説明

シアナト基含有環状ホスファゼン化合物およびその製造方法

【課題】樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性および誘電特性を損ないにくいホスファゼン化合物を提供する。
【解決手段】下記の式で表されるホスファゼン化合物。


nは3〜15の整数を示す。Aの一例は、シアナトフェニル置換フェニルオキシ基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ホスファゼン化合物およびその製造方法、特に、シアナト基含有環状ホスファゼン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用および民生用の機器並びに電気製品などの分野において、合成樹脂は、その加工性、耐薬品性、耐候性、電気的特性および機械的強度等の点で他の材料に比べて優位性を有するため、多用されており、また、その使用量が増加している。しかし、合成樹脂は、燃焼し易い性質を有するため、難燃性の付与が求められており、近年その要求性能が次第に高まっている。このため、LSI等の電子部品の封止剤や基板等に使用されている樹脂組成物、例えばエポキシ樹脂組成物は、難燃化するために、ハロゲン含有化合物やハロゲン含有化合物と酸化アンチモンなどのアンチモン化合物との混合物が一般的な難燃剤として添加されている。ところが、このような難燃剤を配合した樹脂組成物は、燃焼時や成形時等において、環境汚染のおそれがあるハロゲン系ガスを発生する可能性がある。また、ハロゲン系ガスは、電子部品の電気的特性や機械的特性を阻害する可能性がある。そこで、最近では、合成樹脂用の難燃剤として、燃焼時や成形時等においてハロゲン系ガスが発生しにくい非ハロゲン系のもの、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水和物系難燃剤やリン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、リン酸アミド系、ポリリン酸アンモニウム系およびホスファゼン系などのリン系難燃剤が多用されるようになっている。
【0003】
このうち、金属水和物系難燃剤は、脱水熱分解の吸熱反応とそれに伴う水の放出が合成樹脂の熱分解や燃焼開始温度と重複した温度領域で起こることで難燃化効果を発揮するが、その効果を高めるためには樹脂組成物に対して多量に配合する必要がある。このため、この種の難燃剤を含む樹脂組成物の成形品は、機械的強度が損なわれるという欠点がある。一方、リン系難燃剤のうち、リン酸エステル系および縮合リン酸エステル系のものは、可塑効果を有するため、難燃性を高めるために樹脂組成物に対して多量に添加すると、樹脂成形品の機械的強度が低下するなどの欠点が生じる。また、リン酸エステル系、リン酸アミド系およびポリリン酸アンモニウム系のものは、容易に加水分解することから、機械的および電気的な長期信頼性が要求される樹脂成形品の製造用材料においては実質的に使用が困難である。これらに対し、ホスファゼン系の難燃剤は、他のリン系難燃剤に比べて可塑効果および加水分解性が小さく、樹脂組成物に対する添加量を大きくすることができるため、特許文献1〜5に記載のように、合成樹脂用の有効な難燃剤として多用されつつあるが、樹脂組成物に対する添加量を増やすと、高温下における樹脂成形品の信頼性を損なう可能性がある。具体的には、熱可塑性樹脂系の樹脂組成物の場合は、高温下においてその樹脂成形体からホスファゼン系の難燃剤がブリードアウト(溶出)し易く、また、熱硬化性樹脂系の樹脂組成物の場合は、高温下においてその樹脂成形品にフクレ等の変形が発生し、当該樹脂成形品が積層基板等の電気・電子分野において用いられる場合は変形によるショートを引き起こす可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−103939号公報
【特許文献2】特開2004−83671号公報
【特許文献3】特開2004−210849号公報
【特許文献4】特開2005−248134号公報
【特許文献5】特開2007−45916号公報
【0005】
そこで、ホスファゼン系の難燃剤は、高温下での樹脂成形品の信頼性(高温信頼性)を高めるための改良が検討されており、その例として特許文献6〜10には、ヒドロキシル基等の反応性基を有するホスファゼン系の難燃剤並びにそれを用いたエポキシ樹脂組成物およびポリイミド樹脂組成物が開示されている。この種のホスファゼン系難燃剤は、樹脂組成物に対して多量に添加した場合であっても樹脂成形品の高温信頼性を損ないにくいが、添加量を増しても樹脂成形品の難燃性を効果的に高めるのが困難という、それが要求される本質的効果の点で不十分であり、また、樹脂成形品の機械的特性(特に、高いガラス転移温度)を損なうことにもなる。
【0006】
【特許文献6】特開平6−247989号公報
【特許文献7】特開平10−259292号公報
【特許文献8】特開2003−302751号公報
【特許文献9】特開2003−342339号公報
【特許文献10】特開2004−143465号公報
【0007】
一方、近年の電子機器の小型・高機能化に伴い、印刷配線板では薄型・軽量でありかつ高密度配線が可能な基板材料が求められている。また、印刷配線板では、小径でありかつ必要な層間のみを非貫通穴で接続するIVH(Interstitial Via Hole)構造のビルドアップ積層方式の普及が急速に進んでいる。ビルドアップ積層方式印刷配線板の絶縁層にはガラス布等の基材を用いず、高いガラス転位温度(Tg)を有する耐熱性樹脂が要求されている。
【0008】
また、コンピュータや情報機器端末などでは、大量のデータを高速で処理するために、その信号の高周波化が進んでいるが、周波数が高くなる程電気信号の伝送損失が大きくなるという問題があり、高周波化に対応した印刷配線板の開発が強く求められている。高周波回路での伝送損失は、配線周りの絶縁層(誘電体)の誘電特性で決まる誘電体損の影響が大きく、印刷配線板用基板(特に絶縁樹脂)の低誘電率化および低誘電正接(tanδ)化が必要となる。例えば移動体通信関連の機器では、信号の高周波化に伴い準マイクロ波帯(1〜3GHz)での伝送損失を少なくするため誘電正接の低い基板が強く望まれるようになっている。
【0009】
さらに、コンピュータなどの電子情報機器では、動作周波数が1GHzを超える高速マイクロプロセッサが搭載されるようになり、印刷配線板での高速パルス信号の遅延が問題になっている。信号の遅延時間は、印刷配線板では配線周辺の絶縁物の比誘電率εrの平方根に比例して長くなるため、高速コンピュータなどでは誘電率の低い配線板用基板が求められている。
【0010】
このため、ホスファゼン系の難燃剤は、樹脂成形品の誘電特性を損ないにくくする必要、すなわち、樹脂成形品の低誘電率化および低誘電正接化を達成する必要もある。
【0011】
本発明の目的は、樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性および誘電特性を損ないにくいホスファゼン化合物を実現することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく研究を重ねた結果、シアナト基を有する新規なホスファゼン化合物を含む樹脂組成物からなる成形体が、優れた機械的特性および難燃性を示し、同時に高温下での信頼性が高く、誘電特性に優れていることを見出した。
【0013】
本発明のホスファゼン化合物は、下記の式(1)で表されるシアナト基含有環状ホスファゼン化合物である。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)中、nは3〜15の整数を示す。また、Aは、下記のA1基、A2基およびA3基からなる群から選ばれた基を示しかつ少なくとも一つがA3基である。
A1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
A2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
A3基:下記の式(2)で示されるシアナトフェニル置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0016】
【化2】

式(2)中、XからXは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。)
【0017】
このシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、例えば、式(1)において、2n個のAのうちの1〜(2n−2)個がA3基である。また、このシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、例えば、式(1)のnが3若しくは4である。さらに、このシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、例えば、式(1)のnが異なる二種以上のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を含んでいる。
【0018】
本発明に係るシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法は、次の工程1、工程2および工程3を含んでいる。
【0019】
[工程1]
下記の式(3)で表される環状ホスホニトリルジハライドの全ハロゲン原子を、少なくとも一つが下記のE3基により置換されるよう下記のE1基、E2基およびE3基からなる群から選ばれた基により置換し、ホルミル基含有環状ホスホニトリル置換体を製造する工程。
【0020】
【化3】

【0021】
式(3)中、nは3〜15の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。
E1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
E2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
E3基:下記の式(4)で示されるホルミル基置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0022】
【化4】

【0023】
[工程2]
工程1において得られたホルミル基(E3基:ホルミル基置換フェニルオキシ基)含有環状ホスホニトリル置換体と下記の式(5)で表されるフェノール類とを反応させ、下記のE4基で表されるヒドロキシル基含有環状ホスホニトリル置換体を製造する工程。
【0024】
【化5】

【0025】
式(5)中、XからX13は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。
E4基:下記の式(6)で示されるヒドロキシル基置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0026】
【化6】

式(6)中、XからXは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。
【0027】
[工程3]
工程2において得られたヒドロキシル基を有する環状ホスホニトリル置換体とハロゲン化シアンとを反応させる工程。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分と、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物とを含んでいる。樹脂成分は、例えば、シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビスマレイミド−シアン酸エステル樹脂および変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選ばれたものであるである。
【0029】
本発明の重合性組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を含んでいる。
【0030】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物若しくは本発明の重合性組成物の重合物からなるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、上述のような特定の構造を有するものであるため、樹脂成形体の機械的特性を損なわずにその難燃性を効果的に高めることができ、しかも樹脂成形体の高温信頼性および誘電特性を損ないにくい。
【0032】
本発明に係るシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法は、上述のような工程1、工程2および工程3を含むものであるため、本発明に係る上述のような特定の構造を有するシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を製造することができる。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を難燃剤として含むため、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性が高く誘電特性が優れた樹脂成形体を得ることができる。
【0034】
本発明の重合性組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を含むものであるため、その重合により、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性が高く誘電特性が優れた樹脂成形体を得ることができる。
【0035】
本発明の樹脂成形体は、本発明の樹脂組成物若しくは本発明に係る重合性組成物の重合物からなるため、実用的な機械的特性および難燃性を示し、しかも高温信頼性が高く誘電特性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
シアナト基含有環状ホスファゼン化合物
本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、下記の式(1)で表されるものである。
【0037】
【化7】

【0038】
式(1)において、nは、3から15の整数を示しているが、3から8の整数が好ましく、3若しくは4が特に好ましい。すなわち、このシアナト基含有環状ホスファゼン化合物として特に好ましいものは、nが3のシアナト基含有シクロトリホスファゼン(3量体)およびnが4のシアナト基含有シクロテトラホスファゼン(4量体)である。また、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、nが異なる二種以上のものの混合物であってもよい。
【0039】
また、式(1)において、Aは、下記のA1基、A2基およびA3基からなる群から選ばれた基を示している。但し、Aのうちの少なくとも一つはA3基である。
【0040】
[A1基]
炭素数が1〜8のアルコキシ基。このアルコキシ基は、炭素数が1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、エテニルオキシ基、1−プロペニルオキシ基、2−プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、3−ブテニルオキシ基、2−メチル−2−プロペニルオキシ基、4−ペンテニルオキシ基、2−ヘキセニルオキシ基、1−プロピル−2−ブテニルオキシ基、5−オクテニルオキシ基、ベンジルオキシ基および2−フェニルエトキシ基等を挙げることができる。このうち、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、2−プロペニルオキシ基およびベンジルオキシ基が好ましく、エトキシ基およびn−プロポキシ基が特に好ましい。
【0041】
[A2基]
炭素数が6〜20のアリールオキシ基。このアリールオキシ基は、炭素数が1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
このようなアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、エチルメチルフェノキシ基、ジエチルフェノキシ基、n−プロピルフェノキシ基、イソプロピルフェノキシ基、イソプロピルメチルフェノキシ基、イソプロピルエチルフェノキシ基、ジイソプロピルフェノキシ基、n−ブチルフェノキシ基、sec−ブチルフェノキシ基、tert−ブチルフェノキシ基、n−ペンチルフェノキシ基、n−ヘキシルフェノキシ基、エテニルフェノキシ基、1−プロペニルフェノキシ基、2−プロペニルフェノキシ基、イソプロペニルフェノキシ基、1−ブテニルフェノキシ基、sec−ブテニルフェノキシ基、1−ペンテニルフェノキシ基、1−ヘキセニルフェノキシ基、フェニルフェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基およびフェナントリルオキシ基等を挙げることができる。このうち、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、ジエチルフェノキシ基、2−プロペニルフェノキシ基、フェニルフェノキシ基およびナフチルオキシ基が好ましく、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基およびナフチルオキシ基が特に好ましい。
【0042】
[A3基]
下記の式(2)で示されるシアナトフェニル置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0043】
【化8】

式(2)中、XからXは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示すが、好ましくは、水素原子、メチル基、ターシャリーブチル基、フェニル基等の炭素数1〜6のアルキル基若しくはフェニル基である。
【0044】
式(2)で示されるシアナトフェニル置換フェニルオキシ基は、具体的には、ビス(2’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(3’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(4’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(3’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(3’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(3’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(4’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(3’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(3’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(3’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(3’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(3’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−3’,5’−ジメチルフェニル)(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’,4’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)(2’,6’−ジメチル−3’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基若しくは(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−2−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基若しくは(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基若しくは(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基である。
【0045】
上述のA3基として好ましいものは、ビス(2’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(4’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−メチルフェニル)(2’−メチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−tert−ブチルフェニル)(2’−tert−ブチル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−3−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基若しくは(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基である。
【0046】
このうち、ビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基若しくは(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基が特に好ましい。
【0047】
式(1)において、Aは、2n個含まれており、このうちの少なくとも一つがA3基である。したがって、式(1)で表される本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、次の形態に大別することができる。
【0048】
[形態A]
2n個の全てのAがA3基のものである。この場合、Aは、全てが同じA3基であってもよいし、二種以上のA3基であってもよい。
【0049】
このような形態のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の具体例としては、式(1)のnが3であるシアナト基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるシアナト基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるシアナト基含有シクロペンタホスファゼン化合物および式(1)のnが6であるシアナト基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、Aの全てが、ビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、ビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基若しくは(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基からなるA3基群から選ばれた一種のA3基であるものおよびAの全てが当該A3基群から選ばれた二種以上のA3基であるもの並びにこれらの任意の混合物を挙げることができる。
【0050】
[形態B]
2n個のAのうちの一部(すなわち、少なくとも一つ)がA3基であり、他のAがA1基およびA2基から選ばれた基のものである。この場合、A3基以外の他のAは、全てが同じA1基若しくはA2基であってもよいし、二種以上のA1基若しくはA2基または一種若しくは二種以上のA1基とA2基とが混在した状態であってもよい。
【0051】
この形態のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物として好ましいものは、2n個のAのうちの1個〜(2n−2)個がA3基のものである。特に、式(1)のnが3であるシアナト基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるシアナト基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるシアナト基含有シクロペンタホスファゼン化合物および式(1)のnが6であるシアナト基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、2n個のAのうちの1個〜(2n−2)個がA3基のもの並びにこれらの任意の混合物である。この種のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、本発明の他のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物に比べ、高温信頼性および機械的強度(特に、ガラス転移温度)がより優れた樹脂成形体を実現可能な点において有利である。
【0052】
なお、2n個のAのうちの1個〜(2n−2)個がA3基であるか否かは、シアナト基含有環状ホスファゼン化合物若しくはその製造過程における中間体のTOF−MS分析により確認することができる。
【0053】
このような形態のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の具体例としては、式(1)のnが3であるシアナト基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるシアナト基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるシアナト基含有シクロペンタホスファゼン化合物若しくは式(1)のnが6であるシアナト基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、Aが、A3基であるビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA1基であるn−プロポキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの若しくはA3基である(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのものおよびこれらの任意の混合物を挙げることができる。
【0054】
このうち、式(1)のnが3であるシアナト基含有シクロトリホスファゼン化合物、式(1)のnが4であるシアナト基含有シクロテトラホスファゼン化合物、式(1)のnが5であるシアナト基含有シクロペンタホスファゼン化合物、式(1)のnが6であるシアナト基含有シクロヘキサホスファゼン化合物であって、Aが、A3基であるビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの若しくはA3基である(2’−シアナト−5’−フェニルフェニル)(2’−フェニル−5’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのものおよびこれらの任意の混合物が好ましい。
【0055】
特に、式(1)のnが3であるシアナト基含有シクロトリホスファゼン化合物若しくは式(1)のnが4であるシアナト基含有シクロテトラホスファゼン化合物であって、Aが、A3基であるビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(2’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの、A3基であるビス(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのもの、A3基である(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基、とA2基であるフェノキシ基との組合せのもの若しくはA3基である(2’−シアナトフェニル)(4’−シアナトフェニル)メチル−4−フェニルオキシ基とA2基であるメチルフェノキシ基との組合せのものおよびこれらの任意の混合物が好ましい。
【0056】
シアナト基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法
本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、次のような方法により製造することができる。
【0057】
先ず、下記の式(3)で表される環状ホスホニトリルジハライドを用意する。
【0058】
【化9】

【0059】
式(3)において、nは、3から15の整数を示している。また、Xは、ハロゲン原子を示し、好ましくはフッ素原子若しくは塩素原子である。因みに、ここで用意する環状ホスホニトリルジハライドは、nが異なる数種類のものの混合物であってもよい。
【0060】
このような環状ホスホニトリルジハライドの製造方法その他は、各種の文献、例えば、下記のような非特許文献1、2に記載されている。
【0061】
【非特許文献1】PHOSPHORUS−NITROGEN COMPOUNDS、H.R.ALLCOCK著、1972年刊、ACADEMIC PRESS社
【非特許文献2】PHOSPHAZENES、A WORLDWIDE INSIGHT、M.GLERIA、R.DE JAEGER著、2004年刊、NOVA SCIENCE PUBLISHERS INC.社
【0062】
これらの文献に記載されているように、式(3)で表される環状ホスホニトリルジハライドは、通常、重合度が3から15程度の環状ホスホニトリルジハライドと鎖状ホスホニトリルジハライドとの混合物として得られる。このため、式(3)で表される環状ホスホニトリルジハライドは、上記各文献に記載されているように、当該混合物から溶媒への溶解度の差を利用して鎖状ホスホニトリルジハライドを取り除いて入手するか、或いは、当該混合物から環状ホスホニトリルジハライドを蒸留又は再結晶によって分離して入手する必要がある。
【0063】
この製造方法において用いる環状ホスホニトリルジハライドとして好ましいものは、例えば、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン(nが3のもの)、オクタフルオロシクロテトラホスファゼン(nが4のもの)、デカフルオロシクロペンタホスファゼン(nが5のもの)、ドデカフルオロシクロヘキサホスファゼン(nが6のもの)、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼンとオクタフルオロシクロテトラホスファゼンとの混合物、nが3から15の環状ホスホニトリルジフルオリドの混合物、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン(nが3のもの)、オクタクロロシクロテトラホスファゼン(nが4のもの)、デカクロロシクロペンタホスファゼン(nが5のもの)、ドデカクロロシクロヘキサホスファゼン(nが6のもの)、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンとオクタクロロシクロテトラホスファゼンとの混合物およびnが3から15の環状ホスホニトリルジクロリドの混合物等である。このうち、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンとオクタクロロシクロテトラホスファゼンとの混合物およびnが3から15の環状ホスホニトリルジクロリドの混合物がより好ましく、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンとオクタクロロシクロテトラホスファゼンとの混合物およびnが3から15の環状ホスホニトリルジクロリドの混合物が特に好ましい。
【0064】
また、上述の環状ホスホニトリルジハライドと反応させる化合物として、次の化合物B1、化合物B2および化合物B3を用意する。
【0065】
[化合物B1]
炭素数が1〜8のアルコール類。
このアルコール類は、炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
【0066】
このようなアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノ−ル、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、ビニルアルコール、1−プロペン−1−オール、2−プロペン−1−オール(アリルアルコール)、1−メチル−1−エテン−1−オール、3−ブテン−1−オール、2−メチル−2−プロペン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、2−ヘプテン−4−オール、5−オクテン−1−オール、ベンジルアルコールおよびフェネチルアルコール等を挙げることができる。このうち、メタノール、エタノール、n−プロパノール、アリルアルコールおよびベンジルアルコールが好ましく、エタノールおよびn−プロパノールが特に好ましい。
【0067】
[化合物B2]
炭素数が6〜20のフェノール類。
このフェノール類は、炭素数が1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい。
【0068】
このようなフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、ジメチルフェノール、エチルフェノール、エチルメチルフェノール、ジエチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、イソプロピルメチルフェノール、イソプロピルエチルフェノール、ジイソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、tert−ブチルフェノール、n−ペンチルフェノール、n−ヘキシルフェノール、ビニルフェノール、1−プロペニルフェノール、2−プロペニルフェノール、イソプロペニルフェノール、1−ブテニルフェノール、sec−ブテニルフェノール、1−ペンテニルフェノール、1−ヘキセニルフェノール、フェニルフェノール、ナフトール、アントラノールおよびフェナントラノール等を挙げることができる。このうち、フェノール、クレゾール、ジメチルフェノール、ジエチルフェノール、2−プロペニルフェノール、フェニルフェノールおよびナフトールが好ましく、フェノール、クレゾール、ジメチルフェノールおよびナフトールが特に好ましい。
【0069】
[化合物B3]
下記の式(7)で表されるホルミルフェノール類。
【0070】
【化10】

このようなホルミルフェノール類としては、例えば、2−ホルミルフェノール、3−ホルミルフェノールおよび4−ホルミルフェノール等を挙げることができる。このうち、3−ホルミルフェノールおよび4−ホルミルフェノールが好ましく、4−ホルミルフェノールが特に好ましい。
【0071】
本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法では、先ず、上述の式(3)で表される環状ホスホニトリルジハライドと上述の化合物B1〜B3とを反応させることにより、環状ホスホニトリルジハライドの全ハロゲン原子を、少なくとも一つが下記のE3基により置換されるよう下記のE1基、E2基およびE3基からなる群から選ばれた基により置換し、環状ホスホニトリル置換体を製造する(工程1)。
【0072】
[E1基]
炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも1種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
この基は、化合物B1によりハロゲン原子と置換されるものであり、既述のA1基に該当する。
【0073】
[E2基]
炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも1種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
この基は、化合物B2によりハロゲン原子と置換されるものであり、既述のA2基に該当する。
【0074】
[E3基]
下記の式(4)で示されるホルミル基置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0075】
【化11】

この基は、化合物B3によりハロゲン原子と置換されるものである。
【0076】
この製造工程では、製造するシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の種類、すなわち、上述の形態Aに係るシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合と、上述の形態Bに係るシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合とで、化合物B1〜B3を適宜選択して使用する。具体的には次の通りである。
【0077】
[形態Aのシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合]
この場合は、環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3とを反応させ、環状ホスホニトリルジハライドのハロゲン原子(以下、活性ハロゲン原子という場合がある)の全てを化合物B3に由来のE3基で置換する。ここで用いられる化合物B3は、上述のホルミルフェノール類のうちの一種若しくは二種以上である。環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3とを反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの全ての活性ハロゲン原子をE3基で置換する方法としては、次のいずれかの方法を採用することができる。
【0078】
<方法A−a>
環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3のアルカリ金属塩とを反応させる。
この方法による場合、化合物B3のアルカリ金属塩の使用量は、通常、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0079】
<方法A−b>
環状ホスホニトリルジハライドと化合物B3とを、ハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させる。
この方法による場合、化合物B3の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。また、塩基の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.1〜2.1当量に設定するのが好ましく、1.1〜1.4当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.1当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.1当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0080】
[形態Bのシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を製造する場合]
この場合は、環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3のうちの少なくとも一種と、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物とを反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの一部の活性ハロゲン原子を化合物B3に由来のE3基で置換し、残りの他の活性ハロゲン原子の全てを化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つの基で置換する。このための方法としては、次のいずれかの方法を採用することができる。
【0081】
<方法B−a>
環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3のアルカリ金属塩と、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩との混合物を反応させ、活性ハロゲン原子の全てを置換する。当該混合物において、化合物B3のアルカリ金属塩の割合は、製造するシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の種類に応じて適宜設定することができる。
【0082】
この方法による場合、上述の混合物の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0083】
<方法B−b>
環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3と、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物との混合物を、ハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させ、活性ハロゲン原子の全てを置換する。当該混合物において、化合物B3の割合は、製造するシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の種類に応じて適宜設定することができる。
【0084】
この方法による場合、上述の混合物の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.0〜2.0当量に設定するのが好ましく、1.05〜1.3当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.0当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.0当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。また、塩基の使用量は、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の量の1.1〜2.1当量に設定するのが好ましく、1.1〜1.4当量に設定するのがより好ましい。当該使用量が1.1当量未満の場合は、活性ハロゲン原子の一部が残留し、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物が所要の効果を示さない可能性がある。一方、当該使用量が2.1当量を超える場合は、反応生成物の分離・精製が困難になるおそれがあり、また、不経済である。
【0085】
<方法B−c>
先ず、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B3を反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B3に由来のE3基により置換した部分置換体を得る(第一工程)。次に、得られた部分置換体に対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物を反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換する(第二工程)。
【0086】
この方法の第一工程は、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B3のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B3をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。また、第二工程は、第一工程で得られた部分置換体に対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、第一工程で得られた部分置換体に対し、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。
【0087】
<方法B−d>
先ず、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物を反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換した部分置換体を得る(第一工程)。次に、得られた部分置換体に対して化合物B3を反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B3に由来のE3基により置換する(第二工程)。
【0088】
この方法の第一工程は、環状ホスホニトリルジハライドに対して化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、環状ホスホニトリルジハライドに対し、化合物B1および化合物B2のうちの少なくとも一つの化合物をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。また、第二工程は、第一工程で得られた部分置換体に対して化合物B3のアルカリ金属塩を反応させて実施してもよいし、第一工程で得られた部分置換体に対し、化合物B3をハロゲン化水素を捕捉する塩基の存在下で反応させてもよい。
【0089】
上述の各方法において用いられるアルカリ金属塩は、通常、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩およびセシウム塩が好ましい。特に、ナトリウム塩およびカリウム塩が好ましい。このようなアルカリ金属塩は、化合物B1〜B3と、金属リチウム、金属ナトリウム若しくは金属カリウム等との脱水素反応、または、化合物B1〜B3と、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物との混合物からの脱水反応によって得ることができる。
【0090】
また、上述の各方法において用いられる塩基は、特に限定されるものではないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジイソプロピルアニリン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジンおよび4−ジイソプロピルアミノピリジン等の脂肪族若しくは芳香族アミン類、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物等が好ましい。特に、トリエチルアミン、ピリジンおよび水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0091】
上述の環状ホスホニトリルジハライドと化合物B1〜B3との反応は、上述のいずれの方法についても、無溶媒で実施することができ、また、溶媒を使用して実施することもできる。溶媒を使用する場合、溶媒の種類は、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではないが、通常、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジエトキシエタンおよびジフェニルエーテル等のエーテル系、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、キシレン、エチルベンゼンおよびイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系、クロロホルムおよび塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、ウンデカンおよびドデカン等の脂肪族炭化水素系、ピリジン等の複素環式芳香族炭化水素系、第三級アミン系並びにシアン化合物系等の有機溶媒を用いるのが好ましい。このうち、分子内にエーテル結合を有し、かつ、化合物B1〜B3およびそれらのアルカリ金属塩の溶解度が高いエーテル系の有機溶媒および水との分離が容易である芳香族炭化水素系の有機溶媒を用いるのが特に好ましい。
【0092】
上述の環状ホスホニトリルジハライドと化合物B1〜B3とを反応させる際の反応温度は、上述のいずれの方法によるか、或いは、反応生成物の熱安定性等を考慮して適宜設定することができる。但し、溶媒を用いて当該反応を実施する場合は、通常、−20℃から溶媒の沸点までの温度範囲に反応温度を設定するのが好ましい。一方、無溶媒で当該反応を実施する場合、反応温度は、通常、40〜200℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0093】
なお、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物として上述の形態Bに係るもの、特に、式(1)における2n個のAのうちの1個〜(2n−2)個がA3基のものを製造する場合は、上述の方法B−c若しくは方法B−dを採用するのが好ましい。
【0094】
ここで、方法B−cを採用する場合は、先ず、環状ホスホニトリルジハライドのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を調製する。そして、この溶媒溶液に対し、化合物B3のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B3とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、−20〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、同温度範囲で1〜24時間反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B3に由来のE3基により置換した部分置換体を製造する。次に、得られた部分置換体のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液に対し、化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、0〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、0℃から溶媒の沸点までの温度で反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換する。
【0095】
一方、方法B−dを採用する場合は、先ず、環状ホスホニトリルジハライドのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を調製する。そして、この溶媒溶液に対し、化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B1および化合物B2から選ばれた少なくとも一つの化合物とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、−20〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、同温度範囲で1〜24時間反応させ、環状ホスホニトリルジハライドの活性ハロゲン原子の一部を化合物B1に由来のE1基および化合物B2に由来のE2基のうちの少なくとも一つにより置換した部分置換体を製造する。次に、得られた部分置換体のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液に対し、化合物B3のアルカリ金属塩のエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液または化合物B3とハロゲン化水素を捕捉する塩基とのエーテル系溶媒溶液若しくは芳香族炭化水素系溶媒溶液を、通常、0〜50℃の温度で3〜24時間かけて添加し、また、0℃から溶媒の沸点までの温度で反応させ、残りの活性ハロゲン原子の全てを化合物B3に由来のE3基により置換する。
【0096】
本発明の製造方法では、次に、上述の工程1により得られたホルミル基を有する環状ホスホニトリル置換体のE3基と下記の式(5)で表されるフェノール類とを反応させ、下記のE4基で表されるヒドロキシル基含有環状ホスホニトリル置換体を製造する(工程2)。
【0097】
【化12】

式(5)中、XからX13は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。
これらは後述の化合物B4に該当する。
【0098】
[E4基]
下記の式(6)で示されるヒドロキシル基含有フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【0099】
【化13】

式(6)中、XからXは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。
この基は、化合物B4とホルミル基を有する環状ホスホニトリル置換体のE3基とを反応され得られる。
【0100】
[化合物B4]
上記の式(5)で表されるフェノール類としては、例えば、フェノール、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、2,3−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,3,5−トリメチルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、2−フェニルフェノールおよび4−フェニルフェノール等を挙げることができる。このうち、フェノール、4−メチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、4−tert−ブチルフェノールおよび4−フェニルフェノールが好ましく、フェノール、4−メチルフェノールおよび4−フェニルフェノールが特に好ましい。これらを2種類以上併用することも可能である。
【0101】
E3基のホルミル基部分と上記のフェノール類とを反応し、E4基で表されるヒドロキシル基含有環状ホスホニトリル置換体を製造するための方法は、各種の文献、例えば、下記のような非特許文献3,4に記載されている。
【0102】
【非特許文献3】「フェノール樹脂」、プラスチック・エージ株式会社発行、1987年、
【非特許文献4】PHENOLIC RESINS: CHEMISTRY,APPLICATIONS,STANDARDIZATION,SAFETY AND ECOLOGY、A.GARDZIELLA,L.A.PILATO,A.KNOP著、2000年刊、SPRINGER社
【0103】
これらの文献に記載されているように、E3基のホルミル基部分とフェノール類とを反応するための方法として、ホルミル基とフェノール類とを酸性または中性条件下で反応させる方法等が知られ、適時酸性触媒を使用することができる。ここで利用可能な酸性触媒としては、公知のものいずれも使用でき、例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸等の無機酸、蓚酸、酢酸等の有機酸、ルイス酸、酢酸亜鉛、酢酸鉛、ナフテン酸亜鉛等の2価金属塩等を挙げることができ、これらの中でも、塩酸や有機酸等が好ましい。また、酢酸亜鉛等を使用し、メチレン結合のフェノール核にortho−位での結合割合が高いハイオルソ型の化合物も製造することができる。酸性触媒の使用量は特に制限されず、使用するホルミル基を有する環状ホスホニトリル置換体の種類や使用量、反応溶媒の有無、得ようとするヒドロキシル基含有環状ホスホニトリル置換体の物性や用途等の各種条件応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は使用するホルミル基を有する環状ホスホニトリル置換体のホルミル基の当量に対して0.001〜5当量に設定するのが好ましく、0.005〜1当量に設定するのがより好ましい。
【0104】
このようなフェノール類との反応により得られる、目的とするヒドロキシル基を有する環状ホスホニトリル置換体は、濾過、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィーおよび再結晶等の通常の方法によって、反応系から単離精製することができる。
【0105】
本発明の製造方法では、次に、上述の工程2により得られたヒドロキシル基を有する環状ホスホニトリル置換体とハロゲン化シアンとを反応させ、工程2において形成されたE3基の−OH基部分を−OCN基に変換する(工程3)。これにより、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物が得られる。
【0106】
E3基の−OH基部分を−OCN基に変換するための方法、すなわち、シアン酸エステルの製造方法は、各種の文献、例えば、下記のような非特許文献5,6に記載されている。
【0107】
【非特許文献5】CHEMISTRY AND TECHNOLOGY OF CYANATEESTER RESINS、I.HAMERTON著、1994年刊、BLACKIE ACADEMIC & PROFESSIONAL社
【非特許文献6】THE CHEMISTRY OF FUNCTIONAL GROUPS.THE CHEMISTRY OF CYANATES AND THEIR THIO DERIVATIVES、S.PATAI編、1977年刊、JOHN WILEY & SONS社
【0108】
これらの文献に記載されているように、シアン酸エステルの製造方法として、(1)ハロゲン化シアンとフェノール類とを3級アミン存在下で反応させる方法、(2)アルコール系またはフェノール系化合物のアルカリ金属塩とハロゲン化シアンとを反応させる方法等が知られている。ここで利用可能なハロゲン化シアンとしては、塩化シアンおよび臭化シアンが挙げられる。これらのシアン酸エステルの製造方法は、ヒドロキシル基を有する環状ホスホニトリル置換体の種類およびその安定性等に応じて選択することができる。
【0109】
このようなヒドロキシル基を有する環状ホスホニトリル置換体とハロゲン化シアンとの反応により得られる、目的とするシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、濾過、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィーおよび再結晶等の通常の方法によって、反応系から単離精製することができる。
【0110】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物と樹脂成分とを含むものである。
【0111】
本発明の樹脂組成物において、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、一種類のものが用いられてもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。また、樹脂成分としては、各種の熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂を使用することができる。これらの樹脂成分は、天然のものであってもよいし、合成のものであってもよい。
【0112】
ここで利用可能な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、スチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(MABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、ポリチオエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン並びに液晶ポリマー等を挙げることができる。変性ポリフェニレンエーテルとしては、ポリフェニレンエーテルの一部または全部に、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、無水ジカルボキシル基などの反応性官能基を、グラフト反応や共重合などの何らかの方法により導入したものが用いられる。なお、本発明の樹脂組成物を電子機器用途、特に、OA機器、AV機器、通信機器および家電製品用の筐体や部品用の材料として用いる場合は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル若しくはポリアミド等を用いるのが好ましい。
【0113】
一方、ここで利用可能な熱硬化性樹脂の具体例としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミド−シアン酸エステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリカルボジイミド並びにエポキシ樹脂等を挙げることができる。また、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリカルボジイミド、マレイミド樹脂、マレイミド−シアン酸エステル樹脂等のポリイミド系樹脂は、その取り扱い加工性および接着性を向上するために、熱可塑性や溶媒可溶性が付与されたものであってもよい。なお、本発明の樹脂組成物を電子部品用途、特に、各種IC素子の封止材、配線板の基板材料、層間絶縁材料や絶縁性接着材料等の絶縁材料、Si基板またはSiC基板等の絶縁材料、導電材料および表面保護材料として用いる場合は、熱硬化性樹脂として、ポリウレタン、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂、ビスマレイミドーシアン酸エステル樹脂、ポリイミド系樹脂若しくはエポキシ樹脂等を用いるのが好ましい。
【0114】
上述の各種樹脂成分は、それぞれ単独で用いられてもよいし、必要に応じて二種以上のものが併用されてもよい。
【0115】
本発明の樹脂組成物において、シアナト基含有環状ホスファゼン化合物の使用量は、樹脂成分の種類、樹脂組成物の用途等の各種条件に応じて適宜設定することができるが、通常、固形分換算での樹脂成分100重量部に対して0.1〜200重量部に設定するのが好ましく、0.5〜100重量部に設定するのがより好ましく、1〜50重量部に設定するのがさらに好ましい。シアナト基含有環状ホスファゼン化合物の使用量が0.1重量部未満の場合は、当該樹脂組成物からなる樹脂成形体が十分な難燃性を示さないおそれがある。逆に、200重量部を超えると、樹脂成分本来の特性を損ない、当該特性による樹脂成形体が得られなくなるおそれがある。
【0116】
また、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分の種類や樹脂組成物の用途等に応じ、その目的とする物性を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合することができる。利用可能な添加剤としては、例えば、天然シリカ、焼成シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、ホワイトカーボン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛、天然マイカ、合成マイカ、アエロジル、カオリン、クレー、タルク、焼成カオリン、焼成クレー、焼成タルク、ウオラストナイト、ガラス短繊維、ガラス微粉末、中空ガラスおよびチタン酸カリウム繊維等の無機充填剤、アラミド繊維またはポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維等の有機繊維、シランカップリング剤などの充填材の表面処理剤、ワックス類、脂肪酸およびその金属塩、酸アミド類およびパラフィン等の離型剤、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、リン酸アミド、リン酸アミドエステル、リン酸アンモニウム、赤リン、塩素化パラフィン、メラミン、メラミンシアヌレート、メラム、メレム、メロンおよびサクシノグアナミン等の窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤並びに臭素系難燃剤等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のドリッピング防止剤、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダートフェノール、スチレン化フェノールなどの酸化防止剤、チオキサントン系などの光重合開始剤、スチルベン誘導体などの蛍光増白剤、硬化剤、染料、顔料、着色剤、光安定剤、光増感剤、増粘剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤、チクソ性付与剤、可塑剤並びに帯電防止剤等を挙げることができる。
【0117】
さらに、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、熱硬化性樹脂の硬化剤や硬化促進剤を配合することができる。ここで用いられる硬化剤や硬化促進剤は、一般に使用されるものであれば、特に限定されるものではないが、通常、アミン化合物、フェノール化合物、酸無水物、イミダゾール類および有機金属塩などである。これらは、二種以上を併用することもできる。
【0118】
本発明の樹脂組成物を電気・電子分野用の材料、具体的には、LSI等の電子部品の封止剤や基板等に用いる場合、樹脂成分としては、シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂および変性ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。
【0119】
本発明の樹脂組成物において利用可能なシアン酸エステル樹脂は、1分子中に2個以上のシアナト基を有するものであれば、特に限定されるものではない。このようなシアン酸エステル樹脂の例としては、シアン酸エステル化合物、およびシアン酸エステル化合物のシアナト基の三量化によって形成されるトリアジン環を有する、重量平均分子量が500〜5,000のプレポリマー等を挙げることができる。
【0120】
ここで利用可能なシアン酸エステル化合物としては、例えば、1,3−ジシアナトベンゼン、1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、1,3−ジシアナトナフタレン、1,4−ジシアナトナフタレン、1,6−ジシアナトナフタレン、1,8−ジシアナトナフタレン、2,6−ジシアナトナフタレン、2,7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、4,4’−ジシアナトビフェニル、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジシアナトビフェニル、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)メタン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)メタン、ビス(4−シアナトフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)エタン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)エタン、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アリル−4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナト−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(3−アリル−4−シアナトフェニル)ブタン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)エーテル、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)スルフィド、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)スルフィド、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−シアナトフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3−tert−ブチルフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3−iso−プロピルフェニル)カルボニル、ビス(4−シアナト−3,5−ジメチルフェニル)カルボニル、ビス(2−シアナト−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)カルボニル、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−シアナト−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、トリス(4−シアナトフェニル)ホスファイトおよびトリス(4−シアナトフェニル)ホスフェートを挙げることができる。
【0121】
上述のようなプレポリマーの製法としては、シアン酸エステル化合物を、例えば鉱酸やルイス酸等の酸類、ナトリウムアルコラート類や第三級アミン類等の塩類、炭酸ナトリウム等の塩類を触媒として重合させる方法などを挙げることができる。この際、重合反応系には、ノボラック樹脂や水酸基含有熱可塑性樹脂のオリゴマー(例えば、ヒドロキシポリフェニレンエーテルやヒドロキシポリスチレンなど)とハロゲン化シアンとを添加してもよい。
【0122】
なお、シアン酸エステル樹脂として好ましいものは、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、ノボラック樹脂およびハロゲン化シアンの反応により得られるシアン酸エステル樹脂類である。シアン酸エステル樹脂は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0123】
樹脂成分としてシアン酸エステル樹脂を用いる場合、本発明の樹脂組成物は、熱硬化性を向上させるために、硬化触媒および他の樹脂を添加するのが好ましい。シアン酸エステル樹脂を用いた本発明の樹脂組成物(以下、「シアン酸エステル樹脂組成物」という場合がある)は、硬化の程度が高い場合において後述するような優れた誘電特性を発現し得るため、シアン酸エステル樹脂を十分に硬化させることが必要であるが、シアン酸エステル樹脂の硬化反応には200℃以上の高温で2時間以上の時間を要する場合があるため、シアン酸エステル樹脂の硬化反応を促進させるために硬化触媒を用いることが好ましい。
【0124】
ここで利用可能な硬化触媒は、シアン酸エステル樹脂の硬化反応を促進し得る化合物であれば、特に限定されるものではないが、例えば、銅(II)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート、亜鉛(II)アセチルアセトナートおよびマンガン(II)アセチルアセトナート等のアセチルアセトナートと金属とのキレート化合物、オクチル酸銅、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルトおよびナフテン酸亜鉛等のカルボン酸金属塩触媒、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、4−クミルフェノールおよびノニルフェノール等のアルキルフェノール類、フェノール樹脂並びに揮発性の低いアルコール類等の活性水素を有する化合物などを挙げることができる。また、これらの硬化触媒は、単独であるいは適宜組み合わせて用いることができる。硬化触媒として好ましいものは、より硬化反応を促進することができる点で、アセチルアセトナートと金属とのキレート化合物、特に、銅(II)アセチルアセトナート若しくは亜鉛(II)アセチルアセトナートと金属とのキレート化合物である。
【0125】
硬化触媒の使用量は、硬化触媒の種類や硬化反応を促進する程度に応じて設定することができる。例えば、硬化触媒がアセチルアセトナートと金属とのキレート化合物の場合、シアン酸エステル樹脂組成物100重量部に対して、0.001重量部〜0.1重量部の範囲内で用いるのが好ましい。また、硬化触媒が他の化合物の場合、シアン酸エステル樹脂組成物100重量部に対して0.1重量部〜20重量部の範囲で用いるのが好ましい。硬化触媒の使用量が上記範囲未満であると、硬化反応の促進効果が不十分になる可能性があり、また、上記範囲を超えると、得られるシアン酸エステル樹脂組成物の保存安定性に支障が生じる可能性がある。
【0126】
シアン酸エステル樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物に対して1価のフェノール類化合物を適正量反応することで、シアナト基をイミドカーボネート化し、硬化後に残存するシアナト基を減らすことができる。高極性のシアナト基を硬化後に減らすことによって、硬化物全体の誘電率と誘電正接をシアン酸エステル樹脂のみからなる硬化物の値まで低下させることができる。この目的で用いる1価のフェノール類化合物は、シアナト基との反応性が高く、また単官能で比較的低分子量であり、しかもシアネートエステル類化合物との相溶性が良いものが好ましい。このような1価のフェノール類化合物としては、例えば、硬化触媒として使用されるp−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、4−クミルフェノールおよびノニルフェノール等を挙げることができる。
【0127】
本発明の樹脂組成物において利用可能なエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。その具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−Aノボラック型エポキシ樹脂およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のフェノール類とアルデヒド類との反応により得られるノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビスフェノール−F型エポキシ樹脂、ビスフェノール−AD型エポキシ樹脂、ビスフェノール−S型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、シクロペンタジェン型エポキシ樹脂、アルキル置換ビフェノール型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン等のフェノール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン、オリゴプロピレングリコールおよび水添ビスフェノール−A等のアルコール類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる脂肪族エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸若しくはフタル酸とエピクロルヒドリン若しくは2−メチルエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル系エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンやアミノフェノール等のアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン系エポキシ樹脂、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られる複素環式エポキシ樹脂、グリシジル基を有するホスファゼン化合物、エポキシ変性ホスファゼン樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂並びにウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール−A型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂およびトリス(ヒドロキシフェニル)メタンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂は、それぞれ単独で使用してもよいし、二種以上のものが併用されてもよい。
【0128】
樹脂成分として上述のエポキシ樹脂を用いる場合(以下、このような樹脂組成物を「エポキシ樹脂組成物」という場合がある)、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、エポキシ基との反応によって、オキサゾリドン環を形成することから、エポキシ樹脂の硬化剤として機能し得る。また、エポキシ樹脂組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物と共に、他の硬化剤を併せて含んでいてもよい。エポキシ樹脂組成物が、硬化剤として本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物と他の硬化剤とを併用している場合、硬化剤の合計量(すなわち、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物と他の硬化剤との合計量)に占める本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の割合は、0.1〜99重量%が好ましく、0.5〜90重量%がより好ましい。シアナト基含有環状ホスファゼン化合物の割合が0.1重量%未満の場合は、当該樹脂組成物からなる樹脂成形体が十分な難燃性を示さないおそれがある。
【0129】
エポキシ樹脂組成物において、シアナト基含有環状ホスファゼン化合物と併用され得る他の硬化剤は、特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンおよびポリアミドポリアミン等のポリアミン系硬化剤、無水ヘキサヒドロフタル酸および無水メチルテトラヒドロフタル酸等の酸無水物系硬化剤、フェノールノボラックおよびクレゾールノボラック等のフェノール系硬化剤、水酸基を有するホスファゼン化合物、三フッ化ホウ素等のルイス酸およびそれらの塩類並びにジシアンジアミド類等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上併用してもよい。
【0130】
エポキシ樹脂組成物において、硬化剤(すなわち、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物または本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物と上述の他の硬化剤との併用物)の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5〜1.5当量になるよう設定するのが好ましく、0.6〜1.2当量になるよう設定するのがより好ましい。
【0131】
エポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を含んでいてもよい。利用可能な硬化促進剤は、公知の種々のものであり、特に限定されるものではないが、例えば、2−メチルイミダゾールおよび2−エチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3アミン系化合物、トリフェニルホスフィン化合物等を挙げることができる。硬化促進剤を用いる場合、その使用量は、エポキシ樹脂100重量部に対して0.01〜15重量部に設定するのが好ましく、0.1〜10重量部に設定するのがより好ましい。
【0132】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて公知の反応性希釈剤や添加剤が配合されていてもよい。利用可能な反応性希釈剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルおよびアリルグリシジルエーテル等の脂肪族アルキルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレートおよび3級カルボン酸グリシジルエステル等のアルキルグリシジルエステル、スチレンオキサイドおよびフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−s−ブチルフェニルグリシジルエーテルおよびノニルフェニルグリシジルエーテル等の芳香族アルキルグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの反応性希釈剤は、それぞれ単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。一方、添加剤としては、既述のようなものを用いることができる。
【0133】
上述のシアン酸エステル樹脂組成物やエポキシ樹脂組成物等の本発明の樹脂組成物は、各成分を均一に混合することにより得られる。この樹脂組成物は、樹脂成分に応じて100〜250℃程度の温度範囲で1〜36時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。例えば、エポキシ樹脂組成物は、通常、150〜250℃の温度で2〜15時間放置すると、充分な硬化反応が進行し、硬化物を形成する。このような硬化過程において、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、そのシアナト基が樹脂成分と反応し、硬化物中において安定に保持されることになるため、当該硬化物の高温信頼性を損ないにくい。また、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、そのような硬化物の機械的特性(特に、ガラス転移温度)を損なわずに、その難燃性を高めることができる。このため、本発明の樹脂組成物は、各種の樹脂成形体の製造用材料、塗料用、接着剤用およびその他の用途用として、広く用いることができる。
【0134】
また、高分子材料の誘電特性は、使用されている分子の双極子の配向分極による影響が大きいことから、分子内の極性基を少なくすることにより誘電率を低くすることができ、また、極性基の運動性を抑えることにより誘電正接を低くすることができる。本発明の樹脂組成物に含まれるシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、極性の高いシアナト基を有しているが、硬化時には対称性を有しかつ剛直なトリアジン構造を生成することができるため、誘電率および誘電正接を高めにくい。このため、本発明の樹脂組成物によれば、低い誘電率および誘電正接の硬化物が得られる。したがって、本発明の樹脂組成物は、半導体封止用や回路基板(特に、金属張り積層板、プリント配線板用基板、プリント配線板用接着剤、プリント配線板用接着剤シート、プリント配線板用絶縁性回路保護膜、プリント配線板用導電ペースト、多層プリント配線板用封止剤、回路保護剤、カバーレイフィルム、カバーインク)形成用等の電気・電子部品の製造用材料として特に好適である。
【0135】
重合性組成物
本発明の重合性組成物は、本発明のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を含んでいる。ここで用いられるシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、二種以上のものであってもよい。この重合性組成物は、その用途等に応じ、その目的とする物性を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合することができる。利用可能な添加剤は、上述の樹脂組成物の説明において挙げたものと同様のものである。
【0136】
また、この重合性組成物は、熱硬化性を向上させるために、硬化触媒を含んでいてもよい。ここで利用可能な硬化触媒は、通常、上述の樹脂組成物の説明において挙げたものと同様のもの、すなわち、アセチルアセトナートと金属とのキレート化合物、カルボン酸金属塩触媒、アルキルフェノール類、フェノール樹脂および揮発性の低いアルコール類等の活性水素を有する化合物などである。
【0137】
さらに、この重合性組成物は、上述の樹脂組成物の場合と同じく、シアナト基をイミドカーボネート化して硬化後に残存するシアナト基を減らし、重合物(硬化物)の誘電率と誘電正接とを低下させることを目的として、1価のフェノール類化合物を含んでいてもよい。この目的で用いる1価のフェノール類化合物は、上述の樹脂組成物の説明において挙げたものと同様のものである。
【0138】
本発明の重合性組成物は、所要の成分を均一に混合することにより得られる。この重合性組成物は、通常、加熱するとシアナト基含有環状ホスファゼン化合物間での重合が進行して重合物となり、硬化物(樹脂成形体)を形成する。この硬化物は、実質的に本発明のシアナト基含有環状ホスファゼンの重合体からなるため、難燃性および高温信頼性に優れ、また、ガラス転移温度が高いために機械的特性においても優れている。このため、本発明の重合性組成物は、各種の分野において用いられる樹脂成形体の製造用材料として、広く用いることができる。
【0139】
また、本発明の重合性組成物に含まれるシアナト基含有環状ホスファゼン化合物は、極性の高いシアナト基を有しているが、硬化時には対称性を有しかつ剛直なトリアジン構造を生成することができるため、硬化物の誘電率および誘電正接を高めにくい。このため、本発明の重合性組成物によれば、低い誘電率および誘電正接の硬化物が得られる。したがって、本発明の重合性組成物は、半導体封止用や回路基板(特に、金属張り積層板、プリント配線板用基板、プリント配線板用接着剤、プリント配線板用接着剤シート、プリント配線板用絶縁性回路保護膜、プリント配線板用導電ペースト、多層プリント配線板用封止剤、回路保護剤、カバーレイフィルム、カバーインク)形成用等の電気・電子部品の製造用材料として特に好適である。
【実施例】
【0140】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、以下において、「unit mol」の「unit」は、環状ホスファゼン化合物の最小構成単位、例えば、一般式(1)については(PNA)を意味し、一般式(3)については(PNX)を意味する。一般式(3)において、Xが塩素の場合、その1unit molは115.87gである。
また、以下においては、特に断りがない限り、「%」および「部」とあるのは、それぞれ「重量%」および「重量部」を意味する。
【0141】
実施例等で得られたホスファゼン化合物は、H−NMRスペクトルおよび31P−NMRスペクトルの測定、CHN元素分析、IRスペクトルの測定、アルカリ溶融後の硝酸銀を用いた電位差滴定法による塩素元素(残留塩素)の分析、マイクロウエーブ湿式分解後のICP−AESによるリン元素の分析並びにTOF−MS分析の結果に基づいて同定した。また、水酸基当量は、JIS K 0070−1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価および不けん化物の試験方法」において規定された水酸基価測定方法の中和滴定法に従い測定し、水酸基価mgKOH/gの値を水酸基当量g/eq.に変換した。
【0142】
実施例1(形態Bに係るシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の製造)
[工程1:上記方法B−dによる環状ホスホニトリル置換体の製造]
温度計、撹拌機、冷却管および滴下ロートを取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン(86.9g,0.75unit mol)を仕込み、クロロベンゼン(MCB、581g)を加えて溶解した。これにナトリウムフェノキシド(87g,0.75mol)のテトラヒドロフラン(THF、160g)溶液を5時間以上かけてゆっくりと滴下した後、25℃にて24時間撹拌した。得られた反応液を予め調製した4−ヒドロキシベンズアルデヒドカリウム塩(140.5g,0.975mol)のMCB(813g)懸濁液に投入後、臭化テトラブチルアンモニウム(1.5g,0.0047mol)を添加し、110℃にて3時間還流した。反応混合物を室温に冷却後、5%水酸化ナトリウム水溶液(700g)、水(100g)、MCB(111g)を加えて分液ロートに移した。水層を分離後、MCB層を2%水酸化ナトリウム水溶液(500g)にて2回洗浄後、希硝酸にて中和し、水洗した。MCB層を減圧濃縮し、187.7g(収率:96.5%)の生成物を得た。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0143】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
−C−およびOC 6.9〜7.8(30H)、 −CHO 9.95(3H)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.9
◎IRスペクトル(KBr):
1704cm−1(CHO)を確認。
◎CHNP元素分析:
理論値 C:60.2%,H:3.9%,N:5.0%,P:12.0%
実測値 C:60.4%,H:3.9%,N:5.5%,P:12.1%
◎残存塩素分析:
<0.01%
【0144】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は[N=P(OCCHO)(OC]、[N=P(OCCHO)(OC]、[N=P(OCCHO)(OC]、[N=P(OCCHO)(OC]の混合物であり、その平均組成が[N=P(OCCHO)2.7(OC3.3]であることを確認した。
【0145】
[工程2:フェノール類との縮合工程]
温度計、撹拌機、冷却管を取り付けた2リットルの4つ口フラスコに工程1にて得られた化合物(187.1g,0.241mol)、フェノール(274.5g, 2.89mol)、MCB(1,327g)、p−トルエンスルホン酸(5.92g,0.028mol)を仕込み、60℃にて2時間撹拌した。その後、脱水装置(ディーンスターク)を取り付けて、さらに130℃に加熱し、生じた水を系外に除いた。反応終了後、室温まで冷却して4−メチル−2−ペンタノン(MIBK、801g)を加え、3回水洗浄した。MIBK層を減圧濃縮後、濃縮残渣をメタノール−水混合溶媒にて結晶化し、232g(収率75%)の赤色の生成物を得た。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0146】
H−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
−CH− 5.4〜6.3(3H)、−C−およびOC 6.9〜7.8(49H)、−OH 8.04(6H)
31P−NMRスペクトル(重アセトン中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.9
◎IRスペクトル(KBr):
3500cm−1(OH)を確認、1704cm−1の消失を確認した。
◎CHNP元素分析:
理論値 C:70.1%,H:4.5%,N:3.3%,P:7.2%
実測値 C:69.7%,H:4.5%,N:4.4%,P:7.6%
◎水酸基当量:
222g/eq.(理論値215g/eq.)
【0147】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は{N=P[OCCH(COH)](OC}、{N=P[OCCH(COH)](OC}、{N=P[OCCH(COH)](OC}、{N=P[OCCH(COH)](OC}の混合物であり、その平均組成が{N=P[OCCH(COH)]2.7(OC3.3}であることを確認した。尚、本化合物の(COH)基の置換比率は、13C−NMR測定の結果、オルト位:パラ位=2.5:1であった。
【0148】
[工程3:シアナト化工程]
温度計、撹拌機および滴下ロートを取り付けた3リットルの4つ口フラスコに、工程2で得られた化合物(200g,水酸基当量222g/eq.,水酸基0.901eq.)、臭化シアン(124g,1.18mol)、MIBK(400g)を仕込み、撹拌しながら内温を0 ℃以下に冷却した。次に、トリエチルアミン(118.4g,1.18mol)のアセトニトリル(550g)溶液を内温0℃以下で滴下した後、同温度で15分熟成した。反応混合物にトルエン(1,200g)、水(700g)を加えた後、分液ロートに移して下層を分離した。上層を水(700g)で洗浄後、内温35℃以下で減圧濃縮し、褐色の油状物を得た。得られた粗生成物をトルエン(700g)、MIBK(320g)混合溶媒に溶解後、ヘプタン(3,460g)にゆっくりと滴下した。析出した固体を濾取後、35℃以下で減圧乾燥して206g(収率92.4%)の生成物を得た。この生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0149】
H−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
−CH− 5.4〜6.3(3H)、−C−およびOC 6.9〜7.8(49H)
31P−NMRスペクトル(重クロロホルム中、δ、ppm):
三量体(P=N) 9.9
◎IRスペクトル(KBr):
2260cm−1(OCN)を確認した。
◎CHNP元素分析:
理論値 C:66.8%,H:3.9%,N:9.0%,P:6.6%
実測値 C:66.6%,H:3.9%,N:8.8%,P:7.0%
【0150】
以上の分析結果から、この工程で得られた生成物は{N=P[OCCH(COCN)](OC}、{N=P[OCCH(COCN)](OC}、{N=P[OCCH(COCN)](OC}、{N=P[OCCH(COCN)](OC}の混合物であり、その平均組成が{N=P[OCCH(COCN)]2.7(OC3.3}であることを確認した。
【0151】
比較例1(環状ホスファゼン化合物の製造)
PHOSPHORUS−NITROGEN COMPOUNDS、H.R.ALLCOCK著、1972年刊、151頁、ACADEMIC PRESS社に記載されている方法に従い、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン81%とオクタクロロシクロテトラホスファゼン19%とのシクロホスファゼン混合物を用いて[N=P(OCと[N=P(OCとの混合物(白色固体/融点:65〜112℃)を得た。
【0152】
実施例2(樹脂成形体の作製)
実施例1で合成したシアナト基含有環状ホスファゼン化合物からなる重合性組成物を170℃で1時間加熱し、一部を3量化させてプレポリマーを調製した。次に、これをPTFEの型に流し込んで200℃で2時間、230℃で3時間加熱硬化させ、1/16インチ厚および5mm厚の二種類のシート状硬化物(樹脂成形体)を作製した。硬化物は、IRスペクトルによってシアナト基(OCN)の吸収が完全に消失していることを確認した。
【0153】
得られたシート状硬化物について、燃焼性、耐熱性、ギガヘルツ帯での誘電特性およびガラス転移温度を調べた。燃焼性および耐熱性は1/16インチ厚のシート状硬化物を用いて評価した。また、誘電特性およびガラス転移温度については5mm厚のシート状硬化物を用いて評価した。各項目の評価方法は次の通りである。その結果を表1に示す。
【0154】
(燃焼性)
アンダーライターズラボラトリーズ(Underwriter’s Laboratories Inc.)のUL−94規格垂直燃焼試験に基づき、10回接炎時の合計燃焼時間と燃焼時の滴下物による綿着火の有無により、V−0、V−1、V−2および規格外の四段階に分類した。評価基準を以下に示す。難燃性レベルはV−0>V−1>V−2>規格外の順に低下する。
【0155】
V−0:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が50秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が5秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは30秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0156】
V−1:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)すべての試験片で滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がない。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0157】
V−2:下記の条件を全て満たす。
(A)試験片5本を1本につき二回ずつ、合計10回の接炎後からの消炎時間の合計が250秒以内。
(B)試験片5本を1本につき二回ずつ接炎を行い、それぞれの接炎後からの消炎時間が30秒以内。
(C)試験片5本のうち、少なくとも1本は、滴下物による、300mm下の脱脂綿への着火がある。
(D)すべての試験片で、二回目の接炎後のグローイングは60秒以内。
(E)すべての試験片で、クランプまでフレーミングしない。
【0158】
(耐熱性)
試験片を288℃で20分間処理し、外観の変化を観察した。表1において、「有」は、環状ホスファゼン化合物のブリードアウトによる外観変化がないことを示す。また、「無」は、環状ホスファゼン化合物のブリードアウトによる外観変化があることを示す。
【0159】
(誘電特性)
空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置(関東電子応用開発株式会社の商品名)を用い、下記の条件にて24時間放置したシート状硬化物の誘電率および誘電正接を下記の条件下で測定した。
測定温度 :22〜24℃
測定湿度 :45〜55%
測定周波数:5GHz
【0160】
(ガラス転移温度:Tg)
セイコー電子工業株式会社のDMS−200(商品名)を用い、測定長(測定治具間隔)を20mmとして、下記の条件下で、シート状硬化物の貯蔵弾性率(ε’)の測定を行い、当該貯蔵弾性率(ε’)の変曲点をガラス転移温度(℃)とした。
【0161】
測定雰囲気:乾燥空気雰囲気
測定温度 :20〜400℃の範囲内
測定試料 :幅9mm、長さ40mmにスリットした硬化樹脂シート
【0162】
【表1】

【0163】
表1から明らかなように、実施例2のシート状硬化物は、ギガヘルツ帯の周波数において低い誘電率と優れた誘電正接を示し、また、高いガラス転移温度を示している。
【0164】
比較のため、比較例1で合成した環状ホスファゼン化合物を用いてシート状硬化物の作製を試みた。ここでは、比較例1で合成した環状ホスファゼン化合物を170℃で1時間加熱し、次にこれをPTFEの型に流し込んで200℃で2時間、230℃で3時間加熱したところ、環状ホスファゼン化合物の外観は白色固体から褐色固体に変化した。加熱した固体をトルエンに加えたところ、その固体は完全に溶解し、硬化が全く起こっていなかった。すなわち、シート状硬化物は得られず、実施例2と同様の評価はできなかった。
【0165】
合成例1(可溶性ポリイミド樹脂の合成)
撹拌機、温度計、還流冷却管および窒素導入管を備えた3リットルのガラス製フラスコ中に、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン277.7g(0.95mol)および3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル10.7g(0.05mol)およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)700mlを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌溶解した。次に、フラスコ内の溶液を窒素雰囲気下で撹拌し、4、4’−(4、4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビスフタル酸無水物(IPBP)のDMF溶液[IPBP520.5g(1.00mol)、DMF1,100ml]を5〜10℃で2時間かけて滴下し、さらに室温で3時間撹拌してポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液2,500gをフッ素樹脂(PTFE)でコートしたトレイに移し、真空オーブンで減圧加熱(条件:200℃、5.7hPa以下、6時間)することによって、可溶性ポリイミド樹脂750gを得た。
【0166】
合成例2(2官能PPEオリゴマーの合成)
撹拌機、温度計、還流冷却管および空気導入管を備えた2リットルのガラス製フラスコ中にCuCl1.3g(0.012mol)、ジ−n−ブチルアミン70.7g(0.55mol)およびメチルエチルケトン500mlを仕込み、反応温度40℃にて撹拌を行い、予めメチルエチルケトン1,000mlに溶解させた4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)45.4g(0.16mol)と2,6−ジメチルフェノール58.6g(0.48mol)とを2リットル/分の空気のバブリングを行いながら2時間かけて滴下し、その後、1時間、2リットル/分の空気のバブリングを続けながら撹拌を行った。そして、これにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。その後、3%塩酸水溶液で3回洗浄を行った後、イオン交換水でさらに洗浄を行った。得られた溶液を濃縮し、さらに減圧乾燥を行い、両末端にヒドロキシル基を有する2官能PPEオリゴマーを101.3g得た。このオリゴマーは、数平均分子量が860、重量平均分子量が1,150、水酸基当量が455g/eq.であった。
【0167】
実施例3〜4(樹脂組成物の調製)
合成例1で得られた可溶性ポリイミド樹脂50g、ビスフェノールA系シアン酸エステル化合物である2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)25.0gおよび表2に示すシアナト基含有環状ホスファゼン化合物をジオキソランに溶解し、樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
【0168】
この樹脂溶液を、125μm厚のPETフィルム(東洋メタライジング株式会社の商品名“セラピールHP”)の表面上にキャストした。その後、熱風オーブンにて60℃、80℃、100℃、120℃および140℃の各温度でそれぞれ3分加熱乾燥させ、PETフィルムを支持体とする2層の樹脂シートを得た。この2層の樹脂シートから、PETフィルムを剥離除去し、単層の樹脂シート(加熱硬化前の厚み50μm)を得た。得られた樹脂シートを、18μmの圧延銅箔(ジャパンエナジー株式会社の商品名“BHY−22B−T”)で樹脂表面と銅箔粗化面とが接するように挟み込み、温度230℃、圧力3MPaの条件で1時間加熱加圧して銅箔積層体(単層の樹脂シートを圧延銅箔で挟持したもの)を得た。
【0169】
このようにして得られた、両面に銅箔層を有する銅箔積層体について、半田耐熱性を評価した。また、得られた銅箔積層体の銅箔をエッチングにより除去し、硬化シートを得た。この硬化シートについて、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度(Tg)を測定した。半田耐熱性の評価方法は次の通りである。また、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度は、実施例2と同様の方法および条件で測定した。その結果を表2に示す。
【0170】
(半田耐熱性)
銅箔積層体から長さ30mm、幅15mmの試験片を切り出し、この試験片を温度22.5〜23.5℃、湿度39.5〜40.5%の環境下で24時間放置した。そして、288℃の溶融半田に試験片を1分間ディップし、片側の銅箔のみをエッチングした。その後、目視にて樹脂部分を観察し、発泡や膨れ等の異常がなければ合格とし、20検体中の不合格数を調べた。
【0171】
比較例2(樹脂組成物の調製)
実施例2で製造したシアナト基含有環状ホスファゼン化合物に代えて、比較例1で製造した環状ホスファゼン化合物25.0gを使用した点を除き、実施例3〜4と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例3〜4と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度を評価した。その結果を表2に示す。
【0172】
【表2】

【0173】
表2から明らかなように、実施例3〜4の樹脂組成物からなる硬化物は、比較例2に比べ、ギガヘルツ帯の周波数において低い誘電率と優れた誘電正接を示し、また、高いガラス転移温度と優れた半田耐熱性を示している。
【0174】
実施例5〜6(樹脂組成物の調製)
合成例2で得られた2官能PPEオリゴマー(水酸基当量:455g/eq)20.0g、表3に示すシアナト基含有環状ホスファゼン化合物および 2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(Lonza社の商品名“BADCy”)50.0gをジオキソランに溶解し、樹脂溶液(樹脂組成物)を得た。
【0175】
この樹脂溶液を、125μm厚のPETフィルム(東洋メタライジング株式会社の商品名“セラピールHP”)の表面上にキャストした。その後、熱風オーブンにて60℃、80℃、100℃、120℃および140℃の各温度でそれぞれ3分間加熱乾燥させ、PETフィルムを支持体とする2層の樹脂シートを得た。この2層の樹脂シートから、PETフィルムを剥離除去し、単層の樹脂シート(加熱硬化前の厚みは50μm)を得た。得られた樹脂シートを、18μmの圧延銅箔(ジャパンエナジー株式会社の商品名“BHY−22B−T”)で樹脂表面と銅箔粗化面とが接するように挟み込み、温度230℃、圧力3MPaの条件で1時間加熱加圧して銅箔積層体(単層樹脂シートを圧延銅箔で挟持したもの)を得た。そして、この銅箔積層体について、実施例3〜4と同様の方法で半田耐熱性を評価した。また、銅箔積層体の銅箔をエッチングにより除去して得られた硬化シートについて、実施例3〜4と同様の方法により、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度を測定した。その結果を表3に示す。
【0176】
比較例3(樹脂組成物の調製)
実施例2で製造したシアナト基含有環状ホスファゼン化合物に代えて、比較例1で製造した環状ホスファゼン化合物30.0gを使用した点を除き、実施例5と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例5〜6と同様の方法および条件により銅箔積層体および硬化シートを得、半田耐熱性、誘電特性、燃焼性およびガラス転移温度を評価した。その結果を表3に示す。
【0177】
【表3】

【0178】
表3から明らかなように、実施例5〜6の樹脂組成物からなる硬化物は、比較例3と比べ、ギガヘルツ帯の周波数において低い誘電率と優れた誘電正接を示し、また、高いガラス転移温度と優れた半田耐熱性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表されるシアナト基含有環状ホスファゼン化合物。
【化1】

(式(1)中、nは3〜15の整数を示し、Aは下記のA1基、A2基およびA3基からなる群から選ばれた基を示しかつ少なくとも一つがA3基である。
A1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
A2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
A3基:下記の式(2)で示されるシアナトフェニル置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【化2】

式(2)中、XからXは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。)
【請求項2】
式(1)において、2n個のAのうちの1〜(2n−2)個がA3基である、請求項1に記載のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物。
【請求項3】
式(1)のnが3若しくは4である、請求項1または2に記載のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物。
【請求項4】
式(1)のnが異なる二種以上のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を含む、請求項1から3のいずれかに記載のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物。
【請求項5】
下記の式(3)で表される環状ホスホニトリルジハライドの全ハロゲン原子を、少なくとも一つが下記のE3基により置換されるよう下記のE1基、E2基およびE3基からなる群から選ばれた基により置換し、ホルミル基含有環状ホスホニトリル置換体を製造する工程と、
【化3】

(式(3)中、nは3〜15の整数を示し、Xはハロゲン原子を示す。
E1基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数が1〜8のアルコキシ基。
E2基:炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基およびアリール基から選ばれる少なくとも一種の基が置換されていてもよい、炭素数6〜20のアリールオキシ基。
E3基:下記の式(4)で示されるホルミル基置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。)
【化4】

前記、ホルミル基(E3基:ホルミル基置換フェニルオキシ基)含有環状ホスホニトリル置換体と下記の式(5)で表されるフェノール類とを反応させ、下記のE4基で表されるヒドロキシル基含有環状ホスホニトリル置換体を製造する工程と、
【化5】

(式(5)中、XからX13は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。
E4基:下記の式(6)で示されるヒドロキシル基置換フェニルオキシ基からなる群から選ばれる基。
【化6】

式(6)中、XからXは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基若しくはアリール基を示す。)
前記ヒドロキシル基含有環状ホスホニトリル置換体とハロゲン化シアンとを反応させる工程と、を含むシアナト基含有環状ホスファゼン化合物の製造方法。
【請求項6】
樹脂成分と、請求項1から4のいずれかに記載のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物と、を含む樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂成分が、シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビスマレイミド−シアン酸エステル樹脂および変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選ばれたものである、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載のシアナト基含有環状ホスファゼン化合物を含む、重合性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の重合性組成物の重合物からなる樹脂成形体。

【公開番号】特開2008−248066(P2008−248066A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90638(P2007−90638)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(591286270)株式会社伏見製薬所 (50)
【Fターム(参考)】