説明

シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体

【課題】良好な水溶解性を有するピノセンブリンの医薬処方物を提供すること。
【解決手段】シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体、およびそれらの調製物が、提供される。封入複合体は、薬物を作製するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体、その調製方法、それを含有する医薬組成物、および当該封入複合体または当該医薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
5,7−ジヒドロキシフラバノンまたは2,3−ジヒドロ−5,7−ジヒドロキシ−2−フェニル−4H−1−ベンゾピラン−4−オンとして知られるピノセンブリン(pinocembrin)は、以下の式を有する、水不溶性のフラバノン化合物である:
【0003】
【化1】

【0004】
ピノセンブリンの構造中には1つのキラル中心が存在し、天然ピノセンブリンは、[α]15が−45.3(c,0.9,溶媒としてアセトン)である、そのS−立体配置である。
【0005】
(S)−ピノセンブリンは、プロポリスから抽出される天然産物である。それはまた、松、ユーカリの葉、アカシアゴム等に、低濃度で見出される(非特許文献1)。現在、ピノセンブリンは、合成により入手することができ、それ故、豊富である(非特許文献2)。
【0006】
ピノセンブリンは、多くの悪性細菌および真菌に対して感受性であり、特に幾つかの薬物耐性株に対して比較的良好な抗細菌効果を奏することが文献中に報告されている(非特許文献3)。特許文献1は、レボピノセンブリンが脳卒中に対して良好な効果を有することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許出願公開第200410037860.9号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Combined Chemical Dictionary 2004
【非特許文献2】Yonghao Cheng,Yabo Duan,Yan Qi,Xiaoyun Guo,Yuanfeng Tong,Guanhua Du,Song Wu,chemical reagent,2006 Vol.28,No.7:437
【非特許文献3】Hyun Koo,Pedro L.Rosalen,Jaime A.Cury,Yong K.Park,およびWilliam H.Bowen,Antimicrob.Agents & Chemother.2002,46(5),1302−1309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ピノセンブリンは、その水不溶性およびその比較的低い経口吸収性のために、低い経口バイオアベイラビリティーを有する。さらに、その水不溶性のために、それを注射剤にすることが困難である。特に、医薬処方物は、脳卒中等の急性疾患を治療するために用いられる場合、速やかに活性剤を放出し、かつ迅速に効果を発揮することが必要とされるので、急性障害を治療する最も一般的な臨床方法は、静脈内注射である。したがって、注射用の投薬形態を達成するためには、ピノセンブリンの溶解性の課題が、先ず解決されなければならない。
【0010】
そこで、良好な水溶解性を有するピノセンブリンの医薬処方物を得ることは、急務である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、シクロデキストリンまたはその誘導体を用いてピノセンブリンの封入複合体を生成することにより、ピノセンブリンの水溶解性を大いに向上できることを見出した。
【0012】
したがって、本発明は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体を提供する。封入複合体は、ピノセンブリンおよびシクロデキストリンまたはその誘導体を任意の割合で含む。好ましくは、ピノセンブリンとシクロデキストリンまたはその誘導体とのモル比は、1:1〜1:100の範囲であり、より好ましくは1:1〜1:10の範囲である。
【0013】
別の局面では、本発明は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体を作製する方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの当該封入複合体、および必要に応じて、医薬として許容され得る担体または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明はさらに、被験体における疾患または障害を予防および/または治療するための、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体、あるいは封入複合体を含有する医薬組成物の使用を提供する。一実施形態では、当該疾患は、心血管性もしくは脳血管性疾患、または脳卒中、あるいは細菌性および/もしくは真菌性感染である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、通常の生理食塩水を注射したウサギ耳の病理組織学の代表的な写真(HE染色)を示す。図中に示されるように、滑らかな静脈内膜があり、血管の周辺において炎症応答を呈していない。
【図2】図2は、ピノセンブリン封入複合体注射剤を注射したウサギ耳の組織病理学の代表的な写真(HE染色)を示す。図中に示されるように、滑らかな静脈内膜があり、血管の周辺において炎症応答を呈していない。
【図3】図3は、MCAO手術傷害ラットのベダーソン(Bederson)スコアに対する、DL0108(ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体)の効果を示す。
【図4】図4は、MCAO手術傷害動物の神経学的症状スコア(NSS)に対するDL0108の効果を示す。
【図5】図5は、MCAO手術傷害後の種々の時間での、皮質の中型動脈血供給領域におけるrCBF(局所脳血流)値(A)、およびMCAO手術傷害ラットのrCBF値に対するDL0108の効果(B)を示す。 図3〜図5のデータは、平均±S.E.Mとして表わされる。これらの結果は、1元配置ANOVAおよびデュネット(Dunett’s)検定により解析されている。N=10,♯♯P<0.01 vs. ブランクコントロール群,P<0.05,**P<0.01 vs. ビヒクルコントロール群。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1つの局面では、本発明は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体を提供する。ここで、当該封入複合体は、ピノセンブリンおよびシクロデキストリンまたはその誘導体を含み、ピノセンブリンとシクロデキストリンまたはその誘導体とのモル比は、1:1〜1:100、好ましくは1:1〜1:10の範囲である。
【0018】
本発明では、用語「ピノセンブリン」としては、L−ピノセンブリン、S−ピノセンブリン、ラセミ型ピノセンブリン、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。ピノセンブリンは、天然資源から、または化学合成により入手することができる。
【0019】
本発明では、シクロデキストリンまたはその誘導体は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ならびに、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ジメチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ジヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、グルコース シクロデキストリン、マルトース シクロデキストリン、マルトトリオース シクロデキストリン、カルボキシメチル シクロデキストリン、スルホブチル シクロデキストリン、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンおよびそれらの任意の組合せが挙げられるがこれらに限定されない、種々の置換基を有するその誘導体からなる群より選ぶことができる。一実施形態では、当該シクロデキストリンまたはその誘導体は、β−シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである。別の実施形態では、当該シクロデキストリンまたはその誘導体は、ジメチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリンまたはそれらの任意の組合せである。
【0020】
本発明では、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体は、液状または固形状の形態、あるいは半固形状の形態であってもよく、これは、処方される投薬形態または処置適用の要件に依存する。
【0021】
別の局面では、本発明は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの有効量の当該封入複合体、および必要に応じて、医薬として許容され得る担体または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。特に、医薬組成物の単位投薬量は、1〜1000mg、好ましくは50〜250mgの活性剤ピノセンブリンを含有する。シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体は、当業者に周知の方法により、哺乳動物、特にヒトに対する適当な医薬組成物の形態に製造することができる。
【0022】
医薬組成物は、経口投与、ならびに静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下注射等の種々の経路において適用することができる。
【0023】
医薬組成物は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの当該封入複合体を液状形態において用いることにより、注射剤等の液状投薬形態(輸液剤、注射用水溶液剤および注射用粉末剤を含む)、経口用液剤およびシロップ剤に調製することができる;医薬組成物は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの当該封入複合体を固形状形態において用いることにより、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、分散性錠剤、経口用崩壊性錠剤、バッカル用錠剤などのような固形状投薬形態に調製することができる。
【0024】
好ましい液状投薬形態は、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の注射剤、例えば、その注射用水溶液剤を含む。一実施形態では、当該注射用水溶液剤は、0.01〜3%(g/ml)の濃度、および3〜10、好ましくは4〜9、より好ましくは5〜8、特に6〜8のpHを有する;注射用水溶液剤はさらに、塩化ナトリウムおよびグルコース等の浸透圧調節剤、ならびに塩酸および水酸化ナトリウム等のpH調節剤を含むことができる。
【0025】
当該注射剤はまた、注射用粉末剤の形態であってもよい。一実施形態では、当該注射用粉末剤が溶解している溶液は、3〜10のpHを有する;当該注射用粉末剤はさらに、マンニトールおよびラクトース等の支援剤、ならびに塩酸および水酸化ナトリウム等のpH調節剤を含むことができる。
【0026】
別の局面では、本発明は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの当該封入複合体を調製するための方法を提供し、これは、シクロデキストリンまたはその誘導体を溶媒またはビヒクル中に添加して、1〜60%、好ましくは5〜60%の重量濃度を有するシクロデキストリンまたはその誘導体の溶液または懸濁液を得る工程;ピノセンブリンを当該溶液または懸濁液に添加する工程;ならびに、攪拌または研磨により混合して、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの当該液状封入複合体を得る工程を含む。シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの液状封入複合体は、液剤または懸濁剤であってもよい;シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体の液剤は、攪拌して清澄かつ透明な状態にした場合に、入手することができる。
【0027】
シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの固形状封入複合体は、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体の液剤から溶媒を除去することにより、例えば、凍結乾燥、スプレー乾燥または蒸留濃縮により、入手される。
【0028】
シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの固形状封入複合体を調製するための方法では、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体の液剤を、先ず、シクロデキストリンまたはその誘導体の濃度に関して10〜15重量%の範囲に濃縮し、続いて、凍結乾燥することにより、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの固形状封入複合体を入手することができる。
【0029】
本発明の一実施形態では、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの固形状封入複合体は、シクロデキストリンまたはその誘導体をコロイドミルまたは乳鉢中に添加し、適切な量の溶媒を添加し、攪拌してペーストを生成し、当該ペーストにピノセンブリンを添加し、1〜5時間研磨して粘稠なペーストを生成し、続いて、濾過、濃縮または凍結乾燥することにより、入手することができる。
【0030】
シクロデキストリンまたはその誘導体を溶解し得る適切な溶媒は、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、またはそれらの任意の組合せからなる群より選ばれる。好ましくは、溶媒は、水である。
【0031】
上述した調製方法では、当該ピノセンブリンは、ピノセンブリンの固体、または適切な量の有機溶媒中に溶解したピノセンブリンの液体として、添加される。
【0032】
別の局面では、本発明は、疾患または障害を予防および/または治療するための医薬用薬物の調製のための、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体の使用に関する。
【0033】
ある実施形態では、当該疾患または障害は、心血管性または脳血管性疾患である。好ましい実施形態では、当該心血管性または脳血管性疾患は、脳卒中である。別の実施形態では、当該疾患または障害は、細菌性および/または真菌性感染である。
【0034】
さらに、本発明は、有効量の医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む、被験体における疾患または障害を予防および/または治療するための方法を提供する。被験体は、ネコ、イヌ、ウマ、ヒツジ、ウシ、サル、オランウータン等のような哺乳動物であってもよく、好ましくはヒトである。一実施形態では、当該疾患または障害は、心血管性または脳血管性疾患、特に脳卒中である。別の実施形態では、当該疾患または障害は、細菌性および/または真菌性感染である。本発明における医薬組成物の有効量に関して、それは、従来の方法により当業者により容易に決定され、例えば、それは、被験体の体重の0.001mg〜10mg/kgであってもよい。さらに、当該医薬組成物の投与経路は、適切に選択することができ、経口投与または非経口投与(静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下注射を含む)が挙げられる。
【0035】
本発明の実施形態により、以下の有益な効果を得ることができる。
【0036】
ピノセンブリンを含み、シクロデキストリンまたはその誘導体の管状構造中にピノセンブリン分子を補足させ、それにより、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体を得るための、シクロデキストリンまたはその誘導体の使用を通じて、ピノセンブリンの水溶解性は、大きく向上する。25℃では、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の水溶解性は、2000mg/100mlと高く、封入しないピノセンブリンの水溶解性よりもはるかに高い。特定の結果は、実施例10に示される。
【0037】
シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの本発明の封入複合体により、封入複合体の形態にある活性ピノセンブリンは、固形状または液状の投薬形態に直接的に使用することができる。シクロデキストリンまたはその誘導体は、低毒性の水溶解性医薬アジュバントであり、それらから作製される、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体は、種々の液状または固形状の投薬形態への調製に適切である。シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの本発明の封入複合体は、良好な水溶解性および低い血管刺激性を有し、液状投薬形態への調製に適切である。本発明の実施形態により、ピノセンブリンの低い水溶解性、および液状投薬形態、特に、注射用投薬形態における直接的な適用の不能性等の課題が、解決された。さらに、水溶解性の向上については、それらから生成される固形状投薬形態は、速い崩壊性、良好な溶解、および高いバイオアベイラビリティーを示し、臨床用途に適切である。
【0038】
さらに、本発明の封入複合体は、良好な安全性を有する。急性毒性試験は、シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体がマウス静脈内注射について700mg/kgを超えるLD50値を有する(これは、有効投薬量よりも100倍高い)ことを示す。安全性試験(局所血管刺激試験、溶血試験、アナフィラキシー試験および筋肉内注射局所刺激試験)は、本発明の封入複合体が、血管に対して如何なる刺激も、如何なる溶血およびアナフィラキシーも有さず、かつ非常に低い筋肉内注射局所刺激を有することを示す。したがって、封入複合体は、安全であり、注射用投薬形態への調製に適切である。
【0039】
薬理学的アッセイは、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの本発明の封入複合体が、ラットにおける急性の限局的な脳虚血により誘導される神経行動傷害を大きく改善でき、皮質の中型動脈血管供給領域における脳血流の減少の程度を軽減できることを示す。本発明の封入複合体は、心血管性または脳血管性疾患、好ましくは脳卒中を予防および/または治療するための医薬用薬物に調製することができる。
【0040】
ピノセンブリンが多くの悪性細菌および真菌に感受性であり、特に幾つかの薬物耐性株に対して比較的良好な抗細菌効果を示すことが、当該分野において知られている。したがって、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体はまた、細菌性および/または真菌性感染を予防および/または治療するための医薬用薬物を調製するために用いることができる。
【0041】
以下に示される実施例は、本発明の例示であり、如何なる様式にも、本発明の範囲を限定することが意図されない。本発明の精神および範囲から逸脱することなく当業者によりなされ得る種々の改変、変更または置換は、本発明の範囲内に含まれる。
【実施例】
【0042】
実施例1:ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの液状封入複合体(溶液)の調製
(1)40g ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを秤量し、それを400ml 蒸留水中に添加し、攪拌しつつ溶解させる。
(2)1g ピノセンブリンを別に秤量し、それを20ml 無水エチルアルコールに添加して溶液を生成し、それを当該ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン溶液に添加して混合溶液を生成する;ならびに
(3)混合溶液を40〜50℃で20分間、磁気的に攪拌して、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の清澄かつ透明な溶液を得る。
【0043】
実施例2:ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの固形状封入複合体の調製
工程(1)〜(3)は、実施例1のものと同一であった。
(4)ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の得られた溶液を凍結乾燥させて、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの固形状封入複合体を得る。
【0044】
実施例3:ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの固形状封入複合体の調製
(1)20g ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを乳鉢中に秤り採り、それに100ml 蒸留水を添加し、ペーストに研磨する;
(2)3g ピノセンブリンを別に秤量し、それを20ml 無水エチルアルコールに添加して溶液を生成し、それを当該ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンペーストに添加して混合溶液を生成する;ならびに
(3)混合溶液を2時間研磨して、均一なペーストを生成し、濾過し、乾燥するまで減圧下で蒸発させて、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの固形状封入複合体を得る。
【0045】
実施例4:ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の塩化ナトリウム輸液剤の調製
(1)20g ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを秤量し、それを200ml 蒸留水中に添加し、攪拌しつつ溶解させ、0.5g 注射用活性炭を添加し、攪拌しつつ80℃に加熱し、15分間隔離し、濾過して活性炭を除去する;
(2)2g ピノセンブリンを別に秤量し、それを20ml 無水エチルアルコールに添加して溶液を生成し、それを当該ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン溶液に添加して混合溶液を生成する;
(3)混合溶液を40〜50℃で20分間、磁気的に攪拌して、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の清澄かつ透明な溶液を得る;
(4)水を補充して800mlの容量にし、7〜8g 注射用塩化ナトリウムを添加し、pHを8〜9に調整し、0.05MのHClまたは0.05MのNaOHによりpHを3.5〜7に調整し、水を補充して1000mlの容量にし、0.1g 注射用活性炭を添加し、20分間攪拌する;ならびに
(5)活性炭を除去し、溶液をボトル中に満たし、115℃で30分間オートクレーブする。
【0046】
実施例5:ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体のグルコース輸液剤の調製
工程(1)〜(3)は、実施例4のものと同一であった。
(4)50g 注射用グルコースを秤量し、攪拌しつつ水を添加して溶解させて100mlの容量にし、0.1g 活性炭を添加し、わずかに沸騰するまで15分間加熱し、濾過して活性炭を除去する;
(5)グルコース溶液を封入複合体の溶液に添加し、水を補充して800mlの容量にし、0.05MのHClまたは0.05MのNaOHによりpHを6〜7に調整し、水を補充して1000mlの容量にし、0.1g 注射用活性炭を添加し、20分間攪拌する;
(6)フィルターおよびフィルタースティック(1.0μm、0.45μmおよび0.22μmの孔径)により溶液を粗くかつ細くろ過し、溶液をボトル中に満たし、115℃で30分間オートクレーブする。
【0047】
実施例6:ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体を用いた無菌性注射用粉末剤の調製
(1)40g ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを無菌手術室中で秤量し、それを水中に溶解して80mlの容量にし、0.1g 活性炭を添加し、わずかに沸騰するまで15分間加熱し、濾過して活性炭を除去する;
(2)1g ピノセンブリンを別に秤量し、それを20ml 無水エチルアルコール中に溶解させ、この溶液を当該ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン封入複合体の溶液に添加する;
(3)混合液を40〜50℃で20分間、磁気的に攪拌して、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の清澄かつ透明な溶液を得る;
(4)水を補充して100mlの容量にし、0.22μm膜を通してろ過し、10mlバイアル中に満たし(バイアルあたり2〜3ml)、凍結乾燥および蓋をして無菌性注射用粉末剤を得る。
【0048】
実施例7:β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の調製
40g β−シクロデキストリンを秤量し、それを100ml 蒸留水中に添加し、40〜50℃に加熱して、β−シクロデキストリンを溶解させる。20ml 無水エチルアルコール中に溶解させた1g ピノセンブリンを添加し、2〜3時間、磁気的に攪拌し、濾過および凍結乾燥して、β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体を得る。
【0049】
実施例8:β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の経口用カプセル剤の調製
β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの20gの封入複合体を秤量し、それを均等倍増法により80g ラクトースと混合し、結合剤としてのHPMCと共に水中に溶解して、軟材料を製造し、軟材料を20メッシュ篩により顆粒化し、60℃で乾燥させて、乾燥顆粒剤を製造し、乾燥顆粒剤を30メッシュ篩により選別し、中間製造物を検査する;カプセルあたり50mgの活性剤をカプセル中に満たし、サンプルを検査し、包装する。
【0050】
実施例9:β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の経口用錠剤の調製
β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの20gの封入複合体を秤量し、それを均等倍増法により80g ラクトースおよび5g カルボキシメチルスターチナトリウムと混合し、結合剤としてのHPMCと共に水中に溶解して、軟材料を製造し、軟材料を20メッシュ篩により顆粒化し、60℃で乾燥させて、乾燥顆粒剤を製造し、乾燥顆粒剤を30メッシュ篩により選別し、1g アラビアゴムを添加し、それらを均一に混合し、錠剤あたり50mgの活性剤で打錠し、サンプルを検査し、包装する。
【0051】
実施例10:ピノセンブリンの溶解性の決定
注射に有用な共溶媒性の非水性溶媒である溶解剤をスクリーニングするために、一連の実験をそれらの一般的な投薬量に関してそれぞれ行って、ピノセンブリンの溶解効果を決定した。
結果を表1に示す:
【表1】

表1中の溶解性は、ピノセンブリンの溶解性である。これらの結果は、ピノセンブリンの溶解性がシクロデキストリンまたはその誘導体により大きく改善できるものの、共溶媒性の非水性溶媒である他の汎用の界面活性剤または溶解剤がピノセンブリンの良好な溶解効果を奏さないことを示す。
【0052】
安全性試験
ピノセンブリン封入複合体注射剤に対する動物の安全性試験
ピノセンブリン封入複合体注射剤は、実施例4にしたがって調製されたヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の塩化ナトリウム輸液剤を、0.9%塩化ナトリウム溶液で10倍に希釈することにより調製した。
【0053】
1.局所血管刺激試験
10mLのピノセンブリン封入複合体注射剤(2mg ピノセンブリンを含有する)を、3日間にわたる一日一回による耳静脈でのIV注射により、ラットに投与した。注射部位および血管周辺は、炎症、および発赤またはうっ血等の刺激応答を伴わないことが完全かつ明確に確認され、通常の生理食塩水を注射した部位と如何なる有意な差異もなかった。如何なる異常な組織病理学的変化も観察されなかった。結果を、図1および2に示す。
【0054】
2.溶血試験
赤血球懸濁液、通常の生理食塩水、種々の容量のピノセンブリン封入複合体注射剤(0.20mg/mlの濃度を有する)または蒸留水を、表2中に列挙した処方にしたがって、7個のチューブに添加した。これらのチューブを少し振盪させて十分に混合し、次いで、37℃にて温水浴中で維持した。溶血現象を、混合の0.5、1、2および3時間後に観察した。臨床濃度でピノセンブリン封入複合体注射剤を含有するチューブにおける結果と、通常の生理食塩水のブランクコントロールチューブにおけるものとの間に、如何なる有意な差異もなかった。結果を表3に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
3.アナフィラキシー試験
試験薬物(ピノセンブリン封入複合体注射剤)および陽性コントロール薬物(卵アルブミン)がそれぞれ14日間および21日間にわたり静脈内投与されたモルモットのアナフィラキシーの重篤度を、観察し、表4にしたがって決定した。結果を表5に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
4.筋肉内注射に対する局所刺激応答試験
筋肉応答の重篤度を、表6にしたがって決定した。ピノセンブリン封入複合体注射剤をウサギに注射した48時間後に、僅かなうっ血(直径<0.5cm)のみが注射部位に生じ、如何なる有意な刺激応答も、注射部位に生じず、刺激応答の平均の程度は、2.0以下であった。このことは、ピノセンブリン封入複合体注射剤の筋肉内注射が低い局所刺激を有することを実証する。これらの結果を表7に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
薬理学的アッセイ
ラットにおける脳虚血の急性局所傷害に対する、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の保護効果
アッセイ方法:アッセイは、文献(Zhang Juntian,Modern Experimental Methods in Pharmacology,October 1998,the First Edition,the United Press of Beijing Medical University and Peking Union Medical College)中に報告されているようなMCAOモデル方法にしたがって行った。
【0064】
ベダーソンスコア
偽手術群の動物行動スコアは、0であった。ビヒクルコントロール群(本明細書中以降、ビヒクル群とも称される)における動物行動スコアの平均値は、3.4±0.6であった。殆どの動物は、手術の反対側での前肢の内旋または嗜癖、反対への側方押出の間における伸展力の低下、屈曲、または輪における時折の歩行を示し、行動スコアは、3であった。また、少数の動物のみが、前肢の内旋または抵抗力の低下を示し、行動スコアは、2であった。幾つかの動物は、重篤な症状を有し、自律性の活動を欠いており、行動スコアは4であった。
【0065】
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体(1mg/kg、3mg/kg、および10mg/kg,活性成分ピノセンブリンの含量に対して算出,DL0108と省略,本明細書中以降同様)は、用量−効果の関係性で、動物のポスト(post)脳虚血後に、神経損傷症状を顕著に寛解でき(P<0.05,P<0.01)、ニモジピンの陽性コントロールよりも優れる(図3を参照)。
【0066】
運動性の評価(傾斜スロープ試験)
ラットが傾斜スロープに留まった平均時間は、偽群では79.3±10.4秒であった。ビヒクル群では、急性脳虚血傷害を有するラットが傾斜スロープに留まった平均時間は、4.01±1.42秒であり、それは、有意に低下した。ビヒクル群と比較すると、DL0108(3mg/kg,10mg/kg)は、用量−効果の関係性で、動物が傾斜スロープに留まる時間を顕著に延長できた(P<0.01)。DL0108(3mg/kg,10mg/kg)は、ニモジピンの陽性コントロールよりも優れている(図4)。
【0067】
ラット急性脳虚血組織のrCBFに対するDL0108の効果
皮質の中型動脈血供給領域におけるrCBF(局所脳血流)値は、MCAO手術のために、手術前の基礎レベルの20〜30%に急速に低下した。虚血24時間後(断頭前)、側枝循環代償が確立され、rCBF(regional cerebral blood flow)値は、手術の間の値と比較して少し増加したが、依然として基礎レベルの50%以下であった。これらの結果を図5Aに示す。
【0068】
脳虚血の30分後、ビヒクル群のrCBF値は、基礎値の31.09±5.35%であり、投与群、即ち、封入複合体DL0108群(1mg/kg,3mg/kg,10mg/kg)およびニモジピン群のrCBF値は、それぞれ、基礎値の40.76±6.58%、50.09±7.09%、53.28±8.03%、55.58±6.09%であった。これらの結果は、投与群が脳虚血の血流において急速な回復を有したことを示し、ビヒクル群に対する顕著な改善を示した。DL0108(3,10mg/kg)群およびニモジピン(3mg/kg)群は、ビヒクル群と有意差を有した(P<0.05)。これらの結果を図5Bに示す。
【0069】
結論として、ヒドロキシ−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの本発明の封入複合体は、ラットにおける急性の限局的な脳虚血により誘導される神経行動傷害を大いに改善でき、皮質の中型動脈血供給領域における脳血流の減少の程度を軽減できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピノセンブリンおよびシクロデキストリンまたはその誘導体を含み、好ましくは、ピノセンブリンとシクロデキストリンまたはその誘導体とのモル比が、1:1〜1:100、好ましくは1:1〜1:10である、シクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体。
【請求項2】
前記ピノセンブリンが、L−ピノセンブリン、S−ピノセンブリン、ラセミ型ピノセンブリンまたはそれらの任意の組合せからなる群より選ばれる、請求項1に記載のシクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体。
【請求項3】
前記シクロデキストリンまたはその誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ジメチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ジヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、グルコース シクロデキストリン、マルトース シクロデキストリン、マルトトリオース シクロデキストリン、カルボキシメチル シクロデキストリン、スルホブチル シクロデキストリン、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンおよびそれらの任意の組合せからなる群より選ばれる、請求項1または2に記載のシクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のシクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの有効量の封入複合体、および必要に応じて、医薬として許容され得る担体または賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項5】
医薬組成物が、経口投与、あるいは静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下注射の経路により投与される、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物が、輸液剤、注射剤、注射用粉末剤、経口用液剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、分散性錠剤、経口用崩壊性錠剤、バッカル用錠剤などの形態である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、0.01〜3%(g/ml)の濃度を有する、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の注射剤である、請求項4、5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物が、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンによるピノセンブリンの封入複合体の注射用粉末剤であり、かつ、前記注射用粉末剤が溶解される溶液が、3〜10のpHを有する、請求項4、5または6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
以下の工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体を調製するための方法:
(1)シクロデキストリンまたはその誘導体を溶媒中に添加して、1〜60%の重量濃度を示すシクロデキストリンまたはその誘導体の溶液または懸濁液を得ること;
(2)ピノセンブリンを前記溶液または懸濁液に添加し、かつ、攪拌または研磨により混合して前記封入複合体を得ること;ならびに、必要に応じて
(3)工程(2)で得られた封入複合体の混合液から溶媒を除去すること。
【請求項10】
溶媒が、水、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、またはそれらの任意の組合せからなる群より選ばれる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
疾患または障害、特に、心血管性もしくは脳血管性疾患、または脳卒中、あるいは細菌性および/もしくは真菌性感染を予防および/または治療するための医薬用薬物の調製のための、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシクロデキストリンまたはその誘導体によるピノセンブリンの封入複合体の使用。
【請求項12】
請求項4〜8のいずれか一項に記載の医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む、被験体における疾患または障害、特に、心血管性もしくは脳血管性疾患、または脳卒中、あるいは細菌性および/もしくは真菌性感染を予防または治療するための方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−508191(P2012−508191A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534985(P2011−534985)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【国際出願番号】PCT/CN2008/073011
【国際公開番号】WO2010/054507
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(506417359)石薬集団中奇制薬技術(石家庄)有限公司 (8)
【出願人】(504466591)中国医学科学院薬物研究所 (7)
【Fターム(参考)】