説明

サーモプロテクタ及びサーモプロテクタの製作方法並びに取付け方法

【課題】可溶材による接合固定で保持されている弾性体の弾性歪エネルギーが可溶材の溶融で解放されて動作されるケースタイプのサーモプロテクタを、ケーシング時での熱的影響を排除して安全に製作できるようにする。
【解決手段】ハウジング1内に所定の上下間隔を隔てて配設された一対の導体2,20の一方の導体2に線状または板状弾性体3の一端部が可溶材4により固定され、該弾性体3の他端が押え片5で長手方向に押圧されて弾性体2が弾性的に曲げ変形され、該曲げ弾性体が他方の導体20に接触されて接点が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可溶材の融点または軟化点を動作温度とするサーモプロテクタ及びその製作方法並びに取付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子・電気機器における異常発熱を感知し、この感知に基づくカットオフ動作で機器を電源から遮断して機器の過熱を防止し、火災の発生を未然に防止するサーモプロテクタとして、弾性歪みエネルギーを蓄積させておき、可溶材の溶融乃至は軟化により弾性歪みエネルギーを解放させる方式が知られている。
例えば図8の(イ)に示すように弾性金属片2'を強制的に曲げ、この曲げ弾性金属片1'の両端を曲げ反力に抗して一対の固定端子41',42'に所定融点の可溶合金(はんだ)3'で接合し、周囲温度が可溶合金2'の融点まで昇温して可溶合金が溶融されると、図8の(ロ)に示すように弾性金属片2'の曲げ応力を解除させて弾性金属片2'の一端と一方の固定端子42'との接合を脱離して通電を遮断するものが知られている(特許文献1参照)。
サーモプロテクタにおいても、通常の電子部品と同様、機械的保護が必要であり、通常ケーシングで保護される。
電子部品をケーシングする場合、ケーシングを分割式とし、電子部品本体を分割ケーシングで包囲し、このケーシングのパーティング面を超音波溶着等で融着したり、接着剤で接着することが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−29481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、可溶合金で弾性体の弾性歪エネルギーを保持している前記のサーモプロテクタでは、分割ケーシングのパーティング面を超音波溶着等で融着する際、融着時の熱で可溶合金が軟化されて弾性歪エネルギーを保持できなくなって不良品化される懸念がある。
分割ケーシングのパーティング面を接着剤で接着すれば、かかる懸念はないが、ケーシングタイプのサーモプロテクタをフロー法またはリフロー法はんだ付けにより実装する場合、サーモプロテクタがはんだ融点よりも相当に高い温度にかなり長い時間加熱されるので、実装時に可溶合金が軟化されて弾性歪エネルギーを保持できなくなって損傷される畏れがある。
【0005】
本発明の目的は、可溶材による接合固定で保持されている弾性体の弾性歪エネルギーが可溶材の溶融で解放されて動作されるケースタイプのサーモプロテクタを、ケーシング時での熱的影響を排除して安全に製作できるようにし、また実装はんだ付け時の熱的影響を排除して安全に実装できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係るサーモプロテクタは、接点を構成する部材と接点を開閉するための線状または板状の弾性体がハウジング内に収容され、該弾性体の一端部が可溶材により固定され、当該弾性体の他端がハウジングの挿入孔から挿入固定された押え片で長手方向に押圧されて当該弾性体が弾性的に曲げ変形されることにより前記接点がオン状態に保持されており、前記可溶材の溶融乃至は軟化で弾性体の弾性歪エネルギーが解放されて前記接点がオフとされることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係るサーモプロテクタは、請求項1のサーモプロテクタにおいて、ハウジング内に所定の上下間隔を隔てて配設された一対の導体の一方の導体に線状または板状弾性体の一端部が可溶材により固定され、該弾性体の他端が押え片で長手方向に押圧されて弾性体が弾性的に曲げ変形され、該曲げ弾性体が他方の導体に接触されて接点が構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係るサーモプロテクタは、請求項1または2のサーモプロテクタにおいて、押え片に引き抜き方向に対し挿入孔に係止される抜け止め突起が設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係るサーモプロテクタは、請求項2または3のサーモプロテクタにおいて、線状または板状弾性体の一端部の一方の導体への可溶材による固定が面接合により行われていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係るサーモプロテクタは、請求項2または3のサーモプロテクタにおいて、線状または板状弾性体の一端部が折り返され、該折り返し端部が一方の導体に可溶材により面接合されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係るサーモプロテクタは、請求項2〜5何れかのサーモプロテクタにおいて、弾性体が金属、金属と樹脂との重合物あるいは複合物の何れかであることを特徴とする。
【0012】
請求項7に係るサーモプロテクタは、請求項2〜6何れかのサーモプロテクタにおいて、可溶材が低融点金属または熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
【0013】
請求項8に係るサーモプロテクタは、請求項1〜7何れかのサーモプロテクタにおいて、接点が保護材で包囲されていることを特徴とする。
【0014】
請求項9に係るサーモプロテクタは、請求項1のサーモプロテクタにおいて、可溶材が低融点金属または熱可塑性樹脂であり、弾性体が金属、金属と樹脂との重合物あるいは複合物、または樹脂の何れかであることを特徴とする。
【0015】
請求項10に係るサーモプロテクタの製作方法は、請求項1〜9何れかのサーモプロテクタを製作する方法であり、接点を構成する部材及び一端部を可溶材により固定した線状または板状弾性体を分割ハウジング内に収容し、該ハウジングのパーティング面を融着したのち、ハウジングの挿入孔から押え片を挿入固定して弾性体の他端を長手方向に押圧することにより弾性片を他方の導体に接触させることを特徴とする。
【0016】
請求項11に係るサーモプロテクタの取付け方法は、請求項1〜9何れかのサーモプロテクタを取付ける方法であり、押え片の未挿入状態でハウジングを被保護機器にはんだ付けしたのちに、押え片の挿入固定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
ハウジング内に収容され、一端部が可溶材により固定された弾性体の他端をハウジングの挿入孔から挿入した押え片で押圧して弾性体に弾性曲げ歪エネルギーを与えており、ハウジングを分割式にしてハウジングのパーティング面を熱融着しても、この熱融着後に押え片を挿入固定して弾性体に弾性曲げ歪エネルギーを与えることができる。従って、ハウジング時での可溶材の熱的軟化を排除して不良品の発生なく安全な製作を達成できる。
【0018】
また、フロー法やリフロー法によりサーモプロテクタを実装する場合、ハウジングをフロー法やリフロー法により回路基板にはんだ付けした後、押え片を挿入固定して弾性体に弾性曲げ歪エネルギーを与えることができるので、当サーモプロテクタを良好な動作性を保証して安全に実装できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1の(イ)及び(ロ)は本発明に係るサーモプロテクタの基本的構造の一例を示し、図1の(イ)は動作前を、図1の(ロ)は動作後をそれぞれ示している。
図1において、1はハウジングであり、上下の2分割片が超音波融着等による熱融着により融着され、または接着剤により接着されて組み立てられている。このハウジング1には熱可塑性樹脂またはセラミックスを使用できる。2,20はハウジング内に互いに上下に配置された導体であり、リード部がハウジング外部に導出されている。これら導体のハウジング内面への固定は、リベッティング突起11、接着剤または粘着剤により行うことができる。3は線状または板状の弾性体であり、一端部が一方の導体2に可溶材4で面接合されている。12はハウジングの一端面に設けられた挿入孔、5は挿入孔12より挿入され固定された押え片であり、弾性体3が他端においてこの押え片5で長手方向に押圧され曲げ変形されて弾性曲げ歪エネルギーが保持されている。弾性体3の他端は押え片5の内側の窪み51に支持されており、その支持状態は実質的にヒンジ支持である。押え片5は後述するように合成樹脂で成形されるが、弾性体他端を支持する部位にゴム弾性を付与して押圧力を調節することができる。
eは曲げ変形された弾性体3と他方の導体20との接触面である。
ハウジング1への押え片5の固定は超音波融着やレーザ溶接による熱融着、接着剤による接着、押え片に設けた抜け止め突起の係止等で行うことができる。
【0020】
図1における弾性体3の曲げ形状は、図2の(イ)に示す一端固定・他端ヒンジ支持の柱に長手方向圧縮力fを作用させたときの撓み形状にほぼ等しく、図1において弾性体3の一端部と一方の導体2との可溶材4による接合界面に剪断力fが作用し、更に曲げモーメントmに基づく劈開力(垂直方向引張り力)が作用している。その曲げモーメントmは、両端固定の柱に長手方向圧縮力が作用したときにその両固定端に作用する曲げモーメントよりも小である。
従って、可溶材4により接合した界面に作用する劈開力を充分に小さくでき、それだけ接合界面を安定に保持できる。
【0021】
図2の(イ)の一端固定・他端ヒンジ支持の柱において、長手方向圧縮力fが加えられたときに一端固定箇所に曲げモーメント反力mが作用するのは、図2の(ロ)に示すように他端もヒンジ支持の柱に対し、すなわち両端ヒンジ支持の柱に対し、一端側の撓み角βを0にするように曲げモーメントmを加えたのと同じとみなすことができ、従って弾性体の一端部を一方の導体に可溶材により面接合固定しても、その一端部に臨む弾性体箇所の角度をβとすれば、弾性体一端部に作用する曲げモーメントをほぼ0にでき、可溶材による面接合の固定界面に作用する反力を剪断力のみとすることができる。
【0022】
図3は本発明に係るサーモプロテクタにおける弾性体の前記した実施例とは別の曲げ状態の異なる例を示し、図3の(イ)の例では、弾性体3の一端部を所定の角度βで折り返し、この折り返し部を可溶材4で一方の導体2に面接合で固定し、次で弾性体3の他端に押え片5を押し付けて弾性体3を曲げ変形させるようにし、図3の(ロ)の例では、弾性体3の一端部を一方の導体厚みに等しい垂直部30を経て所定の角度βで折り返し、この折り返し部の内側面を一方の導体2の先端部裏面に可溶材4により面接合で固定し、次で弾性体3の他端に押え片5を押し付けて弾性体3を曲げ変形させるようにし、図3の(ハ)の例では、弾性体3の一端部を所定の角度(π−β)で曲げ、この曲げた一端部を可溶材4で一方の導体2に面接合で固定し、次で弾性体3の他端に押え片5を押し付けて弾性体3を曲げ変形させるようにしてある。
【0023】
弾性体のこれらの曲げ状態によれば、弾性体の一端部に作用する曲げモーメント反力を充分に小さくでき、その理由を例えば図3の(イ)のものについて説明すると次の通りである。
図4の(イ)〜(ロ)に示すように、一端部を所定の角度βで一方の導体2に可溶材4で接合固定した弾性体3の他端側に垂直方向力qを加えてその他端を一方の導体2に近接させると、弾性体3の一端部に角度βを小さくする方向の曲げモーメント反力mが発生する。次で、図4の(ハ)に示すように、弾性体3の他端に押え片5を押し付けて弾性体に弾性曲げ歪エネルギーを加えると、弾性体の一端側の角度(β−Δβ)を大きくする方向の曲げモーメント反力m’が作用する。この曲げモーメント反力m’で前記の曲げモーメント反力mが減少され、前記角度βが特定の角度(両端ヒンジ支持の柱に長手方向圧縮力が作用したときのヒンジ支持の撓み角)であるときに曲げモーメント反力m’で前記の曲げモーメント反力mが相殺されて弾性体の一端部に作用する曲げモーメント反力が0とされる。
このように本発明に係るサーモプロテクタでは、弾性体の一端部と一方の導体との可溶材による固定接合部に作用する曲げモーメント反力を充分に小さくでき、主なる反力を長手方向圧縮力に基づく剪断力にできる。
【0024】
前記接合界面の剪断応力τは弾性体3に作用する長手方向圧縮力をp、接合界面の面積をSとすると、τ=p/Sで与えられ、接合界面の剪断強度をf/Sを越える強度とする必要がある。この剪断強度は充分な安全率を有するものでなくてはならず、このため面接合される部分の弾性体または一方の導体の双方あるいは一方に、孔、窪み、切欠きを設けて可溶材を食い込ませたり、面接合される接触片端部または一方のリード導体部分の一方または双方を粗面として接合界面の剪断強度を増強することが望ましい。また、前記可溶材で面接合された界面を機械的に補強するために可溶材を盛り付けることもできる。また、可溶材で接合される弾性体部分を局部的に溶接性に優れた素材に変えることもできる。
【0025】
本発明に係るサーモプロテクタを製作するには、広巾の弾性体の一端部を広巾の導体に可溶材により面接合し、これを短冊状に分割切断した弾性体付き導体を使用することができる。
【0026】
本発明に係るサーモプロテクタにおいては、ハウジングとして上下に分割したタイプを使用し、そのハウジング片を共通化することが好ましい。
図5〔図5の(イ)は平面図、同じく(ロ)は図5の(イ)のロ−ロ断面図、同じく(ハ)は左側面図、同じく(ニ)は右側面図〕はハウジング片の一例を示し、ベース部13の両脇に側壁部14,14を設け、その長手方向中央において段差15を付け、各側壁部14,14の長手方向一端側に導体押え用凸部16,16を設け、各側壁上面の内側半分の面に超音波溶着用エネルギーダイレクタとしての三角凸条17を設けてある。また、ベース部の一端側にハウジング片内巾よりも狭巾のリベッテング突部11を設けてある。12は押え片挿入孔とされる切欠き部であり、一方のハウジング片のみに穿設される。
【0027】
このハウジング片を用いて本発明に係るサーモプロテクタを製作するには、図6−1〔図6−1の(イ)は平面図、同じく(ロ)は図6−1の(イ)のロ−ロ断面図、同じく(ハ)は図6−1の(ロ)のハ−ハ断面図〕に示すように、導体2に弾性体3を既に可溶材4で接合した弾性体付き導体A(導体部分の一端側の巾は両押え用凸部65,65間の内巾に等しくするようにやや狭くしてある)を孔において一方のハウジング片10にリベッテング突部11の加熱圧潰により固定し、また、図6−2の(イ)に示すように、弾性体無しの導体20についても、孔を穿設しこの孔において他方のハウジング片10’にリベッテング突部11の加熱圧潰により固定し、両ハウジング片を上下にかつ導体2,20のリード線部の向きを逆とするように重畳して両ハウジング片10,10’の側壁を段差(図6の15,15)の噛み合いで勘合し、弾性体付き導体Aの導体部分2の巾両側に他方のハウジング片10’の導体押え用凸部16,16を当接し、ついで超音波溶着機にセットし、両ハウジング片の前記エネルギーダイレクタを圧潰溶着させる。〔図6−2の(ロ)〕
この段階では、まだ弾性体に弾性歪エネルギーが加えられておらず可溶体が無負荷状態にあるから、リベッテング突部圧潰のための加熱、両ハウジング片の超音波溶着等による加熱にもかかわらず可溶材による固定接合界面を安定に保持できる。
次で、図6−2の(ハ)〜(ニ)に示すように押え片5を切欠き部12から挿入し、弾性体3の他端に押え片5を押し付け弾性体3に弾性曲げ歪エネルギーを加えて弾性体3を他方の導体20に接触させ、この時点で押え片5をハウジングに固定し、これにてサーモプロテクタの製作を終了する。
【0028】
押え片を固定するには、図6−3に示すように押え片5に抜け止め用の突起51を設け、この抜け止め用の突起51を切欠き部12の内側縁端に引き抜き方向に対し係止させることができる。
この係止固定に代え接着剤または、超音波溶着やレザー溶着等の熱融着により固定することもできる。
超音波溶着やレザー溶着等の熱融着の場合でも、弾性体一端部の可溶材による固定接合箇所とこの溶着箇所との距離が長いので、可溶材による固定接合状態を安定に保持できる。
【0029】
図6−2に示すサーモプロテクタの製作工程での弾性体の負荷状態は既述した図4の通りであり、垂直方向力qを加えた際、一方の導体2が曲げモーメント〔図4の(ロ)のm〕で反り曲がるのを防止するために、図6−1の16、16で示した両押え用凸部で一方の導体2を押え付けるようにしており、弾性体3への弾性曲げ歪エネルギーの付与をスムーズに行うことができる。
【0030】
前記した各実施例の弾性体には、金属、金属と合成樹脂との積層体、金属粉体の混合により導電化した合成樹脂等を使用できる。
【0031】
上記実施例のサーモプロテクタにおいては、平常時オンの状態にされている。可溶材にはんだのような低融点合金や導電性の熱可塑性樹脂を用いる場合、一方の導体2→可溶材4による接合界面→弾性体3と他方の導体20との接触界面→他方の導体20の経路で常時導通状態が維持されている。
【0032】
上記実施例のサーモプロテクタの可溶材4に絶縁性の熱可塑性樹脂も使用でき、この場合、常時導通状態が一方の導体2→弾性体3の他端と一方の導体2との接触界面→弾性体3と他方の導体20との接触界面→他方の導体20の経路で維持されている。
【0033】
弾性体と他方の導体との接触界面や一方の導体と弾性体との接触界面の酸化・腐食を防止して長期間安定な常時導通状態を維持するために、その接触界面の周りを常温で液体の保護材、例えば油(例えばシリコン系)、油脂、高沸点有機溶剤等で包囲することが好ましく、押え片を挿入する前に弾性体の中間部表面や弾性体の他端に保護材を塗布し、而るのち、押え片を挿入して弾性体中間を他の導体に接触させ、弾性体他端を一方の導体に接触させれば、接触界面から保護材が接触圧力で絞り出されて接触界面の周りが自ずから保護材で包囲され、接触界面を良好な電気的接触面とすることができる。
【0034】
上記のサーモプロテクタにおいては、外部温度の上昇により可溶材が融点乃至は軟化点にまで加熱されると、弾性体の弾性歪エネルギーが解放され、弾性体と他方の導体との接触箇所が離脱されてオフ動作する。
図1の(ロ)はオフ動作の状態を示しており、弾性歪エネルギーが解放された弾性体3の他端が押え片5の窪み51に納められ、同弾性体3の一端部と他方の導体20との間にリベッテング突部11の圧潰頭部が介在されて再導通が防止されている。
【0035】
図7−1の(イ)(動作前)及び(ロ)(動作後)は本発明に係るサーモプロテクタの上記とは別の実施例を示している。
図7−1において、1はハウジングであり、前記したように分割式とし、そのパーティング面を熱融着や接着剤により接合してある。材質には、セラミックスや合成樹脂を使用できる。2aは可動導体、20aは固定導体である。3は弾性体であり、一端部をハウジング1のベース面に可溶材4により面接合固定してある。5はハウジング1の挿通孔12に挿入固定した押え片であり、弾性体3の他端を押圧して弾性体3に弾性曲げ歪エネルギーを加えると共に弾性体3の曲げ変形反力で可動導体2aを固定導体20aに接触させてある。
可溶材4には熱可塑性樹脂や可溶合金を使用できる。弾性体3の一端部を可溶合金4によりハウジング1のベース面に接合固定するには、金属箔の貼付・エッチングや金属粉ペーストの印刷・焼き付けによりハウジングのベース面を金属化することが好ましい。
弾性体3には、例えばリン青銅の金属を好適に使用できるが、導電性が要求されないので、樹脂(熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂)をガラス繊維、金属繊維、合成繊維等の繊維で補強したFRP、高剛性エンジニアリングプラスチック等も使用できる。
【0036】
弾性体3の一端部を可溶材4でハウジング1のベース面に接合固定するには、図7−2の(イ)に示すように弾性体3の一端部を可溶材4により角度ほぼ0の面接合で固定すること、図7−2の(ロ)に示すように弾性体3の一端部を所定の角度で曲げ可溶材4によりその曲げ端部を面接合で固定すること、図7−3の(ハ)に示すように弾性体3の一端部を折り返し可溶材4によりその折り返し端部を面接合で固定すること等が可能である。
【0037】
図7−1に示すサーモプロテクタを製作するには、弾性体に弾性曲げ歪エネルギーを加えずにハウジングのパーティング面の熱融着を行い、最終段階でハウジングの挿入孔から押え片を挿入固定して弾性体の他端を押圧し、弾性体を曲げ変形させてその曲げで可動導体を固定導体に接触させる。この場合、ハウジングのパーティング面の熱融着時、弾性体にはまだ弾性曲げ歪エネルギーが加えられておらず、また、弾性体に弾性曲げ歪エネルギーが加えられた状態では加熱されないか、加熱されても押え片をハウジングに融着させる程度の可溶材から充分に隔離された位置での加熱に過ぎないから、可溶材による接合固定状態を安全に保持できる。
【0038】
図7−1に示すサーモプロテクタにおいて、常時は、固定導体20a→固定導体20aと可動導体2aとの接触面→可動導体2aの経路で導通されている。可溶材4は、導通経路に含まれていないので、その導通性への可溶材の導電性の関与はない。
外部温度の上昇により可溶材4がその融点乃至は軟化点にまで加熱されると、弾性体3の曲げ歪エネルギーにより当該弾性体3とハウジングベース面との間の可溶材4による面接合が離脱され、同弾性体3が元の直線状に復帰され、可動導体2aがその弾性により固定導体20aより脱離されて非復帰のオフ動作が完結される。
【0039】
本発明に係るサーモプロテクタを被保護機器に取付けるには、例えば回路基板に実装するには、弾性体に弾性歪エネルギーを加えていない状態、すなわち、押え片の未挿入固定状態でフロー法やリフロー法はんだ付けにより回路基板に取付け、この取付け後に押え片を挿入固定して弾性体に弾性歪エネルギーを保持させることができる。この場合、フローまたはリフロー法はんだ付け時、弾性体にはまだ弾性曲げ歪エネルギーが加えられておらず、弾性体に弾性曲げ歪エネルギーが加えられていない状態でフローまたはリフロー法はんだ付けが行われるから、可溶材による接合固定状態を安全に保持できる。
【0040】
上記実施例では導体にリード線部を設けているが、ハウジングの両端部外面に電極を設け各電極を導体に導通したチップタイプとすることもできる。
【0041】
弾性体として金属を使用する場合、例えばリン青銅を例示できる。弾性金属材と合成樹脂との複合体としては、例えばリン青銅板とポリアミドフィルムとの積層体を例示きる。
【0042】
弾性体2の寸法は、金属弾性板の場合、例えば厚み0.008〜0.1mm、巾0.3〜4.6mm、長さ1.5〜11mmとされる。
【0043】
ハウジングや押え片に使用する樹脂は異なる樹脂とすることもできるが、特にポケカーボネートとすることが好ましい。
【0044】
上記弾性体2としての樹脂や可溶材3としての熱可塑性樹脂としては、ポリカ−ボネ−ト、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリアミド、ポリイミド、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンサルファイド、ポリサルホン等のエンジニアリングプラスチック、ポリアセタ−ル、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシベンゾイル、ポリエ−テルエ−テルケトン、ポリエ−テルイミド等のエンジニアリングプラスチックやポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレ−ト、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンポリテトラフルオロエチレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、AS樹脂、ABS樹脂、アイオノマ−、AAS樹脂、ACS樹脂等中から所定融点のものを選定できる。
ハウジングや押え片には、これらの樹脂の外、セラミックスも使用できる。ハウジングの寸法は、例えば厚み0.3〜1.5mm、巾1〜5mm、長さ2〜12mmとされる。
【0045】
上記可溶材としての可溶合金としては、PbやCd等の生体系に有害な元素を含まないものを使用することが好ましく、次ぎの組成[A](1)43%<Sn≦70%,0.5%≦In≦10%,残Bi、(2)25%≦Sn≦40%,50%≦In≦55%,残Bi、(3)25%<Sn≦44%,55%<In≦74%,1%≦Bi<20%、(4)46%<Sn≦70%,18%≦In<48%,1%≦Bi≦12%、(5)5%≦Sn≦28%,15%≦In<37%,残Bi(但し、Bi57.5%,In25.2%,Sn17.3%とBi54%,In29.7%,Sn16.3%のそれぞれを基準にBi±2%,In及びSn±1%の範囲を除く)、(6)10%≦Sn≦18%,37%≦In≦43%,残Bi、(7)25%<Sn≦60%,20%≦In<50%,12%<Bi≦33%、(8)(1)〜(7)の何れか100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(9)33%≦Sn≦43%,0.5%≦In≦10%,残Bi、(10)47%≦Sn≦49%,51%≦In≦53%の100重量部にBiを3〜5重量部を添加、(11)40%≦Sn≦46%,7%≦Bi≦12%,残In、(12)0.3%≦Sn≦1.5%,51%≦In≦54%,残Bi、(13)2.5%≦Sn≦10%,25%≦Bi≦35%,残In、(14)(9)〜(13)の何れか100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(15)10%≦Sn≦25%,48%≦In≦60%,残Biを100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のIn−Sn−Bi系合金の組成[B](16)30%≦Sn≦70%,0.3%≦Sb≦20%,残Bi、(17)(16)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のBi−Sn−Sb系合金の組成[C](18)52%≦In≦85%,残Sn、(19)(18)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のIn−Sn系合金の組成[D](20)45%≦Bi≦55%,残In、(21)(20)の組成の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のIn−Bi系合金の組成、[E](22)50%Bi≦56%,残Sn、(23)(22)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のBi−Sn系合金の組成[F](24)Inの100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(25)90%≦In≦99.9%,0.1%≦Ag≦10%の100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(26)95%≦In≦99.9%,0.1%≦Sb≦5%の100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加等のIn系合金の組成(27)2%≦Zn≦15%,70%≦Sn≦95%,残Bi及びその合金100重量部にAu、In、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加した合金の組成等からサーモプロテクタの動作温度に適合した融点の組成を選定することができる。
また、可溶合金にb.c.cやc.p.h等の結晶構造の金属を多く含ませることにより塑性変形を抑止しクリープ強度を向上させることができる。
【0046】
これらの合金、特に、Biリッチ合金の場合は、弾性体に予め層状に被覆しておくことが好ましい。
【0047】
導体には、ニッケル、銅、銅合金等の導電性金属乃至は合金を使用でき、必要に応じ鍍金することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
リチウムイオン2次電池、リチウムポリマー2次電池等に対する電池パックにおいては、電池や電力トランジスター等の異常発熱を検知して不通電とするサーモプロテクタが必要であるが、本発明に係るサーモプロテクタにおいては小型化が容易であり電池パックに良好に組み込み得、その電池用サーモプロテクタとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るサーモプロテクタの一実施例を示す図面である。
【図2】本発明に係るサーモプロテクタにおける弾性体の応力状態を示すために使用した一端ヒンジ支持・他端固定の柱及び両端ヒンジ支持柱の力学的状態を示す図面である。
【図3】本発明に係るサーモプロテクタにおける弾性体一端部と導体との可溶材による面接合構造の異なる例を示す図面である。
【図4】本発明に係るサーモプロテクタの製作において、弾性体を曲げてその一端部を導体に可溶材により面接合する過程を示す図面である。
【図5】本発明に係るサーモプロテクタのハウジングを示す図面である。
【図6−1】本発明に係るサーモプロテクタの製作における初期の工程を示す図面である。
【図6−2】本発明に係るサーモプロテクタの製作における後続の工程を示す図面である。
【図6−3】本発明に係るサーモプロテクタにおける押え片の係止構造を示す図面である。
【図7−1】本発明に係るサーモプロテクタの上記とは別の実施例を示す図面である。
【図7−2】別の実施例における弾性体の可溶材による面接合固定構造の異なる例を示す図面である。
【図8】従来のサーモプロテクタを示す図面である。
【符号の説明】
【0050】
1 ハウジング
11 挿入孔
10 ハウジング片
2 一方の導体
2a 一方の導体
20 他方の導体
20a 他方の導体
3 弾性体
4 可溶材
5 押え片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接点を構成する部材と接点を開閉するための線状または板状の弾性体がハウジング内に収容され、該弾性体の一端部が可溶材により固定され、当該弾性体の他端がハウジングの挿入孔から挿入固定された押え片で長手方向に押圧されて当該弾性体が弾性的に曲げ変形されることにより前記接点がオン状態に保持されており、前記可溶材の溶融乃至は軟化で弾性体の弾性歪エネルギーが解放されて前記接点がオフとされることを特徴とするサーモプロテクタ。
【請求項2】
ハウジング内に所定の上下間隔を隔てて配設された一対の導体の一方の導体に線状または板状弾性体の一端部が可溶材により固定され、該弾性体の他端が押え片で長手方向に押圧されて弾性体が弾性的に曲げ変形され、該曲げ弾性体が他方の導体に接触されて接点が構成されていることを特徴とする請求項1記載のサーモプロテクタ。
【請求項3】
押え片に引き抜き方向に対し挿入孔に係止される抜け止め突起が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のサーモプロテクタ。
【請求項4】
線状または板状弾性体の一端部の一方の導体への可溶材による固定が面接合により行われていることを特徴とする請求項2または3記載のサーモプロテクタ。
【請求項5】
線状または板状弾性体の一端部が折り返され、該折り返し端部が一方の導体に可溶材により面接合されていることを特徴とする請求項2または3記載のサーモプロテクタ。
【請求項6】
弾性体が金属、金属と樹脂との重合物あるいは複合物の何れかであることを特徴とする請求項2〜5何れか記載のサーモプロテクタ。
【請求項7】
可溶材が低融点金属または熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項2〜6何れか記載のサーモプロテクタ。
【請求項8】
接点が保護材で包囲されていることを特徴とする請求項1〜7何れか記載のサーモプロテクタ。
【請求項9】
可溶材が低融点金属または熱可塑性樹脂であり、弾性体が金属、金属と樹脂との重合物あるいは複合物、または樹脂の何れかであることを特徴とする請求項1記載のサーモプロテクタ。
【請求項10】
請求項1〜9何れか記載のサーモプロテクタを製作する方法であり、接点を構成する部材及び一端部を可溶材により固定した線状または板状弾性体を分割ハウジング内に収容し、該ハウジングのパーティング面を融着したのち、ハウジングの挿入孔から押え片を挿入固定して弾性体の他端を長手方向に押圧することにより弾性片を他方の導体に接触させることを特徴とするサーモプロテクタの製作方法。
【請求項11】
請求項1〜9何れか記載のサーモプロテクタを取付ける方法であり、押え片の未挿入状態でハウジングを被保護機器にはんだ付けしたのちに、押え片の挿入固定を行うことを特徴とするサーモプロテクタの取付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−196189(P2006−196189A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3268(P2005−3268)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000225337)内橋エステック株式会社 (115)
【Fターム(参考)】