説明

シアル酸含有3糖化合物、それを用いるサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の検出

【課題】サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質を検出することが可能な糖化合物およびそれを用いるセンサーチップ、検出方法の提供。
【解決手段】シアル酸含有3糖化合物は、下記一般式(1)で表される。


〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;RおよびRのいずれか一方はシアル酸残基を示し;Yは、−SHまたはジスルフィド基を有する基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアル酸含有3糖化合物、それを用いるサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の検出用センサーチップ、検出用微粒子または吸着材、除染剤およびサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型肺炎(SARS(サーズ);Severe Acute Respiratory Syndrome)は、2003年に中国、台湾、カナダで流行した。この感染症は、SARSコロナウイルス(SARS−CoV)によるもので、死亡率は10%以上に達する。SARS−CoVの表面には、スパイクタンパク質とよばれるタンパク質が多数存在しており、このスパイクタンパク質がホスト細胞上の特定のレセプターと結合して感染が始まると考えられている。このウイルスは、発見後歴史が新しく、ヒトSARSウイルスのレセプターに関しても現段階では不明な点が多い。
【0003】
これまで、サーズウイルスの検出には、遺伝子診断法(RT−PCR法:非特許文献1)、抗体法(非特許文献2)などが知られている。しかしながら、遺伝子診断法はウイルス以外による汚染の危険性があり、ウイルスの存在を推測する程度に過ぎない。抗体法は、抗体の安定性の問題から2〜8℃といった低温下で抗体を保存する必要があり、温度管理の手間などがあり煩雑な方法であった。このため、精度の高い、簡便なサーズウイルスの検出方法が望まれていた。
【0004】
一方、バイオテクノロジー、生化学研究、臨床検査、食品検査などの分野においては、ウイルスなどに存在する糖結合性蛋白質を高感度に検出・定量する方法が提案されている(特許文献1)。
しかし、これまで、サーズウイルスがレセプターとなる糖鎖構造は解明されておらず、糖鎖を利用するサーズウイルスの検出、吸着方法の報告もない。
【0005】
【特許文献1】米国特許第3231733号
【非特許文献1】Journal of Virological Methods, vol. 122, pp. 29-36 (2004).
【非特許文献2】Clinical Immunology, vol. 113, pp. 145-150 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質を検出することが可能な新規な糖化合物を提供することを課題とする。
【0007】
さらに本発明は、高感度で簡便かつ迅速にサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質を検出できるバイオセンサーチップ、検出用試薬、検出用微粒子、吸着材、徐染剤およびサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記課題に鑑み、本願発明者らが合成した糖鎖について、サーズウイルスとの結合可能な糖鎖について研究した。具体的には、サーズウイルス表面に存在するスパイク蛋白質と呼ばれるタンパク質と結合しうる糖鎖について鋭意研究し、特定の糖鎖構造が、極めて効果的にサーズウイルスのスパイク蛋白質と結合することを初めて見出した。この糖鎖構造を有する化合物を用いることにより、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の迅速な検出、吸着材などを提供することができることを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
すなわち本件発明は以下を含む。
〔1〕 下記一般式(1):
【化12】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化13】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
およびXは、それぞれ独立に、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−(nが2〜20)で表されるアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示し;
Yは、−SHまたはジスルフィド基を有する基を示す。〕で表される、シアル酸含有3糖化合物。
〔2〕 前記Rが前記式(2)で表されるシアル酸残基であり、前記RがHである、〔1〕に記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔3〕 前記RがHであり、前記Rが前記式(2)で表されるシアル酸残基である、〔1〕に記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔4〕 前記Xが芳香族置換基であり、Xが直鎖もしくは分岐した炭素原子数2〜20のアルキル基である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔5〕 前記Xが、下記式(3)
【化14】

で表される2価の基である、〔4〕に記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔6〕 前記Xが、-CnH2n- (n = 2-6)である、〔4〕または〔5〕に記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔7〕 Yが、ジスルフィド基である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔8〕 下記式(4)
【化15】

〔式中、Rは、−NHAcまたは−OHであり、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩を示す〕で表される、〔1〕に記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔9〕 下記式(5)
【化16】

〔式中、Rは、−NHAcまたは−OHであり、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩を示す〕で表される、〔1〕に記載のシアル酸含有3糖化合物。
〔10〕 下記一般式(6)
【化17】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化18】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
は、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC2〜10アルケニル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基を意味し、前記置換基は下記A群から選ばれるいずれかの基である:
A群:
ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基;
−NH(C=O)X2Y(式中、X2は、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−で表されるアルキレン基、または下記B群から選ばれる置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示す。);
−NH−CH2−Cn2n−Y;
−O−C(=O)−Cn2n−Y;
−O−CH2−Cn2n−Y;
(A群中、nは2〜20の整数を示し、Yはチオール基またはジスルフィド基を有する基を示す。)
B群:ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基、ニトロ基〕で表されるシアル酸含有3糖化合物が、金属基板表面に固定されている、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用センサーチップ。
〔11〕 下記一般式(6)
【化19】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化20】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
は、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC2〜10アルケニル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基を意味し、前記置換基は下記A群から選ばれるいずれかの基である:
A群:
ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基;
−NH(C=O)X2Y(式中、X2は、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−で表されるアルキレン基、または下記B群から選ばれる置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示す。);
−NH−CH2−Cn2n−Y;
−O−C(=O)−Cn2n−Y;
−O−CH2−Cn2n−Y;
(A群中、nは2〜20の整数を示し、Yはチオール基またはジスルフィド基を有する基を示す。)
B群:ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基、ニトロ基〕で表されるシアル酸含有3糖化合物が、金属微粒子表面に固定されている、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子。
〔12〕 〔11〕に記載の前記微粒子が、溶液中にコロイドで存在している、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用試薬。
〔13〕 下記の工程からなる、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出方法:
(1)試験体を、〔10〕に記載のセンサーチップの基板表面に接触させる工程、
(2)基板に結合したサーズウイルスのスパイク蛋白質またはサーズウイルスを検出する工程。
〔14〕 下記の工程からなる、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出方法:
(1)試験体を、〔12〕に記載の試薬に添加して、〔11〕に記載の前記微粒子と接触させる工程、
(2)前記微粒子に結合したサーズウイルスのスパイク蛋白質またはサーズウイルスを検出する工程。
〔15〕 下記一般式(6)
【化21】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化22】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
は、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC2〜10アルケニル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基を意味し、前記置換基は下記A群から選ばれるいずれかの基である:
A群:
ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基;
−NH(C=O)X2Y(式中、X2は、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−で表されるアルキレン基、または下記B群から選ばれる置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示す。);
−NH−CH2−Cn2n−Y;
−O−C(=O)−Cn2n−Y;
−O−CH2−Cn2n−Y;
(A群中、nは2〜20の整数を示し、Yはチオール基またはジスルフィド基を有する基を示す。)
B群:ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基、ニトロ基〕で表されるシアル酸含有3糖化合物を含有する、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質吸着材。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、シアル酸含有3糖化合物、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用センサーチップ、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出試薬、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出方法、吸着材について具体的に説明する。
【0011】
<シアル酸含有3糖化合物>
本発明に係るサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の検出、吸着に用いることのできる好ましいシアル酸含有3糖化合物は、下記一般式(6)で表される。
【化23】

【0012】
式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示す。これらのうちでは、−NHCOCHが好ましい。−NHCOCHの場合、−OHよりサーズウイルスとの結合、より具体的にはサーズウイルス表面に存在するスパイクタンパク質との結合が強い。
【0013】
本明細書において、「スパイク蛋白質」とは、コロナウイルスに特徴的なタンパク質で、このスパイク蛋白質はサーズウイルス(サーズウイルスは、コロナウイルスに属する)の膜表面に存在する突起状の蛋白質である。これは、S1サブユニットとS2サブユニットから構成される(Clinical Immunology, 113, 145-150 (2004))。また、ホスト細胞に感染する(結合する)ために必要な蛋白質である(感染機構の詳細は、Trends in Microbiology, 12, 466-472 (2004)に掲載されている。)。なお、これまでホスト細胞上の糖鎖に結合するという事実はない。
【0014】
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化24】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示す。
【0015】
前記式(6)中、シアル酸残基が導入された3糖部分が、サーズウイルスのスパイクタンパク質と特異的に結合する。
【0016】
前記−CO2Mが生理的に許容される塩である場合、その塩の形態は特に限定されず、例えば、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性または塩基性アミノ酸塩などがあげられる。
【0017】
無機酸塩の好ましい例としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などがあげられ、有機酸塩の好ましい例としては、例えば酢酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などがあげられる。
【0018】
無機塩基塩の好ましい例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などがあげられ、有機塩基塩の好ましい例としては、例えばジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、メグルミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、トリメチルアミン塩、ピリジニウム塩などがあげられ、これらのうち、さらに好ましくはトリメチルアミン塩、ピリジニウム塩である。
【0019】
酸性アミノ酸塩の好ましい例としては、例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などが挙げられ、塩基性アミノ酸塩の好ましい例としては、例えばアルギニン塩、リジン塩、オルニチン塩などがあげられる。
【0020】
式中、Xは、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC2〜10アルケニル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基を意味する。
前記置換基は下記A群から選択することができる。
A群:
ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基;
−NH(C=O)X2Y(式中、X2は、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−で表されるアルキレン基、または下記B群から選ばれる置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示す。);
−NH−CH2−Cn2n−Y;
−O−C(=O)−Cn2n−Y;
−O−CH2−Cn2n−Y;
(A群中、nは2〜20の整数を示し、Yはチオール基またはジスルフィド基を有する基を示す。)
B群:ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基、ニトロ基。
【0021】
「C2〜20アルキル基」とは、炭素原子数2〜20のアルキル基であり、直鎖状、分岐状アルキル基のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状アルキル基である。炭素原子数は、好ましくは4〜20、より好ましくは10〜20、特に好ましくは13〜18である。
【0022】
「C2〜20アルケニル基」とは、炭素原子数2〜20のアルケニル基であり、直鎖状、分岐状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状アルケニル基である。炭素原子数は、好ましくは4〜20、より好ましくは10〜20、特に好ましくは13〜18である。不飽和結合は1つまたは2以上含んでいてもよい。複数の不飽和結合を含む場合には、−CH=CH−CH−CH=CH−のような配置を含んでいてもよい。
【0023】
「C2〜20アルキニル基」とは、炭素原子数2〜20のアルキニル基であり、直鎖状、分岐状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状アルキニル基である。炭素原子数は、好ましくは4〜20、より好ましくは10〜20、特に好ましくは13〜18である。不飽和結合は1つまたは2以上含んでいてもよい。
【0024】
「C6〜10アリール基」とは、炭素数6〜10の芳香族性の炭化水素環式基をいい、具体的には例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
【0025】
「C1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基」とは、C1〜20アルキル基−CO−O−C36−で表される基であり、C1〜20アルキル基は直鎖状、分岐状アルキル基のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状アルキル基である。
【0026】
「C2〜21アルキルオキシプロピル基」とは、C2〜21アルキル基−O−C36−で表される基であり、C2〜21アルキル基は直鎖状、分岐状アルキル基のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状アルキル基である。
【0027】
「C2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基」とは、C2〜20アルケニル基−CO−O−C36−で表される基であり、C2〜20アルケニル基は直鎖状、分岐状のいずれでもよい。不飽和結合は1つまたは2以上含んでいてもよい。複数の不飽和結合を含む場合には、−CH=CH−CH−CH=CH−のような配置を含んでいてもよい。
【0028】
「C2〜21アルケニルオキシプロピル基」とは、C2〜21アルケニル基−O−C36−で表される基であり、C2〜21アルケニル基は直鎖状、分岐状のいずれでもよい。不飽和結合は1つまたは2以上含んでいてもよい。複数の不飽和結合を含む場合には、−CH=CH−CH−CH=CH−のような配置を含んでいてもよい。
【0029】
「置換基を有していてもよい」とは、置換可能な部位に、任意に組み合わせて1または複数個の置換基を有してもよいことを意味する。
【0030】
これらX3のうち、好ましくは、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基である。
【0031】
これらにおいて、置換基としては、好ましくは、−NH(C=O)X2Y、−O−C(=O)−Cn2n−Y、または−O−CH2−Cn2n−Yである。
【0032】
このうち、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基が置換基を有する場合その置換基としては、前記−NH(C=O)X2Yで表される基が好ましい。
【0033】
また、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基が置換基を有する場合その置換基としては、−NH(C=O)X2Y、−O−C(=O)−Cn2n−Yまたは−O−CH2−Cn2n−Yが好ましい。
【0034】
式(6)においてX3としては、より具体的には、たとえば下記式(7)〜(11)で表される基がより好ましい。
【化25】

【0035】
式(7)〜(11)中、nは好ましくは2〜20の整数を示し、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは3〜8、特に好ましくは3〜5である。前記pは、好ましくは1〜17の整数を示し、より好ましくは7〜17、さらに好ましくは10〜15である。qは、好ましくは1〜20の整数を示し、より好ましくは10〜20、さらに好ましくは13〜18である。
【0036】
このような式(7)〜(11)で表されるように、リンカー部位(−COCn2nYまたは−CH2n2nY)と側鎖部位(−CH(OH)C=CCp2pCH3、−CH2O(CO)Cq2qCH3または−CH2OCH2q2qCH3)とを有すると、シアル酸含有3糖化合物をセンサーに適した配向性で高密度に基板や微粒子に固定することができるとともに、シアル酸含有3糖化合物を含有するバイオセンサーあるいは糖脂質含有微粒子を含有する検出試薬を用いると、極微量のサーズウイルスでも高感度に検出・定量できる。
【0037】
特に、式(7)〜(11)において、nが上記範囲にあると、シアル酸含有3糖化合物を、基板表面あるいは微粒子表面に結合したときのセンサーの感度が向上するとともに、サーズウイルスとの結合に適した密度・配向性をもって基板表面または微粒子表面に効果的に結合させることができる。
【0038】
前記式中、Yは1個又は2個以上のチオール基または1個又は2個以上ジスルフィド基を有する基を示す。本明細書において「チオール基」とは−SHで表される基であり、「ジスルフィド基」とは、−S−S−で表される構造を有する基である。
【0039】
前記ジスルフィド基としては、好ましくは環状ジスルフィド基が挙げられ、このうち5員環のジチオラニル基、たとえば1,2−ジチオラン−3−イル基、1,2−ジチオラン−4−イル基など、6員環のジチアニル基、たとえば1,2−ジチアン−3−イル基、1,2−ジチアン−4−イル基などが挙げられる。これらのうちでは、5員環のジチオラニル基が好ましく、1,2−ジチオラン−3−イル基がより好ましい。また、チオクト酸(リポ酸)から誘導される基を用いることもできる。
【0040】
これらのうちでは、ジスルフィド基が好ましい。ジスルフィド基の場合、シアル酸含有3糖化合物を基板表面又は微粒子表面に強固に安定に固定化することができる。特に、前記式(7)〜(11)で表される基では、シアル酸含有3糖部位、リンカー部位、および側鎖部位の立体障害が予測され、結合密度の低下、感度低下などが考えられるが、本発明のように特定のリンカーと側鎖とジスルフィド基の組み合わせにより、強固で安定な固定化が可能となり、立体障害の影響がなく高感度のセンサーとすることができる。
【0041】
さらに、式(7)において、前記−COCn2nYの主鎖に含まれる原子の合計数(N1)と、前記−CH(OH)C=CCp2pCH3の主鎖に含まれる原子の合計数(N2)とは、好ましくはN1:N2=1:1.5〜1:5、さらに好ましくは1:2〜1:3の範囲にある。
また、式(8)〜(11)において、前記−COCn2nYまたは−CH2n2nYの主鎖に含まれる原子の合計数(N1)と、前記−CH2O(CO)Cq2qCH3または−CH2OCH2q2qCH3の主鎖に含まれる原子の合計数(N2)とは、好ましくはN1:N2=1:1.5〜1:5、さらに好ましくは1:2〜1:3の範囲にある。
【0042】
なお、N1においては、前記−COCn2nYにおいてY中の硫黄原子と−COとを最長で結合する複数の原子を、主鎖を構成する原子とし、Yがジスルフィド基の場合はそのうちの−COに近い硫黄原子側を主鎖上の原子とし、合計数N1には硫黄原子を含まない。また、N2においては、前記−CH(OH)C=CCp2pCH3、−CH2O(CO)Cq2qCH3または−CH2OCH2q2qCH3において末端の−CH3と−CH(OH)または−CH2Oとを最長で結合する複数の原子を、主鎖を構成する原子とする。
【0043】
このような式(7)〜(11)の側鎖部位が含まれていると、側鎖部位が存在しない場合と比較して、検出感度を格段に向上させることができる。さらに、このような炭素数あるいは原子数で側鎖部位が構成され、側鎖部位が前記リンカー部位の長さよりも大きい長さとなる場合、シアル酸含有3糖化合物をより高度な配向性で基板や微粒子に固定することができるとともに、該シアル酸含有3糖化合物を含有するバイオセンサーあるいは糖脂質含有微粒子を含有する検出試薬を用いると、より微量のサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質でも高感度に検出・定量できる。
【0044】
このような式(6)あるいは式(7)〜(11)で表される化合物は、細胞二重層膜の表側に多く存在するグリセロ糖脂質(親水性基として糖、脂溶性基としてグリセリド部位又はジアシルグリセロール部位を有する糖脂質)などから誘導することができ、原料入手の容易性からも好適である。
【0045】
また、X3は、任意のポリマーに結合していてもよい。
【0046】
また、X3は、−X1NH−(CO)−X2Yで表される基(12)も好ましい。このような化合物(6)としては具体的には下記式(1)で表すことができる。
【化26】

式中、R、RおよびRは前述と同じである。糖鎖末端の、−X−NH−(C=O)−X−Yは、センサーチップを基板表面あるいは金属微粒子表面に固定化する部分である。
【0047】
およびXは、それぞれ独立に、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−(nが2〜20、好ましくは2〜6)で表されるアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10、好ましくは6〜8の2価の芳香族基を示す。
【0048】
これらのうち、Xとしては芳香族基が好ましく、芳香族基としては下記式(3)
【化27】

で表される基がさらに好ましい。
【0049】
としては、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−(nが2〜20、好ましくは2〜6)で表されるアルキル基が好ましく、これらのうちではさらに好ましくは直鎖であり、n=4である場合が特に好ましい。
【0050】
Yは、−SHまたはジスルフィド基を示し、ジスルフィド基が好ましい。「ジスルフィド基」は前記と同様である。
【0051】
このような化合物として、より具体的にはたとえば下記式(4)、(5)で表される化合物が挙げられる。
【化28】

【化29】

【0052】
このような本発明に係る化合物は、極めて効果的にサーズウイルス、特に、サーズウイルスのスパイク蛋白質と結合する。
【0053】
シアル酸含有3糖化合物の製造方法
本発明に係るシアル酸含有3糖化合物の製造方法に限定はないが、たとえば、下記に示すような方法が挙げられる。
<シアル酸含有3糖化合物の合成方法>
還元末側の配糖体部位は、一例として、p−ニトロフェニル(pNP)基を有する3糖について示すが、配糖体部位は、これに限定されない。
【0054】
スキーム1
【化30】

【0055】
1aの合成
スキーム1に示すように、市販のpNP N−アセチルグルコサミンをアクセプターに用い、ラクトース、pNP ラクトースなどをドナーとして共存させ、ガラクトシダーゼのような加水分解酵素を用いて、N−アセチルグルコサミンの4位にガラクトースを選択的に転位させ、化合物1aを得ることができる。
【0056】
該酵素反応においては、ガラクトシルトランスフェラーゼのような転位酵素を用いてもよい。この場合のドナーには、たとえば、UDP−ガラクトースを使用することができる。この2糖の結合様式は、β1−4結合である。加水分解酵素の起源によっては、β1−3結合の2糖も合成することが可能であるが、これらも、サーズウイルスと結合できる糖鎖であり、検出用センサーや吸着剤の開発に有効である。
【0057】
前記酵素反応は、たとえば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、または酢酸緩衝液中、好ましくは20−80℃、さらに好ましくは30−45℃で実施できる。緩衝液のpHは、好ましくはpH1−10、さらに好ましくはpH3−8である。反応時間は、好ましくは30分−30日、さらに好ましくは3時間−7日である。緩衝液に、アセトニトリル、メタノールなどの有機溶媒を加えてもよい。有機溶媒を加える割合は、好ましくは1−80%、さらに好ましくは10−50%である。アクセプター(pNP N−アセチルグルコサミン)とドナー(ラクトース、pNP ラクトースなど)の割合は、好ましくは1:99〜99:1、さらに好ましくは1:10程度である。なお、市販の加水分解酵素には、夾雑するN−アセチルヘキソサミニダーゼが混入しており、これがアクセプターを加水分解することがあるので、予め必要に応じ、フェニルセファロースなどのカラムで酵素を粗精製することが好ましい。用いる酵素のユニット数は、好ましくは0.1〜100ユニット、さらに好ましくは0.2〜10ユニットである。
【0058】
2a、3aの合成
次に、この2糖の化合物1aをアクセプターに用い、ドナーのCMP-NeuAc、血清アルブミン、マンガンイオン(通常は、MnCl2)、および、アルカリフォスファターゼを共存させ、α2,3-sialyltransferaseを加えれば、化合物1aの3位にシアル酸残基が転位した3糖化合物2aを得ることができる。
一方、α2,3-sialyltransferaseのかわりにα2,6-sialyltransferaseを用いれば、1aの6位にシアル酸残基が転位した3糖化合物3aを得ることができる。
【0059】
酵素反応条件は、上記と同様である。緩衝液としては、HEPES緩衝液の代わりにモルフォリンエタンスルホン酸(MES)緩衝液を使用してもよい。pHは、好ましくはpH4−9で、さらに好ましくはpH5−7で、特に好ましくはpH6−7である。添加するアルカリフォスファターゼは、各sialyltransferaseに対して好ましくは1−1000当量、さらに好ましくは5−20当量である。
アクセプター1aとドナー(CMP-NeuAc)の割合は、前述と同様であるが、好ましくは1:1〜1.5である。
反応は、HPLCによりモニタリングを行いながら実施することが好ましい。カラムとしては、たとえば、ODS―C18カラムなどを用いることができ、溶離液には、たとえば、15%アセトニトリル水溶液で、0.1-1%のTFA(トリフルオロ酢酸)を加えて分析する。バイオゲルP−2等の分子ふるい用カラムを使用してもよい。
【0060】
<配糖体部位の変換方法:式(4)の化合物の合成>
スキーム2
【化31】

【0061】
配糖体部位がp−ニトロフェニル基である化合物2aをp−アミノフェニル基へと還元して、3糖4aを得ることができる。
この反応は、水素気流下、パラジウム、パラジウム−活性炭、水酸化パラジウムなどの触媒の存在下で行う。パラジウムの代わりに、ギ酸アンモニウムなどを使用してもよい。
溶媒は、水、メタノール、エタノール、これらの混液を使用することができる。反応温度は、好ましくは10−80℃で、さらに好ましくは20−40℃である。圧力は、好ましくは1気圧〜100気圧、さらに好ましくは1気圧である。反応時間は、好ましくは30分〜3日、さらに好ましくは1時間―24時間である。
【0062】
次に、3糖化合物4aを、4-(4,6-dimethoxy-1,3,5- triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium chloride (DMT-MM)の存在下、リポ酸と反応させ、3糖化合物5aへと変換することができる。
溶媒は、エタノール、メタノール、水、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、DMF、DMSO、またはこれらの混液を用いることができ、これらのうち好ましくは、エタノール、水、またはメタノールである。反応温度は、好ましくは10℃−80℃、さらに好ましくは20−40℃である。3糖化合物4aに対して、リポ酸は、好ましくは0.9−10当量、さらに好ましくは0.9−2当量である。また、DMT-MMは、好ましくは0.9−10当量、さらに好ましくは0.9−2当量である。
【0063】
<配糖体部位の変換方法:式(5)の化合物の合成>
スキーム3
【化32】

【0064】
化合物5aと同様にして、ガラクトースの6位にシアル酸残基を有する化合物3aから化合物7aを得ることができる。
【0065】
<配糖体部位の変換方法:式(7)の配糖体部位を有する化合物の合成>
式(7)の配糖体部位を有するシアル酸含有3糖化合物は、下記スキーム4に示すように、たとえば出発原料として天然に由来するスフィンゴ糖脂質を用いる方法により種々の配糖体部位を有する化合物を得ることができる。
【0066】
スキーム4
【化33】

【0067】
スフィンゴ糖脂質(1b)(式中、GNは糖鎖部位を示し、たとえば、グルコース単位であり、R3’は−C10〜1820〜30−CH3であり、Rは−C10〜2020〜40−CH3である。)は、1個以上の糖が直鎖あるいは分岐鎖で共有結合している糖鎖部位と、スフィンゴシン塩基に脂肪酸がN-アシル結合したセラミドと呼ばれる脂質を骨格としている。該スフィンゴ糖脂質は、脊椎動物、無脊椎動物、植物などに広く存在する化合物である。これらは、タカラバイオ、Sigma社などの市販品を用いることができる。
【0068】
たとえば、該スフィンゴ糖脂質(1b)を公知の方法を用いて酵素処理することにより(J. Biol. Chem.、Vol.250、P.24370、1995年)、セラミド部位にあるアミド結合を選択的に加水分解し、アミノ基をもつスフィンゴシン塩基が疎水性部となる一本鎖糖脂質である化合物(2b)(リゾ体)を得ることができる。該酵素反応は、スフィンゴ糖脂質やスフィンゴミエリンに特異的作用することのできる酵素、スフィンゴ脂質セラミドN-デアシラーゼ(Sphingolipid ceramide N-deacylase: SCDase, E.C. 3.5.1.69)を用いる。当該酵素はすべてのスフィンゴ糖脂質とスフィンゴミエリンに作用する。
【0069】
前記SCDaseは、反応液のpHや界面活性剤濃度により、加水分解以外に、縮合反応と脂肪酸交換反応も効率よく触媒することができる(J. Lipid Res.、Vol.38、P.1923、1997年)。
【0070】
前記酵素による加水分解反応は、スフィンゴ糖脂質10μmolに対してSCDaseを好ましくは1〜5U添加し、好ましくはpH5.5〜6.5の酢酸緩衝液中で、界面活性剤としてたとえばタウロデオキシコール酸ナトリウム0.5%〜2.0%の存在下に、30〜40℃で実施することが好ましい。さらに反応液の上層部に、好ましくは反応液の10倍量に相当する炭素数10〜18の炭化水素溶媒を加えることにより高い収率で化合物(2b)を得ることができる。
【0071】
次に、得られた化合物(2b)のアミノ基に、金属基板または金属微粒子表面と化学的固定及び/又は物理的な吸着による固定が可能なリンカー部位となる化合物(3b)を化学結合により結合させて化合物(4b)を得ることができる。このような化合物としてはたとえば、HOOC−Cn2nY(3b)(式中、n、Yは前記式(7)〜(11)中のn、Yと同意義である。)で表される、チオオクト酸、チオール基を末端に有する脂肪酸、ジスルフィド基を有する脂肪酸が挙げられる。
【0072】
また、リンカー部位を誘導する化合物(3b)は、あらかじめカルボキシル基をN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)などで活性化したものを用いてもよい。
リゾ体(2b)のアミノ基と化合物(3b)のカルボキシル基との反応は、溶媒中、必要に応じ脱水縮合剤の存在下に実施する。化合物(3b)の使用量は、リゾ体(2b)に対して、1〜3当量の範囲にあることが好ましい。
前記溶媒としては、たとえば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、エタノールなどの有機溶媒、水などが挙げられる。溶媒は、1種単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
脱水縮合剤を用いる場合、たとえば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリン塩(DMT-MM)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCまたはWSC)などが挙げられる。また、N-メチルモルホリン(NMP)、NHS等の活性化剤を上記脱水縮合剤を併用して用いることもできる。
反応は、好ましくは0℃から40℃の範囲の温度で、好ましくは1〜48時間程度行う。
【0074】
スキーム5
スキーム5に示すように、さらに側鎖部分の2重結合に、エポキシ基、水酸基を導入したり、アルデヒドに変換することにより、側鎖部分の炭素数を変換することができる。
【化34】

【0075】
上記スキーム5において、R5は−Cn2n−Yである。R4は、−Cp2p−CH3で表される基である。R4’は、R4と異なる−Cp2p−CH3で表される基である。
N、n、pは、前記と同義である。
【0076】
オレフィン部分にエポキシ基を導入するには、アルカリ性過酸化水素(Prilezhaevエポキシ化反応)、m-クロロ過安息香酸(m-chloro perbenzoic acid;MCPBA酸化)、Ti(O-i-Pr)4と酒石酸ジエチルメタノールの存在下tert-ブチルヒドロペルオキシド(香月−Sharpless不斉酸化)などを用いて行うことができる。
【0077】
オレフィンに水酸基を導入するには、カンファースルホン酸(CSA)やp−トルエンスルホン酸(pTsOH)のような酸、もしくは、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)のような塩基の存在下、先のエポキシ基を開裂させ水酸基(ジオール)を導入できる。
【0078】
また、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)により、還元的に開裂させてもよい。あるいは、オレフィンにBH3を作用させ、その後、過酸化水素水で処理して、モノオール(モノアルコール)に変換できる(ヒドロボレーション)。
【0079】
さらに、オレフィンをオゾン気流下でオゾン酸化すると、アルデヒドが得られる。エポキシ基を開裂させて得られる水酸基(ジオール)を、過ヨウ素酸酸化して同様の誘導体を得ることもできる(但し、糖水酸基は、例えば、アセチル基などのアシル系保護基で保護しておく必要がある)。
【0080】
得られるアルデヒドは、その後、Wittig反応により、任意の長さの炭化水素を有するリンイリドと反応させて、式(7)中の側鎖の長さを任意に変換することができる。
【0081】
このようにして得られる式(7)の側鎖を有する化合物4b等は、たとえばグルコース単位を有しているが、たとえば、スキーム1で示したのと同様の方法により、グルコース単位をシアル酸含有3糖単位に変換することができる。
【0082】
<配糖体部位の変換方法:式(8)〜(11)の配糖体部位を有する化合物の合成>
スキーム6
さらにスキーム6に示すような、出発原料として天然に由来するグリセロ糖脂質を用いる方法により、式(8)〜(11)の配糖体部位を有するシアル酸含有3糖化合物を合成することができる。
【化35】

【0083】
式中、GNは糖鎖部位であり、たとえば、グルコース単位である。R6、R7は、互いに独立に−Cr2r−CH3(式中、rは、1〜20の整数を示す。)である。これらは、Sigma社などの市販品を用いることができる。
【0084】
化合物6bは、化合物5bのアシル基部分を通常の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、水酸化リチウムなどで処理して、脱アシル化を行うことにより得ることができる。
また、アシル部分の2位に選択的に作用するリパーゼを使用すると、化合物6cへと変換できる。同様に、1,3−特異的リパーゼを作用させると、化合物6dに変換できる。これらの反応は、緩衝液中で行うことが好ましい。
【0085】
次に、HOOC−Cn2nY(7a)、またはこのビニールエステル、トリクロロアセチルのエステル(活性エステル)体を用い、有機溶媒(エーテル、クロロホルム、トルエン、塩化メチレン、アセトニトリル、THF、DMFなど)中で、リパーゼを作用させると、エステル交換反応が生じ、対応する化合物8b〜8dを得ることができる。
【0086】
なお、以上の反応は、特に糖中の水酸基を保護しなくてもよい。また、必要に応じ、糖の6位を、シリル系保護基(t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基)、トリチル基のようなエーテル系保護基、4位と6位をイソプロピリデン基やベンジリデン基のようなアセタール系保護基、あるいは、レブリロイル基などで選択的に保護してもよい。
【0087】
シリル系保護基は、酢酸の共存下、テトラブチルアンモニウムフルオリドで、トリチル基は、CSAやp-TsOHあるいは、接触水添により除去できる。アセタール系保護基も、酸処理で除去できる。側鎖に飽和炭化水素基を含む場合には、ベンジリデン基は、接触水添によっても脱保護が可能である。レブリロイル基は、ヒドラジン−酢酸で選択的に除去できる。これらの脱保護の条件はいずれも、グリセロール部位のアシル基に何ら影響を及ぼすことなく、除去できる。
【0088】
さらに側鎖部分のR4が、二重結合などを有するときには、前記と同様にして別の置換基を導入できる。
【0089】
このようにして得られる化合物は、たとえばスキーム1で示したのと同様の方法により、GN単位をシアル酸含有3糖単位に変換する。
【0090】
<サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用センサーチップ>
本発明に係るサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用センサーチップは、前記シアル酸含有3糖化合物が金属基板表面に固定されている。
【0091】
金属基板の素材としては、たとえば、好ましくは金、銀、白金、銅、パラジウムなどが挙げられ、これらのうちさらに好ましくは金または白金、特に好ましくは金が挙げられる。基板の形状は限定されず、板状、管状、球状などの形状が挙げられる。このうち板状の形状を有する基板を好ましく用いることができる。
【0092】
金属基板への固定化は、好ましくは、金属表面と、チオール基(-SH)あるいはジスルフィド基(-S-S-)との直接的な共有結合や吸着により行うことができる。
したがって、この場合、シアル酸含有3糖化合物のうち、配糖体の末端に、−SHまたはジスルフィド基を末端に有する化合物が好ましい。すなわち前記式(1)あるいは、前記式(6)においてX3が式(7)〜(11)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0093】
前記式(6)において、X3が式(7)〜(11)で表される基である場合、側鎖部位の自己組織化による相乗効果により、より高度な配向性と高密度な固定が可能となる。さらに、この自己組織化は、スフィンゴシン塩基のような天然由来の側鎖を有することが望ましい。これは、センサーチップなどの基板表面が、細胞膜の表面状態に近似した状態にあるためではないかと推測される。
【0094】
基板との結合は、自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)法などを用いて行うことができる。すなわち、チオール基あるいはジスルフィド基を有する化合物が、金などと特異的に吸着し、アルキル鎖間のvan der Waals 力によりSAMを形成させる方法である。
シアル酸含有3糖化合物が−SHまたはジスルフィド基を末端に有する場合、シアル酸含有3糖化合物による金属基板表面への単分子膜の構築は、特殊な装置を必要とせず、これら誘導体の溶液中に基板を浸漬するだけで容易に実施できる。浸漬条件(溶媒、濃度、温度、時間)によって構造、配向の制御も可能である。ここで用いられる溶媒は特に限定されるものではないが、固定化させる誘導体が溶解する有機溶媒であることが好ましい。
【0095】
通常、金属基板表面におけるシアル酸含有3糖化合物の結合割合は、好ましくは0.1〜10個/nm2、さらに好ましくは1〜10個/nm2の範囲である。このような結合割合であると、優れた検出感度を発揮することができる。
特に、式(7)〜(11)において、側鎖部位が前記リンカー部位よりも長くなると、側鎖部位がリンカー部位の長さに応じて折り畳み構造をとり、折りたたまれた側鎖部位によって、シアル酸含有3糖化合物同士がサーズウイルスとの結合に適した配向性をもって基板表面や微粒子表面に効果的に結合するためではないかと推測される。それにより、上記のような好ましい結合割合が達成されたものと推測される。
【0096】
<サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の検出方法(1)>
本発明に係るサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の検出方法は、下記の工程からなる。
(1)試験化合物を、前記センサーチップの基板表面に接触させる工程、
(2)基板に結合したサーズウイルスのスパイクタンパク質またはサーズウイルスを検出する工程。
【0097】
前記シアル酸含有3糖化合物を金属基板に固定化したセンサーチップと、サーズウイルスまたはサーズウイルスのスパイクタンパク質との接触は通常、溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記センサーチップを用いるサーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質の検出においては、これらが変性しない溶媒を選択することが必要であり、たとえば水または緩衝液などを用いる。
溶媒のpHは、好ましくは6〜8の範囲であり、温度は好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは25〜40℃の範囲である。
【0098】
緩衝液は、たとえば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、HEPES緩衝液、またはトリス緩衝液、より好ましくはHEPES緩衝液(10mM、pH:7.5、NaCl:0.15N)などが挙げられる。
【0099】
以下に、本発明に係るセンサーチップのうち、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)による、ウイルスの検出方法の一例を示す。SPRによる検出方法では、標識物質を用いることなく試験化合物(アナライト、分析対象化合物ともいう)の変化を検出することができる。このSPRの現象は、表面プラズモンが金属/液体界面で励起した場合に起こる光学現象を利用するもので、センサーチップ表面で生じる微少なプラズモン共鳴角(SPRシグナル)を検出して、たとえば、金属表面に固定化した物質と検体との間の二分子間結合および解離の変化を定量的に得ることができる。
【0100】
サーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質の検出は、温度を好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは25〜40℃の範囲で一定に保持し、好ましくはリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、HEPES緩衝液、またはトリス緩衝液、より好ましくはHEPES緩衝液で行う。
【0101】
これにサーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質を含む溶液をゆっくりと注入する。アフィニティー定数を求める場合には、サーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質の濃度を変化させ、2〜8回の測定をすることが望ましい。反応時間は結合・解離反応ともに3〜30分程度が好ましいが、目的の相互作用によっては測定時間を変更する場合がある。
【0102】
また、緩衝液の流速は好ましくは3〜50μl/minで、検体量はnM〜mMを1回の測定につき5〜1000μl程度にするのが好ましい。アフィニティー定数は2〜8点の測定濃度をとり、各濃度のセンサーグラムにおいて、平衡状態よりスキャッチャードプロットを作成してアフィニティー定数(KdおよびKa)を算定する。
【0103】
このような、本発明のセンサーチップを用いる、表面プラズモン共鳴バイオセンサーは極微量(<0.01nM)のサーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質でも、前処理あるいは標識物質を用いないで、高感度に検出できることができる。
すなわちセンサーチップとサーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質との結合速度定数(Ka)および解離定数(KD)は、前記式(1)で表されるシアル酸含有3糖化合物においてそれぞれ、高い値および小さい値を示す。
【0104】
前記式(6)において、X3が式(7)〜(11)で表される基である場合、Kaはさらに高い値を示す。このような効果はスフィンゴシン塩基などの側鎖部位の自己組織化機能により、高度な配向性と高密度な固定化が行われ、複数の近接する糖鎖部位が効率よくサーズウイルスを強く結合させるためである。
【0105】
<サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出試薬>
サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子
本発明に係るサーズウイルス検出用微粒子は、前記シアル酸含有3糖化合物が、金属微粒子表面に固定されている微粒子である。
【0106】
金属微粒子の素材としては、好ましくは金、銀、白金、銅、パラジウムなどが挙げられ、これらのうちより好ましくは金または白金、特に好ましくは金である。
【0107】
このような金属微粒子は、平均粒子径が、好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは1〜50nmの範囲にある。また、金属微粒子は、単分散な粒子径であることが好ましい。この範囲の金属微粒子を用いることで、視覚的に検出可能なシグナル色(オレンジ〜赤)が得られ、かつ溶媒中における分散安定性が良好になり、高感度で検出時間の短縮が図ることができる。
【0108】
本発明で用いる金属微粒子は、公知の方法により製造することができる。たとえば、金微粒子は、Frensの方法を用いることにより、種々の大きさの微粒子を容易に製造することができる(Nature Phys. Sci.、Vol.241、P.20、1973年)。
【0109】
具体的には、たとえば金微粒子の製造方法としては、塩化金の溶液を加熱沸騰させ、ついで、クエン酸ナトリウムの溶液と混合して塩化金を還元する方法により行うことができる。上記二つの溶液を混合するとすぐに沸騰溶液は薄い青色に変色して核生成が開始される。ついで、すぐに青色から赤色に変わって単一分散微粒子の生成が起こり、塩化金の還元は沸騰をさらに続けることで完了する。
得られる微粒子の粒子径は、クエン酸ナトリウム溶液の濃度を変化させることにより調整することができる。このような金微粒子は溶液中に分散して存在できることが好ましく、その状態は特に限定されないが、金微粒子が安定な分散状態で存在していることが好ましい。例えば、コロイド状態(分散コロイド状態)となることがより好ましい。
【0110】
金属微粒子に、シアル酸含有3糖化合物を固定化する方法としては、抗原−抗体反応等に代表される免疫反応に係る物質の固定方法(例えばJ. Histochem. Cytochem.,Vol.30、P.691、1982年)、前記センサーチップにシアル酸含有3糖化合物を固定化した方法を応用することが可能である。すなわち、金属微粒子を分散させた溶液と該シアル酸含有3糖化合物の溶液を5分以上混合する。この時、金属微粒子に対して十分量のシアル酸含有3糖化合物が固定されれば、金属コロイドは安定に分散され、サーズウイルス検出用微粒子を得ることができる。ここで、金属微粒子表面におけるシアル酸含有3糖化合物の結合割合は、溶液中のシアル酸含有3糖化合物の濃度やその他条件(例えば、溶媒、温度、時間など)でコントロールすることができる。
【0111】
通常、金属微粒子表面におけるシアル酸含有3糖化合物の結合割合は、好ましくは0.1〜10個/nm2、さらに好ましくは1〜10個/nm2の範囲である。このような結合割合であると、優れた検出感度を発揮することができる。
特に、式(7)〜(11)の前記シアル酸含有3糖化合物においては、特定の原子数で側鎖部位、リンカー部位が構成される。この場合、特に、側鎖部位が前記リンカー部位よりも長い場合、側鎖部位がリンカー部位の長さに応じて折り畳み構造をとり、折りたたまれた側鎖部位によって、シアル酸含有3糖化合物同士がサーズウイルスとの結合に適した配向性をもって基板表面や微粒子表面に効果的に結合するためではないかと推測される。それにより、上記のような好ましい結合割合が達成されたものと推測される。
【0112】
また、このようなサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子は、溶液形態で保存することが、該微粒子の保存安定性の観点から好ましい。
この場合、前記式(7)〜(11)で表されるシアル酸含有3糖化合物が結合した微粒子は、−C(=O)−Cn2n−Yまたは−CH2−Cn2n−Yで表されるリンカー部位において、nが好ましくは2〜10の整数、さらに好ましくは3〜8、特に好ましくは3〜5であるとおり、リンカー部位の長さが特定範囲以内にあるため、溶液中での分散安定性に極めて優れている。したがって、本発明のシアル酸含有3糖化合物が結合した微粒子を含む試薬は、特に溶液中での使用に優れる。
【0113】
前記シアル酸含有3糖化合物の金属微粒子への固定化においては、シアル酸含有3糖化合物の高度な配向性と高密度な固定を目的にしていることから、必要十分量のシアル酸含有3糖化合物を混合して固定化を図ることが好ましいが、過剰量のシアル酸含有3糖化合物を混合すると、混合溶液中からの除去作業が必要となる。
【0114】
たとえば、金微粒子の場合、シアル酸含有3糖化合物を固定化した金微粒子の分散溶液の分散安定性、およびサーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質の添加量と色調変化の関係から、シアル酸含有3糖化合物の最適な混合量を決定することができる。
すなわち、添加した化合物が最適量以下の場合、シアル酸含有3糖化合物を自己組織化するための十分な量に達しないため、金微粒子表面の疎水性が増加して分散安定性の低下し、色調の変化および凝集−沈殿を生じる。
また、添加した化合物が最適量以上の場合、サーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質を添加した後、凝集反応が過剰に添加した化合物によって阻害され、色調変化が小さくなる。したがって、色調変化や凝集が発生せず、かつサーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質を添加したときに色調変化が大きい範囲内に制御することにより、最適な固定化を行うことができる。
【0115】
サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用試薬
前記金属微粒子へのシアル酸含有3糖化合物の固定化により、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子を得ることができるが、該微粒子を含む溶液は、そのまま本発明のサーズウイルス検出用試薬として使用することができる。
このため、前記固定化に使用する溶媒は、検出対象となるサーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質が変性しないことが必要であり、たとえば水または緩衝液などを用いる。
溶媒のpHは、好ましくは6〜8の範囲であり、温度は好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは25〜40℃の範囲である。
【0116】
緩衝液は、たとえば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、HEPES緩衝液、またはトリス緩衝液、より好ましくはHEPES緩衝液(10mM、pH:7.5、NaCl:0.15N)などが挙げられる。
【0117】
このようにして、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子の合成に伴って、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子を溶媒中に含有するサーズウイルス検出用試薬が得られることとなる。このようなサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用試薬においては、溶液中に微粒子がコロイドになって存在していることが好ましく、該コロイドは分散して存在していることがより好ましい。
【0118】
微粒子の金属コロイドが安定化されたかの確認は、たとえば、金コロイドの場合、混合溶液に等量の10%塩化ナトリウム水溶液を加えて、金コロイドの色調に変化がなければ安定化されていると認定することができる。
サーズウイルス検出用試薬中のサーズウイルス検出用微粒子の濃度は、好ましくは1.0×105〜1.0×1015個/L、さらに好ましくは1.0×107〜1.0×1013個/Lの範囲である。
このような濃度範囲であると、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子のコロイドが分散して安定に存在し、保存安定性を向上させることができるとともに、サーズウイルスまたはそのスパイクタンパク質の検出感度を向上させることができる。
【0119】
<サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の検出方法(2)>
本発明に係るサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出方法は下記の工程からなる。
(1)試験化合物を、前記サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用試薬に添加して、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子に接触させる工程、
(2)サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子に結合したサーズウイルスのスパイクタンパク質またはサーズウイルスを検出する工程。
【0120】
サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子に結合したサーズウイルスのスパイクタンパク質またはサーズウイルスの検出手段としては、たとえば、サーズウイルス検出用微粒子のコロイド溶液において、該微粒子がサーズウイルスのスパイクタンパク質またはサーズウイルスと結合する際の色調変化から該サーズウイルスのスパイクタンパク質またはサーズウイルスの検出を行う方法が挙げられる。
具体的には、たとえば、金微粒子の場合、サーズウイルスのスパイクタンパク質またはサーズウイルスがサーズウイルス検出用微粒子と結合していない状態において、前記微粒子のコロイド粒子が分散した状態で溶液は赤色を示すが、サーズウイルスのスパイクタンパク質またはサーズウイルスが結合すると前記微粒子が凝集して赤色が薄れるあるいは無色透明に変化する、または、凝集体(沈殿物)が生じる。
【0121】
色調変化の計測手法としては、目視により観測し、その結果に基づいて測定対象物質の存在を簡便に半定量することができる。
【0122】
また、色調変化を分光光度計により高感度検出することも可能である。その場合、色調変化を測定するための波長としては、色調変化を測定可能な波長であれば、特に限定されないが、たとえば、金微粒子の場合、金微粒子の極大吸収波長付近500〜550nm付近が測定感度を高くすることができるので望ましい。多波長による吸光度測定を行うことで、精度の高い検出が可能であることは言うまでもない。
色調変化の測定を行える装置としては、比色計、分光光度計、マイクロプレートリーダー、生化学自動分析機等が挙げられる。
【0123】
このような色調変化を計測することにより、高感度に対象化合物を検出することができる。
【0124】
<サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質吸着材>
前記シアル酸含有3糖化合物は、シアル酸残基が導入された3糖部分が、サーズウイルスのスパイクタンパク質と特異的に結合するので、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の吸着材として用いることができる。
吸着材としては、不織布、織布などのシート状のもの、溶液に含有させて噴霧した噴霧状のものが挙げられる。
【0125】
たとえば、生理食塩水等の水溶液中に前記シアル酸含有3糖化合物を含有する溶液を、うがい薬やエアロゾール状のスプレー液として使用すれば、感染予防効果も高く、院内感染予防試薬として用いることもできる。
【0126】
また、シアル酸含有3糖化合物を含む溶液を不織布、あるいは織布などに膨潤させ、水分を乾燥させることにより、サーズウイルスを除去する吸着シートを得ることもできる。
たとえば、サーズウイルスの感染を防止するには、不織布のマスク、例えば、米国国立労働安全衛生研究所で認可したN95マスク(住友3M、米国)が知られているが、息苦しいのが難点である。そこで、シアル酸含有3糖化合物を通常のマスクなどに吸着させることにより、息苦しさを感じず、サーズウイルスをトラップすることもできる。また、エアコン用フィルター、空気清浄機のフィルターなどに、シアル酸含有3糖化合物を吸着させることにより、サーズウイルスの除去も可能である。
【実施例】
【0127】
以下に、本発明の実施例を挙げ、具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
なお、下記の実施例においては、サーズスパイク蛋白質は、Protein Sciences Corporation社 (Connecticut, Meriden)より購入した。表面プラズモン共鳴(SPR)装置、および、センサーチップは、BIAcore 3000 (Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden)を使用した。1H-NMRは、JEOL LA-600 spectrometerを用いて重水中で測定した。酵素は、Sigma社、または、Glycoscience社のものを使用した。
〔実施例1〕
工程1
【化36】

【0128】
(1)化合物1aの合成
加水分解酵素としてBacillus circulans由来のβ-galactosidase (Sigma社)を用いた。通常、加水分解酵素β-galactosidaseには、夾雑酵素としてβ-N-acetylhexosaminidase (以下、NAHaseという)が含まれており、この夾雑酵素が基質のアクセプターであるp−ニトロフェニル β−D−N−アセチルグルコサミン(以下、GlcNAcβ-pNPという)を加水分解する可能性があるので、あらかじめ精製して夾雑酵素を除く必要がある。Phenyl Sepharose 6 Fast Flow(Amersham Biosciences社)を用い、NAHase活性を除去した。
【0129】
次に、GlcNAcβ-pNP (1.0 g) および lactose (4.0 g)を、50%のアセトニトリルを含むsodium phosphate buffer (20 mM, pH6.8) 35 mLに溶解させ、上記の精製したβ-galactosidase (3.2 U)を加えた。30℃で反応させ、Amide-80 column(東ソー製)を用いて、HPLCによってモニタリングした。
化合物1aが最大となる24時間後に反応を止め、ODS−C18(メルク製)、 Toyopearl HW-40S(東ソー製)、およびBioGel P2(バイオラッド製)により精製し、化合物1aを265 mg得た。
このシンプルで簡便な方法により、β-galactosidaseを使用して、化合物1aを大量に合成することができた。
【0130】
化合物1a: 1H NMR (600 MHz, D2O) δ 8.205 (d, J = 9.0 Hz, 2H, o-Ph), 7.149 (d, J = 9.0 Hz, 2H, m-Ph), 5.303 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H-1), 4.476 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H’-1), and 1.987 (s, 3H, NHAc).
【0131】
(2)化合物2aの合成
化合物1aのシアル化は、組み換えラット由来α2,3-(N)-sialyltransferaseを用いて行い、シアリールラクトサミン3糖の化合物2aを合成した。
化合物1a (10 mg, 15.8 μmol)、CMP-Neu5Ac (10.5 mg, 16.0 μmol)、BSA (1.2 mg/mL)および20 mM MnCl2を含有する40 mM 2-morpholinoethanesulfonic acid (MES) 緩衝液 (pH 6.3, 0.8 mL)、25 U alkaline phosphatase および α2,3-sialyltransferase (20 mU)(組み換えラット由来)を30℃でインキュベートした。
【0132】
この反応をHPLCでモニターした。48時間のインキュベーションの後、HPLC解析により、大部分の化合物1aがシアル化されたことを確認した。
この反応混合液をODS (15%acetonitrile(0.1%TFA as eluentを含有) および BioGel P2 カラムのクロマトグラフィーで精製し、シアリールラクトサミン3糖の化合物2aを、ドナーを基にして91%(14.5 mg)で得た。
【0133】
化合物2a: 1H NMR (600 MHz, D2O) δ 8.183 (d, J = 9.0 Hz, 2H, o-Ph), 7.141 (d, J = 9.0 Hz, 2H, m-Ph), 5.310 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H-1), 4.568 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H’-1), 2.730 (dd, J = 12.0, 4.8 Hz, 1H, H-3e"), 2.010, 1.990 (2s, 6H, 2 NHAc), and 1.782 (t, J = 12.0 Hz, 1H, H-3a"); 13C NMR δ 77.120 (C-3); [α]D = - 46.7 (1.20, water).
【0134】
工程2
【化37】

【0135】
(3)化合物5aの合成:
化合物2aを水素の存在下で還元し、p-aminophenyl誘導体4aへと変換した。
次に、4-(4,6-dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methlmorpholinium chloride (DMT-MM, 2.9 mg)を、リポ酸(1.9 mg)および還元体4a(8 mg)のエタノール溶液に加えた。24時間、室温下で撹拌し、エタノールを減圧濃縮して除いた。残さをODSカラムで精製して化合物5aを7.4 mg得た。
【0136】
化合物4a: 1H NMR δ 6.925 (d, J = 8.4 Hz, 2H, o-Ph), 6.825 (d, J = 8.4 Hz, 2H, m-Ph), 4.991 (d, J = 8.4 Hz, 1H, H-1), 4.539 (d, J = 7.6 Hz, 1H, H’-1), 2.719 (dd, J = 12.0, 4.8 Hz, 1H, H-3e"), 2.010, 2.001 (2s, 6H, 2 NHAc), and 1.771 (t, J = 12.0 Hz, 1H, H-3a").
化合物5a: 1H NMR (600 MHz, D2O) δ 7.317 (d, J = 9.0 Hz, 2H, o-Ph), 7.038 (d, J = 9.0 Hz, 2H, m-Ph), 5.116 (d, J = 8.4 Hz, 1H, H-1), 4.586 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H’-1), 2.723 (dd, J = 12.0, 4.8 Hz, 1H, H-3e"), 1.999, 1.983 (2s, 6H, NHAc), and 1.772 (t, J = 12.0 Hz, 1H, H-3a").
【0137】
〔実施例2〕
工程3
【化38】

【0138】
(1) 化合物3aの調製:
酵素にrat liver α2,6-sialyltransferaseを用い、化合物2aの合成と同様の方法で、化合物3aを化合物1a(10 mg)から高収率(15.0 mg, 93% ドナーを基に計算)で得た。
化合物2aおよび3aの合成の両方において、ドナーのCMP-Neu5Acをアクセプターに対して当モル比で使用しているものの、化合物1aは効率よくシアル化された。ドナーのCMP-Neu5Acは高価であるが、本発明においては、ドナー/アクセプター当モル量を用いることにより、高い収率が得られている。従って、本法は、魅力的で実用的な方法である。
【0139】
化合物3a: 1H NMR δ 8.232 (d, J = 9.6 Hz, 2H, o-Ph), 7.176 (d, J = 9.6 Hz, 2H, m-Ph), 5.351 (d, J = 8.4 Hz, 1H, H-1), 4.465 (d, J = 7.2 Hz, 1H, H’-1), 2.668 (dd, J = 12.0, 4.8 Hz, 1H, H-3e"), 2.010, 1.998 (2s, 6H, 2 NHAc), and 1.723 (t, J = 12.0 Hz, 1H, H-3a"); 13C NMRδ65.086 (C-6); [α]D = - 132.7 (0.43, water)
【0140】
(1)シアリールコンジュゲート7aの合成
化合物3aを水素の存在下で還元して、p-aminophenyl 誘導体6aへと変換した。次に、エタノール1.0 mL中のDMT-MM (2.3 mg) を、リポ酸 (1.5 mg) および化合物6a (6 mg) のエタノール溶液に室温で加えた。室温で24時間撹拌後、エタノールを減圧濃縮して除去した。残さをODSカラムで精製して、化合物7a (5.2 mg)を得た。
【0141】
化合物6a: 1H NMRδ6.979 (d, J = 8.4 Hz, 2H, o-Ph), 6.908 (d, J = 8.4 Hz, 2H, m-Ph), 5.064 (d, J = 8.8 Hz, 1H, H-1), 4.437 (d, J = 8.0 Hz, 1H, H’-1), 2.639 (dd, J = 12.0, 4.8 Hz, 1H, H-3e"), 2.025, 1.992 (2s, 6H, 2 NHAc), and 1.698 (t, J = 12.0 Hz, 1H, H-3a").
化合物7a: 1H NMR (600 MHz, D2O) δ7.320 (d, J = 9.0 Hz, 2H, o-Ph), 7.047 (d, J = 9.0 Hz, 2H, m-Ph), 5.155 (d, J = 8.4 Hz, 1H, H-1), 4.444 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H’-1), 2.644 (dd, J = 12.0, 4.8 Hz, 1H, H-3e"), 2.019, 1.991 (2s, 6H, NHAc), and 1.747 (t, J = 12.0 Hz, 1H, H-3a").
【0142】
〔実施例3〕
シアル酸含有3糖化合物が結合したセンサーチップ1の調製
(1)表面に化合物5aを結合したセンサーチップ1の調製
シアリルコンジュゲートの固定化のための金表面として、SIA kit Au (BIAcore製)を用いた。オゾンクリーナーで洗浄したSIA kit Auプレートを、化合物5aを含むメタノール溶液(2 mL, 60 μM)に浸した。室温下で、24時間放置後、その金プレートを反応溶液から取り出し、メタノールおよび水で洗浄し、窒素気流下で乾燥させ、センサーチップ1を得た。
【0143】
(2)表面に化合物7aを結合したセンサーチップの調整
表面に化合物5aを結合したセンサーチップと同様の方法により、表面に化合物7aを結合したセンサーチップ2を得た。
【0144】
〔実施例4〕
サーズスパイク蛋白質と、化合物5a、化合物7aがそれぞれ表面に結合したセンサーチップ1、2との相互作用解析
1μg/mLの濃度のSARSスパイク蛋白質溶液を、化合物5a、または、化合物7aを表面に結合したセンサーチップ1または2を装着したSPR装置にインジェクトした。その結果、化合物5aが結合したセンサーチップ1、化合物7aが結合したセンサーチップ2のそれぞれの表面で、SARSスパイク蛋白質が結合していることがわかった。
センサーチップ1の試験結果を図1、センサーチップ2の試験結果を図2に示す。
【0145】
〔比較例1〕
【化39】

【0146】
市販のp-nitrophenyl α-D-glucopyranoside(化合物9)(250mg)を水に溶解し、パラジウムブラック(10mg)を加え、1気圧、常温下で水素の存在下、還元を行った。セライトろ過して、触媒を除き、減圧濃縮して、化合物10を225mg(99%)得た。続いて、化合物10(225mg、0.83mmol)およびsuccinimidyl 1,2-dithiolane-3-pentanoate(300 mg、0.99mmol)を乾燥DMF5mlに溶解し、25℃で48時間反応させた。そして、化合物11を得た(200mg、59%)。
【0147】
化合物11の1H NMR (400 MHz, CD3OD) :δ7.45 (d, aromatics, J = 9.0 Hz), 7.119 (d, aromatics, J = 9.0 Hz), 5.416 (d, H-1, J = 3.6 Hz), 3.829 (t, H-3, J = 9.4 Hz), 3.542 (dd, H-2, J=3.6 and 9.6 Hz), 3.404 (t, H-4, J=9.2Hz), 3.21-3.05 (m, dithiolane of lipoic acid, 2H), 2.50-2.41 (m, dithiolane of lipoic acid, 1H), 2.353 (t, -CH2-CONH-, J=7.4Hz), 1.94-1.84 (m, dithiolane of lipoic acid, 1H), 1.80-1.62 (m, -CH2-, 4H) and 1.56-1.45 (m, -CH2-, 2H).
【0148】
〔比較例2〕
化合物11が結合したセンサーチップ3の調製
実施例3で示した方法と同様にして、表面に比較例1で製造した化合物11を結合したセンサーチップ3を得た。
【0149】
〔比較例3〕
比較例2のセンサーチップ3に対して、SARSスパイクタンパク質をインジェクトしたときのSPRを図3に示す。図1、2には、シアル酸含有3糖化合物5aおよび7aがそれぞれ結合したセンサーチップ1およびセンサーチップ2に対する、SARSスパイクタンパク質のSPR結果が示されているが、図3に示すように、化合物11が結合したセンサーチップ3では、SARSスパイクタンパク質は全く結合しなかった。このことは、SARSスパイクタンパク質が、化合物5aまたは7aがそれぞれ結合したセンサーチップ1およびセンサーチップ2に、特異的に結合していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明に係るシアル酸含有3糖化合物を基板あるいは微粒子表面に固定化した、センサーチップまたは金属微粒子含有試薬は、極微量のサーズウイルスあるいはそのスパイクタンパク質を高感度かつ迅速に検出できる。
【0151】
前記センサーチップは、標識物質を用いることなくリガンドの変化を高感度に検出することのできる表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)あるいは水晶振動子(Quartz Crystal Microbalance: QCM)に適用することにより、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質の微量検出が可能である。
【0152】
また、前記金属微粒子によるコロイド検出方法、たとえば金微粒子による金コロイド凝集法は、迅速で簡便に行えるサーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質のセンシング方法である。
【0153】
前記シアル酸含有3糖化合物を含む吸着材は、マスク、フィルターなどの吸着シートとして用いることができるほか、吸着材を含む溶液をスプレーとして使用することでサーズウイルスの感染予防にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】図1は化合物5aを固定化したセンサーチップ1の表面とサーズウイルスのスパイクタンパク質との相互作用のSPRセンサーグラムである。
【図2】図2は化合物7aを固定化したセンサーチップ2の表面とサーズウイルスのスパイクタンパク質との相互作用のSPRセンサーグラムである。
【図3】図3は化合物11を固定化したセンサーチップ3の表面とサーズウイルスのスパイクタンパク質との相互作用のSPRセンサーグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化2】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
およびXは、それぞれ独立に、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−(nが2〜20)で表されるアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示し;
Yは、−SHまたはジスルフィド基を有する基を示す。〕で表される、シアル酸含有3糖化合物。
【請求項2】
前記Rが前記式(2)で表されるシアル酸残基であり、前記RがHである、請求項1に記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項3】
前記RがHであり、前記Rが前記式(2)で表されるシアル酸残基である、請求項1に記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項4】
前記Xが芳香族置換基であり、Xが直鎖もしくは分岐した炭素原子数2〜20のアルキル基である、請求項1〜3のいずれかに記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項5】
前記Xが、下記式(3)
【化3】

で表される2価の基である、請求項4に記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項6】
前記Xが、-CnH2n- (n = 2-6)である、請求項4または5に記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項7】
Yが、ジスルフィド基である、請求項1〜6のいずれかに記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項8】
下記式(4)
【化4】

〔式中、Rは、−NHAcまたは−OHであり、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩を示す〕で表される、請求項1に記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項9】
下記式(5)
【化5】

〔式中、Rは、−NHAcまたは−OHであり、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩を示す〕で表される、請求項1に記載のシアル酸含有3糖化合物。
【請求項10】
下記一般式(6)
【化6】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化7】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
は、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC2〜10アルケニル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基を意味し、前記置換基は下記A群から選ばれるいずれかの基である:
A群:
ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基;
−NH(C=O)X2Y(式中、X2は、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−で表されるアルキレン基、または下記B群から選ばれる置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示す。);
−NH−CH2−Cn2n−Y;
−O−C(=O)−Cn2n−Y;
−O−CH2−Cn2n−Y;
(A群中、nは2〜20の整数を示し、Yはチオール基またはジスルフィド基を有する基を示す。)
B群:ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基、ニトロ基〕で表されるシアル酸含有3糖化合物が、金属基板表面に固定されている、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用センサーチップ。
【請求項11】
下記一般式(6)
【化8】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化9】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
は、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC2〜10アルケニル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基を意味し、前記置換基は下記A群から選ばれるいずれかの基である:
A群:
ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基;
−NH(C=O)X2Y(式中、X2は、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−で表されるアルキレン基、または下記B群から選ばれる置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示す。);
−NH−CH2−Cn2n−Y;
−O−C(=O)−Cn2n−Y;
−O−CH2−Cn2n−Y;
(A群中、nは2〜20の整数を示し、Yはチオール基またはジスルフィド基を有する基を示す。)
B群:ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基、ニトロ基〕で表されるシアル酸含有3糖化合物が、金属微粒子表面に固定されている、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用微粒子。
【請求項12】
請求項11に記載の前記微粒子が、溶液中にコロイドで存在している、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出用試薬。
【請求項13】
下記の工程からなる、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出方法:
(1)試験体を、請求項10に記載のセンサーチップの基板表面に接触させる工程、
(2)基板に結合したサーズウイルスのスパイク蛋白質またはサーズウイルスを検出する工程。
【請求項14】
下記の工程からなる、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質検出方法:
(1)試験体を、請求項12に記載の試薬に添加して、請求項11に記載の前記微粒子と接触させる工程、
(2)前記微粒子に結合したサーズウイルスのスパイク蛋白質またはサーズウイルスを検出する工程。
【請求項15】
下記一般式(6)
【化10】

〔式中、Rは、−OH、または、−NHCOCHを示し;
およびRのいずれか一方は下記式(2)
【化11】

で示されるシアル酸残基(式中、−COOMは、−COOHまたはその生理的に許容される塩)であり、RおよびRの残りの一方はHを示し;
は、置換基を有していてもよいC2〜20アルキル基、置換基を有していてもよいC2〜10アルケニル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルキニル基、置換基を有していてもよいC6〜10アリール基、置換基を有していてもよいC1〜20アルキルカルボニルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜21アルキルオキシプロピル基、置換基を有していてもよいC2〜20アルケニルカルボニルオキシプロピル基、または置換基を有していてもよいC2〜21アルケニルオキシプロピル基を意味し、前記置換基は下記A群から選ばれるいずれかの基である:
A群:
ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基;
−NH(C=O)X2Y(式中、X2は、直鎖もしくは分岐した−Cn2n−で表されるアルキレン基、または下記B群から選ばれる置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の2価の芳香族基を示す。);
−NH−CH2−Cn2n−Y;
−O−C(=O)−Cn2n−Y;
−O−CH2−Cn2n−Y;
(A群中、nは2〜20の整数を示し、Yはチオール基またはジスルフィド基を有する基を示す。)
B群:ハロゲン原子、水酸基、C1〜6アルコキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、アミノ基、C1〜6アルキルアミノ基、ニトロ基〕で表されるシアル酸含有3糖化合物を含有する、サーズウイルスまたはサーズスパイク蛋白質吸着材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−347908(P2006−347908A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173183(P2005−173183)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】