説明

シクロデキストリンポリマー含有複合材およびその製造方法

【課題】 シクロデキストリンポリマー含有複合材に、水溶液中で耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、自己崩壊し難い性質を付与すること。
【解決手段】 製造された未乾燥状態のシクロデキストリンポリマー含有複合材1を273Kより低い温度下に曝す(P1)という構成をとることによって、水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、自己崩壊し難い性質のシクロデキストリンポリマー含有複合材10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中で柔軟性に優れ、乾燥と水溶液による膨潤の繰り返し操作においても形態安定性の優れた、エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマー含有複合材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは、6から8個のグルコピラノースが環状に連なった水溶性の物質である。分子内部に疎水性の空間を有しており、この空間に有機および無機化合物が入り込み、包接化合物を形成する。このような性質を利用した水不溶性シクロデキストリンポリマーによる水溶液に含まれるダイオキシン類や界面活性剤などの環境汚染物質の除去・抽出技術(特許文献1、特許文献2)、溶液に含まれるヨウ素を抽出する技術(特許文献3)、溶液に含まれるクロロゲン酸やカフェインを分離する技術(特許文献4、特許文献5)、血液に含まれる細菌毒素(リポ多糖類)の除去技術(特許文献6)が提案されている。また、微生物の固定化単体も提案されている(特許文献7)。
【0003】
従来、水不溶性シクロデキストリンポリマーとして、流動パラフィンなどの疎水性液状物質に架橋剤とシクロデキストリンとのアルカリ水溶液を分散させる方法、または架橋剤である液状のエポキシ化合物にシクロデキストリン化合物のアルカリ水溶液を分散させる方法で製造される数十μm〜1300μm程度の球状エポキシ化合物架橋シクロデキストリンポリマー(特許文献8、特許文献9)が報告されている。本願発明者らは、シクロデキストリンのアルカリ水溶液に非晶質のケイ酸を溶解させた後に、エポキシ化合物を添加する方法で製造される球状のシクロデキストリンポリマーを提案している(特許文献10)。
また、本願発明者らは、水不溶性シクロデキストリン化合物に、ある程度の大きさと形状を付与した、エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーと、これが担持される媒体とからなるシクロデキストリンポリマー含有複合材も提案している(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−111630「溶液中のダイオキシン類捕集方法および回収方法」
【特許文献2】特開2008−246287「界面活性剤の除去方法」
【特許文献3】特開2008−093545「ヨウ素の吸着および回収方法」
【特許文献4】特開平07−322823「コーヒー抽出液の呈味改良方法」
【特許文献5】特開2004−229「β−シクロデキストリンポリマーによるカフェインの特異的分離法」
【特許文献6】W02007/013122「血液を解毒するための血液濾過剤」
【特許文献7】特開2001−149975「微生物固定化担体」
【特許文献8】特開昭58−171404「ポリシクロデキストリンビーズの製法」
【特許文献9】特開昭60−20924「ビーズ状不溶性シクロデキストリンポリマーの製法」
【特許文献10】特開2006−143953「ビーズ状シクロデキストリンポリマー製造方法」
【特許文献11】特開2009−242556「シクロデキストリン複合材料およびその製造方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーと、これが担持される媒体とからなるシクロデキストリンポリマー含有複合材は、ダイオキシン類などの環境汚染物質の除去材や、ヨウ素製造工場・飲料水製造工場における特定物質の抽出材や、水処理施設・廃棄物処理施設における微生物槽で用いる微生物の活性化材として有用である。このような工業的材料として利用される場合、多くの場合においてシクロデキストリンポリマー含有複合材には、これが攪拌されている水溶液の中で浮遊して互いに衝突し合う状態で用いられることから、互いの衝突により破砕しないことが求められる。
【0006】
また、シクロデキストリンポリマー複合材は、これに吸着された物質を脱着させるために、親水性溶媒に曝されて脱水された状態となったり、乾燥状態となることから、膨潤と乾燥の繰り返しに対する形状安定性が求められる。さらに、さまざまな官能基を化学的に修飾するための材料とする多くの場合、シクロデキストリンポリマー含有複合材には、乾燥状態であることや、反応の過程において乾燥処理が施されることから、やはり同様に形状安定性が求められる。しかしながら特許文献11において開示したシクロデキストリンポリマー含有複合材でもなお、一度乾燥されると水溶液などへの添加による膨潤過程で大きなクラックが生じ易く、互いの衝突により砕けてしまいやすく、また、乾燥と膨潤の繰り返しにより、自己崩壊し易いという問題が残っていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来材料の問題点を解決したものであり、水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、自己崩壊し難いシクロデキストリンポリマー含有複合材、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は上記課題に関して検討した結果、シクロデキストリンポリマー含有複合材の製造後に、含水状態で273K以下の低温での処理を施すことによって上記課題の解決が可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は以下の通りである。
【0009】
(1) エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーと、これが担持される媒体とからなるシクロデキストリンポリマー含有複合材を273K以下の低温で処理して得られる、シクロデキストリンポリマー含有複合材。
(2) 273K以下での低温処理をしないものよりも水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、かつ自己崩壊し難いことを特徴とする、(1)に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
(3) 前記媒体がセルロース系化合物であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
(4) 前記媒体が多孔性ポリマーであることを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
【0010】
(5) 前記媒体が球状またはその他の形状の材料であることを特徴とする、(1)ないし(4)のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
(6) エポキシ系化合物がエピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルまたはブタンジオールジグリシジルエーテルのいずれかであることを特徴とする、(1)ないし(5)のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
(7) 水溶液、血液もしくはその他の親水性溶液に含まれる有機化合物もしくは無機化合物の分離材、または抽出材として使用されることを特徴とする、(1)ないし(6)のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
(8) エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーとこれが担持される媒体とからなるシクロデキストリンポリマー含有複合材を得る過程と、該シクロデキストリンポリマー含有複合材を含水状態にて273K以下の低温で処理する低温処理過程とにより、該低温処理過程を施さないものよりも水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、かつ自己崩壊し難いものを得る、シクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。
【0011】
(9) 前記低温処理過程は、家庭用冷凍冷蔵庫でも実施可能な程度の268K以下の温度によることを特徴とする、(8)に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。
(10) 前記低温処理過程は、268K以下の温度に60分間以上置く処理であることを特徴とする、(8)に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。
(11) 前記媒体がセルロース化合物であることを特徴とする、(8)ないし(10)のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。
【0012】
なお本発明における温度は、摂氏温度(セルシウス温度、単位「℃」)ではなく、国際単位系の温度単位であるケルビン(単位「K」)にて表記される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシクロデキストリンポリマー含有複合材およびその製造方法は上述のように構成されるため、これによればシクロデキストリンポリマー含有複合材を、水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、自己崩壊し難い性質にすることができる。たとえば、ダイオキシン類等の有害物質やカテキンなどのポリフェノール等の有用物質を工業的に分離・抽出する場合や、また、水処理施設や廃棄物処理施設における微生物槽の微生物を活性化し効率的な微生物処理を行う場合、あるいはまた、さまざまな官能基を化学的に修飾するための材料とする場合などにおいて、本発明のシクロデキストリンポリマー含有複合材は大変便利である。
【0014】
さらに、本発明のシクロデキストリンポリマー含有複合材製造方法の低温処理過程において、処理温度が273K以下であればよいことは大きな利点であり、たとえば市販の家庭用冷凍庫などを用いることによっても、容易に処理し、目的とするシクロデキストリンポリマー含有複合材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のシクロデキストリンポリマー含有複合材製造方法の構成を示すフロー図である。
【図2】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の、各処理後のβ−1−Vの実体顕微鏡写真画像である。
【図3】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の、各処理後のβ−1−273−Vの実体顕微鏡写真画像である。
【図4】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の、各処理後のβ−1−268―Fの実体顕微鏡写真画像である。
【図5】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の、各処理後のβ−1−268−Vの実体顕微鏡写画像真である。
【図6】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の、各処理後のβ−1―193−Fの実体顕微鏡写真画像である。
【図7】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の、各処理後のβ−1―193−Fの実体顕微鏡写真画像である。
【図8】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の、各処理β−1の体積変化率を示すグラフである。
【図9】実施例2で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時、および振とう後の各処理β−1の重量変化率を示すグラフである。
【図10】実施例2で、水に浸漬しながら振とうした後の各処理β−1の外観写真画像である。
【図11】実施例4で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の各処理β−2の体積変化率を示すグラフである。
【図12】実施例4で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時、および振とう後の各処理β−2の重量変化率を示すグラフである。
【図13】実施例6で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の各処理α−2の体積変化率を示すグラフである。
【図14】実施例6で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時の各処理γ−2の体積変化率を示すグラフである。
【図15】実施例6で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時、および振とう後の各処理α−2の重量変化率を示すグラフである。
【図16】実施例6で、水浸漬と乾燥処理を繰り返し施した時、および振とう後の各処理γ−2の重量変化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面も用いつつ詳細に説明する。
図1は、本発明のシクロデキストリンポリマー含有複合材製造方法の構成を示すフロー図である。図示するように本製造方法は、エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーCと、これが担持される媒体Mとからなるシクロデキストリンポリマー含有複合材1を得る過程P0と、過程P0により得られたシクロデキストリンポリマー含有複合材1を含水状態にて273K以下の低温で処理してシクロデキストリンポリマー含有複合材10を得るための低温処理過程P1とから、構成される。
【0017】
かかる構成により本製造方法によれば、過程P0において、エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーCとこれを担持するための媒体Mとからシクロデキストリンポリマー含有複合材1が得られ、ついで低温処理過程P1において、シクロデキストリンポリマー含有複合材1が含水状態にて273K以下の低温で処理され、従来の低温処理過程を施さない場合と比べて水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、かつ自己崩壊し難いシクロデキストリンポリマー含有複合材10が得られる。
【0018】
低温処理過程P1における低温処理の温度は、特に、家庭用冷凍冷蔵庫でも実施可能な程度の268K以下の温度を用いるものとすることができる。ここで268K以下とは、一定の温度であっても、ある温度範囲内にて変化する温度など、異なる温度を用いるものであってもよい。273K以下の温度範囲の中でも、特に268K以下とすることにより、円滑かつ効率的、効果的な低温処理を行うことができるからである。しかしながら、268Kを超え273K以下の温度範囲も本発明からは除外されず、用いることができる。
【0019】
低温処理過程P1における低温処理条件は、特に、268K以下の温度に60分間以上置く処理とすることができる。ここで温度は、一定の温度であっても、ある温度範囲内にて変化する温度など、異なる温度を用いるものであってもよい。また異なる温度を用いる場合の処理時間は、一定であっても異なっていてもよい。かかる条件とすることにより、一層円滑かつ効率的、効果的な低温処理を行うことができるからである。しかしながら、これ以外の温度範囲や処理時間条件も本発明からは除外されず、用いることができる。
【0020】
たとえば、193Kの温度で一定時間処理した後、5分間毎に10Kずつ温度を上昇させ、268K条件下でさらに一定時間処理するというような、経時的もしくは段階的な処理を行う低温処理過程P1としてもよい。
【0021】
図の低温処理過程P1において、シクロデキストリンポリマー複合材1を低温曝す雰囲気は、空気や窒素ガスなどのガス雰囲気下、またはアセトンやエタノールなどの液体雰囲気下のどちらでもよい。なお前者の場合は、冷却速度を低くできること、および有機溶媒からの汚染を防げるという効果が得られる。また後者の場合は、急激に冷却でき、処理時間を短くできるという効果が得られる。
【0022】
以上の方法によって得られた水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、自己崩壊し難い性質のシクロデキストリンポリマー含有複合材10は、水を含んだ状態であるが、これは適宜の方法により乾燥させてもよい。たとえば温風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの乾燥方法が挙げられる。なお、特に真空乾燥法や親水性有機溶媒置換による乾燥方法を用いた場合には、シクロデキストリン含有複合材10の乾燥時間を短くできるという効果が得られる。また凍結乾燥法を用いた場合には、乾燥時の収縮を軽微な程度に抑えたシクロデキストリン含有複合材10が得られる。
【0023】
なお、図中の過程P0により得るシクロデキストリンポリマー含有複合材1には、媒体Mとしてセルロース系化合物を用い、シクロデキストリンポリマー含有複合材10を得るものとすることができる。もっとも本発明に係る媒体がこれに限定されるものではなく、他の適宜の媒体を用いることも可能である。
【0024】
また、媒体Mの種類に関わらず、その性状ないしは形態が多孔性ポリマーであるシクロデキストリンポリマー含有複合材を得るものとすることができる。さらに媒体Mの形状としては、立方体状のものを選択できる。しかしながら直方体状や球状などのその他の形状の材料であってもよく、また多孔性ポリマー以外の性状ないしは形態のものであっても、本発明の範囲内である。
【0025】
本発明シクロデキストリンポリマー含有複合材に係るエポキシ系化合物としては、エピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルまたはブタンジオールジグリシジルエーテルのいずれかを好適に用いることができる。これらを用いることによって、より良好な結果を得ることができるからである。しかしながらこれ以外の架橋剤を用いてもよい。
【0026】
以上のように製造される本発明のシクロデキストリンポリマー含有複合材は、水溶液、血液もしくはその他の親水性溶液に含まれる有機化合物もしくは無機化合物の分離材、または抽出材として、優れた分離・抽出作用を発揮することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を説明するが、本願はかかる実施例に限定されるものではない。なお、以下説明する実施例ではエポキシ化合物としてエピクロロヒドリンを用いているが、その他のモノエポキシ系化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテルその他のジエポキシ系化合物、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルその他のポリエポキシ系化合物のいずれかを代わりに用いても本発明を実施できることは、確認済みである。
【0028】
実施例ではα−シクロデキストリンポリマー含有複合材、β−シクロデキストリンポリマー含有複合材、γ−シクロデキストリンポリマー含有複合材について示しているが、α−、β−、γ−シクロデキストリンのうちの2種類または3種類のシクロデキストリンを混ぜたシクロデキストリンを用いても、本発明を実施できる。つまり、シクロデキストリンポリマー含有複合材を製造するときにα−、β−、γ−の各シクロデキストリンを自由な組み合わせで添加しても、α,β−シクロデキストリンポリマー含有複合材、β,γ−シクロデキストリンポリマー含有複合材、γ,α−シクロデキストリンポリマー含有複合材、α,β,γ−シクロデキストリンポリマー含有複合材、というようなシクロデキストリンポリマー複合材が得られ、これらシクロデキストリンポリマー複合材においても本発明を実施できる。また、工業原料として提供されているものの中には、α−、β−、γ−の各シクロデキストリンが2種類または3種類混合した状態のものもあるが、かかる状態の原料を用いても本発明実施可能であることも、確認済みである。
【0029】
<製造例1> シクロデキストリンポリマー含有複合材1
水酸化ナトリウム水溶液(NaOH240.0g/HO600.0g)にβ−シクロデキストリン180.0gを溶解させ、次に、非晶質ケイ酸180.0gを溶解し、フッ素樹脂製ラウンド型撹拌羽根付きの撹拌棒を毎分150回転させながら、10mm角程度の立方体のスポンジ状セルロース15gにエピクロロヒドリン136.8gを含浸させたものを加え、50℃で120分撹拌後、ブフナー漏斗を使用して吸引濾過を行い、水で中性になるまで洗浄し、エピクロロヒドリン架橋β−シクロデキストリンポリマーを乾燥重量で92重量%程度含む10mm角程度の多孔かつ立方体状のエピクロロヒドリン架橋β−シクロデキストリンポリマー−セルロース複合材(以下、「β−1」)を得た。
【0030】
<実施例1> シクロデキストリンポリマー含有複合材の低温処理1
製造例1で得られたβ−1を、193K、268K、273Kの雰囲気下に4時間以上静置し、193K処理β−1(以下、「β−1−193」)、268K処理β−1(以下、「β−1−268」)、および273K処理β−1(以下、「β−1−273」)を得た。
【0031】
<実施例2> 低温処理シクロデキストリンポリマー含有複合材の乾燥−水膨潤繰り返し処理および水浸漬攪拌処理
実施例1で得られたβ−1−193、β−1−268、β−1−273および未処理のβ−1を、337Kで真空乾燥した(以下、順番に「β−1−193−V」、「β−1−268−V」、「β−1−273−V」および「β−1−V」)。また、別に、β−1−193、β−1−268については、凍結乾燥を行った(以下、順番に「β−1−193−F」、「β−1−268−F」)。次に、これらを水に4時間浸漬させ、そして337Kで真空乾燥する操作を3回繰り返し行った。また、各処理β−1二個と純水50mLをそれぞれ100mL三角フラスコに入れ、120分間、振とう速度100rpmで振とうを行い、開き5mmのふるいを用いてふるい、ふるいに残ったものを337Kで真空乾燥した。
【0032】
水浸漬、真空乾燥を繰り返し処理後のβ−1−V、β−1−273−V、β−1−268−F、β−1−268−V、β−1−193−Fならびにβ−1−193−Vの実体顕微鏡写真画像、高さと幅と奥行きの計測値より算出した体積変化を示すグラフ、真空乾燥操作後の重量変化を示すグラフ、および振とう後の状態を示す外観写真画像を、それぞれ図2〜7、図8、図9、および図10に示した。なお、初めの乾燥状態をD0、水浸漬1回目,2回目,3回目をそれぞれW1、W2、W3とし、真空乾燥1回目,2回目、3回目をそれぞれD1、D2、D3として表した。また、体積変化は低温処理前のβ−1の体積からの増減率として、重量変化はD0の時のβ−1の重量からの増減率として、それぞれ表した。
【0033】
これらにより、処理を施さなかったβ−1−V、および273Kの処理を施したβ−1−273−Vにおいては、水浸漬1回目から大きなクラックが生じており、水浸漬と乾燥を繰り返すことにより、乾燥時の重量が減少していることがわかった。また、振とうにより破砕し、5mm以上のβ−1−Vおよびβ−1−273−Vが著しく減少することがわかった。
【0034】
<製造例2> シクロデキストリンポリマー含有複合材2
水酸化ナトリウム水溶液(NaOH400.0g/HO1000.0g)にβ−シクロデキストリン300.0gを溶解させ、次に、非晶質ケイ酸300.0gを溶解し、フッ素樹脂製ラウンド型攪拌羽根付きの攪拌棒を毎分150回転させながら、15mm角程度の立方体のスポンジ状セルロース25gにエピクロロヒドリン228.0gを含浸させたものを加え、50℃で120分攪拌後、ブフナー漏斗を使用して吸引濾過を行い、水で中性になるまで洗浄し、エピクロロヒドリン架橋β−シクロデキストリンポリマーを乾燥重量で89重量%程度含む15mm角程度の多孔かつ立方体状のエピクロロヒドリン架橋β−シクロデキストリンポリマー−セルロース複合材(以下、「β−2」)を得た。
【0035】
また、β−シクロデキストリン300.0gの代わりに、α−シクロデキストリン257gまたはγ−シクロデキストリン343gを用いて、15mm角程度の多孔かつ立方体状のエピクロロヒドリン架橋α−シクロデキストリンポリマーを乾燥重量で86重量%程度含むエピクロロヒドリン架橋α−シクロデキストリンポリマー−セルロース複合材(以下、「α−2」)、およびエピクロロヒドリン架橋γ−シクロデキストリンポリマーを乾燥重量で88重量%程度含むエピクロロヒドリン架橋γ−シクロデキストリンポリマー−セルロース複合材(以下、「γ−2」)を得た。
【0036】
<実施例3> シクロデキストリンポリマー含有複合材の低温処理2
製造例2で得られたβ−2を、193K、233K、253K、263K、268K、273Kの雰囲気下に4時間以上静置し、193K処理β−2(以下、「β−2−193」)、233K処理β−2(以下、「β−2−233」)、253K処理β−2(以下、「β−2−253」)、263K処理β−2(以下、「β−2−263」)、268K処理β−2(以下、「β−2−268」)、および273K処理β−2(以下、「β−2−273」)を得た。
【0037】
<実施例4> 低温処理シクロデキストリンポリマー含有複合材の乾燥−水膨潤繰り返し処理および水浸漬攪拌処理
実施例3で得られたβ−2−193、β−2−233、β−2−253、β−2−263、β−2−268、β−2−273および未処理のβ−2を、337Kで真空乾燥した(以下、順番に「β−2−193−V」、「β−2−233−V」、「β−2−253−V」、「β−2−263−V」、「β−2−268−V」、「β−2−273−V」および「β−2−V」)。また、別に、β−2−193、β−2−268については、凍結乾燥を行った(以下、順番に「β−2−193−F」、「β−2−268−F」。次に、これらを水に4時間浸漬させ、そして337Kで真空乾燥する操作を4回繰り返し行った。また、各処理β−2二個と純水50mLをそれぞれ100mL三角フラスコに入れ、1200分間、振とう速度100rpmで振とうを行い、開き5mmのふるいを用いてふるい、ふるいに残ったものを337Kで真空乾燥した。
【0038】
水浸漬、真空乾燥操作後の高さと幅と奥行きの計測値より算出した体積変化、真空乾燥操作後の重量変化を示すグラフを、それぞれ図11、図12に示した。なお、初めの乾燥状態をD0、水浸漬1回目、2回目、3回目をそれぞれW1、W2、W3、W4とし、真空乾燥1回目,2回目、3回目をそれぞれD1、D2、D3、D4として表した。また、体積変化は低温処理前のβ−2の体積からの増減率として、重量変化はD0の時のβ−2の重量からの増減率として、それぞれ表した。
【0039】
これらにより、処理を施さなかったβ−2−V、および273Kの処理を施したβ−2−273−Vにおいては、β−1処理物と同様に、クラックが生じているために水浸漬1回目から体積の増加率が大きく、また乾燥2回目以降の体積の減少率が少なくなっており、水浸漬と乾燥を繰り返すことにより、乾燥時の重量が減少していることがわかった。また、振とうによる破砕により、浸とう後の5mm以上のβ−2処理物が減少していることがわかった。
【0040】
また、268K以下の処理を施した後、真空乾燥したβ−2−193−V、β−2−233−V、β−2−253−V、β−2−263−Vおよびβ−2−268−Vの中では、体積変化率、重量変化率ともに大きな違いは認められなかった。さらに、268Kおよび193Kの処理を施した後、凍結乾燥したβ−2−193−Fおよびβ−2−268−F同士においても、体積変化率、重量変化率に大きな変化は認められなかった。さらに、同温度の処理を施し真空乾燥したものとも、体積変化率、重量変化率に大きな変化は認められなかった。
【0041】
<実施例5> シクロデキストリンポリマー含有複合材の低温処理3
製造例2で得られたα−2およびγ−2を、193K、268K、273Kの雰囲気下に4時間以上静置し、193K処理α−2およびγ−2(以下、「α−2−193」および「γ−2−193」)、268K処理α−2およびγ−2(以下、「α−2−268」および「γ−2―268」)、273K処理α−2およびγ―2(以下、「α−2−273」および「γ―2−273」)を得た。
【0042】
<実施例6> 低温処理シクロデキストリンポリマー含有複合材の乾燥−水膨潤繰り返し処理および水浸漬攪拌処理
実施例5で得られたα−2−193、γ−2−193、α−2−268、γ−2―268、α−2−273、γ―2−273および未処理のα−2およびγ−2を337Kで真空乾燥した(以下、順番に「α−2−193−V」、「γ−2−193−V」、「α−2−268−V」、「γ−2−268−V」、「α−2−273−V」、「γ−2−273−V」、「α−2−273−V」および「γ−2−V」)。次に、これらを水に4時間浸漬させ、そして337Kで真空乾燥する操作を3回繰り返し行った。また、各処理α−2またはγ−2二個と純水50mLをそれぞれ100mL三角フラスコに入れ、1200分間、振とう速度150rpmで振とうを行い、開き5mmのふるいを用いてふるい、ふるいに残ったものを337Kで真空乾燥した。
【0043】
各処理α−2およびγ−2について、水浸漬、真空乾燥操作後の高さと幅と奥行きの計測値より算出した体積変化を示すグラフをそれぞれ図13および図14に示した。また、真空乾燥操作後の各処理α−2およびγ−2重量変化を示すグラフを、それぞれ図15および図16に示した。なお、初めの乾燥状態をD0、水浸漬1回目、2回目、3回目、4回目を、それぞれW1、W2、W3、W4とし、真空乾燥1回目、2回目、3回目を、それぞれD1、D2、D3、D4として表した。また、体積変化は低温処理前のα−2またはγ−2の体積からの増減率として、重量変化はD0の時のα−2またはγ―2の重量からの増減率として、それぞれ表した。
【0044】
これらにより、処理を施さなかったα−2−V、および273Kの処理を施したα−2−273−Vにおいては、クラックが生じているために水浸漬1回目から体積の増加率が大きく、また乾燥2回目以降の体積の減少率が少なくなっており、水浸漬と乾燥を繰り返すことにより、乾燥時の重量が減少していることがわかった。また、振とうによる破砕により、浸とう後の5mm以上のα−2処理物が減少していることがわかった。各処理γ―2についても、各処理α−2と同様な傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上述のとおり本発明によれば、極めて簡易な方法によって、水溶液中で耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、自己崩壊し難いシクロデキストリンポリマー含有複合材を得ることができる。これをバッチ槽などの水溶液や排水処理用の容器に入れて用いた場合、シクロデキストリンポリマー含有複合材同士、または該複合材と槽内壁等同士の衝突によっても該複合材は崩壊し難い。
【0046】
また、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、自己崩壊し難いため、各分野での除去・吸着・回収操作等の用途において、従来に優る便利さを提供することができる。したがって、大量の液体を短時間で処理する必要のあるあらゆる技術分野・産業分野において、特に利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0047】
1…シクロデキストリンポリマー含有複合材
10…低温処理過程を経たシクロデキストリンポリマー含有複合材
C…シクロデキストリンポリマー
M…媒体
P0……シクロデキストリンポリマー含有複合材1を得る過程
P1…低温処理過程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーと、これが担持される媒体とからなるシクロデキストリンポリマー含有複合材を273K以下の低温で処理して得られる、シクロデキストリンポリマー含有複合材。
【請求項2】
273K以下の低温での処理をしないものよりも水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、かつ自己崩壊し難いことを特徴とする、請求項1に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
【請求項3】
前記媒体がセルロース系化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
【請求項4】
前記媒体が多孔性ポリマーであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
【請求項5】
前記媒体が球状またはその他の形状の材料であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
【請求項6】
エポキシ系化合物がエピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルまたはブタンジオールジグリシジルエーテルのいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
【請求項7】
水溶液、血液もしくはその他の親水性溶液に含まれる有機化合物もしくは無機化合物の分離材、または抽出材として使用されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材。
【請求項8】
エポキシ系化合物架橋シクロデキストリンポリマーとこれが担持される媒体とからなるシクロデキストリンポリマー含有複合材を得る過程と、該シクロデキストリンポリマー含有複合材を含水状態にて273K以下の低温で処理する低温処理過程とにより、該低温処理過程を施さないものよりも水溶液中での耐衝撃性に優れ、乾燥と膨潤を繰り返し行っても大きなクラックが生じず、かつ自己崩壊し難いものを得る、シクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。
【請求項9】
前記低温処理過程は、家庭用冷凍冷蔵庫でも実施可能な程度の268K以下の温度によることを特徴とする、請求項8に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。
【請求項10】
前記低温処理過程は、268K以下の温度に60分間以上置く処理であることを特徴とする、請求項8に記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。
【請求項11】
前記媒体がセルロース化合物であることを特徴とする、請求項8ないし10のいずれかに記載のシクロデキストリンポリマー含有複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−207917(P2011−207917A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73894(P2010−73894)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第90回春季年会(2010) 講演予稿集 DVD−ROM」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構「地域イノベーション創出総合支援事業(地域ニーズ即応型)」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【出願人】(504433869)株式会社環境工学 (6)
【Fターム(参考)】