説明

シクロオレフィン樹脂組成物、その成形体およびミラー

【課題】 熱膨張性が小さく、平滑な表面を有する成形体を得ることができるシクロオレフィン樹脂組成物およびその成形体を提供する。
【解決手段】 シクロオレフィン樹脂組成物を成形してなる成形体であって、前記シクロオレフィン樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子を少なくとも含有し、前記シリカ微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上150nm以下であり、前記シクロオレフィン樹脂組成物は、前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有し、前記形体の0℃から80℃の線膨張係数が50×10−6/℃以下であることを特徴とする成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロオレフィン樹脂組成物、その成形体および光学素子に関し、特に樹脂中に無機微粒子を含有する樹脂組成物、その成形体およびそれからなる光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密光学系などに代表されるデバイスにおいて有機樹脂材料からなる部材を光学素子またはその周辺部材に使用する場合、温度変化による部材の寸法変化が大きいと、光学系の位置ずれを引き起こす原因となり得る。温度変化による部材の寸法変化の抑制には、有機樹脂材料の線膨張係数を低減させることが効果的である。求められる線膨張係数は光学系によっても異なるが、たとえば反射光学系に用いられる光学部材の場合は、線膨張係数を50×10−6/℃以下に制御することが望まれている。
【0003】
有機樹脂材料の線膨張係数を低減させるには、有機樹脂に線膨張係数の小さい無機微粒子を添加する方法が知られている。例えば、特許文献1には、熱可塑性有機樹脂に無機微粒子を加えて線膨張係数を低下させる方法において、樹脂に無機微粒子を加えることで9.2×10−6/℃以下の線膨張係数となることが開示されている。
【0004】
また、有機樹脂材料を光学素子そのものに使用する場合は、加えて光学有効面の表面が平滑であることが求められる。求められる表面平滑性は用いる光学系によっても異なるが、たとえば反射光学系に用いられる光学素子の場合、表面粗さは二乗平均表面粗さ(Rq)で10nm以下となることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−047452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱可塑性樹脂をマトリックスとして用いる場合、多量の無機微粒子を添加すると樹脂材料の溶融粘度が上昇する。溶融粘度が上昇すると、射出成形などの成形時に樹脂材料の充填不足を引き起こしたり、光学有効面の表面平滑性が低下する等の不良が生じやすくなる課題がある。これは、より低い熱膨張性を得ようとするために多量の無機微粒子を添加する場合や、より高い表面平滑性を得ようとしてより粒子径の小さい無機微粒子を添加する場合により顕著に起こりやすい現象である。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、熱膨張性が小さく、平滑な表面を有する成形体を得ることができるシクロオレフィン樹脂組成物を提供するものである。また、本発明は、熱膨張性が小さく、平滑な表面を有する成形体およびそれからなる光学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シクロオレフィン樹脂組成物を成形してなる成形体であって、前記シクロオレフィン樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子を少なくとも含有し、前記シリカ微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上150nm以下であり、前記シクロオレフィン樹脂組成物は、前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有し、前記形体の0℃から80℃の線膨張係数が50×10−6/℃以下であることを特徴とする成形体に関する。
【0009】
また、本発明は、シクロオレフィン樹脂組成物を成形した成形体と、前記成形体の光学有効面に反射層とを少なくとも有するミラーであって、前記シクロオレフィン樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子とを少なくとも含有し、前記シリカ微粒子の平均一次粒径は、10nm以上150nm以下であり、前記シクロオレフィン樹脂組成物は、前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有し、前記形体の0℃から80℃の線膨張係数が50×10−6/℃以下であることを特徴とするミラーに関する。
【0010】
また、本発明は、シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子を少なくとも含有するシクロオレフィン樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上150nm以下であり、前記シクロオレフィン樹脂組成物は、前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有することを特徴とするシクロオレフィン樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱膨張性が小さく、平滑な表面を有する成形体を得ることができるシクロオレフィン樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、熱膨張性が小さく、平滑な表面を有する成形体およびそれからなる光学素子を提供することができる。
本発明の成形体は、レンズ、ミラーなどの精密光学系などに代表されるデバイスの光学素子やまたはその周辺部材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、上記構成により本発明の課題を達成することができるが、具体的にはつぎのような実施形態によることができる。
【0013】
本発明に係るシクロオレフィン樹脂組成物は、少なくともシクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子を含有するシクロオレフィン樹脂組成物であって、前記シリカ微粒子の平均一次粒子径が10nm以上150nm以下であり、かつ前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るシクロオレフィン樹脂組成物は、樹脂成分としてシクロオレフィン樹脂が用いられる。有機樹脂材料で精密光学系などに代表されるデバイスの光学素子やまたはその周辺部材を作製する場合、樹脂の吸水による吸水膨張によって引き起こされる寸法変化を抑制する必要があり、これには吸湿性の低い樹脂をマトリックス材に用いることが効果的である。シクロオレフィン樹脂は低吸湿性であり、この目的で広く好適に用いられている樹脂である。
【0015】
本発明におけるシクロオレフィン樹脂とは、シクロオレフィン構造を有する重合体のことを示す。シクロオレフィン構造を有する重合体としては、ノルボルネン系重合体、単環のシクロオレフィンの重合体、環状共役ジエンの重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物などが挙げられるがこれに限定されるものではない。シクロオレフィン樹脂の市販品としては、例えば、ZEONEX[製品名](日本ゼオン社製)、ZEONOR[製品名](日本ゼオン社製)、アペル[製品名](三井化学社製)、TOPAS[製品名](ポリプラスチック社製)、アートン[製品名](JSR社製)などが挙げられる。
【0016】
さらに本発明のシクロオレフィン樹脂には、本来の目的が損なわれない範囲内で、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、リン系熱安定剤、ヒドロキシルアミン類の熱安定剤、ヒンダートフェノール類等の酸化防止剤、ヒンダートアミン類等の光安定剤、ベンゾトリアゾール類やトリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類等の紫外線吸収剤、リン酸エステル類やフタル酸エステル類、クエン酸エステル類、ポリエステル類等の可塑剤、シリコーン類等の離型剤、リン酸エステル類やメラミン類等の難燃剤、脂肪酸エステル系界面活性剤類、アルキルスルホン酸塩、ステアリン酸のグリセリンエステル等の帯電防止剤、有機色素着色剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤等の物質が挙げられる。これらの添加剤は単独でも複数種の併用であってもよい。
【0017】
本発明のシクロオレフィン樹脂組成物に含有される添加剤の含有量は、樹脂組成物総量に対して20wt%以下である。
【0018】
本発明のシクロオレフィン樹脂組成物に用いられるシリカ微粒子は、所望の特性を満足する限り、公知の方法により製造したシリカ微粒子を用いることができる。例えば、高温火炎中にシリカ微小粉末を投入して、溶融、流動化の後、急冷する方法、酸素を含む雰囲気内においてバーナーにより形成した化学炎中にシリコン粉末を投入し、爆発によりシリカ微粒子を製造する方法、触媒存在下でシリコンアルコキシドを加水分解、重縮合してゾル−ゲル法で製造する方法等が挙げられる。
【0019】
本発明のシクロオレフィン樹脂組成物に含有されるシリカ微粒子の含有量は、シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子の合計に対して15wt%以上70wt%以下であることが好ましく、15wt%以上65wt%以下であることがより好ましく、15wt%以上60wt%以下であることが更に好ましい。シリカ微粒子濃度が15wt%より低いとシクロオレフィン樹脂組成物からなる成形体の線膨張係数を十分に低減することができない。また、シリカ微粒子の濃度が70wt%より高いとシクロオレフィン樹脂組成物の溶融粘度が上昇して、射出成形時にシクロオレフィン樹脂組成物の充填不足を引き起こしたり、光学有効面の表面平滑性が低下する等の不良が生じやすくなる。
【0020】
なお、本発明におけるシリカ微粒子の濃度とは、熱重量分析(TGA)装置によって窒素雰囲気下においてシクロオレフィン樹脂組成物を800℃まで昇温したときの残存重量パーセントを指すものとする。
【0021】
本発明におけるシリカ微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上150nm以下、好ましくは10nm以上100nm以下であることが望ましい。平均一次粒子径が10nmより小さいと、シリカ微粒子添加による線膨張係数の低減効果が薄れたり、微粒子の表面積増大によりシクロオレフィン樹脂組成物の溶融粘度が飛躍的に大きくなるため望ましくない。また、平均一次粒子が150nmより大きいと表面平滑性が低下して、表面粗さ(Rq)が10nm以下とは成り難くなってしまう。なお、本発明における平均一次粒子径とは、凝集していない粒子における体積球相当直径を指すものとする。本明細書において、平均一次粒子径とは、一次粒子の個数平均粒径を示す。個数平均粒径は、電子顕微鏡により判定される。具体的に粒径の測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)により20万倍で無機微粒子像を撮影し、その拡大写真を測定対象として行う。任意の100個の粒子の粒径を測定した平均値を個数平均粒径とする。
【0022】
シクロオレフィン樹脂組成物中のシリカ微粒子の含有量と、シリカ微粒子の平均一次粒子径はそれぞれ線膨張係数と表面平滑性を一義的に決めるものではなく、シクロオレフィン樹脂組成物の溶融粘度をも好適に制御することで双方の特性を同時に満たすことができる。言い換えると、所望の表面粗さ以上の平均一次粒子径を有するシリカ微粒子を用いても、実用上十分に小さい線膨張係数と十分に平滑な表面性を有する成形体を形成することができるシクロオレフィン樹脂組成物が得られることを本発明者らは見出すにいたった。より大きな平均一次粒子径のシリカ微粒子を用いることで、シリカ微粒子の添加による樹脂の溶融粘度の上昇を抑制することができ、所望の表面平滑性を有する成形体をなすシクロオレフィン樹脂組成物を得ることができる。また、溶融粘度の上昇を抑制できるため、シリカ微粒子の含有量を更に高めることが可能となり、結果として更なる線膨張係数の低減を図ることができる。
【0023】
本発明におけるシリカ微粒子の表面は、特に限定はされないが所望の線膨張係数値や表面平滑性、樹脂組成物の溶融粘度、シリカ微粒子の分散性などに応じて種々選択することができる。シリカ微粒子の表面に露出している基の種類は、公知の基を1種または2種以上選択することができる。例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、cyc−ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基等のアルキル基やシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、クロロメチル基、クロロプロキル基、フルオロメチル基、フルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基、ビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリル基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、イソシアネート基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、シラノール基等の水酸基等が挙げられる。好ましくは粒子表面に露出している基としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、cyc−ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基等のアルキル基やシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基やシラノール基等の水酸基を1種または2種以上有するシリカ微粒子は成形時の不良をより低減することができ、更に好ましくは粒子表面に露出している基としてメチル基、シラノール基等の水酸基を1種または2種以上有するシリカ微粒子が好ましい。
【0024】
シリカ微粒子を表面修飾する場合、特に制限はされないが、ケイ素含有化合物を用いて公知の方法により表面修飾することができる。ここでのケイ素含有化合物とは、上記の基を有するクロロシラン、アルコキシシラン、シリルアミン、ヒドロシラン、ポリオルガノシロキサン、シリコーンオイル等からなる群から選ばれる1種または2種以上のケイ素含有化合物であり、より好ましくはシリルアミン、シリコーンオイル等からなる群から選ばれる1種または2種以上のケイ素含有化合物であり、更に好ましくはヘキサメチルジシラザンを用いることができる。ヘキサメチルジシラザンを用いることで、極めて表面平滑性の高い成形体を作製することができる。ヘキサメチルジシラザンを用いることで、極めて表面平滑性の高い成形体を作製することができる。
【0025】
シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子の混合法は特に制限はなく、公知の方法により混合することができる。シクロオレフィン樹脂組成物の製造コストの観点から、ロールミル、ニーダー、ミキサー、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等を用いた公知の溶融分散法により混合することが好ましい。
【0026】
溶融分散法によるシクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子の混合は、加熱等により溶融状態にしたシクロオレフィン樹脂中にシリカ微粒子を共存させ、剪断力を加えることにより微粒子をシクロオレフィン樹脂中に分散させる方法で行う。このときシリカ微粒子は直接粉体を投入してもよいし、微粒子分散液として投入してもよい。微粒子分散液として投入する場合には、分散液に用いられている溶媒を除去する機構、例えばベント機構などを溶融分散装置内に設ける必要がある。また、溶融時の加熱による樹脂劣化を防ぐため、溶融雰囲気を窒素ガス等の不活性ガス等で置換することが好ましい。
【0027】
本発明のシクロオレフィン樹脂組成物は、射出成形やヒートプレス成形など公知の方法で所望の形状に成形することができる。成形時の樹脂温度は低すぎると所望の形状を作製できず、高すぎると熱分解により成形体が黄変したり線膨張係数が高くなったりする原因となりえる。このことから、樹脂温度としては200℃から285℃の範囲が好ましい。射出成形にて成形する場合、保持圧力は特に限定されないが、形状を転写させるために50MPa以上であることが好ましく、型温度は本発明のシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度をTg℃とした場合、(Tg−40)℃以上Tg℃以下であることが好ましい。また、用いる型の光学有効面の表面粗さ(Rq)は、所望の光学素子に求められる表面粗さ以下である必要がある。好ましくは二乗平均表面粗さ(Rq)で10nm以下である。
【0028】
成形体の形状としては、球状、棒状、板状、ブロック状、筒状、錘状、繊維状、格子状、フィルム又はシート形状等多様な形態とすることができ、種々の機器用内外装部材及び精密光学系などに代表されるデバイスの光学素子またはその周辺部材として利用することが可能である。
【0029】
本発明の成形体は、上記のシクロオレフィン樹脂組成物を成形してなる成形体であり、前記成形体の0℃から80℃の線膨張係数が50×10−6/℃以下である。但し、前記線膨張係数の範囲は、正の線膨張係数および負の線膨張係数を含む。前記線膨張係数は、好ましくは−50×10−6/℃以上50×10−6/℃以下、さらに好ましくは−45×10−6/℃以上45×10−6/℃以下の範囲が望ましい。
【0030】
また、本発明の前記成形体の光学有効面の表面粗さが二乗平均表面粗さ(Rq)で10nm以下、より好ましくは4nm以下である。
【0031】
本発明の光学素子は、上記の成形体からなることを特徴とする。
【0032】
成形体を反射光学系の光学素子として用いる場合、光学有効面に蒸着などによりアルミニウム層を形成したり、多層の反射層を形成したりするなど、公知の方法により反射層を形成することができる。また、反射率制御、酸化防止、表面被覆、密着性向上等の機能を付与する目的で反射層以外の層を形成してもよく、銅、酸化チタン、酸化アルニウム、酸化珪素、非晶質フッ素樹脂等を用いることができる。前記光学素子が、光学有効面の少なくとも1面に反射層を有するミラーであることが好ましい。
【0033】
ミラーは、高画質のために低線膨張率で低い表面粗さが求められる複合機のスキャナーユニットに用いることができる。複合機とは、複写機、プリンター、イメージスキャナ、ファクシミリの機能を2以上有する機器である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明をする。本発明は何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
加圧型ニーダ―(DRV1−5MB−E[製品名]:モリヤマ社製)に、シクロオレフィン樹脂(ZEONEX E48R[製品名]:日本ゼオン社製)のペレットと、シルカ微粒子(アエロジル OX50[製品名]、平均一次粒子径40nm、表面無処理、日本アエロジル社製)をシリカ微粒子の含有量が18.6wt%になるように混入し、初期相温度210℃、回転数30rpmで均一に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製した。
【0036】
25×25mmの光学有効面の表面粗さ(Rq)が4nmで鏡面研磨された面を有する金型を備えた射出成形機(SE7M[製品名]:住友重機械工業社製)を用いて、上記のシクロオレフィン樹脂組成物を樹脂温度270から285℃、射出速度10mm/秒、型温130℃、保圧110MPaから180MPaで成形した。
【0037】
得られた成形体用いて、以下の方法で評価を行った。
【0038】
(シリカ微粒子の含有量の測定)
シリカ微粒子の含有量の測定はTGA(TGA Q500[製品名]:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて行った。窒素雰囲気下においてシクロオレフィン樹脂組成物を800℃まで昇温したときの残存重量パーセントをシリカ微粒子濃度とした。なお評価に際して各成形体は適宜適当な大きさにカットした。
【0039】
(線膨張係数の測定)
0℃から80℃の範囲の線膨張係数は、TMA(TMA Q400[製品名]:ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)にて0℃から80℃で3サイクル温度負荷を与え、厚み方向の0℃から80℃の線膨張係数を算出した。変位の測定には膨張プローブを使用した。
【0040】
(二乗平均表面粗さ(Rq)の測定)
二乗平均表面粗さ(Rq)の測定は、ZYGO社製New View5000を用いて行 った。25×25mmの光学有効面の中央付近を×2.5、×10、×50の対物レンズを用いて測定した。その測定値からシリンダー成分を取り除き、それぞれのレンズでの測定領域のRqの最大値が10nm以下となるものを良、10nmより大きなものを不良とした。
【0041】
(実施例2)
実施例1においてシリカ微粒子をトクヤマ社製、シルフィルNSS−5N[製品名](平均一次粒子径70nm、表面無処理)に、また、シリカ微粒子濃度を19.5wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0042】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0043】
(実施例3)
実施例1においてシリカ微粒子をトクヤマ社製シルフィルNSS−4N[製品名](平均一次粒子径90nm、表面無処理)に、また、シリカ微粒子濃度を19.7wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0044】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0045】
(実施例4)
実施例1においてシリカ微粒子をトクヤマ社製シルフィルNSS−3N[製品名](平均一次粒子径120nm、表面無処理)に、また、シリカ微粒子濃度を19.7wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0046】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0047】
(実施例5)
実施例1においてシリカ微粒子濃度を46.3wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0048】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0049】
(実施例6)
実施例1においてシリカ微粒子を日本アエロジル社製アエロジル RX200[製品名](平均一次粒子径12nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)に、また、シリカ微粒子濃度を18.5wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0050】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0051】
(実施例7)
実施例1においてシリカ微粒子を日本アエロジル社製アエロジル RY200[製品名](平均一次粒子径12nm、ジメチルシリコーンオイル表面処理)に、また、シリカ微粒子濃度を18.8wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0052】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0053】
(実施例8)
実施例1においてシリカ微粒子を日本アエロジル社製アエロジル R8200[製品名](平均一次粒子径12nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)に、また、シリカ微粒子濃度を19.6wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0054】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0055】
(実施例9)
実施例1においてシリカ微粒子を日本アエロジル社製アエロジル RY200[製品名](平均一次粒子径12nm、ジメチルシリコーンオイル表面処理)に、また、シリカ微粒子濃度を35.0wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0056】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0057】
(実施例10)
実施例1においてシリカ微粒子を日本アエロジル社製アエロジル RX50[製品名](平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)に、また、シリカ微粒子濃度を45.1wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0058】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0059】
(比較例1)
実施例1においてシリカ微粒子を日本アエロジル社製アエロジル RX300[製品名](平均一次粒子径7nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)に、シリカ微粒子濃度を19.0wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0060】
得られた成形体は、すべて成形においてヒケが発生し、成形不良の成形体であった。
【0061】
(比較例2)
実施例1においてシリカ微粒子をトクヤマ社製ゾルゲルシリカSS−04[製品名](平均一次粒子径400nm、表面無処理)に、また、シリカ微粒子濃度を17.0wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0062】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0063】
(比較例3)
実施例1においてシリカ微粒子濃度を10.8wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練することでシクロオレフィン樹脂組成物を作製し成形した。
【0064】
得られた成形体を用いて実施例1と同様の方法でシリカ微粒子濃度、0℃から80℃の範囲の線膨張係数、二乗平均表面粗さ(Rq)を測定した。
【0065】
(比較例4)
実施例1においてシリカ微粒子濃度を72.2wt%に変更したこと以外は、実施例1と同様に混練したが、均一なシクロオレフィン樹脂組成物を得ることができなかった。
【0066】
上記の実施例および比較例の評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例および比較例より、本発明のシクロオレフィン樹脂組成物中のシリカ微粒子の平均一次粒子径は10nm以上150nm以下であることで、実用上十分に小さい熱膨張性と実用上十分に平滑な表面を有する成形体が得られることが認められる。また、実施例および比較例より、本発明のシクロオレフィン樹脂組成物中のシリカ微粒子の含有量は15wt%以上70wt%以下であることで実用上十分に小さい熱膨張性と実用上十分に平滑な表面を有する成形体が得られることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のシクロオレフィン樹脂組成物を用いた成形体は、熱膨張性が小さく、平滑な表面を有するので、レンズ、ミラーなどの精密光学系などに代表されるデバイスの光学素子やまたはその周辺部材として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン樹脂組成物を成形してなる成形体であって、
前記シクロオレフィン樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子を少なくとも含有し、
前記シリカ微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上150nm以下であり、
前記シクロオレフィン樹脂組成物は、前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有し、
前記形体の0℃から80℃の線膨張係数が50×10−6/℃以下であることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記シリカ微粒子はヘキサメチルジシラザンで処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記成形体の表面粗さが二乗平均表面粗さ(Rq)で10nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
シクロオレフィン樹脂組成物を成形した成形体と、前記成形体の光学有効面に反射層とを少なくとも有するミラーであって、
前記シクロオレフィン樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子とを少なくとも含有し、
前記シリカ微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上150nm以下であり、
前記シクロオレフィン樹脂組成物は、前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有し、
前記形体の0℃から80℃の線膨張係数が50×10−6/℃以下であることを特徴とするミラー。
【請求項5】
前記シリカ微粒子はヘキサメチルジシラザンで処理されたものであることを特徴とする請求項4に記載のミラー。
【請求項6】
前記成形体の光学有効面は、二乗平均表面粗さ(Rq)で10nm以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載のミラー。
【請求項7】
前記成形体の光学有効面は、二乗平均表面粗さ(Rq)で4nm以下であることを特徴とする請求項6に記載のミラー。
【請求項8】
前記ミラーは、複合機のスキャナーユニットに用いられるものであることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項に記載のミラー。
【請求項9】
シクロオレフィン樹脂とシリカ微粒子を少なくとも含有するシクロオレフィン樹脂組成物であって、
前記シリカ微粒子の平均一次粒子径は、10nm以上150nm以下であり、
前記シクロオレフィン樹脂組成物は、前記シリカ微粒子を15wt%以上70wt%以下含有することを特徴とするシクロオレフィン樹脂組成物。
【請求項10】
前記シリカ微粒子はヘキサメチルジシラザンで処理されたものであることを特徴とする請求項9に記載のシクロオレフィン樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−41274(P2013−41274A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−159434(P2012−159434)
【出願日】平成24年7月18日(2012.7.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】