説明

シアン汚染土壌の復元方法

【課題】 シアン汚染土壌の復元方法を提供する。
【解決手段】 シアンで汚染された土壌を復元し、シアンを処理するためのものであって、固体状態の第1シアンとガスまたは溶存状態の第2シアンで汚染された土壌を収集する収集ステップと、土壌をアルカリ性の洗浄液と混合することによって、固体状態の第1シアンは洗浄液に溶解させ、溶存状態の第2シアンは、土壌から分離して洗浄液に移動させるシアン分離ステップと、洗浄液と土壌とを相互分離する固液分離ステップと、シアンを含んでいる洗浄液を酸性化することによって、第1シアンを再び固体状態に沈殿させる第1シアン沈殿ステップと、固体状態に沈殿された第1シアンと洗浄液とを分離して処理する後処理ステップと、を含んでなることを特徴とするシアン汚染土壌の復元方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された土壌の復元方法に係り、特にシアンで汚染された土壌を復元して土壌内のシアンを処理するためのシアン汚染土壌の復元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン(cyanide)は、鉱業、金属表面処理、アルミニウムと鉄の生産、農薬製造など多様な分野で使われており、2001年基準に世界的に95万トンが生産されたと報告されている。
【0003】
シアンは、人体や生態系に悪影響を及ぼすが、例えば、KCNまたはNaCNが経口的に体内に入れば、胃酸によりHCNを遊離させ、HCNが粘膜、肺などの体内に吸収されれば、ヘモグロビンの酸素運搬作用を阻害する。これにより、一定量以上のシアンが体内に吸収されれば、呼吸困難、呼吸マヒなどの症状が現れうる。このように、シアンは人体や生態系に悪影響を及ぼすところ、水質基準に0.01mg/L以下に廃水排出基準を定めており、土壌環境保全法でも、土壌内のシアン含有量を2mg/kg以下の基準に定めて規制している。
【0004】
しかし、メッキ工場、金属処理工場などでシアンが漏れたり、基準値以上のシアン含有廃棄物が投棄されることによって、かなり広い範囲で土壌が汚染されたところ、シアン汚染土壌の復元が要請されるといえる。
【0005】
シアン汚染土壌の浄化は、常温酸化、高温分解、生物学的分解など多様な工法が開発されて現場に適用している。生物学的分解は低コスト工法であって、経済性が高いが、長期間がかかるという短所がある。高温分解工法は、高濃度でありつつ溶解度の低いシアンで汚染された土壌を対象に適用するが、処理効率は高いが、高温の環境で進まねばならないので、高コストがかかるところ、大規模の土壌を処理するには短所がある。常温酸化工法は、高温分解工法に比べて低コスト工法であって、低濃度でありつつ分解の容易なシアンで汚染された土壌には適しているが、高濃度のシアンや固体状態のシアンに対しては適していないという問題点がある。
【0006】
すなわち、常温酸化工法は過酸化水素、オゾンなどの酸化剤を汚染された土壌に注入してシアンを分解する工法であるが、土壌に注入された過酸化水素、オゾンなどの酸化剤は、溶解度の低い固体形態のシアンとFe(CN)4−などのSAD(Strong Acid Dissociable)CNに対する分解能が非常に低いと知られている。ところが、土壌に含まれているシアンのほとんどは固体状態のSADであるところ、常温酸化工法を通じてシアン汚染土壌を復元するのには多くの限界点があった。
【0007】
また低濃度の分解が容易なシアンの処理においても問題点がある。すなわち、土壌に注入された酸化剤はシアン分解に消耗されるだけではなく、土壌に含まれた有機物、酸化マンガン、硫化鉱物によっても相当量が消耗される。これにより、実質的にシアンの処理に必要な酸化剤の要求量に比べて、はるかに多くの酸化剤を汚染された土壌に注入して始めて、所望の程度の処理が行われうる。
【0008】
これにより、常温で低コストで短時間にシアン汚染土壌を復元できる工法の開発と現場適用が要請されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記問題点を解決するためのものであって、土壌に含まれたシアンを常温で経済的に処理できるだけではなく、特に溶解度の低い固体形態のシアンを土壌から効果的に除去できるシアン汚染土壌の復元方法を提供するところにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための本発明によるシアン汚染土壌の復元方法は、シアンで汚染された土壌を復元し、シアンを処理するためのものであって、固体状態の第1シアンとガスまたは溶存状態の第2シアンで汚染された土壌を収集する収集ステップと、前記土壌をアルカリ性の洗浄液と混合することによって、前記固体状態の第1シアンは前記洗浄液に溶解させ、前記溶存状態の第2シアンは、前記土壌から分離して前記洗浄液に移動させるシアン分離ステップと、前記洗浄液と前記土壌とを相互分離する固液分離ステップと、前記シアンを含んでいる洗浄液を酸性化することによって、前記第1シアンを再び固体状態に沈殿させる第1シアン沈殿ステップと、前記固体状態に沈殿された第1シアンと前記洗浄液とを分離して処理する後処理ステップと、を含んでなることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、前記固液分離された洗浄液に酸化剤を添加して前記第2シアンを酸化させた後、前記洗浄液を酸性化させて前記第2シアンを除去する第2シアン除去ステップをさらに備えることが望ましい。
【0012】
また本発明によれば、前記シアン分離ステップで、前記洗浄液のpHは9〜12であることが望ましく、さらに望ましくは、11〜12である。
【0013】
また本発明によれば、前記洗浄液は燐酸塩溶液であって、ピロリン酸(P4−)を含み、その濃度は、30〜50mMであることが望ましい。
【0014】
また本発明によれば、前記第1シアン除去ステップで、硫酸溶液を投入して前記洗浄液を酸性化し、前記洗浄液に鉄イオンを添加することが望ましい。
【0015】
また本発明によれば、前記スラッジ除去ステップ後、前記洗浄液のpHと燐酸塩濃度とを調整して、再び前記シアン分離ステップでリサイクルすることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるシアン汚染土壌の復元方法は、既存の低コスト工法である常温酸化法では処理が困難であった固体状態のシアンを土壌から効果的に分離できるだけでなく、常温状態で工程が行われるので、既存の高コスト工法に比べて経済的にシアンを除去できるという長所がある。
【0017】
また本発明では、洗浄液を利用して優先的に土壌からシアンを分離する工程を導入して、シアン(洗浄液)のみ対象として後続工程を行うことによって、工程全体にかけて汚染土壌自体を対象として汚染物を処理する既存の方法における非効率性を除去した。
【0018】
また土壌からシアンを分離することによって、既存の常温酸化法などで有機物、硫化鉱物、酸化マンガンなどによる酸化剤消耗問題を解決したところ、経済的かつ効率的なシアンの除去が可能であった。
【0019】
そして、本発明ではシアンを処理するのに使われた処理液を再びリサイクルすることによって、シアン処理による2次汚染の問題が発生しなくて環境にやさしいという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の望ましい実施形態によるシアン汚染土壌の復元方法の概略的なフローチャートである。
【図2】シアンの存在形態を示す表である。
【図3】シアン分離ステップで、各形態の燐酸塩溶液の時間による総シアン溶出量を示すグラフである。
【図4】アン分離ステップで、多様なpHの燐酸塩溶液の濃度による総シアン溶出量を示すグラフである。
【図5】本発明の望ましい実施形態によるシアン汚染土壌の復元方法についての実験の結果を示す表であって、洗浄液を通したシアン分離ステップを行った結果を示す。
【図6】本発明の望ましい実施形態によるシアン汚染土壌の復元方法についての実験の結果を示す表であって、第1シアン沈殿ステップと第2シアン除去ステップ及び残留シアン除去ステップとを行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照して、本発明の望ましい実施形態によるシアン汚染土壌の復元方法についてさらに詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の望ましい実施形態によるシアン汚染土壌の復元方法の概略的なフローチャートであり、図2は、シアンの存在形態を示す表である。図1を参照すれば、本発明の望ましい実施形態によるシアン汚染土壌の復元方法100はシアン分離ステップ20、固液分離ステップ30、第1シアン沈殿ステップ41、第2シアン除去ステップ42及び残留シアン除去ステップ50を含む。
【0023】
本発明によるシアン汚染土壌の復元方法100を施行するために、まず収集ステップ10を行う。収集ステップ10では、掘削機などを利用してシアンで汚染された土壌を収集する。シアン汚染土壌は、主に鉱業関連工場、メッキ工場、アルミニウムや鉄の生産工場の周辺に分布されている。
【0024】
図2を参照すれば、シアンは土壌内に多様な形態に存在する。すなわち、シアンは土壌で固体状態、溶存状態及びガス状態で存在でき、性質を中心に区別すれば、WAD(Weak Acid Dissociable)シアン、SAD(Strong Acid Dissociable)シアン及び自由シアンに大別できる。
【0025】
すなわち、自由シアンは、ガス状態または水溶液でイオン状態のCNの形態に存在し、ガス状態のHCNは水に非常に容易に溶解される。WADシアンは、Cu(CN)2−、Zn(CN)2−のように金属とシアンが結合された形態であるが、金属とシアンとの結合力が低くてpH4〜6の環境で容易に溶解される特性があるところ、周囲環境によって固体状態と溶存状態との間で容易に形態変更できる。SADシアンは、Fe(CN)4−、Au(CN)のように鉄、コバルト、白金などの重金属とシアンとが結合された形態であるが、WADとは異なって金属とシアンとの結合力が非常に強くて、酸に対する溶解度が非常に低く、pHがほぼ2以下である酸のみで溶解されるので、中性及び酸性環境では安定して固体状態で存在する。
【0026】
すなわち、WADシアンと自由シアンの場合、主にガス状態と溶存状態とで存在する場合が多く、SADシアンの場合、固体状態で存在する場合が多い。このような差は、溶解度特性に起因したものである。
【0027】
以下、本明細書では説明の便宜のために固体状態のシアンを第1シアンと称し、ガス状態と溶存状態とのシアンを第2シアンと称する。ここで、第1シアンは、ほとんどSADシアンであるが、環境条件によって固体形態に存在するWADシアンも含む概念として使われ、同様に、第2シアンは、WADシアンと自由シアンとが大部分であるが、環境条件によって一部のSADシアンを含むこともある。
【0028】
前記のように、シアンは、土壌内で固体状態の第1シアンと溶存状態及びガス状態の第2シアンとに存在できるが、実質的に土壌中のシアンの大部分は固体状態の第1シアンであり、第2シアンは微量のみ存在する。これにより、収集ステップ10で掘削された土壌には、第2シアンに比べて固体状態の第1シアンが非常に大きい含有量を占めている。特に、第1シアンの中でもFe[Fe(CN)、Fe[Fe(CN)、Fe[Fe(CN)]、Fe[Fe(CN)]などの鉄−シアン化合物が最も多く存在し、これらの鉄−シアン化合物は、土壌孔隙数のシアン濃度を調節する物質として知られている。
【0029】
土壌を収集した後には、土壌からシアンを分離するシアン分離ステップ20を行う。シアン分離ステップ20では、洗浄液を使用して土壌から第1シアンと第2シアンとを分離せねばならないが、前記のように、固体状態の第1シアンは酸性または中性環境では溶解度が非常に低い一方、下記の式(1)、(2)に示したように、アルカリ性溶液に対しては溶解度が非常に高いほうである。
【0030】
Fe4[Fe(CN)3(s)+12HO=4Fe(OH)3(s)+3Fe(CN)3−+3+12H (1)
3Fe[Fe(CN)3(s)+32HO⇔4Fe(OH)8(s)+5Fe(CN)4−+32H (2)
これに第1シアンとアルカリ性洗浄液とが合えば、第1シアンは固体状態の撤収酸化物とイオン状態の鉄シアン化物とに分離され、イオン状態の鉄シアン化物は洗浄液に溶存する。
【0031】
一方、土壌内に溶存状態で存在する第2シアンは、酸化マンガン、酸化鉄、土壌有機物などの表面に、電気的な力によって吸着された状態で存在する。酸化鉄、酸化マンガン、土壌有機物は周辺のpHによって表面電荷が変わるが、これらはゼロ電荷点(Point of Zero Charge、PZC)より低いpHでは正電荷を表し、PZCより高いpHでは負電荷を表す。例えば、酸化鉄の表面電荷が0になる環境は、pHが7〜9ほどであり、酸化マンガンはpH3〜7であり、土壌有機物は3であるので、pH9以上の環境では、酸化鉄、酸化マンガン、土壌有機物の表面電荷がいずれも負電荷を帯びる。結局、低いpHの酸性または中性環境で、表面に正電荷を帯びていた酸化鉄、酸化マンガン、土壌有機物がアルカリ性の洗浄液と混合されれば、周辺環境がアルカリ性(特にpH9以上)に変わるので、その表面も負電荷を帯びるようになる。
【0032】
酸性条件では、酸化鉄、酸化マンガン、土壌有機物がその表面に正電荷を帯びていて、陰イオンで形成されたシアンイオンと電気的に吸着できたが、周辺環境がアルカリ性条件に変わりつつ電気的結合力が解除されて、シアンイオンは酸化鉄から分離されて洗浄液に移動する。
【0033】
すなわち、アルカリ性洗浄液をシアン汚染土壌と混合すれば、固体状態の第1シアンは溶解されて洗浄液内に溶存し、酸化鉄などに電気的に吸着されていた第2シアンは、電気的吸着力を失って酸化鉄から分離されて洗浄液に移動する。第1シアンでイオンにより溶出された鉄シアン化物も瞬間的に酸化鉄などに吸着できるが、終局には第2シアンと同様に電気的吸着力を失って洗浄液に溶ける。
【0034】
一方、土壌内の自由シアンは微量で存在するが、pH9.24未満では猛毒性のHCNが優れ、pH9.24以上ではCN形態が優れるが、猛毒性のHCNは揮発性が強くて、HCNガスが発生する危険があるところ、シアン汚染土壌の処理環境が有毒になりうる。これにより、シアン分離ステップ20はpH9以上の環境、すなわち、洗浄液のpHが9以上であることが望ましく、特にpH11以上では、大部分の自由シアンがCNに存在するので、処理環境の安定性を保証できる。
【0035】
まとめれば、シアン分離ステップ20で第1シアンが溶解できる条件はアルカリ性であり、酸化鉄などに電気的に吸着されているシアンイオンを分離するためにはpHが9以上であることが望ましく、作業環境の安定性のためにはpHが11以上であることが望ましい。結局、かかる条件をいずれも満たすためには、洗浄液はpH11以上のアルカリ性溶液を使用することが望ましい。但し、本発明において、最も重要な点は、固体状態の第1シアンを溶解させることであるため、洗浄液の必要条件はアルカリ性であればよく、さらに望ましくはpH9以上であり、最上の条件はpHが11以上である。ただし、pHが12を超過する場合は、pH11の条件と比較する時、第1シアンの溶解及び作業環境の安定性をあまり向上させられずに処理コストのみ高めるため、望ましくない。
【0036】
本実施形態では、アルカリ性洗浄液としてpH11以上の燐酸塩溶液を使用した。すなわち、燐酸塩溶液中の燐酸イオンは金属イオンと可溶性錯鹽とを形成する力が強いところ、酸化鉄、酸化マンガン、土壌有機物などに容易に結合され、燐酸イオンが酸化鉄などに結合されれば、全体的に負電荷を帯びるようになって、酸化鉄などに電気的に吸着されていたシアンイオンの分離を加速化させることができる。さらに具体的には、ピロリン酸ナトリウム(Na・nHO)を使用するが、ピロリン酸ナトリウムはオルトリン酸塩やヘキサメタリン酸に比べて燐酸イオンの数が多くてシアンイオンの分離をさらに促進できる。
【0037】
本出願人は、リン酸ナトリウムを洗浄液として使用した時、土壌中のシアンがよく溶出されるかについて実験した。
【0038】
すなわち、Na−orthophosphate(オルトリン酸塩)、Na−hexametaphosphate(ヘキサメタリン酸)、Na−pyrophosphate(ピロリン酸)を利用して燐酸の濃度が0〜100mMである範囲で燐酸塩溶液を製造し、0.1N NaOHまたは0.1N HClを利用して、溶液のpHが10、11、12になるように調節した。次いで、シアン汚染土壌4gとpH10、50mMの燐酸塩溶液40mlを24時間反応させつつ、反応時間による総シアンの溶出量を測定し、その結果が図3に示されている。
【0039】
また、シアン汚染土壌4gとpH10−12、0〜100mMの燐酸塩溶液40mlとを24時間反応させた後、シアンの濃度とpHとを測定し、その結果が図4に示されている。シアンの濃度は、米国材料試験学会(ASTM、American Society for Testing Materials)の方法を使用した。
【0040】
図3及び図4を参照すれば、Na−orthophosphate(オルトリン酸塩)溶液及びNa−hexametaphosphate(ヘキサメタリン酸)溶液に比べて、Na−pyrophosphate(ピロリン酸)溶液でシアンの溶出量が多かった。特に、ピロリン酸の場合、反応初期100分までシアンの溶出量が急増し、100分後には緩やかな増加量を示した。
【0041】
24時間反応後に溶出された総シアンの90%以上はSADシアンであり、WADシアンは10%未満を占め、自由シアンは微量で存在すると確認され、これは土壌内の形態別シアンの含有量とほぼ同じ結果である。また溶出実験を通じて土壌内のシアンがほぼ溶出されたと確認された。24時間反応後に溶出されたシアンは、燐酸の濃度とpHとが増加するほど増加した。
【0042】
また燐酸塩溶液のpHが12である場合には、燐酸の濃度が30mMまで増加しつつシアン溶出量が急増したが、pH10、11では燐酸の濃度が50mMまで増加した後、シアンの溶出量が急増した。これに、溶液のpH別に燐酸の濃度を30〜50mMの濃度範囲で最適化させて、シアンを経済的に溶出させることができる。
【0043】
前記のように、シアン分離ステップ20では、アルカリ性の洗浄液を使用してシアン汚染土壌からシアンのみを洗浄液に移動させて、シアンと土壌とを互いに分離する。
【0044】
次いで、土壌と洗浄液を互いに分離し、土壌はリサイクルできる。すなわち、固液分離ステップ30では、比重の差を利用する公知の遠心分離機などを通じて固体(土壌)と液体(洗浄液)とを固液分離する。このように固液分離された後の土壌にはシアンがほとんど検出されないため、直ちにリサイクルして覆土に使われ、シアンを含んでいる洗浄液は後述する工程を通じて処理される。
【0045】
固液分離ステップ30後には、洗浄液から第1シアン及び第2シアンを除去するが、さらに具体的には、第1シアン沈殿ステップ41と第2シアン除去ステップ42とを通じて共に除去される。第1シアン沈殿ステップ41と第2シアン除去ステップ42とは、洗浄液に酸溶液を投入して洗浄液を酸性化することによって達成されるので、第1シアン除去ステップ41と第2シアン除去ステップ42とが順次にまたは別途に行われるものではない。すなわち、第2シアン除去ステップ42を行うためには、優先的に洗浄液に酸化剤を投入してWADシアンと自由シアンとを酸化させる過程が先行されるだけであり、第1シアンが沈殿される作用(第1シアン沈殿ステップ)と第2シアンが除去される作用(第2シアン除去ステップ)とは共に行われる。以下、詳細に説明する。
【0046】
固液分離された洗浄液に過酸化水素またはオゾンなどの酸化剤を注入すれば、洗浄液内の自由シアンとWADシアンとは、下記の式(3)及び式(4)の反応を通じてCNO形態に酸化される。
【0047】
CN+H→CNO+HO (3)
M(CN)2−+4H+2OH→4CNO+4HO+M(OH)2(s) (4)
ここで、式(3)のCNは自由シアンであり、式(4)でMは銅、亜鉛などの金属であって、M(CN)2−はWADシアンである。
【0048】
式(3)及び式(4)のような酸化反応はアルカリ性条件で容易に起きるので、本実施形態のように、pH11〜12のアルカリ性洗浄液内で自由シアン及びWADシアンの酸化は非常に迅速に進む。
【0049】
一方、このように酸化剤を投入して自由シアンを酸化させるさらに他の理由は、猛毒性HCNガスの発生を抑制するためである。すなわち、後述する第1シアン沈殿ステップ41で、洗浄液に酸溶液を投入するが、酸化剤を通じて自由シアンを酸化させなければ、自由シアンが酸溶液と反応して猛毒性のHCNを形成できるためである。HCNは揮発性が強くてHCNガスを生成させて、人体に有害な環境を誘発できるので、酸化剤を通じてHCNの生成を抑制することである。
【0050】
前記のように、第2シアンを酸化させた後、洗浄液に酸溶液を投入することによって第1シアン沈殿ステップ41が行われ、第2シアン除去ステップ42も行われ続ける。
【0051】
すなわち、土壌内に固体状態で存在していた第1シアン(ほとんどのSADシアンと一部のWADシアン)は、シアン分離ステップ20を通じて塩基性環境で洗浄液に溶解されてイオン状態で存在するが、洗浄液を再び酸性条件に復帰させれば、前記の式(1)及び式(2)の逆反応を通じて、イオン状態の第1シアンは再び固体状態に沈殿される。第1シアンは、酸性条件で溶解度が非常に低いので、再び洗浄液に溶解されず、固体状態を維持する。
【0052】
また前記式(3)及び式(4)の反応を通じて生成されたCNOは、下記の式(5)のように、酸性条件でアンモニアと二酸化炭素とに分解される。
【0053】
CNO+2HO→NH+CO+OH (5)
前記の式(5)の反応は、pHが減少するほど活発に進む。本実施形態では、硫酸溶液を洗浄液に投入してpHを低下させることによって第1シアンを沈殿させ、第2シアンを最終的に除去する。本実施形態で酸溶液として硫酸を使用したのは、塩酸などに比べて水素の数が多くてpHの低下にさらに効果的なためである。
【0054】
一方、洗浄液を酸性条件にした後、洗浄液に別途に鉄イオン(本実施形態では、Fe2+)を投入する残留シアン除去ステップ50を行う。残留シアン除去ステップ50では、洗浄液内の鉄の供給量が拡大されつつ式(1)、(2)の逆反応が促進されて、第1シアンの沈殿を加速化させることができる。
【0055】
このように、第1シアン沈殿ステップ41、第2シアン除去ステップ42及び残留シアン除去ステップ50を通じて第1シアンは洗浄液内に沈殿され、第2シアンはアンモニアと二酸化炭素とに分解される。
【0056】
次いで、第1シアンが固体状態に沈殿されている洗浄液を公知の遠心分離機に入れて固液分離する後処理ステップ60を行うことによって、第1シアンと洗浄液とを物理的に分離する。
【0057】
洗浄液にはシアンがいずれも除去されたところ、NaOH及び燐酸塩を添加して再び燐酸濃度とpHとを調節することによって、シアン分離ステップ20でリサイクルできる。
【0058】
本発明の対象になるシアンはもとより、窒素、リン、TCEなどの汚染物質を処理するに当っていつも問題になるのは、処理試薬を使用することによって発生する2次汚染と処理コストである。しかし、本発明では洗浄液の濃度とpHのみ調節した後、再びリサイクルすることによって、かかる2次汚染と処理コストの問題が解決されるという長所がある。
【0059】
また洗浄液から分離された固体状態の沈殿物は、高濃度の第1シアンを含んでいるので、指定廃棄物として処理するか、溶解度の低い固体状態のシアンの処理に適した高温酸化工法などを適用して処理できる。
【0060】
本出願人は、シアン汚染土壌からシアンを処理する実験を行った。
【0061】
まずシアン汚染土壌を採取して、当業界で広く使われる土壌汚染工程試験法でシアンの含有量を測定した。そして、pH12の30mM Na−ピロリン酸洗浄液を製造して、シアン汚染土壌と10:1の重量比で混合して24時間反応させた。24時間経過後、遠心分離機を利用して土壌と洗浄液とを分離し、土壌のシアン含有量を土壌汚染工程試験法で測定した。洗浄液の総シアン含有量(濃度)を、当業界で広く使われる水質汚染工程試験法で測定し、自由シアン含有量を、米国ASTM方法を利用して測定した。その結果が図5に示されている。
【0062】
シアン汚染土壌は、洗浄前85.7mg/kgのシアン濃度を表したが、pH12のNa−ピロリン酸洗浄液を利用して洗浄した結果、シアンの濃度は0.71mg/kgに低くなって、土壌内のほぼ全てのシアンが土壌から分離されたと確認された。洗浄後の土壌内のシアン濃度は、土壌環境保全法の環境基準値(各地域の憂慮基準2mg/kg)をはるかに下回ると分かって、土壌をリサイクルして覆土に使用するに当って何の問題もないと確認した。
【0063】
そして、洗浄液の総シアン濃度は25.2mg/Lであり、自由シアンは0.31mg/Lと微小であった。これは、シアン汚染土壌内の自由シアンの含有量が非常に少ないことを鑑みれば、当然な結果であり、洗浄液内の大部分のシアンはSADシアンであるということが分かる。
【0064】
次いで、第1シアン沈殿ステップ41、第2シアン除去ステップ42及び残留シアン除去ステップ50についての実験を行い続けた。
【0065】
まず洗浄液からのシアンの除去過程で、猛毒性HCNガスの発生を抑制するための目的、及びWADシアンと自由シアンとを酸化させる目的で酸化剤を投入した。すなわち、濃度が0.4mg/LになるようにHを洗浄液に投入し、10分間反応させた後、自由シアン濃度を米国ASTM方法で測定した。
【0066】
次いで、HSOを投入して洗浄液に投入し、洗浄液のpHを4に調節して10分間反応させた後、洗浄液内の総シアンの濃度を水質汚染工程試験法で測定した。
【0067】
最終的に洗浄液内の鉄イオンをさらに供給するために、FeCl・4HOを投入して洗浄液内のFe濃度が1mg/Lになるように調整し、再び10分間反応させた後、総シアン濃度を水質汚染工程試験法で測定した。その結果が図6に示されている。
【0068】
洗浄液に0.31mg/Lの濃度で存在した自由シアンは、Hを投入して反応させた結果、洗浄液から完全に除去され、これを通じてHSOの投入しても猛毒性HCNが生成される蓋然性はないということを確認した。洗浄液内のシアンの濃度は25.2mg/Lであったが、HSOを洗浄液に投入して洗浄液を酸性化した後、1.9mg/Lに減少し、洗浄液内にはシアン沈殿物が形成された。
【0069】
FeCl・4HOを投入してFe−CNの沈殿に必要なFeをさらに供給した後には、洗浄液内の総シアンの濃度は放流水水質基準値(1mg/L)以下の0.27mg/Lを表した。すなわち、洗浄液に溶存されているほぼ全てのシアンが沈殿されるか、または分解されて洗浄液から除去され、これを通じて、本発明による方法が土壌内のシアンを効果的に除去できるということを確認した。前記の実験はいずれも常温及び常圧状態で行われ、高温酸化法のように別途の外部熱源は要求されていない。
【0070】
以上で説明したように、本発明では洗浄液を利用して優先的に土壌からシアンを分離する工程を導入して、シアン(洗浄液)のみを対象にして後続工程を行うことによって、工程全体にかけて汚染土壌自体を対象にして汚染物質を処理する既存の方法における非効率性を除去した。
【0071】
また本発明によるシアン汚染土壌の復元方法は、常温状態で行われるので、従来の高温酸化法などに比べて経済的であるという長所がある。
【0072】
また土壌からシアンを分離することによって、既存の常温酸化法などで有機物、硫化鉱物、酸化マンガンなどによる酸化剤消耗問題を解決したところ、経済的かつ効率的なシアン除去が可能であった。
【0073】
そして本発明では、シアンを処理するのに使われた処理液を再びリサイクルすることによって、シアン処理による2次汚染の問題が発生しなくて環境にやさしいという長所がある。
【0074】
本発明は添付した図面に図示された一実施形態を参考にして説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならばこれより多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の保護範囲は特許請求の範囲のみによって定められねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、シアン汚染土壌の復元関連の技術分野に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0076】
100 シアン汚染土壌の復元方法
10 収集ステップ
20 シアン分離ステップ
30 固液分離ステップ
41 第1シアン沈殿ステップ
42 第2シアン除去ステップ
50 残留シアン除去ステップ
60 後処理ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアンで汚染された土壌を復元し、シアンを処理するためのものであって、
固体状態の第1シアンとガスまたは溶存状態の第2シアンとで汚染された土壌を収集する収集ステップと、
前記土壌をアルカリ性の洗浄液と混合することによって、前記固体状態の第1シアンは前記洗浄液に溶解させ、前記溶存状態の第2シアンは、前記土壌から分離して前記洗浄液に移動させるシアン分離ステップと、
前記洗浄液と前記土壌とを相互分離する固液分離ステップと、
前記シアンを含んでいる洗浄液を酸性化することによって、前記第1シアンを再び固体状態に沈殿させる第1シアン沈殿ステップと、
前記固体状態に沈殿された第1シアンと前記洗浄液とを分離して処理する後処理ステップと、を含んでなることを特徴とするシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項2】
前記固液分離された洗浄液に酸化剤を添加して前記第2シアンを酸化させた後、前記洗浄液を酸性化させて前記第2シアンを除去する第2シアン除去ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項3】
前記シアン分離ステップで、前記洗浄液のpHは9〜12であることを特徴とする請求項1に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項4】
前記シアン分離ステップで、前記洗浄液のpHは11〜12であることを特徴とする請求項3に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項5】
前記洗浄液は燐酸塩溶液であることを特徴とする請求項1に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項6】
前記燐酸塩溶液はピロリン酸(P4−)を含むことを特徴とする請求項5に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項7】
前記燐酸塩溶液の濃度は、30〜50mMであることを特徴とする請求項5に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項8】
前記第1シアン沈殿ステップ後、前記洗浄液に鉄イオンを添加する残留シアン除去ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項9】
前記第1シアン除去ステップで、硫酸溶液を投入して前記洗浄液を酸性化することを特徴とする請求項1に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項10】
前記スラッジ除去ステップ後、前記洗浄液を再び前記シアン分離ステップでリサイクルすることを特徴とする請求項2に記載のシアン汚染土壌の復元方法。
【請求項11】
前記洗浄液のpHと濃度とを再び調節してリサイクルすることを特徴とする請求項10に記載のシアン汚染土壌の復元方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−143399(P2011−143399A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85349(P2010−85349)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(509340872)韓國地質資源研究院 (4)
【Fターム(参考)】