説明

サーモトロピック液晶ポリエステル

【課題】生物起源物質から得ることが可能な原料モノマーから得られる構成単位を含む、耐熱性および流動性に優れたサーモトロピック液晶ポリエステルを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


(上記一般式(1)中、Rは炭素数2〜12のアルキレン基であり、R、R、R、およびRはそれぞれ独立にH、OCH、OCのいずれかであるが、少なくとも1つはHではなく、nは0.1〜0.5である。)の構成単位を含み、還元粘度が0.1〜1.00dL/g、5%質量損失温度(T)が250〜400℃のサーモトロピック液晶ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物起源物質から得ることが可能な原料モノマーから得られる構成単位を含む、耐熱性および流動性が良好なサーモトロピック液晶ポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まっており、種々の高性能プラスチックが開発され市場に供されている。なかでも特に、剛直な分子鎖からなり、溶融時に光学異方性(異方性溶融相)を示すサーモトロピック液晶ポリマーは耐熱性、加工性が良好であり電気電子材料を中心に用途展開が図られている。
【0003】
このようなサーモトロピック液晶ポリマーとしては、4−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸との共重合体である全芳香族ポリエステルが良好な物性を示すことは古くから知られており(例えば、特許文献1)、当該共重合体については工業生産もされている。
【0004】
しかし、一般的なポリマーと同様に、サーモトロピック液晶ポリマーも、石油資源から得られる原料を用いて製造されている。現在、石油資源の枯渇および二酸化炭素による地球温暖化が懸念されており、植物などの生物起源物質から得られる原料を用いたポリマーが求められている。生物起源物質から得ることが可能な原料モノマーでサーモトロピック液晶ポリマーを製造することを試みる場合、ヒドロキシ安息香酸の構造を有し、植物を起源とする製造方法も知られている4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸(バニリン酸)や4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシ安息香酸シリンガ酸、更にはこれらの誘導体を用いることが考えられる。
【0005】
しかし、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸の重合体(例えば特許文献2)や4−ヒドロキシ安息香酸と4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸との共重合体(例えば、特許文献3)など、バニリン酸(誘導体)ポリマーは報告されているものの、液晶性を有するもの、つまり、バニリン酸やシリンガ酸を原料とするサーモトロピック液晶ポリエステルは見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−3888号公報
【特許文献2】特開2009−256646号公報
【特許文献3】特公昭52−49514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、生物起源物質から得ることが可能な原料モノマーから得られる構成単位を含む、耐熱性および流動性に優れたサーモトロピック液晶ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討し、ヒドロキシ安息香酸類のフェノール性ヒドロキシ基をヒドロキシアルキルエーテル化したもの(以下、エーテル化モノマーと略することがある)と、フェノール性ヒドロキシ基がヒドロキシアルキルエーテル化されていないヒドロキシ安息香酸類(以下、非エーテル化モノマーと略することがある)とを共重合させたポリエステル(ただし、エーテル化モノマーおよび非エーテル化モノマーのうち少なくともいずれかは、その芳香環上に1つ以上のメトキシ基を有すルものである)がサーモトロピック液晶性を示し、耐熱性および流動性に優れていることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨を以下に示す。
【0009】
1. 下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは炭素数2〜12のアルキレン基であり、R、R、R、およびRはそれぞれ独立にH、OCH、OCのいずれかであるが、少なくとも1つはHではなく、nは0.1〜0.5である。)
の構成単位を含み、以下に示す(i)および(ii)の条件を満たすサーモトロピック液晶ポリエステル。
(i)ペンタフルオロフェノール溶媒を用い、試料濃度0.6g/dL、60℃にて測定した還元粘度が0.1〜1.00dL/g。
(ii)5%質量損失温度(T)が250〜400℃。
2. 上記一般式(1)において、RとRの一方がHで他方がOCHであり、R、Rが共にHである上記1.項に記載のサーモトロピック液晶ポリエステル。
3. 上記一般式(1)において、RとRのうち一方がHで他方がOCHであり、R、Rのうち一方がHで他方がOCHである上記1.項に記載のサーモトロピック液晶ポリエステル。
4. 下記一般式(2)
【化2】

(上記一般式(2)中、Aは水素またはアセチル基であり、R、R、およびRの定義は前記一般式(1)と同じであり、Xはヒドロキシ基、塩素基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはフェノキシ基である。)
にて表されるエーテル化モノマーと、下記一般式(3)
【化3】

(上記一般式(3)中、Aは水素またはアセチル基であり、RおよびRの定義は前記一般式(1)と同じであり、Xはヒドロキシ基、塩素基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはフェノキシ基である。)
にて表される非エーテル化モノマーとを、重縮合させることを特徴とする上記1.項記載のサーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法。
5. 前記一般式(2)におけるXがヒドロキシ基であり、Aがアセチル基である、下記一般式(4)
【化4】

(上記一般式(4)中、R、R、およびRの定義は前記一般式(1)と同じである。)
で表されるエーテル化モノマーと、前記一般式(3)におけるXがヒドロキシ基でありAがアセチル基である、下記一般式(5)
【化5】

(上記一般式(5)中、RおよびRの定義は前記一般式(1)と同じである。)
で表される非エーテル化モノマーとを、触媒の存在下に重縮合反応させることを特徴とする上記4.項記載のサーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生物起源物質から得ることが可能な原料モノマーから得られる構成単位を含む、耐熱性および流動性に優れたサーモトロピック液晶ポリエステル(Thermotropic liquid crystal polyester)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態につき詳細に説明する。尚、本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0012】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、前項一般式(1)の構成単位を含むものである。なお、前項一般式(1)は構成単位中のエーテル化モノマー由来の残基の構造、非エーテル化モノマー由来の残基の構造、およびそれらの残基の比率(共重合比)を示すものであり、本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルが特定のブロック共重合体や交互共重合体に限定されることを意味するものではない。
【0013】
前記一般式(1)におけるRは炭素数2〜12のアルキレン基であり、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、ペンチレン基、ネオペンチレン基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基、3−メチルペンタン−1,5−ジイル基、ジメチルメチレン基、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジイル基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基(例えば、1,6−シクロヘキサンジイル基等)、ヘプチレン基、シクロへキサン−1,4−ジメチル基(位置異性体を含む)、オクチレン基、2−エチル−ヘキシレン基、ノニレン基、デカレン基、ウンデカレン基、ドデカレン基などからなる群より得らばれる1種以上を挙げることができ、このうち炭素数2〜8の脂肪族基であるものが好ましく、炭素数2〜4であるのものがより好ましい。
【0014】
前記一般式(1)におけるR、R、R、およびRは、それぞれ独立にH、OCH、OCのいずれかであるが、少なくとも1つはHではないものであり、少なくとも1つがOCHであると好ましく、R、Rの一方が水素、もう一つがメトキシ基のもの、またはR、Rの双方がメトキシ基のものであり、かつ、R、Rの一方が水素、もう一つがメトキシ基のもの、またはR、Rの双方が水素のものがより好ましい。
前記一般式(1)におけるnは0.2〜0.4であると好ましく、0.25〜0.35であるとより好ましい。
【0015】
なお、一般的に、ポリマーがサーモトロピック液晶性を示すか否かは偏光顕微鏡を用いて確認することができる。すなわち、溶融状態のポリマーが90°に交差した一対の偏光子を備えた光学系、いわゆるクロスニコル下において、全範囲またはその一部に光を通過させる性質を示した場合、光学異方性(異方性溶融相)を示したものと判定される。本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルについても、上記方法により異方性溶融相を示すことを確認できる。
【0016】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルとしては、前記一般式(1)におけるRが炭素数2〜8の脂肪族基であり、R、Rについては一方が水素、もう一つがメトキシ基のもの、またはR、Rの双方がメトキシ基のものであり、R、Rについては一方が水素、もう一つがメトキシ基、またはR、Rの双方が水素であり、かつnが0.2〜0.4であるものが好ましい。
【0017】
更に、本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルとして、特に好ましくは、前記式(1)におけるRが炭素数2〜4の脂肪族基であり、R、Rのうち一方が水素、もう一方がメトキシ基であり、かつR、Rの双方が水素であり、かつnが0.25〜0.35のものである。
【0018】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルについては、ペンタフルオロフェノール溶媒を用い、試料濃度0.6g/dL、60℃にて測定した還元粘度が0.1から1.00dL/gであることが肝要であり、好ましくは0.2〜0.8dL/gである。還元粘度が0.1dL/gより低くなると液晶性を示さず、また還元粘度が1.00dL/gよりも高くなると溶融粘度が高く成形が困難となり好ましくない。
【0019】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、その5%質量減少温度(一般的には5%重量減少温度と呼ばれる)が250℃以上であり、より好ましくは300℃以上である。5%質量減少温度が250℃未満であると、溶融成形時でのポリマー分解が顕著になり、成形性が悪くなる。本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルの5%質量減少温度の上限値については高い方が好ましく特段の制限はないものの、現実的に可能な値としては400℃であり、各種用途における必要性からすると、350℃でも充分である。なお、上記の5%質量減少温度は、窒素流通下に測定されたものであると好ましい。5%質量減少温度の測定条件の一例として、窒素雰囲気下(窒素流量 100mL/min)、昇温速度10℃/min、標準試料としてアルミナを使用との測定条件が挙げられる。
【0020】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、ASTM D6866 08に準拠して測定された生物起源物質含有率が10質量%以上であると好ましく、40質量%以上であるとより好ましい。
【0021】
次に、本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルを製造する方法について例示する。
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、前記一般式(2)にて表されるエーテル化モノマーと、前記一般式(3)にて表される非エーテル化モノマーとを、重縮合反応させることにより得ることができる。ここで、エーテル化モノマーと非エーテル化モノマーとを、それぞれn:1−nの共重合率となるよう重縮合させ前記一般式(1)にて示される構成単位をなるようにするには、多くの場合、重縮合反応を行う際の両モノマーの仕込み比をn:1−nとすればよく、反応性に差異があり仕込み比と生成したサーモトロピック液晶ポリエステルの共重合率に差異がある場合は、仕込み比を調整すれば良い。
【0022】
なお、上記一般式(2)中R、R、およびR、並びに上記一般式(3)中のRおよびR、並びにその組み合わせ、更にそれらの好ましいものは、一般式(1)に関して前述したものと同じである。
【0023】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルを得るための上記重縮合反応の方法・条件としては公知のものを適用することができるが、前記一般式(2)におけるXがヒドロキシ基であり、Aがアセチル基であるエーテル化モノマーと(下記一般式(4)で表され、以下、アセトキシアルコキシ安息香酸型モノマーと称することがある)、
【化6】

(上記一般式(4)中、R、R、およびRの定義は前記一般式(1)と同じである。)
と、前記一般式(3)におけるXがヒドロキシ基でありAがアセチル基である非エーテル化モノマー(下記一般式(5)で表され、以下、アセトキシ安息香酸型モノマーと称することがある)
【化7】

(上記一般式(5)中、RおよびRの定義は前記一般式(1)と同じである。)
とを、触媒の存在下に重縮合反応させる方法が好ましい。これらのアセトキシアルコキシ安息香酸型モノマーとアセトキシ安息香酸型モノマーは、それぞれ、前記一般式(2)におけるXおよびAが、それぞれヒドロキシ基および水素であるエーテル化モノマーと、前記一般式(3)におけるXおよびAが、それぞれヒドロキシ基および水素である非エーテル化モノマーを無水酢酸でアセチル化して得ることができる。アセチル化の方法・条件としては公知のものを利用することができる。無水酢酸によりアセチル化にて生成した、アセトキシアルコキシ安息香酸型モノマーやアセトキシ安息香酸型モノマーを単離して精製してから重縮合反応に用いてもよく、単離することなくアセチル化反応混合物のまま重縮合反応に用いても良い。また、以下に示す重縮合反応に用いられる触媒をアセチル化反応の段階から加えておいても良い。
【0024】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルを得るための重縮合反応に用いられる触媒としては、周期律表第I族のリチウム、ナトリウム、カリウム等、周期律表第II族のベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等、及び、アンチモン、亜鉛、カドミウム、モリブデン、ニッケル、銅、銀、水銀、鉛、白金、パラジウム、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、マンガン、鉄、及びコバルトの、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機錯体、及びハロゲン化物等からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素成分が含有された化合物を使用するのが好ましい。
【0025】
重縮合触媒として用いるチタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、乳酸チタン、チタンアセチルアセトナート、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、臭化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、六フッ化チタン酸アンモニウム、チタンアセチルアセトナート等からなる群から選択された少なくとも1種が挙げられ、中でも、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウムからなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。
【0026】
また、重縮合触媒として用いるアンチモン化合物としては、具体的には、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン、トリフェニルアンチモン、アンチモングリコレート等からなる群から選択された少なくとも1種が挙げられ、中でも、三酸化アンチモンが好ましい。また、周期律表第I族の金属化合物としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等、周期律表第II族の金属の化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等からなる群から選択された少なくとも1種が挙げられる。その他、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、亜鉛メトキサイド、亜鉛アセチルアセトナート、塩化亜鉛等の亜鉛化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラブトキシド、蓚酸ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酸化マンガン、水酸化マンガン、マンガンメトキサイド、酢酸マンガン、安息香酸マンガン、マンガンアセチルアセトナート、塩化マンガン等のマンガン化合物、蟻酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、安息香酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート、炭酸コバルト、蓚酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト等のコバルト化合物、酸化鉛等の鉛化合物、酢酸カドミウム等のカドミウム化合物等からなる群から選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
上記触媒の使用量は、エーテル化モノマーと非エーテル化モノマーとの合計1モルあたり、1×10−9〜1×10−1モル(触媒化合物の金属元素基準)であると好ましく、1×10−7〜1×10−2モルであるとより好ましく、1×10−5〜5×10−3であると更に好ましい。
【0028】
前記重縮合反応の条件としては、120〜350℃の反応温度であると好ましい。特に、反応初期の0時間(アセチル化反応終了後や原料のエーテルモノマー等の溶融後、速やかに次の段階の200〜350℃への昇温を開始することを意味する)〜5時間を常圧下(意図的に減圧操作をしないことを意味し、通常の大気圧0.096〜0.106MPa程度を指す)、120℃以上200℃未満の温度に保ち、その後、徐々に昇温して200〜350℃にて0.5〜8時間重縮合反応させることが好ましい。更に、200〜350℃に昇温する際、または昇温後に1mmHg(0.13kPa)以下の可能な限りまで減圧してから0.5〜5時間重縮合反応させるとの条件が好ましい。
【0029】
前記重縮合反応において無水酢酸の使用量は、エーテル化モノマーと非エーテル化モノマーとの合計1モルあたり1〜2倍モルであると好ましく、1.2〜1.7倍モルであるとより好ましい。無水酢酸の使用量が少ないと、重縮合反応時にモノマー類やオリゴマーが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、多すぎると、得られるサーモトロピック液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0030】
上記のように重縮合反応を行い得られたサーモトロピック液晶ポリエステルに対して固相重合を行い、更に重合度を高めても良い。該固相重合の条件や装置についてはポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートの固相重合方法に関して公知のものを適用できる。
【0031】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは単独で用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の芳香族ヒドロキシカルボン酸との共重合体として用いても良い。
【0032】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは単独で用いてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性ポリマー(例えば、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアリレート、本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルとは異なる液晶性ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、シリコーン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィンなど)、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維、有機繊維、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、タルク、クレーおよびマイカなど)、天然高分子(ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリヒドロキシバリレート/ヘキサノエート、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤など)、難燃添加剤(リン系、ブロモ系など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系など)、流動改質剤、着色剤、光拡散剤、赤外線吸収剤、有機顔料、無機顔料、離形剤、可塑剤などを添加することができる。
【0033】
なお、本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルの原料として用いることができる前記一般式(2)のエーテル化モノマーは、バニリン酸等のヒドロキシ安息香酸またはその誘導体をアルカリ性触媒の存在下で、エチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド、モノハロゲン化脂肪族アルコール、またはアルキレンレンカーボネートとともに加熱反応させる等の公知の方法(例えば、米国特許第2,686,198号公報、特開2009−256646号などに記載の方法)によって、該ヒドロキシ安息香酸(誘導体)のフェノール性ヒドロキシ基をヒドロキシアルキルエーテル化して得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0035】
1)還元粘度 ηsp/C
特に記載が無い限り、ポリマー(サーモトロピック液晶ポリエステル)試料0.06gを、ペンタフルオロフェノール17.6g(ポリマー濃度が約0.6g/dL)に溶解した試料溶液を用いて、濃度60℃にて、ウベローデ粘度計を使用して測定した結果より、下記式にて求めた。
ηsp/C[dL/g]=(t/t−1)/0.6
t:試料溶液のフロータイム
:溶媒のみのフロータイム
【0036】
2) ガラス転移温度、融点
TA Instruments社製DSC (型式DSC2920)により、昇温速度10℃/min、2nd Runにて測定した。
【0037】
3) 5%質量減少温度
Rigaku社製 TGA (型式 TG 8120 Thermo plus)により、窒素雰囲気下(窒素流量 100mL/min)、昇温速度10℃/minにて、標準試料としてアルミナを用いて測定した。
【0038】
4) サーモトロピック液晶性の確認
得られたポリエステルがサーモトロピック液晶ポリエステルであるか否かは、偏光顕微鏡を備えたメルティング装置を用い、クロスニコル下において、溶融状態のポリエステル試料が、異方性溶融相を示すか否かを観察し判定した。
【0039】
[実施例1]
4−ヒドロキシ安息香酸9.86g(71.4ミリモル)と4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸6.49g(30.6ミリモル)、無水酢酸14.6mL(0.155モル)を反応器に入れ、重合触媒として三酸化アンチモンを15.0mg(5.15×10−2ミリモル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で150℃に加熱し2時間反応させた。その後反応槽を4時間かけて徐々に270℃まで温度を上げながら、生成する酢酸を留去し、この状態で1時間反応後、1時間かけて0.5mmHg(0.067kPa)まで減圧した。減圧後さらに2時間反応させた。その結果、還元粘度0.21dL/gの、220℃で異方性溶融相を示すサーモトロピック液晶ポリエステルが得られた。このサーモトロピック液晶ポリエステルの5%質量減少温度は335℃であった。
【0040】
[実施例2]
4−アセトキシ安息香酸10.9g(60.7ミリモル)と4−(2−アセトキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸7.00g(27.5ミリモル)を反応器に入れ、重合触媒として三酸化アンチモンを16.9mg(5.80×10−2ミリモル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で190℃に加熱し溶融させた。撹拌下、反応槽内を1.5時間かけて徐々に230℃まで温度を上げた。その後、2時間かけて0.5mmHg(0.067kPa)まで減圧すると同時に5時間かけて昇温し、その後さらに1時間反応させた。その結果、還元粘度0.28dL/gの、220℃で流動性のある異方性溶融相を示サーモトロピック液晶ポリエステルが得られた。このサーモトロピック液晶ポリエステルの5%質量減少温度は315℃であった。
【0041】
[比較例1]
4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メトキシ安息香酸メチル50.0g(0.221モル)を反応器に入れ、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを0.0225g(6.61×10−2ミリモル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で198℃に加熱し溶融させた。攪拌下、反応槽内を40分かけて徐々に268℃まで温度を上げながら、生成するメタノールを留去し、この状態で1時間かけて10mmHg(1.33kPa)まで徐々に減圧し、さらにメタノールを留去した。ついで、285℃まで徐々に昇温し、285℃到達後、さらに減圧した。最終的に、0.75mmHg(0.1kPa)、285℃で6時間反応させた。その結果、還元粘度0.467dL/g(ポリマー0.06gを1,1,2,2−テトラクロロエタンとp−クロロフェノールとの質量比8:5の混合液10mLに溶解した溶液の35℃における還元粘度)のポリエステルが得られた。このポリエステルの5%質量減少温度は396℃であったが、いずれの温度でも異方性溶融相は示さなかった。
【0042】
[比較例2]
4−アセトキシ安息香酸12.0g(66.6ミリモル)と4−アセトキシ−3−メトキシ安息香酸6.00g(28.5ミリモル)を反応器に入れ、重合触媒として三酸化アンチモンを18.5mg(6.35×10−2ミリモル)仕込んで窒素雰囲気下、常圧で190℃に加熱し溶融させた。攪拌下、反応槽内を3時間かけて徐々に270℃まで温度を上げながら、生成する酢酸を留去し、この状態で1時間かけて0.5mmHg(0.067kPa)まで減圧した。減圧後2時間反応させた。その結果、還元粘度2.22dL/gのポリエステルが得られた。このポリエステルの5%質量減少温度は414℃であり、300℃で異方性溶融相を示すものの同時に分解も起こり流動性は非常に低かった。
【0043】
[比較例3]
4−ヒドロキシ安息香酸メチル14.0g(92.0ミリモル)と4−(2−ヒドロキシエトキシ)−安息香酸メチル7.73g(39.4ミリモル)を反応器に入れ、重合触媒として酢酸亜鉛を0.196g(1.07ミリモル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で200℃に加熱し溶融させた。撹拌下、反応槽内を1時間かけて徐々に240℃まで温度を上げながら、生成するメタノールを留去して一時間反応させた。その後6時間かけて0.5mmHg(0.067kPa)まで減圧した。減圧後1時間反応させた。その結果、5%質量減少温度が275℃のポリエステルが得られたが、いずれの温度でも異方性溶融相は示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のサーモトロピック液晶ポリエステルは、耐熱性および流動性に優れており、高機能繊維、フィルム、各種成形品などの用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは炭素数2〜12のアルキレン基であり、R、R、R、およびRはそれぞれ独立にH、OCH、OCのいずれかであるが、少なくとも1つはHではなく、nは0.1〜0.5である。)
の構成単位を含み、以下に示す(i)および(ii)の条件を満たすサーモトロピック液晶ポリエステル。
(i)ペンタフルオロフェノール溶媒を用い、試料濃度0.6g/dL、60℃にて測定した還元粘度が0.1〜1.00dL/g。
(ii)5%質量損失温度(T)が250〜400℃。
【請求項2】
上記一般式(1)において、RとRの一方がHで他方がOCHであり、R、Rが共にHである請求項1に記載のサーモトロピック液晶ポリエステル。
【請求項3】
上記一般式(1)において、RとRのうち一方がHで他方がOCHであり、R、Rのうち一方がHで他方がOCHである請求項1に記載のサーモトロピック液晶ポリエステル。
【請求項4】
下記一般式(2)
【化2】

(上記一般式(2)中、Aは水素またはアセチル基であり、R、R、およびRの定義は前記一般式(1)と同じであり、Xはヒドロキシ基、塩素基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはフェノキシ基である。)
にて表されるエーテル化モノマーと、下記一般式(3)
【化3】

(上記一般式(3)中、Aは水素またはアセチル基であり、RおよびRの定義は前記一般式(1)と同じであり、Xはヒドロキシ基、塩素基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはフェノキシ基である。)
にて表される非エーテル化モノマーとを、重縮合させることを特徴とする請求項1記載のサーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記一般式(2)におけるXがヒドロキシ基であり、Aがアセチル基である、下記一般式(4)
【化4】

(上記一般式(4)中、R、R、およびRの定義は前記一般式(1)と同じである。)
で表されるエーテル化モノマーと、前記一般式(3)におけるXがヒドロキシ基でありAがアセチル基である、下記一般式(5)
【化5】

(上記一般式(5)中、RおよびRの定義は前記一般式(1)と同じである。)
で表される非エーテル化モノマーとを、触媒の存在下に重縮合反応させることを特徴とする請求項4記載のサーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2012−116913(P2012−116913A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266541(P2010−266541)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】