説明

サーマルヘッドおよびサーマルプリンター

【課題】長期使用時に性能低下しにくいサーマルヘッドを提供する。
【解決手段】基体110xと、基体110xの一主面に設けられシリコン酸化物またはシリコン窒化物を形成材料として含む平坦化層110yと、を有するヘッド基板110と、ヘッド基板110の一主面側に設けられた複数の発熱素子145と、を備え、発熱素子145は、発熱体140と、発熱体140に接続された個別電極118およびコモン電極114aと、を有し、コモン電極114aは、複数の発熱素子145の周囲に配置されたコモン配線パターン114に接続され、コモン配線114は、少なくとも発熱素子145の配列軸と交差する領域が、ヘッド基板110の端部まで延在して設けられ、且つ平坦化層110y上に少なくとも一部が設けられた第1配線層150と、第1配線層150の上において平坦化層110yに接しないように設けられ、銀を形成材料とする第2配線層160と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドおよびサーマルプリンターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷装置の1つとしてサーマルプリンターが知られている。サーマルプリンターは、発熱素子が直線的に配置されたサーマルヘッドを有している(例えば、特許文献1、2参照)。サーマルヘッドに配置された発熱素子は、通電により選択的に発熱する。そして、この熱エネルギーが感熱紙に含まれる発色剤と選択的に反応することにより、感熱紙上に種々の情報を印刷する。この印刷方式は、感熱発色方式と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−224901号公報
【特許文献2】特開平8−34132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献に示されたようなサーマルヘッドを有するサーマルプリンターでは、印刷時に、サーマルヘッドと、サーマルヘッドに対向配置されたプラテンと呼ばれる円筒状の部材と、の間に感熱紙などの印刷媒体を挟持し、プラテンを軸周りに回転させることで印刷媒体の搬送を行いながら印刷を行う。そのため、サーマルヘッドにおいて印刷媒体と接触する領域では、常に印刷媒体との間の摩擦が生じ、摩耗して劣化する。
【0005】
従来の構成では、このような劣化が進行すると、サーマルヘッドに設けられた配線が摩耗し、電流容量が低下することで発熱素子に対し必要とする電力が供給できなくなったり、断線して通電しなくなったりするおそれがあった。そのため、サーマルプリンターでは、長期に亘って使用したときに印刷の信頼性が担保しにくく、部品の長寿命化が求められていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、長期に亘って使用しても性能が低下しにくいサーマルヘッドを提供することを目的とする。また、このようなサーマルヘッドを有しすることにより、信頼性が高いサーマルプリンターを提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のサーマルヘッドは、基体と、前記基体の一主面に設けられシリコン酸化物またはシリコン窒化物を形成材料として含む平坦化層と、を有する基板と、前記基板の前記一主面側において、予め設定された配列軸に沿って設けられた複数の発熱素子と、を備え、前記発熱素子は、発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に接続された個別電極およびコモン電極と、を有し、前記コモン電極は、前記複数の発熱素子の周囲に配置されたコモン配線に接続され、前記コモン配線は、少なくとも前記配列軸と交差する領域が、前記基板の端部まで延在して設けられているとともに、前記平坦化層上に少なくとも一部が設けられた第1配線層と、前記第1配線層の上において前記平坦化層に接しないように設けられ、銀を形成材料とする第2配線層と、を有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、基板の端部にまでコモン配線が延在しているため、印刷媒体との摩擦によりコモン配線の厚さ(基板の法線方向に高さ)が小さくなるとしても、導通を確保しやすくなり、コモン配線の電流容量の低下を抑制することができる。
【0009】
加えてコモン配線が2層構造となり、第2配線層が第1配線層により平坦化層と離間しているため、コモン配線の電流容量を効果的に高めるとともに、銀とシリコン化合物とが接触することにより生じる第2配線層の劣化を抑制することができる。
【0010】
これらのことから、長期に亘って使用しても性能が低下しにくいサーマルヘッドを提供することができる。
【0011】
本発明においては、前記第1配線層は金を形成材料とすることが望ましい。
この構成によれば、電流容量を効果的に高めるとともに、第2配線層の劣化を抑制したコモン配線とすることができる。
【0012】
また、本発明のサーマルプリンターは、上述のサーマルヘッドと、前記サーマルヘッドに対向して設けられ、前記サーマルヘッドとの間に感熱性の印刷媒体を挟持するとともに該印刷媒体を搬送するプラテンと、を有することを特徴とする。
この構成によれば、上述のサーマルヘッドを備えているため、信頼性が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のサーマルプリンターを示す説明図である。
【図2】プリンター機構部が有する印刷部の拡大図である。
【図3】サーマルヘッドの外観斜視図である。
【図4】サーマルヘッドのヘッド基板の平面図である。
【図5】サーマルヘッドの矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜5を参照しながら、本実施形態のサーマルヘッド、および該サーマルヘッドを備えたサーマルプリンターについて説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0015】
図1は、本実施形態のサーマルプリンター100を示す説明図であり、サーマルプリンター100の主要部であるプリンター機構部300の側断面を示す側断面図である。図2は、プリンター機構部300が有する印刷部70の拡大図である。
【0016】
図1に示すように、プリンター機構部300は、ロール紙Rを収容する本体フレーム60、カバーフレーム10、ロール紙ホルダー30と、本発明のサーマルヘッド1が設けられ、ロール紙ホルダー30から引き出された感熱紙Sに印刷する印刷部70と、印刷部70の紙送り方向後方に設けられ、印刷された感熱紙Sを所定の印刷単位毎に切断する紙カット部20と、を備えている。
【0017】
感熱紙Sは、発色剤がバインダ等により保持されている発色層からなる印刷面を有している。サーマルプリンター100では、感熱紙Sが印刷面を外面にしてロール状に巻き取られたロール紙Rとして内部に収納されるとともに、順次引き出されながら印刷部70(サーマルヘッド1)へ送られ印刷される。
以下、感熱紙Sの紙送り方向に沿って、プリンター機構部300の各構成について説明する。
【0018】
本体フレーム60は、上方に開口部を有する箱型に形成されており、本体フレーム60上方には、本体フレーム60の開口部を覆うようにカバーフレーム10が設けられている。また、本体フレーム60の内部には、ロール紙ホルダー30が設けられている。
【0019】
カバーフレーム10は、本体フレーム60の上方の一端部に設けられた支軸68を中心として開閉自在に取り付けられている。カバーフレーム10には、カバーフレーム10を閉じた際にロール紙Rとの接触を避けるための円弧状の蓋部15が設けられている。この蓋部15は、サーマルプリンター100の設置角度を変える場合、すなわち、例えば縦置きにする場合、ロール紙Rを受ける保持部材としても機能する。
【0020】
ロール紙ホルダー30は、樹脂等により形成されている。ロール紙ホルダー30は、中央部にロール紙Rの最大径に相当する略円弧状のくぼみを有しており、本体フレーム60の底部に、略円弧状のくぼみが下に凸となるように取り付けられている。
【0021】
このように設けられたロール紙ホルダー30にロール紙Rを配置すると、ロール紙ホルダー30がロール紙Rを回転自在に保持する。同時に、本体フレーム60の内側の両側面が、ロール紙Rの側面ガイド部として機能して、ロール紙Rの幅方向の動きを規制する。
【0022】
図2に示すように、印刷部70は、サーマルヘッド1と、サーマルヘッド1に対向して設けられサーマルヘッド1に感熱紙Sを密着させるプラテン71と、サーマルヘッド1を保持するとともに、サーマルヘッド1をプラテン71方向へ付勢するヘッド保持機構77と、を備えている。
【0023】
サーマルヘッド1は、感熱紙Sに印刷するための複数の発熱素子が設けられたヘッド基板(基板)110と、ヘッド基板110と密着して設けられヘッド基板110に溜まる熱を放熱する放熱板106と、放熱板106の側面に設けられたヘッド支持軸102と、ヘッド基板110に接続され信号を入力するFPC108と、を有している。サーマルヘッド1の詳細については後述する。
【0024】
プラテン71は、ゴム等の弾性部材により円筒形のローラ状に形成され、プラテン軸受73を介してカバーフレーム10に回転可能に支持されている。また、本体フレーム60の側面には、プラテン71を回転駆動させるための紙送り機構(不図示)が設けられており、カバーフレーム10を閉じた状態で、プラテン軸受け73と接続され、プラテン71を回転駆動させる。これにより、プラテン71が回転すると、感熱紙Sは搬送経路Dの下流へ搬送される。
【0025】
ヘッド保持機構77は、ヘッド押圧板72と、一端がヘッド押圧板72に固定されるとともに他端がサーマルヘッド1の背面に当接したバネ75と、を有しており、本体フレーム60に形成された切り欠き部62に着脱可能に設けられている。
【0026】
ヘッド押圧板72に固定されるバネ75は、サーマルヘッド1の背面に当接し、サーマルヘッド1をプラテン71方向に付勢する。これにより、サーマルヘッド1は、感熱紙Sを印刷面S1の側からプラテン71の方向に押圧する。一方、プラテン71は、感熱紙Sを裏面S2の側からサーマルヘッド1の方向に押圧する。これにより、感熱紙Sはサーマルヘッド1およびプラテン71の間に挟持される。感熱紙Sは、サーマルヘッド1により印刷され、印刷後の感熱紙Sは、プラテン71が回転することにより、搬送経路Dの下流に搬送される。
【0027】
図1に戻って、紙カット部20は、可動刃21と、この可動刃21と対向して設けられた固定刃24と、固定刃24を覆う固定刃カバー25と、を有しており、印刷後の感熱紙Sが通過する紙出口Gに設けられている。紙カット部20では、可動刃21と固定刃24とがハサミ状に交叉することにより、感熱紙Sを切断する。
本実施形態のサーマルプリンター100は、以上のような概略構成を有している。
【0028】
(サーマルヘッド)
次いで、サーマルヘッド1について、図3〜図5を参照して説明する。図3は、サーマルヘッドの外観斜視図である。図4は、サーマルヘッドのヘッド基板の平面図であり、図4(a)はヘッド基板全体図、図4(b)は図4(a)の部分拡大図である。図5は、図4(b)の線分A−Aにおける矢視断面図である。
【0029】
図3に示すように、サーマルヘッド1は、ヘッド基板110と放熱板106とヘッド支持軸102とドライバーIC120とFPC108とを有している。
【0030】
ヘッド基板110は、平面視で長矩形形状を呈している。ヘッド基板110の一主面には、短手方向の一端側に、複数の発熱素子145が形成されており、該複数の発熱素子145は、ヘッド基板110の長手方向に配列して発熱素子列145aを形成している。また、発熱素子列145aと平行して、発熱素子145を駆動する複数のドライバーIC120が配設されている。
【0031】
放熱板106は、アルミニウム等の金属材料を引抜き加工することで形成され、放熱板106の係止面106aにヘッド基板110が固定されている。ヘッド基板110の固定方法としては、例えば、両面テープを用いた貼着のような方法を採用することができる。
【0032】
放熱板106において、ヘッド基板110の発熱素子列145aが設けられた側の端部には、放熱板106の長手方向にわたって案内斜面部104が形成されている。この案内斜面部104は、図1に示すカバーフレーム10を閉じる際に、プラテン71を滑動させて所定の位置まで案内する。この際、案内斜面部104の傾斜は、プラテン71がヘッド基板110と衝突しないような所定の角度を有している。また、案内斜面部104のヘッド基板110側の端部は、係止面106aの法線方向の高さが、係止面106aに付設されたヘッド基板110の高さと略同じになるように設定されている。
【0033】
ヘッド支持軸102は、円柱状の丸ピンであり、放熱板106の左右の側面部に設けられた穴部に圧入されている。
【0034】
(ヘッド基板)
図4(a)に示すように、ヘッド基板110には、図3における案内斜面部104側の縁(一側縁110a)に沿って長手方向に、帯状の発熱体(発熱抵抗体)140が設けられている。
【0035】
また、ヘッド基板110の他側縁110bには、外部との電気的接続に供せられる複数の外部接続端子112が設けられている。さらに、ヘッド基板110の周縁部には、帯状のコモン配線パターン(コモン配線)114が額縁状に形成されており、このコモン配線パターン114の両端部は、他側縁110bにおいて外部接続端子112に接続されている。また、コモン配線パターン114は、発熱体140の端部と重なって設けられている。
【0036】
そして、ヘッド基板110の略中央には、ドライバーIC120を実装するIC実装部120aが、ドライバーIC120ごとに、帯状の発熱体140と並列して配置されている。
【0037】
図4(b)に示すように、コモン配線パターン114からは、ヘッド基板110の面中央方向に延びる櫛歯状のコモン電極114aが複数形成されている。コモン電極114aは、帯状の発熱体140と交差して設けられている。
【0038】
また、ヘッド基板110の中央部には、複数の個別電極118が設けられている。各個別電極118は、一端部が、櫛歯状のコモン電極114aの間に入り込むようにして、帯状の発熱体140と交差して設けられている。各個別電極118の他端部は、ヘッド基板110上に設けられたIC実装部120aまで延びており、端部には、実装端子としての電極パッド115が形成されている。
【0039】
一方、IC実装部120aのヘッド基板110の他側縁110b側には、実装端子としての電極パッド116が形成されている。この電極パッド116は、図4(a)に示す外部接続端子112に導通されている。
【0040】
この外部接続端子112は、図3に示すFPC108が取り付けられ、FPC108を介してサーマルプリンター100を制御する制御部を構成する主回路基板(図示せず)と接続されている。さらに、図3に示すドライバーIC120が、電極パッド115、電極パッド116に実装され、不図示のサーマルプリンターの制御部から、印刷データ等の入力信号や駆動電流等が入力される。
【0041】
これらの、互いに隣り合って交互に配列する櫛歯状のコモン電極114aおよび個別電極118と、コモン電極114aおよび個別電極118により区切られた発熱体140とによって、発熱素子145が規定される。すなわち、選択された個別電極118が、ドライバーIC120によってオン駆動されると、個別電極118と櫛歯状のコモン電極114aとに囲まれる領域の発熱体140に電流が流れ、その部分が発熱素子145として機能する。このように規定される発熱素子145は、帯状の発熱体140を配列軸として、発熱体140の延在方向に沿って配置している。
【0042】
また、図4(b)に示すように、サーマルヘッド1のコモン配線パターン114は、プラテン71とサーマルヘッド1とが接触する領域ARと重なる部分が、平面視においてヘッド基板110の側面110cにまで延在して設けられている。
【0043】
図5は、サーマルヘッド1の断面図である。サーマルヘッド1は、ヘッド基板110と、コモン電極114aおよび個別電極118と、コモン配線パターン114と、発熱体140と、第1保護膜170と、第2保護膜180と、を有している。
【0044】
ヘッド基板110は、アルミナセラミックス等のセラミックス材料を用いて形成された基体110xと、基体110xの一主面に設けられた平坦化層110yと、を有している。平坦化層110yは、基体110xの表面凹凸を平坦化するために設けられている。平坦化層110yは、シリコン酸化物またはシリコン窒化物(酸化シリコン、酸窒化シリコン、窒化シリコンなどの無機ケイ素化合物)を用いて形成されている。
【0045】
平坦化層110y上には、コモン電極114aおよび個別電極118、コモン電極114aと個別電極118とコモン配線パターン114とに重なって設けられた発熱体140が設けられている。また、平坦化層110yの上面の端部から基体110xの側面にまで延在して、コモン配線パターン114が設けられている。
【0046】
コモン配線パターン114は、平坦化層110yの上面の端部から基体110xの端部にまで延在して設けられた第1配線層150と、第1配線層150上に設けられ、平坦化層110yの上面の端部から基体110xの側面(ヘッド基板110の側面110c)にまで延在して設けられた第2配線層160と、を有している。
【0047】
第1配線層150は、金(Au)が形成材料として用いられ、コモン電極114aおよび個別電極118と同じ層に設けられている。
【0048】
第2配線層160は、第1配線層150に積層して設けられることで、コモン配線パターン114全体の抵抗値を下げる機能を有している。第2配線層160の形成材料には、銀(Ag)が用いられる。
【0049】
また、コモン配線パターン114は、このような積層構造となっていることで、従来の構成のものよりも熱容量が増加している。そのため、発熱素子145で生じる熱をコモン配線パターン114が蓄熱し、発熱素子145の昇温の補助を行う効果も期待できる。
【0050】
すなわち、サーマルヘッド1では、発熱素子145への通電が休止状態に切り替わると、発熱素子145の発熱が止まり、発熱素子145に残った熱は速やかに放熱板106に放熱される。しかし、サーマルヘッド1が、本実施形態のコモン配線パターン114のような熱容量が大きい配線を備えると、印刷領域ではない発熱素子145の周囲に蓄熱しておくことができるため、発熱素子145の再加熱時に当該蓄熱を加熱の補助に用いることができる。
【0051】
第1保護膜170と第2保護膜180とは、いずれも無機膜であり、コモン配線パターン114や発熱体140などの構造物を、感熱紙Sとの摩擦による損傷から保護する機能を有している。これら第1保護膜170および第2保護膜180は、感熱紙Sとの摩擦帯電を抑制するために、導電性材料を添加して導電性を付与し、除電することとしてもよい。
【0052】
このような構成のサーマルヘッド1においては、長期に亘って使用してもコモン配線パターン114の性能が低下しにくい、という効果を得ることができる。
【0053】
従来から、コモン配線パターン114は、第1配線層150と第2配線層160との2層構造となっている。そのため、図5に示すようにコモン配線パターン114が設けられた部分は、他のコモン電極114aや個別電極118が設けられている部分よりもヘッド基板110の上面の法線方向に突出している。
【0054】
したがって、サーマルヘッド1とプラテン71との間に感熱紙Sを挟持しながら印刷する際、プラテン71とサーマルヘッド1とが接触する領域(図4(b)の領域AR)において、コモン配線パターン114と重なる部分では、他の部分よりも高い圧力が加わる。そのため、コモン配線パターン114と重なる部分では、他の部分よりも印刷時の感熱紙Sとの摩擦による損傷が激しくなりやすく、損傷が進むとコモン配線パターン114が断線するおそれが生じる。
【0055】
さらに、プラテン71を製造する際には、プラテン71の表面を削ってプラテン71の断面を略円形とする調整が行われるが、プラテン71が弾性材料を用いて形成されているため、形状の調整後のプラテン71が糸巻き状、すなわち、プラテン71の端部ほど半径が大きくなりやすい。このような形状のプラテン71を用いると、コモン配線パターン114と重なる部分の損傷がより激しくなりやすい。
【0056】
しかし、本実施形態のサーマルヘッド1においては、コモン配線パターン114の一部がヘッド基板110の端部に達するまで延在して形成されている。そのため、感熱紙Sとの摩擦によりコモン配線パターン114の損傷が進んだとしても、導通を確保しやすく、コモン配線パターン114の電流容量が低下しにくい。
【0057】
加えて、第2配線層160の形成材料である銀は、平坦化層110yの形成材料である無機ケイ素化合物と接触すると、界面が劣化し、界面で剥離しやすくなる。しかし、本実施形態においては、第1配線層150が平坦化層110yと第2配線層160との間に設けられ、平坦化層110yと第2配線層160とが接触しないように離間させているため、このような不具合の発生を抑制することができる。
【0058】
したがって、以上のような構成のサーマルヘッド1は、長期に亘って使用してもコモン配線パターン114の電流容量が低下しにくく、信頼性が高くなる。
【0059】
また、以上のような構成のサーマルプリンター100は、上述のサーマルヘッド1を備えているため、信頼性が高いものとなる。
【0060】
なお、本実施形態においては、コモン配線パターン114の一部がヘッド基板110の端部に達するまで延在して設けられていることとして説明したが、これに限らず、例えば、コモン配線パターン114の全周に亘って、ヘッド基板110の端部に達するまで延在して設けられていても構わない。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…サーマルヘッド、71…プラテン、100…サーマルプリンター、110…ヘッド基板(基板)、110x…基体、110y…平坦化層、114…コモン配線パターン(コモン配線)、114a…コモン電極、118…個別電極、140…発熱体(発熱抵抗体、配列軸)、145…発熱素子、150…第1配線層、160…第2配線層、S…感熱紙(印刷媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の一主面に設けられシリコン酸化物またはシリコン窒化物を形成材料として含む平坦化層と、を有する基板と、
前記基板の前記一主面側において、予め設定された配列軸に沿って設けられた複数の発熱素子と、を備え、
前記発熱素子は、発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に接続された個別電極およびコモン電極と、を有し、
前記コモン電極は、前記複数の発熱素子の周囲に配置されたコモン配線に接続され、
前記コモン配線は、少なくとも前記配列軸と交差する領域が、前記基板の端部まで延在して設けられているとともに、前記平坦化層上に少なくとも一部が設けられた第1配線層と、前記第1配線層の上において前記平坦化層に接しないように設けられ、銀を形成材料とする第2配線層と、を有することを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項2】
前記第1配線層は金を形成材料とすることを特徴とする請求項1に記載のサーマルヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサーマルヘッドと、
前記サーマルヘッドに対向して設けられ、前記サーマルヘッドとの間に感熱性の印刷媒体を挟持するとともに該印刷媒体を搬送するプラテンと、を有することを特徴とするサーマルプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206268(P2012−206268A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71747(P2011−71747)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】