説明

サーモグラフィに基づく偽造医薬品の検出システムおよび方法

本発明は、医薬製品の真正性を判定するためのサーモグラフィIRシステムに関するものである。このシステムは、(a)サーモグラフィIR装置であって、(a1)乃至(a3)のステップを実行するためのものであり、(a1)のステップは、所定の制御条件において、真正医薬製品の真正性識別特性を取得するステップであって、この真正性識別特性が、真正製品の少なくとも1のサーモグラフィイメージを含み、それらイメージの各々が、温度と放射率の関数として、MWIRまたはLWIRスペクトルにおけるIR放射の製品にわたる分布を表現するものであり;(a2)のステップは、取得した真正性識別特性をメモリに記憶するステップであり;(a3)のステップは、真正製品に対応するものでその真正性が疑わしい試験医薬製品について、同じ所定の制御条件において、試験識別特性を取得するステップであって、この試験識別特性も、試験製品の少なくとも1のサーモグラフィイメージを含み、それらイメージの各々が、温度と放射率の関数として、MWIRまたはLWIRスペクトルにおけるIR放射の試験製品にわたる分布を表現するものであり、さらに、当該システムは、(b)真正性識別特性と試験識別特性との間の比較を行う比較ユニットを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して偽造品検出システムの分野に関する。特に、本発明は、医薬製品の偽造品検出システムおよび方法に関する。より詳細には、本発明は、MWIRまたはLWIR領域で作動する、サーモグラフィに基づく医薬製品の偽造品検出システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品産業は、数十億ドル規模の国際的な商業分野である。しかしながら、多くの産業と同様、医薬品産業の多くの製品が、不良または偽物の模倣製品を製造してそれらを実際の市場価格の何分の一かで販売する偽造者の犠牲になっている。世界的に見て、偽造品である医薬品の割合は、大手製薬会社の収益に深刻な影響を与えるほど高くなってきている。さらに深刻なのは、偽造医薬品(不正医薬品)の消費者に与える潜在的な健康リスクである。
【0003】
知的所有権の侵害に加えて、その他の政府の法律違反であるが、連邦医薬品局(FDA)は、医薬品産業における偽造品問題に対するすべての包括的解決策を未だ有していない。
【0004】
偽造医薬品の問題を解決するための従来技術による様々な試みがなされているが、それら従来技術の解決策の各々はそれに付随する欠点を有している。幾つかの従来技術は、RFIDおよびバーコードを利用してパッケージラベルを読むことによりそれに含まれる内容物の真正性を判定するようにしている。しかしながら、これは、製品自体が直接的に分析される訳ではないため、必ずしも正確な結果をもたらすとはいえない。
【0005】
従来技術は、スペクトル識別特性の概念に基づく医薬品認証手順も開発している。すべての医薬品は、その分子構成によって決定される固有のスペクトル識別特性(またはフィンガープリント)を有する。赤外線(IR)分光法は、サンプル製品の分子構成が真正製品の既知のスペクトル識別特性と同一であるか否かを判定するのに使用される。IR分光法は、電磁スペクトルの赤外線領域を取り扱う分光法のサブセットである。赤外線分光法は、分子が離散エネルギ準位との関連で回転または振動する特定の周波数を有するという事実を利用している。
【0006】
米国特許第6,395,538号は、バイオ製造および赤外線分光法の分野、特に、生物活性のある医薬品成分などの生体材料の品質監視および制御の分野を扱う。フーリエ変換赤外線分光法は、生体分子の生産を監視して、バイオ製造プロセスの異なる段階で生体分子を定性的および定量的に識別するために使用される。米国特許第6,395,538号は、上述したように、分光法に基づくシステムに関するものであるが、商業レベルの偽造医薬品には関連しておらず、このため、当該システムは、密封されたパッケージ内に含まれる多くの医薬製品の真正性を判定する等の困難を解消することには関連していない。
【0007】
米国特許第6,853,447号は、自動機械内で包装される医薬製品または食製品のような材料のスクリーニングおよび識別に関連するものである。この発明は、数多くの画像分光器を利用する。米国特許第6,853,447号のシステムは、近IRおよび短IRスペクトルにおいて分光法を実行する。対象物からのIR放出のレベルおよび分布を検出するサーモグラフィとは対照的に、分光法は、製品からのIR反射、あるいはより具体的には、周波数領域における反射のスペクトル分布をチェックする。米国特許第6,853,447号のスペクトルの測定は、製品の外表面の検査のみを可能とし、製品の本体に適応することができない。このため、米国特許第6,853,447号の分光法を適用する場合、各医薬品を、その容器の外で個々に検査する必要がある。このため、医薬品が液体状態にある場合、操作が困難となる。また、多くのカプセルは例えばゼラチン等の薄層により被覆され、その薄層は、近赤外線検出装置が医薬品の真正性を判定するのを妨げる。さらに、商業規模でそのような方法を利用するのは、各検査に要する時間に起因して、コストがかかる。
【0008】
米国特許第6,771,369号は、小売り環境における包装された医薬品の検証と識別に関するものである。化学分析および検証システムは、望ましくは、可視(Vis)および近赤外線(NIR)分光器を利用して、充填された処方薬バイアルの内容物を、その品目の化学識別特性を測定することにより分析および識別する。その他の変形例、例えば様々な形式の光学分光器、UV−Vis、UV−Vis−NIR、赤外線またはラマン分光器を使用することも可能である。米国特許第6,771,369号のシステムは、米国特許第6,853,447号と類似しており、且つ同じ会社により製造されるものであるが、近赤外線および短波長IRスペクトルのみにおける検出を行う。上述したように、それらスペクトルにおける操作は、製品の外表面の検出のみを可能とし、それ故に、各医薬品を容器の外で個々に検査しなければならない。商業規模において、そのような制限は、偽造品チェックの効率化の大きな障害となる。また、液体状態にある医薬製品を確認するのに問題となる。また、上述したように、多くのカプセルは例えばゼラチン等の薄層により被覆されており、その薄層は、検出装置が医薬品の真正性を判定するのを妨げる。
【0009】
米国特許第7,126,685号は、光吸収分光法を開示しており、この方法は、サンプルを収容する医薬品ボトルのような容器を提供するステップと、その容器を回転させるステップと、可視波長、赤外線波長および紫外線波長からなる1またはそれ以上の波長を含むビームを導くステップと、ビームが容器を透過した後にビームの特性を測定するステップとを備える。米国特許第7,126,685号は、商業規模では云うまでもなく、偽造医薬品の検出には対応しておらず、このため、この産業の上述した偽造品問題に対する解決策を提供するものではない。
【0010】
従来技術において、偽造医薬品の検出用のIR技術の開発は、分光法の分野、特に近赤外線に完全に限定されている。近赤外線分光法は、表面(例えば、医薬品のコーティング、外装など)の反射に限られているため、その検出能力が制限されている。分光法においては、医薬製品の分子構造が周波数領域で測定されるとともに、固有の曲率が、対応する識別特性とともに分析されて、その医薬品の真正性が判定される。
【0011】
サーモグラフィは、赤外線イメージングの一種であり、この場合、対象物から発せられた放射が、本体を横断する異なる位置の温度に基づいて検出されるとともに、その放射のイメージが生成される。受動的なサーモグラフィでは、定常温度の対象物から放出された放射のイメージが得られる。能動的なサーモグラフィでは、熱パルスが対象物に加えられて、その温度が変化するとともに、温度熱パルスが加えられる瞬間からサンプル医薬製品が周辺温度に到達するまでの全体の温度サイクル中に、予め設定された時間に亘って、複数のイメージが得られる。
【0012】
サーモグラフィは、対象物からの放射の分布を測定し、中波長IR(3乃至5.4マイクロメータのMWIR)および長波長IR(8乃至14マイクロメータのLWIR)においてのみ機能する。これは、その大部分がNIR(近赤外線)およびSWIR(短波長IR)にある、対象物からの反射のスペクトル分布に関する分光法とは対照的である。サーモグラフィを使用することにより、対象物の奥深くまで、すなわち、対象物の外表面とその周囲の容器を遙かに越えて、検査できることが、本発明者等により見出されている。
【0013】
特にサーモグラフィにおける熱に基づくシステムは、軍事/セキュリティ・システム、非破壊試験および医療イメージングなどの分野によく利用されているが、そのようなシステムにおいて、特に医薬品産業における製品の偽造品を検出することは、全く提案されていない。
【0014】
したがって、本発明の目的の一つは、従来技術に付随する問題点を解消する、医薬製品の真正性を判定するための方法およびシステムを提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、サーモグラフィを用いて、すなわち、MWIRまたはLWIRスペクトルで作動するIRイメージングシステムを用いて、医薬製品の真正性を判定する方法およびシステムを提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、受動的または能動的なサーモグラフィを用いて、医薬製品の真正性を判定する方法およびシステムを提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、医薬製品の奥深くまで検査して偽造品を判定することができる方法およびシステムを提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、製品のパッケージの外部からでも、医薬製品を検査してその偽造品を判定することができ、パッケージを開ける必要のない方法およびシステムを提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、パッケージを開けることなく、一緒に包装された複数の医薬製品を検査してその偽造品を判定することができる方法およびシステムを提供することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、多層のパッケージの外部から、医薬製品を検査してその偽造品を判定することができる方法およびシステムを提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、液体の医薬製品をその容器の外部から検査してその偽造品を判定することができる方法およびシステムを提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、医薬製品の製造者が、偽造の難しい固有の識別特性を製品用に設計することを可能にするとともに、容易に認証することができる方法およびシステムを提供することである。
【0023】
本発明の追加的な目的および利点は、説明が進むに連れて明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0024】
本発明は、医薬製品の真正性を判定するためのサーモグラフィIRシステムに関するもので、当該システムは、(a)サーモグラフィIR装置であって、(a1)乃至(a3)のステップを実行するためのものであり、(a1)のステップは、所定の制御条件において、真正医薬製品の真正性識別特性(authenticity signature)を取得するステップであって、この真正性識別特性が、前記真正製品の少なくとも1のサーモグラフィイメージを含み、それらイメージの各々が、温度と放射率の関数として、MWIRまたはLWIRスペクトルにおけるIR放射(IR radiation)の前記製品にわたる分布を表現するものであり;(a2)のステップは、取得した真正性識別特性をメモリに記憶するステップであり;(a3)のステップは、前記真正製品に対応するものでその真正性が疑わしい試験医薬製品について、同じ所定の制御条件において、試験識別特性(test signature)を取得するステップであって、この試験識別特性も、前記試験製品の少なくとも1のサーモグラフィイメージを含み、それらイメージの各々が、温度と放射率の関数として、MWIRまたはLWIRスペクトルにおけるIR放射の前記試験製品にわたる分布を表現するものであり、さらに、当該システムは、(b)前記真正性識別特性と前記試験識別特性との間の比較を行う比較ユニットを備えるものである。
【0025】
望ましくは、前記所定の制御条件が、温度変化信号の定義条項を備え、それが今度は、前記製品に加えられる温度変化の速度と、この温度変化が生じる継続時間とを含む。
【0026】
望ましくは、前記真正性識別特性と前記試験識別特性の各々の対応イメージが、前記温度変化信号の発生中またはその後の特定のときに取得される。
【0027】
望ましくは、前記比較が、前記真正および試験の識別特性の各々からの選択された単一イメージの間で行われる。
【0028】
望ましくは、前記真正および試験の識別特性からの対応する2イメージの間で比較が行われ、それらイメージの各々が今度は、前記温度変化信号の発生中またはその後の特定のときに取得される対応する単一または複数のイメージについて実行される数学操作を反映する。
【0029】
望ましくは、前記所定の制御条件が、さらに、前記温度変化をもたらす熱源の種類の定義条項を含む。
【0030】
望ましくは、前記所定の制御条件が、さらに、前記温度変化のプロファイルの定義条項を含む。
【0031】
望ましくは、前記所定の制御条件が、さらに、熱源または冷却源からの距離の定義条項を含む。
【0032】
望ましくは、前記所定の制御条件が、さらに、LWIRとMWIRの一方または両方においてキャプチャする識別特性イメージの定義条項を含む。
【0033】
望ましくは、前記所定の制御条件が、さらに、1またはそれ以上のフィルタの定義条項を含み、各フィルタが、イメージキャプチャリングをスペクトル領域に制限する。
【0034】
一実施形態においては、前記医薬製品が固体の薬である。
【0035】
別の実施形態においては、前記医薬製品が液体の薬である。
【0036】
望ましくは、前記真正の識別特性とそれに対応する試験識別特性の各々が、前記製品のパッケージの1またはそれ以上のサーモグラフィイメージを備える。
【0037】
望ましくは、前記パッケージが医薬製品自体を収容している間に、または収容していない間に、製品の前記真正の識別特性とそれに対応する試験識別特性が取得される。
【0038】
一実施形態においては、前記固体の医薬製品が紙箱のパッケージ内に包装された錠剤である。別の実施形態においては、前記固体の医薬製品がアルミニウムまたはプラスチックのパッケージ内に包装された錠剤である。
【0039】
別の実施形態においては、前記固体の医薬品が1またはそれ以上のアルミニウムまたはプラスチックのパッケージ内に包装され、その後に紙箱のパッケージ内に包装された錠剤であり、前記条件が、前記紙箱のパッケージの外からイメージを取得することを含む。
【0040】
さらに別の実施形態においては、前記液体の医薬品が容器内に収容され、前記条件が、前記容器のパッケージの外からイメージを取得することを含む。
【0041】
望ましくは、前記メモリが、リモートまたはローカルデータベースを含み、そのデータベースが、1またはそれ以上の医薬製品について複数の真正性識別特性を格納している。
【0042】
一実施形態においては、前記メモリが、リモートデータベースを含み、このリモートデータベースの位置で、前記比較が遠隔実行される。
【0043】
本発明のある実施形態においては、前記比較ユニットが、イメージ間の自動比較を実行するイメージ処理手段を含み、真正性が、所定の閾値を超える類似性を見出したときに決定される。
【0044】
望ましくは、前記比較ユニットが、オペレータによる視覚的比較を可能にするために、真正イメージとそれに対応する試験イメージの一方を他方に加えて表示するディスプレイを備える。
【0045】
望ましくは、前記システムが、前記温度変化信号を生成する信号発生器をさらに備える。
【0046】
本発明の様々な実施形態によれば、前記温度変化が、オーブン、マイクロ波、IRランプ、レーザビーム、ガス膨張による冷却、熱電冷却器および超音波の中の1またはそれ以上を用いて行われる。
【0047】
本発明の様々な実施形態によれば、前記温度変化が、デルタ関数、ステップ関数、矩形関数(rectangular function)、鋸歯状関数(saw tooth function)および周期関数の中の1またはそれ以上の形式で行われる。
【0048】
本発明のある実施形態においては、前記サーモグラフィIR装置が、(a)MWIRおよびLWIR領域におけるIR放射エネルギを検出するサーモグラフィ2D焦点面アレイと、(b)前記放射の焦点を前記焦点面アレイに合わせる光学部品と、(c)前記焦点面アレイを操作するとともに、前記アレイのアナログ出力をディジタル高解像度イメージに変換するためのコントローラとを備える。
【0049】
本発明のある実施形態においては、前記真正および試験の識別特性が、5.4−8μmおよび14−20μmの領域の1またはそれ以上における医薬製品からの2D放射を反映するイメージにも関係する。
【0050】
本発明のある実施形態においては、前記条件が、1またはそれ以上のIR偏光子の使用を含む。
【0051】
本発明のある実施形態においては、前記真正の医薬製品が、本発明に係るシステムとともに操作するときに特徴的な真正の識別特性を取り入れるために意図的に設計される。
【0052】
本発明のある実施形態においては、前記真正の製品の設計が、1またはそれ以上のコーティングまたは可食性材料を含む。
【0053】
本発明のある実施形態においては、前記可食性材料が、前記製品に特定のパターンで加えられた気泡である。
【0054】
さらに別の実施形態においては、真正性の検証が、医薬製品のその耐用期間中の集合保存条件の検証も含むように拡張されており、前記製品が可食性薄膜により被覆されて、その薄膜が、破壊的保存状態に曝されたときの放射率と形態を変えるとともに、この変化が真正性識別特性も変えるようになっている。
【0055】
本発明の更なる実施形態においては、医薬製品が、今度は内部加熱構成要素を有するパッケージ内に収容され、前記温度変化信号が、前記温度変化をもたらすために前記構成要素に与えられる。
【0056】
本発明のさらに別の実施形態においては、前記サーモグラフィ装置が、1ピクセル測定装置である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明に係るシステムの第1実施形態の構成要素が概略的に示されたブロック図を示している。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態において利用される冷却検出器の概略図を示している。
【図3】図3は、標準的なCCDカメラによって得られた5つの薬剤タブレットのイメージを示しており、そのうちの4つが真正品、1つが偽造品である。
【図4】図4は、図3のタブレットの二次元サーモグラフィイメージを示しており、これは、本発明の装置により、t=1秒とし、その後に冷却パルスを加えることによって得られるものである。
【図5】図5は、図3のタブレットの二次元サーモグラフィイメージを示しており、これは、本発明の装置により、t=10秒とし、その後に冷却パルスを加えることによって得られるものである。
【図6】図6は、図3のタブレットの二次元サーモグラフィイメージを示しており、これは、本発明の装置により、t=15秒とし、その後に冷却パルスを加えることによって得られるものである。
【図7a】図7aは、InSbの冷却プロトタイプ装置を示しており、これにより本発明の試験が行われた。
【図7b】図7bは、図7aの装置によって得られた、シアリス錠剤の真正品と偽造品の2つの空のアルミニウムのパッケージの比較結果を示している。
【図7c】図7cは、図7aの装置によって得られた、シアリス錠剤の真正品と偽造品の2つの空の紙箱のパッケージの比較結果を示している。
【図7d】図7dは、CCD(VIS)カメラによって得られた、シアリス錠剤の真正品と偽造品の2つの比較結果を示している。
【図7e】図7eは、前記装置によって得られた、図7dのシアリス錠剤の真正品と偽造品の2つの比較結果を示している。
【図7f】図7fは、CCD(VIS)カメラによって得られた、シアリス錠剤の真正品と偽造品をそれぞれ含む2つの真正品と偽造品のアルミニウムパッケージ間の比較結果を示している。
【図7g】図7gは、前記装置によって得られた、図7fのシアリス錠剤を含む2つの真正品と偽造品のアルミニウムパッケージ間の比較結果を示している。
【図7h】図7hは、CCD(VIS)カメラによって得られた、2つの真正品と偽造品の紙箱間の比較結果を示すもので、それら紙箱がアルミニウムパッケージを含み、アルミニウムパッケージの各々が、同様にシアリス錠剤の真正品と偽造品をそれぞれ含んでいる。
【図7i】図7iは、本発明の装置によって得られた、図7fの2つの真正品と偽造品の紙箱パッケージ間の比較結果を示すもので、それら紙箱の各々がアルミニウムパッケージを含み、アルミニウムパッケージの各々が、同様にシアリス錠剤の真正品と偽造品をそれぞれ含んでいる。
【図8a】図8aは、非冷却装置によって得られた、シアリス錠剤の2つの真正品と2つの偽造品間の比較結果を示している。
【図8b】図8bは、CCD(VIS)カメラによって得られた、図8aのシアリス錠剤の2つの真正品のイメージと2つの偽造品のイメージを示している。
【図8c】図8cは、非冷却装置によって得られた、2つの完全に(紙箱とアルミニウムで)包装された真正品のシアリス錠剤と、2つの完全包装された偽造品のシアリス錠剤との間の比較結果を示している。
【図9a】図9aは、CCD(VIS)カメラによって得られた、真正品と偽造品が収容された液体Optalginの容器のイメージを示している。
【図9b】図9bは、本発明の冷却InSb装置から見た、図9aと同じ容器を示している。
【発明を実施するための形態】
【0058】
現在のところ、偽造医薬品に関する問題の完全な解決策は存在しない。本発明は、サーモグラフィに基づくシステムを使用して、医薬製品の真正性を判定する新規な方法およびシステムを提供するものである。このシステムは、製品をその包装、パッケージまたは容器から取り除かなくても、偽造品を判定することができる。
【0059】
本明細書で使用される用語“医薬製品”は、例えば、タブレット、カプセルまたは溶液など、任意の形態の医薬品に言及するものであり、本明細書においては、用語“医薬品”と置換可能に使用されるものである。
【0060】
本発明のある実施形態によれば、複数の真正の医薬製品の各々のサンプルのサーモグラフィ識別特性が初めに収集されてデータベース内に格納される。初めに収集された識別特性は、以下、医薬品の“真正識別特性”と称することとする。サーモグラフィ識別特性は、医薬製品のサーモグラフィ(すなわち、LWIRまたはMWIR領域における)二次元ビューであり、これは、製品の制御された特定の条件で収集される。この特定の条件は、例えば、ある期間に亘る、加熱(または冷却)信号に対する医薬製品の2D応答や、信号の開始後の予め設定された時間の後の応答などであってもよい。加熱または冷却信号の形態は予め定義されるが、変化するもの(一例として、矩形波、鋸歯状信号など)であってもよい。さらに、後で詳述するように、上記応答は、LWIRまたはMWIR領域内の特定の波長に限定されるものであってもよく、偏光等を使用するものであってもよい。何れの場合にも、そのような応答が医薬製品の組成および構造に極めて固有のものであり、模倣するのが非常に困難であることが、本発明者等により見出されている。
【0061】
上述したように、MWIRおよびLWIR領域は、従来は、3−5.4マイクロメートルの間の領域と、8−14マイクロメートルの間の領域に通常はそれぞれ言及するものである。前記定義事項は、大気が上記領域内(すなわち、5.4−8マイクロメートルの範囲)のIRを通常は吸収するという事実に由来するものである。しかしながら、本発明は、5.4−8マイクロメートルの後者の領域も利用することができるとともに、14−20マイクロメートルのVLWIRの領域すらも利用することができ、後者の領域でも感知する様々なセンサが存在する。したがって、本出願全体にわたるMWIRおよびLWIRの使用は、5.4−8マイクロメートルおよび/または14−20マイクロメートルの領域を含まないような範囲に限定するものとしてみなされるべきではない。
【0062】
本発明によれば、真正性が疑わしい、市場にある任意の所与の医薬製品の識別特性は、それが真正であるか否かを検証するために前記真正識別特性と比較される。その比較は、前記真正識別特性の収集時に使用された条件と本質的に同じ条件で行われる。
【0063】
例えば、識別特性は、医薬品の1または一連の視覚イメージとして表示するようにしてもよく、また、以下に述べるように、対応サンプル薬との比較のために数値により定量化されるようにしてもよい。偽造医薬品は真正医薬品のそれとは異なる分子組成(および時には構造)を含むと考えられるため、例えば真正医薬品の時間の関数(すなわち、識別特性)としての、MWIRまたはLWIR放出(emission)は、偽造医薬品のそれとは異なる。
【0064】
MWIRおよびLWIRスペクトルにおいて偽造製品を検出するサーモグラフィシステムの利用は、特に、加熱または冷却信号(以下、簡潔化のために、両用語を“加熱信号”と簡潔に称することとする。)を与えた後は、それに限定される訳ではないが、分光学的装置および方法を利用する従来の偽造医薬品検出システムよりも多数の利点を有することを、本発明の発明者等は見出した。例えば、本明細書で先に述べたように、従来技術は、製品からの反射に基づく近赤外線波長(NIR)スペクトルにおいて検出システムを使用し、このため医薬品の外表面のみの検査を可能にする。上記分光学に基づく従来システムは、一般に、医薬品の容器、被覆またはパッケージ(以下、すべてのそれら用語を“パッケージ”と称する)を透過することが難しく、何れの場合にも、パッケージの開放が必要である。これに対して、本発明に係るサーモグラフィMWIRまたはLWIR検出システムは、医薬品の分子の内部変化の検出を可能とし、それは、カプセルの表面(または医薬品のその他の任意の形態)上に存在するであろうパッケージの被覆層を飛び越えて進む。換言すれば、本発明に係るMWIRまたはLWIR検出システムは、医薬品のパッケージを透過するものであり、このため、それを開ける必要がない。これは、医薬品が完全な容器内あるいは完全なクレートまたはカートン内に含まれるときであっても、単一の手順で、システムのオペレータがその医薬品の真正性を判定するのを可能とし、それにより、商業規模で検出プロセスの効率を著しく改善することができる。また、医薬製品が容器内に留まるのを可能とすることにより、液体状態にある医薬品の真正性を検出するプロセスは、従来の分光法に基づくシステムを利用して行われる手順により提供されるプロセスよりも遙かに実用的である。
【0065】
サーモグラフィシステムの使用により、検出した識別特性をイメージの形式で表示することが可能になり、その場合、温度と放射された放出(radiated emission)の変化が明瞭に示される。これは、視覚的尺度で医薬品どうしを区別するより大きな能力をもたせる。
【0066】
図1は、本発明に係るサーモグラフィIRシステム100の第1実施形態の全体構造をブロック図の形式で示している。システム100は、サンプル医薬製品102を変更温度に加熱(または冷却)するための熱源110を有し、それにより、MWIRまたはLWIR領域におけるIR放出を変化させる。システム100は、さらに、医薬製品102から発せられた放射を検出するためのサーモグラフィ装置120をさらに備える。前記検出は、連続的なものであっても、あるいは、温度加熱パルスが加えられた瞬間からある所定の期間実行されるものであってもよい。前記検出条件については、可能な限り、データベース130に保存される真正識別特性が収集される条件を確認するべきである。サーモグラフィ装置120は、MWIRおよびLWIR領域におけるIR放射エネルギを感知して、それらをイメージに変換するための1またはそれ以上のIRアレイ検出器122(従来は“焦点面アレイ”とも一般に呼ばれる)を備える。そのようなアレイは従来よりよく知られており、例えば、暗視熱システムにおいて使用されている。光学的構成124は、放射の焦点を二次元アレイ122に合わせる。上記光学的構成は1またはそれ以上のレンズ、フィルタおよび/または偏光子を含むものであってもよい。コントローラ126は、アレイ122を操作する。コントローラは、検出器アレイ122からのアナログ信号も受信し、そのアレイは、医薬製品102からのサーモグラフィ放出を表現する。また、コントローラ126は、アレイからの信号を、ディジタル高解像度2Dの現在の製品イメージ140に変換する。医薬製品102からの放射放出の2Dイメージ140は、表示ユニット132上に表示される。上述したように、データベース130は、多くの真正医薬製品の複数の真正識別特性を格納する。この格納された識別特性は、一般にイメージとして示すことができる。本発明の一実施形態において、コントローラ126は、真正医薬品から予め収集された医薬品102の真正性識別特性140’をデータベース130から抽出し(129)、それを現在イメージ140と並べて、視覚検査のために表示する。IR放出の識別特性レベルは、製品からの変動する空間放出を強調するために、表示ユニット132上で、様々な色彩で表示されることに留意されたい。上述したように、本発明者等により試験されたすべての一般薬において、真正医薬品のイメージ140と偽造医薬品のイメージとの間に非常に明らかな視覚的差異が存在することが見出されている。繰り返しになるが、現在の識別特性は、真正識別特性と同じ制御条件で得られる。何れの場合においても、データベース130内の真正識別特性およびそれらが収集される条件は、そのような差異を反映および強調するために簡単に定義できる。そのような条件を変える幾つかの選択肢は、以下に詳しく述べることとする。任意には、スクリーン132上でのイメージの視覚的な検査および比較の代わりに、イメージ処理ユニット128により自動的に比較がなされるようにしてもよい。イメージ処理ユニット128は、現在の識別特性とデータベース130に格納された真正識別特性との間の相関係数を判定し、その相関係数が所定の閾値以上であるか否かを評価する。この評価に続いて、イメージ処理ユニット128は、サンプル102が真正品であるのか、あるいは偽造品であるのかについての結論を固める。その結論104は表示ユニット132上に表示されるか、あるいは任意のその他の一般的な形式でユーザに通知されるようにしてもよい。
【0067】
別の代替例においては、試験対象の(疑わしい)医薬製品が、データベース内に予め格納されている識別特性の代わりに、真正品として知られている基準医薬製品と比較されるものであってもよい。この比較は、前述したようなプロセスと同様の方法で、視覚的検査によって、若しくはイメージ処理アルゴリズムを適用することにより自動的に、実行することができる。
【0068】
データベース130は、様々な場所に配置することができる。一実施形態においては、データベース130が試験装置内に配置される。別の実施形態においては、データベース130が、保護されたサイト内で保護された方法で維持されるとともに、そこから、関連する真正識別特性がインターネット(またはセルラ技術のようなその他の通信技術)を介して試験装置により抽出される。さらに別の実施形態においては、データベース130が、保護されたサイト内で保護された方法で維持されるとともに、イメージ140がその保護されたサイトにインターネットを介して送られて、その保護されたサイト内で比較が行われ、その後、製品の真正性に関するイエス/ノーの結果が試験装置に送られる。既述したように、さらに別の代替例においては、確実に真正であると知られた物理的な(“マスタ”)製品から局所的に抽出されたイメージとの比較が行われるものであってもよい。
【0069】
熱源110は、望ましくは、信号発生器105により制御される。熱源110は、信号発生器105とともに、医薬品102の真正識別特性が収集されたのと同じ条件を再現する。熱源110は、個々の医薬品(例えば、カプセル)またはその全体の容器を、加熱するための、例えば、オーブン、マイクロ波、IRランプ、レーザビームなど(または、例えばガス膨張を用いて冷却するもの)であってもよい。発生器105からの加熱信号107は、デルタ関数、ステップ関数、矩形関数、周期関数、鋸歯状関数またはその他の指定関数であってもよい。なお、熱に対する医薬品の応答が、医薬品に加えられる熱の種類(例えば、オーブン、マイクロ波等)とともに、発生器105から与えられる加熱信号の種類に応じて、変化することに注意することは重要である。それ故に、必要な場合はいつでも、サンプル薬102のより包括的な識別特性を得るために、熱源と加熱信号107の組合せを複数使用するようにしてもよい。さらに、医薬品からの放出の時系列的変化を反映する複数の識別特性、または偏光またはフィルタリングに応答する複数の識別特性を使用するようにしてもよい。勿論、この場合には、データベースは、時間、波長、偏光、熱源の種類などの信号形式の関数として、比較のために複数の真正識別特性を記憶する必要がある。
【0070】
一実施形態においては、IRサーモグラフィ装置120が、冷却検出器と非冷却検出器の両方を備えるようにしてもよい。冷却検出器は、MWIR(3μm−5.4μm)領域の赤外線放射エネルギを検出することができる。検出器アレイは、各ピクセル約30μmのサイズで320x256の個別の要素、若しくは約15μmピッチのサイズで640x512の個別の要素を含む。その場合において、アレイは、InSb(アンチモン化インジウム)またはMCT(水銀カドミウムテルル)から形成されて、極低温度で操作されるものであってもよい。さらに、検出器アレイは、インジウムバンプスにより焦点面プロセッサ(FPP)アレイ(図示省略)に接続されるものであっても、裏面から照射されるものであってもよい。非冷却検出器は、赤外線放射エネルギをLWIR領域(8μm−14μm)に変換する電気光学アセンブリである。非冷却検出器は、真空デュワー(evacuated Dewar)に収容される検出器アレイにより構成される。非冷却検出器アレイは、各ピクセル20−30μmのサイズで320x256の個別の要素、若しくは20−30μmピッチのサイズで640x512の個別の要素を含む。このアレイは、VOx(酸化バナジウム)またはアモルファスシリコンから作成されて、室温付近で操作されるものであってもよい。
【0071】
当然のことながら、本発明の目的のために、異なる性能および構成を有する代替的な冷却および非冷却IR検出器を使用することができる。例えば、LWIR(8μm−12μm)アレイ検出器は、代替的には、MCTまたはQWIP(量子井戸赤外光検出器)センサから冷却されるものであってもよい。
【0072】
必ずしも必要であるとは限らないが、一実施形態においては、フィルタ/光学的構成がフィルタセット、例えば、従来よりよく知られているフィルタホイール(filter wheel)の形態(図2参照)のフィルタセットを備えるものであってもよい。ホイールは、好ましくはMWIRからLWIRまでの、狭帯域フィルタのセット、および/またはIR偏光子を含むようにしてもよい。代替的には、高周波で分光透過特性を変えることができる任意の光学デバイスを使用するようにしてもよい。
【0073】
図2は、冷却サーモグラフィアレイ検出器122のアセンブリを概略式に示している。アレイ検出器122は、焦点面アレイ150および電子インターフェースボード156を備える。真空チャンバ152は、冷却器154と結合されて示されている。非冷却検出器が使用される代替的な場合においては、アセンブリは冷却器154を有していない。しかしながら、焦点面アレイを定常温度で維持するために、熱電冷却器(TEC)をその代わりに設けるようにしてもよい。矢印158で示すように対象物がIR放射を放出するとき、それはフィルタ160によりフィルタリングされて、所望波長で焦点面アレイ150に衝突する。
【0074】
このため、本発明の真正性検出手順を実行する上記実施形態においては、能動的なサーモグラフィが行われる。この場合、サンプル薬は熱源110により取得および加熱され、次いで、信号発生器105(それは、例えばステップ関数、デルタ、矩形、周期的関数などを与える)により制御される。加熱および/または緩和期間(すなわち、製品の冷却)の少なくとも一部のあいだ、放出されたIR放射は、真正識別特性が収集されたときに維持されるように条件を確認する方法で、サーモグラフィIRシステムにより少なくとも1回採取される。例えば、医薬製品は、製品薬の元の温度が変更温度へと予め設定された値上昇するまで、予め設定された時間、熱パルスによって加熱される。医薬製品は、その後、その元の温度に冷却することが許容される。加熱期間および/または冷却期間の少なくとも一部のあいだ、本発明のサーモグラフィ装置は、放出された放射を採取して、サンプル薬の識別特性を判定する。ここで得られた医薬品の識別特性は、ディスプレイ上で視覚的に、若しくは信号処理ユニットを用いて自動的に、予め取得されてデータベース130内に格納された医薬品の対応する真正識別特性と比較される。
【0075】
前述したように、サンプル薬の時間の関数(連続的に変化する応答、または加熱開始の瞬間から特定期間後の放射)としての、放出された放射応答は、サンプル薬の対応真正バージョンの識別特性と比較される。医薬品の真正バージョンの識別特性がサンプル薬と同一である場合、あるいは予め設定された閾値を上回る少なくとも高い相関がある場合には、そのサンプルは真正であると判断される。しかしながら、真正医薬品の識別特性がサンプル薬と同一ではなく、また、予め設定された閾値を上回る高い相関がない場合には、サンプルは偽造品であると判断される。サンプル薬が偽造品である場合には、偽造医薬品が発見された様々な状況に応じて必要な措置が取られる。
【0076】
前述したように、代替的態様においては、サンプル薬は、予め設定された変更温度に到達するまで、予め設定された時間、熱パルス発生器(例えば、ガス膨張のような急冷法)により冷却される。その応答は、すべてのパルスの間、またパルス終了後しばらくしてからであっても、パルス開始後の特定時間中に取得される。上述したのと同様の方法により、冷却の場合にも、真正識別特性は、現在テスト中の製品からの識別特性とともに、全く同じ制御条件(すなわち、同じパルス、同じ冷却または加熱温度、同じ期間など)で取得される。
【0077】
一代替例においては、正確に制御された条件を確保するために、医薬製品を、拡張黒体(そのような拡張黒体は従来知られ、例えば、CI Inc.により製造されている。)の上に置くようにしてもよい。
【0078】
別の代替例においては、全体の試験プロセスが、温度安定化および制御されたチャンバ内で実行され、当該チャンバが、均一な周囲温度条件を確保する。
【0079】
サンプル薬の真正バージョンの識別特性がデータベース内に予め記録および格納されていない場合には、サンプル薬の識別特性が、上述したように取得されるとともに、サンプル薬の真正バージョンが取得されるまで、本発明のシステムの補助的なデータベース内に格納されて、サンプル薬の真正バージョンが取得されたときに、それとサンプル薬の識別特性が比較される。
【0080】
本発明の代替的態様によれば、受動的なサーモグラフィが行われ、その場合、サンプルが、周囲温度で維持されて、加熱または冷却は行われない。この実施形態によれば、IR検出器システムは、MWIRまたはLWIRスペクトル波長において、時間の関数としてではなく、安定状態の放射放出のみを検出する。そのため、この場合のデータベースは、特定の周囲温度について、MWIRおよび/またはLWIRスペクトルにおける真正医薬品の適当な温度識別特性を含んでいる。
【0081】
別の代替例においては、全体の試験プロセスを温度安定化および制御されたチャンバ内で行うことができ、当該チャンバがその内部の均一な周囲温度条件を確保する。
【0082】
さらに別の実施形態においては、製品パッケージ自体(例えば、錠剤のアルミニウムパッケージ)が1またはそれ以上の内部加熱要素を含むものであってもよい。この場合の1またはそれ以上の加熱要素は、それらに対応外部電気信号を与えることにより作動されて、医薬製品を加熱する。
【0083】
本発明によれば、真正医薬品を偽造医薬品とさらに区別するために、製造者が製造プロセス中に追加的な隠れた識別情報を真正医薬品に加えることができる。製造者は、例えば、気泡の形態の内部バーコードを医薬品中に含ませることができる。添加物を医薬品中に含ませる方法として、多くのその他の可能性のある方法が存在し、それはMWIRまたはLWIRにおける応答をもたらすが、医薬品の医学的効果をもたらすものではない。そのような医薬品の添加は、たとえあったとしても、医薬品の医学的効果上、大きな影響はない(よって、FDAによる追加的な規制認可は必要ないと考えられる)が、それは、模倣するのが困難となる割合で、医薬品の真正識別特性に大きな影響を与えることができ、あるいは偽造品として知られる医薬品の識別特性と区別できる識別特性を形成する。なお、医薬品製造者は、医薬品パッケージ上にもそのような添加物を含ませることができる。例えば、医薬品製造者は、非常に高い放射率または熱容量などを有する部分を医薬品またはパッケージに含ませることができる。
【0084】
本発明のさらに別の態様においては、本発明は、医薬品がその耐用期間中に不適当な熱条件に曝されているかどうかを判定することを可能にする。その場合、医薬品は、所定の許容限度以上の温度に曝されるときにその物理的特性を変化させる可食性薄層により被覆される。ほんの一例として、医薬品は薄いチョコレートの層で被覆されるものであってもよく、医薬品の真正識別特性がそのような層を含む。その後、医薬品が室温以上のある温度に曝されている場合、このコーティングは溶けて、本発明の装置により得られる医薬品の識別特性(その場合のように、MWIRまたはLWIR、能動的または受動的放射)にも影響を与える。そのような方法においては、本発明の装置は偽造品を検出するだけではなく、その耐用期間に亘り、不適当な保管条件に置かれる可能性のある医薬品の品質を確保することもできる。さらに、同様の方法においては、本発明の装置は医薬品の品質を確保することもできるとともに、ある成分が不足したまま誤って製造された医薬品を検出することができる。このような成分の不足は一般に、MWIRまたはLWIRの2D放出に関して、真正識別特性からの逸脱を伴う。このため、簡潔のために、本明細書で述べる品質保証は、この出願全体を通して、従来の偽造品とは区別されないものとする。換言すれば、医薬品の“偽造品”という用語は、その逸脱を引き起こす理由に関係なく、真正医薬品成分の任意の逸脱(ズレ)に関係するものである。
【0085】
本発明のさらに別の実施形態において、偽造医薬品の検出に関して本明細書に本発明を述べてきたが、本明細書に記載の方法およびシステムの利用は、その他偽造製品、例えば、通貨、ダイヤモンド、食製品またはその他製品の識別にも同様に有用であると考えられ、その場合、それら真正の“成分”材料からの逸脱は、例えば、予め設定されたある制御温度変化を受けた後に、それらの2D(サーモグラフィ)LWIRまたはMWIR放出の時間の変化をもたらす。このため、本発明の特定の一実施形態において、本出願における“医薬品”という用語は、上述したその他の種類の製品(実際は医薬品ではないが)を含むように拡張されるものであってもよい。
【0086】
本発明のサーモグラフィ装置は、以下の技術の1またはそれ以上を適用することにより、偽造医薬品を検出することができる。
1.サンプル(すなわち、“マスタ”真正医薬品と、問題になっている医薬品)に加えられることとなる温度変化の割合(すなわち、最高温度に対する最低温度またはその反対)を予め設定すること
2.上記温度変化をもたらすのに使用されることとなる熱源の種類、例えば、一般的なオーブン、マイクロ波によるオーブン、レーザによる熱源、冷却装置、熱電冷却器など
3.温度変化信号の形状、すなわち、スパイク(spike)、鋸歯状信号、ステップ信号、周期的信号など
4.熱(冷却)源からの距離
5.検出器の種類、すなわち、冷却(MWIR)検出器または非冷却(LWIR)検出器
6.2時点、例えば予め設定された時間T1およびT2におけるサンプルからの応答の平均化を適用する選択:なお、時間領域または空間領域の何れかにおいて、その他の種類の数学操作を使用することも可能である。時間領域における分析は、例えば、10の連続イメージの平均化など、何回かの間に得られる幾つかのフレームに対する分析を意味する。空間領域における分析は、例えば、真正品および/または試験イメージの境界を強調するために、幾つかのイメージ処理アルゴリズムを単一のイメージに適用することを意味する。時間領域における操作の具体例としては、フレームイメージの時系列の平均化、フレームイメージの時系列のSTD(標準偏差)、時系列のフーリエ変換、時間領域における低域フィルタ、または時間領域における高域フィルタがある。空間領域における操作の具体例としては、FFT(高速フーリエ変換)、ウェーブレット変換、離散フーリエ変換(DFT)、離散コサイン変換(DCT)、低域通過または高域通過がある。これらはほんの一例であって、空間または時間領域におけるその他の数学操作を適用することも可能である。
7.応答を特定の光学領域に制限するための、1またはそれ以上のフィルタの使用の選択
8.錠剤の真正品と疑わしい外部パッケージ(アルミニウムまたは紙箱またはプラスチックパッケージ)、または錠剤の内部アルミニウムパッケージとの識別特性の比較の選択
9.前述したように、本発明のシステムによる真正性検証は、真正性および試験識別特性を得るときに製品に加えられる所定の条件を含む。それら条件は、予め定義されていても、非常にフレキシブルなものである。このため、本発明の装置が、ある理由により、一の特定条件が加えられるときに特定の真正医薬品と偽造医薬品との間で明確に区別することができないことが見出されている場合に、より適当な条件を見出すために、所定の条件は簡単に変更することができる。可能性のある条件を形成する様々なパラメータが非常に広い範囲内で変化することができるという事実により、市場にある各医薬製品および全医薬製品について適当な条件を見付けることができることに、ほとんど疑いはなく、それは、区別できる真正性識別特性をその製品にもたらすであろう。
【0087】
医薬品の識別特性を得るために条件を定義する必要があるが、すべての上記オプションを使用することができる。識別できる結果をもたらす条件を見付けるために、ある医薬品から別の医薬品に条件を変えることができることに留意されたい。偽造品として知られている所与の医薬製品から真正医薬品を最も良く区別する条件を見付けるために、既知の偽造医薬品を所持したときに、各医薬品について具体的にそのような条件を決めるようにしてもよい。このため、様々な医薬品または医薬品の種類について様々な条件を適用することができる。さらに、上記装置は、以下のモードの何れかで操作することができる。
1.真正医薬品と疑わしい医薬品のイメージとの間の比較(相互関係の比較)を行うイメージ処理により評価が行われる自動モード
2.高域通過、低域通過、FFT、DFT、DCTなどの、イメージに対して特定の操作が加えられる間に行われる、項目1にあるようなイメージ処理
3.上記装置のオペレータが2つのイメージ間の比較を目視で行う手動モード:後述する実施例で実証されるように、この手動モードにおける操作は、多くの実際の典型的な偽造品の場合に非常に良好な結果を与える。
4.一選択肢においては、上記装置が疑わしい医薬品から識別特性を収集して、それを比較のために保護サイト(ひとそろいの識別特性を維持するサイト)に送るだけのものであってもよい。その場合、保護サイトで比較が行われる。そして比較に続いて、保護サイトは、イエス/ノーの結果を上記装置に返す。
5.さらに別の選択肢においては、上記装置が、その内部に、様々な医薬品の種類について識別特性の局所データベースを含む。
6.別の選択肢においては、疑わしい医薬品から得られる識別特性と、オペレータが物理的に利用可能であってオペレータに完全に真正品(“基準医薬品”)であるとして知られている医薬品から同時に得られる識別特性との間の比較が局所的に行われる。検証が必要であるときは、上記装置は、最初にサイト内で基準医薬品から真正識別特性を抽出し、次いで、試験医薬品から識別特性を抽出し、その後、それら2つの識別特性間の比較を行い、最終的な結論を与える。
【0088】
本発明のさらに別の実施形態においては、MWIRまたはLWIRアレイ検出器122は単一ピクセルの“アレイ”である(用語“アレイ”は通常は複数のセンサに言及するもので、1のセンサのみが使用される場合に用いられるものではないが、簡潔化のため、本発明では、アレイが1のセンサ、すなわちピクセルしか含まないときも、“アレイ”という用語を使用する)。より具体的には、アレイは1のIRセンサのみを含む。1のピクセルアレイで操作するための選択肢には、以下のように3つの代替的な選択肢が存在する。
a.医薬品から真正識別特性を取得している間に、医薬製品(錠剤など)102が、1ピクセルアレイに対して予め設定された固定位置および向きに配置され、医薬製品102の外表面に亘り、所定の1地点に関して1ピクセルアレイにより識別特性(すなわち、医薬品からの放射)が得られる。その場合、光学系124は1ピクセルアレイを所定の地点に向ける。医薬製品から試験識別特性を得ている間に、問題となっている医薬品が、真正医薬品として定義されたものと同じ位置および向きに正確に配置され、それにより、2つの真正医薬品および試験医薬品のそれぞれ同じ地点について比較が行われることとなる。
b.医薬品から真正識別特性を取得している間に、医薬製品(錠剤など)が、1ピクセルアレイに対して予め設定された固定位置および向きに配置され、医薬製品の外表面に亘り、全体の医薬品に関して1ピクセルアレイにより識別特性(すなわち、医薬品からの放射)が得られる。その場合、全体の医薬品からの放射を測定できるように1ピクセルアレイ上の全体の医薬品を光学系124が撮像する。試験医薬製品から試験識別特性を得ている間に、問題となっている医薬品が、真正医薬品として定義されたものと同じ位置および向きに正確に配置され、それにより、2つの真正医薬品および試験医薬品の同じ向きについて比較が行われることとなる。
c.第3の代替的な選択肢は、上述した第1の選択肢と同じである。しかしながら、各時点で医薬製品102の外表面上の別の地点を測定する方法で医薬製品を“スキャン”できるように、光学系が移動可能となっている。
【0089】
なお、1ピクセルアレイの実施形態(特に、初めから2つの代替例)は一般に、より簡素で低コストであり、そのため、例えば住居内など、医薬品のエンドユーザの使用により適している。
【0090】
なお、本発明のシステムは、本明細書内で“能動的”および“受動的”と言及される2の操作モードにおいて原理上は操作できる。受動モードにおいては、加熱または冷却信号を加えることなく、周囲温度において真正および試験識別特性が取得される。一般に、受動モードにおいて、IR放射は、(a)対象物の放射率、(b)選択された波長帯域(MWIRまたはLWIRなど)、(c)対象物の温度(プランク方程式)、(d)周囲温度の関数である。このため、受動モードにあるサーモグラフィシステムの操作は、その内部構造全部の特性ではなく、対象物の表面の特性を殆ど明らかにする。能動モードにおいては、対象物に加熱または冷却信号が加えられている間またはその後に、真正性および試験識別特性が取得される。その場合、製品からのIR放射は、(a)操作波長帯域(MWIRまたはLWIRなど)、(b)対象物の温度(プランク方程式)、(c)周囲温度、(d)対象物の放射率、(e)対象物の熱伝導率、(f)対象物の熱容量、(g)対象物の熱対流、(g)対象物の分子構造による熱パルス吸収の関数である。このため、能動モードにおける本発明の利用は、受動モードにおける操作中に明らかにされない対象物の様々な特性を明らかにすることから、望ましい。本発明のシステムの能動モード操作の結果にすべて影響を及ぼす偽造製品のすべての特性の完全な模倣は実質的に不可能である。
【0091】
[実施例1]
本発明のシステムを使用する能動的サーモグラフィによる検出のために、5つの医薬品サンプル(タブレット)が得られた。4つのタブレットが真正品で、1つのタブレットが偽造品であった。図3は、標準的なCCDカメラにより取得された5つのサンプルのイメージを示している。見て分かるように、5つのすべてのサンプルは、人間の目で見て外観(色彩、形状、寸法)が本質的に同一であり、重さも同一である。中央のタブレット302が偽造品で、その周囲のタブレット303が真正品である。
【0092】
40℃に調整された開放表面上にそれらタブレットが置かれた。パルスが加えられて40℃から20℃にタブレットが冷却された。各タブレットからのMWIR放出は、冷却プロセス中に本発明のシステムを使用して検出された。
【0093】
図5−図7には、640x512の個別の要素を含む検出器アレイを使用した、タブレットのサーモグラフィイメージが示されている。なお、実施された実験におけるイメージには、着色されたスケールの表示が含まれていて、その中で、最も低い温度が青で示される一方、最も高い温度が赤で示された。このスケールの色彩は、その他の温度を表示するために、それら極端な2色の間で変化するものとされた。そのため、この実験において、偽造医薬品の判定は、本出願で提供されている黒および白のイメージよりもさらに容易で且つ区別し易いものであった。かかる理由から、本発明では、変化するMWIRまたはLWIR温度放出の表示用にそのような着色されたスケールを使用することを推奨する。
【0094】
図4は、t=1秒とし、その後に冷却パルスを加えることによって得られた、タブレット302,303の二次元サーモグラフィイメージを示している。その後、タブレット302,303のサーモグラフィイメージは、さらに冷却を行いながら、10秒(図5)および15秒(図6)で取得された。このため、図5−図7は、サーモグラフィ放出の時系列的変化と、40℃から20℃への温度変化を示している。
【0095】
偽造医薬品302のサーモグラフィイメージは、真正医薬品303のそれとは明らかに異なる。図のサーモグラフィイメージは、図示されるように背景の前の人間の目でほとんど検知できなくなるまで(図6)、真正医薬品303の外観が徐々に明るくなっていることを示している。偽造医薬品302は、1秒後に取得された図4と比較して、図5では暗くなり、そして、図6の15秒後のイメージより僅かに明るくなった。
【0096】
[実施例2]
InSb冷却検出器を用いて実現可能性試験が行われた。この実現可能性試験は、イスラエル国の保健省の医薬犯罪ユニットにより提供された、真正品のシアリス錠剤と偽造品のシリアス錠剤との間で比較された。
【0097】
実験室プロトタイプは、
1.MWIR領域(3μm−5.4μm)における冷却検出器と、
2.光学系と、
3.検出器出力から2Dディジタル空間イメージを取得するための電子回路と、
4.加熱信号を加えるための拡張黒体と
により構成された。
【0098】
プロトタイプ装置は図7aに示されている。この装置は、電子機器801と、MWIR領域の焦点面アレイ802と、光学系803と、CI Inc.により製造された黒体804とを備える。シリアルパッケージ805が黒体804上に置かれて示されている。
【0099】
様々な試験が行われた。試験中、様々なサンプルが黒体804上に置かれた。試験の各々においては、黒体は最初に30℃に設定された。黒体の温度を30℃で安定化させた後、全体温度が変化している間に医薬品の放出を1秒毎に記録しながら、その温度が15℃に降下された。得られた連続する10のイメージが平均化されて、各試験について単一のイメージが与えられた。2つの真正品と偽造品のイメージが比較された。
【0100】
図7bは、上記装置により得られた、真正品と偽造品のシリアス錠剤の2つの空のアルミニウムパッケージ間の比較結果を示している。イメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0101】
図7cは、上記装置により得られた、真正品と偽造品のシリアス錠剤の2つの空の紙箱パッケージ間の比較結果をそれぞれ示している。この場合もやはり、2つのイメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0102】
図7dは、CCD(VIS)カメラにより得られた、2つの真正品と偽造品のシリアス錠剤間の比較結果をそれぞれ示している。錠剤が本質的に全く同じに見えることが分かる。
【0103】
図7eは、上記装置により得られた、図7dの2つの真正品と偽造品のシリアス錠剤間の比較結果をそれぞれ示している。2つのイメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0104】
図7fは、CCD(VIS)カメラによって得られた、真正品と偽造品のシアリス錠剤をそれぞれ含む2つの真正品と偽造品のアルミニウムパッケージ間の比較結果を示している。錠剤を含むパッケージが全く同じに見えることが分かる。
【0105】
図7gは、上記装置によって得られた、図7fのシアリス錠剤を含む2つの真正品と偽造品のアルミニウムパッケージ間の比較結果を示している。2つのイメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0106】
図7hは、CCD(VIS)カメラによって得られた、2つの真正品と偽造品の紙箱間の比較結果を示すもので、それら紙箱がアルミニウムパッケージを含み、アルミニウムパッケージの各々が、同様にシアリス錠剤の真正品と偽造品をそれぞれ含んでいる。錠剤入りのアルミニウムパッケージを含むパッケージが全く同じに見えることが分かる。
【0107】
図7iは、本発明の装置によって得られた、図7fの2つの真正品と偽造品の紙箱パッケージ間の比較結果を示すもので、それら紙箱の各々がアルミニウムパッケージを含み、アルミニウムパッケージの各々が、同様にシアリス錠剤の真正品と偽造品をそれぞれ含んでいる。2つのイメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0108】
前述したように、上記実施例は、様々なその他の実施例と同様に、識別特性を得るために幾つかのイメージの平均化を用いて行われた。なお、乗算、積分、微分、除算、加算、差のような、平均化に対する代替例としてその他の数学操作を使用することができる。
【0109】
[実施例3]
非冷却検出器(8μm乃至14μmの範囲)を使用する装置により、実施例3の結果が得られた。実施例2で使用したサンプルと同じものについて、結果が得られた。
【0110】
様々なテストが行われた。試験中、様々なサンプルが黒体804上に置かれた。試験の各々においては、黒体は最初に30℃に設定された。黒体の温度を30℃で安定化させた後、全体温度が変化している間に医薬品の放出を1秒毎に記録(画像化)しながら、その温度が15℃に降下された。得られた連続する10のイメージが平均化されて、各試験の結果として単一のイメージが与えられた。2つの真正品と偽造品のイメージが比較された。
【0111】
図8aは、非冷却装置によって得られた、シアリス錠剤の2つの真正品と2つの偽造品間の比較結果を示している。真正品と偽造品のイメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0112】
図8bは、CCD(VIS)カメラによって得られた、図8aのシアリス錠剤の2つの真正品のイメージと2つの偽造品のイメージを示している。すべての錠剤のイメージが全く同じに見えることが分かる。
【0113】
図8cは、非冷却装置によって得られた、2つの完全に(紙箱とアルミニウムで)包装された真正品のシアリス錠剤と、2つの完全包装された偽造品のシアリス錠剤との間の比較結果を示している。それぞれの真正品と偽造品のイメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0114】
非冷却検出器が冷却検出器よりも非常に安価であることが知られている。二種類の検出器により得られる結果が本質的に同じであることが本発明者等により見出されている。すなわち、双方ともに、非常に区別し易い結果を与える。
【0115】
さらに別の実施形態においては、冷却MWIR検出器と非冷却LWIR検出器の両方が同じシステムで一緒に使用される。そのようなマルチスペクトル検出器の使用は、より大きい範囲の感度を与える。そのようなシステムは、単一の検出器システムよりも高価で複雑であるが、マルチスペクトルシステムは、区別するのが困難な幾つかのケースにおいて有利である。
【0116】
[実施例4]
実施例4においては、InSb(3μm乃至5.4μmの領域)冷却検出器(15μmピッチで640x512ピクセル)を有する装置が使用された。
【0117】
Optalginドロップの真正の容器により試験が行われるとともに、液体Optalginの偽造容器により別の試験が行われた。試験中、サンプルは黒体上に置かれた。試験の各々においては、黒体は最初に30℃に設定された。黒体の温度を30℃で安定化させた後、全体温度が変化している間に医薬品の放出を1秒毎に記録しながら、その温度が15℃に降下された。得られた連続する10のイメージが平均化されて、各試験について単一のイメージが与えられた。2つの真正品と偽造品のイメージが比較された。
【0118】
図9aは、CCD(VIS)カメラによって得られた、真正品と偽造品の液体Optalgin容器のイメージを示している。イメージの中の上側の容器が真正品で、下側が偽造品である。図9bは、上述した実験の結果として上記装置により得られた、同じ容器をそれぞれ示している。見て分かるように、真正品と偽造品の容器のそれら2つのイメージが非常に容易に視覚的に区別可能であることが分かる。
【0119】
例示により本発明の幾つかの実施形態について述べてきたが、請求の範囲を逸脱することなく、数多くの改良、変更および適合により、あるいは当業者の範囲内にある数多くの均等または代替の解決策を使用して、本発明を実行に移すことが可能であるのは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬製品の真正性を判定するための方法であって、
(a)中波長のIR(MWIR)から非常に長波長のIR(VLWIR)までのスペクトルから選択された波長または波長スペクトルにおいて、前記製品の1またはそれ以上のサーモグラフィックIRイメージを取得するステップであって、前記製品が周囲温度未満の温度に冷却されるステップと、
(b)取得した前記製品の1またはそれ以上のイメージまたはそれから推定される定量化数値を、基準医薬品の識別特性と比較するステップと、
(c)前記比較の結果を表示して前記製品の真正性の判定を可能にするステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記製品がイメージングの前に能動的に冷却されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
前記製品を冷却源上または冷却チャンバ内に配置するステップと、前記冷却源上またはその内部に置きながら前記製品を冷却するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
周囲温度未満の冷却を得るのに十分な期間、前記製品を冷却するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法において、
前記製品を冷却するステップが、冷却パルスを前記製品上に加えるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
前記冷却パルスが、デルタ関数、ステップ関数、矩形関数、鋸歯状関数および周期関数またはそれらの組合せから選択された形態であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項3乃至6の何れか1項に記載の方法において、
前記冷却するステップが、熱電冷却器、黒体、冷却チャンバ、ガス膨張源および冷却装置からなる群から選択された冷却源に前記製品を曝すステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法において、
前記1またはそれ以上のIRイメージが、前記冷却するステップ中またはその後のときに取得されることを特徴とする方法。
【請求項9】
医薬製品の真正性を判定するための方法であって、
(a)中波長のIR(MWIR)から非常に長波長のIR(VLWIR)までのスペクトルから選択された波長または波長スペクトルにおいて、前記製品の1またはそれ以上のサーモグラフィックIRイメージを取得するステップであって、前記製品を周囲温度とするステップと、
(b)取得した前記製品の1またはそれ以上のイメージまたはそれから推定される定量化数値を、基準医薬品の識別特性と比較するステップと、
(c)前記比較の結果を表示して前記製品の真正性の判定を可能にするステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の方法において、
前記MWIRからVLWIRまでが、3μmから20μmまでの間であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の方法において、
前記波長または波長スペクトルが、3μm乃至5.4μm、および8μm乃至14μmの範囲から選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の方法において、
前記製品の前記1またはそれ以上のIRイメージを視覚イメージまたは定量化数値に処理するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記処理するステップが、前記製品の前記IRイメージ上で空間または時間領域の数学操作を利用して、前記視覚イメージまたは定量化数値を得ることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の方法において、
前記比較するステップが、取得した前記製品の1またはそれ以上のIRイメージの視覚イメージまたは定量化数値と、基準医薬品の予め設定された識別特性との間の相互の関係を比較するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
基準医薬品の前記予め設定された識別特性が、複数の基準医薬品の視覚イメージまたは定量化数値のデータベースからの視覚イメージまたは定量化数値を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか1項に記載の方法において、
前記比較の結果を表示するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
前記表示するステップが、前記基準医薬品の1またはそれ以上のイメージとともに前記製品の1またはそれ以上の視覚イメージを表示するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載の方法において、
前記表示するステップが、前記製品の1またはそれ以上の視覚イメージと、前記基準医薬品の1またはそれ以上のイメージとをカラー表示するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項15乃至18の何れか1項に記載の方法において、
前記データベースが、基準医薬品の複数の識別特性を含み、それら医薬品が、前記サーモグラフィ装置によりイメージ化可能であって、意図的に導入された少なくとも1の特徴的なサインを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、
前記特徴的なサインが、前記基準医薬品中の1またはそれ以上のコーティングまたは可食性材料、あるいは前記製品中に取り込まれた気泡を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
医薬製品の真正性を判定するためのシステムであって、
中波長のIR(MWIR)から非常に長波長のIR(VLWIR)までのスペクトルから選択された波長または波長スペクトルにおいて、前記製品の1またはそれ以上のサーモグラフィックIRイメージを取得するためのサーモグラフィ赤外線(IR)装置と、
基準医薬品の予め設定された識別特性のデータベースと、
少なくとも前記1またはそれ以上のIRイメージと予め設定された基準医薬品の識別特性とを表示するか、あるいは前記1またはそれ以上のIRイメージと前記予め設定された基準医薬品の識別特性との間の比較結果を表示するための表示ユニットとを備えることを特徴とするシステム。
【請求項22】
請求項21に記載のシステムにおいて、
前記予め設定された基準医薬品の識別特性が、前記データベースから取り出されることを特徴とするシステム。
【請求項23】
請求項21または22に記載のシステムにおいて、
前記データベースを有するメモリを備えることを特徴とするシステム。
【請求項24】
請求項21乃至23の何れか1項に記載のシステムにおいて、
周囲温度未満の温度に前記製品を冷却するための冷却源を備えることを特徴とするシステム。
【請求項25】
請求項24に記載のシステムにおいて、
前記冷却源と前記サーモグラフィIR装置との間に前記製品を保持するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項26】
請求項24または25に記載のシステムにおいて、
前記冷却源が、熱電冷却器、黒体、冷却チャンバ、ガス膨張源および冷却装置からなる群から選択されることを特徴とするシステム。
【請求項27】
請求項24乃至26の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記冷却源が、周囲温度未満に前記製品を冷却可能とするのに十分な期間、冷却パルスを前記製品上に加えるように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項28】
請求項27に記載のシステムにおいて、
前記冷却パルスが、デルタ関数、ステップ関数、矩形関数、鋸歯状関数および周期関数またはそれらの組合せから選択された形態で加えられることを特徴とするシステム。
【請求項29】
医薬製品の真正性を判定するためのシステムであって、
中波長のIR(MWIR)から非常に長波長のIR(VLWIR)までのスペクトルから選択された波長または波長スペクトルにおいて、前記製品の1またはそれ以上のサーモグラフィックIRイメージを取得するためのサーモグラフィ赤外線(IR)装置と、
周囲温度未満の温度に前記製品を冷却するための冷却源と、
少なくとも前記1またはそれ以上のIRイメージと基準医薬品の識別特性とを表示するか、あるいは前記1またはそれ以上のIRイメージと前記基準医薬品の識別特性との間の比較結果を表示するための表示ユニットとを備えることを特徴とするシステム。
【請求項30】
請求項21乃至29の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記MWIRからVLWIRまでが、3μmから20μmまでの間であることを特徴とするシステム。
【請求項31】
請求項21乃至30の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記波長または波長スペクトルが、3μm乃至5.4μm、および8μm乃至14μmの範囲から選択されることを特徴とするシステム。
【請求項32】
請求項21乃至31の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記サーモグラフィIR装置が、前記冷却中またはその後のときに、1またはそれ以上のIRイメージを取得するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項33】
請求項21乃至32の何れか1項に記載のシステムにおいて、
取得した前記製品の1またはそれ以上のIRイメージと、基準医薬品の予め設定された識別特性とを比較するための比較ユニットを備えることを特徴とするシステム。
【請求項34】
請求項33に記載のシステムにおいて、
前記比較ユニットが、取得した前記1またはそれ以上のIRイメージを前記サーモグラフィIR装置から受信して、その1またはそれ以上のイメージを、前記基準医薬品の識別特性と比較可能な視覚イメージまたは定量化数値へと処理するように構成された処理ユニットを備えることを特徴とするシステム。
【請求項35】
請求項21乃至34の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記表示ユニットが、前記製品と前記基準医薬品それぞれの1またはそれ以上の視覚イメージまたは定量化数値を表示するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項36】
請求項21乃至35の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記基準医薬品の前記1またはそれ以上のIRイメージを表示することを特徴とするシステム。
【請求項37】
請求項32乃至35の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記比較ユニットが、取得した前記1またはそれ以上のIRイメージを基準医薬品の識別特性と比較して処理するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項38】
請求項37に記載のシステムにおいて、
前記比較が、取得した前記1またはそれ以上のIRイメージと、前記製品に利用される条件と同じ条件で得られた前記基準医薬品の1またはそれ以上の視覚イメージまたは定量化数値との間で行われることを特徴とするシステム。
【請求項39】
請求項21乃至38の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記基準医薬品が真正の医薬品であることを特徴とするシステム。
【請求項40】
請求項29乃至39の何れか1項に記載のシステムにおいて、
基準医薬品の予め設定された識別特性のデータベースを備えることを特徴とするシステム。
【請求項41】
請求項21乃至29、40の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記データベースが、基準医薬品の複数の識別特性を含み、それら医薬品が、前記サーモグラフィ装置によりイメージ化可能であって、意図的に導入された少なくとも1の特徴的なサインを含むことを特徴とするシステム。
【請求項42】
請求項41に記載のシステムにおいて、
前記特徴的なサインが、前記基準医薬品中の1またはそれ以上のコーティングまたは可食性材料、あるいは前記製品中に取り込まれた気泡を含むことを特徴とするシステム。
【請求項43】
請求項21乃至29、40乃至42の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記データベースが、前記サーモグラフィ赤外線(IR)装置に対して離れて配置されていることを特徴とするシステム。
【請求項44】
請求項33乃至43の何れか1項に記載のシステムにおいて、
前記比較ユニットが、前記サーモグラフィ赤外線(IR)装置に対して離れて配置されていることを特徴とするシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【図7e】
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【図7f】
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【図7g】
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【図7h】
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【図7i】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9a】
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【図9b】
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【公表番号】特表2010−536025(P2010−536025A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519565(P2010−519565)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際出願番号】PCT/IL2008/001088
【国際公開番号】WO2009/019698
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(510033620)セミ−コンダクター ディバイセズ − アン エルビット システムズ−ラファエル パートナーシップ (2)
【氏名又は名称原語表記】SEMI−CONDUCTOR DEVICES − AN ELBIT SYSTEMS−RAFAEL PARTNERSHIP
【Fターム(参考)】