説明

サーモグラフィ装置

【課題】赤外画像と可視画像とが視差を生じず、構造が単純なサーモグラフィ装置を提供する。
【解決手段】サーモグラフィ装置は、可視光波長に感度を有するカメラ2と、赤外光波長に感度を有するカメラ1とが光軸C1と光軸C2とを交差して配置されており、二つのカメラのうち一方のカメラ1から被測定物Oに向かう直線光路C1上に、被測定物O側の片面が鏡面12であって光透過孔5を有する移動チョッパー3を備え、該移動チョッパーの鏡面12による反射光路が前記二つのカメラのうち別な一方のカメラ2の光軸C2に一致するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の輪郭並びに温度分布を明確に表示できるサーモグラフィに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラント設備や電気設備の点検、食品や薬品の品質管理、火山や不審者の監視など様々な用途に、サーモグラフィが広く使用されている。サーモグラフィは、被測定物に接触することなく広範囲の温度を検出できる。
【0003】
サーモグラフィは、赤外線カメラによって被測定物から放射又は反射される赤外光の波長を検出する。検出した赤外光波長の強度から温度を求めて、色の濃淡や色分けなどの画像処理を施し、熱画像として表示する。
【0004】
全体的に温度差の小さい被測定物は、目視では明瞭な物体であっても、不明瞭な熱画像として表示される。そのため、赤外カメラによる熱画像と同時に可視光カメラによる可視画像を撮像し、これを熱画像に合成することで明瞭な熱画像として表示する方法が用いられている。ところが、赤外カメラと可視光カメラは配置位置が違うため、視差(パララックス)が生じ、熱画像と可視画像とを合成しても画像がずれるという問題がある。
【0005】
特許文献1に、赤外カメラ、ディジタルカメラと、これらのカメラを水平方向及び垂直方向に振るパンチルト雲台と、処理装置とを備えた赤外線構造診断システムが示されている。赤外カメラ及びディジタルカメラは、パンチルト雲台を振ることにより被測定物の方向に向けられ、撮像される。撮像された熱画像と可視画像とは処理装置にて合成される。このシステムにおいて、被測定物と撮像部との距離が無限遠であれば、2つのカメラの間に視差は生じない。しかし、被測定物と撮像部とが近接して撮像されると、視差が生じてしまう。また、赤外カメラ及びディジタルカメラをパンチルト雲台に乗せて振るという大掛かりな装置を必要とするうえに、赤外カメラ及びディジタルカメラが振動により故障を来たす可能性が大きい。
【0006】
特許文献2に、被写体面と赤外線センサーとの光軸間にハーフミラーを配置し、反射光路上にCCDカメラを備えた赤外線放射温度計測装置が記載されている。ハーフミラーは、赤外線を透過して可視光を反射する。その特性を利用して、入射光束を赤外線と可視光を含むそれ以外の光とに分岐させて、それぞれの画像を得ている。この計測装置において、赤外線センサーとCCDカメラとは光路が一致しているので、視差が生じない。しかし、赤外線の量はハーフミラーの透過によって損失する。そのため、測定の感度が低下してしまう。また、ハーフミラーは特殊なミラーであるため、製造コストがかかる。
【0007】
その他、視差によるずれを含む熱画像と可視画像とを、撮像の後に画像処理を施すことにより補正する方法もある。しかし、この方法はリアルタイムで画像を確認することができない。
【0008】
【特許文献1】特開2005−37366号公報
【特許文献2】特開平11−183258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、熱画像と可視画像とが視差を生じず、構造が単純なサーモグラフィを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたサーモグラフィ装置は、可視光波長に感度を有するカメラと、赤外光波長に感度を有するカメラとが光軸を交差して配置されており、前記二つのカメラのうち一方のカメラから被測定物に向かう直線光路上に、該被測定物側の片面が鏡面であって光透過部を有する移動チョッパーを備え、該移動チョッパーの鏡面による反射光路が前記二つのカメラのうち別な一方のカメラの光軸に一致するように配置されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載のサーモグラフィ装置は、請求項1に記載されたもので、該移動チョッパーが回転チョッパーであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載のサーモグラフィ装置は、請求項1に記載されたもので、前記二つのカメラの光軸が90度の角で交差し、該回転チョッパーの回転軸が二つのカメラの光軸に対して各々45度傾いていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載のサーモグラフィ装置は、請求項1に記載されたもので、該移動チョッパーの光透過部が、移動方向に短径の略楕円であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載のサーモグラフィ装置は、請求項1に記載されたもので、前記可視光波長カメラの光軸が被測定物に向かって配置され、前記赤外光波長カメラの光軸が該鏡面の光路に一致するように配置され、該鏡面の反射波長が少なくとも赤外光波長を持つことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載のサーモグラフィ装置は、請求項1に記載されたもので、前記赤外光波長カメラの光軸が被測定物に向かって配置され、前記可視光波長カメラの光軸が該鏡面の光路に一致するように配置され、該鏡面の反射波長が少なくとも可視光波長を持つことを特徴とする。
【発明の作用および効果】
【0016】
本発明のサーモグラフィ装置は、被測定物から赤外光波長カメラに向かう光路上に移動チョッパーの光透過部があるとき、光を光透過部に通過させて、赤外波長を赤外光波長カメラにより検出して赤外画像を撮像し、光路上に移動チョッパーの鏡面があるとき、光を鏡面で反射させて、可視光を可視光波長カメラにより検出して可視画像を撮像する。または被測定物から可視光波長カメラに向かう光路上に移動チョッパーの光透過孔があるとき、光を光透過部に通過させて、可視光を可視カメラにより検出して可視画像を撮像し、光路上に移動チョッパーの鏡面があるとき、光を鏡面で反射させて、赤外光を赤外光波長カメラにより検出して赤外画像を撮像する。そのため、このサーモグラフィ装置では、二つの光路は一致し、赤外画像と可視画像との視差を生じないから、可視画像と赤外画像とを合成した熱画像は鮮明になる。
【0017】
またサーモグラフィ装置の稼動部分、すなわち移動チョッパーは、構造が簡単であるうえに、赤外光波長カメラおよび可視光波長カメラから離れているので、その稼動部分による振動等がない。
【0018】
さらに、本発明を適用するサーモグラフィによれば、カメラによる赤外画像と可視画像との視差を生じないから、光路の傾き調整や画像処理は不要である。さらに、赤外光は被測定物から赤外光波長カメラに直接到達するので、到達途中で損失することがない。
【0019】
可視光波長カメラの出力画像データと前記赤外光波長カメラの出力画像データとが移動チョッパーの移動速度に同期する遅延回路で同一タイミングの画像データにされてから、画像処理回路で合成されることで、可視画像と赤外画像の合成画像である熱画像は、熱分布と画像境界線とが完全に一致した鮮明な画像が得られる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を、図を参照して詳細に説明する。しかし本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明を適用するサーモグラフィの一実施形態の構成が図1に示してある。サーモグラフィは、赤外光波長カメラ1、可視光波長カメラ2、回転チョッパー3、画像処理部7及び液晶表示装置8からなる。
【0022】
赤外光波長カメラ1は、その光軸C1が被測定物Oに向かって直進する位置に配置される。可視光波長カメラ2は、その光軸C2が赤外光波長カメラ1の光軸C1と垂直に交差するように配置される。回転チョッパー3は、回転軸6が回転駆動モータ4に繋げられており、円形の光透過孔5が開けられた円板である。表面が鏡面12となっている(図2参照)。
【0023】
赤外光波長カメラ1の光軸C1および可視光波長カメラ2の光軸C2と同一平面上に回転チョッパー3の回転軸6が位置する。回転チョッパー3は、光軸C1およびC2の交点上に、被測定物O側に鏡面12を向けて位置し、光軸C1およびC2に対して45度の角度に傾けるように配置される。赤外光波長カメラ1および可視光波長カメラ2は、画像処理部7を介して可視画像と赤外画像の合成画像を表示するための液晶表示装置8に接続される。
【0024】
図4は図1に示したサーモグラフィのブロック回路図を示している。赤外光波長カメラ1の出力はアナログ増幅器11、パルス発生器9に繋がる遅延回路13、およびアナログ/デジタル(A/D)変換器15を経て画像信号合成回路16に接続されている。パルス発生器9は回転駆動モーターであるパルスモーター4に接続している。
【0025】
可視光波長カメラ2の出力はアナログ増幅器10、およびアナログ/デジタル(A/D)変換器14を経て画像信号合成回路16に接続されている。画像信号合成回路16はデジタル/アナログ(D/A)変換器17を経て映像信号変換部18に接続され、映像信号変換部18の出力が液晶表示装置8に繋がっている。
【0026】
この図1に示したサーモグラフィで、モーター4で駆動されて回転チョッパー3が回転し、光透過孔5が光軸C1上に位置するとき、被測定物Oからの光は光透過孔5を通るから、赤外線像は赤外光波長カメラ1で撮影される。その赤外線画像信号は、増幅器11で増幅され、遅延回路13によりパルス発生器9から出るパルスモータ4へのパルスに同期遅延し、A/D変換器15にてデジタル変換されて画像信号合成回路16に入力する。さらに回転チョッパー3が回転し、光透過孔5が光軸C1から外れると、被測定物Oからの光は鏡面12で反射されるから、可視像が可視光波長カメラ2で撮影される。その可視画像信号は、増幅器10で増幅され、A/D変換器14にてデジタル変換されて画像信号合成回路16に入力する。
【0027】
赤外線の画像デジタル信号は、遅延回路13によりパルスモータ4の回転時間と同期して遅れるから、可視画像デジタル信号と同時に画像信号合成回路16に入る。画像信号合成回路16では、赤外線の画像デジタル信号と可視画像デジタル信号がデジタル合成され、可視画像による縁取り信号からはみ出す色分け(赤外線による温度分布)信号はデジタル演算処理によりカットされて、デジタル画像信号が創生される。
【0028】
このデジタル画像信号はD/A変換器17にてアナログ変換され、映像信号変換部18にて水平同期、垂直同期の付加された映像信号に変換され液晶表示装置8に出力される。液晶表示装置8に映し出される画像は可視画像による縁取りをされ、色分けにより温度分布が示される。尚、D/A変換器17を使用せず、デジタル画像信号をそのまま表示装置にて表示することも可能である。
【0029】
図3は、本発明を適用するサーモグラフィの回転チョッパーの別な実施例を示す正面図である。この回転チョッパー23は、回転方向に短径の楕円形の光透過孔25を有している。光透過孔25の楕円形の長さの比率は、短径:長径=1:1.4となっている。
【0030】
光透過孔5をこのような楕円形とすることで、光路に対して45度傾斜している回転チョッパー23の光透過孔25は、光軸C1が直線上に赤外光波長カメラ1から見通すと実質円形の孔となる。したがって、赤外光波長カメラ1に到達する赤外光のケラレはでない。
【0031】
光透過孔の形状として円形および楕円形を示したが、それら以外の形状でもよく、複数あってもよい。また、必ずしも孔を有する形状である必要は無く、片面が鏡面であって回転する半円形の板や短冊状の板であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を適用するサーモグラフィの概要図である。
【図2】本発明を適用するサーモグラフィの回転チョッパーの図である。
【図3】本発明を適用するサーモグラフィの別な回転チョッパーの図である。
【図4】本発明を適用するサーモグラフィのブロック回路図である。
【符号の説明】
【0033】
1は赤外光波長カメラ、2は可視光波長カメラ、3・23は回転チョッパー、4はパルスモータ、5・25は光透過孔、6は回転軸、7は画像処理部、8は液晶表示装置、9はパルス発生器、10・11はアナログ増幅器、12は鏡面、13は遅延回路、14・15はアナログ/デジタル(A/D)変換器、16は画像信号合成回路、17はデジタル/アナログ(D/A)変換器、18は映像信号変換部、C・Cは光軸、Oは被測定物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光波長に感度を有するカメラと、赤外光波長に感度を有するカメラとが光軸を交差して配置されており、前記二つのカメラのうち一方のカメラから被測定物に向かう直線光路上に、該被測定物側の片面が鏡面であって光透過部を有する移動チョッパーを備え、該移動チョッパーの鏡面による反射光路が他方のカメラの光軸に一致するように配置されていることを特徴とするサーモグラフィ装置。
【請求項2】
該移動チョッパーが回転チョッパーであることを特徴とする請求項1に記載のサーモグラフィ装置。
【請求項3】
前記二つのカメラの光軸が90度の角で交差し、該回転チョッパーの回転軸が二つのカメラの光軸に対して各々45度傾いていることを特徴とする請求項1に記載のサーモグラフィ装置。
【請求項4】
該移動チョッパーの光透過部が、移動方向に短径の略楕円であることを特徴とする請求項1に記載のサーモグラフィ装置。
【請求項5】
前記可視光波長カメラの光軸が被測定物に向かって配置され、前記赤外光波長カメラの光軸が該鏡面の光路に一致するように配置され、該鏡面の反射波長が少なくとも赤外光波長を持つことを特徴とする請求項1に記載のサーモグラフィ装置。
【請求項6】
前記赤外光波長カメラの光軸が被測定物に向かって配置され、前記可視光波長カメラの光軸が該鏡面の光路に一致するように配置され、該鏡面の反射波長が少なくとも可視光波長を持つことを特徴とする請求項1に記載のサーモグラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−145270(P2008−145270A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332922(P2006−332922)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】