説明

シクロオレフィンコポリマーおよびフィルム

【課題】複屈折の波長分散を効果的に発現させるシクロオレフィンコポリマーおよび該コポリマーからなるフィルムを提供する。
【解決手段】エチレン及び炭素数3〜20のα−オレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種の非シクロオレフィンモノマー(A)、シクロオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種類のシクロオレフィンモノマー(B)および縮合多環式化合物からなる環状ユニットを有するビニル化合物から選ばれる少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマー(C)を付加重合させたシクロオレフィンコポリマー。該シクロオレフィンコポリマーからなるフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の芳香族ビニルモノマーを含有するシクロオレフィンコポリマー、および液晶表示装置などに用いられるフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、反射型や半透過型の液晶ディスプレイや光ディスク用ピックアップなどの用途において、可視光領域(400〜800nm)で1/4波長(1/4λ)の位相差を与える位相差フィルムが、液晶プロジェクターなどの用途においては、1/2λの位相差の位相差フィルムが求められている。さらに、バーティカルアラインメント方式の液晶ディスプレイにおいて、波長が高くなるにつれてレターデーション(=複屈折×フィルムの厚み)が増大する位相差フィルムが求められている。すなわち、可視光領域で、波長が高くなるにつれてレターデーションが増大する逆波長分散のフィルムが求められている。このようなフィルム性能を実現するには、特別な構造を有する樹脂の設計が必要となる。
【0003】
このような状況下、エチレンとノルボルネンからなるシクロオレフィンコポリマーに、特定のモノマーを導入することで、波長分散を制御する技術が検討されている。例えば、特許文献1,2では、特定のモノマーとしてスチレンを導入することで、波長分散性がコントロールされたフィルムを実現している。しかしながら、スチレンのような主鎖に直交する成分を導入することで、同時にレターデーション値が低下していくという難点がある。
【0004】
実際、特許文献1のようにスチレン含有量が少量(6〜7モル%)のシクロオレフィンコポリマーフィルムは、逆波長分散となっているが、波長590nmのレターデーションRe590と波長450nmのレターデーションRe450は、10nm程度と上記1/4λ板には不十分である。また、波長分散の程度のRe590−Re450は、1〜3nmと小さい。
【0005】
一方、特許文献2のようにスチレン含有量を多くすると(9〜27モル%)、レターデーションが負に発現し、波長分散の程度の|Re590−Re450|(絶対値)は大きくなる。しかしながら、レターデーションはその絶対値で評価されるため、Re590−Re450はマイナスとなる。すなわち、可視光領域の波長が高くなるにつれてレターデーションの絶対値が小さくなる順波長分散となる。
【0006】
以上のことから、特許文献1〜2のようなスチレンのような単環のビニルモノマーを導入する手法では、効果的に逆波長分散のフィルムをつくることに適しているとは言いがたい。したがって、レターデーションの値が十分に大きくかつ大きな逆波長分散性をしめすシクロオレフィンコポリマーフィルムが望まれる。
【特許文献1】特開2003−207640号公報
【特許文献2】特開2003−50316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、複屈折の波長分散を効果的に発現させるシクロオレフィンコポリマーおよび該コポリマーからなるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、スチレンのような単環の芳香族ビニルモノマーのかわりに、ビニルナフタレンやビニルアントラセンのような縮合多環の芳香族ビニルモノマーを用いることで、そのシクロオレフィンコポリマーのフィルムの複屈折の波長分散特性が効果的に発現することを見出した。例えば、縮合多環の芳香族ビニルモノマーを一定のモル比率以下で用いることで、正に分極させつつ、単環の芳香族ビニルモノマーより大きな逆波長分散特性を発現させることができる。一方で、一定のモル比率以上を用いることで、負に分極となり、単環の芳香族ビニルモノマーより大きな順波長分散特性を発現させることもできる。
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0009】
1.エチレン及び炭素数3〜20のα−オレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種の非シクロオレフィンモノマー(A)、シクロオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種類のシクロオレフィンモノマー(B)並びに縮合多環式化合物からなる環状ユニットを有するビニル化合物から選ばれる少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマー(C)を付加重合させたシクロオレフィンコポリマー。
2.前記非シクロオレフィンモノマー(A)がエチレンであることを特徴とする前記1記載のシクロオレフィンコポリマー。
3.前記シクロオレフィンモノマー(B)がノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンであることを特徴とする前記1または2に記載のシクロオレフィンコポリマー。
4.前記芳香族ビニルモノマー(C)がビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルフェナンスレン、ビニルフルオランテンもしくはビニルピレンであることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のシクロオレフィンコポリマー。
5.前記1〜4のいずれかに記載のシクロオレフィンコポリマーからなるフィルム。
6.波長450nmにおけるレターデーションRe450 と波長590nmにおけるレターデーションRe590 の差ΔRe=Re590―Re450が10nm以上であることを特徴とする前記5に記載のフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複屈折の逆波長分散を効果的に発現させるシクロオレフィンコポリマーおよびフィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
一般にシクロオレフィンコポリマーとは、エチレンなどの非シクロオレフィンモノマーとノルボルネンなどのシクロオレフィンモノマーを付加共重合させたポリマーのことを意味する。本発明のシクロオレフィンコポリマーは、少なくとも1種の非シクロオレフィンモノマー(A)、少なくとも1種のシクロオレフィンモノマー(B)、さらに少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー(C)を付加共重合させる。
以下に(A)、(B)、(C)を説明する。
【0012】
[非シクロオレフィンモノマー(A)]
非シクロオレフィンモノマー(A)は、エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン化合物である。ここで炭素数3〜20のα−オレフィン化合物としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンのような炭素原子数3〜20の直鎖状α−オレフィンや、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンのような炭素原子数4〜20の分岐状α−オレフィンなどが挙げられる。これらの中では、炭素原子数が2のエチレンや、炭素原子数が3又は4の直鎖状α−オレフィンであるプロピレン又は1−ブテンが、本発明の重合体をフィルム状に成形した際の柔軟性の点で好ましく、特にエチレンが同様の理由で好ましい。上記のエチレン及びα−オレフィンは、それぞれ単独で用いても、また2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0013】
[シクロオレフィンモノマー(B)]
シクロオレフィンモノマー(B)は、炭素環内に重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物であって、共重合した際、共重合体の主鎖中にシクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、それらが2つ以上結合した環のような脂環式の環を導入できる単量体である。具体的には、ノルボルネン系の骨格がよく、以下の下記式(II)で表される。
【0014】
【化1】

【0015】
(式(II)中、mおよびnは、それぞれ独立に0〜2の整数であり、 R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、窒素原子、イオウ原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;および極性基よりなる群から選ばれる原子もしくは基を表し、 R、R、R10、R11は、それぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;酸素原子、窒素原子、イオウ原子もしくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい置換もしくは非置換の炭素原子数1〜30の炭化水素基;および極性基よりなる群から選ばれる原子もしくは基を表し、互いに結合してヘテロ原子を有してもよい単環または多環の基を形成してもよく、RとR、または、R10とR11は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、sおよびtは、それぞれ独立に0〜3の整数である。)
【0016】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。炭素原子数1〜30の炭化水素基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチリデン基、プロピリデン基等のアルキリデン基;フェニル基等の芳香族基等が挙げられる。これらの炭化水素基は置換されていてもよく、置換基としてはたとえばフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、フェニルスルホニル基、シアノ基等が挙げられる。
【0017】
また、上記の置換または非置換の炭化水素基は、直接環構造に結合していてもよいし、あるいは連結基(linkage)を介して結合していてもよい。連結基としては、たとえば炭素原子数1〜10の2価の炭化水素基(たとえば、−(CH2)q−、qは1〜10の整数で表わされるアルキレン基);酸素原子、窒素原子、イオウ原子またはケイ素原子を含む連結基(たとえば、カルボニル基(−CO−)、カルボニルオキシ基(−COO−)、スルホニル基(−SO2−)、スルホニルエステル基(−SO2−O−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(―S―)、イミノ基(―NH―)、アミド結合(―NHCO―)、シロキサン結合(−Si(R2)O−(ここで、Rはメチル、エチル等のアルキル基));あるいはこれらの2種以上が組み合わさって連なったものが挙げられる。
【0018】
極性基としては、たとえば水酸基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、カルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、シアノ基、アミド基、イミド基、トリオルガノシロキシ基、トリオルガノシリル基、アミノ基、アシル基、アルコキシシリル基、スルホニル基、およびカルボキシル基などが挙げられる。さらに具体的には、上記アルコキシ基としては、たとえばメトキシ基、エトキシ基等が挙げられ;カルボニルオキシ基としては、たとえばアセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基、及びベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基が挙げられ;アルコキシカルボニル基としては、たとえばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられ;アリーロキシカルボニル基としては、たとえばフェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等が挙げられ;トリオルガノシロキシ基としてはたとえばトリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等が挙げられ;トリオルガノシリル基としてはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基等が挙げられ;アミノ基としては第1級アミノ基等が挙げられ、アルコキシシリル基としてはたとえばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。
【0019】
シクロオレフィンモノマー(B)は、製造の原料入手の観点から、シクロペンタジエンと1置換オレフィンとのディールスアルダー反応生成物、さらにこれとシクロペンタジエンとのディールスアルダー反応生成物であることが好ましい。したがって、R1〜R7は、水素が最も好ましい。
【0020】
R8、R9、R10、R11は、同様の観点から、汎用の置換オレフィンの官能基に由来することが好ましい。したがって、水素、アルキル基、エステル基、アシル基、水酸基、ハロゲンなどがさらに好ましく、水素、メチル基、メチルエステル基、アセチル基が好ましく、水素がもっとも好ましい。
【0021】
同様の観点から、シクロオレフィンモノマーは、ノルボルネン骨格もしくはテトラシクロドデセン骨格が好ましいため、s、t、nは0が好ましい。mは0もしくは1が好ましく、0がさらに好ましい。
【0022】
したがって、シクロオレフィンモノマー(B)は以下の化合物があげられる。
【0023】
【化2】

【0024】
これらのシクロオレフィンモノマー(B)は、それぞれ単独で用いても、また2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
[芳香族ビニルモノマー(C)]
芳香族ビニルモノマー(C)は、その芳香族の部位がナフタレンやアントラセンのような縮合多環式化合物およびその誘導体にビニル基が連結しているものである。縮合多環式化合物は、ベンゼンのような単環式化合物より吸収波長が長いため、これをシクロオレフィンコポリマーに組み入れたとき、その波長分散の程度は大きく発現する。一方で吸収波長が長すぎる場合、具体的には400nm以上に極大吸収波長を有する場合、シクロオレフィンコポリマーフィルムが着色しやすい傾向にあるため、400nm以上に極大吸収波長はないことが好ましい。すなわち300nm〜400nmに極大吸収波長を有し、該極大吸収波長におけるモル吸光係数が10〜100,000である極大吸収波長を少なくとも一つ有する芳香族化合物にビニル基が連結した化合物が好ましい。
【0026】
なお、本明細書における、極大吸収波長とは、対象となる化合物をメチレンクロライドで適当な濃度で溶解させ(不溶の場合はヘキサンやヘプタンなどで溶解させる)、その吸収波長を通常の吸光分光光度計で25℃で測定したときの吸収ピークの極大点をいう。モル吸光係数の単位は、[mol-1dm3cm-1]であるが、以下断りがない限り、モル吸光係数の単位はこれに規定される。極大吸収波長は必ずしも最大吸収波長でない。極大点は複数存在することがある。
【0027】
300nm〜400nmに極大吸収波長を有し、該極大吸収波長におけるモル吸光係数が10〜100,000である芳香族化合物の具体例として、以下の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
【化3】

【0029】
該芳香族化合物は、重合の活性が高い点から、炭化水素のみからなる芳香族化合物が好ましく、300nm〜400nmにモル吸光係数が100〜10,000の極大吸収波長を有しかつ400nm超に吸収を有さないことから、2〜4環式芳香族化合物がさらに好ましく、さらに原料入手性の観点から、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、フルオランテンもしくはピレンであることが最も好ましい。
【0030】
したがって、芳香族ビニルモノマー(C)は以下の化合物が最も好ましくあげられる。
【0031】
【化4】

【0032】
[シクロオレフィンコポリマー]
本発明のシクロオレフィンコポリマーは、非シクロオレフィンモノマー(A)、シクロオレフィンモノマー(B)および芳香族ビニルモノマー(C)を付加重合して得られる。それぞれに由来する繰り返し単位の役割を具体的に説明すると、非シクロオレフィンモノマー(A)に由来する繰り返し単位は、重合体に柔軟性を付与する役割を有し、分極率は重合体の主鎖方向に正であって、その波長分散係数αA≒1.00と考えられる。シクロオレフィンモノマー(B)に由来する繰り返し単位は、重合体の熱物性、溶解性等を改良する役割を有し、分極率は重合体の主鎖方向に概ね正であると考えられ、その波長分散係数αB≒1.00と考えられる。芳香族ビニルモノマー(C)に由来する繰り返し単位は、波長分散をコントロールする。分極率は重合体の主鎖方向に負であって、その波長分散係数αC≦1.00と考えられる。これらの共重合比率を適切に制御することにより、柔軟性、透明性、耐熱性、そして波長分散特性のバランスに優れる共重合体の設計が可能となる。
【0033】
コポリマー中の非シクロオレフィンモノマー(A)に由来する繰り返し単位、シクロオレフィンモノマー(B)に由来する繰り返し単位、及び芳香族ビニルモノマー(C)に由来する繰り返し単位の全体の中での構成比は、以下のとおりである。
【0034】
芳香族ビニルモノマー(C)に由来する繰り返し単位が1〜40モル%、非シクロオレフィンモノマー(A)およびシクロオレフィンモノマー(B)のそれぞれに由来する繰り返し単位の合計が60〜99モル%であることが好ましい。シクロオレフィンモノマー(B)に由来する繰り返し単位を含む場合、それが20モル%以上であるのが好ましく、また、柔軟性と耐熱性を考慮すると、30モル%以上であるのがさらに好ましい。非シクロオレフィンモノマー(A)に由来する繰り返し単位は、1モル%以上存在させるのが適当である。
【0035】
本発明のシクロオレフィンコポリマーにおける共重合形式は、本発明の効果を妨げない範囲であれば、ランダム形式、ブロック形式のいずれでも差し支えないが、ポリマーの脆性を向上させる観点から、立体規則性を有することが好ましく、シクロオレフィンモノマー(B)が連続して結合しない形式が好ましい。
【0036】
本発明のシクロオレフィンコポリマーは、例えば、有機金属錯体を触媒として、非シクロオレフィンモノマー(A)と、シクロオレフィンモノマー(B)と、芳香族ビニルモノマー(C)とを共重合することにより、製造できる。有機金属錯体としては、TiやZrのような前期遷移金属錯体、とくにこれらのメタロセン系錯体、NiやPdのような後期遷移金属錯体などがあげられる。さらにこれらに助触媒などを作用させるとよい。
【0037】
その際、非シクロオレフィンモノマー(A)、シクロオレフィンモノマー(B)及び芳香族ビニルモノマー(C)の投入量、重合温度や重合時間などの重合条件を適宜変更することで、共重合組成や分子量等の異なるコポリマーを得ることができる。このコポリマーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、抗菌剤、防曇剤、可塑剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
本発明のシクロオレフィンコポリマーのクロロホルム溶液をウッベローデ型粘度計で測定して得られる対数粘度[η]を、通常0.2〜5.0、好ましくは0.3〜4.0、さらに好ましくは0.35〜3.0とするのが望ましい。
【0039】
また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、テトラヒドロフラン溶媒、ポリスチレン換算)による分子量の測定による、数平均分子量(Mn)を、通常1000〜100万、好ましくは2000〜50万、さらに好ましくは5000〜50万とし、質量平均分子量(Mw)を、通常5000〜500万、好ましくは1万〜200万、さらに好ましくは1万〜100万とするのが望ましい。また、分子量分布(通常Mw/Mn)を1.05〜10.0、好ましくは、1.1〜7.0、さらに好ましくは、1.1〜5.0とするのが望ましい。ここで、対数粘度[η]が0.2未満、Mnが1000未満あるいは、Mwが5000未満であると、得られたシクロオレフィンコポリマーを用いた成形物の強度が著しく低下する場合がある。一方、対数粘度[η]が5.0超、Mnが100万超、はMwが200万超であると、シクロオレフィンコポリマーの溶融粘度あるいは溶液粘度が高くなりすぎて、得られたシクロオレフィンコポリマーの成形品を得ることが困難になる場合がある。
【0040】
本発明で用いられるシクロオレフィンコポリマーのガラス転移温度(Tg)は、通常は80〜350℃、好ましくは100〜350℃である。Tgが80℃未満の場合、熱変形温度が低くなり、得られるフィルムの耐熱性に問題が生じる場合がある。一方、Tgが350℃超の場合、得られるフィルムを延伸加工等加熱して加工する場合の加工温度が高くなりすぎて、フィルムが熱劣化による強度の低下や着色する問題が生じる場合がある。
【0041】
<添加物>
このような本発明で用いられるシクロオレフィンコポリマーには、透明性・耐熱性を損なわない範囲で公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子などを配合しても良い。また、シクロオレフィンコポリマーには、酸化防止剤等の添加剤などを添加しても良く、かかる酸化防止剤等の添加剤としては、たとえば次の化合物が挙げられる。
【0042】
酸化防止剤:
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2' −ジオキシ−3,3' −ジ−t−ブチル−5,5' −ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2' −ジオキシ−3,3' −ジ−t−ブチル−5,5' −ジエチルフェニルメタン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−(β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]、2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイトが挙げられる。
【0043】
紫外線吸収剤:
2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2−(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール、2-ベンゾトリアゾール-2-イル4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,2' -メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-[(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]〕などが挙げられる。これらの添加剤の添加量は、熱可塑性シクロオレフィンコポリマー100質量部に対して、通常、0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜4質量部である。さらに、加工性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を添加することもできる。
【0044】
[シクロオレフィンコポリマーフィルム]
本発明のシクロオレフィンコポリマーフィルムは、上記シクロオレフィンコポリマーから成り、溶液製膜(溶剤キャスト法)もしくは溶融製膜により製造される。製造されたフィルムは、波長分散を発現させるため、延伸されることが好ましい。
【0045】
溶剤キャスト法としては、たとえば、上述した本発明に係るシクロオレフィンコポリマーを溶媒に溶解又は分散させて適度の濃度の液にし、適当なキャリヤー上に注ぐか又は塗布し、これを乾燥した後、キャリヤーから剥離させる方法が挙げられる。
【0046】
本発明に係るシクロオレフィンコポリマーを溶媒に溶解又は分散させる際には、該樹脂の濃度を、通常は0.1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%、さらに好ましくは10〜35質量%にする。該樹脂の濃度を上記未満にすると、フィルムの厚みを確保することが困難になる、また、溶媒蒸発にともなう発泡等によりフィルムの表面平滑性が得にくくなる等の問題が生じる。一方、上記を超えた濃度にすると溶液粘度が高くなりすぎて得られるフィルムの厚みや表面が均一になりにくくなるために好ましくない。
【0047】
また、室温での上記溶液の粘度は、通常は1〜1,000,000(mPa・s)、好ましくは10〜100,000(mPa・s)、さらに好ましくは100〜100,000(mPa・s)、特に好ましくは1,000〜10,000(mPa・s)である。
【0048】
ここで使用する溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等のセロソルブ系溶媒、ジアセトンアルコール、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノン、1,2−ジメチルシクロヘキサン等のケトン系溶媒、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン含有溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、1−ペンタノール、1−ブタノール等のアルコール系溶媒を挙げることができる。
【0049】
また、上記以外でも、SP値(溶解度パラメーター)が通常10〜30(MPa1/2)、好ましくは10〜25(MPa1/2)、さらに好ましくは15〜25(MPa1/2)、特に好ましくは15〜20(MPa1/2)の範囲の溶媒を使用すれば、表面均一性と光学特性の良好なフィルムを得ることができる。
【0050】
上記溶媒は単独であるいは2種以上併用して使用することができる。溶媒を2種以上併用する場合には、混合物としてのSP値の範囲を上記範囲内とすることが好ましい。このとき、混合物としてのSP値は、その質量比から求めることができ、例えば二種の混合物の場合は、各溶媒の質量分率をW1,W2、また、SP値をSP1,SP2とすると混合溶媒のSP値は下記式:
SP値=W1・SP1+W2・SP2
により計算した値として求めることができる。
【0051】
上記の混合溶媒を使用する際、本発明に係るシクロオレフィンコポリマーの良溶媒と貧溶媒とを組み合わせると、光拡散機能を有するフィルムを得ることができる。具体的には、樹脂、良溶媒及び貧溶媒のSP値をそれぞれ(SP値:樹脂)、(SP値:良溶媒)及び(SP値:貧溶媒)と規定すると、(SP値:樹脂)と(SP値:良溶媒)の差が好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは3以下の範囲であり、かつ、(SP値:樹脂)と(SP値:貧溶媒)の差が好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上、特に好ましくは9以上であり、(SP値:良溶媒)と(SP値:貧溶媒)の差が好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上とすることにより、得られるフィルムに光拡散機能を付与することができる。
【0052】
なお、貧溶媒の混合溶媒中にしめる割合は、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。また、貧溶媒の沸点と良溶媒の沸点の差は好ましくは1℃以上、さらに好ましくは5℃以上、特に好ましくは10℃以上、最も好ましくは20℃以上であり、特に貧溶媒の沸点が良溶媒の沸点より高いことが好ましい。
【0053】
樹脂溶液の調製において、シクロオレフィンコポリマーを溶媒で溶解する場合の温度は、室温でも高温でもよい。十分に撹拌することにより均一な溶液が得られる。なお、必要に応じて着色する場合には、溶液に染料、顔料等の着色剤を適宜添加することもできる。
【0054】
また、フィルムの表面平滑性を向上させるためにレベリング剤を添加してもよい。一般的なレベリング剤であれば何れも使用できるが、たとえば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤などが使用できる。
【0055】
本発明のフィルムを溶剤キャスト法により製造する方法としては、上記溶液をダイスやコーターを使用して金属ドラム、スチールベルト、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、ポリテトラフルオロエチレン製ベルトなどの基材の上に塗布して塗膜を形成し、その後溶剤を乾燥・除去して基材よりフィルムを剥離する方法が一般に挙げられる。また、スプレー、ハケ、ロールスピンコート、ディッピングなどの手段を用いて,樹脂溶液を基材に塗布し、その後溶剤を乾燥・除去して基材よりフィルムを剥離することにより製造することもできる。なお、塗布の繰り返しにより厚みや表面平滑性等を制御してもよい。
【0056】
また、基材としてポリエステルフィルムを使用する場合には、表面処理されたフィルムを使用してもよい。表面処理の方法としては、一般的に行われている親水化処理方法、例えばアクリル系樹脂やスルホン酸塩基含有樹脂をコーティングやラミネートにより積層する方法、あるいは、コロナ放電処理等によりフィルム表面の親水性を向上させる方法等が挙げられる。
【0057】
また、上記溶液を塗布する基材、例えば金属ドラム、スチールベルト、ポリエステルフィルム等の表面にサンドマット処理やエンボス処理を施したものを使用すると、フィルムの表面に上記処理による凹凸が転写して、本発明の光拡散機能を有するフィルムを製造することができる。
【0058】
上記のようにして光拡散機能を付与する場合は、低波長から高波長までの光の透過率を安定して維持する特性から、一定の大きさで凹凸を付けることが好ましい。この時の凹凸の形状については、凹凸を付ける手法に左右されるために特に制約は無いが、通常は表面粗さ(中心線平均粗さ:Ra)が0.001〜100μm、好ましくは0.005〜10μm、さらに好ましくは0.01〜1μm、特に好ましくは0.05〜1μmである。Raの値が0.001μm未満あるいは100μmを超えると、良好な光拡散機能が期待できにくい。なお、フレネルレンズのようなレンズ機能を付与する場合は、Raの値が100μmを超えることがあってもよい。
【0059】
さらに、シクロオレフィンコポリマーの溶液に該樹脂と非相溶の樹脂やフィラーを添加し均一化したものをキャストする方法でも、本発明の光拡散機能を有するフィルムを製造することができる。
【0060】
具体的には、上記非相溶の樹脂を添加する場合には、シクロオレフィンコポリマーとの屈折率差が通常は0.00001以上、好ましくは0.0001以上、さらに好ましくは0.001以上、特に好ましくは0.01以上の樹脂を選択して使用し、また、溶液に混合した後にキャストして乾燥した後に得られるフィルム中の前記相溶性を有しない樹脂の数平均の粒子径範囲が通常は0.01〜1,000μm、好ましくは0.05〜500μm、さらに好ましくは0.1〜100μm、特に好ましくは0.5〜50μmの範囲にすることで、低波長から高波長における光拡散効果を発揮することができる。上記屈折率差が0.00001未満であったり、また、上記粒子径が0.01μm未満であると良好な光拡散機能を付与するのが困難であり、一方、上記粒子径が1,000μmを超えた場合には光線透過率が著しく低下したり、フィルムの厚み精度や表面性に悪影響を及ぼすことがあるために好ましくない。
【0061】
また、上記非相溶の樹脂の添加量は、要求される光拡散の性能により変化するが、本発明に係るシクロオレフィンコポリマー100質量部に対し、通常は0.001〜100質量部、好ましくは0.01〜70質量部、さらに好ましくは0.1〜50質量部、特に好ましくは1〜25質量部である。添加量が0.001質量部未満であると、良好な光拡散機能が期待できにくい。また、添加量が100質量部以上になると光線透過率が著しく低下するために好ましくない。
【0062】
一方、フィラーとしては市販の無機フィラーや熱硬化性樹脂の硬化物を微細化した有機フィラー等を任意に使用することもできる。また、その粒子径及び添加量は、上記非相溶の樹脂を添加する場合と同様である。
【0063】
上記シクロオレフィンコポリマーと非相溶の樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン、ポリビニルベンゼン、ポリアミドあるいはポリイミドなどを挙げることができる。また、上記フィラーとしては、例えば、金、銀等の金属、SiO2、TiO2、ZnO2、Al23等の金属酸化物、ガラス、石英などの粒子を挙げることができる。
【0064】
上記溶剤キャスト法の乾燥(溶剤除去)工程については、特に制限はなく一般的に用いられる方法、例えば多数のローラーを介して乾燥炉中を通過させる方法等で実施できるが、乾燥工程において溶媒の蒸発に伴い気泡が発生すると、フィルムの特性を著しく低下させるので、これを避けるために、乾燥工程を2段以上の複数工程とし、各工程での温度あるいは風量を制御することが好ましい。
【0065】
また、フィルム中の残留溶媒量は、通常は10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。ここで、残留溶媒量が10質量%以上であると、実際に該フィルムを使用したときに経時による寸法変化が大きくなり好ましくない。また、残留溶媒によりTgが低くなり、耐熱性も低下することから好ましくない。
【0066】
なお、後述する延伸工程を好適に行うためには、上記残留溶媒量を上記範囲内で適宜調節する必要がある場合がある。具体的には、延伸配向時の位相差を安定して均一に発現させるために、残留溶媒量を通常は10〜0.1質量%、好ましくは5〜0.1質量%、さらに好ましくは1〜0.1質量%にすることがある。溶媒を微量残留させることで、延伸加工が容易になる、あるいは位相差の制御が容易になる場合がある。
【0067】
本発明のフィルムの厚さは、通常は0.1〜3,000μm、好ましくは0.1〜1,000μm、さらに好ましくは1〜500μm、最も好ましくは5〜300μmである。0.1μm未満の厚みの場合実質的にハンドリングが困難となる。一方、3,000μm以上の場合、ロール状に巻き取ることが困難になる。
【0068】
本発明のフィルムの厚み分布は、通常は平均値に対して±20%以内、好ましくは±10%以内、さらに好ましくは±5%以内、特に好ましくは±3%以内である。また、1cmあたりの厚みの変動は、通常は10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下であることが望ましい。かかる厚み制御を実施することにより、均質なフィルムとすることができるとともに、延伸配向した際の透過光の位相差ムラを防ぐことができる。
【0069】
溶融製膜(押出成形法)としては、押出機により、樹脂を溶融し、ギアポンプにより定量供給し、これを金属フィルターでろ過により不純物を除去して、ダイにてフィルム形状に賦型し、引き取り機を用いてフィルムを冷却し、巻き取り機を用いて巻き取る方法が一般的に使用される。
【0070】
押出成形に使用される押出機としては、単軸、二軸、遊星式、コニーダー、バンバリーミキサータイプなど、いずれを用いても良いが、好ましくは単軸押出機が用いられる。また、押出機のスクリュウ形状としては、ベント型、先端ダルメージ型、ダブルフライト型、フルフライト型などがあり、圧縮タイプとしては、緩圧縮タイプ、急圧縮タイプなどがあるが、フルフライト型緩圧縮タイプが好ましい。
【0071】
計量に使用するギアポンプに関しては、ギアの間で下流側より戻される樹脂が、系内に入る内部潤滑方式と、外部に排出される外部潤滑方式があるが、熱安定性が良好でない熱可塑性シクロオレフィンコポリマーの場合には、外部潤滑方式が好ましい。ギアポンプのギア歯の切り方は、軸に対して、平行な方向よりも、ヘリカルタイプの方が、計量の安定化の点から好ましい。
【0072】
異物のろ過に使用するフィルターに関しては、リーフディスクタイプ、キャンドルフィルタータイプ、リーフタイプ、スクリーンメッシュなどが挙げられるが、比較的滞留時間分布が小さく、ろ過面積を大きくすることが可能な、リーフディスクタイプのものが好ましい。フィルターエレメントとしては、金属繊維焼結タイプ、金属粉末焼結タイプ、金属繊維/粉末積層タイプなどが挙げられる。
【0073】
フィルターのセンターポールの形状には、外流タイプ、六角柱内部流動タイプ、円柱内部流動タイプなどが挙げられるが、滞留部が小さい形状であれば、いずれの形状を選択することも可能であるが、好ましくは、外流タイプである。
【0074】
溶融されたシクロオレフィンコポリマーは、ダイから吐出され、冷却ドラムに密着固化されて目的とするフィルムに成形される。ダイ形状に関しては、ダイ内部の樹脂流動を均一にすることが必須であり、フィルムの厚みの均一性を保つためには、ダイ出口近傍でのダイ内部の圧力分布が幅方向で一定であることが必須である。また、幅方向での樹脂の流量がほぼ一定であり、ダイの出口での流量の微調整をリップ開度により調整可能な範囲で一定であることが厚みの均一性を得るために必須用件である。上記、条件を満たすためにはマニホールド形状は、コートハンガータイプが好ましく、ストレートマニホールド、フィッシュテールタイプなどは、幅方向での流量分布などが発生しやすくなるために好ましくない。
【0075】
また、上記のフィルムの厚み分布を均一にするためには、ダイ出口での温度分布を幅方向において一定にすることが重要であり、温度分布は好ましくは±1℃以下であり、さらに好ましくは±0.5℃以下である。±1℃を超えて幅方向に温度ムラが生じていると、樹脂の溶融粘度差が生じ、厚みムラ、応力分布ムラなどが生じるため、延伸操作を実施する過程において、位相差ムラが発生しやすくなり好ましくない。
【0076】
さらに、ダイ出口のリップ開き量(以下、「リップギャップ」という。)は、通常、0.05〜1mmであり、好ましくは0.3〜0.8mmであり、さらに好ましくは0.35〜0.7mmである。リップギャップが0.05mm未満であると、ダイ内部の樹脂圧力が高くなり過ぎて、樹脂がダイのリップ以外の場所から樹脂漏れを起こしやすくなるため好ましくない。一方、リップギャップが1mmを超えると、ダイの樹脂圧力が上がりにくくなるため、フィルムの幅方向の厚みの均一性が悪くなり好ましくない。
【0077】
ダイから押出されたフィルムを密着固化させる方法としては、ニップロール方式、静電印加方式、エアーナイフ方式、バキュームチャンバー方式、カレンダー方式などが挙げられ、フィルムの厚さ、用途に従って、適切な方式が選択される。
【0078】
ダイから押出されたフィルムを固化するための冷却ロール表面についても、押出機シリンダー、ダイスの内面などと同様に、各種の表面処理が行われることが好ましい。押出機(シリンダー・スクリューなど)、ダイスの材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、押出機シリンダー、ダイスの内面ならびに押出機スクリュー表面には、クロム、ニッケル、チタンなどのメッキが施されたもの、PVD(Physical Vapor Deposition)法などにより、TiN、TiAlN、TiCN、CrN、DLC(ダイアモンド状カーボン)などの被膜が形成されたもの、WCなどのタングステン系物質、サーメットなどのセラミックが溶射されたもの、表面が窒化処理されたものなどを用いることが好ましい。このような表面処理は、樹脂との摩擦係数が小さいため、均一な樹脂の溶融状態が得られる点で好ましい。
【0079】
本発明のフィルムを溶融押出により製造する際の樹脂温度(押出機シリンダー温度)としては、通常、200〜350℃、好ましくは220〜320℃である。樹脂温度が200℃未満では、樹脂を均一に溶融させることができず、一方、350℃を超えると、溶融時に樹脂が熱劣化して表面性に優れた高品質なフィルムの製造が困難になる。さらに、上記温度範囲内であって、樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、Tg+120℃〜Tg+160℃の範囲内の温度であることが特に好ましい。例えば、樹脂のTgが130℃であれば、フィルム製造にとって特に好ましい温度範囲は250℃〜290℃である。
【0080】
また、溶融押出時のせん断速度としては、通常、1〜500(1/sec)、好ましくは2〜350(1/sec)、より好ましくは5〜200(1/sec)である。押出時のせん断速度が1(1/sec)未満では、樹脂を均一に溶融させることができないため厚み斑が小さい押出フィルムを得ることができず、一方、500(1/sec)を超えると、せん断力が大きすぎて樹脂および添加物が分解・劣化し、押出フィルムの表面に発泡、ダイライン、付着物などの欠陥が生じてしまうことがある。
【0081】
溶融押出により得られた本発明のフィルムの厚みは、通常、10〜800μm、好ましくは、20〜500μm、より好ましくは40〜500μmである。10μm未満の厚みの場合、機械的強度不足などにより延伸加工などの後加工する場合に難があることがあり、一方、800μmを超える厚みの場合、厚みや表面性などが均一なフィルムを製造することが難しいばかりか、得られたフィルムを巻き取ることが困難になることがある。
【0082】
原反フィルムの厚み分布は、通常、平均値に対して±5%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±1%以内である。厚み分布が±5%を超えると、延伸処理を行って位相差フィルムとした場合に位相差ムラが発生しやすくなることがある。
【0083】
[位相差フィルム]
本発明のフィルムは、透過光に位相差を与えるフィルム(以下、「位相差フィルム」という)であることが好ましい。本発明に係る位相差フィルムは、上記方法によって得た本発明のフィルムをさらに延伸加工することにより得ることができ、具体的には、公知の一軸延伸法、二軸延伸法、Z軸延伸法により製造することができる。すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、円周の速度の異なるロールを利用する縦一軸延伸法等あるいは横一軸と縦一軸を組み合わせた二軸延伸法、インフレーション法による延伸法等を用いることができる。
【0084】
一軸延伸法の場合、延伸速度は通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分である。二軸延伸法の場合、同時2方向に延伸を行う場合や一軸延伸後に最初の延伸方向と異なる方向に延伸処理する場合がある。この時、屈折率楕円体の形状を制御するための2つの延伸軸の交わり角度は、所望する特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は120〜60度の範囲である。また、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0085】
延伸加工温度は、特に限定されるものではないが、本発明で用いられるシクロオレフィンコポリマーのガラス転移温度Tgを基準として、通常はTg±30℃、好ましくはTg±15℃、さらに好ましくはTg−5〜Tg+15℃の範囲である。前記範囲内とすることで、位相差ムラの発生を抑えることが可能となり、また、屈折率楕円体の制御が容易になることから好ましい。
【0086】
延伸倍率は、所望する特性により決定されるため特に限定はされないが、通常はは1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、さらに好ましくは1.03〜3倍である。延伸倍率が10倍以上の場合、位相差の制御が困難になる場合がある。
【0087】
延伸したフィルムは、そのまま冷却してもよいが、Tg−20℃〜Tgの温度雰囲気下に少なくとも10秒以上、好ましくは30秒〜60分間、さらに好ましくは1分〜60分間保持してヒートセットすることが好ましい。これにより、透過光の位相差の経時変化が少なく安定した位相差フィルムが得られる。
【0088】
延伸加工を施さない本発明のフィルムの加熱による寸法収縮率は、100℃における加熱を500時間行った場合に、通常5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
【0089】
また、本発明の位相差フィルムの加熱による寸法収縮率は、100℃における加熱を500時間行った場合に、通常10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
寸法収縮率を上記範囲内にするためには、本発明中の特定単量体の選択やその他の共重合性単量体の選択に加え、キャスト方法や延伸方法の条件を調整することも有力な手段である。
【0090】
上記のようにして延伸したフィルムは、延伸により分子が配向し透過光に位相差を与えるようになるが、この位相差は、延伸倍率、延伸温度あるいはフィルムの厚さ等により制御することができる。例えば、延伸前のフィルムの厚さが同じである場合、延伸倍率が大きいフィルムほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸倍率を変更することによって所望の位相差を透過光に与える位相差フィルムを得ることができる。一方、延伸倍率が同じである場合、延伸前のフィルムの厚さが厚いほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸前のフィルムの厚さを変更することによって所望の位相差を透過光に与える位相差フィルムを得ることができる。また、上記延伸加工温度範囲においては、延伸温度が低いほど透過光の位相差の絶対値が大きくなる傾向があるので、延伸温度を変更することによって所望の位相差を透過光に与える位相差フィルムを得ることができる。
【0091】
上記のように延伸して得た位相差フィルムが透過光に与える位相差の値は、その用途により決定されるものであり特に限定はされないが、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子あるいはレーザー光学系の波長板に使用する場合は、通常は1〜10,000nm、好ましくは10〜2,000nm、さらに好ましくは15〜1,000nmである。
【0092】
また、位相差フィルムを透過した光の位相差は均一性が高いことが好ましく、波長550nmにおける位相差のバラツキは、通常±20%以下であり、好ましくは10%以下、さらに好ましくは±5%以下である。すなわち、波長550nmにおける位相差は、通常平均値に対して±20%以下であり、好ましくは10%以下、さらに好ましくは±5%以下の範囲内にある。位相差のバラツキが±20%を超えると、液晶表示素子等に用いた場合、色ムラ等が発生し、ディスプレイ本体の性能が悪化する場合がある。
【0093】
本発明のフィルムの好ましい光学特性は、フィルムの用途により異なる。以下に、フィルムの厚みを80μmとして換算した、面内レターデーション(Re)および厚さ方向レターデーション(Rth)の、各用途における好ましい範囲を示す。なお、下記ReおよびRthは、λ=590nmにおけるものである。
【0094】
偏光板保護膜として使用する場合:Reは、0nm≦Re≦5nmが好ましく、0nm≦Re≦3nmがさらに好ましい。Rthは、0nm≦Rth≦50nmが好ましく、0nm≦Rth≦35nmがさらに好ましく、0nm≦Rth≦10nmが特に好ましい。
【0095】
位相差フィルムとして使用する場合:位相差フィルムの種類によってReやRthの範囲は異なり、多様なニーズがあるが、0nm≦Re≦100nm、0nm≦Rth≦400nmであることが好ましい。TNモードなら0nm≦Re≦20nm、40nm≦Rth≦80nm、VAモードなら20nm≦Re≦80nm、80nm≦Rth≦400nmがより好ましく、特にVAモードで好ましい範囲は、30nm≦Re≦75nm、120nm≦Rth≦250nmであり、一枚の位相差膜で補償する場合は、50nm≦Re≦75nm、180nm≦Rth≦250nm、2枚の位相差膜で補償する場合は、30nm≦Re≦50nm、80nm≦Rth≦140nmである。これらはVAモードの補償膜として黒表示時のカラーシフト、コントラストの視野角依存性の点で好ましい態様である。
【0096】
本明細書において、Reλ、Rthλは各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReλはKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
【0097】
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRthλは算出される。
Rthλは前記Reλを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0098】
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(1)および式(2)よりRthを算出することもできる。
【0099】
【数1】

【0100】
注記:上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
式(1)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。
Rth=((nx+ny)/2 − nz) x d--- 式(2)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRthλは算出される。
Rthλは前記Reλを、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンコポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0101】
さらに、本発明に係る位相差フィルムは、波長450nmにおけるレターデーションRe450 と波長590nmにおけるレターデーションRe590 の比で表される波長分散係数α(=Re450/Re590)が1.0〜0.5、好ましくは0.8〜0.6、さらに好ましくは0.75〜0.65の範囲にあることが望ましい。
また、波長450nmにおけるレターデーションRe450 と波長590nmにおけるレターデーションRe590 の差ΔRe=Re590―Re450は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。
【0102】
このReλ/λの値を、400〜800nmの全波長領域で、その平均値に対して±30%以内、好ましくは±20%以内、さらに好ましくは±10%以内に制御すると、たとえば、当該波長領域全てにおいて位相差が1/4λあるいは1/2λであるような広帯域のλ板を得ることができる。すなわち、上記Reλ/λの値が、400〜800nmの全波長領域で、0.17〜0.33、好ましくは0.20〜0.30、さらに好ましくは0.23〜0.28である場合、当該波長領域全域で、円偏光と直線偏光とを相互変換する1/4λ板としての機能を有することになり、また、同様に上記Reλ/λの値が、0.35〜0.65、好ましくは0.45〜0.60、さらに好ましくは0.45〜0.55である場合、当該波長領域全域で、直線偏光の偏光面を90度回転させる1/2λ板としての機能を有することになり、非常に有用である。
【0103】
本発明の位相差フィルムは単独でまたは透明基板等に貼り合わせて、位相差フィルムまた位相差板として用いることができる。また、上記位相差フィルムまたは位相差板を他のフィルム、シート、基板に積層して使用することができる。積層する場合には、粘着剤や接着剤を用いることができる。これらの粘着剤、接着剤としては、透明性に優れたものが好ましく、具体例としては天然ゴム、合成ゴム、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、ポリビニルエーテル、アクリル系、変性ポリオレフィン系、及びこれらにイソシアナートなどの硬化剤を添加した硬化型粘着剤、ポリウレタン系樹脂溶液とポリイソシアナート系樹脂溶液を混合するドライラミネート用接着剤、合成ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられる。
【0104】
また、上記の位相差フィルム及び位相差板は、他のフィルムシート、基板などとの積層の作業性を向上させるために、あらかじめ、粘着剤層、又は接着剤層を積層することができる。積層する場合には、粘着剤や接着剤としては前述のような粘着剤あるいは接着剤を用いることができる。
【0105】
[透明導電層を有するフィルム]
本発明のフィルムは、その少なくとも片面に透明導電層を積層した、透明導電層を有するフィルムであることも好ましい。透明導電層を形成するための材料としては、Sn、In、Ti、Pb、Au、Pt、Ag等の金属、またはそれらの酸化物が一般的に使用され、金属単体からなる層を基板上に形成したときは、必要に応じてその後酸化することもできる。当初から酸化物層として付着形成させる方法もあるが、最初は金属単体または低級酸化物の形態で被膜を形成し、しかるのち、加熱酸化、陽極酸化あるいは液相酸化等の酸化処理を施して透明化することもできる。これらの透明導電層は、他の透明導電層を有するシート、フィルムなどを接着したり、プラズマ重合法、スパッタリング法、真空蒸着法、メッキ、イオンプレーティング法、スプレー法、電解析出法などによって本発明のフィルム上に直接形成される。これらの透明導電膜の厚さは、所望する特性により決定され特に限定はされないが、通常は10〜10,000オングストローム、好ましくは50〜5,000オングストロームである。
【0106】
本発明のフィルムに直接透明導電層を形成する場合、当該フィルムと透明導電層との間に必要に応じて接着層及びアンカーコート層を形成してもよい。この接着層としては、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリブタジエン、フェノール樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどの耐熱樹脂を例示することができる。またアンカーコート層としては、エポキシジアクリレート、ウレタンジアクリレート、ポリエステルジアクリレート等のいわゆるアクリルプレポリマーなどを成分として含むものが用いられる。硬化の方法は公知の手法を用いることができ、例えばUV硬化や熱硬化などが用いられる。
【0107】
透明導電層を有する本発明のフィルムは、偏光フィルムと組み合わせて、積層体とすることができる。透明導電層を有する本発明のフィルムと、偏光フィルムとの組合せ方法は、特に限定されず、偏光膜の両面に保護フィルムが積層されてなる偏光フィルムの少なくとも片面に、透明導電層を有する本発明のフィルムを、その透明導電性層形成面と反対側面上に適当な接着剤あるいは粘着剤を介して積層してもよいし、偏光膜の保護フィルムの代わりに、透明導電層を有する本発明のフィルムを使用し、その透明導電性層形成面と反対側面上に適当な接着剤あるいは粘着剤を介して偏光膜に積層してもよい。もちろん、透明導電層を有さない本発明のフィルムを、偏光フィルムの保護フィルムとして用いることも可能である。この場合、上述した本発明に係る位相差フィルムを保護フィルムとして用いると、保護フィルムが位相差フィルムとしての機能を有するため、偏光フィルムにあらためて位相差フィルムを貼り合わせる必要が無くなる利点がある。
【0108】
また、透明導電層を有する本発明のフィルムには、必要に応じて酸素や水蒸気の透過を小さくする目的のために、ポリビニリデンクロリド、ポリビニルアルコール等のガスバリア性材料を、少なくともフィルムの一方の面に積層することもできる。さらにフィルムの耐傷性及び耐熱性を向上させる目的で、ガスバリア層の上にハードコート層が積層されていてもよい。ハードコート剤としては、有機シリコン系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの有機ハードコート材料、又は二酸化ケイ素などの無機系ハードコート材料を用いることができる。このうち、有機シリコン系樹脂、アクリル樹脂などのハードコート材料が好ましい。有機シリコン系樹脂の中には、各種官能基を持ったものが使用されるが、エポキシ基を持ったものが好ましい。
【0109】
[反射防止層を有するフィルム]
本発明のフィルムは、反射防止層を有するフィルムであることも好ましい。すなわち、本発明のフィルムには、少なくともその片面に反射防止層を積層することができる。反射防止層の形成方法としては、たとえば、フッ素系共重合体を含む組成物の溶液をバーコーターやグラビアコーターなどを用いてコーテイングする方法がある。反射防止層の厚みは、通常は0.01〜50μm、好ましくは0.1〜30μm、さらに好ましくは0.5〜20μmである。0.01m未満であると反射防止効果が発揮できず、50μmを超えると塗膜の厚みにムラが生じやすくなり外観などが悪化する場合があり好ましくない。
【0110】
また、反射防止層を有する本発明のフィルムには、公知のハードコート層や防汚層が積層されていてもよい。また、上記の透明導電層が積層されていてもよい。さらに、透過光に位相差を与える機能を有していてもよく、光拡散機能を有していてもよい。
【0111】
反射防止層を有する本発明のフィルムは、上記のように複数の機能を有することにより、たとえば液晶表示素子に用いた場合、反射防止フィルムが位相差フィルム、光拡散フィルム、偏光板保護フィルムあるいは電極基板(透明導電層)の幾つかを兼用することとなり、従来よりもその部品点数を低減することが可能となる。
【0112】
[フィルムの用途]
本発明のフィルムは、位相差フィルム、偏光板、偏光板保護フィルム、波長板、光拡散板、プリズムシート、反射防止フィルム、液晶やエレクトロルミネッセンス用途の表示素子基板、タッチパネル、導光板など、環状オレフィン系重合体の用途として公知の用途へ好適に適用可能である。具体的には、たとえば、携帯電話、ディジタル情報端末、ポケットベル、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイ等の各種液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子あるいはタッチパネルなどに用いることができる。また、CD、CD−R、MD、MO、DVD等の光ディスクの記録・再生装置に使用される波長板としても有用である。
【実施例】
【0113】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。波長590nmにおけるレターデーションをRe590、450nmにおけるレターデーション値をRe450、これらの差Re590−Re450=ΔReとする。
【0114】
実施例1
エチレン(アルドリッチ社製)とノルボルネン(アルドリッチ社製)と1−ビニルナフタレン(アルドリッチ社製)を45/50/5のモル比で共重合した共重合体を、プレス成型で厚み100μmのフィルムとした。得られたフィルムをテンター法により、Tg+2℃で2.0倍に一軸延伸した。レターデーションを測定したところ、Re590=113nm、Re450=102nm、ΔRe=Re590−Re450=11のフィルムが得られた。
【0115】
実施例2
エチレン(アルドリッチ社製)とノルボルネン(アルドリッチ社製)と9−ビニルアントラセン(アルドリッチ社製)を45/50/5のモル比で共重合した共重合体を、プレス成型で厚み100μmのフィルムとした。得られたフィルムをテンター法により、Tg+2℃で2.0倍に一軸延伸した。レターデーションを測定したところ、Re590=120nm、Re450=99nm、ΔRe=Re590−Re450=21のフィルムが得られた。
【0116】
実施例3
エチレン(アルドリッチ社製)とノルボルネン(アルドリッチ社製)と9−ビニルアントラセン(アルドリッチ社製)を46/27/27のモル比で共重合した共重合体を、プレス成型で厚み100μmのフィルムとした。得られたフィルムをテンター法により、Tg+2℃で2.0倍に一軸延伸した。レターデーションを測定したところ、Re590=105nm(負に分極)、Re450=150nm(負に分極)、ΔRe=Re590−Re450=-45のフィルムが得られた。
【0117】
比較例1
エチレン(アルドリッチ社製)とノルボルネン(アルドリッチ社製)とスチレン(アルドリッチ社製)を45/50/5のモル比で共重合した共重合体を、プレス成型で厚み100μmのフィルムとした。得られたフィルムをテンター法により、Tg+2℃で2.0倍に一軸延伸した。レターデーションを測定したところ、Re590=105nm、Re450=102nm、ΔRe=Re590−Re450=3であった。
【0118】
比較例2
エチレン(アルドリッチ社製)とノルボルネン(アルドリッチ社製)とスチレン(アルドリッチ社製)を46/27/27のモル比で共重合した共重合体を、プレス成型で厚み100μmのフィルムとした。得られたフィルムをテンター法により、Tg+5℃で1.7倍に一軸延伸した。レターデーションを測定したところ、Re590=126nm(負に分極)、Re450=143nm(負に分極)、ΔRe=Re590−Re450=−17であった。
【0119】
以上の結果から明らかなように、本発明のシクロオレフィンコポリマーからなるフィルムに縮合多環式芳香族モノマーを導入すると、比較例のフィルムよりも大きなΔReを有する逆波長分散のフィルムが得られる。一方で、縮合多環式芳香族モノマーを多く導入すると、比較例のフィルムよりも大きなΔReを有する順波長分散のフィルムが得られる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン及び炭素数3〜20のα−オレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種の非シクロオレフィンモノマー(A)、シクロオレフィン化合物から選ばれる少なくとも1種類のシクロオレフィンモノマー(B)並びに縮合多環式化合物からなる環状ユニットを有するビニル化合物から選ばれる少なくとも1種類の芳香族ビニルモノマー(C)を付加重合させたシクロオレフィンコポリマー。
【請求項2】
前記非シクロオレフィンモノマー(A)がエチレンであることを特徴とする請求項1記載のシクロオレフィンコポリマー。
【請求項3】
前記シクロオレフィンモノマー(B)がノルボルネンもしくはテトラシクロドデセンであることを特徴とする請求項1または2に記載のシクロオレフィンコポリマー。
【請求項4】
前記芳香族ビニルモノマー(C)がビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルフェナンスレン、ビニルフルオランテンもしくはビニルピレンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシクロオレフィンコポリマー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のシクロオレフィンコポリマーからなるフィルム。
【請求項6】
波長450nmにおけるレターデーションRe450 と波長590nmにおけるレターデーションRe590 の差ΔRe=Re590―Re450が10nm以上であることを特徴とする請求項5に記載のフィルム。

【公開番号】特開2009−46613(P2009−46613A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215193(P2007−215193)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】