説明

シアン濃度測定方法及び測定装置

【課題】高精度の、しかも連続測定も可能なシアン濃度測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】試料水S0を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にて撹拌し、試料水S0から硫化水素を気化させて除去する前処理を行い、その後、イオン電極又はシアン化水素ガスセンサにて試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、河川、下水、事業所の流入水や排水中のシアン化物の濃度を測定するためのシアン濃度測定方法及び測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川、下水、事業所の流入水や排水などのシアン化物の濃度測定は重要であり、種々のシアン計が使用されている。特に、連続測定が必要なケースも多く、連続測定に対応可能なイオン電極式シアン計等を備えたシアン濃度測定装置が広く利用されている。
【0003】
しかし、取水口や排水ラインなどで使用される、イオン電極式シアン計を備えたシアン濃度測定装置は、イオン電極として、先端がヨウ化銀と硫化銀の混合物からなる固体膜感応素子となっている。そのため、測定原理上、共存する可能性の高い、硫化水素などの硫化物の影響を受けて、指示の上昇や振り切れによる誤警報や、短時間での感度劣化を引き起こす、などの深刻なダメージを受けるケースが多く、問題となっている。
【0004】
従って、シアン濃度測定装置は、硫化物の影響を軽減する目的で、シアン計による測定の前段に前処理部を設け、硫化物をマスキング剤(例えば、ビスマス塩、カドミウム塩など)によりマスキングするなどの前処理を行うことが行われている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献2には、被検液中にPbO2などを顆粒状とした脱硫剤を投入することが開示されている。
【特許文献1】特開昭51−62088号公報
【特許文献2】特開昭54−50397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、マスキング剤による前処理を行う場合には、シアン化物イオンまでを除去してしまうためにマスキング剤濃度をあるレベル以上には高くできないなどの制限がある。従って、結果的にマスキング能力が不十分な状態となり、依然として誤警報や感度劣化を引き起こしてしまうケースが多く存在しているというのが実状である。
【0006】
又、特許文献2に開示されるように、被検液中に脱硫剤を投入した場合には、脱硫後、脱硫剤を被検液中から除去することが必要とされ、測定作業が煩雑となる。また、連続測定が必要なケースには採用するのが困難である。
【0007】
本発明者は、上記従来の問題点を解決するべく多くの研究実験を行った結果、シアン化水素(シアン化物)と硫化水素(硫化物)の沸点が大きく異なることに着目し、その違いが影響して生じる両成分の異なる挙動を利用して、高精度の、しかも連続測定も可能なシアン濃度測定が可能であることを見出した。
【0008】
本発明は、斯かる本発明者の新規な知見に基づき成されたものである。
【0009】
本発明の目的は、高精度の、しかも連続測定も可能なシアン濃度測定方法及び測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は本発明に係るシアン濃度測定方法及び測定装置にて達成される。要約すれば、第1の本発明によれば、試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定方法において、
試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にて撹拌し、試料水から硫化水素を気化させて除去する前処理を行い、その後、イオン電極又はシアン化水素ガスセンサにて試料水のシアン濃度を測定することを特徴とするシアン濃度測定方法が提供される。
【0011】
第1の本発明にて、一実施態様によれば、前記試料水の撹拌は、試料水にエアーを供給し、バブリング処理する。
【0012】
他の実施態様によれば、前記前処理は、氷結しない温度(例えば0℃)〜10℃の温度環境下にて実施する。
【0013】
他の実施態様によれば、試料水は、pH8.5以下となるようにpH調整を行った後、前記前処理を実施する。
【0014】
他の実施態様によれば、前記前処理されて硫化水素が除去された、シアン化物イオンを含む試料水を前記イオン電極へと供給してシアン化物イオン濃度を測定する。
【0015】
他の実施態様によれば、前記前処理されて硫化水素が除去された試料水を攪拌することにより生じたシアン化水素を含む気体をシアン化水素ガスセンサへと供給してシアン化水素ガス濃度を測定する。
【0016】
他の実施態様によれば、前記前処理されて硫化水素が除去された試料水を攪拌することにより生じたシアン化水素を含む気体を吸収液に吸収させ、この吸収液を前記イオン電極へと供給してシアンイオン濃度を測定する。
【0017】
他の実施態様によれば、前記吸収液は、アルカリ性溶液である。
【0018】
他の実施態様によれば、前記前処理は、25.7℃未満で氷結しない温度環境下にて硫化水素が除去された後、硫化水素が除去された試料水を、25.7℃以上、100℃未満の温度環境下にて撹拌することにより生じたシアン化水素を含む気体をシアン化水素ガスセンサへと供給してシアン化水素ガス濃度を測定する。
【0019】
他の実施態様によれば、前記前処理は、25.7℃未満で氷結しない温度環境下にて硫化水素が除去された後、硫化水素が除去された試料水を、25.7℃以上、100℃未満の温度環境下にて撹拌することにより生じたシアン化水素を含む気体を吸収液に吸収させ、この吸収液を前記イオン電極へと供給してシアンイオン濃度を測定することができ、また、他の実施態様によれば、前記吸収液は、アルカリ性溶液とすることができる。
【0020】
他の実施態様によれば、前記前処理は、バッチ式にて行われる。また、他の実施態様によれば、前記前処理は、連続フロー式にて行われる。
【0021】
第2の本発明によれば、試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定装置において、
試料水とエアーが供給され、試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にてバブリング処理し、試料水から硫化水素を気化させて除去するための気液分離手段を備えた前処理槽と、
前記気液分離手段により硫化水素が除去された後のシアン化物イオンを含む試料水を受容しシアン化物イオン濃度を測定するイオン電極を備えたイオン計と、
を有することを特徴とするシアン濃度測定装置が提供される。一実施態様によれば、前記前処理槽は、恒温槽である。
【0022】
第3の本発明によれば、試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定装置において、
試料水とエアーが供給され、試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にてバブリング処理し、試料水から硫化水素を気化させて除去するための気液分離手段を備えた気液分離前処理槽と、
前記気液分離前処理槽にて硫化水素が除去された後、前記気液分離前処理槽から供給されたシアン化水素を含む気体を受容しシアン化水素ガス濃度を測定するシアン化水素ガスセンサを備えたガス計と、
を有することを特徴とするシアン濃度測定装置が提供される。
【0023】
第4の本発明によれば、試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定装置において、
試料水とエアーが供給され、試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にてバブリング処理し、試料水から硫化水素を気化させて除去するための気液分離手段を備えた気液分離前処理槽と、
アルカリ性溶液であるシアン化水素吸収液を収容し、前記気液分離前処理槽により硫化水素が除去された後の前記気液分離前処理槽からのシアン化水素を含む気体が供給される吸収前処理槽と、
前記吸収前処理槽から供給されたシアン化物イオンを含む被検液のシアン化物イオン濃度を測定するイオン電極を備えたイオン計と、
を有することを特徴とするシアン濃度測定装置が提供される。
【0024】
第3及び第4の本発明にて、一実施態様によれば、前記気液分離前処理槽は、恒温槽又は温調槽である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシアン濃度測定方法及び測定装置は、高精度で、しかも連続測定も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係るシアン濃度測定方法及び測定装置を図面に則して更に詳しく説明する。
【0027】
本発明は、上述のように、シアン化水素(HCN)と硫化水素(H2S)の沸点が大きく異なることに起因して生じる両成分の異なる挙動を利用する。
【0028】
更に説明すると、シアン化水素(HCN)の沸点は、常温付近(25.7℃)にあり、シアン化物は、図7、図8に示すように、例えば5℃などの低温環境下では、中性(pH7)以下の、例えばpH1.7といった酸性側のpHであっても気相中に存在し難く、殆どが液相中に存在し続ける性質を持っている。
【0029】
それに対して、硫化水素(H2S)は、沸点が−60.7℃であり、図8に示すように、中性以下のpHであれば、硫化物は、例えば5℃という低温環境下であっても全てが短時間で気化し、気相中に存在する性質を持っている。
【0030】
従って、例えば、両成分を含む5℃の付近の溶液に撹拌やバブリングなどの処置を施すと、図9に示すように、硫化水素(硫化物)は短時間で気相中に移動して溶液中には存在しなくなる。これに対してシアン化水素(シアン化物)は、長時間に亘って溶液中に存在する。
【0031】
本発明は、この性質の違いを利用する。つまり、測定前の試料水の前処理段階で硫化物を実質的に完全に除去し、シアン化物は、試料水中に残存している状態を形成することが可能であり、このメカニズムを利用して試料水中のシアンの濃度を測定する。
【0032】
図9を参照して更に説明すると、図9は、10mg/Lシアン化物(CN-)と、10mg/L硫化物(HS-)を含む中性(pH6.86)溶液の入ったビンを2℃の雰囲気中に置き、0.5mL/minでエアーをバブリングさせた時の気相中のシアン化水素(HCN)及び硫化水素(H2S)の濃度の測定結果を示す。
【0033】
つまり、硫化水素(H2S)は、約10分間のバブリングでゼロ指示となり、短時間でなくなってしまったのに対して、シアン化水素(HCN)は、5時間後でも残存している指示となった。図9は、硫化水素(H2S)がなくなった後もシアン化水素(HCN)は長時間に亘って残存していることを示しており、従って、この原理を利用して両成分の分離を行えば、硫化水素に影響されないシアン分析が可能である。
【0034】
以下に、本発明に従ったシアン濃度測定方法及び測定装置を実施例に沿って説明する。
【0035】
実施例1
図1に、本発明の第一の実施例に従ったバッチ式のシアン濃度測定装置1の概略構成を示す。
【0036】
本実施例にて、シアン濃度測定装置1は、被検液中のシアン化物イオン濃度を測定するイオン電極式シアン計、即ち、シアン分析計(例えば、東亜ディーケーケー株式会社製「CNMS−3」:商品名)100を備えている。本実施例によれば、シアン計による濃度測定の前処理手段2として、前処理槽3を備えている。前処理槽3は、恒温槽とされ、シアン化水素(HCN)の沸点である25.7℃未満で、氷結しない温度(通常、0℃以上)、好ましくは、2℃〜10℃、に維持されている。
【0037】
また、前処理槽3は、気液分離手段4を備えている。気液分離手段4は、ヘッドスペース(拡散)を利用するヘッドスペース利用型、或いは、気液分離体(隔膜や気液分離構造など)を利用する気液分離体型、のものを好適に使用し得る。
【0038】
気液分離手段4は、液貯留部4aとガス貯留部4bとを備えており、所定量の試料水S0がポンプ5及びバルブ6を介して液貯留部4aに供給される。
【0039】
前処理槽3、即ち、気液分離手段4へと供給される下水等の試料水S0は、アルカリ性であることが好ましい。従って、前処理槽3に送給するに先立って事前にpH調整することが好ましい。試料水S0は、中性以下、即ち、pH7以下が好ましい。効率は低下するが、pH8.5までは許容し得る。
【0040】
一方、気液分離手段4の液貯留部4aには、液撹拌手段が配置される。本実施例にて、液撹拌手段としては、エアーによるバブリングが利用される。つまり、本実施例では、試料水の攪拌は、気液分離手段4の液貯留部4aに、ポンプ7及びバルブ8を介してエアー(清浄エアー)G0を供給し、バブリング処理することにより実施される。
【0041】
バブリング処理以外の攪拌手段としては、回転子や撹拌羽根を利用する方法、振動を利用する方法などが挙げられる。
【0042】
本実施例によると、上記バブリング処理により、気液分離手段4では、試料水S0からガスGが分離される。つまり、ガスG中には、試料水S0中の硫化物、即ち、硫化水素(H2S)が気化して含まれており、このガスGは、試料水S0中からガス貯留部4bへと分離され、前処理槽2から除去される。
【0043】
バブリング処理による硫化物処理時間は、試料水S0中の硫化水素(H2S)の量によって適宜変更し得る。一例を挙げれば、例えば、試料水S0が10mg/Lの硫化物含む場合には、前処理槽3の温度を2℃としたとき、試料水(S0)100mLに対してエアー(G0)を0.5L/minで供給して、10分程度バブリングすることが好ましい。
【0044】
バブリング処理が終わると、バルブ9を開とし、硫化水素(硫化物)が除去された気液分離手段4の液貯留部4aに残留した試料水(即ち、被検液)S1が、シアン計100に設けられたポンプ(図示せず)を駆動して所定量だけシアン計100へと供給され、シアン濃度が測定される。
【0045】
本実施例によると、シアン濃度が、高精度にて得られる。
【0046】
シアン化物イオン電極を備えたシアン計100及びシアン濃度測定原理は、当業者には周知であるので、これ以上の説明は省略する。
【0047】
シアン濃度測定が終わると、前処理槽2中の試料水S1は、バルブ10を介して排出され、次の試料水のシアン濃度測定が上述と同様にして行われる。
【0048】
実施例2
図2に、本発明の第二の実施例に従ったバッチ式のシアン濃度測定装置の概略構成を示す。
【0049】
本実施例にて、シアン濃度測定装置1は、実施例1と同様に、被検液中のシアンイオン濃度を測定するイオン電極式シアン計(シアン分析計)100を備えている。本実施例によれば、シアン計の前処理手段2として、第1及び第2の前処理手段2A、2B、即ち、気液分離前処理槽3A及び吸収前処理槽3Bが設けられており、両槽3A、3Bは、バルブ(三方弁)11で連結されている。
【0050】
本実施例によると、第1の前処理槽(気液分離前処理槽3A)は、実施例1と異なり、温調槽とされる。本実施例においても、上記実施例1の前処理槽と同様に、シアン化水素(HCN)の沸点である25.7℃未満で氷結しない温度、好ましくは、2℃〜10℃、に維持して、硫化水素を除去することができる。
【0051】
また、別法として、初期時には、即ち、硫化水素を除去するに際しては、上述のように、25.7℃未満で氷結しない温度とし、硫化水素除去後においては、25.7℃以上、100℃未満、本実施例では、40℃に維持する、といった組合せ制御も可能とされる。この場合には、シアン化水素の気相への移動が早まり、測定時間の短縮を図ることができる。
【0052】
更に説明すると、第1の気液分離前処理槽3Aは、実施例1と同様に、ヘッドスペース利用型、或いは、気液分離体型、などとされる気液分離手段4を備えており、所定量の試料水S0がポンプ5及びバルブ6を介して気液分離手段4に供給される。
【0053】
また、気液分離処理槽3Aの気液分離手段4へと供給される試料水S0は、実施例1と同様に、アルカリ性であることが好ましく、従って、事前にpH調整することが好ましい。つまり、試料水S0は、中性以下、即ち、pH7以下が好ましく、効率は低下するが、pH8.5までは許容し得る。
【0054】
また、実施例1と同様に、気液分離手段4の液貯留部4aには、液撹拌手段が配置される。本実施例においても、液撹拌手段としては、液貯留部4aに、ポンプ5及びバルブ6を介してエアー(清浄エアー)G0を供給し、バブリング処理することにより実施される。
【0055】
上記バブリング処理により、気液分離手段4では、試料水S0からガスGが発生する。ガスGは、試料水中の硫化物、即ち、硫化水素(H2S)が気化して含まれており、試料水中から分離される。
【0056】
バブリングによる硫化物処理時間は、試料水S0中の硫化水素(H2S)の量によって適宜変更し得るが、例えば、試料水S0が10mg/Lの硫化物(硫化水素)含む場合には、前処理槽の温度を2℃としたとき、試料水(S0)100mLに対してエアー(G0)を0.5L/minで供給して、10分程度バブリングすることが好ましい。
【0057】
上記所定時間のバブリング処理は、バルブ11の外気へのポート11aを開とし、第2の処理槽である吸収前処理槽3Bへの連通ポート11bは閉として行われる。従って、気液分離前処理槽3Aへと送給された試料水S0中からの気化された硫化水素を含むガスG1は、外気へと排出される。
【0058】
斯かる所定時間のバブリング処理が終わると、バルブ11の外気へのポート11aを閉とし、第2の吸収前処理槽3Bへの連通ポート11bは開とされる。また、必要に応じて、第1の気液分離処理槽3Aの温度が上昇される。
【0059】
これにより、硫化水素が実質的に除去された試料水S1から、気液分離手段4のガス貯留部4bへと分離されたガスG2が連通ポート11bを介して第2の吸収前処理槽3Bへと供給される。
【0060】
つまり、実施例1では、硫化水素が除去された気液分離手段4の液貯留部4aに残留した試料水(即ち、被検液)S1が、バルブ9を介してシアン計100へと送給され、シアン化物イオン濃度が測定された。これに対して、本実施例によれば、気液分離手段4にて硫化水素が除去された後、硫化水素を含まない気相のシアン化水素を含むガスG2がバルブ11を介して吸収前処理槽3Bへと送給される。
【0061】
吸収前処理槽3Bには、ポンプ12により所定量の吸収液としてのアルカリ性溶液S2が供給されて収容されており、吸収前処理槽3Bに送給された気相のシアン化水素を吸収し、被検液S3が生成される。吸収前処理槽3B中のエアーGaは、外部に排出される。前記アルカリ性溶液としては、例えば、0.1MのNaOH溶液が好適である。
【0062】
次いで、吸収前処理槽3B中のシアン化物を含むアルカリ性溶液、即ち、被検液S3が、バルブ13を介してシアン計100へと供給される。シアン計100におけるシアン化物イオン濃度測定原理は、当業者には周知であるので、これ以上の説明は省略する。
【0063】
シアン濃度測定が終わると、第1及び第2前処理槽3A、3B中の試料水S1、被検液S3等は、バルブ10、14を介して排出され、次の試料水のシアン濃度測定が上述と同様にして行われる。
【0064】
このように、本実施例は、実施例1と同様の作用効果を達成し得ると共に、更に、中間にガス化状態を挟んだことによって、多くの夾雑物の影響から解放される、といった利点がある。
【0065】
実施例3
図3に、本発明の第三の実施例に従ったバッチ式のシアン濃度測定装置1の概略構成を示す。
【0066】
本実施例にて、シアン濃度測定装置1は、実施例2における第2前処理槽3Bが除去され、且つ、シアン計100の代わりに、シアン化水素ガスセンサを備えたシアン計、即ち、HCNガス計(例えば、東亜ディーケーケー株式会社製「CNH型240シリーズ」:商品名)200が配置された点で相違し、その他の構成は実施例2と同様である。従って、同じ構成及び機能を成す部材には、同じ参照番号を付し、実施例2の説明を援用する。
【0067】
本実施例によれば、前処理手段2として、実施例2と同じ構成及び機能を成す第1の気液分離前処理槽3Aを備えており、実施例2と同様にして前処理槽3Aの気液分離手段4にて硫化水素が除去される。その後、硫化水素を含まない気相のシアン化水素を含むガスG2が、流量0.1〜3L/min、好ましくは0.5〜1L/minにて、バルブ11を介して直接HCNガス計200へと送給され、シアン濃度が測定される。シアン化水素ガスセンサを備えたHCNガス計200及びシアン濃度測定原理は、当業者には周知であるので、これ以上の説明は省略する。
【0068】
シアン濃度測定が終わると、前処理槽中3Aの試料水S1は、バルブ10を介して排出され、次の試料水のシアン濃度測定が上述と同様にして行われる。
【0069】
このように、本実施例は、実施例1と同様の作用効果を達成し得ると共に、更に、シンプルな構造で安価なガス計を用いる、といった利点がある。
【0070】
実施例4
図4に、本発明の第四の実施例に従った連続フロー式のシアン濃度測定装置1の概略構成を示す。本実施例のシアン濃度測定装置1は、実施例1にて説明したバッチ式のシアン濃度測定装置1と基本構成においては同様の構成とされ、ただ、本実施例の場合は、連続測定が可能な連続フロー式とされる点で相違する。従って、同じ構成及び機能を成す部材には、実施例1のシアン濃度測定装置と同じ参照番号を付し、実施例1の説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。本実施例では、連続フロー式とされるために、実施例1におけるバルブ6、8、9、10などは設けられていない。
【0071】
本実施例のシアン濃度測定装置1も又、実施例1の装置と同様に、シアン計の前処理手段2として、前処理槽3を備えている。前処理槽3は、恒温槽とされ、シアン化水素(HCN)の沸点である25.7℃未満で氷結しない温度、好ましくは、2℃〜10℃、に維持されている。
【0072】
また、前処理槽3には、ヘッドスペース利用型、或いは、気液分離体型、などととされる気液分離手段4を備えており、気液分離手段には、試料水S0と、本実施例によると、所定量のエアー(清浄エアー)G0が、それぞれ、ポンプ5、7により連続的に供給される。
【0073】
気液分離手段4に連続的に供給される試料水S0は、連続的に供給されるエアーG0によるバブリング処理され、試料水S0中の硫化物、即ち、硫化水素(H2S)は気化し、試料水S0中から分離され、前処理槽3から除去される。一方、硫化水素が除去された気液分離手段4の液貯留部4aに残留した試料水(即ち、被検液)S1は、連続的にシアン計100へと送給される。
【0074】
一具体例を示せば、試料水S0が10mg/Lの硫化物(硫化水素)含む場合には、前処理槽3の温度を2℃としたとき、液貯留部4aの容積100mLの気液分離手段4に試料水S0を50mL/minにて供給し、エアーG0を5L/minで供給し、また、気液分離手段4の液貯留部4aから被検液S1を10mL/minにて連続的にシアン計100へと送給した場合には、シアン計100へと送給される被検液S1中には、実質的に硫化水素は残存していなかった。
【0075】
このように、本実施例は、実施例1と同様の作用効果を達成し得ると共に、更に、試料水中のシアン濃度を連続的に測定可能である。
【0076】
実施例5
図5に、本発明の第五の実施例に従った連続フロー式のシアン濃度測定装置1の概略構成を示す。本実施例のシアン濃度測定装置1は、実施例2にて説明したバッチ式のシアン濃度測定装置1と基本構成においては同様の構成とされ、ただ、本実施例の場合は、連続測定が可能な連続フロー式とされる点で相違する。従って、同じ構成及び機能を成す部材には、実施例2のシアン濃度測定装置1と同じ参照番号を付し、実施例2の説明を援用し、ここでの再度の説明は省略する。本実施例では、連続フロー式とされるために、実施例2におけるバルブ6、8、10、11、13、14などは設けられていない。一方、第1及び第2処理槽3A、3Bを連結する配管路にポンプ15が配置されている。
【0077】
本実施例のシアン濃度測定装置1も又、実施例2の装置と同様に、シアン計の前処理手段2として、第1及び第2の前処理手段2A、2B、即ち、第1及び第2の前処理槽3A、3Bを備えている。
【0078】
本実施例によると、第1の気液分離前処理槽3Aは、実施例2と異なり、恒温槽とされる。従って、本実施例によれば、上記実施例1の前処理槽3と同様に、シアン化水素(HCN)の沸点である25.7℃未満で氷結しない温度、好ましくは、2℃〜10℃、に維持して、硫化水素を除去する構成とされる。
【0079】
また、第1前処理槽3Aは、実施例2と同様に、ヘッドスペース利用型、或いは、気液分離体型、などととされる気液分離手段4を備えており、気液分離手段4には、試料水S0と、本実施例によると、所定量のエアー(清浄エアー)G0が、それぞれ、ポンプ5、7により連続的に供給される。
【0080】
気液分離手段4に連続的に供給される試料水S0は、連続的に供給されるエアーG0によるバブリング処理され、試料水中の硫化物、即ち、硫化水素(H2S)は気化し、試料水S0中から分離される。この硫化水素を含むガスは、前処理槽3Aから外部へと除去される。
【0081】
上記実施例4では、硫化水素が除去された気液分離手段4の液貯留部4aに残留した試料水(即ち、被検液)S1が、連続的にシアン計100へと送給され、シアン化物イオン濃度が測定されたが、本実施例によれば、気液分離手段4にて硫化水素が除去された後、硫化水素を含まない気相のシアン化水素を含むガスG1がポンプ15により所定の流量にて第2の吸収前処理槽3Bへと送給される。
【0082】
吸収前処理槽3Bには、吸収液としてのアルカリ性溶液S2がポンプ12により、シアン化水素に対して一定の流量比にて供給される。これにより、吸収前処理槽3Bに送給された気相のシアン化水素は、アルカリ性溶液S2により吸収される。また、吸収前処理槽3B中のエアーGaは、外部に排出される。アルカリ性溶液S2としては、例えば、0.1MのNaOH溶液が好適である。
【0083】
次いで、第2の吸収前処理槽中のシアン化物を含む被検液S3が、ポンプを内蔵したシアン計100へと供給される。
【0084】
一具体例を示せば、試料水が10mg/Lの硫化物(硫化水素)含む場合には、第1前処理槽3Aの温度を2℃としたとき、液貯留部4aの容積が100mLの気液分離手段4に試料水S0を50mL/minにて供給し、エアーG0を5L/minで供給し、また、気液分離手段4のガス貯留部4bからシアン化水素を含むガスG1を第2前処理槽3B内のアルカリ性溶液S2中へと1L/minにて連続的に供給した。このとき、アルカリ性溶液S2は、液貯留容積20mLの吸収前処理槽3B内へとは、10mL/minにて連続的に供給した。
【0085】
このように、本実施例は、実施例2と同様の作用効果を達成し得ると共に、更に、試料水中のシアンイオン濃度を連続的に測定可能である。
【0086】
実施例6
図6に、本発明の第六の実施例に従った連続フロー式のシアン濃度測定装置1の概略構成を示す。本実施例のシアン濃度測定装置1は、実施例3にて説明したバッチ式のシアン濃度測定装置1と基本構成においては同様の構成とされ、ただ、本実施例の場合は、連続測定が可能な連続フロー式とされる点で相違する。
【0087】
本実施例では、連続フロー式とされるために、実施例3の構成と比較すると、実施例3におけるバルブ6、8、10、11などは設けられていない。一方、前処理槽3AとHCNガス計200とを連結する配管路にポンプ15が配置されている。
【0088】
また、本実施例のシアン濃度測定装置1は、連続フロー式とされる点では、実施例5の装置と同様とされ、ただ、実施例5における第2前処理槽3Bが除去され、シアン計100の代わりにHCNガス計200が配置された点で相違し、その他の構成は実施例5と同様であるので、同じ構成及び機能を成す部材には、同じ参照番号を付し、実施例5の説明を援用する。
【0089】
本実施例によれば、前処理手段2として、実施例5と同じ構成及び機能を成す第1前処理槽3Aを備えており、実施例5と同様にして第1前処理槽3Aの気液分離手段4にて硫化水素が除去される。その後、硫化水素を含まない気相のシアン化水素を含むガスG1がポンプ15により直接HCNガス計200へと送給され、シアン濃度が測定される。シアン計200へのガスG1の流量は、0.1〜3L/min、好ましくは、0.5〜1L/minである。
【0090】
このように、本実施例は、実施例3と同様の作用効果を達成し得ると共に、更に、試料水中のシアン濃度を連続的に測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係るシアン濃度測定装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係るシアン濃度測定装置の他の実施例を示す概略構成図である。
【図3】本発明に係るシアン濃度測定装置の他の実施例を示す概略構成図である。
【図4】本発明に係るシアン濃度測定装置の他の実施例を示す概略構成図である。
【図5】本発明に係るシアン濃度測定装置の他の実施例を示す概略構成図である。
【図6】本発明に係るシアン濃度測定装置の他の実施例を示す概略構成図である。
【図7】温度によって、シアン化物イオン(CN-)の溶液残存時間が異なることを示す図である。
【図8】酸性域(pH1.7)でも、シアン化物の溶液残存時間が長いことを示す図である。
【図9】低温域で、シアン化物と硫化物の溶液残存時間が大きく異なることを示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 シアン濃度測定装置
2 前処理手段
3 前処理槽
3A 気液分離前処理槽
3B 吸液前処理槽
4 気液分離手段
4a 液貯留部
4b ガス貯留部
5、7、12、15 ポンプ
6、8、9、10、11、13、14 バルブ
100 シアン分析計
200 HCNガス計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定方法において、
試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にて撹拌し、試料水から硫化水素を気化させて除去する前処理を行い、その後、イオン電極又はシアン化水素ガスセンサにて試料水のシアン濃度を測定することを特徴とするシアン濃度測定方法。
【請求項2】
前記試料水の撹拌は、試料水にエアーを供給し、バブリング処理することにより行うことを特徴とする請求項1のシアン濃度測定方法。
【請求項3】
前記前処理は、氷結しない温度〜10℃の温度環境下にて実施することを特徴とする請求項1又は2のシアン濃度測定方法。
【請求項4】
試料水は、pH8.5以下となるようにpH調整を行った後、前記前処理を実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項5】
前記前処理されて硫化水素が除去された、シアン化物イオンを含む試料水を前記イオン電極へと供給してシアン化物イオン濃度を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項6】
前記前処理されて硫化水素が除去された試料水を攪拌することにより生じたシアン化水素を含む気体をシアン化水素ガスセンサへと供給してシアン化水素ガス濃度を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項7】
前記前処理されて硫化水素が除去された試料水を攪拌することにより生じたシアン化水素を含む気体を吸収液に吸収させ、この吸収液を前記イオン電極へと供給してシアン化物イオン濃度を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項8】
前記吸収液は、アルカリ性溶液であることを特徴とする請求項7に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項9】
前記前処理は、25.7℃未満で氷結しない温度環境下にて硫化水素が除去された後、硫化水素が除去された試料水を、25.7℃以上、100℃未満の温度環境下にて撹拌することにより生じたシアン化水素を含む気体をシアン化水素ガスセンサへと供給してシアン化水素ガス濃度を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項10】
前記前処理は、25.7℃未満で氷結しない温度環境下にて硫化水素が除去された後、硫化水素が除去された試料水を、25.7℃以上、100℃未満の温度環境下にて撹拌することにより生じたシアン化水素を含む気体を吸収液に吸収させ、この吸収液を前記イオン電極へと供給してシアン化物イオン濃度を測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項11】
前記吸収液は、アルカリ性溶液であることを特徴とする請求項10に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項12】
前記前処理は、バッチ式にて行われることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、9、10、又は11に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項13】
前記前処理は、連続フロー式にて行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載のシアン濃度測定方法。
【請求項14】
試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定装置において、
試料水とエアーが供給され、試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にてバブリング処理し、試料水から硫化水素を気化させて除去するための気液分離手段を備えた前処理槽と、
前記気液分離手段により硫化水素が除去された後のシアン化物イオンを含む試料水を受容しシアン化物イオン濃度を測定するイオン電極を備えたイオン計と、
を有することを特徴とするシアン濃度測定装置。
【請求項15】
前記前処理槽は、恒温槽であることを特徴とする請求項14に記載のシアン濃度測定装置。
【請求項16】
試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定装置において、
試料水とエアーが供給され、試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にてバブリング処理し、試料水から硫化水素を気化させて除去するための気液分離手段を備えた気液分離前処理槽と、
前記気液分離前処理槽にて硫化水素が除去された後、前記気液分離前処理槽から供給されたシアン化水素を含む気体を受容しシアン化水素ガス濃度を測定するシアン化水素ガスセンサを備えたガス計と、
を有することを特徴とするシアン濃度測定装置。
【請求項17】
試料水のシアン濃度を測定するシアン濃度測定装置において、
試料水とエアーが供給され、試料水を25.7℃未満で氷結しない温度環境下にてバブリング処理し、試料水から硫化水素を気化させて除去するための気液分離手段を備えた気液分離前処理槽と、
アルカリ性溶液であるシアン化水素吸収液を収容し、前記気液分離前処理槽により硫化水素が除去された後の前記気液分離前処理槽からのシアン化水素を含む気体が供給される吸収前処理槽と、
前記吸収前処理槽から供給されたシアン化物イオンを含む被検液のシアン化物イオン濃度を測定するイオン電極を備えたイオン計と、
を有することを特徴とするシアン濃度測定装置。
【請求項18】
前記気液分離前処理槽は、恒温槽又は温調槽であることを特徴とする請求項16又は17に記載のシアン濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−76235(P2008−76235A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255930(P2006−255930)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】