側の領域が、前記発熱体よりも前記用紙送り方向に見て下流側の領域よりも、前記ローラ面に対して低い動摩擦係数を呈すること、
を特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項6】
前記サーマルヘッドを前記印刷可能位置に向けて付勢する戻りばねをさらに具備する、請求項5に記載のサーマルプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−107216(P2013−107216A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251709(P2011−251709)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【Fターム(参考)】