説明

シクロオルガニルホスファンおよびジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドの合成方法

本発明は、式:R1PHal2(式中、R1は、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、Halは、F、Cl、BrまたはIであり、そしてnは、3〜20の数である)で示されるジハロ(オルガニル)ホスファンを、a)有機溶媒中で活性化亜鉛と、またはb)活性化剤の存在下で非極性有機溶媒中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、反応させることによって、式(I):(R1P)nで示されるシクロオルガニルホスファンを製造する方法に関する。本発明は、新規なジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイド、および有機リン化合物の製造におけるその使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジハロ(オルガニル)ホスファンからシクロオルガニルホスファンおよびジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドを合成する方法に関し、そして新規なジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドおよび有機リン化合物の製造におけるそれらの使用に関する。
【0002】
シクロオルガニルホスファン:(RP)nおよび金属ホスファニド:Mx(Pnn)は、多数の異なる分類の有機リン化合物の製造における貴重な出発原料である。
【0003】
シクロオルガニルホスファンは、エーテル性溶媒、例えばテトラヒドロフラン(THF)中で塩基性金属、例えばLi、Na、KおよびMgを用いたジハロ(オルガニル)ホスファン:RPHal2の脱ハロゲン化によって製造することができる(A. Hinke, W. Kuchen, Chem. Ber. 1983, 116, 3003-3010)。
【0004】
Monatshefte fuer Chemie, volume 90, 1959, page 148-156において、H. Schindlbauerは、二塩化フェニルホスフィンを金属ナトリウムと反応させることによるフェニルホスフィンおよびテトラフェニルシクロテトラホスフィンの製造を記載している。
【0005】
ジクロロ(オルガニル)ホスファンの、特に魅力的な脱ハロゲン化剤である亜鉛との反応は、詳細には検討されておらず、文献の報告によれば、それは、トリメチルホスファン:PMe3の存在下でのみ、十分な反応速度で進行し、十分な収率が得られる(S. Shah, J, D. Protasiewicz, Coord. Chem. Rev. 2000, 210, page 181-201)。その反応において、RP=PMe3型の化合物が、分離される。
【0006】
塩基、例えばアミンの存在下、第1級ホスファン:RPH2とジクロロ(オルガニル)ホスファンとの縮合反応で、良好な収率のシクロオルガニルホスファンが得られる(WM.A. Henderson, Jr., M. Epstein, F. S. Seichter, J. Am. Chem. Soc. 1963, 85, 2462)。
【0007】
シクロオルガニルホスファンの製造に関して記載された方法は、多数の明白な欠点を有している。脱ハロゲン化反応で得られた収率は、多くの場合ごく並である。加えて、記載された反応の多くは、再現性があるものの困難である。これらの欠点は、特にフェニルで置換されたポリホスファンに当てはまるが、それは、PhPCl2の入手し易さの点で特に興味深い。その縮合法の主な欠点は、多くの場合自然発火性で毒性がある第1級ホスファン:RPH2の使用に帰する。
【0008】
金属ホスファニドが、エーテル性溶媒、好ましくはテトラヒドロフラン(THF)またはジメトキシエタン(DME)中で、ジハロ(オルガニル)ホスファン:RPHal2および金属:M(M=アルカリ金属またはアルカリ土類金属)、好ましくはリチウムから製造できることは公知である(K. Issleib, Z. Chem. 1962, 2 163-173)。
【0009】
ポリホスファン:[RP]n(R=有機基、n=3〜∞)が、エーテル性溶媒中で還元性金属:Mと反応して、金属ホスファニド:Mx(Pnn)を形成することも公知である。そのような反応は、例えば(a)J. W. B. Reesor, G. F. Wright, J. Org. Chem. 1957, 22, 385-387;(b)W. Kuchen, H. Buchwald, Chem. Ber. 1958, 91, 2296;(c)K. Issleib, K. Krech, Chem. Ber. 1966, 99, 1310-1314;(d)P. R. Hoffman, K. G. Caulton, J. Am. Chem. Soc. 1975, 97, 6370-6374に記載されている。
【0010】
更に、ポリホスファン:[RP]nが、エーテル溶媒中で金属ホスファニド:M2(PR1)またはM(PR12)と反応して、金属(オリゴホスファニド):Mm[PR1k(RP)n-1PR](m=1、k=2、m=2、k=1)を形成することは公知である(K. Issleib, F. Krech, J. prakt. Chem. 1969, 311,464)。
【0011】
そのような合成方法の明白な欠点は、エーテルおよび強度の還元作用を有するアルカリ金属からなる非常に攻撃的な反応媒体を使用することにある。そのような混合物は、潜在的に有害性が高い。特に強塩基性の金属ホスファニドは、溶媒として使用したエーテルを分解し、アルコラートおよび容易に揮発する炭化水素、例えばエチレンを形成する。危険性は、一般に、酸素と接触すると、起爆性の高い過酸化物を形成することにある。
【0012】
本発明の目的は、より危険性が低く、簡便で選択性がありかつ効率的なシクロオルガニルホスファンおよびジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドの合成方法を付与することにあった。
【0013】
したがって本発明は、式:R1PHal2
(式中、R1は、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、Halは、F、Cl、BrまたはIであり、そしてnは、3〜20の数である)で示されるジハロ(オルガニル)ホスファンを、
(a)有機溶媒中で、活性化亜鉛と、または
(b)エーテルおよび、ポリエーテル、アミンおよびポリアミン、芳香族N−複素環式化合物および炭酸誘導体からなる群から選択される活性化剤の存在下に、非極性有機溶媒中でアルカリ金属またはアルカリ土類金属と、
反応させることによって、式(I):(R1P)nで示されるシクロオルガニルホスファンを製造する方法であって、
活性化剤に対する非極性溶媒の容積比が、10:0.1〜10:5である方法に関する。
【0014】
適切なアリール基としては、6〜24個の構造原子、例えば好ましくはフェニル、ナフチル、ビフェニル、ビナフチル、フェナントリルおよびアントリルを有する炭素環構造を有するものが挙げられる。
【0015】
適切なヘテロアリール基は、5〜24個の構造原子を有する複素環式炭素環構造を有するもので、その場合、各環内の0、1、2または3個の構造原子は、ヘテロ原子であるが、分子全体では少なくとも1個の構造原子は、ヘテロ原子である。ヘテロ原子は、窒素、硫黄および酸素からなる群からの原子であり、ヘテロアリール基の例は、好ましくはピリジル、オキサゾリル、チエニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フリル、インドリル、ピリダジニル、ピラジニル、イミダゾリル、ピリミジニルおよびキノリニルである。
【0016】
アリール基またはヘテロアリール基は、環あたり最大5個の同一または異なる置換基によって置換されていてもよい。置換基は、フッ素、塩素、ニトロ、シアノ、遊離または保護ホルミル、ヒドロキシ、C1〜C12アルキル、C1〜C12ハロアルキル、C1〜C12アルコキシ、C1〜C12ハロアルコキシ、C3〜C12シクロアルキル、C6〜C24アリール、例えばフェニル、C6〜C24アリールアルキル、例えばベンジル、ジ(C1〜C12アルキル)アミノ、(C1〜C12アルキル)アミノ、CO(C1〜C12アルキル)、OCO(C1〜C12アルキル)、N(C1〜C6アルキル)CO(C1〜C12アルキル)、CO(C6〜C24アリール)、OCO(C6〜C24アリール)、N(C1〜C6アルキル)CO(C6〜C24アリール)、COO−(C1〜C12)アルキル、COO−(C6〜C24)アリールおよびCON(C1〜C12アルキル)2からなる群からのものである。
【0017】
適切なC1〜C12アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシルが挙げられる。
【0018】
適切なC3〜C12シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどが挙げられる。
【0019】
工程ステップ(a)に適した溶媒および溶媒混合物を、A)〜F)に列挙する。
【0020】
(A)エーテル性溶媒、例えば組成:R2−O−R3またはR2−O−[(CH2−CH2)−O]n−R3を有するもの。基R2およびR3は、同一または異なっていてもよい。それらは、C1〜C12アルキル、C1〜C12アルコキシ、C3〜C12シクロアルキル、C6〜C24アリール、例えばフェニル、C6〜C24アリールアルキル、例えばベンジル、CO(C1〜C12アルキル)、CO(C6〜C24アリール)、CON(C1〜C12アルキル)2、CON(C6〜C24アリール)2およびCON(C1〜C12アルキル)(C6〜C24アリール)からなる群からのものである。置換基R2およびR3は、5〜24個の構造原子を有する複素環式炭素環構造を有するヘテロアリール基であってもよく、その場合、各環内の0、1、2または3個の構造原子は、ヘテロ原子であるが、分子全体では少なくとも1個の構造原子は、ヘテロ原子である。ヘテロ原子は、窒素、硫黄および酸素からなる群からのものであり、ヘテロアリール基の例は、好ましくはピリジル、オキサゾリル、チエニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フリル、インドリル、ピリダジニル、ピラジニル、イミダゾリル、ピリミジニルおよびキノリニルである。基R2およびR3は、アルキレン架橋−[CR2n−(式中、n=1〜12、Rは、先に定義したとおりの基である)であってもよく、こうして環状エーテルが形成される。加えて、そのような溶媒のいずれの混合物も、反応媒体として適している。
【0021】
好ましいエーテル性溶媒は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ(イソピロピル)エーテル、メチル(tert−ブチル)エーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)である。好ましいグリコール性溶媒:R2−O−[(CH2−CH2)−O]n−R3は、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルおよびテトラエチレングリコールジメチルエーテルである。
【0022】
(B)アミン、例えば組成:R456NおよびR45N−[(CH2−CH2)−NR4n−R5(式中、基R4、R5およびR6は、それぞれの場合に同一または異なっていてもよい)を有するもの。それらは、H、C1〜C12アルキル、C1〜C12アルコキシ、C3〜C12シクロアルキル、C6〜C24アリール、例えばフェニル、C6〜C24アリールアルキル、例えばベンジル、CO(C1〜C12アルキル)、CO(C6〜C24アリール)、CON(C1〜C12アルキル)2、CON(C6〜C24アリール)2およびCON(C1〜C12アルキル)(C6〜C24アリール)からなる群からのものである。置換基R4〜R6は、5〜24個の構造原子を有する複素環式炭素環構造を有するヘテロアリール基であってもよく、その場合、各環内の0、1、2または3個の構造原子は、ヘテロ原子であるが、分子全体では少なくとも1個の構造原子は、ヘテロ原子である。ヘテロ原子は、窒素、硫黄および酸素からなる群からのものであり、ヘテロアリール基の例は、好ましくはピリジル、オキサゾリル、チエニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、フリル、インドリル、ピリダジニル、ピラジニル、イミダゾリル、ピリミジニルおよびキノリニルである。基R4、R5およびR6は、アルキレン架橋−[CR2n−(式中、n=1〜12、Rは、先に定義したとおりの基である)であってもよく、こうして環状アミンが形成される。加えて、そのような溶媒のいずれの混合物も、反応媒体として適している。
【0023】
好ましいアミン性溶媒は、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モルホリン、ピペリジン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペリジン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミンである。
【0024】
(C)エーテル基およびアミノ基の両方を含む溶媒は、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ならびにそれらのO−C1〜C12アルキル誘導体および/またはN−C1〜C12アルキル誘導体、例えば特にジメチルアミノエタノールおよびN,N,O−トリメチルエタノールアミンである。
【0025】
(D)適切な溶媒としては、芳香族窒素複素環式化合物、例えばピリジンおよびキノリンも挙げられる。
【0026】
(E)適切な溶媒には、特に一般式:RCO(OR2)、RCO(NR34)、O=C(OR22、O=C(OR2)(NR34)およびO=C(NR342(式中、R2〜R4は、それぞれの場合に、それぞれ他とは独立して、先に(A)および(B)で定義したとおりの基である)で示されるカルボン酸エステルおよびアミド、ならびに炭酸エステルおよびアミドもある。特に適している溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)およびテトラメチル尿素(TMU)である。
【0027】
(F)適切な溶媒には、特に一般式II:
【0028】
【化2】

【0029】
[式中、R2は、先に(A)および(B)で定義したとおりの基であり、Xは、C=OまたはC=NR3基であり、Yは、NR4基または酸素原子であり、そしてAは、アルキレン架橋−[CR2n−(式中、n=1〜12)である]で示される環状炭酸誘導体もある。基R、R2、R3およびR4は、それぞれの場合に、それぞれ他とは独立して、(A)および(B)で先に定義したとおりの基である。
【0030】
適切な溶媒は、特に炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(=ジメチルプロピレン尿素、DMPU)である。
【0031】
活性化亜鉛との反応は、好ましくはエーテル性溶媒、特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ(イソピロピル)エーテル、メチル(tert−ブチル)エーテルまたは1,2−ジメトキシエタン(DME)の存在下で実施される。
【0032】
工程ステップ(b)に適した非極性有機溶媒は、例えばベンゼン、トルエン、o−、m−およびp−キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン(メシチレン)、エチルベンゼン、ジフェニルエタン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、イソプロピルベンゼン(クメン)、1−メチルナフタレンなどのアレーン、およびそれらの溶媒の混合物である。
【0033】
活性化亜鉛は、例えば超音波の補助によるか、またはE. Erdik, Tetrahedron, 1987, 43,2203-2212に記載された方法の一つを用いて、化学的、熱的、電気化学的に活性化された亜鉛パウダー、亜鉛ダストまたは亜鉛グラニュールである。
【0034】
亜鉛は、少量のI2、ハロゲン化炭素化合物、ハロゲン化ケイ素化合物またはHgCl2を添加することによって、化学的に活性化することができる。亜鉛の電気化学的活性化は、カソード電圧を印加することによって実行することができる。熱活性化は、亜鉛グラニュールまたは亜鉛パウダーを真空で加熱することによって実行することができる。活性化は、超音波によっても実行することができる。
【0035】
工程ステップ(b)に適した活性化剤としては、例えばエーテルおよびポリエーテル、アミンおよびポリアミンならびに芳香族N−複素環式化合物および炭酸誘導体が挙げられる。好ましいエーテルは、THF、ジオキサン、メチル(tert−ブチル)エーテル(MTBE)および特に1,2−ジ−メトキシエタン(DME)である。好ましいポリエーテルは、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルおよびテトラエチレングリコールジメチルエーテルである。好ましいアミンは、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピペリジンおよびN−メチルモルホリンである。好ましいポリアミンは、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)およびペンタメチルエチレンジアミン(PMDETA)である。好ましい芳香族窒素複素環式化合物は、ピリジンおよびキノリンである。好ましい炭酸誘導体は、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラメチル尿素(TMU)および1,3−ジメチルー3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(=ジメチルプロピレン尿素、DMPU)である。
【0036】
工程ステップ(a)は、好ましくは室温で実施され、以下のスキーム:
【0037】
【化3】

【0038】
で表すことができる。
【0039】
その工程ステップにおいて、有利には予め約200℃で真空乾燥した亜鉛を、溶媒、好ましくはテトラヒドロフランの層で覆う。その後、ジハロ(オルガニル)ホスファンを添加すると、発熱反応が起る。反応生成物を、有機合成で慣例的な公知の方法によって仕上げる。
【0040】
工程ステップ(b)は、−78℃〜200℃の範囲の温度で実施し、以下のスキーム:
【0041】
【化4】

【0042】
で表すことができる。
【0043】
目的のために、有利には還元作用を有する金属:M(M=Li、Na、K、Cs、Mg)を活性化剤の存在下で非極性有機溶媒に入れ、その後、ジハロ(オルガニル)ホスファンを添加する。反応時間は、10分〜8時間である。反応生成物を、有機合成で慣例的な公知の方法によって仕上げる。
【0044】
活性化剤に対する非極性溶媒の容積比は、10:0.1〜10:5、特に10:0.5〜10:2である。
【0045】
非極性有機溶媒は、特にトルエンであり、活性化剤は、特にテトラメチルエチレンジアミンまたは1,2−ジメトキシメタンである。
【0046】
工程ステップ(b)の金属を理論比を超える量で使用すると、新規なジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドが製造される。ジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドの合成は、スキーム(3)、(4)および(5)により進行する。
【0047】
【化5】

【0048】
本発明は、式(2)、(3)および(4):
【0049】
【化6】

【0050】
(式中、
Rは、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
Mは、Li、Na、K、CsまたはMgであり;
Halは、F、Cl、BrまたはIであり;
Lは、活性化剤であり;そして
nおよびmは、配位分子Lの数を示し、1〜8であることができる)で示されるジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドにも関する。
【0051】
アリールおよびヘテロアリールは、式(I)に関して定義したとおりである。
【0052】
活性化剤は、好ましくはエーテルもしくはポリエーテル、特に1,2−ジメトキシエタン(DME)、またはアミンもしくはポリアミン、特にテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である。
【0053】
式(2)〜(4)で示されるジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドの製造は、式:RPHal2(式中、
Rは、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、
Halは、F、Cl、BrまたはIであり、そして
nは、3〜20の数である)で示されるジハロ(オルガニル)ホスファンを、活性化剤の存在下で非極性有機溶媒中、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と反応させることにより実行され、RPHal2に対するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のモル比は、1を超える。
【0054】
式(2)、(3)および(4)で示されるジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドは、有機リン化合物の製造に適している。特に[Na(tmeda)3][Na5(P2Ph23(L)3](2A:L=TMEDA;2B:L=DME)は、以下の反応スキーム:
【0055】
【化7】

【0056】
で示される反応式(6)〜(10)による有機リン化合物の製造に適している。
【0057】
したがってハロゲン化アルキル、例えばヨウ化n−プロピルを用いれば、ジホスファン5が、定量的収率(quantitative yield)で得られる(R,SおよびR,RまたはS,S異性体の混合物の形態で)。
【0058】
トリメチルシリルクロリド:Me3SiClを用いれば、現在のところ複雑な方法でしか得られないビスフェニルビス(トリメチルシリル)−ジホスファン6を、高収率で製造することができる。
【0059】
硫黄を用いれば、テトラチオハイポジホスホン酸(tetrathiohypodiphosphonic acid)7の新規な二ナトリウム塩が、定量的収率で得られる。現在のところ、ほとんど研究されていないテトラチオハイポジホスホン酸については二リチウム塩および、二カリウム塩、さらにニッケル錯体のみが、記載されている。実現された最大収率は、約60%であった。
【0060】
2と、アリールカルボン酸塩化物、例えば塩化メシトイルとの反応は、ビス(メシトイル)フェニルホスファン8およびシクロフェニルホスファン、特にシクロペンタホスファン1(PhP)5中での不均化によって得られる。
【0061】
最後に、ビス(アシル)ジホスファン、例えばビス(ベンゾイル)ジホスファン9は、ビスシリルジホスファン6および等量の適切なカルボン酸塩化物から得ることができる。それらの化合物は、二ナトリウムジホスファンジイド2をMe3SiClと反応させ、次にRCOClを添加することによってワンポット法で得ることもできる。
【0062】
次の実施例は、本発明をより詳細に説明している。
【0063】
実施例1 ペンタフェニルシクロペンタホスファン(PhP)5の製造
【0064】
【化8】

【0065】
方法a)
150ml Schlenk管において、亜鉛粉末8.18g(0.125モル)を、油ポンプでの真空下、約200℃で2時間乾燥させた。冷却した亜鉛粉末を、無水無酸素のTHF 60mlの層で覆った。反応溶液の温度が40℃を超えないようにして、激しく撹拌しながら、PhPCl2 17.0ml(0.125モル)を緩徐に滴下した。室温で更に30分間撹拌した後、THFを油ポンプでの真空下で留去した。CH2Cl2 80ml中に淡黄色固形物を取り出した後、淡黄色懸濁液を飽和NH4Cl水溶液25ml/回で2回洗浄し、その後、Na2SO4で乾燥させた。CH2Cl2を油ポンプでの真空下で留去し、無色固形物を適切な溶媒(例えばCH3CN、Et2O)から再結晶化させた。
【表1】

【0066】
実施例2 ペンタフェニルシクロペンタホスファン(PhP)5の製造
方法b)
トルエン160ml(138g)およびTMEDA6.5g(0.056モル)を、窒素雰囲気下で500ml Schlenk管に入れた。ナトリウム2.53g(0.110モル)を添加し、加熱溶融し、撹拌懸濁させた。懸濁液を約50℃に冷却した後、PhPCl2 10g(0.055モル)をそれに添加した。その後、混合物を140℃の浴温で約90分間加熱した。反応の開始時に、懸濁液が濁ってきてかすかに赤褐色になり、NaClが、反応の間に沈殿した。金属を全く含んでいない反応混合物を高真空下で濃縮乾固し、酸素を除去しながら飽和NH4Cl水溶液50mlを残渣に添加し、CH2Cl2 100mlで抽出した。CH2Cl2相を濃縮して高真空下で乾燥させた後、かすかに褐色がかったペンタフェニルシクロペンタホスファンが残留した。収率5.28g(89%)、(PhP)6および(PhP)4の含量5%未満
【0067】
実施例3 式:[Na(tmeda)3][Na5(P2Ph23(tmeda)3](2a)および[Na(dme)3][Na5(P2Ph23(dme)3](2b)で示される二ナトリウム(ジフェニルジホスファンジイド)の製造
トルエン100mlおよびTMEDA15mlを、窒素雰囲気下で500ml Schlenk管に入れた。ナトリウム3.86g(0.168モル)を添加し、加熱溶融し、撹拌懸濁させ、その後、懸濁液を約50℃に冷却した後、PhPCl2 10.00g(0.055モル)をそれに緩徐に添加した。その後、混合物を140℃の浴温で約6時間加熱した(還流)。反応の開始時に、懸濁液が濁ってきて緑色になり、その後、赤褐色になった。反応の終了が、結晶の形態の淡黄色残渣2aの沈殿によって示され、上清溶液は、明黄橙色であった。沈殿した固形物2aをブフナー漏斗を用いて窒素雰囲気下で濾別した。それは、ジメトキシエタンまたはTHFに溶解し、濾過によってNaClから分離し、その後、溶液を濃縮することによって明橙色の六角柱2bの形態で結晶化させることができた。図式の構造2による[Na(tmeda)3][Na5(P2Ph23(tmeda)3]としての化合物2a、および[Na(dme)3][Na5(P2Ph23(dme)3]としての化合物2bの組成および構造を、311H−NMR分光法、23Na−MAS−NMR分光法、および2bの単結晶X線構造解析によって確認した。
【0068】
【表2】

【0069】
[Na(dme)3][Na5(P2Ph23(dme)3]2bの結晶データ:六角形、a=15.04(2)、b=15.04(2)、c=20.93(4);α=90°、β=90°、γ=120°
【0070】
実施例4 式:Na2(P3Ph3)(tmeda)3(3)で示される二ナトリウム(トリフェニルトリホスファンジイド)の製造
PhPCl2 4.38g(24.5ミリモル)を、トルエン70mlおよびTMEDA10ml中のナトリウム1.50g(65.3ミリモル、2.67当量)と一緒に6〜7時間加熱還流し、その後、不溶性の生成物を濾過によって除去した。分別結晶作用によって、二ナトリウムトリホスファンジイド[Na2(P3Ph3)(tmeda)3]を赤色溶液から橙色固形物の形態で得た。あるいはトリホスファンジイド3は、シンプロポーショネーション反応(synproportionation reaction)によって2および4から60〜70%の収率で製造することができる。
【0071】
【表3】

【0072】
実施例5 式:Na2(P4Ph4)(tmeda)2(4a)およびNa2(P2Ph4)(dme)3(4b)で示される二ナトリウム(テトラフェニルテトラホスファンジイド)の製造
PhPCl2 10.00g(56ミリモル)を、トルエン100mlおよびTMEDA15ml中のナトリウム3.21g(140ミリモル、2.5当量)gと一緒に6〜7時間加熱還流し、その後、高温のうちに濾過した。二ナトリウムテトラホスファンジイド[Na2(P4Ph4)(tmeda)2]4aを、収率60〜70%で黄色固形物の形態で、赤色溶液から結晶化させた。ジメトキシエタンを用いた(4a)の再結晶化によって、(4b)を得た。
【0073】
【表4】

【0074】
[Na2(P4Ph4)(tmeda)2]の結晶データ:三斜晶、a=10.17(1)、b=10.27(1)、c=11.94(1);α=76.403(18)°、β=71.328(16)°、γ=62.138(17)°
【0075】
実施例6:式:[Na22Ph2(tmu)nm(n=0〜10、そしてm=1〜∞)で示される二ナトリウム(ジフェニルジホスファンジイド)の製造
トルエン100mlおよびN,N,N',N'−テトラメチル尿素(TMU)15mlを、窒素雰囲気下で500ml Schlenk管に入れた。ナトリウム3.86g(0.168モル)を添加し、加熱溶融し、撹拌懸濁させ、その後、懸濁液を約50℃に冷却した後、PhPCl2 10.00g(0.055モル)をそれに緩徐に添加した。次に、混合物を140℃の浴温で約3〜4時間加熱した(還流)。反応の終了が、多量の黄色固形物の沈殿によって示され、それを吸引漏斗を用いて窒素雰囲気下で濾別した。固形物は、NaClおよび純粋なNa22Ph2で構成されており、TMUの含量は詳細に確認しなかった。2a、bとは異なり、その物質は、THFへの溶解性が乏しく、31P NMRおよびトリメチルシリルクロリドを用いた誘導体化によって同定した。
【0076】
【表5】


過剰のトリメチルシリルクロリドの室温での添加後、直ちに脱色および唯一の生成物としてPh22(Si[CH332が形成された。
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:R1PHal2
(式中、R1は、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、Halは、F、Cl、BrまたはIであり、そしてnは、3〜20の数である)で示されるジハロ(オルガニル)ホスファンを、
(a)有機溶媒中で、活性化亜鉛と、または
(b)エーテルおよびポリエーテル、アミンおよびポリアミン、芳香族N−複素環式化合物および炭酸誘導体からなる群から選択される活性化剤の存在下に、非極性有機溶媒中で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と、
反応させることによって、式(I):(R1P)nで示されるシクロオルガニルホスファンを製造する方法であって、
活性化剤に対する非極性溶媒の容積比が、10:0.1〜10:5である方法。
【請求項2】
式:R1PHal2で示されるジハロ(オルガニル)ホスファンを、エーテル性溶媒中で、活性化亜鉛と反応させることによって、請求項1記載の式(I):(R1P)nで示されるシクロオルガニルホスファンを製造する方法。
【請求項3】
式:R1PHal2で示されるジハロ(オルガニル)ホスファンを、エーテルおよびポリエーテル、アミンおよびポリアミン、芳香族N−複素環式化合物および炭酸誘導体からなる群から選択される活性化剤の存在下で、非極性有機溶媒中で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と反応させることによって、請求項1記載の式(I):(R1P)nで示されるシクロオルガニルホスファンを製造する方法であって、
活性化剤に対する非極性溶媒の容積比が、10:0.1〜10:5である方法。
【請求項4】
非極性有機溶媒が、トルエンであり、そして活性化剤が、テトラメチルエチレンジアミンまたはジメトキシメタンである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
1が、フェニルである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
構造式(2)、(3)または(4):
【化1】


(式中、
Rは、C1〜C6アルキル、C3〜C6シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり;
Mは、Li、Na、K、CsまたはMgであり;
Halは、F、Cl、BrまたはIであり;
Lは、活性化剤であり;そして
nおよびmは、配位分子Lの数を示し、1〜8であることができる)で示されるジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイド。
【請求項7】
Rが、フェニルであり、そしてLが、テトラメチルエチレンジアミンまたは1,2−ジメトキシエタンである、請求項6記載のジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイド。
【請求項8】
式:RPHal2
(式中、Rは、C1〜C12アルキル、C3〜C12シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、Halは、F、Cl、BrまたはIであり、そしてnは、3〜20の数である)で示されるジハロ(オルガニル)ホスファンを、活性化剤の存在下に、非極性有機溶媒中で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と反応させることによって、請求項6記載の式(2)、(3)または(4)で示されるジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドの製造方法であって、
RPHal2に対するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のモル比が、1を超える製造方法。
【請求項9】
有機リン化合物の製造における、請求項6記載の式(2)、(3)または(4)で示されるジ(アルカリ金属/アルカリ土類金属)オリゴホスファンジイドの使用。

【公表番号】特表2006−509007(P2006−509007A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556322(P2004−556322)
【出願日】平成15年11月24日(2003.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050873
【国際公開番号】WO2004/050668
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(396023948)チバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Holding Inc.
【Fターム(参考)】