説明

シアル酸の測定方法

【課題】
現在使用されているシアル酸を測定する方法に代わる、毒性が低く取り扱いが簡便で汎用性の高いシアル酸を測定する方法の提供。
【解決手段】
毒性の低いチオール誘導体を使用することにより、適切な安定性及び反応性を保ちつつ毒性の低いシアル酸標識試薬を提供する。また、シアル酸標識試薬の組成中のpH調節剤を酸性緩衝液等に変更することにより、蛍光誘導体の収率がシアル酸を含む試料の組成の影響を受けにくいシアル酸標識試薬を提供する。さらに、取り扱いが簡便で汎用性の高い試薬キットと測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアル酸の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアル酸は、ノイラミン酸(5-アミノ-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-D-ガラクトノヌロン酸)のアシル誘導体の総称であり、哺乳動物等の産生する糖たん白質及び糖脂質の糖鎖の非還元末端に結合していることが知られている。シアル酸は、糖たん白質の血液循環からの消失や抗原性の発現に関わるなど、重要な役割を担っている。
【0003】
バイオテクノロジーの進展に伴って開発され、実用化されたいわゆるバイオ医薬品の多くは糖たん白質である。糖たん白質は、多様なグライコフォームからなる不均一な分子の集合体であり、その不均一性は、培地成分や培養温度といった微妙な製造条件の影響を受けて変動するため、厳密な制御が極めて困難であることが知られている。糖たん白質の糖鎖は、安定性、生物活性の調節、血液循環からのクリアランス等に関与していることから、医薬品の有効性や安全性、品質を保証することを目的として、通常糖たん白質の糖鎖に関する試験が設定される。
【0004】
糖たん白質の糖鎖を評価する方法としては、構成される単糖について分析する単糖分析法、糖鎖を分析する糖鎖構造解析法、糖たん白質又は糖ペプチドを分析するグライコフォーム分析法があるが、単糖分析法は、標準品として使用する単糖の入手が容易であること、恒常性を確認するための分析操作が比較的容易であることから、古くから多くの方法が開発され、応用されてきた。
【0005】
シアル酸測定法は、単糖分析法の一つとして行われる分析手法であり、糖鎖の中でも血液循環からのクリアランスや生物活性の調節に関わるシアル酸を測定するものである。
【0006】
シアル酸を高感度に測定する方法としては、希酸又は酵素によりシアル酸を遊離した後に、イオンクロマトグラフィーにより分離し、パルスドアンペロメトリー法により検出する方法が知られている(非特許文献1)。また、遊離したシアル酸を、酸性条件下で1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩(以下、MDBという)を作用させて得られるキノキサリン誘導体を逆相液体クロマトグラフィーにより分離し、蛍光検出器により検出する方法が知られている(非特許文献2乃至4)。しかしながら、これら従来のMDBを反応させて蛍光誘導体化する方法で使用されている2-メルカプトエタノールは、揮発性が高く、毒性が強いことから毒物に指定されている(2008年6月20公布の官報ならびに厚生労働省通知の毒物及び劇物指定令の一部改正等において、新たに毒物に指定され、2008年7月1日より施工されている)。このことから、試薬を毒物として管理するが必要である上、2-メルカプトエタノールの揮発性の高さから、取り扱いの際に作業者が暴露される危険性が高く、安全上問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Analytical Biochemistry, Vol.188, No.1. p20-32, 1990
【非特許文献2】Analytical Biochemistry, Vol.164, No.1. p138-145, 1987
【非特許文献3】Analytical Biochemistry, Vol.179, No.1. p162-166, 1989
【非特許文献4】Analytical Biochemistry, Vol.300, No.2. p260-266, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、シアル酸を測定する上で、安全性が高く、また試薬等を毒物として管理する必要がなく、さらに、試料の組成の影響を受けにくく汎用性の高い測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、MDBを反応させて蛍光誘導体化する方法において、鋭意研究の結果、適切な還元力を持ち、水に適切な濃度で溶解又は混合することができる毒性の低いチオール基を有する有機化合物を選択することで、シアル酸の良好な蛍光誘導体化を達成し、本発明を完成させた。また、シアル酸標識試薬に酸性の緩衝液または適切な有機酸もしくは無機酸を使用することにより、試料中に混在する塩やたん白質によるpHの上昇の影響が少なく、精度の良いシアル酸の定量が可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[項1]
下記工程(i)及び(ii)を含む、シアル酸を測定する方法:
工程(i)シアル酸液と、下記成分(a)〜(d)、
(a)ジアミノベンゼン誘導体又はその塩、
(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、
(c)チオール基を有する有機化合物(ただし、分子中の炭素数が2の場合、水酸基で置換されていない)又はその塩、及び
(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸、
を混合し、シアル酸を蛍光誘導体化し、標識反応液を得る工程、及び
工程(ii)(i)で得られる標識反応液中の蛍光誘導体を検出する工程。
[項2]
工程(ii)が、工程(i)で得られる標識反応液から液体クロマトグラフィーにより蛍光誘導体を分離後、該蛍光誘導体を蛍光光度計を用いて測定する工程である、項1に記載のシアル酸を測定する方法。
[項3]
成分(a)が、1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩である、項1または2に記載のシアル酸を測定する方法。
[項4]
成分(c)が、1-チオグリセリン、メルカプト酢酸、チオリンゴ酸、ジチオスレイトール、グルタチオン(還元型)、システイン一塩酸塩、及び2−メルカプトエチルアミン若しくはその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜3のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項5]
成分(c)が、1-チオグリセリン、メルカプト酢酸、チオリンゴ酸、システイン一塩酸塩、及び2−メルカプトエチルアミン若しくはその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜4のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項6]
成分(c)が、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸である、項1〜5のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項7]
成分(d)が、pH0.7〜3.5の酸性緩衝液、または(i)で得られる標識反応液中の濃度が0.01〜3mol/Lの有機酸又は無機酸である、項1〜6のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項8]
成分(d)が、pH1.0〜2.5の酸性緩衝液である項7に記載のシアル酸を測定する方法。
[項9]
成分(d)が、pH1.7〜2.0の酸性緩衝液である項7に記載のシアル酸を測定する方法。
[項10]
成分(d)が、リン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、クエン酸緩衝液、アルギニン緩衝液、スレオニン緩衝液、及びセリン緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性緩衝液である、項1〜9のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項11]
成分(d)が、リン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、アルギニン緩衝液、スレオニン緩衝液、及びセリン緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性緩衝液である、項1〜9のいずれか1項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項12]
成分(d)が、リン酸緩衝液である、項11に記載のシアル酸を測定する方法。
[項13]
標識反応液中において、成分(a)が、0.1〜100 mmol/Lの1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩であり、成分(b)が、5〜50 mmol/Lの亜ジチオン酸塩であり、成分(c)が、0.2〜1.2 mol/Lの 1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸であり、成分(d)が、pH1.7〜2.0のリン酸緩衝液である、項1〜12のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項14]
成分(d)が、無機酸である、項1〜7のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項15]
成分(d)が、リン酸又は塩酸である、項14に記載のシアル酸を測定する方法。
[項16]
成分(d)が、有機酸である、項1〜7のいずれかに記載のシアル酸を測定する方法。
[項17]
成分(d)が、分子量200以下のカルボン酸(α-ケト酸を除く)であり、水に対する溶解度が0.3 mol/L以上である、項16に記載のシアル酸を測定する方法。
[項18]
成分(d)が、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸、トリフルオロ酸又は蟻酸である、項17に記載のシアル酸を測定する方法。
[項19]
成分(d)が、酢酸、クエン酸、グリコール酸又は乳酸である、項18に記載のシアル酸を測定する方法。
[項20]
標識反応液中において、成分(a)が、0.1〜100 mmol/Lの1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩であり、成分(b)が、5〜50 mmol/Lの亜ジチオン酸ナトリウムであり、成分(c)が、0.2〜1.2 mol/L の1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸であり、成分(d)が、0.5〜5 mol/Lの酢酸である、項1〜7、16〜19のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項21]
工程(i)の蛍光誘導体化を反応温度25〜70℃、反応時間0.5〜24時間の条件で行う、項1〜20のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項22]
工程(i)の蛍光誘導体化を反応温度40〜60℃、反応時間2〜8時間の条件で行う、項1〜21のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
[項23]
下記成分(a)〜(d):
(a)ジアミノベンゼン誘導体又はその塩、
(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、
(c)チオール基を有する有機化合物(ただし、分子中の炭素数が2の場合、水酸基で置換されていない)又はその塩、及び
(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸、
を含むことを特徴とするシアル酸を測定するためのキット。
[項24]
下記成分(a)〜(d):
(a)ジアミノベンゼン誘導体又はその塩、
(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、
(c)チオール基を有する有機化合物(ただし、分子中の炭素数が2の場合、水酸基で置換されていない)又はその塩、及び
(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸、
を含み、各々又はいずれかの2種以上が個々の容器に格納されている、シアル酸を測定するためのキット。
[項25]
成分(a)が、1, 2-ジアミノ-4, 5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩であり、成分(b)が、亜ジチオン酸塩であり、成分(c)が、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸であり、成分(d)が、リン酸緩衝液である、項23または24に記載のキット。
[項26]
項23〜25のいずれか一項に記載の、シアル酸を測定するためのキットを使用する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、安定性及び反応性を有し、毒性の低いシアル酸標識試薬を提供することができる。また、シアル酸標識試薬の組成中のpH調節剤として酸性緩衝液又は適切な有機酸もしくは無機酸を用いることにより蛍光誘導体の収率がシアル酸を含む試料の組成の影響を受けにくく、精度の良いシアル酸の定量が可能となったため、本発明の方法は、取り扱いが簡便で汎用性の高い分析方法であり、測定キットの形態で提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】シアル酸の蛍光誘導体量と反応混合物のpHとの関係について示した図である。
【図2】シアル酸の蛍光誘導体量とシアル酸標識試薬に添加した緩衝液のpHとの関係について示した図である。
【図3】シアル酸の蛍光誘導体量とシアル酸標識試薬中の亜ジチオン酸塩濃度及び1-チオグリセリン濃度との関係について示した図である。
【図4】シアル酸の蛍光誘導体量とシアル酸標識試薬中の亜ジチオン酸塩濃度及びメルカプト酢酸濃度との関係について示した図である。
【図5】シアル酸の蛍光誘導体量とシアル酸標識試薬中の亜ジチオン酸塩濃度及び1-チオグリセリン濃度との関係について示した図である。
【図6】シアル酸の蛍光誘導体量とシアル酸標識試薬中の亜ジチオン酸塩濃度及びメルカプト酢酸濃度との関係について示した図である。
【図7】シアル酸の蛍光誘導体量と反応時間との関係について示した図である。上から順に、A:先行技術(非特許文献3)に記載の試薬、B:チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリンを使用し、酢酸を使用したシアル酸標識試薬、C:チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリンを使用し、緩衝液を使用したシアル酸標識試薬、D:チオール基を有する有機化合物としてメルカプト酢酸を使用し、酢酸を使用したシアル酸標識試薬を用いて反応を行った結果である。
【図8】シアル酸量とシアル酸の蛍光誘導体量との関係について示した図である。上から順に、A:先行技術(非特許文献3)に記載の試薬、B:チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリンを使用し、緩衝液を使用したシアル酸標識試薬、C:チオール基を有する有機化合物としてメルカプト酢酸を使用し、酢酸を使用したシアル酸標識試薬を用いて反応を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の測定方法
本発明では、シアル酸を含む試料(本発明では「シアル酸液」と称する場合もある)中のシアル酸を、シアル酸標識試薬を用いて蛍光誘導体化し、当該蛍光誘導体を測定する。詳しくは、シアル酸を含む試料と、下記成分(a)〜(d):
(a)ジアミノベンゼン誘導体又はその塩、
(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、
(c)チオール基を有する有機化合物(ただし、分子中の炭素数が2の場合、水酸基で置換されていない)又はその塩、及び
(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸、
を含むシアル酸標識試薬を混合し、シアル酸を蛍光誘導体化し、得られる標識反応液中の蛍光誘導体を検出することでシアル酸を測定する方法を提供する。
【0014】
より詳しくは、遊離シアル酸を含む試料又はシアル酸をあらかじめ希酸または酵素処理により遊離させた試料、または、シアル酸を懸濁した試料を、1,2-ジアミノ-4,5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩(MDB)により蛍光誘導体化したシアル酸を蛍光検出器により検出する。当該方法によって生体由来試料(例えば細胞、組織、分泌液、体液など)若しくはバイオテクノロジーを応用して生産された試料(例えば細胞、培養液、これらから精製された試料など)に含まれるシアル酸を高感度に測定することができ、これら試料に含まれる糖たん白質、糖脂質の糖鎖へのシアル酸による修飾に関する知見を得ることができる。特に、エリスロポエチンや抗体等の糖たん白質医薬品の品質管理等に用いることが出来る。
【0015】
<シアル酸を含む試料>
本明細書において「シアル酸」と記載する時には、天然に存在するシアル酸でも、化学的、酵素学的或いは発酵学的手法等により調製されたシアル酸でも良く、その構造については既知及び未知は問わない。従って「シアル酸を含む試料」とは、生体由来試料(例えば細胞、組織、分泌液、体液など、又はこれらから精製された試料)若しくはバイオテクノロジーを応用して生産された試料(例えば細胞、培養液など、又はこれらから精製された試料など)又はこれらの試料からシアル酸を希酸若しくは酵素処理によりシアル酸を遊離させた試料や、化学合成、酵素合成、発酵等によって得られた構造既知の標品を含有する試料が挙げられる。
【0016】
<シアル酸標識試薬の調製>
本明細書において「シアル酸標識試薬」とは、上記シアル酸液と混合し(本明細書において、混合した液を、標識反応液という)、シアル酸液に含まれるシアル酸を標識する試薬を言い、溶液であっても懸濁液であってもよい。
構成要素としては、(a)ジアミノベンゼン誘導体またはその塩、(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、(c)チオール基を有する有機化合物及び(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸を含んでいれば、特に限定されない。
【0017】
<(a)ジアミノベンゼン誘導体またはその塩>
本明細書において「ジアミノベンゼン誘導体またはその塩」は、シアル酸と共有結合できる反応基と、シアル酸と反応することにより光を吸収あるいは蛍光を発する分子骨格とを有する物質であれば、特に限定されないが、本発明では、MDBを用いるのが望ましい。
標識反応液に含まれるMDBの濃度は、シアル酸を蛍光誘導体化できれば特に限定されないが、本発明で用いる濃度としては標識反応液中において0.1〜100mmol/Lが好ましく、より好ましくは0.5〜50 mmol/L、さらに好ましくは1〜10 mmol/Lである。
【0018】
<(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ>
本明細書において「亜ジチオン酸塩」は、硫黄のオキソ酸のひとつ、化学式 H2S2O4の亜ジチオン酸の塩であれば特に限定されない。塩には安定なものがあり、例えばナトリウム塩は市販品が入手可能である。本明細書において「イオウ」は結晶多形が存在し(例えば淡黄色斜方晶、淡黄色単斜晶、淡黄針状晶など)、特に形状は限定されないが、本願では、コロイド状に製した物、粉末状に製した物、又は結晶を乳鉢にて粉砕したものを使用するのが望ましい。
「亜ジチオン酸塩又はイオウ」は、(i)の反応を安定化するために用いられる。好ましくは、亜ジチオン酸ナトリウムが挙げられる。
シアル酸標識試薬中に含まれる「亜ジチオン酸塩」又は「イオウ」の濃度は、シアル酸標識試薬及び蛍光誘導体の酸化を防ぐことができれば特に限定されないが、本発明で用いる濃度としては、標識反応液中において1〜100 mmol/Lが好ましく、より好ましくは5〜50 mmol/L、さらに好ましくは7〜25 mmol/Lである。
【0019】
<(c)チオール基を有する有機化合物>
本明細書において「チオール基を有する有機化合物」は、水に対する溶解度が50 mmol/L以上であるチオール基を有する有機化合物である。ただし、本願においては、チオール基を有する有機化合物であって、さらに分子中の炭素数が2の場合、水酸基で置換されていないものであれば、特に限定されない。例えば、1-チオグリセリン、メルカプト酢酸、チオリンゴ酸、ジチオスレイトール、グルタチオン(還元型)、システイン一塩酸塩又は2-メルカプトエチルアミン若しくはその塩があるが、本願において好適に用いられる物質には、1−チオグリセリン、メルカプト酢酸、チオリンゴ酸、システイン一塩酸塩又は2−メルカプトエチルアミン若しくはその塩などが挙げられ、より好適に用いられる物質には、1−チオグリセリン及びメルカプト酢酸などが挙げられ、本発明においては、2-メルカプトエタノールに代わる適切な還元剤として利用することが出来る。
【0020】
シアル酸標識試薬中に含まれる「チオール基を有する有機化合物」の濃度は、還元剤として利用することが出来れば特に限定されないが、本発明で用いる濃度としては、標識反応液中において0.05〜5 mol/Lが好ましく、より好ましくは0.2〜1.2 mol/L、さらに好ましくは0.2〜0.6 mol/Lである。
【0021】
<(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸>
本明細書において「酸性緩衝液、有機酸又は無機酸」は、シアル酸の標識反応が進行するpHを維持する物質であれば特に限定されないが、酸性緩衝液としては、リン酸緩衝液、酒石酸、クエン酸、アルギニン、トリフルオロ酢酸、フタル酸等のカルボン酸(α-ケト酸を除く)を使用した緩衝液、スレオニン、セリン、アラニン、リシン、グリシルグリシン等のアミノ酸若しくはペプチドを使用した緩衝液、又はリン酸緩衝液などが挙げられる。
「有機酸」としては、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸、トリフルオロ酸、蟻酸等の分子量が200以下であり、水に対する溶解度が0.3 mol/L以上であるカルボン酸(α-ケト酸を除く)が挙げられる。
「無機酸」としては、塩酸又はリン酸などがそれぞれ挙げられる。
好ましくは、リン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリフルオロ酢酸緩衝液、フタル酸緩衝液、アルギニン緩衝液、スレオニン緩衝液、セリン緩衝液、グリシルグリシン緩衝液、酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸、トリフルオロ酸、又は蟻酸が挙げられ、より好ましくはリン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、アルギニン緩衝液、スレオニン緩衝液、セリン緩衝液、酢酸、クエン酸、グリコール酸、又は乳酸が挙げられる。さらに好ましくは、リン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、アルギニン緩衝液、スレオニン緩衝液、セリン緩衝液が挙げられ、最も好ましくは、リン酸緩衝液が挙げられる。
【0022】
酸性緩衝液を用いる場合のpHとして好ましい範囲はpH0.7〜3.5であり、より好ましい範囲はpH1.0〜2.5であり、さらに好ましい範囲は1.7〜2.0である。また、酸性緩衝液を用いる場合の濃度として好ましい範囲は、50 mmol/L以上であり、より好ましい範囲は、200 mmol/L〜1 mol/Lである。
酸を用いる場合の濃度として好ましい範囲は、酢酸の場合0.9〜3 mol/L、塩酸の場合0.1 mol/L以下、リン酸の場合0.75 mol/L以下であり、より好ましい範囲は、酢酸の場合1.5〜3 mol/L、塩酸の場合0.03〜0.05 mol/L、リン酸の場合0.04〜0.25 mol/Lである。
【0023】
<工程(i)の蛍光誘導体化>
本明細書において、「蛍光誘導体化」とは、成分(a)〜(d)を含むシアル酸標識試薬とシアル酸液を混合した標識反応液中で、シアル酸の蛍光誘導体を得る反応をいう。反応条件に関しては、特に限定されないが、本発明において至適な条件範囲は以下の通りである。反応温度及び反応時間は、25〜70℃及び0.5時間〜24時間が好ましく、より好ましくは40〜60℃及び2〜8時間であり、例えば、40℃において6〜8時間、50℃において4〜6時間、又は70℃において1〜4時間である。また、反応温度が70℃の場合は、0.5〜1時間など短時間が好ましく、反応温度が25℃の場合は、16〜24時間など長時間が好ましい。
【0024】
<シアル酸を測定するキット>
成分(a)〜(d)を含有して提供するもの又は成分(a)〜(c)を含有して提供するものであれば、他に含まれる構成成分や格納方法は特に限定されず、また、構成成分は各々又はいずれかの2種以上が個々の容器に格納されてもよいが、本発明で用いるキットの構成成分と格納方法は、成分(d)を提供する場合には、シアル酸標識試薬中の成分(b)と(d)を混在させないよう、それぞれ個々の容器に入れるのが望ましい。また、少なくとも成分(a)又は成分(a)を含む液は、遮光かつ冷所におくのが望ましく、冷凍保管することがより望ましい。例えば、以下のような組成が考えられるが、この組み合わせに限定されない。
・成分(a)と成分(b)と成分(c)を同一の容器に入れ、別容器に成分(d)を入れる。
・成分(a)と成分(b)を同一の容器に入れ、別容器に成分(c)と成分(d)を共に入れる。
・成分(a)と成分(d)を同一の容器に入れ、別容器に成分(b)と成分(c)を共に入れる。
・成分(a)、成分(c)、成分(d)を同一の容器に入れ、別容器に成分(b)を入れる。
・成分(a)、成分(b)、成分(c)、成分(d)を個々の別容器に入れる。
・成分(a)と成分(b)と成分(c)を同一の容器に入れ、成分(d)の成分を使用者が準備するよう使用説明書にて指示する。
・成分(a)と成分(b)を同一の容器に入れ、別容器に成分(c)を入れ、成分(d)の成分を使用者が準備するよう使用説明書にて指示する。
・成分(a)と成分(c)を同一の容器に入れ、別容器に成分(b)を入れ、成分(d)の成分を使用者が準備するよう使用説明書にて指示する。
・成分(a)、成分(b)、成分(c)を個々の別容器に入れ、成分(d)の成分を使用者が準備するよう使用説明書にて指示する。
【0025】
キットには、構造及び濃度既知のシアル酸を含む適量の標準溶液を同梱してもよい。
【0026】
各成分(a)〜(d)又はその混合物を保管する容器は、保管する成分が漏出しないものであれば特に限定されないが、密栓のできる樹脂容器又はガラス容器が望ましく、密栓のできるポリプロピレン、ポリエチレン容器、又はガラス容器がさらに望ましい。また、成分(a)を含む溶液及び成分(c)を含む溶液を保管する容器については、密栓できるガラス容器が好ましく、遮光性の密栓できるガラス容器がより好ましい。また、成分(a)〜(d)の各成分又はその混合物を入れた容器を梱包する包装材料は、容器が破損することなく使用者に提供できるものであれば特に限定されないが、容器を安定に保持することができる緩衝材を内包した箱又は容器を安定に保持することができる構造の箱であることが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下実施例において本発明の詳細を具体的に説明するが、当該実施例によって本発明の範囲が実施例の範囲に限定されることはない。
【0028】
実施例1 チオール基を有する有機化合物の検討
チオール基を持つアルコール類の代表として1-チオグリセリン及びジチオスレイトールを、カルボン酸類の代表としてメルカプト酢酸及びチオリンゴ酸を、アミノ酸類の代表としてシステイン塩酸塩及びグルタチオン(還元型)を、アミン類の代表として2-メルカプトアミン塩酸縁及び酢酸塩をそれぞれ選択し、検討を行った。
【0029】
N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)及び2-ケト-3-デオキシ-D-グリセロ-D-ガラクト-ノノン酸(KDN)をそれぞれ10 mmol/Lの濃度で含む2 mol/L酢酸溶液を調製し、シアル酸液とした。KDNはシアル酸ではないが、先行技術(非特許文献4)において内標準物質として使用されている例があることから、蛍光誘導体化の検討に使用した。
亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/L、酢酸を1.4 mol/L、MDBを7 mmol/L、チオール基を有する有機化合物を0.3〜0.75 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を調製した(表1)。
【0030】
シアル酸液50 μLをとり、シアル酸標識試薬200 μLを加えて、60℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、3 μLを液体クロマトグラフィーに注入し、下記の条件にて分析を行った。
送液ポンプ:LC−10ADVP
注入装置:SIL−10AVP
カラムオーブン:CTO−10AVP
蛍光検出器:RF−10AXL(励起波長:373 nm、測定波長:448 nm)
システムコントローラー:SCL−10AVP
ワークステーション:Class VP
カラム:TSK-gel 80TS-QA(粒径5 μm、内径4.6 mm、長さ25 cm)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:水
移動相B:水/アセトニトリル/メタノール(9:9:7)
移動相の送液:%B = 20% のイソクラティック条件
流量:毎分1 mL
面積測定範囲:試料注入後25分
【0031】
2-メルカプトエタノールを0.75 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を調製し、それを用いて反応を行ったときに得られたNeuAc誘導体、NeuGc誘導体及びKDN誘導体のピーク面積をそれぞれ1としたときの相対ピーク面積を求めた。また、NueGc誘導体のピークとNeuAc誘導体のピークの間に溶出されるシアル酸の分解物由来であると推定されるピークについて、NeuGc誘導体に対するピーク面積比を求めた。
【0032】
【表1】

*:先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬より得られた蛍光誘導体のピーク面積を1としたときの相対ピーク面積
**:NeuGcに対するピーク面積比で示した
***:検出されなかった
【0033】
表1に示したとおり、いずれのチオール基を有する有機化合物を使用したシアル酸標識試薬においても、シアル酸の蛍光誘導体を得ることができた。ジチオスレイトールあるいはグルタチオン(還元型)のような還元力の強いチオール化合物に比べ、1−チオグリセリン、メルカプト酢酸、又はチオリンゴ酸のような還元力の弱いチオール化合物においてより大きい相対ピーク面積が得られたことから、これらのチオール化合物がより好ましいと考えられた。さらに、1−チオグリセリン及びメルカプト酢酸において最も大きい相対ピーク面積が得られたことから、これらの化合物が最も好ましいと考えられた。これらの結果から、システイン及び2−メルカプトエチルアミンについては、シアル酸標識試薬のpHを好ましい範囲に保つことができれば、好ましい結果が得られるものと考えられた。
【0034】
実施例2 亜ジチオン酸塩の作用機序の検討
亜ジチオン酸塩は、酸性条件化において速やかに分解し、イオウを生成し、還元剤としては作用しないことが知られている。しかし、亜ジチオン酸塩を添加しないシアル酸標識試薬では、シアル酸の分解によると考えられるピークが認められることから、亜ジチオン酸塩が他の成分及び誘導体の酸化防止に何らかの役割を担っているものと考えられる。一方、その臭いからシアル酸標識試液中で硫化水素が生成していることが確認できる。この硫化水素は、イオウとチオール基を有する有機化合物との反応により生成すると考えられ、シアル酸標識試薬において酸化防止剤として最も重要な成分ではないかと思われる。以上のことから、亜ジチオン酸塩、イオウ及び硫化水素について以下の検討を行った。
【0035】
亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/L又は硫化ナトリウムを18 mmol/L又はよく磨り潰した結晶イオウを約25 mmol/Lに相当する量、1-チオグリセリンを0.75 mol/L、MDBを7 mmol/L、酢酸を1.4 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を調製した。実施例1で示したシアル酸液50 μLをとり、シアル酸標識試薬200 μLを加えて、60℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、実施例1と同様の方法で分析を行った。ただし、亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/Lで含むシアル酸標識試薬を用いたときのNeuAc誘導体、NeuGc誘導体及びKDN誘導体のピーク面積をそれぞれ1としたときの相対ピーク面積を求めた。
【0036】
【表2】

*:亜ジチオン酸塩を使用したシアル酸標識試薬より得られた蛍光誘導体のピーク面積を1としたときの相対ピーク面積
**:NeuGcに対するピーク面積比で示した
***:検出されなかった
****:硫化ナトリウムを発生源として使用した
【0037】
表2に示したとおり、イオウを含むシアル酸標識試薬を用いた時の蛍光誘導体の収量は、亜ジチオン酸塩を含むシアル酸標識試薬のそれと同程度であった。イオウを含むシアル酸標識試薬では、シアル酸の分解によると思われるピークが検出されたが、イオウの粒子が大きく、表面積が小さかったためではないかと思われた。このことから、シアル酸標識試薬において、亜ジチオン酸ナトリウムはイオウの発生源であり、適量のイオウを添加することによっても代替が可能であると考えられた。
【0038】
一方、硫化ナトリウムを含むシアル酸標識試薬を用いた時の蛍光誘導体の収量は、亜ジチオン酸塩を含むシアル酸標識試薬を用いた時の蛍光誘導体の収量の半分程度であり、標識反応液の着色も認められ、シアル酸標識試薬及びシアル酸の蛍光誘導体の酸化を十分に防ぐことができないことが示された。これは、シアル酸標識試薬に添加した硫化ナトリウムから生成した硫化水素が、溶液が酸性であるために速やかに標識反応液から放出されたためであると考えられた。このことから、MDB及びシアル酸の蛍光誘導体の酸化の防止には、硫化水素が反応系内に持続的に存在することが重要であることが示唆された。
【0039】
実施例3 シアル酸標識試薬に添加する酸の検討
実施例1において、シアル酸標識試薬のpHが蛍光誘導体の収量に影響を及ぼす可能性が示唆されたことから、チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリン及び2-メルカプトエタノールを使用し、シアル酸標識試薬に添加する酸と蛍光誘導体の収量の関係について検討した。
【0040】
亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/L、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸を0.75 mol/L、MDBを7 mmol/L、酢酸を0〜3 mol/L又はリン酸を0.05 mol/L〜0.9 mol/L又は塩酸を0.06 mol/L〜0.3 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を調製した(表3及び4)。実施例1で示したシアル酸液50 μLをとり、シアル酸標識試薬200 μLを加えて、60℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、実施例1と同様の方法で分析を行うとともに、反応開始時の標識反応液のpHの測定を行った。
【0041】
【表3】

*:先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬より得られた蛍光誘導体のピーク面積を1としたときの相対ピーク面積
**:NeuGcに対するピーク面積比で示した
***:検出されなかった
【0042】
表3に示したとおり、1-チオグリセリンを使用したシアル酸標識試薬では、すべての条件において、シアル酸の蛍光誘導体を得ることができた。0.7〜3 mol/Lの酢酸、0.12 mol/L以下の濃度の塩酸、0.9 mol/L以下の濃度のリン酸を含むシアル酸標識試薬では、酸を添加しないシアル酸標識試薬あるいは0.3又は0.9 mol/Lの塩酸を含むシアル酸標識試薬に比べて大きい相対ピーク面積が得られたことから、好ましいと考えられ、酢酸を1.4 mol/Lから3 mol/Lまたは塩酸を0.06 mol/L又はリン酸を0.05 mol/Lから0.3 mol/Lで含むシアル酸標識試薬では、より大きい相対ピーク面積が得られたことから、より好ましいと考えられた。酢酸は、塩酸及びリン酸に比べて高濃度で添加することができることから、塩酸及びリン酸に比べて試料の組成の影響を受けにくいと考えられ、最も好ましいと考えられた。
【0043】
【表4】

*:先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬より得られた蛍光誘導体のピーク面積を1としたときの相対ピーク面積
**:NeuGcに対するピーク面積比で示した
***:検出されなかった
【0044】
表4に示したとおり、メルカプト酢酸を使用したシアル酸標識試薬では、すべての条件においてシアル酸の蛍光誘導体を得ることができた。酸を添加しないもの、0.7〜3 mol/L酢酸、0.12 mol/L以下の濃度の塩酸、0.9 mol/L以下の濃度のリン酸を含むシアル酸標識試薬では、塩酸を0.3 mol/Lで含むシアル酸標識試薬に比べて大きい相対ピーク面積が得られたことから、好ましいと考えられ、酸を添加しないもの、0.7〜3 mol/L酢酸、0.06 mol/Lの塩酸、0.05 mol/Lから0.3 mol/Lリン酸を含むシアル酸標識試薬では、より大きい相対ピーク面積が得られたことから、より好ましいと考えられた。酢酸は、塩酸及びリン酸に比べて高濃度で添加することができることから、酸を添加しないもの、塩酸及びリン酸を添加したものに比べて試料の組成の影響を受けにくいと考えられ、最も好ましいと考えられた。
【0045】
また、表3及び4並びに図1に示したとおり、相対ピーク面積の大きさは、標識反応液のpHの影響を受けることが示された。
【0046】
実施例4 シアル酸標識試薬のpHの検討
実施例3において、標識反応液のpHが相対ピーク面積の大きさに影響を及ぼすことが示されたことから、チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリンを使用し、シアル酸標識試薬のpHと蛍光誘導体の収量の関係について検討した。
【0047】
亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/L、1-チオグリセリンを0.75 mol/L、MDBを7 mmol/Lで含み、緩衝液によりpHを0.7〜3.5に調整したシアル酸標識試薬を調製した。実施例1で示したシアル酸液50 μLをとり、シアル酸標識試薬200 μLを加えて、50℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、実施例1と同様の方法で分析を行った。ただし、酢酸を1.4 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を用いたときのNeuAc誘導体、NeuGc誘導体及びKDN誘導体のピーク面積をそれぞれ1としたときの相対ピーク面積を求めた。
【0048】
【表5】

*:1.4 mol/L酢酸を添加したシアル酸標識試薬より得られた蛍光誘導体のピーク面積を1としたときの相対ピーク面積
**:NeuGcに対するピーク面積比で示した
***:検出されなかった
【0049】
表5及び図2に示したとおり、いずれのpHにおいてもシアル酸の蛍光誘導体が得られたが、蛍光誘導体の収量は、シアル酸標識試薬のpHに依存し、極大をもつことが示された。シアル酸とMDBから蛍光誘導体が生成する反応は、シアル酸のカルボキシル基が非乖離の状態で進行すると考えられる。一方、pHの低下により、シアル酸の分解が促進される。これらのことから、蛍光誘導体の収量が極大を示すpH範囲が存在するものと考えられた。このことから、シアル酸標識試薬のpHは、pH 0.7から3.0が好ましく、pH 1.0から2.5がより好ましく、pH 1.7から2.0の間がさらにより好ましいと考えられた。
【0050】
実施例5 シアル酸標識試薬に添加する緩衝液系の検討
チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリンを使用し、シアル酸標識試薬中に添加する緩衝液系と蛍光誘導体の収量の関係について検討した。亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/L、1-チオグリセリンを0.75 mol/L、MDBを7 mmol/L、各種緩衝液を0.8 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を調製した。
【0051】
実施例1で示したシアル酸液50 μLをとり、シアル酸標識試薬200 μLを加えて、50℃で4.4時間又は4時間加熱し、室温まで放冷した後、実施例1と同様の方法で分析を行った。ただし、酢酸を1.4 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を用いたときのNeuAc誘導体、NeuGc誘導体及びKDN誘導体のピーク面積をそれぞれ1としたときの相対ピーク面積を求めた。
【0052】
【表6】

*:1.4 mol/L酢酸を添加したシアル酸標識試薬より得られた蛍光誘導体のピーク面積を1としたときの相対ピーク面積
**:NeuGcに対するピーク面積比で示した
***:検出されなかった
【0053】
表6に示したとおり、α-ケト酸であるピルビン酸を使用した緩衝液では、ピルビン酸がMDBと反応するためにシアル酸を定量することが出来ないことが示された。また、α-ケト酸と同一の部分構造を持つシュウ酸を使用した緩衝液では、競合反応により蛍光誘導体の収量が低くなることが示唆された。さらに、クロロ酢酸では分解物のピークが認められたことから、反応性の高い酸を使用することも適切ではないと考えられた。その他の緩衝液系では、良好な結果が得られた。以上の結果から、反応を阻害する要因がない緩衝液であれば、使用可能であると考えられた。
【0054】
実施例6 亜ジチオン酸塩濃度及び還元剤濃度の検討
チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリンを使用し、シアル酸標識試薬中の亜ジチオン酸塩濃度及び還元剤濃度と蛍光誘導体の収量の関係について検討した。
【0055】
亜ジチオン酸ナトリウムを0〜200 mmol/L、1-チオグリセリンを0.75〜6 mol/L、MDBを7 mmol/L、酢酸を1.4 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を調製した。実施例1で示したシアル酸液50 μLをとり、シアル酸標識試薬200 μLを加えて、60℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、実施例1と同様の方法で分析を行った。
【0056】
【表7】

*:先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬より得られた蛍光誘導体のピーク面積を1としたときの相対ピーク面積
**:NeuGcに対するピーク面積比で示した
***:検出されなかった
【0057】
表7に示したとおり、いずれの条件においてもシアル酸の蛍光誘導体が得られ、蛍光誘導体の収量は極大をもつことが示された。
【0058】
実施例7 亜ジチオン酸塩濃度及び還元剤濃度の至適化検討(酸添加系)
チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリン及び2-メルカプトエタノールを使用し、酢酸を使用したシアル酸標識試薬中の亜ジチオン酸塩濃度及び還元剤濃度の至適化を行った。
【0059】
亜ジチオン酸ナトリウムを12、18又は27 mmol/L、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸を0.25、0.5、0.75又は1 mol/L、MDBを7 mmol/Lを含み、また、酢酸を、1-チオグリセリンを用いる場合には3 mol/L、メルカプト酢酸を用いる場合には0.7 mol/L含む、シアル酸標識試薬を調製した。実施例1で示したシアル酸液を50 μLとり、シアル酸標識試薬200 μLを加えて、60℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、実施例1と同様の方法で分析を行った。ただし、亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/L、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸を0.75 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を用いたときのNeuAc誘導体、NeuGc誘導体及びKDN誘導体のピーク面積をそれぞれ1としたときの相対ピーク面積を求めた。図3及び4に示したとおり、いずれの条件においても良好な結果が得られたが、亜ジチオン酸塩は12〜27 mmol/L、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸は0.25〜0.75 mol/Lの濃度範囲が最も好ましいと考えられた。
【0060】
実施例8 亜ジチオン酸塩濃度及びチオール基を有する有機化合物濃度の至適化検討(緩衝液添加系)
チオール基を有する有機化合物として1-チオグリセリン及び2-メルカプトエタノールを使用し、緩衝液を使用したシアル酸標識試薬中の亜ジチオン酸塩濃度及びチオール基を有する有機化合物濃度の至適化を行った。亜ジチオン酸ナトリウムを9、12、18又は27 mmol/L、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸を0.25、0.5、0.75 mol/L、MDBを7 mmol/L、pH1.8のリン酸−ナトリウム緩衝液を0.8 mol/Lで含むシアル酸標識試薬を調製した。
【0061】
実施例1で示したシアル酸液を50 μLとり、シアル酸標識試薬を200 μL加えて、50℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、実施例1と同様の方法で分析を行った。ただし、亜ジチオン酸ナトリウムを18 mmol/L、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸を0.75 mol/L含むシアル酸標識試薬を用いたときのNeuAc誘導体、NeuGc誘導体及びKDN誘導体のピーク面積をそれぞれ1としたときの相対ピーク面積を求めた。図5及び6に示したとおり、いずれの条件においても良好な結果が得られたことから、亜ジチオン酸塩は9〜27 mmol/L、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸は0.25〜0.75 mol/Lの濃度範囲が最も好ましいと考えられた。
【0062】
実施例9 反応温度及び反応時間の検討
亜ジチオン酸ナトリウムを12 mmol/L、1-チオグリセリンを0.75 mol/L又はメルカプト酢酸を0.25 mol/L、MDBを7 mmol/L含み、また、1-チオグリセリンを用いる場合には酢酸を3 mol/L又はpH 1.8のリン酸−ナトリウム緩衝液を0.8 mol/Lを、メルカプト酢酸を用いる場合には酢酸を0.7 mol/L含むシアル酸標識試薬を調製した。
【0063】
実施例1で示したシアル酸液を50 μLとり、シアル酸標識試薬を200 μL加えて、40℃で1、2、4、6及び8時間、50、60及び70℃で1、2、4及び6時間反応させ、-65℃以下で保存した。3 μLを液体クロマトグラフィーに注入し、実施例1で示した条件にて分析を行い、先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬を用いて同様に反応を行った結果と比較した。図7に示したとおり、1−チオグリセリン及びメルカプト酢酸を用いたシアル酸標識試薬は、先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬と同様の時間−反応曲線が得られた。1−チオグリセリン及び緩衝液を含むシアル酸標識試薬及びメルカプト酢酸を含むシアル酸標識試薬は、先行技術に比べて反応の進行が早い傾向が認められた。
【0064】
実施例10 定量可能な濃度範囲の検討
亜ジチオン酸ナトリウムを12 mmol/L、1-チオグリセリンを0.75 mol/L又はメルカプト酢酸を0.25 mol/L、MDBを7 mmol/L含み、また、1-チオグリセリンを用いる場合にはpH 1.8のリン酸−ナトリウム緩衝液を0.8 mol/L、メルカプト酢酸を用いる場合には酢酸を0.7 mol/L含むシアル酸標識試薬を調製した。
【0065】
N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)及びN-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)をそれぞれ10 mmol/Lの濃度で含む2 mol/L酢酸溶液を調製し、この液を2 mol/L酢酸で希釈して10 nmol/Lから10 mmol/Lとなるように、シアル酸液を調製した。これらのシアル酸液を50 μLとり、シアル酸標識試薬を200 μL加えて、50℃で4時間加熱し、室温まで放冷した後、3 μLを液体クロマトグラフィーに注入し、実施例1で示した条件にて分析を行い、N-アセチルノイラミン酸及びN-グリコリルノイラミン酸の蛍光誘導体のピーク面積を求めた。先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬についても、同様に分析を行った。
【0066】
図8に示したとおり、1−チオグリセリン及びメルカプト酢酸を用いたシアル酸標識試薬は、先行技術(非特許文献3)に記載のシアル酸標識試薬と同様に、10 nmol/Lから10 mmol/Lの範囲でよい直線性を示し、少なくともこの濃度範囲で定量が可能であることが示された。
【0067】
実施例11 シアル酸を測定するキットの作成例(1)
亜ジチオン酸ナトリウムを72 mmol/L、1-チオグリセリンを3 mol/L、MDBを28 mmol/L含む溶液を調製し、2.2 mLを5 mL容のガラスバイアルに充填し、A液とする。pH 1.8の1 mol/Lリン酸−ナトリウム緩衝液を調製し、約20 mLを25 mL容の樹脂ボトルに充填し、B液とする。N-アセチルノイラミン酸とN-グリコリルノイラミン酸をそれぞれ2 mmol/L含む溶液を調製し、0.1 mLを0.5 mL容のマイクロテストチューブに充填し、標準溶液とする。A液2本、B液1本、標準溶液2本を紙製の保持材で保持し、取扱説明書及び化学物質安全性データシートと共に紙箱に詰め、シュリンクパックで包装して、100回分の測定が可能なシアル酸を測定するキットを作成する。
【0068】
実施例12 シアル酸を測定するキットの作成例(2)
亜ジチオン酸ナトリウムを72 mmol/L、メルカプト酢酸を1 mol/L、MDBを28 mmol/L含む溶液を調製し、0.6 mLを1 mL容のガラスバイアルに充填し、A液とする。pH 1.8の1 mol/Lリン酸−ナトリウム緩衝液を調製し、約20 mLを25 mL容の樹脂ボトルに充填し、B液とする。N-アセチルノイラミン酸とN-グリコリルノイラミン酸をそれぞれ2 mmol/L含む溶液を調製し、0.1 mLを0.5 mL容のマイクロテストチューブに充填し、標準溶液液とする。A液4本、B液1本、標準溶液4本を紙製の保持材で保持し、取扱説明書及び化学物質安全性データシートと共に樹脂製の箱に詰め、100回分の測定が可能なシアル酸を測定するキットを作成する。
【0069】
実施例13 シアル酸を測定するキットの作成例(3)
亜ジチオン酸ナトリウムを72 mmol/L、1-チオグリセリンを3 mol/L、MDBを28 mmol/L含む溶液を調製し、0.6 mLを1 mL容のガラスバイアルに充填し、A液とする。N-アセチルノイラミン酸とN-グリコリルノイラミン酸をそれぞれ2 mmol/L含む溶液を調製し、0.1 mLを0.5 mL容のマイクロテストチューブに充填し、標準溶液とする。A液2本、標準溶液2本をウレタンスポンジ製の保持材で保持し、取扱説明書及び化学物質安全性データシートと共に紙箱に詰め、粘着テープにより封印して、100回分の測定が可能なシアル酸を測定するキットを作成する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は安定性及び反応性を有し、毒性の低いシアル酸標識試薬を提供することができ、蛍光誘導体の収率がシアル酸を含む試料の組成の影響を受けにくく、精度の良いシアル酸測定に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(i)及び(ii)を含む、シアル酸を測定する方法:
工程(i)シアル酸液と、下記成分(a)〜(d)、
(a)ジアミノベンゼン誘導体又はその塩、
(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、
(c)チオール基を有する有機化合物(ただし、分子中の炭素数が2の場合、水酸基で置換されていない)又はその塩、及び
(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸、
を混合し、シアル酸を蛍光誘導体化し、標識反応液を得る工程、及び
工程(ii)(i)で得られる標識反応液中の蛍光誘導体を検出する工程。
【請求項2】
工程(ii)が、工程(i)で得られる標識反応液から液体クロマトグラフィーにより蛍光誘導体を分離後、該蛍光誘導体を蛍光光度計を用いて測定する工程である、請求項1に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項3】
成分(a)が、1, 2-ジアミノ-4, 5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩である、請求項1または2に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項4】
成分(c)が、1-チオグリセリン、メルカプト酢酸、チオリンゴ酸、ジチオスレイトール、グルタチオン(還元型)、システイン一塩酸塩、及び2−メルカプトエチルアミン若しくはその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項5】
成分(c)が、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項6】
成分(d)が、pH0.7〜3.5の酸性緩衝液、または(i)で得られる標識反応液中の濃度が0.01〜3mol/Lの有機酸又は無機酸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項7】
成分(d)が、リン酸緩衝液、酒石酸緩衝液、クエン酸緩衝液、アルギニン緩衝液、スレオニン緩衝液、及びセリン緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性緩衝液である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項8】
成分(d)が、リン酸緩衝液である、請求項7に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項9】
標識反応液中において、成分(a)が、0.1〜100 mmol/Lの1, 2-ジアミノ-4, 5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩であり、成分(b)が、5〜50 mmol/Lの亜ジチオン酸塩であり、成分(c)が、0.2〜1.2 mol/Lの 1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸であり、成分(d)が、pH1.7〜2.0のリン酸緩衝液である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項10】
成分(d)が、リン酸又は塩酸である、請求項6に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項11】
成分(d)が、分子量200以下のカルボン酸(α-ケト酸を除く)であり、水に対する溶解度が0.3 mol/L以上である、請求項6に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項12】
成分(d)が、酢酸、クエン酸、グリコール酸又は乳酸である、請求項11に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項13】
標識反応液中において、成分(a)が、0.1〜100 mmol/Lの1, 2-ジアミノ-4, 5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩であり、成分(b)が、5〜50 mmol/Lの亜ジチオン酸ナトリウムであり、成分(c)が、0.2〜1.2 mol/L の1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸であり、(d)が、0.5〜5 mol/Lの酢酸である、請求項1〜6、11、12のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項14】
工程(i)の蛍光誘導体化を反応温度25〜70℃、反応時間0.5〜24時間の条件で行う、請求項1〜13のいずれか一項に記載のシアル酸を測定する方法。
【請求項15】
下記成分(a)〜(d):
(a)ジアミノベンゼン誘導体又はその塩、
(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、
(c)チオール基を有する有機化合物(ただし、分子中の炭素数がちょうど2の場合、水酸基で置換されていない)又はその塩、及び
(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸、
を含むことを特徴とするシアル酸を測定するためのキット。
【請求項16】
下記成分(a)〜(d):
(a)ジアミノベンゼン誘導体又はその塩、
(b)亜ジチオン酸塩又はイオウ、
(c)チオール基を有する有機化合物(ただし、分子中の炭素数がちょうど2の場合、水酸基で置換されていない)又はその塩、及び
(d)酸性緩衝液、有機酸又は無機酸、
を含み、各々又はいずれかの2種以上が個々の容器に格納されている、シアル酸を測定するためのキット。
【請求項17】
成分(a)が、1, 2-ジアミノ-4, 5-メチレンジオキシベンゼン又はその塩であり、成分(b)が、亜ジチオン酸塩であり、成分(c)が、1-チオグリセリン又はメルカプト酢酸であり、成分(d)が、リン酸緩衝液である、請求項15または16に記載のキット。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか一項に記載のシアル酸を測定するためのキットを使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−122974(P2012−122974A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276296(P2010−276296)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】