説明

シアン化水素酸の改善された生産プロセス

本発明は、アンモニアとメタンの反応によってシアン化水素酸を生産するための改善されたプロセスに関し、このプロセスでは、一般式R−S−(S)−R’に対応する少なくとも一つの硫黄含有化合物の少量を、反応性ガス混合物に、これが触媒の上を通過する前に添加し、式中のRおよびR’は、同一であり、または異なり、1から5個の炭素原子を含有する線状または分岐アルキルまたはアルケニルラジカルを表し、ならびにxは、1から5にわたる数である。本発明のプロセスは、HCNの向上された収率の獲得を可能にする。本発明のもう一つの目的は、結果として得られる生成物の、メチオニン、アセトンシアノヒドリン、アジポニトリルまたはシアン化ナトリウムを生産するための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化水素酸の製造に関するものであり、より詳細には、この一つの目的は、ポリスルフィドのファミリーに属する硫黄含有化合物、例えばジメチルジスルフィドを使用する、メタンに対するアンモニアの反応によるシアン化水素酸の改善された生産プロセスである。
【背景技術】
【0002】
シアン化水素酸HCNは、様々な合成経路において反応体として、または合成中間体として、多くの用途を有する。詳細には、これは、PMMA(Altuglas(登録商標)、Plexiglas(登録商標))などの熱可塑性ポリマーのベースモノマーである、メチルメタクリラートMMAの生産のための合成中間体である、アセトンシアノヒドリンの調製のための重要な反応体である。シアン化水素酸は、メチオニンの合成においても使用され、またはポリアミドPA−6,6(Nylon(登録商標))のおよび多くのキレート剤の合成中間体であるアジポニトリルを製造するためにも使用される。HCNの誘導体であるシアン化ナトリウムも化学工業において多くの用途を有する。
【0003】
シアン化水素酸HCNの現行の工業生産は、1930年代に始まったアンドリュッソー(Andrussow)法に主として基づく。このプロセスは、ロジウムめっき白金網から成る触媒を用いて空気および場合により酸素の存在下でメタンまたは天然ガスをアンモニアに反応させることに存する。反応CH+NH→HCN+3H(1)は、吸熱性であるので、空気の添加は、生成される水素の一部のおよび過剰なメタンの燃焼により、総体的に発熱性である系を得ること、および従って、外部からのエネルギー供給なしで合成反応を維持することを可能にする。
【0004】
アンモ酸化の名で知られているこの反応は、次の通りである:
CH4+NH3+3/2O2→HCN+3HO+熱(2)
このプロセスは、反応(1)および(2)に基づく。
【0005】
一定の不純物(鉄、硫黄など)による汚染に対する触媒の極度の感受性のため、原料の品質は、可能な限り良質でなければならない。高級炭化水素(エタンおよび特にプロパン)を最小限にしか含有せず、硫黄がない、90%より高い純度を有するメタンが、とりわけ使用される。アンモニアは、濾過され、蒸発され、および好ましくは油および鉄を含有しない。空気は、圧縮前に水で洗浄することによりそこから抽出されたダストを有する。
【0006】
3つの反応体(CH、NH、空気)が正確な化学量論比で混合される。結果として得られるガス流は、濾過された後、反応器に導入される。この反応器は、支持体上に配置されたロジウムめっき白金網から、および触媒との接触後、直ちにこれらの網を冷却することを可能にする急冷炉から成る。反応の開始は、これらの網に点火する電気抵抗システムによって行われる。この点火が行われると、反応の総合的な発熱によって、これらの網が約1050から1150℃で維持される。
【0007】
数ミリ秒または十分の一ミリ秒付近の接触時間、および約数メートル毎秒のガスの速度で、反応速度は非常に速い。それぞれの反応体の比率は、最大収率を得るように、および反応混合物の爆発範囲を避けるように、最適化される。
【0008】
反応は、導入されたアンモニアのモル数に対する生成されたシアン化水素酸のモル数として表して60から70%の収率を一般に達成し、メタンの転化は、ほぼ定量的である。シアン化水素酸選択性(反応したNHのモル数に対する生成されたHCNのモル数)は、一般に80から90%である。
【0009】
HCNのもう一つの生産プロセス、デグッサ(Degussa)プロセスは、酸素または空気が不在の状態で、約1300℃の温度で、上述の反応(1)に基づくものである。このときの反応は、白金で内部をコーティングした焼結アルミナチューブの中で行われ、チューブの束が炉内でガスによって加熱される。
【0010】
これらのプロセスでは、メタンに反応させるために導入されたアンモニアの一部分が、得られるHCNに参加せず、反応:
2NH→N+3H
に従って窒素および水素に分解されるか、不活性のままである(バイパス)。
【0011】
そこで、第一の精製段階は、硫酸での未転化アンモニアの中和に存する。このようにして生成された硫酸アンモニウムの溶液は、依然として存在するHCNの微量を除去するために水蒸気ストリッピングに付される。
【0012】
その後、NHのストリッピングに付されたガス中に含有されるHCNは、水に吸収される。この吸収塔の頂部には、不活性ガスおよび水素のみが主として残存し、これらが焼却炉に運ばれる。その後、HCNの水溶液は、蒸留される。頂部に存在するHCNは、低温で凝縮される。冷却された後にこの精製塔の底部に存在する水は、吸収装置に再循環される。このプロセスの最後に得られる生成物は、99重量%より高い純度を有する。
【0013】
これらのプロセスは、高純度生成物をもたらすが、アンモニアに対する収率は約60から70%の値にしか一般には達しないので、生産性の面で制限されるという欠点を有する。
【0014】
メタンに対するアンモニアの反応の収率を増加させるために、様々な溶液が調査されてきた。特許:US3 102 269では、HCNの合成の最初の数時間の間に揮発性硫黄を含有する化合物の少量を添加して、この触媒の活性期間を短縮することおよび選択性を増加させることが提案されている。好ましい化合物は、二硫化硫黄(CS)であるが、硫黄を含有する他の化合物、例えば、チオフェン、メルカプタン類、例えばメチル、エチル、プロピルもしくはブチルメルカプタン、チオエーテル類、例えばジメチルスルフィドもしくはジエチルスルフィド、または硫化水素を使用することもできる。硫黄含有化合物は、反応ガス混合物のmあたり2mgと200mgの間の硫黄含量と等価の量で添加され、2mg.S/mより少ない量は、望ましい活性化効果をもたらさず、より多い量、例えば500mgは、触媒にとって有害になる。硫黄5mg/mガスの当量のCSとしての2時間にわたる添加で、HCNの収率は61%から70%に動いた。
【0015】
報文:Journal of Catalysis,22,(1971),pages 269−279には、約1000時間の期間にわたってのHCNの通常の生産後、110時間の期間にわたってHSが100ppm添加されたことが示されている。これは、HCNの収率を4%増加させる効果を有し、同時に、ロジウムめっき白金網の温度は、20℃上昇された。
【0016】
さらに、メタン中に有意な量で、例えばSO、HS、メルカプタンまたはテトラヒドロチオフェンの形態で存在し得る硫黄(臭気剤)が、アンモ酸化反応に有害であることは公知である。硫黄が、白金/ロジウム合金の相図を、この融点を有意に低下させることによって変更すること、および従って、触媒の機械的特性を、これを脆化させてこの有効寿命を制限することによって変更することも公知である(Massalski,Binary Alloy Diagrams,ASM International,Materials Park Ohio−1991)。HCNプロセスに類似している報文:「The Manufacture of Nitric Acid」,extract from the journal「Platinum Metals Rev.,1967,11,(2),60−69」によると、まさにHCNプロセスと同様にロジウムめっき白金網を用いる酸素とアンモニアとの反応を製造に用いる硝酸の製造において硫黄含有化合物の存在を回避することが大いに推奨されている。このような硫黄含有化合物は、例えば、アンモニアを液化するために使用される圧縮機の潤滑剤中で見つけることができる。そのため、この潤滑剤中の硫黄含有化合物の量を5ppmに減少させることが、一般に推奨されている。同様に、アンモニアは、これが非合成源からのものである場合、相当な量の硫黄を含有することがあり、この硫黄を、この量が1または2ppmを超えないように、先ず除去しなければならない。さらに、アンモニアの酸化のために使用される空気は、そこからSOの気体不純物を抽出するために、一般には濾過される。
【0017】
アンモニアとメタンの反応における硫黄の役割は複雑に見え、一定の条件下では有益に見えるが、他の条件下では有害にも見える。さらに、文献における硫黄含有化合物の性質または用いられるこの量に関してのいずれのデータにも矛盾がある。
【0018】
アンドリュッソープロセスまたはデグッサプロセスによるシアン化水素酸の生産中に少量で添加される、ポリスルフィドのファミリーに属する硫黄含有化合物が、アンモニアに対するHCNの収率を有意に増加させることを、驚くべきことに、今般、発見した。この効果は、硫黄含有化合物が、ジメチルジスルフィドなどのジスルフィドであるとき、特に顕著である。HCN製造プロセスの収率の最小の増加(即ち、1から5%)であっても、生産性に関する利得の点で極めて有益な結果を有する。さらに、触媒の活性は、使用条件の関数として時間の経過と共に低下するので、HCN製造収率も、時間の経過と共に減少する傾向がある。従って、収率の増加を可能にするが、触媒の有効寿命を増加させて生産装置の採算性を向上させることも可能にする溶液の利点は、はっきりとわかる。
【0019】
反応の収率に対するジメチルジスルフィドの効果は、工業用装置において通例使用されるHSで得られるものより相当に大きいことが判明した。
【0020】
本明細書では以後DMDSで示す、またはメチルジチオメタンとしても公知であり得る、式HC−S−S−CHのジメチルジスルフィドは、多数の用途において使用される。詳細には、DMDSは、水素処理触媒を活性化するために製油所においてスルフィド化または予備スルフィド化剤として使用される。DMDSは、石油化学工業において水蒸気分解系統のコークのおよび一酸化炭素の形成を防ぐためにも使用される。これは、この耐食特性のためにファインケミストリーにおいてまたは治金において合成中間体として使用されることもある。
【0021】
今日まで、DMDSなどのジスルフィド、またはさらに一般的にポリスルフィドがシアン化水素酸の製造プロセスにおいて使用されたことは一度もなく、この効果は全く予想外である。本出願人は、いずれか一つの説明に拘束されないが、本出願人は、アンドリュッソープロセスのまたはデグッサプロセスの作動条件下でDMDSは様々な化学種に分解し、これらの化学種は、この機器設備内でのこれらの短い滞留時間のため平衡状態であり、その結果、触媒の効率、シアン化水素酸の収率が向上され、分解によるアンモニアの喪失が減少されると考えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許出願公開第3102269号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Journal of Catalysis,22,(1971),pages 269−279
【非特許文献2】Massalski,Binary Alloy Diagrams,ASM International,Materials Park Ohio−1991
【非特許文献3】「The Manufacture of Nitric Acid」,extract from the journal「Platinum Metals Rev.,1967,11,(2),60−69」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従って、本発明の一つの目的は、分解によるアンモニアの喪失を減少させることを可能にする、ならびにその結果として、より大きな生産能力および/またはより低い生産コストをもたらす、向上された収率を有する、シアン化水素酸の生産プロセスを提供することである。
【0025】
本発明の一つの目的は、触媒のより短い活性化時間および触媒のより長い使用時間を可能にする一方で、より長い間、同じ高収率を保持し、それによって生産装置の採算性を向上させることを可能にすることでもある。
【0026】
本発明の一つの目的は、単純であり、迅速であり(できる限り少ない段階を含む。)、実行が容易であり、および当業界における既存のシアン化水素酸製造装置に容易に適合させられる、シアン化水素酸の改善された製造プロセスを提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一つの主題は、メタン(または天然ガス)と、アンモニアと、場合により空気および/または酸素とを含むガス混合物を白金触媒の上に通す、シアン化水素酸を生産するためのプロセスであり、このプロセスは、一般式(I):R−S−(S)−R’に対応する少なくとも一つの硫黄含有化合物を前記ガス混合物に添加することを特徴とし、この式中のRおよびR’は、同一であり、または異なり、1から5個の炭素原子を含有する線状または分岐アルキルまたはアルケニルラジカルを表し、ならびにxは、1から5にわたる数である。
【0028】
本発明の一つの好ましい実施形態によると、メタン(または天然ガス)と、アンモニアと、空気と、場合により酸素とを含むガス混合物を、ロジウムめっき白金網から成る触媒の上に通す。
【0029】
本発明のもう一つの好ましい実施形態によると、メタン(または天然ガス)とアンモニアとを含むガス混合物を、白金で内部をコーティングした焼結アルミナチューブに、約1300℃の温度で通す。
【0030】
ラジカルRおよびR’の非限定的な例として、メチル、エチル、プロピル、アリルおよびプロペニルラジカルを挙げることができる。好ましくは、RまたはR’ラジカルは、メチル、エチルまたはプロピルラジカルである。式(I)の化合物の中で、xが1から3にわたるもの、好ましくはジスルフィド(x=1)およびさらに好ましくはジメチルジスルフィド(DMDS)が好ましい。
【0031】
ジメチルジスルフィド(DMDS)は、広範に入手できる製品であり;特に、Arkemaによって販売されている。
【0032】
本発明のプロセスは、式(I)に対応する硫黄含有化合物のある一定の量の添加を含むことを特徴とする。混合の上流で、原料、メタンもしくは天然ガス、アンモニア、または空気もしくは酸素のうちの少なくとも一つに、硫黄含有化合物を直接添加することができる。ガス流が触媒の上を通過する前に、ミキサーでまたはミキサーの下流で、ガス流の中のメタン/アンモニアまたはメタン/アンモニア/空気および/または酸素ガス混合物に、硫黄含有化合物を直接添加することもできる。本発明のプロセスに従って、これらの添加可能性のうちのたった一つのものを用いることができ、でなければこれらの様々な可能性のうちの幾つかを併用することができ、ことによると硫黄含有化合物をこのプロセスの1つ以上の注入地点で注入する。
【0033】
硫黄含有化合物の添加は、好ましくは、通常の反応過程の間に行うが、触媒の活性化段階(おおよそ24から48時間)の間にこれに添加することもできる。
【0034】
最適な硫黄レベルを維持するために、好ましくは、式(I)の硫黄含有化合物を継続的に添加する。機器設備の30日より長い作動期間にわたって硫黄含有化合物を継続的に添加することができる。
【0035】
ガス混合物に注入される式(I)の硫黄含有化合物の量は、導入されるメタンの容量に対する硫黄の容量によって表して5から500ppm、好ましくは硫黄5から200ppmおよびさらに特に5から100ppm、ならびにさらにいっそう優先的には、メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して5から50ppmにわたる。硫黄含有化合物のこれらの量は、本発明のプロセスから得られる生成物のその後の使用にいかなる有害な影響も及ぼさない。
【0036】
プロセスのすべての他の作動パラメータを、式(I)の硫黄含有化合物の添加を伴わないプロセスと比較して、一定に保つことができる。概して、アンドリュッソープロセスでは、およそ95%の純度を有するメタンが使用され、CH/NHモル比は、1.0から1.2にわたり、(CH+NH)/全Oモル比は、1.5から2、好ましくは1.6から1.9にわたり;圧力は、一般に1から2バールであり、反応温度は、1050℃と1150℃の間である。
【0037】
一定に保たれるパラメータ(原料の純度、一定モル比、一定温度および圧力、一定滞留時間など)のこれらの条件下での、DMDSなどの、式(I)の硫黄含有化合物の効果は、結果として、導入されるアンモニアに対して1から5%のHCNの収率の増加、アンモニアの分解度の低下に関連した選択性の増加、および10から40℃の触媒の温度の上昇をもたらす。有利には、適切な場合には、導入される酸素の量を減少させることができ、メタンおよびアンモニアも減少させることができ、その結果、生産性が増加することとなる。
【0038】
本発明のプロセスは、HSなどの毒性ガスの使用をなくすことができ、およびこのプロセスの条件下で容易に蒸発させることができる非毒性液体製品(約110℃の沸点)を要する。DMDSなどの、式(I)の硫黄含有化合物は、最終生成物の補足的精製段階を必要とすることなく、使用する触媒の生産性を有意に向上させることができる。HSの使用とは異なり、本発明のプロセスに従って得られる生成物には、HSなどの硫黄含有化合物がなく、生成物は、硫黄の存在が望ましくない任意の後続のプロセス、例えばアセトンシアノヒドリンを調製するためのプロセスにおいて直接使用することができる。
【0039】
驚くべきことに、DMDSなどの、式(I)の硫黄含有化合物は、HSまたはジメチルスルフィド(DMS)などの他の硫黄含有化合物より、特に、ロジウムめっき白金網の脆性または金属の喪失の観点から、触媒に対して長期的悪影響を殆ど及ぼさないことがさらに観察された。従って、触媒を、交換前に実質的により長い間、使用することができる。
【0040】
本発明は、アンモニアとメタン(または天然ガス)の反応によりシアン化水素酸を生産するためのプロセスにおける、前記プロセスの収率を増加させるための、有効量での、一般式(I):R−S−(S)−R’に対応する少なくとも一つの硫黄含有化合物の使用にも関し、この式中のRおよびR’は、同一であり、または異なり、1から5個の炭素原子を含有する線状または分岐アルキルまたはアルケニルラジカルを表し、ならびにxは、1から5にわたる数である。
【0041】
本発明のプロセスから直接得られる生成物は、メチルメルカプト−プロピオンアルデヒド(MMP)との反応によるメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体の生産にも有利に使用される。
【0042】
化学式CH−S−(CH−CH(NH)−COOHのメチオニン、即ち2−アミノ−4−(メチルチオ)酪酸は、メチオニン必要量が有意である、特に家禽の、食物摂取の補足物として必要とされる、動物によって合成されない、必須アミノ酸である。化学合成経路によって得られるメチオニンは、動物用飼料のための、主として家禽のための、天然由来供給物(魚粉、大豆ミールなど)の代用品として定評がある。
【0043】
他のアミノ酸とは異なり、メチオニンは、右旋形(dまたは+)ででも、左旋形(lまたは−)ででも生体吸収され得、これが、ラセミ生成物を生じさせる結果となる化学合成の開発を可能にした。それ故、合成メチオニンの市場は、主として、dl−メチオニン、通常はDLMで示される固体製品のものである。事実上定量的にメチオニンにインビボで変換されるという特有の特徴を有する、化学式CH−S−(CH−CH(OH)−COOHの2−ヒドロキシ−4−(メチルチオ)酪酸に対応するメチオニンの液体誘導体、α−ヒドロキシ酸も存在する。この液体製品は、88重量%水溶液の形態で市販されており、一般にはメチオニンのヒドロキシ類似体で示される。
【0044】
メチオニンまたはこのヒドロキシル化誘導体に関して非常に多くの合成が記載されているが、工業的に活用されている化学プロセスは、同じ主原料および同じ重要中間体、即ち:
3−(メチルチオ)プロパナールまたはメチルチオプロピオンアルデヒド(MTPA)でも示される、メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)をもたらす結果となる、アクロレインおよびメチルメルカプタン(MSH);
MMPとの反応後、最終的にメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体をもたらす、シアン化水素酸またはシアン化ナトリウム(NaCN)
に、本質的に基づく。
【0045】
報文:Techniques de l’Ingenieur,traite Genie des Procedes[Treatise on Process Engineering],J 6−410−1から9を参照することができ、この報文には、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよびシアン化水素酸を中間生成物として使用するメチオニンの合成プロセスについての工業的加工条件が記載されており、これらのプロセスのうちの一つは、ことによると、次の反応によって概略的に示される:
S+CHOH→CHSH+H
CHSH+CH=CH−CHO→CH−S−CH−CH−CHO
CH−S−CH−CH−CHO+HCN→CH−S−CH−CH−CH(OH)−CN
CH−S−CH−CH−CH(OH)−CN+NH→CH−S−CH−CH−CH(NH)−CN
CH−S−CH−CH−CH(NH)−CN+2HO+H→CH−SCH−CH(NH)−COOH。
【0046】
有利には、本発明によるプロセスから直接得られる生成物は、反応:
CH−C(O)−CH+HCN→(CHC(OH)CN
に従って、アセトンとの反応によりアセトンシアノヒドリンを生産するためにも使用される。
【0047】
アセトンシアノヒドリンは、下に概略的に示す2つの経路に従ってメチルメタクリラート(MMA)を生産するための中間化合物である。第一の経路は、α−オキシイソブチラミドモノスルファートを形成、これをメタクリルアミドスルファートに転化させることに存する。その後、この後者のメタクリルアミドスルファートを加水分解し、メタノールでエステル化して、メチルメタクリラートを形成する。
【0048】
第二の経路は、メタノールと直接反応させること、その後、脱水反応を用いてメチルメタクリラートを生じさせることに存する。
【0049】
報文:Techniques de l’Ingenieur,traite Genie des Procedes[Treatise on Process Engineering],J 6−400−1から6を参照することができ、この報文には、アセトンシアノヒドリン経路によるメチルメタクリラートの生成プロセスについての工業的加工条件が記載されている。
【0050】
【化1】

【0051】
有利には、本発明のプロセスから直接得られる生成物は、反応:
CH=CH−CH−CH+2HCN→NC−(CH−CN
に従ってブタジエンと反応させることによるアジポニトリルの生産にも使用される。
【0052】
アジポニトリルは、水素化後、結果としてヘキサメチレンジアミンとなり、このヘキサメチレンジアミンは、ヘキサメチレンジアミンアジピン酸の重縮合によるポリアミドPA−6,6(Nylon(登録商標))の生産のための中間化合物である。
【0053】
報文:Techniques de l’Ingenieur,traite Genie des Procedes[Treatise on Process Engineering],J 6−515−1から7を参照することができ、この報文には、この経路によるポリアミドPA−6,6の合成が記載されている。
【0054】
有利には、本発明のプロセスから直接得られる生成物は、反応:
HCN+NaOH→NaCN+H
に従って水酸化ナトリウムで中和することによるシアン化ナトリウムの生産にも用いられる。
【0055】
シアン化ナトリウムは、多くの用途、特に、貴金属の抽出、電気めっきまたは化合物の合成のための用途を有する。
【0056】
以下の実施例は、本発明を例証するものであるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
実施例
(実施例1)
硫黄含有化合物を有さず、メタンの滴定濃度95容量%を有する、天然ガス(NG)を、アンモニア、空気および酸素と、1.16のCH/NH容量比および1.70の(CH+NH)/全O容量比で混合する。NGの流量は、4000kg/時である。この混合物を送って15のPt/Rh(90/10)網の床に通す。アンモニアに対するHCNの収率は、48時間後に68.0%で安定し、このときの温度は、約1060℃である。
【0058】
メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して10ppmの量でDMDSを添加する。非常に急速に、収率が70.0%に上昇し、出口でのNおよびHガスの分析から決定されるアンモニアの分解度は、2%降下し、ならびに網の温度は、+10℃上昇する。DMDSを継続的に注入し、この注入が、60日より長い間の性能の維持を可能にする。DMDSの注入の停止は、収率の漸進的降下を生じさせる。生成される純粋なHCNは、硫黄含有化合物を含有しない。
【0059】
(実施例2)
メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して125ppmの量でDMDSを添加することを除き、実施例1と同じ手順に従う。非常に急速に、収率は、73.0%に上昇し、アンモニアの分解度は、4%降下し、および網の温度は、+40℃上昇する。DMDSを継続的に注入し、この注入が、50日より長い間の性能の維持を可能にする。生成される純粋なHCNは、硫黄含有化合物を含有しない。
【0060】
(実施例3(比較例))
DMDSの代わりにHSを添加することを除き、実施例1と同じ手順に従う。メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して100ppmの量でHSを添加する。HCNの収率は、1.0%しか上昇せず、アンモニアの分解度および網の温度は、実質的に変わらないままである。さらに、生成される純粋なHCNは、下流の適用に有害であるHSの微量を含有する。
【0061】
(実施例4)
硫黄含有化合物を有さず、メタンの滴定濃度95容量%を有する、天然ガス(NG)を、アンモニア、空気および酸素と、1.16のCH/NH容量比および1.73の(CH+NH)/全O容量比で混合する。NGの流量は、4100kg/時である。この混合物を送って18のPt/Rh(90/10)網の床に通す。アンモニアに対するHCNの収率は、50日間の実行後に67%であり、このときの温度は、約1060℃である。
【0062】
メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して15ppmの量でDMDSを添加する。非常に急速に、収率が69%に上昇し、アンモニアの分解度は、3.5%降下し、網の温度は、+10℃上昇する。
【0063】
DMDSの注入の停止は、67%への収率降下、3.5%のアンモニアの分解度上昇、および10℃の温度降下を生じさせる。
【0064】
メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して25ppmの量でDMDSを再び注入する。非常に急速に、収率は、69%に上昇し、アンモニアの分解度は、3.5%降下し、および網の温度は、10℃上昇する。
【0065】
(実施例5)
実施例1から4からのもの以外の反応器において、硫黄含有化合物を有さず、メタンの滴定濃度97容量%を有する、天然ガス(NG)を、アンモニア、空気および酸素と、1.09のCH/NH容量比および1.95の(CH+NH)/全O容量比で混合する。NGの流量は、3120kg/時である。この混合物を送って20のPt/Rh(90/10)網の床に通す。アンモニアに対するHCNの収率は、1週間の作動後に64.0%で安定する。メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して10ppmの量でDMDSを添加する。非常に急速に、収率が67.0%に上昇し、アンモニアの分解度は降下し、網の温度は上昇する。DMDSを継続的に注入し、この注入は、アンモニアの流量および天然ガスの流量の変化にもかかわらず、60日間、少なくとも67%での収率の維持を可能にする。メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して20ppmにDMDSの濃度を上昇させることによっても、尚、68%の収率が得られる。DMDSの注入の停止は、収率の降下を生じさせる。
【0066】
(実施例6)
メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して20ppmの量でDMDSを混ぜた(doped)、硫黄含有化合物を有さず、メタンの滴定濃度94容量%を有する天然ガス(NG)を、アンモニア、空気および酸素と、1.15のCH/NH容量比および1.76の(CH+NH)/全O容量比で混合する。NGの流量は、3840kg/時である。この混合物を送って20のPt/Rh(90/10)網の床に通す。アンモニアに対するHCNの収率は、66.5%であり、このときの温度は、約1060℃である。
【0067】
DMDSの注入の停止は、64%への収率の降下、3.5%のアンモニア分解度の上昇、および10℃の温度降下を生じさせる。
【0068】
次に、メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して3ppmの量でHSを添加する。HCNの収率は、1.0%未満上昇し、アンモニアの分解度および網の温度は、実質的に変わらないままである。
【0069】
Sの注入停止は、64%への収率の小さな降下を生じさせる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン(または天然ガス)と、アンモニアと、場合により空気および/または酸素とを含むガス混合物を白金触媒の上に通す、シアン化水素酸を生産するためのプロセスであって、一般式(I):R−S−(S)−R’(式中、RおよびR’は、同一であり、または異なり、1から5個の炭素原子を含有する線状または分岐アルキルまたはアルケニルラジカルを表し、ならびにxは、1から5、好ましくは1から3にわたる数である。)に対応する少なくとも一つの硫黄含有化合物をガス混合物に添加することを特徴とするプロセス。
【請求項2】
ラジカルRおよびR’が、メチル、エチルまたはプロピルラジカルから選択されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
硫黄含有化合物が、ジスルフィド、好ましくはジメチルジスルフィドであることを特徴とする、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
硫黄含有化合物が、混合の上流で、原料、メタンもしくは天然ガス、アンモニア、または空気もしくは酸素のうちの少なくとも一つに直接添加されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
硫黄含有化合物が、ミキサーでガス混合物に直接添加されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
硫黄含有化合物が、ガス流へのガス混合物に、このガス流が触媒の上を通過する前にミキサーの下流で添加されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
添加される硫黄含有化合物の量が、メタンの容量に対する硫黄の容量によって表して5から500ppm、好ましくは、メタンの容量に対する硫黄の容量で5から100ppmにわたることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
硫黄含有化合物が、継続的に注入されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
アンモニアとメタン(または天然ガス)の反応によりシアン化水素酸を生産するためのプロセスにおける、前記プロセスの収率を増加させるための、有効量での、一般式(I):R−S−(S)−R’(式中、RおよびR’は、同一であり、または異なり、1から5個の炭素原子を含有する線状または分岐アルキルまたはアルケニルラジカルを表し、ならびにxは、1から5にわたる数である。)に対応する少なくとも一つの硫黄含有化合物の使用。
【請求項10】
メチルメルカプトプロピオンアルデヒドとの反応によりメチオニンまたはメチオニンのヒドロキシ類似体を生産するための、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセスから直接得られる生成物の使用。
【請求項11】
アセトンとの反応によりアセトンシアノヒドリンを生産するための、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセスから直接得られる生成物の使用。
【請求項12】
ブタジエンとの反応によりアジポニトリルを生産するための、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセスから直接得られる生成物の使用。
【請求項13】
水酸化ナトリウムでの中和によりシアン化ナトリウムを生産するための、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセスから直接得られる生成物の使用。

【公表番号】特表2011−515316(P2011−515316A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500276(P2011−500276)
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050472
【国際公開番号】WO2009/125101
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)