説明

シアニン色素及び光学記録媒体

【課題】短波長の光によって高密度の光情報の記録・再生が可能な光学記録媒体の提供。
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられ、光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを有し、該記録層が下記一般式[I]で表わされるシアニン色素を含有することを特徴とする光学記録媒体。


(式[I]中、A1及びB1は、置換基を有していてもよい芳香環を表わす。但し、A1及びB1のうち少なくとも一方の芳香環は、窒素原子を含む。R1及びR2は、置換基を表わす。R1及び/又はR2は他のカチオンと結合していてもよい。X1、X2、X3及びX4は有機基を、Y1は水素原子等を、Z-は、アニオンを表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアザインドレニン骨格を有する新規なモノメチンシアニン色素及びそれを用いた光学記録媒体に関する。より詳しくは、青色レーザーによる記録及び再生が可能な耐久性に優れた光学記録媒体の記録層に好適に用いられるアザインドレニン骨格を有する新規なモノメチンシアニン色素、さらにそれを用いた光学記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化時代の到来に伴い、紫外領域から赤外領域にかけての光を吸収する有機化合物の需要が急増している。その用途は、今や、フィルター用材料におけるがごとく、有機化合物が光を吸収し遮断する性質を利用する用途から、有機化合物を介して光のエネルギーを積極的に利用する情報記録、太陽光発電などの用途へと広がることとなった。
情報記録の分野では、マルチメディア時代の到来に伴い、CD−R(追記型CD)、DVD−R(追記型DVD)などに代表される光学記録媒体が脚光を浴びている。これら光学記録媒体は、光磁気記録媒体、相変化記録媒体、カルコゲン酸化物光学記録媒体、有機系光学記録媒体に大別することができる。中でも、有機色素が含有される記録層を設けた有機色素系光学記録媒体は、低コストで且つ製造も容易であるという点で、優位性を有するものと考えられている。
【0003】
有機系光学記録媒体における緊急の課題は、マルチメディア時代に対応するための更なる記録密度の高密度化と記録速度の高速化である。記録密度の高密度化のためには、記録及び再生光を短波長化することが進められている。一方、記録速度の高速化のためには、より感度の高い色素を用いることが望まれる。しかしながら、色素の高感度化は、再生信号の時間方向の揺らぎ(ジッター)の増加や、光安定性(耐光性)の低下を伴う傾向にあり、従来公知の色素では、感度、ジッター及び光安定性の全てを十分に満足することが困難となりつつある。
【0004】
近年、開発が著しい青色レーザー光等の発振波長の短いレーザー光を用いた高密度で記録再生が可能な光学記録媒体が提唱されつつある。Blu−ray DiscやHD DVD(High Definition DVD)など、かかる青色レーザー対応の光学記録媒体に関しては幾つかの報告例があるが、記録装置や記録条件の統一がなされていない状況が続いており、望ましい光学記録媒体の像が見え難いのが現状である。
【0005】
かかる状況下において、例えば、下記特許文献1〜4には、波長405〜430nm程度の発信波長が短いレーザー光により情報の記録・再生が可能な光学記録媒体の記録層用の有機色素が示されている。しかしながら、特許文献1〜4に記載されたような従来の青色レーザー用の有機色素では、現在求められている高密度化、高感度化による高速化に対応できず、充分な記録感度が得られ難いなどの課題があった。
【0006】
また、特許文献5〜7にはモノメチンシアニン色素を光記録材料として用いる例が記載されているが、ここで開示されているようなシアニン色素では、光学記録媒体の高密度化、高感度化への対応は十分ではない。
なお、ここで、高感度とは、レーザー波長405nm、NA(開口数)0.65において、記録線速度6.61m/秒を用いたときのHD DVD−R規格に準拠した記録において、記録感度が8mW以下であることを目安とする。これは、2倍速記録(13.22m/s)を行なったときに記録感度が1倍速の√2倍となることを考慮し、一般的な青色半導体レーザーの出せる記録パワー12mW以下で2倍速記録が可能であることを意味する。
また、2層媒体においては、照射されたレーザーのエネルギーが目的とする記録層以外に分配される影響を考慮し、1倍速条件で記録した場合の記録感度が12mW以下であればよいものとする。
【0007】
【特許文献1】特開平11−105423号公報
【特許文献2】特開平11−78239号公報
【特許文献3】国際公開第2006−035554号パンフレット
【特許文献4】特開2001−301333号公報
【特許文献5】国際公開第2001−044374号パンフレット
【特許文献6】特開2006−044277号公報
【特許文献7】特開2005−297406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、青色レーザー等の短波長光によって高速且つ高密度の光情報記録・再生が可能な光学記録媒体を提供するとともに、この光学記録媒体に好適に用いられる新規な色素を提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の構造を有するモノメチンシアニン色素を光学記録媒体の記録層に用いることにより、青色レーザー等の短波長光によって高速且つ高密度の光情報記録・再生が可能になり、特にLow to High記録による新たな光学記録媒体の実用化が可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)下記一般式[I]で表わされることを特徴とするシアニン色素。
【化1】


(一般式[I]中、
1及びB1は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表わす。但し、A1及びB1のうち少なくとも一方の芳香環は、窒素原子を含む。
1及びR2は各々独立に、置換基を表わす。R1及び/又はR2は他のカチオンと結合していてもよい。
1、X2、X3及びX4は各々独立に、有機基を表わす。但し、X1とX2の組、及び/又は、X3とX4の組が、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
1は、水素原子又は有機基を表わす。
-は、アニオンを表わす。)
(2)一般式[I]中、Z-がアゾ系金属錯体の陰イオンである、上記(1)に記載のシアニン色素。
(3)一般式[I]中、X1、X2、X3及びX4のうち少なくとも1つが、複素環又は芳香環で置換されたアルキル基である、上記(1)又は(2)に記載のシアニン色素。
(4)一般式[I]中、A1がベンゼン環、B1がピリジン環、X1、X2、X3及びX4のうちいずれか1つが芳香環で置換されたアルキル基である、上記(1)又は(2)に記載のシアニン色素。
(5)一般式[I]中、X1、X2、X3及びX4のうちの芳香環で置換されたアルキル基以外のX1、X2、X3及びX4と、R1及びR2が、炭素数1〜3のアルキル基であり、Y1が水素原子である、上記(4)に記載のシアニン色素。
(6)一般式[I]中、X1又はX2の何れか一方が、芳香環で置換されたアルキル基である、上記(5)に記載のシアニン色素。
(7)基板と、前記基板上に設けられ、光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを有し、該記録層が上記(1)〜(6)の何れか一項に記載のシアニン色素を含有することを特徴とする光学記録媒体。
(8)波長300nm以上、500nm以下の光により記録再生を行なう、上記(7)に記載の光学記録媒体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学記録媒体及び本発明のシアニン色素によれば、青色レーザー等の短波長光によって高速且つ高密度の光情報記録・再生が可能である。また、従来と異なる記録メカニズムであるLow to High記録によって高密度の光情報の記録・再生が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々に変更して実施することができる。
【0013】
本発明の光学記録媒体は、基板と、前記基板上に設けられ、光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを有し、前記記録層が、後述の一般式[I]で示されるシアニン色素を含有するものである。以下の記載では、まずは本発明の光学記録媒体の記録層に含有されるシアニン色素について説明し、続いて本発明の光学記録媒体について説明する。
【0014】
[I.シアニン色素]
本発明の光学記録媒体は、その記録層に、下記一般式[I]で表わされるシアニン色素(以下、適宜「式[I]のシアニン色素」と略称する。)を含有する。
式[I]のシアニン色素は、波長350nm〜530nmの青色光領域に適度の吸収を有するため、青色レーザー光による記録に適し、実用に耐え得る耐光性を有する色素化合物である。
【0015】
【化2】

【0016】
(一般式[I]中、
1及びB1は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表わす。但し、A1及びB1のうち少なくとも一方の芳香環は、窒素原子を含む。
1及びR2は各々独立に、置換基を表わす。R1及び/又はR2は他のカチオンと結合していてもよい。
1、X2、X3及びX4は各々独立に、有機基を表わす。但し、X1とX2の組、及び/又は、X3とX4の組が、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
1は、水素原子又は有機基を表わす。
-は、アニオンを表わす。)
【0017】
以下、前記一般式[I]について説明する。
【0018】
前記一般式[I]中、A1及びB1は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表わす。但し、A1及びB1のうち少なくとも一方の芳香環は、窒素原子を含む。
窒素原子を含む芳香環は、A1及びB1のうち何れであってもよく、また、A1及びB1の双方であってもよい。A1及びB1のいずれか一方が窒素を含まない芳香環で、他方が窒素を含む芳香環であることが、より好ましい。
芳香環の構造は限定されないが、環の炭素数が通常6以上、また、通常13以下、好ましくは10以下の芳香環が挙げられる。芳香環の具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環などが挙げられる。中でも好適なのは、ベンゼン環である。
また、窒素原子を含む芳香環とは、これらの芳香環を構成する炭素原子のうち1個以上を窒素原子で置き換えた全ての構造を含み、置換位置及び置換の数は限定されないが、1〜2個の窒素原子で置換された環が好ましい。窒素原子を含む芳香環の具体例としては、ピリジン環、ピラジン環、キノリン環、イソキノリン環、ジクタムニン環などが挙げられる。中でも、光学記録媒体用途において好適なのは、ピリジン環である。
【0019】
1及びB1の芳香環が有していてもよい置換基は限定されないが、その例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの脂肪族炭化水素基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの脂環式炭化水素基;
フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、フェノキシ基などのアルコキシ基又はアリールオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイルオキシ基などのエステル基;
アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、アニリノ基、o−トリイジノ基、m−トルイジノ基、p−トルイジノ基、キシリジノ基、ジフェニルアミノ基などの無置換又は置換のアミノ基;
キノリル基、ピペリジノ基、ピリジル基、モルホリノ基などの複素環基;
フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨ−ド基などのハロゲン基;ヒドロキシル基;カルボキシル基;スルホン酸基;シアノ基;及び ニトロ基;更には、前記例示のうち二以上の置換基を組み合わせてなる置換基;などが挙げられる。なお、置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。なかでも、A1及びB1の芳香環は、無置換であることが好ましい。
【0020】
前記一般式[I]中、R1及びR2は各々独立に、置換基を表わす。具体的には、R1及びR2は互いに独立に、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0021】
上記脂肪族炭化水素基は限定されないが、その炭素数は、通常1以上であり、また、12以下であることが好ましく、6以下が更に好ましい。
脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの脂肪族炭化水素基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの脂環式炭化水素基;などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基は限定されないが、その炭素数は、6以上が好ましく、また、12以下であることが好ましく、炭素数6が更に好ましい。
芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
これらの脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基は、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、前記のA1及びB1における置換基と同じものが挙げられる。また、置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
1及びR2は、アルキル基が好ましく、中でも炭素1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0022】
1又はR2は、他のカチオンと連結してもよい。他のカチオンとしては、後述する例示化合物(31)〜(34)等のシアニン色素のカチオンなどが挙げられる。
1又はR2が他のシアニン色素のカチオンと連結する場合の連結位置は限定されないが、製造コストの点から、連結するシアニン色素の窒素原子と結合することが望ましい。
又はRが他のカチオンと連結する場合、R又はRと他のカチオンとは通常2価の連結基により連結される。この2価の連結基の鎖長は、メチン系色素の合成し易さと、有機溶剤に対するメチン系色素の溶解性の点から、炭素原子などの構成原子の数として、通常1個以上、好ましくは3個以上、また、通常9個以下、好ましくは8個以下のものが望ましい。
なお、斯かる2価の連結基は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、その水素原子の1又は複数が、例えば、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン基、ヒドロキシル基などによって置換されていてもよい。また、これらは1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0023】
前記一般式[I]中、X1、X2、X3及びX4は各々独立に、有機基を表わす。具体的には、X1、X2、X3及びX4は互いに独立して、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることが好ましい。
上記脂肪族炭化水素基は限定されないが、その炭素数は、通常1以上であり、また、12以下であることが好ましく、6以下が更に好ましい。
脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの脂肪族炭化水素基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの脂環式炭化水素基;などが挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、中でも炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
芳香族炭化水素基は限定されないが、その炭素数は6以上が好ましく、また、12以下であることが好ましく、炭素数6が更に好ましい。
芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
これらの脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基は、更に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、前記のA1及びB1における置換基と同じものが挙げられる。なお、置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
【0024】
また、X1とX2の組、及び/又は、X3とX4の組が、互いに結合して環構造を形成していてもよい。環構造は限定されないが、3員環〜7員環であることが好ましい。環構造の具体例としては、シクロプロパン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロペプタン環などの飽和又は不飽和の環状構造が挙げられる。
【0025】
また、X1とX2の組、及び/又は、X3とX4の組が、環構造を形成する場合、その環構造は置換基を有していてもよい。この置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。置換基は限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの脂肪族炭化水素基;
フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基などの芳香族炭化水素基;
ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基などのアリールアルキル基;などが挙げられる。
また、これらの脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アリールアルキル基は、更に別の置換基を有していてもよい。この場合の置換基の例としては、アニリノ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ハロゲン基、ニトロ基、アルコキシ基、シアノ基及びアルキル基、並びに、前記例示のうち二以上の置換基を組み合わせてなる置換基などが挙げられる。
【0026】
本発明においては、X1、X2、X3及びX4の少なくとも1つが、複素環又は芳香環で置換されたアルキル基であることが望ましい。具体例としては、先にも挙げたベンジル基、フェネチル基の他に、フェニルブチル基、フェニルプロピル基などのフェニルアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜6のアルキル基の末端あるいは途中に、アズレン基、ナフタレン基などの芳香環や、ピリジン環、キノリン環、フラン環、チオフェン環、ピペリジン環、ピロリジン環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、チアゾリン環、オキサゾリン環、イミダゾリン環などの複素環を置換基として有するアルキル基などが挙げられる。
本発明の効果を得る上で支障がない限り、複素環又は芳香環を置換基とするアルキル基の炭素数には限定はないが、通常1以上、また、通常6以下、好ましくは3以下が望ましい。
置換基としての複素環又は芳香環の種類に限定はないが、好適な置換基はベンゼン環である。
また、置換基としての複素環又は芳香環が更に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、前記のA1及びB1における置換基と同じものが挙げられる。なお、この置換基は、1種が単独又は複数で置換していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。
複素環又は芳香環で置換されたアルキル基としては、ベンジル基が特に好ましい。また、本発明においては、A1がベンゼン環、B1がピリジン環、X1、X2、X3及びX4のうちいずれか1つが芳香環で置換されたアルキル基であることが好ましい。その中でも、X1、X2、X3及びX4のうちの芳香環で置換されたアルキル基以外のX1、X2、X3及びX4と、R1及びR2が、炭素数1〜3のアルキル基であり、Y1が水素原子であることが好ましく、X1又はX2の何れか一方が、芳香環で置換されたアルキル基であることが更に好ましい。
【0027】
前記一般式[I]中、Y1は水素原子又は有機基を表わす。中でも、Y1は水素原子(無置換)であることが好ましい。Y1としての有機基は限定されず、前記X1、X2、X3及びX4としての有機基と同様のものが挙げられるが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など炭素数1〜6のアルキル基や、フェニル基、ナフタレン基などの芳香族炭化水素基などが好ましい。
【0028】
前記一般式[I]中、Z-は、アニオンを表わす。アニオンの種類は制限されず、有機アニオンであっても無機アニオンであってもよい。
無機アニオンの例としては、六弗化燐酸イオン、ハロゲンイオン、燐酸イオン、過塩素酸イオン、過沃素酸イオン、六弗化アンチモン酸イオン、六弗化錫酸イオン、四弗化硼素酸イオンなどの無機酸イオンが挙げられる。
有機アニオンの例としては、チオシアン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ベンゼンジスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、ベンゼンカルボン酸イオン、ベンゼンジカルボン酸イオン、ベンゼントリカルボン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキルカルボン酸イオン、アルキル硫酸イオン、トリハロアルキル硫酸イオン、ニコチン酸イオンなどの有機酸イオンが挙げられる。
【0029】
それらのうち、Z-としては、弗素原子を含む対イオン、例えば、六弗化燐酸イオン(PF6-)、硼弗化水素酸イオン、四弗化硼素酸イオン(BF4-)、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、ジ(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン、ジ(2,2,2−トリフルオロエチルスルフォニル)イミドアニオン、ジ(3,3,3,−トリフルオロプロピルスルフォニル)イミドアニオン、ジ(4,4,4−トリフルオロブチルスルフォニル)イミドアニオン、ジ(ペルフルオロエチルスルフォニル)イミドアニオン、ジ(ペルフルオロプロピルスルフォニル)イミドアニオン、ジ(ペルフルオロブチルスルフォニル)イミドアニオンなどが好ましい。
【0030】
また、Z-としては、陰電荷を有する金属錯体を好適に用いることが出来る。個々の金属錯体としては、例えば、アセチルアセトナートキレート系、アゾ系、サリチルアルデヒドオキシム系、ジインモニウム系、ジチオール系、ジピロメテン系、スクアリリウム系、チオカテコールキレート系、チオビスフェノレートキレート系、ビスジチオ−α−ジケトンキレート系、ビスフェニレンジチオール系、ホルマザン系の遷移金属キレートなどが挙げられる。これらのうち、耐光性及び溶剤に対する溶解性の点で、アゾ系金属錯体が好ましい。
中でも、Z-としては、シアニン色素全体の耐久性及び溶剤に対する溶解性の点で、アゾ系金属錯体の陰イオンが更に好ましい。特に、長周期型周期律表(以下、単に「周期律表」と記す。)の第5族から第12族に属する遷移元素を中心原子とするアゾ系金属錯体の陰イオンがとりわけ好ましい。
上記したアゾ系金属錯体の陰イオンにおける遷移元素としては、例えば、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドニウム、水銀などが挙げられる。中でも、経済性及び生体に対する影響の点で、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、銅が好ましい。
-として好ましいアゾ系金属錯体の陰イオンの例としては、下記一般式[X]で表わされるアゾ系金属錯体の陰イオンが挙げられる。
【化3】


(前記一般式[X]中、
環C及び環Dは、各々独立に、芳香族環又は複素環を表わす。但し、環C及び環Dのうち少なくとも一方の環は複素環である。
Y及びXは、各々独立に、活性水素を有する基を表わす。
Mは、3価の金属元素を表わす。
Y及びXの活性水素が脱離してアゾ系配位子が−2の電荷を有し、このアゾ系配位子2個と+3の電荷の金属原子1個から、全体で−1の電荷の金属錯体が形成される。)
前記一般式[X]中、C及びDで表わされる環は、各々独立に、芳香族環又は不飽和若しくは飽和の複素環であり、Y及びX以外の置換基を更に有していてもよい。C及びDで表わされる環の種類は特に限定されないが、例えば、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族環;ピリジン、ピリミジン、チオフェン等の不飽和複素環;メルドラム酸、バルビツール酸、ピリドン等の飽和複素環;などが挙げられる。
前記一般式[X]中、Y及びXで表わされる基は、各々独立に、活性水素を有する基であり、プロトンが脱離して陰電荷を有するものであればよい。Y及びXで表わされる基の種類は特に限定されないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、アミノ基、水酸基、アミド基、ボロン酸基、リン酸基などが挙げられる。また、C及びDで表わされる環内に前記の基が含まれていてもよい。
前記一般式[X]中、Mで表わされる元素は、3価の金属元素である。
アゾ系配位子の有する基Y、X、及びアゾ結合の窒素原子の一つが金属に配位すると仮定すれば、1個の金属元素に3配座の配位子を2個有する金属錯体が、6配座で安定化すると考えられる。そのため、−2の配位子が2個と、+3の金属が1個とからなるアゾ系金属錯体が、最も安定であり、且つ、一般式[I]で表わされるシアニン色素と等モルで対になることができるので好ましい。
【0031】
上記一般式[X]で表わされるアゾ系金属錯体の陰イオンの中でも好ましい例としては、下記一般式[II]〜[V]で表わされるものが挙げられる。
【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
一般式[II]〜[V]において、Mは、一般式[X]と同様、周期律表の第5族から第12族に属する遷移元素を表わす。
【0037】
一般式[II]〜[V]において、R4、R5、R7〜R10、R12〜R15、R18及びR19は、各々独立に、炭化水素基を表わす。炭化水素基の種類は制限されず、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基でもよいが、脂肪族炭化水素基が好ましい。
脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの、炭素数1以上、6以下の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの、炭素数3以上、6以下の脂環式炭化水素基;などが挙げられる。
上記炭化水素基において、一又は二以上の水素原子が、例えばフルオロ基、クロロ基、ブロモ基などのハロゲン基によって置換されていてもよい。
本発明のシアニン色素は、溶剤の種類にもよるが、R4、R5、R7〜R10、R12〜R15、R18及びR19の炭素数が多くなるほど、通常は溶剤に対する溶解性が増大する。
【0038】
一般式[II]、[IV]及び[V]において、R3、R6、R11、R16、R17及びR20は、各々独立に、水素原子又は置換基を表わす。これらの基が置換基である場合の例としては、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−プロピニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、2−ペンテン−4−イニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの脂肪族炭化水素基;
更には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの脂環式炭化水素基;
フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、フェノキシ基などのアルコキシ基又はアリールオキシ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アセチル基、ベンゾイルオキシ基などのエステル基;
アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、アニリノ基、o−トリイジノ基、m−トルイジノ基、p−トルイジノ基、キシリジノ基、ジフェニルアミノ基などの無置換又は置換のアミノ基;
キノリル基、ピペリジノ基、ピリジル基、モルホリノ基などの複素環基;
フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨ−ド基などのハロゲン基;
ヒドロキシル基;カルボキシル基;スルホン酸基;シアノ基;及びニトロ基;
更には、前記例示のうち二以上の置換基を組み合わせてなる置換基;などが挙げられる。
【0039】
なお、一般式[II]及び[III]における二つのニトロ基、並びに、一般式[IV]及び[V]におけるR11及びR16の各々がベンゼン環に結合する位置は、アゾ基に対して、オルト位、メタ位、パラ位の何れであっても構わない。但し、ニトロ基においては、合成上の観点から、メタ位であることが好ましい。
【0040】
一般式[I]のシアニン色素の好ましい例としては、例えば、下記の構造式(1)〜(46)で表わされる化合物が挙げられる(なお、以下の記載では、各構造式で示される化合物を、その構造式の番号を付して「例示化合物(1)」等のように略称する場合がある。)。以下に例示する化合物は、何れも溶液状態において、波長400nmより長波長側の波長領域、通常400〜500nm付近の紫色から青色にかけての波長領域に主たる吸収極大を有し、吸収極大波長における分子吸光係数も5×104以上と大きいことから、紫色から青色にかけての波長領域の可視光を効率良く吸収することとなる。但し、以下の化合物はあくまでも例示であって、本発明の光学記録媒体に使用可能な一般式[I]のシアニン色素は、これらに限定される訳ではない。
【0041】
【化8】


【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】

【0042】
【化20】


【化21】


【化22】


【化23】


【化24】


【化25】


【化26】


【化27】


【化28】


【化29】


【化30】


【化31】

【0043】
【化32】


【化33】


【化34】


【化35】


【化36】


【化37】


【化38】


【化39】


【化40】


【化41】


【化42】


【化43】

【0044】
【化44】


【化45】


【化46】


【化47】


【化48】


【化49】


【化50】


【化51】


【化52】


【化53】

【0045】
[II.光学記録媒体]
本発明の光学記録媒体は、基板と、前記基板上に設けられ、光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを少なくとも有し、前記記録層が、上記一般式[I]のシアニン色素を含有するものである。必要に応じて、更に、下引き層、反射層、保護層など、基板及び記録層以外の層を有していてもよい。
【0046】
以下、本発明の光学記録媒体について、実施形態を挙げて具体的に説明するが、以下の実施形態はあくまでも説明のために挙げるものであって、本発明は以下の実施形態に制限されず、本発明の趣旨に反しない限り自由に変形して実施することが可能である。
【0047】
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る光学記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図である。図1(a)に示される光学記録媒体10は、光透過性材料からなる基板1と、基板1上に設けられた記録層2と、記録層2上に積層された反射層3及び保護層4とが順番に積層された構造を有している。光学記録媒体10は、基板1側から照射されるレーザー光Lにより、情報の記録・再生が行われる。
【0048】
なお、説明の便宜上、光学記録媒体10において、保護層4が存在する側を上方、基板1が存在する側を下方とし、これらの方向に対応する各層の各面を、それぞれ各層の上面及び下面とする。
【0049】
基板1の材料としては、基本的に記録光及び再生光の波長において透過性を有する材料であれば、様々な材料を使用することができる。具体的には、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂(特に、非晶質ポリオレフィン)、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂;ガラス等が挙げられる。また、ガラス上に光硬化性樹脂等の放射線硬化性樹脂からなる樹脂層を設けた構造の基板を用いることもできる。中でも、高生産性、コスト、耐吸湿性等の観点からは、射出成型法にて使用されるポリカーボネート樹脂、耐薬品性及び耐吸湿性等の観点からは、非晶質ポリオレフィンが好ましい。更に、高速応答等の観点からは、ガラスが好ましい。
【0050】
樹脂製の基板1を使用した場合、又は、記録層と接する側(上側)に樹脂層を設けた基板1を使用した場合には、上面に、記録再生光の案内溝やピットを形成してもよい。案内溝の形状としては、光学記録媒体10の中心を基準とした同心円状の形状やスパイラル状の形状が挙げられる。スパイラル状の案内溝を形成する場合には、溝ピッチが0.2〜1.2μm程度であることが好ましい。
【0051】
記録層2は、基板1の上側に直接、又は必要に応じて基板1上に設けた下引き層等の上側に形成される層であって、上記式[I]のシアニン色素を含有する。式[I]のシアニン色素は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
更に、記録層2には、式[I]のシアニン色素に加え、必要に応じて他系統の色素を併用することもできる。他系統の色素としては、主として記録用レーザー光の発振波長域に適度な吸収を有するものであればよく、特に制限されない。また、CD−R等に使用され、770〜830nmの波長帯域中に発振波長を有する近赤外レーザー光を用いた記録・再生に適する色素や、DVD−R等に使用され、620〜690nmの波長帯域中に発振波長を有する赤色レーザー光を用いた記録・再生に適する色素等を、式[I]のシアニン色素と併用して記録層2に含有させることにより、異なる波長帯域に属する複数種のレーザー光を用いた記録・再生に対応する光学記録媒体10を製造することもできる。また、上記CD−R用或いはDVD−R用の色素の中で耐光性が良好なものを選び、式[I]のシアニン色素と併用することにより、耐光性を更に向上させることが可能となる。
【0053】
式[I]のシアニン色素以外の他系統の色素としては、例えば、含金属アゾ系色素、ベンゾフェノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アゾ系色素、スクアリリウム系色素、含金属インドアニリン系色素、トリアリールメタン系色素、メロシアニン系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、ピリリウム系色素等が挙げられる。なお、他の色素は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0054】
また、記録層2には、式[I]のシアニン色素に加えて、安定性や耐光性の向上のために、一重項酸素クエンチャーとして遷移金属キレート化合物(例えば、アセチルアセトナートキレート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等)等を含有させたり、記録感度の向上のために、金属系化合物等の記録感度向上剤を含有させたりしてもよい。ここで、金属系化合物とは、遷移金属等の金属が原子、イオン、クラスター等の形で化合物に含まれるものを言い、例えばエチレンジアミン系錯体、アゾメチン系錯体、フェニルヒドロキシアミン系錯体、フェナントロリン系錯体、ジヒドロキシアゾベンゼン系錯体、ジオキシム系錯体、ニトロソアミノフェノール系錯体、ピリジルトリアジン系錯体、アセチルアセトナート系錯体、メタロセン系錯体、ポルフィリン系錯体のような有機金属化合物が挙げられる。金属原子としては特に限定されないが、遷移金属であることが好ましい。なお、これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0055】
更に、必要に応じてバインダー、レベリング剤、消泡剤等を併用することもできる。好ましいバインダーの例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ケトン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられる。なお、バインダーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0056】
記録層2の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等、一般に行なわれている様々な薄膜形成法が挙げられる。量産性やコストの観点からは、スピンコート法が好ましく、均一な厚みの記録層2が得られるという観点からは、塗布法よりも真空蒸着法等の方が好ましい。スピンコート法による成膜の場合、回転数は500〜15000rpmが好ましい。また、場合によっては、スピンコートの後に、加熱する、溶媒蒸気にあてる等の処理を施してもよい。
【0057】
ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の塗布法により記録層2を形成する場合に、式[I]のシアニン色素を溶解させて基板1に塗布するために使用する塗布溶媒は、基板1を侵食しない溶媒であれば特に限定されない。具体的には、例えばジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン等の鎖状炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の環状炭化水素系溶媒;テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のフルオロアルキルアルコール系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシカルボン酸エステル系溶媒等が挙げられる。なお、塗布溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。塗布法により記録層2を形成する場合、式[I]のシアニン色素を溶解させて基板1に塗布するシアニン色素の濃度は、溶媒に対し、0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、また、2.0重量%以下が好ましく、1.5重量%以下がより好ましい。
【0058】
真空蒸着法を用いる場合には、例えば、式[I]のシアニン色素と、必要に応じて他の色素や各種添加剤等の記録層成分とを、真空容器内に設置されたるつぼに入れ、この真空容器内を適当な真空ポンプで10-2〜10-5Pa程度にまで排気した後、るつぼを加熱して記録層成分を蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板上に蒸着させることによって、記録層2を形成する。
【0059】
記録層2の膜厚は、記録方法等により適した膜厚が異なる為、特に限定するものではないが、記録を可能とするためにはある程度の膜厚を有することが望ましいため、通常、少なくとも1nm以上であり、好ましくは5nm以上である。但し、あまり厚すぎても記録が良好に行なえなくなる場合があるので、通常300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0060】
反射層3は、記録層2の上に形成されている。反射層3の膜厚は、好ましくは50nm〜300nmである。反射層3の材料としては、再生光の波長において十分高い反射率を有する材料、例えば、Au、Al、Ag、Cu、Ti、Cr、Ni、Pt、Ta、Pd等の金属を、単独或いは合金にして用いることができる。これらの中でもAu、Al、Agは反射率が高く、反射層3の材料として適している。また、これらの金属を主成分とした上で、他の材料を含有させてもよい。ここで「主成分」とは、含有率が50重量%以上のものをいう。主成分以外の他の材料としては、例えば、Mg、Se、Hf、V、Nb、Ru、W、Mn、Re、Fe、Co、Rh、Ir、Cu、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi、Ta、Ti、Pt、Pd、Nd等の金属及び半金属を挙げることができる。中でもAgを主成分とするものは、コストが安い点、高反射率が出易い点、後述する印刷受容層を設けた場合に地色が白く美しいものが得られる点等から、特に好ましい。例えば、AgにAu、Pd、Pt、Cu、及びNdからなる群から選ばれる一種以上を0.1原子%〜5原子%程度含有させた合金は、高反射率、高耐久性、高感度且つ低コストであり好ましい。具体的には、例えば、AgPdCu合金、AgCuAu合金、AgCuAuNd合金、AgCuNd合金等である。金属以外の材料としては、低屈折率薄膜と高屈折率薄膜を交互に積み重ねて多層膜を形成し、これを反射層3として用いることも可能である。
【0061】
反射層3を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられる。また、基板1の上や反射層3の下に、反射率の向上、記録特性の改善、密着性の向上等のために、公知の無機系又は有機系の中間層、接着層を設けることもできる。
【0062】
保護層4は、反射層3の上に形成される。保護層4の材料は、反射層3を外力から保護するものであれば、特に限定されない。有機物質の材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線(以下、「UV」と略記することがある。)硬化性樹脂等を挙げることができる。また、無機物質としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。
【0063】
熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いる場合は、適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層3の上に塗布して乾燥させれば、保護層4を形成することができる。UV硬化性樹脂を用いる場合は、そのまま反射層3の上に塗布するか、又は適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層3の上に塗布し、UV光を照射して硬化させることによって、保護層4を形成することができる。UV硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリレート系樹脂を用いることができる。これらの材料は、単独で用いても、複数種を混合して用いてもよい。また、保護層は、単層として形成しても、多層として形成してもよい。
【0064】
保護層4の形成方法としては、記録層2と同様に、スピンコート法やキャスト法等の塗布法や、スパッタリング法や化学蒸着法等の方法が用いられるが、中でもスピンコート法が好ましい。保護層4の膜厚は、その保護機能を果たすためにはある程度の厚みを有することが望ましいため、通常0.1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。但し、あまり厚すぎると、効果が変わらないだけでなく保護層4の形成に時間がかかったりコストが高くなる場合があるので、通常100μm以下であり、好ましくは30μm以下である。
【0065】
以上、光学記録媒体10の層構造として、基板、記録層、反射層、保護層をこの順に積層して成る構造を例に採って説明したが、この他の層構造を採っても構わない。
【0066】
例えば、上例の層構造における保護層4の上面に、又は上例の層構造から保護層4を省略して反射層3の上面に、更に別の基板1を貼り合わせてもよい。この際の基板1は、何ら層を設けていない基板そのものであってもよく、貼り合わせ面又はその反対面に反射層3等任意の層を有するものでもよい。また、同じく上例の層構造を有する光学記録媒体10や、上例の層構造から保護層4を省略した光学記録媒体10を、それぞれの保護層4及び/又は反射層3の上面を相互に対向させて2枚貼り合わせてもよい。
【0067】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図1(b)は、本発明の第2実施形態に係る光学記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図である。図1(b)中、図1(a)と共通する要素については同じ符号を付し、説明を省略する。図1(b)に示される光学記録媒体20は、光透過性材料からなる基板1と、基板1上に設けられた反射層3と、反射層3上に積層された記録層2及び保護被膜5とが順番に積層された構造を有している。光学記録媒体20は、保護被膜5側から照射されるレーザー光Lにより、情報の記録・再生が行われる。
【0068】
保護被膜5は、フィルム又はシート状のものを接着剤によって貼り合わせてもよく、また、前述の保護層4と同様の材料を用い、成膜用の塗液を塗布し硬化又は乾燥することにより形成してもよい。保護被膜5の厚さは、その保護機能を果たすためにはある程度の厚さを有することが望ましいため、通常0.1μm以上、好ましくは3μm以上である。但し、あまり厚すぎると、効果が変わらないだけでなく、保護被膜5の形成に時間がかかったり、コストが高くなる場合があるので、通常300μm以下、好ましくは200μm以下とすることが望ましい。
【0069】
尚、記録層2及び反射層3等の各層は、通常は第1実施形態の光学記録媒体10と同様のものが用い得る。但し、第2実施形態においては、基板1は透明である必要はなく、従って、前述の材料以外にも、不透明な樹脂、セラミック、金属(合金を含む)等が用いられる。このような層構成においても、上記各層間には、本発明の特性を損なわない限り、必要に応じて任意の層を有してよい。
【0070】
ところで、光学記録媒体10,20の記録密度を上げるための一つの手段として、対物レンズの開口数を上げることがある。これにより情報記録面に集光される光スポットを微小化できる。しかしながら、対物レンズの開口数を上げると、記録・再生を行なうためにレーザー光を照射した際に、光学記録媒体10,20の反り等に起因する光スポットの収差が大きくなり易いため、良好な記録再生信号が安定して得られない場合がある。
【0071】
このような収差は、レーザー光が透過する透明基板や保護被膜の膜厚が厚いほど大きくなり易いので、収差を小さくするためには基板や保護被膜をできるだけ薄くするのが好ましい。ただし、通常、基板1は光学記録媒体10,20の強度を確保するためにある程度の厚みを有することが望ましいので、この場合、第2実施形態の光学記録媒体20の構造(基板1、反射層3、記録層2、保護被膜5からなる基本的層構成の光学記録媒体20)を採用するのが好ましい。第1実施形態の光学記録媒体10の基板1を薄くするのに比べると、第2実施形態の光学記録媒体20の保護被膜5は薄くし易いため、好ましくは第2実施形態の光学記録媒体20を用いる。
【0072】
但し、第1実施形態の光学記録媒体10の構造(基板1、記録層2、反射層3、保護層4からなる基本的層構成の光学記録媒体10)であっても、記録・再生用レーザー光が通過する透明な基板1の厚さを50〜300μm程度にまで薄くすることにより、収差を小さくして使用できるようになる。
【0073】
また、他の各層の形成後に、記録・再生レーザー光の入射面(通常は、基板1の下面)に、表面の保護やゴミ等の付着防止の目的で、紫外線硬化樹脂層や無機系薄膜等を成膜形成してもよく、記録・再生レーザー光の入射面ではない面(通常は、反射層3や保護層4の上面)に、インクジェット、感熱転写等の各種プリンタ、或いは各種筆記具を用いて記入や印刷が可能な印刷受容層を設けてもよい。
【0074】
本実施の形態が適用される光学記録媒体10,20において、情報の記録・再生のために使用するレーザー光は、高密度記録を実現する観点から波長が短いほど好ましいが、特に波長350〜530nmのレーザー光が好ましい。かかるレーザー光の代表例として、中心波長が405nm、410nm、515nmのレーザー光が挙げられる。
【0075】
波長350〜530nmのレーザー光は、波長405nm、410nmの青色又は515nmの青緑色の高出力半導体レーザー光を使用することによって得られる。また、その他にも例えば(a)基本発振波長が740〜960nmの連続発振可能な半導体レーザー光、及び(b)半導体レーザー光によって励起される基本発振波長740〜960nmの連続発振可能な固体レーザー光の何れかの発振レーザー光を、第二高調波発生(Second-Harmonic Generation:SHG)素子により波長変換することによっても得られる。
【0076】
尚、SHG素子としては、反転対称性を欠くピエゾ素子であればいかなるものでもよいが、KDP(KH2PO4)、ADP(NH42PO4)、BNN(Ba2NaNb515)、KN(KNbO3)、LBO(LiB35)、化合物半導体等が好ましい。第二高調波の具体例として、基本発振波長が860nmの半導体レーザー光の場合には、その基本発振波長の倍波である430nm、また、半導体レーザー光励起の固体レーザー光の場合には、CrドープしたLiSrAlF6結晶(基本発振波長860nm)からの倍波の430nm等が挙げられる。
【0077】
本発明の各実施の形態に係る光学記録媒体10、20に情報の記録を行なう際には、記録層2に対して(通常は、図1(a)及び(b)において、記録層2に対してレーザー光Lの方向から照射する。)、通常0.4〜0.6μm程度に集束したレーザー光を照射する。記録層2のレーザー光が照射された部分は、レーザー光のエネルギーを吸収することによって分解、発熱、融解等の熱的変形を起こすため、光学的特性が変化する。
【0078】
一方、記録層2に記録された情報の再生を行なう際には、同じく記録層2に対して(通常は、記録時と同じ方向からレーザー光Lは照射する。)、よりエネルギーの低いレーザー光を照射する。記録層2において、光学的特性の変化が起きた部分(すなわち、情報が記録された部分)の反射率と、変化が起きていない部分の反射率との差を読み取ることにより、情報の再生が行なわれる。
【0079】
次に、本発明の第3実施形態として、複数の記録層を有する光学記録媒体及びその製造方法について説明する。
図2(a)〜(f)は、本発明の第3実施形態に係る2層型光学記録媒体の製造方法を説明する図である。先ず、図2(a)に示すように、表面に溝及びランド、プリピットが形成された第1の基板201を、スタンパを用いた射出成型法等により作製する。次に、少なくとも有機色素を溶媒に溶解させた塗布液を第1の基板201の凹凸を有する側の表面にスピンコート等により塗布し、塗布液に使用した溶媒を除去するために加熱(アニール)して第1の記録層202を成膜する。第1の記録層202を成膜した後、Ag合金等をスパッタ又は蒸着することにより、第1の記録層202上に、半透明な第1の反射層203を成膜する。
【0080】
続いて、図2(b)に示すように、第1の反射層203の表面全体に紫外線硬化性樹脂層204aをスピンコート等により塗布して形成する。更に、図2(c)に示すように、紫外線硬化性樹脂層204aをスピンコート等により塗布した後、樹脂スタンパ210を載置し、紫外線硬化性樹脂層204aに凹凸を転写する。このとき、紫外線硬化性樹脂層204aの膜厚が所定範囲になるように調節しつつ行なう。そして、この状態で樹脂スタンパ210側から紫外線を照射する等して紫外線硬化性樹脂層204aを硬化させ、十分硬化したところで樹脂スタンパ210を剥離し、表面に凹凸を有する中間層204を形成する。
【0081】
尚、樹脂スタンパ210は、中間層204となるべき樹脂に対して十分な剥離性を有していれば良く、成形性が良く、形状安定性が良いことが望ましい。生産性及びコストの観点から、望ましくは、樹脂スタンパ210は複数回の転写に使用可能であるのが望ましい。また、使用後のリサイクルが可能であることが望ましい。また、樹脂スタンパ210の材料としては、例えばアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂(特に非晶質ポリオレフィン)、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、成形性等の高生産性、コスト、低吸湿性、形状安定性等の点から非晶質ポリオレフィンが好ましい。
【0082】
続いて、図2(d)に示すように、有機色素を溶媒に溶解させた塗布液をスピンコート等により中間層204表面に塗布し、塗布液に使用した溶媒を除去するために加熱(アニール)して第2の記録層205を成膜する。
【0083】
そして、図2(e)に示すように、Ag合金等をスパッタ、蒸着することにより第2の記録層205上に第2の反射層206を成膜する。
その後、図2(f)に示すように、ポリカーボネートを射出成型して得られた第2の基板208としての鏡面基板を、接着層207を介して第2の反射層206に貼り合わせて光学記録媒体の製造が完了する。
【0084】
以上、本発明の第3実施形態に係る光学記録媒体及びその製造方法について説明したが、本実施の形態は上記の態様に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、光学記録媒体が3つ以上の複数の記録層を有していてもよい。また、各層間や最外層として必要に応じて他の層を設けてもよい。基板入射型光ディスクに限られず、少なくとも基板/反射層/第2の記録層/バッファー層/中間層/半透明反射膜/第1の記録層/保護層からなる積層構造を有し、保護層側(即ち、膜面側)からレーザー光を照射して情報の記録・再生を行なう膜面入射型光ディスクにおいても適用できる。
【0085】
多層媒体に用いられる色素として好適な要件としては、単層媒体に用いられる色素よりも記録感度が良いことが挙げられる。なぜならば各層に情報を記録する際に、記録する目的以外の層にも光が吸収、透過する現象が必ず生じるためである。
例えば、図2に例示した2層型光学記録媒体の場合、第1の反射層203は半透明反射膜であるため、記録時に照射されるレーザー光のエネルギーは、第1の反射層203において全て反射されるわけではない。このため、第1の記録層202へ照射されるレーザー光のエネルギーは、図1に例示した単層媒体における記録層2に較べて小さいものとなる。従って、図2に例示した2層型光学記録媒体における第1の記録層202を構成する色素は、図1に例示した単層媒体における記録層2を構成する色素に較べて遥かに高い記録感度が要求されるのである。
この意味でも、本発明のシアニン色素は従来と比較して良好な記録感度を持つことから、より好ましいと考えられる。
【実施例】
【0086】
この発明によるシアニン色素は諸種の方法により合成できるが、経済性を重視するのであれば、活性メチン基と適宜の脱離基との求核置換反応を利用する方法が好適である。以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0087】
[I.色素の合成及び評価]
〔実施例1〕
「色素の合成1」
下記化学式(47)で表わされる複素環誘導体3.7gと、下記化学式(48)で表わされるニトロソ誘導体5.8gとを、無水酢酸(26ml)中、1時間加熱(90℃)攪拌した。反応後、水を滴下し、冷却した。析出した結晶を濾取することにより、上記の例示化合物(1)2.6gを得た。
【0088】
【化54】


【化55】

【0089】
結晶の一部をとり、熱特性として示差走査熱量計(DSC)分析により融点及び分解点を測定したところ、例示化合物(1)は255℃付近に融点と区別し難い分解点を示した。
【0090】
吸光特性として、常法によりメタノ−ル溶液における吸収スペクトルを測定したところ、例示化合物(1)は波長424.5nmに吸収極大(λmax)を示した(ε=3.74×105)。
【0091】
ジメチルスルホキシド−d6溶液における例示化合物(1)の1H−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.60(6H、s)、1.62(6H、s)、3.18(3H、s)、3.43(3H、s)、5.87(1H、s)7.32(1H、dd)、7.44(1H、t)、7.54(1H、t)、7.62(1H、d)、7.71(1H、d)、8.03(1H、d)、8.38(1H、d)の位置にピ−クを示した。
【0092】
〔実施例2〕
「色素の合成2」
前記化学式(47)で表わされる複素環誘導体70gと下記化学式(49)で表わされるニトロソ誘導体138gを無水酢酸(490ml)中、1時間加熱(90℃)攪拌した。反応後、水を滴下し、冷却した。析出した結晶を濾取することにより、上記の例示化合物(2)67gを得た。
【0093】
【化56】

【0094】
結晶の一部をとり、熱特性としてDSC分析により融点及び分解点を測定したところ、例示化合物(2)は243℃付近に融点と区別し難い分解点を示した。
【0095】
吸光特性として、常法によりメタノ−ル溶液における吸収スペクトルを測定したところ、例示化合物(2)は波長432nmに吸収極大(λmax)を示した(ε=3.68×105)。
【0096】
なお、ジメチルスルホキシド−d6溶液における例示化合物(2)の1H−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.65(3H、s)、1.68(3H、s)、1.72(3H、s)、2.98(6H、br)、3.45〜3.65(2H、m)、6.10(1H、s)、6.74(2H、d)、7.00〜7.11(3H、m)、7.32〜7.36(2H、m)、7.43〜7.51(2H、m)、7.79(1H、d)、8.06(1H、d)、8.38(1H、d)の位置にピ−クを示した。
【0097】
〔実施例3〕
「色素の合成3」
上述の例示化合物(1)0.72gと、下記化学式(50)で表わされるアゾ錯体1.5gとを、アセトニトリル(45ml)中、加熱(80℃)攪拌し完溶させた。その後アセトニトリルを留去し、析出した結晶を濾取することにより、上記の例示化合物(35)1.45gを得た。
【0098】
【化57】

【0099】
結晶の一部をとり、熱特性としてDSC分析により融点及び分解点を測定したところ、例示化合物(35)は252℃付近に融点と区別し難い分解点を示した。
【0100】
吸光特性として、常法によりメタノ−ル溶液における吸収スペクトルを測定したところ、例示化合物(35)は波長440nmに主たる吸収極大(λmax)を示した(ε=6.47×104)。
【0101】
重クロロホルム溶液における例示化合物(35)の1H−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が0.50(6H、t)、0.78〜0.86(4H、m)、0.94〜1.10(4H、m)、1.67(12H、s)、2.94(6H、s)、3.31(3H、s)、3.48(3H、s)、3.59〜3.66(4H、m)、5.56(1H、s)、6.83(2H、d)、7.28(1H、dd)、7.43〜7.56(4H、m)、7.76(1H、dd)、7.99(2H、dd)、8.37(1H、dd)、9.13(2H、d)の位置にピ−クを示した。
【0102】
〔実施例4〕
「色素の合成4」
上述の例示化合物(2)64gと前記化学式(50)で表わされるアゾ錯体113gをアセトニトリル(3390ml)中、加熱(80℃)攪拌し完溶させた。その後アセトニトリルを留去し、析出した結晶を濾取することにより、上述の例示化合物(36)108gを得た。
【0103】
結晶の一部をとり、熱特性としてDSC分析により融点及び分解点を測定したところ、例示化合物(36)は238℃付近に融点と区別し難い分解点を示した。
【0104】
吸光特性として、常法によりメタノ−ル溶液における吸収スペクトルを測定したところ、例示化合物(36)は波長446nmに主たる吸収極大(λmax)を示した(ε=7.08×104)。
【0105】
重クロロホルム溶液における例示化合物(36)の1H−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が0.50(6H、t)、0.79〜0.88(4H、m)、0.94〜1.01(4H、m)、1.67(3H、s)、1.69(3H、s)、1.78(3H、s)、2.93(6H、s)、3.05(6H、br)、3.26〜3.52(2H、m)、3.58〜3.66(4H、m)、5.64(1H、s)、6.69(2H、d)、6.82(2H、d)、7.05〜7.30(5H、m)、7.52〜7.55(3H、m)、7.77(1H、d)、7.99(2H、dd)、8.35(1H、d)、9.12(2H、d)の位置にピ−クを示した。
【0106】
[II.光学記録媒体の作製及び評価]
〔実施例5〕<記録層が単層である光学記録媒体>
厚さ0.6mm、トラックピッチ0.4μm、溝幅260nm、溝深さ60nmのポリカーボネート製の基板上に、実施例4で得られた例示化合物(36)をTFP(2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール)に対し1.0重量%の濃度となるように混合した溶液をスピンコート法で塗布し、70℃で25分乾燥させることにより、記録層を設けた。なお、空気をリファレンスとして測定した470nmでの吸光度は0.30であった。その後、この記録層の上に、スパッタリングにより厚さ120nmのAgBi0.2Nd0.5反射膜を設けた。更に、この反射層の上に、紫外線硬化樹脂(ソニーケミカル社製SK7100)を用いて、0.6mm厚のポリカーボネート製の裏板を接着して、光学記録媒体を作製した。
【0107】
得られた光学記録媒体に対し、レーザー波長405nm、NA(開口数)0.65のテスター(パルステック社製ODU−1000)を用い、線速度6.61m/s、最短マーク長204nmでランダムパターン記録を行なった。記録及び再生は、DVDフォーラムにより定められたHD DVD−R規格Ver1.0に準拠した方式で、同規格にあるPRSNR(Partial Response Signal to Noise Ratio)及びSbER(Simulated bit error rate)の評価を行なった。
その結果、記録メカニズムはLow to High型であり、最適記録パワーは7.2mWであった。この時の光学記録媒体のPRSNRは35.0と、規格の15を上回る結果であった。また、SbERは3.0×10-11と、規格の5.0×10-5以内で良好な結果であった。
【0108】
〔比較例1〕
色素として、下記化学式(51)で表わされる化合物を使用した以外は、実施例5と同様の条件で光学記録媒体を作製し、実施例5と同様の条件で評価を行なった。
【0109】
【化58】


この結果、記録メカニズムはLow to High型であり、PRSNRは32.0、SbERは4.5×10-11と、何れも規格の範囲内であった。しかしながら、最適記録パワーは8.8mWであり、実施例5と比較すると記録感度の点で有意な差のあることが判った。
【0110】
〔実施例6〕<記録層を2層有する光学記録媒体>
Layer 0色素として例示化合物(36)を用い、Layer 1色素として下記化学式(52)で表わされる化合物を用いて2層媒体を作製し、Layer 0、Layer 1のそれぞれの記録層の記録特性を評価した。ここで、Layer 0は「第1の記録層」(レーザー入射に近い側の記録層)を意味し、Layer 1は「第2の記録層」(レーザー入射に遠い側の記録層)を意味する。
以下に媒体作製の手順を示す。使用する基板のトラックピッチは0.4μmとし、溝深さは、Layer 0:60nm、Layer 1:65nm、溝幅は両者とも260nmとなるよう予め、基板及びスタンパを準備した。
【0111】
【化59】

【0112】
まず、Layer 0用の溝が形成された厚さ0.59mmポリカーボネート基板上に、上述の例示化合物(36)をTFP(2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール)に対し1.0重量%の濃度となるように混合した溶液を用いてスピンコート法で塗布し、70℃で25分乾燥させることにより、Layer 0記録層を設けた。この時、470nmでの吸光度は0.280であった。
次いで、Layer 0に隣接する半透明反射膜として、AgBi10を厚さ45nmでスパッタリング法により成膜した。
次に、半透明反射膜の表面に、紫外線硬化樹脂(大日本インキ社製SD6036)を厚さ約22μmでスピンコート塗布した。一方、非晶質環状ポリオレフィン樹脂からなるLayer 1の溝を転写するためのスタンパ上に、紫外線硬化樹脂(日本化薬社製MPZ388)を厚さ約8μmでスピンコート塗布した。その後、これら塗布面同士を接着させた。接着後、非晶質環状ポリオレフィン樹脂スタンパ側からUV光240mJ/cm2を照射して、2種類の紫外線硬化樹脂を同時に硬化させた。その後、非晶質環状ポリオレフィン樹脂スタンパを紫外線硬化樹脂から剥離することにより、剥離面にLayer 1用の溝(溝深さ65nm、溝幅260nm、トラックピッチ0.4μm)が転写された中間層を形成した。この時、UV硬化後の中間層全体の厚さは28μmであった。
次に、Layer 1用の溝が形成された中間層上に、Layer 0と同様にして、前記化学式(52)で表わされる化合物をスピンコート法により塗布し、70℃で25分乾燥させることにより、Layer 1記録層を設けた。この時、Layer 1色素のみの470nmでの吸光度は0.300であった。ここで、Layer 1色素のみの吸光度とは、Layer 0色素及び半透膜反射膜を形成しない状態、すなわち、基板、中間層、Layer 1色素の順に積層した場合の、Layer 1色素の吸光度を意味する。
更に、Layer 1に隣接する全反射膜として、AgCu0.9Nd0.7を、厚さ120nmでスパッタリング法により成膜した。
最後に、全反射層と厚さ0.6mmのポリカーボネート製の裏板とを、貼り合わせ用の紫外線硬化樹脂で接着、硬化させることにより、記録層を2層有する光学記録媒体を作製した。
【0113】
記録条件は単層媒体と同一であり、レーザー波長405nm、NA(開口数)0.65のテスター(パルステック社製ODU−1000)を用い、線速度6.61m/s、最短マーク長204nmで記録を行なった。記録、再生はDVDフォーラムにより定められたHD DVD−R規格Ver1.0に準拠した方式で行ない、同規格にあるPRSNR及びSbERの評価を行なった。
【0114】
評価の結果、記録メカニズムはLayer 0、Layer 1ともにLow to High型であった。Layer 0の最適記録パワーは10.0mW、PRNSRは23.0、SbERは2.1×10-8であり、Layer 1の最適記録パワーは13.0mW、PRNSRは24.5、SbERは5.1×10-8であった。PRSNRの値は、Layer 0、Layer 1ともに規格の15.0を大きく上回る良好な結果であり、また、SbERも同様に規格の5.0×10-5以内であり、Layer 0、Layer 1共に2層媒体に必要な記録特性を十分に確保できた。
【0115】
〔比較例2〕
Layer 0色素として上述の例示化合物(51)を使用した以外は、実施例6と同様の条件で2層媒体を作製し、実施例6と同様の条件で評価を行なった。
この結果、Layer 0の最適記録パワーは12.5mWであり、実施例6よりも感度が悪かった。また、PRNSRは13.8、SbERは4.2×10-3であり、記録特性の上でも規格を満たすことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の適用分野は特に制限されないが、青色レーザー光等の発振波長の短いレーザー光を用いて記録・再生を行なう光学記録媒体の分野において、好適に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係る光学記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図であり、(b)は、本発明の第2実施形態に係る光学記録媒体の層構成の一例を模式的に表わす部分断面図である。
【図2】(a)〜(f)は何れも、本発明の第3実施形態に係る2層型光学記録媒体の製造方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0118】
1 基板
2 記録層
3 反射層
4 保護層
5 保護被膜
10,20 光学記録媒体
L レーザー光
201 第1の基板
202 第1の記録層
203 第1の反射層
204 中間層
204a 紫外線硬化性樹脂層
205 第2の記録層
206 第2の反射層
207 接着層
208 第2の基板(鏡面基板)
210 樹脂スタンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で表わされることを特徴とするシアニン色素。
【化1】


(一般式[I]中、
1及びB1は各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表わす。但し、A1及びB1のうち少なくとも一方の芳香環は、窒素原子を含む。
1及びR2は各々独立に、置換基を表わす。R1及び/又はR2は他のカチオンと結合していてもよい。
1、X2、X3及びX4は各々独立に、有機基を表わす。但し、X1とX2の組、及び/又は、X3とX4の組が、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
1は、水素原子又は有機基を表わす。
-は、アニオンを表わす。)
【請求項2】
一般式[I]中、Z-がアゾ系金属錯体の陰イオンであることを特徴とする、請求項1に記載のシアニン色素。
【請求項3】
一般式[I]中、X1、X2、X3及びX4のうち少なくとも1つが、複素環又は芳香環で置換されたアルキル基であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のシアニン色素。
【請求項4】
一般式[I]中、A1がベンゼン環、B1がピリジン環、X1、X2、X3及びX4のうちいずれか1つが芳香環で置換されたアルキル基であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のシアニン色素。
【請求項5】
一般式[I]中、X1、X2、X3及びX4のうちの芳香環で置換されたアルキル基以外のX1、X2、X3及びX4と、R1及びR2が、炭素数1〜3のアルキル基であり、Y1が水素原子であることを特徴とする、請求項4に記載のシアニン色素。
【請求項6】
一般式[I]中、X1又はX2の何れか一方が、芳香環で置換されたアルキル基であることを特徴とする、請求項5に記載のシアニン色素。
【請求項7】
基板と、前記基板上に設けられ、光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを有し、該記録層が請求項1〜6の何れか一項に記載のシアニン色素を含有することを特徴とする光学記録媒体。
【請求項8】
波長300nm以上、500nm以下の光により記録再生を行なうことを特徴とする、請求項7に記載の光学記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−239973(P2008−239973A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46678(P2008−46678)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】