説明

シアノアクリレート系接着剤剥離用組成物、および該接着剤の剥離方法

【課題】 不燃性で、剥離性能の優れたシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物を提供する。
【解決の手段】水酸化第4級アンモニウムの水溶液よりなるシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物である。好ましくは、水酸化第4級アンモニウムの配合量が、1.0質量%以上25.0質量%以下である剥離用組成物である。さらには、本発明の剥離用組成物には、該水溶液100質量部に対して、特に、界面活性剤を0.1質量部以上5.0質量部以下含有させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノアクリレート系接着剤の剥離用組成物に関するものであり、また、シアノアクリレート系接着剤が付着した被洗浄物品から該剥離用組成物を使用して、シアノアクリレート系接着剤を剥離(除去)する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シアノアクリレート系接着剤は、モノマーやオリゴマーを化学反応により硬化させて、接着被膜を形成させるタイプの接着剤であり、様々な用途に使用されている。具体的には、一般の接着用途以外に、電子・電気の工業部品、光学部品等の分野において、仮止めをする必要がある場合に、短時間で接着を行うことができるため、有効に利用されている。
【0003】
例えば、セラミックス部品の研削加工においては、該セラミックス部品を加工用の治具に接着剤を使用して固定した後、研削加工を行っている。この用途には、短時間でセラミックス物品を加工用治具に強固に固定しなければならないため、シアノアクリレート系接着剤が使用されている。治具に固定したセラミックス部品は、研磨された後、治具から引き離すと同時に、セラミックス物品に付着した接着剤を除去する必要がある。従来、セラミックス物品と治具とを引き離すことや、セラミックス物品表面の接着剤を除去(洗浄)するには、アセトンやジメチルホルムアミドなどが使用されてきた。しかしながら、引火点の問題や剥離性の問題で上記剥離剤を改良したものや、それ以外の剥離剤の検討が数多く行われている。
【0004】
具体的には、ジメチルホルムアミドなどの窒素元素を含む非ハロゲン系有機溶剤、界面活性剤を含む剥離用組成物(特許文献1参照)、N−メチルピロリドン、イソプロピルアルコールを使用して超音波洗浄して接着剤を除去する方法(特許文献2)が知られている。また、グリコール類を使用した剥離用組成物(特許文献3、特許文献4)、エーテル化合物を使用した剥離用組成物(特許文献5)も知られている。
【0005】
これら剥離用組成物、および方法は、シアノアクリレート系接着剤を剥離(除去)できる優れた組成物、および方法である。しかしながら、上記方法では、やはり有機溶媒を主成分としており、有機溶媒の廃棄、引火性の点で改善の余地があった。なお、特許文献4には、水を含む剥離用組成物が示されているが、実施例には水が10質量部のものしか示されておらず、やはり引火性の点でより改善の余地があった。
【0006】
【特許文献1】特開平6−80940号公報
【特許文献2】特開平6−150229号公報
【特許文献3】特開2002−38196号公報
【特許文献4】特開平10−183188号公報
【特許文献5】特開2002−241794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、シアノアクリレート系接着剤の剥離用組成物において、水を多く含んでも、シアノアクリレート系接着剤を十分に剥離することができる剥離用組成物を提供することにある。特に、剥離能力に優れ、且つ、引火点を有さない、不燃性のシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため、鋭意研究を行った。その結果、水酸化第4級アンモニウムの水溶液がシアノアクリレート系接着剤を剥離するのに優れた効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、水酸化第4級アンモニウムの水溶液よりなるシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物である。
【0010】
本発明においては、水酸化第4級アンモニウムの配合量が1.0質量%以上25.0質量%以下である水溶液を使用することにより、優れた効果(シアノアクリレート系接着剤の剥離効果)を発揮する。さらに、前記水溶液100質量部に対して、さらに、界面活性剤を0.1質量部以上5.0質量部以下含むものを使用することにより、特に優れた効果を発揮する。
【0011】
また、本発明は、シアノアクリレート系接着剤が付着した被洗浄物品と前記剥離用組成物とを接触させることにより、シアノアクリレート系接着剤を被洗浄物品から剥離するシアノアクリレート系接着剤の剥離方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物は、優れた剥離能力を有する。さらに、水を配合しているため、非引火性の組成物であり、不燃性の剥離用組成物である。そのため、作業環境を改善できる安全性の高いシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、シアノアクリレート系接着剤を剥離するための組成物であって、水酸化第4級アンモニウムの水溶液よりなるシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物(以下、単に剥離用組成物とする場合もある)である。
以下、各成分について説明する。
【0014】
(水酸化第4級アンモニウムの水溶液)
本発明の剥離用組成物は、水酸化第4級アンモニウムの水溶液よりなる。水酸化第4級アンモニウムとしては、具体的に、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム、水酸化トリブチルエチルアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、シアノアクリレート系接着剤の剥離効果、取扱易さ、入手のし易さ等を考慮すると、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムが好ましく、特に、水酸化テトラメチルアンモニウムが好ましい。
【0015】
また、本発明において、前記水酸化第4級アンモニウムの水溶液に使用する水は、下記に詳述する被洗浄物品の用途に応じて適宜決定してやればよいが、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、通常の水道水を使用することができる。本発明の剥離用組成物は、水溶液であるため不燃性であり、さらに、シアノアクリレート系接着剤の剥離にも有効に作用する。
【0016】
本発明の剥離用組成物である水酸化第4級アンモニウムの水溶液は、特に制限されるものではないが、シアノアクリレート系接着剤の剥離効果、特に短時間での剥離効果、取扱易さを考慮すると、水酸化第4級アンモニウムの配合量が、1.0質量%以上25.0質量%以下であることが好ましい。なお、この配合割合は、水と水酸化第4級アンモニウムとの合計量を100質量%とした際の配合量である。水酸化第4級アンモニウムの配合量が少なすぎるとシアノアクリレート系接着剤の剥離効果が低減する傾向にあり、一方、水酸化第4級アンモニウムの配合量が多くなりすぎると、水酸化第4級アンモニウムが析出し易くなる傾向にある。そのため、水酸化第4級アンモニウムの配合量は、より好ましくは3.0質量%以上25.0質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以上25質量%以下であり、特に好ましくは10.0質量%以上25.0質量%以下である。
【0017】
(界面活性剤)
本発明においては、前記水酸化第4級アンモニウムの水溶液に、さらに、界面活性剤を加えたものを剥離用組成物とすることもできる。界面活性剤を加えることにより、シアノアクリレート系接着剤の剥離効果を高めることができる。この理由は、界面活性剤を加えることにより、被洗浄物品とシアノアクリレート系接着剤との間に、本発明の剥離用組成物が浸透し易くなっているためであると考えられる。そのため、本発明の剥離組成物に加える界面活性剤は、特に制限されるものではなく、市販の界面活性剤を使用することができる。具体的には、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、またはノニオン性界面活性剤を使用することができ、中でも、水酸化第4級アンモニウムとの相性を考慮すると、アニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。さらに、アニオン性界面活性剤としては、公知のアニオン性界面活性剤を使用することができ、具体的には、サルフェート型、スルホネート型、カルボン酸型、またはホスフェート型のアニオン性界面活性剤を使用することができる。特に、前記アニオン性界面活性剤の中でも、サルフェート型のアニオン性界面活性剤を使用することが好ましく、具体的には、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩を使用することが好ましい。
【0018】
本発明において、界面活性剤の配合量は、前記水酸化第4級アンモニウムの水溶液100質量部に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下であることが好ましく、さらに、1.0質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。界面活性剤が前記範囲を満足することにより、シアノアクリレート系接着剤の剥離効果を高めることができ、水酸化第4級アンモニウムの配合量を少なくしても、優れた効果を発揮することができる。特に、被洗浄物物品の材質によっては、耐アルカリ性が高くないものもあるため、被洗浄物品の材質に応じて、界面活性剤を加えた本発明の剥離組成物を使用することもできる。界面活性剤を前記範囲で使用する場合には、水酸化第4級アンモニウムの配合量は3.0質量%以上10.0質量%未満、さらに3.0質量%以上7.0質量%以下であっても、優れたシアノアクリレート系接着剤の剥離効果を発揮する。
【0019】
(その他の添加成分)
本発明の剥離用組成物は、水酸化第4級アンモニウム、および水の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、使用する用途に応じて、防腐剤、防錆剤、酸化防止剤、消泡剤を配合することもできる。
【0020】
なお、本発明の剥離組成物は、水酸化第4級アンモニウム、水、および必要に応じて配合する界面活性剤、その他の添加成分を、公知の方法で混合することにより製造することができる。特に、前記の配合量であれば、各成分は容易に混合することができる。
【0021】
次に、本発明の剥離用組成物を使用してシアノアクリレート系接着剤を剥離する方法について説明する。
【0022】
(シアノアクリレート系接着剤)
本発明において、剥離の対象となるシアノアクリレート系接着剤は、公知の接着剤である。具体的には、シアノアクリル酸メチル、シアノアクリル酸エチル、シアノアクリル酸イソブチルなどを主成分とする接着剤が対象となる。この中でも、本発明の剥離用組成物が特に効果を発揮するのは、シアノアクリル酸メチルを主成分とする接着剤である。
【0023】
(被洗浄物品)
本発明において、シアノアクリレート系接着剤が付着した洗浄の対象となる物品(被洗浄物品)は、特に制限されるものではなく、シアノアクリレート系接着剤を除去する必要がある物品が対象となる。
【0024】
具体的には、一般民生用途において、金属、ガラス、セラミックス等の物品を対象とすることができる。また、電子分野における回路や電極等の金属部品、セラミックスやその加工治具、シリコン等の物品が洗浄の対象となる。
【0025】
(被洗浄物品からシアノアクリレート系接着剤を除去する方法)
本発明においては、前記剥離用組成物とシアノアクリレート系接着剤が付着した被洗浄物品とを接触させることにより、該シアノアクリレート系接着剤を被洗浄物品から剥離することができる。剥離用組成物とシアノアクリレート系接着剤が付着した被洗浄物品とを接触させる方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法が採用される。具体的には、剥離用組成物中に被洗浄物品を浸漬する方法(浸漬中に超音波を照射することもできるし、浸漬中に被洗浄物品を揺動することもできる。)、噴流等の流れのある剥離用組成物中に被洗浄物品を浸漬する方法等を採用することができる。
【0026】
シアノアクリレート系接着剤が付着した被洗浄物品を接触させる際の温度は、対象となる被洗浄物品、シアノアクリレート系接着剤の使用量等に応じて、適宜決定してやればよいが、通常、10〜100℃、好ましくは30〜90℃、さらに好ましくは50〜80℃である。水溶液の剥離用組成物であるため、有機溶媒と比較して高い温度での操作が可能となる。
【0027】
本発明の方法によれば、被洗浄物品から容易にシアノアクリレート系接着剤を剥離することができる。特に、水酸化第4級アンモニウムを使用しているため、本発明の剥離用組成物は、容易に除去することができる。ただし、被洗浄物品の種類によっては、本発明の剥離用組成物を使用した後、以下に説明するリンス洗浄を行うことが好ましい場合もある。具体的には、前記方法で剥離用組成物とシアノアクリレート系接着剤が付着した被洗浄物品とを接触させた後、被洗浄物品を乾燥させる前に、リンス液によりリンスすることが好ましい。剥離用組成物と接触させた後の被洗浄物品を、前記剥離用組成物が溶解する有機溶媒からなるリンス液でリンスし、更に、リンスした後の被洗浄物品からリンス液を除去することが好ましい。リンス液としては、乾燥性の観点から沸点50〜100℃の有機溶媒、または水を使用するのが好適である。
【0028】
リンスをする方法は、特に制限されるものではなく、例えば、リンス液に被洗浄物品を浸漬させる方法、リンス液に被洗浄物品を浸漬し超音波を照射する方法、リンス液に被洗浄物品を浸漬し被洗浄物を揺動する方法、噴流等流れのあるリンス液の中に被洗浄物品を浸漬する方法等を採用することができる。また、リンス液を乾燥する方法も、特に制限されるものではなく、液じみを無くす等の清浄度の維持という理由から、前記リンス液を用いた蒸気乾燥により行なうのが好適である。
【0029】
以上の方法により、被洗浄物品に付着したシアノアクリレート系接着剤を除去することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例及び比較例で使用する化合物、およびその略号を以下に示す。
[水酸化第4級アンモニウム]
TMAH :水酸化テトラメチルアンモニウム。
[界面活性剤]
アニオン性界面活性剤:ニューコール707−SF(日本乳化剤(株)製)
ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩。
【0032】
実施例1
(テストピースの作製)
市販のシアノアクリレート系接着剤(シアノアクリル酸メチルを主成分とする接着剤)を、寸法76mm×26mm×厚み1.0mmのスライドガラス上へ塗布した後、その上から同様のスライドガラスを重ね貼り合わせて接着剤を硬化させたものを5セット、テストピースとして準備した。
【0033】
(剥離用組成物)
水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の2.0質量%水溶液を剥離用組成物として使用した。
【0034】
(剥離試験)
前記剥離用組成物の液温度を80℃に保った状態で前記テストピース(5セット)を浸漬させた。20時間浸漬させた後、剥離用組成物中からテストピースを取り出し、剥離の状態を評価した。5セットのテストピース全てにおいて、スライドガラスを剥離することができた。結果を表1に示した。
【0035】
実施例2〜4、比較例1〜2
表1に示す組成の剥離用組成物を準備した以外は、実施例1と同様の方法により剥離試験を行った。剥離性能は、5セットのテストピースのうち何セット、スライドガラスを剥離できたかで評価した。結果を表1に示した。比較例2は、25質量%アンモニア水溶液を使用した例である。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化第4級アンモニウムの水溶液を含むことを特徴とするシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物。
【請求項2】
前記水溶液の水酸化第4級アンモニウムの配合量が1.0質量%以上25.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物。
【請求項3】
前記水溶液100質量部に対して、さらに、界面活性剤を0.1質量部以上5.0質量部以下含むことを特徴とする請求項1に記載のシアノアクリレート系接着剤剥離用組成物。
【請求項4】
シアノアクリレート系接着剤が付着した被洗浄物品と請求項1に記載の剥離用組成物とを接触させることにより、シアノアクリレート系接着剤を被洗浄物品から剥離することを特徴とするシアノアクリレート系接着剤の剥離方法。

【公開番号】特開2010−138309(P2010−138309A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316789(P2008−316789)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】