説明

サーマルヘッド

【課題】部分グレーズ層上に形成された発熱抵抗体の絶縁性保護膜の摩耗を抑制するサーマルヘッドを提供する。
【解決手段】セラミック基板1上の長手方向に設けた部分グレーズ層2上に発熱抵抗体3、発熱抵抗体を含む表面全体を絶縁性保護膜4覆う。発熱抵抗体上の絶縁性保護膜4aと部分グレーズ層2の領域外の絶縁性保護膜の平坦部4bとが段差tを有する。段差は、発熱抵抗体上の絶縁性保護膜が高く、且つ、プラテンローラが、発熱抵抗体上の絶縁性保護膜と部分グレーズ層の領域外の平坦な絶縁性保護膜において感熱紙を押圧できる段差にする。これによってプラテンローラの押圧力を分散できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、サーマルヘッドの一例を示す要部断面図であり、図9は、同じく発熱抵抗体と電極の配置を示す要部平面図である。
図8に示すように、セラミック基板などの絶縁基板1の上にガラス等からなる凸状の部分グレーズ層2が設けられ、さらにその上に金等の導電性材料からなる共通電極、該共通電極から延びる櫛歯状電極及び複数の個別電極(図9で後述する)が設けられ、さらに前記部分グレーズ層2上の個別電極及び櫛歯状電極上に酸化ルテニウム等からなる発熱抵抗体3が一直線に形成されている(部分グレーズ層を設けたサーマルヘッドの一例として特許文献2参照)。
【0003】
さらに、これらの上には、例えば、PbO−SiO2−ZrO2系のガラス材料からなる電気的絶縁性保護膜4(以下、絶縁性保護膜4という。)が略全面にわたって覆われている。印字媒体である感熱紙8は、前記絶縁性保護膜4を通して前記発熱抵抗体3の発熱を熱伝達により行い発色させるために、プラテンローラ7により前記絶縁性保護膜4との間で押圧されながら搬送される。
【0004】
また、図9に示すように、前記感熱紙8の発色は、前記発熱抵抗体3が共通電極6から延びる櫛歯状電極6aと個別電極5の間にある1ドット単位の発熱抵抗体素子に通電することで発熱させることにより行われる。よって、前記絶縁性保護膜4は機械的保護、電気的絶縁の役目を果たしており、一定以上の機械的強度及び電気的絶縁性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3603997号公報
【特許文献2】特開2001−232838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記サーマルヘッドは、印字媒体である感熱紙によってはその顔料等により前記絶縁性保護膜4が感熱紙との摩擦により摩耗が顕著になり、前記絶縁性保護膜4の機械的強度及び電気的絶縁性が損なわれるといった課題がある。
また、ラベル紙をはじめ、感熱紙によっては紙厚が厚いものがあり、サーマルヘッドとの追従性を良くするために、前記プラテンローラ7の押圧を高く設定する傾向にある。
【0007】
この場合、前記プラテンローラ7の押圧が高くなることで前記絶縁性保護膜4の摩耗が促進されることになる。一方で、前記絶縁性保護膜4の前記摩擦による耐摩耗性は、サーマルヘッドが感熱紙に印字する際の印字比率に大きく影響することも実験的にわかっている。
【0008】
すなわち、印字比率が低いときよりも同比率が高いときの方が摩耗量が増加する傾向にある。このことは印字比率が低いときよりも同比率が高いときにサーマルヘッドが受ける影響として、発熱抵抗体内の発熱時の温度分布が中心部で一番高く、印字比率が高くなると近傍の発熱抵抗体の発熱との相乗効果により、特に連続した印字動作を繰り返すことにより発熱によって生じた熱が蓄熱され易くなり、前記絶縁性保護膜4の転移点近傍にまで温度が達した結果、前記絶縁性保護膜4が本来の硬度を保持しきれなくなり、摩擦などの機械的ストレスに対して敏感に反応するようになる。
【0009】
このため、前記プラテンローラ7により前記感熱紙8が押圧されながら前記前記絶縁性保護膜4上を搬送されるために、該絶縁性保護膜4は容易に耐摩耗性が損なわれることになる。
特にサーマルヘッドの用途が200mm/s以上程度の印字速度で使用される環境では、前記発熱によって生じた熱が蓄熱し易くなるため、耐摩耗性の確保が課題となる。
この対策として、保護層として熱伝導性の良好な導電性保護膜を前記絶縁性保護膜の上に設けたサーマルヘッドが提案されている(特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、発熱抵抗体内の発熱温度を平均化することで摩擦等の機械的ストレスに対して前記絶縁性保護膜4が敏感に反応しないようにしても、使用される感熱紙によっては耐摩耗性が損なわれることがある。
本発明は、前記した課題を解決するために、性能面の発色効率を維持しながら前記絶縁性保護膜が高い耐摩耗性を維持するサーマルヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
部分グレーズ層上に設けられた発熱抵抗体を覆う絶縁性保護膜と部分グレーズ層の領域外の絶縁性保護膜の平坦部とが段差を有し、前記絶縁性保護膜の平坦部の前記部分グレーズ層側でもプラテンローラが感熱紙を押圧するようにする。
【発明の効果】
【0012】
プラテンローラの押圧が発熱抵抗体上の絶縁性保護膜に集中することなく分散され、絶縁性保護膜の機械的な摩耗を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるサーマルヘッドの要部断面図である。
【図2】本発明によるサーマルヘドの動作を説明する要部断面図である。
【図3】本発明によるサーマルヘッドの実施例の要部断面図である。
【図4】本発明によるサーマルヘッドの実施例のの要部断面図である。
【図5】本発明によるサーマルヘッドの実施例の要部断面図である。
【図6】本発明のサーマルヘッドの実施例の要部断面図である。
【図7】本発明によるサーマルヘッド実施例の要部断面図である。
【図8】従来のサーマルヘッドの要部断面図である。
【図9】本発明及び従来のサーマルヘッドの電極及び発熱抵抗体の配置を示す要部平面図である。
【実施例】
【0014】
図9に示すように、感熱紙等の印字媒体の発色は、酸化ルテニウム(RuO2)等からなる発熱抵抗体3が金等の導電性材料からなる共通電極6から延びる櫛歯状電極6aと金等の導電性材料からなる個別電極5との間にある1ドット単位の発熱抵抗体素子3aを発熱させることにより行われる。以下、前記櫛歯状電極及び前記個別電極を総称して給電用電極という。
【0015】
さらに、図1及び図2に示すように、アルミナA1203等の電気絶縁性のセラミック基板1上に、ガラス等からなる部分グレーズ層2を前記セラミック基板1の長手方向(紙面に垂直の方向)に並行し、且つ、前記セラミック基板1の短手方向に部分的且つ長手方向に直線状に設ける。
前記部分グレーズ層2上の前記櫛歯状電極6a及び個別電極5(図9)に重なるように前記部分グレーズ層2上に発熱抵抗体3を設け、これら表面全体に絶縁性保護膜4を設ける。前記絶縁性保護膜4の材料として、例えば、PbO・SiO2・ZrO2系のガラス材料を用いる。
【0016】
前記部分グレーズ層2上に設けられた発熱抵抗体3の表面の絶縁性保護膜4aと部分グレーズ層2の領域外の絶縁性保護膜の平坦部4bとが段差tを有し、前記絶縁性保護膜の平坦部4bの前記部分グレーズ層2に近い側の表面10a及び10bでもプラテンローラ7が感熱紙8を押圧するように前記段差tの寸法を設定する。
【0017】
この時、前記絶縁性保護膜4の平坦部4bは、図3(A)に示すように、絶縁性保護膜4を前記発熱抵抗体3及び前記給電用電極を覆うように形成した後、図3(B)に示すように前記部分グレーズ層2を除く領域に前記ガラス材料ををスクリーン印刷等の手段を用いて上層の絶縁性保護膜4c及び4dを同時に形成する。
【0018】
一例として、後述するように印字媒体が65μmの厚みの感熱紙を使用した場合、前記平坦部4bを15μm低くし(t=15μm)、プラテンローラ7が前記表面10a及び10b(図2)で感熱紙を押圧する。
【0019】
前記段差tを設けることで、前記プラテンローラ7が前記発熱抵抗体3上の前記絶縁性保護膜4aと前記絶縁性保護膜4の平坦部4bの表面10a、10bでも感熱紙を押圧することができ、プラテンローラの押圧力が前記発熱抵抗体3上の前記絶縁性保護膜4aに集中することなく前記表面10a及び10bにも分散され、前記絶縁性保護膜4の機械的な摩耗を抑制することができる。
【0020】
また、前記部分グレーズ層2に対して前記感熱紙8の侵入側にある絶縁性保護膜の表面10aは、感熱紙8の平滑性の向上の作用が同時に働くことで、前記発熱抵抗体3上の前記絶縁性保護膜4aの機械的な摩耗の抑制に繋がる。
【0021】
以下、前記段差tを有する前記絶縁性保護膜4の形成方法の例を以下に説明する。
図3に示すように、前記絶縁性保護膜4を前記部分グレーズ層2を跨ぐように形成した後、前記部分グレーズ層2の両側でプラテンローラが感熱紙を押圧できる段差を有する高さに補助絶縁膜4c、4dを形成する。また、補助絶縁膜を予め前記セラミック基板1上に形成しておき、その後に前記部分グレーズ層2を跨ぐように絶縁性保護膜4を形成してもよい。
【0022】
また、他の形成方法として、図4、図5に示すように、プラテンローラが部分グレーズ層の片側の絶縁性保護膜の平坦部を押圧するように、発熱抵抗体3上の絶縁性保護膜4aよりもその段差tが低くなるように形成された平坦な絶縁性保護膜は、前記部分グレーズ層2に対して感熱紙の侵入側の絶縁性保護膜4e、感熱紙の排出側の絶縁性保護膜4fとしていずれか一方にして実施することもできる。
【0023】
また、他の実施例として図6に示すように、セラミック基板1の上面に部分グレーズ層2が前記セラミック基板1の長手方向に並行し前記セラミック基板1の短手方向において部分的に且つ直線状に形成され、その上に前記給電用電極、発熱抵抗体3、絶縁性保護膜4gを順次形成した時に、プラテンローラが接するような段差tを有するように絶縁性保護膜4の平坦部4gの厚さを設定する。
【0024】
また、他の実施例として、図7に示すように、下層を前記段差を有する絶縁性保護膜4の上層を、例えば酸化ルテニウム、及び珪素やジルコニウムや鉛等の金属酸化物及びガラスを主材料とし、シート抵抗値が0.5M〜10MΩ/□、好適に1MΩ/□のシート抵抗値を有する熱伝導性の高い導電性保護膜11とした2層構造とする。
【0025】
例えば、前記導性保護膜11は、熱伝導率が9.628W/mKの材料を用い、前記下層の絶縁性保護膜4は1.616W/mKの材料を使用する。前記導電性保護膜11は熱伝導率が高く熱伝達性に優れた構造となっているため、熱応答性が良く感熱紙に瞬時に熱を伝達すると同時に前記発熱抵抗体3の発熱分布を平均化に寄与するため前記導電性保護膜11のストレスが抑制されることで、前記段差を設けたことによる効果に相乗して機械的な耐摩耗特性が向上する。
【0026】
ここで図1に示す本発明の実施例において、実際に厚さ65μmの感熱紙をプラテンローラ19.6N/サーマルヘッド(0.27N/mm(印字幅長さ))で押圧した時のニップ幅(プラテンローラが感熱紙を介してサーマルヘッドに接触している短手方向の幅寸法)を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
図1に示す実施例において、段差tの寸法が15μmの絶縁性保護膜の平坦部4bを有することで、ニップ幅が0.836mm/0.198mm=4.22となり、図8に示すような従来のサーマルヘッドと比較してニップ幅が全体として4.22倍に拡大しているサーマルヘッドを実現できた。
その結果、単位長さ当たりのプラテンローラの押圧は逆に(1/4.22)倍に減少し、このプラテンローラによる押圧の機械的なストレスが減少するため、前記部分グレーズ層2の上部に形成された前記絶縁性保護膜4aの摩耗が抑制されることになる。
前記表1に示す数値は、サーマルヘッドの前記絶縁保護膜上にインクを塗布し、プラテンローラの押圧後、塗布したインクの取れた領域(幅方向の寸法)を測定した結果を示すものである。
【符号の説明】
【0029】
1・・セラミック基板 2・・部分グレーズ層 3・・発熱抵抗体 4・・絶縁性保護膜t・・段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上の長手方向に設けた部分グレーズ層と、
前記部分グレーズ層上に設けられた発熱抵抗体と、
前記発熱抵抗体を含む表面全体を覆う絶縁性保護膜と、
前記発熱抵抗体上の絶縁性保護膜と前記部分グレーズ層の領域外の平坦な絶縁性保護膜とが段差を有するサーマルヘッドであって、
前記段差は、前記発熱抵抗体上の絶縁性保護膜が高く、且つ、感熱紙を押圧するプラテンローラが、前記発熱抵抗体上の絶縁性保護膜と前記部分グレーズ層の領域外の平坦な絶縁性保護膜において、前記感熱紙を押圧できる段差であることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項2】
前記段差の寸法を調整する補助絶縁膜を前記平坦な絶縁性保護膜上に設け、絶縁性保護膜を2層構造としたことを特徴とする請求項1のサーマルヘッド。
【請求項3】
前記絶縁性保護膜は、PbO−SiO2−ZrO2系のガラス材でなることを特徴とする請求項1又は請求項2のサーマルヘッド。
【請求項4】
前記段差の寸法が15μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項のサーマルヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記絶縁性保護膜上に熱伝導性の高い導電性保護膜を設けたことを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記段差を感熱紙の侵入側に設けたことを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記段差を感熱紙の排出側に設けたことを特徴とするサーマルヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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