サーマルヘッド、サーマルヘッドの製造方法およびサーマルプリンタ
【課題】熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できるサーマルヘッド、サーマルヘッドの製造方法およびサーマルプリンタを提供する。
【解決手段】発熱素子14を備えた粘着力発現用サーマルヘッド10(サーマルヘッド)であって、基板12の主面12a上には、発熱素子14を覆う発熱素子保護部28と、発熱素子保護部28よりも上流側を覆う上流側保護部27と、発熱素子保護部28よりも下流側を覆う下流側保護部26と、を有し、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成されるとともに、熱活性成分付着防止層20により覆われており、熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成されていることを特徴としている。
【解決手段】発熱素子14を備えた粘着力発現用サーマルヘッド10(サーマルヘッド)であって、基板12の主面12a上には、発熱素子14を覆う発熱素子保護部28と、発熱素子保護部28よりも上流側を覆う上流側保護部27と、発熱素子保護部28よりも下流側を覆う下流側保護部26と、を有し、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成されるとともに、熱活性成分付着防止層20により覆われており、熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成されていることを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サーマルヘッド、サーマルヘッドの製造方法およびサーマルヘッドを備えたサーマルプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば食品のPOSラベルや物流・搬送ラベル、医療用ラベル、バゲッジタグ、瓶・缶類の表示ラベル等として、貼付用ラベルが使用されている。貼付用ラベルは、記録面(印字面)の裏側に粘着剤層を設けた粘着面を有している。貼付用ラベルは、粘着面に剥離紙(セパレータ)が仮接着されて保管されており、粘着面からセパレータを剥離することで使用される。しかし、貼付用ラベルの使用時に粘着面から剥離したセパレータが産業廃棄物となる問題があった。
そこで、近年、セパレータを使用しない感熱性粘着ラベルが知られている。この感熱性粘着ラベルは、感熱発色タイプの記録面の裏面に感熱性粘着剤層が設けられており、感熱性粘着剤層を加熱することで粘着力が発現するようになっている。
【0003】
この種の感熱性粘着ラベルを印刷・発行するプリンタとして、複数の発熱素子を熱源とするサーマルヘッドを備えたサーマルプリンタが知られている。サーマルプリンタは、プラテンローラで感熱性粘着ラベルを搬送し、走行する感熱性粘着ラベルの感熱性粘着剤層にサーマルヘッドを当接させて加熱することにより粘着力を発現させている。
【0004】
ところで、サーマルヘッドの表面は、常に感熱性粘着剤層と当接している。このため、サーマルヘッドの表面に、感熱性粘着剤や感熱性粘着剤の変成物等(熱により化学的に変化した物質あるいは炭化した物質等)の熱活性成分が付着するという問題がある。サーマルヘッド表面に付着した熱活性成分は、感熱性粘着ラベルを搬送する際の抵抗となるため、感熱性粘着ラベルの詰まりや感熱性粘着ラベルの曲がり等の搬送不良が発生するおそれがある。また、サーマルヘッド表面に付着した熱活性成分は、熱の伝達の妨げとなるため、熱伝達効率が悪化するおそれがある。
【0005】
図11は、従来技術の粘着力発現用サーマルヘッド10の説明図である。なお、図11において、プラテンローラ53(実施形態の第2プラテンローラ53に相当)による感熱性粘着ラベル5の搬送方向をSと定義している。搬送方向Sは、図11における右側から左側となっており、右側が搬送方向Sの上流側、左側が搬送方向Sの下流側となっている。以下の説明では、搬送方向Sの上流側を単に上流側といい、搬送方向Sの下流側を単に下流側ということがある。
上記の問題を解決するため、図11に示すように、発熱素子14が保護層25で被覆され、発熱素子14の直上域を挟むように略平行な2条の熱活性成分付着防止層20(下流側熱活性成分付着防止層21および上流側熱活性成分付着防止層22)が設けられた粘着力発現用サーマルヘッド10が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
熱活性成分付着防止層20は、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の表面エネルギーが低い樹脂により形成されている。これにより、熱活性成分Dは、発熱素子14の直上域から熱活性成分付着防止層20上に掃き出されるので、発熱素子14の直上域に熱活性成分が滞留する事態を回避できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−50507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の粘着力発現用サーマルヘッド10には、以下の課題が残されている。
図11に示すように、特許文献1の粘着力発現用サーマルヘッド10は、発熱素子14の下流側および上流側に下流側熱活性成分付着防止層21および上流側熱活性成分付着防止層22を設けているが、発熱素子14上には熱活性成分付着防止層20を設けていない。これは、熱伝達効率の低下を防止するためと考えられる。前述のとおり、熱活性成分付着防止層20は、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の樹脂材料により形成されるが、樹脂材料は一般に熱伝導率が低い。このため、発熱素子14上に熱活性成分付着防止層20を設けると、発熱素子14から感熱性粘着ラベル5へ熱を伝達する際、熱伝達効率が低下することになるからである。
【0009】
上記の理由から、特許文献1の粘着力発現用サーマルヘッド10では、発熱素子14上の保護層25は、熱活性成分付着防止層20で覆われることなく、下流側熱活性成分付着防止層21と上流側熱活性成分付着防止層22との間から露出している。これにより、粘着力発現用サーマルヘッド10は熱伝達効率の低下を防止できると考えられる。しかしながら、発熱素子14上の保護層25は熱活性成分付着防止層20で覆われていないので、熱活性成分Dが付着しやすい。
このように、従来技術の粘着力発現用サーマルヘッド10では、熱伝達効率の低下を防止できるが、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できないおそれがある。
【0010】
そこで本発明は、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できるサーマルヘッド、サーマルヘッドの製造方法およびサーマルプリンタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明のサーマルヘッドは、基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドであって、前記基板の前記主面上には、前記基板および前記発熱素子を覆う保護層を備え、前記保護層は、前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、前記発熱素子保護部よりも前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側を覆う上流側保護部と、前記発熱素子保護部よりも前記搬送方向の下流側を覆う下流側保護部と、を有し、前記発熱素子保護部の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されるとともに、熱活性成分付着防止層により覆われており、前記熱活性成分付着防止層の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面以下の高さに形成されていることを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、発熱素子保護部の表面を覆って熱活性成分付着防止層が形成されているので、感熱性ラベルの感熱層は、発熱素子保護部と当接することなく熱活性成分付着防止層と当接できる。ここで、熱活性成分付着防止層は、熱活性成分の付着を防止する性質を有している。したがって、感熱性ラベルの感熱層で発生した熱活性成分は、熱活性成分付着防止層の表面に付着することなく、発熱素子の下流側に搬送されて発熱素子直上周辺から除去される。
また、発熱素子保護部の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成されている。これにより、保護層全体を覆うように熱活性成分付着防止層の基材層を形成した後、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を除去することで、発熱素子保護部の表面のみに基材層が残存して、熱活性成分付着防止層が形成される。しかも、熱活性成分付着防止層の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面以下の高さに形成される。これにより、熱活性成分付着防止層が薄く形成されるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0013】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層の表面が、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、熱活性成分付着防止層がさらに薄く形成されるので、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0015】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記基板の前記主面上には、前記発熱素子を挟んで前記上流側および前記下流側に前記発熱素子よりも厚い電極が一対形成され、前記上流側保護部は前記上流側の前記電極を覆って形成され、前記下流側保護部は前記下流側の前記電極を覆って形成されることで、前記熱活性成分付着防止層の表面が前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明によれば、発熱素子よりも厚い電極が形成されているので、発熱素子の表面は、電極の表面よりも低く形成されている。これにより、発熱素子および電極を覆って略均一の厚さの保護層を形成するだけで、発熱素子保護部の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成される。したがって、保護層を形成した後に何ら加工等することなく、簡単に発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成できる。
【0017】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層が、フッ素系樹脂を主成分とすることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた熱活性成分付着防止層を形成できる。これにより、感熱性ラベルの感熱層で発生した熱活性成分は、熱活性成分付着防止層に付着することなく発熱素子の下流側に搬送されて確実に除去できるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着をさらに防止できる。
【0019】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層が、シリコーン系樹脂を主成分とすることを特徴としている。
【0020】
シリコーン樹脂は、表面エネルギーが低い特性を有するとともに、薄膜の形成に好適である。したがって、本発明によれば、発熱素子保護部の表面に熱活性成分付着防止層を薄く形成できるので、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0021】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層が、シランカップリング剤を介して前記発熱素子保護部の表面に形成されていることを特徴としている。
【0022】
本発明によれば、熱活性成分付着防止層と保護層との密着性を高めるとともに、熱活性成分付着防止層を薄く成膜できる。したがって、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0023】
また、本発明のサーマルヘッドでは、前記感熱性ラベルが感熱性粘着ラベルであり、前記感熱層が加熱により粘着力を発現する感熱性粘着剤層であることを特徴としている。
【0024】
本発明によれば、熱活性成分付着防止層は、熱活性成分の付着を防止する性質を有しているので、粘着性を有する熱活性成分であっても、熱活性成分付着防止層の表面に付着することなく発熱素子の下流側に搬送されて除去できる。したがって、加熱により粘着力を発現する感熱性粘着剤層を備えた感熱性粘着ラベルに好適である。
【0025】
また、本発明のサーマルヘッドの製造方法は、基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドの製造方法であって、前記基板の前記主面上における前記発熱素子を挟んで前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側および下流側に、前記発熱素子よりも厚い一対の電極を形成する電極形成工程と、前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、前記上流側の前記電極を覆う上流側保護部と、前記下流側の前記電極を覆う下流側保護部と、を有する保護層を形成する保護層形成工程と、前記発熱素子保護部の表面に、熱活性成分付着防止層を形成する熱活性成分付着防止層形成工程と、を備え、前記熱活性成分付着防止層形成工程は、前記保護層に重ねて前記熱活性成分付着防止層の基材層を形成する基材層形成工程と、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面に沿って前記基材層を研磨し、前記上流側保護部および前記下流側保護部を覆う前記基材層を除去する研磨工程と、を有することを特徴としている。
【0026】
本発明によれば、電極形成工程では、発熱素子よりも厚く一対の電極を形成するので、発熱素子の表面は、電極の表面よりも低くなる。これにより、保護層形成工程では、発熱素子および電極を覆って略均一の厚さの保護層を形成するだけで、発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成できる。したがって、保護層形成工程では、加工等することなく、簡単に発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成できる。
また、従来技術では、熱伝達効率を考慮して発熱素子の直上域に熱活性成分付着防止層を形成していなかった。このため、熱活性成分付着防止層の基材層を形成する際、発熱素子に対応した位置をマスキングする必要があった。ここで、マスクは、例えばフォトリソグラフィ技術により形成されるため、工程が非常に煩雑であった。しかし、本発明によれば、保護層形成工程において、発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成している。これにより、基材層形成工程で保護層に重ねて基材層を形成した後、研磨工程で上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を研磨して除去するだけで、発熱素子保護部の表面に基材層を残存させて熱活性成分付着防止層を形成できる。したがって、マスキングすることなく、発熱素子保護部の表面に熱活性成分付着防止層を簡単に形成できる。
また、研磨工程では、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を研磨して除去するので、発熱素子保護部の表面に残存した熱活性成分付着防止層の表面を、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面以下の高さに形成できる。したがって、熱活性成分付着防止層を薄く形成できるので、熱伝達効率の低下を抑制でき、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できるサーマルヘッドを形成できる。
【0027】
また、本発明のサーマルヘッドの製造方法は、前記基材層形成工程では、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法のうちいずれかの成膜方法により前記基材層が成膜されていることを特徴としている。
【0028】
本発明によれば、基材層を薄く成膜できるので、熱活性成分付着防止層をさらに薄く形成できる。したがって、熱伝達効率の低下を抑制できるサーマルヘッドを形成できる。また、研磨工程では基材の研磨量を少なくできるので、研磨工程の工数を減少できる。したがって、サーマルヘッドを低コストに形成できる。
【0029】
また、本発明のサーマルプリンタは、上述したサーマルヘッドを備えたことを特徴としている。
【0030】
本発明によれば、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上に熱活性成分が付着するのを防止できるサーマルヘッドを備えているので、熱伝達効率が良好で搬送不良のない高性能なサーマルプリンタが得られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、発熱素子保護部の表面を覆って熱活性成分付着防止層が形成されているので、感熱性ラベルの感熱層は、発熱素子保護部と当接することなく熱活性成分付着防止層と当接できる。ここで、熱活性成分付着防止層は、熱活性成分の付着を防止する性質を有している。したがって、感熱性ラベルの感熱層で発生した熱活性成分は、熱活性成分付着防止層の表面に付着することなく、発熱素子の下流側に搬送されて発熱素子直上周辺から除去される。
また、発熱素子保護部の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成されている。これにより、保護層全体を覆うように熱活性成分付着防止層の基材層を形成した後、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を除去することで、発熱素子保護部の表面のみに基材層が残存して、熱活性成分付着防止層が形成される。しかも、熱活性成分付着防止層の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面以下の高さに形成される。これにより、熱活性成分付着防止層が薄く形成されるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】サーマルプリンタの模式図である。
【図2】粘着力発現用サーマルヘッドの平面図である。
【図3】粘着力発現用サーマルヘッドの斜視断面図である。
【図4】図2のA−A線に沿った側面断面図である。
【図5】実施形態の変形例における粘着力発現用サーマルヘッドの側面断面図である。
【図6】粘着力発現用サーマルヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図7】基材層形成工程の説明図である。
【図8】研磨工程の説明図である。
【図9】変形例の粘着力発現用サーマルヘッドにおける基材層形成工程の説明図である。
【図10】変形例の粘着力発現用サーマルヘッドにおける研磨工程の説明図である。
【図11】従来技術の粘着力発現用サーマルヘッドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(サーマルプリンタの概要)
以下に、本発明の実施形態に係るサーマルヘッドについて、図面を参照して説明する。
以下では、まずサーマルプリンタの概要を説明した後、本実施形態のサーマルヘッドについて説明する。
図1は、サーマルプリンタ1の模式図である。
図1に示すように、サーマルプリンタ1は、シートロールRから繰り出されて搬送される感熱性粘着ラベル5(感熱性ラベル)の一方面にバーコードや価格等の印字を行い、所望の長さに切断した後、感熱性粘着ラベル5の他方面に粘着力を発現させて発行するものである。
なお、図1において、搬送方向Sは、図1における右側から左側となっており、右側が搬送方向Sの上流側、左側が搬送方向Sの下流側となっている。また、シートロールRの内側面が感熱性粘着ラベル5の前記一方面(印字面)に相当しており、熱を与えると変色して印字される感熱発色層5aが形成されている。また、シートロールRの外側面が感熱性粘着ラベル5の前記他方面(粘着面)に相当しており、熱を与えると粘着力を発現する感熱性粘着剤層5b(感熱層)が形成されている。
【0034】
サーマルプリンタ1は、搬送される感熱性粘着ラベル5の一方面側(図1における上側)から感熱発色層5aを加熱して印字を行う印字ユニット2と、シートロールRから繰り出される感熱性粘着ラベル5を所望の長さに切断するカッターユニット3と、感熱性粘着ラベル5の他方面側(図1における下側)から感熱性粘着剤層5bを加熱して粘着力を発現させる粘着力発現ユニット4と、を備えている。本発明に係るサーマルヘッドは、後述の粘着力発現用サーマルヘッド10であり、粘着力発現ユニット4を構成している。
【0035】
印字ユニット2は、シートロールRの下流側に配置されており、第1プラテンローラ51および印字用サーマルヘッド8を備えている。印字用サーマルヘッド8は、不図示の発熱素子を複数有しており、感熱性粘着ラベル5の感熱発色層5aに面して配置されている。また、感熱性粘着ラベル5を挟んで印字用サーマルヘッド8の反対側には、第1プラテンローラ51が配置されている。
【0036】
印字用サーマルヘッド8は、第1プラテンローラ51側に向かって不図示のバネ等によって付勢されている。このため、感熱性粘着ラベル5は、印字用サーマルヘッド8と第1プラテンローラ51とにより挟まれた状態となっている。そして、不図示の電源から印字用サーマルヘッド8に給電することにより、複数の発熱素子が発熱し、感熱性粘着ラベル5の感熱発色層5aが加熱されて文字や図形等が印字される。また、不図示の駆動源で第1プラテンローラ51を回転させることにより、感熱発色層5aと印字用サーマルヘッド8とが当接した状態で感熱性粘着ラベル5が搬送される。
【0037】
カッターユニット3は、印字ユニット2の下流側に配置されており、感熱性粘着ラベル5を挟んで両側に可動刃55および固定刃57を有している。可動刃55は、固定刃57に対して接近離反可能となっており、印字された感熱性粘着ラベル5を所望の長さに切断している。
【0038】
粘着力発現ユニット4は、カッターユニット3の下流側に配置されており、第2プラテンローラ53(請求項の「プラテンローラ」に相当。)および粘着力発現用サーマルヘッド10(請求項の「サーマルヘッド」に相当。)を備えている。粘着力発現用サーマルヘッド10は、後述するように発熱素子14を複数有しており(図2参照)、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bに面して配置されている。また、感熱性粘着ラベル5を挟んで粘着力発現用サーマルヘッド10の反対側には、第2プラテンローラ53が配置されている。
【0039】
粘着力発現用サーマルヘッド10は、第2プラテンローラ53側に不図示のバネ等によって付勢されている。このため、感熱性粘着ラベル5は、粘着力発現用サーマルヘッド10と第2プラテンローラ53とにより挟まれた状態となっている。
そして、不図示の電源から粘着力発現用サーマルヘッド10に給電することにより、複数の発熱素子14が発熱し、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bが加熱されて粘着力が発現される。また、不図示の駆動源で第2プラテンローラ53を回転させることにより、感熱性粘着剤層5bと粘着力発現用サーマルヘッド10とが当接した状態で感熱性粘着ラベル5が搬送される。
【0040】
(サーマルヘッド)
次に、本実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10について説明する。
図2は、粘着力発現用サーマルヘッド10の平面図である。
図3は、粘着力発現用サーマルヘッド10の斜視断面図である。
なお、図2では、分かり易くするために、後述する保護層25および熱活性成分付着防止層20(いずれも図3参照)の図示を省略している。また、図2および図3において、感熱性粘着ラベル5の搬送方向Sは右側から左側となっており、右側が上流側、左側が下流側となっている。また、以下では、搬送される感熱性粘着ラベル5の幅方向をWと定義し、搬送方向Sおよび幅方向Wと直交する粘着力発現用サーマルヘッド10の厚さ方向をHと定義している。
【0041】
図2に示すように、粘着力発現用サーマルヘッド10は、基板12と、基板12の主面12a上に形成された複数の発熱素子14と、発熱素子14に接続される一対の電極16,17と、を備えている。また、図3に示すように、基板12の主面12a上には、発熱素子保護部28、上流側保護部27および下流側保護部26を有する保護層25と、保護層25のうち発熱素子保護部28を覆う熱活性成分付着防止層20と、が形成されている。
【0042】
図2に示すように、基板12は、感熱性粘着ラベル5(図1参照)の搬送方向Sに沿って短辺を有し、感熱性粘着ラベル5(図1参照)の幅方向Wに沿って長辺を有する平面視略長方形状に形成されている。基板12は、例えばセラミックス等により形成されており、絶縁性を有している。
【0043】
基板12の主面12a上には、複数の発熱素子14が形成されている。発熱素子14は、平面視略矩形状に形成されている。発熱素子14は、電流が供給されることで発熱する発熱抵抗体であり、例えば、タンタル(Ta)や酸化ケイ素(SiO2)等の発熱抵抗体材料により形成されている。発熱素子14は、基板12の主面12a上において、搬送方向Sの略中央に、幅方向Wに沿って略等間隔に並んで形成されている。
【0044】
また、基板12の主面12a上には、発熱素子14に接続される電極16,17が形成されている。電極16,17は、金(Au)や銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の導電率の高い金属により形成されている。
一方の電極16は、発熱素子14の下流側において、発熱素子14の下流側端部を覆うように形成され、発熱素子14と電気的に接続されている。また、他方の電極17は発熱素子14の上流側において、発熱素子14の上流側端部を覆うように形成され、発熱素子14と電気的に接続されている。また、電極16,17は、発熱素子14よりも肉厚が厚く形成されている。したがって、電極16,17の表面は、発熱素子14の表面よりも基板12の主面12aから離れて形成されており、発熱素子14の表面よりもH方向で高く形成されている。
そして、電極16,17は、不図示の電源に電気的に接続されている。そして、電源から電極16,17を介して発熱素子14に電流が供給されるようになっている。なお、電極16,17は、厚さが例えば1〜2μm程度に形成される。
【0045】
(保護層)
図3に示すように、基板12の主面12a上には、保護層25が形成されている。保護層25は、発熱素子14を覆う発熱素子保護部28と、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの上流側を覆う上流側保護部27と、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの下流側を覆う下流側保護部26と、を有している。
保護層25は、例えばSi−O−NやSi−Al−O−N等の硬質金属酸化物等により形成されている。保護層25は、発熱素子14および電極16,17の表面が酸化するのを防止している。また、保護層25は、感熱性粘着ラベル5(図1参照)の搬送時に、発熱素子14および電極16,17が感熱性粘着ラベル5と当接して摩耗するのを防止している。
【0046】
図4は、図2のA−A線に沿った側面断面図である。なお、図4では、説明をわかりやすくするために、感熱性粘着ラベル5および第2プラテンローラ53を二点鎖線で図示している。
図4に示すように、発熱素子保護部28は、発熱素子14に重ねて形成されており、発熱素子14の表面を覆っている。また、上流側保護部27は、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの上流側において、上流側の電極17に重ねて形成されており、上流側の電極17の表面を覆っている。また、下流側保護部26は、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの下流側において、下流側の電極16に重ねて形成されており、下流側の電極16の表面を覆っている。そして、発熱素子保護部28、上流側保護部27および下流側保護部26により、保護層25を形成している。
【0047】
発熱素子保護部28、上流側保護部27および下流側保護部26は、後述するように、スパッタリング法やCVD法、蒸着法等の成膜方法により略均一の厚さに形成されている。ここで、前述のとおり、電極16,17は発熱素子14よりも厚く形成されている。このため、発熱素子14の表面は、H方向において電極16,17の表面よりも低くなっている。したがって、電極16,17および発熱素子14上に保護層25を略均一の厚さに形成することにより、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも基板12の主面12aの近くに形成されており、H方向において低く形成される。
なお、発熱素子保護部28の表面28aと、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aとの高さの差は、熱伝達効率を考慮して、例えば2μm以下であることが望ましい。
【0048】
(熱活性成分付着防止層)
熱活性成分付着防止層20は、発熱素子保護部28の表面を覆って形成されている。熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成されている。本実施形態では、熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一となるように形成されている。
詳細は後述するが、熱活性成分付着防止層20は、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去することで形成される。これにより、発熱素子保護部28の表面28aにのみ熱活性成分付着防止層20の基材を残存させることができるので、マスキング等を行うことなく発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成できる。
【0049】
熱活性成分付着防止層20は、感熱性粘着ラベル5が発熱素子14と第2プラテンローラ53との間に挟まれた状態で搬送される際に、感熱性粘着剤層5bと当接する。
熱活性成分付着防止層20は、表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた材料、例えば、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂により形成されている。したがって、熱活性成分付着防止層20は、感熱性粘着剤層5bで発生した熱活性成分Dの付着を防止する性質を有している。
熱活性成分付着防止層20の硬度は、感熱性粘着ラベル5の種類等にもよるが、例えば鉛筆硬度で2B〜5Bの範囲とすることが望ましい。熱活性成分付着防止層20の硬度は、例えば材料への添加剤の種類や添加量で調節することが可能である。
【0050】
また、熱活性成分付着防止層20を形成する樹脂材料と、保護層25の表面との密着性が悪い場合には、保護層25の表面に例えばシランカップリング剤を介して熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。シランカップリング剤により、熱活性成分付着防止層20と保護層25との密着性を高めることができる。また、シランカップリング剤により自己組織化単分子膜が形成されるので、熱活性成分付着防止層20を薄く成膜できる。したがって、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる。
【0051】
(効果)
本実施形態によれば、発熱素子保護部28の表面28aを覆って熱活性成分付着防止層20が形成されているので、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bは、発熱素子保護部28と当接することなく熱活性成分付着防止層20と当接できる。ここで、熱活性成分付着防止層20は、熱活性成分Dの付着を防止する性質を有している。したがって、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bで発生した熱活性成分Dは、熱活性成分付着防止層20の表面20aに付着することなく、発熱素子14の下流側に搬送されて発熱素子14直上周辺から除去される。
また、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成されている。これにより、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を除去することで、発熱素子保護部28の表面28aのみに基材層30が残存して、熱活性成分付着防止層20が形成される。このように熱活性成分付着防止層20の領域を最も必要な領域のみとすることにより、感熱性粘着ラベル5との摩擦による静電気の発生を抑制でき、発熱素子14等の静電破壊を防止できる。しかも、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成される。これにより、熱活性成分付着防止層20が薄く形成されるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる。
【0052】
(実施形態の変形例の粘着力発現用サーマルヘッド)
図5は、実施形態の変形例における粘着力発現用サーマルヘッド10の側面断面図である。なお、図5では、説明をわかりやすくするために、図4と同様に、感熱性粘着ラベル5および第2プラテンローラ53を二点鎖線で図示している。
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10は、図4に示すように、熱活性成分付着防止層20の表面20aが、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一となるように形成されていた。
これに対して、変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10は、図5に示すように、熱活性成分付着防止層20の表面20aが、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりもH方向において低く形成されている点で、実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10とは異なっている。なお、実施形態と同様の構成の部分については、詳細な説明を省略する。
【0053】
図5に示すように、変形例の熱活性成分付着防止層20は、発熱素子保護部28の表面28aを覆って形成されている。熱活性成分付着防止層20のH方向における厚さh2は、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも薄くなるように形成されている。これにより、熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも基板12の主面12aの近くに形成されており、H方向において低く形成されている。
【0054】
(変形例の効果)
実施形態の変形例によれば、熱活性成分付着防止層20はさらに薄く形成されているので、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる。
なお、実施例の熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一となるように平坦に形成されていた。これに対して、実施形態の変形例では、熱活性成分付着防止層20の表面20aが、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりもH方向において低く形成されている。したがって、実施形態の変形例は、実施形態と比較して、感熱性粘着ラベル5搬送時における感熱性粘着ラベル5と熱活性成分付着防止層20の表面20aとの接触面積は小さくなる。したがって、熱活性成分付着防止層20と感熱性粘着ラベル5との摩擦による静電気の発生をさらに抑制でき、発熱素子14等の静電破壊を防止できる。
【0055】
(サーマルヘッドの製造方法)
続いて、上述した実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法について説明する。
図6は、粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法のフローチャートである。
図6に示すように、本実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法は、発熱素子形成工程S10と、電極形成工程S20と、保護層形成工程S30と、熱活性成分付着防止層形成工程S40とを備えている。
【0056】
(発熱素子形成工程)
発熱素子形成工程S10では、基板12の主面12a上に、複数の発熱素子14を形成する(図2参照)。具体的には、基板12の主面12a上に、Ta−SiO2等の発熱抵抗体材料を、例えばスパッタリング法やCVD法、蒸着法等により成膜する。その後、フォトリソグラフィ技術により、所定の外形形状にパターニングして、複数の発熱素子14を形成する。本実施形態では、図2に示すように、発熱素子14の外形が平面視略矩形状になるようにパターニングしている。
【0057】
(電極形成工程)
電極形成工程S20では、基板12の主面12a上に、電極16,17(下流側の電極16および上流側の電極17)を形成する(図2参照)。具体的には、基板12の主面12a上に、AuやCu、Al等の導電率の高い金属を、例えばスクリーン印刷等により形成する。
本実施形態では、図2に示すように、発熱素子14の下流側端部を覆うように下流側の電極16を形成し、発熱素子14の上流側端部を覆うように上流側の電極17を形成している。このとき、図3に示すように、発熱素子14よりも肉厚が厚くなるように下流側の電極16および上流側の電極17を形成している。これにより、電極形成工程S20では、下流側の電極16の表面および上流側の電極17の表面は、発熱素子14の表面よりも基板12の主面12aから離れて形成されており、発熱素子14の表面よりもH方向で高くなるように形成される。
なお、電極16,17の形成はスクリーン印刷に限られることはなく、例えばスパッタリング法やCVD法、蒸着法等により成膜した後、フォトリソグラフィ技術により、所定の外形形状にパターニングして電極16,17を形成してもよい。
【0058】
(保護層形成工程)
保護層形成工程S30では、基板12の主面12a上に、発熱素子14を覆う発熱素子保護部28と、下流側の電極16を覆う下流側保護部26と、上流側の電極17を覆う上流側保護部27と、を有する保護層25を形成する(図3参照)。具体的には、基板12の主面12a上の発熱素子14、下流側の電極16および上流側の電極17に重ねて、Si−O−NやSi−Al−O−N等の硬質金属酸化物を、例えばスパッタリング法やCVD法、蒸着法等により成膜して保護層25を形成する。
【0059】
保護層形成工程S30では、発熱素子14および電極16,17上に、略均一の厚さとなるように保護層25を形成している。このように保護層25を形成することで、下流側保護部26の表面26a、発熱素子保護部28の表面28aおよび上流側保護部27の表面27aは、それぞれ下流側の電極16の表面、発熱素子14の表面および上流側の電極17の表面に沿うように形成される。
ここで、前述の電極形成工程S20では、発熱素子14よりも肉厚が厚くなるように、下流側の電極16および上流側の電極17を形成している。これにより、発熱素子14の表面は、下流側の電極16の表面および上流側の電極17の表面よりも、H方向において低くなっている。したがって、保護層形成工程S30では、略均一の厚さに保護層25を形成するだけで、発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成できる。
【0060】
(熱活性成分付着防止層形成工程)
熱活性成分付着防止層形成工程S40では、保護層25のうち発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成する。
図6に示すように、熱活性成分付着防止層形成工程S40は、基材層形成工程S40Aと、研磨工程S40Bとを備えている。以下に、各工程について説明する。
【0061】
(基材層形成工程)
図7は、基材層形成工程S40Aの説明図である。
図7に示すように、基材層形成工程S40Aでは、後に熱活性成分付着防止層20を形成する基材からなる基材層30を、保護層25に重ねて形成する。基材には、前述のとおり、例えばシリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた材料が採用される。
【0062】
基材層形成工程S40Aでは、熱活性成分付着防止層20の基材を保護層25の全面に塗布して、基材層30を形成する。
基材層30の形成は、例えばスクリーン印刷により行われる。本実施形態では、発熱素子保護部28上の基材層30の厚さh3が、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも厚くなるように形成されている。また、基材層30の表面30aは、平坦に形成される。
なお、基材層30の乾燥は、常温または高温で行われる。また、基材層30の形成は、スクリーン印刷に限られず、例えばディップや噴き付け、ハケ塗り等により行われてもよい。また、シランカップリング剤を用いて基材層30を形成する場合には、水酸基を形成するための処理が必要な場合もある。
【0063】
(研磨工程)
図8は、研磨工程S40Bの説明図である。
図8に示すように、研磨工程S40Bでは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30(図7参照)を研磨し、上流側保護部27および下流側保護部26を覆う基材層30を除去する。
具体的には、所定の面粗度の研磨面71aを備えたラッピングペーパー71と、平坦面を備えた不図示のラッピング盤とを用意する。そして、研磨面71aが基材層30の表面30a(図7参照)に面した状態で、ラッピング盤の平坦面にラッピングペーパー71を配置する。続いて、ラッピング盤を基板12側に押圧しながら、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って移動させることにより、ラッピングペーパー71の研磨面71aで基材層30の表面30aを研磨する。
これにより、上流側保護部27および下流側保護部26を覆う基材層30が除去されて、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aが露出される。また、これと同時に、発熱素子保護部28の表面28aに基材層30が残存し、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一の表面20aを有する熱活性成分付着防止層20が形成される。
【0064】
なお、シランカップリング剤により熱活性成分付着防止層20を形成した場合には、たとえば数nm〜数μm程度の薄膜に形成できる。この場合には、研磨工程S40Bで積極的に研磨しなくても、例えば予備的に感熱性粘着ラベル5を搬送させることにより基材層30を研磨して、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。
【0065】
上述の研磨工程S40Bが終了した時点で、粘着力発現用サーマルヘッド10の製造工程が終了し、図3に示す粘着力発現用サーマルヘッド10が得られる。
【0066】
(効果)
本実施形態によれば、電極形成工程S20では、発熱素子14よりも厚く一対の電極16,17を形成するので、発熱素子14の表面は、電極16,17の表面よりも低くなる。これにより、保護層形成工程S30では、発熱素子14および電極16,17を覆って略均一の厚さの保護層25を形成するだけで、発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成できる。したがって、保護層形成工程S30では、加工等することなく、簡単に発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成できる。
また、従来技術では、熱伝達効率を考慮して、発熱素子14の直上域に熱活性成分付着防止層20を形成していなかった。このため、熱活性成分付着防止層20の基材層を形成する際、発熱素子14に対応した位置をマスキングする必要があった。ここで、マスクは、例えばフォトリソグラフィ技術により形成されるため、工程が非常に煩雑であった。しかし、本実施形態によれば、保護層形成工程S30において、発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成している。これにより、基材層形成工程S40Aで保護層25に重ねて基材層30を形成した後、研磨工程S40Bで上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去するだけで、発熱素子保護部28の表面28aに基材層30を残存させて熱活性成分付着防止層20を形成できる。したがって、マスキングすることなく、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を簡単に形成できる。
また、研磨工程S40Bでは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去するので、発熱素子保護部28の表面28aに残存した熱活性成分付着防止層20の表面20aを、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成できる。したがって、熱活性成分付着防止層20を薄く形成できるので、熱伝達効率の低下を抑制でき、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる粘着力発現用サーマルヘッド10を形成できる。
【0067】
(変形例の粘着力発現用サーマルヘッドの製造方法)
図9は、変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造工程のうち、基材層形成工程S40Aの説明図であり、図10は、研磨工程S40Bの説明図である。
続いて、図5に示す変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法について説明をする。
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、図7に示すように、発熱素子保護部28の表面28aを覆う基材層30の厚さh3が、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも厚くなるように形成されていた。
これに対して、変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、図9に示すように、基材層30の厚さh2が、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも薄くなるように形成されている点で、実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法とは異なっている。なお、実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法と同様の構成の部分については、詳細な説明を省略する。
【0068】
(基材層形成工程)
変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、基材層30の形成は、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法等の成膜方法により行われる。基材層30の厚さがh2となるように薄く成膜することで、発熱素子保護部28の表面28aを覆う基材層30の表面30aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも、H方向において低く形成される。
【0069】
(研磨工程)
図10は、研磨工程S40Bの説明図である。
図10に示すように、研磨工程S40Bでは、上流側保護部27および下流側保護部26を覆う基材層30を除去して、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aを露出させる。また、これと同時に、発熱素子保護部28の表面28aに基材層30が残存し、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低い表面20aを有する熱活性成分付着防止層20が形成される。
【0070】
(効果)
変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法によれば、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法等の成膜方法により、基材層30を保護層25に重ねて薄く成膜できるので、熱活性成分付着防止層20を薄く形成できる。したがって、熱伝達効率の低下を抑制できる粘着力発現用サーマルヘッド10を形成できる。また、研磨工程S40Bでは、基材の研磨量を少なくできるので、研磨工程S40Bの工数を減少できる。したがって、粘着力発現用サーマルヘッド10を低コストに形成できる。
【0071】
なお、この発明の技術範囲は上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0072】
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10は、感熱性粘着剤層5bを加熱して粘着力を発現させる粘着力発現ユニット4に適用されていたが、感熱発色層5aを加熱して印字する印字ユニット2の印字用サーマルヘッド8として適用してもよい。この場合においても、感熱性粘着ラベル5の感熱発色層5a中の発色層熱活性成分Dが熱活性成分付着防止層20に付着するのを防止できる。なお、粘着性を有する熱活性成分Dであっても発熱素子14の下流側に搬送し除去できる点や、粘着力発現用サーマルヘッド10のクリーニング頻度が減少する点で、本発明は、特に感熱性粘着剤層5bを備えた感熱性粘着ラベル5に好適である。
また、感熱性粘着剤層5bの代わりに感圧性粘着剤層表面に粘着防止層としてPETやPP、PEなどの薄膜状フィルムを貼り合せた構造においても、薄膜状フィルムである粘着防止層を粘着力発現用サーマルヘッド10で加熱して粘着防止層に穴を空け、感圧性粘着剤を露出させるときに熱活性成分付着防止層20に粘着成分が付着するのを防止することができる。
【0073】
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去することにより、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成していた。
しかし、例えば、マスキングテープやフォトリソグラフィ技術により、発熱素子保護部28の表面28a以外の領域をマスキングした後、ディップや噴き付け、ハケ塗り、無電解メッキ等により基材を塗布して、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。ただし、マスキング等を行うことなく発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成できる点で、本実施形態に優位性がある。
また、熱活性成分付着防止層20の形成は、材料によってはイオンプレーティングにより行ってもよい。
【0074】
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去することにより、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成していた。
しかし、例えば、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、予備的に感熱性粘着ラベル5を搬送させることにより基材層30を研磨して、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。
【0075】
熱活性成分付着防止層20の構成材料は実施形態に限られることはなく、表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた材料を広く採用できる。したがって、熱活性成分付着防止層20の構成材料は、例えば、SiAlON(サイアロン)やSiO2、SiC、Si−N、TiC、Ti−C、TiO2、C(ダイヤモンドを含む)、Zr(ジルコニウム)、ZrN等の粉末を微量添加した有機材料を用いてもよい。
また、熱活性成分付着防止層20は、フッ素系樹脂に、シリコン、シリコン系合金、チタン、チタン系合金、タンタルまたはタンタル系合金の酸化物、窒化物もしくは酸窒化物の粉末を添加した材料で形成してもよい。これにより、表面エネルギーの低く、撥水性および撥油性に優れた特性を維持しつつ、耐摩耗性に優れた熱活性成分付着防止層20が形成される。
さらに、熱活性成分付着防止層20は、フッ素系樹脂に、金属または炭素を添加した材料で形成してもよい。これにより、表面エネルギーの低く、撥水性および撥油性に優れた特性を維持しつつ、熱活性成分付着防止層20に導電性を持たせることができる。そして、感熱性粘着ラベル5の搬送時に、感熱性粘着剤層5bと熱活性成分付着防止層20とが当接して静電気が発生しても、熱活性成分付着防止層20から静電気が逐次放電される。したがって、発熱素子14等の電子素子の静電破壊を防止できる。
【符号の説明】
【0076】
1・・・サーマルプリンタ 5・・・感熱性粘着ラベル(感熱性ラベル) 5b・・・感熱性粘着剤層(感熱層) 10・・・粘着力発現用サーマルヘッド(サーマルヘッド) 12・・・基板 12a・・・主面 14・・・発熱素子 16・・・電極 17・・・電極 20・・・熱活性成分付着防止層 20a・・・熱活性成分付着防止層の表面 25・・・保護層 26・・・下流側保護部 26a・・・下流側保護部の表面 27・・・上流側保護部 27a・・・上流側保護部の表面 28・・・発熱素子保護部 28a・・・発熱素子保護部の表面 30・・・基材層 S・・・搬送方向 S20・・・電極形成工程 S30・・・保護層形成工程 S40・・・熱活性成分付着防止層形成工程 S40A・・・基材層形成工程 S40B・・・研磨工程
【技術分野】
【0001】
この発明は、サーマルヘッド、サーマルヘッドの製造方法およびサーマルヘッドを備えたサーマルプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば食品のPOSラベルや物流・搬送ラベル、医療用ラベル、バゲッジタグ、瓶・缶類の表示ラベル等として、貼付用ラベルが使用されている。貼付用ラベルは、記録面(印字面)の裏側に粘着剤層を設けた粘着面を有している。貼付用ラベルは、粘着面に剥離紙(セパレータ)が仮接着されて保管されており、粘着面からセパレータを剥離することで使用される。しかし、貼付用ラベルの使用時に粘着面から剥離したセパレータが産業廃棄物となる問題があった。
そこで、近年、セパレータを使用しない感熱性粘着ラベルが知られている。この感熱性粘着ラベルは、感熱発色タイプの記録面の裏面に感熱性粘着剤層が設けられており、感熱性粘着剤層を加熱することで粘着力が発現するようになっている。
【0003】
この種の感熱性粘着ラベルを印刷・発行するプリンタとして、複数の発熱素子を熱源とするサーマルヘッドを備えたサーマルプリンタが知られている。サーマルプリンタは、プラテンローラで感熱性粘着ラベルを搬送し、走行する感熱性粘着ラベルの感熱性粘着剤層にサーマルヘッドを当接させて加熱することにより粘着力を発現させている。
【0004】
ところで、サーマルヘッドの表面は、常に感熱性粘着剤層と当接している。このため、サーマルヘッドの表面に、感熱性粘着剤や感熱性粘着剤の変成物等(熱により化学的に変化した物質あるいは炭化した物質等)の熱活性成分が付着するという問題がある。サーマルヘッド表面に付着した熱活性成分は、感熱性粘着ラベルを搬送する際の抵抗となるため、感熱性粘着ラベルの詰まりや感熱性粘着ラベルの曲がり等の搬送不良が発生するおそれがある。また、サーマルヘッド表面に付着した熱活性成分は、熱の伝達の妨げとなるため、熱伝達効率が悪化するおそれがある。
【0005】
図11は、従来技術の粘着力発現用サーマルヘッド10の説明図である。なお、図11において、プラテンローラ53(実施形態の第2プラテンローラ53に相当)による感熱性粘着ラベル5の搬送方向をSと定義している。搬送方向Sは、図11における右側から左側となっており、右側が搬送方向Sの上流側、左側が搬送方向Sの下流側となっている。以下の説明では、搬送方向Sの上流側を単に上流側といい、搬送方向Sの下流側を単に下流側ということがある。
上記の問題を解決するため、図11に示すように、発熱素子14が保護層25で被覆され、発熱素子14の直上域を挟むように略平行な2条の熱活性成分付着防止層20(下流側熱活性成分付着防止層21および上流側熱活性成分付着防止層22)が設けられた粘着力発現用サーマルヘッド10が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
熱活性成分付着防止層20は、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の表面エネルギーが低い樹脂により形成されている。これにより、熱活性成分Dは、発熱素子14の直上域から熱活性成分付着防止層20上に掃き出されるので、発熱素子14の直上域に熱活性成分が滞留する事態を回避できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−50507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の粘着力発現用サーマルヘッド10には、以下の課題が残されている。
図11に示すように、特許文献1の粘着力発現用サーマルヘッド10は、発熱素子14の下流側および上流側に下流側熱活性成分付着防止層21および上流側熱活性成分付着防止層22を設けているが、発熱素子14上には熱活性成分付着防止層20を設けていない。これは、熱伝達効率の低下を防止するためと考えられる。前述のとおり、熱活性成分付着防止層20は、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の樹脂材料により形成されるが、樹脂材料は一般に熱伝導率が低い。このため、発熱素子14上に熱活性成分付着防止層20を設けると、発熱素子14から感熱性粘着ラベル5へ熱を伝達する際、熱伝達効率が低下することになるからである。
【0009】
上記の理由から、特許文献1の粘着力発現用サーマルヘッド10では、発熱素子14上の保護層25は、熱活性成分付着防止層20で覆われることなく、下流側熱活性成分付着防止層21と上流側熱活性成分付着防止層22との間から露出している。これにより、粘着力発現用サーマルヘッド10は熱伝達効率の低下を防止できると考えられる。しかしながら、発熱素子14上の保護層25は熱活性成分付着防止層20で覆われていないので、熱活性成分Dが付着しやすい。
このように、従来技術の粘着力発現用サーマルヘッド10では、熱伝達効率の低下を防止できるが、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できないおそれがある。
【0010】
そこで本発明は、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できるサーマルヘッド、サーマルヘッドの製造方法およびサーマルプリンタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明のサーマルヘッドは、基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドであって、前記基板の前記主面上には、前記基板および前記発熱素子を覆う保護層を備え、前記保護層は、前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、前記発熱素子保護部よりも前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側を覆う上流側保護部と、前記発熱素子保護部よりも前記搬送方向の下流側を覆う下流側保護部と、を有し、前記発熱素子保護部の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されるとともに、熱活性成分付着防止層により覆われており、前記熱活性成分付着防止層の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面以下の高さに形成されていることを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、発熱素子保護部の表面を覆って熱活性成分付着防止層が形成されているので、感熱性ラベルの感熱層は、発熱素子保護部と当接することなく熱活性成分付着防止層と当接できる。ここで、熱活性成分付着防止層は、熱活性成分の付着を防止する性質を有している。したがって、感熱性ラベルの感熱層で発生した熱活性成分は、熱活性成分付着防止層の表面に付着することなく、発熱素子の下流側に搬送されて発熱素子直上周辺から除去される。
また、発熱素子保護部の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成されている。これにより、保護層全体を覆うように熱活性成分付着防止層の基材層を形成した後、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を除去することで、発熱素子保護部の表面のみに基材層が残存して、熱活性成分付着防止層が形成される。しかも、熱活性成分付着防止層の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面以下の高さに形成される。これにより、熱活性成分付着防止層が薄く形成されるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0013】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層の表面が、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、熱活性成分付着防止層がさらに薄く形成されるので、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0015】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記基板の前記主面上には、前記発熱素子を挟んで前記上流側および前記下流側に前記発熱素子よりも厚い電極が一対形成され、前記上流側保護部は前記上流側の前記電極を覆って形成され、前記下流側保護部は前記下流側の前記電極を覆って形成されることで、前記熱活性成分付着防止層の表面が前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明によれば、発熱素子よりも厚い電極が形成されているので、発熱素子の表面は、電極の表面よりも低く形成されている。これにより、発熱素子および電極を覆って略均一の厚さの保護層を形成するだけで、発熱素子保護部の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成される。したがって、保護層を形成した後に何ら加工等することなく、簡単に発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成できる。
【0017】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層が、フッ素系樹脂を主成分とすることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた熱活性成分付着防止層を形成できる。これにより、感熱性ラベルの感熱層で発生した熱活性成分は、熱活性成分付着防止層に付着することなく発熱素子の下流側に搬送されて確実に除去できるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着をさらに防止できる。
【0019】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層が、シリコーン系樹脂を主成分とすることを特徴としている。
【0020】
シリコーン樹脂は、表面エネルギーが低い特性を有するとともに、薄膜の形成に好適である。したがって、本発明によれば、発熱素子保護部の表面に熱活性成分付着防止層を薄く形成できるので、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0021】
また、本発明のサーマルヘッドは、前記熱活性成分付着防止層が、シランカップリング剤を介して前記発熱素子保護部の表面に形成されていることを特徴としている。
【0022】
本発明によれば、熱活性成分付着防止層と保護層との密着性を高めるとともに、熱活性成分付着防止層を薄く成膜できる。したがって、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【0023】
また、本発明のサーマルヘッドでは、前記感熱性ラベルが感熱性粘着ラベルであり、前記感熱層が加熱により粘着力を発現する感熱性粘着剤層であることを特徴としている。
【0024】
本発明によれば、熱活性成分付着防止層は、熱活性成分の付着を防止する性質を有しているので、粘着性を有する熱活性成分であっても、熱活性成分付着防止層の表面に付着することなく発熱素子の下流側に搬送されて除去できる。したがって、加熱により粘着力を発現する感熱性粘着剤層を備えた感熱性粘着ラベルに好適である。
【0025】
また、本発明のサーマルヘッドの製造方法は、基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドの製造方法であって、前記基板の前記主面上における前記発熱素子を挟んで前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側および下流側に、前記発熱素子よりも厚い一対の電極を形成する電極形成工程と、前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、前記上流側の前記電極を覆う上流側保護部と、前記下流側の前記電極を覆う下流側保護部と、を有する保護層を形成する保護層形成工程と、前記発熱素子保護部の表面に、熱活性成分付着防止層を形成する熱活性成分付着防止層形成工程と、を備え、前記熱活性成分付着防止層形成工程は、前記保護層に重ねて前記熱活性成分付着防止層の基材層を形成する基材層形成工程と、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面に沿って前記基材層を研磨し、前記上流側保護部および前記下流側保護部を覆う前記基材層を除去する研磨工程と、を有することを特徴としている。
【0026】
本発明によれば、電極形成工程では、発熱素子よりも厚く一対の電極を形成するので、発熱素子の表面は、電極の表面よりも低くなる。これにより、保護層形成工程では、発熱素子および電極を覆って略均一の厚さの保護層を形成するだけで、発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成できる。したがって、保護層形成工程では、加工等することなく、簡単に発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成できる。
また、従来技術では、熱伝達効率を考慮して発熱素子の直上域に熱活性成分付着防止層を形成していなかった。このため、熱活性成分付着防止層の基材層を形成する際、発熱素子に対応した位置をマスキングする必要があった。ここで、マスクは、例えばフォトリソグラフィ技術により形成されるため、工程が非常に煩雑であった。しかし、本発明によれば、保護層形成工程において、発熱素子保護部の表面を上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成している。これにより、基材層形成工程で保護層に重ねて基材層を形成した後、研磨工程で上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を研磨して除去するだけで、発熱素子保護部の表面に基材層を残存させて熱活性成分付着防止層を形成できる。したがって、マスキングすることなく、発熱素子保護部の表面に熱活性成分付着防止層を簡単に形成できる。
また、研磨工程では、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を研磨して除去するので、発熱素子保護部の表面に残存した熱活性成分付着防止層の表面を、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面以下の高さに形成できる。したがって、熱活性成分付着防止層を薄く形成できるので、熱伝達効率の低下を抑制でき、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できるサーマルヘッドを形成できる。
【0027】
また、本発明のサーマルヘッドの製造方法は、前記基材層形成工程では、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法のうちいずれかの成膜方法により前記基材層が成膜されていることを特徴としている。
【0028】
本発明によれば、基材層を薄く成膜できるので、熱活性成分付着防止層をさらに薄く形成できる。したがって、熱伝達効率の低下を抑制できるサーマルヘッドを形成できる。また、研磨工程では基材の研磨量を少なくできるので、研磨工程の工数を減少できる。したがって、サーマルヘッドを低コストに形成できる。
【0029】
また、本発明のサーマルプリンタは、上述したサーマルヘッドを備えたことを特徴としている。
【0030】
本発明によれば、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上に熱活性成分が付着するのを防止できるサーマルヘッドを備えているので、熱伝達効率が良好で搬送不良のない高性能なサーマルプリンタが得られる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、発熱素子保護部の表面を覆って熱活性成分付着防止層が形成されているので、感熱性ラベルの感熱層は、発熱素子保護部と当接することなく熱活性成分付着防止層と当接できる。ここで、熱活性成分付着防止層は、熱活性成分の付着を防止する性質を有している。したがって、感熱性ラベルの感熱層で発生した熱活性成分は、熱活性成分付着防止層の表面に付着することなく、発熱素子の下流側に搬送されて発熱素子直上周辺から除去される。
また、発熱素子保護部の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面よりも低く形成されている。これにより、保護層全体を覆うように熱活性成分付着防止層の基材層を形成した後、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面に沿って基材層を除去することで、発熱素子保護部の表面のみに基材層が残存して、熱活性成分付着防止層が形成される。しかも、熱活性成分付着防止層の表面は、上流側保護部の表面および下流側保護部の表面以下の高さに形成される。これにより、熱活性成分付着防止層が薄く形成されるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子上における熱活性成分の付着を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】サーマルプリンタの模式図である。
【図2】粘着力発現用サーマルヘッドの平面図である。
【図3】粘着力発現用サーマルヘッドの斜視断面図である。
【図4】図2のA−A線に沿った側面断面図である。
【図5】実施形態の変形例における粘着力発現用サーマルヘッドの側面断面図である。
【図6】粘着力発現用サーマルヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図7】基材層形成工程の説明図である。
【図8】研磨工程の説明図である。
【図9】変形例の粘着力発現用サーマルヘッドにおける基材層形成工程の説明図である。
【図10】変形例の粘着力発現用サーマルヘッドにおける研磨工程の説明図である。
【図11】従来技術の粘着力発現用サーマルヘッドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(サーマルプリンタの概要)
以下に、本発明の実施形態に係るサーマルヘッドについて、図面を参照して説明する。
以下では、まずサーマルプリンタの概要を説明した後、本実施形態のサーマルヘッドについて説明する。
図1は、サーマルプリンタ1の模式図である。
図1に示すように、サーマルプリンタ1は、シートロールRから繰り出されて搬送される感熱性粘着ラベル5(感熱性ラベル)の一方面にバーコードや価格等の印字を行い、所望の長さに切断した後、感熱性粘着ラベル5の他方面に粘着力を発現させて発行するものである。
なお、図1において、搬送方向Sは、図1における右側から左側となっており、右側が搬送方向Sの上流側、左側が搬送方向Sの下流側となっている。また、シートロールRの内側面が感熱性粘着ラベル5の前記一方面(印字面)に相当しており、熱を与えると変色して印字される感熱発色層5aが形成されている。また、シートロールRの外側面が感熱性粘着ラベル5の前記他方面(粘着面)に相当しており、熱を与えると粘着力を発現する感熱性粘着剤層5b(感熱層)が形成されている。
【0034】
サーマルプリンタ1は、搬送される感熱性粘着ラベル5の一方面側(図1における上側)から感熱発色層5aを加熱して印字を行う印字ユニット2と、シートロールRから繰り出される感熱性粘着ラベル5を所望の長さに切断するカッターユニット3と、感熱性粘着ラベル5の他方面側(図1における下側)から感熱性粘着剤層5bを加熱して粘着力を発現させる粘着力発現ユニット4と、を備えている。本発明に係るサーマルヘッドは、後述の粘着力発現用サーマルヘッド10であり、粘着力発現ユニット4を構成している。
【0035】
印字ユニット2は、シートロールRの下流側に配置されており、第1プラテンローラ51および印字用サーマルヘッド8を備えている。印字用サーマルヘッド8は、不図示の発熱素子を複数有しており、感熱性粘着ラベル5の感熱発色層5aに面して配置されている。また、感熱性粘着ラベル5を挟んで印字用サーマルヘッド8の反対側には、第1プラテンローラ51が配置されている。
【0036】
印字用サーマルヘッド8は、第1プラテンローラ51側に向かって不図示のバネ等によって付勢されている。このため、感熱性粘着ラベル5は、印字用サーマルヘッド8と第1プラテンローラ51とにより挟まれた状態となっている。そして、不図示の電源から印字用サーマルヘッド8に給電することにより、複数の発熱素子が発熱し、感熱性粘着ラベル5の感熱発色層5aが加熱されて文字や図形等が印字される。また、不図示の駆動源で第1プラテンローラ51を回転させることにより、感熱発色層5aと印字用サーマルヘッド8とが当接した状態で感熱性粘着ラベル5が搬送される。
【0037】
カッターユニット3は、印字ユニット2の下流側に配置されており、感熱性粘着ラベル5を挟んで両側に可動刃55および固定刃57を有している。可動刃55は、固定刃57に対して接近離反可能となっており、印字された感熱性粘着ラベル5を所望の長さに切断している。
【0038】
粘着力発現ユニット4は、カッターユニット3の下流側に配置されており、第2プラテンローラ53(請求項の「プラテンローラ」に相当。)および粘着力発現用サーマルヘッド10(請求項の「サーマルヘッド」に相当。)を備えている。粘着力発現用サーマルヘッド10は、後述するように発熱素子14を複数有しており(図2参照)、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bに面して配置されている。また、感熱性粘着ラベル5を挟んで粘着力発現用サーマルヘッド10の反対側には、第2プラテンローラ53が配置されている。
【0039】
粘着力発現用サーマルヘッド10は、第2プラテンローラ53側に不図示のバネ等によって付勢されている。このため、感熱性粘着ラベル5は、粘着力発現用サーマルヘッド10と第2プラテンローラ53とにより挟まれた状態となっている。
そして、不図示の電源から粘着力発現用サーマルヘッド10に給電することにより、複数の発熱素子14が発熱し、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bが加熱されて粘着力が発現される。また、不図示の駆動源で第2プラテンローラ53を回転させることにより、感熱性粘着剤層5bと粘着力発現用サーマルヘッド10とが当接した状態で感熱性粘着ラベル5が搬送される。
【0040】
(サーマルヘッド)
次に、本実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10について説明する。
図2は、粘着力発現用サーマルヘッド10の平面図である。
図3は、粘着力発現用サーマルヘッド10の斜視断面図である。
なお、図2では、分かり易くするために、後述する保護層25および熱活性成分付着防止層20(いずれも図3参照)の図示を省略している。また、図2および図3において、感熱性粘着ラベル5の搬送方向Sは右側から左側となっており、右側が上流側、左側が下流側となっている。また、以下では、搬送される感熱性粘着ラベル5の幅方向をWと定義し、搬送方向Sおよび幅方向Wと直交する粘着力発現用サーマルヘッド10の厚さ方向をHと定義している。
【0041】
図2に示すように、粘着力発現用サーマルヘッド10は、基板12と、基板12の主面12a上に形成された複数の発熱素子14と、発熱素子14に接続される一対の電極16,17と、を備えている。また、図3に示すように、基板12の主面12a上には、発熱素子保護部28、上流側保護部27および下流側保護部26を有する保護層25と、保護層25のうち発熱素子保護部28を覆う熱活性成分付着防止層20と、が形成されている。
【0042】
図2に示すように、基板12は、感熱性粘着ラベル5(図1参照)の搬送方向Sに沿って短辺を有し、感熱性粘着ラベル5(図1参照)の幅方向Wに沿って長辺を有する平面視略長方形状に形成されている。基板12は、例えばセラミックス等により形成されており、絶縁性を有している。
【0043】
基板12の主面12a上には、複数の発熱素子14が形成されている。発熱素子14は、平面視略矩形状に形成されている。発熱素子14は、電流が供給されることで発熱する発熱抵抗体であり、例えば、タンタル(Ta)や酸化ケイ素(SiO2)等の発熱抵抗体材料により形成されている。発熱素子14は、基板12の主面12a上において、搬送方向Sの略中央に、幅方向Wに沿って略等間隔に並んで形成されている。
【0044】
また、基板12の主面12a上には、発熱素子14に接続される電極16,17が形成されている。電極16,17は、金(Au)や銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の導電率の高い金属により形成されている。
一方の電極16は、発熱素子14の下流側において、発熱素子14の下流側端部を覆うように形成され、発熱素子14と電気的に接続されている。また、他方の電極17は発熱素子14の上流側において、発熱素子14の上流側端部を覆うように形成され、発熱素子14と電気的に接続されている。また、電極16,17は、発熱素子14よりも肉厚が厚く形成されている。したがって、電極16,17の表面は、発熱素子14の表面よりも基板12の主面12aから離れて形成されており、発熱素子14の表面よりもH方向で高く形成されている。
そして、電極16,17は、不図示の電源に電気的に接続されている。そして、電源から電極16,17を介して発熱素子14に電流が供給されるようになっている。なお、電極16,17は、厚さが例えば1〜2μm程度に形成される。
【0045】
(保護層)
図3に示すように、基板12の主面12a上には、保護層25が形成されている。保護層25は、発熱素子14を覆う発熱素子保護部28と、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの上流側を覆う上流側保護部27と、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの下流側を覆う下流側保護部26と、を有している。
保護層25は、例えばSi−O−NやSi−Al−O−N等の硬質金属酸化物等により形成されている。保護層25は、発熱素子14および電極16,17の表面が酸化するのを防止している。また、保護層25は、感熱性粘着ラベル5(図1参照)の搬送時に、発熱素子14および電極16,17が感熱性粘着ラベル5と当接して摩耗するのを防止している。
【0046】
図4は、図2のA−A線に沿った側面断面図である。なお、図4では、説明をわかりやすくするために、感熱性粘着ラベル5および第2プラテンローラ53を二点鎖線で図示している。
図4に示すように、発熱素子保護部28は、発熱素子14に重ねて形成されており、発熱素子14の表面を覆っている。また、上流側保護部27は、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの上流側において、上流側の電極17に重ねて形成されており、上流側の電極17の表面を覆っている。また、下流側保護部26は、発熱素子保護部28よりも搬送方向Sの下流側において、下流側の電極16に重ねて形成されており、下流側の電極16の表面を覆っている。そして、発熱素子保護部28、上流側保護部27および下流側保護部26により、保護層25を形成している。
【0047】
発熱素子保護部28、上流側保護部27および下流側保護部26は、後述するように、スパッタリング法やCVD法、蒸着法等の成膜方法により略均一の厚さに形成されている。ここで、前述のとおり、電極16,17は発熱素子14よりも厚く形成されている。このため、発熱素子14の表面は、H方向において電極16,17の表面よりも低くなっている。したがって、電極16,17および発熱素子14上に保護層25を略均一の厚さに形成することにより、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも基板12の主面12aの近くに形成されており、H方向において低く形成される。
なお、発熱素子保護部28の表面28aと、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aとの高さの差は、熱伝達効率を考慮して、例えば2μm以下であることが望ましい。
【0048】
(熱活性成分付着防止層)
熱活性成分付着防止層20は、発熱素子保護部28の表面を覆って形成されている。熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成されている。本実施形態では、熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一となるように形成されている。
詳細は後述するが、熱活性成分付着防止層20は、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去することで形成される。これにより、発熱素子保護部28の表面28aにのみ熱活性成分付着防止層20の基材を残存させることができるので、マスキング等を行うことなく発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成できる。
【0049】
熱活性成分付着防止層20は、感熱性粘着ラベル5が発熱素子14と第2プラテンローラ53との間に挟まれた状態で搬送される際に、感熱性粘着剤層5bと当接する。
熱活性成分付着防止層20は、表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた材料、例えば、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂により形成されている。したがって、熱活性成分付着防止層20は、感熱性粘着剤層5bで発生した熱活性成分Dの付着を防止する性質を有している。
熱活性成分付着防止層20の硬度は、感熱性粘着ラベル5の種類等にもよるが、例えば鉛筆硬度で2B〜5Bの範囲とすることが望ましい。熱活性成分付着防止層20の硬度は、例えば材料への添加剤の種類や添加量で調節することが可能である。
【0050】
また、熱活性成分付着防止層20を形成する樹脂材料と、保護層25の表面との密着性が悪い場合には、保護層25の表面に例えばシランカップリング剤を介して熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。シランカップリング剤により、熱活性成分付着防止層20と保護層25との密着性を高めることができる。また、シランカップリング剤により自己組織化単分子膜が形成されるので、熱活性成分付着防止層20を薄く成膜できる。したがって、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる。
【0051】
(効果)
本実施形態によれば、発熱素子保護部28の表面28aを覆って熱活性成分付着防止層20が形成されているので、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bは、発熱素子保護部28と当接することなく熱活性成分付着防止層20と当接できる。ここで、熱活性成分付着防止層20は、熱活性成分Dの付着を防止する性質を有している。したがって、感熱性粘着ラベル5の感熱性粘着剤層5bで発生した熱活性成分Dは、熱活性成分付着防止層20の表面20aに付着することなく、発熱素子14の下流側に搬送されて発熱素子14直上周辺から除去される。
また、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成されている。これにより、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を除去することで、発熱素子保護部28の表面28aのみに基材層30が残存して、熱活性成分付着防止層20が形成される。このように熱活性成分付着防止層20の領域を最も必要な領域のみとすることにより、感熱性粘着ラベル5との摩擦による静電気の発生を抑制でき、発熱素子14等の静電破壊を防止できる。しかも、発熱素子保護部28の表面28aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成される。これにより、熱活性成分付着防止層20が薄く形成されるので、熱伝達効率の低下を抑制しつつ、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる。
【0052】
(実施形態の変形例の粘着力発現用サーマルヘッド)
図5は、実施形態の変形例における粘着力発現用サーマルヘッド10の側面断面図である。なお、図5では、説明をわかりやすくするために、図4と同様に、感熱性粘着ラベル5および第2プラテンローラ53を二点鎖線で図示している。
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10は、図4に示すように、熱活性成分付着防止層20の表面20aが、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一となるように形成されていた。
これに対して、変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10は、図5に示すように、熱活性成分付着防止層20の表面20aが、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりもH方向において低く形成されている点で、実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10とは異なっている。なお、実施形態と同様の構成の部分については、詳細な説明を省略する。
【0053】
図5に示すように、変形例の熱活性成分付着防止層20は、発熱素子保護部28の表面28aを覆って形成されている。熱活性成分付着防止層20のH方向における厚さh2は、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも薄くなるように形成されている。これにより、熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも基板12の主面12aの近くに形成されており、H方向において低く形成されている。
【0054】
(変形例の効果)
実施形態の変形例によれば、熱活性成分付着防止層20はさらに薄く形成されているので、熱伝達効率の低下をさらに抑制しつつ、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる。
なお、実施例の熱活性成分付着防止層20の表面20aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一となるように平坦に形成されていた。これに対して、実施形態の変形例では、熱活性成分付着防止層20の表面20aが、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりもH方向において低く形成されている。したがって、実施形態の変形例は、実施形態と比較して、感熱性粘着ラベル5搬送時における感熱性粘着ラベル5と熱活性成分付着防止層20の表面20aとの接触面積は小さくなる。したがって、熱活性成分付着防止層20と感熱性粘着ラベル5との摩擦による静電気の発生をさらに抑制でき、発熱素子14等の静電破壊を防止できる。
【0055】
(サーマルヘッドの製造方法)
続いて、上述した実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法について説明する。
図6は、粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法のフローチャートである。
図6に示すように、本実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法は、発熱素子形成工程S10と、電極形成工程S20と、保護層形成工程S30と、熱活性成分付着防止層形成工程S40とを備えている。
【0056】
(発熱素子形成工程)
発熱素子形成工程S10では、基板12の主面12a上に、複数の発熱素子14を形成する(図2参照)。具体的には、基板12の主面12a上に、Ta−SiO2等の発熱抵抗体材料を、例えばスパッタリング法やCVD法、蒸着法等により成膜する。その後、フォトリソグラフィ技術により、所定の外形形状にパターニングして、複数の発熱素子14を形成する。本実施形態では、図2に示すように、発熱素子14の外形が平面視略矩形状になるようにパターニングしている。
【0057】
(電極形成工程)
電極形成工程S20では、基板12の主面12a上に、電極16,17(下流側の電極16および上流側の電極17)を形成する(図2参照)。具体的には、基板12の主面12a上に、AuやCu、Al等の導電率の高い金属を、例えばスクリーン印刷等により形成する。
本実施形態では、図2に示すように、発熱素子14の下流側端部を覆うように下流側の電極16を形成し、発熱素子14の上流側端部を覆うように上流側の電極17を形成している。このとき、図3に示すように、発熱素子14よりも肉厚が厚くなるように下流側の電極16および上流側の電極17を形成している。これにより、電極形成工程S20では、下流側の電極16の表面および上流側の電極17の表面は、発熱素子14の表面よりも基板12の主面12aから離れて形成されており、発熱素子14の表面よりもH方向で高くなるように形成される。
なお、電極16,17の形成はスクリーン印刷に限られることはなく、例えばスパッタリング法やCVD法、蒸着法等により成膜した後、フォトリソグラフィ技術により、所定の外形形状にパターニングして電極16,17を形成してもよい。
【0058】
(保護層形成工程)
保護層形成工程S30では、基板12の主面12a上に、発熱素子14を覆う発熱素子保護部28と、下流側の電極16を覆う下流側保護部26と、上流側の電極17を覆う上流側保護部27と、を有する保護層25を形成する(図3参照)。具体的には、基板12の主面12a上の発熱素子14、下流側の電極16および上流側の電極17に重ねて、Si−O−NやSi−Al−O−N等の硬質金属酸化物を、例えばスパッタリング法やCVD法、蒸着法等により成膜して保護層25を形成する。
【0059】
保護層形成工程S30では、発熱素子14および電極16,17上に、略均一の厚さとなるように保護層25を形成している。このように保護層25を形成することで、下流側保護部26の表面26a、発熱素子保護部28の表面28aおよび上流側保護部27の表面27aは、それぞれ下流側の電極16の表面、発熱素子14の表面および上流側の電極17の表面に沿うように形成される。
ここで、前述の電極形成工程S20では、発熱素子14よりも肉厚が厚くなるように、下流側の電極16および上流側の電極17を形成している。これにより、発熱素子14の表面は、下流側の電極16の表面および上流側の電極17の表面よりも、H方向において低くなっている。したがって、保護層形成工程S30では、略均一の厚さに保護層25を形成するだけで、発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成できる。
【0060】
(熱活性成分付着防止層形成工程)
熱活性成分付着防止層形成工程S40では、保護層25のうち発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成する。
図6に示すように、熱活性成分付着防止層形成工程S40は、基材層形成工程S40Aと、研磨工程S40Bとを備えている。以下に、各工程について説明する。
【0061】
(基材層形成工程)
図7は、基材層形成工程S40Aの説明図である。
図7に示すように、基材層形成工程S40Aでは、後に熱活性成分付着防止層20を形成する基材からなる基材層30を、保護層25に重ねて形成する。基材には、前述のとおり、例えばシリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた材料が採用される。
【0062】
基材層形成工程S40Aでは、熱活性成分付着防止層20の基材を保護層25の全面に塗布して、基材層30を形成する。
基材層30の形成は、例えばスクリーン印刷により行われる。本実施形態では、発熱素子保護部28上の基材層30の厚さh3が、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも厚くなるように形成されている。また、基材層30の表面30aは、平坦に形成される。
なお、基材層30の乾燥は、常温または高温で行われる。また、基材層30の形成は、スクリーン印刷に限られず、例えばディップや噴き付け、ハケ塗り等により行われてもよい。また、シランカップリング剤を用いて基材層30を形成する場合には、水酸基を形成するための処理が必要な場合もある。
【0063】
(研磨工程)
図8は、研磨工程S40Bの説明図である。
図8に示すように、研磨工程S40Bでは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30(図7参照)を研磨し、上流側保護部27および下流側保護部26を覆う基材層30を除去する。
具体的には、所定の面粗度の研磨面71aを備えたラッピングペーパー71と、平坦面を備えた不図示のラッピング盤とを用意する。そして、研磨面71aが基材層30の表面30a(図7参照)に面した状態で、ラッピング盤の平坦面にラッピングペーパー71を配置する。続いて、ラッピング盤を基板12側に押圧しながら、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って移動させることにより、ラッピングペーパー71の研磨面71aで基材層30の表面30aを研磨する。
これにより、上流側保護部27および下流側保護部26を覆う基材層30が除去されて、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aが露出される。また、これと同時に、発熱素子保護部28の表面28aに基材層30が残存し、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aと略面一の表面20aを有する熱活性成分付着防止層20が形成される。
【0064】
なお、シランカップリング剤により熱活性成分付着防止層20を形成した場合には、たとえば数nm〜数μm程度の薄膜に形成できる。この場合には、研磨工程S40Bで積極的に研磨しなくても、例えば予備的に感熱性粘着ラベル5を搬送させることにより基材層30を研磨して、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。
【0065】
上述の研磨工程S40Bが終了した時点で、粘着力発現用サーマルヘッド10の製造工程が終了し、図3に示す粘着力発現用サーマルヘッド10が得られる。
【0066】
(効果)
本実施形態によれば、電極形成工程S20では、発熱素子14よりも厚く一対の電極16,17を形成するので、発熱素子14の表面は、電極16,17の表面よりも低くなる。これにより、保護層形成工程S30では、発熱素子14および電極16,17を覆って略均一の厚さの保護層25を形成するだけで、発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成できる。したがって、保護層形成工程S30では、加工等することなく、簡単に発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成できる。
また、従来技術では、熱伝達効率を考慮して、発熱素子14の直上域に熱活性成分付着防止層20を形成していなかった。このため、熱活性成分付着防止層20の基材層を形成する際、発熱素子14に対応した位置をマスキングする必要があった。ここで、マスクは、例えばフォトリソグラフィ技術により形成されるため、工程が非常に煩雑であった。しかし、本実施形態によれば、保護層形成工程S30において、発熱素子保護部28の表面28aを上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低く形成している。これにより、基材層形成工程S40Aで保護層25に重ねて基材層30を形成した後、研磨工程S40Bで上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去するだけで、発熱素子保護部28の表面28aに基材層30を残存させて熱活性成分付着防止層20を形成できる。したがって、マスキングすることなく、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を簡単に形成できる。
また、研磨工程S40Bでは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去するので、発熱素子保護部28の表面28aに残存した熱活性成分付着防止層20の表面20aを、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26a以下の高さに形成できる。したがって、熱活性成分付着防止層20を薄く形成できるので、熱伝達効率の低下を抑制でき、発熱素子14上における熱活性成分Dの付着を防止できる粘着力発現用サーマルヘッド10を形成できる。
【0067】
(変形例の粘着力発現用サーマルヘッドの製造方法)
図9は、変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造工程のうち、基材層形成工程S40Aの説明図であり、図10は、研磨工程S40Bの説明図である。
続いて、図5に示す変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法について説明をする。
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、図7に示すように、発熱素子保護部28の表面28aを覆う基材層30の厚さh3が、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも厚くなるように形成されていた。
これに対して、変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、図9に示すように、基材層30の厚さh2が、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aから発熱素子保護部28の表面28aまでの距離h1よりも薄くなるように形成されている点で、実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法とは異なっている。なお、実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法と同様の構成の部分については、詳細な説明を省略する。
【0068】
(基材層形成工程)
変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、基材層30の形成は、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法等の成膜方法により行われる。基材層30の厚さがh2となるように薄く成膜することで、発熱素子保護部28の表面28aを覆う基材層30の表面30aは、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも、H方向において低く形成される。
【0069】
(研磨工程)
図10は、研磨工程S40Bの説明図である。
図10に示すように、研磨工程S40Bでは、上流側保護部27および下流側保護部26を覆う基材層30を除去して、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aを露出させる。また、これと同時に、発熱素子保護部28の表面28aに基材層30が残存し、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aよりも低い表面20aを有する熱活性成分付着防止層20が形成される。
【0070】
(効果)
変形例の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法によれば、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法等の成膜方法により、基材層30を保護層25に重ねて薄く成膜できるので、熱活性成分付着防止層20を薄く形成できる。したがって、熱伝達効率の低下を抑制できる粘着力発現用サーマルヘッド10を形成できる。また、研磨工程S40Bでは、基材の研磨量を少なくできるので、研磨工程S40Bの工数を減少できる。したがって、粘着力発現用サーマルヘッド10を低コストに形成できる。
【0071】
なお、この発明の技術範囲は上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0072】
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10は、感熱性粘着剤層5bを加熱して粘着力を発現させる粘着力発現ユニット4に適用されていたが、感熱発色層5aを加熱して印字する印字ユニット2の印字用サーマルヘッド8として適用してもよい。この場合においても、感熱性粘着ラベル5の感熱発色層5a中の発色層熱活性成分Dが熱活性成分付着防止層20に付着するのを防止できる。なお、粘着性を有する熱活性成分Dであっても発熱素子14の下流側に搬送し除去できる点や、粘着力発現用サーマルヘッド10のクリーニング頻度が減少する点で、本発明は、特に感熱性粘着剤層5bを備えた感熱性粘着ラベル5に好適である。
また、感熱性粘着剤層5bの代わりに感圧性粘着剤層表面に粘着防止層としてPETやPP、PEなどの薄膜状フィルムを貼り合せた構造においても、薄膜状フィルムである粘着防止層を粘着力発現用サーマルヘッド10で加熱して粘着防止層に穴を空け、感圧性粘着剤を露出させるときに熱活性成分付着防止層20に粘着成分が付着するのを防止することができる。
【0073】
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去することにより、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成していた。
しかし、例えば、マスキングテープやフォトリソグラフィ技術により、発熱素子保護部28の表面28a以外の領域をマスキングした後、ディップや噴き付け、ハケ塗り、無電解メッキ等により基材を塗布して、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。ただし、マスキング等を行うことなく発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成できる点で、本実施形態に優位性がある。
また、熱活性成分付着防止層20の形成は、材料によってはイオンプレーティングにより行ってもよい。
【0074】
実施形態の粘着力発現用サーマルヘッド10の製造方法では、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、上流側保護部27の表面27aおよび下流側保護部26の表面26aに沿って基材層30を研磨して除去することにより、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成していた。
しかし、例えば、保護層25全体を覆うように熱活性成分付着防止層20の基材層30(図7参照)を形成した後、予備的に感熱性粘着ラベル5を搬送させることにより基材層30を研磨して、発熱素子保護部28の表面28aに熱活性成分付着防止層20を形成してもよい。
【0075】
熱活性成分付着防止層20の構成材料は実施形態に限られることはなく、表面エネルギーが低く、撥水性および撥油性に優れた材料を広く採用できる。したがって、熱活性成分付着防止層20の構成材料は、例えば、SiAlON(サイアロン)やSiO2、SiC、Si−N、TiC、Ti−C、TiO2、C(ダイヤモンドを含む)、Zr(ジルコニウム)、ZrN等の粉末を微量添加した有機材料を用いてもよい。
また、熱活性成分付着防止層20は、フッ素系樹脂に、シリコン、シリコン系合金、チタン、チタン系合金、タンタルまたはタンタル系合金の酸化物、窒化物もしくは酸窒化物の粉末を添加した材料で形成してもよい。これにより、表面エネルギーの低く、撥水性および撥油性に優れた特性を維持しつつ、耐摩耗性に優れた熱活性成分付着防止層20が形成される。
さらに、熱活性成分付着防止層20は、フッ素系樹脂に、金属または炭素を添加した材料で形成してもよい。これにより、表面エネルギーの低く、撥水性および撥油性に優れた特性を維持しつつ、熱活性成分付着防止層20に導電性を持たせることができる。そして、感熱性粘着ラベル5の搬送時に、感熱性粘着剤層5bと熱活性成分付着防止層20とが当接して静電気が発生しても、熱活性成分付着防止層20から静電気が逐次放電される。したがって、発熱素子14等の電子素子の静電破壊を防止できる。
【符号の説明】
【0076】
1・・・サーマルプリンタ 5・・・感熱性粘着ラベル(感熱性ラベル) 5b・・・感熱性粘着剤層(感熱層) 10・・・粘着力発現用サーマルヘッド(サーマルヘッド) 12・・・基板 12a・・・主面 14・・・発熱素子 16・・・電極 17・・・電極 20・・・熱活性成分付着防止層 20a・・・熱活性成分付着防止層の表面 25・・・保護層 26・・・下流側保護部 26a・・・下流側保護部の表面 27・・・上流側保護部 27a・・・上流側保護部の表面 28・・・発熱素子保護部 28a・・・発熱素子保護部の表面 30・・・基材層 S・・・搬送方向 S20・・・電極形成工程 S30・・・保護層形成工程 S40・・・熱活性成分付着防止層形成工程 S40A・・・基材層形成工程 S40B・・・研磨工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドであって、
前記基板の前記主面上には、前記基板および前記発熱素子を覆う保護層を備え、
前記保護層は、
前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、
前記発熱素子保護部よりも前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側を覆う上流側保護部 と、
前記発熱素子保護部よりも前記搬送方向の下流側を覆う下流側保護部と、
を有し、
前記発熱素子保護部の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されるとともに、熱活性成分付着防止層により覆われており、
前記熱活性成分付着防止層の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面以下の高さに形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサーマルヘッドであって、
前記基板の前記主面上には、前記発熱素子を挟んで前記上流側および前記下流側に前記発熱素子よりも厚い電極が一対形成され、
前記上流側保護部は前記上流側の前記電極を覆って形成され、前記下流側保護部は前記下流側の前記電極を覆って形成されることで、前記熱活性成分付着防止層の表面が前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層は、フッ素系樹脂を主成分とすることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層は、シリコーン系樹脂を主成分とすることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層は、シランカップリング剤を介して前記発熱素子保護部の表面に形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記感熱性ラベルは感熱性粘着ラベルであり、前記感熱層は加熱により粘着力を発現する感熱性粘着剤層であることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項8】
基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドの製造方法であって、
前記基板の前記主面上における前記発熱素子を挟んで前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側および下流側に、前記発熱素子よりも厚い一対の電極を形成する電極形成工程と、
前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、前記上流側の前記電極を覆う上流側保護部と、前記下流側の前記電極を覆う下流側保護部と、を有する保護層を形成する保護層形成工程と、
前記発熱素子保護部の表面に、熱活性成分付着防止層を形成する熱活性成分付着防止層形成工程と、
を備え、
前記熱活性成分付着防止層形成工程は、
前記保護層に重ねて前記熱活性成分付着防止層の基材層を形成する基材層形成工程と 、
前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面に沿って前記基材層を研磨し 、前記上流側保護部および前記下流側保護部を覆う前記基材層を除去する研磨工程と、 を有することを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のサーマルヘッドの製造方法であって、
前記基材層形成工程では、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法のうちいずれかの成膜方法により前記基材層が成膜されていることを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のサーマルヘッドを備えたことを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項1】
基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドであって、
前記基板の前記主面上には、前記基板および前記発熱素子を覆う保護層を備え、
前記保護層は、
前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、
前記発熱素子保護部よりも前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側を覆う上流側保護部 と、
前記発熱素子保護部よりも前記搬送方向の下流側を覆う下流側保護部と、
を有し、
前記発熱素子保護部の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されるとともに、熱活性成分付着防止層により覆われており、
前記熱活性成分付着防止層の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面以下の高さに形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層の表面は、前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサーマルヘッドであって、
前記基板の前記主面上には、前記発熱素子を挟んで前記上流側および前記下流側に前記発熱素子よりも厚い電極が一対形成され、
前記上流側保護部は前記上流側の前記電極を覆って形成され、前記下流側保護部は前記下流側の前記電極を覆って形成されることで、前記熱活性成分付着防止層の表面が前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面よりも低く形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層は、フッ素系樹脂を主成分とすることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層は、シリコーン系樹脂を主成分とすることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記熱活性成分付着防止層は、シランカップリング剤を介して前記発熱素子保護部の表面に形成されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のサーマルヘッドであって、
前記感熱性ラベルは感熱性粘着ラベルであり、前記感熱層は加熱により粘着力を発現する感熱性粘着剤層であることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項8】
基板の主面上に発熱素子を備え、搬送される感熱性ラベルの感熱層に面し、前記感熱層を加熱するサーマルヘッドの製造方法であって、
前記基板の前記主面上における前記発熱素子を挟んで前記感熱性ラベルの搬送方向の上流側および下流側に、前記発熱素子よりも厚い一対の電極を形成する電極形成工程と、
前記発熱素子を覆う発熱素子保護部と、前記上流側の前記電極を覆う上流側保護部と、前記下流側の前記電極を覆う下流側保護部と、を有する保護層を形成する保護層形成工程と、
前記発熱素子保護部の表面に、熱活性成分付着防止層を形成する熱活性成分付着防止層形成工程と、
を備え、
前記熱活性成分付着防止層形成工程は、
前記保護層に重ねて前記熱活性成分付着防止層の基材層を形成する基材層形成工程と 、
前記上流側保護部の表面および前記下流側保護部の表面に沿って前記基材層を研磨し 、前記上流側保護部および前記下流側保護部を覆う前記基材層を除去する研磨工程と、 を有することを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のサーマルヘッドの製造方法であって、
前記基材層形成工程では、蒸着法、スパッタリング法およびCVD法のうちいずれかの成膜方法により前記基材層が成膜されていることを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のサーマルヘッドを備えたことを特徴とするサーマルプリンタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−43334(P2013−43334A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181938(P2011−181938)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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