説明

シアニン化合物

【課題】耐水性、耐光性、短波長での吸光特性、溶剤への溶解性等に優れ、且つそれぞれの要請に応じた熱特性を兼備する新規な有機化合物を提供する。
【解決手段】例えば下式で示されるシアニン化合物が例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシアニン化合物に関する。更に詳しくは、耐水性に優れ、短波長の光を吸収する性能に優れた新規なシアニン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
短波長の可視光を吸収する有機色素類は、繊維、樹脂の着・染色、インク用着色剤、フィルター用材等の広範囲の分野で多用されている。最近のエレクトロニクスの急速な進歩により、新しく見出された機能が実用化され、例えば、表示、情報記録などの材料として有機色素類の需要が増加している。
【0003】
このような用途に使用される有機色素化合物に要求される特性は、短波長の可視光における吸光特性、耐水性、耐光性、及び溶剤への溶解性がいずれも良好であること、そして、用途に応じた熱特性を発揮することなどが挙げられる。これまでに提案された代表的な有機色素化合物としては、例えば、アントラキノン系色素、フタロシアニン色素、シアニン色素等が挙げられるが、これらのうち、アントラキノン系色素は吸光特性に難があり、また、フタロシアニン系色素については、吸光特性及び溶剤への溶解性が共に難があるとされている。シアニン色素はこれまで、吸光特性及び溶解性は共に良好であるものの、耐水性及び耐光性に難があり、その改良は重要な課題の一つである。
【0004】
特許文献1には、耐光性に優れたモノメチンシアニン化合物が開示されているが、耐水性に関する記載はない。
【0005】
【特許文献1】WO2005/083011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前述したような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は耐水性、耐光性、短波長での吸光特性、及び溶剤への溶解性等にいずれも優れ、かつ有機色素化合物が適応される新分野のそれぞれの要請に応じた熱特性を有する新規な化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、耐水性に難があるとされていたシアニン系の化合物に着目し、鋭意研究の結果、特定の構造を有するシアニン化合物が、前記課題を解決しうるものであることを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は、
(1)
下記式(1)で示されるシアニン化合物、
【0008】
【化1】

【0009】
(式(1)において、環L、M、O及びPの置換基であるZ11〜Z42は、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香環基、複素芳香環基又はシアノ基を表すか、
又は、Z11及びZ12、Z21及びZ22、Z31及びZ32、及び、Z41及びZ42のそれぞれの組合せの一つ以上が、独立に、5員環L、M、O及びPに縮合する、置換基を有してもよい単環式若しくは多環式の芳香環;又は、置換基を有してもよい単環式若しくは多環式の複素環を形成しても良く、
1〜X4は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、置換基を有しても良いメチレン基、置換基を有しても良いシクロアルカン−1、1−ジイル基、又は置換基を有しても良い窒素原子を、
Yは連結基を、
Zは任意のアニオンをそれぞれ表し、
nはアニオンであるZの価数を表し、
1及びR2は互いに同じか又は異なる脂肪族炭化水素基を表し、それらの脂肪族炭化水素基は置換基を有していても良い。)
(2)
式(1)において、Z11及びZ12、Z21及びZ22、Z31及びZ32、及び、Z41及びZ42の全ての組合せがベンゼン環を形成している上記(1)に記載のシアニン化合物、
(3)
式(1)において、X1〜X4が酸素原子、硫黄原子又は1,1−ジメチルメチレン基である上記(1)又は(2)に記載のシアニン化合物、
(4)
式(1)において、YがC2〜C8の直鎖アルキレン基又は下記式(2)で表される基である上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載のシアニン化合物、
【0010】
【化2】

【0011】
(式(2)において、mは1又は2を表す。)
【0012】
(5)
Zが下記式(3a)で表されるアニオンである上記(1)及至(4)のいずれか一項に記載のシアニン化合物、
【0013】
【化31】

【0014】
(式(3a)において、Metは金属原子を表し、
1〜J4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。
1〜E4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を表す。)
(6)
式(3a)において、E1〜E4が酸素原子であり、J1及びJ2がそれぞれ独立に置換基を有していても良いベンゼン環である上記(5)に記載のシアニン化合物、
(7)
式(3a)で表されるアニオンが下記式(3b)で表されるアニオンである上記(6)に記載のシアニン化合物、
【0015】
【化32】

【0016】
(式(3b)において、Metは金属原子を表し、R3〜R6は互いに同じか異なる脂肪族炭化水素基を表し、それらの脂肪族炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
(8)
Zが下記式(201)又は(202)で表されるアニオンである上記(1)及至(4)のいずれか一項に記載のシアニン化合物、
【0017】
【化201】

【0018】
(式(201)において、Metは金属原子を表す。J1、J2及びJ4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。又、E1、E2及びE4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を、R9及びR10はそれぞれ独立に置換基を、それぞれ示す。)
【0019】
【化202】

【0020】
(式(202)においてMetは金属原子を表す。J1及びJ4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。又、E1及びE4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を、R9〜R12はそれぞれ独立に置換基を、それぞれ示す。)
(9)
式(201)において、Metがコバルト原子又はクロム原子であり、E1、E2及びE4がそれぞれ独立に酸素原子又はカルボキシ基であり、J1及びJ4が置換基を有してもよいベンゼン環であり、R9が置換基を有してもよい脂肪族炭化水素残基である、上記(8)に記載のシアニン化合物、
(10)
式(201)においてR9がメチル基であり、R10が下記式(203)で示される置換基である上記(8)又は(9)に記載のシアニン化合物、
【0021】
【化203】

【0022】
(式(203)においてベンゼン環(Bz1)はさらに置換基を有してもよい。)
(11)
式(202)において、Metがコバルト原子又はクロム原子であり、E1及びE4がそれぞれ独立に酸素原子又はカルボキシ基であり、J1及びJ4がそれぞれ独立に置換基を有してもよいベンゼン環であり、R9及びR12がそれぞれ独立に置換基を有してもよい脂肪族炭化水素残基である上記(1)に記載のシアニン化合物、
(12)
式(202)においてR9及びR12がメチル基であり、R10及びR11がそれぞれ独立に下記式(204)で示される置換基である上記(8)又は(11)に記載のシアニン化合物、
【0023】
【化204】

【0024】
(式(204)においてベンゼン環(Bz2)はさらに置換基を有してもよい。)
(13)
式(202)においてE1及びE4が同一の原子又は基であり、J1及びJ4が同一の置換基を有してもよいベンゼン環であり、R9及びR12が同一の置換基である上記(12)に記載のシアニン化合物、
(14)
式(202)においてE1及びE4が同一の原子又は基であり、J1及びJ4が同一の置換基を有するベンゼン環であり、R9及びR12が同一の置換基である上記(12)に記載のシアニン化合物、及び
(15)上記(1)乃至(14)のいずれか一項に記載のシアニン化合物を、少なくとも1種含有することを特徴とする光情報記録媒体、
に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシアニン化合物は、耐水性に優れ、短波長の可視光を効率よく吸収すると共に、種々の有機溶剤において実用上支障のない溶解性を有し、耐光性、熱特性にも優れている。従って、本発明のシアニン化合物は、短波長の可視光エネルギーを利用する優れた吸光材料として、多様な分野において応用し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のシアニン化合物は、特定のシアニンカチオンと、その電荷を中和するのに必要な任意のアニオンとからなる化合物であり、下記式(1)で表される。
【0027】
【化1】

【0028】
以下、順を追って上記式(1)について説明するが、その中で好ましい基等を記載した場合、該好ましい基同士を組合わせたものはより好ましく、より好ましい基等を組合わせたものはさらに好ましい化合物である。
【0029】
上記式(1)において、環L、M、O及びPの置換基であるZ11〜Z42は、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香環基、複素芳香環基又はシアノ基を表すか、又は、Z11及びZ12、Z21及びZ22、Z31及びZ32、及び、Z41及びZ42のそれぞれの組合せの一つ以上が、独立に、5員環L、M、O及びPに縮合する、置換基を有してもよい単環式若しくは多環式の芳香環;又は、置換基を有してもよい単環式若しくは多環式の複素環を形成しても良い。
11〜Z42が脂肪族炭化水素基である場合、具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル及びペンチル等の直鎖のC1−C8、好ましくはC1−C6アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル及び1−メチルペンチル等の分岐鎖のC1−C8、好ましくはC1−C6アルキル基;イソプロペニル、1−プロペニル、2−プロペニル、2−プロピニル、2−ブテニル、1,3−ブタジエニル、及び2−ペンテン−4−イニル等の不飽和のC1−C8、好ましくはC1−C6アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル等の飽和又は不飽和の環状C3−C7、好ましくはC3−C6アルキル基が挙げられる。
11〜Z42が芳香環基である場合、具体例としてはフェニル、ナフチル等のC6−C10芳香環基が挙げられる。
11〜Z42が複素芳香環基である場合、具体例としてはピリジン、キノリン等の1個の窒素原子を環の構成員として含有するC5−C9複素芳香環基が挙げられる。
上記のZ11〜Z42は、全てが水素原子であるよりは、少なくとも2つ以上が水素原子以外の基であることが好ましい。該基としては直鎖の脂肪族炭化水素基か、又は芳香環基が好ましい。
上記のZ11及びZ12、Z21及びZ22、Z31及びZ32、及び、Z41及びZ42のそれぞれの組合せが形成する、単環式若しくは多環式の芳香環;単環式若しくは多環式の複素環の具体例としては、ベンゼン及びナフタレン等のC6−C10芳香環;ピリジン及びキノリン等のC5−C9複素芳香環が挙げられる。6員環の芳香環又は複素芳香環が好ましく、ベンゼン又はピリジンがより好ましく、ベンゼンが特に好ましい。
さらに、環LとM、及び環OとPの置換基は、同じ基であることが好ましい。すなわち、Z11とZ21、Z12とZ22は同じ基であることが好ましく、Z31とZ41、Z32とZ42は同じ基であることが好ましい。
加えて、環L及びM上、又は環O及びP上の置換基は、いずれか一方が単環式の芳香環を形成するのが好ましく、両方が単環式の芳香環を形成するのがより好ましい。両方が単環式の芳香環を形成する場合とは、すなわち、Z11及びZ12、Z21及びZ22、Z31及びZ32、及び、Z41及びZ42の全てが芳香環である場合であり、この場合、該芳香環の全てがベンゼンであるのが好ましい。
上記の単環式若しくは多環式の芳香環;単環式若しくは多環式の複素環は置換基を有してもよい。該置換基の具体例としては、例えば、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、エステル基、アシル基、アミノ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ、カルボキシル、シアノ及びニトロ、さらには、これらの組み合わせによる置換基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基の具体例としては、上記Z11〜Z42が脂肪族炭化水素基である場合と同じであり、好ましい基等についても同様である。。
アルコキシ基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペンチルオキシ等の直鎖C1−C8、好ましくはC1−C6アルコキシ基;イソプロポキシ、、イソブトキシ、sec−ブトキシ及びtert−ブトキシ等の分岐鎖C1−C8、好ましくはC1−C5アルキル基;フェノキシ等のアリーロキシ基が挙げられる。
エステル基の具体例としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル等の直鎖C1−C8、好ましくはC1−C6アルキル基を有するエステル基が挙げられる。
アシル基の具体例としては、アセトキシ等の脂肪族C1−C6、好ましくはC1−C4アシル基;ベンゾイルオキシ等の芳香族アシル基が挙げられる。
アミノ基の具体例としては、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ブチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ等のモノ又はジC1−C6、好ましくはC1−C4アルキル基が挙げられる。
ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
上記の置換基はいずれも好ましいが、無置換であるのがより好ましい。
【0030】
上記式(1)において、X1〜X4はそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、セレン原子、置換基を有しても良いメチレン基、置換基を有しても良いシクロアルカン−1、1−ジイル基、又は置換基を有しても良い窒素原子を表す。
メチレン基の具体例としては、1,1−ジメチルメチレン、1,1−ジエチルメチレン、1,1−ジプロピルメチレン、1−エチル−1−メチルメチレン、1−メチル−1−プロピルメチレン等の直鎖C1−C6、好ましくはC1−C4アルキル基が2つ置換したメチレン基;1,1−ジベンジルメチレン等のフェニルC1−C3アルキル基が2つ置換したメチレン基;1−ベンジル−1−メチルメチレン及び1−ベンジル−1−エチルメチレン等の直鎖C1−C4アルキル基及びフェニルC1−C3アルキル基が1つずつ置換したメチレン基が挙げられる。
シクロアルカン−1、1−ジイル基の具体例としては、シクロペンタン−1,1−ジイル、シクロヘキサン−1,1−ジイル等のシクロC3−C7、好ましくはシクロC5−C6アルカンジイル基が挙げられる。
置換基を有してもよい窒素原子の置換基の具体例としては、上記脂肪族炭化水素基における直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、好ましい基等も同じである。
上記各基の中でも、合成の容易さにより酸素原子、硫黄原子及び直鎖C1−C6アルキル基が2つ置換したメチレン基が好ましく;酸素原子、硫黄原子及び直鎖C1−C4アルキル基が2つ置換したメチレン基がより好ましく;特に酸素原子、硫黄原子及び1,1−ジメチルメチレン基が好ましい。
1〜X4は、X1とX2、及びX3とX4がそれぞれ同一であるものが好ましい。
【0031】
上記式(1)において、Yは連結基を示す。ここで連結基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、酸素を含む特性基、エーテル基、アシル基、硫黄を含む特性基、窒素を含む特性基が挙げられる。該連結基はいずれも2価の基である。さらには、これらの組み合わせによるものが挙げられる。
【0032】
2価の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチレン、エチレン、ビニレン、トリメチレン、プロピレン、プロペニレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン等の飽和又は不飽和のC1−C8、好ましくはC2−C8アルキレン基が挙げられる。
2価の脂環式炭化水素基の具体例としては、シクロペンチレン、シクロヘキセニレン、シクロヘキサジエニレン等の飽和又は不飽和のシクロC3−C7、好ましくはシクロC5−C6アルカンジイル基が挙げられる。
2価の芳香族炭化水素基の具体例としては、o−フェニレン、m−フェニレン、p−フェニレン、ナフチレン等のC6−C10アリーレンジイル基が挙げられる。
酸素を含む特性基の具体例としては、オキシ、カルボニル等が挙げられる。
エーテル基の具体例としては、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ等のC1−C6、好ましくはC1−C4アルキレンジオキシ基が挙げられる。
2価のアシル基の具体例としては、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、アジポイル、スベロイル等の分子内にカルボニル基を2つ有するジオキソC4−C10、好ましくはC4−C8アルキル基;o−フタロイル、m−フタロイル、p−フタロイル等のC6−C10アリール、好ましくはフェニル基に2つのオキソ基が置換したものが挙げられる。
硫黄を含む特性基の具体例としては、チオ、チオカルボニル等が挙げられる。
窒素を含む特性基の具体例としては、イミノ、アゾ等が挙げられる。
これらのうち、上記式(1)の化合物を容易に合成できる点で、Yが飽和C2〜C8のアルキレン基、又は下記式(2)で表される酸素を含む特性基が好ましい。
【0033】
【化2】

【0034】
(式(2)において、mは前記におけるのと同じ意味を表す。)
【0035】
上記式(1)において、R1及びR2は、互いに同じか又は異なる脂肪族炭化水素基を表し、それらの脂肪族炭化水素基は、1つ以上のハロゲン原子、例えば、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子等によって置換されていてもよい。
該脂肪族炭化水素基は前記ハロゲン原子以外の置換基として、アルコキシ基、エステル基及びアシル基を有してもよい。
アルコキシ基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペンチルオキシ等の直鎖C1−C8、好ましくはC1−C6アルコキシ基;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ及びtert−ブトキシ等の分岐鎖C1−C8、好ましくはC1−C5アルキル基;フェノキシ等のアリーロキシ基が挙げられる。
エステル基の具体例としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル等の直鎖C1−C8、好ましくはC1−C6アルキル基を有するエステル基が挙げられる。
アシル基の具体例としては、アセトキシ等の脂肪族C1−C6、好ましくはC1−C4アシル基;ベンゾイルオキシ等の芳香族アシル基が挙げられる。
該脂肪族炭化水素基の具体例は、上記Z11〜Z42が脂肪族炭化水素基である場合と同じであり、好ましい基等も同じである。
1及びR2は、同一であるものが好ましい。
【0036】
上記式(1)において、Zは任意のアニオン、換言するとカウンターアニオンを表す。Zの例としては、有機カルボン酸、有機スルホン酸等の有機酸のアニオン、ハロゲンイオン等の無機アニオン、金属錯体アニオン、及び上記式(3a)で表されるアニオン等が挙げられる。
有機酸のアニオンの具体例としては、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シュウ酸、コハク酸、ステアリン酸等の脂肪族、トリフルオロ酢酸等のハロゲン置換脂肪族、及び安息香酸等の芳香族の有機カルボン酸のアニオン;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のハロゲン置換脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のベンゼンスルホン酸類、及び1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,6−ナフタレンジスルホン酸、R酸(2−ナフトール−3,6−ジスルホン酸)、G酸(2−ナフトール−6,8−ジスルホン酸)等のナフタレンモノあるいはジスルホン酸等の有機スルホン酸のアニオン;テトラフェニルホウ酸、ブチルトリフェニルホウ酸、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸等の有機ホウ酸のアニオン;その他として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド等の有機酸のアニオンが挙げられる。
無機アニオンの具体例としては、塩素、臭素、フッ素及びヨウ素等のハロゲン原子のアニオン;チオシアン酸、6フッ化アンチモン酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、硝酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、モリブデン酸、タングステン酸、チタン酸、バナジン酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸のアニオンが挙げられる。
金属錯体アニオンの具体例としてはアゾ系金属錯体、ベンゼンジチオール系金属錯体、ナフタレンジチオール系金属錯体、及びエテンジチオール系金属錯体等が挙げられる。
【0037】
上記式(1)において、nは、アニオンであるZの価数を表す。Zが1価のアニオン、例えば過塩素酸アニオン等である場合には、Zが2つ必要である。またZが2価のアニオン、例えばジスルホン酸のジアニオン等である場合には、Zは1つ必要である。nで示されるアニオンの価数に、特に制限はないが、1又は2であることが好ましい。
なお上記式(1)中、Znの直前に「2/n」とあるのは、上記の通り、Zの価数によって必要なアニオン数の計算式を表す。本明細書において、類似の標記がある場合にも同様の意味を表すものとする。
【0038】
上記のZとしては、下記式(3a)で表されるアニオンが好ましい。
【0039】
【化31】

【0040】
上記式(3a)において、Metは金属原子を表し、
1〜J4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。
1〜E4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を表す。
【0041】
1〜J4で表される芳香環の具体例としては、ベンゼン及びナフタレン等のC6−C10、好ましくはC6芳香環が挙げられる。
不飽和複素環の具体例としては、ピラゾール、ピリジン、キノリン、ピロール、等の窒素原子又は酸素原子を1乃至2含有するC3−C9複素芳香環;ピリドン等のオキソ基を1乃至2含有する不飽和6員複素環が挙げられる。
上記の芳香環又は不飽和複素環が有していてもよい置換基の具体例としては、アルキル、芳香環、複素芳香環、アシル、アルコキシ、アルケニル、ハロゲン原子、ヒドロキシ、カルボキシル、エステル、スルホ、スルホン酸エステル、スルファモイル、スルホンアミド、カルバモイル、アミド、アミノ、ニトロ、及びシアノ等が挙げられる。
【0042】
上記E1〜E4の具体例としては、置換基を有しても良いヘテロ原子、カルボキシ基、又はスルホ基等が挙げられる。
該ヘテロ原子の例としては、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等が挙げられる。
該へテロ原子が窒素原子の場合は、水素原子;メチル、エチル等のC1−C4アルキル基;メチルスルホニル等のC1−C4アルキルスルホニル基;フェニルスルホニル等のC6アリールスルホニル基;トリフルオロメチルスルホニル、ペンタフルオロエチルスルホニル等のハロゲン置換C1−C4アルキルスルホニル基;メチルカルボニル等のC2−C6アシル基;フェニルカルボニル等のアリーロイル基;又はトリフルオロメチルカルボニル等のハロゲン置換C1−C4アシル基を置換基として有する。
【0043】
式(3a)において、E1〜E4が酸素原子であり、J1及びJ2がそれぞれ独立に置換基を有していても良いベンゼンであるものが好ましく、更には下記式(3b)で表されるものが好ましい。
【0044】
【化32】

【0045】
上記式(3b)において、Met及びR3〜R6は前記した通りの意味を表す。
式(3a)又は式(3b)において、Metの具体例としては、バナジウム、銅、コバルト、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン等の金属原子が挙げられる。中でも、コバルト原子が好ましい。
3〜R6は互いに同じか異なる脂肪族炭化水素基を表し、該脂肪族炭化水素基の具体例としては、上記Z11〜Z42が脂肪族炭化水素基である場合と同じであり、好ましい基等も同じである。。該脂肪族炭化水素基は、置換基としてハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基及びアシル基を有してもよく、ハロゲン原子の置換数及びこれらの基の具体例としては、上記R1及びR2が脂肪族炭化水素基である場合と同じであり、好ましい基等も同じである。
3〜R6は、R3とR4、及びR5とR6がそれぞれ同一であるものが好ましい。
【0046】
上記式(1)におけるZとしては、下記式(201)及び下記式(202)で表される化合物も好ましい。
【0047】
【化201】

【0048】
(式中、Metは金属原子を表す。J1、J2及びJ4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。又、E1、E2及びE4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を、R9及びR10はそれぞれ独立に置換基を、それぞれ示す。)
【化202】

【0049】
(式中、Metは金属原子を表す。J1及びJ4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。又、E1及びE4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を、R9〜R12はそれぞれ独立に置換基を、それぞれ示す。)
【0050】
上記式(201)の化合物について記載する。
上記式(201)において、Met、J1、J2、J4、E1、E2及びE4については、好ましい基等を含めて、上記式(3a)に記載したものと同じでよい。
【0051】
9及びR10としては、上記の脂肪族炭化水素基、芳香環、複素芳香環、アシル基、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子の他に、ヒドロキシ、カルボキシル、スルホ、カルバモイル、アミノ、ニトロ、シアノ、アミノカルボニルC1−C3アルキル基、スルホン酸エステル、置換又は無置換スルファモイル、置換スルホニルアミノ等が挙げられる。
式(201)においてR9は、それぞれ置換基を有さないC1〜C4アルキル基、C1〜C4アルコキシ基、C2〜C4アシル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。又、R10としては下記式(203)で表されるものが好ましい。
【0052】
【化203】

【0053】
(式中、ベンゼン環(Bz1)はさらに置換基を有してもよい。)
【0054】
上記のベンゼン環Bz1がさらに置換基を有する場合、該置換基としては上記式(201)で表されるアニオン中におけるJ1、J2及びJ4で表される芳香環又は不飽和複素環である場合の置換基と、好ましいものを含めて同じでよい。これに加えて、さらに好ましくはベンゼン環Bz1が無置換の場合である。
【0055】
上記式(202)のアニオンについて記載する。
上記式(201)で表される化合物としてより好ましいものが、上記式(202)で表される化合物である。式(202)中、Met、J1、J4、E1、E4、R9及びR10については、好ましい基等を含めて、式(201)に記載したものと同じでよい。
12及びR11については、それぞれ上記式(201)におけるR9及びR10について記載したものと、好ましい基等を含めて同じでよい。これに加えて、式(202)においては、R11として下記式(204)で表される化合物が好ましい。
【0056】
【化204】

【0057】
(式中、ベンゼン環(Bz2)はさらに置換基を有してもよい。)
【0058】
上記のベンゼン環Bz2がさらに置換基を有する場合、該置換基としては上記式(203)におけるBz1がさらに置換基を有する場合の置換基と、好ましいものを含めて同じでよい。さらに好ましくはベンゼン環Bz2が無置換の場合である。
【0059】
上記のZ11〜Z42、環L〜環P、X1〜X4、Y、Z、n、R1、R2、m、Met、J1〜J4、E1〜E4、R3〜R6、R9〜R12、Bz1、Bz2及びそれらの置換基に関して、好ましく挙げたもの同士を組合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組合わせた化合物はさらに好ましい。その他、特に好ましい等として挙げたもの同士の組合せ等についても同様である。
【0060】
上記式(201)又は(202)で表されるアニオンの具体例を、下記にL1乃至L6として示すが、本発明はこれらに限定されない。これらの化合物は、特開昭48−8310号及び特開平7−32539号等の公知の方法又はそれに準じて容易に合成することができる。
【0061】
【化2011】

【0062】
上記式(1)で表されるシアニン化合物の具体例を、式(6)乃至(29)、及び式(130)乃至(132)として以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0063】
【化612】

【0064】
【化1318】

【0065】
【化1924】

【0066】
【化2529】

【0067】
【化3032】

【0068】
本発明の前記式(1)で表されるシアニン化合物は公知の方法で製造することができる。
例えば、WO01/044374号公報に記載の方法に準じて、下記式(4)で表される化合物と、下記式(5a)及び式(5b)で表される化合物とを縮合することにより、上記式(1)の化合物が得られる。
【0069】
【化4】

【0070】
(式(4)中、Z11、Z12、Z21、Z22、X1、X2、Y、Z及びnは上記式(1)におけるのと同じ意味を表す。)
【0071】
【化5152】

【0072】
(式(5a)及び式(5b)中、Z3、Z4、X3、X4、n、R1及びR2は上記式(1)におけるのと同じ意味を表す。又、Q1及びQ2はそれぞれ独立に、CH=NOH基、チオメチル基、チオエチル基等の脱離基を表す。Z5a及びZ5bはそれぞれ独立に任意のアニオンを表す。
【0073】
尚、上記式(5a)及び式(5b)において、Z3とZ4、X3とX4、及び、R1とR2はそれぞれ同一であるものが好ましい。
【0074】
上記式(1)で表されるシアニン化合物の合成は、上記式(4)で表される化合物、式(5a)及び式(5b)で表される化合物をそれぞれ所定量加え、必要に応じて溶剤に溶解し、加熱及び攪拌しながら所定の温度で反応させればよい。
【0075】
上記溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、オクタン、石油ベンジン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、α―ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物;メタノール、エタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、3−エトキシエタノール、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類及びフェノール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、アニソール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、メチルカルビトールなどのエーテル類;酢酸、無水酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の酢酸類;酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のエステル類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチル燐酸トリアミド及び燐酸トリエチルなどのリン酸アミド及びリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫化合物、及び水などが挙げられ、必要に応じて、単独又は複数を組み合わせて用いる。
溶剤は特に限定されないが、アミド類及びC2−C4アルコール類が好ましい。特に好ましいものはDMF及びエタノールである。
【0076】
上記式(4)で表される化合物と、式(5a)及び式(5b)で表される化合物の割合は、通常、式(4)で表される化合物1モルに対し、式(5a)及び式(5b)の両者を合計で2〜2.5モル、好ましくは2〜2.2モル使用する。
必要に応じて酢酸ナトリウム及び酢酸カリウム等のアルカリ金属の酢酸塩、ピペラジン、ピペリジン、トリエチルアミン等の塩基触媒の存在下に反応を行ってもよい。
また必要に応じて水をトラップできる有機酸、例えば、無水酢酸や無水酢酸と酢酸の混合物のような、無水有機酸及びそれを含有する有機酸を用いることも出来る。
反応温度は通常30〜200℃、好ましくは50〜140℃の範囲がよい。反応時間の目安はおおよそ10時間以内であり、好ましくは10〜60分で目的のシアニン化合物が生成するように溶剤及び反応温度を適宜調整するのがよい。
得られたシアニン化合物は、必要に応じてC1−C4アルコール、例えばメタノール及びエタノール、あるいはその他の有機溶剤から再結晶して精製してもよい。
【0077】
前記反応において、溶剤を用いる場合、一般に、溶剤の量が多過ぎると反応の効率が低下する。反対に、溶剤が少な過ぎると、均一に加熱及び/又は攪拌するのが困難になる、又は副反応が起こり易くなる等の理由により、目的化合物の収量及び/又は純度が低下する。
したがって、溶剤量のおおよその目安は、式(4)、式(5a)及び式(5b)の総量を1とした場合に、重量比で通常100倍まで、好ましくは5〜50倍とするのがよい。
反応の進行状況は、例えば、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、及び高速液体クロマトグラフィーなどの汎用の方法によってモニターすることができる。
【0078】
なお、式(4)並びに式(5a)及び式(5b)で表される化合物は、例えば、速水正明監修、「感光色素」(1997年10月17日、産業図書株式会社発行、24〜30頁)等に記載された公知の方法に準じて得ることができる。市販品として入手できる場合には、必要に応じて、それらを精製等して用いればよい。
【0079】
本発明の上記式(1)で表されるシアニン化合物は、短波長領域の400nm付近に主たる吸収波長を有し、吸収極大波長における分子吸光係数も1×105程度と大きいことから、短波長領域の可視光を効率良く吸収することが出来る。なお、「吸収極大波長における分子吸光係数」は、以下において「ε」と略記することがある。
又、光情報記録媒体等を作成する際に汎用される、例えば、アミド系、アルコール系、ケトン系、ニトリル系及びハロゲン系等の有機溶剤に対して、上記式(1)の化合物は実用上支障のない溶解性を有する。
加えて、200℃を超える融点及び分解点を示すなど、熱特性にも優れている。有機化合物において、融点及び分解点は熱特性の重要な指標の一つとされており、融点及び分解点が高いものほど熱安定性が大きいとされている。
有機化合物の融点及び分解点は、例えば、汎用のDSC分析(示差走査熱量分析)により測定することが出来る。
【0080】
上記のような特性を有する本発明のシアニン化合物は、短波長の可視光を吸収することによって、これを遮断することができる。また該可視光のエネルギーを利用する光吸収材料としても極めて優れており、産業上の応用範囲も広い。例えば、情報記録、印刷、印刷回路及び太陽光発電を始め、電気機械器具、電気通信器具、工学器具、衣料、建寝装用品、保健用品及び農業資材等の多様な分野において使用することが可能であり、該シアニン化合物は極めて有用である。
【0081】
本発明のシアニン化合物は、自然光及び人工光などの光に対して優れた耐光性を示す。該化合物を上記したような用途に利用する場合、例えば、レーザー光などが該化合物に照射されることにより発生することのある一重項酸素などによる該化合物の退色、劣化、変性、変質及び分解などを抑制する目的で、適宜、耐光性改善剤(クエンチャー)を併用して用いることも出来る。
該耐光性改善剤の例としては、例えば、上記の「感光色素」(109〜113頁);WO00/075111号公報;及び「染料と薬品」(新海正博他、第37巻、第7号、185〜197頁、1992年)などに記載のアミン化合物、カロチン化合物、スルフィド化合物、フェノール化合物や、アセチルアセトナートキレート系、サリチルアルデヒドオキシム系、ジインモニウム系、ジチオール系、チオカテコナールキレート系、チオビスフェノレートキレート系、ビスチオ−α−ジケトンキレート系、ホルマザン系の遷移金属キレートをはじめとする金属錯体等が挙げられる。
必要に応じて、これらは単独でも組み合わせて用いてもよい。
【0082】
本発明のシアニン化合物は、その種々の用途の中でも、追記型の光情報記録媒体の記録材料として特に有用である。追記型の光情報記録媒体自体は、例えば、特開2005−297407号等により公知である。
本発明の光情報記録媒体は、記録層に本発明のシアニン化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする他は、同公報等に記載の公知の製造方法に準じて製造すればよい。
即ち、本発明のシアニン化合物をTFP(2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール)などの溶剤に溶解し、該溶液をポリカーボネート製の基板に塗布し、乾燥して該化合物を含有する記録膜を形成する。次いで、金、銀又は銅などの金属からなる反射層、及び紫外線硬化樹脂などからなる保護層を、順次密着させて形成することによって本発明の光情報記録媒体を作成することができる。
現在の光情報記録媒体は、記録膜上の特定の微小面積部分にレーザー光を集光させ、該特定部分の性状を変えることにより記録を行い、該記録部分と未記録部分との反射光量の違いによって記録の再生を行う。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例中、「部」、「%」は特に特定しない限り、重量基準である。
また、極大吸収波長の測定値における±4nm、及びモル吸光係数の測定値における±5%の差はそれぞれ測定条件等による許容範囲とする。
必要に応じ、以下の各種の測定を行った。なお各測定に用いた測定機器を併記する。
1.吸光特性
商品名UV−3150、(株)島津製作所製
なお、特に断りの無い限り、極大吸収波長とε(モル吸光係数)とを測定結果として記載した。
2.マススペクトル
商品名LCMS−2010A、(株)島津製作所製
3.1H−NMRスペクトル
商品名Gemini2000、バリアンテクノロジーズ製
なお内部標準物質としてTMS(テトラメチルシラン)を用いた。
4.DSC(示差走査熱量測定)
商品名SSC/5200、セイコーインスツル(株)製
【0084】
さらに、実施例1−2及び1−4で得られた各化合物について、常法により20℃における有機溶剤への溶解性を調べた。いずれの化合物も、DMF、メタノール、TFP、エチルメチルケトン、アセトニトリル、クロロホルムをはじめとするアミド系、アルコール系、ケトン系、ニトリル系、及びハロゲン系の有機溶剤に対して実用上支障のない溶解性を示した。
【0085】
実施例1−1
反応容器に無水酢酸100部を入れ、下記式(30)で表される化合物14.73部、下記式(31)で表される化合物16.6部、酢酸ナトリウム8.2部を加えた後、攪拌しながら80〜90℃で3時間加熱することによって反応させた。反応混合物を10℃以下に冷却し、析出した結晶を適量のDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)とエタノールにより再結晶を行い、析出した結晶を濾取、乾燥し、式(32)で表される本発明のシアニン化合物(赤茶色結晶)9.1部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
DSC分析:204℃付近に融点と区別できない分解点を示した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は436nm付近。
ε=5.1×104
【0086】
【化3031】

【0087】
【化32】

【0088】
実施例1−2
反応容器にアセトニトリル50部を入れ、実施例1−1で得られた式(32)で表される化合物2.0部と、下記式(33)で表される化合物4.39部を加え、1時間加熱還流して反応させた。反応液にDMFを加え析出固体を溶解した。反応液をろ過後、水500部に加え、結晶を析出させた。乾燥後、エタノールとアセトニトリルの混合溶媒(重量比1:2)で再結晶を行い、下記式(34)で表される本発明のシアニン化合物(赤茶色結晶)2.85部を得た。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
DSC分析:216℃付近に融点と区別できない分解点を示した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は458nm付近。
ε=1.45×105
1H−NMRスペクトル(アセトン−D6):δ0.54(t、12H)、0.90(q、8H)、1.02(m、8H)、1.07(s、24H)、2.98(s、12H)、3.47(s、6H)、3.65(m、12H)、4.16(s、4H)、5.75(s、2H)、6.82(d、4H)、7.30〜7.62(m、16H)、8.02(dd、4H)、9.14(d、4H)。
【0089】
【化33】

【0090】
【化34】

【0091】
実施例1−3
反応容器にエタノール15部を入れ、下記式(35)で表される化合物10.0部、下記式(36)で表される化合物9.34部、及び過塩素酸ナトリウム3.77部を加えた後、室温で攪拌しながらトリエチルアミン3.12部を加えた。その後、還流下で2時間加熱することによって反応させた。反応混合物を10℃以下に冷却し、析出した結晶を水100部で攪拌した後、ろ過して、下記式(37)で表される本発明のシアニン化合物(赤紫色結晶)5.52部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
DSC分析:300℃付近に融点と区別できない分解点を示した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長383nm付近。
ε=1.21×105
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.16(t、6H)、3.98〜4.08(m、8H)、4.69(s、4H)、6.08(s、2H)、7.14(t、2H)、7.16〜7.80(m、14H)。
【0092】
【化35】

【0093】
【化36】

【0094】
【化37】

【0095】
実施例1−4
反応容器にアセトニトリル25部を入れ、実施例1−3で得られた前記式(37)で表されるシアニン化合物0.8部と、下記前記式(33)で表される化合物1.84部とを加え、1時間加熱還流して反応させた。反応液にDMFを加え析出固体を溶解した。ろ過処理を施したのち、250部の水を加え、結晶を析出させた。乾燥後、エタノールとアセトニトリル(重量比1:2)の混合溶媒で再結晶を行い、下記式(38)で表される本発明のシアニン化合物(赤茶色結晶)1.78部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
DSC分析:283℃付近に融点と区別できない分解点を示した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長383nm付近。
ε=1.73×105
1H−NMR(アセトン−D6):δ0.53(t、12H)、0.84(m、8H)、0.99(m、8H)、1.32(t、6H)、2.95(s、12H)、3.62(t、8H)、4.15(dd、4H)、4.27(t、4H)、4.81(t、4H)、6.24(s、2H)、6.82(d、4H)、7.27(t、2H)、7.49〜7.74(m、12H)、7.82(d、2H)、8.01(dd、4H)、9.12(d、4H)。
【0096】
【化38】

【0097】
実施例2−1
反応容器に酢酸30部を入れ、下記式(40)で表される化合物10.0部、下記式(41)で表される化合物13.0部、トリエチルアミン6.94部を加えたあと、攪拌しながら80〜90℃で2時間加熱することによって反応させた。反応混合物に過塩素酸ナトリウム4.2部加え、さらに12時間攪拌した。イソプロピルアルコール100部加え、析出した結晶をアセトニトリルとエタノールの混合溶媒(重量比3:1)で再結晶することにより下記式(42)で表される本発明のシアニン化合物(薄赤紫色結晶)8.12部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長380nm付近。
ε=6.61×104
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.27(q、6H)、2.25(s、6H)、3.78(s、4H)、4.24(t、4H)、4.42(s、4H)、6.00(s、2H)、7.10(s、2H)、7.37(t、2H)、7.46(t、2H)、7.58〜7.63(m、4H)
【0098】
【化40】

【0099】
【化41】

【0100】
【化42】

【0101】
実施例2−2
反応容器にアセトニトリル20部を入れ、実施例2−1で得られた前記式(42)で表されるシアニン化合物0.55部と、前記式(33)で表される化合物1.38部とを加え、2時間加熱還流して反応させた。反応液にアセトニトリル150部を加え、析出固体を溶解した。ろ過処理を施したのち、乾燥させ、エタノール20部を加え、懸濁攪拌した。ろ過後、下記式(43)で表される本発明のシアニン化合物(こげ茶色結晶)1.37部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長380nm付近。
ε=1.31×105
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ0.44(t、12H)、0.74(m、8H)、0.90(m、8H)、1.24(t、6H)、2.23(s、6H)、2.88(s、12H)、3.53(m、8H)、3.78(s、4H)、4.20(q、4H)、4.40(s、4H)、5.97(s、2H)、6.90(d、4H)、7.08(s、2H)、7.32(t、2H)、7.44(t、2H)、7.54(m、4H)、7.99(m、4H)、9.02(s、4H)
【0102】
【化43】

【0103】
実施例2−3
反応容器にアセトニトリル10部を入れ、実施例1−3で得られた前記式(37)で表されるシアニン化合物0.2部と、カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド0.16部とを加え、1時間加熱還流して反応させた。反応液に水20部を加え、デカンテーションにより水を除去後、イソプロピルアルコールで洗浄することにより、下記式(44)で表される本発明のシアニン化合物(紫色結晶)0.16部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長383nm付近
ε=8.49×104
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.49(t、6H)、4.31(s、4H)、4.39(q、4H)、5.01(s、4H)、6.41(s、2H)7.44〜8.12(m、16H)
【0104】
【化44】

【0105】
実施例2−4
反応容器にアセトニトリル10部を入れ、実施例1−3で得られた前記式(37)で表されるシアニン化合物0.2部と、セシウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドを0.28部とを加え、1時間加熱還流して反応させた。反応液に水200部を加え、デカンテーションにより水を除去後、イソプロピルアルコールで洗浄することにより、下記式(45)で表される本発明のシアニン化合物(紫色結晶)0.24部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長383nm付近
ε=9.43×105
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.49(s、6H)、4.31(s、4H)、4.39(q、4H)、5.01(s、4H)、6.41(s、2H)、7.44〜8.12(m、16H)
【0106】
【化45】

【0107】
実施例2−5
反応容器にアセトニトリル15部を入れ、実施例1−3で得られた前記式(37)で表されるシアニン化合物0.50部と、下記式(46)で表される化合物1.27部とを加え、2時間加熱還流して反応させた。反応液にDMF20部を加え、析出固体を溶解した。ろ過処理を施したのち、イソプロピルアルコール160部を加え結晶を析出させた。得られた固体をエタノールとアセトニトリルの混合溶媒(重量比1:1)で再結晶を行い、下記式(47)で表される本発明のシアニン化合物(茶色結晶)0.54部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長383nm付近。
ε=1.63×105
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.46(t、6H)、3.11(s、12H)、4.28(s、4H)、4.35(q、4H)、4.98(s、4H)、6.37(s、2H)、7.01(d、4H)、7.29(d、12H)、7.42(m、10H)、7.52(s、8H)、7.65〜8.08(m、22H)、8.92(s、4H)
【0108】
【化46】

【0109】
【化47】

【0110】
実施例3−1
反応容器にアセトニトリル10部を入れ、実施例1−1で得られた下記式(32)で表されるシアニン化合物1.0部と、下記式(49)で表される化合物1.89部とを加え、2時間加熱還流して反応させた。反応液にDMF20部を加え、析出固体を溶解した。ろ過処理を施したのち、イソプロピルアルコール160部を加え結晶を析出させた。得られた固体をエタノールとアセトニトリルの混合溶媒(重量比1:1)で再結晶を行い、下記式(50)で表される本発明のシアニン化合物(茶色結晶)1.31部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長436nm付近。
ε=8.79×104
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.37(s、24H)、1.57(s、12H)、1.59(s、12H)、3.22(s、14H)、5.58(s、2H)、6.90(d、4H)、7.25〜7.57(m、16H)、7.92(d、4H)、8.63(s、4H)
【0111】
【化32】

【0112】
【化49】

【0113】
【化50】

【0114】
実施例3−2
反応容器にアセトニトリル5部を入れ、下記式(51)で表されるシアニン化合物0.50部と、下記式(49)で表される化合物0.91部とを加え、2時間加熱還流して反応させた。反応液にDMF20部を加え、析出固体を溶解した。ろ過処理を施したのち、イソプロピルアルコール120部を加え結晶を析出させた。得られた固体をエタノールとアセトニトリルの混合溶媒(重量比1:1)で再結晶を行い、下記式(52)で表される本発明のシアニン化合物(茶色結晶)0.71部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長440nm付近。
ε=9.78×104
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.51(m、34H)、1.57(s、12H)、1.59(s、12H)、3.19(s、10H)、5.63(s、2H)、6.90(d、4H)、7.32〜7.63(m、16H)、7.93(d、4H)、8.87(s、4H)
【0115】
【化51】

【0116】
【化49】

【0117】
【化52】

【0118】
実施例3−3
反応容器にアセトニトリル5部を入れ、下記式(53)で表されるシアニン化合物1.0部と、下記式(49)で表される化合物1.79部とを加え、3時間加熱還流して反応させた。反応液にDMF10部を加え、析出固体を溶解した。ろ過処理を施したのち、イソプロピルアルコール100部を加え結晶を析出させた。得られた固体をエタノールとアセトニトリルの混合溶媒(重量比1:1)で再結晶を行い、下記式(54)で表される本発明のシアニン化合物(茶色結晶)0.76部が得られた。
得られた化合物はマススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長432nm付近。
ε=7.50×104
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.52(s、12H)、1.57(s、12H)、1.65(s、24H)、3.61(s、4H)、5.76(s、2H)、6.83〜7.62(m、20H)、6.90(d、4H)、7.93(d、4H)、8.87(s、4H)
【0119】
【化53】

【0120】
【化49】

【0121】
【化54】

【0122】
反応に用いる原料化合物の構造式によって、加える化合物及び反応剤等の比率、反応条件や収率に若干の違いはあるものの、例えば、前記した式(6)乃至(29)及び式(130)乃至(132)で表される本発明の他のシアニン化合物も、上記実施例1−1乃至実施例1−4に示した方法に準じた方法により得ることが出来る。
【0123】
比較例1
比較例として下記式(39)で示される化合物(比較用シアニン色素)を特許文献1に記載の方法に基き合成し、上記手法と同様に、熱特性として、DSC分析により融点及び分解点を測定した。
DSC分析:264℃付近に融点とは区別できない分解点を示した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長448nm付近。
ε=7.08×104
【0124】
【化39】

【0125】
評価試験1−1
シアニン化合物より調製した膜の吸光特性、及び耐水性の測定
(1)吸光特性の測定
実施例1−2及び実施例1−4で得られた式(34)及び式(38)で表される各シアニン化合物並びに比較例1で得られた比較用シアニン色素各0.1部をとり、TFP9.9部を加え、室温下にて超音波を5分間印加して溶解させ、0.45μmのフィルターで濾過して微細なゴミを取り除いた後に、得られた溶液を縦10cm、横10cm、厚さ1.0mmのポリカーボネート樹脂基板上にピペットにて滴下し、スピンコーターにより2000回転で10秒で塗布、塗布後、80℃で30分間乾燥させることによって、ポリカーボネート基板上に各シアニン化合物の塗布膜を形成させた。
次いで、塗布膜を適当な小片にカットし、基板側から試料光を照射し、ポリカーボネート基板をレファレンスとして、波長200〜700nmの領域における吸収スペクトルを測定した。測定は分光光度計(UV−3150、(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0126】
(2) 耐水性比較
上記で作製した塗布膜の設けられたポリカーボネート基板を20℃の水中に入れ、30分後に塗布膜の吸収スペクトルを波長200〜700nmの領域で測定した。その後、70℃の水で30分毎に90分間、吸収スペクトルの測定を行った。塗布膜を水に入れる前の吸収極大の吸光度I0と、水に入れた後の吸収極大の吸光度I1とをそれぞれ測定し、(I1/I0)×100(%)により算出された値を、色素残存率とし、耐水性の判定の目安とした。この色素残存率の数値が大きいほど、耐水性が良好であることを示す。
【0127】
(3)測定結果
上記により得られた塗布膜の設けられたポリカーボネート基板における塗布膜の吸収極大波長及び色素残存率の結果を表1に示す。
【0128】
表1 測定結果
吸収極大波長(nm) 色素残存率(%)
実施例1−2の式(34)のシアニン化合物 458 99.2
実施例1−4の式(38)のシアニン化合物 383 96.4
比較例1の比較用シアニン色素 448 47.4
【0129】
表1の結果から明らかなとおり、比較用のシアニン色素から得られた薄膜においては、70℃の水中において、90分後に色素残存率が47.4%まで低下した。これに対して式(34)及び式(38)で表される本発明のシアニン化合物から得られた薄膜は、70℃の水中で、それぞれ、99.2%及び96.4%という色素残存率にみられるように、試験前後の短波長領域の可視光の吸収能力が殆ど低下せず、高い耐水性を示した。
【0130】
比較例として下記式(48)で示される化合物(比較用シアニン色素2)を合成し、上記手法と同様に、マススペクトルの測定により、目的化合物の質量と一致することを確認した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長437nm付近。
ε=5.33×104
1H−NMR(ジメチルスルホキシド−D6):δ1.88(s、12H)、3.12(s、6H)、3.58(s、6H)、6.06(s、1H)、6.98(d、2H)、7.29(d、6H)、7.43(m、4H)、7.49(s、4H)、7.65(d、6H)、7.80(s、4H)、7.95(m、2H)、8.90(s、2H)
【0131】
【化48】

【0132】
評価試験2−1
上記手法と同様に耐水性試験を化合物(47)と(48)で行った。
測定結果
上記により得られた塗布膜の設けられたポリカーボネート基板における塗布膜の吸収極大波長及び色素残存率の結果を表2に示す
【0133】
表2 測定結果
吸収極大波長(nm) 色素残存率(%)
実施例2−5の式(47)の化合物 414 60
比較例2の比較用シアニン色素2 449 0
【0134】
表2の結果から明らかな通り、比較用のシアニン色素2の式(48)で表される化合物から得られた薄膜においては、70℃の水中において、30分後に色素が残っていなかったのに対し、式(47)で表される本発明のシアニン化合物から得られた薄膜は90分後でも、60%という色素残存率に見られるように、同一のカウンターアニオンを用いた場合であっても、シアニン化合物として本願発明の式(1)で表される化合物を使用することにより、耐水性が大きく向上するということが判明した。従って、本願発明のシアニン化合物は極めて有用である。
【0135】
評価試験3−1
上記手法と同様に耐水性試験を化合物(50)と(54)で行った。
【0136】
測定結果
上記により得られた塗布膜の設けられたポリカーボネート基板における塗布膜の吸収極大波長及び色素残存率の結果を表3に示す。
【0137】
表3 測定結果
吸収極大波長(nm) 色素残存率(%)
実施例3−1の式(50)のシアニン化合物 444 100
実施例3−3の式(54)のシアニン化合物 449 94
【0138】
表3の結果から明らかな通り、式(50)及び式(54)で表される本発明のシアニン化合物から得られた薄膜は30分後でも、90%以上という色素残存率に見られるように、ダイマーにすることにより耐水性が向上するという結果を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるシアニン化合物。
【化1】

(式(1)において、環L、M、O及びPの置換基であるZ11〜Z42は、それぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基、芳香環基、複素芳香環基又はシアノ基を表すか、
又は、Z11及びZ12、Z21及びZ22、Z31及びZ32、及び、Z41及びZ42のそれぞれの組合せの一つ以上が、独立に、5員環L、M、O及びPに縮合する、置換基を有してもよい単環式若しくは多環式の芳香環;又は、置換基を有してもよい単環式若しくは多環式の複素環を形成しても良く、
1〜X4は、それぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、セレン原子、置換基を有しても良いメチレン基、置換基を有しても良いシクロアルカン−1、1−ジイル基、又は置換基を有しても良い窒素原子を、
Yは連結基を、
Zは任意のアニオンをそれぞれ表し、
nはアニオンであるZの価数を表し、
1及びR2は互いに同じか又は異なる脂肪族炭化水素基を表し、それらの脂肪族炭化水素基は置換基を有していても良い。)
【請求項2】
式(1)において、Z11及びZ12、Z21及びZ22、Z31及びZ32、及び、Z41及びZ42の全ての組合せがベンゼン環を形成している請求項1に記載のシアニン化合物。
【請求項3】
式(1)において、X1〜X4が酸素原子、硫黄原子又は1,1−ジメチルメチレン基である請求項1又は請求項2に記載のシアニン化合物。
【請求項4】
式(1)において、YがC2〜C8の直鎖アルキレン基又は下記式(2)で表される基である請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のシアニン化合物。
【化2】

(式(2)において、mは1又は2を表す。)
【請求項5】
Zが下記式(3a)で表されるアニオンである請求項1及至請求項4のいずれか一項に記載のシアニン化合物。
【化31】

(式(3a)において、Metは金属原子を表し、
1〜J4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。
1〜E4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を表す。)
【請求項6】
式(3a)において、E1〜E4が酸素原子であり、J1及びJ2がそれぞれ独立に置換基を有していても良いベンゼン環である請求項5に記載のシアニン化合物。
【請求項7】
式(3a)で表されるアニオンが下記式(3b)で表されるアニオンである請求項6に記載のシアニン化合物。
【化32】

(式(3b)において、Metは金属原子を表し、R3〜R6は互いに同じか異なる脂肪族炭化水素基を表し、それらの脂肪族炭化水素基は置換基を有していてもよい。)
【請求項8】
Zが下記式(201)又は(202)で表されるアニオンである請求項1及至請求項4のいずれか一項に記載のシアニン化合物。
【化201】

(式(201)において、Metは金属原子を表す。J1、J2及びJ4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。又、E1、E2及びE4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を、R9及びR10はそれぞれ独立に置換基を、それぞれ示す。)
【化202】

(式(202)においてMetは金属原子を表す。J1及びJ4はそれぞれ独立に芳香環又は不飽和複素環を表し、それらの芳香環又は不飽和複素環は置換基を有していても良い。又、E1及びE4はそれぞれ独立に周期表における第16属のヘテロ原子、置換基を有しても良い窒素原子、カルボキシ基又はスルホ基を、R9〜R12はそれぞれ独立に置換基を、それぞれ示す。)
【請求項9】
式(201)において、Metがコバルト原子又はクロム原子であり、E1、E2及びE4がそれぞれ独立に酸素原子又はカルボキシ基であり、J1及びJ4が置換基を有してもよいベンゼン環であり、R9が置換基を有してもよい脂肪族炭化水素残基である、請求項8に記載のシアニン化合物。
【請求項10】
式(201)においてR9がメチル基であり、R10が下記式(203)で示される置換基である請求項8又は9に記載のシアニン化合物。
【化203】

(式(203)においてベンゼン環(Bz1)はさらに置換基を有してもよい。)
【請求項11】
式(202)において、Metがコバルト原子又はクロム原子であり、E1及びE4がそれぞれ独立に酸素原子又はカルボキシ基であり、J1及びJ4がそれぞれ独立に置換基を有してもよいベンゼン環であり、R9及びR12がそれぞれ独立に置換基を有してもよい脂肪族炭化水素残基である請求項1に記載のシアニン化合物。
【請求項12】
式(202)においてR9及びR12がメチル基であり、R10及びR11がそれぞれ独立に下記式(204)で示される置換基である請求項8又は11に記載のシアニン化合物。
【化204】

(式(204)においてベンゼン環(Bz2)はさらに置換基を有してもよい。)
【請求項13】
式(202)においてE1及びE4が同一の原子又は基であり、J1及びJ4が同一の置換基を有してもよいベンゼン環であり、R9及びR12が同一の置換基である請求項12に記載のシアニン化合物。
【請求項14】
式(202)においてE1及びE4が同一の原子又は基であり、J1及びJ4が同一の置換基を有するベンゼン環であり、R9及びR12が同一の置換基である請求項12に記載のシアニン化合物。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載のシアニン化合物を、少なくとも1種含有することを特徴とする光情報記録媒体。

【公開番号】特開2009−24161(P2009−24161A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106339(P2008−106339)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】