説明

シアル酸産生を調節し、遺伝性封入体ミオパチーを治療する方法及び組成物

本発明の特定の実施形態によれば、系の中でのシアル酸の産生を調節する方法であって、系に野生型GNEコード核酸配列を与えるステップを含む方法が提供される。そのような実施形態によれば、系は、細胞、筋組織又は他の望ましい標的を含みうる。同様に、本発明は、変異型内因性GNEコード配列を含む系の中で野生型GNEを産生する方法を包含する。換言すれば、本発明は、機能的な野生型GNEコード配列を、例えば、変異型(欠陥を有する)GNEコード配列を有する細胞又は筋組織に与えるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年2月7日出願の米国特許仮出願第60/900,034号の優先権を主張し、参照により組み込むものである。
【0002】
本発明の分野は、系中でのシアル酸産生を調節する方法及び組成物に関する。本発明の分野はさらに、遺伝性封入体ミオパチー及び/又はその症状を治療及び/又は予防する方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
遺伝性封入体ミオパチー(HIBM2,Hereditary Inclusion Body Myopathy)は、慢性の進行性骨格筋消耗障害であり、通常、年齢50歳になる前に完全な身体障害をもたらす。現在、HIBM2に有効な治療処置は存在しない。この疾患の発症は、常染色体劣性変異のファミリーメンバーであるGNE遺伝子の発現に関係しており、GNE遺伝子は、二機能性酵素であるUDP−GlcNAc 2エピメラーゼ/ManNAcキナーゼ(GNE/MNK,UDP-GlcNAc 2-epimerase / ManNAc kinase)をコードする。この酵素は、シアル酸生合成の最初の2ステップを触媒する律速二機能性酵素である。シアル酸産生の低減は、その結果として、極めて重要な筋タンパク質であるα−ジストログリカン(α−DG,alpha-dystroglycan)を含めた様々な糖タンパク質へのシアル酸付加の低減をもたらす。今度はこれが、筋機能の重度の不自由を引き起こし、その症候群の発症をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の特定の実施形態によれば、系中でシアル酸の産生を調節する方法であって、系に野生型GNEコード核酸配列を与えるステップを含む方法を提供する。そのような実施形態によれば、系は、細胞、筋組織又は他の望ましい標的を含みうる。同様に、本発明は、変異型内因性GNEコード配列を含む系に野生型GNEを導入し、発現させる方法を包含する。換言すれば、本発明は、機能的な野生型GNEコード配列を、例えば変異型(欠陥を有する)GNEコード配列を有する細胞又は筋組織に与えるステップを含む。
【0005】
本発明の追加の実施形態によれば、遺伝性封入体ミオパチーの影響を治療し、予防し、且つ/又は寛解させる方法が提供される。そのような方法は、通常、患者に野生型GNEコード核酸配列を与えるステップを含む。野生型GNEコード核酸配列は、筋肉注射又は静脈内投与によって、脂質ナノ粒子と共に患者に送達してもよい。
【0006】
本発明のさらに別の実施形態によれば、系中で野生型GNEを発現するための新規な組成物が提供される。組成物は、脂質ナノ粒子内に配置され、又は脂質ナノ粒子に連結されている野生型GNEコード核酸配列を含むことが好ましい。脂質ナノ粒子は、筋細胞、筋組織又はこれらの構成成分を認識して、それらに結合できる作用物質で装飾されていてもよい。
【0007】
この特許出願のファイルは、有色で作成された少なくとも1つの図を含有している。この特許の、有色図(複数可)を含むコピーは、請求及び必要な料金の支払いに応じて、米国特許商標局が提供するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本明細書に記載のpUMVC3−GNE発現ベクターの図である。
【図2】GNE wt(NB8)、M712T(MB18)及びR266Q(R266Q)の配列アラインメントを示す図である。元のDNA配列をアミノ酸配列に変換して、その中に位置する変異を図示した。
【図3】10%血清中で培養されたCHO−Lec3細胞におけるGNE発現を示すゲル画像である。レーン1:未処置のLec3細胞。レーン2:wt GNE。レーン3:M712T GNE。レーン4:R266Q GNE。
【図4】CHO−Lec3細胞系におけるGNE発現を示すウエスタンブロット画像である。レーン1〜4:10%FBS中で培養されたCHO−Lec3細胞。レーン5〜8:2.5%FBS中で培養されたCHO−Lec3細胞。レーン1及び5:未処置のLec3細胞。レーン2及び6:wt GNE。レーン3及び7:M712T GNE。レーン4及び8:R266Q GNE。
【図5】形質移入されたCHO−Lec3細胞では、GNE mRNAが発現されているが、対照細胞では発現されていないことを示すゲル画像である。レーン1〜4は、連続希釈されたpUMVC3−GNE−wt PCR産物15μlを含有しており、これを用いて、Lec3試料中に存在するGNE mRNAの量を定量した。レーン5〜6は、形質移入されているか、形質移入されていないLec3細胞からのPCR産物15μlを含有している。
【図6】2.5%FBSの存在下で培養されたCHO−Lec3細胞内のGNE発現によって、シアル酸産生が刺激されることを示す棒グラフである。未処置のLec3細胞(「ブランク」)と比較して、GNE−wt(p=0.0157)形質移入の後では、シアル酸産生が有意に大きくなっていた。GNE−R266Q(p=0.0566)及びGNE−M712T(p=0.0708)は、有意性に接近していた。
【図7】GMP DNA複合体の筋肉内注射を用いた、本明細書に記載の毒性試験を要約する表である。
【図8】GMP DNA複合体の静脈内注射を用いた、本明細書に記載の毒性試験を要約する表である。
【図9】GMP DNA複合体の静脈内注射を用いた、本明細書に記載の毒性試験を要約する線グラフである。
【図10】Plasma-Lyte(登録商標)中におけるGMP−GNEの筋肉内注射を施されたマウスの生存率を要約する線グラフである。
【図11】Plasma-Lyte(登録商標)中におけるGMP−GNEの静脈内注射を施されたマウスの生存率を要約する線グラフである。
【図12】水中におけるGMP−GNEの静脈内注射を施されたマウスの生存率を要約する線グラフである。
【図13】異なった量のGNEコードDNAを投与された3つの異なる群のマウスにおける、筋組織内のGNE発現を要約する棒グラフである。各群には、2匹の異なったマウスが含まれていた。
【図14】本明細書に記載のGNEコード配列を注射されたマウスから得られたGNE mRNAを示すゲル画像である。
【0009】
配列表の簡単な説明
配列番号1〜6は、下記表1に示すPCRプライマーの核酸配列である。
【0010】
配列番号7〜8は、GNE特異的PCRプライマーである。
【0011】
配列番号9は、本明細書に記載し、且つ図1に示すPUMVC3−wt−DNAコンストラクトの核酸配列である。
【0012】
配列番号10は、PUMVC3−wt−DNAコンストラクト内に含有されているGNEコード配列である。
【0013】
配列番号11は、GNEの野生型アミノ酸配列である。
【0014】
配列番号12は、GNE−R266Qの改変核酸配列である。
【0015】
配列番号13は、GNE−R266Qの改変アミノ酸配列である。
【0016】
配列番号14は、GNE−M712T(HIBM2を引き起こす変異)の変異型核酸配列である。
【0017】
配列番号15は、GNE−M712T(HIBM2を引き起こす変異)の変異型アミノ酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の特定の実施形態によれば、系中でのシアル酸産生を調節する方法が提供される。この方法は通常、系に野生型GNEコード核酸配列を与えるステップを含む。野生型GNEコード核酸配列は、それに作動可能に連結されたプロモーターを含むことが好ましい。プロモーターは、機能的であり、且つ標的細胞内(又は標的の細胞外空間)でGNEコード核酸配列の発現を促進できるものであることが好ましい。GNEコード配列に作動可能に連結できるプロモーターの非限定的な一例はCMVプロモーターであり、これは、PUMVC3−wt−DNAコンストラクトの野生型GNEコード核酸配列に作動可能に連結されていることが示されている(図1)。
【0019】
本明細書で使用される場合、「GNEコード核酸配列」、「野生型GNEコード配列」及び「GNEコード配列」という用語、並びに同様な用語は、配列番号11のアミノ酸配列によって表される、野生型の二機能性酵素UDP−GlcNAc 2−エピメラーゼ/ ManNAcキナーゼ(GNE/MNK)をコードする核酸配列を指す。GNEコード配列は、配列番号10など、GNEの野生型をコードする核酸配列のみを含みうる。その代わりに、GNEコード配列は、プロモーター、終止配列及び/又は他のエレメントなどの他の転写調節エレメントと共に、GNEの野生型をコードする核酸配列を含みうる。そのようなGNEコード配列の非限定的な一例は、図1に示すpUMVC3 GNEコンストラクトであり、これは配列番号9の核酸配列からなる。
【0020】
「GNEコード核酸配列」、「野生型GNEコード配列」及び「GNEコード配列」という用語、並びに同様な用語は、遺伝コードの縮重によって、本明細書に添付された配列表に示す配列のいずれに示されている配列とも同一ではないが、それでもなお野生型GNEのアミノ酸配列(配列番号11)をコードしている核酸配列又は異なったアミノ酸配列をコードする改変核酸配列を、その結果得られるGNEタンパク質が同じ野生型GNEタンパク質の活性を実質的に保持している(又は改善されている)という条件で、さらに含むことを意味する。そのような改変GNEタンパク質の非限定的な例には、本明細書に記載のGNEアイソフォームR266Q(配列番号13)が含まれる。すなわち、1つのアミノ酸が類似のアミノ酸に置換されるようなやり方で野生型GNEタンパク質のアミノ酸配列を改変するGNEコード配列の改変、及びその変化(それが置換、欠失又は挿入であるかにかかわらず)がGNEタンパク質の活性部位に負の影響を与えないため、GNE活性に実質的に負の影響を与えない他の改変も本発明に包含される。
【0021】
本明細書で使用される場合、「系」という用語は、どんなタイプの細胞も生物も含めた、本明細書に記載のGNEコード配列を受容することができるどんな生物系も指す。加えて、「系」には、生物体内の細胞間隙も含まれうる。
【0022】
本発明の特定の実施形態によれば、GNEコード配列は、適切な担体又は送達媒体の中に配置してもよく、又はそれに連結させてもよい。脂質担体(脂質ナノ粒子)、ウイルスベクター、生分解性重合体、重合体ミクロスフェア(例えば50nm又はそれ未満)及び様々な結合系、並びに関連のサイトフェクチン(cytofectin)の使用を含めた、様々な戦略を用いて、本明細書に記載のGNEコード配列を標的細胞内に送達できる。
【0023】
リポソーム又は他の粒子形成組成物を使用したものは、本明細書に記載のGNEコード配列の好ましい送達媒体である。リポソームは、細胞内取り込みを改善する一方で、本明細書に記載のGNEコード配列などの生体分子を分解から保護するので、魅力的な担体である。ポリアニオン(例えばDNA)を送達するための、最も一般的に使用されている種類のリポソーム製剤は、陽イオン性脂質を含有するものである。
【0024】
単独又は他の脂質及びホスファチジルエタノールアミンなどの両親媒性物質を含有する陽イオン性脂質を用いた高分子で、脂質集合体を形成させてもよい。脂質製剤の組成と、その調製方法との両方が、その結果得られる陰イオン性高分子−陽イオン性脂質集合体の構造及びサイズに影響を有することが当技術分野でよく知られている。インビトロ及びインビボにおける特定の細胞型へのポリアニオンの送達を最適化するために、これらの因子を調節することができる。
【0025】
本明細書に記載のGNEコード組成物を細胞送達するのに陽イオン性脂質を使用することは、いくつかの利点を有する。陽イオン性脂質を用いた陰イオン組成物の封入は、静電的相互作用により本質的に定量的である。加えて、陽イオン性脂質は陰電荷の細胞膜と相互作用して、それによって細胞膜輸送を開始させると考えられている。
【0026】
プラスミドDNAを小粒子内に封入することができ、それらの小粒子は通常、二重層脂質小胞中に封入された単一のプラスミドからなることが実験によって示された(Wheeler, et al., 1999, Gene Therapy 6, 271-281)。これらの粒子はしばしば、融合誘導脂質であるジオレオイルフォスファチジルエタノールアミン(DOPE,dioleoylphosphatidylethanolamine)及び低レベルの陽イオン性脂質を含有し、ポリ(エチレングリコール)(PEG,poly(ethylene glycol))コーティングの存在によって水性溶媒中に安定化することができる。
【0027】
これらの脂質粒子は、それらが静脈内(i.v.,intravenous)注射の後に、延長された循環寿命を示すので、全身性の適用を有し、様々な組織及び臓器に、そのような領域の血管透過性を強化することにより選択的に蓄積させることができ、且つエンドソーム膜の破壊によってエンドサイトーシスのリソソーム経路を回避するように設計することができる。これらの特性は、実験上及び治療上の適用のため、GNEコード配列などの生理活性分子を、筋組織細胞などの様々な細胞型に送達するのに有用となりうる。様々な脂質核酸粒子及びそれの調製方法は、参照によりすべて全体として本明細書に組み込まれている、米国特許出願公開第2008−0020058号、第2003−0077829号、第2003−0108886号、第2006−0051405号、第2006−0083780号、第2003−0104044号、第2006−0051405号、第2004−0142025号、第2006−00837880号、第2005−0064595号、第2005−0175682号、第2005−0118253号、第2005−0255153号及び第2005−0008689号明細書、並びに米国特許第5885613号、第6586001号、第6858225号、第6858224号、第6815432号、第6586410号、第6534484号及び第6287591号明細書に記載されている。
【0028】
本発明は、GNEコード配列及び/又はそれらと共に使用される附随送達媒体を特定の細胞型、例えば筋細胞及び筋組織などに向けてターゲッティングできることを示す。例えば、多くの特異的相互作用によって、リポソームナノ粒子が細胞表面に結合するように方向付けることができる。この結合は、詳細に理解されているいくつかの細胞進入経路の1つによる、細胞内へのDNAの取り込みを促進する。これらの相互作用による、ナノ粒子(例えばリポソーム)の迅速な隔離は、末梢循環内にそれらが存在している時間を短縮し、それによって、分解及び非特異的な取り込みの可能性を低減する。一般的なターゲッティング作用物質には、細胞表面のトランスフェリン受容体(TrfR,transferrin receptor)に結合するトランスフェリン(Trf,transferrin)、又は細胞表面のTrfRに結合する抗体(若しくはその誘導体)の使用が含まれるが、これらに限定されない。筋肉は、その細胞表面に比較的高濃度のTrfRを有する。隔離に用いる別の標的は、上皮成長因子受容体(EGFR,epidemal growth factor receptor)であり、これは、筋細胞及び他の上皮様細胞型の表面に広く存在している。Erbitux(ヒトでの使用が承認されているEGFRモノクローナル抗体)は、EGFRターゲッティング用の例示的な作用物質であり、これも、本明細書に記載のリポソームナノ粒子を装飾するのに使用できる。追加のターゲッティング部分は、筋細胞上にのみ存在する(又は筋細胞に、より限定されている)特定の標的を認識して、それらに結合するレクチン又は小分子(ペプチド又は糖)でありうるが、これらに限定されない。より小さい(且つ、より高親和性でありうる)分子の利点は、それらが、使用するナノ粒子の表面に、より高密度で存在しうるであろうということである。
【0029】
本明細書に記載のGNEコード配列は、適切な送達媒体(リポソーム又は脂質ナノ粒子など)と共に、系に送達することが好ましく、よく知られている様々な技法のうちの任意のものを用いて、系に投与できる。例えば、哺乳動物の場合には、非経口注射を介して、GNEコード配列を哺乳動物に投与できる。本明細書で使用される場合、「非経口」という用語には、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液包内又は注入技法が含まれる。
【0030】
GNEコード配列及び関連の組成物は、毒性がなく薬学的に許容される、任意の従来の担体、アジュバント又は媒体を含有しうる。場合によっては、薬学的に許容できる酸、塩基又は緩衝剤によって、製剤のpHを調整して、処方された組成物又はその送達型の安定性を強化できる。例えば、既知な技術に従い、適した分散剤若しくは湿潤剤及び懸濁剤を用いて、注射用の無菌水性懸濁液又は油性懸濁液を処方できる。無菌注射用製剤は、毒性のない非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌注射用溶液、懸濁液若しくは乳剤でよい。利用することができる許容される媒体及び溶媒には、水、米国薬局方リンゲル液及び等張食塩液が含まれる。加えて、無菌不揮発性油が、従来、溶媒又は懸濁媒として利用されている。この目的には、合成のモノグリセリド又はジグリセリドを含めたどんな無刺激不揮発性油も利用できる。加えて、注射用製剤中で、オレイン酸などの脂肪酸を用いてもよい。
【0031】
特定の実施形態によれば、Plasma-Lyte(登録商標)(Baxter Laboratories社製、米国Illinois州Morton Grove所在)担体を利用して、とりわけ非経口注射用に、GNEコード配列を送達するのに使用できる。Plasma-Lyte(登録商標)は、静脈内投与に使用できる無菌の非発熱性等張液である。容積各100mLあたり、526mgの米国薬局方塩化ナトリウム(NaCl)、502mgのグルコン酸ナトリウム(C11NaO)、368mgの米国薬局方酢酸ナトリウム三水和物(CNaO・3HO)、37mgの米国薬局方塩化カリウム(KCl)及び30mgの米国薬局方塩化マグネシウム(MgCl・6HO)を含有している。Plasma-Lyte(登録商標)は、抗菌剤を含有していない。pHは、水酸化ナトリウムによって、約7.4(6.5〜8.0)に調整することが好ましい。
【0032】
例えば、GNEコード配列を送達するのに使用される注射用製剤は、細菌保持フィルターを通した濾過によって、又は無菌固体組成物の形態で無菌化剤を組み入れることによって、無菌化することができ、この無菌固体組成物は、使用する前に、滅菌水、Plasma-Lyte(登録商標)又は他の無菌注射用媒体中に溶解又は分散させることができる。
【0033】
系内におけるGNEコード配列の発現を長期化する(又はその影響を長期化する)ために、皮下注射又は筋肉内注射からの組成物の吸収を遅くすることが望ましい場合がある。これは、水溶性が乏しい結晶性又は非晶質の物質の液体懸濁液を使用することによって実現できる。その場合、組成物の吸収速度は、溶解速度に依存しうる。この溶解速度は、さらに、結晶のサイズ及び結晶形態に依存しうる。
【0034】
別法では、油性媒体中に組成物を溶解又は懸濁させることによって、非経口的に投与されたGNEコード配列の吸収の遅延を実現させることができる。注射用のデポー剤形は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性重合体に入れたGNEコード配列のマイクロカプセルマトリックスを生成することによって調製できる。GNEコード配列物質対重合体の比率及び使用する特定の重合体の性質に応じて、GNEコード配列の放出速度を制御することができる。他の生分解性重合体の例には、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が含まれる。上述の通り、デポー剤注射用製剤は、筋組織などの標的体組織に適合したリポソーム中に(又はマイクロエマルション中にさえ)GNEコード配列を捕捉することによっても調製できる。
【0035】
系中でのシアル酸産生を調節する方法に加えて、本発明はさらに、系中で野生型GNEを産生する方法を包含する。そのような実施形態によれば、系(例えばヒト患者の筋細胞)は、変異型の内因性GNEコード配列(例えば配列番号14のGNE−M712T配列)を含みうる。換言すれば、本発明は、機能的な野生型GNEコード配列を、例えば変異型の(欠陥を有する)GNEコード配列を有する細胞又は筋組織に与えるステップを含む。野生型GNEコード配列は、例えば本明細書に記載のリポソーム又は脂質ナノ粒子を用いて、非経口注射によってそのような系に送達することができる。
【0036】
本発明の追加の関連実施形態によれば、遺伝性封入体ミオパチー(HIBM2)の影響を治療し、予防し、且つ/又は寛解させる方法が提供される。そのような方法は、通常、治療有効量の野生型GNEコード核酸配列を患者に与えるステップを含む。特定の実施形態では、好ましくは、非経口注射によって、脂質ナノ粒子、及びPlasma-Lyte(登録商標)の担体に類似した担体と共に、野生型GNEコード核酸配列を患者に送達することができる。
【0037】
野生型GNEコード核酸配列に関して、「治療有効量」という用語は、標的細胞内のシアル酸産生を増大させ、並びに/又は他の方法で患者におけるHIBM2の影響を治療し、予防し、且つ/若しくは寛解させるのに十分なレベルの野生型GNEを、妥当な損益比で発現するのに十分な上記配列の量を指す。しかし、本発明の野生型GNEコード核酸配列及び関連組成物の1日総用量は、適切な医学的判断の範囲内で、主治医によって決定されることが理解されよう。
【0038】
どんな特定の患者に関する特定の治療有効量レベルも、患者のHIBM2障害の重症度;使用する特定のGNEコード配列の活性;使用する送達媒体;患者の年齢、体重、健康全般、性別及び食事;使用する特定のGNEコード配列の投与時間、投与経路及び排出速度;治療の継続期間;使用する特定のGNEコード配列と併用されるか、同時使用される薬物;並びに医学分野でよく知られている同様な因子を含めた様々な因子に依存しうる。
【0039】
患者の状態が改善した際に、必要な場合には、維持量のGNEコード配列を投与してもよい。その後、症状が望ましいレベルに軽減された際に、改善された状態が保持されるレベルに、症状の関数として、投与の用量若しくは頻度、又はこれら両方を低減させてもよい。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態によれば、系中で野生型GNEを発現するための新規な組成物が提供される。これらの組成物は、野生型GNEコード核酸配列を含有していることが好ましい。本明細書に記載の通り、GNEコード核酸配列は、プロモーター及び終止配列などの様々な転写調節エレメントを含みうる。本発明によって包含される組成物の非限定的な例には、本明細書に記載され、図1に示されており、且つ配列番号9によって表されるpUMVC3−GNE発現ベクターが含まれる。また、本発明の他の実施形態に関連して記載されている通り、GNEコード核酸配列は、リポソーム又は脂質ナノ粒子などの、系への送達に適した媒体の中に配置するか、又はそれに連結することができる。さらに、そのような実施形態によれば、送達媒体は、筋細胞又は筋組織などの標的細胞又は組織を認識して、それに結合できる作用物質で装飾されていてもよい。
[実施例]
【実施例1】
【0041】
CHO−Lec3細胞における外因性GNEの発現。
以下の実施例で、ヒトcDNAに由来するいくつかのGNE発現ベクターを作製した。GNE欠失細胞(Lec3細胞)において、3つの異なったGNE形態、すなわち、野生型、M712T及びR266Qが活発に発現された。酵素活性は異なっているが、すべての酵素が、同様なタンパク質発現レベルを示した。下記に示される通り、形質移入されたGNE発現細胞系は、形質移入されていない細胞より有意に多くのシアル酸を産生した。
【0042】
実施例1 方法
GNEクローニング。GNE cDNAを含有する親ベクターは、Daniel Darvish氏(HIBM Research Group、米国California州Encino所在)によって提供されたものであり、それらには、pGNE−NB8(野生型)、pGNE−MB18(M712T変異体)及びpGNE−R266Q(R266Q変異体)が含まれていた。受け側のベクターであるpUMVC3は、Aldevron社(米国North Dakota州Fargo所在)から購入した。サブクローニングベクターであるpDrive(Qiagen社製、米国California州Valencia所在)は、R266Q変異体を親ベクターから受け側ベクターにシャトルさせるのに用いた。
【0043】
野生型GNE及びM712T GNEを、Eco RI制限消化、ゲル精製及びT4ライゲーションを介して、親ベクターからpUMVC3にクローニングした。R266Q変異体GNEは、Hind III + Xba I消化を介して、親ベクターからpDriveにクローニングし、その後、Sal I + Xba Iを介してpUMVC3に移動させた(図1)。すべてのpUMVC3−GNEクローンは、下記表1に示すプライマーを用いて、Seqwright社(米国Texas州Houston所在)が配列決定した。
【0044】
【表1】

【0045】
陽性のpUMVC3−GNEクローンを175mlのLBブロス+50μg/ml Kan中で終夜培養し、製造会社プロトコールに従って、150mlの培養物をQiagen社製(米国California州Valencia所在)HiSpeed Plasmid Maxiキットで使用した。
【0046】
DNA:脂質複合体。この実施例で使用されたDNA:脂質複合体は、試験DNA(pUMVC3−GNE)と、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP,1,2-Dioleoyl-3-Trimethylammonium-Propane)を室温で混合することによって産生した。DOTAPは、Avanti Polar Lipids社(米国Alabama州Alabaster所在)によって販売されている市販の脂質粒子である。望ましい全容積が得られるようにDOTAPをpUMVC3−GNE DNAと混合した。得られた全容積は、最終容積1μlあたり、0.5μg DNA:4mM DOTAPの最終比率を示した。
【0047】
細胞培養。GNE欠失CHO−Lec3細胞は、Albert Einstein College of Medicineによって提供された。細胞を、5%CO中37℃において、4mM L−グルタミン及び10%熱不活性化ウシ胎児血清を補充したα−MEM培地中で培養した。一時的形質移入用の細胞は、6ウェルプレート内に1ウェルあたり1×10細胞でプレーティングし、終夜培養した。Lec3細胞は、1継代あたり2.5%FBSの低減によって、低濃度血清条件に馴化させた。
【0048】
一時的形質移入。OptiMEM(Invitrogen社製、米国California州Carlsbad所在)中で、1ウェルあたり、6時間、DNA:脂質複合体を用いてLec3細胞に形質移入し、その後、培地を通常のα−MEM増殖培地に変え、細胞を終夜培養した。DNA:脂質複合体は、製造会社のプロトコールに従って、4μgのDNAを10μlのLipofectamine 2000(Invitrogen社製)と混合することによって形成させた。形質移入の24時間後に、トリプシン消化によって細胞を採取し、後続のウエスタンブロットアッセイ又は酵素/糖アッセイの前に、PBSで1回洗浄した。
【0049】
mRNAの定量。製造会社(Qiagen社、米国California州Valencia所在)の指示に従ってRNeasyキットを用いて、150万の形質移入CHO−Lec3細胞から全RNAを抽出した。NanoDrop 1000分光光度計(NanoDrop社製、米国Delaware州Wilmington所在)を用いて、精製されたRNAを260/280比によって定量化した。オリゴdTプライマー及びTaqMan逆転写キット(ABI社製、米国California州Foster City所在)を用いて、500ngの全RNAをcDNAに変換した。25ngのcDNA及び0.2pMのプライマー(GNE−F3=5'-cggaagaagggcattgagcatc-3'(配列番号7)及びGNE−R3=5'-tttgtcttgggtgtcagcatcc-3'(配列番号8))と共に、Sybr Green PCRマスターミックス(ABI社製、米国California州Foster City所在)を用いて、25μlのPCR反応物を、既知濃度のpUMVC3GNE−wt DNAの系列希釈物と比較した。Sybr Green蛍光は、iQ5リアルタイムPCR検出システム(BioRad社製、米国California州Hercules所在)と、PCR条件:酵素を活性化するために、95℃、10分間、そして産物を増幅するために、(95℃−15秒間及び58℃−60秒間)×45サイクルとを用いて検出した。4%プレキャストアガロースEゲル(Invitrogen社製、米国California州Carlsbad所在)において、15μlのPCR反応物を泳動し、G-box化学発光検出システム(米国Maryland州Frederick所在)を用いて、その画像を捕捉した。
【0050】
ウエスタンブロット。約5×10の細胞をウエスタンブロット分析に用いた。1%プロテアーゼ阻害剤を加えた20μlのCell lytic(Sigma社製、米国Missouri州St. Louis所在)を用いて細胞ペレットを溶解させた。最高速度で5分間遠心処理して細胞破片を沈殿させ、5%β−MEを含有しているLaemmli緩衝液(BioRad社製、米国California州Hercules所在)と上清とを1:1で混合した。10%の変性ゲルにおける、100V、2時間のポリアクリルアミド電気泳動によって、タンパク質試料を分離し、その後、2時間、100ボルトを用いてPVDF膜に転写した。ニワトリ抗GNE(1:10000希釈)及びマウス抗GapDH(1:50000希釈)を用いて、GNE及びGapDHに関してこの膜を終夜プロービングした。HRP標識された二次抗体を用いて、一次抗体を検出し、West Dura検出試薬(Pierce社製、米国Illinois州Rockford所在)及びG-box化学発光カメラ(Syngene社製、米国Maryland州Frederick所在)を用いてそれらを可視化した。
【0051】
シアル酸の定量。チオバルビツル酸法による膜結合シアル酸の定量には約4×10の細胞を用いた。細胞を水中に再懸濁し、25ゲージの注射針の中を20回通過させることによって溶解させ、遠心処理した。上清はブラッドフォードタンパク質濃度推定に使用し、残ったペレットは、100μlの2M酢酸中に再懸濁して、複合糖質に結合したシアル酸を遊離させるために、80℃で1時間インキュベートした。137μlの過ヨウ素酸溶液(57mM HSO中に2.5mg/ml)を添加して、37℃で15分間インキュベートした。次に、50μlの亜ヒ酸ナトリウム溶液(0.5M HCl中に25mg/ml)を添加し、管を激しく振盪させ、確実に黄色〜茶色の色が完全に消失するようにした。このステップに続いて、100μlの2−チオバルビツール酸溶液(71mg/ml、NaOHでpH9.0に調整されている)を添加し、試料を100℃で7.5分間加熱した。1mlのブタノール/5%12M HClで、この溶液から抽出を行い、遠心処置によって相分離させた。有機相の吸光度を549nmで測定した。シアル酸の量は、タンパク質1mgあたりのシアル酸の量(nmol)として測定した。
【0052】
キナーゼ活性及びエピメラーゼ活性。UDP−GlcNAc 2−エピメラーゼ活性は、比色分析アッセイで測定した。それは、最終容積200μl中に、45mM NaHPO、pH7.5、10mM MgCl、1mM UDP−GlcNAc及び可変的な量のタンパク質を含有していた。反応は、37℃で30分間行い、1分間の煮沸によって停止させた。Morgan-Elson法を用いて、遊離されたManNAcを検出した。簡潔には、150μlの試料を30μlの0.8M HBO、pH9.1と混合し、3分間煮沸した。次に、800μlのDMAB溶液(酢酸/1.25%10N HCl中に1%(w/v)4−ジメチルアミノベンズアルデヒド)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。吸光度を578nmで測定した。
【0053】
ManNAcキナーゼ活性は、放射測定アッセイによって測定した。それは、最終容積200μl中に、60mM トリス/HCl、pH8.1、10mM MgCl、5mM ManNAc、50nCi[14C]ManNAc、10mM ATP及び可変的な量のタンパク質を含有していた。反応は、37℃で30分間行い、300μlのエタノールを添加して停止させた。放射標識された化合物をペーパークロマトグラフィーで分離し、放射能を液体シンチレーション計測で測定した。
【0054】
統計的分析。酵素活性及びシアル酸発現に関して、3回の独立した実験を行った。平均及び標準偏差は、Microsoft社製のExcelを用いて計算した。スチューデントt検定を用いて、未処置試料との比較における各処置群のp値を決定した。
【0055】
実施例1 結果
GNEクローン。試験されたGNE cDNAクローンには、ヒト野生型cDNA及び2種のヒト変異体cDNAが含まれていた。変異体には、M712T GNE欠失クローン及びR266Qシアル酸尿症クローンが含まれていた。シアル酸尿症は、GNEのCMPシアル酸結合部位における点変異によって引き起こされたヒト疾患であり、フィードバック阻害の減失及びシアル酸の大量産生をもたらす。制限消化クローニングによって、GNE cDNAを、それらの元のベクターから、発現ベクターであるpUMVC3にサブクローニングした。定方向制限酵素消化によってクローンをスクリーニングして、GNE挿入配列が正しい方向性になっていることを確認した。クローニングの過程中に変異が起こらなかったことを確認するために、陽性クローンは、両方の方向性で配列決定した。この結果得られたクロマトグラムを、GenBank(受託番号NM_005467)から得たGNE配列と比較した。野生型はどんな変異も示さず、一方、M712Tクローン及びR266Qクローンは予測された点変異のみを含有していた(図2)。陽性pUMVC3−GNEクローンは、マキシプレップ(maxi prep)プラスミド精製法を用いてスケールアップし、変異が起きていないことを確認するために再度配列決定した。これらのDNAストックをその後のすべての実験に用いた。
【0056】
遺伝子タンパク質発現。プラスミドUMVC3−GNE DNAを、CHO−Lec3細胞に一時的に形質移入し、10%血清中で24時間培養し、その後、細胞を採取し、組換え体GNE発現があるかどうか分析した。GNEウエスタンブロットによって、未処置のLec3細胞(形質移入されなかった)はGNEを発現せず、様々なpUMVC3クローンで形質移入されたCHO−Lec3細胞は高レベルの組換え体GNEを発現することが示された(図3)。発現レベルは、GNEアイソフォームに関係なく、比較的同等であった。第2の実験では、CHO細胞が培地からシアル酸を組み込む能力を有するため、10%又は2.5%のウシ胎児血清(FBS)中で培養したCHO−Lec3細胞に形質移入を行った後、組換え体GNEを発現させた。この場合も、GNEタンパク質発現は、GNEアイソフォーム及びFBSの濃度に関係なく、比較的同等であった(図4)。
【0057】
wt−GNE mRNAの定量。CHO−Lec3細胞を10%血清中で培養し、それらに、24時間かけて、pUMVC3−GNE−wt DNAで一時的に形質移入し、発現された組換え体GNE RNAの量を定量した。全RNAを抽出し、RT−qPCRを行って、GNE転写産物由来の230bp断片を増幅した。pUMVC3−GNE−wtの系列希釈を用いて、形質移入されたLec3細胞で発現されたGNE−wtの濃度が4.1pg/μlに等しかったと決定した。qPCRのダイナミックレンジは、5ng〜5fgであり、対照(形質移入されていない)CHO−Lec3細胞では、GNE mRNA産物が検出されなかった(形質移入されていない細胞のcT値は42サイクル超であったが、これは5fg未満である)。したがって、組換え体GNE mRNA発現は、形質移入されたLec3細胞では検出されたが、形質移入されていない細胞は、検出可能な量のGNE mRNAを有していなかった(図5)。
【0058】
GNE酵素アッセイ。ウエスタンブロットアッセイに加えて、酵素活性に関しても、形質移入された細胞のペレットのアリコートをアッセイした。下記表2に示す通り、組換え体GNEタンパク質を有するLec3細胞又はこれを有しないLec3細胞で、エピメラーゼ活性及びキナーゼ活性の両方を定量した。
【0059】
【表2】

【0060】
Lec3細胞のみでは、エピメラーゼ活性及びキナーゼ活性は両方とも3mU/mg未満であり、これはバックグランド活性を示すものである。野生型、M712T又はR266Q GNEを発現する細胞は、それぞれ、平均で22、31及び26mU/mgのエピメラーゼ活性を有した。同じLec3試料は、平均で35、37及び33mU/mgのキナーゼ活性を示した。組換え体GNEを発現する細胞のすべてが、未処置の細胞より有意に高い酵素活性を有し、エピメラーゼ活性及びキナーゼ活性の両方に関してp値が0.006以下であった。3種の異なったGNEアイソフォーム間では、酵素活性に統計的な相違がなく、p値は0.11〜0.47の範囲にあった。
【0061】
シアル酸アッセイ。細胞表面のシアル酸発現に関しても、形質移入されたLec3細胞を試験した。R266Q GNEで形質移入されたLec3細胞は1.5倍多い量を有していたが、それを除いて、すべてのLec3試料が約6.0nmol/mgの膜結合シアル酸を有していた。R266Q変異体は、GNEのフィードバック阻害を欠失しており、細胞内シアル酸の過剰産生を引き起こすことが知られている。Lec3細胞は、シアル酸付加過少(undersialylated)のようであり、これは、野生型CHO細胞と比較して約100倍の野生型GNEの過剰発現によってではなく、シアル酸尿症変異体の発現によってのみ克服できた。
【0062】
野生型(wt)GNEとM712T GNEとの間では相違が観察されなかった。FBS由来のシアル酸によって欠陥のあるGNE経路がバイパスされうることが知られているので、これは、細胞培地からのシアル酸の取り込みによるものであった可能性が高い。この場合、野生型とM712Tとの間での相違がこのバイパスによって遮蔽されていたのかもしれない。それゆえ、培地中の血清(FBS)のパーセントを低減させることによって、細胞培養条件を改変した。下記表3に示す通り、血清レベルが低減するのに従って、シアル酸産生が低減し、2.5%FBSで顕著な低減が実証された。
【0063】
【表3】

【0064】
細胞培地が無血清条件に近づくにつれて、シアル酸レベルが低減し続けたが、細胞形態及び増殖特性は変化しなかった。Lec3細胞でGNE遺伝子形質移入の影響を試験するためには、2.5%FBS濃度の細胞培地が最適であると決定された。したがって、Lec3細胞を2.5%FBS中で培養し、pUMVC3−GNEクローンで形質移入した。GNE発現は、ウエスタンブロットで同時に確認した(図4)。シアル酸産生の有意な増大が実際に実証され、この場合も、R226Q変異体の影響が最も大きかった(図6:GNE−wtではp=0.0157;GNE R266Qではp=0.0566)。wt GNEとM712T GNEとの間でのわずかではあるが、有意な相違が観察された。これは、変異体のシアル酸再付加能力が野生型のものより低いことを示しており、HIBM筋におけるものに類似した作用機序を示唆している。
【0065】
筋機能の欠損をもたらしうる、筋膜におけるグリコシル化障害に関連した、GNE遺伝子内の変異が、HIBM2に関する研究によって明らかにされる。HIBM2におけるGNE活性の減失がシアル酸産生を損ない、複合糖質の適切なシアル酸付加を妨げていると考えられている。レクチンへの反応性も、一部の筋繊維で可変的であり、これは、筋内の低シアル酸付加及び異常なグリコシル化が患者の罹患筋組織における自己貪食液胞及び/又はアミロイド沈着物の局限的蓄積に寄与している可能性があると示唆している。以上の例は、GNE欠失CHO−Lec3細胞における、mRNA発現及びタンパク質発現用の新規なGNE遺伝子/CMVプロモータープラスミドの効果を実証するものである。このプラスミドが、GNE/MNK酵素機能と、それに続くシアル酸産生の誘導とを回復できることが示された。
【実施例2】
【0066】
外因性GNEのインビボ発現
以下の例は、本明細書に記載のGNEコード配列が、生存マウスに形質移入する能力、及びそのようなマウスの筋組織でGNE発現を刺激する能力を実証するものである。
【0067】
DNA:脂質複合体。この実施例で使用された物質には、pUMVC3−wt−DNA(図1)及び1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP):コレステロール(DOTAP:Chol,1,2-Dioleoyl-3-Trimethylammonium-Propane:Cholesterol)が含まれており、これらが、合わせて脂質ナノ粒子/DNA複合体に相当する。この実施例で使用されたDNA:脂質複合体は、DOTAP:Cholを試験DNA(野生型、M712T又はR266Q pUMVC3−GNE)と室温で混合することによって生成させた。DOTAP:Cholは、Avanti Polar Lipids社(米国Alabama州Alabaster所在)によって販売されている市販の脂質粒子である。望ましい全容積が得られるように、DOTAP:CholをpUMVC3−GNE DNAと混合した。全容積は、最終容積1μlあたり0.5μg DNA対、4mM DOTAP:Cholという最終比率を示した。
【0068】
筋肉内毒性。各セットが6匹のメスマウス及び6匹のオスマウスからなる1セットのマウス(週齢10〜12週、名目上20gのBALB/cマウス)に、(1)Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成した10μg(80μl)のGMP DNA、(2)Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成した40μg(80μl)のGMP DNA、又は(3)0μg(80μl)のGMP DNA(対照として働き、空のリポソーム及びPlasma-Lyte(登録商標)からなっていた)を与えた。もう1セットのマウスは、全く注射されず、追加の対照として働いた。単回の注射を行い、注射の2週間後にマウスを屠殺し、それらの臓器及び体液を採取した。毒性は、注射後24〜48時間、1週間及び2週間に評価した。毒性は、筋組織の血清化学プロフィール、CBC分析、総毒性及び免疫組織化学分析に基づいて評価した。
【0069】
図7に示す通り、上述した組成物を与えられたマウスはいずれも、注射後24時間、48時間、1週間又は2週間で毒性を示さなかった。
【0070】
静脈内毒性。各セットが6匹のメスマウス及び6匹のオスマウスからなる1セットのマウス(週齢10〜12週、名目上20gのBALB/cマウス)に、(1)Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成した10μg(200μl)のGMP DNA、(2)Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成した40μg(200μl)のGMP DNA、(3)Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成した100μg(200μl)のGMP DNA、又は(4)0μg(200μl)のGMP DNA(対照として働き、空のリポソーム及びPlasma-Lyte(登録商標)からなっていた)も与えた。静脈内投与を行い、投与の2週間後にマウスを屠殺し、それらの臓器及び体液を採取した。毒性は、注射後24〜48時間、1週間及び2週間に評価した。毒性は上述の通りに評価した。
【0071】
図8に示す通り、10μgのGMP DNAを与えたマウスはいずれも、注射後24時間、48時間、1週間又は2週間に毒性を示さず、2匹のメスマウスのみが投与後24時間に急性毒性を示した(他のすべての時点において、他のすべてのマウスが、毒性のどんな徴候も示さなかった)。再度、図8を参照すると、100μgを与えた3匹のメスマウスが投与後24時間で死亡し、別のメスマウスは投与後48時間で死亡した。6匹のオスはすべて投与後24時間で急性毒性を示した。しかし、これら6匹のマウスはすべて生き残り、投与後の48時間、1週間又は2週間には毒性の徴候を示さなかった。図9は、GMPグレードDNA(Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成したもの)を静脈内注射されたこれらのマウスの生存データを要約するものである。
【0072】
Plasma-Lyte(登録商標)と水との比較。GNEコード配列をその中に配置できる好ましい担体を特定するために、Plasma-Lyte(登録商標)と水との間における毒性の比較を行った。Plasma-Lyte(登録商標)は、静脈内投与に使用できる無菌の非発熱性等張液である。容積各100mLあたり、526mgの米国薬局方塩化ナトリウム(NaCl)、502mgのグルコン酸ナトリウム(C11NaO)、368mgの米国薬局方酢酸ナトリウム三水和物(CNaO・3HO)、37mgの米国薬局方塩化カリウム(KCl)及び30mgの米国薬局方塩化マグネシウム(MgCl・6HO)を含有している。Plasma-Lyte(登録商標)は、抗菌剤を含有していない。pHは、水酸化ナトリウムによって、約7.4(6.5〜8.0)に調整することが好ましい。
【0073】
図10〜12を参照すると、4匹のマウスからなる群に、Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成されたGMP−GNE 40μg、10μg又は0μgを筋肉内注射で与えるか(図10);Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成したGMP−GNE 100μg、40μg、10μg又は0μgを静脈内注射で与えるか(図11);或いは水中に再構成した100μg、40μg又は0μgのGMP−GNEを静脈内注射で与えた(図12)。水中に再構成したGMP−GNE(図12)と比較して、Plasma-Lyte(登録商標)中に再構成したGMP−GNE(図10〜11)は有意に改善された(より低い)毒性学的性質を示した。
【0074】
マウスにおけるGNE発現。各セットが4匹のマウスを含む、週齢10〜12週、名目上20gのBALB/cマウス3セットに、様々な量のGNEコード組成物、すなわち配列番号9によって表されるpUMVC3−wt−DNAコンストラクト(図1)及び1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP):コレステロール(合わせて上述の脂質ナノ粒子/GNEコード複合体に相当する)の筋肉内注射を施した。
【0075】
この例では、第1群には、0μgのGNEコードDNAを注射し、第2群には、10μgのGNEコードDNAを注射し、第3群には、40μgのGNEコードDNAを注射した。注射の2週間後にマウスを屠殺し、注射された筋組織を採取した。
【0076】
次に、全RNAを筋組織から収集した。次に、各試料中に含有されていたGNE mRNA転写産物の量を、GNE特異的なプライマーを用いて(そして、様々な量の既知濃度RNAを用いて標準曲線を作成し、これを、各試験試料中のGNE mRNAの定量的な量を推定するのに用いた)、RT−PCRを介して測定した。下記表4は、RT−PCRによって測定された平均のGNE mRNA量(ng)(3つの各群内の2匹のマウスから得られたもの)を要約したものである。
【0077】
【表4】

【0078】
これらのデータを、さらに図13に要約する。図13は、各群(0、10及び40μgのGNEコードDNA)に関して測定し、RNAが抽出された筋組織の総量に対して標準化したGNE mRNAの量を示す。図13に示す通り、GNEコードDNA 10μgの投与は有意なレベルのGNE発現をもたらし(0μgの試料と比較して182倍のGNE発現レベルの増大)、GNEコードDNA 40μgの投与はさらに大きなレベルのGNE発現をもたらした(0μgの試料と比較して1115倍のGNE発現レベルの増大)。これらのデータは、図14のゲルに示すPCR結果と一致する。
【0079】
本明細書に本発明の例示的な実施形態を記載したが、本発明が、記載されたものに限定されず、当業者ならば本発明の範囲又は趣旨から逸脱せずに他の様々な改変又は修正を行えることを理解するべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
系中でのシアル酸の産生を調節する方法であって、前記系に野生型GNEコード核酸配列を与えるステップを含む方法。
【請求項2】
野生型GNEコード核酸配列が、野生型GNEコード核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プロモーターがCMVプロモーターである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
野生型GNEコード核酸配列を系に注射し、前記系が哺乳動物の筋組織を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
野生型GNEコード核酸配列が、脂質ナノ粒子内に配置され、又は脂質ナノ粒子に連結されている、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
野生型GNEコード核酸配列が配列番号9からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
脂質ナノ粒子が、筋細胞又はその構成成分を認識し、それに結合することができる1又は複数の作用物質を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
系中で野生型GNEを産生する方法であって、前記系が変異型内因性GNEコード配列を含み、前記系に野生型GNEコード核酸配列を与えるステップを含む方法。
【請求項9】
野生型GNEコード核酸配列が、野生型GNEコード核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
プロモーターがCMVプロモーターである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
野生型GNEコード核酸配列を系に注射し、前記系が哺乳動物の筋組織を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
野生型GNEコード核酸配列が、脂質ナノ粒子内に配置され、又は脂質ナノ粒子に連結されている、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
野生型GNEコード核酸配列が配列番号9からなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
脂質ナノ粒子が、筋細胞又はその構成成分を認識し、それに結合することができる1又は複数の作用物質を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
遺伝性封入体ミオパチーの影響を治療し、予防し、又は寛解させる方法であって、患者に野生型GNEコード核酸配列を与えるステップを含む方法。
【請求項16】
野生型GNEコード核酸配列が、野生型GNEコード核酸配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プロモーターがCMVプロモーターである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
野生型GNEコード核酸配列を患者の筋組織に注射する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
野生型GNEコード核酸配列が、脂質ナノ粒子内に配置され、又は脂質ナノ粒子に連結されている、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
野生型GNEコード核酸配列が配列番号9からなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
脂質ナノ粒子が、筋細胞又はその構成成分を認識し、それに結合することができる1又は複数の作用物質を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
脂質ナノ粒子を患者に静脈内投与する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
系中で野生型GNEを発現させるための組成物であって、脂質ナノ粒子内に配置され、又は脂質ナノ粒子に連結されている野生型GNEコード核酸配列を含む組成物。
【請求項24】
脂質ナノ粒子が、筋細胞又はその構成成分を認識し、それに結合することができる1又は複数の作用物質を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
野生型GNEコード核酸配列が配列番号9からなる、請求項22に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−519184(P2010−519184A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549106(P2009−549106)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/001650
【国際公開番号】WO2008/097623
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(509223988)グラダリス インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】GRADALIS,INC.
【Fターム(参考)】